〜ドラえもん のび太と異世界の盗賊〜


第11話


無秩序の中の奇妙な面々




イメージBGM:古代フィールド
 ドラえもん達は異常なジャングルの中を進んでいるうちに、ついに大きな滝のところまで到着した。

 ドラえもんが電車ごっこロープを回収すると、6人は疲れた体のまま、流れのすぐそばの岩棚までやってきた。そこで6人は、妙な違和感を感じる。その違和感の正体はすぐに分かった。

 6人は白く泡を立てている流れに捕まった、ふしくれだった木切れに注意をひかれた。それは、下ではなく上の方に運ばれていったのである。

 「わっわっわっ! こ、この滝、上に流れてるよー!」

 「一体どうなってるんだよここは!」

 「ここは常識ってものが無いのー!?」

 のび太、ジャイアン、スネ夫がわめき散らす。

 「…みんな、静かにして! 誰か来たわ」

 しずかが滝の向こう側を指差す。そこには、6人がいるのと同じような岩棚があった。そしてそこに、大きく膨れ上がった背負い袋を背負った人影がいくつか、ぼやっとだが見える。 彼らはどことなく、奇妙に非現実的なところがあるように見えた。

 6人が彼らを見ていると、その人影達は、岩棚から滝の水の中に身を躍らせ、滝をさかのぼって上の縁から向こう側に姿を消してしまった。

 「…あいつら、謎かけ盗賊の手下みたいだな」

 ダッパがつぶやく。するとスネ夫が崖を指差して言った。

 「それよりどうするの? 謎かけ盗賊の隠れ家って、この崖の向こうにあるみたいだよね? この崖、まともに登れそうにないよ。タケコプターは使えないし…」

 「そんなの決まってるじゃねえか。あいつらがやったみたいに、この滝に飛び込みゃ良いんだよ」

 「えーっ、この中に飛び込んだら、ボクじゃなくても溺れちゃうよ…」

 「テキオー灯の効き目はまだ続いてるのかしら? でも続いてたとしても、滝に飛び込んで運んでもらうのは、ちょっと危ない気がするわ」

 「そうだね。ここはぼくの道具で崖を登った方が良いね」

 そう言うとドラえもんは、ポケットに手を入れた。
(ドラえもん、ひみつ道具判定…大失敗)
 「重力ペンキ!…あっ!」

 ドラえもんはポケットから、液体の入った缶のような物を出した…が、それを、うっかりその場に落としてしまった。缶の中身がこぼれ出て、その一部がドラえもんの足にかかり、残りは6人の足元に広がっていった。

 「わっ! ドラえもん、何してるんだよ…」

 「靴がペンキまみれじゃないか…」

 「ご、ごめん…」

 ジャイアンとスネ夫に責められて、頭を下げるドラえもん。

 「この水は、どんな道具だったんだ?」

 ダッパが尋ねると、のび太が代わりに答えた。

 「これは重力ペンキと言ってね、塗った場所が下になるんだ。つまり壁や天井に塗れば、塗った場所に立ったり歩いたりできるって事。あーあ、もったいない…」

 「…ねえこれ、何だか変じゃない? ペンキにしては色が薄いし、あんまりベタベタしてないわ。まるで油みたい…」

 しずかの話を聞いて、ドラえもんは慌てて缶を確認する。それには、半円の矢印が2つ、円形になるように描かれており、その真ん中に小さな円が描かれていた。

 それを見たドラえもんの顔が青ざめる。

 「ま、間違えた…これは…」


グルリッ! ヒューーッ!


 「天地逆転オイルだったーー!!」

 「「「「「わあああああああ!!!」」」」」

 突然、6人はその場で逆さまになったかと思うと、目の前の滝のごとく、空の方へと落下し始めた。ドラえもんが間違えて出した道具、それは、触れると上下が逆さまになって空に向かって落ちていき、 さらに空中で元に戻って地面に叩きつけられるオイル・天地逆転オイルだった。

 「な、何なんだ、その天地何とかオイルってー!」

 「天地逆転オイルを浴びた物は、天と地がひっくり返って、今のボク達みたいに、空に落っこちるんだよー!」

 悲鳴を上げながら質問するダッパに、またのび太が答える。

 「説明してる場合かよー!」

 「こ、今度は下に落ちるわー!」

 「ドラえもんのせいだぞー! 何とかしろー!」

 ジャイアンの突っ込み、しずかの悲鳴、スネ夫の怒鳴り声が立て続けに響く。
(ドラえもん、ひみつ道具判定…成功)
 「ええと…あれでもないこれでもない…あったー! 助けて!」

 ドラえもんはポケットから、傘やらトイレットペーパーやらを次々と出した末、ようやく目当ての道具を出し、それに命令を出した。

 落下していく6人。すると突然、そこに大きな四角形を象ったロープが割って入った。次の瞬間、6人の体はまるで巨大なトランポリンの上に落ちたかのごとく、何かに柔らかく受け止められた後、 ポンと跳ね返り、崖の上に落ちた。

 ドラえもんが出した道具、それは世話焼きロープだった。ロープがその変形能力を生かして巨大なトランポリンになり、6人を受け止めて、崖の上に安全に弾いたのだ。

 「ふぅ…助かったぁ…」

 「何とか崖の上に登れたな…」

 のろのろと起き上がりながら、胸を撫で下ろすのび太とダッパ。

 「ドラえもんのせいで、死ぬところだったぞ〜!」

 「ド〜ジ〜え〜も〜ん…!!」

 「あわわわ…ほ、本当にごめん…」

 「2人ともやめなさいよ。喧嘩してる場合じゃないわ。崖の上には登れたんだし…」

 怒りに震えてドラえもんに迫るスネ夫とジャイアンを、しずかが何とかなだめる。

 6人は気を取り直し、滝を背にして前方を見た。

 そこには巨大な建物が立っている。様々な色の縞目が入った白大理石の宮殿だ。屋根から生えた松の巨木に、気球がロープで繋がれている。 宮殿には窓が無く、すぐ前から見事な柱で支えられた入口のところまで、大理石の階段が続いている。

 「これが、謎かけ盗賊の隠れ家なのかしら?」

 「間違いないぜ。あの気球は謎かけ盗賊のものだ」

 「隠れ家って言うよりは、大きな宮殿だな…」

 「ジャングルの奥に、こんな物があるなんて…」

 しずか達が宮殿に見入っている中で、のび太とドラえもんは近くの草の上に気を取られていた。

 そこでは、大人の腕ほどもある羽を持った大きな蝶が、子猫ほどの大きさしかない黄色いティラノサウルスを追いかけており、頭上を黒鳥が上下逆さまになって飛んでいくのだ。

 「わっ! でっかい蝶が、小っちゃな恐竜を追っかけてる! 鳥が逆さまに飛んでる!」

 「…のび太君、ここで見た物に突っ込むのはもうやめよう…きりがないから…」

 6人は先へ進もうと、大理石の階段に足をかける。すると…

 6人の目の前に、キラキラと色を変える煙がポンと上がったかと思うと、子供のような小柄な人物が姿を現した。

 その人物は、高い帽子をかぶり、格好の良い緑のスーツを着込んで、大きなバックルのついたピカピカの靴を履いている。

 彼は、見事な出来の緑のガラス瓶を3本使ってお手玉をするのに夢中で、ドラえもん達の事を無視している。

 「わっ! 何だこいつは!?」

 突然現れた何者かに驚くジャイアン。ダッパはその種族を知っていた。

 「…こいつはレプリコーンだな。出会った人に、魔法で妙なイタズラばかりしてる小人族だ。冒険者の中には、こいつらに酷い目に遭わされた人もたくさんいるって聞いた事がある」

 「ねえ、こいつも謎かけ盗賊の手下なのかな?」

 のび太がドラえもんにささやく。

 「多分そうだろうね。ここの門番なのかも知れないね」

 「でも、その割には私達に何もしてこないわね」

 「そうだね。さっきからお手玉ばっかりやってるし」

 スネ夫が呆れて言う。6人は警戒しながらも、階段を上ってレプリコーンに近付いた。するとレプリコーンは、お手玉をしながら話しかけてきた。

 「やあ、そこの君達。この家に何か用かい?」

 「オイラ達は謎かけ盗賊に用があってここに来たんだ。お前は謎かけ盗賊の仲間か?」

 ダッパが身構えながら尋ねる。レプリコーンはダッパの様子を気に止めずに答えた。

 「おいらはフィネガン・オディネガン。ここで侵入者を防ぐための警護の任務についてるんだ」

 「じゃあやっぱり、謎かけ盗賊の仲間じゃねえか。みんな、さっさとこいつをやっつけて、あの中に入ろうぜ」

 ショックスティックを構えるジャイアン。フィネガンは表情一つ変えずに答える。

 「おいおい、物騒な奴だな。おいらは別に、君達と争う気なんて無いぜ。それにおいらをやっつけても、あの宮殿には入れないぜ。鍵がかかってるし、あの扉はそこらの魔法で破れるような 代物じゃないからな。そんな事よりさ、おいら、この瓶でお手玉するのにもいい加減飽きてきてね、ちょっと休みたいんだよ」

 「ボク達にそんな事言われても…それなら、休めば良いじゃん」

 呆気に取られたのび太が答える。

 「いや、おいらが休んでる間、誰かおいらの代わりにお手玉をしてくれないかな、って思ってね。どうだい、君達のだれか、引き受けてくれないかな?」

 フィネガンの態度に戸惑いつつ、6人は顔を見合わせた。

 「…何なんだろう、こいつ。ぼく達は謎かけ盗賊と戦いに来たんだから、敵のはずなのに。やる気無いのかな?」

 「…大体、私達にいきなりお手玉を代わりにやれ、なんて言われても…」

 ドラえもんとしずかが首を傾げる。

 「…待てよ。あんた…フィネガンって言ったよね。僕達がお手玉を引き受けたら、僕達に何かくれるの?」

 スネ夫の質問に、フィネガンは少し考えてから答えた。

 「そうだな…引き受けてくれたら、君達が何とか中に入れる方法を考えてやるよ」

 フィネガンの答えに、6人はひそひそ話で相談を始めた。

 「…おいおい、こいつの言う事、信じて良いのかよ? こいつは一応、ここの門番なんだろ?」

 懐疑的な態度を取るジャイアン。

 「レプリコーンは気紛れな連中なんだ。こいつも別に、謎かけ盗賊に忠誠を誓ってるわけじゃないのかも知れないな」

 「でも、中に入る方法はあいつしか知らないみたいだし、引き受けるのも手かもね」

 腕組みしながらダッパとドラえもんが言う。

 「引き受けるにしても、誰がやるの? ボクはこういうの苦手だし…」

 「じゃあ僕がやろう。言いだしたのは僕だし、僕はこういうの得意だからね」

 「スネ夫さん、気を付けてね」

 スネ夫はフィネガンの前に出て、自分が引き受けると名乗り出る。

 「そうかい、じゃあ頼むよ。ほれっ!」

 フィネガンはスネ夫に瓶を投げ渡すと階段を駆け上がり、扉に向かって走り出した。
(スネ夫、手技判定…成功)
 「わっ!」

 スネ夫は驚きつつも、飛んできた3本の瓶を何とか受け止めて、お手玉を始めた。
(スネ夫、手技判定…成功)
 「ひょい、ひょい、ひょい…と」

 スネ夫は器用にお手玉を続ける。
(スネ夫、手技判定2回…2回とも成功)
 「ひょい、ひょい、ひょい…? 何だか重くなってきたような…ひょい…ひょい…ひょい…う〜」

 少しずつ瓶が重くなってくるのを感じるスネ夫だったが、何とかお手玉を続ける。だが、だんだん疲れてきた。その様子を心配そうに見つめるドラえもん達。

 スネ夫の手の限界が近付いてきた時、のび太が宮殿の方を見ると…

 「あっ、戻ってきた」

 「…やあ、おめでとう。君は器用だねえ。さあ、瓶をこちらに戻してくれ」

 フィネガンの言葉にホッとしつつ、スネ夫は瓶をフィネガンに投げ渡した。

 フィネガンはお手玉を交替しつつ、宮殿の扉を指し示す。扉は開いていた。

 「…約束は守ってくれたみたいだね」

 「良かった。これで中に入れるな」

 安堵するドラえもんとダッパ。

 「スネ夫のお手柄だね」

 「よくやったぜ、スネ夫」

 スネ夫の功績を誉めるのび太とジャイアン。

 「…フーッ、疲れた…でも、やった甲斐があった…」

 「ありがとう、フィネガンさん。さあみんな、行きましょう!」

 しずかの声と共に、6人は開かれた扉を通って、謎かけ盗賊の隠れ家へと入っていった。


イメージBGM:通常戦闘
 巨大な扉を抜けると、そこは奥行きのあるホールになっていた。床には手入れの行き届いた芝生が植えられ、真ん中に絵のように美しい井戸がある。 左右の壁にそれぞれ3つ、突き当りに1つ、蔦に覆われた扉がある。

 奥の扉のそばで、色とりどりの生物が5体、忙し気に働いている。壁に開いた穴に背負い袋の中身を投げ込んでいるのだ。6人がホールに入ると、彼らはこちらを向いた。

 それは人間型のゼリーのような怪物だった。妙な不気味さをかもし出しながら、彼らは威圧するように足を踏みしめ、唸り声を上げながら、両手を前に突き出して6人の方に歩いてきた。

 「「「「「ウオーゥ…」」」」」

 「な、何これ? 何だか気持ち悪いね…」

 気味悪がるのび太。しずかは滝で見かけた人影の事を思い出した。

 「私達が滝で見たのは、この人達のようね」

 「ねえ、僕達の方に向かってくるよ」

 スネ夫が警戒しながら言う。

 「これは、どう見てもオイラ達を襲う気だな」

 「おう、やってやるぜ!」

 「みんな、相手はどんな力を持ってるか分からない。気を付けて!」

 ドラえもんの叫びと共に6人は身構えた。まずはのび太達の射撃武器が火を吹く。
(のび太、射撃判定3回…3回とも成功、合成人間Aに命中)

バシュッ! バシュッ! バシュッ!


 のび太はショックガンを撃つ。人型生物はそれを受けて怯むも、1発では足りず、まだ前進してきた。だがのび太はさらに撃ち続ける。そして3発目が命中すると、人型生物は倒れた。
(ドラえもん、射撃判定…成功、合成人間Bに命中)

ドカンッ!


 ドラえもんは空気砲を撃つが、狙いがやや逸れたのか、人型生物の右腕をかすめた程度だった。ドラえもんは2発目を撃とうとしたが…

 「ドカン!…弾切れか!」
(ドラえもん、ひみつ道具判定…成功)
 ドラえもんは弾の出ない空気砲を捨てると、急いでポケットから新しい空気砲を出して装着する。そして、近付いてくる人型生物を撃つ。
(ドラえもん、射撃判定…成功、合成人間Bに命中)
 今度は見事に命中し、人型生物は吹き飛ばされて倒れた。
(スネ夫、射撃判定4回…4回とも成功、合成人間Cに命中)

バンッ! バンッ! バンッ! バンッ!


 スネ夫は空気ピストルをひたすら撃つ。幸い4発全て命中し、人型生物がまた1人倒れた。
(しずか、射撃判定3回…2回成功、合成人間Dに命中)
 「えいっ!」

 しずかもショックガンを3発連続で撃つ。1発目は外したものの、2、3発目は命中した。だが倒すには至らず、まだ前進してくる。
(スネ夫、射撃判定2回…1回成功、合成人間Eに命中)
 スネ夫はさらに、最後の1人に空気ピストルを1発命中させる。だがそちらも倒すには至らず、まだ前進してくる。

 「ここはオイラ達が!」

 ここでジャイアンとダッパが、残された2人の人型生物の前に立ちはだかり、それぞれ人型生物に殴りかかった。
(ダッパVS合成人間E 戦闘判定…ダッパの攻撃が命中)

ドカッ!


 ダッパのスーパー手袋による拳の一撃は、人型生物の腹部を見事に捕らえた。人型生物はその場で崩れ落ちた。
(ジャイアンVS合成人間D 戦闘判定2回…合成人間Dの攻撃、ジャイアンの攻撃がそれぞれ1回ずつ命中)
 ジャイアンは人型生物の顔面に、顔にめり込むほどの右パンチを決めた。だがジャイアンも同時に、人型生物の左パンチを喰らってしまう。

 「うぐっ!」

 クロスカウンター状態で立っていた2人だったが…やがて人型生物の方が崩れ落ちた。


イメージBGM:ボスダンジョン
 奇妙な人型生物達を全滅させた6人は、恐る恐る、倒れている生物達を調べてみた。

 「な、何なんだろう、これ。やっぱり気持ち悪いね…」

 「船の中にいた、キメラの剥製みたいなものかしら?」

 のび太としずかが言う。

 「魔法で作られたゴーレムの一種のようだな」

 「僕達を見て襲ってきたから、ある程度の知能はあるみたいだね」

 ダッパとスネ夫が分析する。

 「でもよ、こいつら、あんまり強くなかったな」

 「労働用に作られた人形で、戦闘には向かないのかもね。人間ベースみたいだし、合成人間、ってところなのかな」

 6人は、合成人間と名付けられた生物達の背負い袋を調べたが、中はもう空っぽで、中身に混ざって入ったと思われる、小石や白く小さな何かのかけらが少し残っているだけだった。

 合成人間達が袋の中身を放り込んでいた、壁に開いた穴は小さなハッチになっており、その下には「骨」と書かれた札が付いている。

 「骨? ま、まさかこの袋の中身って…骸骨?」

 「お、おいのび太、縁起でもない事言うな。もう骸骨はたくさんだぜ」

 「いや、骸骨かも知れないな。骸骨を集めて合成人間の材料にしてるのかも…」

 「じゃ、じゃあ僕達は、骸骨でできた化け物と戦ってたって事? ゾーッ…」

 ダッパの話を聞いて、顔が青ざめるスネ夫。

 「みんな、それよりも先へ進む事を考えよう。この扉が怪しいね」

 「…キャッ! これ、目玉が付いてるわ!」

 ドラえもんとしずかが言っているのは、ホールの突き当りにある扉の事である。それは、先ほどのハッチのすぐ隣にあった。

 この扉は他の6つの扉よりも大きく、金属製である。そして、取っ手が付いていない代わりに、真ん中に大きな目玉が付いていた。その下には「立ち去れ、俺は忙しい」となぐり書きしてある。

 6人が扉に近付くと、扉の目玉は動き始め、6人をじろじろと眺め始めた。そして突然、扉がキーキー声を上げた。

 「お前はご主人様ではない、お前はここに入れない!」

 「わっ、扉がしゃべった!」

 飛び上がるのび太。

 「この扉は、この目玉で謎かけ盗賊を見た時だけ、開くようになってるみたいだね」

 ドラえもんが目玉を見ながら言う。

 「野郎、俺達を通さないと、こうだぞ!」

 ジャイアンが目玉に殴りかかったが…

  ガンッ!

 「いって〜」

 目玉も鋼鉄並みに硬いらしく、自分の手を痛めただけだった。
(ドラえもん、ひみつ道具判定…成功)
 ドラえもんは通り抜けフープを出し、扉に取り付ける。だが通れなかった。

 「…ダメだ、この扉にも通り抜けフープが効かないみたいだ」

 「ドラちゃん、鍵を開ける道具は無いかしら?」
(ドラえもん、ひみつ道具判定…失敗)
 「そうだ、万能オープナー開けゴマを使えば…あれ? どこにやったかな…」

 ドラえもんはリンゴだのスルメだのを出しながら、目的の道具を探すが、見つからない。

 「…ドラえもん、これは謎かけ盗賊の隠れ家の扉だ。ひみつ道具で無理矢理開けられるとは思えないよ。それより、もう少しここを調べてみよう。何か方法が見つかるかも知れないし」

 「確かにその方が良いかもね。みんな、ここを調べよう」

 ダッパの提案にドラえもんも賛同し、6人は今いる階を調べる事にした。


 6人はまず、ホールの真ん中にある、美しい井戸に目をつけた。

 「綺麗な井戸ね」

 「これって、ただの井戸なのかな? 何か仕掛けがしてあるかも知れないね」

 ドラえもんが井戸を眺めながら言う。

 「ねぇ、これってもしかして、お金か何かを投げ入れたら、願い事が叶うって奴じゃないの? どこかでそんなおとぎ話を聞いた事があるよ」

 「のび太、いくら何でもそれは無いだろ。もしそうだとしても、謎かけ盗賊の事だから、逆の願いが叶うかも知れないだろ」

 「願いの井戸の伝説は、みんなの世界にもあるんだな。オイラも聞いた事はあるけど、本物に出会える事は殆ど無いって話だな」

 のび太とスネ夫の話を聞いたダッパはそう言うと、井戸の中を覗き込んだ。

 「…この井戸は底無しだな。アイパッチを付けてるオイラの目でも、底が全然見えないや」

 「せっかくだから、何か放り込んでみようぜ。何か起きるかも知れねえだろ」

 ジャイアンはそう言うと、合成人間の背負い袋から出てきた小石を拾い上げ、井戸の中に放り込んだ。

 そしてジャイアンは、しばらく井戸を覗き込みながら待ったが、何も起きない…と思われたが…

  ゴチンッ!

 突然、ジャイアンの後頭部に、何か硬い物がぶつかるような痛みが走った。

 「痛てっ! だっ、誰だ、俺に何かぶつけたのは!」

 怒るジャイアンだったが、当然、5人とも身に覚えは無い。するとスネ夫が、ジャイアンの足元に小石が落ちているのを見つけた。

 「あれ? ジャイアン、これって、さっきジャイアンが投げた石じゃない?」

 「? そう言えばそうだ。何でこんなところに…」

 「!? もしかして…みんな、ちょっと井戸から離れて」

 ドラえもんはみんなを井戸から少し離すと、先ほどの小石を拾って、井戸に投げ入れた。

 「ドラえもん、何してるの?」

 「いいからちょっと見てて」

 のび太の質問に答えずに、その場で待つドラえもん。すると…

  ヒュン…

 「「「「「!?」」」」」

 井戸の上から先ほどの小石が落ちてきて、再び井戸の中に落ちていった。

 「やっぱり! この井戸に投げ入れた物は、上からまた落ちてくるんだ!」

 「じゃあタケシさんの頭にぶつかったのは、タケシさんが自分で投げた石だったって事?」

 「そういう事になるね」

 そんな話をしていると、また小石が上から出て、井戸の中に落ちた。今度はいきなり天井に穴が開き、そこから小石が出てきた後、穴が元通りに塞がる様子を確認できた。

 「…こんな物、何の手がかりにもならないな」

 「ダッパの言う通りだぜ。くだらねえもん作りやがって!」

 ジャイアンは怒りに任せて井戸を蹴っ飛ばした。

 井戸を放置する事にした6人は、ホールの左右の壁にある、計6つの扉を試す事にした。

 だがその前に、ドラえもんは先ほどの戦闘で空気砲が弾切れした事を思い出し、武器の弾切れが近いのび太とスネ夫に、予備の武器を渡しておく事にした。
(ドラえもん、ひみつ道具判定2回…2回とも成功)
 「のび太君には…衝撃波ピストルにしよう。スネ夫には…瞬間接着銃があるな」

 ドラえもんは空気砲のように空気の塊を放つ銃・衝撃波ピストルと、強力な瞬間接着剤を放つ銃・瞬間接着銃をポケットから取り出し、2人に渡した。

 そして6人は相談した結果、まずはホールに入って右側の壁の、右側の扉を開けた。


イメージBGM:通常戦闘
 扉を開けて部屋に入った途端、6人は奇妙な光景を見る事になった。

 円盤状の体をして、その中央に大きな顔があり、体の4方向に短い手が生えていて、そのうちの2本を足代わりにして立っている不気味な怪物が3匹おり、彼らが哀れな人間の男を痛みつけていた。

 手足を縛られ、猿轡を噛まされた男は、6人の目の前で、2匹の怪物の手で空中に放り上げられる。と同時に、残り1匹が「表!」と叫んだ。

 男は膝から地面にドスンと落ち、2匹の怪物が歓声を上げる。そして怪物達は、足元に置かれた金貨の取引を行う。

 そのうちに怪物達はドラえもん達に気付き、しかめっ面をして6人の出方を見ている。

 「な、何やって…って、何この化け物、変な格好…アハハ…」

 「本当だ。まるで皿に顔書いて、手を4つくっつけたみたいだ。アハハ…」

 「まるで幼稚園児の落書きみたいな奴らだな。ガハハ…」

 のび太、スネ夫、ジャイアンは、最初は目の前で行われている行動に驚くも、怪物達の奇妙な姿を見て、口々に好き放題な事を言って笑い出した。

 「この人達、この人を使って賭け事をしてたみたいね。何て酷い事を…」

 「変な連中だけど、こんな事してるのを放っておけないね」

 怪物達と縛られた男を交互に見て、しずかとドラえもんが言う。

 「何だこいつら。いきなり入ってきておいて、オレ達を馬鹿にするわ、オレ達のゲームにいちゃもんつけるわ…」

 「ふん。このガキ共とタヌキに、礼儀ってものを教えてやるか!」

 「そろそろゲームにも飽きてきたところだ。こいつらでちょっと楽しんでみるか!」

 3体の怪物はそう言うと、足代わりに使っていた2本の手で、左右に跳ね回り始めた。

 「こいつらは円盤人だ。短剣を投げるのと、素早く転がって動き回るのが得意な奴らだ」

 ダッパの説明が終わったところで、円盤人達は腰に差していた2本の短剣のうち、1本を抜いて、6人目掛けて同時に投げてきた。
(円盤人3人、短剣命中判定(命中率50%)…3人とも失敗)

ビュンッ!!


 「わっ!」

 だが幸い、短剣は3本ともドラえもん達の足元か横の壁に突き刺さっただけだった。

 「チッ、外れかよ」

 「だが、今度は外さねえぞ」

 「覚悟しやがれ、ガキにタヌキ!」

 円盤人達は再び跳ね回りながら、もう1本の短剣を抜いた。

 一方ドラえもんは、ポケットの中に手を入れていた。
(ドラえもん、ひみつ道具判定…成功)
 「ヒラリマント! みんな、ぼくの後ろに隠れて!」

 ドラえもんは自分に向かってくる物を逸らしたり、跳ね返したりできるヒラリマントを取り出すと、仲間達を自分の後ろに隠れさせる。

 円盤人はドラえもん目掛けて、一斉に短剣を投げつけた。だがドラえもんは怯まず、叫び声を上げながらヒラリマントを前方に突き出した。

 「ぼくはタヌキじゃなーい!」
(ドラえもん、回避判定3回…3回とも成功)
 円盤人達が投げた短剣は、ドラえもんの突き出したヒラリマントによって全て逸らされ、全て壁や床に突き刺さった。

 「な、何だ今のは!?」

 「短剣が逸れやがったぞ!」

 「てめえ、何しやがった!」

 動揺する円盤人達。ドラえもんはさらに敵を挑発する。

 「まとめてかかって来い、皿の化け物!」

 「言ったな! タヌキの化け物!」

 挑発に乗った円盤人達は同時に横を向き、一斉に転がってドラえもん目掛けて突進してくる。
(ドラえもん、回避判定3回…3回とも成功)
 だがドラえもんは、ヒラリマントのひと振りで、3匹の突進をまとめて跳ね返してしまった。突進を跳ね返された3匹は、そのままの勢いで元の位置まで転がり、 コントロールを失って衝突する事でやっと止まった。

 「野郎!」

 「何なんだあの布は!」

 動揺しながらも立ち上がる円盤人達。

 「やい、皿の化け物! おとなしくその人を渡せ! そうすれば危害は加えない!」

 ヒラリマントを構えながら円盤人達に命じるドラえもん。だが円盤人達の態度は変わらなかった。

 「せっかくの玩具を、てめえらなんかにやるかよ!」

 「妙な布持ってるからって、調子に乗るんじゃねえ!」

 「こうなりゃ、オレ達とこいつらで賭けをしようぜ。戦って勝った方が、負けた方の持ってる物を全部いただくんだ!」

 円盤人達は再度、左右に跳ね回り始め、少しずつ接近しようとする。どうやらドラえもん達を撹乱するつもりらしい。

 「それじゃあ仕方がないね。みんな、撃てー!」

 ドラえもんの合図と共に、のび太、スネ夫、しずかが前に立ち、射撃攻撃を始める。
(のび太、しずか、射撃判定…2人とも成功 円盤人A、Bにそれぞれ命中)
 のび太としずかのショックガンが2匹の円盤人に命中し、怯ませた。

 「やったわ!」

 「どんなもんだい!」
(スネ夫、射撃判定2回…1回成功 円盤人Cに命中)
 スネ夫は空気ピストルを2連射する。1発目は外れるものの、2発目が命中して敵を怯ませる。

 「何だこいつら、妙な魔法使いやがる!」

 「みんな、手を変えるぞ! 魔法使われる前に、1人ずつ突っ込むぞ!」

 「よっしゃ!」

 円盤人は再び横を向き、一斉に転がって、3匹それぞれが、前に立っているのび太達3人を狙う作戦に切り替えた。
(のび太、しずか、射撃判定…2人とも成功 円盤人A、Bにそれぞれ命中)
 のび太達3人は怯まずに一斉射撃を行う。のび太としずかのショックガンが再び2匹の円盤人に命中し、敵は後ろに弾かれて辛うじて着地する。

 だがスネ夫はそうもいかなかった。空気ピストルから弾が出なかったからだ。

 「バン!…!? バン!…!?」

 弾切れを悟り、慌てるスネ夫。円盤人はどんどん向かってくる。

 だが円盤人の前に、ドラえもんがヒラリマントを持って立ちはだかる。
(ドラえもん、回避判定…成功)
 突進してきた円盤人は、再びドラえもんのヒラリマントで跳ね返された。

 「…た、助かった…」

 スネ夫は安堵すると、弾切れした空気ピストルを外し、左手に持っていた瞬間接着銃を右手に持ち替える。

 また最初の位置に戻った円盤人達だが、まだ諦める気配は無い。

 円盤人達はまた突進してきた。再度ショックガンとヒラリマントを構えるのび太、しずか、ドラえもん。

 だが円盤人達は、3人の予想に反した行動に出た。

 「えっ!?」

 「!?」

 「そんな!?」

 床の上を走っていた円盤人達は急に突進の軌道をずらし、何と部屋の壁を走り出したのである。

 円盤人達はそのままドラえもん達の後ろに回り込むと、その場で一度跳ねてから体勢を整え、後ろに立っていたスネ夫、ジャイアン、ダッパ目掛けて突進してきた。

 だが3人は動揺しつつも、咄嗟にそれぞれの方法で対処した。
(スネ夫、射撃判定…成功 円盤人Aに命中)

バシャッ!


 「うわっ! な、何だこりゃ!?」

 スネ夫が発射した瞬間接着銃は見事に円盤人の1人に命中し、その場で敵の動きを止めてしまった。

 「どうだ!」
(ジャイアン、槍判定…成功)

ズビビビビビッ! ドンッ!!


 ジャイアンはショックスティックを低めに構え、突進してくる円盤人に向かって突き上げた。

 ショックスティックの先端は円盤人の側面に正確に命中し、円盤人に電撃を浴びせて黒焦げにする。さらに円盤人は突き上げられた反動で逆方向に転がっていき、部屋の壁に激突してから倒れた。

 「見たか、皿野郎!」
(ダッパ、剛力判定…成功)

ガシッ! ブウンッ! ガツンッ!


 ダッパは突進してきた円盤人を、スーパー手袋の怪力を生かして、正面から受け止める。そして両手で持ち上げると、スネ夫の瞬間接着銃で動けなくなっていた円盤人に叩きつけた。

 2匹の円盤人は同時に倒れた。

 「やった!」


イメージBGM:ボスダンジョン
 円盤人を片付けた6人は、部屋の隅に転がっている男の縄と猿轡を説いた。だがその男は、助けてもらった事に感謝する気配も無く、ぶつぶつと数字をつぶやいたかと思うと、 部屋の隅でうずくまってしまった。

 「な、何だよ。助けてやったのに…」

 腹を立てるジャイアン。しずかは悲し気に男を見ながら言う。

 「酷い目に遭わされて、気が変になったんだわ。可哀想に…」

 「ドラえもん、何とかしてこの人を助けられないかな? このままにしておくのはあまりにも可哀想だよ」

 「オイラからも頼むよ。このまま放っておいたら、またこの家にいる奴らが、この人に酷い事するかも知れないし」

 のび太とダッパに懇願されるも、ドラえもんは頭を悩ませる。

 「ぼくも何とかしたいけど、心の問題は難しいんだよね…うーん…」

 「何か無いの? 気持ちを明るくする道具とかさ」

 「…!!」

 スネ夫の言葉にドラえもんは心当たりがあるのか、急いでポケットの中を探り始めた。
(ドラえもん、ひみつ道具判定…成功)
 「ハッピープロムナード!」

 ドラえもんは、広げてその上を通ると、気持ちが明るくなる、並木道の模型のようなシート・ハッピープロムナードを出す。

 「この上を歩くと、明るくて愉快な気持ちになるんだ。さ、その人をこの上で歩かせよう。でも、逆方向に歩くと暗くなるから気をつけて」

 それを聞いたのび太達は男を立たせようとするが、男は全く動こうとしない。

 「おい、動けよ! 俺達はあんたを助けてやろうとしてるんだからよ!」

 「タケシさん、無理矢理動かそうとしてもダメよ。余計に怖がらせるだけだわ」

 「でもこれじゃキリがないし…あっそうだ! ダッパ、スーパー手袋でこの人を運びながらプロムナードを渡るってのはどう?」

 「そうだな。強引だけど、仕方ないか…」

 スネ夫の提案に賛同し、男に近付くダッパ。するとドラえもんがそれを止めた。
(ドラえもん、ひみつ道具判定…成功)
 「…待った! やっぱりこの人自身に歩いてもらおう。これもちょっと強引な手だけどね…心吹き込みマイク!」

 ドラえもんはポケットから、相手にやらせたい事を言うと、それが相手の心に吹き込まれて、相手に実行させる事ができるマイク・心吹き込みマイクを取り出した。

 のび太はドラえもんからマイクを借りると、早速男の心に吹き込みを始めた。

 「立ち上がって、これの上を渡りたい…立ち上がって、これの上を渡りたい…」

 「…!?…」

 男は、最初は吹き込まれても少し動いただけで、すぐにまたうずくまってしまったが、何度も吹き込んでいるうちに、フラフラと立ち上がり、やがてドラえもん達と共にプロムナードを渡り始めた。

 「…あ…ああ…何だか楽しくなって…!?…わ、わしは何を…そうだ、あの化け物達に捕まって…!?」

 プロムナードを渡り終えるや否や、男は正気を取り戻した。

 ドラえもん達は男にこれまでのいきさつを話した。話を聞いた男は自分の素性を明かす。男はとある農村に住んでいたバーナバスという名の農民だったが、戦争に巻き込まれて村を失い、 1人さまよっているところをあの円盤人達に捕らえられ、ここに連れてこられて、玩具のように扱われていたのだという。
(ドラえもん、ひみつ道具判定2回…2回とも成功)
 ドラえもんはさらに、お医者さんカバンで彼の傷を癒し、着せ替えカメラでぼろぼろの服を修復した。

 「あ、あ、ありがとう。わしを助けてくれたばかりか、傷も服も治してくれるなんて…」

 バーナバスはドラえもん達に心から感謝した。

 「でもドラえもん、この人これからどうするの? ここに置いたままじゃ危ないしさ、外に出しても、この辺りはトカゲ兵とかいるから危ないし…」

 スネ夫の疑問はもっともだった。するとのび太が、ある事を思いついた。

 「うーん…せめてカラメールに連れて行ってあげられれば…あっそうだ! ドラえもん、どこでもドアを使おうよ! 一度行った事のあるカラメールなら、どこでもドアで行けるよね!」

 「そうか! その手があったか!」

 ドラえもんはそう言いながらポケットに手を入れたが…ここで思いとどまった。

 「どうしたの、ドラちゃん?」

 「ここで使うのはまずいな。謎かけ盗賊の隠れ家では、外に出る類の道具は使えないかも知れないからね。さっき、通り抜けフープが使えなかったし。一旦外に出よう」

 ドラえもんの提案で、6人はバーナバスを連れて外に出る事にした。

 ホールに戻ると、隠れ家の入口は開いたままであり、一行は何事もなく隠れ家の外に出る事ができた…


 原作「謎かけ盗賊」との設定の相違

 ・原作では、崖の上に登るには、上に流れる滝に飛び込むしかない。

 ・原作の合成人間は半透明であり、内部に使われている人間の骨格が透けて見える。

 ・円盤人との戦闘は、原作では戦闘開始時に1回だけ短剣投げ攻撃が来た後、通常の戦闘に移る。

 ・原作では、円盤人の被害者に正気を取り戻させる事はできない。男の名前や元農民という設定は、このプレイのみの設定である。


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