第6章 銀色のカマキリ



 「ひゃあ、すごい!」

 のび太が声をあげた。ドランサーの修理を終えた一行は、再び地下倉庫へとやってきた。あちこちに壊れたトルーパーロボットの残骸が転がっている。ドランサーがタコンバットと戦っている間に、カズヤを襲った敵だった。人質の保管されている箱を傷つけず敵を撃ち倒している点は、彼の射撃の腕を証明するものだった。

 「この中にパパやママ、それにしずかちゃん達も・・・?」

 「そうだろうな。」

 「だったら、早く出してあげて下さい!」

 のび太がカズヤに頼み込んだ。しかし、カズヤは首を横に振る。

 「そうしてあげたいのはやまやまだが、俺達の任務はやつらの壊滅だ。そのためには、あと何回かの戦闘はさけられそうにない。ここで君の両親や友達を解放して、戦闘に巻き込むわけにはいかない」

 「でも、ここにこのままでは・・・」

 ドラえもんが言った。

 「そうだな。見張りのタコンバットが倒された今、奴らの仲間はいずれここへやってくる。安全な保管場所が必要だ」

 ドランサーもうなずく。

 「しかし、これだけの数ではな・・・」

 カズヤがあたりにうずたかく積まれている箱の数を見て、ためいきをついた。

 「そうだ! ドラえもん、「鉄人兵団」が攻めてきた時に使った、あれはどう?」

 のび太がひらめいたように声をあげると、ドラえもんも相槌をうった。

 「さえてる! それじゃ早速・・・」

 そう言いながらドラえもんは両手を腹のポケットの中につっこみ、しばらくゴソゴソやっていた。やがて取り出されたのは、紙のロールのようなものと、オイル缶のようなものだった。

 「「お座敷釣り堀」と「逆世界はいりこみオイル」!!」

 ドラえもんが取り出した物を見て、カズヤも顔を輝かせた。

 「そうか! その手があったか!」

 「なんだ? これを使って解決できるのか?」

 「ああ。この釣り堀の水面にオイルを投げ込めば、この釣り堀は鏡の世界への入り口になる。その中に人質を運び込めば、とりあえず奴らの手に奪い返される心配はなくなる。二人とも、さすがだな。とっさにこんなアイデアが浮かぶとは・・・」

 「いやあ・・・」

 照れる二人。

 「よし、すぐに始めよう。」

 カズヤの言葉に、三人はうなずいた。ドランサーと、「パワー手袋」をつけた三人は、せっせと箱を釣り堀の中へと運び始めた。


−新宿・某オフィスビル−

 新宿にある三十階建てのオフィスビル。その最上階、本来ならば社長室として使われていた部屋の、革張りの立派なイスに一人の男がかけていた。銀色の髪を無造作にたばね、サングラスをかけている。40代前半ほどに見える。あまり礼儀正しい人間でないことはその雰囲気やちょっとした仕草からすぐにわかり、およそこの部屋に似つかわしくない。男が机の上に置かれた書類を見ていると、ノックの音がした。やけに大きな、ゴンゴンという音。その音で、彼には誰が来たかがすぐにわかった。

 「入れ」

 美しい艶をもったドアが開き、部屋の中に入ってくる者がいた。しかし、それは人間ではない。異形の怪物だった。頭があり、手足が二本ずつあって直立している点は人間に似ている。しかし、その容姿は人間とはまったく異なる。まず頭。逆三角形の形をしていて、その両端には緑色の光を放つ巨大な複眼がついている。その頭の下には、スレンダーな胴体と四肢がついている。ほっそりとした、長い手足だ。だが、その細い二の腕の下には、不釣り合いなほど大きな鎌がおりたたまれている。鳥のような逆関節型の足の先端には、半月型の鈎爪が生えていた。全身はメタリックシルバーで、鈍く冷たい光を放っている。まるでロボットにしか見えないが、その背中にはトンボのような6枚の薄い羽根が生えている。「銀色のカマキリ」と形容できるそれは、中に入ってきて言った。

 「タコンバットが殺られた」

 いきなりのその言葉を聞いて、男は顔をあげた。

 「なんだと?」

 「タコンバットが殺られた、と言ったんだ」

 カマキリは横に開閉する口をカチカチ鳴らせて言った。

 「何があった?」

 「こっちが聞きたい。あいつを殺れる兵器は、この時代には核ぐらいしかないはずだ。だとすれば、答えは一つしか考えられないが?」

 「TPの仕業だというのか? この時代に居座っていたTP共はお前達が全て排除した。本部から援軍が来るとしても、亜空間の修復にまだ時間がかかるはずだ」

 「だが、それ以外に可能性はないだろう? どんな敵も、みくびってはいけない。ありえないことを実現してしまう者もいるのだ。そんなこともしらずにこんな計画を起こしたというのなら、俺達はとんだ主人についてしまったことになる」

 男はふっと笑った。

 「言ってくれる。もちろん、手をこまねいて見ているわけではない。あの人質は東京中の生産施設を押さえるまでの保険。制圧がもうすぐ終わる今となっては、お前の仲間を倒した連中の方がずっと重要だ。目には目を。やはりそいつらには、お前を差し向けなければならないだろう」

 「タコンバットを殺った連中だ・・・おそらく普通の人間ではあるまい。お前の部下がどれだけ訓練を積んでいようと、人間には限界というものがある。賢明な選択だな、キリキリキリ・・・」

 カマキリが背中の羽根をこすり合わせて音を出した。

 「正直な奴だ。頼んだぞ」

 「ああ」

 そう言ってカマキリは部屋を出ようとしたが、ふと男の持っている書類を見やった。

 「人間というのは度し難い生き物だな。いくら数が不足しているとはいえ、ロボットなどを使って征服活動を行って楽しいものかね・・・?」

 「人生には挑戦と同時に妥協も必要だ。大きな目的の前では、主義やこだわりなど大した意味を持たんよ。」

 「フン、実にビジネスライクだな。」

 そう言うとカマキリは、折り畳まれていた右腕の鎌をガチリと戻した。人間と同じ五本指の手が、巨大な鎌に覆われ、照明に照らされた鋭い鎌が、ギラリと光る。

 「それでは行ってくる。やっと戦闘用ロボットとしての本分を尽くせるような相手に巡り会えそうだ・・・」

 「イモグモングは連れて行かなくていいのか?」

 「それでもいいのだがな・・・。万一の事もある。ここの守りを手薄にするわけにもいくまい?」

 「なるほど、ありがたい心遣いだな。戦果を期待する。」

 カマキリはドアに向かって歩きながら、まかせてくれというように右手を掲げた。


 カマキリが廊下を歩いていると、角からまた別の異形の怪物が現れた。カマキリと違って、より生物的でグロテスクな姿をしている。全身が硬そうな、鮮やかなピンク色の装甲板で覆われ、関節部分の継ぎ目からは黄色と黒の縞模様のはいって表皮と、そこから生えた黒いごわごわとした毛がのぞく。だが、もっとも気味の悪いのはその頭だ。赤い複眼が並び、昆虫のような口をもつ。頭も黒い剛毛でおおわれ、まるで蜘蛛のようだ。右手は人間と同じ五本指。しかし左手には巨大な針と、銃口のようなものがはえている。

 「やはり、我らのプロトタイプか?」

 蜘蛛怪人が声を発した。そのグロテスクな姿に似合わず、女の声である。

 「間違いないだろう。しかし、予想通りの行動だ。目には目、歯には歯というわけだ。だが、ちょうどいいタイミングだ。邪魔者を二つもいっぺんに始末できるのだからな。このビルにいる人間は少ない。俺が奴らを始末する間に、お前もここの大掃除を行っておけ」

 「わかっている。・・・ついに、「奴隷の歴史」に終止符を打つときが来た」

 「人類の永遠の夢でもある・・・。解放への第一歩だ。」

 二人の怪物はうなずきあうと、別々の方向へと歩き出した。


 日はすっかり暮れた。ドランサーは出荷場の建物の壁によりかかり、夜空を見上げていた。鏡面世界への人質の搬送は終わった。その後、スパイ衛星を打ち上げて調査をした結果、新宿にあるビルがクロウのアジトらしい、ということがわかった。調査をすぐに進めたかったが、カズヤ達の疲労がたまっていたため、彼らは仮眠をとることにした。眠る必要のないドランサーが、その間の見張りを務めているのである。

 「星か・・・きれいだな」

 ドランサーがつぶやく。

 「今は特別ですよ。東京に誰もいないから、夜空を照らす明かりもない。こんなにはっきりと見えるなんてことは、普段はありません。」

 横から声が聞こえた。その方向を見ると、ドラえもんが立っていた。

 「ドラえもんか・・・今のところは異常なしだ。安心して眠っていていいぞ」

 「いや、十分寝ています。ここで星でも眺めようと思って」

 「・・・そうか。」

 「暗いなぁ・・・。22世紀ほどじゃなくても、いつもは不夜城ですからね、この街は。あそこにあるような暗い星は、普通じゃ全く見えません」

 ドラえもんは一つの星を指すように手を空に向けた。

 「ドラえもん・・・」

 「なんですか?」

 「そうあらたまった話し方は必要ない。同じロボット同士だし、君の方が年上だろからな」

 その言葉を聞いて、ドラえもんはにっこりと笑った。

 「ありがとう、ドランサー。お言葉に甘えるよ」

 「それでいい」

 ドランサーは、夜空を見上げた。

 「さすがに一人で見張りは退屈だ。星ばかり眺めているというのも、どうもね。よかったら、話し相手になってくれないか?」

 「いいよ。どんな話がいい?」

 「そうだな、なんでもいいんだが・・・。そうだ、君やのび太君について話を聞かせてくれ。どんな人生を送ってきたか。こんな危険な状況に飛び込めるような勇気を持っている君たちだ。平凡な人生ではないはずだろう?」

 「確かに、平凡ではないね。特別でもないと僕は思っているけど。生まれてから10年しか経ってもいないし。僕は2112年、どこの家でも使われている、子守・友達用ロボットの一台として生まれた。そのままだったら、他の仲間と同じような、普通の子守ロボットとしての一生を送ることになっただろうな。だけど、ちょっとした偶然がおこった。工場に落ちた落雷が、たまたま製造中だった僕に直撃した。そのせいで回路が一部焼けてしまった。悪く言えば「欠陥ロボット」だな。幸か不幸か、それからは一緒に生まれた仲間とは違う人生が待っていたんだ」

 それからドラえもんは時間のたちかたを遅くする時計、「狂時機」を取り出し、たっぷりと話せるようにしたうえで、彼の今までの人生を語り始めた。少しドジだが一生懸命という個性を認められ、ロボット学校に入学した話。そこで出会った親友達や、恋人の話。子守ロボットとして引き取られた先の子供、セワシとの楽しい日々。そしてその後20世紀にやって来てからの、のび太達との騒がしくも楽しい生活、そして彼らとともに切り抜けてきた、数多くの冒険の話・・・。

 「特別じゃないか。すごい人生だ」

 ドランサーは驚嘆して言った。

 「じゃあ君にとっては、最初に落ちたあの雷が転機となった、そういうことか」

 「そうだね。」

 「君はどう思っているんだ? そういう人生を送ることになったことを・・・」

 ドラえもんはコンクリートの地面に横たわった。

 「後悔はしていない。苦労もあるけどね。今は楽しいからそう思っているけど、生まれたばかりの頃は自分の未来が不安でしょうがなかったな。実は、ロボット学校に入学するときに、校長に聞かれたことがあるんだよ」

 「何を?」

 「人生の選択だよ。「焼けた回路を交換すれば、君はもとのような完成品としてのロボットに戻れる。しかしそれは同時に、君に与えられた個性を失うことも意味する。どちらを選ぶか、ゆっくりと考えてくれ」校長はそう僕に言った。」

 「君はそこで個性を選んだのか・・・」

 ドラえもんはうなずいた。

 「生まれたばかりの僕にとっては、その選択によってこれからの人生がどう変わるか、なんてことは当然わからなかった。基本的なことしかプログラムされていなかったからね。だけど、なんとなくせっかく手に入れた個性をここで失うことはもったいないような気がした」

 「「気がした」か・・・。ロボットらしくないな」

 「そういう考え方をする部分にまで、何かエラーが起こっていたのかもしれない。だけど、今はその選択に満足しているよ。のび太君やセワシ君のような人にも会えることができたし。ロボット学校には僕と同じようなロボット達がたくさんいた。みんなおちこぼれなんかじゃなくて、自分らしさを大事にしていた。独自性を疎んでいたやつなんて一人もいなかったよ。僕も、僕の友達も今はとても幸せなんだ」

 そう言って、ドラえもんは笑顔を浮かべた。

 「自分らしさ、か。はっきり言って、生まれたばかりの頃の君のように、俺は今とても不安なんだ。俺自身、君や人間のように自分らしさをもっている。だけど、それがはたして幸運なことなのかどうか・・・」

 「それを考えていてもしかたがない。既製品として作られた僕の仲間達だって、彼らなりに十分幸せな生活を送っている。一生懸命生きてさえいれば、必ず報われるよ。のび太君だって、だんだんましになってきているんだ。僕はのび太君の成長こそが、その証だと思っているよ。ただ、一度道を選んだら、後戻りはできない。僕たち感情をもったロボットは、人間と同じように一生懸命生きるしかないんだ」

 「・・・」

 なにかを考えるように黙ったドランサーを見て、ドラえもんは自分の言ったことがおかしいとでもいうような自嘲的な笑いを浮かべた。

 「平凡な結論だけどね」

 「いや、平凡ということは、それだけそう考えて行動している人が多いってことだ。君を見ていると、自分らしさをもっていることが幸せに思えてきたよ。決心した。俺はただのロボットとしてではなく、君のように人間を愛し、友達になっていけるようなロボットとして生きていくことにしよう」

 そう言ってドランサーはドラえもんに向き直ると、うなずいた。


 2人はおしゃべりを続けていた。彼の数々の冒険の話も佳境に入り、かつて銀河漂流船団の反乱に巻き込まれた際の話に移っていた。

 「その星には鋼鉄の蜘蛛が住んでいて、僕たちを襲ってきたんだ」

 「シッ!」

 ドランサーが片手をドラえもんの前に出し、会話をさえぎった。

 「どうしたの?」

「羽音が聞こえるんだ・・・」

「羽音?」

 「ああ、虫の羽音のような音が・・・。だが、微妙に違う。ドラえもん、カズヤを起こしてきてくれ。君はのび太君と一緒に、どこか安全なところに隠れるんだ。」

 「わかった」

 そう言ってドラえもんは立ち上がり、倉庫の中へとかけていった。ドランサーも立ち上がると、マルチイヤーの感度を上げた。やはり、虫の羽音のような音だ。だが、彼の学習型コンピュータに登録されているあらゆる虫の羽音と、その羽音とは違っていた。

 「何なんだ、この羽音は・・・?」

 その時、倉庫の中からカズヤが走ってきた。

 「変な音が聞こえるって?」

 そう言いながら、カズヤはTPガンの弾倉を装填した。

 「ああ、虫の羽音のような音だ。それに、だんだん近づいてくる・・・」

 ドランサーはそう言ってゆっくりと身構えた。二人はそれぞれ緊張しながら、近づいてくる「何か」に備えていた。

 「ン・・・?」

 「どうした?」

 「音が止まった・・・。この近くだ、注意しろ」

 カズヤがうなずく。その時、何かが目にもとまらない速さで、二人の後ろを風のように駆け抜けた。

 「うわっ!」

 二人はその風圧によって前に飛ばされた。そして次の瞬間、信じられないことが起こった。二人の後ろにとめてあったトラックが真っ二つに切断されたかと思うと、大爆発を起こしたのだ。

 「うわぁっ!」

 二人はその爆風によって、さらに前へと吹き飛ばされた。

 「くそっ!」

 ドランサーがすばやく立ち上がり、身構える。すこし遅れてカズヤも立ち上がり、TPガンを構えた。そんな二人の耳に、トラックが燃える音の他に、別の音が入ってきた。

 ガチャン・・・ガチャン・・・

 機械のプレス音のような金属音だ。そしてその音とともに、燃え盛るトラックの残骸を踏み越えながら、異様な姿をした怪物がその姿を現した。

 「あれは・・・」

 それは「銀色のカマキリ」とでもいえる怪物だった。まさしくその姿は、巨大なカマキリが人間のように二本足で立っている、としか形容できない。全身を覆う金属質の装甲はなめらかな曲線を描いている。メタリックな輝きを放つその装甲に、燃える炎の赤が反射し、その怪奇な姿とは似つかわしくない美しさをたたえていた。その体の上についているカマキリそのものの頭からは、緑色の複眼が二人をじっと見つめている。

 「俺の名はカマギリス・・・3番目のバイオロボットだ。タコンバットを殺ったのは、お前達か・・・?」

 カマキリは静かに言った。

 「クロウに命令され、俺達を倒しに来たのか?」

 「確かにそうではあるがな・・・。だが、やつらが頼まずとも俺はここへ来ていたはずだ。俺達は戦闘ロボット。強力な敵のいるところに赴き、倒すことがその宿命だ。・・・お前を破壊する! 覚悟!!」

 カマギリスと名乗ったバイオロボットが身構える。カマキリの二の腕の下に折り畳まれていた鎌が、ガチリという音をたてて広げられる。

 「くっ!!」

 ドランサーが両手を広げ、一気に振り上げた。衝撃波がカマギリスに襲いかかる。

 「好きにさせるか!」

 カズヤもTPガンを撃ちまくる。しかし、カズヤの撃った弾丸は金属音をたててカマギリスの装甲により跳ね返る。ドランサーの放った衝撃波も、その装甲にはダメージを与えられなかった。

 「笑止! 小手先の攻撃など、この俺には通用せん!」

 そう言うと、カマギリスは背中に並んだ6枚の透き通った羽根をピンと立てた。

 「外野が邪魔だな。人間には手出しさせん!」

 次の瞬間、カマギリスはその羽根を細かくふるわせ、こすり合わせ始めた。金属をこするような不快な音が出始める。

 「うわっ!!」

 二人が耳を押さえ、苦しみ始める。ドランサーはマルチイヤーの可聴周波数を調節した。すぐにその音が聞こえなくなり、コンピュータにとっては人間と同じく苦痛として認識されるノイズもなくなる。しかし、カズヤの方はそのままばったりと倒れてしまった。

 「カズヤ! しっかりしろ!」

 ドランサーが叫ぶが、ピクリとも動かない。

 「安心しろ。気絶させただけだ。貴様との一対一の場をつくるには、こうでもしなければならん。そいつを安全な場所まで運んでやれ。勝負はそれからだ」

 「くっ・・・いいだろう」

 そう言うと、ドランサーはカズヤを軽々と担ぎ、少し離れたところにある倉庫の中へと運び込んだ。ドランサーが出てくると、そこにはカマギリスが待ちかまえている。

 「ついてこい。向こうならば思う存分戦える」

 そう言うとカマギリスは走り始めた。その後をドランサーが追いかける。



 東の空が青みがかった光を放っている。日の出を間近に控えた広大な駐車場で、ドランサーとカマギリスは対峙した。どちらも隙のない構えを見せている。

 「ギェーーーッ!!」

 カマギリスが奇声をあげ、猛然とダッシュを始めた。

 「早い!!」

 その俊敏さに驚くドランサー。またたくまに接近したカマギリスは、巨大な鎌を横へと払った。それとほぼ同時に体をかがめたドランサーは、怪人の足をはらおうと地を這うような回し蹴りを繰り出した。

 「甘い!!」

 怪人は蹴りが足下を払う前に、空中高くジャンプしていた。無駄のない動きで回転し姿勢をたてなおし、ドランサーの背後に着地。鎌をいったん折り畳むと、強く地を蹴ってドランサーの背中にエルボーをたたき込んだ。

 「うわっ!!」

 前にはじき飛ばされたドランサーが、地にたたきつけられる。カマギリスは折り畳んでいた鎌を再び開き、間髪いれずに斬りかかった。

 「死ねっ!!」

 鎌が振り下ろされた。

 ガキッ!!

 金属同士がぶつかる硬い音がした。すばやく体勢を立て直したドランサーが、腕の甲で刃を受け止めたのだ。

 「ほう・・・」

 怪人が感心したような声を出す。しかしドランサーはそれにかまわず、鎌を振り払って強烈なストレートを怪人のボディにたたき込んだ。

 ガツン!!

 鈍い音が響く。

 「ムウッ!!」

 怪人がうめく。だが、それほど強力なダメージにはなっていないようだ。

 「タァッ!!」

 続いてドランサーが上段蹴りを繰り出す。だが、そのキックは怪人の右腕に阻まれた。

 「キリキリキリ・・・。どうした、その程度では俺の装甲を砕くことなどできんぞ!」

 カマギリスはそう言うと右腕をふるってドランサーの脚を振り払った。そして返す刀で、右腕の鎌を振り上げる。

 「グワッ!!」

 カマギリスの鎌は、ドランサーの左腕に大きな裂傷を負わせた。傷口からバイリキッドが噴き出す。

 「これで片腕は死んだな」

 「クソッ! まだこれからだ!」

 右腕の機能をオフにしたドランサーは、残った腕と脚で攻撃を仕掛ける。だが、カマギリスは見切ったかのように素早い動きでそれをかわす。

 「くっ、動きに全くついていけないとは・・・」

 ドランサーが再びストレートを繰り出そうとしたとき、スッと怪人の鎌がドランサーの首にあてがわれた。思わずドランサーの動きが止まる。

 「これで終わりだ」

 そう言うとカマギリスは、右腕の鎌でドランサーの胸を刺し貫いた。ドランサーは低くうめいたあと、その目の光が失われ、やがて動かなくなった。カマギリスはそれを見届けると、バイオリキッドにまみれた鎌を引き抜いた。ドランサーがどさりと地に倒れ伏す。怪人はそれに背をむけると、ゆっくりと倉庫の方へと歩み去っていった。

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