ドラえもん対マジンガーZ


〜「ドラえもん のび太と鉄人兵団」アナザーストーリー〜


第13話


別れの時


 Dr.ヘルの機械獣軍団、そして鉄人兵団との最終決戦から一夜があけた。さすがにその晩はヘトヘトになっていたため、全員が早くから眠りについた。しかし、大変なのは次の日も同じだった。

 光子力研究所の周辺を覆い尽くすような、動かなくなった鉄人兵達。この後かたづけのため、甲児やドラえもん達はその日も働くことになったのである。ドラえもんの道具も使いながら撤去を進めたが、数がとにかく多かったためそれでも半日かかってしまった。だが、彼らは決して文句など言わなかった。後かたづけは当然のことだったし、それに、その夜はパーティーがあるのだった。

「カンパーイ!!」

 星空の下、パーティーに集まったドラえもん達と光子力研究所の面々が、グラスを空に掲げる。パーティー会場にはマジンガーZとグランドザンダクロスも悠然と立っており、祝杯をあげる面々を見下ろしていた。

「いやあ、それにしても、よく勝てたよなぁ。さすがの俺とマジンガーも、もうちょっとで危ないところだったぜ」

「本当ですよね。でも、マジンガーとザンダクロス、それに、みんなの力を合わせて勝てたんですから」

「ああ。それに、明日にはいよいよ、次元乱流とかいう奴の再現をするんだろう? やっとお前達も、家に帰れるな」

「はい」

 楽しそうに談笑する甲児達とドラえもん達。しかし、シローだけは浮かない顔をしていた。

「・・・」

「どうしたシロー。パーティーなんだから、もっと楽しくいこうぜ!」

「だって・・・ドラえもん達、明日帰っちゃうんでしょう・・・?」

「・・・」

 その言葉に、一同もしんみりとしてしまう。このパーティーは一応は、光子力研究所を守り抜くことができたお祝いの席でもあるが、ドラえもん達とのお別れパーティーでもあるのである。そんなとき、弓教授がシローの肩に手を置いた。

「先生・・・」

「シロー君、確かに君の言うとおり、ドラえもん君達は明日もとの世界に帰ることになる。それが寂しいことはわかるけれど、みんなも元の世界が一番いいんだ」

「わかってます。僕だって、お兄ちゃんや光子力研究所のみんなと離ればなれになったら、とっても寂しいはずだから・・・」

「ごめんね、シロー君」

 ドラえもん達も、申し訳なさそうな表情をする。

「ううん、こっちこそごめん。ドラえもん達とは一緒に遊んだし、この研究所も守ってくれたんだから、
お礼を言わなきゃいけないくらいだね。ありがとう」

「へへっ、軽い軽い!」

「そうそう。僕達は、いつもすごい冒険をしてきたんだからね」

「それとこれとは、大した違いじゃないさ」

 場の雰囲気が再び明るくなってきたところで、甲児が声を張り上げた。

「さーて、また盛り上がってきたところで、いっちょこの甲児様が歌でも披露するかな」

「えっ! 歌!? カラオケがあるんですか?」

「ブッ!?」

 歌と聞いて、ジャイアンが目を輝かせて甲児に尋ねる。それを聞いて、のび太とスネ夫は飲んでいたジュースを思わず吹き出してしまった。甲児は指をさしながら言った。

「ああ。ほら、あそこにあるだろう?」

 見ると、特設のステージの上にカラオケセットが置かれている。

「おおーっ! ステージまであるじゃねえか! そんじゃ甲児さん、俺が先に歌わせてもらいますよ!」

「ああっ!? 甲児さん! ジャイアンを止めて!!」

 ドラえもんが叫んだが、それは全くのムダだった。ジャイアンは目にも留まらぬ速さで、ステージの上に駆け上がり、マイクを手にとってしまったのである。

「なんだ? パーティーなんだから、歌ぐらい好きに歌わせていいじゃねえか」

 きょとんとした様子で大慌てするドラえもん達を見つめる甲児達。なんだかんだあったため、甲児達は「肝心なこと」をドラえもんから教えられてなかったのである。

「説明してる時間はない! 早く! 耳をふさいで!!」

 ドラえもん達が絶叫し、テーブルの下に潜り込む。だが、ジャイアンはマイクに向かって大声で叫んでいた。

「それじゃあ、このパーティーを未来の大物歌手が盛り上げるぜ! 曲はもちろん俺のオリジナルで18番「俺はジャイアンさまだ!」!!」

スゥー・・・

 ジャイアンは大きく息を吸い込んだ。



 そのあとのことは、書くに忍びない。のび太達にとって最大の恐怖であるジャイアンの歌が光子力研究所周辺にこだましたのである。あの屈強な甲児までもが失神し、なんとか軽いダメージですんだドラえもん達が、この肝心なことを伝えておくのを忘れていたことを謝りつつ、お医者カバンで全員を治療して回ることになったのである。当然パーティーはそこで終わってしまい、ジャイアンだけが「俺様の歌にみんな気を失うぐらい感動しちゃったか」と、いつも以上に派手な勘違いをして悦に入っていたのであった。



 深夜。結局パーティーはさんざんに終わったが、気の優しい光子力研究所の面々は文句を言うこともなくそのまま眠りについた。たった一人をのぞいて・・・

カタ・・・カタカタカタ・・・

 誰もが寝静まった光子力研究所の一室だけに灯りが灯り、中ではキーボードを打つ音が響いていた。ミコトがまだ仕事を続けていたのである。

 その時、ドアにノックの音がした。

「誰?」

「リルルです」

 リルルの声がして、彼女が部屋の中に入ってきた。手には、コーヒーを乗せた盆を持っている。

「リルル・・・どうしたの?」

「眠れなくて・・・ここの前を通りかかったら、ミコトさんが仕事をしてたから、コーヒーを持ってきました。ミコトさんが教えてくれたとおりに入れましたけど、うまくいったかどうか・・・どうぞ」

 リルルはコーヒーをテーブルの上に置いた。

「どれどれ・・・」

 ミコトはそれに手を伸ばし、一口ゆっくりと飲んだ。「ハァ・・・」とため息をついて、リルルに微笑みかける。

「・・・合格ね。おいしいわ」

「ありがとうございます」

「徹夜仕事にはいい差し入れね。慣れてるっていっても、やっぱりけっこうキツイからね、こういう仕事は」

 ミコトは明日、ドラえもん達を元の世界に帰すための次元乱流発生実験のための準備を一人で引き受けていたのである。

「徹夜をするほど急いでくれなくてもよかったのに・・・」

「そうもいかないわ。早く元の世界に帰りたいでしょう? それに、光子力研究所のみんなは疲れてるから、体力のある私が徹夜仕事をしたほうがいいのよ」

 ミコトはそう言って、再びキーボードを叩き始めた。

「・・・」

 リルルはその部屋の窓の向こうに見えるものを、じっと見つめていた。ミコトはその視線に気づき、仕事を続けながら話しかけた。

「辛い? そうよね、もとはあなたの仲間だったんだから・・・」

 窓の向こうには、光子力研究所の敷地にうずたかく積み上げられた鉄人兵達の残骸の山が見えた。

「いえ、あれでよかったんです・・・。やっぱり私たちのしてきたことは、間違いだったんですから・・・。結局は、人間のしてきた歴史を繰り返しただけだったんですから・・・」

 リルルは修理を受けてから、ミコトに頼んで人間についていろいろと教えてもらっていた。その中に、人間のたどってきた歴史があった。それはリルルにとって、まったく衝撃的なものであった。最初は平等だった全ての人間の間に、やがて貧富の差、身分の差が生まれた。それは、メカトピアのたどった歴史と全く同じだった。そして、人間が奴隷制度を廃止したあとで機械という奴隷を手に入れたのと同様、メカトピアは人間という奴隷を手に入れようとしていたのである。メカトピアにいたころには下等な生物としか思っていなかった人間の歴史と、自分達の歴史が酷似していることに、リルルは改めてショックを受けた。

「どうしてこんなことになってしまったのかしら・・・。メカトピアを発展させることが、宇宙の正義だと信じて働いてきたのに・・・それがこんな恐ろしい争いの原因となるなんて」

「誰もがすることよ、間違いっていうのは。それも、何度となくね」

「どこかで進む道を間違えたのかしら。それとも、神がアムとイムをお作りになったことがそもそも間違いだったのかしら」

 リルルがそう言うのを聞いて、ミコトはキーボードを打つ手を止めた。

「そんなこと言うもんじゃないわよ。生みの親を恨んだって、しょうがないじゃないの。自分達を生む前にさかのぼって文句を言えるわけじゃないんだから。それよりも、自分達を生んでくれた親に感謝して、少しでも自分達の力でよりよく生きていこうとするほうが、よっぽどポジティブな生き方っていうものよ。取り返しのつかない間違いなんて、この世の中にそう多くあるわけじゃないんだから」

「ミコトさん・・・私、どうすればいいんでしょうか? どうすれば、メカトピアのロボット達に人間捕獲作戦を中止させることができるでしょうか?」

「・・・どんな間違いでも、それをただす方法はいつも同じよ。どこが悪かったのか振り返って確かめて、次はそんなことがないように注意していく・・・。結局、全部それなのよ」

「どこが悪かったのか、たしかめる・・・」

 リルルはその言葉を反省するように、どこかに視線を向けて考えにふけった。

「私たちの戦いは、とりあえず一段落ついたわ。でも、あなた達の方はまだ、鉄人兵団の第二次、第三次の侵攻があるんでしょう?」

「はい・・・。なんとかして、それを防がなければ・・・」

「できれば私たちも、力になりたいけれど・・・」

「いえ、これは私たちの問題です。このことは、必ず私たちだけで切り抜けてみせます。せめてもの罪滅ぼしのために・・・」

「そう・・・。悪いわね。私たちには、あなた達を元の世界に帰してあげることしかできないけど・・・向こうでも、頑張ってね」

「ミコトさんも・・・」

 ミコトは、再びモニターに向かって作業を始めた。

「さ、もう寝なさい。徹夜は肌に悪いんだから、あなたまでつきあう必要はないわよ」

「肌に悪いって・・・ミコトさんはどうなんです?」

「フフ・・・私は大丈夫よ。研究と美容は、自分でもきっちり両立しているつもりだから」

「そうですか・・・」

 リルルは少し呆気にとられながらも、ドアに向かって歩いていった。

「それじゃ、おやすみなさい・・・」

「ええ、おやすみ・・・」

 ドアが閉じられ、再びミコトは作業に没頭し始めた。



 翌朝。光子力研究所の上空は、よく晴れた青空だった。そして、その研究所の郊外に、ドラえもん達と光子力研究所の面々が集まっていた。

「先生、ここでいいですか?」

「ああ、そこに置いてほしい」

 マジンガーZとグランドザンダクロスが、アンテナのようなもののついた大型の装置を運び、それを地面に慎重に置いた。同じ装置は、そのほかにも二つ、四角形を描くように配置されている。マジンガーZが置いたその装置に、所員達が急いで太いケーブルを接続していく。

「よし、これで準備完了だ。あとは光子力反応炉のエネルギーを、この超強力電磁場発生装置に送り込めば・・・。榊君、すぐにとりかかってくれ」

「はい」

 弓教授とミコト達は計器の前であわただしく操作を開始した。一方、ドラえもん達は別なことをやっていた。

「それじゃ、撮るわよ」

 さやかがカメラを向ける。被写体は、がっちりと握手をするマジンガーZとグランドザンダクロスだった。すでにマジンガーとグランドザンダクロスを交えた全員集合の記念写真はパーティーの席で撮っていたが、のび太達がどうしてもとこのシチュエーションでの写真を欲しがったので、記念写真の一枚として撮ることになったのである。カメラはドラえもんの持っていた高性能のポラロイドだったので、すぐに写真が出てきた。

「はい、撮れたわよ」

 さやかが写真をのび太達に手渡す。のび太達は大喜びでそれに見入った。

「おおっ! やっぱりかっこいい!!」

「やっぱりスーパーロボットは、こういう写真がなくっちゃな!」

「へえ、マジンガーもかっこよく写ってるじゃねえか」

 甲児もその写真をのぞき込み、うれしそうな顔をする。

「やっぱり男の人って、ロボットが好きなのねぇ」

「まあ、いいんじゃないの? これでお別れなんだから」

 少し離れた所から彼らの様子を見て、ドラえもんと静香が言った。そのとき、ミコトの声がした。

「あなた達! そこは危ないから、こっちにきて」

「ハーイ!」

 ドラえもん達はミコト達のいるところまで下がった。

「所長、光子力反応炉の出力は良好です」

「よし、それでは、始めるとするか・・・電磁場発生開始!」

 弓教授がスイッチを押す。

ヴヴヴヴヴヴ・・・・ズババババババババ!!

 すると、四つの装置が低いうなりをあげたかと思うと、まぶしい光と火花を放ち始めた。

「出力アップ!」

 弓教授がダイヤルを回す。すると、装置はさらに激しく光を放ち始めた。それにともない

バリッ! バリバリバリ!!

 雲もないのに、あたりに稲妻が走り始めた。

「これって・・・」

「間違いない! あの時と同じだ!」

 目の前で繰り広げられる光景に、思わずドラえもん達が叫ぶ。そして、次の瞬間

グォォォォォォォォォォォ!!

 おそろしいうなりとともに、四つの装置に囲まれたほぼ中央の空中に、大きなブラックホールのような
穴が開いた。

「やった!」

「穴が開いた!」

 ドラえもん達が歓声をあげる。一方甲児達は、見たこともない現象に驚いていた。

「あれが、次元乱流ってやつか・・・」

「すごいわね・・・」

 この現象を見ながら、弓教授はつぶやいた。

「このままでは出力が大きすぎて近寄れないな・・・榊君、この穴を維持できるエネルギーレベルを算出し、そのレベルを維持してくれ」

「わかりました」

 ミコトがキーボードを叩くと、コンピュータがそれに応じた作業を行った。

グィィィィィィ・・・ン・・・

 うなりが徐々に小さくなり、あたりに稲妻が走ることもなくなる。だが、穴は依然としてそこに開いていた。

「これで、いつでもあの穴に入れる。実験は成功だ」

「ありがとうございます、弓先生、ミコトさん、それに、光子力研究所の皆さん」

 ドラえもんが代表してお礼を言った。

「さて・・・いよいよ、本当にお別れだな」

 なんとはなしに、甲児が口を開いた。それを聞いて、ドラえもん達が少し元気をなくす。

「最後なんだからさ、最後は笑ってしめようじゃねえか、な!」

「はい!」

 ドラえもん達は笑顔を浮かべた。そして、別れのあいさつが始まる。

「甲児さん、今までありがとうございました」

「Dr.ヘルはまたやってくると思いますけど・・・頑張って下さい」

「ああ! 兄弟みたいなお前達がいなくなるのはやっぱり寂しいけど・・・向こうでも、しっかりやれよ。Dr.ヘルなんか、俺とマジンガーでそのうちコテンパンにしてやるから」

「甲児さん、また会えたら、今度はマジンガーにも乗せてくれよ!」

「オウ! そんなのはおやすいご用だ!」

「ミコトさん、さやかさん、いろいろとありがとうございました」

「こっちこそ、あなた達と会えて、いろいろ楽しかったわ。もとの世界に帰っても、元気でね」

「私たちのこと、忘れないでね」

「はい・・・」

「忘れるなんて、そんなこと・・・」

「スネ夫君・・・これ、ほんとにもらっちゃってもいいの?」

 ラジコン零戦を手にしたシローが言った。

「いいのいいの! ラジコンなんかいつでも作れるんだから。それは僕達のことを忘れないように、大事にしてほしいんだ」

「もちろん!」

 ドラえもん達と甲児達は、それぞれに別れを惜しんだ。

「それじゃ・・・行きます」

 ドラえもん達は全員、タケコプターを頭につけた。

「ああ、元気でな」

「時々は私たちのこと、思い出してね」

「さようなら!」

 タケコプターで空へと舞い上がっていくドラえもん達に手を振る光子力研究所の面々。ドラえもん達はそれに答えながら、空に浮かぶ空間の穴に近づいていった。

 最初はザンダクロスが、それに続いてスネ夫、ミクロス、ジャイアン、静香、リルル、のび太、そして、最後にドラえもんが、穴へと入っていった。

「元気でね!!」

 ドラえもんは最後に大きく手を振り、穴の中へと消えていった。


「・・・よし、もう彼らは亜空間に入ったはずだ。あとは、彼ら次第だな。穴を閉じよう」

「はい」

 ミコトが操作をすると、うなるような音と共に徐々に出力が低下し、穴がだんだんと小さくなり、そして、最後には何事もなかったように、完全に閉じられた。

「・・・行っちまったな・・・」

 甲児が少ししんみりした様子で言った。

「でも・・・大変よね。私達の方は、しばらく何事もなさそうだけど、向こうの世界では鉄人兵団がまた攻めてくるかもしれないんでしょう・・・?」

 さやかが心配そうな様子で言ったが、甲児はすっきりとした様子でそれに答えた。

「なあに、心配はいらねえよ。あいつらなら、何が来ようと起きようと、きっとなんとか切り抜けていけるさ。それよりも・・・あいつらに負けないよう、こっちも気合いいれなきゃならないな。Dr.ヘルが、あれであきらめるとは思えねえからな。こっちも、今まで以上に頑張らなきゃな。さやかさん、ボス」

「ええ、そうね!」

「もちろんだわさ・・・って、アーッ!?」

 ボスが何かを思いだしたように、突然叫んだ。

「どうしたんだ、ボス? いきなり大声あげて・・・」

きょとんとした様子でボスを見る甲児とさやか。

「忘れてたのよ! ドラえもんから新しくタケコプターをもらうのを! これじゃボロットはまた飛べなくなっちゃうだわさ!」

「なんだ、そんなこと・・・」

「飛べたって飛べなくたって、ボロットはボロットじゃねえか。このあいだの時だって、あっけなくタケコプターをやられて落っこちただろ?」

「なんだと兜ぉ! 空飛ぶボスボロットは俺様の夢なんだわさ! こうなりゃ兜! マジンガーのジェットスクランダーをよこすんだわさ!」

「やなこった! さあて、俺はこの後かたづけがあるから、そろそろ行かせてもらうぜ!」

「ああっ! 待つんだわさ!」

 マジンガーに向かって走る甲児と、それを追いかけるボス。その姿を見ながら、ミコトがさやかとシローに近づいてきた。

「相変わらずね、あの二人・・・。でも、あれだけ元気なら、ドラちゃん達がいなくなっても寂しくはないわよね、シロー君?」

「うん! ちょっと寂しいけど・・・お兄ちゃんやさやかお姉ちゃんがいるし、それに、いろんな思い出もできたから」

 シローは目を輝かせながら、スネ夫からもらったラジコンを見つめた。

「でも、みんなのおかげで、安心してさよならができるわね・・・」

 ミコトが急にそんなことを言ったので、さやかは驚いて彼女の顔を見た。

「え? ミコトさん、それってどういう・・・」

「所長にはもう話してあるんだけどね・・・私、もうすぐこの研究所を離れることになるの」

「ええっ!? ミコトさん、どうして・・・」

「実はね、別の研究所から依頼が来ているのよ。浅間山の麓に、早乙女研究所っていう研究所があるのを知ってるでしょ?」

「ええ。宇宙探査を目的に、早乙女博士が作った研究所ですよね。たしか、ゲッター線っていう未知の宇宙線の研究もしているっていう・・・。お父様も早乙女博士には何度か会ったことがあるみたいですけど」

「そう。その早乙女研究所で、今度宇宙開発用にそのゲッター線を使ったスーパーロボットを建造するらしいの。その手伝いをして欲しいって、早乙女博士から頼まれてね・・・」

「そうなんですか・・・」

「この研究所は居心地もいいし、離れたくはないけど、やっぱり私は科学者みたいね。探求心がうずくのよ。だから、思い切っていくことにしたわ。もちろん、所長も賛成してくれたし。それに、早乙女研究所とここはそんなに離れてるわけじゃないから、研究に行き詰まるようなことがあったら、気分転換に来るかもしれないわね。その時は、よろしくね」

「もちろん。いつでも来て下さい。ミコトさんがいなくなるのは寂しいけど、研究がうまくいくことを祈ってますわ」

「ありがとう。さて、そろそろ私達も片づけを始めようかしら。手伝ってくれる?」

「ええ」

トップに戻る inserted by FC2 system