ドラえもん対6人のドラえもん


第7話


校庭大激闘! 主役VS脇役


 ドクトル・Dを追ってきたドラえもんとのび太は、校庭へとたどり着いた。そのほぼ中央で、ドラえもん、のび太とドクトル・D、シャドウドラえもん達が対峙した。

「さあ、ドクトル・Dにシャドウドラえもん! いよいよお前達と決着をつけるときが来たな!」

「もう怪人は全滅したはずだ! さあ、勝負だ!」

 ドラえもんとのび太は意気込んだが、ドクトル・Dは笑い始めた。

「ハッハッハ・・・。怪人軍団が全滅しただと? バカめ、我々にはまだ切り札が残っている!」

「なんだと、さらわれたのは、しずかちゃん、ジャイアン、スネ夫の3人だけじゃ・・・」

 その時、ドラえもんとのび太の目の前の地面を突き破り、何かが空中へと舞い上がった。

「トオオオオオオッ!!」

「何っ!?」

 それは、二つの人影だった。その二人は地面を突き破り天高く舞い上がると、ドラえもんとのび太の眼前に降り立った。その二人を見て、のび太とドラえもんは驚いた。

「お前達は! 安雄にはる夫!」

「僕達を忘れるんじゃねぇぇぇぇぇぇ!!」

 二人は忘れられていたため、早くも怒り狂っている。

「そ、そうか、お前達もさらわれていたんだったな・・・」

「まったく、脇役界を代表する僕達二人を忘れるとは・・・だが、それもここまでだ。僕達を忘れるような高慢な主役の鼻っ柱を、今からへし折ってやる! 覚悟しろ!」

 はる夫と安雄は戦闘意欲満々だった。

「やめるんだはる夫、安雄! お前達は脇役だが、いないとなるとそれはそれで困る! ここで僕達と戦ったら、お前達は確実に死ぬ! ここで命を落とすことはない! 目を覚ましてくれ!」

 だが、安雄は冷静に答えた。

「フ・・・目なら覚めているさ」

「何だと!? まさか、お前達・・・」

 安雄とはる夫の様子にうろたえるのび太とドラえもん。安雄とはる夫の後ろにいたドクトル・Dが言った。

「その通りだ。彼らは脳改造手術を受けていない。つまり、自分達の意志でこの戦いに臨んでいるのだ」

「やっぱりそうか! 何故だ、はる夫、安雄!」

「・・・僕達は脇役だ。だが幸いにも、君たちとときどき絡むことによって、これまで細々と生きてこれた」

「しかし、ほとんどの脇役はそれほど幸運ではない。僕達は僕達のように頻繁に使ってもらえずに消えていった脇役達を長い間見続けてきた。ズル木、戸手茂できる、ムス子、しゃれ子、あばら谷くん、うらなりくん・・・数え切れないほどの脇役達が現れては消えていくのを、僕達は見続けてきた。無念だったろう。とくに矢部小路のように、顔すら見せずに去っていったような脇役はな・・・」

「君たちは覚えてもいないだろうな。君たちの華々しい活躍の影に消えていった、無数の脇役達のことを・・・」

「やがて僕達は、君たち主役への復讐の機会を狙うようになっていった。君たち主役を輝かせるために散っていった脇役達の恨みを晴らすために! そして、ついにこのときが来たのだ。数十年にわたって蓄積された脇役達の恨み、今こそ思い知れ!」

 はる夫と安雄が身構えた。だが、のび太は必死に説得する。

「待て安雄、はる夫! 僕達は君たちを使い捨てのように扱ってきたつもりはない!」

「フン、そうかな? 現にさっき君たちは、僕達がさらわれていたことを忘れていたじゃないか? それだけ脇役を軽く見てるってことだろう!」

「それは・・・」

「黙れ! 貴様ら主役は人を見下すことしかできない連中だ! 所詮エゴでしか生きていない! 貴様ら主役のために、何人の脇役が消えていったと思ってるんだ!!」

 はる夫が怒りの叫びをあげる。だが、ドラえもんは平然と答えた。

「聞きたいかね? 昨日までの時点で、9万9千822人・・・」

「ド、ドラえもん!?」

 のび太はドラえもんが平然としてそんなことを言ったことと同時に、このマンガにそんなにたくさんの脇役が登場したか?ということに驚いていた。だが、はる夫と安雄はその発言に怒りを高めた。

「き、貴様ぁ・・・!!」

「僕は脇役に対し哀悼の意を表することしかできない。だが、君たちもこれだけは知っておいてほしい。彼らは決して無駄死になどしてはいない!!」

「黙れ! やはり貴様らは粛正しなければならない! いくぞ、はる夫!!」

「オウッ!!」

 そう叫ぶと、はる夫と安雄はポーズをとった。

「アグレッシブチェインジ!!」

 はる夫と安雄の体が光り輝く。そのまぶしさに、ドラえもんとのび太は目を覆った。そして、それがおさまると、そこには彼らの変身した怪人が立っていた。

「メカメカーッ!!」

「フモモモモモモ!!」

 はる夫の改造された姿は、元の姿であったデブの体型をいかし、イノシシかブタかなにかと合成された姿だった。やたらに鼻息が荒く、今にもこっちに突進してきそうだ。

 一方安雄の改造された姿は、なんだかよくわからなかった。体中にいろいろなメカがついている。そのくせ、帽子だけはちゃんとかぶっていた。

「ハハハハハ! 僕の名はイノハルオン!!」

「そして僕の名は、メカ安雄だ! メカメカーッ!!」

 その名乗りを聞いて、ドラとのび太は思わずずっこけた。

「おいっ! イノハルオンはわかるけど、メカ安雄って何だよ!? そのまんまじゃないか!! しかも鳴き声が「メカメカーッ!!」って・・・安直すぎ!!」

 その言葉に、ドクトル・Dが答えた。

「しかたがないだろう。こいつらの改造は予定外だったから、ゆっくりモチーフを選んでる時間がなかったんだ。はる夫の方は太っていたからすぐにイノブタをモチーフに決定できたが、安雄は帽子をかぶっている以外イメージにあうものがなかった。まよったあげく、いろいろなメカを取り付けて怪人にした」

「だからってメカ安雄はないだろう!? もっとこった名前をつけてやれよ! しかもはる夫にしたって、純粋なイノシシじゃなくてイノブタじゃないか! おい安雄、はる夫、お前らそれでいいのか?」

「フ、もちろんこれですむわけがない。君たちをやっつけたら、次はドクトル・D、あんた達を倒す」

 この言葉に、今度はドクトル・D達が驚いた。

「なっ、なんだと!? 貴様ら、改造してやった恩を忘れて・・・」

「のび太達の言うとおり、あんた達が行った改造のセンスは、あきらかに僕達を適当なものだ。僕達脇役を軽視するやつらは、みんな粛正してやるんだ。それにあんた達はドラえもん達を倒した後、このマンガの主役におさまる気だろう?」

「そっ、そんなつもりはない!!」

「嘘をつけ! このマンガの明日の主役は、僕達だ!! 邪魔者は全て消す!! 行くぞ、ドラえもん、のび太!! 固い絆で結ばれた僕達のコンビネーションを見ろ!!」

 メカ安雄とイノハルオンが動き出した。

「くそっ、話してわかる相手じゃなさそうだ。のび太君、戦うぞ!!」

「しかたがない!! 僕達二人の友情タッグは、お前達なんかとは比べものにならないってこと、思い知らせてやる!!」

 ドラえもんとのび太は空気砲とショックガンで攻撃を始めた。だが、メカ安雄とイノハルオンはその攻撃をものともせず突進してくる。

「何っ!? この攻撃が効かないなんて!」

「脇役が改造された怪人だから、そんなに強くないと思ってたのに!!」

「ハハハハ!! 脇役をあなどった報いだ! 僕達は改造される前から、この時に備えて密かにトレーニングを積んでいたのだ! 主役で忙しかったお前達は、気づいてもいなかっただろうがな!」

「そ、そうだったのか・・・」

「さあ覚悟しろ!! マスドライバーキャノン、発射!!」

 メカ安雄の両肩に搭載されたビームキャノン砲が発射された。緑色の光線が、ドラえもん達を襲い、大爆発を起こした。

「ウッギャー!!」

 吹き飛ぶ二人。それに追い打ちをかけるように、イノハルオンが突進する。

「イノハルオンダイナマイトターーーーーーーックル!!」

 F1マシンなみのスピードではね飛ばされたのび太とドラえもんは、地面に強くたたきつけられた。

「グオッ!! な、なんてパワーだ・・・」

「ゼイゼイ・・・信じられない。これがあの二人の力か・・・?」

「ハハハハハ!! まだまだぁ、ハイブリッドミサイル!!」

「ギャアアアア!!」

 そのすさまじい戦闘を見ながら、シャドウドラえもんNo.1が言った。

「ド、ドクトル・D、なんですか、あのバケモノみたいな強さは!?」

「う、うむ。デザインやネーミングに手を抜いたおわびとして、せめて武装だけはちゃんとしたものにと・・・」

「だったら今までの怪人に取り付ければよかったじゃないですかあ!! どうするんです!? あいつら、あの二人を倒したら今度はこっちを攻撃してきますよ!!」

「う、うむ、まさかこんなことになるとは・・・」

 ドクトル・D達は思わぬ展開に、顔を真っ青にして展開を見守るだけだった。しかし、二人の脇役怪人の圧倒的攻勢はまだ続いている。

「くらえ! ファイナルメガバスター!!」

「イノハルオンローリングクラッシャァァァァァ!!」

 二大脇役怪人の必殺攻撃が繰り出される。

「うわぁぁぁ!! のび太君、バリヤーポイントで防ぐんだ!!」

「わ、わかった!!」

 間一髪、二人はバリヤーポイントを取りだし、半径1mのバリアでその攻撃をかろうじて防いだ。しかしなんということか、鉄壁を誇るはずのバリアに、ヒビがはいっていた。

「何っ!? バリアにヒビが!!」

「フフフ、そんなバリアでどれだけ持ちこたえられるかな? ウルティマレーザーキャノン!!」

 脇役怪人の猛攻は続く。さらにバリアにヒビがはいる。

「どどどどうしようドラえもん! このままじゃバリアが!!」

「落ち着けのび太君! 何かあいつらに弱点はなかったか、思い出すんだ!」

「そ、そうだね!!」

 二人は目を閉じて、記憶の底からはる夫と安雄の弱点を思い出そうと試みた。だが・・・

「だっ、だめだぁ!! どうでもいいやつらだと思ってたから、何にも覚えてないぃぃぃぃぃ!!」

「フハハハハ!! 僕達を軽く見てきたことを、あの世で後悔するんだな! そらそらそらぁ!!」

 怪人の攻撃がますます激しくなる。

「ほっ、ほんとにやばいよ!! ドラえもん、何とかしてぇ!!」

「あああ、でも、一体どうすれば・・・」

 錯乱状態になりかけながら、必死に解決策を考えるドラえもん。その時、一つの道具が頭に浮かんできた。

「そうだ! 宇宙完全大百科!!」

 ドラえもんは宇宙完全大百科小型端末を取り出すと、マイクに向かって叫んだ。

「何でもいい! 練馬区ススキが原に住んでいたはる夫と安雄という少年の弱点を教えてくれ!!」

「でっ、でもドラえもん!! いくら宇宙完全大百科でも、あいつらの弱点までは・・・」

 だが、予想に反して端末はすぐにプリントアウトを始めた。ドラえもんはそれに目を通すと、叫んだ。

「そうか、そうだったのか! のび太君、奴らの弱点がわかったぞ! ジャンボ・ガンを用意して待っていてくれ!!」

「わ、わかった! 頼むよ!!」

 ドラえもんは恐怖箱を取りだした。

「これでトドメだぁ!! イノハルオンコークスクリューアタァァァック!!」

 ひねりを加えた回転をしながら、イノハルオンが空中から回転体当たりをしかけてきた。だが、ドラえもんは恐怖箱から何かを取り出すと、イノハルオンに投げつけた。

「そらっ! これがお前の怖いものだろう!」

「何っ!?」

 体にくっついてきたものを、イノハルオンが見た。

「ギャアアアアアアア!! クッ、クモオオオオオオオオオオオ!?」

 イノハルオンの体を、毛むくじゃらの蜘蛛が這っていた。イノハルオンが取り乱し、それを振り払おうともがきだした。

「今だのび太君!!」

「沈めぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 のび太がジャンボ・ガンの引き金を連続して引いた。戦車をも一発で吹き飛ばすジャンボ・ガンの弾丸が、連続してイノハルオンに命中した。

「グオオオオオオオオオオオオッ!!」

 大爆発を起こし、イノハルオンは元のはる夫の姿に戻って倒れた。

「はっ、はる夫!!」

「次はお前だ! これでもくらええ!!」

 ドラえもんはまず、なにか小さいものを投げた。続けて投げた水風船がその小さいものの上で破裂し、水を吸ったその小さいものが、どんどん大きくなっていった。

「ギャアアアアアア!! オッ、オバケェェェェェェェ!?」

 それは、「幽霊の干物」だったのである。水を吸って大きくなった幽霊を見て、メカ安雄はパニックに陥った。

「これで、ダウンだぁぁぁぁぁ!!」

 のび太は再びジャンボ・ガンを撃った。その弾丸もまたメカ安雄に命中して大爆発を起こし、メカ安雄は元の安雄となって地面に倒れた。

「や、やったぞ!!」

 ドラえもんとのび太が強敵を倒した喜びに浸っていた。

「や、やった! あいつら、よくやってくれた!」

 なぜかドクトル・D達も喜んでいる。

「しかし、よくあいつらの弱点がクモとオバケだってわかったね。さすが宇宙完全大百科」

「うん。「○□恐怖症」っていう話で、ちゃんと本人達が言ってたらしい。のび太君、覚えてる?」

「ううん、ぜんぜん。でもあいつらの言うことももっともだったね。これからはもっと、脇役達のことも考えてあげなきゃいけないかもしれない」

「そうだね」

 だがその時、どこからか声がしてきた。

「ま、待て・・・まだ勝負は、ついちゃいないぜ・・・!」

 驚いてその声の方向に振り返ると、なんと、安雄とはる夫がよろよろと立ち上がっていた。

「何っ!? まだ生きてる!?」

「脇役をなめるな! 脇役一筋でここまで生き残ってきたんだ! しぶとくなければ、今まで生き残ってはこれなかった・・・」

「もうやめろ安雄、はる夫! 僕達も反省した! もう僕達が戦う理由なんて、どこにもないんだ!!」

「・・・反省してくれたことは感謝しておこう・・・。だが、僕達の耳にはまだ聞こえている・・・。志半ばにして消えていかねばならなかった、脇役達の叫びが・・・」

「僕達はその無念を晴らしてやらなければならない・・・。そのためには、こうするしかないんだ! 今度こそ君たちを倒す! のび太、ドラえもん!!」

 はる夫と安雄が構えをとった。

「そんな体でどうするつもりだ! 勝負は見えている! もうやめるんだ!」

「脇役をなめるなと言ったはずだ! 僕達の底力、その目に焼き付けるがいい!!」

 そう叫ぶとはる夫と安雄は、両手を天に掲げた。どこかで見たことのあるポーズである。

「ズル木、戸手茂できる、ムス子、しゃれ子、あばら谷くん、うらなりくん・・・消えていかなければならなかった脇役のみんな、そして、この藤子不二雄ワールドに住む全ての脇役のみんな・・・僕達に少しだけ、元気をわけてくれ・・・

 これまたどこかで聞いたことのあるセリフである。だが、彼らがそんなことを始めるとすぐに、小さな銀色の光がいくつも彼らに向かって飛んできて、彼らの体に吸収されていった。そしてそれが進むに連れ、彼らの傷が癒え、体が金色に光り始めた。

「まずい! あの二人、世界中の脇役の力を集めているんだ! 脇役とはいえ、数を集めれば大変なことになるぞ!!」

「何だって!? よし、僕が阻止する! くらえっ!!」

 のび太はジャンボ・ガンを放った。だがその弾丸は、はる夫を覆う金色のオーラにぶつかると、跳ね返ってしまった。

「何っ!? 戦車も一発で吹き飛ばすジャンボ・ガンが・・・!?」

「ムダだ・・・すべてムダなのだ・・・ハァァァァァァァァァァ、ハァッ!!!

 安雄とはる夫が気合いを入れると、彼らの体が金色に染まり、衝撃波が巻き起こった。

「うわあああああああ!!」

 吹き飛ばされるドラとのび太。なんとかして着地して見ると、二人は神々しい金色の姿になっていた。

「これぞ、明鏡止水の境地・・・」

「ハイパーモード・はる夫と安雄だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

次回予告


 世界中の脇役の力を借り、ハイパーモードを発動させた安雄とはる夫。対するドラえもんとのび太も、
世界中の主役の力を結集して対抗する。主役と脇役、その壮絶な代理戦争が、ついに決着を迎える。
次回「ドラえもん対6人のドラえもん」第8話「大決戦! はる夫と安雄、暁に死す」 ご期待下さい。

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