ドラえもん対マジンガーZ
〜「ドラえもん のび太と鉄人兵団」アナザーストーリー〜
エピローグ
そして彼女は天使になった
甲児達がドラえもん達と協力し、鉄人兵団を倒してから一年以上が過ぎたある日のこと。ここは、アメリカ航空宇宙局、通称NASAの研究機関の一つである、ニューエドワーズ宇宙工学研究所。ガラス張りのラウンジに置かれているカフェテリアでテーブルをはさみ、話をしている男女がいた。話に夢中になっている彼らは、声をかけられるまでその女性が近づいていることに気づかなかった。
「ハロー、お二人さん」
その声に、二人は驚いて顔を回した。するとそこには、コーヒーとサンドイッチを持った一人の女性研究者が立って笑顔を向けていた。
「ミコトさん!?」
「久しぶりね。元気にしてた?」
兜甲児と弓さやかは、突然現れた榊ミコトに驚いていた。
「どうしてここへ?」
「ちょっと借りたい器材があってね。他にもいろいろ用があったから、直接ここへきたわけ。もちろん、あなた達に会うのもその用の一つよ。それでどうなの? こっちでの暮らしは。特に甲児君、英語大丈夫?」
「当たり前ですよ。もうペラペラさ!」
「嘘つかないの。まだ私が横にいなくちゃ危なっかしいでしょ」
「フフフ・・・」
三人は楽しく談笑を始めた。なぜ甲児とさやかがこの研究所にいるのか。それは、ドラえもん達と別れたあとのことに理由がある。
ドラえもん達と別れた後も、甲児達の快進撃は続いた。そして、ついにDr.ヘルの要塞だった地獄城を壊滅させ、さらにバードス島まで攻め込み、Dr.ヘル達の野望を粉砕することに成功した。しかし、平和な時間は長くは続かなかったのである。Dr.ヘル達を倒した直後、戦闘獣と呼ばれる謎の怪物達が現れ、マジンガーZを絶体絶命のピンチに追い込んだのである。なんと戦闘獣を操っていたのは、機械獣のもととなった巨大ロボットを作ったミケーネ帝国だったのである。ミケーネは遙か昔に滅びたかに見えたが、実は地下で再び地上を手にする機会をうかがっており、ついに行動に出たのである。
だが、絶体絶命のピンチに陥ったマジンガーの前に、一体の巨大ロボットが現れ、いとも簡単に戦闘獣を倒してマジンガーを救った。そのロボットこそ、グレートマジンガー。科学要塞研究所で作られたマジンガーZの兄弟機である。ミケーネ帝国の侵攻を察知した科学要塞研究所の所長によって作られたグレートマジンガーは、同じようにミケーネと戦うべく訓練を受けた青年、剣鉄也の操縦により、マジンガーZに代わりミケーネ帝国と戦うことになったのである。そしてそれを機に、甲児とさやかは弓教授の薦めもあってここ、NASAに留学したのである。
「でも、こっちは毎日心配してます。なにしろ、日本は大変な状況ですから・・・」
「そうだぜ。ミケーネだけじゃなくて、恐竜帝国なんて奴らまで出てきちまったんだからな。ミコトさんは早乙女研究所にいるから、その戦いのど真ん中にいるわけだろう?」
「まあ、たしかに大変だけどね。でも大丈夫よ。恐竜帝国の方は、私達のゲッターロボがくい止めてくれているから」
ミコトは言葉通りに楽観的な口調で言った。しかし、状況は決して楽観できるものではない。むしろ、日本にとって未曾有の危機と言った方がよいだろう。
ミケーネ帝国と時を同じくするかのように、地下からはもう一つの巨大勢力が現れたのである。その名は恐竜帝国。かつて地上に繁栄を築いたが絶滅の危機に瀕した一部の恐竜たちが地下に潜り、進化の結果知能をもった「ハ虫人類」が築いた巨大な地下の帝国である。彼らもまた再び地上を取り戻すべく、恐竜をサイボーグ化した兵器であるメカザウルスを使って、地上侵略に乗り出したのである。
しかし、彼らに立ち向かう者がいた。それこそが、ミコトの現在所属する早乙女研究所が開発したスーパーロボット、ゲッターロボである。ゲッターロボは宇宙から降り注ぐ未知の宇宙線、ゲッター線を研究していた研究所がその成果として開発したロボットだった。だが、ハ虫人類にとってゲッター線はかつて恐竜の絶滅の原因となったほど有害なものだったのである。そこで恐竜帝国は危機感を感じ、研究所をメカザウルスで襲撃、試作品のゲッターロボを破壊してしまった。
だが、ゲッターロボはもう一機存在した。本格的に戦闘用の装備が施されたゲッターロボ。現在恐竜帝国との激しい戦いの矢面にたっているのは、このゲッターロボとそのパイロットである、リョウこと流竜馬、ハヤトこと神隼人、ムサシこと巴武蔵の三人、そして早乙女研究所の科学陣である。ゲッターロボは3機の戦闘機ゲットマシンで構成され、その合体順によって空中戦用のゲッター1、陸上戦用のゲッター2、水中戦用のゲッター3に変形できるという画期的なシステムによって、恐竜帝国の侵攻をくい止める大活躍を見せている。グレートマジンガーとゲッターロボ。かつてない危機を迎えた日本を、この二体のスーパーロボットが防衛しているのである。
「ミコトさん、最近俺、考えてることがあるんだけど・・・」
「どうしたの? 悩みを抱えたままウジウジしてるなんて、甲児君のキャラじゃないわよ。何でも相談してちょうだいよ」
「ああ・・・。ミケーネ帝国も恐竜帝国も、最近はますます攻撃を強めて、グレートやゲッターは必死にそれと戦っているよな・・・。そんなときに、俺だけこんなところにいて、本当にいいのかなって・・・」
「甲児君・・・」
さやかが心配そうな顔で甲児を見た。それを見て、甲児は慌てて言った。
「あっ、もちろん、今こうしてるのがイヤっていうわけじゃないぜ! 留学先の暮らしも、さやかさんと一緒にいられることも、みんな満足してる。死んだおじいちゃんやお父さんみたいに、立派な科学者にもなりたいと思ってる。だけど、なんだか今のままじゃいけないような気がするんだ。日本を必死で守ってる仲間がいるのに、俺だけこうしているってのは・・・」
「・・・」
甲児はそう言って、視線を下げた。さやかも、何も言わないでいる。ミコトはしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「・・・甲児君らしいわね。やっぱり黙ってさやかさんのそばにいてあげられるほど、おとなしい人じゃないってことね」
ミコトはコーヒーを一口すすった。
「女としてはしょうがない人だって思うけど、場合が場合だものね。しかたないことだと思うわ。私もここへ来る前から、うすうすあなたがそんなことを考えているんじゃないかと思ってたけど、見事的中ってわけか。でも、上には上がいるわよ。弓所長なんて、甲児君の考えを読んでるどころか、もう準備に入っちゃってるもの」
「お父様が・・・?」
「準備って・・・どういうこと?」
「この間用があって光子力研究所に行ったんだけど、驚いたわ。何しろ、マジンガーの改修作業が進められてたんだから」
「! それって・・・!」
「そう。甲児君がそんなことを言い出すのを見越して、所長はいつでもマジンガーが戦えるように準備を始めたのよ。予定だと、装甲をグレートマジンガーと同じ超合金ニューZに変えて、新しい光子力エンジンを組み込んでパワーアップもさせるらしいわよ」
「マジンガーが・・・蘇るのか!」
「そういうこと。あなたがその気でよかったわ。そうじゃないと、無駄に終わることになってたからね」
そういうとミコトは、キッと甲児をまっすぐに見つめて言った。
「ただし、日本に戻る前に埋め合わせはちゃんとやるのよ。女の子にとって、置いてかれるのは何よりも辛いことなんだから。さやかさん、いいチャンスだから、思いっきり高い服でもおねだりしちゃいなさいよ」
「フフ、そうですね・・・」
さやかとミコトが、いたずらっぽい目つきで甲児を見た。
「ちぇっ。ほんと、女の人にはかなわないぜ」
「あら、それならやめる?」
「冗談。一度決めたことをやぶったら、兜甲児の名がすたるってもんだ。さやかさん、服でもなんでも買ってやるから、俺を日本に行かせてくれ!」
「もう・・・しょうがないわね」
さやかは口ではそう言ったが、表情は自分らしい心を見せた甲児を見ることができてうれしいばかりといった様子だった。
「さやかさんも大変ね・・・。まあとにかく、甲児君がその気でよかったわ。改修作業はもうすぐ終わるみたいだから、そのうち連絡がくると思うわ。こっちは一足お先に日本で待ってることにするわ。でもこんなとき、あの子達がいたらもっと心強いのにね・・・」
「そうですね・・・」
甲児達は視線を窓の外に向けた。
「ドラちゃん達、今頃どうしてるかしら・・・」
「鉄人兵団の侵攻を、防ぐことができたかしら・・・」
「へっ、心配はいらねえよ。この兜甲児様が認めたあいつらだからな。鉄人兵団の侵略なんて、うまいこと切り抜けてるだろうさ」
「そうね・・・。でも、本当に明るくて、頼りになる子達だったわね」
「ああ。あいつらと力を合わせて守ったこの世界だから、今度も守らなきゃならないんだ。さやかさん、ミコトさん、俺はやるぜ。俺は俺のマジンガーで、きっとこの世界を守ってみせる!」
「甲児君・・・」
「さすがは兜甲児ってところね。そうこなくっちゃ」
決意を新たにする甲児を見て、さやかとミコトは微笑みを浮かべた。その時、ミコトがふと腕時計に目を移した。
「あらやだ、もうこんな時間。ごめんね二人とも、私も忙しくて、そろそろ帰りの飛行機に乗らなきゃならないの。もっとゆっくりしたいけど、それじゃあね。日本で待ってるわ」
「ミコトさんも、お元気で」
「お父様によろしくお願いします」
ミコトは笑顔を浮かべて手を振ると、カフェテリアから出ていった。その後ろ姿が見えなくなると、甲児とさやかは向き合った。
「すまねえなさやかさん。落ち着きがなくって」
「いいのよ。ミコトさんの言うとおり、その方が甲児君らしいわ。ドラちゃんたちも、その方が喜ぶと思うわよ。でも甲児君、私時々思うけど、私達またドラちゃん達に会うことができるかしら?」
「ああ、それは俺も時々考える。もしかしたら、もう二度と会えないかもしれない。だけど・・・」
甲児は一拍おいてから言った。
「あいつらとまた会えるときのために、俺達はがんばらなきゃならないんだ。また光子力研究所で、パーティーができるように」
「そうね。私も応援するわ」
甲児とさやかは、窓の外に広がるアメリカのどこまでも続く青い空を見ながらそう言って微笑みあった。
戦いが終わって数日がたち、のび太達はまた普通の小学生としての日々に戻った。数日前までは鉄人兵団の侵略の危機にさらされていたことが、ウソのようである。地球のほとんどの人達は、地球が危機にさらされていたことも知らずに、今日もいつものように生活している。ドラえもん達5人も、そんな生活の流れにとけこみつつあった・・・。
そんな平和な日々を象徴するような穏やかな日射しの午後。温かい太陽が輝く空を、一人のロボットがゆっくりとしたペースで飛んでいた。ドラえもんである。彼は自分の目指すところへとたどりついた。
「やっぱり!」
ドラえもんが目指していたところ。それは、のび太の学校だった。彼はのび太の帰りが遅かったので、気になって様子を見に来たのである。そののび太は教室の中、一人自分の机に座ってぼんやりと頬杖をついていた。ドラえもんは窓から中にはいると、彼に言った。
「遅いから気になって見に来たんだ。先生に叱られたんだろ」
「うん、このごろボンヤリして勉強に身が入ってないって。一人残って反省しろって」
のび太はたいしてそのことを気にしていないようなあっけらかんとした様子で言った。
「ははあ・・・リルルのこと、忘れられないんだろ」
のび太の心情を察し、ドラえもんが言った。図星を突かれ、のび太の顔が赤くなる。
「う・・・まあね・・・」
のび太はばつの悪そうな顔で、机の上に指で「の」の字を書き始めた。
「まあ、あんな大冒険だったからね。忘れろっていうほうが無理だよね・・・」
「うん。それに、甲児さん達のことも気になるんだ・・・。あのままDr.ヘルを倒して、平和を守ることができたかな・・・」
のび太は窓の外をぼんやりと眺めながら言った。
「甲児さん達は心配いらないよ。いつも前向きな人達だからね。どんな敵が来たって、あの人達ならきっとやっつけてくれるさ」
「そうだね・・・。でも、もう甲児さん達には会えないのかな・・・」
「うん・・・。もう一度次元乱流に飲まれて、運良くあの世界にたどり着くのを祈るしかないね、もう一度行こうとするなら。さすがにそれは無理かもしれないけど、これからも甲児さん達のことは思い出して、無事を祈ろうよ」
「うん・・・」
のび太はまだ窓の外を見つめている。
「アムとイムが改造されて三万年たって・・・メカトピアはどんな星に進化したかしら」
のび太はドラえもんに視線を戻してそう尋ねた。
「そりゃあすばらしい星に・・・天国みたいになってるだろ」
ドラえもんはその言葉を信じて疑わないように答えた。
「リルルは・・・。生まれ変わったかしら」
「たぶん・・・。そう信じようよ。それにね・・・」
ドラえもんは続けた。
「僕が最初に君と会った日、セワシ君が言ったじゃないか。「どんな道をたどっても、いつか必ず僕は生まれてくるんだ」って。きっとリルルも同じだよ。歴史の道は変わっても、きっとメカトピアで生まれて、いつかは僕達に会いに来ると思う」
「そうだね・・・僕もそう信じるよ」
ドラえもんの言葉に、のび太は大きくうなずいた。
「それじゃ、僕はまだやることがあるから・・・」
ドラえもんは頭にタケコプターをつけながら言った。
「先に帰ってるからね。道草食わないでね」
ドラえもんはそう言い残し、また窓から去っていった。一人残されたのび太は、再びぼんやりと物思いを始めた。
(リルル・・・天使のようなロボットに・・・)
リルルのあの時の言葉を、頭の中に再び思い浮かべる。
(もし生まれかわってたら、また地球に来てくれないかな・・・。スパイなんかじゃなく・・・観光旅行とか・・・)
のび太がぼんやりとそんなことを考えていた時だった。
「!!」
のび太は思わず席から立ち上がった。窓際にある彼の席の、真横の窓の向こうを、一人の少女が通り過ぎていった。
「きみ・・・!」
のび太がそう言った時、その少女は確かに、窓の向こうからのび太へ向けて、明るい笑みを見せた。
「リルル!!」
のび太は窓を開けて、空を見上げた。だが、その少女の姿はどんどんと空へ舞い上がっていき、そして・・・やがて見えなくなった。
「・・・」
のび太はしばらくの間、窓を開けたままぼんやりと空を見上げていた。だが、やがて顔を輝かせ、大きな声で叫んだ。
「間違いない! リルルだよ! 生まれかわったんだ!! 絶対にそうだ!!」
のび太は確信に満ちた声でそう叫ぶと、ランドセルを急いでひっつかみ、教室から、学校から飛び出していた。
「ハア、ハア、ハア!!」
息の荒くなるのもかまわず、彼は走り続けた。自分が見たものを伝えたいという感情から希望が体中に満ちて、疲れを感じないような気がする。そして彼は、目指す場所にたどり着いて叫んでいた。
「おーい!! おーい!!」
その声に気づき、いつもの空き地に集まっていたドラえもん、静香、ジャイアン、スネ夫は、空き地に入ってきたのび太を見た。そんな彼らに向け、のび太は大きく手を振りながら、希望に満ちた笑顔で彼らのもとへと走っていった。
完
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