ドラえもん対6人のドラえもん
最終回
DBS団全滅! 首領の最後
「あそこに逃げ込むぞ!」
ドクトル・Dこと出木杉を追っていたドラえもんとのび太は、どこかのドアを開けて中に入るドクトル・Dの姿を目撃した。そして二人は、すぐにその部屋の前までやってきた。
「ここは・・・校長室!?」
立派な木で作られたドアがついているその部屋は、校長室だった。
「なんで校長室に・・・?」
「そういえば・・・ドクトル・Dは自分を大幹部と言っていた。ということは、あいつの上にはまだ、首領がいるんじゃないか?」
「その首領が、校長室にいるっていうの? ということは、首領の正体は、校長先生!?」
のび太は校長の顔を思い出そうとしたが、マンガには1、2回しか出てきていないので、よく思い出す
ことができない。
「それは入ってみればわかる。さあ、いくぞ!」
ドラえもんとのび太は、勢いよくドアを開けて中へ突入した。
「わっ! も、もうここまで!」
部屋の中にいたドクトル・Dは二人の侵入に驚いた。部屋の中は立派な校長室ではなく、薄暗くいくつもの怪しげな機械が置かれた、いかにも悪の秘密基地の司令室、という雰囲気になっていた。そして、その奥の壁にはピカピカ光るランプが埋め込まれており、ドクトル・Dはそのランプに向かって手をさしのべた。
「首領! 私を見捨てないでくれぇ・・・」
だが、ランプは冷たく言い放った。
「未熟者め! 貴様のような役立たずには、死あるのみだ!」
その声と共に、どこからともなくかなだらいが落ちてきて、ドクトル・Dの頭を直撃した。
「うわぁぁっ!!」
ドクトル・Dはそれによって地面に倒れた。
「DBS団の首領が、大幹部までも・・・」
ドラえもんとのび太は、思わずその冷徹さに戦慄した。そんな彼らの耳に、首領の声が聞こえてきた。
「ワハハハハハハ・・・よくぞここまでたどり着いたな、ドラえもん、野比のび太!」
「お前がDBS団の首領か!」
「いかにもそのとおり! 私がDBS団の首領だ!」
「答えろ! なぜ僕の命を狙ったんだ! なぜ出木杉に僕の暗殺をやらせた!」
「出木杉? ハハハ・・・ドクトル・Dは、たしかに出木杉だ。だが、お前の知っている出木杉英才ではない」
「なにっ!? どういうことだ」
首領がわけのわからないことを言ったので、ドラえもんは思わず聞き返した。
「その男の名は、出木杉ヒデキ・・・。お前の知っている出木杉英才の、孫の孫だ」
「な、なんだって!? じゃあ、僕にとってのセワシと同じか!」
「その通りだ」
「なんだって出木杉の孫の孫が、僕の命なんかを狙うんだ! 僕が出木杉に恨みをもつことはあっても、あいつが僕に恨みをもつようなことはないはずだぞ!」
「のび太君、あんまりいばれたことじゃないよ。でも、確かに君の言うとおりだ」
「その通り。出木杉ヒデキ本人は、お前に恨みをもってはいない。その男は熱狂的な悪の組織マニアでな。私が、お前が野比のび太を殺す手伝いをしてくれたら、資金を提供して悪の組織づくりを手伝ってやると言ったら、喜んで手伝ってくれたわ」
「天才出木杉家の家系も、代を重ねるにつれてだいぶ変なのが出てくるんだね・・・。それはともかく、のび太君に恨みをもっているのはお前なんだな? お前は一体何者だ?」
「フフフ・・・私の正体を知った者は、死なねばならん! それでもよいのか?」
「いまさらそんな脅しに乗るか!」
「ドラえもん、こいつの声、スピーカーからとかじゃなくて、この壁の向こうから聞こえてくるみたいだよ!」
のび太が壁に耳をあてながら言った。
「よし! それなら、壁を壊すぞ!」
ドラえもんは空気砲を、のび太はショックガンを構えた。
「ワーッ! や、ヤメローッ!!」
「発射!」
武器が一斉に発射され、轟音とともに壁に大きな穴があいた。
「アーッ! コラ! 入ってくるんじゃなあい!!」
「何をいまさら。よし、突入だ!」
のび太とドラえもんはその穴へと突入していった。
「な、なんだここは?」
ドラえもんは壁の向こうにあった部屋を見て、そんな声をもらした。彼らは悪の首領のいる場所ならば、不気味な神殿とか、あやしい機械がたくさん置かれている部屋とか、暗い洞窟とかがそこにあるものと思っていた。だが、現実はそうではなかった。そこは六畳ほどの畳がしかれた、狭くて汚い部屋だったのである。そこらじゅうにゴミが散らばり、寝相で乱れた布団が置かれている。流しには、洗っていない洗い物がたまっていた。まったく緊張感のかけらもない。悪の首領というよりは、貧乏大学生が住んでいそうな部屋だった。そしてその部屋のほぼ中央にある、汚れた座卓に何者かがいた。白いシーツをかぶっており、どんなやつなのかわからない。
「あーあ、入ってきちゃった」
「悪の組織の首領なら、もっといい部屋に住めよ! これじゃまるで、五郎さんのアパートじゃないか!」
あまりのみすぼらしさに、のび太とドラえもんはあきれていた。ちなみに五郎さんというのは、のび太のいとこの貧乏大学生である。だが、すぐに気を取り直す。
「まあ、そんなことはいい。そのシーツを引っ剥がして、正体を見てやる!」
「ワーッ! ヤメローッ!!」
だがそれにおかまいなく、ドラえもんは首領に飛びかかってシーツを引き剥がした。
「・・・」
ドラえもんとのび太は、シーツの下の首領を見て、適当な言葉が浮かばなかった。
彼らとしては、一つ目の怪人とか、大鎌を持った骸骨とかを、首領の正体として期待していたのである。もっとも、この部屋を見た時点でその希望はだいぶ薄らいだ。そして、やはり期待は裏切られた。シーツの下にいたのは、どこにでもいそうな、風采の上がらない50歳過ぎぐらいのやせた男だったのである。ただ奇妙だったのは、その男の体が半透明で、体を通してその向こうが見えることだった。
「ついに私の正体を見てしまったな。生かしては返さん」
男は精一杯ドスのきいた声でいったつもりのようだったが、ドラえもんとのび太は白けていた。
「はなっから生かして返すつもりなんかなかったくせに」
「何っ!? 私の正体を見ても驚かないのか!? 私は幽霊なんだぞ!」
「ふ〜ん。なるほど、体が透けてるのはそのせいか。だけど、全然怖くないよ。あんたみたいなうだつの上がらない男の幽霊じゃ、見ても白けるばかりだ」
「な、なんて奴らだ・・・」
落胆する男。それを無視して、ドラえもんが言った。
「だけど、幽霊ってことは、恨みをもって死んだはずだ。そして、こいつは君に恨みをもっていると言っている。のび太君、こいつに見覚えは?」
「ないなあ。君の道具を使って数え切れないくらいのいたずらをしたけど、脇役を含めて、こんな顔の犠牲者は見たことがない。一体あんた、誰なんだ?」
のび太がそう聞いてきたことがうれしかったらしく、男はよろこんでしゃべりはじめた。
「フフフ、冥土のみやげに教えてやろう」
「そんなものはいらないけど、一応聞こう」
「まず、自己紹介をしておこう。私の名は、デキスギ・ヒデヨシ。ドクトル・Dこと出木杉ヒデキは、私の祖父の弟、つまり大叔父にあたる」
ドラえもんとのび太はそれを聞いて、納得のいかない顔をした。
「ちょっと待て! ドクトル・Dの孫の代にあたるっていうことは、出木杉の孫の孫の孫、遠い未来も未来の男じゃないか! まだ生まれてもいないやつが、なんで幽霊になって今ここにいるんだよ!」
「フフフ、お前達は知らないだろうが、幽霊になるといろいろなことができるようになるのだ。時間移動もその一つ。だがそれにはかなりのエネルギーが必要であり、私のいた24世紀から一気にこの時代まで来るのは不可能だった。そこで私はまず22世紀までタイムスリップし、出木杉ヒデキのタイムマシンに乗ってこの時代まで来たのだ」
「ちんけな力だなあ。それで? あんたは何で、のび太を殺そうと思ったんだ?」
「フ。お前自身には恨みはない」
「じゃあなんで僕を狙った!?」
「全てはお前の孫の孫の孫、つまり野比セワシの孫、ノビ・ノビルのせいだ。私はその頃、父から受け継いだ牛丼チェーン、「出木牛」を経営していた。だが、ノビ・ノビルが総帥を務めるノビ財団が新たに「牛丼野比の屋」を設立して、牛丼界になぐり込んできたのだ。その素早い展開に、あっという間にシェアを奪われ、ついに「出木牛」は倒産、私は失意のうちに自殺したが、恨みが残って幽霊となったわけだ」
「つ、つまり、僕の子孫は大金持ちになってるってわけだね!」
「借金なんかとっくの昔に払い終わってるわけだ!」
ドラえもんとのび太はその話を聞き、手を取り合ってその場で踊り始めた。だが、デキスギ・ヒデヨシは怒り心頭。
「貴様ら! 俺のような哀れな被害者を見てよくも手放しで喜んでられるな!」
「当たり前じゃない。ビジネスの世界は食うか食われるか。競争に負けるのは、努力の足りない奴だよ。そんな奴には同情無用」
「それにねえ。自分のことを哀れな被害者だなんて言って得意がってる被害者なんて、誰も被害者扱いしちゃくれないよ」
二人の返事は、いたってドライ&クールだった。さすが、秘密道具を使って数々の商売を開業してきた二人である(たいていは失敗に終わっているが)。
「き、貴様ら・・・」
「あんたがセワシ君の孫に恨みを持ってるのはわかったよ。だけど、どうして僕を狙う?」
「フフフ、それはだな。私は幽霊になってから、お前達野比家の一族に復讐することにした。そして野比家の一族の中で、一番ダメな奴を狙うことにしたのだ。そいつを殺せば、子孫であるノビ・ノビルもいなくなり、私の人生も蘇る。そして、その白羽の矢がたったのが、野比のび太、お前だ」
「ムッ! 僕が一番ダメだって言うのかい?」
「なるほど、一理あるね。でものび太君、怒ることはないよ。逆に考えれば、のび太君の次の代からはずっとよくなっていくってことなんだから」
「なるほどね・・・って、納得できるか! まあ、そんなことはもういい。お前の判断は誤算だったな。何しろ僕は狙撃成功率91.2%(のび太イズム調べ)、人呼んでのび太・ザ・イェーガーなんだからね」
「それに、このスーパー子守ロボットドラえもんも一緒にいるんだ。覚悟しろ! お前の足場はすでに破壊された!」
デキスギの霊は苦虫をかみつぶしたような顔で二人をにらみつけた。
「うぬぬ・・・こしゃくな奴らめ! かくなる上は、この私が直々にお前達を抹殺してやる! だてに首領を務めていたのではないことを、お前達に教えてくれるわ! 霊の力をなめるなよ!」
そう叫ぶとデキスギの霊は深呼吸をし、大きく腕を振るった。
「ハァァァァァ! ポルタァァァァァガイストォォォォォ!!」
すると汚い部屋の中のありとあらゆるものが空中へ浮き上がり、狂ったようにそこらじゅうを飛び回り始めた。
「うわっ! のび太君、気をつけろ!」
洗濯していない下着なども飛んでくるため、二人はそれを懸命にかわした。物理的ダメージより、精神的ダメージの方が心配である。そうこうしているうちに、その勢いも弱くなり、ついには浮いていた物はすべて床に落下し、もとから汚かった部屋がますます汚く散らかった。
「ハァ・・・ハァ・・・」
見ると、デキスギの霊は肩で荒く呼吸をしている。
「どうした? もう終わりか?」
「お、おのれ、かくなる上は・・・」
ドラえもんとのび太は今度は何をしてくるかと身構えた。だが、デキスギの霊は思いがけない行動に出た。
「覚えておけよ!」
そう捨てぜりふを残すと、デキスギの霊は二人の横をすり抜けて壁の穴から外へ逃げ出していった。
「ああっ、逃げた!」
「なんて弱い奴なんだ!」
二人は開いた口がふさがらなかったが、すぐにドラえもんが手段を講じた。
「相手ストッパー!」
ドラえもんは誰かの動きを止める道具、相手ストッパーを取りだし、スイッチを入れた。そうしてから校長室を出ると、そこには動けないデキスギの霊がいた。
「ど、どうしたことだ! 体が動かん!」
そんな状態のデキスギの霊を見て、二人が話し合った。
「こいつどうする? 仮にも僕を殺そうとしたんだし、罰は受けてもらわないと・・・」
「そうだね。だけど、幽霊だから警察やタイムパトロールに突き出すわけにもいかないし・・・」
「かといって、こうも迫力のない顔じゃ、番犬代わりにも使えないね。本当に、始末の悪い奴・・・」
ドラえもんとのび太は勝手に処分について話し合ったが、やがてドラえもんが言った。
「仕方がない。こうなったら、普通に成仏させちゃおう」
「それがいいね。だけど、ドラえもんって武器はいやにたくさん持ってるけど、除霊のための道具なんて
持ってたっけ?」
首を傾げるのび太に、ドラえもんは自信満々で言った。
「フッフッフ・・・のび太君、僕をみくびっちゃいけないよ。当然僕は、22世紀最新の除霊アイテムを持っているのさ」
「オオーッ! すごいじゃない! それじゃあ早く見せてよ!」
「そうせかさないで。・・・さあ、それじゃあ行くよ! それっ!」
ドラえもんはもったいぶってから、勢いよく何かを取りだした。
「成田山のお札ぁ!!」
のび太はそれを見てずっこけた。それは、「恐怖のディナーショー」という話で、ドラえもんがジャイアンの恐怖のディナーショーに備えるべく、「耳せん」や「赤まむしドリンク」などと一緒に取りだした、成田山のお札だったのである。
「ド、ドラえもん、それのどこが最新の除霊アイテムなんだよ! 普通に成田山で売ってるやつじゃないか! しかもそれ、「安産祈願」って書いてあるじゃないか!」
なるほど、確かにそれは安産祈願のお札だった。
「あ、言われてみればそうだね。だけど、気にしない気にしない。ちゃんと効果はあるって」
ドラえもんはお札が安産祈願のものであることなど気にする様子もなく、つかつかとデキスギの霊の前に歩いていった。そして
「悪霊たいさぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
気合いとともに、そのお札をデキスギの霊の額に貼りつけたのである。そのとたん
「ギャアアアアアアアアアアアア!!」
なぜだかは知らないが、デキスギの霊は断末魔の叫びと強烈な閃光をあげてから、やがて陽炎のように消えてしまったのである。
「よし、除霊完了。さすが成田山のお札、すごい威力だ」
「な、なんで安産祈願のお札で・・・」
のび太は今だに納得ができなかったが、ちゃんと成仏させてしまったのだからしかたがない。それ以上追求するのをあきらめ、ドラえもんに歩み寄った。
「ま、まあこれでようやく、全部片づいたってわけだね」
「そうだね。あとは、校長室の中に倒れてるデキスギ・ヒデキをタイムパトロールに連絡して、殺人未遂で逮捕してもらおう」
「うん」
そう言うと、ドラえもんは大きくあくびをした。
「ああ〜あ。夜通し戦ってたから、もう眠いよ。早く家に帰って、この赤い塗装を落としてから寝よう」
「僕も、早く家に帰って寝なきゃ」
「でも、そんなには眠れないだろうね。明日は学校だから」
「あっ、そうか! くそっ! 僕の睡眠時間を返せぇーっ!」
結局のび太にとって今回最大の損害は、睡眠時間を奪われたことであった。
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