ドラえもん対6人のドラえもん
第3話
突入! DBS団本部
夕食を食べた後、ドラえもんとのび太は部屋に戻って話をしていた。
「ああ、やっと体の具合が元に戻ってきたよ。ママのおかげで助かったとはいえ、いくらなんでもちょっとやりすぎだ」
「うん。いくら僕達がマンガのキャラで傷の治りが早いからって、あれだけのダメージを受けたらさすがに完治には一日かかったね。おかげでケガの治療と部屋の修理に、日曜日をつぶしちゃったよ」
「それもこれも、みんなあのにせドラえもんのせいだ。一体あいつは何者で、なんで僕の命を狙ったん
だろう?」
「そうだね。どうみても、狙われる価値のある人じゃないしね、君は」
「どういう意味・・・?」
のび太がドラえもんをにらみつける。
「それはともかく、きっとそれはすぐにわかるさ」
「どうして?」
「きっとあいつは、もう一度君の命を狙うはずだ。その時こそ、あいつの正体を確かめる絶好のチャンスだよ」
「僕の命が狙われるって、ずいぶん喜んでるみたいだね・・・?」
「そ、そんなことはないよ。僕が何のために22世紀からやってきたか、君も知ってるだろう?」
「はてさてどうだか・・・。本当に僕を守る気があるの?」
「もちろんだとも。このドラえもん、君のためならたとえ胃の中水の中・・・」
「それってなんか違ってない?」
その時、1階で電話が鳴る音が聞こえてきた。そして、ママが受話器をとったため、ベルの音が止んだ。だが、すぐにママの声がした。
「ドラちゃ〜ん、しずかちゃんのママから電話よ」
「しずかちゃんのママ? しずかちゃんならわかるけど、なんでママから・・・?」
「とにかく、行ってくるよ」
そう言ってドラえもんは階下へ降りていった。そしてしばらくの間、彼は電話で話していた。ときおり、ドラえもんが驚いたように声を大きくするのが聞こえた。そして、彼は再び二階へと上がってきた。
「何があったの、ドラえもん?」
「大変だよのび太君! しずかちゃんが行方不明だ!」
「なんだってぇぇぇぇぇ!?」
のび太は思わず錯乱しそうになった。
「そそそそれって、いい一体どういうことなの!?」
「落ち着くんだのび太君! 実は、今日の午前の10時頃に、僕と同じ姿の奴がしずかちゃんの家にあがったあとで、しずかちゃんがいなくなったらしいんだ」
「なんだってぇぇぇぇ!? じゃあ、犯人はお前かぁぁぁぁぁぁ!?」
錯乱の度合いを高めたのび太が、狂ったようにドラえもんに飛びかかる。が、ドラえもんは丸い拳に力を集中し、のび太をぶっ飛ばした。
「グハァ!!」
吹っ飛ばされたのび太は、本棚に激突した。本棚から次々とマンガが彼に降り注ぎ、彼の体が埋もれた。
「落ち着けって言ってるだろうがぁ! まったく、せっかく修理した本棚が・・・。いいか、君だって覚えてるだろう? 10時といったら、僕と君とママが、テーブルの上でゴーゴーを踊っていた時じゃないか!」
「そ、そうだったね・・・今のパンチで、目が覚めたよ・・・」
のび太がよろよろと本の山からはいずりだしてきた。
「ママにもそのアリバイを証明してもらった。それでしずかちゃんのママに、しずかちゃんの家に来たドラえもんはどんな色の首輪をしていたかって聞いたら、ピンク色の首輪だって言っていた」
「ピンク色? でも、あいつの首輪は・・・」
「ああ、黄色だった。つまり僕のニセモノは、あいつだけじゃなかったんだ」
「な、なんだか、嫌な予感がしてきたよ・・・」
その時、そんなのび太の不安を高めるように、階下の電話が鳴り始めた。
「どうやら、当たっちゃったみたいだね・・・」
「うん・・・」
ドラえもんは無言で、階下へと降りていった。
その電話は、予想どおりジャイアンの母ちゃんからのものだった。やはりジャイアンも、ドラえもんと一緒にいるところを、2階で新作マンガを描いていたジャイ子に目撃されたのを最後に、消息を絶ったらしい。このドラえもんは、白い首輪をしていたという。次に、スネ夫のママからも電話がかかってきた。骨川家の防犯カメラに、スネ夫を背負って連れ去るドラえもんの姿が映っていた。幸い、骨川家の防犯カメラは珍しいカラー式だったため、そのドラえもんが緑の首輪をしていたことがはっきりしていた。
のび太とドラえもんにとって予想外だったのは、安雄とはる夫の母からも電話がかかってきたことである。こちらはドラえもんと一緒にいる姿は目撃されていなかったが、一連の事件を考えると、やはりにせドラえもんに連れ去られたのだろう。
「のび太君、これはただごとじゃないよ。しずかちゃん達だけじゃなくて、安雄とはる夫まで行方不明になってるんだから・・・」
「別に安雄とはる夫はどうでもいいけど・・・しずかちゃんが心配だな」
「でも、これではっきりしたことがある。僕のニセモノは、少なくとも4人いるってことだ。ひょっとしたら、もっといるかもしれない。それに、こんなことをしたってことは、きっと僕達への人質にみんなを使うつもりだ。ということは・・・」
その時、再び階下の電話が鳴り始めた。
「もしかしたら・・・」
「うん。僕が行ってくる」
ドラえもんは階下に降りると、受話器をとった。
「はいもしもし、僕ドラえもんです」
「僕もドラえもんです」
電話の声はそう言った。
「やっぱりお前か!」
「フフフ・・・また会えてうれしいよ、ドラえもん。今頃は君の家に、行方不明になった子供達の母親からの電話がじゃんじゃんかかってきているだろう・・・」
「みんなをどうしたんだ、このニセモノめ!」
「安心しろ、ちゃんと生きている。それから、俺達をニセモノ呼ばわりするのはやめてくれ。俺達は君と同じ、ハツシバ重工製の子守ロボットなんだからな。イ○バ物置が一個物置を作ったら、その後に何個も作った物置をニセモノっていうか?」
「むう・・・」
なぜ百人乗っても大丈夫な物置の話が出てくるかわからないが、なぜかドラえもんはうなってしまった。
「それで、僕達になんの用だ?」
「決まってるだろう? おきまりのことだ。あいつらの命が惜しかったら、今から我々が指定する場所へ来るんだ」
「そう来ると思った。それで、それはどこだ?」
「我々秘密結社ダーク・ブラック・シャドウ団の本部だ」
それを聞いて、ドラえもんはずっこけた。
「何でいきなり本部へ来いなんて言うんだよ!? 普通こういうときはどこかの渓谷とか、採石場とかに来いって言うもんだろ!? 大体なんだよ、そのダサイ組織名は! ドリーマーズランドのアトラクションに出てくる宇宙海賊そのまんまじゃないか」
「あーあ、言っちゃった。ドクトル・Dに、今のダサイって言ったこと、報告しておくからな」
「誰だ? そのドクトル・Dっていうのは?」
「俺達のボスだ。今のお前の言葉を知ったら、きっと猛烈に怒り狂うぜ。覚悟しときな。それじゃあ、今からお前の家から本部までの道筋を教える。ちゃんとメモっとけよ」
「まったく、本部の場所を教える悪の組織なんて、聞いたこともない・・・」
ドラえもんはぶつぶつ言いながらも、メモ帳と鉛筆を取りだした。
「はいどうぞ」
「よし。まずお前の家を出たら、右へ曲がってそのまま進め。それから空き地近くの十字路に出たら、そこで左に・・・」
シャドウドラえもんの伝える道順を、ドラえもんは忠実に書き留めた。
「はいよ、書き終わった」
「よし、そうしたらすぐに本部まで来るのだ。あ、それから言うまでもないが、本部へはお前とのび太
だけで来るのだ。楽しみにしてるぞ、フフフ・・・」
そこで電話は切れた。ドラえもんはメモを持って、のび太の部屋に戻った。
「なんだって?」
「やっぱりあいつらからだったよ。ご親切にも、本部への道順まで教えてくれた。ダーク・ブラック・シャドウ団だってさ」
「なにそれ? ダッサイ名前」
「そう思うだろう? そんな奴らと戦わなきゃいけないかと思うと、うんざりするよ。でもしょうがない。のび太君、行こう。念のため、君もスペアポケットを持っていったほうがいい。許可する」
「わかったよ。やれやれ、明日は学校なんだけどなあ」
二人はうんざりした様子で重い腰を上げると、窓から外へと出ていった。
「あ、そう言えばドラえもん。前にガリベンを捕まえる時に使った物体転送アダプター。あれを使えば、こっちも向こうのにせドラえもんを一人、人質にとれたんじゃないの?」
「あ・・・」
シャドウドラえもんNo.4が受話器を置いた。今は珍しい黒電話だった。
「よくやったぞ、No.4」
「ハッ。やつらはすぐにここに来るでしょう。それからドクトル・D、あの青ダヌキ、我々の組織名をダサイと言い切りましたが・・・」
「なっ、なんだと!? このすばらしいネーミングをか! おのれ奴らめ、ますます生かしてはおけん・・・。すぐに配置につくのだ! それと、怪人軍団はどうしている?」
「すでに持ち場についています。特にあの二人は、やる気満々です」
「ほう、予想以上だな。よし、歓迎の準備だ!」
「イエッサー!!」
シャドウドラえもん達は、一斉に部屋から出ていった。
「フフフ・・・もうすぐだ」
その時、彼の背後の壁についている「DBS」という文字をかたどったエンブレムについている赤いランプが、ピカピカと点滅をはじめた。そして同時に、男の声が響き始めた。
「計画は順調に進んでおるようだな、ドクトル・D」
ドクトル・Dはその声に振り返り、エンブレムの前にひざまずいた。
「これはこれは、我が偉大なる首領。計画はちゃくちゃくと進んでおります。間もなくやつらを血祭りに上げてご覧にみせましょう」
「期待しておるぞ、ドクトル・D」
「ハハッ。それでは私は作戦があるので、失礼します」
「うむ」
ドクトル・Dも、部屋から出ていった。
「フフフ・・・いよいよ我が恨みを晴らすときが来た・・・。今こそ思い知るがいい。ワハハハハハ・・・」
暗い室内に、怪しい声だけが響き渡った。
「えーと、ここで左に曲がって・・・」
ドラえもんはメモを見ながら、のび太とともに教えられた道順をたどっていた。
「ねえ、ドラえもん」
「何?」
「なんだかこの道、毎日通ってるような気がするんだけど・・・」
「うん、そういえば・・・」
「たしか、このまままっすぐ行くと・・・」
やがて、その建物が見えてきた。
「学校じゃないかぁぁぁぁ!!」
ドラえもんとのび太は閉まっている校門を乗り越え、学校へ足を踏み入れた。
「本部って、まさか学校なのか?」
のび太とドラえもんは辺りを見回しながら生徒用正面玄関に向かっていた。その時
「そのとおりさ!」
屋上にいきなり、強烈なライトが点灯した。
「うわっ! まぶしい!」
二人は思わず目を覆った。強烈な光の中に、6つのダルマのようなシルエットが浮かび上がる。
「あれは・・・」
「フハハハハ! よく来たな、ドラえもん、のび太! そこで待っていろよ! トオッ!!」
「ハアッ!!」
次々とダルマ達が降りてくる。それはやっぱりというかなんというかシャドウドラえもん達だった。シャドウドラえもん達は地面に降り立つと、思い思いにポーズを決めた。
「切り込み隊長! シャドウドラえもんNo.1!!」
「クールなリーダー! シャドウドラえもんNo.2!!」
「巨人軍は永久に不滅! 栄光の背番号、シャドウドラえもんNo.3!!」
「百人乗っても大丈夫! シャドウドラえもんNo.4!!」
「好きなアイスはガリガ○君! シャドウドラえもんNo.5!!」
「人呼んで、「ジゴロのNo.6」! 元新宿ナンバー1ホスト、シャドウドラえもんNo.6!!」
ドラえもんとのび太はあまりにすさまじい名乗りに、言葉を失っていた。
「フフフ、我らのあまりのかっこよさに唖然としているな?」
「あきれてるんだ! まるで僕がやってるみたいで、ものすごく恥ずかしい!!」
ニセドラえもんは、首輪の色を除けば全くドラえもんと見分けがつかない。ドラえもんは顔を真っ赤にして手で隠した。
「特に6番! 新宿ナンバー1ホストなんて、絶対ウソだろ!」
「チッチッチ。本当だぜメガネ小僧。その証拠に俺はお前のアイドルしずかちゃんを、このセクシーな大人の魅力で失神させて連れてきたんだからな」
「なんだとぉぉぉ!? 貴様、しずかちゃんに何をしたぁぁぁ!?」
のび太がまたも半狂乱になり、ドラえもんが慌てて制止する。
「さて、我々の自己紹介は終わりにして、そろそろ我々のボスを紹介しよう。ドクトル・D様だあ!!」
そして、生徒用正面玄関から、ドクトル・Dが姿を現した。
「お初にお目にかかる、ドラえもん、そして野比のび太。私が偉大なる秘密結社ダーク・ブラック・シャドウ団の大幹部、ドクトル・Dだ」
「お前が親玉か。ダサイ名前の組織だな。しずかちゃん達をどうした!?」
それを聞いて、ドクトル・Dがわなわなと震えだした。
「き、貴様、ダサイだと!? このエレガントな組織名がダサイだと!? おのれぇ、電話口のみならず、この私に面と向かってダサイと言うとは・・・」
「いいからしずかちゃん達の居場所を教えろよ、ドクトル・D(ディー)とやら」
「ディーじゃない! デーだ! リ○ビタンDのデーだ! 何度言わせればわかるんだ!!」
ドクトル・Dはますますいきり立った。
「まだ一回しか言ってないけど・・・」
「と、とにかくだ! お前達には私をここまで怒らせた償いをしてもらおう!」
「それともう一つ! なんで僕の命を狙うんだ!」
「フフフ・・・それは、お前達が私と戦って勝てたら教えてやろう。だが、そんなことは絶対にありえない。なぜならお前達はここにいるシャドウドラえもん達と、このDBS団本部の各所に潜む精鋭怪人軍団によって倒される運命なのだからな」
「だから何でここが本部なんだよ!? どう見たって僕の通う学校じゃないか!」
「甘いな。お前達ここの生徒が帰ったあとの土曜日の午後、我々はこの学校を占拠し、我々の本部に改造したのだ!」
「なんて安上がりな・・・。悪の組織なら自分達で穴を掘って秘密基地を作らんかい!」
「うるさい! さあ、ゲームの始まりだ!!」
そう言うとドクトル・Dとシャドウドラえもん達は、一目散に校舎の中へと走っていった。
「あっ、くそ、逃げた! のび太君、追うぞ!!」
「オウッ!!」
ドラえもんとのび太は、大急ぎでその後を追い始めた。
次回予告
DBS団の本部と化した学校で、我らがドラえもんとのび太にDBS団が最初に放つ刺客は、怪魚人
スネザメス。プールの中に敵を引きずり込み、必殺のノコギリヘアーで切り刻むスネザメスに対し、
ドラえもんとのび太はどう立ち向かうのか? 次回「ドラえもん対6人のドラえもん」第4話
「鮮血のプール 怪魚人スネザメス」ご期待下さい。
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