なぜ流れが変わったのか、今はまだわからない。

だが運命は確実に変わり、戦いは別世界へと移る・・・。

ドラえもん対マジンガーZ


〜「ドラえもん のび太と鉄人兵団」アナザーストーリー〜


第1話


狂った歯車



 ことのおこりは、のび太が北極で「拾った」巨大ロボットの部品だった。のび太とドラえもんは、秘密道具で作った鏡の世界「鏡面世界」でロボットを組み立て、「ザンダクロス」と名付けた。ところが、ザンダクロスは恐ろしい兵器を装備したロボットだったのである。

 一方そのころ、巨大ロボットを追って一人の少女が現れた。彼女の名はリルル。彼女と出会ったのび太は、彼女を鏡面世界へ案内する。だが、リルルの正体は地球侵略を企むロボットの星、メカトピアから前線基地建設のため送り込まれたスパイだったのである。これを知ったのび太とドラえもんはザンダクロスの電子頭脳を改造し味方にしたうえで、静香、ジャイアン、スネ夫と共に鉄人兵団の侵略に備えることになった。その際重傷を負ったリルルは静香に介抱されるが、それを通じて母星の正義を信じていたリルルの心にも、変化が訪れるようになる・・・。

 ドラえもん達はついに地球侵攻を始めた鉄人兵団にトリックをしかけ、鏡面世界へと誘導。無人の街を舞台に、秘密道具を駆使して圧倒的な兵力差をカバーしつつ奮闘した。だが、ついにトリックが暴かれ、鉄人兵団は現実世界への出入り口である湖へと向かい始めた。ドラえもん達は鉄人兵団の侵攻を阻止すべく、湖で最後の決戦を挑んでいた・・・。



「引き揚げたのかな」

「そんなわけないだろ」

「海外から主力部隊が帰ってくるのを待ってるんだ」

 爆発音のしなくなったあたりを見回しつつ、ドラえもん、のび太、ジャイアン、スネ夫の四人は話していた。先ほどまでは彼らと鉄人兵団との間で激しい戦闘が繰り広げられていたが、今はあたりで煙がくすぶっている以外は静かなもので、鉄人兵団も忽然と姿を消していた。ドラえもんの言うとおり、態勢を立て直しているのだろう。

「それまで休んどこう」

 ドラえもんは「壁紙秘密基地」を取り出すと、地面に敷き、中へと入っていった。他の3人も、そのあとに続く。



 壁紙秘密基地の中。4人は黙ったまま、やがてくる総攻撃を待っていた。ただスネ夫だけが、落ち着かない様子で部屋の中を右往左往している。

「落ち着けよ、スネ夫!」

 そんな彼の様子にたまりかねたように、ジャイアンが言った。だが、スネ夫は彼に向かってさっと振り向き、わめきだした。

「落ち着いていられる!? こんなときに!! もうすぐ鉄人兵団の総攻撃があるってのに。しかも結
果が見えてるのに!!」

 その勢いに、ジャイアンも圧倒されたように身を引いた。その時、のび太がしずかに言った。

「わかる! こんな気持ち、何度か経験したからね。0点しかとれないのわかっててテストをうけるときの気持ちだよ」

 ぴったりと状況を言い表したとは思えない言葉だったが、誰も何も言わなかった。そのうち、ドラえもんが叫んだ。

「余計なこと考えずに全力を尽くすんだ! 思いがけない道が開けることもある!!」

 その時、部屋の中に一枚のピンク色のドアが現れ、それが開いてその向こうから誰かがやってきた。

「しずかちゃん・・・」

 それは、鳥籠を持った静香だった。後ろにはスネ夫のラジコンロボ、ミクロスも従っている。そして鳥籠の中には、小さくなったリルルがいた。奴隷狩りとして人間を捕獲する作戦が間違いだと感じ始めている心と、祖国への思い。その二つの感情の板挟みとなった彼女は、拘束されることを望んだ。そのため、彼女はスモールライトで小さくされ、鳥籠の中にいるのである。

「だめじゃないか、もうすぐ鉄人兵団が攻めてくるのに・・・」

「ごめんなさい・・・。でも、みんなが戦っているのに、あたしたちだけ留守番をしているのに堪えられなくて・・・」

 静香はうつむいたが、やがて強い信念の輝きを持った目で4人を見つめた。

「私にも手伝わせて!」

「無茶だよ・・・。死ぬかもしれないんだよ」

「それに、女の子をこんな危険な目に遭わせるのは・・・」

「よしてよ、こんなときに男だ女だなんて。どのみちこのままじゃ、鉄人兵団はあたしたちの世界に攻めてくるわ。留守番をしているぐらいなら、みんなと一緒に戦った方がいいわ。お願い!」

 4人は困惑した表情で顔を見合わせたが、やがてドラえもんが言った。

「・・・わかったよ。だけど、みんなを死なせるわけにはいかない。ここでくい止められなくても、道を見つけるために、必ず生き残ろう。わかったね」

「・・・ええ」

 ドラえもんは次に、鳥籠の中のリルルを見つめた。

「リルル、君は僕のポケットの中に入っていた方がいい。君は鉄人兵団とは戦いたくないだろう?」

「・・・ごめんなさい」

 リルルはうつむいた。ドラえもんは鳥籠を手に取ると、ポケットの中へとしまい込んだ。

「ミクロス、お前は?」

 スネ夫がミクロスに尋ねた。

「みくろす、男ノ子! 女ノ子ガ戦ウノニ、僕ガ逃ゲルナンテ、ソンナコト! みくろすモ戦ウ!」

 そう言って意気込むミクロスだったが、足は小刻みに震えていた。ドラえもん達はそれを見て苦笑した。

「わかったよ、ミクロス。お前もポケットの中で待ってて」

 ドラえもんはそう言って、ミクロスをポケットにしまった。

「さて・・・いよいよ、決着の時だね。みんな、いいね?」

 それぞれに違った表情を浮かべながらも、ドラえもんの言葉に4人はうなずいた。その時である。

ゴオンゴオンゴオン・・・


 何かの大軍が飛行する音が、だんだんと近づいてきた。

「来たな!!」



 ドラえもん達が外へ出ると、すでに夜となっていた。だが、空は赤々と燃えている。鉄人達が、森に火をつけたのだ。焼き払って見通しをよくするつもりらしい。

「見ろよ、あのものすごい炎・・・」

「まるで地球が焼け落ちていくみたい・・・」

 彼らは目の前に迫った激戦の予感を、その光景から読みとっていた。



「いよいよだぞ」

ドラえもん達はそれぞれの武器を手に持った。彼らの後ろには、ザンダクロスが控えている。

「おまえら五人だけか!? 我々鉄人兵団を相手によくぞ戦った!! だが、ついに最後の時が来たのだ。進め!!」

 先頭に立っていた鉄人兵団司令官の号令で、無数の鉄人兵達が前進を開始した。どんどんと、鉄人兵達の群が迫ってくる。

「狙え!!」

 ドラえもん達は一斉に武器を構えた。同時に鉄人兵士達も、彼らに飛びかかろうとする。

 その時である。

バリバリバリ!!


 雲もないのに、突然空に稲妻が走った。それと同時に、周囲にすさまじい暴風が吹き荒れる。ドラえもん達と鉄人兵団はそのすさまじさに、攻撃をやめた。

「うわっ!?」

「くっ!? なんだ、このすさまじい風は!?」

 彼らの驚きをよそに、さらに暴風は吹き荒れる。そして、さらに思いも寄らぬ出来事が起こった。

 なんと、空にブラックホールのような穴が開いたのだ。真っ暗な夜空を背景にしてもくっきりとわかるほど、その穴ははっきりしている。その穴は、どんどん大きさを広げていった。そして・・・

「うっ、うわっ!?」

「す、吸い込まれる!?」

 その巨大な穴は、あたりのものを吸い込み始めたのだ。次々と鉄人兵士達が吸い込まれていく。そして

「キャーッ!!」

「うわーっ!!」

「しずかちゃん! スネ夫!」

 静香とスネ夫も、その穴に吸い込まれていった。

「うわーっ!!」

「のび太君! ジャイアン! わっ、僕まで!」

 ドラえもんは必死に踏ん張ろうとしたが、穴の吸い込もうとする力は強く、簡単にふわりと浮き上がり、猛烈な速度で穴へと引き込まれていった。

「こ、これは、時空間乱流!? いや、違う! これは・・・」

 穴に吸い込まれる直前、ドラえもんはそう叫んでいた。だが、穴は周囲のものを余すことなく飲み込み、やがてドラえもん達と無数の鉄人兵団を吸い込むと徐々に小さくなり、やがては消滅した。あとにはいつものように静まり返った湖だけが残されていた。




「うわーっ!!」

 静かな公園に、突如絶叫が響き渡る。それとともに、空から何か青い物体が降ってきて、盛大な水しぶきをあげて噴水の中に落下した。

「うう・・・ハーックション!!」

 水をしたたらせて噴水から這い出ながら、青い物体はくしゃみをした。それは腹についていたポケットからタオルを取り出すと、自分の体を拭き始めた。

「まったく・・・あんなものに吸い込まれたと思ったら、噴水なんかに落ちるなんて・・・ハーックション!!」

 青い物体、ドラえもんは、もう一度大きなくしゃみをすると体を拭き終えたタオルをポケットへとしまった。

「だけど、ここはどこなんだろう・・・?」

 ドラえもんはあたりを見回した。公園の敷地内にはジャングルジムやシーソーなど、おなじみの遊具が並んでいる。公園の外に見える家や建物も、普段自分達が見ているものと変わったところは何もない。

「とりあえず、日本であることは間違いないみたいだね・・・。でも、他のみんなはどこにいるんだろう?」

 その時、ドラえもんの耳に何かが聞こえてきた。男の子の声のようである。

「もしかして・・・」

 ドラえもんは声の聞こえる方向へと歩き出した。公園のほぼ中央に、木の生えている小高い丘があった。そしてそこにある木の一本の上で、一人の少年が泣き叫んでいた。

「だれか〜! 助けてぇ〜!」

「のび太君!」

 やっぱりというか、その情けない泣き声はのび太のものだった。木の下にやってきたドラえもんを見て、のび太の表情が輝く。

「ドラえもん!」

「ほら、タケコプター!」

 ドラえもんは木の上ののび太にタケコプターを投げ渡した。のび太はそれを受け取ると、頭につけて降りてきた。

「ドラえもん、無事だったんだね!」

「うん。のび太君も無事でよかったよ。でも、まだ他のみんながいないんだ。これから探しに行こう」

「もちろんそうしよう。でも、その前にポケットの中にいるリルルとミクロスを出してあげたら?」

「そうだね」

 ドラえもんはポケットからリルルの入った鳥籠と、ミクロスを出してあげた。リルルは鳥籠の中から出して、元の大きさに戻した。

「一体何があったの?」

 ポケットの中にいたため事情を知らないリルルが尋ねてきた。

「僕達にもわからない。突然ブラックホールみたいなのがあらわれて、僕達と鉄人兵団を飲み込んだんだ。結局ここへ飛ばされたけど、まだ他のみんなは見つかってないんだ。君たちも探すのを手伝ってくれ」

「わかったわ」

「了解! 了解!」

「だけどドラえもん、どうやって探すの?」

 ドラえもんはポケットから一本のステッキを出した。

「さしあたり、このたずねびとステッキで探すしかないね」

「でもそれ、的中率70%なんでしょ? 大丈夫?」

「場合が場合だからね。もちろん、なんとかするよ」

 ドラえもんはそう言うと「グレードアップ液」を取り出し、ステッキに吹きかけた。

「これで性能が上がった。90%ぐらいの的中率は出せると思う」

 ドラえもんはそう言って、ステッキを地面に立てて倒した。



 ドラえもん達はステッキの倒れる方向に向かい、次々としずか、ジャイアン、スネ夫を見つけだすことに成功した。少しずつ離れていたとはいえ、5人は同じ一帯に落ちてきたらしい。5人は再会を喜んだ後、最初の公園で話し合いを始めた。

「なんとか、みんなそろったみたいだね」

「だけど、わからないことだらけだね。まず、ここはどこなんだろう? 日本であることは間違いないみたいだけど、標識とかには聞き慣れない地名が書いてあるし」

「富士山の近くみたいね。あんなに大きく見えるもの」

 静香が指さした先には、日本を象徴する山、富士山が大きくそびえ立っていた。

「それにしても、あのブラックホールみたいなものは何だったんだろう? あれに飲み込まれて、僕達、とんでもない世界に飛ばされちゃったんじゃないかな?」

「でも、まわりはどう見たって普通だぜ。とんでもない大昔や未来に飛ばされたってわけでもないみたいだし」

「それに、僕達と一緒にあれに吸い込まれた鉄人兵団も気になる。あれに吸い込まれたってことは、きっと僕達みたいにこの世界に現れるはずだ。そんなことになったら・・・」

「それに、ジュドもいないみたいね・・・。一体どこへ・・・」

 リルルがあたりを見回して言った。

「とにかく、ここでこうしていても仕方がない。ここがどこなのか、調べてまわろう。みんな、出発だ」

 ドラえもん達は立ち上がった。その時、静香が言った。

「ねえ、さっきから気になってたんだけど・・・人を一人も見かけないのよね」

「うん・・・。一体みんな、どこへいっちゃったんだろう?」

「マサカマサカ・・・幽霊ノ街ジャ・・・」

 ミクロスが震える。

「ロボットが幽霊の心配する必要はないだろう? とにかく、あたりを見て回ろう」

 ドラえもんが足を踏み出しかけたその時

チュドオオオオオオン!!


 突如、爆発音と振動が彼らのもとへ伝わってきた。

「なっ、なんだ!?」

「あそこみたいよ!」

 静香が指さした場所。木立の向こうから、立ち上る煙が見える。

「まさか・・・鉄人兵団!?」

「もっと見晴らしのいい場所へ行こう!」

 ドラえもん達は頭にタケコプターを取り付けると、空へと舞い上がった。そして、彼らの目に映ったのは・・・。

「なっ、なんだあれは!?」

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