〜ドラえもん のび太と異世界の盗賊〜


第4話


浮かぶ船




イメージBGM:魔界フィールド
 「あれが…謎かけ盗賊がよこした…乗り物…」

 ダッパがつぶやく。

 「あの船、人は乗ってるのかしら? 外には人が見えないけど」

 「…誰かが操縦しているようには見えないね。それどころか、帆が垂れ下がってるよ。風を受けていないのに走ってる」

 デッキと帆を見つめるしずかとドラえもん。すると突然、のび太が船を指差して騒ぎ始めた。

 「わーっ! あ、あ、あの船、う、う、浮かんでるよー!」

 「バーカ。船なんだから、水に浮かぶのは当たり前だろ!」

 「くだらない事で騒いでんじゃねえよ」

 「そ、そ、そうじゃないってば! あ、あ、あれを見てよ!」

 「全く、何言って…え!?…」

 「う、嘘だろ…!?」

 呆れていたスネ夫とジャイアンだったが、のび太が指差している場所を見て、のび太の言葉の意味を悟った。

 のび太が指差しているのは、船の下部の、海面に接している部分だった。いや、厳密には接していない部分、と言うべきだろうか。

 船は波の上を進んでいた。波をかき分けて進んでいるのではなく、海面よりも上に浮かんでいたのである。

 「やっぱり、ただの船じゃないって事だね」

 ドラえもんがつぶやく。すると不意に船は動きを止め、波の上に何かが吊り下ろされた。

 「あっ、止まったわ」

 「何か降りてくるぞ! あれは…ボート?」

 それはダッパの言う通り、上陸用ボートだった。そのボートが海岸に向かってやってくる。

 「ね、ねえ。あのボートさ、誰も、乗ってないよ…」

 スネ夫がボートを指差して言う。確かにそのボートには誰も乗っていなかった。ボートは6人のいる岬の先の断崖にある、狭いくぼみまでやって来ると、砂の上に乗り上げる。

 「あれは…ボク達に”乗れ”って言ってるんだよね」

 のび太が言う。

 「そうだね。でもその前に…」

 ドラえもんはダッパと向かい合った。

 「ダッパ君、本当にぼく達と来るんだね? 多分、あれに乗ったら、もう後には引けないよ?」

 「…もちろんさ。オイラ、絶対に謎かけ盗賊がやろうとしている事を止めるんだ。ハメット先生のためにも!」

 「おう、それでこそ男だ! その根性、気に入ったぜ!」

 ジャイアンが歓声を上げる。

 「みんな、行きましょう!」

 しずかの叫びと共に、6人は崖の上から海岸まで降りると、ボートに乗り込んだ。ボートはゆっくりと海に滑り出し、ガレー船に進路を向ける。

 そしてガレー船に到着すると、ボートは自動的にガレー船のデッキまで引き上げられた。

 6人の乗船が済むと、ガレー船はものすごい勢いで走り出した。


イメージBGM:海底フィールド
 6人はデッキに立ち、周囲を見回す。デッキはがらんとしていて、櫂や風力を動力とする船のデッキにありがちな、樽やロープ、船の索具といったものは全く置かれていない。デッキは丈夫な黒松でできている。

 デッキには2本のマストが立てられているが、帆は全く風を受けていないのか、ぐにゃりと垂れ下がっている。2本のマストの間には、船倉に降りていくためのものらしいハッチとはしごが付いている。

 下部デッキの両端には扉が一つずつ付いており、前方の扉のすぐ右には「トゥワイス・シャイ」と彫り込まれた真鍮の銘板が取り付けられている。

 上部デッキもがらんとしており、樽やロープどころか舵輪さえ無かった。

 ドラえもんとのび太は、垂れ下がったマストを下から眺める。

 「この船は、誰かが操縦しなくても勝手に動くみたいだね。これなら乗組員が要らないわけだ」

 「それじゃボク達は、このまま乗っていれば、何もしなくても謎かけ盗賊のいるところまで行けるって事?」

 「船の行き先に謎かけ盗賊がいるかどうかは分からないけど、少なくともそこに、謎かけ盗賊に近付く手がかりがあるはずだよ」

 「それにしても、船旅なんて宝島探しの時以来だよね。あの時は海賊と一緒に頑張ったっけ。この世界にも海賊っているのかな?」

 ドラえもんとのび太がそんな話をしている間、ダッパは夢中になってデッキを見回していた。

 「すごいなあ、この船…誰も動かさなくても走るなんて…海の上を浮かんで走るなんて…すごい魔法だ…でも、あの謎かけ盗賊の物だと思うと、複雑だな…」

 少し浮かない顔をして、何気なく船首の方の方を見るダッパ。すると…

 「? なあのび太、あれ、何してるんだ?」

 ダッパは近くにいたのび太を呼び、船首の方を指差して尋ねる。そこではしずかが船首に立って、両手を広げていた。

 「アハハ。しずかちゃんたら、何年も前の映画の真似なんかしちゃって」

 「? 映画って?」

 「あ、映画って分からないか。映画っていうのは…」

 のび太が映画の説明をしようとしたところで、ドラえもんがやって来た。

 「ねえ、のび太君、ダッパ君。スネ夫とジャイアン見なかった?」

 「えっ? 2人がどうしたんだ?」

 「ちょっと目を離してる間にいなくなったんだ。船のどこかに2人で入ったのかも知れない」

 「しょうがないなあ、勝手にいなくなるなんて」

 3人はとりあえず、中央のハッチを覗き込んだ。

 「スネ夫ー」

 「ジャイアーン」

 のび太とダッパが2人を呼ぶ。

 「おう、何だー?」

 返事はすぐに返って来て、ハッチの下に降りていたスネ夫とジャイアンが、ハッチのはしごのところまでやって来た。ドラえもんが顔をしかめる。

 「何だー、じゃないよ。勝手に中に入ったりして」

 「何だよ。中に入るのに、いちいちドラえもんに断らなきゃいけないのかよ」

 「そうじゃないけど、何が起きるか分からないんだから、できるだけ一緒に行動しないと」

 「それよりさ、ちょっとこっちに来てよ。何か面白そうな物があるんだ」

 ドラえもん達を手招きするスネ夫。そこへ、しずかも戻ってきて、ドラえもん達4人はハッチのはしごを降りて船倉に入る。そこは暗く静かな倉庫になっていた。

 床には4つの樽が散乱しており、そのうちの1つはひっくり返って、中身である塩漬けの魚がこぼれ出している。

 「うわっ、魚臭い…」

 のび太が顔をしかめる。

 「ここは食料庫なのかな?」

 ドラえもんが樽を眺めながら言う。

 「いや、僕達が調べたけど、食料はこの魚しかないみたいだ」

 「乗組員が私達しかいないんじゃ、たくさん食料を用意しなくても良いって事ね」

 「食料か…」

 ダッパはそうつぶやいてから、突然顔を上げて言った。

 「あっ、そうだ! ドラえもん、あのミノタウロス出してよ」

 「ミノタウロスを?」

 「あいつ、何も食べてないだろうから、餌をあげようと思ってさ」

 「そういえばそうだね。でも牛って草食だよね? 牛頭のミノタウロスが魚なんて食べられるの?」

 「ミノタウロスは普通の牛と違って雑食らしいんだ。魚だって食べられるはずだよ」

 「分かった。ちょっと待っててね…」
(ドラえもん、ひみつ道具判定…成功)
 ドラえもんはポケットからかるがる持ち運び用紙を出し、ミノタウロスを紙の中から出した。ミノタウロスの傷はすっかり癒えていた。

 「フモー!」

 ダッパが足元に散らばっている魚を拾い上げ、ミノタウロスに差し出す。するとミノタウロスはそれを受け取って、ガツガツと食べ始めた。

 その様子を見て、のび太としずかは笑顔を浮かべる。

 「わあー、食べてる食べてる!」

 「ミノタウロスって、怖い怪物だと思ってたけど、こうして見ると、結構可愛いものね」

 「ほら、まだいっぱいあるぞ」

 足元の魚を拾っては次々と差し出すダッパ。ミノタウロスはそれらを嬉しそうに受け取って、食べ続ける。

 「なあドラえもん、牛の世話もいいけどよ、そろそろ俺達が見つけた物の事も聞いてくれよ」

 ジャイアンが不満そうに言う。

 「あっ、そうだったね。面白そうな物って、何を見つけたんだい?」

 「あれだよ」

 そう言ってスネ夫が指差したのは、船倉の前部にいくつか積み上げられた、小さめの箱だった。

 「あっちにもあるぞ」

 続いてジャイアンが指差したのは、船倉の後部にぼんやりと見える、大きな積荷だった。

 「どっちもさ、蓋が釘で打ち付けられてて、手じゃ開けられないんだ」

 「なるほど、確かに気になるね。こっちから調べてみよう」

 ドラえもんは前部に積まれた箱の方へ向かった。ミノタウロスに餌を与えているダッパを除いた4人もそちらに向かう。

 積まれた箱を降ろしていくと、箱は全部で6つあった。6つとも、蓋がぞんざいに釘で打ち付けられている。

 「釘抜きか何かがあれば開けられそうね」
(ドラえもん、ひみつ道具判定…成功)
 「しずかちゃん、開ける必要は無いよ。これを使えばね…中身ポン!」

 ドラえもんはポケットから、香辛料をふりかける瓶のような道具を出した。振りかけた物から中身だけを取り出し、取り出した中身を元通りに入れる事も可能な粉末状の道具・中身ポンである。

 ドラえもんは早速、中身ポンを箱のうちの1つに振りかけた。すると箱から、きらきら輝く透明の物体が出てきた。

 「何だよこれ…」

 ジャイアンがその物体を覗き込む。

 「手に見えるけど…」

 「ガラスでできた手のようね」

 スネ夫としずかの言う通り、それは傷一つないガラスで作られた、形も大きさも人間のものにそっくりの右腕だった。

 「ねえ、これに手が入ってたって事は、残りの箱に入ってるのは…」

 「多分そうだろうね。試してみよう」

 ドラえもんは残り5つの箱にも中身ポンを振りかけた。5つの箱から出てきたのは、のび太とドラえもんの予想通り、ガラスで作られた左腕、右足、左足、胴体、頭だった。

 「ガラスの人体模型かしら?」

 「うーん、人体模型って言うよりは、ガラスのマネキンのようだけど…」

 ドラえもんが首を傾げながら答える。

 「ねえ、せっかく部品が揃ったんだから、組み立ててみようよ」

 のび太の提案で、ガラスの模型を組み立てる5人。模型は簡単に組み上がり、ガラスのマネキンが出来上がった。

 組み上がったマネキンは微動だにしなかったが、やがてその頭部が、内側からぼうっと光り始めた。

 「あれ、何か光ったよ?」

 「やっぱり、ただの人形じゃないみたいだね」

 のび太とドラえもんが、マネキンの頭を見ながら言う。

 「もしかしたら、僕達の命令通りに動く操り人形かも知れないぞ。歩け! とか言ったら歩いたりして」

 スネ夫がそう言った途端、キリキリキリという音がしたかと思うと…

 「キャッ、動いた!」

 「おい、本当に歩いたぞ!」

 ガラスのマネキンは本当に歩き始めた。ガラスでできているにも関わらず、マネキンの膝は人間のそれと同様に曲がる。胴と足のパーツの接合部分がキリキリキリと音を立てる。

 マネキンは前に歩き続け、船倉の壁にぶち当たり…なおも前進しようとし続けている。

 「止まれ!」

 ドラえもんが命じると、マネキンは直立して動きを止めた。

 「どうやらスネ夫の言う通り、命令通りに動く操り人形のようだね」

 その後、スネ夫とドラえもんが中心になって、マネキンに様々な命令を試していき、その性能を調べた。その間に、ダッパがミノタウロスを連れて5人に合流してきた。 ミノタウロスは、床に散らばった魚を全て平らげて満腹になったらしい。

 「…この人形は、やっぱり命令通りに動く操り人形だね。ガラスでできてるのに、腕も足も、人間の手足のように曲げられるんだ」

 「だけど融通が利かなくて、誰の命令にも従うし、一番新しい命令に従うんだ。命令に従うといっても、単純な命令しか聞けないし、大した事はできないみたいだ。これなら、 僕のラジコンの方がよっぽど高性能だね」

 ドラえもんとスネ夫が調査結果を説明する。

 「つまり、この人形は魔法使いでなくても使える、簡単なゴーレムみたいなものなんだね」

 話を聞き終えたダッパが言う。

 「ゴーレムって?」

 「魔法で命と簡単な知性を与えられた人形の怪物だよ。この世界には、人形や骸骨を操り人形にする魔法がたくさんあるけど、そうやって作られた怪物は、どれもその魔法使いの命令しか聞かないんだ。 この人形は逆に、魔法使いでなくても使えるけど、知性は無いんだね」

 のび太にゴーレムの事を説明すると、ダッパはしばらく間を置いてからこう尋ねた。

 「…ところで、ラジコンって何だ?」

 ドラえもんがその質問に答える。

 「ラジコンって言うのは、リモコンから電波を出して遠隔操作する…つまり、離れたところからでも機械で動かせる、玩具の乗り物や人形の事だよ」

 「こんなもん持ってても役に立たないよ。ガラスの人形じゃ、僕のラジコンみたいに、改造して戦力にできるわけでもないし。放っといて、早くあっちの箱を調べよう」

 「スネ夫の言う通りだぜ。あっちの箱はでかいから、きっと凄い物が入ってるぜ、へへ」

 スネ夫とジャイアンは大きな積荷の方へと歩いて行った。他の4人も、マネキンを置いてそちらへ向かう。

 その積荷は高さ2メートル、長さ3メートルほどあった。

 「ドラえもん、早く中身ポンをこいつにかけろよ」

 ドラえもんを促すジャイアンだったが、スネ夫がそれを止めた。

 「待ってよジャイアン。中に危ないものが入ってるかも知れないだろ。もう少し調べてからにしよう」

 「あら、ここに何か書いてあるわ」

 しずかが指差した場所には、なぞなぞが書かれていた。その内容は…


  ジャングルの王の頭と、丘に生きる生き物の蹄と、足の無いトカゲの尻尾を持ち、宝を守る羽根の生えた生き物のような息を吐くものは何? この箱にはその答えが入っている!


 「…ねえ、スネ夫の言う通り、これには危ないものが入ってるんじゃないの?」

 「オイラもそんな気がしてきたな」

 のび太とダッパが不安そうに言う。

 「みんな、ちょっと箱から離れよう」

 ドラえもんの提案で、箱から離れる6人と1匹。

 「でも、このなぞなぞの答えって何だろう? ちょっと気にならない?」

 のび太が首を傾げながら言う。

 「おう、それもそうだな…ジャングルの王の頭って、ライオンの事だよな?」

 「丘に生きる生き物の蹄ねえ…蹄のある動物って言ったら、馬かな? いや、牛か山羊かも知れないな…」

 ジャイアンとドラえもんが、なぞなぞの答えを考え始める。

 「足の無いトカゲって、もしかして蛇の事かしら?」

 「宝を守る羽根の生えた生き物と言えばドラゴンだな」

 しずかとダッパもそれに加わる。

 「…あっ、分かった! 答えはキメラだよ!」

 スネ夫が叫んだ。その時…

 大きな積荷の側面に打ち付けられていた釘が、弾かれるように外れていった。続いて…


バタン!

イメージBGM:通常戦闘
 側面の板がゆっくりと前に倒れ、箱の中から、大柄な獣の影が姿を現した。どうやらこの箱は、なぞなぞの答えを言い当てると、自動的に開く仕組みになっていたらしい。

 「間違いない、ライオンと山羊と蛇とドラゴンを合わせたら、こいつしかいないよ!」

 「あわわわ…ス、スネ夫…」

 「何だのび太? さてはキメラも知らないな? キメラっていうのは、ライオンと山羊と蛇とドラゴンが合体した伝説の怪物で、口から炎を吐くんだ」

 「ス、スネオさん、後ろ!」

 「?」

 しずかに指摘されて後ろを振り返るスネ夫。そこには、箱から全身を出した怪物の姿があった。

 その怪物は、ライオンの頭と体、山羊の足、蛇の尻尾を持っていた。

 箱の中から出現した獣、それはやはりキメラだった。キメラの出現に驚き、怯えていたドラえもん達だったが、積荷に背を向けていて、話に夢中になっていたスネ夫だけは、背後の状況に気付いていなかったのである。

 「そう! キメラっていうのはこういう怪物なんだ…って、ギャー!」

 ようやく状況を理解したスネ夫。そんな彼に対し、キメラは容赦なく炎を吐いてきた。
(スネ夫、回避判定…成功)
 スネ夫は幸いにも、炎が届く前に逃げる事ができた。キメラは鳴き声1つ上げずに、ドラえもん達に近付いてくる。

 「あわわわわ…こ、この世界じゃ、キメラも実在するんだ…」

 震えながらつぶやくスネ夫。すると、ダッパのそばにいたミノタウロスが6人の前に立ち、キメラに立ち向かった。

 「フモー!」

 ミノタウロスとキメラ。怪物同士の戦いが始まった。
(ミノタウロスVSキメラ 戦闘判定3回…ミノタウロスの攻撃が1回、キメラの攻撃が2回命中。さらにキメラの炎攻撃が命中)
 戦闘の行方は、始めはミノタウロスがキメラに頭突き攻撃を決めるも、キメラは前足の蹄による蹴飛ばし攻撃や噛み付き攻撃で反撃し、さらに炎による攻撃で追い討ちをかけ、キメラが優位に立った。
(ドラえもん、ひみつ道具判定…成功)
 炎のダメージで体勢を崩したミノタウロスに近付くキメラ。その時…
(のび太とドラえもん、射撃判定…2人とも成功。キメラに命中)

バシュッ! ドカンッ!!


 キメラは横から飛んできた、一筋の光線と空気の塊の直撃を受けてよろめいた。のび太のショックガンと、ドラえもんの空気砲である。

 のび太達の方に向き直るキメラ。のび太の隣では、ジャイアンが樽を持ち上げていた。
(ジャイアン、剛力判定…成功)
 ジャイアンは力任せに樽をキメラ目掛けて投げつける。キメラは咄嗟に前足で樽を叩き壊すも、樽の破片や中身の魚はキメラの顔面に命中し、キメラを怯ませる。

 だが…ここで思わぬ事態が起こった。

 「チュウ〜」

 「ネ、ネ、ネズミだ〜!!」

 あろう事か、ジャイアンが投げた樽の中に、1匹のネズミが隠れていたのである。しかも、樽が破壊された事で外に飛び出したネズミは、ドラえもんの方へと走り出した。
(ドラえもん、運試し判定…吉)
 「ギャーーーーッッ!!」

 ネズミを大の苦手とするドラえもんは、気が動転し、はしごの方へと走り出す。だが、はしごにたどり着く前に、樽につまづいて転んでしまった。

 なんとか起き上がろうとするドラえもん。そこへ走ってくるネズミ。

 「う、う、うわあああ!!」
(ドラえもん、射撃判定…成功。ネズミに命中)
 パニックに陥るドラえもん。しかし次の瞬間、彼が見たのは、ネズミが空気の塊に弾き飛ばされる姿だった。

 パニックの中で、破れかぶれに放った空気砲がネズミに命中したのである。

 「ふぅ…」

 ネズミを撃退して安堵するドラえもん。ここで彼が、仲間を放り出して逃げ出さずに済んだのは不幸中の幸いだったかも知れない。戦闘は続行中なのだから。
(のび太、ジャイアン、ミノタウロスVSキメラ(3人同時攻撃可能) 戦闘判定…キメラの攻撃が3人に命中)
 「うわぁっ!!」

 「いてっ!!」

 ここで聞こえた2つの悲鳴に、ドラえもんは我に返った。見ると、のび太とジャイアンがキメラの突進を受けて弾き飛ばされていた。ネズミを見てパニックに陥ったドラえもんに気を取られ、キメラの接近を許してしまったのだ。

 さらに追い討ちをかけようとするキメラに、ミノタウロスが掴みかかる。だが彼も、キメラの尻尾に絡みつかれ、それを何とか振りほどくも、キメラの攻撃で弾かれてしまう。

 まだ体勢を立て直していないのび太とジャイアンに襲いかからんとするキメラ。その時…

 「走れ!」

 スネ夫の声が響いたかと思うと、ガシガシと走る音が聞こえてきた。

 キメラが振り向くと、ガラスのマネキンがキメラ目掛けて走ってきた。

 「そいつを殴れ!」

 スネ夫が叫ぶ。するとマネキンはキメラに殴りかかった。
(マネキンVSキメラ 戦闘判定2回…キメラの攻撃が2回命中)
 マネキンがキメラの気を引いている間に、ドラえもん、のび太、ジャイアン、ミノタウロスは何とか立ち上がる。

 「ドラえもん、今だ!」

 「ドラちゃん、スモールライトを使って!」

 「そうか!」

 柱の後ろに隠れていたダッパとしずかの声に反応し、ドラえもんはポケットに手を入れた。
(ドラえもん、ひみつ道具判定…成功)
 「スモールライト!」

 キメラはマネキンを簡単に砕いてみせた。マネキンを始末し、次の敵を迎え撃とうと振り返るキメラ。
(ドラえもん、射撃判定…成功。キメラに命中)
 だが、キメラはドラえもんが出した、物を小さくする光を出す懐中電灯のような道具・スモールライトから発せられた光に照らされる。

 次の瞬間、キメラはみるみるうちに小さくなり、猫くらいの大きさになった。

 「ふぅ…」

 小さくなって動揺するキメラを見て、胸を撫で下ろすドラえもん。

 「はぁ…助かった…」

 「何とか勝てたな…」

 のび太とジャイアンも、安堵からその場に座り込む。

 小さくなったキメラは、しばらく周囲を見回した後、油断しているドラえもん目掛けて炎を吐こうとする。しかし…

 「フモー!」


ドカッ!


 そこへやって来たミノタウロスが右腕を振り下ろし、キメラを叩き潰してしまった。


イメージBGM:海底フィールド
 「わっ! びっくりした…ありがとう、ミノタウロス」

 驚きつつも、助けてくれたミノタウロスに礼を言うドラえもん。そこへ他の5人も集まってくる。

 「でも、ここまでする事なかったんじゃない?」

 潰れたキメラと、まだその上に乗っているミノタウロスの右腕を見て、しずかが言った。

 ミノタウロスは下ろしたままの右腕を引き戻した。それを見て、キメラの死体がグロテスクな状態になっている事を想像する6人。

 だがキメラの死体は、想像以上に綺麗な状態だった。潰れてはいるものの、内蔵はおろか出血さえしておらず、まるで本物そっくりの人形を潰したかのようだったのだ。ドラえもんがそれを拾い上げ、調べてみると…

 「…こ、これは…剥製だ!」

 「は、剥製だって!?」

 「マジかよ!?」

 「うん。これを見て。中は綿みたいな物が入ってるし、目はガラス球だよ」

 驚いて死体を覗き込むのび太とジャイアン。他の3人もそれに続く。ドラえもんの言う通り、キメラの皮膚についた傷からは、白い綿のような物体が見えるし、目玉は確かにガラス球だった。

 「本当だわ。これは確かに剥製ね。そういえばこのキメラ、一度も鳴かなかったわね」

 「で、でもさ、こいつ、確かに動いて襲ってきたし、炎まで吐いたよね? 剥製なのに?」

 しずかとスネ夫も目を丸くする。

 「魔法で作られたゴーレムの一種なのかもな。でも、ここまで本物そっくりに動いて、炎まで吐けるなんて…」

 ダッパも驚いている。

 「ぼくの道具の中にも、ロボッターとか生命のネジとか、無生物を動くようにしたり、命を与える道具があるけど…この船といい、あの人形といい、剥製といい、謎かけ盗賊には、 ぼくの道具にも負けない道具を作れる技術があるんだね…」

 6人は謎かけ盗賊の魔法技術に、改めて驚愕した。

(ドラえもん、ひみつ道具判定…成功)
 その後、ドラえもんはお医者さんカバンを出して、戦いで大きく傷ついたミノタウロスを治療する。

 「ミノタウロスはもう立派に、ぼく達の仲間だね」

 ミノタウロスに薬を飲ませながらドラえもんが言う。するとのび太が、ある事を提案した。

 「ねえ、ミノタウロスって怪物の名前なんでしょ? もっとちゃんとした名前付けてあげようよ」

 「そうだな。俺達の仲間だもんな」

 ジャイアンも賛同する。

 「そうね。モーちゃんってのはどう?」

 「アハハ。しずかちゃん、いくら何でもそれはないよ」

 しずかのネーミングを笑うスネ夫。するとミノタウロスに付き添っていたダッパが、5人の方を向いて言った。

 「ハーランってのはどうかな?」

 「ハーラン?」

 「この世界で信仰されている、牛の神の名前だよ」

 「なるほど、この世界の人だから思いつく名前だね。良いかもね」

 感心するドラえもん。

 「よし、決めた! お前は今日からハーランだ!」

 「フモモー!」

 ダッパはミノタウロスの手を握り、命名する。ミノタウロス改めハーランは、嬉しそうに鳴き声を上げた。

 その後、6人は船倉をさらに調べたが、特にめぼしい物は見つからなかった。

 6人は船倉を出る事にし、ドラえもんはハーランをかるがる持ち運び用紙に戻すと、ポケットに戻した。ハーランの大柄な体では、はしごを登ってハッチを出るのは難しいと判断したからである。

 さらにハーランの餌として、船倉に残っていた樽2つもポケットにしまう。

 「ねえドラえもん、この人形も直して持って行けないかな? 何かの役に立つかも知れないし」

 のび太が壊れたマネキンのそばに立って言う。

 「そんな物、放っとけよ。直したって、またすぐに壊れちまうぞ」

 ジャイアンは取り合わない。

 「でも役に立ったじゃん。ボク達が助かったのも、これのおかげなんだし」

 「それはこれを囮にする事を思いついた、僕のおかげと言って欲しいね」

 スネ夫が自慢気に言う。

 「うーん、確かに何かの役に立つかも知れないし、持って行こうか」

 そう言うとドラえもんは、ポケットに手を入れた。
(ドラえもん、ひみつ道具判定…成功)
 「復元光線!」

 ドラえもんは壊れた物を一瞬で元通りに修復する光を出す、望遠鏡のような形状の道具・復元光線を取り出し、そこから発する光を壊れたマネキンに当てた。するとマネキンはみるみるうちに修復された。

 ドラえもんは修復したマネキンをポケットにしまい込んだ。

 またドラえもんは、この船では何が出るかわからないという事で、全員に武器を配る事にした。ドラえもんは空気砲をそのまま装備し、のび太はショックガンを引き続き使う事にした。

 先ほど出したスモールライトをしずかに渡すと、ドラえもんはポケットに手を入れて、中を探り始める。
(ドラえもん、ひみつ道具判定4回…3回成功)
 「スネ夫には…空気ピストルがあるな。ジャイアンには…ショックスティックがあった。ダッパ君には、この世界の人間でも分かるような武器が良いかな…チャンピオングローブは… あれ、見つからないな…スーパー手袋があった。これにしよう」

 スネ夫には、指に装着して「バン」と叫ぶと空気の塊を発射する、空気砲の小型版・空気ピストルを渡す。

 ジャイアンには、柄のスイッチを押す事で電撃を発する石槍状の武器・ショックスティックを渡す。

 ダッパには、はめると怪力を発揮できるスーパー手袋を渡し、その効果を説明した。

 武装を済ませた6人は、はしごを登って船倉を出た。



 船倉から下部デッキに戻った6人。

 「次はどこへ行こうか?」

 のび太がみんなに尋ねる。

 「次はこっちへ行ってみましょうよ」

 「いや、こっちへ行こうぜ」

 しずかは船尾側の扉を、ジャイアンは船首側の扉を、それぞれ指差している。

 「ねえ、どこにも行かないで、このままここにいた方が良くない?」

 「どうしてだい、スネ夫?」

 スネ夫の思わぬ発言を不思議がるダッパ。

 「だってさ、さっきキメラに襲われたばっかじゃん。船の中を調べてたら、またあんな化け物が出てくるかも知れないでしょ。 だったらさ、このままここにいた方が安全じゃん」

 「何だよスネ夫、情けねえな。それでも男か!」

 「そうだよ。そういう時のために、ドラえもんが武器を貸してくれたんじゃないか」

 「だって、何があるか分からないじゃん…」

 スネ夫をなじるジャイアン。ダッパも呆れている。だがスネ夫はキメラの件で、すっかり怖気づいてしまっている。その時…

 「ワーッ! きょきょきょ、恐竜だー!!」

 海の方を見ていたのび太が、海を指差して騒ぎ始めた。

 「え? 恐竜?」

 ドラえもんがのび太の指差す方向を見る。他の4人もその方向を向いたが、そこには静かな海があるだけだった。

 「何言ってんだよのび太。恐竜なんていねえじゃねえか」

 「い、いや。さ、さっきまで、確かに首長竜がいたんだよ!」

 「バーカ。恐竜も首長竜も大昔に滅びてるじゃないか。ただの見間違いだろ」

 「滅びてる? みんなのいる世界では、恐竜は大昔に滅びてるの?」

 のび太達の話を聞いて驚くダッパ。ダッパのその反応に、逆に驚かされるドラえもん達5人。

 「滅びてるって言っても、それは地上の話で、地底には生き残りがいるんだけど…それよりも、この世界じゃ、恐竜は地上で生きているって事なの?」

 「そうだよ。と言っても、大昔はもっとたくさんいたらしいけど、今じゃその殆どが滅びていて、ほんの十数種類しか残っていないけどね」

 ドラえもんの質問にダッパが答えると、スネ夫とジャイアンが身を乗り出してきた。

 「それじゃ、この世界じゃティラノサウルスやプテラノドンもいるのか?」

 「ブラキオサウルスやアンキロサウルスは?」

 「うーん、ティラノサウルスやプテラノドンやブラキオサウルスはいるけど、アンキロサウルスは滅びてるらしいよ」

 「それじゃあダッパ、フタバスズキリュウもいるの?」

 のび太の質問に、ダッパは首を傾げる。

 「フタバスズキリュウ? 聞いた事が無いな」

 「首長竜の一種だよ。のび太君は前に、フタバスズキリュウの子供を育てた事があるんだ」

 ドラえもんが説明する。

 「首長竜か…首長竜ならプレシオサウルスがいるよ…あれ? 首長竜を育てた? のび太達のいる世界じゃ、絶滅してるんじゃ…いや、地底では生き残ってるんだっけ…」

 「ああ、混乱させてごめんね。のび太君は、首長竜の卵の化石を見つけたんだよ。それをタイムふろしきで…物を古くしたり新しくしたりできる、ぼくの道具だけど…それで元の卵に戻して、卵を孵して育てたんだ」

 「へえ、恐竜を自分で卵から育てた子供なんて、オイラの世界でも聞いた事が無いや」

 感心するダッパ。ここでのび太が思い出話を始める。

 「名前はピー助って言うんだ。でも、育ててるうちに、いつまでもボク達の時代で育てるわけにもいかなくなってね。悲しいけど、ピー助には本来生きてた世界で暮らすのが一番良いと思ってね、 それでタイムマシン…ドラえもんの道具で、大昔の海に送り返したんだ」

 「ふーん、そんな事があったんだ…」

 スネ夫とジャイアンも話し始める。

 「実は俺達、その後でピー助に会いに、大昔へ行ったんだぜ。そこでピー助を狙う悪い恐竜ハンターをやっつけたんだ」

 「そういえば僕達、生き残りの恐竜や、恐竜から進化した恐竜人が住んでる地底の国に行った事もあったよね」

 のび太が首長竜を見たという話だったのが、いつの間にか思い出話で盛り上がる。ここでしずかが話を戻した。

 「ねえ、この世界にプレシオサウルスがいるって事は、さっきのび太さんが首長竜を見たっていうのも、見間違いとは限らないって事よね?」

 「そうだな。この世界じゃ、船が首長竜に襲われる事なら、たまにあるからね」

 「そうだよね? しつこいようだけど、ボクは間違いなく首長竜を見たんだ」

 しずかとダッパの言葉に元気づけられて、力説するのび太。その時…


ザバァァァァァァァァァァ!!

イメージBGM:通常戦闘
 突如、船の進行方向から見て右側の海面が盛り上がったかと思うと、噂の張本人、プレシオサウルスが首を突き出して、デッキにいる6人を睨みつけた。

 「ほ〜らみろ! ほ〜らみろ!」

 「喜んでる場合かよ!」

 浮かれ騒ぐのび太に突っ込むジャイアン。

 「こんなパターン、ずっと前にも無かったっけ?」

 「あったね! たしか海底で…」

 スネ夫とドラえもんは、過去に海底でお化けイカに襲われた時の事を思い出した。

 「みんな、騒いでないで逃げろ! 喰われちゃうぞ!」

 ダッパの叫びに、慌ててデッキの左側へと逃げ出す面々。プレシオサウルスはスネ夫を狙って首を伸ばしてきた。
(スネ夫、回避判定…成功)
 「ウワーッ! ママー!」

 幸い、スネ夫は今回も逃げ切る事ができた。

 「ここは任せて!」
(しずか、射撃判定…成功。プレシオサウルスに命中)
 しずかはプレシオサウルスの方を振り向いて、持っていたスモールライトのスイッチを入れた。

 ライトの光を浴びたプレシオサウルスはみるみるうちに小さくなっていき、それに伴って泳ぐ速度も落ち、真っ直ぐ進んでいく船からどんどん離されていった。


イメージBGM:海底フィールド
 「あ〜びっくりした…」

 「しずかちゃんのおかげで助かった…」

 安堵してその場に座り込むのび太とスネ夫。

 「スネ夫、さっき君は、このままここにいた方が安全だって言ったけど、ここも安全じゃないみたいだね」

 「う〜…」

 ドラえもんの指摘に、言い返す事ができないスネ夫。

 「それで、どっちに行くんだい?」

 「決めたよ。こっちの扉にしよう」

 ダッパの質問に対し、ドラえもんが右手で指し示したのは、しずかが選んだ船尾側の扉だった。

 「何だよ、こっちじゃねえのかよ」

 「だって、さっきはしずかちゃんが助けてくれたんだよ? だったらここは、しずかちゃんの意見を優先するべきだと思うんだ」

 「そ、そりゃそうだけどさ…」

 「それじゃあ決まりね。行きましょう」

 ドラえもんの言う事に渋々従うジャイアン。座り込んでいたのび太とスネ夫も立ち上がり、6人は船尾側の扉を開けて中に入った…


 原作「謎かけ盗賊」との設定の相違

 ・原作のマネキンには、手足が人間同様に曲がるという設定は無い。原作では「簡単な命令を聞き分けて、できる範囲でその通りに動く」としか説明されておらず、肘や膝、指等がまともに動くかどうかは不明。

 ・原作のキメラは、剥製ではなく本物である。また、キメラの箱がなぞなぞの答えを言うと開くというのはオリジナル設定であり、原作のキメラは普通に蓋を開けないと出現しない。

 ・ミノタウロスが仲間になるという事自体が原作に無い展開なので、ミノタウロスが雑食というのも、塩漬けの魚がミノタウロスの餌になるというのもオリジナル設定。 ただし、タイタン世界の設定では、ハーランという牛の神は存在する。 ちなみに蓋の開いていない魚入りの3つの樽のうち、1つにネズミが隠れているというのは原作通りの設定で、樽を開けると飛び出し、開けた者に噛みついてから去っていく。


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