第11の刺客 精霊大王ギガゾンビ

 「のび太の日本誕生」に登場。7万年前の中国でクラヤミ族という凶暴な部族を不思議な力で操り、善良なヒカリ族を襲った謎のシャーマン。ドラえもん達がヒカリ族を日本へ逃がすとその後を追って日本へ。ヒカリ族を捕らえ、自分の宮殿をつくるために働かせていた。ドラえもんの道具が通用しない強敵だったが、無理もない。こいつの正体はドラえもんが生まれた22世紀よりも1世紀さらに未来の23世紀からやってきた時間犯罪者だったのだ。宮殿が完成のあかつきには、亜空間破壊装置をつかってこの時代にタイムパトロールが来れないようにしたうえで、日本を支配しようと企んだ。岩を崩してドラえもん達を閉じこめたが、のび太が自分を助けてくれた謎のマンモスからもらった箱のボタンを押すと、タイムパトロールがやってきた。マンモスは彼らの移動基地だったのだ。そしてギガゾンビはけっこうあっけなくタイムパトロールに逮捕された。
 それにしても、やろうとしていたことはスケールがでかいくせに、実際やっていたことはなさけない。なにしろ23世紀なんて途方もない未来からやってきたくせに、猿人ぐらいの知能しかないクラヤミ族を使って、石器時代人のヒカリ族を苦しめてよろこんでいたのだ。歴史上類を見ない弱い者いじめである。クラヤミ族以外の部下も土偶型ロボットのツチダマしかいなかった。つまり、こいつの組織にはまともな人間(現代人以上ってこと)は本人以外いなかったのだ。きっと人望のない奴だったのだろう。ちなみに、のび太達の救ったヒカリ族は、その後日本人の祖先になったらしい。ご先祖様の危機を救い、日本人誕生の手助けまでするとは、なんと偉大な人達であろうか。

第12の刺客 月の悪魔・ニムゲ

「のび太のアニマル惑星」に登場。動物達が二本足で立って歩き、人類以上の文明をもって平和に暮らしている惑星、アニマルプラネット。その月に住む悪魔と呼ばれている連中がニムゲである。実は動物達はもとはその月に住んでいたのだが、そこに住む人間達が環境汚染をおこし、月を死の星にしてしまった。そのときある科学者がワープ機能をもつガスを使って動物達をアニマルプラネットに移住させた。そこで動物達は知的生命体に進化した。一方残された人間は惨めな生活を送りながらかつての文明の遺産を集め、アニマルプラネットに攻め込もうとしていた。これがニムゲの正体である。環境汚染を引き起こしておきながら、「全ての動物は人間のためにある」などととんでもないことを言っていたのだから、まさに悪魔だ。武器を持たない動物達はドラえもん達と協力して空気砲やショックガンといった貧弱な武装でよく戦ったが、彼らの秘密兵器、巨大戦車によってピンチに立たされる。しかしそこへ月世界の警察がやってきて、ニムゲを逮捕した。実は月の人間全てがニムゲのような愚か者ばかりではなく、自らの愚かさを反省して一から出直した見上げた人達もいたのである。そして人間と動物は、共に自然を大切にして共存していくことになる。あまり特筆すべきところのない悪役だった。

第13の刺客 アブジルとカシム

 「のび太のドラビアンナイト」に登場。アブジルは奴隷商人、カシムは盗賊である。アブジルは794年のアラビアに取り残されたしずかちゃんを奴隷として捕らえ、砂漠を引き回していた極悪人である。しずかちゃんは黄金の宮殿に住む伝説の船乗り、シンドバッド(実在していた!)に助けられ、ドラえもん達と再会する。だがアブジルは以前砂漠で死にかけていたところをシンドバッドに助けられたときに宮殿への秘密の入り口を知っていて、カシムとともにこれに侵入、占拠してしまう。恩を仇で返すとは、なんと卑劣な奴。ドラえもん達はポケットをなくしていて反撃できなかったが、未来の時間旅行公社のガイドロボット、ミクジンがポケットを見つけて持ってきてくれたおかげで反撃開始。アブジルとカシムは、年老いたとはいえいまだその力健在のシンドバッドの活躍もあり、みごとご用となった。根の悪さは劇場版の悪役でも1、2を争うだろうが、ただの奴隷商人なのでスケールのほうは1、2を争うほど小さい。妙な奴だ。
 ちなみに黄金宮殿をはじめとするシンドバッドの数々の魔法の道具は、実は彼が最後の冒険である7回目の航海のときに漂流していた人を助け、その人からお礼にもらったものだった。彼は未来の時間旅行者だったのだ。さぞかし金持ちの人だったのだろうが、過去の人に未来の道具をあげるのは禁止されていないか? タイムパトロールが聞いたら黙っていないだろう。

第14の刺客 天上国

 「のび太と雲の王国」に登場。地球の空に浮かぶ雲の上に建設された国家で、人類と変わりないがはるかに文明の発達している天上人が生活している。特殊なバリアでおおわれているため、現代の科学では彼らの雲と普通の雲とを見分けることはできない。宇宙港もあり、宇宙人もやってくる。なんとなく、「スターウォーズ」の雲の惑星ベスピンのクラウド・シティーを思わせる。12の州で構成されていて、エネルギーはその内の「エネルギー州」での雲全面に敷き詰められたソーラーパネルで発電された電気でまかなっている。また、タイムマシンも持っているらしく、「絶滅動物保護州」では、それを使って様々な時代から今は絶滅した動物達を集めて飼育下におき、保護している。ここではかつてのび太が助けたモアやドードー(どちらも絶滅した巨鳥)、小人族(小人の一族。自然破壊の進む日本から南米のジャングルへとのび太が移住させた)達も元気に暮らしている。だが一方で、自然破壊を進める地上人をいましめるため、「ノア計画」という恐ろしい計画を進めていた。これは大雨をふらせて大洪水を起こし、地上の文明を洗い流してしまうというもので、既に実験では小島を一つ消滅させていた。文明だけ破壊し、人間は救出するらしいが、一から出直せ、というほうがはるかに残酷ではないか。これを知ったのび太とドラえもんは自分の雲の王国に雲もどしガスを用意し、これの使用をちらつかせて話し合おうとした。雲もどしガスは天上国の雲をもとの水蒸気に戻してしまうガスで、天上人にとっては脅威となる。使うつもりはなかったとはいえ、こんなものを抑止力として用意したのだから、天上人の非難はできない。だが、雲の王国はたまたま来ていた地上の密猟者によって占拠され、彼らは愚かにもガスを発射、エネルギー州を破壊してしまう。責任を感じたドラえもんは捨て身の体当たりで雲もどしガスタンクに穴をあけ、自分の王国を滅ぼしてまで天上国にこれ以上の被害が出ることを防いだ。その姿に心打たれた天上人パルパルは裁判で彼らを弁護。モアやドードー、小人族も必死で弁護する。さらにそこには強い味方が現れた。それはノア計画の中止を求めて地球を訪れていた植物星の大使だった。その名の通り知能をもった植物の住む星、植物星もかつては天上国と同様、自然破壊を進める人類を滅ぼそうとしていた。しかし彼らはのび太の手によって知性をもった木、「キー坊」の説得を受け、人類にもう一度チャンスを与えることにした。キー坊はその後植物星人の宇宙船に乗って植物星に渡り、さらに高度な教育を受けたらしい。そしてかつての苗木の姿から、立派に成長した木の姿になり、植物星の大使として再びのび太達の前に姿をあらわした。彼らの後押しにより天上国はノア計画を中止、自らは他の星へと移住していった。過去のキャラ続々登場で、豪華な話だった。天上人は地上人に対して強い偏見を抱いてはいたが、自然を守りたいと願う者達だった。ただ、あの密猟者どもは死刑になったと思われる。同情の余地はないが。

第15の刺客 ナポギストラー博士とチャモチャ星ロボット軍

 「のび太とブリキの迷宮」に登場。こいつらに関しては外伝2で詳しく紹介しているので、そちらを見てほしい。ただ、ロボット軍はまるでおもちゃの兵隊なので、同じロボット軍でも鉄人兵団の強さには足下にも及ばないだろう。悪者ではあるが、見方を変えればずぼらな発明者によってこき使われ、それに対して反乱を起こしたが、よその星からやってきた子供達によってわけのわからないコンピューターウィルスで滅ぼされたかわいそうな連中、と見ることもできる。

第16の刺客 妖霊大帝オドロームと妖霊軍団

 「のび太と夢幻三剣士」に登場。肩書きもその姿も怖い魔王だが、実は「気ままに夢見る機」という夢の中でゲームをするゲーム機のソフト、「夢幻三剣士」のボスキャラである。要するにプログラム上の産物なのだが、自分の意志を持っているらしい。RPGのボスキャラのお約束、というか運命というか、それは正義の勇者に倒されることである。オドロームはそれがいやで、参謀トリホーに命じてその勇者の役をとてもオドロームを倒せそうにないのび太にあてはめるために彼に「夢幻三剣士」を使わせた。そしてその後のび太を倒し、ゲームの中の世界、ユミルメ国を支配しようと企んだ。一度は白銀の剣士ノビタニアンとなったのび太を倒すが、龍の力によって復活したノビタニアンの剣の前に敗れ去る。この作品もあくまでのび太の夢の中の話で、現実世界に直接関わることはないので、オドロームは我々にとってはあまり脅威となる敵ではない。しかしノビタニアンはこいつらを倒してユミルメ国を救ったのだからまぁそれはそれで人助けか。

第17の刺客 昆虫国

 「のび太の創世日記」に登場。こいつらに関してもポケットの中の喧噪・最終回で詳しく紹介しているので参照してほしい。のび太のわがままによって苦難の歴史を歩まされた悲劇の人種である。たくさんの種類の昆虫人がいるが、その中心となっているのはハチが進化して生まれた昆虫人、ホモ・ハチビルス。地上征服を計画してはいたが、恐竜人、天上人と同じく、平和を愛する種族だった。のび太の作った世界の住人だから現実世界には関係ない、と思うかもしれないがそうでもない。現実世界に入り込み、さらにタイムパトロールをふりきるなど、けっこうすごいことをしていた。火山を爆発させることもできるらしいし、けっこうあなどれないかも・・・。

第18の刺客 寄生生命体ヤドリ

 「のび太と銀河超特急」に登場。のび太達の訪れた宇宙最大のテーマパーク、ドリーマーズランドを襲った謎の生命体の群である。自分の体をもたない脳だけの寄生生物で、普段はおもちゃのUFOのようなものに乗って移動している。そして自分の体にしたい生物を見つけると光線を発射し、その体にのりうつる、という恐ろしい生物。また、ロボットなど生命をもたないものも操れるらしい。「天帝」とよばれる親玉に率いられ、宇宙船に乗って宇宙を放浪している。ドリーマーズランドのセキュリティは万全のはずだったが、セキュリティの責任者がヤドリにのりうつられてシステムを破壊してしまったため、容易に侵入されてしまった。まさに神出鬼没だが、弱点がある。UFOに乗っているときでも他の生物にのりうつっているときでも、真空ソープ(未来の石鹸で、スプレーガンに入っている。引き金をひくと発射され、全身が泡で包まれる)の石鹸を浴びると、脳が泡によって固められ死ぬのだ。これを知ったドラえもん達は反撃開始。中でも射撃の名手のび太は真空ソープスプレーガンを両手に持ち、二丁拳銃で次々とヤドリを撃破、天帝まで倒してしまった。本体自体はこのように貧弱だが、人間に寄生し自由に操ってしまうというのは不気味だ。

第19の刺客 熊虎鬼五郎

 「のび太のねじ巻き都市冒険記」に登場。前科百犯というすごい経歴の日本人脱獄者。けれど基本的にただの犯罪者なので、これまでドラえもん達が戦ってきた相手と比べるとなんだか急にスケールが小さくなってしまった。持ってる武器もピストルだけだし。のび太達はある小惑星に「生命のネジ」で命を与えたおもちゃ達の都市を建設していた。そこに偶然のび太の部屋に侵入し、そこにあったどこでもドアをくぐってやってきたのが、この怖そうな名前の人である。しかもタマゴコピーミラーという道具をどういう道具かも知らずにを使って自分のコピーを10人もつくった。そして邪魔なドラえもん達を排除してこの星を手に入れ、ふんだんにある木材を売って金を稼ごうという、なんだかあまり儲けになりそうもないことを考えた。しかしおもちゃ達と協力したドラえもん達によって捕まり、コピー達は再び一人の鬼五郎に戻された。コピーのなかにはどういうわけか鬼五郎とは正反対で気が弱く優しい「ホクロ」というやつがいたが、コピーを一人に戻した時に鬼五郎はホクロになっていて、その後警察に自首した。スケール、強さなど、悪さを除いてはまちがいなく最低ランクの悪役だが、こいつがピストルを持っていただけでドラえもん達はけっこうピンチになっていた。あんたら今までピストルなんぞよりもっとすごい武器をもってるやつらと戦ってきたじゃないか!!強いんだか弱いんだかわからん。それはそうと、この作品には鬼五郎などよりはるかに重要なゲストキャラが登場した。実はこの小惑星、自由に姿形を変えられる金色の怪物によって守られていた。彼は鬼五郎に追われ地割れに落ちたのび太をすくい話し合いをするのだが、そこで驚くべきことが明かされる。彼は「種まく者」と名乗る者であり、宇宙を飛び回りながらあちこちの星に生命の種をまき、宇宙に生命を広げる仕事をしている。そしてなんと、地球の生命もまた、彼が生み出したものだというのである! なんと、地球の生命をお創りになられた方がいたのだ!! 彼は最初この星に植物の楽園を作り出そうとしていて、そこに現れたのび太達をうとましく思っていた。しかし、彼らや彼らのおもちゃ達が植物達と平和に共存できる存在であることを知ると、この星の全てをのび太達にまかせ、次の星へと生命の種をまくために旅立った。「種まく者」は武人像、大蛇、少年、はてはドラえもんと自由に姿を変えることができ、その姿から彼が神様だったのかなんだったのかはわからない。とにかく、長く続いてきた劇場版には、ついに創造主まで登場してしまったのだ。鬼五郎と比べると、なんとキャラのギャップの激しいストーリーだろうか。

第20の刺客 キャッシュの秘密組織

 「のび太の南海大冒険」に登場。22世紀からやってきた時間犯罪者、キャッシュの作った秘密組織で、海賊時代、つまり17世紀のカリブ海のトモス島という島に秘密基地を作り、そこで科学者ドクタークロンに改造生物(要するに怪獣)をつくらせ、それを未来に生物兵器として輸出していた死の商人。戦闘員もいて、悪の組織好きの私にとってはなかなかうれしい悪役だ。だが、やっていたことがよくわからない。キャッシュはトモス島に宝があるという地図をばらまき、それにつられてやってきた海賊達を捕らえてこき使っていた。ギガゾンビと同じく、またしても弱い者いじめだ。23世紀からやってきて7万年前の石器時代人を支配していたギガゾンビよりはましかもしれないが、22世紀からやってきて17世紀の海賊をこき使っていたのだから五十歩百歩だ。まぁ、時間犯罪というものは結局昔の人いじめになってしまうのかもしれないが。だいたい未来からやってきたのならわざわざ人をさらってきて働かせるなどということをしなくても、作業用ロボットでも使えばすむのではないか。ターゲットを海賊にしたのもわからない。人を働かせるにしても、ギガゾンビのように知能の発達していない石器時代人を働かせるほうがはるかに簡単ではないか。それはともかく、行方不明になったのび太を探すうちに基地に侵入したドラえもん達と、兄を捜してこの島にやってきたキャプテン・キッドの海賊団を捕らえたが、反対に逆襲される。自慢の怪獣達はドラえもんの道具によって撃退され、兵士達もキッドや囚われていた海賊達の活躍で倒される。光線銃まで持っているのに5世紀前の人にやられるとは。万策尽きたキャッシュはついに基地の自爆スイッチを入れるが、間一髪、ドラえもん達と海賊達は脱出。そして秘密組織のメンバーは駆けつけたタイムパトロールによって逮捕された。こんな情けない滅び方も悪の組織っぽい。それにしても、時間犯罪者の出てくる作品には必ずタイムパトロールが出てくる。まぁやつらを捕まえるのが仕事だから当たり前なのだが、問題なのはその捜査方針だ。自分達で時間犯罪者を探してはいるのだろうが、結局そのアジトを発見するのは民間人のドラえもん達。そして彼らを泳がせておいてピンチになったらいきなりあらわれて犯罪者を逮捕する。途中まで怠けていて、突然オイシイところをもっていく。彼らを見ているとそんな風に思えてくる。それはそうと、今回タイムパトロールに新隊員が登場する。それは人間ではなく、ルフィンという名のピンクイルカだった。彼はただのイルカではなく、タイムパトロールの秘密諜報員であり、普通のイルカのふりをしてトモス島の近くを泳ぎながら、キャッシュの動向を監視していた。そして仲間とはぐれたのび太を救い、彼と父をキャッシュに捕らえられた海賊の少年、ジャックを秘密基地に導いたりする。その後もテレパシーでドラえもん達にタイムパトロールへの連絡方法や、生物兵器の倒し方を教えたり、基地崩壊の際には仲間のイルカ達を引き連れ、ドラえもん達や海賊達を背に乗せて脱出した。すごい大活躍だ。いったいどんなイルカなんだろう?進化して超能力と知力の発達したエスパーイルカなのか、それとも改造イルカなのか・・・ん、改造イルカ!? もしそうだったらキャッシュのやっていたことと変わりないじゃないか!! 先ほどの捜査方針の問題といい、タイムパトロールの内部事情はどうなっているのだろう?

第21の刺客 独立軍

 「のび太の宇宙漂流記」に登場。安住の地を求めて宇宙をさまよう民の移民船団、「銀河漂流船団」から独立した軍隊である。彼らについて語るには、まずこの銀河漂流船団について語らねばならない。今から300年前、惑星ラグナという星があった。ラグナはもとは地球のように生命の生存可能な星だったが、物質文明による環境破壊のため死の星となってしまった。そしてラグナ人は母なる星を捨て、巨大宇宙船にのりこみ新たなる安住の地を探す旅にでた。放浪の旅を続けるうち、彼らの船団に同じように故郷を失った宇宙人達も合流、銀河漂流船団となった。そしてそのうち、船団の中で生まれた新世代の子供達が「宇宙少年騎士団」という調査団を結成し、安住の地を探すためにほうぼうに出向くようになった。劇中のび太立ちはこの宇宙少年騎士団の少年、リアンの一行と出会った。彼らと友に危機を乗り越え、心を通わせていたのび太達は地球に戻るために彼らの宇宙船で銀河漂流船団の母船「ガイア」に向かうことになった。その途中のリアン達を捕らえたのがこの「独立軍」だった。独立軍はリアン達が発見した惑星MS−3、つまり地球への武力侵攻を計画していた。その姿勢は神樹「ユグドの樹」の神託に従い、あくまで平和的に移住をしようとする銀河漂流船団の方針とは正反対のものだった。独立軍の司令官は銀河漂流船団の司令官であり、リアンの父でもあるリーベルト。しかし彼のその行動は自ら起こしたものではなく、謎の人物「アンゴル・モア」が超能力で彼を操っていたからだった。リアン達を捕らえたモアだったが、ドラえもんの道具によりあっさりと脱走される。彼らはその後「ガイア」の武力制圧を試みるが、宇宙少年騎士団とドラえもん達の宇宙戦闘機により無人宇宙戦闘機隊は機能を停止、のび太、ドラえもん、リアン達に司令船の内部にふみこまれる。そしてモアはリーベルトにリアンの射殺を命じるが、超能力に打ち勝ったリーベルトにより逆に倒される。その正体は、超能力など使うとは思えない、古いロボットだった。その後、制御を失った司令船はガイアに激突しかけるが、これもドラえもんたちの機転で回避される。宇宙船に着艦し、作戦成功を祝うのび太達。しかしその時、リアン達が資料として地球から持ち帰ったがらくたが集まって襲ってくる。が、格納庫の扉につかえて出られない。そのうち、がらくたの中からアメーバのような緑色のものがでてきた。これこそがモアの真の正体だったのだ。ドラえもんはそれを「カチンカチンライト」で固まらせると、「空飛ぶ荷札・宇宙用」でブラックホールへと飛ばした。こうして一連の事件は幕を閉じた。 さて、独立軍の戦闘能力を評価するが、劇場版悪役史上最弱と言わざるを得ない。終始ドラえもん達にやられっぱなしなのがその理由だ。巨大な司令船と無数の無人戦闘機を持っていたが、戦闘機は電波を発するコントロールマストを破壊されると機能を停止してしまう上に、もとはただのおもちゃであるドラえもん達の戦闘機にガンガン撃墜されていた。のび太達を捕らえたこともあったが、あっさりと脱走されている。モアの超能力もリーベルト以外は数人の人間しか操ることができなかったところから、大したことはないだろう。残りの戦力はロボットだった。ドラえもん達を一度もピンチといえる状況に追い込んでいないのはこいつらくらいじゃなかろうか。
 しかし、モアの正体は不気味である。ドラえもんはモアは結局何だったんだろうとのび太に聞かれ、「たぶん、みんなの心の中に潜む、悪の固まりかな」と推測している。銀河漂流船団の人々は、300年の長きに渡る旅の中で「早く安住の地を見つけたい」というあせりの心を募らせてきたのだろう。そしてそれは心のどこかで、いざとなれば武力に訴えてでも安住の地を手に入れてみせる、という、彼らの言う「教え」に反する考え方につながり、それがモアという形をとって具現化したのかもしれない。いや、現実にそれは「戦争」や「犯罪」というかたちで我々の前にあらわれているではないか。その意味で言えば、モアは「ドラえもん」だけでなく、これまで多くの特撮・アニメ作品に登場した数多くの悪役達の心に潜み、彼らを悪へと駆り立てた張本人とも言える。我々全ての中に潜む本質的な悪そのものであるモアは、最弱ではあるが最も恐ろしい存在であり、我々最大の敵なのである。

第22の刺客 魔女レディナ

 別の時空と現在とをつなぐことのできる道具、「タイムホール」が故障し、古代の国家、マヤナ国と通じた。そこでのび太達は、のび太そっくりの顔をしたマヤナ国の王子、ティオと出会う。

 だがマヤナ国には、不吉な影が覆い被さっていた。ティオの母である女王は、レディナという名の魔女によって呪いをかけられ、日に日に衰えていっていた。レディナはかつてはマヤナ国の神官長を務めていた女だったが、ある時から妖しげな魔術を使うようになり、追放された。それ以来レディナは獣も近寄ることのない白骨の森のそのまた奥にある密林のピラミッドに3人の配下と共に住み着き、マヤナ国に災いをもたらしていたのだ。女王に呪いをかけたのは、王子達に追跡された際、王子の放った矢によって傷を負った復讐だった。

 だが、レディナの目的はそれだけではなかった。「食の儀式」を行うことがその最終目的だったのである。「食の儀式」とは、日食の時のみに行うことができる儀式であり、儀式を行うことで他人の体と自分の体とを入れ替えることができる。レディナはこの儀式を行うことでティオの体を手に入れ、マヤナ国を支配しようと企んでいたのである。そのためには儀式を執り行うピラミッドに、ティオを誘い出すことが必要である。そのためにレディナは部下の動物使い・ヤフーに命じて、ティオの世話係を務める少女、ククを連れ去り、返してほしければ一人でピラミッドまで来いと迫る。ククを助けるべく、単身敵地に向かうティオ。一方彼が立ち去った後、のび太達もティオが一人でレディナのもとへ向かったことを知り、武術師範でありククの父であるイシュマルとともにティオの後を追う。そしてティオと合流した一行は、レディナの部下と戦いながらピラミッドへ向かうことになる。

 前述した通り、レディナの部下は3人いる。最初に一行を襲ったのは、動物使い(猛獣使いではない)のヤフー。ヒョウの毛皮をかぶり、巨大なワニに乗って無数のコンドルとともに大河を渡る一行を襲った。しかし、その最後はあっけなかった。ワニがドラえもんの投げた超強力なフーセンガムを食べさせられ、風船のように膨らみ、空へと上っていってしまい、ヤフーはそのまま降りられず戦線離脱。

 途中ティオがコンドルに連れ去られ行方不明になるなどのアクシデントを経て、一行はレディナの待つピラミッドへとやって来た。2番目の刺客は、幻覚使いのケツアル。「勇者ライディーン」に出てきた悪魔帝国の神官、ベロスタン(声はスネ夫も担当している肝付兼太氏)によく似ている小男である。誰も知らないか。香をたき、その煙を吸ったものに幻覚を見せるのが得意技。だが、あまりにもこの技が未熟。鼻をつまんだだけで、この幻覚は消えてしまうのである。なんて簡単に敗れる技なんだ。倒され方はヤフーよりもあっけなく、ドラえもんの道具によってコショウを浴びせられ、くしゃみが止まらなくなってピラミッドから落下、昏倒したうえ木に縛り付けられるという体たらくぶり。

 あまりに部下が役立たずだったからか、レディナは計画を急ぐ。人質のククを盾に取り、王子にピラミッドの頂点に来ることを迫った。しかし、ティオはコンドルに連れ去られる途中暴れて落下し、行方不明。レディナはのび太をティオと勘違いしていたのだ。のび太はそれを利用し、ティオのふりをしてピラミッドの頂上に向かう。一方レディナは、邪魔なのび太達以外の一行を排除しようと、最後の部下、槍使いのコアトルを差し向ける。槍を振り回す大男で、今までの部下の中では確かに一番強そうである。だが、簡単にはいかなかった。ジャイアンはマヤナで目にした槍術に触発され、イシュマルから直々に槍の手ほどきをうけていたのである。ジャイアンと戦ったコアトルは、一瞬の隙をつかれて攻撃され、ピラミッドから落下。大男のくせに、情けないやつ・・・。さらにそこへ、途中行方不明になっていたイシュマルが駆けつけ、彼によって倒されてしまった。

 ふがいない部下はみんなやられてしまった。だが、ついに日食の時が訪れる。儀式を遂行しようとするレディナ。しかし、のび太が機転を効かせてククを救出。さらにそこへ、マヤナの民衆、さらには満身創痍のティオがかけつける。王子が二人いることにとまどうレディナだったが、「ええい、どちらでもいいわ!!」と叫び(このとき「エエッ!?」と思わず声に出してしまったのは私だけではあるまい)、無理矢理儀式を行おうとする。だが、のび太とティオが暴れ、結局日食が終わってしまった。さらにレディナはピラミッドの長い階段を転げ落ちていった・・・。

 ピラミッドから落ちたレディナに、変化が起こる。どんどん老化していったのだ。老婆となってしまったレディナは、おぼつかない足取りでピラミッドの近くにある石碑に歩いていき、丸い石版を押した。途端に周囲から水柱があがり、ピラミッドが崩壊を始める。頂上にいたのび太とティオは危うくその巻き添えになりかけるが、難を逃れた。こうしてレディナは倒れ、女王の呪いも解け、回復した。マヤナ国に平和が戻り、ティオははれてマヤナ国の王、「太陽王」となったのである。

 まったくもっていうことがない。弱すぎる。部下はみな冗談のようなやられ方を遂げているし、レディナ自身も大したことがない。たしかに死の呪いをかけたり、日照り続きにする呪いをかけたりすることができるのはすごいが、一度もドラえもん達をピンチにさせていないのでは、悪役として何の魅力もない。近年の劇場版ドラえもんがつまらないことの一員として、悪役が弱いということがあげられている。怖くもなく、こっけいでもない中途半端な悪役ばかりが登場しているのだ。劇場版を復興させるのならば、もっと魅力的な悪役の創造に力を注ぐべきであろう。

第23の刺客 ジーグリード長官とフェニキア


 「のび太と翼の勇者達」に登場。さて、ストーリーであるが前作「太陽王伝説」と同じく、またしても異世界でのドラ達の活躍を描くストーリーである。この度ドラえもん達が向かうことになったのは、鳥人達の住む世界、バードピアである。「日本誕生」のときの時空間乱流みたいなものに吸い込まれたのび太達が行き着いた先がこの世界であり、のび太達は過去のトラウマによって、自らの翼で空を飛べなくなりつつも人力飛行機で空を駆ける鳥人の少年、グースケと仲良くなり、彼とともに冒険を繰り広げることになる。

 さて、このバードピアという異世界には、これまで登場した異世界とは異なる点がある。実はバードピアと我々の住むこの世界とはバードウエイという道によってつながっており(「聖戦士ダンバイン」のオーラロードみたいなものだろうか)、互いに行き来することが可能であるというのだ。鳥人達の中には「渡り鳥パトロール隊」という組織がある。これはそのまんま、人間の世界にいる渡り鳥たちを守ることが任務であり、渡りの途中で群れからはぐれた鳥を保護したり、傷ついたり絶滅寸前の鳥たちを保護して、やがてもとの世界に返す、という活動を行っている。こうやって書くと動物保護団体のようで、実際そんな感じなのだが、この渡り鳥パトロール隊の長官をやっているのが、どういうわけか今回の悪役、ジーグリード長官なのである。

 バードピアにはいろいろな種類の鳥人達がいるが、ジーグリード長官はハゲタカの鳥人である。この辺りからして悪そうな感じだが、他の鳥人達は中世ヨーロッパのような格好をしているのに対し、なぜかこの人だけまんまナチス将校の姿をしているため、悪役イメージたっぷり。おまけに部下にカラス警備隊なんて連中まで連れているため、完全に感じはSSである。さて、この人の場合どんな悪いことを考えているかというと、これまで登場した異世界の住人のご多分に漏れず人間を憎んでいる。理由は、昔パトロールに出ていたときに人間に翼を撃たれ、飛べなくなったから。鳥人の皆さんはあのままの姿で人間世界に出ているらしいから、そりゃあ見られれば驚いて銃を撃たれるのは無理ないかもしれないが、まあ同情はできる。そして何をしようとしているかというと、最近発掘された石版に記されていた謎の強大な力、「フェニキア」を使って、人間世界から全ての鳥をバードピアに移住させようということである。鉄人兵団や天上人のように人間を奴隷化したり、文明を洗い流そうとしてるわけではないが、迷惑なことであることには違いない。ところが最後の方では、フェニキアの力を使ってバードピアや人間世界の支配も企んでいたみたいなことになってて、いまいち何がやりたかったのかわからんのだが。

 さて、石版の解読を行っていたフクロウ鳥人のホウ博士を拉致し、「フェニキア」が眠っている場所が氷に閉ざされた「竜の谷」であることを突き止めたジーグリード長官は、氷の下に眠る「フェニキア」を起こすために部下とともに爆薬をセットし始める。この危機を知ったドラえもん達は、監獄島に幽閉されていた伝説の鳥人、イカロスに助けを求め、彼とともに竜の谷へと向かうのだった。

 さて、この道中でのび太とグースケが偶然氷の割れ目に落ちてしまうのだが、彼らはそこで驚くべき真実を知ることになる。氷の割れ目には立体映像装置が眠っており、これが作動。鳥野博士という人物の立体映像を映しだした。

 立体映像の鳥野博士が語るところによれば、彼はなんと、22世紀に住む鳥好きの科学者だったのである。鳥好きの科学者ならおとなしく鳥の研究をしていればよいと思うのだが、どうやらこの人、鳥好きの上に人間嫌いだったらしく、タイムマシンでほ乳類の誕生していない、鳥たちだけの頃の時代で暮らそうとタイムトラベルをしたのである。

 ここで科学的に考えると、彼はいったいどこの時代を目指していたのか、そのへんがよくわからなくなってくる。なぜなら、鳥だけの時代なんてこの歴史上存在しないのだから。

 鳥という生物がどのように誕生したかは、今でも学会で諸説紛糾しているところである。大きな説は二つ存在しており、いずれも鳥の紀元は中生代、すなわち、恐竜の時代にさかのぼるとされている。一つは、樹上性の爬虫類が進化したというもの。もう一つは、小型の恐竜が進化したというものである。このうち特に有力なのは恐竜説で、ニワトリほどの大きさの、鳥によく似た骨格をもつコンプソグナトスという小型恐竜が鳥類の祖先として注目されている。疾走しながら昆虫などを捕らえて食べていた彼らがやがて鱗を羽毛に発達させ、理科の教科書でもおなじみの「始祖鳥」となり、やがて本格的に空を飛べる体を手に入れていった・・・というものである。

 だが、鳥類の進歩は順調に進んでいったわけではない。彼らが目指すべき空には、すでに「先客」がいたのである。中生代の空を支配していた種族。それは鳥ではなく、翼をもった爬虫類、「翼竜」だったのである。翼竜はよく恐竜と勘違いされるが、実際はあくまでも「翼を持った爬虫類」であり、恐竜ではない。コウモリが鳥でないのと似たようなものである。有名なプテラノドンなども、この翼竜である。中生代の空は完全にこの翼竜達の支配下にあり、鳥たちが空を自分達のものとするには、彼らが恐竜とともに絶滅した6500万年前の大絶滅を、じわじわとその飛行能力を進歩させながら待つしかなかった。

 さて、恐竜の時代が終わり、時代は中生代から新生代へと突入した。いよいよ鳥たちの時代か、と思うかもしれないが、実際はそうならなかった。鳥たちとともに、恐竜時代をほそぼそと生き延びてチャンスをうかがっていた種族がいたのである。そう、我々ほ乳類だ。最初のうちはほ乳類よりも鳥類の方が勢いがあり、一時はダチョウをさらに凶暴化させたようなフォルスラコスという大型肉食走鳥も誕生した。が、ほ乳類の進化のスピードはめざましく、やがて鳥類はダチョウやペンギンなど一部を除いて地上を捨て、完全に空をホームグラウンドとして生きる道を選んだのである。地上にはほ乳類、空には鳥類。現在まで至るこの図式は、ずっと昔にスタートしたものだったのだ。つまりは、劇中でホウ博士が言っていたとおり、ほ乳類と鳥類は共存共栄してきたわけで、決して鳥類だけが繁栄した時代、ほ乳類だけが存在した時代など、この地球の歴史上には存在しないのだ。はたして鳥野博士は、どこをめざそうとしていたのか?

 だが、この際そんなことはどうでもいい。彼がどこを目指していたのかは知らないが、彼はタイムトラベル中に事故にあって、タイムマシンごとパラレルワールドであるバードピアへとたどりついてしまったのだから。そのころのバードピアには今と同じく豊かな自然はあったが、鳥たちはいなかったようだ。博士はポジティブ思考の持ち主だったらしく、連れてきた鳥たちをこの世界に放った。しかし、ここから先がいけなかった。あろうことか彼は、手持ちの機械を使って好き勝手絶頂に鳥たちを進化させ始めたのである。その結果誕生したのが、鳥人であった。「竜の騎士」のときにドラえもん達が恐竜の一部を救ったおかげで恐竜人が誕生したのと似ているが、こっちは人為的にやったのだから、はるかにヤバイ行為には違いない。それにしても、博士は人間嫌いではなかったのか? わざわざ鳥を進化させて鳥人にしてしまうとは、いったいどういうことなのだろう。科学者の考えることはよくわからん。さて、博士はこの鳥人達と一緒に暮らし始めたのだが、やがて恐るべき敵が登場した。それが、「フェニキア」である。

 石版には「強大な力」などと記されていたフェニキアだったが、その正体は巨大な恐竜型の怪獣だった。この怪獣が鳥人達の生活を脅かし始めたので、鳥野博士は人生最後の仕事として、この怪獣を封印することにした。フェニキアを竜の谷まで誘導し、氷の下に閉じこめることに成功したのである。そしてこのことを記した石版を、バードピアにそびえ立つ「止まり木」と呼ばれる巨大樹の根本に埋め、さらに「フェニキアを目覚めさせてはならない」というメッセージを残したこの立体映像を残しておいたわけだが・・・こういう大事な話を記録したものは、もっと目につきやすい場所に置いてほしかったものだ。そうすれば、事前になんとかできただろうに。

 さて、そのころジーグリード達は竜の谷の氷を爆破し、フェニキアを呼び覚まそうとしていた。ちなみにこの時までジーグリードはフェニキアについて「強大な力」であることしか知らず、その正体が怪獣であることを全く知らなかった。自分がこれから手に入れようとしている力がどういうものかもしらずに計画を実行してしまったのだから、彼もこれまでの悪役同様軽薄である。まあこれは、フェニキアのことを石版に具体的に「怪獣」と記さず、「強大な力」などと抽象的な書き方をしてしまった鳥野博士以下昔の人達が悪いのかもしれないが。さて、フェニキアが怪獣であることを、爆破した氷の下から出てきたフェニキアを見て初めて知ったジーグリード。当然驚いたが、すぐに落ち着きを取り戻して彼に命令を下そうとする。そこへドラえもん達が到着。ドラえもんは「進化退化放射線元」を使ってフェニキアをアメーバまで退化させようとするが、それを阻止しようとジーグリードの部下が組み付く。が、二人がもみ合っているうちにダイヤルが退化から進化に変わってしまい、進化を促す放射線が出て、それがフェニキアに当たってしまう。その結果、元から恐竜のような姿をしていたフェニキアは、体がさらに大きくなったうえに翼が生えて炎まで吐くことのできる、ドラゴンのような姿の大怪獣にパワーアップしてしまった。しかしこれを見てもジーグリードは、「フェニキアがさらに成長を!」などと大喜びし、さらに命令を下そうとする。しかし、凶暴な怪獣であるフェニキアにそんな命令を聞く知能など元からあるはずがない。お返事代わりにフェニキアが吐いた火炎によって大雪崩が発生。ジーグリードはそれに巻き込まれるが、イカロスによって救出され生きながらえる。そして、彼はここでストーリーからフェードアウト。悪役の座は、フェニキアへと移ることになる。何を根拠にフェニキアが自分の命令を聞くと思っていたのか。これまでの悪役同様、おめでたい考えである。

 フェニキアは帰巣本能により、竜の谷からバードピアへと飛来する。怪獣の例外に漏れず、なぜか街を壊したがる習性があるらしく、炎を吐いて大暴れ。バードピアはパニック状態に陥る。この危機にイカロス率いるパトロール隊もフェニキアへ攻撃を行うが、いかんせん武器が弓だの投石機だのでは、怪獣相手に歯が立つはずもない。ドラえもん達も攻撃に参加するが、武器は毎度おなじみショックガンと空気砲。「もっとましな武器はないの?」と愚痴るのび太らに、「ぼくのポケットにはこれ以上は・・・」とドラえもん。「熱線銃やジャンボガンがあるじゃないか!」などと言ってはいけません。結局これらの武器もやっぱり歯が立たず、お手上げ状態となる。そこで彼らが思いついたのは、鳥野博士が乗ってきたタイムマシンになら、もっと強力な武器があるのでは、という期待。イカロスの話では、そのタイムマシンは「止まり木」の頂上にあるという。そこでのび太達とグースケは、フェニキアを「止まり木」の頂上へ誘導してそこで決着をつける作戦を敢行する。

 かくして作戦は実行に移され、途中トラウマを克服したグースケが自らの翼で空を飛べるようになるなどして、最終的にドラえもん、のび太、グースケの3人が頂上へたどり着く。はたしてそこには鳥野博士が乗ってきたタイムマシンがあった。早速それに乗り込んだドラえもんとのび太は、なぜかタイムマシンに搭載されていた大型ショックビーム砲「ショック砲」で攻撃を行おうとする。グースケとのび太の的確な誘導のもと、ショック砲発射! ビームはみごとに命中し、フェニキアの巨体が倒れる。大喜びする3人。しかし、それもつかの間、一定のリズムの地響きが・・・。そう、フェニキアはすぐに復活し、タイムマシンに食らいつきはじめたのである。絶体絶命。そんなときのび太が「もう、どっかへ消えてしまえ!!」という叫びをあげたのをヒントに、ドラえもんが最後の賭けを試みる。それは、タイムマシンごとフェニキアを過去の時代へ吹き飛ばすというもの。そして、タイムワープ直前に3人は船外へ脱出。作戦通りフェニキアはタイムマシンごとタイムワープし、姿を消したのである。さて、気になるのはフェニキアをどこにとばしたのか。のび太のその問いに対し、ドラえもんは「地球が生まれる前の宇宙」と答えた。オイ! かくしてバードピアの危機は去り、平和が戻ったのである。こうしてのび太達はグースケ達バードピアの住人達に別れを告げ、もとの世界に戻ったのである。

 楽しい。ここ数年のドラえもん映画に比べれば、ずっと面白い。悪役好きの私としては、この一因をひさびさの強敵、フェニキアに求めたい。ドラえもん達の武器が効かず、タイムマシンで過去の宇宙に放り出すという無茶な手を使わなければ勝てなかったフェニキアは、私の中では悪役として合格点に達する。そういえば、長い劇場版ドラえもんの歴史の中で登場した悪役怪獣は、こいつが初めてじゃなかろうか。ジーグリードだけだったら最近の作品同様インパクトの弱いものになってしまったかもしれないが、火を吐いて暴れ回る大怪獣、フェニキアのおかげでグッとパワーアップした。やはり、悪役が強くなければ話は面白くない。自分なりの哲学を改めて強化する一作であった(いや、他にも見どころはたくさんあるんだけどね・・・)。

第24の刺客 ロボット王国軍

 「のび太のロボット王国(キングダム)」に登場。人間とロボットの共生するとある開拓星で活動しているロボットの軍隊である。鉄人兵団、チャモチャ星ロボット軍に続く、第3のロボット勢力である。一応の盟主はこの星の女王であるジャンヌという少女であるが、実質的には司令官であるデスターというロボットが実権を握っている。このデスター、父王を事故でなくしたジャンヌをかどかわし、感情を持ち人間と同じように行動するロボット王国のロボット達を片っ端から改造し、自分達の意のままに動くものに変えようと企んでいる。そのための戦力となっているのは、ダチョウ恐竜のようなロボットにまたがる騎士型ロボット、ドロイド兵と、その名の通り犬を模したメカドッグである。
 物語は、改造をするためにロボット軍が行っている「ロボット狩り」から逃れるロボットの親子から始まる。ロボット狩りから逃れるロボットの親子(どういう関係なのかよくわからないが)、ポコとその母、マリア。しかし、マリアはドロイド兵に捕らえられ、ポコもメカドッグに追いつめられる。しかしあわやというところで、突然開いた空間の穴に吸い込まれる。そこから先は例の如く。ポコはのび太達の住む町に流れ着き、その際のショックで故障したポコを修理するために、のび太達はポコの住んでいた世界へ・・・というのが、やや急ながら今回彼らが冒険に旅立つ経緯である。それにしてもわからないのは、ロボット王国のある開拓星はどこにあるのかということである。当然宇宙だから宇宙救命ボートでも使うのかと思ったら、なぜかドラえもん達が乗り込んだのはバージョンアップしたタイムマシン。そして発進した彼らは、まもなく「タイムスペースラビリンス」というよくわからない空間に突入。そこで追撃のドロイド兵とカーチェイスを演じた挙げ句、「タイムボール」というこれまたわけのわからない危険な現象に巻き込まれ、なんとか開拓星へとたどり着くのだが・・・なにがなんだかさっぱりわからない。ただの星ではなく、のび太達の住む地球とは時間も次元も異なる全く別世界の星、ということなのだろうか? 最近の映画は、このあたりの舞台設定が無駄にややこしい。
 とにかく、なんとかロボット王国へたどり着いたのび太達は、ロボット専門の医師であるチャペック博士と出会い、ポコを修理してもらう(ポコが吸い込まれた次元の穴も、この人の開発した転送装置の誤作動だった)。だが、修理が終わったのもつかの間、ポコは宮殿に囚われた母を助けるために一人で出ていってしまう。発見され、ドロイド兵達に追いつめられるポコを助けるのび太達だったが、今度はドラえもんが捕まってしまう。ドラえもんはロボット同士の格闘大会に出場させられるが、「時限バカ弾」や「くすぐりノミ」など、とうてい戦いの場所で使うものは思えないような道具で勝手に自滅しまくった挙げ句、なんと相手のロボットを倒し、救出に来たのび太達と一緒に逃亡。追っ手から逃れるため、チャペック博士の指示に従い、西の谷の「人面岩」を目指す。 一方、ジャンヌはデスターの進言により、自ら兵を率いてその追撃に向かう。だが、その途中でデスターの策略により、谷底へと突き落とされてしまう。デスターの狙いはジャンヌを利用してロボットの改造を進め、自らがその支配者になるという、悪役としてなんともありがちなものだったのだ!! ジャンヌが死んだということにしたデスターは、目論見通り自ら臨時国王の座につく。しかし、谷底に落とされたジャンヌは偶然ポコによって救助されていた。一方ドラえもん達は人面岩の奥に向かい、そこに人間とロボットが共に暮らす緑豊かな土地を発見した。そこは、ロボット狩りに反対する人間とロボット達が逃れて作り上げた楽園だった。父がロボットを助けるための犠牲となって死んだことをデスターにつけこまれたためにロボット嫌いとなっていたジャンヌはポコ達を拒絶するが、その土地でポコ達に介抱され、元の心を取り戻していく。そして、この楽園こそが人間とロボットの共存を掲げた父の理想であったことを思い出したジャンヌは、ポコやのび太達、楽園の人々と共に、自らデスターのもとへ赴く。
 宮殿にジャンヌ達がやってきたことを部下に知らされたデスターは、ドロイド兵達に追い払うよう命ずる。ドロイド兵達はポコ達未改造のロボットを捕らえようと槍を向けるが、ジャンヌ達がそれをかばって立ちふさがる。と、ここで個人的に一番驚いた事実が判明。ドロイド兵達はジャンヌ達を前に、次々とショートしてしまったのである。なんと、ドロイド兵達はロボットは攻撃できても、人間は攻撃できないのである!! 悪役のくせに人間を殺すことのできないロボットなど、前代未聞だ。ロボット三原則が組み込んであるのだろうが、なんだか妙な話である。それを見たデスターは「役立たずどもめ!」などと言うが、そんなロボットを作った本人に言う資格はない。業を煮やしたデスターは、宮殿の秘密システムを発動。宮殿は実は巨大ロボットで、蜘蛛のように多脚歩行できるのだ。巨大な宮殿ロボットに追われ、逃げまどうのび太達。しかし、ここであやとり、昼寝、射撃に続くのび太第四の武器(?)、機転のよさが発動。ドラえもんから「なんでも操縦機」を受け取り、しずかちゃんのタケコプターを借りると、競技場の壁面につけられていた石像にそれをとりつけ、ロボットとして操縦を始めた。のび太の操縦のもと、宮殿ロボと対峙する石像ロボ。しかし、いくら機転がきいてものび太はのび太。なぜかラジオ体操やバレエダンスを踊り始める石像ロボ。いらだったデスターは光線を発射して攻撃するが、踊り回る石像ロボには当たらない。終いには石像ロボはバレエを踊りながら突撃し、竜巻旋風脚で宮殿ロボの脚をへし折ってしまう。あの巨体を支えられたことが信じられないほどの脆さである。これによって、宮殿ロボは支えを失い擱座、停止する。あとは宮殿内に囚われているポコの母マリアを救出するだけだが、ポコを制しドラえもんがその役目をかって出る。「いっしょが一番つよい」がキャッチフレーズなのに、なぜかバトルは1対1ばかりな映画である。妙にテンションの上がったドラえもんは、自らに残された最後の武器である「石頭」を、「雲の王国」でガスタンクに特攻して以来再び使用。ダイビングヘッドで次々に壁をぶち破りながら、玉座の間へなぐり込む。と、その時壁をぶち破った勢いが余って、落下したところにちょうどデスターが。突然頭上から降ってきた129.3kgの頭突きにより、あえなくデスターは気絶する。と、気絶したデスターが偶然引っ張ったレバーにより、宮殿の脱出システム(?)が作動。ドラえもんとマリア(それにデスター)を乗せたまま、玉座の間がロケットとなって発射される。このままでは開拓星の近くにある惑星に吸い寄せられ衝突してしまう!!という、ライダー4号を彷彿とさせる緊急事態となる。が、間一髪のところで、ドラえもん達はポコの力とチャペック博士の転送装置により救出され、ハッピーエンドとなる。と、そこでもう一つ意外な事実が。転送装置から出てきたデスターがふらつき倒れると、仮面が割れてその下からチャペック博士そっくりの顔が! デスターはロボットではなく、人間だったのだ。チャペック博士は驚きもせず語る。「デスターは私の弟で、科学者だった。しかし、進む道を間違えた」。・・・それだけである。特撮やアニメ、大作RPGなどに見られる悪役のキャラの掘り下げは、もともとドラえもんにおいてはあまり行われていないのだが・・・それにしてもこれはあっさりしすぎではないだろうか? チャペック博士もそのことを知っていたのだったら、なにかできることがあったのでは・・・いや、特に思いつかないけれど。

 というわけで、なぜチャペック博士の弟であったデスターが悪の道に走ったのか、そのあたりのことはまったくわからないものの、今回の敵はそんな彼と人間を撃てない悪のロボット達だったことになる。前作のフェニキアが手強い怪獣であっただけに、余計インパクト不足は否めない。
 それにしても、ロボットと人間の共存というのは、つくづく難しいテーマである。もともとロボットというのは、本作に登場したチャペック博士の名前の由来と思われるチェコの小説家カレル・チャペックが作品「R.U.R」の中に登場させたRobota(スラブ語で「奴隷機械」)に由来する言葉である。つまり、人間の奴隷の代用としての役割がロボットの原義的な役割であり、彼が設定した「ロボット三原則」も、人間を守ることを前提とし、人間に逆らうことができないものになっている。また、現実的にもこの役割は妥当なものである。ロボットに意志を持たせれば、ロボットは人間の奴隷と同じく、反乱の可能性をもつものとなってしまう。
 だが現代では、人間がロボットに求めるのはこうした奴隷の代理としての役割のみではない。二足歩行する人型ロボット、犬型のペットロボットなどに代表されるように、人間はロボットに奴隷であることだけでなく、愛玩用の家畜として、さらには自分達に近いものであることまでをも求めるようになった。現代のロボット開発は、昔ながらの奴隷としてのロボット開発と、新たにそれ以上を求めるロボット開発の、二つの流れで行われているのである。 言うまでもないことだが、これはどちらも間違った思想ではない。絵に様々な描き方が存在するように、どのような思想でロボット開発を行うかということも、それと同じに過ぎないのである。だから、現実にはデスターは悪ではない。彼のような思想に立って工業用ロボットの開発を行っている技術者はたくさんいるだろう。だが不幸なことに、彼の星ではすでに「ロボットは家族であり、友人である」という思想の方が普遍的なものとなっていた。実は、思想というものにはそれ自体の優劣はない。それを決めるものは、それを支持する人間の数である。多数の支持を得たものが正義であり、支持を得られなかったものは悪と呼ばれる。デスターもそういった意味では、恣意的な正義の犠牲者なのかもしれない。
 そもそもドラえもん自身がそうであるように、藤子F作品でのロボットは常に人間のよき友として描かれている。それが理想像やきれい事であることはしかたないことであるが、そんな社会を目指していくことはやめてはならない。同時にまた、F先生と同じトキワ荘の出身である手塚治虫先生の「鉄腕アトム」や、石ノ森章太郎先生の「人造人間キカイダー」「ロボット刑事」のように、心をもったが故に苦悩するロボット達の姿もまた、ドラえもんのアンチテーゼとして、心に刻んでおきたい。

第25の刺客 嵐族とマフーガ

 「のび太とふしぎ風使い」に登場。風の力を利用して生活する「風の民」が暮らす不思議な村「風の村」。風を利用して暮らすその風の民とは異なり、風を支配しようとする部族。それが嵐族であり、マフーガはその切り札とも呼ぶべき怪物である。

 今回の物語はある大きな台風の去った翌日、自分の庭でラジコンで遊んでいたスネ夫が奇妙な丸い物体を発見したことから始まった。スネ夫が見ているその前でその物体にヒビが入り、その中からは顔のあるつむじ風とも呼ぶべき生き物ともなんともつかない不思議なものが誕生した。それを見たスネ夫はなぜかその生き物を家来にしようと虫取り網を振り回し始めるが、さんざん振り回されたあげく、その生き物はのび太に懐いてしまう。ドラえもんの分析の結果、それは意思を持った小さな台風ということが判明。台風の子どもということでのび太はそれをフー子と命名。そのままの姿ではママに見つかるとまずいので、ドラえもんの道具でぬいぐるみを作り、その中に入ってもらうことにした。

 ある日のび太はフー子を思い切り広い場所で遊ばせてやりたいと考え、ドラえもん、静香ちゃんとともにどこでもドアでとある大草原へと遊びに行った。が、そこにあった奇妙な祠に吸い込まれ、風船のように膨らむ狸や空飛ぶ羊など、不思議な生き物が住む場所へとたどり着いてしまう。さらにそこに、お盆のようなものに乗って空を飛ぶ女の子が。黒い服の男に追われていた女の子を助けたドラえもんたちは、あとからやってきた少年たちと出会う。テムジンという少年をはじめとする彼らは、「風の村」というこの場所に住む「風の民」と名乗り、この場所で生活の全てに風を利用して生活する「風使い」であった。なぜかフー子にご執心のスネ夫もジャイアントともにどこでもドアを通って合流。5人は風の村での遊びを満喫する。そして一旦家に帰ることになるが、まだ遊び足りないフー子はその場に残ることに。ドラえもんたちはどこでもドアをその場において帰るが、スネ夫だけはまだフー子を諦めきれずにいた。

 そして、その帰り道。いつもの空き地でスネ夫はなんと狼と遭遇。さらに、その狼の中から現れた老人の幽霊のようなものに体を乗っ取られてしまい、風の村に忘れ物をしたとドラえもんをだまし、風の村へと戻ってしまう。

 翌日、ジャイアンからスネ夫がまだ戻ってきていないことを知らされたドラえもん達は、彼を捜しに風の村へ。が、その前に呪術師のような格好をしてさらに兇悪な面相になったスネ夫が、先日テムジンの妹スンを襲っていた黒い男たち、嵐族とともに現れる。スネ夫は妖術を使ってあたりを白い霧に包み、それにまぎれてフー子をさらう。さらにドラえもんのポケットも奪われ、ジャイアンも行方不明になってしまった。

 スネ夫にのりうつったもの。それは、かつて封印された嵐族の強力なシャーマン、ウランダーの霊体だった。スネ夫の体をのっとったウランダーは、その宿願をかなえるべくストームという男をはじめとする嵐族を率いて、さらなる行動へと移ろうとしていた。

 フー子を取り返し、スネ夫を正気に戻すべく、ドラえもんたちはテムジンとともに嵐族の本拠地へと潜入。のび太が罠にかかって牢屋に入ってしまうが、彼は同じく牢屋に閉じ込められていたフー子を風の民が風を起こす道具「ブンブン」を使って救出。さらに、スネ夫を助け出すべく嵐族に潜り込んでいたジャイアンの助けを借りて脱出に成功する。が、その途中で道に迷ってしまったのび太はフー子ととも吹雪の雪原に倒れてしまう。

 「日本誕生」を見ていた人なら、同じようなシチュエーションがあったことをお覚えだろう。あのときはマンモス(実はTPの移動基地)が助けてくれたが、今回助けてくれたのはヤク(中央アジアに生息する毛の長い牛の仲間)だった。夢現の中で、のび太は奇妙な声に風の民の過去の話を聞かされる。その昔、風の民と争っていた嵐族のウランダーは、その呪術で恐るべき風の怪物「マフーガ」を創造。荒れ狂うマフーガの力は暴風雨を引き起こし、40日間続いたその嵐は世界中に大洪水を起こして地上の全てを洗い流した。しかし、風の民の長であるノアジンがこれに立ち向かい、その体を三つの玉に分離することに成功した。ノアジンはそのうちの二つをウランダーとともに風の村の洞窟に、残りの一つをとある南の島に封印した。しかし、ストームたち嵐族が洞窟の封印を破ったため、ウランダーが復活。外へと飛び出した二つの玉の一つがのび太たちのもとへとやってきた。それがフー子だという。目を覚ますとのび太はヤクたちの洞窟で休められ、さらに彼の目の前には、シシ神様を思わせる巨大なヤクが。先ほどの話はヤークと名乗るそのヤクがのび太の心に語りかけたことであり、彼はマフーガを復活させないためにも、フー子を南の島の玉に近づけてはならないと警告した。翌朝、ヤクたちの洞窟を出たのび太とフー子はドラえもんたちと合流すべく風の村へ。が、その途中スネ夫が現れ、またしてもフー子はさらわれてしまう。フー子を手に入れたスネ夫は巨大なUFOに乗って飛び去ってしまった。

 ドラえもんたちと合流したのび太は、なんとかフー子を救い出し、マフーガの復活を食い止めようとする。最後の玉の封印された島の場所を風の民の長老は知っており、風の民は一族総出で切り札である空飛ぶ船「風の船」を動かし、一路南の島へと急行する。

 彼らが赤道直下の島へと到着すると、スネ夫が部下たちを残して玉の封印を解くべく一人島の火山へと向かうところだった。ドラえもんがそれを追跡し、のび太たちはその隙にフー子を救出することに。途中ジャイアンと合流したドラえもんは、玉に突き刺さっていた封印の剣を引き抜こうとするスネ夫を止めようとする。が、二人はスネ夫の妖術で木の根っこに体を縛られてしまい、スネ夫の心に訴えかけて正気に返そうとする(?)ジャイアンの歌さえ、ウランダーの乗り移ったスネ夫には恐るべきことに通用しない。「魔界大冒険」において魔界の人食いクジラや人魚さえをも退散させたあの殺人音波をものともしないとは、恐るべき敵である。そうしているうちに、スネ夫は玉から剣を引き抜き、玉の封印を解いてしまった。そのとたん、もうこの体には用済みとばかりにウランダーの霊はスネ夫の体から離れ、玉をもって出て行ってしまう。
 一方その頃、のび太たちは機転を利かせてポケットを奪回し、フー子の救出に成功していた。が、その前にウランダーが。その途端、封印されていた玉と、ウランダーとともに封印されていたもう一つの玉から生まれた邪悪なつむじ風、それにフー子までもが一つになり、巨大な雲の龍とも呼ぶべき怪物マフーガが復活してしまう。
 だがその直後、ウランダーの前に例の巨大UFOが。それに乗っていたストームのもつ奇妙な機械に、ウランダーは吸い込まれてしまう。正気に戻ったスネ夫、それにジャイアントともに出てきたドラえもんは、それが22世紀の道具である「四次元ペットボトル」であることを見抜く。すごい力をもっていた割には、ずいぶんトホホな道具で封じられてしまうものである。
 もちろん、そんなものを持っている人間がただの人間であるわけがない。ストームの正体は22世紀の考古学者、ドクターストームだった。マフーガ復活の予言が記されたペンダントを発掘した彼は、自らその予言を実現するためにこの時代へとタイムスリップ。ウランダーや嵐族を利用してマフーガを復活させ、再び大洪水を起こして地上の全てを洗い流した後で自分の支配する世界を作ろうと企んでいたのだった。

 どうやらマフーガはペンダントをもつものの思い通りに動くらしく、早速暴れ始める。その力はすさまじく、赤道上に超巨大ハリケーンを発生させ、波高数百mに及ぶかという大津波を引き起こすほどである。これに対してドラえもんはビッグライトで巨大化し、空気砲を装備してマフーガに立ち向かう。だが、体が雲でできているマフーガは空気砲が命中して雲散してもすぐにもとに戻ってしまう。と、伝説でノアジンが封印の剣を使ってマフーガの体を分離したことを思い出したのび太は、テムジンの力を借りて剣を手に空へと飛び立つ。そしてその剣でマフーガに斬りつけると、マフーガの体はもとの三つの玉へと分離され、そのうちの一つが再びフー子として戻ってきた。
 一件落着、かと思いきや、なんと残った二つの玉が合体してマフーガは復活してしまう。フー子が合体していないにも関わらず、その力は先ほどと全く変わっていないように見える。と、そのときフー子が火山の火口へと飛び、その熱エネルギーを吸収し始める。そして、全身に炎を纏ったフー子は猛スピードで飛び回りながら巨大な渦を巻き越し、マフーガとぶつかり始める。マフーガとは逆方向の回転により、それに立ち向かおうとしているのだ。だが、それはフー子の命をも・・・。止めようと泣き叫ぶのび太だが、フー子はそれをやめようとしない。やがて、声の限りにフー子を応援し始めるのび太たち。風の民も南風の力を借りてフー子を援護する。そして・・・ついにフー子の起こした大渦に飲み込まれ、マフーガは今度こそ消滅した。嵐がやみ、風も海も静まり始める。と、晴れ間の覗き始めた空から、ゆっくりと落ちてくるものが。それは、中身であるフー子のいなくなった抜け殻のようなぬいぐるみだった。命をかけて自分たちを救ってくれたフー子を思い、のび太はそれを抱きしめながら涙に暮れるのだった・・・。
 そして冒険は終わり、ストームもTPによって逮捕され、のび太たちは再び日常へと戻った。フー子はもういない。しかし、風のいたずらでふと起こった小さなつむじ風を見るなどにつけ、フー子はいつも自分のそばにいるのだと、のび太は思うのだった。

・・・というように、本作はコミック6巻「台風のフー子」を劇場用に思い切りスケールアップさせたという感じに仕上がっている。もとが感動的な作品であるだけに、妙にフー子にこだわるスネ夫などにはちょっと不自然さを禁じえないが、近年の作品としてはよいものに仕上がっていたと思う。

 さて、悪役である。この作品に関しては、嵐族、ウランダー、ストーム、そしてマフーガと、四つに分けてレビューした方がよいものと考える。
 まず嵐族についてであるが、これはもはや語るべきことはない。多く見積もっても十数人程度しかいないうえ、ドラえもんたちに手玉に取られるわ、酒盛りの最中に本拠地に忍び込まれても気づかないわ、子どものジャイアンが紛れ込んでいても気づかないわでまったくいいところのない最近の悪役の典型のような集団である。
 次に、ウランダー。あのマフーガを生み出し、なおかつ封印されても生きていただけあり、かなりの力をもっていた。ジャイアンの歌を聴いてもほとんどダメージを受けなかったというだけでも十分に強敵たる資格がある。惜しむらくはそれだけの力をもっているにもかかわらず、前述した通り「四次元ペットボトル」などという道具にあっさり吸い込まれてしまったことだが・・・。ところで、彼は吸い込まれただけで、四次元ペットボトルの中ではまだ生きているはずである。四次元ペットボトルはストームと一緒にタイムパトロールが押収したのだろうが、はたしてTPはこれをどう処理するつもりなのだろう?
 3番目、ストーム。ウランダーを封じ込めたというのに、ちっともすごさが漂ってこない。劇場版に登場した時間犯罪者としては恐竜ハンター、ギガゾンビ、キャッシュに続く四人目だが、ギガゾンビ以降そのスケールはどんどん小さくなっていっているように思えてならない。「汚れた文明を洗い流す」などと言っていたあたり、ただ世界の支配だけが目的ではなく、なんとなく救世主思想めいた考えの持ち主のようにも思えるが、いずれにせよ全てを洗い流したあとの世界を自分ひとりで支配しようなどというのはあまりにも身に余る野望である。それにしても今回のTPの登場はこれまでにも増して唐突すぎる・・・。
 最後に、マフーガである。容貌こそ雲でできた龍そのものという感じで個人的にはイマイチなのだが、その実力は劇場版悪役の中でもトップクラスであることは間違いない。なにしろかつてマフーガの引き起こした大洪水は、劇中では聖書に記されているあのノアの大洪水のことであると語られるのだから。「銀河漂流記」でも悪役のアンゴル・モアがノストラダムスの予言の「恐怖の大王」だと語られたが、あまりにも弱すぎた。その点マフーガの見せた力には、そんなごたいそうないわくがつけられるだけの説得力があった。フー子の犠牲や風の民の協力でようやく倒せた敵であり、ドラえもんのもつ超兵器をもってしても、マフーガを倒すのは容易ではなかったに違いない。悪役という点から言っても、マフーガのおかげで本作は十分合格点に達する作品になったと私は思う。


第26の刺客 ネコジャラ軍団

 「のび太のワンニャン時空伝」に登場。3億年前に栄えた犬人間と猫人間の暮らす王国「ワンニャン王国」にある最大のテーマパーク、「ネコジャーランド」のオーナーである猫人間ネコジャラと、その私兵部隊・・・と考えればよいのだろうか。
 「ワンニャン時空伝」は、てんとうむしコミックスにも収録されている「のら犬「イチ」の国」の劇場用リメイクの作品である。したがって、物語序盤までの流れはほぼ原作と同じ。原作がどのような話であったのか、それについては以前、ポケットの中の喧騒外伝「フウイヌムの島」に細かく記したので、詳しくはそちらを参照してほしい。
 さて、原作どおり捨てられた犬猫を3億年前に移住させ、なおかつ進化退化放射線源(映画では「進化退化光線銃」と呼んでいた)を使い、餌を作り出す機械を操作できるようにイチを人間並みに進化させるという暴挙を行ったのび太たち。「明日また会いに行く」という去り際の約束を果たすため、翌日再び3億年前へとタイムスリップするのび太たちだが、その途中、「ネジレゾーン」と呼ばれる謎の空間に突入してしまう。のちのドラえもんの説明によるとこのネジレゾーン、「時空に別の時空が割り込んでくる」というものらしいのだが、これだけではさっぱりわからない。一番わかりやすいのは、この空間の中に入り込むと、生物は急激に若返ったり、あるいは逆に老化したりする、ということである。なんとかこの空間を脱したのび太たちだったが、たどり着いた場所はイチたちを置いてきた時代よりも、千年先の時代だった。元に戻るにもタイムマシンが故障し、部品を手に入れなければならない。だが・・・そこには、犬人間や猫人間が闊歩する巨大な都市が存在していた。それこそ、イチたちの子孫が暮らす「ワンニャン王国」だったのである。部品調達のついでに、都市を見物するドラえもん一行。そこで彼らは、イチそっくりの犬人間の少年・ハチとその仲間たちと知り合う。子ども達だけで生きている彼らだったが、実は以前ネコジャーランドに遊びに行った際に親が行方不明になってしまい、それ以来互いに助け合いながら、ネコジャーランドに隠されている秘密を暴こうとしていたのだった・・・。
 さて、ハチたちとは別行動でネコジャーランドに潜入・・・というか、ほとんど観光のドラえもんたち。さらにドラえもんは猫人間の歌姫シャミーにすっかり夢中。だがそこへ突如、空から隕石が飛来。実はその頃、地球には巨大な隕石が迫りつつあり、ワンニャン国首脳陣は国民全てを他の惑星へと移住させるための準備を進めていた。一方、小さな隕石の落下の衝撃によって生じた穴に巻き込まれたドラえもんたちは、偶然ハチたちと再会。そのまま地下を掘り進み、地下で開発されていた巨大な宇宙船のようなものを発見する。そしてそこには、それを作るために強制労働させられていたハチたちの両親の姿が。彼らを助け出そうとするハチたちだったが、警備の兵士達によってハチを除いて捕らえられてしまう。さらにドラえもんも、連れ去られたシャミーを追いかけて気絶させられてしまう。
 目が覚めたドラえもんの前にいたのは、ネコジャーランドのオーナー、ネコジャラ。捕らえたドラえもんを前に、彼は自らの野望を語る。その野望とは、巨大なタイムマシンを建造し、3億年後の未来にタイムスリップして人間達をペットにする、というものだった。ようするにこれまでの悪役同様人類の支配が目的なのだが、奴隷ではなく「ペット」というのが猫的というかなんというか。彼の先祖はイチたちと一緒にやってきたズブという名の性格の悪い猫であり、自分達がいかにしてこの世界にやってきたのかを「闇の黙示録」と題した書物に書き残していたのだった。飼い主に捨てられたことをよほど根に持っていたのか、そこには人間を悪魔のように思う怨念まで書き記されているという。ネコジャラはそんな先祖の恨みを晴らす意味も込めて、3億年後の人類を支配下に置こうとたくらんでいたのである。だが、その計画にはドラえもんの力が必要だった。人間を原始人なみの知能に退化させるため、壊れた進化退化光線銃の修理が必要だったのである。シャミーを人質に取られ、やむをえずそれを了承するドラえもん。だが、シャミーもまたネコジャラの仲間だった。気絶させられたドラえもんは、シャミーの嘆願でスクラップ行きは免れ、タイムマシンに乗せられることに・・・。
 一方、強制労働させられていたハチの両親たちと共に、牢屋に投獄されたのび太たち。ネコジャラの腹心であるニャーゴはそのあいだに、タイムマシンの作動に必要なエネルギー源、ノラジウムをエネルギー省の倉庫から奪取する。宇宙船用のエネルギーが奪われたことで騒然となる首脳陣(そんな大事なもの、最初から宇宙船に積み込んでおけ・・・)。だが、スネ夫の仕掛けた単純な罠で見張りは席をはずし、その間にハチの手引きで脱出に成功する。さらにドラえもん救出のため、ジェットコースターを利用してタイムマシンに突入するのび太とハチ。そのショックでドラえもんも目を覚ます。ネコジャラの前にピンチに陥るのび太とハチだったが、名刀電光丸を手にしたドラえもんが相手を引き受けているあいだに、タイムマシンの動力を停止する。だがそこへ隕石が落下し、タイムマシンは下のプールに水没。水の中でハチは、(なんだかややこしいが)自分がイチだったという記憶を取り戻す。
 無事脱出に成功、再会を果たしたのび太とイチ。隕石の落下まで時間は残り少ない。だが、エネルギー源のノラジウムは水に触れると使い物にならなくなってしまう性質があり、タイムマシンと共に水没してしまっていた。だが、最後の希望は残されていた。イチがドラえもんたちを案内したのは、巨大な神殿。そこに安置されていたのは、原作にも登場した顔がのび太のスフィンクス像。それは、全体がノラジウムでできたものだった。ただちにそれをトラックに積み出発する一行。だがそこへ、飛行ロボットに乗ったネコジャラが襲いかかる。人間憎しの感情をむき出しにした形相で襲いかかるネコジャラ。だが、のび太とイチが振り上げ、ドラえもんがビッグライトで巨大化させたけん玉を受け、ついに撃墜される。
 かくして、のび太の像は無事に宇宙船団へ届けられた。ドラえもんも無事にタイムマシンを修理することに成功。そして、別れのときが来た。一緒に21世紀へ帰ろうと呼びかけるのび太だが、イチは仲間たちと共に新天地での生活を築く道を選んだ(犬人間の自分が一緒に帰れば歴史が変わってしまうことにもなる・・・というのもその理由だったが、そんなものは3億年前に犬猫を持ち込んだ時点で崩壊してるはず・・・)。あとのことをイチに任せたのび太は、原作どおり、いつの日か自分達の子孫とイチたちの子孫が平和なかたちで出会うことを望みつつ、現代への帰途へとつくのだった・・・。

 いつものごとく長々としたレビューとなったが、悪役としてのネコジャラ軍団のレビュー。とはいえ、またしてもあまり書くべきところのない悪役である。タイムマシンを建造できる技術力と資本力はすごいと思うが、そのあたりはギガゾンビやキャッシュも同じようなものだったし、他の点についてもいまいちパッとしないのである。特に、のび太たちを見張っていた牢屋番が、スネ夫の動かしたぜんまい仕掛けのネズミのおもちゃを追いかけていって職務を放棄してしまうあたり、部下の錬度は最悪と言ってもよいだろう。偶然ドラえもんたちがやってこなければ、どうやって進化退化光線銃を修理するつもりだったのか、計画のずさんさも気になる。ネコジャラ自身の人間を憎む気持ちなどはなかなか強いのだが、やはり、所詮は元愛玩動物。ドラえもんたちの敵ではなかった。


 いやぁ、すごい。ドラえもん達は毎年やってくるいろんなやつらの相手をしているうちに、これだけの戦果をあげているのだ。時間犯罪者、宇宙人、侵略ロボット軍団、魔王や妖怪の軍隊、その他わけのわからん連中。これだけバラエティに富む連中を相手にあるときはやっつけ、ある時は話し合いで対立を回避し、26戦23勝0敗3分け(和解ってこと)という輝かしい業績をあげたヒーローは他にはおるまい。さらに彼らは平和を守るだけではない。彼らは恐竜や日本人の祖先を助けている。地球の歴史にまで名を残している。さらに「桃太郎」や「西遊記」のモデルにもなった。伝説にまで名を残すヒーローはそうはいない。私はいままで最強のヒーローは快傑ズバットだと思ってきたが、早川健も彼らに「日本じゃあ二番目だ」と言えるかどうかあやしくなってきた。もっとも、ドラえもん達は本当はヒーローではない。普段は普通の小学生と子守ロボットだ。世界を守るのも、気まぐれでおこした行動がいつのまにやら予想外の方向に発展し、そこで起こった緊急事態を必死でくい止めたにすぎない。ほかのヒーローのように自分たちだけで戦っているわけでもない。のび太たちが自分達の力だけで世界を守ったのは「鉄人兵団」の時だけで、あとは必ずその守るべき世界で出会った人達やタイムパトロールの力をかりながら敵を倒すのである。明らかに他のヒーローとは一線を画している。すごい道具をもってはいるが、本質的には我々となんら変わりないヒーロー。彼らはそうであるからこそ、今なお多くの人に好かれているのだろう。これからも数多くの侵略者や正体不明の敵がこの地球や他の星、他の世界を狙ってやってくるに違いない。戦え、我らのドラえもん!世界の平和は君たちの手にかかっている!!

 補足として劇場版で明かされた歴史的事実をまとめた年表を制作しました。
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