ポケットの中の喧噪・外伝2 宇宙のソドム


 詳しくはこの後の外伝3で述べるが、「劇場版ドラえもん」でこれまでドラえもん達5人は様々な大活躍を見せてきた。最初はのび太の育てた首長竜の子供を恐竜時代へ返してやるくらいのことしかしていなかったが、徐々にその活躍は華々しくなっていった。過去の世界で悪事を働く時間犯罪者の組織を壊滅させるなどほんの序の口。鏡の世界から攻めてくる侵略ロボット軍団から地球を守ったこともある。人助けは人間だけに限らない。クーデターによって失脚した犬の王国の王子や、異星の若き大統領の復権も手伝った。なんとすばらしい戦績だろうか。過去の世界だろうが宇宙だろうが、どこでも連戦連勝。時間犯罪者、宇宙人、侵略ロボット軍団、魔王や妖怪の軍・・・。こんな連中をたった一体のロボットと4人の子供が撃破し、世界の平和を守っているのだ。強い。これまでアニメや特撮では数々のヒーローが登場してきたが、ここまですごいヤツはおるまい。間違いなくドラえもん達こそ、最強のヒーローだ。

 彼らは常に見返りを求めることなどせず、ただ自分の出会った世界の人達を守るという純粋な理由だけで、多くの人々を助けてきた。だが、はたして彼らの助けた人々の全てが、彼らが命の危険を冒してまで守るべき人々だったのだろうか?実は、そうではないのではないか?と思う人々がいる。彼らの名はチャモチャ星人。外伝第2弾では、彼らがどんな人々であったかを紹介する。

 チャモチャ星は「のび太とブリキの迷宮(ラビリンス)」に登場した惑星である。物語の大筋はこんなものである。のび太たちがひょんなことでその存在を知り、宿泊したブリキのおもちゃ達が働く不思議なホテル。それはチャモチャ星からやってきた少年、サピオの宇宙船だった。サピオはのび太達に母星の危機を訴え、助けを求める。途中ドラえもんが敵にさらわれ壊されたり、ジャイアンとスネ夫がはぐれてチャモチャ星のサンタクロースに助けられたりと紆余曲折があったが、ついに5人は再会。いつものように脅威的な強さを発揮して見事チャモチャ星を支配していた敵を倒し、囚われていた人々を救うのだった。それでは、チャモチャ星の危機とはいかなるものだったのか。ここでは劇中サピオがのび太達に語った内容を、少し推察を加えながら紹介していく。

 チャモチャ星は地球から遠く離れているが、地球によく似た惑星である。そこに暮らすチャモチャ星人もまた、地球人となんら変わりはないようだ。ただ彼らもまた他の作品に登場した数え切れないほどの宇宙人と同じく、科学力は地球よりも発達していた。そのくせ、町並みや人々の衣服は戦前のヨーロッパのような雰囲気だが。それはともかく、チャモチャ星の科学の中でも特に進んでいたのはロボット工学だった。彼らは様々な現場にロボットを導入し、自分たちの代わりに働かせていた。まぁ、それは当然だ。現に地球でも様々な場所、特に工場で工業用ロボットが活躍している。なにより、極端な話で言えば人間の歴史というものはいかに楽をするか、いかに怠けるかを模索し続けてきたものだといってもよい。ところが、彼らの場合それが常軌を逸していた。彼らの社会システムの全ロボット化は農業や工業といった現場にとどまらず、なんと警察や軍隊まで波及していったのである。治安維持や国防までロボットにまかせるとは、なんとずぼらな。さらに、彼らのずぼらさはとどまるところを知らなかった。様々な発明をしてきた彼らだったが、なんと発明することまでめんどくさくなり、自分たちの代わりに発明をしてくれるロボット博士、ナポギストラー博士をつくりだしたのだ。あきれた連中だ。まさに宇宙のソドムである。こいつらを見ていた神様もそう思ったのか、彼らには天罰が下ることになった。発明をするためには、自分でものを考えねばならない。そして自分で考えることができるということは、自分の意志をもっているということである。もうおわかりだろう。ナポギストラー博士は、自らの意志で活動できるのだ。そして古今東西、自分の意志を持ったロボットのとる行動はただ一つ。人間に対する反乱である(ドラえもんは例外だが)。ナポギストラー博士も例外ではなく、そのための行動を開始した・・・。

 まず博士が発明したものは「イメージコントローラー」、略して「イメコン」である。これはICのような形状のもので、これを指先にのせてなにか思うと、自分の周りにいるロボット達がその通りの行動をとる。例えば「コーヒーが飲みたい」と思えば、ロボットがコーヒーをいれてもってくる。確かに便利だが、こんなものがあるとますます体を動かす機会がなくなり運動不足になって体力が低下する。これが博士のねらいだった。もともとあきれるほどずぼらなチャモチャ星人がこれにとびつかないはずがなく、イメコンは瞬く間に普及していった。まさに博士のおもうつぼだ。だが、こんな連中の中にもよくできた人はいるもので、博士の企みに気付いた人物がいた。サピオの父、ガリオン公爵である。彼は大統領にイメコンの使用の即時中止を訴えたが、とりあわない。そこに博士が現れ、人間を乗せて移動する新発明のカプセル(もちろんこれも彼の人間弱体化計画の一環)に彼を乗せ、どこかに運んでいってしまった。しかしハゲでアホそうなヒゲの大統領は「これは便利」などと喜んでいる。あいた口がふさがらない。そしてついに博士は行動を開始した。自らの発する電波で全てのロボットを操れる彼は一気に攻撃を開始した。彼の計略によって弱体化したチャモチャ星人などロボット軍団の敵ではなく、あっというまに捕らえられ、強制収容所にぶちこまれた。そして博士は皇帝ナポギストラー1世を名乗り、こうしてチャモチャ星はロボットの支配する惑星となった。しかしそれ以前にチャモチャ星を脱出したサピオと彼の召使いロボット達は助けを求めるために地球へとやってきたのだ。

 チャモチャ星人は確かに苦しんでいる。しかし、個人的にはどうも彼らを助けるのは気が進まない。なにしろ、自分たちのどうしようもないずぼらさが招いた災難で苦しんでいるのだから、自業自得だ。両親を囚われ、自らもロボット軍に追われているサピオには悪いが、天罰てきめん、こんな連中は自分の作ったロボットに支配されてしまえ、と正直思ってしまう。しかし寛大にものび太たちは彼らを助けるためロボット達に綿密な作戦を立てて戦いを挑んだ。まず、改造してビッグライトで巨大化させた怪獣のおもちゃをジャイアンとスネ夫がラジコンで操って市街地を攻撃、軍の注意を引きつける。そのすきにのび太とドラえもんは秘密兵器を携え、ナポギストラーの宮殿に向かった。秘密兵器とはサピオのホテル内にある全長184kmのラビリンスの奥に隠されていたCD−ROMであり、その中にはガリオン公爵がロボットの反乱が起きたときのためにつくっていたコンピューターウィルスが入っていた。ドラえもんはこのCD−ROMをパチンコとミニドラえもんを使ってナポギストラーの口の中のCD−ROMドライブに入れることに成功し、脱出する。怒ったナポギストラーは全ロボットに収容所の攻撃を電波を発して指令したが、すでに収容所の人々はしずかちゃんによって救出されていた。しかもこの指令を出させることこそ、ドラえもんのねらいだった。コンピューターウィルスは電波に乗って全てのロボットに感染し、ナポギストラーを含む全てのロボットは機能を破壊された(このウィルスは感染したロボットが童謡の「糸まき」の歌を歌いながら壊れていく、というわけのわからんものだった)。こうしてチャモチャ星に平和が戻ったのである。

 しかし私の見た限り、チャモチャ星のロボット軍団は劇場版に登場した数々の敵の中でも最弱の部類に入る。作品前半でこそドラえもんを敵に捕らえられ苦戦していたのび太達だったが、ドラえもんを救出した後では先ほど紹介した怒涛の進撃で(ウィルスの力もあったが)あっというまにロボット軍団を撃破してしまったからだ。そもそもチャモチャ星の軍隊ロボットは外見からしていかにも弱そうだ。ロボットとはいっているが、実は奴等は限りなくブリキのおもちゃに近いのだ。彼らの外見はまさにおもちゃそのものだし、ネジを定期的に巻かないと動かない。こんなやつら、足で踏んづけても倒せそうだ。戦闘機や戦車ももってはいるが、そんな小さい奴等の乗る小さい兵器などたかが知れている。ジャイアンとスネ夫の陽動作戦にまんまとひっかかったところをみると、戦術面での優秀さもみられない。なにしろナポギストラーの宮殿の衛兵まで出払って、宮殿には彼一人しかいなかったのだから。チャモチャ星人はこんな連中にあっけなくまけてしまったのである。相当からだが弱っていたのだろう。事実サピオはのび太達に向かって「チャモチャ星人はカプセルの中にいないとだめなんです。自由に動き回れる君たちがうらやましい」と言っていた。もはや彼らは自分の足で歩くことさえままならなくなっていたのだ。情けない。

 確かにドラえもん達の活躍でチャモチャ星人はロボットから解放された。そしてガリオン公爵は大統領達にこう言っていた。「また一から出直しましょう。ロボットに頼るのではなく自分たちの力で!」。美しい言葉だ。だが、私は思う。私は少なくともチャモチャ星人よりは地球人は働き者で根性もあると信じている。そんな我々でさえ、今の文明社会を捨て、また再び自然との格闘の日々を始めようとするのは並大抵の決心ではできないことだ。ましてやあんなにずぼらで体の弱っているチャモチャ星人達に、一から出直す、なんてことができるのだろうか?そもそも全てのシステムをロボットに任せていたのだから、それをすべて人間の手で行うことすら困難である。畑を耕そうとくわを振り上げたところで、彼らは力つきそうな気がする。私が考えるに、彼らの未来に待ち受けているのは2つのシナリオのいずれかだ。1つは、彼らが自力で生産活動をしようとするが、その生産量はロボットの生み出していたものには遠く及ばず、人口を支えきれずに莫大な被害を被る、というもの。このシナリオでは食料、燃料、衣服など、あらゆる物資が不足し、各地で飢餓や暴動が起きるだろう。しかし、彼らが自らのずぼらさを反省し、体力を取り戻してこのシナリオを選んだとしたら、彼らの人口は激減するものの、まだそちらのほうがいい。最悪なのはもう一つのシナリオである。これは彼らが自力で生産活動を行おうとするものの、自らのずぼらさと体力のなさでそれをあきらめてしまい、またロボットに頼ろうとするシナリオである。彼らがこのシナリオを選んだとしたら、その先に待ち受けているものはまたしてもロボットによる支配である。もうドラえもん達もあきれて助けてはくれまい。ウルトラ兄弟やスペクトルマン、サンダーマスクでも同じことだ。こんな宇宙のソドムなど滅びてしまえ、そうかんがえるだろう。そしてそのまま絶滅する。しかし、もはや同情するものはいない。どちらのシナリオでも、チャモチャ星人は甚大な被害を受ける。ナポギストラーは破れはしたものの、チャモチャ星人を道連れにしたのだ。その点では強敵だったかも。彼らがどちらのシナリオを選んだのか。「ブリキの迷宮」ではそれはえがかれていないので、もはや知るよしもない。

 私達はチャモチャ星人から何を学ぶべきか。それは「楽をしようとするのもほどほどにしろ」ということだ。程度の差こそあれ、楽をしようとする気持ちは地球人もチャモチャ星人にも共通のものなのだ。それは適度ならば文明を発達させる原動力となるが、それが過ぎれば地球は宇宙のゴモラとなる道を歩み始める。我々はチャモチャ星人の屍を越えて行かねばならないのである。

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