〜ドラえもん のび太と異世界の盗賊〜


第14話


取り戻すための戦い




イメージBGM:通常戦闘
 「ハーラン! ハーランじゃないか!」

 「ボク達が倒した鎧を…着てたのが…ハーランだったなんて…」

 「やっぱり…謎かけ盗賊に…さらわれてたんだね…」

 「どういう事だよ…何で、あんな格好してんだよ…」

 「ハーランちゃん…どうして…」

 「ハーランは…僕達の敵に…なっちゃったの…?」

 ドラえもん達が倒した鎧の中から出現した人間型生物、それは何と、ミノタウロスのハーランだった。

 だがハーランの姿は、6人が知るハーランとはかなり異なっていた。やや小さな頭が、本来の頭の左右に1つずつ存在し、真ん中の頭は黄色い目をしていて、口からは長い舌が伸びている。体はトカゲのような硬そうなウロコに覆われ、 尻尾の先端はトゲの付いた棍棒のような形状をしている。それでも6人がハーランだと分かったのは、3つの頭のうち、真ん中の頭がハーランそのものだったからである。

 ハーランはゆっくりと6人の方へと歩いてきた。左右の頭の目が赤く光り、続いて真ん中の頭の目が黄色く光る。

 ダッパはハーランに駆け寄った。

 「ハーラン、どうしたんだよ? オイラだよ、ダッパだよ。忘れたのか? 一緒にご飯食べたり、敵と戦ったりしたじゃないか! ハーラン!」

 ハーランに呼びかけるダッパだが、ハーランは全く動じず、鳴き声さえ上げずに前進し、ダッパの前で止まる。そして、真ん中の首を後ろに小さく反らせて、長い舌を口の中に引っ込めた。

 「ダッパ、危ない!」

 のび太が叫んだ。のび太はジャングルでのトカゲ兵との戦いで、この動作を目撃した事があった。
(ドラえもん、のび太、射撃判定…2人とも成功。ハーランに命中)
 ハーランが今まさに、引っ込めた舌をダッパ目掛けて突き出そうとした時に、ドラえもんの空気砲とのび太の衝撃波ピストルが同時に発射された。どちらも命中し、ハーランを怯ませた。

 「ハーラン!」

 「ダッパ君、ダメだ!」

 ハーランに駆け寄ろうとするダッパを、ドラえもんが引き止める。

 「ダッパ君、ハーランはきっと、謎かけ盗賊に操られているんだ。今近付いたら、君がハーランにやられる!」

 「そんな。ハーランはオイラ達の仲間じゃないか。オイラに、仲間と戦えって言うのか!?」

 「分かってる。でも今は危険だ。今はハーランの動きを止めて、その間にハーランを元に戻す方法を探すんだ!」

 「……分かった。ドラえもんならきっとできるよな? オイラはドラえもんを信じるよ!」

 ドラえもんの説得に、ダッパは渋々引き下がった。

 「スネ夫!」

 「分かってるよ、ドラえもん!」
(スネ夫、射撃判定…成功。ハーランに命中)
 スネ夫は前に出ると、ハーランの足元に瞬間接着銃を浴びせた。ハーランの足は一瞬で動かなくなった。
(ドラえもん、ひみつ道具判定…成功)
 「もう一度これを食べさせれば…」

 ドラえもんはポケットから桃太郎印のきび団子を取り出し、3つほどハーランに投げつける。だがハーランは、きび団子を見向きもしなかった。

 「き、きび団子が効かない!?」

 驚くドラえもん。そうしている間に、ハーランは力ずくで固まった接着剤を破壊してしまった。パワーも以前より増しているらしい。
(スネ夫、運試し判定…凶)
 再度、瞬間接着銃を撃とうとするスネ夫。だがハーランはスネ夫の方を向くと、黄色い目を突然光らせた。その目を直視したスネ夫は、銃を持ったまま動けなくなってしまった。

 「!? か、体が…」

 「まずい!」
(のび太、しずか、射撃判定…のび太は大成功。ハーランに命中)
 のび太はしずかと共に射撃攻撃に出た。しずかのショックガンは外れたが、のび太の衝撃波ピストルはハーランの真ん中の顔面を直撃し、ハーランは後ろへ弾き飛ばされ、地面に投げ出された。

 「!? 体が動くぞ!」

 体の自由が戻ったスネ夫は、急いでハーランから離れた。

 「…でもドラえもん、どうするの? きび団子が効かないんじゃ、元に戻しようが無いじゃん…」

 スネ夫が困った顔で言う。

 「…困ったな。せめて、どうにかして動きを止められたら…」

 ここでのび太が、ある事を思いついた。

 「…そうだ! ドラえもん、かるがる持ち運び用紙は、まだあるかな?」

 「持ち運び用紙? あと3枚くらいはあるはずだけど…」

 「ハーランをかるがる持ち運び用紙に閉じ込めて、しまっちゃうのはどうかな?」

 「なるほど! でも、うまくハーランを誘わないと…」

 「…ねえドラちゃん、ヒラリマントを貸して。私が囮になるわ」

 「だ、ダメだよしずかちゃん! そんな危険な事…それだったらボクが囮になるよ!」

 「のび太さんは射撃が得意だから、もしもの時に、ハーランちゃんを止めて欲しいの。お願い」

 「…分かったよ。いざとなったら、ボクがきっとしずかちゃんを助けるから」

 「…お、お前ばっかり格好つけるなよ。僕だって…」

 そんな話をしている間に、ハーランがダメージから回復し、起き上がって迫ってきた。どうやらダメージからの回復も早くなっているらしい。
(ドラえもん、ひみつ道具判定…成功)
 「ヒラリマント!…しずかちゃん、気を付けて…」

 「ええ。ありがとう、ドラちゃん」

 ドラえもんからヒラリマントを受け取ったしずかは、ヒラリマントを構えながらハーランの前に出た。やや離れた位置から、のび太とスネ夫も銃を構える。
(しずか、回避判定…成功)
 突然、ハーランの右の頭がしずか目掛けて腐食性のネバネバ液を吐きかけてきた。だがしずかはヒラリマントでそれを逸らす。
(スネ夫、運試し判定…吉)
 続いて真ん中の頭が、再び黄色い目を光らせる。だがスネ夫は、咄嗟に目をつぶって催眠術を避けた。
(のび太、運試し判定…吉)

バババババッ!


 さらに左の首が、歯がたくさん生えた口を開いた。すると口から複数の歯が抜けて、のび太の方へ飛んでいく。だが狙いが甘いのか、のび太は何とかかわす事ができた。
(しずか、回避判定…成功)
 しずかはヒラリマントをパタパタと動かしてハーランを誘う。ハーランはそれに誘われて突進するも、しずかのヒラリマントに逸らされてしまう。

 「今だっ!」
(スネ夫、射撃判定…成功。ハーランに命中)
 スネ夫はその隙に、ハーランに瞬間接着銃を浴びせて動きを封じる。そしてのび太達はハーランから離れる。
(ドラえもん、ひみつ道具判定…成功)
 ドラえもんはその間に、新しいかるがる持ち運び用紙を出し、地面に敷いた。

 ハーランは再び接着剤を破って自由になった。
(しずか、運試し判定…吉)
 しずかはヒラリマントをヒラヒラさせてハーランを誘う。ハーランは再びそれに誘われて突進し…地面に敷かれた持ち運び用紙の上に乗り、そのまま吸い込まれた。

 「やったわ!」

 「みんな、早く用紙を丸めるんだ!」

 ドラえもんが叫ぶと、のび太とスネ夫が急いで駆けつけて、ドラえもんと3人で用紙を筒状に丸めて押さえ込んだ。だが…


ビリビリビリッ!!


 「「「うわああぁぁっ!!」」」

 何と、ハーランは内側から用紙を突き破って外に出てきてしまった。用紙を押さえていたドラえもん、のび太、スネ夫がまとめて蹴散らされる。


 一方、まだ倒れたまま戦いを見ていたジャイアンは、ショックスティックを杖にして立ち上がろうとしていた。そこへ、近くにいたダッパが駆け寄る。

 「ジャイアン、無理するな!」

 「うう…みんなが大変だって時に、休んでられるかよ…」
(ドラえもん、運試し判定…吉)
 「こ、このままじゃみんながやられる…オイラにできる事は無いのか…!? これは…」

 ダッパは足元に落ちていた物に気付き、拾い上げた。

 「そうだ、これを使えばもしかしたら…ジャイアン、これはどうやって使うんだ?」

 「?…それは、このスイッチを押せば使えるが…そんな物どうすんだ?…歌なら俺に歌わせ…じゃねえや、歌ってる場合なんかじゃ…」

 その頃、ハーランはようやく立ち上がったドラえもんに近付き、黄色い目を光らせた。ドラえもんはその目を直視してしまう。

 「!? う、動けない…」

 動けないドラえもんに迫るハーラン。だがその時…

 「やめるんだ、ハーラン!」

 「……!?」

 ダッパの叫びと共に、動揺したかのように動きを止めるハーラン。

 「ハーラン! オイラ達は、お前の仲間じゃないか!」

 「……」

 ハーランは動揺した様子のまま、ダッパの方へと振り向いた。

 「…! 体が動く…」

 金縛りから解放されたドラえもん。そこへしずかが駆け寄り、のび太とスネ夫もそれに続く。

 「ドラちゃん、大丈夫?」

 「ぼ、ぼくは大丈夫だけど…」

 「ハ、ハーランが…ダッパの声を聞いてる…?」

 「そんな…さっきは聞かなかったのに…!? ねえ、ダッパが持ってるのって…」

 スネ夫がダッパを指差す。ダッパは右手に、あるひみつ道具を持っていた。

 「あれは…ぼくが間違えて出した、心吹き込みマイクだ!」

 そう。ダッパが拾ったのは、ドラえもんが間違えて出し、そのまま投げ捨てた心吹き込みマイクだった。ダッパはそれを拾ったが、マイクの使い方を知らなかったため、ジャイアンに尋ねたのだ。

 「…そうか! 心吹き込みマイクは、やらせたい事を相手の心に吹き込む道具。あれを使えば、相手の心に訴えかける事もできるかも知れない!」

 力説するドラえもん。そうしている間にも、ダッパはハーランに呼びかけ続けていた。

 「ハーラン、オイラ達、カラメールの港で初めて会ったんだよな。お前は売り物にされるはずが、泥棒に盗まれて、賭け事の道具にされて…それをオイラ達が連れ出したんだよな…」

 「……?!……」

 ハーランはその場に立ったまま、真ん中の頭を抱え始める。まるで何かを思い出そうとしているかのように…

 「でもオイラ達は、犯人に追い詰められて…それをハーラン、お前が助けてくれたんじゃないか…」

 「……」

 「その後お前は倒れちゃって、それをドラえもんの薬で治したんだよな。そのおかげで、それまでお前を苦しめてた毒も治ってさ…」

 「……フモ…」

 ハーランの黄色い目から黄色い色が消え始め、本来の白と黒の目に戻っていく。そして、ハーランは両手を下ろし、ダッパの方へとゆっくりと歩いていく。

 「ハーラン、思い出してくれたのか!?」

 「フモ……!? フモー!!」

 その時突然、ハーランが苦しそうな鳴き声を上げ、頭を抱えてうずくまった。

 「!? どうしたんだ、ハーラン!?」

 するとハーランは再び立ち上がり、ダッパに走り寄ると、ダッパの襟を掴んで持ち上げた。ハーランの目は、再び黄色くなっていた。

 「うぐっ! ハーラン…」

 「……」

 ハーランはダッパを左手で持ち上げたまま、右腕を振り上げる。

 「…まずいよ、このままじゃダッパが殺されちゃうよ! やっぱり、ハーランを元に戻すなんて無理なんじゃないの!?」

 スネ夫がわめき散らす。だがのび太はそれを否定した。

 「…違うよ。見てよ、ハーランの目を…」

 ハーランの目を見るスネ夫達。その目は黄色いままだったが、そこから涙が流れていた。

 「…ハーランちゃん…泣いてる…」

 「…どうすれば…!? あれは…」

 ドラえもんはハーランの右の頭の目が、赤く光っている事に気付いた。

 「もしかしたら、あの2つの頭が、ハーランが正気に戻るのを邪魔しているのかも知れない…」

 一方、ハーランは振り上げた右腕を震わせていたが、やがてダッパを殴ろうと、右腕を後ろに引いた。

 「…ハーラン…ダメなのか…」

 諦めかけるダッパ。だがそこへ、ドラえもんの叫びが届く。

 「ダッパ君、諦めるな! もっとハーランに呼びかけるんだ!」

 「!…ハーラン! やめろ!」

 ダッパの叫びと、ハーランが右拳を突き出したのはほぼ同時だった。そしてハーランの拳は…ダッパの目の前で止まっており、そして震えていた。

 「ダッパさん、ハーランちゃんは2つの頭に操られてるの! ハーランちゃんだって、あなたにそんな事したくないのよ! だからハーランちゃんを応援してあげて!」

 しずかの叫びに、ダッパはハーランの、左右の頭を見た。左右の頭の目は、赤く点滅している。

 「ハーラン、頑張れ! そんな奴らになんか負けるな! そんな奴らの言う事なんか聞くな!」

 「……フモ……」

 するとハーランは、ダッパを掴んでいた左手を離した。そして真ん中の頭を抱えながら後退する。

 ダッパの心吹き込みマイクから、わずかだが煙が立ち昇っている。この世界での弱体化による影響か、マイクに限界が近付いているようだ。だがダッパは構わずハーランに呼びかけ続ける。

 「そうだハーラン、港で会ってからずっと、お前はオイラ達の仲間だったじゃないか! オイラ達と一緒にキメラや大うつぼ葛と戦った事もあったじゃないか!」

 「…フモ…フモー…」

 「スネ夫、今のうちにハーランの足を…!」

 ドラえもんの叫びと共に、スネ夫はハーランの足元に瞬間接着銃を発射した。
(スネ夫、射撃判定…成功。ハーランに命中)

バシャッ!


 接着剤はハーランの足に命中し、ハーランはその場から動けなくなった。

 「今だ、のび太!」

 「分かってる! あの頭を狙うよ!」

 のび太はスネ夫の合図と共にハーランの前に回り込み、衝撃波ピストルを2連射する。狙うはハーランの左右の頭である。
(のび太、射撃判定2回…2回とも成功。ハーランの左右の頭に命中)

ボンッ! ボンッ!


 のび太の正確な射撃は見事にハーランの左右の頭の、眉間を直撃した。

 「…フモモモモー!!…」

 左右の頭を攻撃されたハーランは一瞬動きを止めたかと思うと、両手を左右に広げた。そして…


バキッ!!


 両手で自分の左右の頭を、同時に殴りつけた。殴られた左右の頭の目から、赤い光が失われる。そして真ん中の目からは、黄色い色が失われた。


イメージBGM:ボスダンジョン
 「…フモー…」

 ハーランは両手を下ろし…そして、その場に倒れ込んだ。

 「ハーラン!」

 「フモー…」

 ダッパが駆け寄り、ハーランの真ん中の頭を抱きかかえる。ハーランは涙を流しながら笑顔を浮かべていた。そして…目を閉じた。

 「ハーラン! そんな…ハーラン!」

 そこへドラえもん達も駆け寄った。
(ドラえもん、ひみつ道具判定…成功)
 ドラえもんはお医者さんカバンを出してハーランの容態を診る。

 「大丈夫。気絶してるだけだよ…でも、このままにしておいたら、薬で傷を治したら、またこの頭に操られるかも…」

 それを聞いたのび太達は絶望感に襲われる。

 「そんな…せっかくオイラ達の手で、ハーランの心を取り戻せたと思ったのに…」

 「それじゃあ、僕達のした事は、無駄だったって言うの?」

 「冗談じゃねえぜ…ドラえもん、何とかしろよ…」

 「でも、どうしたら良いのかしら…」

 その時、のび太がある事をつぶやいた。

 「この2つの頭さえ無ければ…せめて、2つの頭が無かった頃に戻せたら…あっ!」

 「「それだ!!」」

 のび太とドラえもんが同時に叫んだ。
(ドラえもん、ひみつ道具判定…成功)
 「タイムふろしき!」

 ドラえもんはポケットから、包んだ物の時間を操る事で、古くしたり、新しくしたりできるふろしき・タイムふろしきを取り出した。

 ドラえもんは早速、ハーランの体の上にタイムふろしきをかけた。

 「ダッパ、これで物を包むと、包んだ物だけ、時間がさかのぼるんだ。前に話したよね? 首長竜の卵の化石を、これを使って元の卵に戻したって…」

 「時間が戻る?…つまり、ハーランがこんな姿になる前の姿に戻せるって事か?」

 「その通り! ちょっと時間がかかるかも知れないけどね」

 のび太とドラえもんの説明が終わると、6人は固唾を呑んでハーランの様子を見守った。ほんの数分間の待ち時間が、6人にとっては長く感じられた。そして…

 「!? ハーランちゃんが…」

 ハーランの体に変化が訪れた。まず、ハーランの左右の頭が小さくなっていき、やがて無くなった。体を覆っていた硬い鱗も消えていき、長い舌も短くなっていき、トゲの付いた棍棒のような尻尾も元に戻っていく。

 やがてハーランは完全に元の姿に戻った。そして…

 「…フモ…」

 ハーランは目を覚ました。

 「ハーラン!」

 「フモモー!」

 ダッパはハーランの頭を抱きしめた。ハーランも嬉しそうな鳴き声を上げる。

 「やったぁーっ!!」

 「良かったぁ、良かったぁーっ!!」

 ドラえもんとのび太の歓声が響く。

 「良かった…良かったわね…ううっ」

 「ああ…本当に良かったぜ…」

 「ハーランが元に戻ったんだね…」


(ドラえもん、ひみつ道具判定…成功)
 6人はしばらく喜んだ後、ドラえもんのお医者さんカバンとメカ救急箱で傷を癒す事にした。お医者さんカバンの薬はあと4つしか残っていなかったため、のび太、スネ夫、ジャイアン、 ダッパの4人に使ったところで品切れとなった。

 「ごめんね、しずかちゃん。もう薬は残っていないんだ」

 「気にしないで、ドラちゃん。私は別に怪我なんてしていないから」
(ドラえもん、ひみつ道具判定…成功)
 「いや、怪我が無くても、しずかちゃんだって疲れてるだろ。だから代わりにこれを使おう。ケロンパス!」

 ドラえもんはポケットから、貼るとその人の疲れを吸い取り、それを他の人に移す事も可能な湿布薬・ケロンパスを出し、しずかに渡してその効果を説明した。

 「ありがとう、ドラちゃん」

 しずかは礼を言うと、ケロンパスを使用して疲れを取った。

 ドラえもんはさらに、まだ残っていたハーランの餌の魚を残り全部出した。ハーランは喜んでそれを食べる。

 「…あれ? ねえドラえもん、これって無生物指揮棒じゃない?」

 スネ夫が周囲に散らばっていた鎧の機械部品のうち、やや大きめの物を持ってきた。その機械には棒状の何かが刺さっている。その棒は確かに、謎かけ盗賊に盗まれた無生物指揮棒だった。

 「でも、何であの鎧の中に無生物指揮棒が入ってたんだろう?」

 のび太が不思議がる。

 「…もしかしたら、謎かけ盗賊はこの指揮棒の、無生物を操る力を鎧に組み込む事で、あんなに重い鎧でも素早く動かせるようにしたのかも知れないね」

 ドラえもんは指揮棒を、ダッパに返してもらった心吹き込みマイクと共にポケットにしまった。マイクは煙を吹いており、もう使えそうになかった。

 そしてドラえもんは、廊下の奥の扉を見ながら言った。

 「…さて、あんなに強い番兵をここに置いていたって事は、謎かけ盗賊はあの扉の先にいると見て間違いないね…」

 「…ついにここまで来たのね…」

 「…これが、僕達の最後の戦いになるんだよね…」

 「…ボク達の手で、謎かけ盗賊をやっつけて、振り子を取り戻すんだ…」

 「…謎かけ盗賊の野郎、今度こそぶん殴ってやるから、首洗って待っていやがれ…」

 「…ハーラン、何が起きるか分からないけど、最後までオイラ達と一緒に戦ってくれるか?」

 「フモー!」

 ダッパの質問に対し、ハーランは元気な鳴き声を上げて頷いた。

 「さてと、戦いの前に準備をしておこう。戦ってる間に武器が弾切れしたら大変だし、みんなに予備の武器を渡しておくよ」

 ドラえもんはそう言うと、ポケットに手を入れて中を探り始めた。
(ドラえもん、ひみつ道具判定6回…5回成功)
 「ショックガンはもう無いか…空気砲も今使ってる奴しか無いし…こんな事になるなら補充しとけば良かったな…しずかちゃんには竜巻ストローを渡しておこう…ジャイアンにはマジックハンドが良いかな… スネ夫には名刀電光丸があるな…ダッパ君には無敵ホコとタテ全自動式があった…のび太君には強力うちわ風神が…あれ、見つからないな…コエカタマリンがあるけど…これでも無いよりはマシだな…」

 しずかには、小さな竜巻を作り出し、様々な使い方ができる、渦巻き状のデザインのストロー・竜巻ストローを渡す。

 ジャイアンには、はめると離れた場所にある物を掴んだり殴ったりできる手袋・マジックハンドを渡す。

 スネ夫には、レーダー内蔵で自動的に使用者の腕を動かして敵を殴り倒す刀・名刀電光丸を渡す。

 ダッパには、装備すると自動で動く、鋼鉄も貫くとされる矛と、あらゆる攻撃を防ぐとされる盾のセット・無敵ホコとタテ全自動式を渡す。

 最後にのび太には、飲んで大声を出すと、その言葉がカタカタ文字の形の塊となって飛んでいく液体の薬・コエカタマリンを渡す。

 「そうそう、これも使っておこう」

 ドラえもんはさらに、1枚の巻物も出した。「トゥワイス・シャイ」号でなぞなぞを解いて手に入れた、魔法の巻物の最後の1つ・失った運勢を取り戻すツキの巻物である。

 ドラえもんが巻物を読み上げると、巻物から光の粒が発せられて6人に降り注ぎ、巻物は白紙になった。どうやら効果を発揮したらしい。

 こうして戦いの準備を終えた6人は、緊張しながら奥の扉へと向かっていった。



 鉄の扉には小さな格子窓が開いている。扉に近付くと、大勢が声を合わせてゆっくりと、しかししっかりと詠唱しているのが聞こえてくる。

 格子窓から中を覗くと、そこは削り取ったままの壁で囲まれた巨大な洞窟になっている。

 100を超える松明が右に左に振られるに連れ、炎がゆらゆらと揺れて洞窟の壁を照らし出す。それらの松明は、一心不乱に洞窟の奥の方を見つめている、合成人間の群れが手にしている。 詠唱に合わせて松明が振られるのだが、その詠唱は、奥の指揮台の上から聞こえるドクンドクンと打つ音に調子が合っている。

 指揮台の上に見えるのは、奇怪な儀式を取り仕切っている謎かけ盗賊その人だ。彼の背後を流れる溶岩から、炎がぼうっと上がる。指揮台の前には、澄んだ水をたたえた穏やかな水たまりがある。謎かけ盗賊の両側には、 溝彫りが施された巨大な柱が立ち、キラキラと魔法のような輝きを放っている。

 謎かけ盗賊の前方には”運命の振り子”が浮かんでおり、それがドクンドクンという音を発していた。謎かけ盗賊がそれに向かって大げさな身振りをすると、ドクンドクンという音がさらに大きくなる。

 「おい…謎かけ盗賊の奴、何やっていやがるんだ?」

 ジャイアンが皆に尋ねると、スネ夫がそれに答える。

 「ジャイアン、あれは儀式だよきっと。”運命の振り子”を破壊するためのね」

 「間違いないな。でも”運命の振り子”は、自分を壊そうとする謎かけ盗賊の力に抵抗してるんだ。オイラには分かるよ」

 「このドクンドクンいう音がそうなのね…」

 「でも、このまま儀式が続いたら…」

 のび太の言葉にドラえもんが頷く。

 「うん。そのうちに振り子は破壊されるね。そうなれば、この世界の善と悪は滅茶苦茶になる…」

 ドラえもんの言葉に、6人に緊張が走る。6人はその場で作戦会議を始めた。


 「……まずは振り子を取り戻そう。相手は謎かけ盗賊だ。最初の作戦がうまくいく保証はない。これが失敗したら、次の作戦に出る。こちらはみんなにかなり苦労をかける事になるけど、やってくれるかい?」

 「もちろんだぜ!」

 「良いわ、やりましょう!」

 「僕達に任せてよ!」

 「オイラ達なら大丈夫さ!」

 「フモー!」

 「ボク達みんなで、振り子を取り戻すんだ!」

 全員の賛同を受け、ドラえもんは行動を開始した。
(ドラえもん、ひみつ道具判定…成功)
 「取り寄せバッグ!」

 ドラえもんはポケットから、遠くにあるものを手元に取り寄せるハンドバッグ・取り寄せバッグを取り出した。ドラえもんの最初の作戦は極めて単純なもので、これで振り子を遠くから奪い取る事だった。

 ドラえもんは早速取り寄せバッグを開き、”運命の振り子”を取り寄せようとする。バッグに手を入れると、謎かけ盗賊の目の前にドラえもんの手が現れ、振り子を手に取った。

 「!?」

 突然の事態に、謎かけ盗賊の動きが止まる。だが謎かけ盗賊はニヤリと笑い、右手の指をパチンと鳴らした。

 ドラえもんは振り子を手にして、バッグの中から手を抜いた。いや、そのはずであったが…

 「…!? ギャア〜!!」

 何と、ドラえもんがバッグから出したのは1匹のネズミだった。驚いたドラえもんは思わずネズミから手を離す。ネズミはそのままバッグの中へと落ちていき、そのままバッグを通して謎かけ盗賊の目の前に落ちた。 そして、元の”運命の振り子”に戻った。

  ガチャッ…キイイィィ…

 動揺した6人の前で、閉じていた扉が自動的に開いた。

 「……アーッハッハッハッハッハッ…ついにここまで来てしまったか、子供達よ。元の世界に帰る手段は置いていってあげたというのに。まあ、お人好しな君達なら、 この”運命の振り子”を取り戻しに来るのではないか、とは思っていたがな…」

 甲高い笑い声を上げながら、謎かけ盗賊は入口にいるドラえもん達に大声で呼びかける。

 ドラえもん達は仕方なく、洞窟に入って身構える。

 「謎かけ盗賊、”運命の振り子”を取り戻しに来たぞ!」

 「ハメット先生の仇…ハーランをあんな目に遭わせた報い…受けてもらうぞ!」

 「俺達をさんざんコケにしやがって…俺様をここまで怒らせたからには、覚悟はできてるんだろうなあ!」

 のび太、ダッパ、ジャイアンが、謎かけ盗賊を指差しながら叫ぶ。

 「……アーッハッハッハッハッハッ…ここまで来られた事は褒めてやろう。だがこの私と、この数の下僕達を相手に、たった6人…おや、そこのミノタウロスは変異魔法場で私の下僕にしたはずだが…そうか、元に戻されてしまったか… そいつも含めて6人と1匹か…たったそれだけで、何ができる?」

 謎かけ盗賊の声と共に、100人以上の合成人間達が松明を棍棒のように構え、前進を始めた。


イメージBGM:ボス戦闘
 「ふん。鉄人兵団の時にくらべれば、こんな数、どうって事ないぜ…」

 ジャイアンがつぶやく。
(ドラえもん、ひみつ道具判定…成功)
 「何ができるか、これから見せてやる!…バショー扇!」

 ドラえもんはポケットから、台風や吹雪等の様々な風を発生させ、その持続時間もタイマーで指定できる、大きな葉っぱのような扇・バショー扇を取り出すと、それをひと振りした。すると…


ゴオオオオオ…!!


 前方に小型の台風らしきものが現れ、合成人間の真ん中の群れとゆっくりと前進して、たちまち数人の合成人間を巻き込み、ある程度進んだところで静止した。

 「グオオオオオーーーー!!」

 合成人間達の悲鳴が響く。小型とはいえ、十数人巻き込めるだけの大きさはある。動揺した合成人間達に対し、ドラえもんはさらにバショー扇を振るが、今度は何も起こらなかった。どうやら、この世界におけるひみつ道具の弱体化の影響らしい。

 だがドラえもんは、ある程度予想していたのか、あまり動じずにバショー扇をポケットに戻し、再びポケットに手を入れる。
(ドラえもん、ひみつ道具判定2回…2回とも成功)
 「次はこれだ…マネキンと材質変換機とビッグライト!」

 ドラえもんは立て続けに3つの道具を出した。ただし、最初に出したのはひみつ道具ではなく「トゥワイス・シャイ」号で見つけたガラスのマネキンである。残り2つは、片方は材質変換機、 もう片方はスモールライトに似ているが、スモールライトとは逆に物を大きくする光を出す道具・ビッグライトである。

 ドラえもんはマネキンを合成人間の右側の群れの方へと向けて立たせ、次に材質変換機の光を当て、最後にビッグライトの光を当てた。マネキンはみるみるうちに大きくなり、 洞窟の天井にギリギリ頭をぶつけない程度の大きさになった。

 「合成人間達をやっつけろ!」

 ドラえもんの隣にいたスネ夫が命じると、マネキンはゆっくりと歩き出し、合成人間達に拳を振り下ろして攻撃を始めた。


ドシンッ! ドシンッ! ドカッ! ドカッ!


 「ウォォォーーーー!!」

 再び合成人間達の悲鳴が響いた。合成人間達は松明で殴りかかるも、巨大マネキンにはほとんど効果がない。外見こそガラスのままだが、今やマネキンの体は、材質変換機によって鋼鉄に強化されているのだ。 体が鋼鉄になっても、マネキンの動きはガラスの時と変わらなかった。

 「戦力にならないと思ってたけど、玩具でもちょっと改造して、ビッグライトででっかくすると、役に立つんだなあ」

 感心するスネ夫。だが人工台風や巨大マネキンがカバーできる範囲には限界がある。まだ止まらず前進してくる合成人間は大勢いる。
(ドラえもん、ひみつ道具判定…成功)
 「ようし…ハーラン、大変だけど、君の出番だ。SL煙突!」

 ドラえもんは今度は、頭に乗せて石炭と水を入れると、蒸気機関車のような力強いパワーとスピードが出る煙突・SL煙突を出した。

 ドラえもんはそれをハーランの頭にセットした。

 「フモモモモー!!」


ボオオオーーーッ!!


 煙突から煙と汽笛の音が吹き出したかと思うと、ハーランは力強く合成人間の左側の群れへと突進していき、合成人間達を蹴散らし始めた。

 人工台風、巨大マネキン、SL煙突を装備したハーラン。これらの活躍によって合成人間達をかなり減らす事はできたものの、それでも合成人間は半分以上残っており、これらのカバーできる範囲 をかいくぐって、残りの群れがまだ前進してくる。


 「ようし、俺達も負けていられないぜ!」

 ジャイアン、スネ夫、しずかも前に出て、それぞれの武器で攻撃を始める。
(ジャイアン、素手戦闘判定4回…4回とも成功。合成人間達に命中)

ドカッ! バキッ! ボコッ! ガンッ!


 ジャイアンはマジックハンドで遠くからひたすら拳を繰り出した。その度に離れた場所にいるはずの合成人間達が殴られ、怯み、やがて倒れていく。
(スネ夫、射撃判定2回…1回成功。合成人間に命中)

バシャッ! バシャッ!


 スネ夫も瞬間接着銃を撃つ。接着銃の射程の短さを計算し損ねて、1発は外すも、1発は命中させて敵の動きを止める。

 だが横から、合成人間の1人がスネ夫に迫ってきた。
(スネ夫VS合成人間 戦闘判定…スネ夫の攻撃が命中)
 「わっ!」

 スネ夫は慌てて振り向き、接着銃を撃つ事に成功した。敵は松明を振り上げた体勢のまま固められる。
(スネ夫、射撃判定…成功。合成人間に命中)
 スネ夫はさらに、その合成人間の後ろにいた、別の合成人間にも攻撃を命中させ、動きを止めた。
(ダッパ、剛力判定4回…4回とも成功。合成人間達に命中)

ビュウン! ドカッ!


 一方、飛び道具の無いダッパは周囲を見回し、ハーランや巨大マネキンにやられて吹っ飛んできた、動かない合成人間を数体見つける。そちらへと走っていくと、その合成人間をスーパー手袋の怪力で投げ飛ばし、 他の合成人間にぶつける戦法に出た。

 この戦法はそれなりに有効だったが、4人投げたところで、怪力が出なくなってしまった。スーパー手袋はもう使えないらしい。

 「…くっ! もう使えないか…」

 ダッパはこの戦法を諦め、近くに置いていた無敵ホコと無敵タテ全自動式を装備する。
(しずか、射撃判定4回…4回とも成功。合成人間達に命中)

バシュッ! バシュッ! バシュッ! バシュッ!


 しずかもショックガンを連射し、合成人間達に命中させていく。

 「のび太さん、ドラちゃん、今のうちに…お願い…」

(ドラえもん、ひみつ道具判定…成功)
 巨大洞窟の中は小さな戦場と化していた。その戦乱の中、ドラえもんとのび太は、合成人間達の隙間をかいくぐって進んでいた。彼らが合成人間達に発見される事は無かった。

 彼らは頭に、鍔の無い灰色の帽子をかぶっていた。それは、かぶると石ころのように周りに気にされなくなり、姿を消しているかのように行動できる帽子・石ころ帽子である。

 ドラえもん達の次の作戦とは、ジャイアン達やハーラン、巨大マネキンが合成人間達と派手に戦い、その混乱に乗じて、石ころ帽子で存在を消したドラえもんとのび太が、謎かけ盗賊に接近、振り子を奪い取る事だった。

 姿を消すならば、身につけると透明人間になれる、かくれマントという道具もあったのだが、謎かけ盗賊が相手では、ただ透明になるだけでは誤魔化しきれない恐れがあるため、より確実と思われる石ころ帽子を使用したのだ。

 一方、謎かけ盗賊は右手に振り子を持ったまま、指揮台の上からこの乱戦を、楽しそうに見物していた。

 「ハッハッハッ…これは面白い…私の玩具でここまでの事ができるとは…だが、相手から奪った戦力を、自分の戦力として利用できるのは、君達だけではないのだよ」

 謎かけ盗賊はそうつぶやいて振り子を足元に置くと、服の中から、かつて振り子を奪うのに使用した黄金の球を取り出した。すると球から、ライフル銃のような物を持った太い腕が出てきて、その場にライフルを落とすと、 また球の中に引っ込んだ。

 謎かけ盗賊は球を服の中に戻すと、ライフルを拾い上げ、巨大マネキンに向けて引き金を引いた。


ビビビビビビビ…!!


 たちまちライフルから熱線がほど走り、巨大マネキンの頭部に命中した。怯む巨大マネキン。謎かけ盗賊はさらに熱線を連射し、相手の頭部を集中攻撃する。

 「あっ、あれは…熱線銃!」

 「えっ! それって確か、前にドラえもんがネズミ退治に使おうとしてた奴!?」

 驚くドラえもんとのび太。謎かけ盗賊が使用しているライフル銃は、鉄筋コンクリートのビルを一瞬で煙に変えるほどの威力があるとされる武器・熱線銃だった。

 「で、でも、ドラえもんの道具を、どうして謎かけ盗賊が!?」

 「多分、”運命の振り子”を盗んだ時に、無生物指揮棒やハーランと一緒にあれも盗んだんだろう。急ごう。あの人形は頭の中の光で動くんだ。あのままじゃ、やられる!」

 ドラえもんとのび太は先を急ぐ。

 一方、謎かけ盗賊はひたすら巨大マネキンの頭部を攻撃し続けた。この世界では弱体化するとはいえ、元が強力な武器であるだけに、その威力は絶大だった。巨大マネキンの鋼鉄の装甲も、その熱線までは耐え切れず、頭部の熱線を浴びている部分が溶けていき、穴が空いていく。

 そしてついに、熱線が巨大マネキンの、頭の中の光を直撃した。次の瞬間、巨大マネキンは動きを止める。そして…


グラッ…バッターン!!


 巨大マネキンは横向きに倒れてしまった。だが不幸中の幸いか、地上にいた合成人間達が10人ほど、倒れた巨大マネキンの下敷きになって潰された。

 謎かけ盗賊は、熱線銃がエネルギー切れを起こし、もう熱線が出なくなった事を確認すると、銃を捨てた。

 「ハッハッハッ…彼らがこんな素晴らしい武器まで持っていたとはな…ん?…そういえば、あの2人の姿が見えないな…まさか…」

 謎かけ盗賊はドラえもんとのび太の姿が無い事に気付き、両手の指を同時にパチンと鳴らした。

 ドラえもんとのび太は、謎かけ盗賊の立つ指揮台のすぐ横にまで接近する事に成功した。周りに合成人間はいない。

 「今のうちだ。あの振り子をノビールハンドで…」

 ドラえもんはその隙に、謎かけ盗賊の足元に置かれた”運命の振り子”を奪おうと、ポケットに手を入れる。だが…


ビュンッ! ビュンッ!


 謎かけ盗賊は突然、ドラえもん達のいる方を向いたかと思うと、服の中から短剣を2本取り出し、電光石火の早業でドラえもん達目掛けて投げつけた。短剣はドラえもん達を直撃する事は無かったが、 2人がかぶっている石ころ帽子が切り裂かれてしまった。

 「あっ! 石ころ帽子が!」

 「そんな! ボク達がいる事、バレてたの!?」

 たちまち周囲から、存在を認識できるようになってしまった2人。合成人間達の一部も、2人の存在に気付いた。

 「ハッハッハッ…そんなところにいたか…」

 2人の姿を確認し、不敵に笑う謎かけ盗賊。

 「ぼく達がいた事がバレてたなんて…」

 「謎かけ盗賊には、石ころ帽子も効かないのか…」

 石ころ帽子を破られて動揺するドラえもんとのび太。すると謎かけ盗賊は笑いながら答えた。

 「ハッハッハッ…君達は少し誤解しているようだな。実は私も、君達の姿は、その帽子が破れるまでは見えなかった。いや、正しくは、見えていたのに気付かなかった、と言うべきか…」

 「「!?」」

 「その帽子は、姿を消す道具ではなく、気配を完全に隠すか、存在感を完全に消すかして、存在を気付かせなくする道具と見た。確かに姿を消されるよりも、見えるのに気付かなくされる方が厄介だな。だが私は、”魔芸”によってそれを破ったのだ」

 「「マゲイ!?」」

 「そう。魔芸だ。私のような、一部のロガーンの使いのみが使える、小さな魔法の一種だよ。最初に君達が振り子を奪おうとした時に使ったのも、魔芸の一つだ」

 「…そうか、あの時…」

 ドラえもんは、取り寄せバッグで奪おうとした”運命の振り子”がネズミに変化した事を思い出した。

 「今、私は二つの魔芸を使った。一つは一時的に勘を鋭くする魔芸、もう一つは一時的に手先の器用さを高める魔芸だ。これにより、見た目は何も無いが、怪しいと感じた場所を狙って攻撃した、というわけだ」

 謎かけ盗賊が魔芸について説明している間にも、合成人間の群れが2人に少しずつ迫ってきた…


 原作「謎かけ盗賊」との設定の相違

 ・前作で破壊した変異魔法場には、中に入った生物に、7話に登場した変異トカゲ兵と同じ変異を起こさせる効果があり、このプレイでのハーランも、これで様々な変異をさせられたという設定だが、原作の変異魔法場で生み出される変異には、ダメージからの回復を早くするというものは無い。また、頭を増やす変異はあるが、増えた頭に心を支配されるという事は無い。

 ・原作のツキの巻物は、読んだ本人にしか効果がない(小説には直接関係しないが)。

 ・原作では、巨大洞窟の前に門番はいない。

 ・原作の巨大洞窟の水たまりは、指揮台と同じ高さにあり、”運命の振り子”は水たまりの上の空中に浮かんでいる。

 ・原作では、謎かけ盗賊が魔芸を使えるという設定は無い。原作では、最終決戦での謎かけ盗賊の能力については「謎かけ盗賊は非常に手強い敵なので、状況を掌握し、まとまった行動を取る 余裕を与えると、あっという間に主人公達を打ち負かしてしまう」「捕まったが最後、主人公達が生き延びるチャンスはまず無い、謎かけ盗賊に可能性という文字は無い」「謎かけ盗賊は 並みの手段で戦う事のできる相手ではない」と書かれているだけで、具体的な事は特に記載されておらず、事実上ゲームマスター任せになっている。 ちなみに魔芸とは、本来はファイティング・ファンタジーシリーズのあるゲームブックの主人公・喉切り道化師(謎かけ盗賊と同じ、運と偶然の神ロガーンの使者であるが、こちらは盗賊や暗殺者を兼ねた道化師)が使用する能力である。


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