ポケットの中の喧騒
No.31〜40



No.31 病気になる薬

 錠剤タイプの薬で、2タイプある。飲むと一つは顔が赤くなり、もう一つは青くなる。軽い発熱までするらしい。昔持っていた図鑑に載っている断面図によると、この薬は多層構造で、その中間層あたりに実際に顔色を変えたり発熱をおこす薬があり、それ以降はその症状を消す薬があり、中心部はなんのためかキャンディーやチョコレートになっていた。さて、どうしてわざわざこんな薬を飲んで病気にならなければならないのか。理由は一つ。仮病をつかうためだ。未来人は仮病をつかうためにこんなしょうもないものをつくったのだ。アホだ。こんなことをしてまで仮病をつかいたがる未来人の学習や労働に対する意欲は相当低いだろう。こんな奴等が自分たちの子孫だと思うと心底情けない。その割にはこんなしょうもないものをつくることには労力をおしまない。妙な奴等だ。しかしそんな努力をしてこの薬で作りだせる仮病は、この薬を使う人が増えれば増えるほどバレることになるだろう。なんと不毛な道具だろう・・・。

No.32 夜をつくる電球

 これまで紹介した道具は皆、「何の役にたつのだろう?」「危なすぎる!」と思う物ばかりだった。しかしここで紹介する「夜をつくる電球」は、ドラえもん自身が使い道がないと思っていた物が、実は結構使い道があったという非常に希な例である。夜をつくる電球はガラス面が黒いだけで、外見は普通の電球とたいして変わらない。この電球は電気を通すと光ではなく闇を放出する。つまり、夜をつくるのだ。ドラえもんが使い道困るのも無理はない。普通人間は明るいうちに仕事をするものだから、わざわざ夜をつくりだしても意味がない。そう考えたのだろう。しかし、道具の使い方の工夫に関しては天才的なのび太は、きっとなにか使い道があるはずだ、と考えた。その一つはのび太の家の茶の間にあった。たまの日曜日でパパが眠りたがっていたのだが、明るくて眠れない。そこでのび太は電灯の電球を取り替え、夜をつくった。喜んだパパからお小遣いをもらったのび太達は商売になると考え、「夜を売ります」と書いたプラカードを掲げ、夜を売り歩くことにした。はじめてみると結構好評で、夜にならないと勉強に身が入らない浪人生、なかなか寝付かない赤ちゃんに困る母親、夜のデートを楽しみたいカップルなど、客は次々に現れた。ところが順調に進んでいたのもつかの間、のび太達は悪い客にぶつかる。それはなんと、「夜の方が仕事がしやすい」強盗だった。包丁で脅されたのび太達はやむなく夜の電球を取り付けた懐中電灯を後ろから照らして歩くことに。そのうち強盗は誰かとぶつかり金を出せと脅す。だが悪いことはできないもの、強盗がぶつかったのは運のないことに警官だったのだ。強盗はあえなく組み伏せられ、のび太達は無事解放された。このように、最後こそ犯罪に利用されてしまったが、夜をつくる電球は多くの人の役にたったのである。おめでとう。

No.33 ポータブル国会

 日本の国会議事堂をそのまま小さくした形の道具。この機械に法案袋にいれた「○○する法案」と書いた紙を入れ、レバーを操作するとその紙に書いてある法案が本当に日本中で守られるようになる。ドラえもん達は「正月の間国鉄(当時)の運賃を下げる法案」を可決し、運賃が高いせいで来られなかった北海道のおばさん(お年玉をたくさんくれる)を呼び出すことに成功した。このように適切な方法で使えば、確かに日本国民の暮らしはよりよいものになるだろう。しかしドラえもんの言うとおり、「この機械は社会に大きな影響を与えるからむやみに使うと困る」のだ。事実のび太は「今日だけ物価を十分の一にする法案」「太と犬の字を取り替える法案」といった個人的かつムチャクチャな法律をつくり、しまいには「のび太の誕生日を国民の祝日とする法案」「ゲームをするときは必ずのび太に勝たせる法案」「のび太を馬鹿にした者は死刑にする法案」といった自分に都合のいい法案ばかり通そうとした。実現すれば大きな悲劇が起こったに違いない。だが幸い、この道具には安全装置が付いていた。あまりむちゃをすると、「カイサン」という音と共に爆発するのだ。安全装置がついているとはいえ、一国の政治を個人が自由にできる装置。よく商品認可が通ったものだ。

No.34 呪いのカメラ

 外見は普通の一眼レフカメラ。しかしこれで人を写すと、写真ではなくその人そっくりの人形が出てくる。この人形が恐ろしく、この人形に何かすると同じことがモデルとなった人にも起こるのだ。要するに、恐ろしく正確な呪いのわら人形。針で人形の腕を刺せばおなじ痛みが本人の腕にも走り、ハンマーで頭をたたけば同じ痛みが走る。こんな恐ろしい道具があるとは驚きだ。ブードゥー教のにおいがする。事実ドラえもんの人形は近所の女の子のお医者さんごっこに利用され、その手術のおかげでドラえもんは首を切断されかけた。その後も人形は火の中に投げ込まれたりして、ドラえもんはひどい目にあった。未来では呪いの道具まで手軽にお求めになれるのだ。おそろしい。

No.35 悪運ダイヤ

 手に入れると持ち主に災いがふりかかる「呪いの宝石」の話は誰でも知っているはず。この悪運ダイヤはまさに「呪いの宝石」である。ただこのダイヤ、確かに災いがふりかかるが、その災いを特定の誰かのものにできる。つまり、こういうことだ。このダイヤの使い方はまずこのダイヤを自分の体にこすりつけ、その後ダイヤを誰かに持たせる、ということだけ。あとはその人にこすりつけた人に起こった不幸が、ダイヤを持っている人に襲いかかるのだ。人に自分の不幸を肩代わりさせる。なんという道具だ。
 ドラえもんはいつも不幸続きののび太を不憫に思い、この道具を出してあげた。確かにのび太は不運だ。日本一と言ってもいい。それは気の毒だが、だからといって人にその不幸をおしつけていいはずがない。事実立派にものび太はそう考え、ダイヤを回収することにした。だが適当に放っておいたダイヤは、すでに誰かに拾われていた。困るのび太。そこでドラえもんが考えついたダイヤの探し方は、とんでもないものだった。それはドラえもんがのび太の頭を後ろからハンマーで叩きながら痛がっている人を捜す、というものだった。確かに確実な方法だが、あんまりだ。のび太も「さえてるぅ」などと褒めている場合ではない。しかし不幸にもこの方法は実行され、ダイヤを持っていたジャイアンは絶えずハンマーで頭を殴られるような痛みに襲われるはめになった。しかも、その後のび太達がジャイアンが持っていることがわかっても、ドラえもんは「そんならもうしばらくもたせておくか」などといって放っておく始末。回収するんじゃなかったのか?いくらジャイアンが悪人でもひどすぎる。劇中、このあとしばらくのび太の不幸を肩代わりするはめになったジャイアンがどんな目にあったかは、話が終わってしまったのでわからない。しかしのび太の並外れた運の悪さを考えると、車にひかれたり落ちてきた鉄骨に頭をぶつけたりする目にあいかねない。神よ、不幸なジャイアンにどうかご加護を。


No.36 タッチ手ぶくろ

 いやな仕事を押しつけられたり、多額の借金を負ってしまったことはないだろうか。こんなときにこの手袋をはめて誰かにタッチすると、そのいやなことを相手が肩代わりしてくれる。しかし、この道具もやはりヤバいんじゃないか。ドラえもんは「いたずらしといて責任を他の人に押しつけるような無責任なことはするな」とのび太にい注意していた。ということは、自然にわが身にふりかかった責任は人に押しつけてもいいと言うのだろうか?無責任だぞ、ドラえもん!

No.37 真実の旗印

 「正」という字が三つ書かれた小さな旗。これを掲げていれば何をしても何をしゃべってもそれが正しいことになるというとんでもない道具。これがあれば殺人すら許されることになってしまう。こんなものを手にしたら、誰だって悪用するに決まってる。事実のび太はそうした。そして旗が風でどこかに飛んでしまったとき、そのつけを払わされた。歴史上強大な権力を持つ者は常に自分が正義だと叫び、自分の行為を正当化してきた。ナチスドイツや大日本帝国などその典型だ。未来の人々はそれらの悲劇を教訓とせず、同じ過ちを繰り返しいるのだろうか。そうだとしたら、あまりにも悲しい。

No.38 ビョードー爆弾

 人類は長い間、平等というものを求めてきた。特に近代になってからはその傾向が強くなり、フランス革命で民衆が革命の三つの基本精神の一つに「自由」「博愛」と並び、「平等」を掲げたことは有名である。そんな努力のおかげで、現在では奴隷制度や絶対王政はなくなり、世界の多くの人々はそれなりに平等な暮らしを送っている。しかし、人種や障害者などに対する差別はいまだ根強く、完全な平等を達成することは我々人類の永遠の課題と言っても良い・・・と堅いことを書いてしまったが、22世紀の科学はどうやら完全な平等を実現できるらしい。「ビョードー爆弾」は、まさにそんな道具だ。使い方はこうだ。だれかの爪の垢をとり、それをせんじた汁を爆弾につめ、それを発射台にセット。上空に打ち上げられた爆弾は爆発して灰をまきちらし、それを浴びた者は爪の垢のもちぬしと体力、知力、性質と、何から何まで同じ能力をもつようになる・・・ん? ちょっと待て! 「平等」ってそういうことなのか!? 「平等」というのはあくまで「人権上の」平等ではないのか?劇中、のび太は自分が何についても人より劣ることをドラえもんに訴えてこの道具を出してもらった。ここで問題となるのは、のび太が求めているものが「人権上の」平等ではなく、「能力上の」平等である、ということだ。結局、次の日から全日本人は全てにおいてのび太と「平等に」なった。一時的にのび太は喜んだが、すぐに後悔することになる。考えてみてほしい。あやとりと射撃以外能のないのび太と全日本人が同レベルになるのである。そんな奴等に、まっとうな生活が送れるわけがない。なんとかもとに戻したのだろうが、全日本が莫大な損失を被ったことは間違いない。確かに全能力が同じなのだからある意味平等だが、現在人類の抱えている不平等問題はそれとは全く違う次元の話だ。未来人は平等の意味をはき違えていたらしい。彼らに真の意味の完全な平等の実現を期待することは難しいことのようだ。

No.39 アンケーター

 何か人に尋ねにくいことがあるとき、本人に直接聞かずに本人の意見を聞くための装置。尋ねたい人の体の一部(髪の毛や爪など)をデータポストに入れると、そこに含まれる遺伝情報から本人の人格を再現し、それに対して質問をする。のび太はこれを使ってしずかちゃんが誕生日に何が一番ほしいかを尋ねた。これで再現された人格はあくまで機械なので、ウソをつくことやかくしごとをすることはないという。しかし感情はあるらしく、一番好きな食べ物は何かと聞かれたとき、焼き芋だということを恥ずかしがってなかなか言わなかった。確かに便利な道具だ。好きな人が自分のことをどう思っているか知りたいときなどは役に立つだろう。しかしこれは、プライバシーの侵害ではないか。その気になれば、クレジットカードの暗証番号だって聞き出せる。未来の世界ではプライバシーさえあらいざらい知られてしまうのか。そんな世界には死んでも住みたくない。

No.40 デビルカード

 のび太が偶然押入のなかから見つけたタペストリーのような道具の中からあらわれた悪魔からもらったカード。一回振れば三百円出てくる。しかし相手は悪魔。ただで金をくれるわけがない。三百円につき1mm、深夜12時に身長が縮むのだ。この道具をのび太だけでなく、そのことを知らない両親や友達がガンガン使ったために、のび太は危うく縮みすぎ、消滅しかけた。ビッグライトを使ったおかげでなんとかなったが。それにしても、身長を縮めてまで金がほしいと思う人などいるのだろうか?身長があまりに高いためコンプレックスをもつ女性がいるというのをよく聞くが、そんな事情がない限り、絶対に使うことはないだろう。悪魔が現れたときに「久しぶりに呼ばれた」と言っていたのはこのためだろう。それに加えて、1mm身長を縮めてもらえる金はたった三百円。1cmでも三千円だ。CDのアルバム一枚買うのに身長を1cm縮める、なんてことをするだろうか、普通?私は平均的な背の持ち主だが、もし1cm縮めるなら五万円出せ、と要求して悪魔を泣かせるだろう。しかし、逆の使い道ならありそうだ。つまり、悪魔に金を出すから身長を伸ばしてくれ、と頼むのだ。金で身長が買えるなら安いもの。モデルになりたい人、バスケットボールやバレーボールの選手になりたい人、相撲部屋の新弟子になりたい人、もてたい人etc・・・。客はいくらでもいる。悪魔が金を欲しがるかどうかはわからないが、この方が繁盛したに違いない。商売下手なヤツである。



目次に戻る inserted by FC2 system