〜ドラえもん のび太と異世界の盗賊〜


第6話


謎多き船旅の終わり




イメージBGM:海底フィールド
 ドラえもんは他の4人のところに戻って事情を説明し、骸骨の運び出しを手伝うように頼んだ。4人は気味悪がりつつもそれを承諾した。

 ドラえもん達は船長とペットの骸骨を、部屋から船のデッキまで運び出し、全て海に投げ込んだ。

 すると、6人のそばに雲のような物が浮かび上がり、そこに船長の姿が映し出された。

 「あ…あ…あわわわ…」

 すっかり怯えているスネ夫。

 「こ、これって、さっきの骸骨の…?」

 のび太が震えながらドラえもんに尋ねる。

 「うん、あの骸骨の、生前の姿だよ。ココロコロンとオモイデコロンの効果がまだ続いているんだね」

 「ねえ、この船長さん、何か言ってるみたいよ」

 しずかの言う通り、確かに船長の幻影は何かもぐもぐと言っているようだ。だが声が小さくて聞き取りづらい。

 ダッパが幻影に近付き、話を聞く。

 「……うん、分かったよ!」

 ダッパがそう答えると、船長の幻影は消えていった。ドラえもんがダッパに尋ねる。

 「ダッパ君、船長は何て言ってたの?」

 「願いを聞いてくれてありがとうってさ。それと、あの引き出しの中の物を、お礼にオイラにくれるって。何かの役に立つかも知れないってさ」

 「おう、それなら、さっそく取りに行こうぜ!」

 元気に声を上げるジャイアン。幽霊を恐れる必要が無くなったという事実と、お礼への期待が、彼を元気づけたらしい。


 6人は早速、船長の部屋に戻り、ドレッサーの引き出しを開けた。すると中から、物語に出てくる海賊船の船長が着けているような、黒いアイパッチが出てきた。

 「これが、あの船長さんが言ってた物…?」

 「何だよ、宝か何かかと思ったのに」

 がっかりするスネ夫とジャイアン。

 「でも、船長さんは何かの役に立つかも知れないって言ってたんでしょ? ただのアイパッチじゃないかも知れないわよ」

 「そうだな。ちょっと着けてみるよ」

 ダッパはしずかに賛同すると、早速アイパッチを着けてみた。すると…

 「あれ? これ、アイパッチを通して向こうが見える!」

 「そうなの? じゃあやっぱり、魔法のアイパッチって事!? 他に何か変わったところはある!?」

 のび太は興味津々でダッパに尋ねる。

 「うーん、他には特に無いみたいだな…」

 「いや、今は分からなくても、もう少し着けていれば、後で何か起きるかも知れないよ」

 ドラえもんの言葉にダッパは頷く。着けたままでも前が見えるため、別に邪魔になる事は無かった。

 こうして船長の形見を手に入れた6人は、そのまま部屋を出た。成仏したとはいえ、幽霊の出た部屋をこれ以上荒らす事に抵抗を感じたのかも知れない。



 廊下に戻った6人は、まだ行っていない下の階を調べる事にし、廊下の左側にあるハッチからはしごを降りた。

 はしごを降りると、そこは上と同じような廊下になっており、やはり船尾側に3つの扉が並んでいた。

 …いや、左側のものは扉ではなく、壁に框がはめ込まれているだけの入口だった。

 6人は相談した結果、まずは扉の無い入口を試す事にした。


 入口の前に立った6人。入口の部分は、ただ真っ暗になっていて、先が見えなかった。

 「…何も見えないね」

 「何でここだけ扉が無いんだ?」

 首を傾げるのび太とダッパ。

 「おい、ここに何か書いてあるぞ」

 ジャイアンが框の上部を指差す。そこには「横になる者だけが何事もなく中に入れる」と書かれていた。

 「どういう意味かしら?」

 「いきなり入ったら危なそうだね。入る前に、ちょっと覗いてみよう」

 ドラえもんの提案で、のび太とダッパが顔を框の内側に入れて、覗き込んでみる事にした。

 「うーん、やっぱり暗くて見えないね」

 「いや、見えるぞ。斧だ。斧がぶら下がってるぞ!」

 「えっ、ボクには全然見えないけど?」

 「オイラには見えるんだ。すぐ目の前に斧がぶら下がってるよ」

 2人は顔を引っ込め、今度はスネ夫とジャイアンが框の内側に顔を入れ、しばらく覗き込んでから顔を引っ込めた。

 「どう? 何か見える?」

 ドラえもんが尋ねる。

 「いや、暗くて全然見えなかったよ」

 「俺もだ。おいダッパ、本当に斧なんて見えたのか?」

 「そんな、確かに見えたんだって!」

 あくまで斧が見えた事を主張するダッパ。するとしずかが、ダッパに助け舟を出した。

 「でも、ダッパさんの言う通り、斧がぶら下がっているなら、ここに書いてある言葉が納得できるわ。立ったまま入ったら、斧にぶつかって怪我をするもの」

 「うーん、だとしても、何でダッパ君にだけ見えるんだろう?」

 ドラえもんは首を傾げながらダッパの顔を見た。

 「…待てよ。ダッパ君、そのアイパッチを外して、もう一度覗き込んでみてよ」

 「? うん…」

 ダッパはアイパッチを外して、框の内側を再度覗き込んだ。すると…

 「あれ? 暗くて何も見えなくなった!」

 「やっぱり。ダッパ君にだけ斧が見えたのは、そのアイパッチのおかげなんだ。それはきっと、暗闇でも見えるようになるアイパッチなんだ」

 「暗闇でも見えるように…? ダッパ、それをボクに貸して」

 のび太は顔を引っ込めたダッパからアイパッチを借りると、それを眼鏡の右レンズに当てながら、再度框の内側を覗き込む。すると…

 「あっ、ボクにも斧が見えるよ。ドラえもんの言う通りだ」

 「そうか、このアイパッチにはそんな魔法がかかっていたのか…」

 のび太に返してもらったアイパッチを再度着けながら感心するダッパ。

 「これではっきりしたわね。横になれっていうのは、斧に当たらないように、床を這って進めって意味だったんだわ」

 「確かにあの斧は、しゃがめば当たらないくらいの高さにぶら下がってたな」

 ダッパがそう言うと、先ほど斧を見たのび太も頷いた。

 「そうか。そうと分かりゃ怖くはねえ。さっそく入ってみようぜ」

 そう言うと、ジャイアンは早速腹這いになって框の中へと入っていった。スネ夫、ダッパもその後に続く。しずかもその後に続こうとして…思いとどまった。

 「…のび太さん、ドラちゃん、先に行ってくれる?」

 「? ぼくは別に良いけど…」

 「…ははーん、しずかちゃんたら、スカートの中を気にしてるんだね。ハハハ、真っ暗なんだから、どうせ見えやしないのに」

 ニヤニヤしながらしずかをからかうのび太。

 「う、うるさいわね! いいから先に行ってよ!」

 「ハイハイ」

 顔を真っ赤にしたしずかにせき立てられて、のび太が先に行き、ドラえもんも後に続く。しずかはその最後尾を行った。



 暗闇は少し続いただけですぐに晴れた。6人は次々と部屋に入り、起き上がって部屋を見回す。

 「うわぁ…」

 「これは…」

 最初に入ったジャイアンとスネ夫が息を呑む。

 その部屋は小さ目の船室になっており、ハンモックが柱の間に渡され、壁に向かって机が一つ置かれている。 そして、部屋中に様々な動物の剥製が雑然と置かれている。猫、鳥、蛇、深海魚と種類は様々で、床はもちろんハンモックの上さえ占領している。

 「すごいな…ここは剥製を作る部屋なのか…?」

 「動物園みたい…」

 「まるで生きてるみたいね…」

 ダッパ、のび太、しずかも同様に息を呑む。その時…

 「…! ギャー!」

 ドラえもんが突然悲鳴を上げたかと思うと、急に左側を向いて走り出し…

  ドシィィィン…

 そのまま狭い部屋の壁に激突してしまった。

 「…どうしたの、ドラえもん?」

 「…ネ、ネ、ネ…」

 ドラえもんは駆け寄るのび太に対し、部屋の隅に縮こまりながら、右手で部屋の机の上を指し示した。そこにあったのは、ラベルの付いた2本の小さな瓶と、それを囲うように配置された数匹のネズミの剥製だった。

 「何だ。ドラえもん、怖がらなくても大丈夫だよ。これも剥製だから、ほら」

 のび太はネズミの剥製の1つをつまみ上げると、ドラえもんに近付いてそれを見せる。

 「は、剥製でも何でも、そ、そんな物持ってぼくに近付くなー!」

 ドラえもんは縮こまったまま、空気砲をのび太に向けてきた。これ以上ドラえもんを刺激しない方が良いと判断したのび太は、剥製を机の上に戻した。

 「ね、ねえ、こ、ここの剥製ってまさか、あのキメラみたいに動き出したりしないよね?」

 「こ、怖い事言わないでー!」

 恐る恐る剥製を見るスネ夫と、さらに怖がるドラえもん。スネ夫の言葉に、しばらく剥製を警戒してその場から動かずにいた6人だったが、剥製が動く気配は無かった。

 「これは何かしら?」

 しずかが机の上の瓶のうち、片方を取り上げた。その瓶に付いたラベルには「封印の香油」と書かれていた。

 「…それ、ちょっとオイラに見せて」

 「え、ええ…」

 ダッパはしずかから瓶を受け取ると、それをしばらく眺め、コルクの蓋を外して、中身の匂いを嗅いだ。

 「…これは、魔法の治療薬だ。オイラも昔、ハメット先生にこれをもらって怪我を治した事があるんだ。これを飲むとどんな傷や痛みも消えるんだ。2回分は入ってるな」

 「へえ、凄いな…でも、何で剥製の部屋になんか置いてあるんだろう?」

 のび太が不思議がる。

 「動物の傷を治すためじゃないの? 剥製にするならさ、傷の無い動物の死体の方が良いに決まってるじゃん。それじゃ、こっちは何だい?」

 スネ夫がもう片方の瓶を持ち上げて、ダッパに手渡した。その瓶のラベルには「保存の香油」と書かれている。ダッパは先ほどの瓶と同じように調べた。

 「これは…うーん、オイラにも分からないな…」

 「ちょっと貸せ、俺が試しに飲んでみるぜ」

 「ジャイアン、いくら何でもそれは危ないよー」

 ダッパから瓶を引ったくって蓋を開けようとするジャイアンを、スネ夫が慌てて止める。

 「ねえ、それって保存の香油って言うのよね? だったら、死体を保存するために使うんじゃないの? 例えば、動物を硬くしちゃうとか…」

 「そっか。これで動物の死体を硬めて剥製を作るんだね」

 しずかの意見に納得するのび太。

 「なるほどね。ねえジャイアン、それでも試しに飲んでみる?」

 「バ、バカ言え…」

 スネ夫にからかわれたジャイアンは、慌てて瓶を机に戻した。

 ここには他に興味をひくものは無かった。6人は封印の香油だけ持って行く事にして、また腹這いになって暗闇を抜け、部屋を出た。



 廊下に戻った6人は相談の末、次は真ん中の扉を試す事にした。

 その船室は、壁に沿って2段ベッドがしつらえられており、真ん中に四角いテーブルと、それを囲って4つの長椅子が並んでいた。どうやら乗組員の居住区らしい。ただし、人はいなかった。

 そもそもこの船は、自分で舵を取り、デッキでも人手を必要としないのだから、乗組員がいないのも無理もないだろう。

 6人はその部屋を調べたが、興味をひく物は特に見つけられなかった。

 「ちえっ、何にもねえのかよ。面白くねえな」

 舌打ちするジャイアン。だが隣にいたスネ夫はホッとしていた。

 「でも良かったよ、何も怖い事が起きなくて。もしあの部屋に、人間の剥製とかがあったらって思うと…しかもそれが、あのキメラみたいに動いてたりしたら…」

 「ス、スネ夫さん、怖い事言わないでよ…下手な怪談よりも怖いわ…」

 「う、動く人間の剥製…ゾ〜ッ…」

 しずかとのび太が震え上がる。するとスネ夫が突然顔を上げて言った。

 「…あっ、そういえばさ、僕達、この船の中で、キメラとか絵とか幽霊とか、危険な目に何度も遭ってるけどさ、何だかおかしくない?」

 「おかしいって、何がだよ、スネ夫?」

 ジャイアンが怪訝そうな顔をして尋ねる。

 「だってさ、この船って、謎かけ盗賊が僕達をどこかに連れて行くために用意したものでしょ。なのにさ、あんな危険な罠を用意するなんて」

 「そう言えばそうね。もし船が目的地に着く前に、私達が罠にやられたら、せっかく船を用意した意味が無いわね」

 しずかも賛同する。

 「大体、謎かけ盗賊の奴、オイラ達を連れ出して、一体何を企んでるんだ?」

 ダッパの疑問に、6人はしばらく黙って考えていたが、やがてドラえもんが口を開いた。

 「…もしかしたら、ぼく達を試しているのかもね」

 「ボク達を試してる? ドラえもん、それどういう事?」

 「謎かけ盗賊がぼく達をどうしたいのかは知らないけど、ぼく達がこの船の中の罠を切り抜けられるかどうかで、ぼく達の力を試してるんじゃないかな」

 「この程度の罠も切り抜けられないなら、私達に用はない、って事ね。この船の中の罠は、命懸けのテストなのね」

 「テストかあ…この世界に来てまで、その言葉は聞きたくなかったな…」

 0点の常連であるのび太は顔をしかめる。

 「ふん。あいつが何考えてるか知らねえが、今度会ったら、俺達の手でとっちめて、俺達を選んだ事を後悔させてやろうぜ」

 「そうだな。謎かけ盗賊め、きっとオイラ達が止めてやる…」

 意気込むジャイアンとダッパ。その後、特にやる事も無かったので、6人はそのまま部屋を出た。



 廊下に戻った6人は、まだ残っていた右の扉の前に立った。

 「この扉、何か書いてある…これは、なぞなぞかな?」

 のび太が扉を見ながら言う。するとダッパが、扉の上にも文字が書かれている事に気付いた。

 「ん? 扉の上にも何か書いてあるな…”なぞなぞの部屋”?」

 「おい、なぞなぞなんて放っといて、さっさと開けようぜ」

 ジャイアンに促されて扉を開けようとしたドラえもんだったが、扉は開かなかった。

 「…ダメだ、鍵がかかってる」

 「それじゃ、どっかで鍵を探さなきゃいけないのかしら」

 「ちょっと待ってよ。この扉、鍵穴なんてどこにも付いてないよ」

 スネ夫の言う通り、扉には鍵穴がどこにも無かった。

 「もしかして、なぞなぞを解かないと開かない扉なのかしら? ねえ、読んでみましょう」

 しずかに言われて、扉に書かれたなぞなぞを読み上げるドラえもん。その内容は次のようなものだった。


  出会った時にゃ神秘的 答えを聞けばどうって事ない 分からぬ時にゃ ちょっとしたもの 分かってしまえば なんて事無い
  ご主人様の名にかけて 俺の名前は何と言う?


 「うーん、神秘的なものね…」

 「答えを聞けばどうって事ないものか…」

 スネ夫とジャイアンが頭を悩ませる。

 「分からないとちょっとしてて、分かればなんて事無いもの…何かしら…」

 「ご主人様って、あいつの事だよな…」

 しずかとダッパも首を傾げる。しかし…

 「……ふぁーっ…」

 「…のび太君、こんな時にあくびしないでよ」

 「だってボク、謎解きは苦手なんだもん」

 やる気のないのび太に呆れるドラえもん。だがその時…

  カチャ、キイイィィィ…

 鍵の外れる音がして、扉がさっと開いた。

 「お、おい、開いたぞ…」

 「で、でもどうして? 私達、答えなんて言ってないのに…」

 驚くジャイアンとしずか。他の4人も困惑している。するとドラえもんが、ある事に気付いた。

 「…そうか、分かったよ。答えは”謎”だよ!」

 「謎…そうか…でも、誰が答えを言ったんだ? オイラ達の中で答えを言った人なんて…」

 ダッパが不思議がる。

 「のび太君だよ。さっきのび太君言ったよね? ”謎”解きは苦手って!」

 「えっ?…あっ、そうか!」

 言った本人は、やはり指摘されるまで気が付かなかったようだ。すると今度はスネ夫が不思議がる。

 「…でもドラえもん、”謎”が答えなら、僕達、”なぞなぞ”って言葉、何度も使ってるのに、どうして開かなかったんだろう?」

 「それは…うーん…”なぞなぞ”だと、答えと見なされないのかもね。”なぞ”じゃないと」

 こうして扉を開ける事に成功した6人は、そのまま部屋の中に入った。

 その部屋は、贅沢なベッドや、繊細な彫刻が施された書き物机や、分厚い絨毯等、上質の家具がたくさん置かれていた。

 ただしその殆どが、ものすごい数の巻物に埋もれて殆ど見えなかった。巻物に隠されていないのは大きな黒い衣装ダンスだけだった。それは巻物の間から天井近くまでそびえている。

 「すごい数の巻物だね…」

 ドラえもんがつぶやく。

 「なぞなぞの部屋って事は、この巻物って全部、なぞなぞが書いてあるのかしら?」

 「でも、全部読んでたら日が暮れちゃいそうだね」

 のび太の意見はもっともだった。この部屋には、それほどたくさんの巻物があった。

 「それよりさ、このタンス開けてみようぜ。何かあるかも知れねえし」

 「大丈夫かな? また化け物が出てこなきゃ良いけど…」

 ジャイアンはタンスの方に興味をひかれているが、スネ夫は不安気だ。

 「それじゃあ、オイラが少しだけ開けて、中を覗いてみるよ。このアイパッチがあれば、暗いところも見えるし」

 そう言うとダッパはタンスに近付き、ほんの少しだけ開けて、隙間から中を覗こうとした。その時…

 タンスの隙間から大量の白い煙が吹き出し、部屋中がそれに包まれてしまった。

 「うわっ! 何だこの煙は!?」

 「うわーっ、前が真っ白だよー」

 動揺して叫ぶダッパとのび太。

 「みんな落ち着いて! 下手に動き回ると危険だ!」

 ドラえもんが叫ぶ。やがて煙は晴れた。そして6人がタンスの方を見ると、タンスは少し開いており、タンスの前に1人の男が立っていた。

 その男は丸顔でやや太っており、だぶだぶのズボンを履いている。頭は中央を除いて髪が剃られており、中央に残された髪が束ねられている。

 その姿を見てのび太達が連想したものは、アラビアンナイトに出てくるランプの精だった。

 「わっ! な、何だお前は!?」

 驚いたジャイアンが尋ねると、その男は礼儀正しい態度で答えた。

 「私は衣装ダンスの魔神です。ご主人様の衣装を守るのが私の仕事でございます」

 「衣装ダンスの魔神? ランプの魔神とか指輪の魔神なら聞いた事があるけど、タンスの魔神なんて聞いた事が無いや。アハハハ…」

 「ちょっと待って。お前の主人って謎かけ盗賊だよな? という事は、オイラ達の敵か!?」

 のび太は笑っているが、ダッパは警戒して身構える。しかし魔神は、穏やかな表情で答えた。

 「ご心配には及びません。確かに私のご主人様は謎かけ盗賊ですが、私はあくまでご主人様の衣装を守るのが仕事。あなた方と戦う気などございません」

 「ねえ、魔神だったらさ、タンスを開けて魔神を呼び出した僕達の願いを叶えてくれるのか?」

 スネ夫の質問に、魔神は首を振った。

 「それはできません。私はご主人様には逆らえません。何しろ私は、運と偶然の神のしもべなのですから。その代わり、あなた方に良い事を教えてさしあげましょう。 この部屋にある巻物の事です。これらの巻物には、どれもなぞなぞが書かれていますが、ただの巻物ではありません。書かれたなぞなぞを解けば、その巻物は魔法の巻物に変わるのです。 これらの巻物は、読み上げると1度だけ効果を発揮するもので、傷を癒す力の巻物、失われた技術力を回復させる技の巻物、失った運勢を取り戻すツキの巻物がございます」

 「ありがとう、魔神さん」

 「例には及びません、お嬢様。それから、よろしければ、あなた方の衣類を私に預からせていただけませんか? あなた方がなぞなぞを一つ解くまでの間に、洗濯してプレスをかけてさしあげましょう」

 「うーん、悪いけど、ぼく達は着替えを準備してないから無理だね」

 「そうですか。それならば、無理にとは申しません。それでは私はこれで」

 そう言うと、魔神は白い煙に変化してタンスの中に戻っていき、タンスはひとりでに閉まった。

 「…あーびっくりした…まさかタンスの魔神なんてものが出てくるなんて…」

 胸を撫で下ろすのび太。するとスネ夫が皆に尋ねた。

 「それで、どうする? この巻物、読んでみるの?」

 「なぞなぞを解けば、魔法の巻物になるんでしょ? だったら、読んでみましょうよ」

 「よーし、いっぱい解いて、いっぱい手に入れようぜ!」

 しずかとジャイアンは乗り気だった。しかしダッパはやや警戒している。

 「でも、謎かけ盗賊の手下の言う事なんて、信じて大丈夫かな?」

 「ダッパ君の言いたい事も分かるけど、あの魔神は任務に忠実なだけで、嘘は言っていないと思うよ。何となくそんな気がするだけだけどね」

 そしてドラえもん、しずか、スネ夫、ジャイアンの4人は、それぞれ近くの巻物を拾って読み始めた。ダッパは魔神を信じていないのか、手を出さなかった。

 「…のび太は読まないのかい?」

 ダッパが尋ねる。のび太も彼と同じく、巻物には手を出していなかった。

 「いやあ、ボクはなぞなぞ苦手だし…」

 恥ずかしそうに答えるのび太。

 「一分には一度、一時間にも一度、だけど一秒には一度もない物…分かった、”ん”の字だ!」

 「油をさせば生きるけど、水をかけたら死ぬ物…火かしら?」

 「登ったり下ったりするけど、動かない物…道だろ?」

 ドラえもん、しずか、スネ夫の3人が、それぞれなぞなぞを解くと、巻物から文字が消え去り、代わりに別の文字が現れた。それには題名が付いている。

 「魔神さんの言った事は本当だったんだわ。これは力の巻物ね」

 「ぼくのも力の巻物だよ」

 「僕のはツキの巻物だ。よーし、この調子で、どんどんなぞなぞを解いて、巻物を集めよう」

 「どれどれ…確かにこの巻物は本物のようだな…」

 ダッパは、3人が手に入れた巻物を確認し、魔神の言った事が本当だと納得した。

 一方、ジャイアンは悪戦苦闘していた。

 「うーん、昼も夜も走り続け、決して止まらないもの…? 車じゃねーし…あーっ、全然分かんねえ…やめたっ、他のにしよう!」

 その時であった。


ドッカーン!


 突如、巻物が爆発した。その爆発は部屋中を巻き込み…爆発の煙が晴れると、そこには黒焦げになった6人の姿があった。

 「…な、何これ?」

 呆然とつぶやくのび太。

 「ど、どういう事? ば、爆発するなんて聞いてないよ僕…」

 「…や、やっぱり謎かけ盗賊の手下の言う事なんて、信じちゃいけなかったんじゃ…」

 同じく呆然とつぶやくスネ夫とダッパ。その時、タンスが勝手に開き、中から魔神が出現した。魔神は申し訳なさそうにしゃべり始めた。

 「申し訳ございません。言い忘れた事がございました。ここの巻物は、1分以内になぞなぞを解かなければ爆発してしまうのです。しかも一度巻物が爆発すると、それから24時間、 他のなぞなぞの巻物は読む事ができなくなってしまうのです」

 「…ドガァ! それを早く言え!」

 怒ったジャイアンが魔神に殴りかかる。だがジャイアンの拳は、魔神の体をすり抜けてしまった。

 「あなた方のお怒りもごもっともな事。せめてものお詫びに、あなた方の傷を癒して差し上げましょう」

 魔神はそう言って両手を広げた。すると部屋の天井から光の粒が6人に降り注ぎ、次の瞬間、6人の傷は癒され、黒焦げになっていた服も元通りになった。

 「そうそう、先ほど爆発したなぞなぞの事ですが、答えは川でございます。それでは私はこれにて失礼します」

 魔神はそう言うと、再びタンスの中に戻っていった。

 6人が残りの巻物を調べると、それらは魔神の言う通り、全て白紙になっていて読めなかった。ただし、ドラえもん達が解いた巻物は文字が残っており、そのまま使用できるようだ。

 ジャイアンは腹いせに、白紙の巻物を数枚ほどビリビリに破いてしまう。それを見て、また爆発しないかと慌てるドラえもん達だったが、特に何も起こらず、諦めた6人は部屋を出る事にした。

 部屋を出た6人は、船尾デッキ側の部屋はもう調べ尽くしたので、はしごを上って上の階に戻り、そこからデッキに戻っていった。



 「次はあっちの扉に行くしかないわね」

 「そうだね。それにしても、いつになったら目的地に…!?」

 「おいスネ夫、どうしたんだ?」

 ジャイアンが尋ねると、スネ夫は海の向こうを指差した。

 「ねえ、今あの辺に、海蛇みたいなものが見えなかった?」

 「海蛇? さあ…」

 ドラえもんは首を傾げる。

 「でも、ボクが見た首長竜の事もあるし、また化け物が出るかも知れないよ」

 「オイラもそう思うな。だから、早くここを離れてあっちの扉に入ろう」

 のび太とダッパの意見に全員が賛同し、まだ入っていない船首側の扉に向かい始めたその時…


ザバァァァァァァァァァァ!!!

イメージBGM:通常戦闘
 突如、船の進行方向から見て左側の海面が盛り上がったかと思うと、巨大なイカが出現し、数本の触手をデッキに乗せてきた。

 「「「「「「遅かったぁー!!」」」」」」

 6人の叫びが同時に響いた。
(しずか、射撃判定…成功。巨大イカに命中)
 その後、巨大イカとの戦いが始まったが、プレシオサウルスの時同様、しずかのスモールライトであっさりと解決した。


イメージBGM:海底フィールド
 巨大イカを退けた6人は、予定通り船首側の扉を開けて中に入った。

 扉の先には縦向きの狭い廊下があり、向かい側には下の階へ降りるためのハッチとはしごがあった。

 両側の壁には扉が1つずつあった。

 6人は相談した結果、まずは左側の壁の扉を試す事にした。

 扉の先は、家具等があまり置かれていない小さ目の船室になっていた。丈夫そうなハンモックが頑丈な柱の間に渡され、天井からは明かりの灯っていないランタンがぶら下がっている。 その周りには、様々な種類の魚の剥製が吊り下げられている。

 部屋の真ん中には、1メートルほどの高さがある大きな箱が、L字型の金具とボルトで床に固定されている。その前には小さな椅子が置かれ、箱の側面には2つの小さな穴が開けられている。

 「この箱、何だろう?」

 「この穴、どう見ても覗き穴だよね」

 目の前の箱を凝視するのび太とドラえもん。

 「どれどれ、ちょっと覗いてみるか」

 ジャイアンが早速覗いてみる。すると…

 「何だ? 何か光ってるな…これは…うわーっ、すげえ!」

 ジャイアンは覗き穴から目を離し、見えた物について夢中で話し始めた。

 「おい、すぐにこれを外そうぜ! この箱、凄い数の宝石が詰まってやがる!」

 「本当!?」

 のび太も顔を輝かせる。だが他の4人の態度は冷静だった。

 「ねえ、謎かけ盗賊が、本当にそんな物を用意してくれると思う?」

 「私もそう思うわ。本当に入っていたとしても、きっと偽物よ」

 「そうだね。また変な仕掛けがしてあると考えるのが妥当だね」

 「「……」」

 スネ夫、しずか、ドラえもんの指摘に、自分達の単純さを指摘されたようで、ばつが悪い顔をするジャイアンとのび太。

 「ジャイアン、場所替わってよ。今度はオイラが覗いてみるよ」

 今度はダッパが覗いてみる。すると…

 「…うわっ!」

 ダッパは急に箱から離れた。

 「どうしたの、ダッパさん?」

 「が、骸骨が見えた…それに、ものすごい数の虫も…」

 「な、何だよそれ? そんな物、俺は見なかったぞ!」

 ジャイアンが叫ぶ。するとドラえもんが、箱に顔を近づけながら言った。

 「もしかしたら、この箱は見る度に違うものが見えるのかも知れないね。ジャイアン、もう一度覗いてみてよ」

 「お、おう…」

 ジャイアンが再び覗いてみる。すると…

 「おい、やっぱり宝の山が見えるぞ!」

 「そんな…うーん、それじゃあ今度はのび太君が覗いてみてよ」

 「うん」

 今度はのび太が恐る恐る覗いてみると…

 「暗くてよく見えないな…ん…うわあっ!!」

 のび太は急に驚いて腰を抜かした。

 「ば、化け物だよ! 化け物の目が見えた! 目の中に炎が燃えてたよ!」

 「今度は化け物かよ! 一体どうなってるんだ!?」

 混乱して叫ぶジャイアン。すると、先ほどから考え込んでいたスネ夫が、その答えを出した。

 「…分かった! これは見る度に違うものが見えるんじゃなくて、見る人によって違うものが見えるんだよ! だからジャイアンが何度覗いても宝石が見えるし、 のび太が何度覗いても化け物の目が見えるんだ!」

 「…なるほど、それなら説明がつくな」

 ジャイアンも納得する。

 「それじゃあ、これの本当の中身って…」

 のび太の疑問にドラえもんとしずかが答える。

 「多分、何も入っていないか、魔法の仕掛けか何かが入っているんだろうね」

 「やっぱり開けない方が良いと思うわ」

 「…何だよ。面白くねえな!」

 ジャイアンは怒って箱を蹴飛ばした。その時…

 「ケケケケケケッ!!」

 突然、大きな笑い声が聞こえたかと思うと、箱を床に固定していた、L字金具の床側のボルトが全て飛び出し、箱がふわりと持ち上がった。

 そして、箱の中から巨大な何者かがそびえ立ち、前後にフラフラ揺れ始めた。

 「うわっ! な、な、何だよ!?」

 驚いて後ずさりするジャイアン。

 「ちょ、ちょっと、何だかマズそうじゃない!?」

 「ジャ、ジャイアンが蹴っ飛ばしたりなんかするからー!」

 騒ぎ出すのび太とスネ夫。

 「み、みんな、とにかく武器を構えて!!」

 ドラえもんの叫びと共に武器を構える6人だったが、目の前にいる何者かは、その場から動こうとはしない。

 「楽しい船旅はもうすぐ終わる。もうすぐ終わる。もうすぐ終わる…」

 何者かはそうつぶやいたかと思うと、そのまま動かなくなった。

 6人が警戒しながら調べてみたが、それはただの人形だと分かった。

 「…まるでびっくり箱だね…」

 のび太がつぶやく。

 「だーっ、謎かけ盗賊の野郎、どこまで俺達をおちょくるつもりだ!」

 ジャイアンはまた怒りに任せて人形を踏みつける。今度は何も起こらなかった。

 「…何だかこの船に乗ってから、こういうパターンが多い気がする…」

 ぽつりとスネ夫が言う。

 「この人形が言ってた、船旅がもうすぐ終わるって、どういう意味かしら?」

 「ぼくもそれが気になってたんだ。もう目的地に着くって事かな?」

 「何か悪い事でも起きなきゃいいけ…うわっ!!」

 ダッパの言葉を待たずして、6人は突然、大きな衝撃を感じて床に投げ出された。

 「痛ててて…今度は何だよ!」

 ジャイアンがわめく。

 「…船が止まったみたいだな…」

 「やっぱり、目的地に着いたって事なのかしら?」

 状況を分析するダッパとしずか。するとのび太が、ある事に気付いた。

 「…あれ、何か臭わない?」

 「…これは…ガスだ! 床からガスが吹き出してる!」

 ドラえもんの言う通り、床板の間から緑色のガスが上がってきていた。

 「えーっ! みんな、早く逃げないと!」

 スネ夫の叫びと共に6人は慌てて立ち上がり、船のデッキへと脱出した。

 デッキから外を見ると、50メートルほど先に海岸線があり、そこから深いジャングルが始まっていた。

 船は完全に止まっている。緑のガスは、デッキの床板や壁板の間からも、少しずつだが吹き出してきた。

 6人は急いで、この船に乗る際に使用した上陸用ボートに乗り込む。するとボートはひとりでに水面に降ろされ、自動的に動き出した。

 ボートに乗っている間、6人はサメを数匹ほど目撃したが、ボートにもサメの居場所が分かるのか、サメに襲われないように進んでいく。

 やがてボートは海岸までたどり着き、自動的に停止した。6人がボートを降りると、ボートはまた自動的に動き出し、船へと戻っていった。

 そして無人の船「トゥワイス・シャイ」号は出航し、次の目的地を目指して優雅に去っていった。


イメージBGM:地底フィールド
 海岸に置き去りにされた6人。そこは見渡す限り、よく茂った熱帯のジャングルが続いている。その奥の方から、かん高い獣の叫び声が上がり、蒸気がゆらゆらと青空に立ち昇る。

 「…行っちゃったね…」

 のび太がつぶやく。

 「それにしても、ここはどこかしら?」

 「うーん、カラメールに近い海で、海岸のそばにジャングルがあるところといったら…シャマズ湾辺りかな…って、みんなには分からないか…」

 「あの船がここで止まったって事は、ここがぼく達の目的地の近くだという事は間違いないね。ここを進めば、いずれは謎かけ盗賊に会えるはずだ」

 冷静に状況を分析するダッパとドラえもん。

 「進むって、どの方向に進むの? 目印だって無いし…」

 「ドラえもん、何か道具は無いのか?」

 「そうだね…ここはやっぱり、たずね人ステッキが良いかな」

 スネ夫とジャイアンに言われて、ドラえもんが道具を出す準備を始めたその時…


ウワアアアアァァァァァ!!!


 突如、ジャングルの奥からかん高い絶叫が響き渡った。

 「な、何、今の…?」

 突然の悲鳴に、呆気に取られているのび太。

 「あっちの方から聞こえてきたぜ!」

 ジャイアンが声のした方向を指差す。ダッパがそちらを向きながら言った。

 「そんなに遠くじゃなさそうだな」

 「な、な、何があったんだろう…」

 震えながらスネ夫が言う。

 「何か分からないけど、何か大変な事が起こったのは間違いないわ。急ぎましょう!」

 「そうだね。みんな、行こう!」

 ドラえもんの叫びと共に、6人は声のした方へと、ジャングルをかき分けて進んでいった…


 原作「謎かけ盗賊」との設定の相違

 ・原作では、船長室の引き出しには金貨20枚分の価値があるダブロン金貨が入っている。魔法のアイパッチは、ベッドの枕の下に隠されている。また、船長の幻は(原作では特に道具を使わなくても、 骸骨を海に投げ入れれば出てくる)、原作では礼を言うだけで、部屋の物の持ち出しを許可したりはしない(もちろんポルターガイストは成仏しているので、持ち出しは可能)。

 ・原作では、乗組員の居住区には本当に剥製にされた6人の動く水夫がおり、テーブルを囲んでトランプゲームをしている。彼らは主人公達が部屋に入ると少し驚くものの、すぐにゲームに戻る。 テーブルの上にはラム酒と金貨が置かれており、主人公達が金貨に手をつけると、剥製達は怒って襲いかかってくる。

 ・原作では、なぞなぞの部屋の扉が、”なぞなぞ”ではなく”なぞ”と言わなくては開かないという設定は無い。

 ・なぞなぞの部屋にいる魔神は、原作では願いを叶える事はできないものの、主人公達が船の中で被った不幸(船の中で呪いにかかったり、仲間が死んでしまったり)を1つだけ取り除く事ができると話す。 また、なぞなぞの巻物については説明しないし、爆発した後で勝手に出てきて回復してくれる事も無い。

 ・原作では、なぞなぞの巻物を一度爆発させたら、他の巻物が読めなくなるという設定は無い。また、原作では巻物が爆発したら、運試し判定を行って爆発によるダメージの大きさを決める必要があるが、 今回はそれを省略している。

 ・デッキでの巨大イカとの遭遇は、原作では海蛇のようなものを見た後、デッキから扉やハッチに向かって駆け出せば、巨大イカに出くわさずに済む。ちなみにこの巨大イカと、 5話のプレシオサウルスとの遭遇は、デッキに出た際にランダムで遭遇するイベントのうちの2つである。ただし、船長の骸骨を弔うためにデッキに出た場合は遭遇しない。

 ・幻影が見える箱は、原作では蹴飛ばしたくらいでは何も起こらない。主人公達が、箱を固定している金具を取り外すと動き出す。また、箱の中身の人形は、航海の終わりを伝えるのではなく、 今回の話では未登場に終わった、船首側の下の階の船室に関するヒントを教えてくれる。

 ・「トゥワイス・シャイ」号による船旅は、本来のルールではゲームマスターが時間を設定し、ゲーム中に制限時間に達したら、船が止まってガスが吹き出すイベントが発生する。 だが今回のプレイでは、一定数のイベントに遭遇したら制限時間に達するという形を取っている。今回のプレイでは、船首側の上の階の部屋1つと、下の階の部屋2つが未登場である。


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