ドラえもん対マジンガーZ


〜「ドラえもん のび太と鉄人兵団」アナザーストーリー〜


第2話


鉄の城



「なっ、なんだあれは!?」

 ドラえもんが指さした先。そこでは街の一部が真っ赤な炎をあげて燃え盛り、黒い煙が空へと昇っていた。だが、ドラえもん達はその光景に目を移すことはなかった。その破壊を引き起こしている「張本人」達に、視線を釘付けにしていたのである。

 巨大ロボット。街を破壊していたのは、まさにそう呼ぶにふさわしい異形の機械だった、奇怪な姿をした二体のロボットが、街を破壊していたのである。

 一体は、髑髏そのままの頭をしたロボットだった。耳に当たる部分にはこれみよがしに鎌のように湾曲した鋭利な刃物がついている。髑髏頭のロボットは、なんと目からミサイルを発射し、巨大なビルを吹き飛ばした。

 もう一体は胴体は緑色の人型だったが、蛇にも龍にも見える細長い首が二本はえていた。その首をくねらせながら、口らしき部分からレーザーを発する怪ロボット。レーザーの直撃を受けたガスタンクが大爆発を起こし、さらに火の海が広がる。

 破壊を繰り返す二体のロボットの姿に、ドラえもん達はあっけにとられていた。

「す、すげえ力だ・・・」

「5階建てのビルぐらいの大きさだね・・・」

「あれも、鉄人兵団のロボットなの・・・?」

 だが、リルルは首を振った。

「いえ・・・あんな形のロボットは見たことがないわ・・・。見ただけでも、私たちやジュドとは設計から違うことがわかるもの・・・」

「じゃあ、一体あのロボットは何なんだ・・・?」

 その時、空から爆音が聞こえてきた。見ると、自衛隊所属機らしい戦闘機の編隊が、怪ロボットに向けて迫っていた。

「ギャオオオオン!!」

 戦闘機を見て鳴き声をあげる怪ロボット。そして、戦闘機隊は攻撃を開始した。次々とミサイルが発射され、ロボットめがけて突き進む。だが、ロボットは驚くほど俊敏な動きで、ミサイルをかわす。

「あんな大きさであんな動きができるなんて!」

 何発かミサイルが命中したが、ロボットには大したダメージになっていないようである。戦闘機隊はその後も攻撃を続けたがやはり効果はなく、弾薬が切れたのか、やがてその場を去っていった。

「なんて奴らだ・・・。まるでアニメか特撮に出てくる怪獣だよ・・・」

「どうするの? このままじゃ街が・・・」

「だ、だけど、戦闘機でも勝てなかったロボットだよ?」

「バカヤロー! 撃っても撃っても新手が出てくる鉄人兵団にくらべりゃ、たったの二体じゃねえか! やってやろうぜ!」

「無理言わないでよ! 大きさが違うじゃないか!」

 ドラえもんはじっと考えていたが、やがて言った。

「・・・やろう! 僕達がどこへ来てしまったのかはしらないけど、このまま街が壊されているのを黙って見ているわけにはいかない!」

「だけど、武器はどうするの?」

「これしかないね」

 ドラえもんが取りだしたのは、いつもの空気砲だった。

「でもこれ、鉄人兵団にも決定的なダメージは与えられなかったよ?」

「たしかに一発一発の威力は小さくても、狙いを集中すれば大型ミサイルくらいの威力になるんだ。倒せなくても、引き揚げさせることぐらいはできるんじゃないかな」

 ドラえもんは空気砲を渡していった。

「それで大丈夫かな・・・」

「大丈夫もなにもない。やるしかねえよ」

「そうね。このままじゃ街が・・・」

「う、うん・・・」

「みんな、用意はいいね? それじゃ、いくよ!」

 ドラえもん達が飛び出そうとしたその時、リルルが叫んだ。

「待って! 何かが聞こえる・・・」

「何かって・・・?」

「わからない・・・。だけど、すごく大きい何かが、こっちに向かって飛んでくる・・・」

 ドラえもん達は不思議そうな顔をして、辺りを見回した。すると、静香が空の一点を指さして言った。

「ねえ見て! あれ!」

 全員がその方向を向く。彼らが見たものは、はるか彼方からこちらに向かって飛んでくる黒い影だった。それはどんどんこちらへと近づいてきて、やがて一つの形を成してきた。

 その影もまた、巨大ロボットだった。ただ、暴れ回っているロボットのような怪奇な姿ではなく、純然とした人型をしているようだった。ドラえもん達がタケコプターで空を飛ぶときのように、背中についた真紅の翼で、体を水平にしてすさまじいスピードでこちらへと飛んでくる。

 やがてそれは、ドラえもん達のはるか前方を通り過ぎ、着陸態勢に入った。巨大ロボットはスピードを落とすと、二本の足でしっかりと大地に足を下ろした。

「敵の新手か?」

「いや・・・どうも様子が違うよ」

 人間のようにしっかりと二足で直立したことにより、ロボットの全体が明らかになった。体色は黒と銀色を基調としたシンプルなものだったが、力強い印象を受ける。胸には二枚の赤いプレートがついている。背中には先ほど見た赤い翼が装着されている。ボディーラインも暴れているロボットのケバケバした印象とは違い、シンプルな感じを受ける。

 巨大ロボットは、暴れているロボットをまっすぐに見つめている。怪ロボット達も、空から現れたこのロボットの姿を認め、破壊をやめてロボットと対峙している。

「もしかして、正義のロボットなんじゃないの?」

 のび太が言った。言われてみれば、ロボットの顔は怪ロボットの骸骨や蛇をモチーフとしたようなものではなく、彼らがテレビのアニメで見慣れたような正義のロボットと同じ印象を受ける顔をしている。

「う〜ん、確かにそうかもね。あのロボットとにらみあってるし」

「怪獣みたいなロボットに、正義のロボットか。ますますアニメみたいだね」

「見て、ロボットの頭に、誰かいる!」

 静香の言葉に、全員が視線を集中した。ロボットの頭部には、丸い半球状のガラスが張られていた。そしてその中に、一人の青年がいた。

「パイロットかな?」

「ガラス張りのコクピット・・・それも頭のてっぺんなんて、危なすぎるね」



 ドラえもん達がそんな話をしているとも気づかず、ロボットのパイロットは目の前の怪ロボットに視線を集中していた。

「なんでえ! 前にやっつけた奴らじゃないか!」

 拍子抜けしたように、パイロットは軽い口調で言った。そのとき、計器板の正面にあるテレビスクリーンに、一人の少女が映った。

「甲児君、気を抜かないでよ! 一度倒した相手だからって、油断しちゃいけないわ」

「わかってるよ、さやかさん。心配ご無用。どんな相手がこようが、この俺とマジンガーZは無敵だぜ!」

「もう・・・ほんとにわかってるのかしら」

 少女は眉をひそめたが、甲児はやる気満々で目の前の怪ロボットを見つめた。

「よーし、機械獣め! マジンガーZの力を見せてやるぜ!」

 それに呼応するように、髑髏頭のロボット「ガラダK7」と双頭の蛇のような頭をもつロボット「ダブラスM2」は、巨大ロボット「マジンガーZ」に対して攻撃の構えをとった。

「ギャオオオオオン!!」

 ダブラスM2が叫び声をあげ、口からレーザーを放つ。まばゆい光を放つレーザーが、マジンガーZを直撃する。だが、マジンガーZはびくともせずに、相変わらずその場に仁王立ちしている。

「超合金Zのボディーに、そんな攻撃が通用するかよ! 今度はこっちの番だぜ!」

 今度はマジンガーZが、その巨体を動かした。

「ロケットパーンチ!!」

 甲児が叫ぶと共に、マジンガーZの右腕の肘から先が炎を吹き、勢いよく飛んでいった。空飛ぶパンチは目にも留まらぬ速さで空を飛び、ダブラスM2の腹に風穴を開けた。ダブラスM2は為す術もなく倒れ、木っ端みじんに吹き飛んだ。

「ガオオオオン!!」

 続いてガラダK7が、マジンガーZに挑む。雄叫びと共に、目からミサイルを発射する。だが、そのミサイルの速度はかなり遅く、マジンガーZはひらりと身をかわしてミサイルをよけた。

「ほ〜れ、こっちこっち!」

 するとガラダK7は、今度は側頭部についた鎌を抜き、それを投げつけてきた。勢いよく回転する鎌が、マジンガーZに向かう。だが、それもマジンガーの強固な装甲の前には歯が立たなかった。

「へへっ、きいてないぜ! お返しだ! 光子力ビーム!!

 マジンガーZの目から光線が発射される。光線はまっすぐにガラダK7の側頭部の鎌を破壊した。ひるむガラダK7に、さらにマジンガーZの攻撃が続く。

「ルストハリケーン!!」

 マジンガーZのスリット状になった口から、強風が吹き出される。それを受けたガラダK7のボディが、見る間にボロボロに腐食していく。どうやら、強力な酸が含まれているらしい。ガラダK7は、もはや動くこともままならない。そんな機械獣に、マジンガーZが突進する。

「とどめだぁ!」

 マジンガーZが強力なストレートを繰り出すと、ボディにパンチがめり込んだ。ガラダK7は木偶人形のようにそのまま倒れると、大爆発を起こした。

「へへっ、どうだ!」

 甲児は勝ち誇ったように笑った。

 戦闘を目撃していたドラえもん達は、その強さにあっけにとられていた。

「す、すげえ、圧倒的だぜ・・・」

「かっこいい・・・」

 その時、マジンガーの戦闘を見るため近づいていたドラえもん達に、甲児が気づいた。

「な、なんだ!? 子供が空に浮いてる・・・」

 甲児はマジンガーZをドラえもん達に向けた。

「わっ、あのロボット、こっちを見てる!」

「気づいたのかな?」

 その直後、マジンガーZから甲児の声が聞こえてきた。

「お〜い、お前達! 今ここは避難警報が出てるんだぞ! 子供はさっさと避難するんだ!」

「だから誰もいなかったんだ・・・」

「だ、だけど僕達・・・」

「いいから早く避難するんだ!」

「みんな、ここは言うとおりにした方がいい。行こう」

 ドラえもん達は軽くマジンガーZにおじぎをすると、別の場所へ飛んでいった。

「何なんだ、あいつら? Dr.ヘルの手下には見えなかったけど・・・」

 甲児がいぶかしげに思っていると、突然大きな声があたりにこだました。

「ハハハハハハハ・・・さすがだな、マジンガーZ!」

 奇妙なことに、男と女の声が見事に一致して発声されているようだ。甲児はそれだけで、声の主がだれか見当をつけた。

「その声は・・・あしゅら男爵!」

「いかにもその通り!」

「へっ! 見たかよ! いい加減世界征服なんかあきらめて、とっとと引っ込め!」

「フン、改良したとはいえ、やはりダブラスM2とガラダK7では役不足だったか・・・。安心しろ、貴様にはもっとふさわしい相手を用意している。兜甲児! 今日こそ貴様とマジンガーZの命日だ! いでよ、機械獣スタッグD3!!」

 すると、マジンガーZの前方少し離れたところの地面が爆発し、何かが地中から姿を現した。

「ガオオオオン!!」

 機械獣だった。人型のボディーに、クワガタムシを思わせる頭部がついている。右手には剣、左手には盾を持ち、いかにも先ほどの2体より手強そうな印象を受ける。

「また新型の機械獣か!」

「フフフ・・・この機械獣スタッグD3が、貴様の死刑執行人だ! 行け!」

 あしゅら男爵の命令を受け、スタッグD3が動き出す。

「へっ、おとなしくしてるもんかよ! ロケットパーンチ!!

 マジンガーZがロケットパンチを発射する。だが、そのときスタッグD3が手にした盾を構えた。ロケットパンチはその盾を直撃したが、乾いた金属音をたてて跳ね返された。

「何っ!?」

「フハハハ! スタッグD3の盾は、貴様の攻撃を受けつけん!」

「くそっ! それなら、こいつはどうだ! 光子力ビーム!!

 マジンガーZの光子力ビームが発射される。だが、それもスタッグD3の盾によって防がれた。

「ちくしょう!」

「今度はこちらの番だ! ゆけ、スタッグD3!」

 スタッグD3の角が、バチバチと火花をたてる。次の瞬間、その角から高圧電流が放射された。

「うわあああああ!!」

 ダブラスM2のものとは比べものにならない強さの電流を浴び、さしものマジンガーZもダメージを受ける。続いて機械獣は突進し、手にした剣を振り下ろす。

「くっ!」

 甲児がとっさにマジンガーを動かす。そのため直撃は免れたが、剣先がマジンガーの肩口を切り裂いた。

「あっ、この! やったな、てめえ!」

「フフフ・・・スタッグD3の力、存分に思い知るがいい!」

 スタッグD3は再び盾を構え、マジンガーZに向かってきた。



「どうしようドラえもん! このままじゃあのロボットが!」

 建物の陰からマジンガーZのピンチを見ていたのび太が、思わず声をあげる。ドラえもんは腕組みをして考えていたが、やがて言った。

「よし、あのロボットを助けよう!」

「でも敵のロボットは、頑丈な盾を持ってる。どうやって戦うの?」

「僕に考えがある。一人じゃ無理だから、誰か手伝ってくれないか?」

「俺が行くぜ」

「僕も!」

 ジャイアンとのび太が手を挙げた。ドラえもんはうなづくと、二人に空気砲を渡した。

「スネ夫とミクロスは、ここで静香ちゃんとリルルを守るんだ。いいね」

「わかった!」

「ナニガコヨウト、コノみくろすガ守ッテアゲマス」

「気をつけてね」

「うん。それじゃ行くよ、二人とも!」

 3人は空へ飛び立った。

「大丈夫かな・・・」

「きっと大丈夫よ・・・どうしたの、リルルさん!?」

 静香がリルルに駆け寄る。リルルは苦しそうに、地面にうずくまっていた。

「なんだか・・・胸が苦しいの・・・」

 リルルは苦しげに息をつきながら言った。静香が心配そうに駆け寄り、優しく体を抱き上げる。

「病気かしら?」

「ロボットなのに?」

「ドラちゃんは風邪をひいたことがあるわよ。とにかく、すぐに何とかしなきゃ」

 静香はスペアポケットに手を突っ込むと、役に立ちそうな道具を探し始めた。

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