ドラえもん対6人のドラえもん


第6話


誘惑の妖女 シズキャットの罠


 ドラえもんとのび太は、音楽室の前にやって来た。

「よし、開けるよ・・・」

「うん・・・」

「のび太君、なんか呼吸が荒くない?

「どんな強敵がいるか、それで緊張してるんだよ」



 音楽室の中も、やはり真っ暗だった。

「ここも真っ暗だな・・・」

 その時、何かの声がした。

「ニャオ〜ン・・・」

「ネコ・・・?」

 誘惑するような甘ったるいネコの鳴き声だった。ドラえもんとのび太は、周囲を警戒した。その時、突然スポットライトが点灯した。

「!? オオッ、グレイト!!」

 のび太はそのスポットライトに映し出されたものを見て、思わずそう叫んでしまった。

 それは二人が予想していたとおり、しずかちゃんの怪人だった。おそらくは、ネコと合成したのだろう。だが、これまでの怪人とは全く趣が異なっていた。はっきり言えば、「本当に改造したのか?」という感じである。もっとはっきり言えば、「「宇宙大魔神」の時にスネ夫がデザインしたしずかちゃん用の露出過多な服を、ネコをモチーフとしてデザインし直したような服を着てネコのコスプレをしているだけのしずかちゃん」だったのである。怪人とか改造人間とかいった雰囲気はまったくない。それが
悩ましげに横たわり、のび太達にささやきかけるのである。

「いらっしゃい。さあ、早くこっちへ来て・・・」

 いつものしずかちゃんからは考えられない、峰不○子のような妖艶さだった。のび太は完全にこの攻撃に参ってしまい、

「すぐに行きま〜す・・・」

 と、何かに引き寄せられるようにコスプレしずかちゃんへとフラフラと歩き出した。ドラえもんはすぐにこれが罠だと気づき、のび太の腕をつかんだ。

「だめだのび太君! これは罠だ!」

 しかしのび太はドラえもんをひきずりながら、なおも進んでいく。

「止まれっていってるだろ!」

「邪魔だ、青ダヌキ!!」

 のび太はドラえもんにパンチを食らわし、ドラえもんを吹き飛ばしてなおも進んでいった。

「さあいらっしゃいのび太さん。私が膝枕してあ・げ・る」

「し、しずかちゃ〜ん!!」

 のび太は吸い寄せられるように、そのひざの上へ頭を乗せていった。

「まずい、このままではのび太君が、どんどん術中にはまっていく!」

 ドラえもんは空気砲をしずか怪人に向けた。

「のび太君をたぶらかす化けネコめ! この僕が成敗してやる!」

「ウフフ・・・悪いけど、タヌキちゃんには用はないの。この子達と遊んでてね」

 しずか怪人がそう言うと、部屋の隅から何かの声が聞こえてきた。気のせいか、「チュウチュウ」と鳴いているようである。

「ま、まさか・・・」

 その通りだった。まもなくネズミが出現し、ドラえもんへと走ってきた。

「ギャアアアアアア!! ネッネッネズミネズミィィィィィ!!」

 ドラえもんはネズミに追われるまま、音楽室の外へと逃げていってしまった。

「私のペットよ。こんなに可愛いのに・・・。でも、やっと二人だけになれたわね、のび太さん・・・」

 甘い声でしずか怪人がささやく。のび太はもう、どうにでもしてといった状態である。

「よくやったぞシズキャット。さすがだな」

 音楽準備室から、ドクトル・D達が入ってきた。

「このメガネ小僧がお前に惚れていることと、ドラえもんのネズミ嫌い。その二つの弱点を突くことができるお前こそ、やはりこの作戦に最適だったな。見事なものだ」

「これぐらい、私の魅力にかかればイチコロですわ」

「フフフ・・・。それでは、奴が戻ってこないうちに、すぐにトドメを刺してしまえ」

「あら、もうですの? 残念ですわ。私はもうちょっとこの坊やと遊んでいたかったけど・・・」

「残念だが、万が一ということもあるからな。すぐにやっておくに限る。その代わり、お前にはもっといい男を紹介してやろう」

「ほんとですの?」

「もちろんだ。さあ、やってしまえ」

「わかりましたわ。さあのび太さん、私といっしょに、天国へ行きましょう」

 シズキャットは鋭い爪を伸ばしながら、のび太の耳にささやくように言った。

「はい、君と一緒なら、どこまでも・・・」

「ウフフ、可愛い子・・・」

 そう言ってシズキャットは、鋭い爪を振り上げた。その時

「待てぇぇぇぇい!!」

 音楽室の入り口から、力強い声が聞こえた瞬間、シズキャットに空気の塊が命中した。

「キャアッ!」

 シズキャットが吹き飛ばされ、のび太は惚けた状態のまま床に転がった。その人物はすかさずつかみ取りバズーカを取り出すと発射して、のび太を自分のもとへ取り戻した。

「のび太君は返してもらうぞ」

「お、お前は・・・」

 もちろん、その人物とはドラえもんだった。

「なぜだ!? お前は絶対にネズミには近づけないはず・・・」

 ドクトル・Dにはそのことが理解できなかった。

「ネズミ? ここにはネズミなんかいないさ。ゴキブリはいるけどね。弱点をつくというのは、お前達にしてはいいアイディアだった。だけど、詰めが甘かったね。僕の四次元ポケットは、こういうときのためについているのさ」

「おのれ、どんな手を使ったかは知らないが同じこと! シズキャット! 再び奴にネズミを差し向けろ!」

「お任せ下さい。行くのよ、マイ・ステディ!!」

 部屋のあちこちからネズミが現れ、ドラえもんへと殺到した。だが・・・

「うっとおしいゴキブリ達だな」

 ドラえもんは平然と空気砲をかまえ、押し寄せるネズミの群を次々と吹き飛ばしていった。やがて、ネズミの群は全滅した。

「なっ、なぜだ!? なぜお前はネズミを・・・」

「ネズミなんてここにはいないと言っているだろう? ここにいるのは、ただのゴキブリさ」

 ドラえもんがそんなことを言っていると、のび太が気がついた。

「う、うう〜ん、しずかちゃぁん・・・」

「お、気がついたか。大丈夫だぞ、のび太君」

「ハッ!? どけっ、青ダヌキ! 僕はしずかちゃんのところへ・・・」

 走り出そうとしたのび太のみぞおちに、ドラえもんがパンチを叩き込んだ。うっという声とともに、のび太はその場に倒れた。

「まったく、世話を焼かせる・・・」

 ドラえもんはポケットから錠剤の入った瓶を取り出すと、その一粒をのび太にのませ、その耳元へささやきかけた。

「いいか、あれはしずかちゃんではない。ジャイ子ちゃんだ。ジャイ子ちゃんがしずかちゃんのふりをして、君をたぶらかしているんだ」

「う、うう〜ん・・・」

 のび太が気を取り戻した。

「う、僕は・・・」

「気がついたか?」

「そうだ! しずかちゃ〜ん!! ・・・!? ウゲェ! ジャ、ジャイ子!?

 のび太はシズキャットを見て思わず吐き気を催した。

「どうしたの? さあのび太さん、こっちへ・・・」

 シズキャットが扇情的なポーズでのび太を手招きする。だが・・・

ウゲェ!! 気持ち悪い!! 僕を誘うな! ド、ドラえもん、僕はたしかしずかちゃんといたはず・・・」

「君はだまされていたんだ。あれはしずかちゃんのふりをしたジャイ子だったんだよ」

「こ、このブサイクゥゥゥ!! よくも僕のしずかちゃんのふりをして、僕をたぶらかしたなぁぁぁぁぁ!!」

 のび太は怒り心頭という様子で両手にショックガンを持ち、シズキャットに向けて構えた。その様子に、シズキャットとドクトル・Dがうろたえる。

「バカな!? シズキャットは本当に源しずかを改造したのだぞ!? なぜこいつには剛田武の妹に見えるのだ!?」

「フフフ・・・その理由は、これさ」

 ドラえもんはそう言って、さきほどのび太に飲ませた薬を掲げて見せた。

「それはオモイコミン!! そうか、お前はそれを使って・・・」

「そうだ。これを飲んでネズミをゴキブリと自分に暗示をかけ、ネズミ嫌いを克服したんだ。おなじようにのび太君にもこれを飲ませて、その怪人がネコのコスプレをしたジャイ子だと思い込ませたんだよ。もうお前達は、僕達の弱点を攻めることはできない! いくぞのび太君! あの気持ちの悪いコスプレジャイ子を倒すんだ!!」

「オオッ!! その薄汚い姿を、永久に僕の前にさらせないようにしてやる!!」

 のび太とドラえもんは戦闘意欲満々である。

「ええい、こうなればシズキャットよ、力ずくで奴らを倒すのだ!!」

「わかりましたわ。よりにもよってこの私を、ジャイ子なんかと間違えたのび太さん、あなたにはその罪を償ってもらうわ」

 そう言うとシズキャットは、バイオリンを手に持った。

「くらえ!!」

 のび太のショックガンとドラえもんの空気砲が、一斉に発射される。だがシズキャットは、バイオリンでその攻撃を防いだ。

「行くわよっ!!」

反撃に転じたシズキャットは、バイオリンの弓を持ってのび太に襲いかかった。のび太は得意の瞬間しゃがみよけでその攻撃をかわしたが、シズキャットが剣のようにふるった弓により、彼の後ろにあった窓ガラスが真っ二つに切断された。

「すごい切れ味だ! なんと恐ろしいバイオリンだ!!」

 ドラえもんは驚愕する。

「ホホホ、バイオリン本来の使い方もできるわ」

 そう言うとシズキャットは、バイオリンを弾き始めた。だが、そこから流れ出たのは普段の彼女の演奏を上回るほどの、すさまじい不協和音。ジャイタンクの歌声攻撃を上回る威力に、ドラえもん達は武器を取り落とし、耳をふさいでその場にしゃがみ込んでしまった。

「ホホホホホ!! のび太さん、ドラちゃん、あなたたちに最高のレクイエムを捧げるわ」

 バイオリンの音が、ますます激しく荒れ狂う。

ウオオオオオ!! ドラえもん、このままでは!!」

「ま、待ってくれ! 今なんとかする!!」

ドラえもんはそう言うと、とっさにポケットに手を突っ込み、箱を取りだした。

「恐怖箱!!」

 ドラえもんはその箱から何かを取りだし、シズキャットに投げつけた。それはシズキャットの体にはりつき、怪人はそれが何かとのぞき込んだ。

「キャアアアアアアアアアアア!!」

 それはカエルだった。シズキャットは黄色い悲鳴をあげて逃げ回るが、ドラえもんはさらにたくさんのカエルの模型を取りだして、シズキャットに投げつける。

「キャーキャー!!」

 シズキャットはもはや我を失っている。

「今だ! のび太君!!」

「おちろぉぉぉぉぉぉ!!」

 のび太が放った渾身のショックガンが、シズキャットへ命中した。

「ギャアアアアアアアア!! ジャ、ジャイ子と間違われたまま、カエルにまみれてやられるなんてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 シズキャットは大爆発を起こした。

「ド、ドラえもん!! これは本当にしずかちゃんじゃないか!!」

 オモイコミンの効果が切れたのか、元の姿に戻って倒れているしずかちゃんを見て、のび太が言った。

「すまないのび太君。こうするしかなかったんだ」

「どうしてくれるんだよ! しずかちゃんが僕のために、あんなサービスをしてくれるなんて普通ならありえないことなんだぞ!! コスプレしずかちゃんを返せぇぇぇぇぇ!!

 狂乱状態で泣き叫ぶのび太の肩を、ドラえもんが優しく叩いた。

「あとでお詫びに着せ替えカメラを貸すから。そうすれば、しずかちゃんにどんなコスプレをさせるのも、思いのままだ」

「ほ、本当!? ドラえもん、君はなんていい奴なんだ!!」

 狂喜乱舞するのび太。それを見ながらドラえもんは、やはりのび太は歪んでるなぁと、一人思った。そして、ドクトル・Dに目を向けた。

「残念だが、こっちもしずかちゃんの弱点は熟知していたからね。さあ、どうする?」

「ウヌヌ・・・こうなったら、次こそ最終決戦だ! 校庭で待っているぞ!!」

 ドクトル・Dはまたも逃げ出した。

「今度は校庭だってさ」

「ねえドラえもん。しずかちゃんも無事助けたんだし、もう帰ってもいいんじゃないの?」

「う〜ん、確かに僕達がここに来たのはしずかちゃんを助けるためだったけどね。のび太君、君、あいつらに命を狙われていること、忘れてない?」

「あ、そうだった」

「それなら勢いに乗ってる今のうちに、あいつらを壊滅させた方がいいんじゃないのかな。今ここでしずかちゃんを連れて帰っても、あいつらまた襲ってくると思うよ」

「そうだね。それじゃあ面倒だけど、校庭まで出ていってやるか」

 ドラえもんとのび太は音楽室の窓から見える校庭を一瞥すると、音楽室をあとにした。

次回予告


 DBS団の送り込んだ3体の怪人を倒し、ドラえもんとのび太は最終決戦に挑む。だが、彼らの前に
立ちはだかったのは、はる夫と安雄だった。主役に対するすさまじい対抗心をもって襲いかかる
はる夫・安雄とのび太・ドラの戦いは、予想もつかない大激戦へと発展する。次回「ドラえもん対
6人のドラえもん」第7話「校庭大激闘! 主役VS脇役」 ご期待下さい。

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