〜ドラえもん のび太と異世界の盗賊〜


第16話


運命の勝ち目を弾き出せ




イメージBGM:ボス戦闘
 「うわっ! 来るなっ! あっち行けっ!」

 地龍を倒したドラえもん達がその声に振り向くと、何とか台風に巻き込まれる事は回避できたスネ夫が、ガーク達から逃げ回っていた。

 スネ夫はヒラリマントを両手で持ちながら逃げているが、マントはこれまでに多用した事で傷んでおり、あと何回の使用に耐えられるか分からない。

 逃げ回るのに必死なスネ夫の頭には、腰に差した電光丸を抜くという選択肢は無かったようだ。

 「スネ夫! よし、俺が…」
(ジャイアン、素手戦闘判定2回…2回とも成功。ガークAに命中)

ドカッ! バキッ!


 「ガアアッ!?」

 ジャイアンはマジックハンドによる攻撃を連続で繰り出し、棍棒を持ったガークを怯ませる。

 「のび太、あの薬をオイラ達にも!」

 「あの薬って…あっ、あれか!」

 のび太はダッパの言った薬の意味を理解し、彼にそれを渡した。
(のび太、射撃判定2回…2回とも成功。ガークAに命中)
 「ワッ!! ワッ!!」

 のび太も声の塊を放ち、棍棒を持ったガークに追い討ちをかける。
(ダッパとハーラン、射撃判定2回…2人とも2回とも成功。ガークBに命中)
 「ヤッ!! ヤッ!!」

 「フモー!! フモー!!」

 のび太からコエカタマリンをもらって飲んだダッパとハーランは、のび太の見よう見まねで声の塊を放ち、斧を持ったガークに次々と命中させていく。

 「「ガアアアァァッ!!」」

 横からの連続攻撃を喰らい、怒ったガーク達はジャイアンの方へと突進してきた。だがそこへ、のび太達3人が一斉に声の塊を放つ。
(のび太、ダッパ、ハーラン、射撃判定…のび太、ダッパは成功。ガークAに命中)

ガンッ! ゴンッ!


 「ガアアッ!」

 ハーランは外したが、のび太とダッパの声が棍棒を持ったガークに命中し、ガークはその場に倒れて粉に戻った。

 斧を持ったガークはジャイアンの方へと突進してくる。
(ジャイアンVSガークB 戦闘判定…ジャイアンの攻撃が命中)
 「こいつは任せろ!」

 ジャイアンは敵の斧に怯まず、ショックスティックを突き出す。


ズビビビビビッ!!


 スティックは敵の胸に命中し、敵は電撃を受けて粉に戻った。

 そしてスティックの電撃が急に途絶えた。どうやら電池切れらしい。ショックスティックは、電撃無しでは突いても殴っても痛くない、全く役に立たない武器に成り下がる。 ジャイアンはスティックを捨てる。


 「これで三下どもは全部倒したぜ!」

 「後は謎かけ盗賊だけだね!」

 勝利は目前とばかりに意気込むジャイアンとスネ夫。しかし…
(しずか、回避判定…失敗)
 「キャーッ!!」

 「しずかちゃん!」

 突然上がった悲鳴にのび太が振り向くと、突然現れた金色の球が、しずかを跳ね飛ばしていた。

 「フッフッフッフッフッ…まだ私がいます…」

 黄金の球はしずかから離れた位置で、宙に浮かびながら声を出したかと思うと、淡く光りながらその姿を人型に変化させる。

 そして光が消えると、そこには1人の大男の姿があった。

 「あ、あなたは…あの時の魔神さん?…ううん、似てるけど違うわ…」

 その姿は、「トゥワイス・シャイ」号でドラえもん達が出会った、衣装ダンスの魔神に似ていた。ただし、こちらは頭にターバンを巻いており、全身が金色だった。

 「私は謎かけ盗賊様に仕える黄金の魔神。私はご主人様の命令さえあれば、戦う事も可能なのです…」

  バチバチバチ…

 両手を青白い電撃状の光に包みながら、しずかに歩み寄ってくる魔神。

 しずかは急いで立ち上がると、竜巻ストローで魔神に小型竜巻を放つ。
(しずか、射撃判定…成功。魔神に命中)

ブウン!


 小型竜巻は正確に魔神を直撃すると思われたが…

 「フッフッフッフッ…」

 魔神は平然と笑いながら立っていたかと思うと、体を半透明に変化させる。小型竜巻は魔神を直撃し…そのまますり抜けてしまった。

 「フッフッフッ…私は実体を別次元に移す事ができるのです。私を傷つけられるのは、特別な魔法のかけられた武器だけなのです」

 魔神は説明しながらしずかに迫る。

 「しずかちゃんが!」
(ジャイアン、素手戦闘判定…成功。魔神に命中)
 それを見ていたジャイアンは、マジックハンドで魔神を攻撃する。
(のび太、射撃判定…成功。魔神に命中)
 のび太も声の塊を放つ。だがどちらも、魔神にすり抜けられてしまった。

 しずかはさらに竜巻ストローを使おうとするも、もう竜巻は出なかった。出たとしても、魔神には効かなかっただろうが。

 「……いや…来ないで…」

 怯えながら後ずさりするしずか。だが魔神は歩み寄ってくる。その時…
(しずか、運試し判定…吉)
 「フッフッ…!? ぐああああーっ!」

 不敵に笑いながら歩いていた魔神が、突然動きを止めて苦しみ出した。

 「今だ! アッ!!」

 「フモー!!」
(ダッパ、ハーラン、射撃判定…ハーランが成功。魔神に命中)
 ダッパとハーランが声の塊を放つ。ダッパの声は外れたが、ハーランの声は魔神に命中し、魔神を跳ね飛ばした。

 「効いた!? どうして?」

 驚くドラえもん。しずかも驚いて倒れている魔神を見る。そして魔神の前方に落ちている、小さな物体に気付いた。

 「あれは…」

 それは白い立方体であり、上の面に黒い点が4つ描かれていた。側面にも複数の黒い点が描かれている。

 「うぐぐ…まさか、それを持っていたとは…おのれ…」

 魔神は目の前に落ちている物体を眺め、動揺しながら立ち上がる。物体は突然、砕け散った。

 「しずかちゃん、今のうちに!」

 ドラえもんの叫び声を聞いて、しずかは慌ててその場を離れ、やって来たドラえもん達と合流する。

 「あの魔神、急に力を無くしたみたいだわ」

 「ようし、あいつは俺が相手をしてやる。ドラえもんとのび太は、謎かけ盗賊をぶっとばせ!」

 「分かった。行こう、のび太君!」

 「うん。ジャイアン、気を付けて」

 ドラえもんとのび太は謎かけ盗賊の方へと向かった。

 「ジャイアン、あいつをやっつけるなら、これを持ってってよ」

 「これもまだ使えるぞ」

 「おう。後は任せろ、心の友よ」

 スネ夫とダッパは自分の武器をジャイアンに差し出した。ジャイアンはそれらを受け取り、右手に無敵ホコ、左手に電光丸を装備すると、ようやく体勢を立て直した魔神に突進した…


 指揮台の前まで来たドラえもんとのび太。謎かけ盗賊は2人に背を向けたまま、一人で詠唱しながら儀式を続けている。指揮台の左右の柱が、魔法の光を放っている。

 「のび太君、あの柱が、儀式に必要な魔力を謎かけ盗賊に与えているんだ。あの柱を狙おう!」
(のび太、射撃判定…成功。右の柱に命中)
 「ようし! ワッ!!」

 のび太は声の塊を放つ。塊は右の柱に命中したが…

  カンッ…

 軽く弾かれてしまった。

 「コエカタマリンじゃダメか…もっと強力な武器は…」

 ドラえもんはポケットの中を見ながら、強力な武器を探す。
(ドラえもん、ひみつ道具判定…成功)
 「…あった! ジャンボガン!」

 ドラえもんは、戦車を一発で吹き飛ばすほどの威力があるとされるリボルバー式拳銃・ジャンボガンを取り出した。

 「それって確か、前にドラえもんがネズミ退治に使おうとしてた…」

 「うん。理論上は戦車を一発で吹き飛ばす威力がある武器だよ。いくらこの世界では効き目が弱まるといっても、柱を壊すくらいの威力は出るだろう」

 「…ドラえもん、熱線銃もそうだけど、そんな強力な武器があるなら、何でもっと使わないの?」

 「そ、それは…こんな強力な武器を、むやみに使うのは危険過ぎるし、未来の法律に引っかかる恐れがあるから、普段はポケットの奥深くにしまってるんだよ。これだけ強力だと、 弾丸の値段だってバカにならないし」

 「そんな危険な武器を、たかがネズミ相手に使おうとしたんだ?」

 「…四の五の言ってる場合じゃない! 早くそれで柱を壊すんだ!」

 強引に話を切られつつ、のび太はジャンボガンで柱を狙う。
(のび太、射撃判定2回…1回成功。右の柱に命中)
 のび太は右の柱に狙いを定め、引き金を引く。その後、今度はすぐに左の柱を狙う予定だったが…


ズバンッ!!


 「うわあっ!」

 1発目を撃ったのび太の腕を、発射の反動が襲った。ドラえもんの出す銃は、ショックガン等の軽くて反動の小さな物ばかりなのだが、ジャンボガンのように強力な物になると話が違うようだ。

 ジャンボガンの反動自体は、普通の拳銃とさほど変わりはなかったが、ショックガン等に慣れているのび太が、片手で撃つにはきつかったようだ。

 反動に悲鳴を上げて、思わず銃を斜め上に向けるのび太。しかも、その際に引き金を余分に引いてしまい、2発目を洞窟の天井に撃ってしまった。


ボウゥッ!! ボウゥッ!!


 それでも1発目は右の柱に命中し、柱を破壊できた。2発目は洞窟の天井で爆発したが、幸い大きな影響は無かった。

 「イテテテ…」

 のび太は銃を左手に持ち替えると、反動で痛んだ右手を上下に振る。それを見たドラえもんが詫びる。

 「のび太君、大丈夫? ごめん、反動が強い事を言い忘れてたよ…」

 一方、儀式を続けていた謎かけ盗賊は、柱の片方を破壊された事で儀式を妨害されたのか、2人の方を振り向いた。

 「ハッハッハッ…この頑丈な柱を破壊するとは大したものだ。だが、私がこんな分かりやすい弱点に、対策を取っていないとでも思ったかね?」

 謎かけ盗賊は笑いながら右手の指をパチンと鳴らす。すると、破壊された柱がまるで映像を巻き戻したかのように、元に戻ってしまった。

 「そんな…」

 「は、柱が再生した…!?」

 再生した柱を、呆然と見つめるのび太とドラえもん。

 「ハッハッハッ…これも魔芸のなせる業よ。再生の魔芸は魔力の消費が激しいから、あまり使いたくはなかったのだがな。しかし、何度も柱を破壊されては面倒だな。ここで、新たな対策を取らせてもらうか!」

 謎かけ盗賊は服の中から、球体にボタンを付けたような物を取り出し、右手で頭上に掲げた。

 「あれはバリヤーポイント!」

 ドラえもんが叫ぶ。バリヤーポイントのスイッチは入ったままになっている。

 「ハッハッハッ…君のくれた科学の力と、私の魔法の力を合わせれば、こんな事もできるのだよ」

 謎かけ盗賊はバリヤーポイントに左手を添えて念じる。すると、左右の柱から光の粒が発生し、バリヤーポイントに吸収されていった。そして…


バリバリバリ!!


 雷のような音が響いたかと思うと、謎かけ盗賊を中心として、巨大な円筒状の稲光が発生し、謎かけ盗賊と左右の柱を囲い込んだ。

 「な、何なんだこれは…バリヤーポイントではこんなバリヤーは作れないはず…」

 「ハッハッハッ…これは言わば、科学と魔法の力を合わせた壁…君達の世界の言葉に合わせて、バリヤーと呼ぶべきかな」

 驚くドラえもんに、笑いながら説明する謎かけ盗賊。
(のび太、射撃判定2回…2回とも成功。バリヤーに命中)
 のび太はバリヤーごと柱を攻撃しようと、今度は両手でジャンボガンを持って引き金を引く。今度は反動に耐えられた。ジャンボガンの弾がバリヤーに命中し、爆発する。

 だがジャンボガンの力をもってしても、バリヤーは破る事ができなかった。のび太は再度撃つも、やはり破れない。

 「ハッハッハッ…いくら君達でも、今度こそ打つ手は無かろう。それでは儀式の続きに入る事としよう」

 謎かけ盗賊はのび太達に背を向け、再び儀式の続きに入る。
(ドラえもん、ひみつ道具判定…成功)
 ドラえもんはバショー扇を出して振ったが、もう使えないのか、何も起こらなかった…


 同じ頃、ジャイアンは両手に武器を持ち、魔神に立ち向かっていた。魔神も両手を青白い稲光で包み、殴りかかってくる。
(ジャイアン(2回攻撃可能)VS魔神 戦闘判定…ジャイアンの攻撃が命中 クリティカル)
 ジャイアンが両手の武器で同時に突きかかる。魔神は左右それぞれの手でそれらの武器を掴み取る。だがジャイアンは、武器の柄を支えにして足を浮かせると、魔神の顔面に突然蹴りを入れた。


ドカッ!


 「ぐはあっ!」

 魔神は思わぬ攻撃を受け、掴んでいた武器を離して吹っ飛んだ。

 「どんなもんだい!」

 得意気になるジャイアン。
(ジャイアン(2回攻撃可能)VS魔神 戦闘判定5回…ジャイアンの攻撃が4回、魔神の攻撃が2回命中)
 「く…おのれ…」

 魔神は起き上がろうとしたかと思うと、突然両手を地面に叩きつけた。その途端に魔神の両手を包んでいた稲光が地面に移り、それが地を走ってジャイアンのところまで進み、連続で爆発した。


パーン! パーン!


 「うわあっ!!」

 油断していたジャイアンは、その爆発を立て続けに喰らって吹っ飛んだ。

 「く…この程度の威力しか出ないとは…やはり力を奪われすぎたか…」

 起き上がった魔神はそうつぶやくと、再び両手を稲光に包んでジャイアンに突進してきた。

 ジャイアンは魔神に接近される前に何とか起き上がり、両手の武器を突き出して迎撃に入る。

 ジャイアンの2つの武器による攻撃を、両手の手刀でさばいていく魔神。だが電光丸と無敵ホコ、どちらも自動で動く武器であり、左右別々に攻撃してくるため、魔神は事実上、 正確な攻撃をしてくる2人の敵を同時に相手にしている状態だった。

 魔神も次第にさばき切れなくなり、ついに電光丸の打撃、無敵ホコの薙ぎ払い、両方の武器による同時突きを立て続けに受けてしまう。
(ジャイアンVS魔神 戦闘判定…魔神の攻撃が命中 クリティカル)
 形勢有利なジャイアン。だがその時、突然左手の電光丸の動きが止まってしまう。電池が切れてしまったらしい。

 「なっ!?」

 その隙に魔神は無敵ホコを両手で掴み取った。魔人はそのまま両手に力を込め、無敵ホコをへし折ってしまった。

 「しまった!」
(ジャイアン、回避判定…大失敗)
 「…いつまでも調子に乗るな…!」

 魔神はジャイアンに、さらに両手で正拳突きを繰り出して追い討ちをかける。突然武器を失って動揺したジャイアンは、その攻撃をまともに喰らい、電撃を浴びながら吹っ飛んでしまった。

 「「ジャイアン!」」

 「タケシさん!」

 そばで見守っていたスネ夫、ダッパ、しずかがジャイアンの身を案じる。

 だがジャイアンは、フラつきながらも立ち上がり、使えなくなった両手の武器を捨てる。

 魔神の方も、これまでのダメージが溜まっているらしく、かなりフラついていた。だがそれでも、勝負をつけようと右拳を突き出す。その拳が稲光に包まれる。

 ジャイアンも負けじと、マジックハンドをはめている両拳を構える。

 「はあ、はあ…小僧…これでとどめだ…」

 「はあ、はあ…負けるかよ…」
(ジャイアン、素手戦闘判定2回…1回成功。魔神に命中)
 魔神の拳を包む稲光が光弾となって発射される。それとほぼ同時に、ジャイアンの両拳から打撃が繰り出される。


バスッ! バキッ!


 「ぐあああっ!」

 ジャイアンは、まずは右手からの打撃で敵の光弾を相殺し、続いて左手からの打撃で魔神を殴り倒した。魔神はその場で床に投げ出され…そして動かなくなったかと思うと、光の粒となって消滅した。


 「やったね、ジャイアン!」

 「タケシさん、大丈夫?」

 「はあ、はあ…当たり前だろ…俺が負けるものか…」

 「良かった…! そうだ、ドラえもん達は…!?」

 ダッパの言葉に、4人はドラえもんとのび太のいる方向を見る。そこには、謎かけ盗賊のバリヤーを前にして動揺する2人の姿があった。

 4人は急いでそちらへと走り、2人に合流する。ハーランも後をついて来た。

 「のび太、ドラえもん、何なの、あの光は?!」

 「謎かけ盗賊はバリヤーポイントに、あの柱が発生させる魔力を加えて、さっきよりも強力なバリヤーを張ってきたんだ」

 「このジャンボガンは、戦車も吹き飛ばす威力があるんだけど、これを使っても壊せないんだ」

 スネ夫の質問に答えるドラえもんとのび太。2人とも、バリヤーを破る方法が見つからずに悩んでいた。

 「…ドラちゃん、ジャンボガンの弾を、ビッグライトで巨大化させるのはどうかしら?」

 「それだ!」
(ドラえもん、ひみつ道具判定…成功)
 ドラえもんは早速ビッグライトを取り出し、光がジャンボガンの軌道に重なるように構える。

 その隣で、スネ夫がヒラリマントを持って待機する。ジャンボガンの弾丸を巨大化させると、爆発もかなり大きくなり、6人が巻き込まれる恐れがあるためである。

 「ドラえもん、行くよ。いっせーの…」

 「せっ!」
(のび太、射撃判定…成功。バリヤーに命中)
 のび太がジャンボガンを発射するタイミングで、ドラえもんがビッグライトのスイッチを入れる。計算通り、ジャンボガンの弾丸は大きくなり、謎かけ盗賊のバリヤーを直撃した。


ボオオオオンンンッッッ!


 巨大な爆発音が響き、周囲に強烈な爆風が散る。その威力は通常のジャンボガンの数倍はあった。ドラえもん達は咄嗟に、ヒラリマントで身を守るスネ夫の後ろに隠れる。爆風は全てヒラリマントに逸らされ、 ドラえもん達が浴びる事は無かった。

 爆風が収まり、6人は顔を上げる。スネ夫がヒラリマントを確認すると、マントには多数の亀裂が走っており、もう使えそうにない。

 そして6人は、期待を込めて指揮台の方を見た。が…

 「な…嘘だろ…」

 「あの威力でも壊せないのか!」

 バリヤーは未だに健在であった。驚くジャイアンとダッパ。他の4人も唖然としていた。

 謎かけ盗賊は6人の方を向いていた。

 「ハッハッハッ…凄まじい威力だったね。だが言ったはずだ、これは科学と魔法を合わせたバリヤーだと。科学、魔法のどちらかで作られたバリヤーだったら破壊できていただろうが、いかに強力な武器であっても、 科学の力だけではこのバリヤーは破壊できない。しかし何度も試されては気が散るな。だから、こうさせていただこう」

 謎かけ盗賊はそう言うと、両手の指を同時にパチンと鳴らした。その時…

 「!? ギャーッ!」

 突然、ドラえもんの持っていたビッグライトがネズミに変化した。ドラえもんは思わずネズミを落としてしまう。ネズミは地面に落ちると元のビッグライトに戻った。

 「ハッハッハッ…ドラえもん君、君が振り子を奪おうとした時、やけに騒いでいたから、まさかとは思ったが…君はネズミが相当、苦手なようだね」

 謎かけ盗賊は笑う。ドラえもんは慌ててビッグライトを拾おうとする。だが…

 「!? う、動かない…!?」

 「ドラえもん、何やってんだよ、早く拾えよ!」

 「そ、それが…地面に貼り付いて動かないんだ…まるで接着剤でくっつけたみたいに…」

 「何だって? 俺にやらせてみろ…な、何だこりゃ!?」

 ジャイアンはビッグライトを掴んで引っ張ったが、ドラえもんの言う通り、地面にくっついて離れなかった。ライトには接着剤らしき物は付いていない。

 「そうか、魔芸だ!」

 のび太が叫ぶ。

 「「「「マゲイ!?」」」」

 「謎かけ盗賊は、妙な魔法を使うんだ。ボク達の石ころ帽子も、魔芸で破られたんだ。ビッグライトをネズミにしたのも、地面にくっつけたのも、きっと魔芸のせいだ!」

 これでもう、ビッグライトで武器を大きくする手は使えない。

 「そうそう、先に言っておくが、このバリヤーは空間単位の侵入も遮断できる。君達が最初に使った道具で、空間を超えてバリヤーの中に入る事は不可能だ」

 謎かけ盗賊はさらに説明する。
(ドラえもん、ひみつ道具判定…成功)
 「最初に…取り寄せバッグの事か…つまり、どこでもドアでバリヤーの中に入るのも無理…そうだ! 地震なら…災難訓練機!」

 ドラえもんは災難訓練機を出し、スイッチを入れる。


グラグラグラグラ…!!


 だが周囲は地震で揺れ、一部の岩が崩れるものの、円筒形のバリヤーの中は土台である指揮台も含め、全く揺れる気配が無い。

 ドラえもんは諦めて訓練機を止め、ポケットに戻す。すると謎かけ盗賊は、右手の指をパチンと鳴らした。

 「他に何か使える物は…!? ポケットが開かない! ポケットの蓋がくっついてる!」

 「ハッハッハッ…君のその袋の蓋を、魔芸でくっつけて封じさせてもらったよ。仮に君達がこのバリヤーを破って、私を攻撃する事ができたとしても、私の魔芸で無駄になるだけだがな。 おや、私の魔神の姿が見えないが…それも君達が倒したという事か。君達は本当に幸運だな。ここまで戦えた事もそうだが、世界の善と悪の秩序が壊れるという、歴史的瞬間を目にする事ができるのだから…」

 謎かけ盗賊は儀式に戻った。未だに宙に浮かんでいる”運命の振り子”は、まだドクンドクンという音を立てていたが、その音もだんだん弱まってきた。そして…

  ピキッ…

 振り子を入れたガラス管の上部に小さなヒビが入り始めた。そこから光が漏れ出す。他の場所にも、少しずつだが小さなヒビが入り始める。

 「ふ、振り子が!」

 ダッパが叫ぶ。

 「ハッハッハッ…いよいよだな…ん?…ヒビがこれ以上入らない…振り子がまだ抵抗しているのか。だがそれも、時間の問題だ…」

 儀式を続けながらつぶやく謎かけ盗賊。彼の言う通り、振り子にはそれ以上ヒビが入らなくなった。だが確かに、このまま儀式が続けば、いずれ振り子は破壊されるだろう。

 「どうしたら良いんだ…このままじゃ…」

 愕然としながらダッパがつぶやく。そのとなりでジャイアンが叫ぶ。

 「何とかバリヤーを破る方法は無いのかよ!?」

 「そんな事言われても、ぼくのポケットが使えないんじゃ…」

 「ポケットが使えないんじゃ、どうしようもないじゃないか!」

 スネ夫が頭を抱えながらわめく。

 「何か他に使える物は無いのかしら? ポケットの中身を出す方法とか…」
(のび太、運試し判定…吉)
 しずかの言葉に、適当に自分の服の中を探るのび太。その時…

 「使えそうな物なんて、あるわけが…!? あったー!!」

 「「わあっ!」」

 突然、のび太が大声で叫ぶ。その声が「アッター」という形に固まって飛び出し、反対側にいたスネ夫とジャイアンにぶつかりそうになったが、幸いにも声は2人の頭上をかすめて飛んでいった。

 「な、何だよのび太、危ねえじゃねえか!」

 「コエカタマリン飲んでるんだから、気を付けて大声を出せよ!」

 「ご、ごめん…」

 「そんな事より、あったって、何があったの、のび太さん?」

 「あったんだよ、ドラえもんのポケットの中身を出す方法が!」

 「のび太君、本当!?」

 「これだよ!」

 のび太は服の中から、布でできた、1枚の白い半円形の物体を取り出した。

 「何だこりゃ? パンツか?」

 その物体を見た事が無いダッパには、それが何なのか分からなかった。だがドラえもんには一目で分かった。

 「それは…スペアポケット!」

 「そう! これならドラえもんのポケットと繋がってるから…」

 「…て言うか…のび太、それ持ってたんなら、何でこれまで使わなかったんだよ? それを使っていれば、僕達はもっと楽にここまで来られたんじゃないのか?」

 「それは…ごめん、持ち出したのを忘れてたんだよ…」

 スネ夫の突っ込みに、言いにくそうに答えるのび太。実はのび太は、キャンピングカプセルで一夜を過ごした時、一度はこれの事を思い出していたのだが、次の日には再び忘れてしまっていた。

 「の〜び〜太〜…て〜め〜え〜!」

 「やめなさいよ、のび太さんのおかげで、ここを乗り切れるかも知れないんだから」

 「そうだな、謎かけ盗賊も儀式に夢中で、こっちには気付いてないし」

 怒るジャイアンを、しずかとダッパがなだめる。

 「…そうだね。今回ばかりは、勝手にスペアポケットを持ち出した事は許すとしよう。さ、のび太君、それをぼくに」

 ドラえもんはのび太からスペアポケットを受け取ると、今は使えない四次元ポケットと交換し、中身を探り始めた。

 「うーん、使えそうな武器なんてあるのかな…ジャンボガンも災害も効かないとなると…ソノウソホントでも持ってくれば良かったかな…ん? これは…」

 ドラえもんはポケットから、宝石のように輝く4つの卵を取り出した。

 「これって確か、ヨッカ卵よね? 割ると火の鳥が出るっていう…」

 「なあダッパ、これならあのバリヤーを壊せるほどの威力が出ないのか?」

 期待を込めてダッパに尋ねるジャイアンだったが、ダッパは首を振った。

 「無理だろうな。ヨッカ卵は確かに魔力を持った鳥を出すけど、さっきのび太が使った武器並みの威力が出るとは思えない」

 がっくりと肩を落とすドラえもん達。だがその時、ドラえもんがある事を思いついた。

 「…待った! 使えるかも知れないよ!…」

 ドラえもん達は早速、作戦会議を始めた…


 「…という作戦だけど、みんな大丈夫? チャンスは1回しかないよ?」

 ドラえもんが、右手に持っている玩具のミサイルのような道具に、左手に持っているゴムの霧吹きのような道具から出る霧を吹きかけながら、仲間達に確認を取る。

 「ボクの射撃の腕なら平気だよ!」

 のび太は右手に持ったジャンボガンを振り上げながら答えた。

 「ジャイアンズのエースの腕をなめるな!」

 ジャイアンもヨッカ卵を握った右手をかざしながら笑顔を浮かべた。

 「操縦なら僕に任せてよ!」

 スネ夫は右手にラジコンのプロポと思しき物を持ちながら叫ぶ。

 「問題は、あれが謎かけ盗賊に通じるかどうかね。私の考えが正しければ良いんだけど…」

 しずかは頭に野球帽と思しき帽子をかぶりながら言う。

 「オイラ達には他に手が無いんだ。それに、こうしている間にも振り子が壊されていってるんだ。一か八か、これに賭けよう!」

 ダッパは右手にゴムパチンコと思しき道具を持ちながら意気込む。

 「じゃあみんな、ぼくが合図をしたら、頼むよ…それじゃ、行こう!」

 ドラえもんの声と共に、6人と1匹は行動を開始する。この瞬間、賽は投げられた…


 ドラえもん達5人はそれぞれ別々の方向に散り、その場に残ったダッパとハーランは、声の塊で謎かけ盗賊のバリヤーを攻撃する。

  ガツン…ガツン…

 声の塊がバリヤーに弾かれる音が響く中、振り向いた謎かけ盗賊はドラえもん達の行動を不思議そうに眺めていた。

 「……(一体何をしているのだ? 袋の蓋は封じたはずだし、今持っている武器でこのバリヤーは破れないはずだが…)」

 別々の方向に走っていた5人は、急に立ち止まった。そしてのび太が声の塊で、ジャイアンがマジックハンドでバリヤーを攻撃する。

 「……(何をするかと思ったら、出鱈目に攻撃してるだけではないか。ヤケになって無駄なあがきをしているのか? まあ良いか。どの道、振り子はもう抵抗する力を無くしている。もう少しだ…)」

 謎かけ盗賊はドラえもん達に背を向け、儀式の続きに入ろうとした。

 「今だ!」

 ドラえもんの叫びが響く。それと共に、6人は同時に作戦を実行した。

 のび太はジャンボガンの引き金を引き、ドラえもん、ジャイアン、しずかは振りかぶって手に持っている武器を投げつけ、スネ夫はプロポを操作し、ダッパはゴムパチンコを発射する。

 謎かけ盗賊のバリヤー目掛けて、1発の弾丸、1発の小型ミサイル、熱を帯びた4つの卵が飛んでいった…


 ここで話は数分前にさかのぼる…

 「…待った! 使えるかも知れないよ! ヨッカ卵って魔力を持った武器なんだよね? 謎かけ盗賊のバリヤーは科学の力だけでは壊せないって言ってたけど、それは逆に言えば、 科学と魔法の力を合わせた攻撃なら壊せるはずだ! それなら、ぼくの武器とこのヨッカ卵を同時にぶつければ…! のび太君、ジャンボガンの弾はまだ残ってる?」

 「弾?…あと1発だけ残ってるね。どうするみんな? 試してみる?」

 「でもさ、どうやってジャンボガンとヨッカ卵を同時にぶつけるのさ? 卵を投げるのと銃を撃つのとじゃ、スピードが違いすぎるし、同じ場所に正確にぶつけるとなると…」

 「それは…使えそうな道具がいくつかあるかも知れない。探してみよう」

 スネ夫の指摘に対し、ドラえもんはポケットの中を覗いて、対策を取れそうな道具を探し始める。
(ドラえもん、ひみつ道具判定5回…5回とも成功)
 道具を探し終えたドラえもんは、ポケットの中から次々と道具を出していった。

 「エースキャップ! 必中ゴムパチンコ! ラジコンの素! 必ず当たる手投げミサイル! グレードアップ液!」

 出した道具は5つ。1つ目は、かぶるとどこへ物を投げても、必ず狙った場所に投げる事ができる帽子・エースキャップ。

 2つ目は、その名の通り必ず命中するゴムパチンコ・必中ゴムパチンコ。

 3つ目は、アンテナを付けた物を何でも空飛ぶラジコンにして、専用のプロポで操作できる道具・ラジコンの素。

 4つ目は、これもその名の通り必ず命中する武器・必ず当たる手投げミサイル。

 最後の道具は、かけた物の性能を1時間だけ強化するスプレー・グレードアップ液である。

 ドラえもんは手投げミサイルとグレードアップ液を除いた3つの道具とヨッカ卵を、仲間達に配った。

 ドラえもんの考えた、バリヤーを破る作戦とは、ジャンボガンと手投げミサイル、4つのヨッカ卵による一点同時攻撃だった。

 まず、のび太、ジャイアン、スネ夫の3人は持ち前の特技を生かす事で、残る3人は必中系のひみつ道具を使う事で、同じ場所に正確にぶつけるという課題を攻略する。

 次にジャンボガンと他の武器の速度の問題は、グレードアップ液で速度を強化する事で攻略しようというのだ。

 ただし、ジャンボガンも防ぐバリヤーが相手では、ジャンボガンと4つのヨッカ卵だけでは威力が足りない恐れがあるため、グレードアップ液で威力を強化した手投げミサイルも追加する。

 「…おいドラえもん、みんなで同じ場所を狙うのは分かったけどよ、俺はあのバリヤーのどこを狙って投げれば良いんだ? 野球みたいに、キャッチャーのグローブを狙うってわけにはいかねえぞ」

 「そうだね…狙うなら、あれを目印にして、ぼくが合図したら、謎かけ盗賊の首辺りの高さを狙おう」

 ジャイアンの指摘に対し、ドラえもんは手で謎かけ盗賊の足元を指し示した。そこには謎かけ盗賊が落とした、合成人間の頭の覆面がまだ落ちていた。

 「…でも、いきなり6人で動いて、怪しまれないかしら?」

 「僕達の作戦がバレて、先に魔芸を使われたらまずいよ」

 警戒するしずかとスネ夫。するとダッパが言った。

 「そうだ、オイラとハーランが、コエカタマリンであいつを攻撃しよう。無駄なあがきだと思わせて油断させるんだ」

 「ボクもまだコエカタマリンが使えるよ」

 「俺もやろう。まだマジックハンドは使えそうだしな」

 「…でも、もしバリヤーを破れたとしても、その後はどうするんだ? オイラ達の武器で、あいつの魔芸を破れるような武器なんて…」

 ダッパが腕組みしながら言う。

 「それなら、私に心当たりがあるわ。もしかしたら、これが使えるかも知れないわ」

 しずかはそう言って、服のポケットの中から、1つの小さな物を取り出した…


 今、謎かけ盗賊のバリヤーの一箇所目掛けて、6つの武器が繰り出される。


ズバンッ!! ブウンッ!! ギュンッ!! ビュンッ!! ブウンッ!! パチンッ!!…

(のび太、射撃判定…成功。バリヤーに命中)
 のび太は自慢の射撃でジャンボガンを発射する。
(ジャイアン、投擲判定…成功。バリヤーに命中)
 ジャイアンは得意のピッチングでヨッカ卵を投げつける。グレードアップ液で強化された右腕によるピッチングは凄まじい速度を発揮する。
(スネ夫、手技判定…成功。バリヤーに命中)
 スネ夫はラジコンの素を付けたヨッカ卵をプロポで操り、バリヤー目掛けて飛ばす。アンテナにかけられたグレードアップ液で強化されたラジコンはかなりの速度で飛んでいく。

 ドラえもんは必ず当たる手投げミサイルを投げつける。グレードアップ液により、威力も速度も強化されている。

 しずかはエースキャップをかぶってヨッカ卵を投げつける。グレードアップ液で強化された右腕と、エースキャップによる無駄の無い弾道が、驚異的な速度を実現している。

 そしてダッパは、必中ゴムパチンコでヨッカ卵を撃ち出す。グレードアップ液で強化されたゴムによって発射された卵の速度は計り知れない。

 ジャンボガンの弾と、速度を強化された5つの武器は、バリヤーの一箇所に、ほぼ同時に命中した。そして…


ボオオオオオオンンンッッッ!


 「!?」

 儀式を続けていた謎かけ盗賊も、この爆音には振り向かざるを得なかった。そして彼が振り向いた途端…


ピキ…ピキ…パリィィィィィィン!!


 謎かけ盗賊の目の前で、彼を守っていたバリヤーが、ガラスが割れるように粉々になって消滅していった。その付近を、4匹の火の鳥が飛んでいくのが見える。

 「な、何…!?」

 初めて動揺した顔を見せる謎かけ盗賊。そして…

 「ダッパ君、今だ!」

 「行けえぇぇぇ!!」

 ドラえもんとダッパの叫び声が響く。次の瞬間…


パチンッ!


 ダッパは必中ゴムパチンコで、小石のような小さな物体を、謎かけ盗賊目掛けて撃ち出した。

 「くっ!!」

 高速で飛んでくるパチンコの弾に対し、咄嗟に両手の指をパチンと鳴らす謎かけ盗賊。しかし…


ドカアッ!


 「ぐおうっ!!」

 飛んできた弾は謎かけ盗賊の腹部を直撃した。謎かけ盗賊はそのまま吹っ飛ばされ、指揮台の向こうの、溶岩流の上の岩壁に激突し、そのまま体の一部が岩壁にめり込んで、岩壁に磔になってしまった。

 「な、なぜだ…なぜ魔芸が通じない…?」

 謎かけ盗賊は磔になったまま、腹部の方に視線を移した。すると腹部から、先ほど命中したパチンコの弾が、まるで弾かれたかのように飛び出してきた。それは、小さなサイコロだった。

 「これは…ロガーンのサイコロ!」


 ここで話は再び数分前にさかのぼる…

 「それなら、私に心当たりがあるわ。もしかしたら、これが使えるかも知れないわ」

 そう言ってしずかが服の中から出した物は…

 「何だよこれ? サイコロじゃねえか」

 「これって、僕達が押し入れの部屋を調べていた時に、しずかちゃんが見つけた物だよね?」

 「でもしずかちゃん、これが一体、何の役に立つの?」

 ジャイアン、スネ夫、のび太が怪訝そうに尋ねる。

 「私、魔神に襲われた時に、サイコロの片方を落としたのよ。それで、魔神がそのサイコロを踏んだら、急に苦しみ出して…」

 「そう言えば、あの魔神は急に苦しみだしたかと思ったら、オイラ達の攻撃が効くようになったよな」

 「つまり、このサイコロには敵の力を奪う何かがある。それは魔神にも効くほどのものだから、謎かけ盗賊にも効くかも知れないって、そういう事だね?」

 ドラえもんがそう聞くと、しずかは頷いた。

 「バリヤーを破った後で、これを謎かけ盗賊にぶつければ、謎かけ盗賊の力も封じられるんじゃないかしら?」

 ドラえもんは腕組みして考える。

 「なるほど…でも、バリヤーを破った後、誰がどうやってこれを謎かけ盗賊にぶつけるかが問題だね」

 「その役、オイラにやらせてくれないかな。オイラの手で、ハメット先生の仇を討たせてくれよ」

 名乗り出るダッパに、ドラえもんも頷く。

 「そうだね。必中ゴムパチンコなら、バリヤーを破壊した後でサイコロをぶつけるにも最適だし」

 「お願いね、ダッパさん」

 しずかはダッパに、サイコロを渡した…


 今、謎かけ盗賊の腹部から飛び出したサイコロは、空中で回転しながら落ちていったが、やがて6の目が上を向いた状態で回転が止まり、空中で砕け散った。

 「ロガーンのサイコロ…振って出た目に応じて、相手の力を一時的に奪う事ができる、我が主ロガーンの力が込められたサイコロ…その対象は、我々神の使いといえども例外ではない… 私には大して必要無い物だし、仮に誰かに奪われて使用されたところで、私には運も魔芸も手駒も、いくらでもあると思っていたが…このような形で、私に牙を向く事になるとは…」

 続いて腹部の服の中から、ぐにゃりとへこんだバリヤーポイントがこぼれ落ち、溶岩流へと落ちていった。どうやらこれにサイコロが命中した事により、これほどの威力で飛んできたサイコロが、 謎かけ盗賊の体を貫通するのを防いだらしい。


 指揮台の上では、宙に浮かんでいた”運命の振り子”が地面に落ちていた。ドラえもん達が指揮台に上がり、振り子を拾い上げる。

 振り子はまだ動いていたが、振り子を入れたガラス管は小さなヒビだらけで、ヒビからは淡い光が漏れている。しかも、ヒビは少しずつだが広がり始めていた。

 「まずい! このままじゃ、放っておいても振り子が壊れちゃうよ!」

 「ドラえもん、早く直さないと!」

 スネ夫とのび太がわめき散らす。
(ドラえもん、ひみつ道具判定…成功)
 「分かってる! 復元光線!」

 ドラえもんは復元光線を出し、振り子に光を当てる。振り子のガラス管から、全てのヒビが一瞬で消えた。

 ホッとする6人。だが…

  ピキ…ピキ…

 何と、振り子に再びヒビが入り始めた。

 「そんな…どうして…!」

 「な、何だよ! 何でまた壊れるんだよ!」

 しずかとジャイアンが叫ぶ。

 「もしかして、傷を直しても、振り子自体が儀式で受けた影響までは消えていないんじゃ…」

 ダッパがつぶやく。
(ドラえもん、ひみつ道具判定…成功)
 「それなら、儀式が行われる前の状態に戻せば…タイムふろしき!」

 ドラえもんはタイムふろしきを出し、振り子を包み込む。ふろしきの中で振り子の時間がさかのぼり…やがて振り子のヒビは消え、今度こそ再びヒビが入る事は無くなった。

 「ふう…今度こそ、大丈夫だ…もしもの時に使えなくならないように、あれから使わずにとっておいて正解だったよ…」

 ドラえもんは笑顔を浮かべた。他の5人も胸を撫で下ろした。


 岩壁に磔になっていた謎かけ盗賊には、その様子を見ている事しかできなかった。そして彼の体の周りの岩が少しずつ崩れ始め、それに伴って彼の体は、少しずつ岩壁から離れ始めた。

 「…どうやら私の完敗のようだな。今の私には、この状況を打開できるだけの魔芸は残されていない。ほとんどの力をサイコロに奪われたからな。せめて1か2の目が出ていれば… そうか、私の魔神もあのサイコロの片方に力を奪われて…こんな大事な事に気付けないとは、私も油断していた…そういえば、サイコロをあの部屋にしまったのは、 我が主による夢のお告げに従っての事だったな…使わないならあの部屋にしまっておけという…まさか我が主は、私の計画の成功を望んでいなかったのか?… いや、気紛れな主の事だ、計画が失敗する万が一の可能性を、運命のいたずらとして私に残させたのかも知れぬな…」

 そして謎かけ盗賊の体は、完全に岩壁から離れ、そして溶岩流に落ちていく。だがその時…
(ドラえもん、ひみつ道具判定…成功)
 「世話焼きロープ!」

 「!?」

 ドラえもんの声が響いたかと思うと、落ちていく謎かけ盗賊の右手にロープが絡みつき、落下を止めた。

 謎かけ盗賊が上を見上げると、指揮台の上からドラえもん達が謎かけ盗賊を見下ろしていた。

 「ふっ…サイコロに腹を貫かれずに済んだ事といい、彼らが私を助けようとするほどの甘い奴らだった事といい、つくづく私は悪運に恵まれているようだな。だが、敗者である私には、もう運も助けも不要なのだよ…」

 謎かけ盗賊はそうつぶやくと、左手からナイフを取り出し、自らロープを切り離した。そして…

 「…アーッハッハッハッハッハッ…」

 謎かけ盗賊は笑い声と共に溶岩流に落ちていった。


ボオオオオオォォォッ!


 彼の落ちた場所から、激しい火柱が噴き出す…

 ドラえもん達はその場に立ちつくし、その様子をただ呆然と見ている事しかできなかった…


 原作「謎かけ盗賊」との設定の相違

 ・黄金の球に魔神が入っているという設定は原作通りだが、原作では球の魔神が球から出てくる事は無いし、主人公達と戦う事も無い。また「黄金の魔神」という名称は無い。

 ・タイタン世界の設定では、魔神の体は武器を通り抜けるという設定はあるが、実体を別次元に移せるという設定は無い。

 ・原作では、柱が魔力を持っているという設定はあるが、それを破壊すれば儀式を止められる、柱は謎かけ盗賊の力で再生できる、柱の魔力を他の事に応用できるといった設定は無い。

 ・壊れた物を再生する魔芸は、元ネタのゲームブックにも登場しない、このプレイのみのオリジナル魔芸である。ただし元ネタには、主人公が死の危機に瀕した時のみ、時間を戻せるという魔芸なら存在する。

 ・ロガーンのサイコロは、原作では戦闘中に振ると、出た目の数だけ相手の能力値を奪うというものであり、相手の特殊能力を奪う力は無い。また、謎かけ盗賊に対して使った時のみ、このサイコロは大爆発を起こす。 ちなみに原作では、謎かけ盗賊が自分に使われると危険なはずのサイコロを、誰でも持ち出せるような場所に置いていた理由は説明されていない。

 ・謎かけ盗賊の最期については、原作では溶岩流に落ちるという例はあるものの、具体的にどうするかはゲームマスター任せとなっている。


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