ポケットの中の喧噪・外伝4 地球滅亡の危機


 ある日のことである。私はいつものように何気なくドラえもんの単行本を読んでいた。と、あるコマに目が止まり、私は恐怖に震えた。それは、人類の滅亡をもたらすかもしれない恐ろしい事実の記されたコマだったのである!

1.ある器官

 原子力。この言葉を聞いて、あなたは何を思い浮かべるだろうか。私は現代社会のエネルギー源として必要不可欠であると同時に、危険なものであると認識している。事実、原子力の制御が正常に行われなかった場合の恐ろしさを我々に見せつけた事故はたくさんある。有名なものはもちろん、1981年のチェルノブイリ原子力発電所の事故、1979年のスリーマイル島原発の事故である。そしてつい先日、私の住む茨城県内でおそろしいことが起こった。東海村の核燃料再処理施設で臨界事故が発生したのである。私の被った被害は大学へ行く電車が少し遅れたくらいだったが、その事態のしめす恐ろしさは十分に感じられた。

 本題に入ろう。てんとうむしコミックス第11巻P173「ドラえもん大事典」では、ドラえもんの様々な能力についての説明がなされている。

・赤外線アイ・・・夜でも見える目。
・強力鼻・・・人間の200倍の嗅覚。
・レーダーひげ・・・遠くのものをさぐる。
・デカ口・・・洗面器がすっぽり入る。
・ネコ集め鈴・・・ネコを呼ぶことが出来る。
・ペタリハンド・・・なんでもすいつける手。
・へんぺい足・・・ネコみたいにそっと歩ける。
・しっぽ・・・スイッチになっている。引っ張ると全機能停止。


 さすが、最強ロボットの誉れ高いドラえもん。秘密道具を抜きにしても、なかなかの能力をもっている。しかし、上述した記述にまじって、こんな記述もある。

・原子炉・・・なにを食べても原子力エネルギーになる。

 えっ、原子炉!? これには驚いた。人間と同じようにごはんを食べて動いているドラえもんには、てっきり人口胃かなにかが装備されているのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。だが、はたしてドラえもんに原子炉など搭載できるのだろうか?搭載できても、なにかおそろしいことになりはしないだろうか? 外伝4ではドラえもんの原子炉の謎に迫る。

2.ドラえもんの原子炉とは?


 ドラえもんの原子炉とは、どんなものなのだろうか? そもそも、燃料からして現代の核燃料とは違う。現代の核燃料はウラン235、プルトニウム239、トリウム232。いずれも放射性物質だ。もちろんドラえもんがバリバリとウランやプルトニウムを食べているところなど見たことがないし、見たくもないし、なにより怖い。周知のとおり、ドラえもんは人間と同じようにごはんを食べているが、食品はほとんどが炭素や水素、窒素で構成されている。未来の科学はこんなものを使って核反応を起こすことができるのだろうか?

 まぁこの辺は未来科学になんとかしてもらうとして、問題はここからだ。ここからは「空想科学読本」を参考にこの問題について考える。原子核反応には重い原子を破壊してエネルギーを取り出す核分裂と、軽い原子核を融合させてエネルギーを得る核融合の2種類がある。現代で実用化されているのは核分裂型原子炉で、核融合型原子炉はまだ実験中だ。だが、どちらの原子炉にも数多くの障害がある。 まず、原子炉でつくれるのは熱エネルギーだけで、これを運動エネルギーに変えなければドラえもんは動けない。現在の原発で使われている方法は、その熱エネルギーでお湯を沸かして蒸気を発生させ、それによってタービンを回して発電する方法である。う〜ん、ドラえもんが頭から蒸気を出しているところなんて見たことがないぞ(怒ったときは別)。こまったな。

 一応、これは今度からは頭から蒸気を出しながら動いてくれとドラえもんに厳重注意をして納得しよう。すると今度は原子炉の重さや大きさが問題になる。核分裂を採用した場合、コンクリートなら1m、鉛なら34cmの放射能防護壁が必要だ。核融合の場合でも中性子が出てくるため、これを遮蔽する防護壁が必要になってくる。さらに、蒸気機関を稼働させるためには、当然水が必要である。原子炉、ボイラー、発電器、動力装置、そして大量の水。原子力発電所が何ヘクタールもの大プラントになってしまうのはこのためである。原子炉を初めとする中心機器の超小型化に成功したとしても、放射能汚染を防ぐための防護壁と水だけはどうにもならない。中心機器が一辺30cmの立方体に収まり、防護壁を鉛で作ったとしても、心臓部は一辺98cmの立方体になる。重量は防護壁だけでも10.4t。水についても相当量が必要。胴体は鉛でいっぱいだから、水を入れる場所は頭しかない。結果、ウエスト4m、頭周りも同程度のダルマ体型になる。「空想科学読本」では、ドラえもんと同じ原子力ロボットの鉄腕アトムについてこう説明している。ドラえもんについても同じことが言えるだろう。なるほど、ダルマ体型か。この条件はドラえもんには見事に当てはまる。しかし、「ウエスト4m、体重10.4t以上」という条件が引っかかる。ドラえもんの身長・体重・胸囲は同じコミック第11巻P173ではっきりと、「身長129.3cm、体重129.3kg、胸囲129.3cm」と説明されている。まるっきり当てはまらない。水は四次元ポケットのなかにしまってあるのかもしれないが、原子炉が体内にあることははっきりしてしまっているのだから、同じことだ。

3.高まる放射能汚染の恐怖

 原子炉をドラえもんに搭載できるかどうかもあやしいのに、問題はまだある。そのひとつは意外に身近なところからわかる。あまり見ないが、ドラえもんはなんと、ロボットのくせにトイレにいくのだ。そのどこが問題なのか。もちろん問題となるのは「どこから排泄するのか」ではなく、「何を排泄しているか」だ。動物の排泄物は食物から栄養分や水分を吸収したあとの残りカスや、吸収されなかった水分である。体内に原子炉があるドラえもんなら、その排泄物は当然、使用済み核燃料であると考えるべきである。使用済み核燃料をトイレに垂れ流し!? どっかの団体もびっくりの管理のずさんさだ。これでは野比家のトイレに入った次々と被爆してしまう!

 せっかく厚い防護壁を作っても、これでは放射能汚染はドラえもんがトイレに入るたびに広がってしまう。ところがドラえもんによる放射能汚染の危機はこれだけにとどまらない。最大の問題は、実はドラえもんが欠陥商品であったという過去にある。前述のコミック第11巻P177では、ドラえもんの誕生をアルバム形式で解説しているが、その中に、「できが悪くて特売品になる」とある。欠陥品の原子力ロボットを特売品として売る!? 未来デパートは客の人命を考えていないのか!? そんなものを買うセワシの親も親だ。かわいい子供の子守をこんな歩く原爆ロボットにまかせるなんて! ドラえもんが欠陥品であることを証明する事実はたくさんある。前述した「ドラえもん大事典」のドラえもんの各能力だが、実はこんなことがつけ加えてある。

・強力鼻・・・今は壊れてる。
・レーダーひげ・・・今は働かない。
・ネコ集め鈴・・・今ちょっと調子が悪い。
・へんぺい足・・・今いたんでる。


 なんと、4つの能力は今故障中でまともにはたらかないのだ。修理しろよ! これだけでもかなりやばいのに、劇中では何度も壊れたり、機能停止というおそろしい事態を引き起こしている。以下、その例。

(1)「ドラえもんの歌(FFランド1巻)」の場合
 体内にコオロギが入ったため、やたら歌いたくなるという奇行をとる。しかもその歌がジャイアン以上にひどい!
(2)劇場版「のび太と雲の王国」の場合その1
 天上人のもとから逃げる途中雷にうたれる。そのショックで壊れ、わけのわからない言動をとる。
(3)劇場版「のび太と雲の王国」の場合その2
 雲もどしガスのタンクに頭から突っ込み、穴を開ける。そのショックで機能停止。
(4)劇場版「のび太とブリキの迷宮」の場合
 チャモチャ星ロボット軍に捕まり、高圧電流を浴びさせられる拷問を受ける。回路がショートして機能停止。

 知っているだけでもこれだけある。さらに、ネズミを見て一時的に機能停止(気絶)するのは日常茶飯事。なんということだ。(1)なんか特にひどい。虫が中に入ったくらいで故障するとは・・・。(2)(3)(4)は冒険に身を投じているのだからそういう危険な目にあうのも仕方ないが、原子炉を搭載しているのも忘れてホイホイ冒険の旅にでかけるのも困ったものだ。チャモチャ星ロボット軍については別のコーナーでボロクソいったが、ここでもひどい行動だ。知らなかったのかもしれないが、よりにもよって原子炉搭載のロボットに高圧電流・・・。無神経などというレベルではない。自殺行為だ。 幸い、修理は簡単らしい。(1)はのび太が未来からセワシをつれてきてコオロギを取り除いてもらった。(3)はキー坊こと植物星大使閣下が不思議な力で直した。(4)ではミニドラに修理してもらっている。(2)にいたっては、水に浸かっただけで直ってしまった。いずれにせよ、こんなに壊れやすいのはとても危険だ。

 さらにおそろしいことに、体内原子炉暴走の危機は実際に起こっていたのだ! 第21巻「未来の町にただ一人」では、ドラえもんは「たいへんなことなった。未来に帰らねば」と血相を変えてタイムマシンに乗って未来に帰っていった。原因は「原子炉の調子がおかしくなった」こと。のび太が夏休みにどこにもつれていってもらえず、ドラえもんにどこかへつれていってもらおうと声をかけても、「それどころじゃないっ!!」とえらい剣幕で一喝したくらいである。そりゃあそうだろう。下手をすれば核爆発かメルトダウンだ。大慌てで未来に戻って修理を受けなければならないのは当たり前だ。残されたのび太はドラえもんの慌てぶりの原因を「大地震かな。ひょっとして宇宙人の襲来!!」という具合にあれこれ推測していたが、最後に「地球最後の日!!」という可能性も挙げていた。なんと鋭いのだろう。本当に地球最後の日が訪れつつあったのだから。このときドラえもんの体内でどんなことが起こっていたのか。想像するだに恐ろしいが、核反応が制御されずに炉心の温度がグングン上がっていたのかもしれない。幸い、ドラえもんはロボット工場で古い部品を取り替えてもらってことなきをえた後、彼の後を追って22世紀のセワシの家にやってきていたのび太とともに20世紀へ帰った。こうして20世紀最悪の原子炉事故の危機は回避された。しかし理想を言えば、原子炉ではなくもっと安全なエネルギー源に取り替えてほしかった。どうしても原子炉でなければだめだというのなら、せめて完璧にオーバーホールしてもらってくれ。

4.地球滅亡の危機、そして・・・。

 こうなってくると、今まで核爆発も放射能汚染もなかったほうが奇跡的に思えてくる。ドラえもんがもっと自分の健康に気を配らない限り、いつまでもすすきヶ原の人々はこの歩く欠陥原子炉の恐怖におびえなければならない。
 では、もしドラえもんの原子炉が暴走したらどうなるか? それは前述したように、最悪の場合核爆発かメルトダウンということになる。

 核爆発を起こせば、当然高熱、衝撃波、そして大量の放射線が周囲のありとあらゆるものに襲いかかる。その直撃を受けたものは即死、運良く助かっても、その後放射線障害に苦しめられる。核爆発の際に生じる電磁パルスで、周囲の電子機器は使用不能に。最悪の場合が続けば、「核の冬」が訪れる。これは核爆発によって生じるチリと煙の厚い雲が太陽の熱と光を遮り、地球の気候が長期寒冷化する状態である。85年の国際学術連合会議の報告では、寒冷化とそれに伴う食料不足で10億から40億の人間が死亡するという。恐竜の絶滅原因の一説に、巨大隕石が衝突したというものがあるが、そのときもおなじような現象がおこったらしい。もっともこれは核戦争のように特に大規模な核爆発が起きたときにしか起こらない。ただ、故障だらけとはいえドラえもんの原子炉は22世紀製。現代の原子炉数基、数十基、下手をすれば数百基分以上のエネルギーをもっていたとしてもおかしくはない。そんなものが爆発したら日本はおろか世界が滅ぶ。ああ、なんてことだ・・・。 メルトダウンは、原子炉の炉心が制御不能のため温度が1000度以上にまで上がり、溶けてしまうことである。核爆発のように爆発することはないが、大量の放射能がとびちり、長く大地と大気と生物を汚染することにはかわりない。チェルノブイリの原発事故はこれが原因だった。
 もう一つ忘れてはいけないのが、「地球破壊爆弾」の存在だ。四次元ポケットの中のこの爆弾が、核爆発によって誘爆したら・・・。文字どおり、地球は消滅するだろう。

 こんな恐ろしい事態を引き起こしかねないドラえもんを20世紀に送り込んだセワシはどういうつもりだろう? ドラえもんはたいていのび太のそばにいる。もしドラえもんが核爆発を起こせば、すぐそばにいるのび太は焼け死ぬ前にかげろうのように蒸発してしまう。そうなれば、彼の孫の孫であるセワシもまた、消えてしまう。のび太だけではない。20世紀の日本人とその子孫達全体が同じ目に遭う。セワシは自分の暮らし向きをよくするためのび太をりっぱな人間にしようとドラえもんを送り込んだ。しかしこれでは、暮らし向きをよくするどころか、自分たちの存在自体を危険にさらしている。タイムパトロールが知ったらすぐに捕まえられるだろう。20世紀の人間として一言言いたい。

欠陥原子力ロボットなんて送り込むんじゃねぇ!!



 結論。ドラえもんが現状のままでいることは非常に危険である。確かに鉄腕アトムやエイトマン、ガンダムやジャイアント・ロボなど、原子力をエネルギー源とするロボットはたくさんいる。しかし、彼らの多くは戦闘用に作られた。原子炉をロボットに搭載すること自体危険なのだから、戦闘をすることも危険ついでに開き直って認めることができる。だが、ドラえもんは普通戦闘をしない。ただの子守ロボットだ。そんな平和な生活を送る彼が原子炉のような危険であまりに強力なエネルギー源を搭載しなければならない理由は何もない。本当にのび太の幸せ、そして20世紀の人々との平和的共存を考えているのなら、もっとましなエネルギー源を搭載してほしい。

参考文献
・「空想科学読本」柳田理科雄・著
 宝島社

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