No.26 おもちゃの兵隊


 その名の通り、おもちゃの兵隊の姿をした小さなロボット達。スコットランド衛兵の姿をしていて、サーベルを持った指揮官に、4人のライフルを持った兵士が付き従う。この5人の小隊が、ある人間の護衛を務めるのだが、その方法がすさまじい。その外見のかわいさと小ささにごまかされてはいけない。その実体は、羊の皮をかぶったオオカミなのだ。もし護衛対象に危機が迫ると、指揮官がサーベルを振り上げて号令を発し、部下がライフルで一斉射撃を加える。それを食らったものは、文字通り黒コゲになってしまう。しかも、その反応は過敏だ。護衛対象に暴力を振るうものはもちろん、ちょっと怒った者や肩を叩いた者にまで徹底的に攻撃を加える。護衛される本人がやめるようにいっても言うことを聞かず、彼ら自身が本人の敵と思いこんだ者を徹底的に攻撃するのである。しまいには、のび太を守るように指令を出したドラえもんまで真っ黒コゲの機能停止にしてしまう。

 これはいったい、何の役に立つのだろう。政府の要人がSPとして使ったら、相手政府の要人と握手しただけでもその人物を攻撃するかもしれない。円滑な国際関係を維持するためには、まちがってもつかってはならないだろう。どんな目的にしても、めったやたらに攻撃するというその性質がひっかかり、まともに使うことができない。いったいなんなのだろう。

No.27 ねがい星


 世の中にはうまい話などないというのが相場。しかしそうはわかっていても、いざ目の前にうまい話があると飛びつかずにいられないのが人間の哀しいサガでして・・・。

 ドラえもんの道具の中にも、いわゆる「うまい話」というものを実現するような道具がある。最も知られているのはこの「ねがい星」である。この道具、星に願いをというわけで、この星に願いをするとなんでも願いがかなうというのだから、こんなにうまい話があるだろうか。しかし、この道具をドラえもんは道具の整理の時に、「さすと雨が降る傘」「けんかグローブ」といっしょに捨てようとしていた。理由は簡単。うまい話というものは、しつこいようだがあるわけがないのである。この星、勘違いばかりするのだ。

 ジャイアンが「たい焼きを出せ」というと、タイヤと木を出す。スネ夫が「香水を出せ」と言うと家の中に洪水を起こし、「のび太の部屋にあめを降らせろ」というと、実際にはのび太の部屋に飴が降って二人は大喜び・・・。こんな調子なのだ。とてもじゃないが、使い物にはならない。いったいこの道具はなんのためにあるのだろうか。「独裁スイッチ」のように、人間の傲慢さを戒めるためにあるのだろうか。それならそれで、結構な話ではあるが。そもそも自由に願いを叶える道具なら、ついた嘘が全て本当になる「ソノウソホント」「ウソツ機」や、これから起こることを自由に設定できる「予定メモ帳」「あらかじめ日記」が存在する。こんなものがあれば、ねがい星など不要だ。やはり、安易でよくないな。ドラえもんの必要性そのものをおびやかしかねないし。

No.28 正直太郎


 人間正直でいるのが一番だと人は言う。現に「金の斧 銀の斧」のように、正直でいればいいことがあるという童話もある。「嘘をつくとえんま様に舌を抜かれる」という言い伝えを本当に信じて、私は小学2年生まで一度も嘘をついたことがなかった。ところがいざ大人の世界をのぞくと、そこは嘘と欺瞞であふれた世界。正直の美徳など全く失われているし、「正直者はばかを見る」というとんでもない言葉まである。ここは一つ、今一度正直の美徳を世に復活させよう。一人の科学者がそう思った。こんなところが、この「正直太郎」の誕生の経緯なのではないだろうか。

 「正直太郎」は、わかりやすく言えば腹話術の人形である。それも、我々が腹話術をする必要はない。持てばこの人形が勝手にしゃべってしまうのだ。それも、我々が心の中で思っていることを洗いざらい、包み隠さずその名の通り正直に答えてしまうのだ。これは迷惑である。なにしろ悪口や極秘情報までべらべらとしゃべってしまうのだから。不祥事を隠している県警幹部などに持たせれば大活躍をしそうだが、それ以外にはこれといった利点がないばかりか、あまりの正直さで人間関係に不和をもたらす。劇中では内気でなかなか女性に告白できない玉夫おじさんに使わせ、見事成功させた。しかしこれを渡す以前にのび太が持ったことで、いろいろな騒動を巻き起こした。正直は得か否か。永遠のテーマである。そんなことについて悩む我々をあざけるように、この手のやたら正直になってしまう(またはそれと同じ効果を得る)道具は「ジャストホンネ」や「てれぱシイ」などいろいろあるのだから、未来科学はわからない。特に「ジャストホンネ」など、飲めば「一日一錠で世界一の正直者になれる」というのだから恐ろしい。世界一の正直者というのがどんな存在なのかはわからないが、人によっては正直すぎて命を落とすかもしれない。ほどほどであれというのが、情けないがこの世のあらゆることに共通する真理らしい。

No.29 あらかじめ日記


 見た目はただの日記帳だが、書き方がちょっと変わっている。一日の終わりにではなく、一日の始まりに書くのだ。つまり、この日記帳にかいたことがすべて実際に起こるのである。これはスゴイ。ねがい星やのぞみ実現機など問題にならない。それも、「空から飴が降ってくる」などというちょっとありそうもないことも、飛行機の貨物室のドアが壊れ、積み荷のキャンディーが空から降ってくる、なんて形でかなえてしまうのだ。当然こんなことまで実現可能なのだから、「ジャイアンに殴られ、しずかちゃんに首を絞められ、ライオンに食べられる」なんていかにもありそうなことなど簡単に実現してしまう。スネ夫がのび太の日記にこう書いてしまったため、あやうくそれが実現しそうになった。結局日記を焼却することで、それを取り消した。おしい事だ。こんなものが流通したら社会がめちゃくちゃになるが、そんなものに限って人はほしがるものなのである。案外未来では、これがアンダーグラウンドで流通しているから、いろいろ変な道具が生まれているのかも・・・。

 以上4品、Dai−chanさんのリクエスト。どうもありがとうございました。期待されていたほど辛口にはなりませんでしたが。

No.30 具象化鏡


 世の中にはじつにたくさんの言い回しがある。「仏の顔も三度まで」とか、「来年のことをいうと鬼が笑う」とか・・・。「具象化鏡」は、そんな言い回しを実際に見えるようにするための道具で、T字型の棒のような機械である。例えば気分が暗い状態でいるときにこれを使うと、自分のまわりだけ夜のように暗くなってしまう。「きつねにつままれたような気分」でいると、どこからともなくきつねが現れて頬をつねる。まぁようするに、このような変なことを起こす道具である。子供にことわざなどをわかりやすく教えるときなどには使えそうだが、それ以外にはさしあたり役にはたたない。それどころか、迷惑だったりする。この道具では、本人のボキャブラリーの豊富さに関わらず、いろいろな言い回しを具象化する。だから本人がそんな言い回しを知らなくても、その状態を表現する言い回しがあれば実際にそういうことが起きてしまう。例えば、のび太はしずかちゃんと出来杉君が仲良くしているのを見て嫉妬したが、途端に体がメラメラと燃え上がった。そう、「嫉妬の炎」である。こんな詩的な言い回しをのび太が知っているわけもなく、のび太は突然起こった現象に大慌て。このように、本人が知らない表現でも実現してしまうのだ。うっかりとした行動はとれない。なにしろ、命に関わる表現まで世の中にはあるのだから。劇中のび太は「胸も張り裂けそうな悲しみ」とうっかり言ってしまい、本当にそうなりかけた。こんな危険な言い回しはいくらでもある。「口が裂けても言えない」とか、「胸をえぐられるような苦しみ」とか、「雷にうたれたような衝撃」とか、「緊張に押しつぶされそう」とか・・・。こうしてみると、実際に起こるとあぶない言い回しというものはたくさんあるものだ。国語嫌いの人でも、これなら楽しんで(?)自分の国の言葉の魅力を発見できるだろう。やっぱり、教育的な役目しかなさそうだ。自暴自棄になった人が「この世の終わりだ!」などといわなければよいが。ちなみにこの機械を冬の終わりに使うと、ズシン、ズシンという、まるで怪獣のそれのような「春の足音」が聞こえるという。なんだかこわいぞ。

目次に戻る inserted by FC2 system