No.36 お金をほしがらないようになる飴とお金をあげたくなる飴


 正式な名前がないのでこう書くほかない。文字通りの作用のある飴である。その効果は激烈で、お金をほしがらないようになる飴はお金を見ただけでじんましんがでるほどになり、お金をあげたくなる飴の方はお金ばかりか家まで他人に与えたくなるというすさまじさ。どちらも何の役に立つのかいまいちよくわからないくせに、効果が激しいのだ。劇中ではこの二つの薬のおかげで、ちょっとした騒動になってしまった。

 まず冒頭、パパがのび太があまりにお金をほしがるので、それはよくないと思い、ドラえもんにお金をほしがらないようになる飴をもらった。その直後、今度はパパからお金をもらいたいのび太が、お金をあげたくなる飴をもらった。思えばドラえもんも思慮が浅い。お互いにこのような魂胆を持つ二人に、逆の効果をもつ薬を与えたらどうなるか、結果は自ずとわかるもの。もちろんその後、何も知らないのび太とパパはお互いの飴を渡し、結果、パパがやたらにのび太に小遣いをあげたがり、のび太は悲鳴をあげて逃げ回るということになった。その後、貯金を全額下ろしに行ったパパを追いかけながら、ドラえもんは薬を効かなくする薬を出そうとする。しかしそこで、またしてもドラえもんは変な薬を出す。気前のよくなる薬と、お金が嫌いになる薬である。しかもあろうことか、ドラえもんは間違ってそれを出すごとに、「これは違う」とそのへんに放ってしまった。おいおい、そんな変な薬を捨てるなよ。やっと目的の薬を取り出し、パパを見つけたドラえもん。なんとパパは、家を乞食にあげようとしていたのだ。いやはや、本当に絶大な効果だ。薬を飲み、正気に戻るパパ。「むやみに変な薬を飲ませるな」などとドラえもんに注意するが、最初にのび太に変な薬を飲ませようとしていたのはあんたじゃないか。まずい、彼もまたジャイアニストか!? 「これから気をつけます」と、素直に反省するドラえもん。しかしその直後、もうその誓いが破られる。さきほどそのへんに放った薬。その二本の空き瓶が転がっていたのだ。いわんこっちゃない。見ると、貯金を全てのび太にあげようとする友達と、彼らに追いかけられ、「助けてぇ!!」とさらなる拒否反応を見せて逃げまどうのび太が・・・。う〜ん、この町の子供は道に落ちているあやしい薬を平気で飲んじゃうほど不注意なのだろうか。これじゃ簡単に化学テロの犠牲になるな。

 結局この話は、ドラえもんの持っている数々の、人のお金に対する反応に様々な影響を及ぼす変な薬の多さもさることながら、ススキヶ原の人々の異常とも言える単純さがうかがえる話である。もうちょっと思慮深くないと、今の世知辛い世の中、生きていけないぞ。

No.37 アスレチック・ハウス装置


 これも正式な名前がないので、こう呼ぶことにする。いかにも機械らしい形をした機械で、これを家の屋根裏に設置してスイッチをいれると、運動しなければならない家、「アスレチック・ハウス」になる。「ホームメイロ」と同じたぐいの道具で、家の中がアスレチックだらけになるのである。

具体的にはつぎのような仕掛けができる。まず、廊下がルームランナーのように進行方向とは逆に動き、走らなければ後戻りしてしまう「ろうかランナー」。さらに座布団がトランポリンになったり、階段がロッククライミングのようになったりするようになって、アスレチック化がエスカレートしていく。障子が腕を鍛えるため重くなり、やっとあいたと思うと、すさまじい重さでのしかかってくる。重量上げだ。廊下に突然穴があき、それを飛び越えるため幅跳びをしなければならなくなる。その穴に落ちてしまうと、中には鉄棒があり、これを使って登らなければならない。こんな具合に、何の変哲もない家の中が一転、「筋肉番付」状態になるのである。

 この道具、運動不足の人に家の中で運動をさせるためにつくられたようだが、それにしてはやりすぎだ。100m走るのも辛い人の家がいきなりこんなことになったら、はたしてどんなことになるのやら。やるならもう少しおだやかなかたちでやってほしい。それにしても未来の道具製造会社は、人の家を迷路にしたり「サスケ」にしたり、一体なんだと思っているんだ。

No.38 本物電子ゲーム


 何度も言うようだが、人を使って何かをする道具はよくない。そんな私の心の声とは裏腹に、そんな道具はあとからあとから見つかるのだからしょうがない。

 「本物電子ゲーム」もまた、そんな困った道具の一つである。「電子ゲーム」といってわからない人は、80年代始めに流行した「ゲームウォッチ」を想像してほしい。その後の数々の携帯用ゲーム機の前身とも言えるゲーム機である。本物電子ゲームは本物の人間をゲームのコマとして使って遊ぶというものだから、困ったものなのである。ドラえもん自身、「人間をゲームに使うんだ。使われる人にとっては迷惑な機械なんだけど・・・」と認めている。形状はかなり大きいところを除けば、本物のゲームウォッチと変わりない。ただし、液晶部分が単なるガラス張りになっていて、透けて見えるようになっている。このガラス内にコマとしたい人が入るようにして、スイッチを入れる。次に、ゲームの背景としたい場所を同じようにガラスのなかにおさめてスイッチをいれる。そしてリセットボタンを押すと、ゲームが始まる。このゲームの内容は、上から槍や刀、手裏剣がドカドカふってくる中を、それに当たらないようにかわしながら、コマとなる人を画面の左端から右端へと移動させるというもの。

 さて、このゲームのコマに使用されたのがジャイアン。ドラえもんがはた迷惑なこの機械の使用を許したのも、のび太が3年もかけて貯金し手に入れた電子ゲームを、彼がとりあげてしまったからだ。かくして空き地をフィールドとして、ジャイアンゲームが始まった。立体映像なのかなんなのか、本当に槍や刀、矢、手裏剣が雨のように降ってきて、「ドス!!」と音を立てて彼のすぐ脇の地面に突き刺さる! 何がなんだかわからず、髪を逆立て、「ギャー!!」と悲鳴をあげる気の毒なジャイアン。最初に手本を示したドラえもんはうまかったので、無事ジャイアンは右端へ移動完了。しかしその次にやったのび太は少し腕が悪かったので、あわれ槍がジャイアンの頭に突き刺さる!! どうやら立体映像ではなく、実体のあるものだったようだ。ドラえもんによると、「本物の刀や槍じゃないからすぐ消える。当たってもちょっと痛いぐらいだよ」 しかしそれでも、槍や刀がジャイアンの頭に突き刺さるのはビジュアル的にきついものがある。こんな具合に二人が残酷なゲームを楽しんでいるところに、スネ夫が現れて「ジャイアンに言ってやろ」と脅す。しかたなくスネ夫にもやらせることに。しかしスネ夫は、わざとジャイアンを降ってくる物に当てるというサディスティックな遊びを始め、「日頃の恨みをはらしてやるのだ。」と残酷な笑みを浮かべる。やっぱこいつ、性格悪いぞ。そしてついに、ジャイアンが屋根の上の3人に気づいた。怒りのあまり、大きな石を投げつけるジャイアン。しかし勢い足りず、石は空き地の隣の神成さんの家の2階の窓ガラスを直撃。「こいつめ!! こいつめ!!」 たちまち窓から顔を出した神成さんが、やかんやら灰皿やらをジャイアンに投げつける。その様は、あたかもゲームのように・・・。最後までジャイアン受難の話である。

それにしてもこの道具、いじめの道具に使われそうな気がする。放課後いじめっ子達に捕まり、ゲームのコマにされて槍や刀に当てられるかわいそうな子・・・。ゲームという子供に密着した存在だからこそ、リアルにこのような陰惨な光景を想像してしまうのだ。ゲームは電子の世界の中だけで遊んでほしいものだ。

No.39 慰謝料支払い機


 現代の裁判、とくに民事訴訟において、その解決は和解か、あるいは原告に対して被告が慰謝料をはらうということで決着がつくことがほとんどだ。だが、慰謝料をもらうのはすぐというわけにはいかない。裁判というものは長引くのが当たり前だし、費用もかなりかかり、それに見合った額の慰謝料をもらえないこともある。もっと手っ取り早く慰謝料を手に入れることはできないか。どこかにそんなことを考えた人がいて、この道具はできたのだろう。

 この機械はパラボラアンテナと、お金が出てくるトレイがついていることが外見上の特色である。このアンテナをある人に向けると、アンテナは常にその人の方向に向けられるようになる。さて、その人がなにか悪いことをして、それで損害を被った人がいたとする。その人はこの機械のダイヤルを調節し、その人がボタンを押すと決めた分のお金が出てくる。このお金は加害者の持ち物から差し引かれたお金で、その分だけ加害者の持ち物がなくなっているのである。劇中ではのび太がジャイアンに対して使用し、なぐられて慰謝料百円を手に入れた。しかし、ジャイアンの被害を受けている友達はたくさんいる。そこでのび太は、この機械をみんなに解放することにした。スネ夫がどんな殴られかたでも百円では不公平だといったので、上中並にわけ、それぞれ二百円、百円、五十円とした。ちなみに、けとばされるのは七十円、はり倒されるのは百二十円。細かい設定ができるものだ。早速ジャイアンから慰謝料をせしめようという行動が始まる。最初はジャイアンの周りに集まり、彼が殴るのを待っているだけだったが、スネ夫が「僕からとったマンガ返せよ!」と怒らせて慰謝料をとる方法をとってからは、皆それをまねするようになった。かくしてジャイアンの物がどんどんと減っていく。一番減ったのがマンガで、帽子とデブ(人は彼らを安雄とはる夫と呼ぶ)が千三百四十円とったときには、マンガが4冊も消えてしまった。欲張った友達達は、マンガが消えて不機嫌なジャイアンに殴られようと、次から次へと彼のもとに向かう。しかしのび太はママに捕まってしまい、勉強を終わらせるまでそとに出られなくなってしまう。一方友達の行動はどんどんエスカレートし、ついにはスネ夫が帽子とデブとともに、げんこつ一発千円に設定してしまう。そのころ、ジャイアンは次々と現れる友達を殴るのに飽き、逃げ出した。そんな彼の履いていた靴が、突如消滅。かと思った途端にズボンが、セーターがどんどん短くなって・・・。勉強を終えたのび太ははりきって慰謝料をふんだくろうと外に飛び出したが、彼が見たのは前を隠し、全裸で逃げ帰るジャイアンだった。どうやら、全財産をなくしたらしい。

 経費と時間を節減できるという点は評価できるのだが、少々強引だと言わざるをえない。なにしろ、被害者の言い値で慰謝料をとられるのだ。加害者にはなんの弁明の機会も与えられない。いくらジャイアンでもかわいそうだ。気になることはもう一つ。劇中ジャイアンのものとして彼が読んでいたマンガが次々と消えていったが、このマンガ、例の如くジャイアンが友達から取り上げたものばかりだった。これではマンガを彼の所有物と認めることができないのは誰の目にも明らかだ。にもかかわらず、マンガは消えてしまった。慰謝料を手に入れたスネ夫や帽子とデブも、自分達のマンガの金を手に入れていたのではちっとも得になっていない。これはどういうことなのだろう。もっともこんな疑問は、ジャイアニストの手にかかれば次のように片づけられてしまう。「おまえのものは俺のもの。俺のものは俺のもの。これぞジャイアニズムの基本精神である。友達の所有物がジャイアンの所有物であって、なにが不思議だというのか」と。どうやらジャイアニズムという思想、我々の思っているより遙かに作品世界の根幹を成しているものらしい。

No.40 ヤメラレン


 ドラえもんの持つ薬には本当にストレートなネーミングのものが多い。名前を聞いただけでその効果がわかるというのは非常にありがたいが、そのかわりになんだか意味不明の薬や危険な薬が多いこともまた事実である。

 「ヤメラレン」もそんな薬の一つだ。効果は読んで字の如く、これを飲んでなにかをすると、その行為がやめられなくなってしまうというもの。というか、中毒になってしまうのである。あまり響きがよくないが、ドラえもんによると、ニンジン嫌いの子供を、ニンジンを食べずにはいられないようにするなど、いろいろと使い道はあるらしい。しかし、ものには限度というものがある。いくらニンジン嫌いを治すためとはいえ、なにも中毒にする必要はないだろう。自分の子供がしょっちゅうニンジン片手にボリボリとかじっていたら、そうなる前より困ったことになってしまう。だが劇中では、さらにおそろしい目的に使用されていた。押し迫るジャイアンリサイタルの脅威に対処するために、のび太とドラえもんは、自ら「ジャイアンの歌中毒」になったのである(ドラえもんはあまり気が乗っていなかったが)。この恐ろしい中毒になった二人はジャイアンの歌を恐れるどころか、逆に歓声をあげ、ジャイアンが声を枯らしても「それでも歌手か!」などと歌うことを強制する。命知らずな使い方である。

 結論。苦手なものを克服すること自体はけっこうなことである。だが、度を超すと恐ろしいことになる。どうしてなんでもかんでも、こう極端なのかねぇ・・・。

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