ドラえもん対マジンガーZ
〜「ドラえもん のび太と鉄人兵団」アナザーストーリー〜
第8話
決戦の予感
無事にザンダクロスを取り返して帰ってきた一同を、光子力研究所の面々は笑顔で出迎えた。中でも意外だったのは、その中に甲児もいたことだった。
「甲児さん! ケガはもういいんですか!?」
「オウ! ドラえもんの出してくれた治療用具のおかげで、すぐに治っちまったぜ。そんなことよりお前ら、Dr.ヘルの基地に忍び込んでロボットを取り返すなんて、無茶しやがって! お前らがそんなことしてたんじゃ、俺がいつまでも寝てるなんてこと、できるわけねえだろ?」
「甲児さん・・・」
「あら、あたしから言わせれば、甲児君の方がよっぽど無茶な性格してるわよ。もうちょっとゆっくり寝てたほうがいいんじゃないかしら?」
ミコトが冗談めかして言うが、甲児は笑いながら答えた。
「てやんでえ! そんなことしてたら、体がなまっちまうぜ! それより、こいつが新しい仲間か。見るからに頼もしそうだけど、マジンガーを一度は倒したんだから、本当の力の方も折り紙付きだな。あとでマジンガーと力比べをさせてみたいぜ」
Dr.ヘル達によって機械獣のような外装をつけられたままのザンダクロスを見上げ、甲児が感心して言った。
「それはあとで。これからこの悪趣味な外装をとっぱらって、新しい装備を追加するんだから」
「新しい装備?」
「そう。Dr.ヘル達だけじゃなくって、鉄人兵団まで現れたんだから、ザンダクロスも強化が必要よ。そのためにこれから先生達と相談して、マジンガーZを参考にした武器をとりつけるから」
「すげえ! ザンダクロスがパワーアップするのかよ!」
ジャイアンが興奮気味に叫ぶ。
「そうよ。あ、それから、あなた達にもう一つ、いい知らせがあるわ。光子力反応炉が完成したわ」
「本当ですか!?」
「ええ。まだテストが終わってないけど、今のところは順調よ。思ってたよりずっと順調に進んだから、近いうちにあなた達も、元の世界に帰れると思うわ」
「やったぜ!」
「おうちに帰れるのね!」
ドラえもん達が喜びの声をあげるのを、ミコト達は微笑みながら見つめていた。
「さ、あなた達。今日はいろいろとあったから、ゆっくり休みなさい。作業は私たちが進めるから」
「ハーイ!」
ドラえもん達は元気よく答えると、話をしながら光子力研究所の建物へと戻っていく。その時、リルルの背中に甲児が声をかけた。
「リルル」
「?」
「よかったな、ジュドが戻ってきてくれて」
「・・・ええ」
甲児とリルルは、笑顔でザンダクロスを見上げた。
一方同じ頃、地中海のバードス島。Dr.ヘルはイライラした様子で落ちつきなく部屋の中を行ったり来たりしている。そんな彼に、あしゅら男爵がおそるおそる声をかけた。
「Dr.ヘル、少し落ち着いてはいかがですか?」
そんな彼を、Dr.ヘルは忌々しげににらんでから怒鳴った。
「落ちつけだと!? これが落ち着いていられるか! 貴様もわしが最近どんなめにあってきたか、わかっておるだろうが!」
「ハッ、それはもちろん・・・」
「まずはあのガキ共だ。いきなりどこかから現れて、打倒マジンガーZの邪魔をするばかりか、せっかく手に入れた巨大ロボットまで盗んでいきおった。おまけに、わしをとことんバカにしていった。しかし・・・もっと許せんのはあのあとやってきたロボット軍団だ。せっかくあそこまで作り上げた鬼門島を、そっくりそのまま奪ってしまった・・・。こんな忌々しい出来事続きで、落ち着いていられるものか!!」
Dr.ヘルは心の中のイライラをすべてあしゅら男爵にぶつけるような勢いで叫んだ。
彼の言葉通り、鬼門島は鉄人兵団に占領されてしまっていた。そもそも鬼門島は、Dr.ヘルが第二の前線基地として作っていた秘密基地であった。第二の、というのは、Dr.ヘルはすでに地獄城という前線基地をもっていたのである。さすがに地中海のバードス島から日本にある光子力研究所を攻めるのはいくらなんでも効率が悪いので、この地獄城を前線基地にしていたのである。鬼門島はそれに続く第二の前線基地として、Dr.ヘルが突貫工事につぐ突貫工事を重ね、やっと完成にこぎつけたものだったのである。しかしその矢先にドラえもん達がやってきて、ザンダクロスで基地とそこにいた機械獣を破壊し、コンピュータウィルスでシステムを破壊し、鬼門島を完全に使い物にならないものにしてしまったのである。しかし、それだけならまだ再建の余地も残されていたかもしれない。しかし不幸はそれにとどまらず、鉄人兵団の大軍がその直後に襲来してきたのだ。機械獣は全て破壊され、しかもシステムが破壊されていたため自動迎撃システムも作動せず、結局何の抵抗もできずに基地は鉄人兵団の手に渡り、Dr.ヘル達は命からがらグールでバードス島まで逃げ帰ることしかできなかったのである。まさに踏んだり蹴ったりの不幸と屈辱だった。Dr.ヘルが怒り狂うのも無理はない。
「どいつもこいつもわしをバカにしおってぇ・・・見ておれ! この恨みは必ず晴らしてやるからなぁ!!」
一方これも同じ頃。鬼門島では、鉄人兵団達が基地の修復に当たっていた。ロボットである彼らは当然のことながら機械に詳しく、初めて見る機械も簡単に修理していった。コンピュータウィルスも取り除き、システムも正常に復帰させた。
基地の一室では、一体のロボットが複数のロボットに囲まれ、映像に見入っていた。金色の体をして、赤いマントをつけたロボット。それは、鉄人兵団の司令官だった。副官達に囲まれて彼が見ているのは、基地の映像ファイルに残されていた映像だった。そこにはマジンガーZや光子力研究所、機械獣といったこの世界特有のものが映っている。
「ううむ・・・」
鉄人兵団司令官は、それらの映像を見てうなり声を出した。
「おかしいぞ。我々の事前調査では、こんなロボットを作り出せるほど、地球人どもの科学は発展していなかったはずだぞ。だが、これはどうだ! 巨大なロボットが、この地上を歩いているではないか!」
「やはり、ここもまた我らの目指す地球ではないようですな・・・」
「やはり、あのブラックホールのような黒い渦に吸い込まれたせいでしょうか?」
「異次元に入り込んでしまったというのか? ううむ・・・」
その時、ドアを開けて副官の一人が入ってきた。
「司令官! 天体観測の結果が出ました」
「結果は?」
「この世界には、メカトピアは存在しません・・・。そればかりか、他の星も微妙に座標が異なっています」
副官は司令官にデータを渡した。
「ううむ・・・ここへきてからメカトピアへ何度も通信を送ったが、まったく応答がなかったのはそういうことか・・・」
「いかがなされますか? この世界にも人間はいますし、引き続き作戦を続けてもかまわないのでは・・・」
副官が提案したが、司令官は首を横に振った。
「いや、メカトピアのないこの世界で、もとの世界に戻れるあてもないのに人間捕獲作戦を続行するのは無意味だ。今は情報収集に徹しろ。この世界では、地球人の科学も発展しているようだ。それならば、どこかにもとの世界にもどるためのヒントがあるかもしれん。それを見つけて、我らのものにするのだ。よいな」
「了解!」
副官達はみな敬礼をした。
それから二日後。弓教授達が徹夜で作業を行ったため、ザンダクロスの改修は予想外に早く完了した。生まれ変わったザンダクロスの姿を見るため、ドラえもん達は格納庫へとやってきた。
「へえ、これが新しいザンダクロスか・・・」
のび太達が見上げて言った。生まれ変わったザンダクロスは、そのデザインが以前のものを踏襲しながらさらに変更され、カラーリングもこれまでと大きく変わっていた。以前のザンダクロスは白、青、赤のトリコロールカラーを基調としたロボットだったが、今回は派手さを抑えながらも力強い印象を受けるカラーリングに仕上がっている。これはプラモや模型などにはうるさいスネ夫が考案し、力強い印象を与えるデザインとカラーに仕上げたものだった。
「スネ夫、お前の塗装も、だいぶいいじゃねえか! 気に入ったぜ」
「ヘヘヘ、そう言われるとうれしいなあ」
「でも、変わったのはデザインだけなのかしら?」
「もちろん、そんなことはないわよ」
彼らの後ろから、ミコトが大きなあくびをしながら現れた。
「ミコトさん。ずいぶん眠そうですね」
「あったりまえでしょ? ずっとザンダクロスの改造にかかりっきりだったんだから」
「すいません・・・」
「いいのよ。熱中してやってたんだから。それよりも、ザンダクロスは前とは比べものにならないくらいのロボットになったわよ」
「へえ。例えばどんなところが?」
「まず、光子力コンバータを載せたところね。これはザンダクロスのエネルギーを光子力エネルギーに変換させるための装置なの。つまり、ザンダクロスもマジンガーZと同じ、光子力エネルギーを使った武器を使えるようになるのよ」
「え!? ということは、ロケットパンチとか光子力ビームが・・・」
「もちろん、使えるわ」
「すげえ!」
「それだけじゃないわよ。他にもいろいろな武器をとりつけたから、総合的な戦闘力はマジンガーZにもひけをとらないわ」
「それはすごい! でも、誰がパイロットをやるんですか?」
ドラえもんがそう言うと、ミコトは少し眉をひそめた。
「それが問題なのよねえ。操縦は簡単な方なんだけど・・・」
「ハイハイハイ! 俺やる俺やる!!」
真っ先にジャイアンが手を挙げた。
「僕も!」
「のび太じゃ無理だよ! 僕の方がラジコンの扱いには慣れてるんだから!」
「ラジコンと巨大ロボットじゃ全然違うだろ!」
スネ夫とのび太が喧嘩する。そこに、ドラえもんが割って入った。
「まあまあ。前みたいに脳波制御式コンピュータを使えば、誰が操縦しても同じことだよ。でもそうだね・・・武器に応じてパイロットが変わる方がいいかもしれない。つまり、ジャイアンはパンチとかキックとか、のび太君は、ショックガンみたいに拳銃型の武器を使うとか・・・」
「あ、それいいわね。それじゃのび太君と武君。あなた達がパイロットね」
「ミコトさん、そんな・・・」
静香が心配そうに言う。
「大丈夫よ。マジンガーと違って、頑丈なコクピットの中にいるんだから。それに、ドラちゃんも一緒に乗れば、心配いらないでしょ?」
「え? 僕も?」
ドラえもんが驚く。
「そう。のび太君と武君だけじゃ、ちょっと心配でしょ? まとめ役のあなたが乗れば心配いらないし、いざというときは秘密道具でなんとかなるでしょう?」
「ミコトさんまで秘密道具をあてにしちゃって・・・。でも、わかりましたよ。のび太君とジャイアンが乗るなら、僕が乗らないわけにはいきませんからね」
「ちぇっ! また僕が仲間はずれ?」
スネ夫がふてくされる。
「いいじゃないのスネ夫さん。お留守番も立派な役目よ」
「そうかもしれないけど、もっと僕にも派手な活躍の場があってもいいんじゃないかな?」
「そのことならご心配なく。あとであなたにもプレゼントがあるから」
「プレゼント? それってなんですか、ミコトさん?」
「あとであげるわよ、あとでね。それよりも、早速ザンダクロスの性能テストを行いましょう」
「ちょっと待った、ミコトさん!」
「何? 武君?」
「せっかくザンダクロスが生まれ変わったんだ。新しいかっこいい名前をつけさせてくれよ!」
「あ、それいいね! マークツーとか改とか」
「そういうのはリアルでやだな。もっとあるだろ、それっぽいのが。グレートとかGとかネオとか。真・ザンダクロスっていうのもいいなあ」
「それはちょっとおおげさじゃないかなあ」
のび太達はケンケンガクガクと、新しいザンダクロスのネーミングについて話し合い始めた。それを見て、リルルが不思議そうな顔で言う。
「なんでああいうことにこだわるのかしら? ジュドのままでもいいと思うけど・・・」
「男のロマン・・・っていうのかしらね。とにかく、ロボット好きの男の子達にとってはけっこう重要なことなのよ。私もマジンガーに関わってるから、わからないわけじゃないけどね。でも、このままじゃテストが遅れちゃうから・・・」
そう言うとミコトは、手を叩きながら割って入った。
「ハイ、議論はそこまで。いつまでもきりがないから、私が解決法を提案するわよ」
そう言ってミコトはどこかに出ていくと、短冊のように細切れにした紙をいくつも持って戻ってきた。
「何をするんですか? ミコトさん」
「くじ引きよ」
ミコトは短冊状の紙をのび太達に見せた。その紙には「Z」やら「グレート」やら、なんだか強そうな名前が一つずつ書かれていた。
「この紙を一枚引いて、そこに書いてあった名前を新しくザンダクロスにつける。スーパーロボットにつきそうな名前は、だいたい書いたつもりよ」
のび太達はその紙を一通り見てから、うなずいた。
「うん、これなら公平でいいや」
「それで? 誰が引くの?」
「決まってんじゃねえか! 俺だよ」
ジャイアンがズカズカと前に出ると、ちゃっかりとくじの前に立った。
「ま、しょうがないか」
「くじ運の悪いのび太君に引かせるよりはましだね」
「悪かったね、くじ運が悪くて!」
「いい名前を引いてよ、ジャイアン」
「オウ、まかせとけ」
ジャイアンは裏返しにされた紙を見つめていたが、やがて意を決したように、そのうちの一枚を引いた。
「なになに?」
「なんて名前?」
全員が興味津々といった様子で紙を見つめる。そしてそこに書かれていたのは・・・「グランド」という言葉だった。
「グランド?」
「それって、どういう意味?」
「グランド、か・・・。グランドは大きいっていう単純な意味だけど、グレートと似たような意味でもあるし、悪くないんじゃない? 意義のある人は?」
ミコトが答える。
「グランドザンダクロスか・・・。ううん・・・」
のび太達はしばらく考えていたが、やがて答えた。
「うん! そいつがいいや!」
「かっこいいしね!」
「さ、それじゃみんな、早速テストを行うわよ。テストの相手は、あれ!」
ミコトが格納庫の出口を指さすと、そこにはマジンガーZが立っていた。
「ええっ!? まさか、マジンガーと戦うの!?」
「まさか。ちょっとテストを手伝ってもらうだけよ。甲児君、準備はいいわね?」
「いつでもOKだぜ、ミコトさん!」
光子力研究所から離れた場所にある原野。そこではグランドザンダクロスが、マジンガーZとともにテストを行っていた。歩行などの運動テストを終え、今度は攻撃力テストが行われる。マジンガーが、大きなコンクリートの塊を担ぎ上げていた。
「それじゃいくぜ! しくじるなよ!」
「いつでも来て下さい!」
「そーらよっと!!」
マジンガーZが投げたコンクリートが、グランドザンダクロスめがけて飛んでくる。
「こんなの軽いぜ! ドリャアアア!!」
するとザンダクロスはジャイアンが乗り移ったような動きを見せ、ダイナミックなパンチでコンクリートを粉々に砕いて見せた。
「次はこれだ!」
今度はコンクリートが、やや低めに飛んでくる。
「こいつも楽勝だ! オリャアアア!!」
グランドザンダクロスは腰を低くして踏み込むと、キックを繰り出してそれを破壊した。
「格闘能力テストはそこまで! 次は射撃能力よ。甲児君!」
「了解!」
するとマジンガーが、両手にひしゃくのような形の的を持った。
「あれをどうするんですか?」
「これからマジンガーがロケットパンチを発射するから、あの的だけを破壊して」
「エエッ!? ミコトさん、ちょっとそれって、無理なんじゃ・・・」
ドラえもん達はミコトの要求に驚いた。なにしろ、ロケットパンチの飛行速度は音速をゆうに越えるのだ。そんな速さで飛ぶ的を、うまく破壊できるかどうか・・・。しかし、のび太は言った。
「やってみます・・・」
のび太はやや緊張した様子でサイコントローラーを握りしめた。次の瞬間、
「ロケットパーンチ!!」
的を両手に持ったまま、マジンガーZがロケットパンチを発射する。そして、それとほぼ同時に、グランドザンダクロスは腰の光子力マグナムを抜き、それを撃った。そして、ロケットパンチに当てることなく、的だけを粉々に打ち砕いた。目にも留まらぬ動きだった。
「0.93秒・・・! すごいわ! 想像以上ね」
計器板の数字に目を見張るミコト。コクピットの中は笑い声で満ちていた。
「すげえぜのび太! これなら大丈夫だ!」
「ハハハ、軽い軽い!」
結局、テストは大成功に終わり、グランドザンダクロスはマジンガーZとともに、来るべき鉄人兵団やDr.ヘルとの決戦に備えることとなった。
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