No.1 ミサイルつき原子力潜水艦

 いきなりすさまじい名前の道具、いや、兵器である。「ドラえもんって原子力潜水艦まで持ってるの?」と驚く方もいるかもしれない。もちろん、ドラえもんがアメリカやロシアが保有するような巨大潜水艦を四次元ポケットの中にしまっているわけではない。あくまでラジコンだ。しかし、ラジコンとはいってもこれは驚異的なスペックをもっている。

 この道具がどんな物であったかを説明するには、これが登場した第14巻「ラジコン大海戦」のストーリーを語らねばなるまい。

 のび太はラジコンボートを手に入れた。それも、小遣いを節約し、アルバイトにはげみ、けちとよばれることもいとわず貯めた自分のお金で手に入れたのだ。その苦労を思い、感無量ののび太と「よくやった」と彼の頑張りを褒め称えるドラえもん。二人は早速ボートの進水式を近くの川で行った。軽快に進むボート。ところが、その前方にすさまじいものが現れた。巨大な戦艦大和のラジコンである。それはあろうことかのび太のボートに体当たりし、沈めてしまった。突然の出来事にヘタヘタと座り込む二人。そこへ、スネ夫が現れた。大和は彼の物であり、わざと体当たりをさせたのだ。当然二人はスネ夫にすごい勢いでくってかかったが、スネ夫はあやまるどころか大和の自慢話を始め、全く反省の色がない。ドラえもん達は復讐を開始した。スモールライトで小さくなり、大和に乗り移って自分達でコントロールできるように改造し、大和を乗っ取ったのだ。これに対してスネ夫は大和の製作者であるラジコンマニアのいとこの大学生、スネ吉を呼び出した。だが現場にやってきたスネ吉は、おそろしいことを始めた。魚雷発射装置を取り付けたラジコン零戦の性能テストとして大和を攻撃したのである。空から攻撃してくるラジコン零戦から逃げ回る大和だったが、ついに魚雷が命中、轟沈した・・・。

 とんでもないラジコンオタクである。ドラえもんとのび太の乗っている大和を攻撃したのだ。二人が死んだらどうするつもりだ!? それに、ラジコンを沈めれば川も汚れる。そもそも、なんのために魚雷搭載のラジコンなどつくったのだろう。ラジコンに熱中するあまり、社会の常識を身につけていないのだろう。こういうやつの起こす犯罪が多発している昨今、注意した方がいい。それはともかく、命からがら二人は脱出に成功し、岸まで泳ぎ着いた。しかしこの度重なる非礼、命を落としかねない暴力に、ついにドラえもんの堪忍袋の緒が切れた。そこでドラえもんが取り出したのが、この「ミサイルつき原子力潜水艦」だった。その復讐の標的は、もちろん貸しボートに乗って零戦の操縦訓練をするスネ夫とスネ吉である。

 「ミサイルつき原子力潜水艦」は、少し古いタイプの原子力潜水艦のラジコンである。アメリカやロシアが保有する有名な涙滴状の形状のものではなく、Uボートの昔からの伝統的なスタイルが特徴。ラジコンではあるが、スモールライトで小さくなれば乗り込んで操縦することも可能である。劇中では当然ドラえもんとのび太だけで操縦していたが、これはすごいことだ。なにしろ潜水艦というものは大型なら100人以上、小型なら数十人の人数が乗組員として必要だからだ。にもかかわらず、たった二人で操縦。しかものび太は実質上潜望鏡をのぞいていただけだから、実際の操縦や魚雷発射、ミサイル発射はドラえもんが全て行っていたことになる。ラジコンのプロポで操縦するのならば、一人でだってできるはずだ。究極のマシンインターフェースである。さて、潜航した潜水艦は手始めに水中からミサイルを発射し、上空を飛行中の零戦を全て撃墜した。これもすごいことだ。水中から上空の敵をこれほど正確に攻撃できるとは。魚雷艇はおろか、潜水艦の天敵であるはずの対潜爆撃機ですら、この潜水艦の前では無力だ。零戦を撃墜後、潜水艦は浮上しボートの上の二人に攻撃勧告を出した。スネ夫達はオールで潜水艦をたたこうとしたが、急速潜航でかわされる。その後二人は血相を変えてオールを漕ぎ出したが、潜水艦はピッタリとついてくる。これに対してラジコンオタクは、残っていた零戦用魚雷を水中に投下した。またしても殺人未遂&環境汚染である。あきれはててしまう。しかし、ここで潜水艦はまたも驚異的な力を見せる。投下された魚雷は数発が潜水艦に当たり爆発したが、潜水艦は艦内がきしんだくらいでまったくダメージはなかった。これはおどろくべき頑丈さだ。ラジコンとはいえ大きな大和を沈めたくらいだから、破壊力のある魚雷だったことは間違いない。それをくらって無傷とは・・・。ドラえもんは「模型とはいっても本物並の強度をもっている」と言っていた。しかし実際の「本物」の強度はそんなに強くない。「頭上の敵機」や「レッド・オクトーバーを追え」、「クリムゾン・タイド」といった潜水艦戦を描いた映画を見ればわかるが、潜水艦というのは非常に打たれ弱い兵器なのだ。潜水艦の魚雷、対潜爆撃機や掃海艇の持つ魚雷や爆雷をくらえば、よくて浸水、悪ければこっぱみじんということになる。それなのにこの潜水艦の常識はずれの耐久力ときたら・・・。さて、ラジコンオタクの魚雷も尽き、反撃の時が来た。「魚雷発射!!」のび太の号令で二発の魚雷が発射され、その直撃を受けたボートはこっぱみじん、乗っていた二人は川の中へ投げ出された。しかも、貸しボート屋の主人にボートの弁償代を払わされた。自業自得である。こうして、復讐は終わった。それにしても、なんたる破壊力。たかがボートとはいえ、自分よりはるかに大きく重い標的を破壊できるのだ。まさにスーパーウェポンである。

・驚くべき少人数で操縦可能。無線操縦も可。
・水中から上空への精密攻撃が可能。
・原子炉搭載。
・けた外れの耐久性。
・すさまじい破壊力。

 以上がこの潜水艦の驚異的スペックである。形状こそ古めかしいが、その性能は現代の最新鋭艦をも上回る。現代の原潜は主に核ミサイルを搭載し、目標の付近まで潜航して浮上、ミサイルを発射するという戦術を想定している。さすがにそこまではできないだろうが、対艦戦や通商破壊には十分すぎるほどの性能だ。しかし、「たかがラジコンでしょ?」という方もいるかもしれない。そういう人は、「ビッグライト」の存在を忘れてもらっては困る。そう、ビッグライトで巨大化させれば、この潜水艦は実戦でも十分に通用することが予想されるのだ。驚くべき攻撃力と耐久力に加え、ラジコンであるため無線操縦できるという利点。その性能と人命を危険にさらさずに済むという利点からして、軍事大国がのどから手が出るほどほしがるだろう。このこわいもの知らずの兵器が実戦に投入されれば、潜水艦はかつてUボートが実戦に投入された頃の栄光を取り戻すことになるだろう。

 それにしても、毎度ながらなぜドラえもんはこんなものを持っていたのか?未来の世界では、一歩間違えば兵器にもなるものですら子供のおもちゃにすぎないとでもいうのだろうか? 謎は深まるばかりである。

No.2 猛獣誘い寄せマント

 その名の通り、身につけると怒り狂った猛獣が襲いかかってくるマントである。マントから出る光が、猛獣を怒り狂わせるらしい。牛にとっての赤い布のようなものである。このマントは大長編「のび太の大魔境」で使用された。いつもの5人はアフリカに謎の巨神像を探すたびに出かけ、ジャングルを歩いていたが、あまりにも平和な旅に飽き、なにか刺激が欲しかったのでこのマントを取り出し、ジャイアンの背中に何のことわりもなくつけたのである。とたんに、ジャイアンの受難が始まった。まず、ヒョウが木の上から襲いかかってきた。それを撃退すると、今度は大蛇に締め付けられ、さらにはサイ、ゴリラに相次いで追いかけられた。まったくもって気の毒である。ドラえもんもひどい奴だ。このマントを身につけた人間に対して、猛獣は明らかな殺意をもって襲いかかってくるのだ。ジャイアンは殺されかかったのである。ただスリルが欲しいというだけで使うには、あまりに強すぎる効き目である。だいたい、退屈しのぎに猛獣でもやっつけようという考え方からして、動物愛護の精神に反する。おまけに彼らがやっつけた動物の中には、サイやゴリラのような絶滅危惧種までいた。なんてことをするんだ!確かに殺してはいないが、動物虐待である。以下、彼らがどのように猛獣を撃退したか。

・ドラえもん→ヒョウに「桃太郎印のきびだんご」を食べさせ、てなづける。
・のび太→大蛇をスモールライトで小さくする。
・スネ夫→サイをショックガンで撃って気絶させる。
・しずか→ゴリラをパワー手袋を使って投げ飛ばし、気絶させる。

 いやはや、とんでもない悪行だ。むやみに動物を傷つけていないのはドラえもんだけ。特にスネ夫としずかちゃんはひどい。実弾ではないが、サイを銃で撃つなど密猟者と同じではないか。ワシントン条約違反である。しずかちゃんにいたっては、よりにもよってゴリラを・・・。だいたいおとなしい草食動物であるサイやゴリラまで猛獣と呼ぶとはなんたること。それに、サバンナにいるはずのサイがなぜジャングルにいたのか?

 それにしても、いったいなんのためにこの道具は作られたのだろう? 前にも言った通り、ただスリルを求めるだけにしては度が過ぎる。こうなると目的は一つしか考えられない。密猟だ。未来の密猟者達はこのマントを使って動物をおびき寄せ、しとめているに違いない。ただ、この仮説もわざわざ怒らせた状態にするのがわからない。下手をすれば返り討ちにあう。結局この道具はなんのためにあるのかわからず、使い道があったとしてもろくな事には使えそうもないものなのである。なんなんだか。

 本来ならばここで終わりにするところだが、今回はさらにやりたいことがある。それは、いつもの5人に説教をすることだ。こいつらときたら、前述のように動物愛護精神のかけらもないのに加えて、アフリカ探検をするということがどういうことなのかまるっきりわかっていない。ここは一つ、お灸をすえてやらねばならん。

 まず注意したいのは、こいつらの服装だ。ジャングルを歩くというのに、半袖半ズボン。まったくの普段着だ。こんなものをきてジャングルを歩くなどもってのほか。ジャングルにはトゲのある葉をもつ植物が生い茂り、さらに猛獣だけでなく伝染病を媒介する蚊や吸血ヒルなどがうじゃうじゃいる。そんなところをこんな服装で歩き回れば、全身傷だらけになり、血を吸われ、伝染病をもらうというジャングルの手荒い歓迎をまともに受けることになる。救急セットやワクチンを持っていたのだろうか? そんな備えもしていなかったら、日本から遠く離れたアフリカのジャングルでのたれ死にである。さらに信じられないことに、彼らは途中から「道具に頼らず冒険をしなければならない」というジャイアンの戯言をしぶしぶながら受け、なんと役に立つ道具のほとんどを日本に置いてきてしまった。もはや自殺行為である。道具なしでただの子守ロボットと小学生になにができるというのだ。事実その後、河でワニに、サバンナでライオンの群に襲われた。どちらも外からの助けがあったためなんとか命拾いしたが、それがなければ間違いなく彼らの胃袋におさまっていただろう。まったく、武器も持たずにアフリカに行くなど、「アフリカをなめるんじゃねぇ!」(自分も行ったことないのに)と言いたくなる。結果的には犬の王国の王子の復権を助けることになったが、彼らのアフリカ探検に対する認識の甘さが露呈した話だった。食料、武器、医療品は秘密道具でなんとかするにしても、せめて服装だけは肌を露出しないようにして、装備を整えてから探検に望むように猛省を促したい。特にジャイアン。力持ちとはいえただのガキ大将である身の程を忘れ、やたら刺激を求める君の悪い癖は、いずれ君の命を奪う結果をもたらすだろう。

No.3 人体とりかえ機


 「人間」とか「人体」と名のつく道具は、やばいものであることが多い。「ポケットの中の喧噪」で取り上げた「人間製造機」などその顕著な例だ。「人間」とか「人体」と名のつくからには「人間」や「人体」になにかするのだから、当然と言える。そしてこれまた当然ながら、そんな道具には常に道義的問題がつきまとうのだ。

「人体とりかえ機」は、かなりおおがかりな装置である。言葉でその形状を説明するのは難しいが、あえていうならば人が入れるほどの大きさのカプセルが2つあり、その間を四つ足のユニットでつないでいる、というところか。詳しく知りたい人は11巻「からだの部分とりかえっこ」を見てほしい。人体とりかえ機はその名の通り、ある人とある人の体の部分を取り替えられる道具だ。取り替える手順は次の通り。

1.二人の人間(仮にA、B)がそれぞれカプセルに入る。

2.中央のユニットには人の形をしたパネルがあり、頭、胴体、両腕、両足の部分にそれぞれ
  スイッチがついている。カプセルの中の人はカプセルに開いた窓から棒を伸ばし、取り替えたい
  体の部分のスイッチを入れる(頭なら頭のスイッチ)。

3.スイッチを入れると装置がガタガタと揺れ、体の部分が入れ替わっている。例えば頭の
  スイッチを押したならば、Aの頭とBの頭が入れ替わっているのだ。

 これだけである。簡単だ。どんなことに使えるかというと、いろいろと考えられる。例えば、足の遅いことが悩みの人は陸上選手と足を取り替えてもらえばいい。明日コンサートでピアノを弾かなければならないのに腕を骨折してしまった人は、他の人と一時的に腕を取り替えてもらえばいいのだ。なにかと便利そうである。もちろん、人の体をそんなにホイホイと取り替えていいのかという道義的問題はあるし、慣れない体にとまどうこともあるかもしれない。まぁ、「人間製造機」ほどひどいものではない。これを使ってのび太は悲願である「宿題をスラスラ解く」という夢を叶えようとした。すなわち、頭の悪い自分の頭を頭のいいしずかちゃんの頭と交換してそれを実現しようというのだ。一見名案に見える。しかし、実は盲点があった。取り替えの結果カプセルから出てきたのは、しずかちゃんの体をもったのび太とのび太の体をもったしずかちゃんだったのだ。そう、頭を入れ替えるということは結局首から下の体を取り替えるのと同義なのである。仮にこの装置が脳を入れ替えることができたとしても同じことだ。体はのび太だが脳はしずかちゃんという人間と、体はしずかちゃんだが脳はのび太という人間が生まれるだけである。結局人間の本質は変わらない。もちろん頭がよくなるわけがない。不毛な試みである。要するに、頭を入れ替えることによってなにか利益を得ようとすると、必ず失敗するのだ。ハンサムになりたいからといってブラッド・ピットと頭を取り替えても同じことだ。さて、入れ替えた後、しずかちゃんはよっぽど見たいテレビ番組があったらしく、自分の体がのび太のものに入れ替わっていることにも気づかず家に帰ってしまった。こうしてのび太はしずかちゃんがそれに気がついて戻ってくるまで、彼女の体をもてあましながら待つことになった。しかし、この道具の隠れた恐ろしさが発揮されるのはここからである。おそるべき「体の又貸し」が始まるのだ!!

 石に腰掛け、しずかちゃんを待つしずかボディーのび太。と、そのスラリとした足を見てドラえもんが鼻息を荒げ、舌なめずりしてニヤニヤ笑い始めた。き、気味悪・・・。さすがにのび太も「なんだ、ニヤニヤときもちわるい」と口に出したが、ドラえもんはこう言った。実は彼には昔からの夢があるというのだ。それは、「自分は短足だから、一度でいいからスラリと長い足が欲しかった。この足を取り替えてもらいたい」というものだった。さすがにこの体の持ち主であるしずかちゃんに無断で足を貸すというのはまずいとのび太は反対したが、ドラえもんが「その辺を駆け回って長い足のスピード感を楽しんで、またとりかえればいい」とせがんだので、仕方なく取り替えた。こうしてドラえもんは念願である長い足を手に入れた。その姿はまさにアンバランスそのものである。ロボットの体と人間の足をどうやって接続するかがとても気になるところだが、とにかく大喜びのドラえもんは長い足を活かしてさっそうと駆け回る。「おお、この感激! このかっこいい姿を記念写真に写しておこう」その姿を偶然目撃したスネ夫は、我が目を疑った。わけのわからぬままドラえもんの来た方向に行ってみた彼は、またしてもとんでもないものを目撃する。のび太の頭、しずかちゃんの体と腕、そしてドラえもんの短足をもった妙な奴が、「ドラえも〜ん、早く帰ってきてよぉ」と叫んでいたのである。そしてのび太に何があったかを尋ね、人体とりかえ機の存在を知った彼は、これまた以前からの自分の夢を語りだした。スラリと長い腕と細い指が欲しかったというのだ。「この腕を僕のものにしてみたいな」としずかちゃんの腕を触りながら舌なめずりして笑うスネ夫。こ、こわ・・・。やっぱりのび太は反対したが、スネ夫は「なんだよ、自分の腕でもないくせに」とゆずらない。お前こそなんだ、その理屈は。意味がわからん。結局スネ夫はなんとか腕を交換してもらい、その腕に酔いしれた。すると今度は、それを見たジャイアンがやってきて、「一度でいいからスマートにやせてみたいと・・・」と言い出す。よくもまぁ、こう誰も彼も自分の体へのコンプレックスと密かな夢をもっているもんだ。しずかちゃんの肉体はそんなに魅力的なのだろうか。それも怖い話である。もちろんのび太は反対したが、相手はジャイアン。力ずくで交換されてしまった。念願を叶えたジャイアンが去った後、ようやく自分の体がのび太のものであることに気がついたしずかちゃんが戻ってきたが、彼女はとんでもないものを目撃した。それは、頭の悪いのび太の頭、ずんどうのジャイアンの胴体と太い腕、そしてドラえもんの短足と、全てのキャラの悪いところだけを集めたような人間だった。そして最後のコマ、全てのパーツをもとの持ち主に返すべく、5人が集まった。しかし、あまりにも体の又貸しを繰り返したために、実にややこしいものになってしまった。まさにカオスの世界である。おそらくこの騒動の後、しずかちゃんは自分の体を見る男達の視線に敏感になったことだろう。

 結論。やはりこの機械はよくない。乱用するとこのようなカオスの世界を起こしかねないからだ。それに、優れたプロポーションをもつ人が無理矢理体を交換させられる「体強盗」があらわれるかもしれない(事実、ジャイアンがやったのはほとんどこれだ)。優れたプロポーションをもつ人は損をするだけで、いっこうにこの装置の恩恵を受けることはない。なんたる不公平。私としては、この道具が登場する「体の部分とりかえっこ」は是非とも読んでもらいたいものとして推薦する。面白いことだけは保証する。

No.4 仙人らくらくコース


 仙人になった気分を味わうための道具。アタッシュケースのような外見で、中には風船のような家、それを膨らませるための足踏みポンプ、そして仙人ロボットが入っている。膨らませた家の中に住み、仙人ロボットに教えを乞いながら修行をするわけだ。仙人の課す修行を順調にこなしていけば、様々な神通力を使えるようになるらしい。らしい、というのは、これを使ったのび太が最も簡単な「雲に乗る術」しか習得できなかったからだ。確かにそれにはのび太の人並みはずれたダメさと根性のなさも一因とはなっているが、それ以上に問題なのは仙人ロボットの教える姿勢である。こいつときたら、「らくらく」というキャッチコピーに反しまくる、アメリカ海兵隊訓練学校の教官も真っ青になるほどのスパルタぶりを発揮するのだ。

 まず、のび太が軽い口調で神通力のレクチャーを頼むと、態度がなっていないと杖でさんざん打ち据え、あげくに雷雲を呼んで雷を浴びせる。確かに人にものを教わるときの態度というものはあるが、それにしたってやりすぎだ。さて、早速このスパルタ仙人の洗礼を受けたのび太は、まず始めに最も簡単な「雲に乗る術」を教わることになった。しかし、いざ雲に乗ろうとすると、乗れずに突き抜けて落ちてしまう。仙人によると、無念無想に、つまり心の中を空っぽにしなければできない、というのだ。はなっからむちゃくちゃである。どこが簡単なんだ!! 無念無想になるためには釈迦ですら大変な苦労をした。釈迦レベルの人間にならなければこの術ができないというのなら、のび太はおろか普通の市民生活を送る全世界のほぼ全ての人はできない。仙人はのび太に無念無想になれと座禅を命じるが、のび太がつい眠ってしまうとまたも雷を浴びせる。さらにその後、のび太が脱走を図るとまたまた雷。のび太は腹ぺこで修行どころではないと訴え、仙人食を食べさせてもらうことになる。仙人の食べ物はなにかと期待するのび太だったが、その正体は仙人の食べ物としておなじみの霞。精一杯吸い込むが、全く腹が膨れない。しかし仙人ロボットは、容赦なくさらに過酷な修行をのび太に課す。それはなんと、滝行だった。音をあげたのび太は再び脱走を図るが、雷雲に追われ断念。薄れゆく意識の中で、滝に打たれ続けるほかなかった。そんなこんなで、夜になった。そして、ついにのび太は雲に乗ることができた。しかし、その目はうつろ。もはや彼は精神と肉体を極限まで痛めつけられ、その魂は三途の川の上をうろうろしている状態だったのだろう。心は空っぽになったが、それは修行の成果ではなく、度重なるダメージによって強制的に何も考えられない状態にさせられてしまったからである。

 私が思うに、そもそもこの道具は名前と内容が一致していない。「らくらく」どころか、下手をすれば仙人ロボットによって死の一歩手前まで追い込まれる。仙人になるためにはこのような命がけの修行を積まなければならないのはわかるが、この道具は決して「ちょっと仙人の気分を味わいたい」人が使うようなものではない。この道具が役に立つとすれば、それは特殊部隊の養成所か、厳しい修行で有名な寺院ぐらいだろう。いずれにしても、我々との接点はあまりない。

No.5 強いイシ


 強い意志を鍛えるための道具。その名の通りゴツゴツした石の形をしていて、つまみが4つついている。これを使ってどうやって意志を鍛えるかは、劇中でのパパを使った実験から紹介する。パパは禁煙することをこのイシに誓い、ドラえもんはイシの起動時間を  10分に設定した。「もしたばこを吸ったらどうなるの?」と尋ねるパパに、ドラえもんは「絶対に吸えない」とだけ答えた。そこでパパは、試しに吸ってみることに。そしてその途端に、ただ空中に浮かんでいたイシが、パパの頭にうなりをあげて襲いかかる! イシは頭に何度も何度もゴチゴチとぶつかり、いっこうに攻撃の手をゆるめない。パパがたばこを捨てたことで攻撃は止まったが、もう吸わないというのにイシは疑い深く空中に浮かんでいる。そして、10分たつとイシは地面に落ちた。このようにこのイシは、なにかの誓いを立てた人がその誓いを破るとその人にうなりをあげて襲いかかるのである。確かにこんなものにぶつかられてタンコブだらけになるぐらいなら、誓いだろうとなんだろうと守りたくなる。なにより、誓いを破ることをこのイシは許してくれない。しかし、このようなことで誓いを守ることは、はたして「意志が強い」と言えるのだろうか、いや、言えまい。意志によって誓いを守るというのは、このような道具によって強制されるから守るというものではなく、自らの強い心によってあきらめることなく守るということだ。実質的にこの道具によって続けさせられる行為は、学校で先生によっていやいややらされる掃除とかわりない。 しかもこのイシ、殺人的に危ない。劇中のび太はジョギングをやりとげることを誓い、さらに時間を一時間に設定した。が、雨がふってきたので明日にしようとする。すると早くも、イシはのび太に襲いかかる。イシに追い立てられ、雨の中を走らされることになったのび太。しかし、もともと体力も根性もない彼に一時間も走り続けられる訳がなく、5分も経たないうちに息切れして歩き出そうとした。しかし、イシはそれをも許さない。ひたすらのび太の頭にぶつかり、走ることを強制する。もはや意志がどうという問題ではなく、個人の限界を無視した行動だ。さすがにやりすぎだと感じたドラえもんはポケットの中にしまおうと格闘するが、イシにボコボコにされた。何者もイシを阻むことはできないのだ。のび太が撲殺を免れる唯一の術は、1時間走り続けることだけだった。そして、信じられないことだがのび太は完走した! 目はうつろに、足はヨタヨタになりながらもついに完走したのだ。力つき、崩れ落ちるのび太を涙を流しながら褒め称え、受け止めるドラえもん。しかし喜びもつかの間、イシがのび太の頭を直撃する! 「なぜだ! 一時間たったはずだぞ!」ドラえもんの怒りの叫びも聞かず、のび太を追い立てるイシ。そのときドラえもんは気づいた。イシの設定時間が一年になっていることを。このイシに常識はないのだろうか? 人間はおろか、どんな動物にも一年間休みなしに走り続けられるものなどいない。もはやのび太は逃げるしかなかった。彼はジャイアンのうちにかくまってもらう。珍しくのび太の味方をし、バットでイシと格闘するジャイアン。のび太はその隙に逃げ出すが、ジャイアンはズタボロにやられてしまった。逃げ続けるのび太の前には、どこでもドアを用意して待つドラえもんが。目的地も決めずにドアをくぐったのび太だったが、やっぱりというかなんというか、ついた先はしずかちゃんの家のお風呂だった。のび太は金切り声をあげるしずかちゃんを適当に説得し、彼女の服で女装して逃走を続ける。しかし、一度はイシを欺くことに成功したが、すぐにばれてしまった。万事休す。しかしそこへタイムふろしきをもったドラえもんが登場。ふろしきにくるまれたイシはしばらく暴れていたが、ふろしきの中で一年が過ぎ、やがてその動きを止めた。こうして、一連の騒動は幕を閉じた。

 それにしても恐ろしい道具だ。一度動かしたが最後、決められた時間が過ぎるまで忠実に任務を遂行する。まさに殺人マシーンだ。意志を鍛えるという本来の目的とはずれたことをするわ、歯止めはきかないわ、まったくもってひどいものである。劇中ラスト、ドラえもんは「強い意志はやはり自分の力で育ててこそ・・・」と言っている。結局そこへ行き着くしかない。

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