No.46 アクションクイズ


 レビューをしていると、つくづく未来人というものは電撃が好きなのだと思う。「カミナリ雲」や「蓄電スーツ」は言うに及ばず、「十戒石版」「税金鳥」でも罰として電撃をくらわせていた。未来ではよっぽど電撃が流行しているのだろう。いやな世の中になった。

 「アクションクイズ」は、未来のクイズゲームマシンだ。出された問題を未来の道具を使って実際に行動し解くというのが、「アクション」の名の由来だろう。ボタンが付いていて、これを押すと問題を記した紙(場合によってはそのクイズに使う備品も)が出てくる。クイズは四問セット。正解すれば金メダルが出るが失敗すると・・・雷が落ちる。またしても電撃だ。罰ゲームとして雷というのは、どんなヨゴレ芸人だってしりごみするだろう。もうちょっと穏やかな罰ゲームだってあるだろうに。

 それはともかく、ここからは皆さんものび太になったつもりで彼に出題された問題に挑戦してもらいたい。それでは、問題。

1.その場所で今すぐ海水浴せよ。

2.時速千五百キロ以上のスピードで走れ。

3.一分以内に西から東へ地球一周せよ。

4.(日光写真が出てきて)この日光写真を焼き付けよ。ただしこれは、三十時間連続で太陽に
  あてなければならない。途中で夜になるともとにもどる。

 難問である。ロシアの言い伝えに、「バーバ・ヤガー」という日本でいう鬼婆のような恐ろしい妖精の話がある。バーバ・ヤガーは恐ろしい老婆の姿をしていて、森の中を石臼に乗って動き回っては、人間を捕まえて自分の家に連れ帰る。そしてその人間に「麦粒の山の中からゴマを一粒探せ」とか、「大麦の山を一粒ずつ洗え」とかいった無理難題を押しつけては、それができない人間を食べてしまうのだ。この機械は、ほとんどそのバーバ・ヤガーと同じである。何しろ問題の制限時間はたったの三十秒。このわずかな時間に、数ある秘密道具のどれを使って解決するかを導き出さなければならないのだ。できない人間には雷が落ちる。しかも四問セットなので、途中棄権は認められない。そんな人間にも雷が落ちる。ドラえもんは3の問題ができなかったのび太を見て、「頭悪いなぁ・・・」とつぶやいていたが、のび太でなくても普通の人にはできないはずだ。できるのは宇宙猿人ゴリ(IQ300!)や本郷猛(IQ600!!)ぐらいだろう。未来の人間はこんなものを頭の体操に使っているのだろうか? だとしたら恐るべき超頭脳だが、そんな頭が変な道具ばかり作るのも考えものである。

 さて、正解を発表しよう。

1.

 タイムマシンで場所は動かず時間だけ大昔にさかのぼる。中生代以前なら東京は海の底だったので、
東京のど真ん中で海水浴ができたことになる。(私が思うに、これはタイムベルトを使っても可能だろう)

2.

 どこでもドアで赤道に移動する。そしてその上を東に向かって走ればいい。地球は自転している。つまり
地球上に立っているものはそれにつれて動いているので、そのスピードは極点から遠ざかるほど速く
なり、赤道付近では時速千五百キロを超える、というわけだ。

3.
どこでもドアで北極点(南極点でもいいと思う)に行き、その周りを一周すれば一分とかからない。

4.

夏の南極に行けば、一日中日が沈まない。だからこれが可能だ。(宇宙に行って太陽の周りにいても
できるとは思うのだが)

 どれもこれも、かなりの発想力が必要とされる。恐ろしいのは、問題が終わってクイズの正解を発表するのはマシンではなくドラえもんだということだ。なぜか彼は出る問題全ての回答をすぐに思いついてしまう。恐るべし未来ロボット! 脅威の人工頭脳!!

No.47 本人ビデオ


 「ビデオ」と名はつくが、形状はビデオと言うよりそのリモコンに近い。この道具に何かがあった時間と場所を設定してスイッチを入れると、その時、その場所で起こった出来事を事件の当事者がビデオのように再現してくれるというもの。

 いろいろと使い道は思いつく。中でも警察では大活躍しそうだ。あの銀行で起こった強盗事件。あの道路で起こったひき逃げ事件。すべてこの道具を使えばその当事者(=犯人)がやってきて、事情聴取などせずにその場で再現してくれる。現行犯逮捕が可能だし、誤認逮捕も減るだろう。警察の捜査にかける時間と労力は大幅に削減される。しかし問題なのは、再現させられる本人の方。のび太は二人の男が曲がり角で出会い頭にぶつかり、そっちが先にぶつかってきたのだと言い張っている現場に遭遇。この道具を使ってその真相を確かめようとする。しかし何度再現してもどちらが先かわからない。そのため当然何回もガツンガツンとぶつかることになり、しまいには「いいかげんにしろ!!」と二人はのび太を追い回し始めた。これを使って実況検分などをするときはできるだけ一発で終わらせなければならない。被害者にとって二度、三度とハンマーで頭を殴られたり、ナイフで刺されたりするなどということはごめんだ。さらに気になるのは、もし当事者の一人が死んでしまっていたら・・・ということだ。例えばひき逃げ事件で、ひき逃げされた被害者が死んでしまっていたとしたら。死者まで生き返らせて再現してくれるのだろうか? できるとしたら、まさに現代の怪談だ。しかし、これによって思わぬショーが楽しめることになる。大昔に行われた戦いなどをこれで再現するのだ。未来の興行師達はもしかしたらこれを使って「関ヶ原 天下分け目の大戦ショー」とか、「史上最大の作戦 ノルマンディーショー」などといった催し物を開いているのかもしれない。さぞかしリアルなショーになるだろうが(当たり前だ。本物が出ているのだから)、安らかに眠る英霊達にとっては迷惑この上ない。

No.48 あべこべクリーム


 元は連載初期に登場したにすぎない道具だったが、「いしころ帽子」と同じく劇場版「魔界大冒険」に登場したため、一躍有名になった道具。その名の通り乳液タイプのクリームだが、その効果は保湿とかそういうものではなく、むしろ幻覚剤に近い。このクリームを体に塗ると、寒暖の感覚が逆転する。要するに、寒さを暑く感じ、暑さを寒く感じるのだ。

真冬。しずか、ジャイアン、スネ夫の三人がのび太を遊びに誘う。ところが家から出てきたのび太は分厚いコートで着膨れしていた上に、その下に湯たんぽまで隠していた。のび太の異常とまで言える寒がりぶりをバカにするジャイアンとスネ夫(「俺なんてシャツも着ていないぞ」などと自慢するジャイアン。やせ我慢ではなく本当にそこまで寒さに強いのなら、もう健康と言うよりは変態の域に達しているぞ・・・)。

 くやしがるのび太。そこでドラえもんはこの道具を取り出す。そして二人とも体に塗りつけ、外へと出ていった。先ほどとはうってかわって、海パン一丁で空き地に現れたのび太を見てびっくりする三人(なぜか腰に手を当ててマッチョマンみたいな感じで現れるのび太が妙に笑える)。ところが自慢をしていると、雪が降ってきた。そしてそれが鼻先に落ちたとき、二人は熱い熱いと大騒ぎを始めた。そう、このクリームを塗った状態では、雪などまるで熱湯の滴がゆっくりと空から落ちてくるようなものなのだ。それを見ていてなにがなんだかわからない三人、熱いと言っているのでとりあえずバケツに氷みたいに冷たい水をいれて、それを二人にぶっかけた。しかし当然、二人にとっては熱湯をぶっかけられたのと同じこと。「なにしやがる!」とばかりに剣幕したあと、早く体をさまさなければと家に急行。ママにきいてみると、うっかりとお風呂を沸かしすぎ、うめなければはいれなとのこと。しかし二人にはそんな余裕もなく、頭から湯船へとつっこむ。その途端、「冷たあい!!」と悲鳴が上がる。なにをばかなことをと浴室に行ったママが見たものは、あまりの「冷たさ」に氷漬けになってしまったのび太とドラえもんだった。

 はたしてこれはなにかの役に立つのだろうか? 劇場版では吹雪の中凍えそうな時にこれを使っていたが、ドラえもんは苦い記憶を忘れてしまったのだろうか? そんな状況でこれを使えば、熱湯のシャワーの中に放り込まれるようなものである。凍え死ぬか、焼け死ぬか。究極の選択である。作用がこうも極端では、これを開発する際にターゲットとしたであろう、暑さや寒さが問題となる職場で働く人(極地探検家、製鉄所職員など)にもうけが悪いだろう。南極で焼死した探検家の遺体が発見されでもしたら、目も当てられない。
 この道具のもう一つの謎は、単なる幻覚剤であれば、凍りついたりすることなど考えられない、ということだ。単に「そう感じるだけ」では片づけられない現象が起こっている。これはもう、体が「凍りついた」とか「やけどした」と思いこんだとしか思えない。アメリカの人気TVドラマ、「Xファイル」のなかで似たような話があった。この話の中で事件の中心となる人物は、かつてベトナム戦争中に「眠る必要のない兵士」をつくるため、脳に改造を施されて、その副作用としてある能力を手に入れた男である。彼の能力とは、人間に強烈な暗示をかけられるというもので、彼がその能力を使って連続殺人を犯していく、という話だ。「無数の銃弾を撃たれた」とか「炎に巻かれた」とか思いこませることで人を殺すのである。このような暗示を受けた人間は不思議なことに、外傷はないのにあたかも無数の銃弾が撃ち込まれたかのようにあらゆる骨が砕けていたり、内蔵が真っ黒に焼けこげていたりして死んでいるのだ。本当にこのようなことが起こるかどうかは知らないが、あべこべクリームを塗った結果凍りついたりするのは、このような強烈な暗示が作用しているのではないか。こうなってくると、なんだかこわくなってくる。「感覚をごまかすのなら、思いこませるくらいまで」 未来の道具開発には、このような徹底主義が蔓延しているようだ。

No.49 いやなことヒューズ


 最近は見かけなくなったが、昔の家にはヒューズというものがあった。電線から家への入り口についていて、電気器具が故障したり電気を使いすぎたりすると、電気の過負荷で火事になったりするのを防ぐため、切れて電気を止める物だ。今ではブレーカーに置き換わっているため、見かけることは少なくなった。

 さて、「いやなことヒューズ」だが、これは人間用のヒューズである。形状は普通のヒューズと変わりないが、これを襟首につけておくと、ひどくいやなことが起きたときにヒューズが切れてなにも感じなくなる、早い話が意識を失うのである。早くもなんの役に立つのかわからなくなってきた。危機的状況に陥ったとき動かなくなるというのは、アフリカに住む野生のシカの仲間がよくとる行動だ。ライオンなどの肉食獣に襲われたときに、なぜかその場に硬直してしまうのだ。おかげで、肉食獣の格好の餌食となる。危機的状況に襲われた場合にはすぐさま状況を把握し、適切な対応をしなければならない。逃げる、かわす、受け止める・・・。固まってしまうというのは、最悪の対処なのだ。ドラえもんはヒューズの効果に味をしめて、さらにヒューズをもらおうとするのび太に、「だめっ。あれはよっぽどのことがないと使わないの。」と注意していた。が、この道具は「よっぽどのこと」のレベルが高いほど使ってはならないものだ。さもなければ、シカのような運命が待ち受けている。結局のび太はヒューズをいくつももらい、「いつも一個つけておこう」と襟首につけていた。これなど自殺行為である。のび太はなぜか、車に轢かれやすいという特徴をもっている。もしこれをつけているときに車がつっこんできたら・・・。意識不明の状態が、永遠に続くことになる。さらに問題がある。あまりにもこれを乱用していると、ささいなことにも過敏に反応し、気絶することになる。アレルギー反応と同じだ。さきほどのセリフの後でドラえもんは、「やたらにあんなもの使っていると・・・」と言いかけていたが、その後にはこんな心配が続くはずだったのだろう。事実のび太はこの症状に陥り、夜ドラえもんがこんなものはためにならないと、いつものように窓から捨てた残り一個のヒューズを庭に探しに出た。そしてそれを見つけ、首筋につけた途端、一匹のクモが目の前にスウッと降りてきた。このショックでのび太は気絶。やわなやつだ。こんなことをそれほどいやに感じる人間など、虫嫌いの人以外はそうはいまい。だが、これは悲劇の序曲だった。当時野比家の庭は、のび太が草むしりをさぼっていたために雑草がはびこり、ヤブ蚊天国状態。そこに気絶したのび太が倒れたのだから・・・。15分後。「カイカイカイカイカイカイ」茶の間の窓から得体の知れない怪物が入ってきた。のび太の両親、及びドラえもん、それをみて「怪物だっ。」と恐れおののく。それは肌が露出したありとあらゆる部分を蚊に食われ、醜く腫れあがったのび太の変わり果てた姿だった。はっきりいって、「バイオ〜」に出てきてもおかしくない。

 このように、この道具は人間の危機を救ってなどくれない。むしろ、人間をさらなる危機へと追い込む。危機に陥ったとき、のんびり寝ている場合ではない。ただ道を歩いていても予想もつかない危機的状況に追い込まれる現代。自殺したかったらこれをつけるべきだ。

No.50 うそ実現道具の数々


 50番目のレビューである。「ポケットの中の喧噪」から数えれば、通算100番目だ。これで最終回になるかはわからないが、とりあえず節目となるものなので、それなりにインパクトのある道具をレビューしなければならない。そう思って、この道具達をレビューすることにした。

 ドラえもんの数ある道具のうちで、なにが一番欲しいか。外伝1でも述べたとおり、ドラえもんについてちょっと詳しい人なら、「もしもボックス」と答えるだろう。自分の思い通りの世界を作れる道具だ。いわゆる、”万能”の道具である。なんでも思い通りにできる。これ以上に役に立つ道具など、あり得ない。だが一般的にもよく知られたこの「もしもボックス」以外にも、こうした「万能道具」が存在した。それが数々の「うそを実現する道具」である。

 このタイプの道具は三つ存在した。「うそつ機」「ソノウソホント」、そして、「ウソ800」である。なかでも「ウソ800」は「帰ってきたドラえもん」においてドラえもんを帰還させるのに用いられた重要なアイテムである。効果は同じだが、それぞれ形は違っている。とはいえ、「うそつ機」と「ソノウソホント」はほとんど同じ物といっても差し支えない。どちらも金属製のクチバシのような道具だ。これに対して「ウソ800」は、丸底フラスコに入った薬品である。その使用法だが、「うそつ機」「ソノウソホント」は口にはめて、「ウソ800」は飲んで使用する。ただ、効果は微妙に違う。「うそつ機」「ソノウソホント」の場合はついたうそが本当になるが、「ウソ800」の場合はついたうその反対のことが本当になる。例えば、「君はお母さんにほめられるね、いやというほど」と相手に向かって言うと、その相手はいやというほど母親にしかられる、というわけだ。使用の際には間違えないように。

 「究極の道具」というものは、まさしくこれであろう。どんなにありえないことでも、この道具を使ってしまえば実現可能だ。ただし、これはとてつもなく危険な道具でもある。世界を思い通りにできるということは、たしかに重大な問題だ。だがそれ以上に問題なのは、「ドラえもん」という作品世界自体を破壊しかねない道具であるということだ。なにしろ、これさえあれば他の道具は何一つ必要ない。もちろん、これをポケットから出したドラえもんですら例外ではない。作品世界に登場した道具が、その作品世界をおびやかす。まさに「ウロボロスの蛇」である。「ウロボロスの蛇」というのは、中世ヨーロッパの錬金術師がこの世の真理の一つを表現するために考案した動物である。その名の通り蛇なのだが、その蛇は自分のしっぽをくわえて輪を描いている。そしてこの蛇はしっぽからどんどん自分の体を食べていき、やがては消滅してしまうのだ。一つのシステムが、自らそのシステムを浸食していって消滅する。宇宙から我らの社会にいたるまで、あらゆるところで起こりうる現象を表現した動物だ。これと同じように、うそ実現道具も作品世界におけるウロボロスの蛇となりかねない、危険な存在なのだ。

 だが、ドラえもんについて詳しく紹介した小学館の本、「ド・ラ・カルト」では、この道具のそのような危険性を認識しながらも、次のような意見を述べている。「うそを実現するという行為は、「マンガ」という行為そのものではないか」と。なるほど、確かにその通りだ。アトムが空を飛び、仮面ライダーが怪人と戦い、バカボンのパパがはちゃめちゃな騒動を起こす。どれも現実世界ではありえないことだ。だが、マンガの世界ではそれは実現している。あたかも現実の世界の窮屈さを、自らが動き回ることによって証明するかのように。私たちはそんな登場人物達の行動を見て、無意識に「自由なうその世界」にあこがれ、現実の世界の狭さを感じているのかもしれない。そう考えると、漫画家達、いや、何かについて空想しないことなどない我々こそ、みな「うそ実現道具」なのではないか。「うそ実現道具」との違いは、そのうそを現実世界に実現するか、それとも空想の世界に実現するかということだけだ。ついに、最もすばらしい道具は何かという疑問に終止符を打つ時が来た(と、私は思っている)。ドラえもんは劇場版「のび太の銀河超特急」の予告編の中で、次のような言葉を述べている。「え? キップ? なくても大丈夫。夢見る心さえあれば・・・」 この作品は最後まで藤子先生が手がけた、最後の作品になった。この言葉が藤子先生の考えたものであるかどうかはわからない。しかし、もしそうだとしたら、「夢見る心」こそが最高の秘密道具なのではないだろうか? 人間はそれに従って進歩を重ね、空を飛んだり月まで行ったり、かつては「ウソのようなこと」だったことを可能にしてきたのだから・・・。

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