ドラえもん対6人のドラえもん


第1話


兇悪! にせドラえもん



「あれ? ドラえもん、何だかうれしそうだね?」

 朝食を食べ終え、着替えを終えたのび太がランドセルを取りに自分の部屋まで戻ってくると、ドラえもんがなにやら喜々とした様子でいた。

「ウフフ・・・実はね、今日はロボット学校の同窓会に行くんだ」

「へえ。そう言えば、最近は未来に戻ってなかったからね。楽しんできなよ」

「うん。あ、そうだ。これ、何かあったときのために・・・」

 そう言ってドラえもんは呼びつけブザーをのび太に渡したが、のび太はそれを断った。

「この間の時も使わなかったでしょ? 今回もいらないよ」

「そう? だけど、心配だなあ・・・」

「いいから、大丈夫だって。あ、もうこんな時間! それじゃ行ってくるね!」

「いってらっしゃい!」

 のび太はあわただしく出ていった。

「出発には、まだ時間があるな」

 時計を見て、ドラえもんは言った。



 ドラえもんは、ふと思いだした。

「そうだ。みんなへのおみやげを買っておくのを忘れたな。何がいいだろう・・・。こういうときは、
食べ物関係がいいんだよね。そうだ! みんながどら焼きを食べる時に使う物をプレゼントしよう。
え〜と、キッドはケチャップだろ、王ドラはラー油・・・」

 ドラえもんはそれをメモすると、それを買いに商店街まで出かけることにした。その途中、いつもの
空き地の前をとおりかかった。その時である。土管の向こうから、声がした。

「ミャオ〜ン」

 甘ったるいネコの鳴き声だった。

「もしかして、ミイちゃん?」

 ドラえもんはちょっと興味をもって、空き地へと入っていった。

「ミイちゃ〜ん、出ておいでー。ゴロニャ〜ン」

 ネコ語まで使って誘うドラえもん。その時、土管の向こうの茂みがガサガサと動いた。

「ミイちゃん?」

 その時、茂みの中から何かが飛び出し、土管の上にスタリと着地した。

「うわっ! !? お、お前は!?」

「フフフ・・・彼女じゃなくて残念だったな」

 ドラえもんが驚くのをしりめに、それは金属の筒のようなものをドラえもんに向けると

「ドカン!!」

 と叫んだ。

「ミギャッ!!」

 筒から放たれた高圧の空気によって、ドラえもんは吹き飛ばされ、壁にぶつかって失神した。
ドラえもんを攻撃した人物は、ゆっくりと彼に近づいていった。

「フフフ・・・たわいもない」

 彼は倒れたままのドラえもんの足をつかむと、土管に向かってひきずっていった。



「ただいまぁ。ドラえも〜ん」

 のび太が帰ってきた。

「・・・は、いないんだっけ」

 誰もいない部屋を見回し、のび太はつぶやくと、机に歩いていってカバンを置いた。その時

 ドカッ!

「グハッ!」

 突然机の引き出しが勢いよく開き、のび太はそれを腹にもろに受け、反対側のふすまへと吹き飛ばされた。

「ただいまっ!」

 無惨な状態ののび太をしりめに机の中から顔を出したのは、ドラえもんだった。

「あれ? なんでそんなところで寝てるの?」

「そっちのせいだろが!!」

 のんきな顔ですっとぼけるドラえもんに、のび太も思わず声を荒げる。そんなことにはかまわずに、
ドラえもんは机から降り立った。

「それで? どうだったの同窓会は?」

「そりゃあもう、楽しかったよ!」

いつも以上にオーバーなリアクションを見せるドラえもん。その時、のび太は気づいた。

「あれ? ドラえもん、その首輪・・・」

 彼の言うとおり、ドラえもんの首輪はいつもの赤いものではなかった。ピカピカ光る、黄色の首輪
だったのである。

「ああ、これ? ドラえもんズが僕にプレゼントしてくれたんだ。いつも同じ首輪じゃあマンネリ
だから、そろそろイメチェンしてみたらってね。どうだい? 似合うだろう?」

 ドラえもんは得意げにそれを見せた。短足寸胴二等身のロボットに似合うも似合わないもないのだが、
のび太は

「うん。とってもよく似合ってるよ」

 と一応答えた。こう見えても彼にはムダにルックスにこだわっている面があるのである。下手なことを
言ったら、どんな目に遭うかわかったものじゃない。のび太は話をそらすことした。

「あ、そろそろスターマンの始まる時間だ。ドラえもん、行こう?」

「スターマン・・・?」

「やだなあドラえもん。毎週楽しみに待ってるじゃないか。ほら、スターマンが悪者と戦って、
やっつける番組
だよ」

「あ、ああ、そうだったね。ちょっと楽しすぎて、まだ興奮してるみたいだ。それじゃ行こう」

「うん」

 二人は茶の間に降りていった。その後は普通に夕食を食べ、普通にテレビを見て、普通に寝た。何一つ
変わったことはなかった。



 その夜。

「アハアハ・・・待ってよ、しずかちゃ〜ん・・・」

 のび太が眠りながらにやついた笑いを浮かべている。小学生がしていい笑顔ではない。彼は今、花畑で
麗しの君、しずかちゃんを追いかけている夢を見ているのである。

「待ってよ〜、しずかちゃ〜ん!」

「ウフフ・・・のび太さん、私をつかまえてみせて!」

 あまりにもベタな夢だが、のび太の見る夢などこんなものである。こんな追っかけっこをしばらく
続けた後、のび太はついにしずかちゃんを捕まえた。

「つかまえた!」

「きゃ〜!」

 のび太はそのまましずかに抱きつき、花畑に倒れ込む。

「しずかちゃん・・・僕、本当に君のことが大好きなんだ・・・」

「のび太さん・・・私も、のび太さんのこと大好き・・・うれしい」

 見ちゃいられない。しずかはのび太の肩に腕を回し、きつく抱きしめた。

「おいおい、よしてくれよしずかちゃん・・・」

「ウフフ・・・」

 ところが、しずかちゃんはますますきつく抱きしめてくる。

「ちょ、ちょっと、しずかちゃん・・・」

「ウフフ・・・」

 締め付けはますます強くなる。女の子の力ではない。

「しずかちゃん・・・ほ、骨が・・・」

「ウフフ・・・」

 天使のような笑顔を浮かべて、ますますのび太をしめつけるしずかちゃん。両腕の骨が、みしみしと
音をたてはじめた。そして、だんだんと気が遠ざかり・・・。



「ウワッ! ハッ・・・夢か・・・」

 安堵のため息をもらすのび太。

「ふう・・・いくら僕が好きでも、あそこまでされたらたまったもんじゃない・・・ギャアアアアア!!

 のび太は、突如気がついた。暗い部屋の中、自分の上に何かがまたがって、自分の首に手をかけている
のである。

「ウワアアアア!!」

 めちゃくちゃに手を振り回すのび太。それが天井の電灯から下がったひもに触れ、室内に灯りが灯る。
そして、その正体がはっきりした。

「ドッ、ドラえもん!? 何で!?」

 なんと、彼にまたがって首を絞めていたのは、ドラえもんだったのだ。驚いて振り払おうとするが、
129.3kgの巨体がのしかかっているため、身動きがとれない。

「いい夢を見ていたみたいだけど、起きちゃったねえ。夢を見ている間に永遠の眠りについて欲しかっ
たんだけど・・・」

 ドラえもんは不気味な笑いを浮かべて言った。のび太ののどを絞めるドラえもんの手に、ますます力が
こもる。

「ドッ、ドラ・・・ぐるじ・・・」

 もはや、言葉を発するのも難しい。

「フフフ・・・天国でゆっくり昼寝するがいい・・・」

 のび太が意識を失いかけている。その時、

ガチャァァァン!!

 窓ガラスが割れ、何かが室内に飛び込んできた。

「ムッ!?」

 それに驚き、ドラえもんが窓の方を向く。思わず、のび太を絞めている手から力が抜けた。室内に飛び
込んできた何者かは、叫んだ。

「ドカン!!」

 空気の塊が発射され、ドラえもんを吹き飛ばした。

「グゥアッ!!」

 ふすまをつきやぶってドラえもんが倒れる。室内に入ってきた何者かは、その隙にのび太に駆け寄った。

「大丈夫か!? のび太君!」

 なんとそれは、ドラえもんだった。その言葉に、意識を取り戻すのび太。だが

「ウワアアアア!! 人殺しぃぃぃぃ!!」

 半狂乱ののび太が、渾身のパンチをドラえもんの頬に叩き込んだ。

「グゥオオオッ!!」

 ドラえもんは吹き飛ばされ、本棚に衝突した。

「なっ、何これ!? ドラえもんが二人!?」

 ドラえもんは本棚に倒れているドラえもんと、ふすまに突っ込んでいるドラえもんを交互に見て驚いた。
二人のドラえもんは、ほぼ同時に起きあがり、同時に叫んだ。

「のび太君! そいつが偽物だ!」

「だまされちゃいけない! あいつが偽物だ!!」

 二人はおたがいに自分が本物だと言い張ったが、のび太はすぐに、ふすまのドラえもんをにらみつけた。

「お前が偽物だろ! はっきりと見たぞ! 僕の首を絞めていたドラえもんの首には、黄色い首輪が
あった!」

「ちっ! 意外に鋭いな!」

「誰でも気づくわ! 急に首輪の色を変えたり、スターマンのことを知らなかったり、なんか変だとは
思ってたんだ!」

 そう叫ぶとのび太は、本棚のドラえもんに駆け寄った。本棚のドラえもんは、赤い首輪をしている。
本物のドラえもんは、空気砲を偽物に向けながら言った。

「お前は一体何者だ!? 一カ所だけ本物と違うっていう、偽物の鉄則には忠実みたいだけど」

「フン。答えてやる義理はない。だが、あの土管から逃げ出したことは誉めてやろう」
「あんな土管を改造した牢屋なんて、いくつも修羅場を切り抜けてきた僕なら朝飯前さ! それよりも、
お前の目的はなんだ!?」

「そこにいるメガネ小僧を殺すことだ」

「なんだって!? なぜこんなグズでのろまで意気地なしで根性なしであわれでおろかなのび太君を!

「ドラえもん、本気で僕のこと守ろうと思ってる?」

 いつもの毒舌だったが、なにもこんな時にまでと、さすがにのび太もムッとした。

「うるさい! 邪魔をする気なら、お前から先に血祭りにあげてやる! 今年の春のTVスペシャルの
タイトルは、「春だ一番! 血祭りだよドラえもんスペシャル」だ!

「何を! 僕の首輪のこの真っ赤な赤は、熱い血の色、正義の色だ! 黄色い首輪の奴になんか、負けて
たまるか! こい!」

「そ、そうだったの!?」

 首輪の色の意味について初耳だったのび太は、思わずそう尋ねてしまった。しかし二人のドラえもんは
それにかまわず、戦いを始めてしまった。にせドラえもんの片腕のペタリハンド(ドラえもんの球形の
手)がカパッと開き、中からロケット弾が飛び出した。それをかわし、負けじとドラえもんも空気砲を
放つ。のび太の部屋は壮絶な銃撃戦の舞台となってしまった。

「ひいいいいい!!」

 のび太は悲鳴をあげて、机の下に潜り込む。だが、戦いはますますヒートアップした。流れ弾によって
本棚が吹き飛び、窓ガラスが粉々になり、ふすまに大穴があく。のび太の部屋は、むちゃくちゃである。

「ハア、ハア、やるな・・・」

「ヒイ、ヒイ、こしゃくな・・・」

 二人とも疲れ、一時静寂が戻る。だが、その時ふすまの向こうから、何かが二階へあがってくる音がし
始めた。

「ま、まさか・・・」

 のび太は青ざめ、震え上がる。だが、彼が予想していた人物が、現れてしまった。

「うるさぁぁぁぁぁい!! 今何時だと思ってんのぉぉぉぉぉぉ!?」

 それは、安眠を妨害され鬼と化した野比家の母、野比玉子(38)だった。しかも、手には最強の武器、
まつばらホーキを持っている。もはや、誰にも止めることはできない。

「うわっ!? 鬼ババ!!」

 そのあまりの恐ろしさに、にせドラえもんが叫んだ。だが、それは禁句だった。

「なんですってぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 玉子(38)は人間技とは思えない動きでにせドラえもんに駆け寄ると、猛烈な勢いでまつばらホーキを
ふるった。

「ダバァァァァァァァ!!」

 意味不明な叫びをあげ、割れた窓からにせドラえもんが吹っ飛んでいった。それを目にして、
ドラえもんが思わず歓声をあげた。

「やった! すごいよママ!!」

 しかしそのドラ声を聞いて、玉子(38)がキッと彼の方をにらんだ。

「まだいたかぁぁぁぁぁ!!」

「ちっ、違っ! 僕は本物・・・ギャアアアアアアア!!

 ドラえもんも窓から外へ吹き飛ばされた。この状態の玉子(38)には、何を言ってもムダである。
部屋を汚したもの、めちゃくちゃにしたもの、近所迷惑になるもの、そして自分にとって邪魔と思うものを
全て窓から廃棄したいという本能に従って行動しているのである。それらを排除しない限り、掃除の
鬼、玉子(38)の暴走は止まらない。

「ア、アワアワ・・・」

 この惨劇を目にしたのび太は、机の下からこっそりとはいだし、部屋の外へのがれようとこっそりと
這い出していった。だが、突如背後に恐ろしい気配を感じ、立ち止まってしまった。おそるおそる振り返
ると・・・

「のぉぉぉぉびぃぃぃぃちゃぁぁぁぁんんんんんんん!!」

 鬼の形相の玉子(38)が立ちはだかっていた。彼女はまつばらホーキを放り捨てると、のび太を軽々と
担ぎ上げた。

「ウワアアアアア!! 僕、何にもしてないのにぃぃぃぃ!!」

 必死の叫びも、玉子(38)には届かない。

「捨てちゃいます!!」

 のび太は彼女によって、窓から放り捨てられた。

「うわあああああ!!」

 ドサッ。

「ふう、やっと片づいたわ・・・」

 静寂が戻った。玉子(38)は安らいだ表情を見せると、再び布団のある寝室へと戻っていった。

次回予告


 掃除の鬼、玉子(38)の活躍によって、謎の強敵、にせドラえもんの撃退に成功したドラえもんと
のび太。だが、のび太襲撃の目的が謎に包まれたまま、謎の敵の魔の手はドラえもん達だけでなく、
彼らの友人にまで伸びる・・・。彼らの運命やいかに!? 次回「ドラえもん対6人のドラえもん」
第2話「出現! 謎の組織DBS団」 ご期待ください。

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