No.31 アベコンベ


 レビューをするのに都合のよい道具を探していると、「惜しいな」と思うような道具を見つけることがある。なにが惜しいかというと、そういう道具はたしかにとんでもなかったり意味不明であったりはするのだが、つっこみどころが少ないのである。一言で言ってしまえば、「とんでもない」や「意味不明」の一言ですんでしまうような、貧困な内容のレビューしか書けそうにないような道具である。「アベコンベ」などはその代表だ。この道具、たしかにとんでもないのであるが、それ以上の追求ができないのでこれまでレビューしないできたのだが、いつまでもそうもいかないので、レビューすることにする。

 「アベコンベ」は、奇妙な形状の道具である。強いて言えば、おしゃれな時計の長針と短針が6時をさしている、といったところか。実際は二つの針の長さに差はないのだが。だが、問題なのはその形状ではない。機能である。この道具の先端でふれたものは、全てあべこべに働くのである。消しゴムをこすれば真っ黒になり、たばこは吸えば吸うほど長くなる。掃除機はゴミを吐きだし、かみそりでひげをそればひげがワサッと生える。こんな調子だから、持ち主であるドラえもん自身手に余り、捨てようと考えていたが、もったいないというのび太が使い道を探すことになった。とはいえ、やはり全く役に立たず、それどころか誤ってアベコンベを自分の頭に触れさせて狂ったドラえもんが暴走、そこらじゅうのものをあべこべにしてしまうという騒動を引き起こしてしまった。役立たずというほかない。やはり、つっこみどころが少ないなぁ。

No.32 音楽イモ


 のび太達が忘年会をやることになり、みなそれぞれ隠し芸をすることになった。しかしのび太はあまり芸というものを持っていない。困り果てていたのび太に、ドラえもんは一つの芸を見せてやることにした。それは、口を閉じて歌を歌うというものだった。しかもその歌声はとてもさわやか。感服したのび太は、その芸を教えてもらうことにした。そこでドラえもんが取り出したものが、この「音楽イモ」である。勘のいい人ならもうおわかりだろう。要するにこのイモを食べて10分たつとガスがたまり、それを尻から放出する、わかりやすくいえばおならをすることによってきれいな音を出すのである。これを聞いたのび太は「とんでもない。みんなの前でおならをするなんて」と猛反対。それに対してドラえもんは「下品だなあ。メロディーガスといってくれ」。 言い回しをきれいにしたつもりだろうが、おならであることには変わりない。結局のび太はそれ以外にできる芸もなく、それをやることにした。が、当日袋の中のイモを全て食べてしまった。ほんの一口食べればよいのだが、そんなに食べるとメロディーどころかガス爆発を起こすという。結局逃げるわけにもいかず、ガス爆発秒読み状態のまま「ハトポッポ」を披露することに。しかし、がまんしている状態のため、その歌詞も自然に

「いもがほしいかそらやるぞ みんなでなかよくかぎにこい」

という下品なものに。雑音も入る。やがて、ついに限界点に達し、逃げようとする。しかしそれを止めようとしたジャイアンが「つぶしてやるぞ」とボディープレスをかましてきた。直後、大爆発。のび太は「ハトプップ」とおならをしながら空を飛ぶことになった。

宴会の余興用につくられたのであろうが、あまり感心するものではない。宴会の芸というものは、たとえつまらなくても客の機嫌を損ねるようなものであってはならない。おならの歌など披露されたら、どれだけ場の雰囲気が険悪になることか。しゃれでつくったのだろうが、ガス爆発まで引き起こすのでは誰からも敬遠されるだろう。未来の宴会はどのようなものなのだろうか。

No.33 乗りものぐつ


 一足の大きな革靴の姿をした道具。一足しかないので、当然これをはいて歩くことはできない。そのかわり、前方に5つのボタンがついていて、両足をつっこんでこのボタンのどれかを押すと、この靴はそれに応じた乗り物へと変形するのである。左端のボタンを押すと車輪があらわれ、自動車に。左から2番目のボタンはジェット機に、真ん中はヘリコプターに、右から2番目はモーターボートへと変形するスイッチである。これさえあれば、レジャー用の乗り物などまったくいらないといっても過言ではない。

 しかし、この道具にはさりげなく問題がある。この靴はどんな乗り物に変形するにしても、それに乗る人は両足を靴につっこみ、いわば立ちっぱなしの状態にあるのである。スノーボードを縦向きにしたようなものと考えていい。スノーボードがどれだけ倒れやすいものかというのはスキー場にいったことのある人なら誰でもわかるが、これはそのスピードが違う。自動車形態で走行中に転倒したら大けがだ。さらには、空中や水上など、足場のないところを走る形態もある。これでは少し気を抜いただけで曲芸飛行や人間潜水艦になってしまう。乗りこなすにはかなりのテクがいるだろう。

 人間潜水艦で思い出したが、この道具の一番右端のボタンは、潜水艦への変形ボタンになっている。しかし、劇中ドラえもんとのび太が湖のほとりで昼寝しているすきにこの靴を奪い取り、このボタンを押したジャイアンとスネ夫は、哀れブクブクと海中へ・・・。それを見たドラえもんが一言。「ばかだなあ。潜水艦のボタンなんか押しちゃって。」こんなふうにあきれられるようなものが、なぜこの道具についているのだ? ついているからには潜水艦機能を利用する人もいるのだろうが、その人達はどうやって使いこなしているのだろう? 潜水服でも着けているのか?

No.34 びんぼう紙


 以前、「ムシスカン」という薬を紹介した薬である。飲むと誰からも嫌われるという意味不明の薬だったが、それとは反対に誰からも好かれるようになる「ニクメイナイン」という薬もあった。「びんぼう紙」はそれと同じように、対称的な道具が存在する意味不明の道具である。

 そもそもこの道具が登場した話で最初にのび太が出してもらった道具は、「まもり紙」という紙だった。この紙はキラキラと神々しい光を放つ以外は、なんらただのちり紙と外見的には変わりない。しかしこの紙は、毎日3回おがむ人にいつも付き従い、その人にふりかかる災難からまもってくれるというものである。転んだり落ちたりしそうになったら大きくなってその体を受け止め、何か襲いかかってくるものがあれば丸まってぶつかったりする。非常に頼りになるのだが、のび太はわざとジャイアンを怒らせた。しかし、ジャイアンも強く、互角の勝負を繰り広げる。不安になったのび太はさらに多くのまもり紙を呼んでこようと家に戻り、昼寝していたドラえもんのポケットから紙を取り出し、おがんだ。しかし、そこで起きたドラえもんが叫び声をあげた。その黒っぽい紙は「びんぼう紙」であり、これがつくとろくな目にあわないというのだ。早速階段から落ち、犬にかまれドブに落ち、ボールがぶつかる。そして最後のコマは、満身創痍になりながらもまもり紙を倒したジャイアンのところに、「もう一枚もやっつけて」とのび太が困り果てて頼むところで終わる。しかし、結末はそれで十分だ。びんぼう紙がついている人間は徹底的に不運だし、のび太のまもり紙に苦戦させられたジャイアンがそんな頼みをきくわけがない。

 結局この道具は、わざわざ不幸になるというわけのわからない道具だった。こんなものを使用するのは一体どんな人なのだろう。よっぽどのマゾヒストか、あるいは行を積みたい修行僧か・・・。

No.35 税金鳥


 税金というものは、できればとられたくないものに決まっている。汗水流して稼いだ金が、くだらない事業などに使われたらなおさらである。私も社会人となってからは、給料明細に書かれている天引きされた税金の額を見ては、なんでこんなに高いのかとため息をついてしまう。

 そんなこととはお構いなしに、ドラえもんの世界の子供達は楽しく暮らしている。ところがそんなのどかな世界に、大人の世界の恐怖、税金をもたらした恐怖の存在があった。その道具の名は、「税金鳥」。私はこの道具を、「悪魔の徴税吏」と勝手に呼んでいる。

 自分はこづかいが少なくてマンガが買えないが、スネ夫は金持ちなのでたくさんのマンガを買うことができる。こんな貧富の差に嫌気がさしたのび太は、「人間はみんな平等でなくちゃいけないと思うんだ。間違った世の中をなんとかできないものか」と、きっかけは小さなことなのに熱弁をドラえもんにふるう。そこで「公平に近づける方法なら、ないわけでもない」といってドラえもんが取り出したのが、「税金鳥」である。

 この税金鳥、見かけは箱形ボディーのロボット鳥である。一定の子供の間を飛び回り、丸くなっているくちばしの先端から税金として小遣いの一部を徴収、お金を体の中に貯めるのである。問題はその税率である。納税者の資産額に応じて税率が三つに別れており、千円未満だったら一割、千円以上一万円未満だったら三割、一万円以上だったら七割となっている。いくら子供の小遣いから税金をとる機械とはいえ、七割はひどい。どこかの国や自治体がこんな法外な税率を設定したら、たちまちデモ隊が議事堂や役所をとりかこむだろう。それはともかく、だいぶ公平になると思ったのび太はみんなを集め、相談をすることになった。のび太と同じく貧乏人であるジャイアンは大賛成。しかし、わりと金持ちであるスネ夫や出来杉君らはしぶった。まぁ貧乏人ほど税制批判をするのは当たり前ではあるが。しかしこの反対意見は、「自分さえよければいいのか」というジャイアンの一言で一蹴される。普段の自分の行いを棚に上げた、なんと自分勝手な発言! さすがジャイアニズムの提唱者である。かくして作動させられた悪魔の徴税吏、税金鳥はさっそく行動を開始した。その取り立てかたはすさまじく、税金を納めたくないと貯金箱にしがみつくようなものには光線を浴びせ、無理矢理税金を徴収する。悪徳サラ金や江戸の悪徳高利貸しも真っ青の、血も涙もない取り立てかたである。もっとも、金のない人には全く無害ではあるが。かくして徴税は進む。しばらくしてドラえもんが税金の集まり具合を尋ねると、意外なことがわかった。スネ夫とジャイアンは、まったく税金を納めていないのだ。これはどういうことかと、二人はスパイ衛星をあげて偵察する。ジャイアンの方は簡単なことだった。お菓子やマンガを人から取り上げていたのである。これでは小遣いなどいるはずがない。ジャイアニストならではだ。スネ夫の方はどうかというと、なんと税金逃れの方法を実行していたのである。それはママに貯金を全て与え、その中からお金を渡してもらい、「〜を買ってきて欲しい」と、お使いとして頼まれることによって欲しい物を手に入れる、という巧妙なものだった。税金鳥に訴えても、「お使いに税金はとれません」と取り立ててくれない。ううむ、悪知恵のきくやつ。やはりこいつは、将来ろくなやつにはならないだろう。やがて、税率が高すぎると訴えてくる者達が現れた。ある者は顕微鏡が欲しくて苦労して貯めたものだといい、ある者は貯金だけが楽しみなのにと言う。この訴えに、二人は申し訳なく思ってきた。そのころ、ジャイアンは十円を拾っていた。すかさずそこへ、十円も税金と税金鳥があらわれる。しかしジャイアンは、「ばか!! もっと金持ちからとれ!!」と、またしてもジャイアニズムを発揮。差し押さえようと光線を発する税金鳥と格闘になり、そのあげくバットで税金鳥を破壊してしまった。これに喜んだのがのび太達。かくして、悪夢の税金地獄はその幕を閉じた・・・。

 この道具、未来では子供だけでなく、一般の納税者からも税金を取るために役所によって利用されているのだろうか? だとしたら、いやなものだ。納税を拒めばこんなロボットから光線をくらうとなれば、誰だって税金を払ってしまう。未来ではこんなものに頼らなければならないほど、滞納者が多いのだろうか? そうかもしれないということもまた、恐ろしいことである。ちなみに今気がついたことだが、てんコミ22巻に収録されているこの話、ジャイアニズムの教典としての価値もあるのではないだろうか。自分のことを棚に上げ、欲しい物は奪い取り、思い通りにならないとかんしゃくを起こす。この話で描かれているジャイアンの姿は、まさにジャイアニズムそのものではないか。私はジャイアニズムというものは独裁主義や帝国主義よりはるかにたちの悪いものと考えているため、どちらかというと反ジャイアニズム主義者である。しかし世の中には困ったことに(?)、なぜだかこの思想が魅力的に見える人が多いらしい。これからそんな思想への道を進もうと考えている人には、この話をお勧めする。別段、止めはしない。

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