No.56 つけかえ手袋と人体パーツシリーズ


「手足七本目が三つ」

 「これなあんだ?」という言葉が後につきそうだが、別になぞなぞではないから考えなくてもよい。これはここで紹介する道具が登場した話のタイトルである(もっともこれは初期に出版された単行本のもので、その後は「ねこの手もかりたい」というタイトルになっている)。なんでこんななぞなぞのようなタイトルになったのか? それは、この道具に大きな原因がある。

 物価の値上がりをぼやきながら、道に落ちている十円玉を見つけようとするのび太。だが、後ろから来た車にあやうく撥ねられそうになる。気をつけろよというドラえもんにのび太は、「無理言うな。後ろに目がついているわけじゃなし。」などと言う。そんなもの後ろについていなくったって、十分車が来たことぐらいわかるものだ。こいつ、ほんっとに鈍いんだな。しかしそんなのび太のばかげたいいわけを本気にしたのか、ドラえもんは「つけかえ手袋」を取り出す。それを手にはめたドラえもんは、まるで冷蔵庫にくっついたマグネットでもはずすかのようにのび太の片目をカポッと取り外すと、それをのび太の後頭部にくっつけた。この手袋は、はめると体のどんな部分でも自由につけかえられるようになるのだ。前と後ろがいっぺんに見えるようになったのび太、十円玉が探しやすいようにともう片方の目を足にくっつけるが、やはりまずい。しかし、のび太はどうしても十円玉を拾うと言い張る。十円玉にここまで執着するとは、あきれたというか立派というか・・・。そんなのび太にドラえもんは「なるべくならこれは使いたくないんだけど。」と言いながら一つのカバンを取り出す。そしてそのカバンを開けると・・・なんとそこには、腕や足や口など、人間の体のパーツがたくさん入っているではないか!! お巡りさんがそこを通らなくてよかった。もしこの場を見られたら、絶対バラバラ殺人犯か猟奇殺人犯と思われただろうなあ。ドラえもんはこのパーツの中から人造目玉を取り出すと、のび太の両目に取り付けた。しかしその後、のび太は好き勝手にパーツを取り付けようとし、止めようとするドラえもんの両目を奪い取ると、カバンを持ち去ってしまった。家に帰りながら、「使い方を工夫すれば、大儲けできるかも・・・」と悪党的な笑いを浮かべるのび太。危険だ!!

 のび太はまず、手に目と口を取り付けてスネ夫を脅かし、友達に電話をかけさせて集めさせた。ジャイアンやしずかちゃん、そして伝説の片倉サブローが集まるが、おやつの大福は4個しかない。そこでのび太が提案したのは、トランプをやって勝った者が大福を全部食べる、というものだった。こうしてトランプが始まった。「トランプは、相手の持ち分を知ってるとだんぜん勝負がしやすいのだ」と、のび太は早速インチキを始める。まず、両脇腹に腕を取り付けると、その指の先端に目をとりつけて両隣のジャイアン、スネ夫の手を見る。テーブルの向かい側にいるサブローとしずかの手は足の先に足を継ぎ足し、足の指の先にとりつけた目でその持ち分を探った。そうこうしているうちにのび太の番が。「あわてなさんな。どうせ僕の勝ちにきまってる」とインチキをし、なおかつまだ勝負もきまっていないにもかかわらずそんなことを言った卑怯者は、「だからこれはもう僕のものなのだ」となにやら動き始める。のび太の体から、「パクパク、ムシャムシャ」という音が聞こえてくる。「何の音だい?」と座卓の下をのぞき込んだスネ夫が見たもの、それは・・・。なんと、のび太の腹にくっついた口が脇腹から伸びる手を使って大福をムシャムシャと食べているところだった!! 「オバケ!!」と血相を変える4人。「バレたか!」と、まるで前世魔人(byダイヤモンドアイ)のようなセリフを口走るのび太は、両脇腹からは腕が伸び、腹には口があるというまさにバケモノだった。しかし、驚く彼らを後目に、のび太は宣伝を始める。「貸し目貸し足、貸し腕貸し口。そのほかなんでも一日十円で貸します。友達や家の人に教えてあげよう」と、まるで千手観音のように4本の腕にそれぞれパーツを持ちながら、やけに手慣れたような商売文句を並び立てるのび太。十円!! いくらなんでも安すぎだ。現実の世界でも受精卵から体のパーツを作り出し、それを移植医療に役立てようという動きは一部実用化されているし、臓器移植ならとっくの昔に行われている。それらにかかる費用が数千万円単位であることを考えると、この値段にはあきれかえってしまう。世間知らずにもほどがあるし、人体の一部を商売に利用するということの重大さがまるっきりわかっておらん。

 こうして「貸し人体屋」というおそろしい商売を始めたのび太。家に帰ると、目がないのにどうやってか、ドラえもんが帰ってきていた。「金がもうかったら大好きなどら焼きをうんと買ってやるぜ」と、根性が腐りきったとしか思えないような発言をするが、ドラえもんはムスっとしたまま何も言わない。そうこうしていると、早速お客がやって来た。最初のお客さんはなんとしずかちゃん。目をもっとパッチリしたものにしてほしいという。のび太はまず一つの目をとりつけたが、それはネコのものだった。それをとりつけた途端に、なぜかネコのようにのび太をひっかくしずか。脳をとりかえているわけではないのに、なんでだろう? 続いてのび太は今度は少女マンガの主人公のような、瞳の中で星が瞬いている目を彼女につけてやった。次にやってきたのはスネ夫。背が低いので、すらりと長い足が欲しいという。「人体とりかえ機」の時は、長い腕と細い指が欲しかったはずだが、まあそれはもう少し後の話。のび太が取り出したのは女物の足だったが、一応スネ夫は帰っていった、次のお客はジャイアン。異常に恥ずかしがるが、それもそのはず、でべそを取り替えたいという。別の話であかされた事実によれば、彼のでべそはなんと3cm5mm。取り替えたくもなるだろう。しかし、へそまではそろっていない。それを聞いたジャイアン、「俺の秘密を聞いておいてできないじゃすまされんぞ」と言って、のび太のへそを強奪しようとする。むちゃくちゃだ。自分からガン告知を迫っておいて、聞いてから後悔して医者に「あんたがそんなことを言うからだ」などと言うようなものだ。できることとできないことがある。さらにその場に、この目は涙が止まらないと言うしずかと、足がひどい水虫だというスネ夫が苦情を言いに乱入。のび太はドラえもんに目を返してあやまり、助けてもらった。「慣れないことをするもんじゃないな」と、一応反省するのび太。しかしその傍らではなにやらドラえもんがゴソゴソと。そして、腕毛も見事な筋骨隆々の腕をとりつけのび太を威圧するドラえもんを前に、のび太は「かんべんしてよ〜。もうこりたから。」と震え上がるのだった。自業自得。

 人体のパーツを自由自在にくみかえてしまうというこれ以上ないくらいに生命倫理を無視したこの話は、「ドラえもん」の中でも一、二を争うほどのブラックユーモア炸裂編だと私は思う。ぜひ皆さんにも第7巻を読んでもらいたいものだ。しかしこの道具は、この道具そのものよりも、この道具の実現に現実の世界が近づきつつあるということのほうに恐ろしさがある。このあいだバイオテクノロジーを使った医療の最先端とその恐怖を紹介した番組を見たが、そこで描かれていたのは恐ろしい世界だった。背中に人間の耳をはやしたラットや、人工的に作り出された「鼻」。受精卵の中からある部分をとりだして培養することで人工的な体のパーツを作り出すという作業は、クローン人間の一歩手前なのである。体に腕や口をとりつけたのび太を笑っていられる時代は、もうそう長くは続かないだろう。人体パーツをとりつけたのび太の姿は、そう遠くない未来の我々の姿そのものなのかもしれない。

No.56 かぐやロボット


 秘密道具の中には生命倫理を無視したものが多いが、これはその中でももはや「神への冒涜」といってもよいものである。これまでにも「人間製造機」や「クローン培養機」などの人間を作り出す道具を紹介したが、この道具も、ほとんどそれと同じだ。

 のび太の部屋に届けられた一つの小包。それは二十二世紀デパートが例のごとく誤配してきたものだった。内容は「かぐやロボット」。ドラえもんは「こんなものは子供のいない年寄り夫婦なんかが、さびしさを紛らわすために使うんだ。あとで送り返そう」と言うが、なぜかそのまま部屋を出ていってしまう。その後ろでは、既にのび太が包みを開けている。なぜすぐに送り返さない!? のび太が勝手に道具を持ち出したことで事件になったことはいくらでもあるじゃないか!! 今できることはいますぐにやれ!! 忙しいにしても、のび太対策のためにポケットの中にしまうぐらいしろ!! それはともかく、のび太のいつもの「どんな道具かもどんなことが起こるかも深く考えずに持ち出し症」が発症。小包の中にあた説明書には、次のように書かれていた。

・本品は人工細胞の増殖により、人間そっくりのロボットとなります。

・竹の幹にカプセルを埋めてください。一日で体が完成します。

・竹から取り出すと人間並みの大きさとなり、かわいい女の子となります。

 この説明書きで気になるのは、「人工細胞」というところ。金属ではなく細胞でできているとしたら、それは「ロボット」というよりも、「人造人間」または「アンドロイド」というのではないだろうか? ロボットと人造人間は違うのかという人もいるかもしれないし、二つを同じものとする辞典もある。しかし、SFや特撮に特別な思い入れをもっている人にとっては、この二つは大きく違うものだ。ロボットというのが無機質な感じをうける機械ならば、人造人間は人工物でありながら生命やみずからの感情をもつものと言える。人造人間として代表的なのは、なんといってもフランケンシュタインの怪物だ。死体からつくられたこの人造人間は、世間一般ではその怪奇性、恐怖性のみが強調されているが、本来は狂暴な怪物ではなく、ゲーテの作品を愛する知的で穏やかなものだった。しかし、彼を作り出した大学生、フランケンシュタイン(「フランケンシュタイン」という名前はこの大学生の名前で、怪物には名前はない。)は、筋肉や血液が透けて見えるこの怪物をみずから作り出しておきながらその姿に恐怖し、彼を殺さなかった。これが、怪物が醜い姿のまま生きていかなければならなくなった悲劇の始まりで、彼は共に孤独をいやせることのできる女の怪物を欲しがったが、大学生はそれすらも拒んだ。身勝手な作り主のために絶望のどん底に立たされた怪物は、大学生への復讐を決意。彼の弟や恋人を殺し、ついには海外へと逃亡した大学生まで殺し、みずからも北極の海へと姿を消したのだった…。フランケンシュタインの怪物はそんな悲劇の人造人間であったが、かぐやロボットにも同じような悲劇がこれから待ちうけるのだ。「かわいい女の子! つくろう!!」と何の考えもなさそうに叫ぶのび太の姿は、錬金術の興味だけで怪物を作り出してしまったフランケンシュタインと酷似している。

 カプセルを裏山の竹薮に埋め込んだのび太は、翌日早速裏山へ。そこで光る竹を見つけたのび太はそれを家に持ちかえり、開けてみる。すると中から、女の子そっくりのかぐやロボットが現れた。しずかちゃんから服を半ば強奪したのび太はそれを着せて、なんとみんなに見せびらかせ始める。そんな目的で一つの生命を作り出したのか!? 最低の男である。だが、生まれたばかりのかぐやロボットはほとんど何もわからない。どんな事にもハイと返事をしてしまうし、ちょっと目を離すとどこかへと行ってしまう。蝶を追いかけてどこかへと行ってしまったかぐやを探していたのび太が見たものは、なぜかかぐやにただならぬ興味を示す紳士がかぐやとともにいるところだった。「変なおじさんにも気をつけるんだよ」と、かぐやを連れ帰るのび太。しかし、ママにも見つかりそうになり、ついにはドラえもんにも見つかってしまう。かぐやロボットを勝手に作ってしまったのび太に対し、ドラえもんは容赦なく糾弾を加える。以下、彼らのやりとり。

ド「また勝手なことしたな!! 軽はずみに作っちゃって、ロボットといっても人間と
  変わらないんだぞ!!この先どうするつもりなんだ。」

の「ど、どうするって・・・、も、もちろん大事に育てるさ。」

ド「ほ〜! 育てる!? ママに隠れて押入に閉じこめてか!? ごはんはどうする!?
  おやつは!? こづかいは!?」

の「そんなにいっぺんに言われても・・・いじわる!!」

ド「無責任!!」

 取っ組み合う二人・・・

 ドラえもんのセリフは、軽はずみに生命を作り出すことがいかに無責任であり、身勝手なことであるかをストレートに突いてくる。無責任に生命をつくりだすことは無慈悲に生命を奪うのと同じくらい悪であるということを痛切に感じられる。しかし、いくら彼らがいがみ合ってもすでに生まれてしまった生命を奪うことなどできない。寂しそうに満月を眺めるかぐや・・・。と、野比家の前に一台の高級車が止まった。車から降りてきたのは、昼間かぐやに話しかけていた老紳士で、月形と名乗った。彼がかぐやを見て驚いたのは、彼女が月形が15年前に亡くした娘に生き写しだったからなのだ。どうやってかは知らないが野比家の場所を知った彼は、ロボットでもかまわないので、ぜひ養女として迎え入れ、大切に育てていきたいと頼み込むのだった。こうして彼女は、月形氏の養女となったのである。

 だが・・・この話はハッピーエンドといって片づけてしまうにはあまりにも深い。かぐやは作り主の興味だけで生まれ、それ以外にほとんど存在意義がなかったという点では、フランケンシュタインの怪物と同じだった。彼女と怪物との違いは、彼女は美しく、幸運だったということだ。一歩間違えば、かぐやも絶望の底へ落とされ、怪物と同じ運命を歩むことになったかもしれない。1987年に放送された特撮番組、「超人機メタルダー」の主人公、メタルダーは第1話のラスト、夕日に向かって「なぜこの世に生まれたのだ!!」と絶望的に叫んでいた。彼は太平洋戦争中、日本軍の最終兵器として古賀博士に作られた戦闘用アンドロイドである彼は、終戦後博士によって封印され、永い眠りについていた。しかし、世界征服を企む悪の組織、ネロス帝国が現れたため古賀博士により眠りから覚める。しかし博士は、生まれたばかりで何も知らない彼に、彼が戦うべき「悪」とは何かを教えるため、自らネロス帝国の軍団員に殺された。自らが何のために生まれたのかわからず、敵の軍団長に敗れて崖下からはい上がったあとのセリフが、「なぜこの世に生まれたのだ!!」だった。彼のような孤独な人造人間は、石ノ森章太郎先生の作品によく見られる。不完全な良心回路を埋め込まれているため、善悪の狭間で苦しむ人造人間キカイダー、ビジンダー。人間の心の複雑さを理解できずに悩むロボット刑事K。かぐやは彼らのようにその孤独を見せるようなことはしていなかったが、その内には孤独を抱え、それを見せまいとしていたのだろうか? それとも、はじめからそのようなものはなかったのか? いずれにせよ、人造人間とは悲しい存在である。興味本位で開けてはならない扉を開けてしまうという人類の悪癖は、未来になってもなおることはないようだ。

No.58 なんでも空港


 屋根から紙飛行機を投げて遊ぶのび太とドラえもん。しかし、紙飛行機が道路に散らばり、迷惑をかけてしまう。かといって部屋の中で飛ばしても面白くない。そこでドラえもんは「なんでも空港」を取り出す。これはゴルフのパッティング練習用のマットのような形状の道具で、広げるとその滑走路上に近くを飛んでいるものなら何でも降りてくる、という道具である。これを庭に設置しておくと、どんな方向に紙飛行機を飛ばしてもかならず空港に降りてくるのだ。思う存分紙飛行機を楽しむ二人。そのうち、トンボや風船、風に飛ばされた洗濯物も降りてくる。と、そこへしずかちゃんが空の鳥かごをもって走ってくる。やな予感・・・。案の定、またカナリヤを逃がしたらしい。あんた、ペットの管理はもっとちゃんとしてもらわなければ困る! 二人は空港を使ってカナリヤを捕まえようと考え、しずかちゃんともに裏山へとやってくる。そこでカナリヤを見つけた二人が空港を広げると、カナリヤが降りてくる。その後、色とりどりの蝶が降りてくるが、その直後、ラジコン飛行機が降りてくる。ジャイアンが操縦していたスネ夫のラジコン飛行機が勝手に降りてきたのだ。ラジコンを追ってやって来た二人は、空港の存在を知ると空港ごっこをやりたいから貸して欲しいと頼み、ドラえもんから空港を借りる。しかし、それはウソ。スネ夫の真の目的は、空港を使って昆虫採集をすることだった。しかし、それならなぜ嘘をつく必要があったのか? 昆虫採集は悪い事じゃないし、昆虫採集をしたいといってもドラえもんは問題なく貸してくれたはずだ。ひょっとしてスネ夫は、しょっちゅうウソをついているため、どんなことにもウソをつかなければいられない体質になってしまっているのかもしれない。だとしたら大変だ。

 まあそれはともかく、二人が空港を広げているとさっそく何かが飛んでくる。が、降りてきたのはなんと、犬が苦手なことで有名な、頭に毛が3本生えているオバケだった。「オバケなんかに用はないんだ」と、せっかく登場してくれた他作品の主人公にずいぶんな事を言うジャイアンとスネ夫。よくこいつを見て一目で「オバケ」とわかったもんだ。しかしオバケも、「降りたくて降りたんじゃないぞ」と怒り、「そんなもの広げているから悪いんだ」と憮然とした様子で去っていく。その後も二人は空港を広げるが、降りてくるのはほうきに乗った怪物ランドのプリンスだったり、壺に乗ったウメ星の王子だったり、超能力女子中学生だったりと、どこかで見たような奴ばかり。昆虫なんかよりずっと面白いものがやってくると思うが、二人は「日本の空にはへんなのが飛んでるんだなあ」とあきれ顔。と、なにやら轟音が聞こえてくる。二人が空を見上げると、なんとジャンボジェットがこちらに向かって高度を下げて来るではないか!! 血相を変えて逃げ出す二人だが、なぜか空港を持ったまま走る。ジャンボジェットに追いかけられる二人を見たドラえもんとのび太は、「はやく空港をたたむんだ」と叫ぶのだった。

 文字通り、「なんでも」降ろしてしまうところが、この道具の危ないところだ。市街地で使ったら、市街地にジャンボジェットが着陸するという前代未聞の事故が起こり、大きな被害を起こすだろう。だがこの話では、この道具のインパクトよりも、なぜかのび太の街の近くを飛んでいたと思われる「へんなの」達のインパクトが断然強い。スーパーマンの見習い少年少女達は降りてこないのかと思う人がいるかもしれないが、「ドラえもん」は彼らの活躍から10年後の話と言われているため、それはないだろう。ただ、次に挙げるようなものが降りてくる可能性は十分にあるので、注意したい。

・M78星雲からやって来た光の巨人。

・南の島から小美人とともにやってきた巨大な蛾の怪獣。

・艦首にドリルのついた空飛ぶ海底軍艦。

・「セイリングジャンプ」で空を飛ぶバッタの改造人間。

・旧陸軍の開発した鋼鉄人間の試作28号機。

・「空にそびえる鉄の城」こと、元祖スーパーロボット。

・悪魔の力を身につけた正義の戦士。

・クワガタ型メカにつかまって空を飛ぶ古代の戦士。

 などなど。挙げていくときりがないが、ようするに日本の空には異常なほど多くの「へんなの」が飛んでいるということだ。ジャンボジェットが降りてくるかもしれないという恐怖はあるが、私の中ではそれよりもそんな連中に会ってみたいという願望のほうが強い。無理矢理降りてこさせられるヒーローや怪獣、ロボットパイロット達にとってはけっこう迷惑かもしれないが。

No.59 だるま落としハンマー


 この話のタイトルは「スネ夫のおしりが行方不明」。意味不明さと得体の知れないおもしろさが混在するタイトルだが、なぜそうなのかは後ほど。

 しずかちゃんがボールを空き地に木にひっかけてしまった。スネ夫に頼むが、いつもの5人の中で一番背の低い彼に届くはずもない。そこにのび太とともにやってきたドラえもんは、「だるま落としハンマー」を取り出す。ハンマーというより小槌のような道具で、之で何かの真ん中をたたくと、だるま落としのようにその部分がはじき出されるというもの。ドラえもんはこれを使って木の幹を叩き、どんどん背を低くする。十分低くなり、しずかちゃんはボールをとることができた。「でも木がかわいそう」というしずかちゃんだが、心配ご無用。はじき出された部分をもとの場所にあてがえば、カパッともとに戻るのだ。それを見たスネ夫は、ハンマーを手にもつといきなりドラえもんのお腹を叩く。そして、はじき出されて転がるお腹を追いかけるドラ、のび、しずをしりめにどこかへと行ってしまった。「そのままのほうがかわいいんじゃない?」と、ドラえもんのお腹をもちながら、さらにずんどうになった彼をいたずらっぽい目でからかうのび太。たしかにそう思うが、ドラえもん自身は「じょうだんじゃない!!」と猛反発、のび太はお腹を返してあげるのだった。

 一方スネ夫は、日頃チビチビと言われバカにされて恨み重なるジャイアンの背後から近寄り、ハンマーで彼のお腹からおしりまでをはじき飛ばしてしまった。胴体と足だけになり、スネ夫より背の低いジャイアン。「このやろう!!」と叫ぶが、スネ夫に簡単に足蹴にされる。「お前チビだな」とジャイアンの頭を触りながら優越感に浸るスネ夫。二度とスネ夫をいじめないと約束させたうえでパーツを返してあげるが、ジャイアニズムの教祖はそんな約束を守るほど甘くはなかった。スネ夫の隙をついてハンマーを取り上げ、彼のおしりを「ポコ!!」とはじき飛ばしたのだ。形勢は逆転し、ジャイアンに二度と逆らわないと誓わされてしまう。そんなことを誓わせたジャイアンは、さて、スネ夫のおしりを返してやろうとするが・・・なんと、あまりに勢いよく叩いてしまったため、おしりがどこかへ飛んでいってしまったのだ!!

 あわてておしりを探す二人。しずかちゃんに聞くと、子供がころがして遊んでいたとのこと。「人のおしりで遊ぶな!!」と変なセリフをいいながらその子の元へと向かうが、おしりはすでに野良犬にくわえられ、裏山へと持ち去られた後だった。二人は裏山を捜すが、あまりに広いため見つからない。そのとき、スネ夫が突然笑い出す。誰かがしりをなめ回しているのだ。と思ったら、今度はかみつかれたような痛みが走る。犬がハムか何かと間違えて食べようとしているのだ。このままでは、スネ夫のおしりが食べられてしまう。困った二人はドラえもんに頼み込む。そこでドラえもんが考えたおしり発見法は、すでにこのページでも紹介した「音楽イモ」を使うものだった。「この「音楽イモ」を食べてメロディーガス出すんだ」 まだ「メロディーガス」なんて言ってやがる。どんな言い回しを使ってもおならはおならなんだから、くだらない婉曲はやめた方がいい。毎度毎度、この人の考える道具発見法は問題がある。悪運ダイヤ発見法よりはまだましだが、おならの力に頼らずともなんとかならなかったのか、と思ってしまう。しかし、一秒でも早くおしりを取り戻したいスネ夫にそんなことを考えている余裕はなかった。必死でイモを食べると、早くも向こうの方から「プ」と音が。そちらに行ってみたドラえもんとジャイアンはスネ夫のおしりを発見するのだった。こうしてスネ夫は無事おしりを取り戻すことができたが、音楽イモのガスが切れていないので、際限なくおならがでてしまうのだった。

 この道具、使い方さえ間違えなければ役に立つのは他の道具と同じだ。例えば、ビル火災の場合。ビルの下の方をポコポコとはじき飛ばしていけば、上の階に取り残された人を救助するのも楽だろうし、はしご車がなくても火を消すことができる。だが、こんな風に人間のお腹やらおしりやらをはじき飛ばすからややこしいことになるのである。どんなにいい道具でも、使う奴が阿呆では役に立たない。こんな当たり前のことを認識させてくれる道具である。

No.60 腹話ロボット


 腹話術の人形のようなロボット。だが、これを使っていっこく堂のようにすばらしい腹話術を披露することができるわけではない。

 今回の冒頭、のび太は「口べた」であるためにジャイアンに殴られ、ママを怒らせてしまう。劇中では「口べた」といっているが、こういうのは口べたというよりも、お世辞をつくのが下手、というのではなかろうか。それはともかく、のび太は口がうまくなる道具を出してほしいとドラえもんに頼む。「口先だけでどんなうまいこと言っても、ごまかしにすぎない」となかなか立派なことをいうドラえもんだったが、スネ夫みたいに要領よくやりたいとのび太にしつこく頼まれ、しぶしぶこのロボットを取り出す。腹話術の人形というものは口をパクパクさせるだけで、人間が口を動かさずにしゃべるものだというのは周知の通り。これはその逆で、肩にこの人形を乗せるだけで、人形が人間の口を動かし、その人の声でうまいことを、いかにももっともらしくしゃべるのである。

 のび太が人形を肩に乗せると、早速ママが草むしりを命じに来た。以下、ママに対してのび太が言った「うまいこと」。

の「ワーイ、草むしりうれしいな。あれをするとすっきり美人になるんだよね。」

マ「美人?」

の「腰をかがめるでしょ。ウエストをひきしめる運動になるんだよ。草の葉緑素が指か
  ら吸収されて肌がきれいになるしね。」

マ「いいわ、ママがやります。」

 どこが「うまいこと」なんだ? 葉緑素が吸収されるって、んなバカな! どうやらこのロボットには催眠術のようなものをかける機能もあるらしく、それでこんないい加減な事を言っても相手はだまされるのだろう。さて、調子に乗ったのび太は続いて「お年玉が年に一回というのは誰が決めたのでしょうか。現代人は古い習わしにとらわれることなく毎年お年玉を。」と、さらにいいかげんなことをいってママからお小遣いをもらってしまう。ドラえもんはロボットを止めるとごまかしもばれると注意するが、のび太はすっとこのままにしておくと平気な顔。そうして町へとでていくと、今度は先生に出くわす。相変わらず時代遅れの成績至上主義を振りかざし、のび太の成績の悪さを注意する先生だったが、途端に腹話ロボットが動き出す。

 「僕には自分さえ成績が上がればという考え方がどうしてもできないんです。仮に・・・頭のいい子ばかりのクラスがあったとして、そのクラス全員が必死に勉強してもテストをすれば、(涙を浮かべて)必ず順番がついて誰かがビリになる!! だから・・・だから僕が犠牲になって0点を・・・。世の中にこんなバカが一人ぐらいいてもいいんじゃないでしょうか。」

 う〜ん、なんだかわかるようなわからないような変な理屈である。だが、先生は君がそんなに優しい子だったとは知らなかった、これからも頑張って0点をとりなさいなどとのたまう始末。すごい効果だ。さて、次に出くわしたのはリサイタルのチケットをばらまいて回るジャイアン。「欠席した者はぶんなぐる」という表記に、ありがたすぎて涙が出る。「あんなおそろしい歌をたっぷりと!?」と震えるドラえもんだったが、のび太はごまかしてやめさせると平気な顔。そして、リサイタルはお風呂にはいっているしずかちゃんを除いて全員集まったので開幕。以下、のび太がどうごまかしたか。

の「(ジャイアンの歌を聴いて)ひどい歌だなあ」

ジ「(静まり返る場内。怒りに震えながら)今、なんて言った」

の「はっきり言ってがっかりしたなあ」
ジ「ナ、ナ、ナニナニ・・・」

の「ジャイアンの歌はこんなもんじゃないはずだよ。おかしい! ひょっとして、のどを痛めてるんじゃない?」

ジ「そういえば・・・夕べめざしを食った時、小骨をのどに・・・」

の「やっぱり!! 無理しちゃだめじゃないか。将来の大歌手が、もっとのどを大事に
  してくれなくちゃ。」

ジ「(のび太の手をガッシととり、涙を流しながら)心の友よ!! 君だけだ。こんな
  にも気遣ってくれるのは。君の言うとおり、のどが直るまでリサイタルをのばそう」

 これはなかなかいいごまかしである。ジャイアンは単純だから、こんな事を言えば簡単にだまされてくれる。さて、ジャイアンリサイタルを中止させたのび太は、しずかちゃんにそれを知らせるためにどこでもドアを使う。だが、先ほど言ったようにしずかちゃんは入浴中。風呂場にでてきてまたしずかちゃんに怒られるが、そのいいわけにこんなことを言い始める。

の「ま、まあきいてよ!! もともと人間は裸だったんだよ。アダムとイブを見てごらん。
  それがなぜ服を着るようになったか。神のいいつけに背いて禁断の木の実を食べた
  からだ。神様の言うとおりにしていれば、人間は今でも楽園で楽しく暮らしてたはずな
  んだ。裸のまんまで。」

し「じゃ・・・裸でいるほうが正しいの」

の「そ〜なんだよ!! (ここでなぜか背景がボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」
  になり)世界の美術館を見たまえ。裸の絵や彫刻でいっぱいじゃないか。なぜか? そ
  れは美しいからだ。裸こそ永遠の美のテーマなのであります!!」

し「(ザバッと湯船から立ち上がり)そうか! じゃあ恥ずかしがるほうが間違いなの
  ね。」

の「(うろたえながら)そ、そう・・・」

し「(湯船から出てきて)服なんか着なくていいのね!」

の「(どういったらいいのかわからず)それは・・・」

し「(どこでもドアから出ていこうとしながら)遊びにいきましょ」

の「(パニクり)極端すぎるよっ。」

し「のび太さんもそう言ったでしょ」

の「(腹話ロボット、のび太の口をこじ開けて)そうとも、そのまま町中を駆け回ろう!!」

 聖書の話や美術論など、普段ののび太からは決して出てこない言葉が出てきたこの直後、しずかが裸のまま空き地へと飛び出し、偶然そこにいたドラえもんは大慌て、あわててのび太は腹話ロボットを地にたたきつける・・・と、またもカオスの世界が繰り広げられる。腹話ロボットが壊れたことで魔法も解けたのか、ハッと正気を取り戻したしずかは「キャー!!」と黄色い悲鳴を上げて風呂場へと逃げ帰る。そしてその後、のび太はこれまでごまかした相手に追い回され、土管の陰に隠れなければならなくなるのである。ママなどすごい形相をして鎌を手に持っている。ああおそろしや。

よくわからない理屈を振り回し、しずかちゃんにストリーキングまでやらせたおそるべき道具、腹話ロボット。いったいこれは、なんの役に立つのだろう。詐欺師が携帯していそうだが、とてもまともな目的での使用は考えられない。やっぱりドラえもんの言うとおり、口先だけでどんなうまいことを言ってもごまかしにすぎないんだなあ。

 以上3品、すべててんコミ32巻より出典。どれも爆笑必至の話なので、読んでみて絶対に損はありません!

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