ポケットの中の喧騒
No.21〜30


No.21 ほんやくこんにゃく

 ネーミングは完全にダジャレだが、知名度が高く、事実こんな便利な道具はない。周知の通り、このこんにゃくを食べればどんな国の言葉でも話せるようになるのだ。英語の苦手な人もこれさえあれば怖くない。未来の世界ではこれが発売されると同時に通訳や英語の先生が失業し、英会話塾が倒産しただろう。しかしこの道具気になることがある。はたしてこの道具の効果、いつまで続くのか。一回食べれば一生効果が続くのなら本当に便利だが、どうやらそうではないらしい。ドラえもん達は外国語を話さなければならない状況にぶつかるたびに、ほんやくこんにゃくを食べているからだ。となると、どのくらいの間効果があるのか、気になる。余談だが、ほんやくこんにゃくにはおみそ味もある。確かに味のないこんにゃく一玉をそっくり食べるのはきついものがある。きっとビーフ味、チーズ味、カレー味といったふうに、それぞれの国の人の好みに合わせた味のバリエーションがあるのだろう。そんなところはしっかりしている。

No.22 すて犬ダンゴ

 このダンゴを犬や猫に食べさせて放すと、二度と家に戻ってくることはなくなる。つまり、ペットを捨てるための道具なのだ。こんな道具が公然と出回っているというのは、信じられない話である。未来の人間は、平気でペットを捨てるのか。動物愛護団体は何をしているのか。しかもこの道具、犬や猫以外の動物にもその効果が衰えることはない。劇中でこれを誤って食べたのび太は、危うく本当に家に戻れなくなるところだった。本当に恐ろしい道具だ。

No.23 ペットそっくりまんじゅう

 外見は普通のまんじゅう。しかしこれをペットが食べると、その顔が飼い主そっくりになる。逆に飼い主が食べると、ペットそっくりの顔になる。「ペットは飼い主に似る」という話を現実化する道具らしい。
 しかし、だからどうだというのだ。かえって気持ち悪くないか。考えてみてほしい。例えばあなたが飼っている犬にこのまんじゅうを食べさせたとする。すると、その犬はあなたそっくりの人面犬になるのだ。逆にあなたがまんじゅうを食べると、今度はあなたが犬そっくりの顔をした犬面人になる。どちらにしても気色悪い。あなたと犬を見る人は気味悪がるばかりで、「やっぱり飼い主に似るんだなぁ」などと感心してはくれないだろう。どちらもイヤな気分になるだけだ。
 この道具の欠点はこれにとどまらない。ペットを飼っているつもりがなくてもそっくり化することがあるのだ。劇中、ドラえもんはこのまんじゅうがおいしいので、「僕はペットを飼っていないから」と安心して食べた。ところが、これを食べたドラえもんの顔に異変が起こる。目がつりあがり、口がとがって前歯が伸びて、ある動物そっくりの顔になったのだ。そう、あろうことかドラえもんの顔は、見ただけでパニックになるほど恐れているネズミそっくりになってしまったのだ。もちろんドラえもんがネズミなど飼うはずがない。つまりこういうことだ。ドラえもんが押入に隠していたドラ焼きを、ネズミが食べていたのだ。ということは、ドラえもんは知らずにネズミに餌をあげていたことになり、ネズミを飼っていることになっていたのだ。こんな事態まで引き起こすなど、どこまで人に迷惑をかけるのか、この道具は。

No.24 ヘソリンガス

 人間の悲しみ、痛みといった感覚を鈍らせるガス。へそから人体に注入するため、この名がついた。これを注入すると悲しみや痛みを感じることがなくなるので、一時的に気分が楽しくなる。しかし効果が切れると、再び悲しみや痛みを感じるようになる。それが嫌で、再び注入する。使用すると一時的に快楽を感じるが、常習性がある。なんと要するにこれは、麻薬や覚醒剤と同じたぐいのものなのだ!麻薬まで持っているのか、ドラえもん!さらに恐ろしいことに、いくらのび太が自暴自棄になっていたとはいえ、ドラえもんはこれをのび太に使わせたのだ!青少年に麻薬を使う子守ロボット。前代未聞である。さらにのび太はジャイアンにもこれを使い、ジャイアンとスネ夫はヘソリンガススタンドを勝手に持ち出し、いつもの空き地に設置して友達に金を取って使用させた!かくして青少年の薬物汚染は広がっていった。痛みを感じない人間は、自分を無敵と思いこむ。だから、むやみにケガをする。さらに悲しみも知らない人間は、相手の悲しみや痛みもわからない。だから犯罪だってやりかねない。非常に危険なのだ。ドラえもんと目の覚めたのび太がガスの恐ろしさを訴えても、ジャイアン達は聞く耳をもたない。結局騒動はタンクの中のガスが切れ、ドラえもんがかわりに痛みを余計に感じるガスを入れたおかげでなんとか収拾がついた。しかし暴徒化した子供達が暴動を起こしたらどうなっていたことか。一連の騒ぎの元凶がもとはといえば仕方なくとはいえヘソリンガスを出したドラえもんの仕業とわかれば、彼は麻薬取締法違反で逮捕され、場合によっては死刑、いや、いや、解体処分にされただろう。それにしても、未来の道具はとんでもないものが多い。地球破壊爆弾や人間製造器、すて犬ダンゴにヘソリンガス・・・。未来の人間は平気でペットを捨て、麻薬を使い、手軽に核爆弾まで持てるのだろうか。未来の世界は決して科学の生んだバラ色のせかいなどではなく、モラルも秩序も崩壊した恐ろしい世界なのかもしれない。絶対にそんな未来をつくるわけにはいかない。

No.25 悪魔のパスポート

 表に悪魔の顔を描いたパスポート。これを掲げればどんな悪事をしても許されるという恐ろしい道具。これを使ってのび太はママから千円を奪い、ごみ箱を蹴散らし、しずかちゃんのスカートをめくり、、本屋から堂々とマンガ本を万引きし・・・という具合に悪の限り(?)を尽くした。結局のび太は良心の呵責に耐えきれず自分の悪事の償いをして、パスポートをドラえもんに返した。のび太が根が善人だったからよかったが、根っからの悪人がこれを持てば、本当に悪の限りを尽くしただろう。ドラえもんはこの道具を焼き捨てるつもりだったそうだが、何故こんなものを持っていたのかはわからない。毎度こんなものを作り出す未来の世界も恐ろしいが、なぜこの道具がこんな力をもつのか、どうやってこの道具を作るのか、ということも恐ろしい。ひょっとしたら、本当に悪魔との契約によって生み出された道具なのかもしれない・・・。

No.26 Yロウ

 その名の通り、Yの字型をしたロウの棒。これ自体には何の使い道もないが、これを渡しながら人に頼み事をすると、渡された人は絶対に断れない。なんと、ワイロとして使用するのだ!ワイロまで横行しているのか、未来の世界!?とんでもないことだ。しかし何のために、Yの字型の棒という形にしたのか。ダジャレに固執していたとしか思えない。

No.27 ペーパークラフトセット

 子供向け雑誌の付録でお馴染みのペーパークラフト。しかしドラえもんの持っているペーパークラフトセットは普通ではない。このセットから作られたペーパークラフトは皆本物と同じ能力をもつのである。例えばテレビを作れば本当に映るし、お菓子を作れば本当に食べられる。それだけではない。犬や猫、馬を作ればとたんに元気に走り始める。すごい科学力だ。生命の謎を解明しているとしか思えない。しかし、中にはとんでもないものもある。ドラえもんからもう一冊のセットをもらったジャイアンとスネ夫は、セットの中でも特にページ数を使っているものを何ができるかも知らずに選んで作った。そして、完成したのはなんと恐竜。それも、完成してすぐに二人を追い回し始めた。これを見たのび太は、その前に作っていたピストル(もちろん本物同様発砲可能!)で恐竜を撃つが、まったくきかない。そこでのび太は戦車(もちろん本物同様自走、戦車砲発射可能!)、ドラえもんは大砲(もちろん砲撃可能!)を作り、応戦する。しかしどちらの攻撃もきかず、両方踏みつぶされてしまう。絶体絶命のピンチを救ったのは、なんとのび太のパパだった。パパがタバコに火を付けた後投げ捨てたマッチが恐竜に火を付け、炎上させたのだ。紙でできているのだから当然といえる。しかしいくら紙とはいえ、暴れ回る恐竜や発射可能な兵器まで子供のおもちゃにしてしまうのはいかがなものか。

No.28 まあまあ棒

 鉄の棒の先に×の字型のプレートがくっついた道具。人が怒っているときにこのプレートを相手の口に押しつけて「まあまあ」というと相手は怒るのをやめる。これだけ書くとすばらしい道具のように思えるが、実はとんでもないことを引き起こす。この道具、怒りをしずめる道具ではなく、怒りのエネルギーを相手にのみこませる道具なのだ。したがって同じ人にこの道具を繰り返し使うと、最後には押さえつけられた怒りのエネルギーが大爆発を起こすのだ。ドラえもんによると、そのエネルギーは火山の大噴火にも匹敵するらしい。この話をのび太にする前に、のび太はスネ夫にまあまあ棒を取られ、スネ夫はジャイアンを怒らせては怒りを押さえつける、ということを面白がって続けていた。危機を感じたドラえもんとのび太がジャイアンを見つけたときには、彼は既に爆発寸前だった。刺激しないようにまわりになにもない空き地にジャイアンを誘導する二人。と、そこへ毛虫を持ったスネ夫が現れる。血相を変えて全力で逃げる二人。直後、大爆発。結局爆発の威力はドラえもんが恐れていたほどではなく、ジャイアンを爆心に半径数メートルの地面が焼かれ、ジャイアンとスネ夫が黒こげになっただけだった。怒りっぽいジャイアンは、溜め込むことのできる怒りのキャパシティーが相当に低かったのだろう。おかげで大量のエネルギーが蓄積される前に爆発したと思われる。ドラえもんは「このエネルギーをなんとか平和利用できないものか・・・」と言っていたが、こんな道具があるのに平和など来るわけがない。

No.29 ムシスカン

 この錠剤を飲んだ人を見ると、これといった理由もないのにムカムカし、機嫌が悪くなる。要するに、人に嫌われるための道具なのだ。のび太はこれと正反対に人に好かれるようになる薬、「ニクメナイン」と間違えてこれを飲んでしまった。しかし、なんのためにわざわざ人に嫌われようとするのか。ストーカーにつきまとわれたりしたようなときには役に立つだろうが、そんなことがそうそうあるはずがない。それに、どんな人にもまんべんなく嫌われるのだ。嫌われたくない恋人や家族や友達にまで嫌われてうれしいわけがない。使い道が非常に狭く、なんのためにつくられたのかわからない道具。さらに別の話では、「スカンタコ」という浴びると人に嫌われる墨を吐くタコ型の道具もでてきた。類似品まであるのだ。ますますわからない。

No.30 見えなくなる目薬

 ドラミちゃんの道具の中には「透明人間目薬」というものがあった。これを目に注すと透明人間になれるのだ。しかしここで紹介する「見えなくなる目薬」はドラえもんの道具で、その効果も「透明人間目薬」とはだいぶ違う。ジャイアンに奪われた本を透明人間になって取り返そうと考えたのび太は、ドラえもんに「見えなくなる目薬」を出してくれと頼む。もちろんのび太は「他人から」見えなくなる目薬を出してほしいを頼んだ。ところがドラえもんは何を思ったか、「他人が」見えなくなる目薬を渡してしまった。確かに主語を言わなかったのび太もうかつだったが、ドラえもんも他人が見えなくなる目薬など渡してどうだというのだ。長年付き合っているのだから、のび太の意図はわかるはず。それはさておき、目薬をさして自分は透明人間になったと思いこんだのび太は意気ようようとジャイアンの家に向かう。そしてその途中、人っ子一人いない街角や、こぐ人のいない自転車が走るという異様な光景を目にする。実際にはもちろん人がいるのだが、のび太には見えていない。感のいい人なら、「もしやドラえもんが間違った目薬を渡したのでは」とわかるだろうが、人一倍鈍いのび太にそんなことが期待できるわけがない。のび太は最後まで間違いに気付かず哀れジャイアンに返り討ちにあい、それでも「全身が痛くなる変な風邪にかかった」とそれでも気付かなかった。筋金入りの阿呆である。それにしても、未来人はこんな目薬をなんのために使うのか。敵の目にかけて見えなくさせている間に倒す、という兵器としての使い道はあるが、この容器は本当に目薬のものなのだ。結局のところ、何に使うのかわからない。その割にはこの目薬はすごい。この目薬をつけた人が見えないのが人体だけだとしたら、その人の着ている服やバッグなどの持ち物は宙に浮いて見えるはずだ。ところがのび太の目には服や持ち物を含め、文字どおり人っ子一人映らなかった。つまり、人体だけでなくその人の身につけている物まで見えなくなるのだ。すごい。意味不明なものに限ってすごい力をもっているのだ。なんでだろう。



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