〜ドラえもん のび太と異世界の盗賊〜
第3話
人と獣を繋ぐ輪
♪イメージBGM:街・村
ドラえもん達は”偶像通り”を抜け、”長者の広場”と呼ばれる広場に出た。この付近は高級住宅街らしく、立派な建物がいくつも存在する。広場にはさらに、白く輝く大理石でできた、
いかにも高級そうな浴場まであった。
「わあ、綺麗なお風呂屋さん…こんなお風呂、一度入ってみたいわあ…」
お風呂好きなしずかは、目を輝かせて浴場の方を見ている。
「ハハ。この浴場に入るなんて、オイラにとっても夢みたいな話だよ。ここは会員制でね、おまけに会費がすごく高いんだ」
笑いながら説明するダッパ。するとジャイアンが顔をしかめる。
「何だ、こんなにでかいのに、金持ちしか入れねえのかよ」
「ふん、何だこのくらい。僕はもっと綺麗で立派なお風呂に、何度も入った事あるもん」
「…スネ夫の奴、こんな時にまで見栄張っちゃって…」
のび太が呆れてつぶやく。
「それよりダッパ君、例の入墨屋はまだなのかい?」
「それなら、この広場をまっすぐ抜けて、あの通りをさらに進めば着くよ」
ダッパは広場の向こうにある通りを指差した。広場には他に見る物は無かったため、6人はそのまま広場を抜けて通りを進む。
途中、いたずらっ子の集団(航海学校にいた生徒ではなかった)に取り囲まれる事もあったが、ジャイアンが脅すと、散り散りになって逃げていった。
やがて6人は、目的の入墨屋”肉とペン大商店”に着いた。
その建物は、壁という壁が毒々しい入墨の図柄で飾られている。その中には輝く太陽等の丸い物や、ドラゴン等の角のある生物の入墨も見られた。
玄関の横には半裸の大男が立っており、全身を飾る入墨を通行人に披露している。
この店の入墨師や呼び込み役の知り合いであるダッパは、彼らに事情を話し、少しだけ店を調べる許可をもらった。
6人はそこにある角のある生物の図柄や丸い物を探し、次々と手に取っていった。だが何を手にしても、巻物は全く反応を示さなかった。
ちなみにこの店で入れてもらえるという魔法の入墨の中には、コブラや鷹はあったものの、角のある生物の入墨は無かった。やがて6人は諦め、邪魔した事を詫びて店を去った。
「入墨屋さんはハズレだったみたいね」
「ちえっ、とんだ骨折り損だよ」
しずかとスネ夫はがっくりと肩を落とした。
「おいダッパ、他に心当たりはねえのかよ」
「そんな事言われても、他に角のある動物が関係している場所なんて…」
街に詳しいダッパでもお手上げの状態で、途方に暮れる6人。するとそこへ、思わぬ人物がやって来た。
「おーい、君達〜」
「? あっ、ガラパゴスさん!」
ドラえもんが振り向くと、やって来たのは商人のイグナチウス・ガラパゴスだった。
「君達が貸してくれた道具のおかげで、あの泥棒を捕まえて財布を取り戻せたよ。それで、直接礼を言いたくて、この道具で君達を探していたんだよ。これは君達に返すよ。ありがとう」
「いえいえ、お役に立てて光栄です(ホッ、たずね人ステッキの的中率は下がっていなかったみたいだ)」
ドラえもんは内心ホッとしつつ、ノビールハンドとたずね人ステッキを受け取った。
「そうだ、君達はこの街で探し物をしてると言っていたが、街を歩いている間に、ミノタウロスを見なかったかな?」
「ミノタウロス? ああ、盗まれたって言ってた怪物か」
「私達は見ませんでしたよ」
ジャイアンとしずかが答える。
「そうかい。うーん、もう少し探してみるか。あの珍種を、価値の分からない奴らに、粗末に扱われてはたまらないし、あれはファングに売ろうと思っているのだからね」
「ファング?」
のび太が首を傾げると、ダッパが説明した。
「北の方にある街だよ。そこでは年に一度、腕自慢の戦士達が”死の罠の地下迷宮”と呼ばれる、罠と怪物に満ちた迷宮に挑戦する、命懸けの競技が行われているんだ」
「そう。そこなら迷宮で使う怪物を買ってくれるのだよ。それじゃ、私はこれで失礼するよ。君達にはいつか、泥棒を捕まえるのを手伝ってくれたお礼をしよう。約束だ」
そう言い残すとガラパゴスは走り去った。残された6人は巻物を見ながら、再び最後の探し物ついて考え始める。
「”頭に角”、”人と獣”が関係してる場所なんて、本当にあるのかしら…?」
しずかがつぶやく。するとスネ夫の顔が明るくなった。
「……! もしかして…!」
全員の視線がスネ夫に集中する。
「おいスネ夫、どこに行けば良いか、分かったのか?」
「”頭に角”に”人と獣”って、ガラパゴスさんが探してるミノタウロスなんじゃない!?」
それを聞いたドラえもんも、ある事に気付いた。
「そうか! だとしたら、”頭も尻も無い”、”骨と皮とに留められる”物って、牛の鼻輪なのかも!」
「つまり、ボク達はミノタウロスが鼻に着けてる輪っかを探せば良いって事?」
のび太が言う。
「どうりで分からなかったわけだ。オイラ、場所の名前ばかり考えてたからな。でも、ミノタウロスの場所なんて分かるのか? ガラパゴスさんだって見つけられてないのに」
「ウフフ。ダッパ君、さっきガラパゴスさんに返してもらった物を忘れたのかい?」
ドラえもんはそう言うと、たずね人ステッキを立てて、手を離した。ステッキはコツンと音を立てて倒れる。
「うん、こっちの方角だね」
「こっちは…港へ行く方向だな。こっちの道を通れば行けるはずだよ」
ダッパが付近の道を指差す。するとスネ夫が、ある事に気付いた。
「あ、今思ったんだけどさ、ガラパゴスさんも僕達みたいにたずね人ステッキを使えば、ミノタウロスを探せたんじゃない?」
「そう言えばそうね。ガラパゴスさん、もう少し私達と一緒にいれば、一緒に探してあげられたのに」
「まあいいや。ボク達の手でミノタウロスを見つけて、鼻輪を手に入れたら、ガラパゴスさんにミノタウロスを返してあげようよ」
のび太の言葉に全員が頷く。
「よし、出発だぜ!」
ジャイアンの掛け声と共に、ドラえもん達はダッパの案内で”盗賊の道”と呼ばれる通りを進んでいった。
港に着いたドラえもん達。港は汚くて薄暗く、胡散臭そうな連中があちこちにいる。周りの視線を警戒しつつ、6人は港を歩く。
そして、海辺に建てられた、大きな木造倉庫の前に差し掛かった時、先頭を歩いていたダッパが立ち止まった。
「どうしたの、ダッパさん?」
「あの倉庫、何か怪しいよ」
ドラえもん達が倉庫の方を見ると、怪しげな2人の男が倉庫の一番奥の扉を開け、中に入っていったところだった。しかも、その倉庫の中から叫び声が聞こえてきた。
「確かに怪しいね。たずね人ステッキが指していた方向も、あの倉庫の辺りだったし。行ってみよう」
ドラえもんは早速、倉庫に近付いていく。他の5人も後に続く。
6人が倉庫に入ると、そこは急ごしらえの闘技場のようだった。中央には大きな穴が掘られ、その周囲は樽や材木で囲まれている。囲いの外側には、たくさんの水夫やならず者達が腰掛けて、コインを手に騒いでいる。
穴の中では、牛の頭を持ち、鼻に真鍮の鼻輪をはめた大男の怪物と、剣を持った水夫が戦っている。
「あれがガラパゴスさんの言っていたミノタウロスか…思った通り鼻輪を着けてるし、間違いないね」
闘技場の怪物を見ながらドラえもんが言う。
「でもよ、あのミノタウロス、何かあんまり強そうじゃねえな」
「そうだね。牛魔王みたいなすごい奴かと思ってたのに」
拍子抜けした様子でジャイアンとのび太が言う。
「変だな。オイラが図鑑で見た時は、ミノタウロスはもっとごつくて強そうな怪物だったはずなのに」
ダッパも首を傾げる。確かにそのミノタウロスは大柄ではあるものの、かなりやつれているように見えた。戦い方も力こそあるものの威勢は無く、身を守るために止むなく戦っているように見える。
「それよりさ、ここの連中、あのミノタウロスを使って賭け事やってるみたいだね」
「あのミノタウロス、何だか可哀想…」
様子を見ながらスネ夫としずかが言う。
そうしているうちに、ミノタウロスと水夫の戦いが終わった。水夫は傷つきながらも生き延びており、穴に垂らされたロープを登って穴から出て、主催者と思しき男から賞金の入った袋を受け取っていた。
よく見ると、主催者の横には大きな砂時計が置かれている。どうやらミノタウロスと一定時間戦って、生き残れたら賞金がもらえるらしい。
賞金の受け渡しが終わると、主催者は声を張り上げた。
「さあさあ、メリザンドのミノタウロスとひと勝負やってみようってお人は、他にはいないかね?」
たちまち騒ぎ出す観客達。彼らはこの賭け事にかなり熱中していて、ドラえもん達が闘技場に入ってきた事に誰も気付いていないようだ。
「酷いなあ。人から盗んだ動物を、勝手にこんな事に使うなんて」
のび太が顔をしかめる。
「それよりどうするよ。僕達はあの鼻輪が必要なのに、あれじゃ、鼻輪を取りに行けないよ」
困った表情でスネ夫が言う。
「ようし、俺があのミノタウロスに挑戦して、やっつけて鼻輪を手に入れてやる」
意気込んで主催者のところへ行こうとするジャイアンだったが、それをしずかとダッパが引き止める。
「だめよタケシさん、危険だわ」
「そうだよ。それにミノタウロスを倒せたとしても、この賭け事の主催者達が黙っていないよ」
※(ドラえもん、ひみつ道具判定…成功)
「それに、あのミノタウロスも助けなきゃいけないからね。こういう時は…災難訓練機!」
ドラえもんはポケットから、様々な災害の幻影を作り出して、災害が起こった時に慌てないように訓練するための機械・災難訓練機を出した。
ドラえもんは倉庫の隅の方に、のび太達が隠れられるような物陰があるのを見つけると、そこにのび太達を潜り込ませる。そして、災難訓練機のスイッチを入れ、自分も物陰に隠れた。すると…
グラグラグラグラ…!!
「ワー!!」
「地震だー!!」
「逃げろー!!」
災難訓練機が引き起こした地震により、観客達はたちまちパニックに陥り、次々と倉庫の外へと飛び出していった。
…やがて地震がおさまり、ドラえもん達が物陰から出てくると、倉庫は荒れ果てていて、6人以外の人間の姿は無かった。ミノタウロスは穴の中に残されており、突然の事態に怯えている様子だった。
ドラえもんが災難訓練機のスイッチを切ると、地震で荒れ果てた倉庫はたちまち元に戻った。
「…! こ、これって…」
「ウフフ。驚いたかいダッパ君。さっきの地震は、この災難訓練機が作った幻だったんだ」
「この世界にも幻覚の魔法を使える魔法使いはいるけど、こんなに大きな幻覚を作れる人は滅多にいないよ…本当に凄いな、ドラえもんは」
尊敬の眼差しでドラえもんを見るダッパ。
「えっへん! ぼくはかつて、精霊大王と祀られた事もあった、高級なロボットだからね!」
「?」
ダッパは首を傾げる。のび太が呆れて言った。
「ダッパ、今の話は気にしなくて良いから。全くドラえもんったら、調子に乗っちゃって…」
「それより、早くミノタウロスを助けてあげましょう」
しずかに促され、6人はミノタウロスがいる穴に入っていく。だがその時…
バタン!
突然、何かが開く音がした。驚いた6人が音のした方向を向くと、そこには床に木製のハッチが付いており、さっきの音はそれの蓋が開く音だった。
そしてその中から、主催者と2人の男が出てきた。どうやら地震の時、彼らだけはこのハッチの中に隠れたらしい。
「ふう、地震はおさまったようだな…!? これはどういう事だ!?」
「あんな地震があったのに、何でここは何ともないんだ!?」
「何がどうなって…!? おい、そこの小僧ども、何をしている!?」
3人の男達は、地震があったのに周囲が荒れていない事に驚き、さらにドラえもん達が穴の中にいる事に気付いた。
3人はドラえもん達の方へ走ってくる。
「ド、ドラえもん、まずいよ。見つかっちゃったよー」
わめき散らすのび太。ドラえもんは急いでポケットに手を入れる。
※(ドラえもん、ひみつ道具判定…成功)
「相手ストッパー!」
ドラえもんは、狙った相手数人の足を動かなくして足止めする機械・相手ストッパーを取り出し、スイッチを入れる。すると…
「!?」
「か、体が動かねえ!?」
「て、てめえ、魔法使いか!」
3人の男達はその場から動けなくなってしまった。
「さ、今のうちに」
ドラえもんがのび太達を促す。
「よーし、俺が捕まえてやるぞ」
「ジャイアン、大丈夫?」
「平気さ、こいつ怯えてるみたいだしな」
スネ夫の心配をよそに、堂々とミノタウロスに近付くジャイアン。だが…
「フモモモモー!」
ミノタウロスは頭を低くして、突然突進してきた。
※(ジャイアン、回避判定…成功)
「うわっ!」
ジャイアンは辛うじて突進をかわした。かわされたミノタウロスは、近くの壁の前で止まり、6人の方に向き直ってから、震えながら後ずさる。
「駄目だよジャイアン。怯えてる野獣を下手に刺激したら、かえって危ないよ」
「スネ夫、それを早く言え!」
「ドラえもん、早くあれ出してよ、あれ」
「あれ?…ああ、あれだね。野獣といえばあれしかないね…」
ドラえもんにはのび太の言いたい物が分かっているようだ。
※(ドラえもん、ひみつ道具判定…成功)
「桃太郎印のきび団子!」
ドラえもんはポケットから、動物に食べさせて人間に懐かせる餌・桃太郎印のきび団子が入った袋を取り出すと、その中から団子を1つ取り出し、ミノタウロスに投げつける。
※(ドラえもん、投擲判定…成功)
団子はミノタウロスの眼前に飛び、ミノタウロスはそれを食べる。その途端にミノタウロスはおとなしくなり、ドラえもんが近付いても怯えなくなった。
「ミノタウロスがおとなしくなった…」
「ダッパ、この団子はどんな動物もおとなしくできるし、どんな動物にも食べさせられるんだ」
のび太がダッパに説明する。
「そういう事。さ、早くここから連れ出そう」
ドラえもんに促され、ミノタウロスを連れて穴から出た6人。だが、これで全てが丸く収まったわけではなかった。
「わっ!」
「か、体が動くぞ!」
「おいガキ共、ミノタウロスをどうする気だ!」
相手ストッパーで止められていた3人の男達が、再び動き始めたのだ。
「おいドラえもん、動き出したぞ!」
ジャイアンが叫ぶ。
「そんな、もう効き目が切れるなんて…よし、もう一度!」
ドラえもんは再度、相手ストッパーのスイッチを押す。だが何度押しても効果は現れない。
「駄目だ。みんな、ここは逃げよう!」
ドラえもんは相手ストッパーをポケットにしまうと、慌てて倉庫の出口へと駆け出す。のび太達もミノタウロスを連れて後に続く。
「また肝心な時に故障しやがって。お前って奴はいつもそんな無責任な…」
「故障じゃないぞ! 言ったろ、この世界では、ぼくの道具の効果が弱まるって。相手ストッパーも、この世界では弱体化して、時間制限と回数制限ができたんだ!」
「でもさ、タケコプターは遅くなっても普通に飛べたし、お医者さんカバンやたずね人ステッキは普通に使えたじゃないか。相手ストッパーだけ弱体化が激し過ぎるんじゃないの?」
「だから、どれくらい弱まるかは、道具によって差があるんだってば!」
走りながらも、ジャイアンとスネ夫の文句に言い返すドラえもん。
6人と1匹は倉庫を出て、ひたすら港を走る。3人の男達がそれを追う。しかし…
「行き止まりだ!」
「どうしよう、あいつら来ちゃうよ!」
ダッパとのび太が叫ぶ。
「そうだわ、タケコプターで…」
しずかはポケットからタケコプターを取り出そうとするが、ドラえもんに止められる。
「ダメだ、タケコプターはぼく達の分しかないんだ。重いミノタウロスを抱えながら飛ぶんじゃ、間に合わないよ。そうだ、みんなで隠れれば…」
ドラえもんは慌ててポケットに手を入れる。
※(ドラえもん、ひみつ道具判定…失敗)
「ええと…かべ紙ハウスはどこだ? カメレオン帽子はどこだ!?」
「もう、慌てるといつも…」
また慌てて、下駄やら雑巾やらを出すドラえもん。呆れてつぶやくのび太。そうこうしている間に、3人の男達がやって来てしまった。
♪イメージBGM:通常戦闘
「もう逃がさねぇぞ!」
「小僧ども、こんな事して、ただで済むと思うなよ!」
「全く、妙な魔法使うわ、人様のミノタウロスを盗むわ…」
3人は腰に差した短刀を抜いてドラえもん達に迫る。
「こ、このミノタウロスは、元々ガラパゴスさんのものじゃないか! それを盗んだのは、おじさん達じゃないか!」
先頭に立ち、強がりを込めた反論をしながら、ショックガンを抜いて男達に向けるのび太。その時…
※(のび太、運試し判定…吉)
「フモモモモー!」
のび太のすぐ後ろでおとなしくしていたミノタウロスが、突然両腕を上に突き出し、大きな鳴き声を上げたかと思うと、3人の男達を睨み、自ら先頭に立った。そして…
※(ミノタウロス(二人同時攻撃可能)VS殺し屋A、B、C 戦闘判定…ミノタウロスの攻撃が殺し屋A、Bに命中。殺し屋Aにクリティカル)
ドドドドド…!
ミノタウロスは頭を低くし、3人目掛けて突進した。予想外の事態に動揺し、反応が遅れる3人。
ミノタウロスの突進は、3人のうち、中央にいた男を直撃し、その左側にいた男も弾き飛ばした。
「うがっ!!」
「ぐっ!」
突進の直撃をくらった男は大きく跳ね飛ばされ、その先にあった樽に激突して止まった。男はそのまま意識を失った。
左側にいた男は、直撃は避けたものの、苦痛にうめきながら転がっている。
動きを止めたミノタウロスは、残る1人の方を向く。その男は、震えながら短刀を構える。
※(ミノタウロス(二人同時攻撃可能)VS殺し屋B、C 戦闘判定…殺し屋Bの攻撃が命中)
しかしその時、ミノタウロスの体がぐらつき始めた。
「こ、この野郎!」
その隙にミノタウロスに斬りかかる3人目の男。転がっていた男も立ち上がり、ミノタウロスに斬りかかる。
ミノタウロスは咄嗟に体勢を立て直し、2人の攻撃をかわそうとするも、2人目の方の攻撃を避けきれず、左腕に斬りつけられる。
「ウオー!」
痛みに悲鳴を上げるミノタウロス。
「おい、あのミノタウロス、急にどうしたんだよ?」
「倉庫の中でずっと戦わされてたから、そのダメージが残ってるんだよ、きっと」
様子を見守りながら、状況を把握するドラえもん達。
「野郎!」
ミノタウロスに追い討ちをかけようとする3人目の男。だが…
※(のび太、射撃判定…成功。殺し屋Cに命中)
バシュッ!
「うぐうっ…!」
横から飛んできた一筋の光線が男に命中し、男を一時的に痺れさせる。男が光線の飛んできた方を向くと、そこにはショックガンを構えたのび太の姿があった。
本来、ショックガンは人間を傷つけはしないものの、気絶させる効果があるのだが、男にはダメージを与えただけのようだ。やはりこの世界では、威力が低下するらしい。
「な、何だ今のは…あれも魔法か?」
「フモー!」
のび太に気を取られる男だったが、ミノタウロスが再び鳴き声を上げたため、そちらに意識を戻す。
※(ミノタウロス(二人同時攻撃可能)VS殺し屋B、C 戦闘判定…ミノタウロスの攻撃が二人に命中)
「ミノタウロス、頑張れー!」
「頑張ってー!」
のび太としずかの応援が響く中、2人目と3人目の男が、ミノタウロスに順番に飛びかかるも、ミノタウロスは2人目に右ストレートパンチを、3人目に左アッパーを決めて吹っ飛ばす。
2人目は地面に投げ出され、そのまま意識を失った。3人目はなおも立ち上がり、半ばやぶれかぶれになってミノタウロスに襲いかかる。
一方、ミノタウロスは大きく息を吸い込むと、3人目に鼻息を吹き付けた。その途端…
「うぐうっ!」
鼻息を浴びた男はたちまち喉と口を抑えて苦しみ始め、やがて倒れた。
♪イメージBGM:街・村
3人の男達を倒したミノタウロス。だが…
「フモー…」
戦いが終わった途端、弱々しい鳴き声と共にその場に倒れ込んでしまった。
「あっ!」
「ミノタウロスが!」
ミノタウロスに駆け寄るのび太としずか。他の4人もそれに続く。ダッパがミノタウロスのそばにしゃがんで、様子を見る。
「死んだの?」
スネ夫がかがんで覗き込みながら尋ねる。
「いや。でも苦しそうだ…」
ダッパの言う通り、ミノタウロスはまだ息はあるものの、その息は弱々しく、体を小さく震わせている。
「このミノタウロス、俺達を助けるために…」
※(ドラえもん、ひみつ道具判定…成功)
「君をこんなところで死なせるものか。お医者さんカバン!」
ドラえもんはお医者さんカバンを出し、ミノタウロスを診察する。すると…
「このミノタウロス、傷ついてるだけじゃない。何かの毒にやられてるよ」
するとスネ夫が、ある事を思い出した。
「そういえばガラパゴスさんが、このミノタウロスは毒の鼻息を出せる珍種だ、って言ってたね」
「じゃあ、その毒を出せたのって…」
「この毒のせいだね。よし、今、薬をやるからな」
ドラえもんはのび太の言葉を続けると、お医者さんカバンから出てきた薬をミノタウロスに飲ませた。すると効果はてきめんで、ミノタウロスの顔色が良くなっていき、体の傷も少しずつだが塞がり始めた。
「これで、少し休ませれば大丈夫だよ。もう毒を出す事も無いし」
「よし、オイラ衛兵呼んでくるよ。ガラパゴスさんも、まだ広場の方にいるかも知れないし、一緒に連れて来よう」
「ちょっと待って、ダッパさん!」
衛兵を呼びに行こうとするダッパを、しずかが呼び止めた。
「?」
「ねえ、このミノタウロスをガラパゴスさんに返したら、ミノタウロスがどこかに売られちゃうって事でしょ? ミノタウロスはずっと毒で苦しんでいたのに、それを誰にも知られずに売り物にされて、
賭け事の道具にされて、やっと毒から解放されたのに、また売り物にされちゃうなんて…」
それを聞いたのび太とジャイアンは、ガラパゴスの話を思い出した。
「…そういえばガラパゴスさん、地下迷宮の怪物として売るって言ってたね。ずっと苦しんでたのに、人間の勝手でまた戦わされるなんて、いくら何でも可哀想だね」
「そうだな。俺達の恩人を売るような真似はできねえな!」
「でもさ、ガラパゴスさんには何て誤魔化すのさ?」
「うーん、そうだね…」
ドラえもんはスネ夫の指摘に少し考えた後、ポケットに手を入れる。
※(ドラえもん、ひみつ道具判定…成功)
「かるがる持ち運び用紙!」
ドラえもんは、重い物を乗せるとそれが紙に吸い込まれて絵になり、紙の重さになって楽に持ち運べる大きな紙・かるがる持ち運び用紙を取り出した。
「とりあえず、ミノタウロスにはこれの中に入ってもらおう。みんな、乗せるの手伝って」
「ちょっと待ってよみんな。肝心な事忘れてるよ。鼻輪、鼻輪」
※(スネ夫、手技判定…成功)
スネ夫はそう言うと、ミノタウロスの鼻輪に手を伸ばし、器用に鼻輪を外した。
それが済むと、ドラえもん達はミノタウロスを用紙の上に乗せた。ミノタウロスはたちまち紙に吸い込まれて絵になった。
「わあ、ミノタウロスが絵になった! ドラえもんって、こんな事もできるんだ…」
「ウフフ。これなら簡単に隠せるというわけ。ミノタウロス、ちょっと狭いけど、我慢してね」
ドラえもんは驚くダッパに笑顔で答えると、用紙を丸めてポケットに入れた。
「ねえドラちゃん、あの人達も早く助けてあげないと、死んじゃうかも…」
しずかが倒れている3人の男達を指差す。
「あ、そうだったね。一人は毒の鼻息を浴びてるんだし、急がないと。それじゃダッパ君、ぼく達はこの人達を治して、縛っておくから、その間に衛兵とガラパゴスさんを呼んできてよ。
ガラパゴスさんにどう誤魔化すかも、その間に考えておくよ」
「よし、分かった」
※(ドラえもん、ひみつ道具判定…成功)
その場を走り去るダッパ。その後ドラえもんは、3人の男達をお医者さんカバンで治療し、さらに世話焼きロープを出して、未だに気絶したままの3人をまとめて縛らせた。
「さて、問題はガラパゴスさんに何て言うか、だよな…」
ジャイアンが腕組みしながら言う。
「ミノタウロスはいなかった、って言えばいいんじゃないの?」
「バーカ。それじゃ、こいつらがミノタウロスを盗んだ犯人だって何で分かったんだ、って事になるじゃないか」
のび太の意見を一蹴するスネ夫。するとしずかが言った。
「ガラパゴスさんに、ミノタウロスの事を忘れてもらう事はできないかしら?」
4人の話を聞いていたドラえもんは、やがてポケットに手を入れた。
※(ドラえもん、ひみつ道具判定…失敗)
「ようし、ここはしずかちゃんの案で行こう。メモリーディスクを…あれ? どこへやったかな? あれでもない、これでもない…」
ドラえもんはポケットから無関係なひみつ道具ばかり出しては、そこら中に置き始めた。
「また始まったか…」
「全く、ポケットの整理をしておかないから…」
呆れるジャイアンとのび太。そうしているうちに…
※(ドラえもん、運試し判定…凶)
「あっ、ダッパさんだわ。ガラパゴスさん達もいるわ」
「えっ、もう!?」
「そんな、早すぎるぜ!」
驚いてそちらを向くドラえもんとジャイアン。
「わー、どうしよう…」
のび太の叫びと共に、慌ててその場でぐるぐる走り回る5人。するとスネ夫が立ち止まった。
「そうだ!」
ドタドタドタ…
スネ夫の後ろでは、彼が急に立ち止まった事に釣られて止まろうとした4人が、止まり切れずにぶつかって将棋倒しになっていた。
「スネ夫、何か手があるのか?」
起き上がりながらジャイアンが尋ねる。
「うん。ここは僕に任せてよ」
スネ夫の自信たっぷりな態度に、とりあえず落ち着いたドラえもん達。やがてダッパ達がやって来た。
「おお、君達か。私のミノタウロスが見つかったというのは本当かね?」
「はい、ガラパゴスさん!」
スネ夫が前に出て答える。
「それで、ミノタウロスはどこかね?」
「ちょっと待って下さい。まずは犯人達を衛兵に突き出さないと」
スネ夫はダッパと共に、衛兵を男達のところへと誘導しつつ、二人でひそひそ話を始める。
「おいダッパ、ミノタウロスの事はどこまで話したんだ?」
「ここでミノタウロスを見つけたって事と、その犯人を捕まえたって事だけだけど…」
「そうか。それで良いんだ」
満足するスネ夫。
衛兵達はドラえもんに促され、気絶したままの男達の両腕を拘束し、ドラえもんが3人を拘束していた世話焼きロープを回収した後、男達を連行していった。
それが終わると、スネ夫はガラパゴスに話し始めた。
「ガラパゴスさん、あなたのミノタウロスの事ですが…」
※(スネ夫、口先判定…成功)
「ふむふむ……何と、ミノタウロスはあのごろつきどもと戦って、海に落ちて死んだというのか!」
「はい。倉庫で賭け事のために無理矢理戦わされて、もうボロボロだったのに、追い詰められた僕達を助けようと、最後の力を振り絞って、あの男達をやっつけてくれて…でも力尽きて、そのまま海に…」
悲し気に答えるスネ夫。ガラパゴスは呆然としている。
「そんな、信じられん…」
「ミノタウロスは本当に立派な奴でした。うっ…そうだよな、みんな!」
スネ夫に突然話を振られて、動揺するドラえもん達4人だったが、何とか話を合わせて演技を始める。
「…そ、そうでした。ぼくがいながら、こんな事になるなんて…うう…」
「あいつは本当に男の中の男だったなあ…」
「私達が助けるはずだったのに、私達の方が助けられるなんて…」
「うわーん!」
ガラパゴスはしばらく肩を落としていたが、やがて顔を上げた。
「そうか…ミノタウロスの事は残念な結果になったが、探してくれた上に、犯人を捕まえてくれた君達には心から感謝するよ。本当にありがとう」
そう言うと、ガラパゴスはダッパの方を向いた。
「しかしダッパ君、ミノタウロスが死んだなら、どうして私に早く言ってくれなかったのだね?」
「そ、それは…」
ダッパが返答に困っていると、スネ夫が助け舟を出した。
「ガラパゴスさん、ダッパは言いにくかったんですよ、きっと。ガラパゴスさんはミノタウロスが戻ってくる事を楽しみにしているのに、まさか、僕達を助けるために死んだなんて…」
「そ、そうです。すみませんでした…」
「それもそうか。私こそすまなかったね。そうだ、私はしばらくこの街にいる予定だが、泥棒を捕まえるのを手伝ってくれた事も含めて、君達にこのお礼はきっとしよう」
そう言い残して、ガラパゴスは去っていった。
「…ふぅ、何とか誤魔化せたな…」
ジャイアンは胸を撫で下ろす。
「だけどぼく達、ガラパゴスさんに悪い事しちゃったね…」
罪悪感にかられるドラえもん。他の5人もそれは同じだった。
「ごめんなさい、みんなを私のわがままに付き合わせちゃって…」
「しずかちゃんが謝る事じゃないよ。ボク達だって賛成したんだし」
「それにさ、あのミノタウロスは毒の鼻息を出せるから珍種だったんでしょ? だったらさ、毒を出せなくなったミノタウロスなんて、ガラパゴスさんにとっても大した価値は無いと思うよ」
しずかを慰めるのび太とスネ夫。
「それにしてもオイラ、あんなにうまく誤魔化せるとは思わなかったよ。スネ夫のおかげだね」
「へへっ、僕って人を説得するのは得意なんだ」
得意気になるスネ夫に、のび太が突っ込みを入れる。
「ただ単に口が上手くて嘘つきなだけでしょ。それよりスネ夫、鼻輪は?」
「ああ、あれならここに隠しといたよ。ガラパゴスさんに見つかったら、嘘がばれちゃうからね」
スネ夫はそう言いながら、近くに置かれていた樽の影から鼻輪を取り出し、ドラえもんに渡した。すると…
「アーッハッハッハッハッハッ…」
「あの笑い声だ!」
ドラえもんは急いでポケットから巻物を取り出して広げる。6人の目の前で、最後の2つのなぞなぞが消え去り、笑い声もおさまった。
「これで全部揃ったね…」
「うん。後はこれを全部、ブリオン岬に投げ込むだけだ」
のび太とドラえもんがそう言うと、それに全員が頷く。
「行こう! ブリオン岬はこっちだ!」
ダッパの声と共に、6人はブリオン岬へと急いだ。
♪イメージBGM:魔界フィールド
ドラえもん達はブリオン岬に着いた。断崖に近寄ると、強烈な潮風が彼らを襲う。はるか下の岩礁で波が砕け散る。
「いよいよだね…」
のび太がつぶやく。
「でも本当に、乗り物なんて手に入るのかな? まさか、謎かけ盗賊にからかわれてた、なんて事はないよね?」
不安気に言うスネ夫に、ジャイアンとしずかが反論する。
「スネ夫、変な事言うなよ。俺達、あんだけ苦労したんだぞ」
「謎かけ盗賊がどういう人かは知らないけど、ここまで手の込んだ事をして、今更何でもなかった、で済ますとは思えないわ」
「何にしても、やってみなきゃ分からないな」
「そうだね、ダッパ君。それじゃ、行くよ…」
ドラえもんはポケットから船の風見、樽、鼻輪を取り出すと、それらを海に投げ込んだ。
風はますます激しくなり、空を走る雲の流れは早くなる。
6人はただそこに立って、何が起きるか待ち続ける。
…そして、数分が経った。
「ねえ、何も起きないよ。ほんとに大丈夫?」
「いや、何も起きないはずはないよ。もう少し待つんだ」
不安がるスネ夫を説得するドラえもん。
「でも、もう数時間は経ってるんじゃないかな」
「何言ってるの、のび太さん。まだ数分しか経っていないわよ」
「これで何も起きなかったら、謎かけ盗賊の野郎、ギッタギタにしてやるぞ!」
のび太達がそんな話をしていると…
「あっ、あれは!」
ダッパが海の向こうにある物を指差した。そこには、一隻の帆船の姿があった。
船が近付くにつれ、風が弱まり、崖下の岩にぶつかる波は激しさを失っていく。
6人は、滑るように岬に近付いてくるガレー船を観察した…
原作「謎かけ盗賊」との設定の相違
・会員制の浴場は、原作では金貨5枚を払えば会員でなくても入れる。ただし、それは浴場の会員達を楽しませるための罠であり、入ると浴槽に電気ウナギを放され、
入浴の際に預けた着替えや持ち物を、道の真ん中に放置される羽目になる。
・街で出会ういたずらっ子の集団は、原作では主人公達が記念品を渡さなければ追い払えない。渡さなかった場合、街での探索が終わるまでずっと連れて歩く事になる。
・原作では、ダッパが”肉とペン大商店”の入墨師や呼び込み役の知り合いという設定は無い。
・原作では、ガラパゴスに2度目に出会うと、財布を取り返してくれたお礼として(2話で説明した通り、原作ではその場でラルゴを倒さなければガラパゴスとの会話イベントが起こらない)、金貨5枚をくれる。
ちなみにガラパゴスとの2度目の出会い、いたずらっ子集団との遭遇、2話の水兵強制徴募隊との遭遇は、街を移動する際にランダムで遭遇するイベントのうちの3つである。
・原作では、主人公達が港で倉庫を発見する時、人間の体らしいものを担いだ2人の男が倉庫から現れ、それを岸壁まで運んで海に投げ込むところを目撃する。
その2人が倉庫に戻る際、倉庫の中から叫び声が聞こえてくる。
・鼻輪を手に入れるには、原作では闘技場での賭け試合に出て、ミノタウロスと戦って殺さなくてはならない。そのため、生きたまま連れ出したり、仲間にしたりする事はできない。
また、殺したミノタウロスから鼻輪を外している間に、怒った殺し屋3人が襲ってきて戦う事になる。
・原作では、ミノタウロスが毒の鼻息を出せるのは、真鍮の鼻輪のおかげとされている。何故、鼻輪を着けたら毒の鼻息を出せるようになったのかは不明。
・原作では、鼻輪を手に入れた後、衛兵やガラパゴスを呼ぶ事は無い。また、鼻輪を手に入れた(ミノタウロスを殺した)後でガラパゴスとの2度目の出会いに遭遇した場合、ガラパゴスにミノタウロスの死を話すと、
泣き出した後、浴場に行かなければと言って去っていく。
・原作では、ブリオン岬の断崖では激しい嵐が吹き荒れている。3つの小物を投げ込むと嵐はさらに激しくなり、ガレー船が近付くと風も波も弱まる。