No.6 ドロボウホイホイ


 泥棒を捕まえるための道具で、掘っ建て小屋ぐらいの大きさがある。紙製(?)の家のような形状。ゴキブリホイホイの大型版と考えてよい。ところがこの道具、普段は正式名称の「ドロボウホイホイ」ではなく、別の通り名で呼ばれている。その通り名とは、「人喰いハウス」というおそろしいものなのだ。

 のび太はゆっくりと昼寝ができる自由な場所が欲しいと思っていた。そんなことを思いながら部屋にはいると、何かにつまづいた。足下を見ると、そこには組立式の家が。ドラえもんは不在だったが、「ドラえもんは僕のことちゃんと考えてるんだなぁ」と独り合点してそれを持ち出し、空き地に設置、しずかちゃんを呼びに行った。のび太が家を空き地に設置したころ、家に帰ってきたドラえもんは「ドロボウホイホイ」がなくなっていることに気づき、それを持ち出したと思われるのび太を大慌てで探しに出かけた。同じ頃、誰もいなくなった空き地に、のび太をつけてきたジャイアンとスネ夫が現れた。まずジャイアンが中に入る。しかし、入ったきり出てこない。不安になったスネ夫も中にはいるが、やはり出てこず、空き地は静寂に包まれた。一方のび太はしずかちゃんの家に着き、彼女を家にこないかと誘っていた。そして彼女は家と聞いて、先日見た人を食べる家のホラー映画の話を始めた。急に不安になったのび太は、その話を詳しく聞くことにした。一方そのころ空き地では、家を見て誰かが越してきたと思った牛乳屋が勧誘をしようと家に近づいた。しかし彼は、まるで引き寄せられるかのようにフラフラと家の中に入ってしまう。その次にやって来たのは新聞屋だったが、彼も同じように入ってしまう。次にやってきたのは家の中に飛び込んだボールを探しに来た草野球チームだった。そして彼らもまた同じように・・・。一方しずかちゃんの話を聞き終わったのび太は空き地へダッシュ、その途中でドラえもんと出会った。そしてドラえもんがその家を解体してみると・・・そこにはトリモチ地獄絵図が広がっていた。中に入った人々は、まるでゴキブリホイホイに捕まったゴキブリのように、トリモチで動けなくなっていたのである。

 このように、効果のほどはすさまじい。しかし、捕獲する対象は泥棒に限らずほぼ無差別なのだ。看板に偽りあり、である。この家は近寄る者を入ってみたくてしょうがない気分にさせ、入ってきたところをトリモチで動けなくしてしまうという食虫植物のような道具なのだ。いったいこんな道具がなんの役に立つというのだろう。偶然捕らえた人間の中に泥棒がいればよいが、たいていは無差別に人を飲み込み、市民に恐怖を与えるばかりだ。第一、すぐそれとわかる形状のこの家を見つけてノコノコ近寄るようなバカな泥棒はいない。この道具が効果を発揮するのは売り出されてからすぐの間だけで、流通すればするほど役立たずになるのである。なんなんだか。

 この道具の存在自体も謎だが、こんなものを持っていて、しかも出しっぱなしにしておいたドラえもんも相当謎だ。ドラえもん不在→のび太が持ち出す→悪夢というパターンは多い。中には「人間製造器」の時のように、人類滅亡の危機を招いたことすらある。もっとちゃんと道具を管理して欲しい。ドラえもんとのび太にはイエローカード、特に目の前の道具が何であるかも、使用すればどんな結果を招くかも知らずにホイホイと道具を持ち出して使用するのび太には2枚を渡して、この道具の紹介を終えるとする。

No.7 誘導ミサイル


またしても兵器である。いったいいくつ兵器を持ってるんだか、この子守ロボットは。この誘導ミサイルはICBMのような大型のものではなく、ペットボトルくらいの大きさで細長く、先端にカメラがついている。このカメラに標的を映して覚えさせたあとで発射されたミサイルは、黒い煙をひきながらひょうろひょろと頼りない飛びかたで標的を目指す。しかし、バカにしてはいけない。このミサイルは恐ろしいくらいの執念深さでターゲットを追い続け、疲れたところにとどめをさす、というオオカミのような力を見せるのだ。劇中、悪事を重ねる野良猫に対して使用されたこのミサイルは、やはりこの方法で野良猫に命中し、黒こげにしている。ターゲットを殺すほどの力はさすがにないが、それでも恐ろしい。劇中「誰でもいいから撃ってみたい」と危険な言葉を口にしてミサイルを発射しようとするのび太に対し、ドラえもんは「そんな乱暴な目的には貸せない」と止めに入った。だったらどんな目的に使えばいいと言うのか。いくら悪いネコとはいえ、ネコ相手にミサイルというのもどうかと思う。さらに、劇中のび太はジャイアンに向けてこのミサイルを発射していた。結局命中せずじまいだったが(なぜそうなったかは第12巻を見て欲しい)、仮に命中したとしてもその後には必ずジャイアンの仕返しが待っている。そしてその仕返しにまたミサイルを・・・という不毛な戦いが続く。最終的には仕返しをするたびにしつこいミサイルに追いかけられるジャイアンの方が音をあげるかもしれないが、これが核ミサイルだったら、双方共倒れになる。それがわかっているからこそ、今日まで世界はあいかわらず「恐怖の均衡」のうえに成り立っているのである。結局、これも愚かな道具にすぎない。

No.8 諜報道具の数々


 第28巻の「大ピンチ! スネ夫の答案」には、スパイ用装備としか思えない道具が数々登場した。のび太とジャイアンはこれを使って、隠されたスネ夫の答案を探し出そうとしていた。最初に使用したのが、「ペーパーレーダー」。見かけも使い方も地雷探知機にそっくりだが、地雷ではなく紙に反応する。重要書類が風で散らばって行方不明になったときに使うらしい。のび太とジャイアンはこれを使って裏山を捜索したが、そこらじゅうに紙屑が捨ててあったために役に立たなかった。なんのための機械なんだか。

その後、ジャイアンが答案のありかを暗号で記したメモを見つけた。実はスネ夫はこの答案を見つけて欲しく、わざと見つかるようにこの暗号を残したのだが、その辺の事情はここでは省く。書いてある文字を二つずつとばしながら読めばいいという簡単なものだったが、頭の回転の悪いこの二人にはこの程度の暗号もわからない。そこでドラえもんに頼んで出してもらったのが、「22世紀FBIが開発した」という暗号解読器だった。なんでそんなものをもっていたのだろう。これを使って暗号を解き、答案のありかが裏山の千年杉の下だということを知った二人は早速そこへ向かうが、先ほどからの二人の行動をあやしく思って後を付けていたドラえもんに、「スネ夫が必死になってかくしてる秘密を暴くなんて、それでも友達か!!」となじられる。と、そこへテストの結果を知りたがるママを連れて、スネ夫がやってくるのが見えた。それを見た三人は大慌てでなんとかしようとする。実はスネ夫の答案は百点だったのだが、それをひどく悪いものだと勘違いしていた三人は、それをママに見られたらスネ夫が怒られると思ったのだ。三人は答案の抹消を決断し、ドラえもんは「秘密書類やきすて銃」を出した。スパイに奪われた秘密書類を遠くから焼き捨てることができるらしい。おそらくこれも、22世紀FBIが開発したものなのだろう。またしてもなんで・・・という感じだ。ところが、銃から発射された光線は答案はおろか、千年杉の根元をスネ夫と彼のママごと吹き飛ばすという恐ろしい威力を見せた。どうやら名前通りに書類だけを処分するものではないらしい。考えてみれば、どうせ書類を始末するのならそれを奪って持っているスパイも一緒に始末してしまおうというふうに考える方が自然だ。この道具は書類をその周囲もろとも蒸発させてしまうのだろう。なんという危ない道具を使うのか、この子守ロボットは! 百点の答案を失ってしまったスネ夫には気の毒だが、答案と一緒に消されなかっただけラッキーと思ってもらうしかない。

 それにしても気になるのは、兵器だけでなくジェームス・ボンドが持つようなスパイ道具を持っているドラえもんだ。もはやジャムおじさんや立花のおやっさんより胡散臭い。彼の謎は深まるばかりである。

No.9 味のもとのもと


 一見普通の合成調味料。しかし料理にかけるとあら不思議、どんなにまずい料理もおいしくなるというスグレモノ。以前持っていた大図鑑では、視覚、味覚、嗅覚と、食事を味わうのに使われる全ての感覚に訴えかける、と書かれていた記憶がある。これが本当なら、実際にこの調味料をかけた料理がうまくなるわけではなく、あくまでそう感じるだけ、ということになる。劇中ではジャイアンの食事会に呼ばれたときに使用された。彼が作る料理というのが下手をすれば唄よりもひどいという代物なのだ。なにしろ彼が「ジャイアンシチュー」と名付けたその料理は、ひき肉、たくあん、塩辛、ジャム、にぼし、大福、その他いろいろ・・・と信じがたい材料を用いた、まるでバラエティー番組で芸人が罰ゲームとして食べさせられるような料理だったのだ。さらに、「恐怖のディナーショー」という別の話では、さらにセミのぬけがらが味を整えるのに使用されていた。セミのぬけがらなどになんの期待をしていたのだろう? ジャイアンは自分で味見してみたんだろうか? 味見したうえでこの料理を客に出したとすれば、彼は聴覚だけでなく味覚にも異常があるのだろう。頼むから病院に行ってくれ。事実、「恐怖のディナーショー」ではディナーショー開催前にジャイアンは味見をし、「ひっくりかえって」ショーが中止になっていた。しかし、味見などする以前ににおいで食べればどうなるかわかるはずだろう。やはりどうかしてる。

 のび太はこの「スゴイ」(スネ夫談)料理に味のもとのもとをかけ、見事完食、おかわりまでした。本当にスゴイ効果だが、前にも言ったとおり料理そのものは変わらないのだから、あまり毒を食べるようなまねをしないほうがいい。さて、おかわりをもらったのび太はやはり味のもとのもとを料理にかけた。しかしそこをジャイアンに見られ、見せろと迫るジャイアンともみあいになる。そのとき、味のもとのもとを入れたケースのフタがはずれ、中身がバサッと全部ジャイアンにかかってしまった。その途端、おそろしいことが起こる。「うまそう」「一口でいいから食べさせて」と、のび太、スネ夫、しずかが手にナイフとフォークを持ち、よだれをたらし舌なめずりをしながらジャイアンに襲いかかる! 「助けてくれえ!」と顔色を変えて叫ぶジャイアン! またもカオスの世界!!

どうやらこれをかけられたものは、例えそれが食べ物でなくても(ジャイアンは食べようと思えば食べられなくもないが)、それを見た人間に「食べたい」という激烈な衝動を引き起こすらしい。困ったものだ。イスや便器とかにかけても、たまらずかじりついてしまうだろう。間違って自分の手などにかけてしまったら大変だ。すぐに洗い流さないと、自分や周りの人たちがおいしそうに手を食いちぎるというこわいことになりかねない。これが出回り始めたころは、「楽しい食卓が一転 血の惨事に!」などという見出しが週刊誌やワイドショーをにぎわせただろう。しかし、人間の食にかける情熱はすさまじい。そんな騒動が少し続いたが、結局は人の食欲が勝ち、この調味料はどこの家庭の調味料入れにも並ぶようになったのだろう。「決して食べ物でないものにかけないでください」という、一見いうまでもない注意書きをつけて・・・。

No.10 音速字ェット機


 これは道具の名前ではない。「コエカタマリン」という道具の使い方としてのび太が考え出したものである。コエカタマリンというのは。飲んで大声を出すとその言葉が口から固まりとして出される、という薬である。これを飲んで「ワッ」とか「アー」とか言うと、 「ワッ」や「アー」という文字が立体の固まりで出てくるのである。原作でも何回か登場し、けっこう知名度のある道具である。固まりとなった声が散らばるだけで一見使い道がなさそうに見えるが、これがなかなか役に立つ。そんな道具の使い方の一つとしてのび太が考え出したのが、「音速字ェット機」である。

 のび太は寝坊してもすぐに学校に行ける方法を考えていた。劇中作者のコメントにもあるとおり、「「どうしたらねぼうしないか」とは夢にも考えない。こまったものだ」。その時そばに転がっていた「コエカタマリン」を見て、のび太はひらめいた。「声というのはつまり音だ。音は1秒間に空気中を三百・・・何十メートルだったか走るんだ。もし声のかたまりに乗れたら・・・」あっという間に学校へ行けるはずだ。のび太にしてはすばらしい発想だ。この方法の実用案を試行錯誤したのび太は、壁に向かって「ワ」と叫び、跳ね返ってきた「ワ」の字につかまって空を飛ぶ、という飛行法を完成させた。「ワ」の字を選んだのは、跳ね返ってきたときつかまりやすいからである。まことにすばらしいと思う。しかし、一見すばらしく見えるこの方法には、実は大きな落とし穴があるのである。

 第一に問題となるのは、音の速度だ。第21巻「ひろびろ日本」のなかで、のび太は学校まで15分かかると言っている。人間の歩行速度は時速4km。15分かかるということから考えれば、4kmの4分の1、およそ1kmがのび太の家から学校までの距離である。もっともそれは道路の上を歩いての話だから、空中を飛行するので直線距離はもっと短いはずだ。さて、音速、すなわちマッハ1の速度は秒速331.5+0.6tm。この速さで移動する物体に乗って学校に行こうとすれば、3秒とたたないうちに学校上空を通過してしまう。あっという間だ。劇中では飛行する声の固まりはある程度時間がたつと落っこちていたが、まさか3秒でちょうどよく落っこちるとは思えない。すぐ近くの目的地まで移動するには、あまりに速すぎる移動手段だ。ジャンボジェットで学校まで行くのと同じようなものである。当然、こんなものにしがみつくなどできるわけがない。

 次に問題となるのは、乗り心地の問題。音速で飛ぶ戦闘機のパイロット達は、強いGに襲われることになる。これによって血液が下半身に集まり、脳まで血液が回らなくなり、ブラックアウトになって意識を失ってしまう。これを防ぐため、パイロットは下半身を締め付けるGスーツを必ず着用する。さらに、呼吸も苦しくなるため酸素マスクも必要である。が、のび太は声の固まりに乗る際に、こんな備えなどしていない。これではたちまちブラックアウトであの世行きである。さらに、戦闘機のパイロットは風防に守られているが、「ワ」の字に直接しがみつくのび太にはそんな守りもない。さらに、「ワ」の字は流線型とはほど遠い。のび太には想像を絶する風圧とGが襲いかかり、あっという間に振り落とされる。

 もっとも危ないのが、固まりとなった声の重さである。劇中声の固まりはそれなりの重さをもつものとして描かれており、のび太が大声をジャイアンやスネ夫にぶつけて倒したり、「ヤッホー」という声が登山者の頭にぶつかりケガをしたりしていた。どうやら木か石ぐらいの重さはありそうである。しかし本当に問題なのは、声が音速で移動することだ。当然のことながら、これぐらいの重さをもつ物体が音速でぶつかってきたらとんでもないことになる。マッハ1を時速に直すと、時速約1200km。新幹線の6倍近い速さだ。当然、声をぶつけられたジャイアンやスネ夫は爆裂死である。のび太は壁に声をぶつけて跳ね返ってきたところをつかまっていたが、声をぶつけられた壁など、これでは砕け散る。めちゃくちゃ頑丈な金属の壁にぶつけたとしても、今度は跳ね返ってきた声が自分に襲いかかる。もはや声に乗るなどという問題ではない。のび太にはおとなしく、寝坊しないで済む方法を考えて欲しい。さもなくば、永久に眠ってしまう。

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