〜ドラえもん のび太と異世界の盗賊〜


エピローグ


次元を越えた凱旋




イメージBGM:エンディング
 ”運命の振り子”を取り戻したドラえもん達は、そのまま引き返して謎かけ盗賊の隠れ家を出た。幸い、途中で彼らを邪魔する者は現れなかった。フィネガンの姿も見当たらない。

 隠れ家を出たドラえもん達は、どこでもドアでカラメールの門の前まで帰った。謎かけ盗賊が倒された事で魔芸の効果も切れたのか、ドラえもんのポケットは元通り使えるようになっていた。

 カラメールに着いた6人は、街の人々が騒がないようにと、ハーランを新しいかるがる持ち運び用紙に入れると、街に入ってランゴールの塔へと直行し、キャロリーナ夫人にこれまでの事を報告した。

 全ての報告を受けたキャロリーナ夫人は、6人の活躍を大いに褒め称えた。

 その日は皆、疲れ切っていたため、6人とも塔に泊まり、早くから眠りについた。


 次の日、ランゴールの塔に商人のイグナチウス・ガラパゴスが訪ねてきた。ドラえもん達とキャロリーナ夫人がそれを迎える。

 「やあ。君達がカラメールに戻ってきたと聞いてここに来たんだが、また会えて嬉しいよ。今日は君達に、前に約束した、引ったくりや怪物泥棒を捕まえる手助けをしてくれたお礼をしに来たのだが…」

 「ガラパゴスさん、実はぼく達も、ガラパゴスさんに話があるんです…」

 笑顔で話すガラパゴスに対し、ドラえもんは浮かない顔で答えた。

 「? それはまた、どんな話かね?」

 「ガラパゴスさんが探していたミノタウロスの事なんですが…」

 ドラえもんはそう言うと、ポケットからかるがる持ち運び用紙を出し、ハーランを紙の中から出した。

 「フモー!」

 「こ、これは…!?」

 驚くガラパゴスに、ドラえもん達はミノタウロスの件の真実、それと冒険の中でのハーランの活躍について話し、騙した事を詫びた。

 「すみませんでした…」

 頭を下げるドラえもん。のび太達5人もそれに続く。

 「ガラパゴスさん、この事は、私も昨日聞かされたばかりなのです。確かに彼らのした事は、誉められる事ではありませんが、それも全て、あのミノタウロスを助けたいという優しさあっての事なのです。 あなたを騙した事については、彼らもこのように詫びている事ですし、あのミノタウロスは私が買い取りましょう。ですから、どうか彼らを許していただけませんか」

 キャロリーナ夫人が言う。昨晩、キャロリーナ夫人はダッパから、ハーランの件について相談を受けていた。これからハーランをどうするべきか、ガラパゴスには話すべきかどうか、等。

 それに対し、キャロリーナ夫人は、ガラパゴスには真実を話すべきだが、共に謎かけ盗賊に立ち向かった仲間を売るもの良しとせず、自分がハーランを買い取るという形で解決しようと答えたのだ。

 「…そんな事があったのですか…」

 真顔で話を聞いていたガラパゴスだったが、やがて微笑を浮かべて答えた。

 「分かりました。キャロリーナ夫人、それに子供達。ミノタウロスはあなた方に譲りましょう。お代は要りません」

 「「「「「「えっ!?」」」」」」

 ドラえもん達6人は驚いて顔を上げる。

 「よろしいのですか?」

 キャロリーナ夫人も驚いている。ガラパゴスは構わずに続けた。

 「私はあのミノタウロスを、珍しい商品としてしか見ていませんでした。でも子供達は、ミノタウロスを生き物として見ていたのですね。ただ盗品を取り返すというのではなく、 人間の勝手によって苦しめられている生き物を助けるために、ミノタウロスを助けた。そしてミノタウロスも、そんな子供達の優しさに応えて、友達になったのですね。 私はこれまでにたくさんの怪物を売ってきましたが、怪物とここまで友情を結んだ買い手には会った事がありません。あなた方といた方がミノタウロスにとっても幸せでしょう…」

 ガラパゴスは笑顔のまま、ハーランの方を見ながら話を続ける。

 「どの道、毒を出せなくなったミノタウロスは、商品価値も大幅に下がっていたはずです。仮に毒がそのままだったとしても、その原因が毒に冒されていた事だったのでは、商品としては珍種ではなく欠陥品です。 長く生きられなかったでしょうし、そんな欠陥品を売っていたら、私の信用に関わるところでした…」

 ガラパゴスはドラえもん達の方を向いた。

 「それに子供達は、この世界を救ってくれたのでしょう? もしこの世界が滅茶苦茶にされていたら、私もこうして、商売を続ける事さえできなくなっていたでしょう。世界を救ってくれた礼金替わりに、 ミノタウロスはあなた方達に譲りましょう。私の商品だったミノタウロスが、キャロリーナ夫人のような高貴なお方に気に入られ、子供達の大切な友達となって、しかも世界を救うために役に立ったと思えば、 私も鼻が高いですから」

 「ありがとうございます…」

 ドラえもんは再びガラパゴスに頭を下げた。のび太達もそれに続いた。

 「そうそう。君達へのお礼の件だが、カラメールの浴場に、今日だけ君達も入れるように、私が手配しておいたよ」

 「えっ、あの会員制の浴場にですか!?」

 ダッパの顔が明るくなる。

 「でも、良いんですか? ボク達、ガラパゴスさんを騙してたのに…」

 のび太の懸念に、ガラパゴスは笑顔のまま答える。

 「もう良いのだよ、そんな事は。君達のおかげで引ったくりから財布を取り戻せたし、怪物泥棒を捕まえられた。それに君達は、街にいる間に、キャロリーナ夫人や街の人達を何度も助けたそうじゃないか。 彼らの分のお礼も兼ねて、君達をあの浴場に招待しようじゃないか」

 「ありがとう、ガラパゴスさん!」

 「やったぜ!」

 「あの綺麗なお風呂屋さんに入れるなんて、楽しみだわあ…」

 スネ夫、ジャイアン、しずかのはしゃぎ声が響いた。


 そして6人は、ガラパゴスの紹介で、カラメールの会員制の浴場に、無料で入れてもらえた。

 「ルンルンルン…バウワンコ王国やシンドバッドさんの宮殿のお風呂も良かったけど、ここのお風呂も最高だわ…」

 しずかが女湯で極楽気分を楽しんでいる間、男湯ではのび太達とガラパゴスも、白大理石でできた湯船に浸かって楽しんでいた。

 「ふぅ…気持ち良いね…」

 「ほんとに豪華だなここ…」

 「…うん。こんな豪華な風呂に入るなんて、僕も久しぶりだな…」

 豪華な入浴を楽しむのび太、ジャイアン、スネ夫。

 「はっはっは。喜んでもらえて、私も嬉しいよ。お礼は何が良いかと悩んでいたのだが、これにして正解だったようだね」

 満足気なガラパゴス。湯船の外では、ドラえもんとダッパがハーランの体を洗っていた。

 浴場に来る時、ドラえもんがかるがる持ち運び用紙でハーランを運んできたのだ。今は浴場が貸し切り状態なので、ミノタウロスが浴場にいても騒がれる事は無かった。

 「ハハ。オイラ、ここに入るなんて、夢みたいな話だと思ってたのに、本当に入れるなんてな…」

 「フフ。こんな豪華なお風呂に入れてもらえたミノタウロスなんて、この世界でもハーランくらいのものだろうね」

 「フモー!」

 笑うダッパとドラえもん。ハーランも嬉しそうな声を上げた。


 その後、ランゴールの塔でキャロリーナ夫人主催のパーティが行われた。

 「スカンク熊のシチュー? 変な名前だね(モグモグ)…でもこれ、うまいな…」

 「(パクパク)…この肉入りパンもおいしいよ。へえ、ヴィトルって言うんですか」

 「これ、リンゴかしら? えっ、ボンバって言うんですか?(ムシャムシャ)…わあ、おいしいですねえ」

 「(ガツガツ)…この肉もうめえぞ。大アールド狼? 聞いた事ねえけど、うまけりゃいっか」

 「(ゴクン)…このスープもなかなかだね。何だか元気になる気がするよ。ワートルスープって言うのこれ?」

 ドラえもん達は食べた事の無い、この世界の豪華な食事を大いに楽しんだ。


 そして翌朝。カラメールの外に、ドラえもん達5人とダッパ、ハーラン、キャロリーナ夫人、ガラパゴス、それにドラえもん達に助けられた元農民のバーナバスが集まっていた。

 ドラえもんが地面にタイムマシンを置き、”いざないの瞳”を持って説明を始める。

 「みんな、ぼくがこの宝石を調べた結果、これをタイムマシンの空間移動装置と時間移動装置に接続して、タイムマシンのエンジンを起動させれば、宝石の魔力で次元を隔てる壁に干渉して、短い間だけ、 世界を隔てる壁を壊せる事が分かったよ」

 「もっと分かりやすく言ってくれよ。つまり、どういう事だ? 俺達は帰れるのか?」

 ジャイアンの抗議に対し、スネ夫が代わりに説明する。

 「ジャイアン、つまり、宝石とタイムマシンを使えば、謎かけ盗賊が僕達をこの世界に呼んだ時みたいに、空間の割れ目を作れるって事だよ。そして、そこを通れば、僕達は元の世界に帰れるって事。そうだよね、ドラえもん?」

 「そういう事。ただ、謎かけ盗賊が僕達をこの世界に呼んだ時に、この宝石の魔力の半分以上が使われたみたいなんだ。だから今、次元の壁を破壊すると、この宝石は魔力を使い果たして、ただの宝石になっちゃうんだ…」

 ドラえもんはキャロリーナ夫人の方を向いた。するとキャロリーナ夫人は笑顔で答えた。

 「私は構いません。それを行ったところで、宝石そのものが失われるわけではありませんし、力が失われれば、もう悪用される恐れも無くなるでしょう。仮に宝石が失われる事になったとしても、その力が悪用されるよりは良いでしょう」

 「ありがとうございます」

 ドラえもんがキャロリーナ夫人に頭を下げている間、のび太は服のポケットから”運命の振り子”を取り出し、ダッパに見せる。

 「ダッパ、この振り子は君の言う通り、ボク達の世界に持ち帰るよ。えーっと、これをこの世界から持ち出すと…何だっけ?」

 「”運命の振り子”が世界の秩序を破壊するほどの魔力を蓄えていられるのは、この世界に存在する間だけで、一度別次元の世界に持ち出してしまえば、その魔力は失われて、またこの世界に持ち込まれたとしても、 もう魔力が戻る事は無い…だったわよね、ダッパさん?」

 しずかの答えにダッパは頷く。

 「ああ。ハメット先生の遺した資料を調べて分かったんだ。こんな物騒な物を残しておくと、また誰かに悪用されるかも知れないからな。だからって、また運命の神殿に戻すのも大変だし、一度破られた場所に置いても、また誰かが破るかも知れないし」

 のび太は笑顔で”運命の振り子”をポケットに戻した。

 ドラえもんはタイムマシンからケーブルを伸ばし、”いざないの瞳”と繋いで、次元の壁を破壊するための準備を始める。その間、のび太達はダッパ達と向き合っていた。

 「ついに別れる時が来たんだな…」

 「ボク達がこの世界に来たのは、謎かけ盗賊に利用されての事だったけど、悪い事ばっかりじゃなかったよ。すごい冒険ができたし、君という新しい友達ができたし」

 ダッパと握手するのび太。

 「あなた方の事は決して忘れません。世界を救った英雄として、今後もこの街で語り継いでいきましょう」

 キャロリーナ夫人が頭を下げる。

 「へへっ。僕達、また世界を救ったヒーローになれたんだね」

 得意気になるスネ夫。

 「バーナバスさんには、私が船員の仕事を紹介しておいたよ。ちょうど次に私が乗る予定の船で、船員を募集していたのを見たのでね」

 「あんた達が来てくれなかったら、わしは一生あの化け物達の玩具にされていた。あんた達のおかげで、わしは人生をやり直せる。あんた達はまさに救世主だ。本当にありがとう」

 笑顔で話すガラパゴスと、のび太達を拝むバーナバス。

 「そんな、救世主だなんて大げさですよ。本当に良かったですね、バーナバスさん」

 ニッコリと笑うしずか。

 「ハーランはオイラと一緒に、キャロリーナ様の召使いとして働く事になったよ。ハーランなら力仕事に役に立つからさ」

 「そうか。ダッパもハーランも頑張れよ!」

 「フモー!」

 ジャイアンの応援に歓声を上げるハーラン。

 「みんなー、準備できたよー」

 そこへドラえもんが戻ってきた。

 「皆さん、お世話になりました」

 キャロリーナ夫人達に頭を下げるドラえもん。

 「あなた方をこの世界に連れ込んで利用した謎かけ盗賊が、利用したはずのあなた方によって野望を阻止される。考えてみると皮肉なものですね…」

 キャロリーナ夫人が言う。

 「でも謎かけ盗賊って、結局何だったのかしら?」

 「何だか訳の分からない奴だったよね…まるでアンゴル・モアみたいだ…」

 しずかとスネ夫が首を傾げる。するとダッパが言った。

 「オイラ、謎かけ盗賊はいつか、またどこかに現れる気がするんだ」

 「何言ってんだよ、お前だって俺達と見ただろ? あいつが自分から溶岩に落ちたところを…」

 「もしかして、ボク達が倒したのはまたぬいぐるみだった、って事?」

 「それは分からないけど…謎かけ盗賊はあれじゃ終わらない気がするんだ。いくら倒しても、またいつか、どこかで新しい謎かけ盗賊が現れるような…何となくだけど、そんな気がするんだ」

 「運と偶然の神ロガーンに仕える者は、謎かけ盗賊だけではないと聞きます。彼らロガーンの使者は、世界の善と悪の平衡を取るために行動しているとも。謎かけ盗賊が倒されても、 他の使者達がロガーンのために、またどこかで活動を開始する。もしかしたら、彼らの中から新たな謎かけ盗賊が生まれるのかも知れません」

 「つまり…この世界に善と悪がある限り、その均衡を取るロガーンの使者達は現れ続けるし、謎かけ盗賊も現れ続ける…そんな感じなのかな」

 ダッパとキャロリーナ夫人の考えを、ドラえもんがまとめる。

 「もし、また謎かけ盗賊が現れて、また何かとんでもない事をやろうとしたら、きっとオイラが止めてみせるよ!」

 ダッパが力強く言う。

 「おう! それを聞いて、俺達も安心して帰れるぜ」

 「僕達、ここでの冒険を忘れないよ」

 「私達の事、忘れないでね」

 「元気でね、ダッパ」

 「ぼく達がここまで来られたのも君のおかげだよ。ありがとう」

 「うん。オイラ、みんなに会えて嬉しかったよ」

 ドラえもん達は別れのあいさつを終えると、タイムマシンの上に乗った。

 ドラえもんがタイムマシンを操作すると、タイムマシンとケーブルで繋がっていた宝石が光り始め、数秒後…


バリイイィィン!!


 目の前の空間が、ガラスのごとく割れた。5人がこの世界へ来た時、時空間が割れたのと同じように…

 ドラえもんはケーブルから宝石を外すと、タイムマシンの外に置いた。そして再度タイムマシンを操作する。

 タイムマシンは5人を乗せて浮かび上がり、目の前に広がる空間の割れ目へと入っていく。

 「さようならー!!」

 地上にいるダッパ達が叫びながら、5人に手を振る。

 「元気でねー!!」

 のび太達も大きく手を振り、そして割れ目の中へと消えていった。そして数秒後、割れた空間は時間を巻き戻したかのごとく修復されていき、後には魔力を失った宝石が残された。

 ダッパは宝石を拾い、本来の持ち主であるキャロリーナ夫人に返す。キャロリーナ夫人は笑顔でそれを受け取った。

 そして彼らは、街の中へと戻っていった…



 タイムマシンに乗ったドラえもん達は、しばらくは闇の中を進んでいたが、やがて目の前に、先ほど見たような割れ目を発見した。その先には、本来タイムマシンが通る場所である時空間が見えた。

 タイムマシンがその割れ目を通って時空間に出ると、やはり割れ目はみるみるうちに修復されていき、最後には何事も無かったかのように、完全に無くなった。

 「…ここは元の時空間だ。ぼく達、帰って来られたよ!」

 「ほんとか!」

 「ママぁ!」

 「これでお家に帰れるわ!」

 「良かったぁ!」

 手を取り合って喜ぶ5人。するとその時…

  トゥルルルルルルルルル…トゥルルルルルルルルル…

 ドラえもんのポケットから、電話のコール音のような音が響いてきた。

 「!? これは…タイム電話!」

 ドラえもんは慌てて、時間を超えて通話ができる電話・タイム電話をポケットから出す。

 「はい、ぼくドラえもんです」

 「お兄ちゃん! 無事なのね!?」

 電話の主はドラミだった。

 「もう! 時空間に異常が発生したって聞いたから、急いで電話したのに、何回かけても繋がらないから心配したのよ! 一体何があったの!?」

 「それは…ちょっと別世界を冒険してたんだ。心配かけてごめん」

 「何? それどういう事?」

 「説明すると長くなるから、また今度話すよ。それから、チケットを当ててくれたお礼に、いつかメロンパンをお土産に持って行くから、楽しみに待っててね。それじゃ…」

 「あっ! ちょっとお兄ちゃん!?」

 ドラえもんはタイム電話を切った。

 「さ、みんな、帰ろう!」

 「「「「うん!」」」」

 5人の乗るタイムマシンは、彼らの時代へと帰っていった。

 その途中、のび太はふと、ある事を思い出し、服の中から何かを取り出して眺めた。

 それは”運命の振り子”だった。それまで全く止まる事の無かった振り子は、この世界に持ち込まれた事で力を失い、全く動かなくなっていた…













主要キャスト

原作CV
ドラえもん 大山のぶ代
のび太 小原乃梨子
しずか 野村道子
スネ夫 肝付兼太
ジャイアン たてかべ和也
ドラミ よこざわけい子
イメージCV
ダッパ 野沢雅子
謎かけ盗賊 八代駿
キャロリーナ夫人 三石琴乃
ガラパゴス 松本保典
ハーラン 木村昴
衣装ダンスの魔神 富田耕生
ワックスリー 関智一
フィネガン 水田わさび
バーナバス 雨森雅司
黄金の魔神 堀絢子












 広い海のどこかを、一隻のガレー船が優雅に進んでいる。その船には乗組員がおらず、帆は全く風を受けずに垂れ下がっている。船底は波をかき分けるどころか、海面に接してすらいない。

 「トゥワイス・シャイ」の名を持つその船の中に、高い帽子と緑のスーツとピカピカの靴を身に着けた、1人の小柄な人物の姿があった。

 その人物が、海のどこかにあるその船に、どうやって乗り込んだのかは分からないが、その人物は、その部屋にある大きなタンスの前で、丸顔でやや太った、1人の男と会話をしていた。

 「あんな子供達が、この船で生き残れたというだけでも驚きましたが、まさかご主人様を倒してしまうとは。さすがにご主人様に選ばれただけの事はありましたな」

 「しかし、自分で選んだ奴らにやられちまうとは、謎かけ盗賊もツイてないよな。運と偶然の神の使いなのにさ」

 「あの子供達は別世界から来た者達だそうですね。別世界から来た彼らが相手では、運と偶然の加護など通用しなかったのかも知れませんね」

 「そんなもんかねえ…何て言うか、あの連中は、運と偶然の加護なんてもので、どうにかできる奴らじゃなかった気がするんだよな…口ではうまく説明できないけど…ところで、あんたはこれからどうするんだい?」

 「どうするも何も、私はこのタンスから離れられない身。ロガーン様が新たなご主人様をお創りになるまで、この船と共に旅を続けるしかありません」

 「そっか…今度の謎かけ盗賊はどんな奴になるんだろうな…おいらはおいらを雇った謎かけ盗賊にしか会った事がないけどさ、あんたがこれまでに仕えてきた謎かけ盗賊達も、あんな奴ばかりだったのかい?」

 「いえ。私が仕えてきたご主人様の多くは、善の勢力にさりげなく魔法の品を授けたり、悪の勢力に情報を手引きする程度でした。あれほど大がかりな悪巧みに手を出したご主人様は初めてです。 あのご主人様が行われた行為が、ロガーン様のお望みの事であったのかどうかは、私にも分かりかねますが…次のご主人様がどのようなお方になるかは、ロガーン様のみぞ知るところでございます… それで、あなたはこれからどうするのですか?」

 「おいらは適当にそこら辺をブラブラするよ。元々おいらは、気まぐれで謎かけ盗賊を手伝ってただけだし、主人がいなくなった家の門番なんかやっててもしょうがないしな…それじゃ、おいらはそろそろ失礼するよ」

 「そうですか。それではさようなら、フィネガン」

 「それじゃあな」

 小柄な人物…レプリコーンのフィネガンは、キラキラと色を変える煙と共に姿を消した。そして、やや太った丸顔の男…衣装ダンスの魔神は、白い煙に変化してタンスの中に入っていき、タンスはひとりでに閉まった…





〜ドラえもん のび太と異世界の盗賊〜





 原作「謎かけ盗賊」との設定の相違

 ・原作では、最後の戦いの後の展開については特に指示されていない。そのため、このエピローグはこのプレイのみのオリジナル展開である。ただし、パーティで出された料理は全て、 タイタン世界に設定上存在する料理である。

 ・”運命の振り子”が別次元の世界に持ち出されると力を失うというのは、このプレイのみのオリジナル設定。

 ・衣装ダンスの魔神がタンスから離れられない、魔神がこれまでに何人もの謎かけ盗賊に仕えてきた、フィネガンが気まぐれで謎かけ盗賊を手伝ってただけというのは、このプレイのみのオリジナル設定。 ただし、謎かけ盗賊は誰かに倒される度に、運と偶然の神ロガーンによって新しく創り出されているという設定は、タイタン世界の設定として存在する。なお、この設定は「謎かけ盗賊」が発売されてから数年後、 シリーズ末期のゲームブックで判明した事であり、そのゲームブックは日本では翻訳・発売されていない。


あとがき


 伝説の勇者です。「ドラえもん のび太と異世界の盗賊」は、これにて完結となりした。

 僕にとっては初めての小説という事で、小説を書くにあたって、ドラえもんの作風や設定を見直すためにドラえもんの単行本や藤子・F・不二雄大全集を読み返したり、 これまでにこのサイトで公開された小説等を読み返して、文章表現等を研究しつつ、色々と試行錯誤しながら書いていきました。また、瀬名秀明氏の「小説版ドラえもん のび太と鉄人兵団」も大いに参考にさせていただきました。


 まず、読み物として注意した点は…

 ・誰が話しているのか分かりやすくするために、一人称をある程度使い分ける (ドラえもん、のび太、スネ夫は「ぼく」「ボク」「僕」、ダッパとフィネガンは「オイラ」「おいら」、ジャイアンとワックスリーは「俺」「おれ」)。
 ・どの武器を使用したか分かりやすくするために、武器の効果音を使い分ける (ショックガンの「バシュッ」、空気砲の「ドカンッ」、衝撃波ピストルの「ボンッ」等)。
 ・読者にとって説明不足にならないように、原作「謎かけ盗賊」ではプレイヤーに説明されない部分(謎かけ盗賊の目的、怪物の名前や習性等)も本編内で説明させる。
 ・ひみつ道具の初登場時には、その道具の簡単な説明を付ける。

 こんなところでしょうか。


 次に、ドラえもんの作風に合わせるために注意した点は…

 ・ボケやツッコミを話のあちこちに散りばめる。
  テーブルトークRPGのリプレイと言っても、ただ冒険内容を書いていくだけではドラえもんキャラを使う意味が無いので、キャラの個性を出すために、 物語の途中でいかにボケやツッコミを入れていくかに頭を使いました。
 ・原作「謎かけ盗賊」では助ける事のできない人も極力助けるようにする。
  原作で助けられない人が出るシナリオを「ドラえもん達なら助けようとするはず、助けられるはず」という前提で改訂していきました。その結果、救われた者(ハーラン等)も、 助けてしまうと話が成立しないが故に出番を削られた者(ブルーストーン男爵等)も出る事になりました。
 ・極力人間の死体を出さず、出しても骸骨のみとする。
  原作「謎かけ盗賊」では、その殺伐とした作風や、謎かけ盗賊の悪趣味のために、死体はもちろん人間の剥製なんてものまで出てきますが、作風に合わないので排除しました。 でも「出しても骸骨のみ」と言っても、その骸骨だけでも何度も出てくるのがこの作品だったりして。

 こんなところですね。


 それから、個人的な好みでこだわった点は…

 ・「恐竜」〜「ワンニャン時空伝」までの全ての大長編から、各作品につき最低1つはネタを入れる。
  作品毎の好き嫌いや善し悪しはあるものの、それで一部の作品を仲間外れにする事は避けたかったので、各作品につき最低1つはネタを入れる事にしました。 特に「海底鬼岩城」や「日本誕生」には使いやすいネタが多かったです。
 ・出したひみつ道具は、たとえ大失敗で間違えて出した道具であっても、何らかの形で有効利用させる。
  せっかく出したのに使われない道具があるのはもったいないですし、間違えて出した道具が思わぬ形で役に立つ展開が好きなので。 取り寄せバッグのように結果的に役に立たなかったものや、天地逆転オイルのように無理矢理使わせてしまったものもありましたが…
 ・のび太達のキャラは基本的に大長編に近いものとするが、大長編補正に縛られずに普段ののび太達のキャラもある程度は両立させる。
  のび太達を大長編補正に支配された状態にはしたくなかったので、間抜けな発言をするのび太や近くの物に八つ当たりするジャイアン等、通常編を思わせるシーンも積極的に入れるようにしました。

 こんなところですね。


 最後に主要登場人物達について。ゲーム上のステータスも記載しておきますので、興味のある人だけ読んで下さい。

 ・ドラえもん………技術点:8 体力点:18 運点:9  技能/ひみつ道具:10 射撃:10 暗視:11 世界の知識:9 機械の知識:9
  大長編でもリーダーとして活躍しているだけあって、プレイ中にプレイヤーの決断を仲間に話してそのための準備をする、実質上のプレイヤーの分身とという位置付けになりました。
  リーダーとして活躍する一方で、容赦ないツッコミをしたり、いい加減な事を言ったりといった「○○な一面」を描写するのが楽しかったです。
  原作のテーブルトークRPGにおけるサイコロでの判定を、ひみつ道具を出す時にも当てはめる事で、肝心な時にガラクタばかり出すという特徴も再現できたのは良いアイデアだったかな、と自画自賛しております。

 ・のび太……………技術点:7 体力点:14 運点:12  技能/射撃:12 あやとり:9 ひみつ道具(スペアポケット使用時):8
  上記の通り、大長編と通常編を両立させたくて、話の中で機会を見つけてはボケさせていました。どんなボケをさせるかは、原作からネタが豊富に手に入るので書きやすかったですね。
  その一方で、銃で敵を倒すのび太のかっこ良さも描いていきましたが、このプレイでは、接近戦に持ち込まれて苦戦するパターンが多くなってしまったような。
  設定上は、無我夢中になると普段できない事(泳ぐ等)ができるようになるという特徴もあったのですが、このプレイでは使用する機会がありませんでした。

 ・ジャイアン………技術点:9 体力点:19 運点:8  技能/剛力:10 素手戦闘:10 槍:10 棍棒:10 投擲:12 鉄棒:11
  こちらも大長編と通常編を両立させたくて、機会を見つけては乱暴に振る舞わせましたが、こちらは仲間に取り押さえられたり、近くの物に八つ当たりしたりと、同じネタの繰り返しが多かったですね。
  「太陽王伝説」で習っていたために、特技に「槍」を入れましたが、他のキャラが接近戦用の特技を持っていなかったために、ショックスティック一本で予想以上の活躍を見せる事になりました。
  また、このプレイでは使用する機会がありませんでしたが、設定上は歌による無差別攻撃技を持っていました。

 ・スネ夫……………技術点:9 体力点:17 運点:7  技能/世界の知識:12 口先:12 手技:12
  他のキャラは原作に忠実にという前提で描いていたのに対し、彼の描写はいくらか脚色されていたりします。
  スネ夫は通常編では見栄っ張りで意地悪、大長編では弱虫というイメージが強く、どちらを重視しても悪い印象ばかり強くなってしまうからです。
  そのため、現実主義な面を優先的に描く事にして、弱虫な面は怯えるシーンが他のキャラよりもやや多いという程度に留め、見栄っ張りで意地悪な面は、のび太に対抗して格好をつける、皮肉を言いつつも協力するというイメージで描きました。

 ・しずか……………技術点:8 体力点:15 運点:11  技能/世界の知識:10 礼儀作法:10 ピアノ:9 水泳:9 料理:9 手技:9
  正直、ドラえもん達5人の中では一番印象の薄いキャラになってしまいました。
  大長編では敵に捕らえられたり、戦闘から外されて別行動を取ったりと、単独行動が多くて、その間にゲストキャラとの友情を獲得したりしますが、このプレイでは全員一緒に行動する事が多いので、割を食ってしまったのかも知れません。
  上記の技能がプレイ中に1つも発揮されなかったのも残念でした。

 ・ダッパ……………技術点:8 体力点:8
  原作では14歳の青年で、ガイドとしては役に立つが戦いは苦手なお調子者なのですが、このプレイでは大長編でいう主役ゲストキャラの位置付けという事で、仲間として扱いやすいようにのび太達と同年代にして、謎かけ盗賊打倒に積極的なキャラに大幅改変しました。
  カラメールの道案内はもちろん、街の外でもタイタン世界や怪物の説明役として活躍でき、作者にとってもドラえもん達にとっても、ガイド役として役立ってくれました。
  また、彼には他のキャラほど強い個性が無いので、少しでも存在感を強めるために、ひみつ道具やドラえもん達の世界に興味を示す描写をあちこちに入れました。

 ・ハーラン…………技術点:9 体力点:9
  原作では敵として倒されるだけのキャラでしたが、ドラえもん達なら助けるのではと考え、助けるならいっその事、仲間にしてしまおうという思いつきを実行した結果、原作改変によって最も救われたキャラとなりました。
  しかし、仲間にしたは良いものの、いちいちポケットからかるがる持ち運び用紙を出さなくてはならない上に、大柄なので狭い場所には向かず、使い所を選ぶため、意外に活躍の機会が少なかったですね。
  謎かけ盗賊にさらわれて敵になる展開は、10話で持ち運び用紙出すのに失敗した時にふと思いついた事でしたが、結果的にハーランの印象を強める事ができたかも知れません。

 ・謎かけ盗賊………技術点:不明 体力点:不明
  ボス敵だけあって、狡猾で愉快犯的なキャラというイメージは原作でほぼ固まっていたので、それに従って描きました。
  14話に書いた通り、謎かけ盗賊の具体的な能力は原作にも殆ど記載されていないので、魔芸と粉末生物、盗んだひみつ道具、それに少々のオリジナル能力を加えるという形をとりました。
  結果的に「物量で苦しめる」「様々な魔法が使える」「倒す方法がある程度限られる」「狡猾」「ひみつ道具を打ち破る」といった、大長編の強敵達の特徴を色々と併せ持たせる事ができましたね。


  ドラえもんのテーブルトークRPGを思いついたきっかけは、ドラえもんのひみつ道具の豊富さと、使い道の自由度をもっと生かせるゲームは無いかと考えているうちに、 自由度の高いテーブルトークRPGに目を付けた事でしたが、何年も前に気紛れで作ったオリジナル設定から、ここまで長い小説を自ら書く事になるとは思いませんでした。

  皆様、本当にありがとうございました。


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