「さよならはいわないよ。りっぱなパーマンになったらきっと帰ってくるからね」

「がんばって」

「ぼくらのぶんもな」

「キーキー」

 彼は仲間と、そう別れの挨拶をした。そして、円盤に飛び乗る。機械はうなりをあげはじめた。彼の円盤は、彼とともに「星」へと行く仲間達と共に、高く昇っていく。小さくなっていく地球の仲間達に、彼は叫んだ。

「いってきま〜す!!」


時空警察ドランサー
〜帰郷〜

第1話
交錯する運命


「うん・・・」

 彼は目を開けた。そこは彼の部屋のベッドの上。本当に久しぶりにゆっくりと眠ることができたからだろうか。10年前の旅立ちの時の夢を見た。彼は起きてすぐに顔を洗い、服を着替えた。休暇中なのでそれほど早く起きる必要はないのだが、仕事のくせで、こうしないと落ち着かない。

「アラン教官の話からすれば・・・そろそろかな」

 彼はそうつぶやいた。訓練生だったころ、自分を担当した教官、アランから聞いた話を、彼は思いだしていた。今の彼のように長期休暇をもらった隊員は、その半分もたたないうちにあきてしまう。だからその上司は隊員に、特別なプレゼントをする、と。実際、彼は平和すぎるバード星での休暇にあきてきていた。もしその「プレゼント」が与えられるとしたら、そろそろだろう。そう思っていたのだ。その時、彼の部屋のテレビ電話が音をたてた。表示窓に表示されている番号は、彼の上司、バードマン023からのものだった。

「クリムゾンです」

 彼は受話器をとった。

「起きていたか」

 電話の向こうの上司は言った。

「はい。生活リズムが染みついてしまって・・・」

「なるほど。実はな、君に話がある。朝食をとったら、私の部屋にきてくれ」

「わかりました」

 彼は電話を切った。もし、その話というものが「プレゼント」のことであれば、10年ぶりだな、と彼は思った。そのことに少し複雑な思いを抱きつつも、彼は部屋から出ていった。

 窓を大きくとってある、バードマン023の私室。そこを訪れた彼は、ソファーにかけるように上司からすすめられた。

「休暇はどうだね?」

「神経をすり減らさなくて済む分、潜入捜査などよりはずっといいです。たっぷり眠ることも、つい1ヶ月前まではできませんでしたからね。しかし、最近になってそろそろ・・・」

「あきてきたか?」

「すいません」

「まあ、無理もないだろう。この星は美しく平和だ。君もここに来る前は、天国のように美しい星だと思っていただろう?」

「今でもです。実際この星は、天国のように美しい星でしょう?」

「うん、たしかにそうだ。しかし人間は、例えそこが天国でも、いつまでも満足していることはできない。本能だな。みんなそうなるものだよ。だから君に、一つプレゼントをしたいと思う」

 彼は心の中で、「やっぱり」と思った。その表情を見てか、上司は彼に言った。

「それがどんなものか、やっぱり知っているようだな」

「はい。アラン教官から聞いていましたので。もっとも長期休暇をとれる身分になるまで、そんなことは忘れていましたが」

 長期休暇は、ある程度実績を積んだエージェントがもらえる。彼の場合も、3つの悪の組織を壊滅させたため、この初めての長期休暇を手に入れられたのである。

「そうか。それなら話が早いな。君に一週間の帰郷を許可する」

「やはりそうですか。ありがとうございます。ところで、エージェント用の装備はどうしましょう?」

「そうだな、今のところ地球ではやっかいごとは起こっていないが・・・持っていったほうがいいかな。用心のため。休暇を返上するようなことが起こらないように祈っているよ、みつ夫くん」

 彼をそう呼んだ上司の言葉に、彼は笑った。

「久しぶりですよ、その名前で呼ばれるのは」

「そうだろうな。君はバードマンクリムゾンとして、よくやってきたからな。いろいろと思うこともあるだろう。留守は我々に任せて、安心して行ってくるといい」

「はい。ありがとうございます」

 彼は窓の外に目をやった。あれから10年。自分にとっては変化の多い10年だったが、地球ではどうだろうか。バード星と地球。その距離と時間という隔たりは、彼に何を見せるのか。彼はまもなく目にすることになるその事実に、希望や不安、郷愁といったものが混ざった、複雑な思いを抱いていた。




 久々の非番。カズヤはある昔なじみと会うために、トーキョーの美術館へと足を運んでいた。この美術館では、現在今年の芸術祭で入賞した作品の展覧会が開かれている。美術館の中に入った彼は、「喧噪」という題の作品を探して歩き始めた。

「あった、これか・・・」

 目的の絵の前に立ち止まり、彼はその絵に見入った。

「少し、作風が変わったかな・・・」

 彼は目の前の作品を見て思った。しかし、残念に思うようなことはなかった。作風はよい方向に変化しているようだし、10年も経てば作風も少しは変化するだろう。彼は時計を見た。まもなく11時、約束の時間になろうとしている。目を入り口に向けたその時、一人の女が入ってくるのが見えた。紺色のスーツとスカートを身につけた、知的な顔立ちをした女性だった。彼女はカズヤの姿を認めると、笑顔で彼のところへとやってきた。

「久しぶり、カズヤ君」

「こちらこそ、おひさしぶりです。サエキ画伯・・・でいいでしょうか?」

 少し困惑気味に尋ねるカズヤに、彼女は小さく笑った。

「いいのよ、昔通り「先輩」で。「画伯」なんて呼ばれるのには、まだ慣れていないから」

 そう言うと彼女は、壁にある作品に目を移した。

「どう? この絵」

「作風が変わったことに、少し驚きました。高校時代の先輩の風景画の印象が強かったせいか」

「今でも風景画が中心よ。ちょっと見方を変えて都会の風景を描いたら、こういうことになったわけ」

 そう明るく話すサエキを見ながら、カズヤは彼女の性格まではそれほど変わっていないと思った。10年前、彼がまだ高校生だったころ、彼は美術部に所属していた。目の前で楽しげに話す彼女は、一年先輩の美術部部長、サエキ・カオリだったころと、ほとんど変わっていない。

「それじゃ行こうか。この近くにはおいしいレストランがあるのよ。そこでゆっくり話しましょう」

「はい」

 彼女は彼の前を歩き始めた。




「今も絵を描いているの?」

 料理を注文した後、彼女はカズヤに尋ねた。

「忙しくなっていったこともあるんですが・・・大学からは、だんだん絵から離れていきました。描く時間もあまりなくて・・・」

「そうよね。本当に忙しそうだもの。今日くらいしか、休みはとれないんでしょう?」

「すいません。こっちの都合にあわせてもらって」

「いいのよ。忙しさから言えば、私があわせるべきでしょう? ところで・・・それでも、完全に絵から離れたわけじゃないでしょう?」

「ええ。気に入った画集を眺めるぐらいはしています」

「それって、もしかして・・・」

「ええ。持ってきました。これですよ」

 彼は一冊の画集を取りだした。使い込んであるが、大事にしてきたもののようだ。

「やっぱり、フェルメールの画集ね。あなたが県展に入賞したとき、ツチダ先生がくれた・・・」

「はい」

「大事にしてるのね。でも、不思議ね。あの頃は私よりあなたの方が才能があると思っていたけど、今じゃあなたじゃなくて私の絵が美術館に飾られているなんて・・・」

 彼女がそう言うと、カズヤは笑った。

「いいじゃないですか、そんなこと。結果的にはお互い、納得のいく生き方ができるようになったんですから。才能は持っているだけじゃなく、生かして初めて役に立つものでしょう。俺はTPという仕事に、先輩は画家という仕事に、満足して打ち込んでいられるんですから」

「それもそうね。やっぱり大人ね、カズヤ君は。・・・あら?」

 彼女は少し不思議そうな顔をして、カズヤの後ろを見るように首を動かした。

「どうしたんです?」

「見覚えのある後ろ姿があるのよ。ほら、あの人」

 彼女がそっと指さしたところには、こちらに背を向けて食事をとっている男がいた。

「お世話になっている人ですか?」

「それほどの仲じゃないけど・・・ウイーンに留学していた頃、何回か話をしたことがあってね」

「それなら、ごあいさつをしてきたらどうですか?」

「え? う〜ん・・・だけど、悪いわよ。カズヤ君に日程を調整してもらったのに・・・」

「気にしないで下さい。お節介かもしれませんが、どんな人でもお世話になったのなら挨拶をしておいたほうがいいと思いますよ」

「たしかにそうだろうけど・・・それなら、お言葉に甘えさせてもらおうかしら。ごめんね、なるべく早く切り上げるから」

「そう慌てなくてもいいですよ。時間はたくさんありますから」

「それじゃ、ちょっと行ってくるね」

 彼女はそう言って男の所へ歩いていった。彼女が話しかけると、男は少し驚いた様子を見せたが、すぐに笑顔で彼女と話し始めた。

「あの人・・・たしか雑誌で見たな・・・」

 彼はどこか見覚えのある男の横顔をながめていた。だがすぐに二人は別れのあいさつをし、サエキはカズヤのところへ戻ってきた。

「ごめんね、待たせちゃって」

「いえ、ちょうどアイスコーヒーも来たし、いいタイミングですよ。ところで、誰なんですか? 以前美術雑誌か何かであの人の顔を見たことがあるんですが」

「ええ、私より少し前から有名になってきている人よ。ジェラール・フォンテンブローさん。芸術家としては私より先輩で、ウイーンでも画家の集まりで何度か会ったことがあるわ」

「芸術家ですか。それじゃあ、あの人の絵もこの展覧会に?」

「ええ。でもそれを見に来たというよりは、ここのポークソテーの方が目当てだったみたい。それを食べて、これから帰るところだったみたいよ」

 彼女がそう言っていると、その男は立ち上がって軽く手を振った。サエキとカズヤが軽く会釈をすると、その男も頭を下げてレストランから出ていった。それを見てから、サエキは少し小さな声で言った。

「ちょっと変わった人なのよ」

「そりゃあ、芸術家はみんなどこかしら変わっているものじゃないですか? 先輩も高校時代から、ちょっと抜けているところがあるじゃないですか」

 カズヤがそう言うと、サエキは苦笑した。

「ずいぶん言うわね」

「それは冗談として、変わっているというのは作風のことですか?」

「それもそうね。絵だけでなく彫刻や建築も手がけているわ。だけどそれ以外にも、TDLサービスに極端に反対していてね」

「TDLサービスに・・・ですか?」

 テクニック・ダウンロード・サービス。それはパソコンにファイルをダウンロードするように、人に様々な技術をダウンロードする、というサービスである。それは従来は多くの経験や練習を必要とした技術を、すぐに習得できるようにしたものである。例えば、サッカーやバスケットボールのようなスポーツ選手の脳内では、それぞれのスポーツの動作に特化された神経ネットワークが構築されている。そのネットワークを電気的刺激によって人工的かつスピーディーに構築するのがテクニック・ダウンロード・サービスである。元は脳神経の障害で歩けない患者の治療など、医療目的でつくられた技術だった。だが、理論的には素人をどんな技術のスペシャリストにも育てることができるため、事業化にはさほどの時間はかからなかった。こうして始まったこのサービスは、瞬く間に広まっていった。絵が好きなのに、うまく描けない人。ギターが好きなのに、うまく弾けない人。そんな人々が利用の中心となり、余暇を芸術に費やす人々が増えていったのである。もっとも、これが適用できない分野もある。スポーツはだいたいそうである。スポーツ選手は経験をつむと同時に、そのスポーツに適した体も作り上げている。心・技・体。この3つがそろっていなければよい結果が出せないのは、今も昔も同じである。野球をやったことのない人がその経験だけを手に入れても、体がついていかずうまくいかないのは自明の理だ。そのような理由で、TDLサービスの中心は「文化系」の技術である。

「芸術家という職業が脅かされているのを恐れているんじゃないですか? 昔どこでもドアが発明されたとき、鉄道会社や航空会社が猛抗議をしましたが、あれと同じ様な・・・」

「そういうのとはちょっと違うみたいなのよ。才能というものを特に重視しているみたい。才能のない人が自分達に匹敵する腕を得たところで、単なる道楽に使われるのがオチだって。芸術が道楽にされるのを許せないのね」

「なるほど・・・。たしかにそういうおそれはありますね。僕も少しはそう思いますよ」

「みんな大体そういうものよ。私だって、あまりいい気はしないわ。でも、才能を持っていてもそれを生かせなかった人が、TDLサービスでこの世界に出てこれたっていう例もけっこうあるから、頭から否定はできないわね」

「そうですね。新技術というものには、そういうところがありますから。・・・彼自身は、どういう人なんですか?」

「うん・・・。作品のセンスはいいと思うし、さっき言ったようなところを除けば、社交的でつきあいやすい人よ」

 彼女がそう話していると、ウエイターがワインを持ってきた。

「お待たせしました。まもなく料理もまいります」

 ウエイターはワインの栓を抜き、二人のグラスに注ぐと、会釈をして去っていった。

「さ、ワインが来たわ。乾杯しましょう」

「はい」

「乾杯」

 二人は軽くグラスを掲げて、一口飲んだ。

「おいしいわ。いいワインをいい男と飲めるなんて、入賞よりもうれしいかもね」

「なに言ってるんですか」

 少し冗談めかして言うサエキに、カズヤは少し照れながらそう言った。




 オーストリアのとある地方。深い森の奥に、一つの大きな屋敷が建っていた。古典的なホラー映画を撮るにはもってこいの場所だが、その屋敷の大きな木のドアを、一人の男がきしませながら開け、中へと足を踏み入れた。中は真っ暗である。

「私だ。今帰った。誰かろうそくを持ってこい」

 彼が暗闇にそう声をかけると、マッチを擦る音が聞こえ、燭台のろうそくに灯がともった。その明かりに、広い玄関ホールの様子がぼんやりと照らされる。しかし、その燭台を支える者はなく、それは宙に浮いたまま男のもとへと近づいてきた。

「フィリップか。ヴィンセントとフェルディナンドはどうしている?」

 男が宙に浮く燭台にそう言うと、どこからか小さな、聞こえるかどうかわからないほど小さなささやき声が聞こえた。それを聞いて、男は表情を変えた。

「司祭インダラが? わかった。すぐに行こう」

 男が足を踏み出すと、燭台はその前を滑るように移動し、男の足下を照らしていく。男は階段を上って廊下を歩き、ある部屋の前に立ち止まって、ドアに向かって声を発した。

「ジェラールです。お待たせして申し訳ありません、司祭インダラ」

「かまわない。入ってくれ」

「はい」

 ジェラールはドアを開けて中に入った。ランプのあかりがぼんやりと照らす室内で、黒い馬の仮面をかぶった男がチェス盤に向かってコマを動かしていた。その向かい側には誰もいなかったが、チェスのコマは仮面の男の手に反応するように静かに動いた。

「お前の召使いはずいぶん気が利くな。彼のおかげで、お前を待つ時間の長さを忘れることができた」

「おそれいります。ヴィンセント、ありがとう。今夜はもう休んでいいぞ」

 ジェラールは誰もいないイスへそう声を掛けると、テーブルを挟んでインダラの前に腰掛けた。それとほぼ同時に、今度はワイングラスを乗せたお盆が、部屋の中へと入ってきた。お盆を持っている者の姿は見えない。

「ありがとう、フェルディナンド。さあ、お召し上がりください」

 ジェラールは盆からワインとグラスを取ると、ワインをグラスに注いだ。

「ずいぶん特殊な作品を作っているようだな。彼らも、お前の作品なのか?」

「私の傑作にして、よき友人ですよ」

「背後霊ロボットか何かか?」

 インダラがそう言うと、ジェラールは少し笑顔を浮かべて答えた。

「たしかによく似てはいますが、あんなまがい物の機械人形とは全く違います。なにしろ、彼らは私によって作られた正真正銘、「本物の」幽霊なのですから」

 彼は得意げに言った。

「どういうことだ?」

「この間本を読んでいて、おもしろいことを知りましてね。それを実践してみたのです」

「どんなことだ?」

「1972年に、A・R・G・オーウェンという学者の研究グループが、「幽霊を作り出すことは可能か」という奇抜なテーマで実験を行ったのです。それはグループ全員が、「フィリップ」という架空の人物の幽霊を信じて、その幽霊を呼び出す、というものでした。念のいったやりかたでしてね、そのために肖像画を作ったり、彼の「過去」を設定したりもしたらしいです。最初は何も起こりませんでしたが、やがて彼はポルターガイストやラップ音で、研究グループと交信するようにまでなりました」

「それを同じようにやってみたわけか。だがお前の友人は、そのフィリップよりもはるかにいろいろなことができるようだが」

「オーウェンのグループよりも、さらに深く信じていますから。自己暗示まで使って彼の存在を信じるぐらい、徹底的にね。おかげで、彼らはごく普通の人間のようにこの屋敷で暮らしています。だからこそワインを持ってきたり、司祭のチェスの相手をしたりできるわけです。この屋敷にはフィリップ、フェルディナンド、ヴィンセントの3人がいます。少ししゃべる以外にはほとんど向こうから意志疎通はしませんが、感覚的に区別はできます」

「にぎやかな家だな」

 インダラは仮面の口にワインを運んだ。

「しかし、幽霊を作った芸術家など、私だけでしょうね。司祭も一人いかがですか? よろしければ詳しい方法を教えますが。いらぬお節介をしない、品のいい同居人と過ごすのもいいものですよ」

「結構だ。自分の面倒は自分で見られる」

「そうですか。さて・・・酒も来ましたし、話を伺いましょうか。今度はどんな人物を殺せばよいのでしょうか?」

「今回はいつに増して重要だ。秘密計画の計画書の一部を持って逃亡した裏切り者の始末と、計画書の奪回。これがお前の任務ということになっている」

「なるほど、重要ですな。しかし何ですか?「ことになっている」という意味は?」

「それは後で話そう。ターゲットはこの男だ」

 彼は一枚の写真を手渡した。アジア系の男が写っている。

「わかりました。この男は今どこに?」

「20世紀の日本、場所はここだ」

 インダラが住所らしきものの書かれた紙を見せた。

「覚えました」

「よし、それではこれから私の話すことを聞いてから、準備にかかってくれ」

「はい」




 休暇の翌日早朝。カズヤが極東支部のTSWAT司令室の中に入ると、中には数人の隊員がいた。

「おはよう」

「おはよう。昨日はいい一日だったか?」

 ドランサーがカズヤに声をかけてきた。

「ああ。有意義だったよ」

「スグロさんがうらやましがっていたぞ。昔の先輩、それも美人画家とデートなんて、っていう具合にな」

「何言ってんのかね、あいつも」

 二人はそのように話しながら部屋を出て、隊長室へと歩いていった。

「特命らしいな」

「ああ。気の毒だが、休日のあとの辛い任務になりそうだ」

「かまわないさ。これが俺達の仕事だからな」

 二人は隊長室の前に来た。

「失礼します」

「ご苦労、かけてくれ。早速だが、今回の任務を説明する」

 サナダの言葉に応じ、二人はイスにかけた。

「またかと思うかもしれないが、君たちには20世紀末の日本へ向かってもらう。そこである男と接触し、彼の持っている物ごと彼を保護するのが君達の任務だ」

「別にまたか、とは思いません。なじみのあるところですし。それで、その男とは?」

 サナダは一枚の写真を二人に見せた。

「アルバート・カワムラという男で、ネオ・サッグからの脱走者だ」

「! ネオ・サッグの脱走者・・・なるほど、確かに重要人物ですね」

「しかもだ。彼の話を信じるならば、彼はネオ・サッグが推進しているらしい重要計画に比較的近い位置にいたらしく、その計画書の一部を持っているらしい」

「ほう・・・それはすごい。なんとしてでも手に入れたいところですね」

「うむ・・・それでだが、彼の潜伏場所はここだ」

 サナダはある住所の書かれた紙を見せた。20世紀末の東京のようだ。

「当然ネオ・サッグも、脱走者を放っておくわけがない。暗殺者を差し向けるだろう。いや、もう差し向けているかもしれない。彼が襲撃される前に保護するのがベストだが、場合によっては暗殺者との交戦、最悪ではこの話自体が罠という可能性もある。注意してくれ」

「了解しました。必ず保護してみせます」

「ハッ! それでは出発します」

 威勢良く声を発した二人は、格納庫へと走り去った。




 こうして、4人の男達が同じ時間、同じ場所へと赴くことになった。2000年、冬の東京。人々が間近に迫った21世紀に、期待と不安を抱いていたそのころ。その時代、その場所に、それぞれの思いを抱いて向かう彼らは、まだ知らなかった。それぞれの運命が、一人の女性の上で交錯することを・・・。


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