ポケットの中の喧噪・外伝12 続・征地球論



 このページを見ている人の中にはわかっている人も多いと思うのだが、私は「悪の秘密結社」というものが大好きである。ショッカー、ダーク、新人類帝国、バドー、黒十字軍・・・。奇怪な怪人を作り、世界征服を夢見て日夜奇妙な作戦を行う悪の組織。特撮ヒーローが好きな人は、多かれ少なかれ彼らも好きなものだと、私は思っている。ヒーローが戦う相手が強大で恐ろしく、魅力的なものであるほど、ヒーローの魅力も引き立つというものである。以前私は外伝3「The Villain」で、劇場版ドラえもんに登場した悪役達を紹介したが、彼らときたらどいつもこいつもてんでしまらず、前述した代表的悪の組織に遠く及ばなかった。そこで私は彼らを一人前の悪の組織に育てるため、各組織から逸材を引き抜いて再構成することにした。目標はもちろん、世界征服!! 外伝12では、最強の悪役づくりを目指すことにする。なお、タイトルはF先生の短編、「征地球論」から抜粋した。

(1)悪の組織を作ろう!


 悪の組織というものは、基本的に軍事集団である。その代表的なものである軍隊は、階級こそ複雑であるが、実際には司令官、参謀、下士官、兵士という四段構成になっている。これはショッカーや黒十字軍など多くの組織が取り入れている。私の作ろうという組織も、この組織構成を取り入れつつ、さらに悪の組織には欠かせない人材、科学者も取り込んでいくことにする。

1.司令官


 組織のトップである。このポジションで、悪の組織で最も有名なのはショッカー首領。例の某製薬メーカーのマークにも似た、ワシのマークの胸のランプがピコピコ光り、某宇宙戦艦の艦長と似たような声で大幹部や怪人達に指令を下すことで知られている。この人はすごい人で、仮面ライダー1号、2号からZXまでの10人の仮面ライダーが戦った悪の組織の首領の正体は、みなこの人だった。そのため彼は、「大首領」とも呼ばれている。また、他の組織にも黒十字総統やミスターKなど、威厳と恐怖に満ちた偉大な首領が存在した。

 それでは、我が悪役軍団の首領を務めるにふさわしい劇場版悪役とは誰なのか? まず、熊虎鬼五郎(ねじまき都市冒険記)やアブジル(ドラビアンナイト)は失格である。こいつらは劇場版のメイン悪役を務めたが、ただの犯罪者と奴隷商人。こんな小悪党に、世界を征服しようという組織のトップが務まるわけがない。次にギガゾンビ(日本誕生)、キャッシュ(南海大冒険)も失格。ともにやっていたことは、原始人や海賊をつかまえてこき使うという未来人とは思えない弱いものいじめ。こんな連中に任せるわけにはいかない。トップになれる器ではないということで、以上の悪役はここで敗退。次の条件は強さだ。部下が悪人だらけでは、いつ反乱が起こるかわからない。そんなときに部下が束になってかかってきても余裕で勝てるぐらいの強さがなければ。ここで落ちるのは、まずヤドリ天帝(銀河超特急)。人間やロボットに乗り移らなければ何もできない脳だけの寄生生物では、強さもへったくれもない。弱いという理由では、アンゴル・モア(宇宙漂流記)、ギルモア将軍(宇宙小戦争)、ダブランダー(大魔境)も失格である。

 こうして残った、「強さと首領になれる器をもつ首領候補」は、以下の3名。大魔王デマオン(魔界大冒険)、牛魔王(パラレル西遊記)、妖霊大帝オドローム(夢幻三剣士)である。奇しくも皆、悪魔や妖怪の軍団を率いる、見た目も肩書きも怖そうな連中が残った。さて、この中で誰が一番強いのか? それぞれの特徴を挙げて、比較していこう。

(1)大魔王デマオン

 もしもボックスで作った平行世界の一つ、魔法世界。その世界にある地球を狙う、魔界星人のボスである。自分の心臓をデモン座アルファ星に偽装して宇宙に浮かべており、それを銀のダーツで撃たれない限り死ぬことはない。部下の悪魔は役立たずばかりだが、人間を石に変えることのできる「メジューサ」だけは強者と言える。大魔王のわりには、劇中で使った魔法らしい魔法は、星を雷に変えて敵にぶつけるというものだけだった。最後は心臓を銀のダーツで撃たれ、魔界星と部下の悪魔もろとも滅んだ。

(2)牛魔王

 「ヒーローマシン」というバーチャル体感ゲームのソフト、「西遊記」から抜け出してきた妖怪軍団のボス。鎧を着た巨大な牛の怪物で、青龍刀をふりかざして戦う。配下の部下も大風をおこす扇、芭蕉扇を持った「羅刹女」、なんでも吸い込むヒョウタンをもった兄弟妖怪「金角・銀角」など、少なくともデマオンの部下よりは使える連中だった。なぜか三蔵法師を狙う。ドラえもん達と三蔵法師をとらえて食べようとしたが、救援に駆けつけたドラミや、孫悟空となったのび太の活躍により、彼の如意棒の前に敗れ去った。

(3)妖霊大帝オドローム

 牛魔王と同じく、ゲームのボスキャラ。しかし、自我を持っている。杖の先から人間を塵にする光線を出したり、「星よ降れ」という魔法を使ったり、分身や変わり身の術を使ったりと、多数の技を見せた。不死身の体を持っているが、ゲームのボスキャラなので、「白銀の勇者」の持つ白銀の剣に倒れる運命にある。それがいやでなんとか阻止しようと部下に命じてあれこれさせていたが、例によって部下は役立たずばかり。一度は白銀の剣士ノビタニアンを倒したが、復活した彼の白銀の剣に貫かれ、居城や部下とともに炎上した。

 どれもこれも似たり寄ったりである。三人で同時に戦って雌雄を決してもらいたいが、そういうわけにはいかない。独断と偏見で判断するしかない。まず負けそうなのは、牛魔王だ。理由は他の二人と違って、不死身じゃないこと。図体はでかいが、刀を振り回すしか能がないし。残ったのはデマオンとオドローム。どちらも不死身だが、実力は同じぐらい。勝負がつきそうにないが、とどのつまりコンピュータプログラムであるオドロームの違い、デマオンは一応実体がある。コンピュータプログラムに組織を任せるというのも不安なので、首領はデマオンに務めてもらうことにしよう。個人的な事情だが、劇場版で彼の声をあてたのはあの若山弦蔵氏(ショーン・コネリーの吹き替えで有名)。声の威厳も十分だ。

2.参謀


 作戦を立案する役職。ショッカー系の組織では「大幹部」と呼ばれ、必ずこの役職の者がいた。最初に日本支部に赴任したのは元ナチス親衛隊と言われる隻眼の大幹部、ゾル大佐で、それまで怪人自身が立案していた作戦を自分でたてるようになった。ショッカー日本支部には彼の死後も死神博士、地獄大使と、次々に新しい大幹部が現れてライダー達を苦しめた。実は組織にとって、このポストにつく者が最も重要と言える。何しろ、参謀が良い作戦を立ててくれなければ、組織は連戦連敗。前述した大幹部達もまずい作戦ばかりたてたため、これが原因の一つとなってショッカーは放棄され、新組織・ゲルショッカーに移行した。極論を言えば、首領など部下を怖がらせる力と少々賢ければ、誰でも務まる。しかし、参謀がスカタンではどうしようもない。しっかりした奴をこのポストに据えなければ。

 ところが。ドラえもん悪役の中で、このポストにいた者は少ない。サベール隊長(大魔境)、ドラコルル長官(宇宙小戦争)、参謀トリホー(夢幻三剣士)くらいである。だが、だからこそ選びやすいとも言える。

 まず切り捨てるのはトリホー。こいつ、「参謀」と名が付いているのに悪役の中でも最も役立たずなのだ。オドロームの命令で白銀の剣士を登場させないように命じられていたのに、考えがあるなどと言って逆に登場の手伝いをしてしまった。おかげで白銀の勇者ノビタニアンとその一行により、スパイドルやジャンボスら将軍達の軍団は次々と全滅、トリホー自身もオドロームが倒されると共にやられてしまった。何をやりたかったんだか。ホーホーうるさいだけのバカな鳥である。焼き鳥にでもしてしまえ。

 サベール隊長は、悪大臣ダブランダー配下の軍隊の隊長である。劇場版では騎士道精神を重んじているように描かれていたが、そんな人がなぜダブランダーなどの下にいるのか不思議である。ドーベルマンから進化したと思われる面構えとアイパッチ、そして剣の達人という設定がいかにも強そうである。しかし、この人は戦略家というより戦術家として優秀なように思える。

 この参謀を選ぶうえで最も有力視していたのが、ドラコルルである。ピリカ星の独裁者、ギルモア将軍が反抗勢力弾圧のために設立した情報機関「PCIA」の長官である彼は、亡命したピリカ星の大統領パピが「悪魔のように悪知恵がはたらき、情け容赦のない男」と評する男である。この評価には私も異論はなく、ドラえもん悪役史上もっとも悪賢い男と思われる。まさしく、私の求める人材だ。それでは、ドラコルルはどんなところが参謀として優秀なのか、それを説明していこう。

 情報機関の長官というだけあって、彼は情報のもつ価値をよく理解し、何事においても情報を収集することを念頭においていたようである。彼は地球に亡命した大統領パピを捕らえるためにクジラ型宇宙戦艦で地球にやって来たのだが、まず彼を捜すために無数の探査球を放った。その結果、ドラえもん達5人の家のどこかにパピがかくまわれていることをつきとめたのだが、彼らは窓やカーテンを閉め、移動にはどこでもドアを使用することで全く彼らにパピの居所をあかそうとはしなかった。だが、彼の部下も優秀だったのか、探査球をジャイアンのポケットにしのばせ、パピが隠れている秘密基地内に潜入させることに成功したのだ。彼はそのあと人質として捕らえたしずかと交換でパピを捕らえ、ピリカ星へと連行した。

 続いてドラコルルが乗り出したのが、レジスタンス狩り。ピリカ星の周りを取り巻く小惑星帯に基地をもつ自由同盟が、地下に潜伏するレジスタンスと連絡をとり、反攻作戦を始めようとしていた。ドラコルルはまず自由同盟の基地のありかを探るため、小惑星帯にシャチ型無人戦闘艇を飛ばした。これは標的をどこまでも追い回し、ついには体当たりして自爆する恐るべき兵器なのだ。無人戦闘艇は連絡のためにピリカ星に降下しようとする自由同盟のシャトルを見つけ、攻撃をしかけた。結局はパピ救援のためにやってきたドラえもん達の自慢の兵器、改造ラジコン戦車に撃破されたが、ここからがドラコルルの抜け目ないところ。無人戦闘艇には無数の盗聴器つき発信機が内蔵されており、爆発と共にそれをまき散らして戦車の車体にくっつけ、彼らが基地に入ったことで基地の在処を突き止めたのだ。早速ドラコルルは、基地発見の報という手みやげを持ってギルモア将軍のもとへ。その知らせを聞いたギルモアは喜び、大軍を差し向けて叩きつぶせと命令した。しかしドラコルルはそれを拒否し、泳がせておく提案をした。今衛星基地を壊滅させても、地上のレジスタンスは生き残る。基地から送られる連絡員を追跡し、レジスタンスのアジトを見つけてから双方を叩いた方が、より完全に敵勢力を叩きつぶすことができる。チャンスをいかしてどれだけ多くの勝利を得られるかについての研究が戦略である。目先の勝利にこだわらず、大局的にものを見てより確実な勝利を得る道を選ぶということは、ドラコルルでなくとも軍を動かす人間なら考えついて当たり前なのだ。それなのに「全軍で叩きつぶせ」と力押ししかできず、目先の勝利にとらわれるギルモア将軍。無能な男だ。ジオン軍の指揮官、マ・クベ大佐ならこの男のことを「力押ししか考えられんからこうなる・・・」と笑うだろう。

 さて、はたせるかな、衛星基地からはドラコルルの目論見どおり、ドラえもん達が連絡員として戦車に乗ってピリカ星へと向かっていた。PCIAは宇宙空間にもレーダーを張っており、ドラえもん達はそれをかいくぐるため戦車を流星に偽装し、ピリカ星への降下に成功した。しかし我らのドラコルルは、そんなことはお見通しだった。北部山岳地帯に流星が落下したことをレーダーはとらえていたが、地震計はその落下の際の衝撃をとらえていなかった。これが、ドラコルルが流星の正体を見抜いた根拠である。頼りになる男だ。さっそくドラコルルは流星の落下地点に部下を送り、首都ピリポリスに通じる道路を封鎖した(この行動は少し理解しがたい。彼らを追跡するのならば、封鎖するにしても意図的に警備の弱い箇所をつくり、そこから彼らを市内に潜入させるというような方法を採るべきではないのか?)。しかし、その足取りはぷっつりと消えてしまった。彼らは「ドンブラ粉」で戦車を地中に沈めて隠し、「かたづけラッカー」で透明化して、空からピリポリスに向かっていたのだ。しかしドラコルルは焦らなかった。「地球人といっても人間だろう。煙のように消えるわけがない。待つのだ! そのうちきっとボロを出すに違いない」 さて、彼の言うとおりドラえもん達はボロを出した。「かたづけラッカー」の効果は4時間しか保たず、移動中にききめが切れ、姿が見えるようになってしまった。これを監視カメラでとらえたドラコルルは、直ちに部隊を送り込み、彼らが隠れた公園を包囲した。手際のいいことだが、彼らをレジスタンスと接触させるためには、包囲などせずしらんぷりをしていればよかったのでは? さて、包囲はしたがドラコルルは彼らに攻撃を加えることはしなかった。彼らがレジスタンスと接触するのを待つのである。

 誇らしげに状況を将軍に報告するドラコルル。彼の報告をうけ、将軍はレジスタンスは手に落ちたも同然と判断し、衛星基地を無人戦闘艇で攻撃するように、またも力押しの命令をした。しかしその命令に、ドラコルルは怪訝そうな顔で「空軍の主力を差し向けた方が・・・」と進言した。それに対して将軍は「人間は信用ならん」 独裁者の人間不信。これは独裁者の晩年に見られる傾向だ。絶大な権力を持っているために、常に誰からも狙われているようなおそれを抱くのだ。ヒトラーは特にその傾向が強かった。ギルモアの場合は、まだ独裁者になって日が浅い。それなのにこの末期症状とは、やはりはじめから独裁者の器ではなかったのだ。そんなギルモアの様子を見て、ドラコルルは「なるほど、反乱を恐れているのか。自分の不人気をよ〜くご存じだ」と、密かにほくそ笑んだ。ここにドラコルルの本心を見ることができる。彼は頭のきれる男だ。そんな男が、力押し一辺倒のギルモアの下についているのは、どうにも不可解である。きっと彼は、ギルモアを利用して自分がピリカの独裁者になろうとしているのだ。今はギルモアの独裁体制確立に務めているが、反抗勢力を根絶し、独裁体制が完成したら、ギルモアを暗殺してその支配体制を乗っ取るつもりだったに違いない。かつて別のアニメ作品で同じ事を企み、見事成功した男がいた。「機動戦士Zガンダム」に登場した木星帰りの男、パプテマス=シロッコである。長い間木星のヘリウム船団に所属していたシロッコは、ある時地球圏へと戻ってきた。当時地球圏は、宇宙移民弾圧を行う地球連邦軍のエリート部隊ティターンズと、それに対抗する反地球連邦組織エゥーゴ、そしてかつての「一年戦争」で連邦軍に敗れたジオン公国軍の残党であるアクシズの三つ巴の戦いの渦中にあったが、シロッコはティターンズに入り、その足場を固めていった。やがてティターンズの指導者、ジャミトフ=ハイマンがアクシズとの会談のため敵の軍艦に向かうと、それに同行して機をみて暗殺。ジャミトフはアクシズの指導者ハマーン=カーンに暗殺されたことにして、自らがティターンズの指導者の座に着き、ティターンズを乗っ取ったのである。ドラコルルもシロッコと同じ様な方法で、ピリカの独裁者になろうとしたに違いない。そのためには愚かな将軍の部下という地位に甘んじ、やがて自分が手に入れる支配体制の確立を急がなければならない。

 一方、ドラえもん達はいつまでも隠れていてもらちがあかないと、目に見えないほどのスピードで走れるようになる薬、チータローションで一気にアジトに突っ走った。しかし、ノロマはなにをしてもノロマなのか、のび太が遅れてばれてしまった。その姿を監視カメラでとらえたドラコルルは、直ちに部隊を派遣してのび太達ごとレジスタンスを全員捕らえることに成功した。

 再びギルモアの元を訪れたドラコルルは、得意げに成果を報告。しかし無人戦闘艇数千機を差し向けた衛星基地の状況を尋ねられると、とたんにばつの悪そうな顔をする。衛星基地を攻撃した無人戦闘艇は、基地の戦闘機隊と、残って基地を守備していたしずかとスネ夫のラジコン戦車によって全滅していたのだ。ギルモア軍の兵器にとって、ラジコン戦車の材質、超強化プラスチックは超合金Zなみに堅かった。熱線は効かず、体当たりしても傷一つつかない。こうも性能差があっては、勝負にもなにもならない。しかしギルモアは、「いいわけ無用!! わしに刃向かう者を根絶やしにするのがPCIAの役目だぞ! 失敗は許さん!!」などと怒鳴り散らす。どこまで無能なのか、この男は。大きな組織の人間には、怒鳴ることが物事を進める最良の手段だと思っている人間が多いが、怒鳴ったところで状況が好転するわけがないことは子供でもわかる。ドラコルルがいなければここまでこぎつけることすら不可能だったくせに、怒鳴れる立場か。ドラコルルも内心では、「チッ、このごり押しジジイが」と舌打ちしていただろう。だが、ここはじっと我慢の子。もう少し辛抱すれば、いずれ自分の手に入る支配体制が完成するのだ。ここで無能者の機嫌を損ねてはまずい。そこでドラコルルは眉一つ動かさず、「むろん、手は打ってあります」と言った。失敗したらそれを繰り返さないように努めるのは、当たり前の事だが大事である。いくら敵が強いとはいえ、無敵というわけではないだろう。どこかに弱点があるはずだ。そう考えたのか、彼はラジコン戦車の分析を命じていた。ドラえもん達が乗ってきた戦車を地面から掘り出し、技術者に分解させていたのである。明朝、彼はその分析結果を聞きに行った。技術者が彼に渡したのは、細い針金だった。それはアンテナであり、動力装置に直結していたという。「ということは、電波の指令を受けて動くわけか・・・」と考えたドラコルルの頭に、地球で見たスネ夫のラジコンが思い浮かんでいた。戦車がラジコンを改造したものなら、やはりアンテナで電波を受けて動くはず。それならばアンテナを攻撃すれば・・・。「決め手が見つかったぞ!! 地球戦車め!! 今度出会った時がお前達の最期だ!!」 この時彼の頭には、ピリカの皇帝となった自分の姿が浮かんでいたに違いない。もはや彼にとって、怖いものなど何もなかった。

 さて、夜が明け、ついにドラコルルはパピやドラえもん達を銃殺に処すため、処刑場へ連れてきた。もはやその命は、風前の灯火である。一方、ドラえもん達からの連絡がないことを不安に思ったスネ夫、しずかは、戦車に乗ってピリカにやってきた。戦車の性能を過信したか、よく晴れた海上を堂々と飛行しての移動である。しかし彼らを、潜水艦が狙っていた。ドラコルルから戦車の弱点を伝えられていた潜水艦は、アンテナめがけて熱線を発射! アンテナの直撃を受けた二人の戦車はコントロール不能に陥り、海へ落下、海中に沈んでいった・・・。

 ここまで書けば、「宇宙小戦争」を見ていない人は次のような結末を想像するだろう。パピを処刑し、邪魔な地球人やレジスタンスを始末したギルモアは、ついに皇帝となり、支配体制を確立する。しかし、彼はすぐにドラコルルによって暗殺され(犯人はレジスタンスの生き残りだったとでも発表されるだろう)、ドラコルルはまんまとその座を手に入れ、その野望を達成する。ここまで見ると、どう考えてもそう展開するのが自然であり、そうとしか考えられないのだ。しかしである! 彼の野望は彼の野望は「そんなんありかよ!?」と思わず叫びたくなる、反則と言ってもいいとんでもない大どんでん返しによって、急速に崩壊することになってしまったのだ!

 その原因について語る前に、なぜドラえもん達が小人であるピリカ星人と同じ大きさで戦わなければならなくなったのかを説明しなければならない。実は彼らはパピと同じ視点で話すため、スモールライトで小さくなっていた。しかしドラえもん以下男四人が出払っている時にドラコルル達がやってきて、人質としてしずかちゃんをさらっていくと同時に、スモールライトを持っていってしまったのだ。スモールライトの解除ボタンを押さなければ、彼らはもとの大きさに戻ることができない。「ビッグライトで大きくなればいいじゃないか」というのは、言わない約束である。彼らは何故かそのことに思い至らず、小人のまま戦うことを余儀なくされたのである。

 さて、話をしずかちゃんたちが撃墜されたところまで戻そう。海中に沈みゆく戦車の中で、しずかちゃんとスネ夫は浸水の危機にさらされていた。しかし、ここで予想もつかないことが起こる。なんと彼女たちの体が大きくなり始めたのだ。つまり、もとの大きさに戻ったのである。ウルトラマン並の巨人となった二人は港から上陸し、大騒ぎになった。その知らせは処刑場にいたドラコルル達にも届く(彼らはパピの愛犬、ロコロコが最期の一言として始めた長話のため、まだ処刑を執行できずにいた)。スモールライトがこちらの手にあるかぎり、こんなことはあり得ないと思っていたドラコルルも、さしものこの事態に慌てる。しかしそんな彼らの前でのび太、ジャイアン、ドラえもんが次々と巨大化し、大暴れを始めた。なぜこんなことになったのか? 実はスモールライトの効果には期限があり、それが切れたために彼らが次々と元の大きさに戻ったのだ。さて、こうなるともはや怪獣の大暴れと何ら変わらない。ドラコルルは機甲師団を呼び寄せて攻撃するが、戦闘ヘリはたたき落とされ、戦車は踏みつぶされ、ゴジラに立ち向かった自衛隊と同じく、全く相手にならない。自慢のクジラ型巨大戦艦も持ち出したが、これもジャイアンによって海中に落とされ、ドラコルルは外へと引っぱり出された。こうして彼の野望はあまりにもあっけない最期を迎えたのである。

 スモールライトの効果に期限があった。この降ってわいたような新事実のために、ドラコルルの野望は潰えてしまった。しかし、この展開は避けることができたのではないか? 戦車を分解させ、弱点を調べさせていたドラコルルである。なぜスモールライトは分解調査させなかったのだろうか? しかも、ライトを手に入れたのは戦車よりはるかに前で、調査に使える時間は十分あった。調査の結果、効果に期限があることがわかれば、こんなことにならないように対策もたてられたはずである。謎としか言いようがない。ここまでは優秀な参謀ぶりを見せてくれたドラコルルだけに、まさしく命取りとなったこのミスはあまりにも惜しい。

 ところで、ギルモアはどうなったのか? なんとドラコルルが孤軍奮闘していたそのころ、逃亡しようと空港へ向かっていたのである。敵前逃亡だ。軍人として言語道断である。そして当然、こんな男にも天罰はくだった。ギルモアの車の前に、無数の群衆が立ちはだかった。巨人達の活躍に励まされ、今こそ自由を取り戻すときと立ち上がった市民達だった。そして彼らは手に手に石や棒を持ち、ギルモアの車を壊し、逃げるギルモアを追い回した。権力を失い、民衆の手に落ちた独裁者の運命は悲惨だ。第二次大戦中のイタリアの独裁者、ムッソリーニは、イタリアが敗北すると愛人と共に民衆に捕まり、リンチにされて殺害されたうえ、死体は広場に逆さ吊りにされた。また、ルーマニアの独裁者チャウシェスクも、妻とともに惨殺されるという最期をとげた。ムッソリーニはファシズムを提唱し、ローマ帝国の復興を掲げて首相となった。かつては民衆の熱狂的な支持を受けて独裁者となった彼ですら、その最期はおぞましいものだったのだ。ギルモアの場合は国民に選ばれたのではなく、クーデターを起こして独裁者となった。国民の意思などおかまいなしだったのだ。そしてどうやら、かなりの圧制を敷いたらしい。具体的にそれがどのようなものであったかは描かれていないが、パピ政権下では楽しい国だったピリカが、PCIAと軍隊だけがのさばり、日曜日でも街が閑散としている国になってしまったほどである。相当なものだったに違いない。PCIAが治安維持のためと称し、ゲシュタポや特高警察のようなむごたらしい行為を行った、というようなことは容易に想像がつく。ギルモアに向けられていた市民の憎悪は、ムッソリーニの比ではないだろう。劇中ではさすがに描かれていないが、その最期は目を背けたくなるほど恐ろしいものだったに違いない。だいたい空港に着いたところで、どこへ逃げるつもりだったのか? 作品を見る限り、ピリカは星全体が一つの国のようだ。亡命すべき他国などは存在しないだろうし、たとえあってもどこの国も亡命を許可しないだろう。どこへ行ってもその先で待ちかまえているのは市民の憎悪と、処刑だけである。無能者のくせに独裁者となった身の程知らずには、お似合いの末路である。

 かなり長くなったが、これだけ書けばドラコルルが参謀としていかに優秀な資質をもっているか、理解してもらえたと思う。情報収集能力、作戦立案能力、指揮能力、どれをとっても他の劇場版悪役には彼と並ぶ者はいない。我が組織の参謀は、彼に決まりだ。現実には彼を中心として優秀な者を集め、参謀本部を組織することになるだろう。

 さて、ドラコルルを参謀にすることになった。しかし、いくつか問題がある。一つは、彼が優秀な人間であることそれ自体。どんな組織でもそうだが、優秀な人間は役に立つ反面、扱いづらいという面も持っている。なんだかんだ言っていうことを聞かないかもしれないし、マリナースのイチローや佐々木のように、自分の可能性を試すために外に出ていってしまうかもしれない。組織につなぎ止めておくためには、報酬をはずんでやるしかない。しかし、彼は何を欲しがるんだろう? それがいまいちよくわからない。まあ何にしても、大したものではないだろう。何しろ彼は小人だ。どんなものをあげるにしても、人間より遙かに少なく済むはずだ。所詮、小人のぜいたくなど知れている。領地が欲しいのなら、アメリカの農場でも与えれば十分すぎるほどだろう。女が欲しいとは言わないはずだ。彼にとって、地球の女は皆巨人。巨人と付き合いたい男はおるまい。組織につなぎ止めておくのは、それほど難しくはないだろう。

 もう一つの問題は、威厳だ。繰り返し言うが、彼は小人だ。ところがこれから述べていくが、彼の部下となり、実際に戦う下士官や兵士は強者ぞろい(になるはず)。そんな連中が、いくら優秀とはいえ、けしつぶのような小人の言うことなど聞くだろうか? これでは円滑な命令伝達ができない。しかたがない、こういうシステムにしよう。ドラコルルは表には現れず、立案した作戦を首領のデマオンに伝え、実際に部下に命令するのはデマオン。威厳のある魔王の命令なら、連中も言うことを聞くだろう。それに、このシステムならドラコルルが部下の人心を掌握し、反乱を起こすという万一の事態も防げる。だが、もちろん欠点もある。まず表舞台に出られないのだから、ドラコルルが文句を言うだろう。また、デマオン自身にも、彼の立案した作戦の内容、目的をしっかり理解し、実行するか否かを判断できるだけの利口さが要求される。作戦をちゃんと理解していなければ、不足の事態に対応できないだろう。さらに、このシステムでは誰が本当の首領なのかわからなくなってくる。デマオンとドラコルルには、仲良くしてもらうしかない。組織の運営は、やはりとても難しいのだ。

3.下士官


 近代以降の軍隊において、そのトップである司令官と参謀は直接戦場に赴くことはない。戦場から遠く離れた場所で戦線や後方の状況を確認し、適切な戦略を練る。これが彼らの仕事だ。我らの組織では、大魔王デマオンとドラコルルの参謀本部がこれを担当する。一方で当然、実際に戦場で命を危険にさらし戦う者達がいる。それがこれから述べる、下士官と兵士である。このうち下士官は、刻一刻と変化していく戦場の状況を分析し、小隊などに適切な命令を与えることが仕事である。全体的戦略がしっかりしていても、実際に戦う者とその現場指揮官がしっかりしていなければ、何もならない。

 ところがである。劇場版ドラえもんでは、この立場の者がいるのだが、指揮能力の高い者はいないのだ。みなドラえもん達のたてた罠に面白いようにはまる奴らばかりで、しかもなぜか皆が皆、本人自身の戦闘力の高い者ばかり。単身で敵陣に飛び込んで敵と大立ち回りを演じ、バッタバッタと敵を斬り捨てる一騎当千ぶりを見せる。こんな戦国時代の武将のような真似が指揮官の役目ではない。兵士を的確に動かすのがその役目だ。それなのになぜ、単体での戦闘力の高い奴らばかりなのだろう? ジオン軍と同じく、「武人はいるが軍人はいない」という状況である。

 こうなると下士官というより、特撮でおなじみのあの役職と考えた方がいい。そう、「怪人」である。円道祥之氏の言うとおり、自分達で作っておいて怪人というのもないと思うのだが、下士官は兵士の上、怪人は戦闘員の上なのだから、ポジション敵には同じ位置だ。単体での戦闘力を重視しているという点では、ドラえもんに出てきた悪役の多くは、下士官というより怪人に近いのだ。しかし言うまでもなく、これではまずい。戦術指揮をする者が誰もいない状態で、やみくもに敵につっこむことになる。しかたがない。そんな怪人みたいな連中の中でも、なるべく指揮もできそうな奴を選んで部隊指揮官にあてていくしかない。

 しかしそれにしても弱ったなあ・・・。現場指揮官として優秀さを見せた奴がほとんどいない。ドラコルルぐらいだが、彼は参謀にしてしまっている。ほとんどの場合劇場版悪役が戦ったのはドラえもん達5人だから、戦術指揮を見せる場がなかったというのも確かにそうなのだが・・・腕自慢力自慢ばかりだ。強いて挙げるとすれば、サベール隊長と羅刹女くらいか。

 サベール隊長は、「大魔境」に登場した。悪大臣ダブランダーの親衛隊隊長で、剣の達人だった。剣の達人かあ・・・。確かに勇ましいが、我々の組織が相手にしようとしているのは世界の軍隊とドラえもん達。強力な飛び道具をいくらでも持っている彼らに対して、剣の達人であることがどれだけのアドバンテージになるものか・・・。剣術が実戦において意味を持っていた時代は、すでにナポレオン戦争で終わっているのである。まあ、一応親衛隊の隊長だったのだから、指揮能力はそれなりにあっただろう。しかし彼らの軍事レベルは、せいぜいローマ時代。ローマ時代の軍人に現代戦の指揮は難しい。死ぬ気で勉強してもらうしかない。

 羅刹女(劇場版のパンフレットでは「鉄扇公主」)は、「パラレル西遊記」に登場した。中国妖怪軍団のボス、牛魔王の妻であり、自らも大風を起こすことのできる扇、芭蕉扇を使って戦う。やっぱり彼女も技自慢か・・・。しかし、注目すべき事実がある。なんと彼ら、一度は人間を滅ぼし、世界征服を達成しているのだ。唐の時代にヒーローマシンの中から出てきた彼らは、人間を滅ぼしてしまったのだ。いくら唐の時代とはいえ、これだけ大それた事はバカではできない。ちゃんとした指揮官がいたのだろう。だが首領の牛魔王は、ただ刀を振り回すだけの牛のバケモノ。とてもそんな頭があるとは思えない。これはもう、彼の奥さんである羅刹女が有能だったと考えるしかない。この仮説が正しければ、彼女を戦術士官にあてるべきだろう。

 戦術士官に使えそうな悪役はこのくらいしかいない。当然ながら、世界征服をするには全く足りない。どこの悪役も、いったいどういうつもりだったのだろう。戦術士官もろくに揃えずに世界征服に乗り出すとは。

4.兵士


 実際に戦う者達。彼らこそ戦いの中心であり、花形である。彼らが強くなければ、世界征服などおぼつかない。我が組織の場合、優秀な戦術士官が圧倒的に少ないのだから、ある程度力押しで勝てるぐらいの強さがなければならない。

 今も昔も、戦闘の中心は歩兵である。小銃や大砲などを携行する歩兵達がドンパチやる点では、兵器が進歩した現代でも昔でも変わりない。また、彼らには拠点の占領という重要な役目がある。強力な破壊力をもつ戦車や戦闘機でも、拠点の占領はできない。そういった兵器が突破口を開いた上で歩兵達が突入し、一気に占領する。この繰り返しで領土を増やしていき、やがては征服するのだ。

 我が組織で歩兵を務める者。それは「鉄人兵団兵士」、ここでは「鉄人兵」と呼ぶことにしよう。彼らは「鉄人兵団」に登場したメカトピア星からの侵略ロボット軍団、「鉄人兵団」のロボット兵士である。大きさは人間より二まわりほど大きく、おそらく身長は2mほど。形状は人型で、鉄人つながりというわけではないが、体型はあの鉄人28号によく似た無骨なスタイルである。背中にはグレートマジンガーのスクランブルダッシュにも似た翼がついており、空を飛ぶ。武装は指から発射する熱線と、手に持つハンドキャノン。両方ともビルを破壊できるほどの威力をもっている。そして何より、数が無限なんじゃないかと思うくらい多い。劇中ではその圧倒的な兵力を分割してパリ、ロンドン、ニューヨーク(ただし、誰もいない鏡の世界の)の三大都市を壊滅させた。また、クライマックスでもその圧倒的な数でもってドラえもん達を敗北寸前まで追い込んでいる。

 世間一般での認識では、鉄人兵は単体の戦力はヘボイと言われている。なるほど、たしかに空気砲やらショックガンやら、情けない武器でやられている。しかし、仮にも連中はロボットだ。地球に攻め込んでこようとしたのだから、それなりの戦闘は覚悟し、ある程度の装甲は持っているはずである。それならばドラえもん達が相手ならともかく、普通の軍隊の兵士がもつ小銃に倒れるようなことはあるまい。バズーカや迫撃砲、ミサイル、徹甲弾などをくらえばやられるだろうが、数はいくらでもいるのだ。物量戦が可能なのは、大きな強みだ。第2次世界大戦でもアメリカやソ連はその物量で物量に劣るドイツや日本を敗北に追い込んだ。大量の鉄人兵が横一列にならび、一斉にビルをも破壊する熱線やハンドキャノンを発射すれば、どんな強固な陣地でも木っ端みじんだろう。さらに彼らは、空からも攻撃できる。空を飛べる歩兵なんて、どこの軍隊にもいない。戦闘機とも戦える。小回りはきくし、戦闘機にとっては的として小さいし、優位に立てる。強いじゃないか、鉄人兵。無限ともいえる兵力をいかして物量戦を挑めば、どんな国の軍隊とも渡り合えるだろう。

 地上と空中の敵は鉄人兵で対処できる。しかしいくら彼らでも、水中戦は無理だろう。しかし制海権を握るためには、こちらも水中戦用兵器が必要だ。そこで脚光を浴びるのが、「海底鬼岩城」に登場したポセイドン防衛用兵器、バトルフィッシュと鉄騎隊である。彼らは海底人の国家であるアトランチス連邦が作った兵器。水中で進化し、海を知り尽くした種族の作る兵器以上に優れた水中戦用兵器があるだろうか? バトルフィッシュは、巨大な魚型の潜水艇。腹についたキャノン砲から「何か」(直線状に進む物体。レーザーなのか砲弾なのか、いずれにしても水中では全く効果がなく、その正体は不明)を発射して攻撃する。鉄騎隊は半魚人のロボットというのがふさわしい形状で、大きさは人間大、イルカ型ロボットにまたがって水中を高速移動する。水中戦用兵器らしく、耳がいい。武器はトライデント(三つ又槍)で、格闘戦では無類の強さを発揮するうえ、トライデントの先端から電撃を放射する。現代海軍のもつ兵器など、せいぜい軍用船と潜水艦ぐらい。機動性もスピードもはるかに劣る。敵ではないだろう。また、軍用船や潜水艦を沈める以外にも、バトルフィッシュや鉄騎隊には使い道がある。二つの世界大戦において、ドイツ海軍は「灰色の狼」と呼ばれた潜水艦「Uボート」の部隊に、敵国イギリスに向かう船を片っ端から攻撃させた。いわゆる、通商破壊作戦である。これによりイギリスは物資補給ルートを断たれ、戦時経済に大ダメージを受けた。結局ドイツはアメリカの船まで攻撃してしまったため、それがもとでアメリカの参戦を招き負けてしまったが、この作戦はかなりの効果をあげた。古今東西、兵糧攻めは有効な戦術の一つである。現代においても、特に燃料やゴム、木材などの天然資源の輸送は主に海運によって行われている。ドイツの通商破壊作戦は大西洋で行われたが、バトルフィッシュや鉄騎隊を使って世界中の海でこの作戦を行えば、世界経済に大ダメージを与えられるだろう。日本のようにほとんど資源がなく、輸入に依存しているような国ならば、これだけで降伏するかもしれない(事実、太平洋戦争の敗因もこれが大きい)。効率がいい。さらに鉄騎隊を陸上でも行動できるように改造すれば、上陸作戦など戦術の幅も広がる。海軍はバトルフィッシュと鉄騎隊に任せよう。鉄人兵や鉄騎隊、バトルフィッシュにはもう一つ利点がある。戦闘時には自分で思考して行動するとはいえ、基本はプログラムに従って動くロボットだ。これなら裏切る心配も、脱走する心配も、捕虜になってこちらの情報をしゃべる心配もない。忠実な兵士だ。

 戦争は力押しだけでは勝てない。孫子曰く、敵を知り己を知れば百戦危うからず。敵味方の情報を正しく分析することの重要性を説くこの言葉の意味は、「孫子」が書かれてから途方もない年月の経った今日でも、色あせるどころかますます強まっている。敵がどれだけの兵力で、どんな布陣を敷いていて、今どこにいて、どこに向かおうとしているのか。敵についてのこのような情報を事前に手に入れておき、なおかつ有効な作戦をたてて戦えば、何も考えずに力押しで攻めるのに比べてはるかに少ない戦力、少ない時間で、最低限の損害におさえて勝利を得ることができる。また、ただ情報を入手するにとどまらず、敵の中に味方を潜り込ませて敵方の情報を入手したり、ニセ情報で敵を混乱させるという方法もある。いわゆるスパイ活動だ。有名なソ連軍のスパイ、リヒャルト・ゾルゲは日本でスパイ活動を行い、発覚して処刑される1941年まで本国に情報を送り続けた。また、第二次世界大戦も末期、ドイツ軍は「グライフ作戦」と呼ばれる作戦を実行した。これは一言で言えば「ニセアメリカ兵作戦」で、アメリカ兵の中に身振りからスラングまで何もかもアメリカ兵に見えるように訓練したドイツ兵を潜り込ませ、デマを流したり標識を変えて道に迷わせたりするものだった。せこいように見えるが、アメリカ兵に化けたドイツ兵を見つけだすため、現場は相当大騒ぎになったらしい。そして大戦後、アメリカはCIA、ソ連はKGBという情報機関を設立し、冷戦下で激しい情報戦を繰り広げたのである。世界征服などという大それたことをする以上、こちらも力押しばかりではいられない。スパイとして役に立つ人材を見つけよう。

 幸いなことに、劇場版悪役の中にはその役目にピッタリな者がいる。劇場版悪役は不思議だ。上層部は役立たずばかりなのに、実際に戦う者達には見るべきところの多い者が意外に多いのだから。さて、肝心のスパイとして役立つ悪役とは誰か。それは「銀河超特急」に登場した寄生生物、ヤドリである。ヤドリは脳だけで生きる小さな知的生命体で、通常はおもちゃのUFOのようなものに乗って移動する。肉体的には最弱の悪役である。しかし、こいつらは他の生物にのりうつり、意のままに動かすことができるというおそろしい能力をもっており、これがヤドリにとって唯一最大の武器である。この能力はスパイとして実に役立つものであり、劇中でもその能力をいかして宇宙の辺境にある星のテーマパーク、ドリーマーズランドを乗っ取っている。彼らは侵攻前にまず一体のヤドリを送り込み、ドリーマーズランドのセキュリティ担当職員にのりうつった。職員の体を手に入れたヤドリはセキュリティシステムを破壊し、それによって、無防備となった星へとヤドリ本隊はやすやすと侵攻し、占領できたのである。これはまさにスパイの任務の一つ、謀略工作である。ヤドリ達はまさしく、天性のスパイなのだ。

 ヤドリが人間のスパイよりも優れている点はいくつかある。人間のスパイの場合、目的の集団に潜入するために、ニセの身分証明書を作ったりいろいろと手間がかかる。それに比べてヤドリ達は、そんなことをする必要がない。その集団の中に元からいる誰かにのりうつればいいだけだ。また、通常のスパイはスパイであることがばれないように、日常生活においても細心の注意を払わなければならない。この点はヤドリも同じだが、人間のスパイほど神経質にならなくてよい。もしばれそうになっても、今までのりうつっていた人から別の人へとのりうつれば、スパイ活動を続けることができる。そしてなんといっても有利なのは、その数。なんとヤドリは、全人口800万人もいるという。つまりヤドリ全員を召し抱えれば、小さな国の国民全員と同じ数のスパイを召し抱えることになるのである。こんな数のスパイを擁している国などどこにもない。普通スパイは軍組織内部へと送り込んだり、あるいは軍関係者を買収してそこから情報を入手したりするが、これだけ数がいれば軍関係だけでなく政治家やマスコミ、役所など、もっといろいろな集団の内部へとヤドリを送り込み、社会を大混乱におとしいれることができるだろう。その隙に鉄人兵達が攻め込めば、侵攻ははるかにスムーズに進むはずだ。

 主力兵器は鉄人兵達だが、主力兵器とは別に切り札と呼べるような特別なものも欲しい。これについてもあてがある。やはり鉄人兵団のもつ巨大ロボット「ジュド」だ。工作用ロボットだと鉄人兵団は言っていたが、その割にはやけに外見がかっこよく、レーザー砲まで装備していた。ジュドはひょんなことからのび太達の手に渡って改造され、彼らの強力な味方「ザンダクロス」として鉄人兵団と戦った。世界征服用に作ったロボットが正義の味方に。このようなパターンは特撮でよく見られる。「ジャイアント・ロボ」に登場した巨大ロボット、ジャイアント・ロボは、もともと悪の組織BF団が世界征服の切り札として作ったものだったし、「大鉄人17(ワンセブン)」に登場した大鉄人17も、人類抹殺を企むブレイン党が17番目の侵略ロボットとして作ったものだった。ジュドもロボや17と同じ様な素性だが、もとは鉄人兵団のロボット。ロボや17と比べれば強さで見劣りするが、現代の軍隊が相手なら十分通用する。できれば量産して、本来の役目である悪のロボットとして活躍してもらいたい。

 残りの戦力としては、「魔界大冒険」に登場した下級悪魔達をあてよう。それなりには強いので、警備などにあたらせることにする。

5.科学者


 兵士もそろい、これで実戦部隊は整った。残るは新兵器開発を行う頭脳集団、科学者達である。

 特撮やアニメに登場した悪の組織は、世界対一組織という圧倒的な戦力差を埋めるために、強大な科学力をもっていた。ショッカーには死神博士を筆頭とする科学班がいて、次々と新しい怪人をうみだしていた。有名な悪の科学者としては他にもダークのプロフェッサー・ギル、ブレイン党のハスラー教授、モンスター軍団のマッドサイエンターなどがいる。首領から幹部までみんな科学者という、武装頭脳軍ボルトなんていう組織まで存在した(ここはマイナーながら、一度は世界征服を達成するという快挙を成し遂げている)。また、画面には出てこなくてもどこの組織も高い科学力を有していたのだから、それなりの科学陣をそろえていたはずである。我が組織鉄人兵などの強力な兵器を持っているが、兵器というものは常に10年先を見越して開発しつづけていくものだとされている。さらに新兵器を開発して戦力増強をはかるためにも、優秀な科学者が必要である。

 劇場版ドラえもんに登場した、科学者と呼べる人材は約3名。「大魔境」に登場したコス博士、「ブリキの迷宮」に登場したナポギストラー博士、「南海大冒険」に登場したドクタークロンである。一人ずつどんな人物か評価していこう。

 まず、コス博士。彼はアフリカの奥地にある犬の王国の科学者で、悪大臣ダブランダーの命で世界征服用の兵器を作っていた。おそらくシーズー犬から進化したと思われるが、まったくかわいげのない、意地の悪そうな顔をしている。さて、彼はどんな兵器を作ったのか。実は王国では、その始祖であるバウワンコ1世が兵器開発を禁止したため、その後数千年間にわたって剣や槍などの原始的な武器をのぞき、兵器というものが存在していなかった。悲しいことだが、戦争中に進められる新兵器開発は科学を進歩させる大きな原動力である。兵器開発禁止令は犬の王国を平和にしたが、同時に科学の発達を大きく阻害したらしく、そのために犬の王国は建国から数千年を経ているにも関わらず、文明レベルは古代ローマ時代レベルである。そんな状況でコス博士はいきなりダブランダーから兵器開発を命じられたのだろうが、そのために必要な資料や技術の蓄積は当然ながらまったくのゼロ。彼は悩んだに違いない。そしてその末に目をつけたのが、兵器開発禁止令以前に作られていた兵器、「空飛ぶ船」と「火を吐く車」。「空飛ぶ船」は、船にローターを何本か取り付けて飛べるようにしたもので、木製。「火を吐く車」は、戦車をそのまま木製にしたような兵器である。どちらも火炎放射器が主な武装。彼はこれらの兵器を復元して、そのまま世界征服用兵器としたのである。たしかに、数千年前にこんな兵器を擁していれば、世界征服など簡単だったろう。しかし、今となってはこんな兵器で世界征服に挑むのはあまりにも無謀である。信じられないことに彼らは、自分達が攻め込もうとしている人間の世界がどんなものかを調査する偵察隊などは一切送らず、内輪だけで完成した兵器を見ながら、「これなら外の世界にどんな兵器があっても恐れるに足りん」などと悦に入っていた。井の中の蛙ぶりにもほどがある。人間の世界にはマッハで空を飛ぶ戦闘機や、強固な装甲と大砲を装備した戦車、驚くほど正確に目標を破壊する戦術ミサイルのような、その前にあっては犬の兵器などおもちゃに見えるような兵器がうじゃうじゃいる。もし偵察を出していたら、彼らは自分達のあまりの身の程知らずさを知り、穴があったら入っちゃっただろう。だいたい彼らの兵器も、相当に不合理である。二つの兵器はどちらも木製。なのに武装は火炎放射器。もし向かい風の強風が吹いているときに火炎攻撃をしたら、自分達が燃えてしまう。密集も厳禁だ。仲間内で火事になるばかりで、戦わずして自滅である。偵察はださないわ、兵器は役立たずだわで、こいつら本当に世界征服をする気があったのか疑いたくなってくる。結局彼らの無謀な野望はドラえもん達によって阻止されたが、幸いなことだ。これ以上ないというみじめな圧敗(圧勝の反対。勝手に作った言葉)ぶりをさらすよりはよっぽどましな負け方である。このあまりにも穴だらけな計画ぶりはトップであるダブランダーのせいである点が大きいが、コス博士にもその責任は大きい。いくらノウハウがないからとはいえ、復元した大昔の兵器に何も改良を加えずにそのまま使用しようというのはあんまりである。もしかしたら復元するのがやっとだったかのかもしれないが、どちらにしても我々の組織にとっては用なしである。

 ナポギストラー博士。彼はおそらく宇宙一ずぼらと思われる種族、チャモチャ星人によって作られた発明用のロボット博士である。人間のために便利な道具を作るという立場を利用して人間を弱体化させ、ついにはロボットの反乱を起こして自ら皇帝ナポギストラー1世を名乗り、チャモチャ星を支配してしまった。しかし残念ながら、彼は科学者としては優秀だったが、皇帝としては無能だった。ドラえもん達の攻撃に対して為す術もなく、ついには訳の分からないコンピュータウィルスによってロボット軍は全滅してしまった。もっとも、こういう話はよくある話である。あのヒトラーも、政治家としては天才だったが、軍事にも首を突っ込みたがったために戦線に混乱を起こしたことがある。何かの分野で天才と言われた人間は、他の分野でも自分は天才だと思いこみ、大失敗をするものなのである。困ったものだ。まあそれはともかく、ナポギストラーは少なくとも科学者としては有能である。組織に引き抜いて、鉄人兵などの強化改造や、新型戦闘ロボットの開発を担当してもらおう。

 ナポギストラーがロボット工学担当なら、ドクタークロンはバイオ兵器担当である。彼は17世紀カリブ海の秘密基地で、輸出用の改造生物をつくっていた。彼の改造生物製造法は特撮界ではいたってオーソドックスなもので、二種類の生物を合体させて新しい生物を作る、というものである。ワニやらゾウやらトラやら、なるべく強そうな動物を合体させようといろいろと苦労していたようだ。自信作はどんな生き物を混ぜて作ったのかよくわからない「リバイアサン」。はっきりいってあまり優秀な科学者とは思えないのだが、バイオ分野で使えそうな科学者は彼しかいないのだ。とにかく、これで中心となる
科学者はそろった。

 首領、参謀、下士官、兵士。科学者。世界征服の中核となるものたちはそろった。残る問題は輸送と補給。どちらも裏方の仕事のため軽く見られがちだが、これが滞ってはスムーズな侵攻ができない以上、場合によっては実際の戦闘以上に重要である。これらの業務の専門家がいれば心強いのだが、あいにく
悪役の中にはそういう奴らがいない。鉄人兵団はメカトピア星から地球までワープを繰り返しながらや
ってきた。ということは、ワープ技術をもっているのだ。これさえあれば、輸送機などは必要ない。兵
器だろうが補給物資だろうが、どこに何を送るかさえちゃんと管理されていれば、どこへでも一瞬にし
て送り込める。肝心の輸送計画を誰が立案するか。こうなったら、ドラコルル配下のPCIA隊員達に
やってもらおう。彼の部下ならばそれなりに鍛えられているだろうから、役には立つはずである。

かくして、劇場版悪役を束ねた(自称)最強の組織が誕生した。まとめてみると、次のような組織構成
だ。

役職 担当者
首領 大魔王デマオン
参謀 ドラコルル
下士官 サベール、羅刹女、その他
兵士 鉄人兵、バトルフィッシュ、鉄騎隊、ヤドリ、下級悪魔
科学者 ナポギストラー博士、ドクタークロン

自分で設定した悪の組織だが、あらためて見ると無秩序きわまりない。首領が魔王、参謀が小人、下士官や兵士にいたってはロボットや妖怪、異星人、はては犬までまざっている。いいとこどりをしたはいいが、こんなにバラバラなメンバーで構成された組織できちんと統制がとれるか、不安になってくる。同じようにロボットや怪物など、様々なメンバーで構成された軍団をもつ「超人機メタルダー」のネロス帝国では、ヨロイ、戦闘ロボット、モンスター、機甲の四つの軍団は互いに仲が悪かった。特に軍団長ゲルドリング以下ほとんどが卑怯者というモンスター軍団と、軍団長バルスキー以下正々堂々とした奴の多い戦闘ロボット軍団とは、犬猿の仲だった。これがもとで滅亡するようなことはなかったが、あまりいいことではない。どう組織をまとめていくか、デマオンとドラコルルの手腕が試されるところだ。

とにかく、組織はできた。最後に名前を決めよう。悪の組織にはいかにも強そうで怖そうな名前が不可欠である。我が組織の名前は、どんなものにしようか。やはり首領のデマオンが悪魔なのだから、悪魔にちなんだ名前をつけたい。英語で「悪魔の」という形容詞にdiabolicというものがある。これをもじって、ディアボリスというのはどうだろうか? 悪魔結社ディアボリス。これでいこう。「ダサイ!」と文句のある方は、メールか掲示板で文句をぶつけてください。もっといい名前があるのなら、それに改名しましょう。

(2)侵攻開始


 ついに誕生した悪魔の軍団、ディアボリス。大魔王デマオンのもとに集結した、一度は敗れ去りし悪の戦士達が甦り、世界を征服せんと再び行動を開始する。彼らの力を最大限にいかせる作戦をたてて、世界征服に乗り出そう。

 征服には、準備が必要である。できるだけ敵の情報を多く収集し、敵の内部で破壊工作を行う。つまりはスパイ、ヤドリ達がその先兵を務めるのだ。

 侵略はある日突然、誰にも気づかれないほど静かに始まる。夜の闇にまぎれて、無数の小さなUFO達が自らの宿主となる人間を求め、あらゆる場所から侵入する。そして人間の側に近づき、光線を発射して、その人間の体をのっとるのだ。

 そのターゲットとなる人間は、いくつかある。最重要ターゲットは、軍関係者。各国の国防大臣や将軍、軍事基地の司令官などにのりうつれば、軍の最重要機密を余すところなく盗み出せるだけでなく、実際の侵攻開始後、意図的に事態への対応を遅らせたり、メチャクチャな命令を出して前線を混乱させることができる。指揮系統の混乱した敵軍など、烏合の衆にすぎない。さらに、基地の兵器整備員にものりうつっておくべきである。基地の兵器に何らかの細工をしておけば、敵兵器を封じることができる。オペレーターにものりうつっておこう。ニセの情報を送って混乱させるのだ。以上のような工作によって、敵軍はほぼ無力化できる。

 さらに、政治家、マスコミ関係者にもヤドリを宿らせておく。政治家に宿ったヤドリは、各国の内政を混乱させて、国家の機能をマヒさせる。マスコミ関係者のヤドリは、マスメディアを通じて大規模にデマを流し、市民を大混乱におとしいれるのだ。

 以上のような工作によって全ての社会システムを破壊すれば、もはや人類に組織的抵抗はできまい。さらに仕上げとして、残ったヤドリ達は適当に一般市民の中にまぎれこむ。のりうつってからしばらくはおとなしくしていて、ある日突然、隣人に襲いかかる。何くわぬ顔をして生活している隣人が、もしかしたら異星人にとりつかれているかもしれない・・・。そんな不安にとりつかれた人間はどうなるか。不安は疑いへ、そして疑いは狂気へと変わる。原作版「デビルマン」の終盤で起こったあの恐ろしい惨劇を知っている人なら、その先に起こる出来事は容易に想像できるだろう。信頼関係が崩壊しただけで、人間は絶滅しかねないのだ。

 信頼関係が崩壊し、互いに疑心暗鬼におちいり、殺し合いをしている人類など、ディアボリスの敵ではない。そしてその混乱に乗じて、ディアボリスは総攻撃を始める・・・。

 総攻撃は同時多発的に、奇襲によって行う。ヤドリ達によって弱体化した人間達を、電撃戦で制圧する。第一攻撃目標は、軍事施設。軍はすでにヤドリによって無力化されているが、完全に壊滅させる必要がある。沿岸部の海軍基地の攻撃には鉄騎隊を投入。組織的抵抗をする者は、完全に壊滅させるのだ。次の目標は、鉱工業地帯。「機動戦士ガンダム」で、独立自治の獲得を叫んで地球連邦政府に宣戦布告したスペースコロニー国家、ジオン公国は、第一次地球降下作戦でオデッサを中心とする黒海沿岸地域を征圧した。この地域は資源の宝庫。ここを押さえることは連邦軍の戦時経済に甚大な被害を与えるだけでなく、資源に乏しいジオン軍にとって大きな資源補給拠点を得ることをも意味していた。ジオン軍は後に連邦軍が「オデッサ作戦」でこの地を奪回するまで資源を採掘しつづけ、ジオンの戦時経済を支えた。ディアボリスにとっても、各地の鉱工業地帯の征圧は重要だ。人間の資源補給を断つのである。また、手に入れた生産施設を使って鉄人兵達を現地で大量生産すれば、一石二鳥である。さらに、都市部も集中攻撃。特に電気、ガス、水道といった都市インフラの拠点、空港、鉄道、道路、港などの輸送施設は徹底的に破壊する。都市機能を失った都市の征圧などたやすいことだ。まとめると、特に電撃作戦で目標を一気に絞り、人間の組織的抵抗力を奪うことに緒戦は努めるべきである。孤立した敵をたたいていくのは時間がかかるが、これほどのことができる組織、ディアボリスにとってはたやすいことだ。

 ディアボリスの世界征服にとって、特別に重要なことがある。それはドラえもん達の対処である。これを怠ったまま侵略を始めても、彼らによってまた劇場版の二の舞を踏むことになるかもしれない。彼らへの対処は、その開始前にすませておかなければならない。幸い、それは簡単だ。ヤドリの一人をのび太に乗り移らせ、隙をみてスイッチになっているドラえもんの尻尾をひっぱり、機能を停止させる。あとは破壊するなりなんなりすれば、もはや怖いものなど何もない。また、四次元ポケットをその際に手に入れておく。悪役の中にも四次元ポケットの奪取に成功した者がいたが、彼らは今一歩知恵が足りなかったらしく、ドラえもんの力の源とも言えるポケットを奪うにとどめ、その中に入っている道具で自らの戦力強化を図った者は一人もいなかった(秘密道具の使い方がわからなかった者もいる)。無数の武器の入った箱を手に入れておいて開けないなど、まさに宝の持ち腐れである。さすがに地球破壊爆弾は威力が高すぎて使い物にならないが、熱線銃やジャンボ・ガン、年月圧縮ガン、ヒラリマント、バリアーポイントなどの武器を手に入れて研究、大量生産すれば、ディアボリスの戦力は飛躍的に進歩するだろう。だが、注意したいことがある。四次元ポケットには何かの精霊でも憑いているのか、奪われた
り落としたりしても必ず、取り替えされるなりなんなりして持ち主の元に返ってしまうのである。この事態を防ぐためには、本当に役立つ道具だけを取りだし、ポケットはスペアも含めてすぐに燃やしてしまうべきである。

 無数の鉄人兵達が各地を破壊し、鉄騎隊が海を荒らし、ジュドが街をガレキへと変えていく。そしてごく普通の市民の中に潜むヤドリに対する恐怖が、人々を次々と狂わせていく・・・。人類はどんどん追いつめられていくが、頼みの綱の軍隊はすでに無力化され、ドラえもんはすでにいない。やがて、世界征服は完了する・・・。

(3)世界征服、だが・・・


 かくして、シミュレーション上では世界征服は達成された。多くの悪の組織が挑み、散っていった困難な目標、世界征服。それをあくまでもギャグマンガであるドラえもんに登場した悪役達が達成してしまったのだ。これは恐るべきことである。

だが・・・世界征服を達成した悪魔結社ディアボリスも前途には、思わぬ障害がまだまだ待ちかまえているのである・・・。

 まず、人間を征服しただけでは、「ドラえもん」の世界では世界征服を達成したことにはならない、ということである。どういうことかというと、実は劇場版ドラえもんには、我々人類とは違う知的生命体が3種(正確には4種)登場しているのだ。当然彼らは、我々の生活圏内には存在しない。我々人類が近寄ることもないような場所に国を築き、我々とは接触を断って暮らしているのである。世界征服というからには、地球全土を支配下におかなければならない。当然その目的を達成するためには、彼らと戦い、そのテリトリーを奪わなければならない。

 まず強敵と言えるのが、「海底鬼岩城」に登場した海底人の国家、ムー連邦。大西洋に拠点をもっていたアトランチス連邦に対し、ムー連邦は太平洋に拠点をかまえている。建国以来数千年がたっているにも関わらず、いまだ建国当時の文明が続いているという恐るべき国家である。当然、国力もあるだろう。一筋縄ではいかないはずだ。しかし、地球の表面の7割は海である。広大な海を手に入れ、完全な支配を達成するためには、ムー連邦の打倒は必要不可欠である。

 作品の中の地球には、海底だけでなく地底にまで知的生命体が潜んでいる。「竜の騎士」に登場した、絶滅から免れて進化した恐竜たち、恐竜人がそれである。彼らの文明レベルは中世ヨーロッパ程度なのだが、あなどることはできない。ほとんどの技術が中世ヨーロッパレベルにも関わらず、なんと彼らはタイムマシンを持っているのだ。このあまりの技術力のアンバランスさを説明する術はないが、とにかく油断は禁物である。

 かつては地球上に存在していたが、今はいないという知的種族もいる。「雲の王国」に登場した天上国の住民、天上人は、かつては我々と同じ地上で暮らす人間だったが、なにかの要因で雲の上に住めるようになった人類である。科学技術は22世紀のものに匹敵するのではないかと思うほど発達しており、宇宙人とも国交をもっていた。戦うとしたら最大の敵となっただろうが、幸いながら、彼らは今はもう地球にはいない。「雲の王国」での事件後、植物星に移住してしまったからである。ディアボリスはここでも運が良かったようだ。

 このように、完全な世界征服を達成するためには、少なくとも海底、地底に住む二つの種族と戦わなければならないのである。この戦いがどのような結末を迎えるのか、それは予想しかねるが、いずれにせよ、地球から戦火が消えるのは時間がかかるようである。

仮にこの二つの種族を滅ぼし、世界征服を達成したとしても、問題は続く。いや、「支配の完成」という課題が、「支配の維持」という新たな課題に切り替わるだけである。

 支配の完成という行為自体は、確かに困難なものであるが、ある意味では簡単だとも言える。第2次大戦当時、ドイツ軍は電撃侵攻作戦によってイギリスを除く西ヨーロッパほぼ全域を占領した。しかし、支配体制の維持は、とても難しいのである。戦争継続のための負担は、占領地の住民にも重くのしかかる。財産や家を取り上げられるだけでなく、大事な男手を徴兵されることもある。占領地の住民は力ずくで押さえつけられてもいるので、当然どんどん不満や憎悪が高まっていく。遅かれ早かれ、それが爆発するときがやってくる。ドイツ占領下のヨーロッパでは、パルチザンと呼ばれるレジスタンス達が、鉄道の爆破などゲリラ的な破壊工作を行い、ドイツ軍を苦しめた。また、ドイツの敗色が濃厚になり、連合軍がパリに近づくと、パリ市民は一斉に蜂起し、パリを自分達の手に取り戻した。だが、この時には一部のパリ市民がドイツ兵やドイツ兵と親交のあった女性をリンチするという悲劇も起こっている。当然、占領下の市民に圧政など敷いたら、その不満もそれに比例して大きくなる。だから賢い軍隊は、占領地に過酷な要求をつきつけることなく、破壊された建物の修復を手伝ったりするなど、いろいろと占領地の民生に心を砕く。ディアボリスも民生については考えなければならないだろう。

 ところがである。何しろ彼らは人間ではない。人間でない奴らが侵略を行ったら、一体その地域の人間に何をするのだろうか? そのヒントは、アニメや特撮で数多く見られる。代表的なのは、「新造人間キャシャーン」に登場し、ヨーロッパを支配したロボットの軍団、「アンドロ軍団」で、彼らは占領下の人間を徹底的に虐待していた。ロボットが反乱を起こしたら、人間などどうでもいいだろうということは容易に想像がつく。同じように反乱を起こしたチャモチャ星ロボット軍も、虐待こそしていないが人間を強制収容所に収容していた。どう転んでも、人間との平和的共存など考えてはくれないだろう。それどころか、皆殺しにされる可能性もある。むしろ、その可能性の方が高い。なにしろ、「魔界大冒険」では、デマオンの部下の悪魔はしずかちゃんら捕らえた人間達を祝宴の料理にしようとしていた。これから察するに、人間など連中にとっては食用の家畜程度ということだろう。「魔界大冒険」でもデマオンら悪魔は地球侵略を企んだが、残念ながらその目的は明らかにされていない。しかし地球を占領して無理矢理地球人達に自分達の作った製品を買わさせたり、鉄人兵団のように労働力として人間を捕まえようという目的でないことは明らかだ。人間を皆殺しにして、領地や資源を得ようとしていたというところが、妥当な侵略目的だろう。ディアボリスの首領はデマオンだ。当然、侵略目標として同じことを考えるだろう。地球人を絶滅させるとヤドリがうるさいだろうから、彼らが乗り移るための一部の人間以外は皆殺しにしてしまうに違いない。自ら設定したが、なんという恐ろしい組織だろうか。

 さらに、例え外部の敵を排除しても、今度は内部に敵があらわれる。巨大な組織に、内部争いはつきものだ。ディアボリスはさまざまなメンバーで構成されており、それぞれがそれぞれの野望を抱いている。思い通りに動かせるロボットは別として、ドラコルルは前述した通りの野心家。ヤドリ達も一族すべてを何かに乗り移らせ、大帝国を築くことを目標としているに違いない。人間は共通の問題があるときは、結束してその問題に取り組むが、ひとたびそれが解決してしまえば、それぞれの主張を掲げ始める。第2次大戦の時には協力してドイツと戦ったアメリカとソ連も、戦争終結後は領土分配でもめ、ついにはあの長く続く冷戦を引き起こした。同じように、互いに反目していた中国の共産党軍と国民党軍は、日中戦争では協力して戦ったが、太平洋戦争が終わった途端に、再び戦いを始めている。世界征服が達成されれば、今度は内部での権力争いがおこるだろう。もしかしたらドラコルルやヤドリが離脱して、第3の勢力が現れるかもしれない。はたしてデマオン率いるディアボリスがその支配を完全なものとするか、それともドラコルルやヤドリがとってかわるのか・・・。こればかりは、我々の予想を超えたことだ。

 また、人間達もただ滅びを待だけではない。生存の権利さえ許さないような相手を前にしたとき、人は恐ろしい力を見せる。反抗の芽は、必ずどこかで芽吹くものである。軍隊を滅ぼし、ドラえもんが倒れたとしても、それだけでは真の勝利とは言えない。ある正義のヒーローは「悪のあるところ必ず現れ、悪の行われるところ必ず行く」という言葉を決めぜりふにしていた。世界を覆う闇があるならば、それを晴らす光もまたあらわれる。正義と悪は一対である。歴史上、悪が滅びたことがなければ、正義が滅びたこともないのである。どんなに弾圧を加えたところで、人に宿る自由を求める心は消せない。ディアボリスもまた、地球の歴史で延々と繰り返されてきた因果律から逃れることはできないのだ。

 「ドラえもん」の悪役達に世界を征服することはできるか? このテーマについて研究した結果、メンバーと作戦さえ十分に考えれば、理論上はおそろしく大規模な世界征服が可能だという結論に達した。意外かつ恐ろしい結論に、我ながら驚いている。自分で効果的な作戦を考えていて、背筋が寒くなった。やはり世界征服などという言葉は、悪の組織のたてまえとして存在しているのがちょうどいいのである。あらためて平和というものの大切さを理解することができた。よい子は今回述べた内容を本気にして、実践しないように。

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