〜ドラえもん のび太と異世界の盗賊〜


第5話


地図の上の航海




イメージBGM:海底フィールド
 船尾側の扉の先には、横向きの狭い廊下があり、向かい側の壁には3つの扉が並んでいた。

 廊下は右側は行き止まりになっており、左側には下の階へ降りるためのハッチとはしごがあった。

 ドラえもん達は相談した結果、まずは真ん中の扉を試す事にした。


 真ん中の扉を開けると、そこはかなり広い船室だった。

 部屋には各種の地図や六分儀等の航海用具が収められている。部屋にでんと置かれた大きなテーブルの上には、巧妙に作られた立体地図が乗せられている。

 「ここは…海図室みたいだね」

 周囲を見回しながらドラえもんが言う。

 「あれは何かしら?」

 しずかが指差した物は、立体地図の上に置かれた、2つの物体だった。

 1つは海の部分に置かれている船のミニチュアらしき物、もう1つは陸地の部分に置かれている、キャベツくらいの大きさの、毛むくじゃらの球体のような物体である。

 6人が近付いて見ると、ミニチュアは6人が今乗っている「トゥワイス・シャイ」号のミニチュアだった。地図の縮尺よりはずいぶん大きく、地図の上に浮き上がっているように見える。

 毛玉のような物体は眠っている生き物らしく、満足そうないびきをかいている。

 「ブルブル…あれってまさか、またネズミじゃないよね…?」

 震えながらドラえもんが言う。

 「ネズミじゃないと思うけど…あれ、もしかしてドラえもんって、ネズミが嫌いなのか?」

 ダッパは船倉で、ドラえもんがネズミを見てパニックに陥った事を思い出した。

 「そうなんだよ。ドラえもんはネズミが死ぬほど嫌いなんだ。いつだったか、ネズミ1匹だけで大騒ぎして、家ごと吹き飛ばそうとした事もあったんだ」

 「い、家ごと…?」

 「ちょっとのび太君、余計な事しゃべらないでよ」

 思わず絶句するダッパと、ムッとして抗議するドラえもん。だがのび太も、さすがに地球破壊爆弾まで出した事がある、という事実までは話さなかった。

 「それにしても、これってこの船だよね? よくできてるなぁ」

 のび太は感心しながらミニチュアを眺め、指で軽く突いた。ミニチュアが左右に揺れる。その時…


グラグラグラッ!!


 「「「「「「わあああああああ!!!」」」」」」

 突如、船が揺れ動き、6人は床に投げ出されてしまった。

 「いったーい…」

 「いたたたた…」

 「みんな、大丈夫?」

 のび太、スネ夫、ドラえもんが声を上げる。

 「オイラは大丈夫だけど…」

 「何だよ、急に揺れやがって…」

 「でも変ね。さっきまで、こんなに揺れた事無かったのに…」

 突然の揺れに動揺しつつ、床から起き上がる6人。

 「…!? 待てよ、もしかして…」

 「どうしたの、ドラえもん?」

 のび太がドラえもんの顔を見る。

 「みんな、その場から動かないでくれる? ちょっと確かめたい事があるんだ」

 ドラえもんはそう言うと、床に散乱している航海道具の中から、小さな望遠鏡を拾ってから、立体地図に近付いた。立体地図の上には、船のミニチュアが先ほどと同じ位置に置かれている。

 そしてドラえもんは、望遠鏡の先端で、注意深く船のミニチュアに触れた。その時…

  ブルブルッ…

 「「「「「!?」」」」」

 船が少しだけ振動した。

 「やっぱりそうか。分かったよ。このミニチュアは、この船の舵取り装置なんだ。だからこのミニチュアを揺らしたら、この船も一緒に揺れるんだ。 その証拠に、さっきあれだけ揺れたのに、このミニチュアは倒れるどころか、動いてもいないだろ?」

 確かにその通りだった。周囲には揺れの影響で、航海道具が散乱しているのに、ミニチュアは6人が最初に部屋に入った時と同じ位置にあり、同じように置かれている。

 「それじゃあ、もしそれを倒したりなんかしたら?」

 「この船は転覆するだろうね」

 「……」

 のび太の質問にあっさりと答えるドラえもん。思わずゾッとするのび太達。

 「…待てよ。という事は…僕達がこんな目に遭ったのは、のび太のせいって事か。のび太がミニチュアを揺らしたから、船が揺れたんだもんな」

 「の〜び〜太〜!!」

 のび太に迫るスネ夫とジャイアン。

 「あわわわ…ご、ごめん…」

 「2人ともやめなさいよ。しょうがないわよ。のび太さんだって知らなかったんだから。みんなだってそうじゃない」

 「でも、早く気付いて良かったよ。もしこのまま気付かないで、船をひっくり返したりしたら、オイラ達、ここで海に沈むところだったよ」

 しずかとダッパの言葉に、渋々引き下がるスネ夫とジャイアン。何とか落ち着いた6人だったが、ここで落ち着いてくれない者がいた…

 それは、立体地図の上にあるもう1つの物体、いや、厳密には立体地図の上で眠っている毛玉状の生物である。

 6人はミニチュアに気を取られて眼中に無かったのだが、立体地図の上で眠っていた生物は、今は揺れの影響で、6人が最初に部屋に入った時とはかなりずれた位置にいた。

 あれだけ揺れた上に、その後もドラえもん達が部屋で騒いでいたのである。こんな状態でも眠っていられるほど、この生物の神経は図太くはなかった。そして…


ウオオオオオオオオオォォォ!!


 「「「「「「わあああああああ!!!」」」」」」

 今度は恐ろしい叫び声が部屋中に響き、6人は再び悲鳴を上げる羽目になった。

 6人は恐ろしい怪物が現れたのではと怯えながら、周囲を見回した。だが彼らが見たものは、立体地図の上を走り回る、ずんぐりした2本の足が生えた、毛玉状の生物だった。 恐ろしい叫び声は、その生物から発せられていたのである。

 動揺しながらも、その生物を眺める6人。

 「…こいつはジブジブだ!」

 「ジブジブ!?」

 「見た目通りの臆病で弱い動物だよ! だから強い動物から身を守るために、こんなすごい叫び声を上げるんだ!」

 ジブジブの叫び声が響いているので、怒鳴り声で会話するダッパとのび太。

 「それじゃあ、これは危ない動物じゃないのね!?」

 「いや、十分危ないよ! だってさ、放っといたらこいつがミニチュアひっくり返しちゃうかも!」

 ジブジブは走り回りながら、船のミニチュアにかなり近づいている。このままでは、スネ夫の不安が的中しかねない。

 「こいつっ! このっ! おとなしくしやがれ!」
(ジャイアン、運試し判定…凶)
 ジブジブを捕まえようとするジャイアンだったが、ジブジブはすばしっこく、失敗に終わった。
(ドラえもん、ひみつ道具判定…成功)
 「ここはぼくが何とかするよ! 桃太郎印のきび団子!」

 ドラえもんはポケットから桃太郎印のきび団子を取り出し、立体地図の上に投げた。

 ドラえもんの作戦は功を奏し、ジブジブはきび団子に飛びつき、それを食べておとなしくなった。

 こうして、最悪の事態を免れた6人は、今度こそ安心して海図室を調べ始めた。

 調べた結果、この部屋にある物で役に立ちそうなものは、たくさんの海図だけだった。

 ドラえもんは見つけた海図の山を整理し始めた。のび太はそれを不思議がる。

 「ドラえもん、海図なんか集めてどうするの? この船、自動で目的地まで行くんでしょ?」
(ドラえもん、ひみつ道具判定…成功)
 「いや、これは役に立つよ。こういう使い方をすればね。どこでもドア!」

 ドラえもんはポケットから、行きたい場所に一瞬で行ける、ドラえもんの代表的ひみつ道具の1つ・どこでもドアを出す。

 「何だい、このドアは?」

 「これはどこでもドアと言ってね、行きたい場所ならどこにでも行けるドアなんだ」

 「ふーん。この世界じゃ、転送の魔法がかけられた扉なら、一部の強力な魔法使いが作ってるけど、どこにでも自由に行けて、持ち運びができるなんて、やっぱり凄いな」

 ドラえもんの説明を聞いて感心するダッパ。

 「でもドラちゃん、これからどこへ行くの? 目的地ならこの船に乗っていれば行けるんでしょ?」

 「そもそも、分かりもしない目的地に、どこでもドアで直行なんてできないじゃん。もしかして、一度カラメールに帰っちゃうの?」

 しずかとスネ夫の質問に、ドラえもんはドアをいじりながら答えた。

 「いや、それは無理だよ。どこでもドアで行けるのは、ドアに記憶されている地図の範囲内か、一度行った事のある場所だけなんだ。この世界の地図は記憶されていないし、 この世界ではひみつ道具の力が弱まるから、一度行った事のある場所も、多分行けないだろうね」

 「それじゃ、何の役にも立たねえじゃねえか!」

 「だからこれから、役に立つようにするんだよ。この海図を使ってね」

 怒鳴るジャイアンに対し、ドラえもんはそう答えると、どこでもドアの表面の一部をスライドさせて細長い穴を露出させ、そこに海図の端を当てた。すると海図は自動販売機の紙幣投入口に入れた紙幣のごとく、自動的にその穴に吸い込まれていった。

 「こうやってこの世界の地図を記憶させておけば、どこにでも、とまではいかなくとも、一度行った事のある場所なら行けるようになるはずだよ」

 こうして、ドラえもんはどこでもドアに次々と海図を記憶させていった。それが終わると、6人はおとなしくなったジブジブを残して部屋を出た。



 廊下に戻った6人は相談の末、次は左の扉を試す事にした。

 左の扉を開けると、そこはギャラリーらしく、左右の壁に様々な絵が掛かっている。奥の壁には大きめの絵が掛かっているが、その上には黒い布がかぶされている。 床には絨毯が敷かれているが、家具は一つも置かれていない。

 「この絵って全部、謎かけ盗賊が描いたのかしら?」

 「どうだろうね。それにしても上手いなあ」

 左右の壁に掛かった絵を眺めつつ、絵の出来に感心するのび太。絵は全部で5枚あった。

 1枚目の絵は、荒れ果てた戦場で、黒い鎧を身に着けた悪魔が、高貴な騎士の打ちひしがれた盾の向こうを、禍々しい斧でなぎ払おうとしているものだった。

 2枚目の絵は、優しそうな領主が部下達と共に食事をしているところであり、領主はワインを飲もうとしていた。背景に描かれた、控えの間から覗いているイタチのような顔つきの召使いが、 黒い液体の入った瓶を握りしめていた。

 3枚目の絵は、空中から崩れかけた塔の屋上を見たところであり、翼を持った怪獣に掴まれた美しい女性が、重傷を負った男から引き離されそうになっていた。

 4枚目の絵は、幼い子供が本を読んでいるところであり、その子供は気付いていないが、背後に渦を巻いている煙の中から、何者かが姿を現わそうとしていた。

 5枚目の絵は、だらしない身なりをした冒険者が、地下迷宮の床にはめられた格子の間に手を突っ込んで、そこに落ちた剣を手探りしているところだった。格子の下には骨ばったクモかカニを思わせる、 不気味な生物が這い回っていた。

 「これはゴンチョンだな」

 5枚目の絵を見ていたダッパが、絵の中にいる不気味な生物を指差して言う。

 「こいつ、ゴンチョンって言うのか? ハッハッハ、変な名前だな」

 笑うジャイアン。だがダッパは真面目な表情で説明を続ける。

 「確かに変な名前だけど、ゴンチョンはこの世界で最も恐ろしい寄生生物って言われているんだ」

 「そんなに恐ろしい怪物なの?」

 スネ夫がゾッとする。

 「うん。こいつは人間や人間型種族の頭に貼り付いて、この尖った足をその人の頭に突き刺して、その人の心を乗っ取るんだ。乗っ取られた人はゴンチョンの意思のままに、 凶悪な事ばかりするようになるんだ。乗っ取られた人はものすごく強くなるし、ゴンチョンも乗っ取られた人も、魔法の武器でしか傷つけられないんだ」

 「本当に恐ろしい怪物ね…」

 「それにしても、ここの絵ってみんな、誰かが危険な目に遭ってるところばかりだね」

 ドラえもんが言う。するとのび太が、黒い布がかぶさった、大きめの絵を指差した。

 「ねぇ、この絵は何だろう?」

 「どれどれ、ちょっと見てみるか」

 「あ、ちょっとジャイアン! 下手に手を出したら…」

 ジャイアンは絵に歩み寄ると、スネ夫の言葉も待たずに、絵にかぶせられた布を取った。

 布の下にあったのは、謎かけ盗賊の肖像画だった。

 「何だよ、あいつの絵かよ」

 「なあんだ。危ない物でも出てくるのかと思った」

 がっかりするジャイアンと、安堵するスネ夫。だが次の瞬間、スネ夫の懸念は的中した。

 絵が急に動き出したのだ。

 「動くな、我が奇妙なる芸術愛好家達よ。我がコレクションが気に入ったようだね。もっとそばで見たいことだろう!」

 「わあっ! 絵がしゃべった!!」

 のび太が絵を指差して飛び上がる。

 「アーッハッハッハッハッハッ…」

 そして、部屋中にものすごい笑い声が響き渡ったかと思うと、部屋中が白い光に包まれた。

 「「「「「「うわぁぁぁっ!」」」」」」

 …そして光は消えた。

 「…!?」

 ダッパが目を開くと、そこは先ほどと変わらないギャラリーの中だった。…いや、変わっている点はあった。

 「あれ、みんなは? ドラえもん、のび太、みんな、どこ行ったんだ!?」

 そう、ギャラリーにはダッパ以外の者がいなかったのである。驚いて周囲を見回すダッパ。その時、1枚目の絵が彼の視線に入った。

 「こ、これは…ドラえもん!?」

 その絵には、最初から描かれていた、悪魔が騎士に襲いかかる場面に加え、それを横から見ているドラえもんの姿が描かれていたのだ。

 「何でドラえもんが…まさか!」

 ダッパは残りの絵も確認する。そして、彼の予感は的中した。

 残り4枚の絵には、のび太、しずか、スネ夫、ジャイアンの姿が、それぞれ描き足されていたのだった…

イメージBGM:通常戦闘
 「…ん?…」

 ドラえもんが目を開くと、そこは荒れ果てた戦場だった。

 「こ、ここは?…あっ!」

 次にドラえもんが見たもの、それは、黒い鎧を身につけた悪魔が、打ちひしがれた盾を構えた高貴な騎士に、今まさに斧を振り下ろそうとする瞬間だった。

 「させないっ!」

 ドラえもんは咄嗟に、右手に装着していた空気砲を発射した。
(ドラえもん、射撃判定…成功。悪魔に命中)
 空気砲は見事に悪魔に命中し、悪魔はよろめいて斧を取り落とした。

 騎士は突然の助太刀に動揺しつつも、持っていた剣で悪魔にとどめをさした。

 次の瞬間、ドラえもんの周囲はギャラリーで見たものと同じ、白い光に包まれていった…


 同じ頃、のび太は領主の食事の場面に出くわしていた。ただし、のび太のいる場所は控えの間であり、やや離れた位置に、黒い液体の瓶を持った召使いがいる。

 召使いは突然現れたのび太に動揺している様子だ。一方、食事中の領主は今まさにワインを飲もうとしている。領主とその部下達は、控えの間に現れたのび太には気付いていない。

 「危ないっ!」
(のび太、射撃判定…成功。ワイングラスに命中)
 のび太は咄嗟に、ホルスターからショックガンを抜いて、領主のワイングラスを狙い撃ちする。

 次の瞬間、ワイングラスは砕け、ガラスの破片と中身がテーブルにぶちまけられる。

 突然ワイングラスを破壊されて呆然とする領主と部下達。ぶちまけられたワインからは、酸を思わせる白い煙が立ち昇っている…


 一方、しずかは崩れかけた塔の屋上に立っていた。目の前には傷ついた男が倒れている。男の向こう側では、翼を持った怪獣が女性を掴み、今まさに飛び立とうとしていた。

 「助けなきゃ!」
(しずか、射撃判定…成功。怪獣に命中)
 しずかは急いでスモールライトを怪獣に向け、スイッチを入れた。スモールライトに照らされた怪獣はたちまち小さくなり、やがて捕らえていた女性をその場に落としてしまう。

 怪獣から解放された女性は屋上に降り立つと、傷ついた男へと駆け寄った…


 その頃、スネ夫はどこかの家の部屋に出た。部屋には大きな本棚があり、その前で幼い子供が本を読んでいる。

 子供の背後では、渦巻く煙の中から悪魔らしき怪物が実体化しつつある。

 「やめろっ!」
(スネ夫、跳躍判定…成功)
 スネ夫は急いで子供に飛びつき、読んでいた本を取り上げて閉じた。

 実体化しかけていた悪魔は唸り声を上げて消滅した。子供はスネ夫の突然の行動と、悪魔の消滅を目の当たりにして、悪魔のいた場所とスネ夫を、呆然としながらただ交互に見ている…


 そしてジャイアンの目の前にあったのは、冒険者が床の格子に手を突っ込んでいる場面だった。

 格子の下にゴンチョンがいるという話を思い出すジャイアン。

 「ダメだっ!」
(ジャイアン、跳躍判定…成功)
 ジャイアンは慌てて冒険者に飛びつき、引っ張って手を引き抜かせた。

 冒険者は突然引っ張られた拍子に尻餅をつき、ジャイアンをただ呆然と見上げている…

イメージBGM:海底フィールド
 ギャラリーでは、ダッパが1人、どうして良いか分からずに動揺していた。その時…


ドサッ!


 ダッパの背後で突然、何かが落ちる音がした。驚いたダッパが振り向くと、そこにはドラえもんが投げ出されていた。

 「ドラえもん!」

 「!?…あれ、ここは…あ、ダッパ君?」

 ドラえもんは周囲を見回しながら起き上がる。

 「ドラえもん、何があったんだ? 一体何がどうなっているんだ?」

 「ん…それは…」

 ダッパの質問に、ドラえもんが動揺しながらも答えようとしたその時、


ドサッ! ドサッ!


 再び何かが落ちる音がした。しかも、今度は2回である。

 ダッパとドラえもんが、音のした方を見ると、そこにはのび太としずかが投げ出されていた。

 「ん…?」

 「あら…?」

 2人も周囲を見回しながら起き上がろうとした。その時…


ドサッ! ドサッ!


 「ムギュッ!」

 また何かが落ちる音が2回した。ただし、今回はダッパとドラえもんの目の前で、空中に突然スネ夫とジャイアンが現れた。

 スネ夫はそのまま床に投げ出され、ジャイアンは…起き上がろうとしたのび太の真上に出たため、そのままのび太を押しつぶす形になってしまった。

 「ありゃ?」

 「な、何だ?」

 「いいから早くどいて〜」

 こうして合流した6人は、それぞれ自分に何が起きたかを話し合った。

 「…つまり、ダッパ君以外のみんなは、あの光を見た後、ここにある絵の中に吸い込まれてたという事だね。そして、そこで危険な目に遭ってる人を助けたら、またあの光が出てきて、ここに戻ってきたと」

 ドラえもんが話をまとめる。

 「きっと、あの絵を見たら、ここの絵の世界に吸い込まれる仕掛けだったんだな」

 スネ夫が謎かけ盗賊の絵を指差す。その絵は、今はもう動いていない。

 「それで、絵の世界を脱出するためには、そこで危ない目に遭ってる人を助けなきゃいけなかったんだな」

 ダッパが5枚の絵を再度確認する。先ほどは絵に書き足されていたドラえもん達の姿が、今ではもう無くなっている。

 「でも、1枚の絵には1人しか吸い込めなかったのね。だからダッパさんだけ取り残されたんだわ」

 「もし、ボク達が絵の中で、人を助けられなかったら…」

 「「「「「「……」」」」」」

 のび太の言葉に、全員が沈黙する。

 「全く酷い目に遭ったぜ。全部こいつのせいだ!」

 ジャイアンは怒りに任せて、謎かけ盗賊の肖像画に拳で穴を開け、ビリビリに破いてしまった。

 その後、特に何も起こらず、他に興味をひくものも無かったので、6人は部屋を出た。



 廊下に戻った6人は、まだ開けていない右の扉を試した。

 右の扉を開けると、そこは綺麗に飾り付けられた船室だったが、厚いほこりに覆われていた。

 分厚い絹の壁掛けや豪華な肘掛け椅子が目立つ。部屋の一番奥には鏡の付いたドレッサーが置かれ、そのすぐそばのベッドはベルベットのカーテンで仕切られている。

 壁には短剣や九本鞭といった責め道具が掛けられている。右手には無骨な作りの、木製の止まり木が立てられている。

 「ここは船長室のようだな」

 「何だよ、やけにほこり臭いところだな」

 ダッパとジャイアンが言う。

 「これ、鳥の止まり木よね? 鳥でも飼っていたのかしら?」

 家で小鳥を飼っている事もあってか、止まり木が気になるしずか。その時…

  サー…パタンッ…

 「!? ね、ねえドラえもん、今、何か音がしなかった…?」

 のび太がドラえもんに尋ねる。

 「? 一体どんな音だい?」

 「パタンっていう、何か小さな物が閉まるような音っただけど…」

 「さあ…ぼくは聞かなかったけど…気のせいじゃないの?」

 「そうかな…」

 ドラえもんの答えに納得のいかないのび太は、今度はしずかの方へ向かった。

 「ねえしずかちゃん、さっき、パタンっていう小さな音を…」

 「うわあっ!!」

 突然、部屋に悲鳴が響いた。声の主は、ドレッサーの前で腰を抜かしているスネ夫だった。

 「おいスネ夫、どうしたんだよ」

 「あ、あ、あわわわ…」

 ジャイアンが顔を覗き込むと、スネ夫はドレッサーの鏡を指差した。集まってきた5人が鏡を見ると…

 そこにはカーテンで仕切られたベッドが映っていたが、そのカーテンが開いていた。そして、ベッドから無愛想な感じの男が起き上がってきた。男の右足は木製の義足で、肩に汚らしい緑色のオウムが止まっている。

 驚いた6人が一斉にベッドの方を向く。だがそこには誰もいないし、ベッドのカーテンも閉まったままだった。

 6人がもう一度鏡を見ると、そこにはカーテンの閉まったベッドが映っていた。

 「い…今のは…何なんだ…!?」

 ダッパが動揺しながらつぶやく。

 「ま…まさか…ゆ、幽霊…!?」

 「バ、バカ言うなよのび太。そ…そんな訳…あるかよ…」

 震えているのび太の発言を否定しつつも、自分も震えているジャイアン。

 「…あら? この鏡、何か書いてあるわよ」

 「えっ?」

 ドラえもんがしずかの指差す場所を調べると、確かに何か書いてあった。それを読み上げると…

 「”我が骨を安らかに眠らせよ”…?」

 「や、やっぱり幽霊なんじゃあ…?」

 「ス、スネ夫まで何言ってんだ。こ、こいつを開けてみれば分かるぜ…!」

 恐怖に震えるドラえもん達だったが、ジャイアンはそれを振り切るように、ベッドのカーテンを開けた。すると…

 「ウワアアアアアアア!!」

 「ギャアアアアアアア!!」

 「キャアアアアアアア!!」

 ドラえもん、のび太、しずかが一斉に悲鳴を上げる。

 「「ガ、ガ、ガ、ガ、ガ、ガ、ガ…!」」

 「な…な…これは…」

 ベッドに横たわっていたものを見て、ドラえもん達は恐怖と驚愕に支配された。

 「「ガ、ガ、ガ…骸骨!」」

 スネ夫とジャイアンが同時に叫ぶ。ベッドに横たわっていたもの、それは確かに骸骨だった。それも2つ。1つは人間のもので、右足は膝から下が欠けていた。 その方のところに横たわっているのは、鳥の骸骨だった。

 「…ね、ねぇ。こ、これからどうすんの?」

 「…ブルブル。き、決まってんだろ。こ、こんなところ、すぐに出ようよ」

 震えながら話すのび太とスネ夫。

 「…な、何言ってんだよ。も、もう少し調べようぜ。な、何か宝でもあるかも知れないし」

 「…タ、タケシさん、つ、強がってる場合じゃないわよ。こ、ここじゃ、な、何が起きても不思議じゃないのよ」

 ジャイアンとしずかも震えながら言葉を発している。

 「…で、でもオイラ、このまま出て行くのも勿体無いと思うよ。あ、あと少しだけ調べてから出ようよ」

 「…そ、そうだね。も、もう少しだけ調べてから出ようか…」

 何とかショックから立ち直ったものの、まだ恐怖が残っている6人。それでも、もう少しだけ調べようと、震えながらも動き始めた。

 そして、スネ夫が恐る恐る、ドレッサーの引き出しを開けようとした時であった。
(スネ夫、運試し判定…凶)

バサッ! ビュンッ!


 突如、壁に掛かっていた短剣や九本鞭が壁を離れ、スネ夫目掛けて飛んできた。短剣は外れて床に転がったものの、九本鞭はスネ夫の頭を直撃した。

 「いてっ!」

 命中した九本鞭はそのまま床に落ちた。

 「だ、誰だ、こんな物投げたのは!?」

 九本鞭を拾い上げてわめくスネ夫。

 「ぼくは知らないよ」

 「オイラじゃないよ」

 「俺が知るかよ」

 ドラえもん、ダッパ、ジャイアンがそれぞれ答える。その時、のび太が青ざめた顔をして何かを指差した。

 「あ、あ、あ…」

 「どうしたの、のび太さ…キャーーッ!」


イメージBGM:通常戦闘
 のび太の視線の先にあったのは、先ほど飛んできた短剣であった。それが宙に浮かんでいたのである。しかも少しずつ、6人の方へと近付いてくる。

 「ど、どうしよう。やっぱり幽霊だよー!」

 スネ夫は持っていた九本鞭を放り出して腰を抜かす。

 「そ、そんなわけあるか。き、きっと透明人間か何かだろ。の、のび太、早く撃てよ」

 「えーっ!? そ、そんな、見えない敵なんて、ど、どうやって撃つんだよー!?」

 「の、のび太君、短剣の柄を狙うんだ! も、もし透明人間か何かなら、柄を狙えば、短剣を掴んでいる手に当たるはずだ!」
(のび太、射撃判定…成功。短剣の柄に命中)
 のび太はドラえもんの指示通り、ショックガンで短剣の柄を狙い、見事に命中させる。だが短剣は衝撃で少し揺れただけであり、未だに宙に浮かんでいる。

 「…ガクガクブルブル…」

 「…や、やっぱり幽霊なの…?」

 すっかり顔が青ざめ、ショックでその場から動けずにいるのび太としずか。その時…

 「みんな、こっちだ!」

 ダッパの叫び声が響く。ドラえもん達が振り向くと、ダッパは部屋の扉の前に立って手招きしている。

 「…分かった! みんな、ここは一旦退こう!」

 ドラえもんの合図と共に、全員は部屋を飛び出し、扉を閉めた。幸い、短剣は追って来なかった。安堵する6人。

 「…あれはきっと、ポルターガイストだ」

 落ち着いたところでダッパが言う。

 「ポルターガイストって、誰も触っていないのに変な音がしたり、物が勝手に動いたりするっていう心霊現象のアレ?」

 ドラえもんがそう答えると、ダッパは少し驚いたような顔をしてから答えた。

 「みんなの世界では現象扱いなんだね。この世界では、酷い死に方をしたりして、この世に強い怨念を残して成仏できない霊が、その場所にとどまって、自力で物を動かせるようになったものを言うんだ。 不死の怪物の一種だね」

 「じゃ、じゃあ、やっぱり幽霊って事かよ…」

 ジャイアンが震える。

 「ダッパさん、この世界では、幽霊が出るのはそんなに珍しい事じゃないの?」

 「街に来た冒険者の中に、幽霊と話したとか、死霊に襲われた事があるっていう人は何人かいたけど…みんなの世界じゃ、幽霊は珍しいんだね。まあオイラも、本物に会うのは初めてだけどさ」

 淡々と語るダッパだったが、彼の手も震えていた。

 「ねえ、もうここ離れようよ…もうこの部屋に近付くの、やめようよ!」

 「賛成ー! もうこんな怖い思いは嫌だよー」

 スネ夫とのび太の意見に反対する者はおらず、6人は一度、扉から離れる事にした。だがその途中で、ダッパが立ち止まった。

 「おいダッパ、どうしたんだよ?」

 ジャイアンが振り向く。

 「なあ、ポルターガイストを成仏させてやる事はできないかな?」

 「成仏だって?」

 思わぬ発言に驚くドラえもん。

 「ポルターガイストは強い怨念を残して成仏できずにいる霊体怪物なんだ。怨念の原因を調べて、解決してやれば、霊体が成仏して、ポルターガイストはもう出なくなるよ。 そうしなかったら、ポルターガイストはずっとその場に残って、苦しみ続ける事になるんだ」

 「ダッパさんは、ポルターガイストを助けてあげたいって言うのね」

 「なるほど、言われてみれば、確かにそのままじゃ可哀想だね」

 話を聞いて、ダッパに賛同するのび太。しずかも頷く。

 「で、でもさ、そんなの、どうやって? それに部屋に入ったら、また襲われちゃうよ?」

 スネ夫の指摘はもっともだった。ダッパはしばらく考え込むと、再び口を開いた。

 「うーん、浄化の魔法や、その力を持ったお守りがあれば良いんだけどな。ドラえもん、幽霊を成仏させる道具は無いかな?」

 「うーん、幽霊を成仏させる道具なんて、聞いた事も無いよ…成田山のお札が効くわけないし…お化けを寄せ付けない道具ならあるんだけど…」

 「そうか…せめて、霊体が何をしたいかが分かれば良いんだけどな。でも、ポルターガイストはしゃべれないしな…」

 「ドラえもん、ポルターガイストが何を望んでいるのか、骸骨に聞いてみる事はできないの?」

 スネ夫が尋ねる。

 「そんな道具も聞いた事も無いよ」

 困った顔で答えるドラえもん。するとしずかが、ある事を思い出した。

 「骸骨に…あっ、そうだわ! ドラちゃん、前に人形の落とし主を探してもらった時に、人形の心や思い出を見る道具を出してくれた事があったわよね? あれを使えないかしら?」

 「ココロコロンとオモイデコロンの事? 無理だよ、あれは人形に使うもので、骸骨になんか…」

 「人形ね…あっ、そうだドラえもん、あの骸骨って頭から手足まで、ほぼ全部揃ってたよね? あれを”人形”って扱いにはできないかな?」

 「のび太君、そんなこじつけはいくら何でも…こじつけ? 待てよ、できるかも知れない…」

 何かを思いついたドラえもんは、ポケットの中を探り始めた。
(ドラえもん、ひみつ道具判定2回…2回とも成功)
 「ココロコロンとオモイデコロン! コジツケール!」

 ドラえもんは液体が入った3種類の瓶を出した。そのうちの2つは蓋の上に霧吹きのノズルのようなものが付いており、残り1つはスポイトのようなものが付いている。

 「これはココロコロン。人形にかけると、人形の心が顔に出るようになる。これはオモイデコロン。物にかけると、その物に込められた思い出が夢のように浮かび上がる。 そしてこれはコジツケール。とても無理だと思うような事を、何かとこじつける事で実現させる。前にこれを使って、飲み物の酒に、魚の鮭のように卵を産ませて増やした事があるんだ。 これを使えば、のび太君の言ったように、骸骨を”人の形をした物”、”人形”ってこじつけられるかも知れない」

 「ドラえもんって、そんな道具まで持ってるのか…でも、これならあの骸骨からポルターガイストの望みを見られるかもな」

 納得するダッパ。

 「でもよ、それ使うためには、またあの部屋に入んなきゃいけないんだろ? ポルターガイストに襲われるのに、どうやって骸骨に近付くんだよ?」
(ドラえもん、ひみつ道具判定…成功)
 「ジャイアン、それなら安心だよ。言ったろ、お化けを寄せ付けない道具ならあるって。化けよけスプレー!」

 ドラえもんはポケットから、お化けをしばらくの間、寄せ付けない匂いを出すスプレー缶・化けよけスプレーを取り出した。

 「でもドラえもん、それってドラえもんの道具から出たお化けに効く奴でしょ? この世界の、それも本物の幽霊にも効くの?」

 「それは…試してみれば分かるよ。無いよりはマシだろ?」

 「ちっとも安心じゃない…」

 ドラえもんの無責任な返事に呆れるのび太。

 「で、あの部屋には誰が行くの? ぼ、僕は嫌だからね!」

 スネ夫は真っ先に嫌がった。

 「私が行くわ。私ならココロコロンとオモイデコロンは使った事があるし」

 「いや、しずかちゃんをあんな危険なところには行かせられないよ。ボ、ボクが行くよ…」

 震えながらのび太が言う。

 「ちょっと待ってよみんな。ここはオイラに行かせてくれよ。言い出したのはオイラなんだから」

 「うーん…分かったよ、ここはダッパ君に頼もう。でも、ダッパ君1人じゃ危険だ。ここはぼくも一緒に行こう。ひみつ道具を使う以上、専門家がいた方が良いしね」

 こうしてドラえもんとダッパは、再度ポルターガイストの部屋に行く事になった。体に化けよけスプレーをかけ、他の4人を置いて扉を開ける。

 2人が部屋に入ると、先ほどの短剣と九本鞭が床に転がっていた。だが間もなく、短剣が再び浮き上がる。

 2人は恐る恐る、ベッドの方へと近付いていく。そこへ短剣が近付いてきたが、化けよけスプレーが効いているのか、ある程度近付いては離れてしまう。

 2人はベッドの骸骨のところまでたどり着くと、まずは頭蓋骨にココロコロンを、続いてオモイデコロンを吹き付け、最後にコジツケールをたらした。すると…

 頭蓋骨から小さな雲のような物が浮かび上がり、それが少しずつ大きくなって、その中に少しずつ映像が浮かび上がっていった。

 そして映像が鮮明になり、骸骨の生前の姿や願いが映し出されていった。

 ポルターガイストの正体は、かつて謎かけ盗賊に殺された、この船「トゥワイス・シャイ」号の船長だった。長い間成仏できずにいる彼は、海に葬られる事を望んでおり、 それが叶わぬまでも、せめて安らかに横たわっていたいと願っているのだ。

 「海に葬られたい、か…つまり、この骸骨を海に投げ入れれば良いんだね」

 ドラえもんがつぶやく。すると頭蓋骨が、うなずくように首を上下に動かした。ココロコロンの効果らしい。

 「うん。オイラ達の手で、その願いを叶えてあげよう」

 ダッパは頭蓋骨を持ち上げた。すると、どこかから「ソウダ、イイゾ、ソウスルンダ」というキイキイ声が聞こえた。

 驚いた2人は周りを見回すが、声の主はどこにも見えない。その時、2人は浮かんでいる短剣が、空中で動きを止めている事に気付いた。

 「今のはもしかしたら、この船長のペットの幽霊の声かも知れないね」

 ベッドに横たわる、鳥の骸骨を見ながらドラえもんが言う。

 「そうか…船長さん、あんたの願いは、オイラ達が叶えてあげるよ。みんなにも手伝ってもらうから、その間、おとなしくしててくれるかな」

 ダッパが短剣の方を向いてそう言うと、短剣は床に落ちた。

 ドラえもんは他の4人を呼ぶために、一度部屋を出た…


 原作「謎かけ盗賊」との設定の相違

 ・原作では、ギャラリーには主人公達の数だけの絵が掛かっており、どの主人公がどの絵に吸い込まれるかは決められている。原作では最大4人パーティ(ダッパを含めると5人)なので、絵の種類は最大5枚である。 ちなみに絵に吸い込まれた主人公達が、絵の中の人を人を助けられなかった場合、ギャラリーにいる者が、謎かけ盗賊の絵を裏返して壁に向ければ、絵の中に閉じ込められた者達を助けられる。

 ・原作では、主人公達が船長のポルターガイストの過去や願いを知る手段は無く、船長の願いは主人公達が推理しなくてはならない。


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