朝。廊下の窓から射し込む光まで、ここではどこか神聖なものに見える。赤い絨毯の敷かれたその廊下を、一人の人物が歩いていた。

 一言で言うならば、神父である。黒ずくめの法衣を身にまとい、首からは金色のロザリオをぶらさげている。金髪の短い髪をしたその人物は、廊下に立ち並んでいるドアの一つの前に立ち止まると、ノックした。

 「ユミコー、起きろ。仕事だぞー」

 だが、中からは返事が返ってこない。しかし、元からムダだとわかっていたことである。その人物はドアのノブに手を掛けると、回した。思った通り、ドアには鍵がかかっていない。ドアを開けると、その人物はゆっくりと中へと入っていった。

 部屋の中は、じつに質素なものだった。それなりに調度品がそろっており、それなりに装飾もされている。ただ、ビデオラックに並んでいる、漢字で「必殺仕事人」だの「剣客商売」だのと書かれたビデオが、妙に部屋の雰囲気と不釣り合いなのだが・・・。

 「・・・」

 その人物は、窓際に置かれているベッドへと近づいた。そこには、一人の女性が眠っていた。黒い髪を伸ばした、少し地味な感じの東洋系の少女である。ベッドの側のサイドボードには、彼女が普段かけている丸い眼鏡が置かれている。その人物が入ってきたことにも気づかず、彼女はベッドの中でスヤスヤと安らかな寝息をたてていた。

 「悪く思わないでよね。仕事なんだから」

 そう言うとその人物は、彼女を揺り起こそうと手を伸ばした。その時である。

 「・・・うぅ〜ん・・・ハインケル〜・・・」

 「!」

 彼女が突然自分の名を呼んだため、その人物は手を止めた。どうやら、寝言らしい。

 「・・・」

 その時、その人物の頭の中に、ちょっとした悪巧みが思い浮かんだ。見かけとは裏腹に、いたずら心もあるのだ。あとで起きたときに、そのことでからかってやろう。そう思い、その人物は手を止めて、続きの言葉を待った。

 見ていると、彼女は寝ながらニヤニヤと笑い、こう言った。

 「ハインケル〜・・・そのズボン、きつそうに履いてるねぇ〜・・・」

 ピキッ!!

 その言葉を聞いた途端、その人物は額に青筋をたて、おもむろに懐に手を伸ばした。そして、中から取り出したもので・・・

 ドガッ!!

 「ギニャーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」



 ハインケル・ウーフー。彼女にもまた、言われれば傷つく言葉の一つや二つ、あるのである。


HELLえもん



番外編



ススキヶ原CROSS FIRE


 「何すんのよぅ、ハインケル!! いきなり銃床で人の頭殴るなんて!!」

 ベッドで寝ていた女は、頭に大きなタンコブを作りながら目の前の相手に怒鳴っていた。神父姿の相棒は、右手にデリンジャーを持っていた。

 「自分の胸に手を当てて思い出せ!! あたしは神に代わって、お前に神罰を下したまでだ!!」

 まだ怒りが収まらない様子で、ハインケルはデリンジャーを片手に持ったままで言った。

 「知らないわよそんなこと!! だいたいあたし達、神様のために今日は東に明日は西にって感じに飛び回ってんのよ!? なのにどうして、あんたから神罰下されなきゃなんないのよォ!!」

 「理由を言う気にもならないわ!!」

 二人はしばらく口論を続けたが、やがて、どちらも疲れた。

 「ふぅ・・・もうやめようよ。なんで昨日アルゼンチンから帰ってきたばかりだってのに、こんな朝早くからあんたと喧嘩しなきゃならないわけ? そもそも、なんであたしの部屋にいるのよ?」

 「決まってんでしょ? また仕事よ」

 「え゛――――――ッ!? なんなのよそれぇ!? イギリス、アルゼンチンって2連チャンで仕事してやっと帰ってきたのに、また仕事ォ!? いやよぅ、どーせまた・・・」

 「言わなくてもわかってるわよそっから先! いーからさっさと着替えて! 待たせると課長の機嫌、どんどん悪くなるわよ」

 ハインケルがそう言うと、女はブツブツ言いながら着替え始めた。

 ・・・やがて、彼女はいつもと同じ服装に着替え終わった。相棒と同じく金のロザリオを首から垂らした、どこからどう見てもシスターにしか見えない姿に。

 「それじゃいくよ」

 そう言うとハインケルは、彼女の部屋から出ていき、彼女もそのあとに続いた。





 「ああぁ・・・もうヤダ・・・こんな生活・・・」

 シスター・・・高木由美子は、ハインケルと廊下を歩きながらそんなことをつぶやいた。

 「疲れるのはわかるけど、満足じゃないの? あんただって、神様のために働きたいからヴァチカンに来たんじゃないの」

 「そりゃそうだけど・・・あたしはもっと普通に、もっと穏やかに神様のお役に立ちたかっただけなのよ? それなのに・・・」

 「あんたが普通の人なら、それでもよかったかもしれないけどね。「由美江」がいる以上、あんたが神様の役に立てる一番の方法は、ここで働くことなんだから」

 「うぅ・・・。それにしたって、あんたにはわかんないでしょ!? ハッと気がついたら、周りが死体だらけだったり、廃墟になってたりすんのよ!?」

 「もう慣れてんでしょ? 不平はそのぐらいにして、急ぐ急ぐ」

 由美子の不満を強引に押さえつけ、やがてハインケルは相棒とともに、一つの大きなドアの前に立った。

 「ハインケル・ウーフー、高木由美子、参りました」

 「入れ」

 中からの男の声を聞いて、ハインケルは由美子を見た。

 「ほら・・・課長機嫌悪いじゃないの」

 「ハインケルがデリンジャーであたしの頭殴るからいけないんじゃないの!」

 「何をしてる!? 早く入れ!!」

 「はッ! はい!!」

 慌ててドアを開けて中へと入る二人。





 その十数時間後・・・「新東京国際空港」と書かれた大きな建物から出てくる二人がいた。服装を見れば、何をしている人間かすぐにわかる。神父とシスターだ。

 「・・・まさか、自分の国で仕事するなんて・・・」

 呆然とした様子で、由美子が言う。

 「いいじゃない。久しぶりに帰って来られたんだから」

 「仕事じゃいやよう。ちゃんとした休みで帰りたいわよぅ」

 「休みたいならちゃっちゃと片づけること。そのぶん、休みは早くやってくるだろうから」

 そう言って、愛用のサングラスをかけたハインケルは歩き出した。

 「休みがちゃんときたことなんて、一度もないじゃないの・・・」

 由美子はぼやきながら、自分の荷物である布に包まれた妙に長い物を担ぎ直すと、そのあとについていった。





 「前から思ってたんだけどさ・・・」

 前もって用意しておいたレンタカーを運転しながら、窓から見える風景を見てハインケルがつぶやいた。

 「なに?」

 「日本の町って、ほんっとうにゴミゴミしてるわね」

 「それを言うなら、ローマの裏町だってけっこうゴミゴミしてると思うけど・・・。それに、狭い国なんだから仕方ないじゃない」

 さすがに自分の出身国なので、とりあえず弁護する由美子。

 「ゴミゴミしてるだけじゃなくて、なんか茶色なのよね、全体的に」

 「それもしょうがないの! 日本はそういう国なんだから」

 由美子はそう言うと、シートにもたれかかった。

 「それにしても、課長も思いきったことするよねー。ヨーロッパとか南米とかならいざ知らず、この国でいつもあたしたちがやってることなんてやったら、大騒ぎになるわよ」

 「そんなの関係ないのよ。あたしたちの仕事は、課長が神の王国を邪魔するサタンの使いだと判断した奴らを始末することなんだから」

 ハインケルは運転しながら言った。

 「それに、今回はとりあえず偵察ってことになってるし・・・」

 「どうせやることはおんなじよ。いざ始まったら、あんたは銃を撃ちまくるし、あたしは「由美江」を起こさなきゃならないし・・・はぁぁ」

 由美子はため息をついた。

 「ほんとに偵察だけで済ます気だったら、あたしらじゃなくてもいいじゃないの。わざわざあたしらを行かせたってことは・・・」

 「そういうふうに解釈していいと思うよ」

 「いろいろ不満はあるけど、人手不足を真っ先になんとかしてほしいわ」

 「仕方ないよ。あたしたちみたいなのが、そうそう世の中にいるわけじゃないんだから」

 ハインケルはそう言った。

 「ところで、練馬ってどんなとこなの?」

 「う〜ん・・・あたしにはとても、課長が言うようなとんでもない奴らが住んでるところとは思えないけど・・・。あたし、出身長崎だから東京のことはよく知らないし・・・練馬っていって、一番最初に思い浮かぶのは大根だし・・・」

 「大根?」

 「そう、大根」

 「・・・。まぁ・・・わからないわね。あたし達だって、表向きは存在しないことになってるし・・・」

 「それもそうね。でも、それでもわからないのが・・・」

 そう言って由美子は、二枚の写真を取り出した。

 「ほんとにこんなのが、あのアンデルセンを傷つけたわけ?」

 信じられない様子で、由美子が言った。写真に写っているのは、メガネの少年と、青いタヌキのようなへんてこな物体。由美子はそれを見ながら、十数時間前、自分達の上司から与えられた命令を思い出していた。





 「お、おはようございます、課長。ご機嫌はいかがですか?」

 ご機嫌とりもかねて、ハインケルは部屋に入るなり机に向かっている男にそう言った。

 「よくないな。やはり、ローマから外へ出るものじゃない。一歩出れば、そこはサタンの使いの巣窟だ」

 そう答える彼らの上司、マクスウェルの顔は、たしかに不機嫌そうだった。無理もない。彼は法皇の命令とはいえ、これ以上ないくらい忌み嫌っているプロテスタントの対吸血鬼武装集団、ヘルシング機関の局長と会見をし、帰ってきたばかりなのだ。

 「疲れているのなら、お休みになっていればよかったのに・・・」

 由美子が遠慮がちに言う。しかし、マクスウェルは苦笑いをしながら答えた。

 「そうもいかん。お前達に命令すべき仕事が、またできたのだからな」

 その言葉に、ハインケルと由美子はため息をついた。

 「で・・・? 今度は、どこへいって何をすればいいのですか?」

 もうどうにでもしろというような投げやりな感じで、ハインケルが尋ねた。

 「うむ。今回は今までのように、皆殺しをすればいいという単純なものではない」

 「単純かどうか知りませんけどね・・・具体的な内容は?」

 「と、その前にだ・・・。お前達、アンデルセンがこの間、どういう目にあったか知っているな?」

 「アンデルセンですか? ええ、知っていますけど・・・」

 二人の脳裏に、数日前アイルランドから戻ってきたときのアンデルセンの姿が浮かんだ。アイルランドに出現した吸血鬼を殺すために向かったアンデルセンは、左腕と右脇腹を失った状態で戻ってきたのである。さらに13課の人間を驚かせたのは、そのダメージはヘルシング機関のアーカードによって受けたものではなく、それ以前にその場にいた日本の少年とタヌキのような謎の存在によって受けたものであるということであった。そのことなら、ハインケルも由美子もよく知っている。ちなみにアンデルセン自身はその後すぐに全快し、マクスウェルの護衛に同行して、やはりインテグラの護衛として同行していたアーカードと一戦交えかけたそうである。今は普段の勤め先であるローマ郊外の孤児院に戻っている。

 「ならば、大体わかるだろう。あれから我々も調査を行い、おおざっぱだが、アンデルセンの話した問題の連中の正体を突き止めた」

 そう言って、マクスウェルはハインケルに写真のついた書類を渡した。

 「ええっと・・・野比のび太、国籍日本。住所、東京都練馬区ススキヶ原。職業、小学生。年齢11歳・・・現在自宅にて、青い謎の生命体と同居中・・・?」

 写真には、黄色い長袖シャツと紺色の半ズボンを身につけたメガネの少年が写っていた。そして、青いダルマのような、タヌキのような不可思議な生命体の写真も。

 「なににせよ、この二人がアンデルセンに深手を負わせるほどの力をもった存在であることには間違いない。看過できぬ存在だ」

 「・・・ですから、我々の手で始末を、ということですか?」

 「そういうことだ」

 「お言葉ですが、課長・・・アンデルセンに深手を負わせるような相手となると、我々でも・・・」

 アンデルセンは精鋭揃いの13課の中でも、切り札的存在である。ハインケルと由美子も、二人力を合わせてようやく互角の勝負ができる、といったところだろう。そのアンデルセンと互角以上の勝負ができるということになると、さすがに二人でも一筋縄ではいかないだろう。

 「・・・これは命令だぞ、ハインケル・ウーフー、高木由美子。我ら神罰の地上代行者、イスカリオテの13課は、いかなる敵に対しても引き下がってはならんのだ」

 普段言っていることをまたも口にするマクスウェル。

 「わかってますよ。それじゃあ私達の仕事は、その二人を始末してくることですね?」

 「それも一つだ。だが、他にもある」

 「?」

 「イギリスで多発している吸血鬼事件の影にも、「ミレニアム」が存在していた・・・。吸血鬼ではないとはいえ、奴らの背後にもまた、なにかの組織が存在しているかもしれない。あるいは、奴ら自身がその組織の構成員という可能性も・・・」

 「あたしたちみたいに、ですか」

 「そういうことだ。お前達にはその二人と同時に、そのような組織が存在するのかどうか、実際に日本へ赴き調査してきてほしい。もし存在するのならば、可能なら鏖(みなごろし)にしろ。わかったな」

 マクスウェルは有無を言わさぬ様子でそう言った。





 「そうはいっても、いくら狂信者だからって辛いわよね、この仕事・・・」

 「由美子・・・あんた今日は、特にグチが多いわね。聞く方の身にもなってよ」

 「だって、聞いてくれる相手がいないとただの独り言になっちゃうじゃない」

 「・・・もういいわ。それより、そろそろススキヶ原ね」

 ハインケルの運転する車は、日本なら一見どこにでもある町へとさしかかった。

 「平凡な町ね・・・」

 その景色を見ながら、由美子がつぶやいた。

 「さっそく、ターゲットの家に向かうよ。由美子、ナビゲートお願い」

 そう言うとハインケルは、住所の記された紙を手渡した。





 数分後。二人の車は、一軒の民家の前で停まっていた。なんということはない。コンクリートのブロック塀に囲まれた小さな敷地に立つ、ちょっと古びた感じの二階建ての木造家屋。表札には、「野比」と書かれていた。

 「ここで間違いないようね」

 ハインケルがドアの前でつぶやく。

 「どうする? いつもだったら問答無用で飛び込んで、あんたと由美江であっという間に鏖にしちゃってるけど・・・」

 由美子が困ったような表情で言った。

 「とりあえず、ノックしてみよう。ターゲットが出てきたら、まずあたしが叩く。もう一人はあんたが由美江にチェンジして、いつもみたいに真っ二つにしちゃいなさい」

 ハインケルはそう言うと、懐にしまったリボルバーの撃鉄を起こした。

 「はぁぁ、いやだなぁ・・・」

 由美子はため息をつきながらも、ドアに近づいた。

 コンコン・・・

 「ごめんくださ〜い」

 しかし・・・

 ・・・・・・・・・・・・・

 中から返事は返ってこない。由美子はもう一度やってみたが、結果は同じだった。ハインケルと顔を見合わせる。

 「留守みたいよ」

 「とりあえず、周りを調べてみましょ。由美子、そっちを調べて」

 そう言ってハインケルと由美子は、野比家の周りを探索した。しかし、どの窓やドアにも鍵がかかっており、中に人のいる気配もない。

 「どうする?」

 再びドアの前で合流した由美子は、ハインケルに意見をもとめた。

 「今回は事前調査が足りなすぎね・・・。せっかく来たのに、ターゲットが留守で行方不明なんて・・・。帰ったら文句言ってやるわ」

 ハインケルはため息をつきながらそう言った。

 「まあいいわ。まだこの町の調査っていう仕事が残ってる。先にそっちの方を片づけましょう。この家の二人以外にも、この町には私達の敵となりうる存在がいるのか、確認しないと」

 「そうね」

 二人はうなずくと、野比家をあとにした。





 「むぅっ!?」

 「どうした、安雄?」

 並んで道を歩いていた帽子を被った少年と、太った少年。そのうちの帽子の少年が、ただならぬ様子でうなって足を止めた。

 このサイトの主な来訪者であるドラえもんファンにとってはおなじみの二人だが、そうでないヘルシングファンには、説明が必要である。帽子の少年の名前は安雄、太った少年の名前ははる夫という。ほとんど名前も一般には知られず、知名度など0に等しい二人だが、この二人はよくなにげに空き地のシーンなどにのび太達とともに登場するため、恐るべきことにコミックの登場コマ回数ランキングでは、出木杉やドラミを押しのけて堂々の9位、10位入賞という実績を上げている、まさにドラえもん界のダークホースなのだ。

 「感じないのか? はる夫・・・」

 ただならぬ様子で周囲を見回す安雄。

 「感じる? なんのことだ?」

 「においだよ、におい・・・あのにおいだ・・・」

 「においだと? そういえば・・・」

 「わかるか?」

 「そうだ! たしかに、これはカレーの匂いだ!!」

 どこからか流れてくるおいしそうなカレーの匂いに、鼻をひくつかせるはる夫。

 ズドム!!

 「ふごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 その直後、はる夫の脂肪に覆われた腹に、安雄の拳が突き刺さっていた。

 「や、安雄!? 貴様、何をする!?」

 「お前は食い物のことしか頭にないのか!? そんなだから俺達は、いまだにアニメではちゃんとした名前すら与えられず、「少年A、B」扱いなんだぞ!!」

 安雄はそう怒鳴った。

 「カレーの匂いでないとしたらなんだというんだ!?」

 「フッ・・・危険の匂いさ・・・さらにいえば・・・「大長編の匂い」・・・それがこのススキヶ原の大気の中に満ち始めているのが、お前にはわからないか?」

 安雄はカッコつけて帽子のつばを押し上げながら、はる夫に言った。

 「だ、大長編の匂いだと!? なんだそれは!?」

 「わからないのなら説明してやる。俺は長い間、脇役を脱却するための方法について研究してきた・・・。その結果わかったのさ。のび太達5人が、このススキヶ原を飛び出して壮大な冒険の旅に出る前には・・・必ず、独特の「匂い」がこの町に流れるということに!!」

 「な、なんだと!? それじゃあ・・・」

 「その通りだ。その匂いがこうして再びし始めたということは・・・奴らが再び、冒険に出かけるか、そうでなくとも、普段のドタバタとはケタが違う一大事が起こる兆候だということだ。その機会さえとらえてしまえば、あとは簡単だ。奴らに同行して、俺達も冒険に参加する!! 大長編に出てしまえば、あとはこちらのものだ。俺達の知名度は、これまでとは比べものにならないくらいに上昇する!!」

 「す、すごいぞ安雄!! 俺は今日ほど、お前という親友をもっていることを誇りに思ったことはない!!」

 はる夫がそう言って、安雄を尊敬のまなざしで見た、その時だった。

 「あの〜・・・」

 「「!?」」

 背後からの声に、二人は振り返った。そしてそこにいたのは・・・サングラスをかけた金髪の神父と、メガネをかけたシスターだった。

 「な、なんでしょう・・・?」

 「君たち、ここの町に住んでる子だよね?」

 シスターが尋ねてきた。

 「そ、そうですけど・・・」

 「だったら、この二人を知ってる?」

 そう言ってシスターが出してきたのは、二枚の写真だった。そこに写っているのは、二人もよく知っている人物だった。

 「ああ、のび太とドラえもんですか。もちろん、よく知ってますよ。ていうか、たぶんこの町で知らない人はいないんじゃないかなぁ」

 「そう・・・。今日は留守みたいだったけど、どこかに行ったのかな?」

 「そういえば、昨日福引きで温泉旅行を当てたとかいって、大はしゃぎしてたよなあ、はる夫」

 「ああ、間違いない」

 それを聞いた神父とシスターは、顔を見合わせた。

 「君たちは、あの二人のことよく知ってるの?」

 「一応、友達ではありますけど。でもあの二人のことなら、いつも一緒にいる奴らがいますから、そいつらに聞いた方がいいと思いますけど」

 その言葉を聞いた二人の目が、ちょっと変わったような気がした。

 「ふぅん・・・。ねえ、その子達は、どこにいるの?」

 「いつもだったら、ここからちょっと行ったところにある空き地に集まってることが多いですけどね」

 はる夫はそう言うと、空き地への道を教えてあげた。

 「ありがとう。早速行ってみるわ」

 そう言うとシスターは、神父と一緒に行ってしまった。その後ろ姿を見ながら、はる夫が言う。

 「見たか?」

 「ああ。明らかに、ススキヶ原の人間じゃない。しかも・・・相当腕がたつと見た。そんなのが、のび太とドラえもんを探しているということは・・・」

 二人は意味ありげに見つめ合い、うなずいた。

 「ストーリーが始まると見て間違いないだろう。乗り遅れるわけにはいかん。覚悟はいいな、はる夫?」

 「オウ!!」

 「よし。お前はあの二人を尾行するんだ。俺は一旦、家に戻る」

 「なに? どういうことだ?」

 「フッフッフ・・・来るべき華々しい大長編デビューを飾るため、俺はある特撮ヒーローを参考に、強化スーツを製作していたのだ!! もちろんはる夫、お前の分もある。俺はそれを取りにいってくる」

 「さすがだ、安雄! 尾行の方は任せろ!!」

 「オウ! 行って来るぞ!!」

 そう言うと安雄は走り出し、はる夫は二人の尾行を始めた。





 一方同じ頃。土管のあるいつもの空き地には、四人の人間が集まっていた。

 「話って何だよ。俺はやっと店番が終わって、これからボイストレーニングに出かけようと思ってたとこなんだぞ? くだらねえ用事だったらどうなるか、わかってんだろうな」

 ボキボキと指を鳴らしながら、ジャイアンが言う。

 「私だって、このあいだ完成したばかりのオリジナル曲、「悪魔のトリル」の練習をしようと思ってたのに」

 しずかも不満そうな顔で言う。どうでもいいが、そのおぞましいタイトルはなんだ。それに、オリジナルではない。

 「ぼくもせっかく、未来の移植医療に革命をもたらすであろう人工盲腸の開発にとりかかるところだったんだよ? この天才の貴重な時間を費やすだけの価値がある話なんだろうね、骨川君?」

 出木杉は前髪をさっとかきあげながら、目の前の土管に座る人物に言った。

 「もちろん、君たちの時間を浪費させるつもりなんかないよ」

 目の前の不満そうな視線を気にすることもなく、スネ夫は言った。

 「ところで、3人とも・・・こめかみの具合はどうだい?」

 「フッ・・・さすがに天才のこの僕でも、この世の絶対真理を無視した運動を行うのは、少しばかり無茶だったようだ。まだ痛むよ」

 「私もよ。こめかみが腫れちゃってるせいで、せっかくの美貌が台無しだわ」

 「それに、お前のせいでもあるんだからな。ただでさえ無理なのに、お前がカッチカチのフランスパンなんか用意するから、俺達は死ぬような思いをしたんだぞ」

 そう。結局四人はのび太の持ってきたビデオを見て失神し、逆に彼が確約していた罰ゲーム、「こめかみでパンを食べる」を実行させられたのである。そのため、4人はいずれもこめかみが腫れ上がっている。というか、実現できるものなのだろうか?

 「まあまあ。そんなにいきり立たないでよ。ぼくだって、同じ目に遭ったんだからね。ところで、みんな・・・」

 スネ夫はそう言うと、身を乗り出した。

 「・・・復讐をしたくないかね?」

 その言葉に、3人の表情が変わる。

 「・・・どういうつもりだ、スネ夫?」

 ジャイアンが静かな声で尋ねる。

 「そのままのとおりだよ。毎度のことながら・・・僕達はのび太によって、辛酸をなめられた。だが・・・今回のことは、あまりにも屈辱的だ。これまでの奴の仕返しには耐えることのできた僕達だが・・・さすがにこれには、みんな、腹を据えかねているんじゃないかな?」

 淡々と語るスネ夫に、3人も真剣に聴き入った。

 「何を考えているの・・・?」

 「簡単なことさ・・・クーデターだよ」

 その言葉に、出木杉以外の二人が驚きに目を見張る。

 「く・・・クーデターだって!?」

 「本気なの・・・!?」

 「もちろん本気さ。今のこの町は、あの恐るべき未来兵器をもったドラえもんと、その片腕であるのび太によって、実質支配されているに等しい。それを再び、ぼくたちの手に取り戻す・・・そんな正義の戦いを始めようと、ぼくは思っているわけだよ」

 黙り込む3人。だが、やがて、出木杉が口を開いた。

 「骨川君・・・ぼくたちに協力を求めたいのなら、本心を明かしたらどうだい?」

 出木杉に、全ての視線が集中する。

 「ぼくの知る限り・・・人類の歴史の中で、正義の戦争を本気でやった人物はいない。正義を口にして戦う者は、皆心の内には、それとは全く別の目的をしまっていたものだ。君もそれを、明らかにすべきだとおもうけどね?」

 スネ夫は黙っていたが、やがて拍手しながら出木杉に言った。

 「さすがだね。僕の考えを、そこまで読んでいるなんて・・・」

 そう言って、スネ夫は三人を見回した。

 「よろしい・・・それじゃあ僕の野望というのを、君たちに聞かせてあげよう・・・」

 そう言うとスネ夫は、一呼吸してから再び口を開いた。

 「僕の野望・・・それは、このススキヶ原に「骨川幕府」を建設することさ!!」

 「「「!!?」」」

 その言葉に、出木杉も含めた3人はさらなる驚きの表情を浮かべた。

 「ほ、骨川幕府だと!?」

 「ほう・・・さすがにそこまでだいそれたことを考えているとは、このぼくにも予想がつかなかったよ」

 「そ、それってどういうことなのよ!?」

 3人が矢継ぎ早に言う。

 「簡単なことさ。盤石な組織構造により、世界でも類を見ない長命な政権となった江戸幕府・・・それを現在のこの日本に、ぼくたちが復活させようということさ! トップ・・・すなわち将軍を、骨川家とした体制を、ね」

 その言葉に、激烈な反応を起こした男がいた。

 「な・・・てめぇが将軍だとぉ!? この町で一番強いのが誰か、忘れやがったかスネ夫ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 そう言うが早いか、ジャイアンはどこからか取り出した金属バットを振り上げ、スネ夫めがけて突進した。

 「潰れろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 ブンッ!!

 金属バットが、すさまじい音を立ててスネ夫の頭に振りおろされる。だが・・・

 ガキィィィィィィィィン!!

 「!?」

 「落ち着きなよ、ジャイアン」

 なんと、バットはスネ夫の誇る鋼鉄のとさかによって防がれていた。

 「将軍に求められるのは、本人自身の強さなんかじゃないんだよ」

 「な・・・なんだとぉ!?」

 「剛田君、とりあえずひきたまえ」

 その後ろから、出木杉が声をかける。

 「出木杉!? こいつが何を言っているのかわかって・・・」

 「彼を潰すのは、話を聞き終わってからでも遅くはないように、ぼくには思えるね。もう少し話を聞いてみたい」

 「くっ・・・!!」

 ジャイアンは悔しそうに舌打ちすると、金属バットをしまって、再びしずか、出木杉と並んだ。

 「理解してもらえてうれしいよ、出木杉君」

 「理解した訳じゃない。ただ、君の話は面白そうだ。先を聞かせてもらおうか。君のいう、「骨川幕府」がどんなものか」

 「もちろん。それじゃ、続けよう。ジャイアン、たしかに、この町のガキ大将程度なら、君でも十分務まるだろう」

 「なんだと!?」

 再び身を乗り出しかけるジャイアンだが、出木杉に制止される。

 「だが、骨川幕府は違う。完成のあかつきには、れっきとした独立国家となるだろう。そして、独立国家のリーダーは、死ぬほど多くのことを考えなければならない。政治、経済、司法、行政、外交、社会問題、エトセトラ、エトセトラ・・・。出木杉君ならともかく、そんなややこしいことを、君がうまく処理できるのかな?」

 「う・・・!!」

 スネ夫が挑発的に言ったが、ジャイアンは言い返すことができなかった。

 「て、てめぇにはできるのかよ!?」

 苦し紛れに問うジャイアン。だが・・・

 「できる!!」

 スネ夫は、今までになく自信に満ちた表情で言った。

 「君たちは知らないだろうが、ぼくは未来の骨川財閥を背負って立つ人間として、小さい頃から経営者としての、トップとしての教育を受けてきたんだよ。だが・・・ぼくは一財閥の総帥程度で終わるつもりはない。この地に独立国家を建設し、その指導者となることが、ぼくの野望だ!!」

 「す、スネ夫さん・・・いつのまにそんな野望を・・・!?」

 しずかは目の前のスネ夫が、本当にあの、ジャイアンの腰巾着のスネ夫かと信じられなかった。それほどまでに、彼の姿は目を疑うほどの自信にあふれていたのである。

 「・・・ずいぶんたいそうな野望だが、だからどうだっていうんだ。お前がトップになる国を作るためなんかに、なんで協力しなきゃならねえんだよ!?」

 ジャイアンがもっともなことを言う。だが、スネ夫は鼻で笑って答えた。

 「ジャイアン・・・君にはこれから、歴史の授業をしよう」

 「な・・・なんだと!?」

 「君の言うとおり、トップだけがおいしい思いをするようでは、誰も味方はしてくれない。味方を作るためには・・・自分が天下を取ったときに、味方になった相手もおいしい汁を吸えることを、相手にも確約する必要がある」

 スネ夫は静かにそう言った。

 「かつての徳川幕府は、幕府を開いたのち、関ヶ原の戦い以前から味方であった大名を譜代大名、そうでない大名を外様大名とした。そして譜代大名については、商業の盛んな場所や交通の要衝を領地として任せ、さらに、様々な優遇措置をとった・・・。これをぼくも、見習おうと思っている」

 「つまり、もし私達がスネ夫さんの味方をして、クーデターが成功したら、私達を譜代大名にしてくれる・・・そういうことね?」

 しずかの言葉に、スネ夫はうなずいた。だが・・・

 「フン! 札付き大名だかなんだかしらねえが、結局はスネ夫の子分になるってことじゃねえか! 俺はそんなの御免だぜ! 俺にだって、ガキ大将としてのプライドがある!」

 ジャイアンはそう言ってそっぽを向いた。

 「まあまあ。ぼくは君を子分にしようなんて思っていないよ。ぼくは君に、できるだけやりたいことをやらせてやりたいと思っている」

 スネ夫はなだめるようにそう言った。

 「君たちが仲間になってくれるのなら、ぼくは骨川幕府建設後に、君たちに僕に次ぐ権力を与えたいと思っている。まずしずかちゃん。君には、文化大臣をやってもらいたい」

 「文化大臣?」

 「そう。骨川幕府の文化を創造することを担当する文化省の大臣だ。君の好きなバイオリンやピアノを、その中心に据えることもできる」

 「!! と、ということは、毎日私のバイオリンコンサートを開くことも!?」

 「もちろん、朝飯前だ」

 「!!・・・」

 その言葉に、しずかは夢を見ているようなにやけた顔になる。

 「次に、出木杉君。君には科学大臣をやってもらいたい」

 「ほぅ・・・」

 「言うまでもなく、これは幕府の科学技術を発展させることを担当する省だ。もっとも、きたるべき骨川幕府の領土拡大戦争に備えて、新兵器の開発も行ってもらうことになるけどね。当然、活動費はいくらでも出すつもりだよ」

 「それはなかなか魅力的な話だね・・・。僕としては、自分のやりたい研究ができるのなら、地位や名誉などどうでもいいのだけど・・・」

 出木杉も、満足そうな表情を浮かべる。スネ夫はそれを見ると、まだそっぽを向いているジャイアンに言った。

 「そして、ジャイアン・・・君に任せたいのは、国防大臣だ」

 「国防大臣だと? なんだそれは?」

 「簡単なことだよ。すなわち、国の軍隊全員の上に立つ、最高指揮官・・・史上最強のガキ大将と言って、間違いないだろう。君がこれまで暴れ回ってきたのとは比べものにならない武力を、君は行使できる」

 「!!」

 ジャイアンの表情が変わる。

 「ゆくゆくは、骨川幕府はススキヶ原から領土を拡大し、やがては日本、そして、世界を征服する。君はその過程で、いくらでも戦争をすることができるだろう。君は戦争の歓喜を無限に味わうことができる。それこそ君が、一番求めているものではないのかね?」

 「・・・」

 ジャイアンは無言だったが、やがて・・・

 「お・・・俺にも、協力させてくれ・・・」

 と、小さな声で言った。スネ夫は満足そうにうなずくと、他の二人を見た。

 「二人は?」

 「・・・面白そうね。乗らせてもらうわ」

 「フ・・・僕も少しばかり、協力させてもらおうか」

 「決まり、だね」

 満足そうにうなずくスネ夫。だが、そんな彼に出木杉が言った。

 「しかし、骨川君・・・これまで君が話したことだけでは、所詮は絵に描いた餅。肝心の、それをどうやって実現するかについて、僕達はまだ聞かされていない。それについてどのように考えているか、説明してもらおうか。内容如何によっては、前言撤回させてもらうよ」

 「出木杉さんの言うとおりね。はっきり聞かせて」

 「俺もだぜ」

 だが、スネ夫はニヤリと笑った。

 「ごもっとも。しかし・・・それをおろそかにするほど、ぼくはマヌケではないよ。もちろん、すでに計画は動き出している・・・」

 スネ夫はそう言った。

 「まず、骨川財閥の力を駆使して、世界でも指折りの力をもつ傭兵達をこのススキヶ原に呼び寄せている。決行となれば、彼らが一斉に行動を起こし、この町のインフラを破壊して周囲とは隔絶された世界を創る。さらに・・・この町の人間は、たしかに最強なのはのび太やドラえもん、それに、僕達四人ではあるが、そうでない一般の人間でも、常人離れした強さを持っている。僕達四人、それに、彼ら全員の力を結集すれば、いかにドラえもんとのび太といえど、一ひねりじゃないかな?」

 「・・・すでに手を回しているの?」

 「一部を除いて、この町の住人達のほとんど全ては、すでに骨川財閥の息のかかった人間だ。あとは、君たちや残りの人達を説得するのみ・・・というわけさ。奴らが温泉旅行などに出かけている間に、決行までの最終準備をいっきに整えたいんだよ」

 スネ夫の話を一通り聞いた3人は、たがいにうなずきあった。

 「おもしれえ・・・やってやろうじゃんか」

 「ウフフ・・・毎日がコンサート・・・ステキ」

 「研究し放題の環境・・・実に魅力的だ」

 3人は手を差し出し、重ね合わせた。最後にその上に、スネ夫が自分の手を重ねる。

 「・・・ただ今ここに、のび太とドラえもんを倒し、骨川幕府建設を大願とするススキヶ原反乱軍の結成を宣言する!! 立てよ、国民!!」

 「オオーーーーーーッ!!」

 どっかの総帥のような口調でスネ夫が吼え、そのあとにジャイアン達が続く。と、その時だった。

 「なーるほど・・・そういうことを考えていたってわけね」

 「!!?」

 背後からの声に振り返る四人。そこには・・・なぜか神父とシスターが立っていた。

 「事情はよく知らないけど、日本からの独立、さらには世界征服を狙っているなんて、スケールの大きな話ね。どうりで、とんでもない連中がいるはずね」

 「本気かどうか知らないけど・・・話が進めば、ヴァチカンの障害になるのは確実ね・・・」

 シスターと神父が、口々に言う。

 「お、お前達、今の話を聞いたな!? 極秘計画なのに!!」

 極秘計画ならば、もっと話を聞かれない場所でするべきである。肝心なところで、こいつらは抜けているようだ。その時、出木杉があることに気がついた。

 「みんな! この二人の首からぶら下がっている物を見ろ!!」

 その言葉に、全員が二人が首からぶら下げているロザリオを見る。

 「あ・・・あれは!!」

 「あのビデオの、殺人神父がつけていたのと同じ・・・!!」

 今度は、その言葉を聞いた神父とシスターが驚いた。

 「!? あたしたちのことを、知ってるっていうの!?」

 「考えられる話ね、由美子。こいつらは、あの二人の友人なのよ。あの二人からアンデルセンのことを聞いていたとしても、不思議じゃないわ」

 そう話し合う二人。一方、スネ夫達は表情を険しくしていた。

 「残念だが、ぼくたちの極秘計画を知った部外者には、死んでもらう!!」

 そう言うとスネ夫は、自慢の鋼鉄のトサカを突き出した。

 「面倒なことになったわね・・・ま、いいわ」

 「気が立ってたところだ! ちょうどいい!」

 「新兵器テストのダミー代わりになってもらおうか」

 そう言って、やはり戦意満々の様子を見せるしずか、ジャイアン、出木杉。一方・・・

 「仕事だよ、由美子!」

 ハインケルはそう言うと、懐からリボルバーを取り出した。

 「チェンジだ。「由美江」を起こせ!!」

 「!!」

 ハインケルのその言葉を聞いた由美子は、スッとうつむくと、頭を覆っていた布をとり、そして・・・メガネをとった。

 スッ・・・

 「・・・」

 「!?」

 そして、再び顔を上げた「由美子」の顔を見たとき、四人は戦慄を覚えた。顔を上げた「由美子」は、先ほどのおとなしそうな様子とは別人としか思えないような凶悪な笑みを浮かべていたのだ。

 「クソ異教徒共奴が!! 偉大なる法皇庁に逆らうドぐされ外道共ッ、地獄に落ちろ!」

 実に楽しそうに、狂気に満ちた笑顔で彼女はそう言った。

 「な、なんだこいつ!? いきなり様子が・・・」

 「まさか・・・二重人格!? それも、恐ろしく凶暴な・・・」

 出木杉が即座に言い放つ。それに対し、ハインケルがニヤリと笑う。

 「フン・・・勘がいいな」

 そう。高木由美子は、その心の中にもう一人の自分「由美江」をあわせもつ、二重人格者なのである。しかも、「由美江」は虫一匹殺せないようなおとなしい由美子と相反するように、カトリックの、ヴァチカンのためならばどんな相手でも残さず皆殺しにするような、バーサーカーとしか言いようのない「狂信者」なのである。

 「獲物はあいつらだな、ハインケル?」

 「そうだ。いつも通り、思う存分やれ」

 ハインケルがそう言うと・・・

 シュルッ・・・

 由美江は持っていた長い物を覆う布を取り去った。その下から現れたのは・・・

 ズパッ!

 白羽の輝きも冷たい、日本刀だった。

 「「Amen」」

 ハインケルと由美江は、それぞれリボルバーと日本刀を四人に向けた。

 「チッ・・・どうもこいつら、今までの奴らとは勝手が違いそうだぜ!」

 「あら? 怖いの武さん?」

 「馬鹿言うなよしずかちゃん! 相手が強くて異常なほど、それをぶちのめす俺様のガキ大将としての株が上がるってもんだぜ!!」

 「同感だね。新兵器の性能を試すには、ターゲットは強ければ強いほどいい・・・」

 「なんにしても、骨川幕府建設を妨げるような者は、この地上から抹殺する!!」

 かくして、一見なんの変哲もない空き地において、幕府復活を企む少年達と、自称神罰の地上代行者達の戦いの幕が、切って落とされようとしていた。





 「幸いこっちは四人・・・一人に対し、二人で相手ができるね」

 ハインケルと由美江に対峙しながら、出木杉が言った。

 「二対一だとぉ!? へっ、こんな奴ら、俺一人で十分だぜ!!」

 拳をゴキゴキとならしながら、ジャイアンがすごむ。

 「剛田君、未来の国防大臣なら、君も戦術というものを学んでおくべきだね。いかに相手に対し勝利の確信があるとはいえ、どんな相手に対しても相手を上回る数の兵力で挑むのは戦術の定石というものだよ?」

 出木杉が冷静な声で言うが・・・

 「へっ、勝手にしな! 俺はあっちの日本刀女を相手にする!! 加勢したけりゃ勝手にしろ!」

 「やれやれ・・・しずかちゃん、頼めるかい?」

 スネ夫がしずかに向いて言った。

 「しかたないわね。どっちかっていうと、私もあっちの方の相手がしたいし」

 そう言うとしずかも、由美江に向き直った。

 「そういうわけだ。出木杉君、ぼくたちは・・・」

 「了解。ぼくのほうも、銃火器の方が得意だからね」

 スネ夫と出木杉は、ハインケルと対峙した。

 「さぁて・・・覚悟はいいかい!? 邪教徒のお坊ちゃん達!!」

 「Amen」

 由美江は日本刀を、ハインケルはもう一丁リボルバーを取り出すと、彼らの敵に対して構えた。それに対して・・・

 「地平線の向こうまでぶっ飛ばしてやるぜ!!」

 ジャイアンは金属バットを取り出す。

 「バイオリンが弾くだけの道具だと思ったら、大間違いなんだから!!」

 しずかは愛用のバイオリンとその弓を取り出した。

 「さて・・・まずは、これから試そうか。劣化ウラン弾仕様9mmガトリング銃、「ヒデトシファランクス」」

 出木杉はどこからかばかでかいガトリング砲を取り出した。

 「君たちごときに、道具は不要だ」

 そしてスネ夫は、自慢の鋼鉄のトサカを光らせた。

 「AAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 そして両者は、ついに激突した。





 「遅い」

 ドガッドガッドガッ!!

 続けざまに出木杉に対してリボルバーの引き金を引くハインケル。だが・・・

 「遅いのはそっちだ!!」

 なんと、その間にスネ夫が割り込んだ。そして・・・

 「ちゅりゃあああああああああああ!!」

 すさまじい勢いで、スネ夫は髪を振るった。すると・・・

 チャリンチャリン・・・

 真っ二つにされた銃弾が、スネ夫の足下に落ちた。

 「なっ・・・!?」

 それはハインケルのキャリアに照らし合わせても、見たことのないものだった。まさか世界に、髪の毛で銃弾を切り落とす人間がいるなど・・・。

 「骨川財閥の科学力を結集して作り上げたミラクルハードヘアワックス・・・それによって固められたこの髪は、鋼鉄さえ切り裂く! 名づけて、必殺斬鉄髪!!」

 鋭利なトサカをきらめかせながら、スネ夫が叫んだ。だが、すぐに後ろを振り返って叫ぶ。

 「出木杉君、撃て!!」

 「言われるまでもないよ。ヒデトシファランクス、発射」

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!

 すさまじく重い発射音が鳴り響き、出木杉の持つガトリング砲が火を噴いた。排出される大サイズの薬莢が、地面に落ちて乾いた音を立てる。

 「!?」

 とっさに横へと飛び抜けるハインケル。その直後、彼女のいた地面が沸騰するかのように連続爆発を起こす。

 「・・・! くそ、奴ら、いったいどこであんな重火器を!?」

 「よそ見をしているヒマはないよ!!」

 スネ夫は斬鉄髪をきらめかせながら、ハインケルめがけて突進した。

 「くっ!?」

 ガキッ!!

 かろうじて両手の銃でそれを受け止めるハインケル。





 一方、ジャイアン&しずか対由美江サイドでは・・・

 「おおおおおおああああああああああッ!!」

 由美江がすさまじい叫びを挙げながら、ジャイアンへと襲いかかった。

 「かかってきやがれ!!」

 ガキィィィィィィィン!!

 ジャイアンは、手に持った金属バットで由美江の斬撃を受け止めた。

 「どうした!? その程度かよ!!」

 そんなセリフを吐くジャイアン。だが・・・

 「フン」

 由美江は不敵な笑いを見せると、

 チャッ!!

 バットから刀を遠ざけ、頭のあたりで構え直した。

 「島原抜刀居合流!! 天山!!」

 「!?」

 ジャイアンが少し身を引いた、その瞬間。

 ギィン!!

 「なにぃっ!?」

 由美江が横に払った刀は、金属バットを横一文字に切り落としていた。

 「な・・・スネ夫を脅して買わせた、チタン合金製フルメタルバットが!?」

 「ちっ・・・浅かったか・・・」

 舌打ちをする由美江。本来この技を食らえば、持っていた道具ごと、頭も横一文字に切り裂かれるはずなのである。刀を払った瞬間、ジャイアンが体を引いたので、切っ先は彼の目の前をかすめただけに終わったのだ。

 「まだまだだよ!! おらああああああああああ!!」

 さらに斬撃を見舞おうとする由美江。その時・・・

 ビュンッ!!

 「!?」

 由美江の目の前を、何かが通り抜けた。

 「ちっ・・・惜しかったわね」

 舌打ちをするしずか。彼女が構えているのは、バイオリンの弓を変形させたクロスボウである。どこでそんなものを手に入れたかは不明だが、発射された矢はコンクリートの壁に深々と突き刺さっていた。

 「あんたねぇ・・・ちょっとばかり美人だからって、人を無視すんじゃないわよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 そう言って、新しく矢を弓につがえるしずか。

 「あんたなんかに、ヒロインの座は渡さないわよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」





 その後も、13課の二人と空き地四人集との壮絶な戦いが続いたが・・・

 「神罰を受けろ」

 ズパッ!!

 ハインケルが放ったグレネードピストルにより、

 ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!

 「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

 スネ夫と出木杉が吹き飛ばされる。

 「スネ夫!!」

 「出木杉さん!!」

 「細切れにされなっ!! 島原抜刀流、秋水」

 チキッ!!

 由美江はいったん刀を鞘にしまったかと思うと・・・

 「おおおおおおおおおあああああああああああっ!!」

 ズバババババババババババ!!

 「ぐわあああああああああっ!!」

 「きゃあああああああああっ!!」

 由美江が振るった刀により、斬られて倒れるジャイアンとしずか。

 「う、ううっ・・・」

 「こいつら・・・強いわ・・・」

 「くっ・・・計算違いをしたようだね・・・」

 「ま・・・負けるものか・・・骨川幕府を打ち立てる・・・その日まで・・・!」

 うめくスネ夫達。だが・・・

 ザッザッザッザッザッザ・・・

 「ヤハウェの地上代行者ヴァチカンは!! 貴様ら邪教徒なんぞに決して負けん!! さよならだ」

 「我々をなめるなよ邪教徒。キリスト教の歴史は戦いの歴史だ。異端審問と異教弾圧で屍山血河を築いてきた最強の世界宗教だ」

 歪んだ笑みを浮かべ、スネ夫達に宣告するハインケルと由美江。銃と刀を突きつける。

 「「Amen」」

 「くっ・・・!!」

 と、その時だった。

 ピシャアアアアアアアン!! バリバリバリ!!

 「「!?」」

 晴れ渡っていた空に、突如稲妻が走り抜けた。その直後

 バリバリバリバリ!!

 空き地に落雷が落ち、ハインケルと由美江がとびのける。

 「な、なんだ?」

 辺りを見回すハインケル。その時だった。

 「フフフフフフフ・・・」

 どこからか、笑い声が聞こえてきた。

 「話にならんな、主役も」

 「あの程度の敵に・・・てこずってはな」

 「誰だ!? どこにいる!?」

 「フン。クリスチャン、言われなくても我々は、すでにお前達の目に見えるところにいる」

 周囲を見渡すハインケルと由美江。その時、彼女たちは気がついた。空き地の端に立っている二本の電柱の上に、二つの人影があることに。逆光により、その姿はよく見えない。

 「今そっちに行ってやる。いくぞ!!」

 バッ!!

 そう叫ぶと二人は、ハインケルと由美江の目の前に、片手と片膝をついて降り立った。

 「何者だ、お前達は!?」

 さすがにうろたえるハインケルと由美江。無理もない。飛び降りてきた二人は、戦隊ヒーローのような赤と青のコスチュームに身を包んでいたのだから。だが、そんな二人をしりめに、謎の二人は声を張り上げた。

 「深紅のボウシスト、帽忍、ヤスオライジャー!!」

 なぜか帽子を被っている、赤いヒーロー。

 「蒼天の猛猪、太忍、ハルオライジャー!!」

 キレンジャー以上に太っている、青いヒーロー。二人は声を合わせて叫んだ。

 「主役に向かいて主役を斬り!」

 「脇役に向かいて脇役を斬る!」

 「「電光石火ワキライジャー、見参!!」」

 背中に背負った刀に手を掛け、ポーズをとる二人のヒーロー。ハインケルと由美江は、あっけにとられてそれを見ている。

 「お、お前達・・・」

 地面に倒れ伏しながらも、スネ夫が彼らを見据える。

 「勘違いするな。お前達主役を助けるつもりはない」

 「我らが欲しいものは、ただ一つ・・・華々しい活躍の機会。貴様達に代わって我らがこいつらを倒し、出番をいただく」

 二人の謎(?)の忍者は、わずかに振り返りながらそう言った。

 「さあゆくぞ! 我が帽子忍法で、貴様を帽子の魅力の虜にしてやる!!」

 「フッフッフ・・・我がコレステロール忍法で、貴様をめくるめく肥満の世界へ・・・」

 「フン」

 ドンドンドンドンドンドンドンドン!!

 ズバババババババババババババババ!!

 「ずああああああああああああああ!?」

 「ふごおおおおおおおおおおおおお!?」

 だが、能書きを垂れている間に、ハインケルと由美江の容赦ない攻撃が二人を襲った。

 ドサドサッ

 「そ、そんな・・・脇役の期待の星である、我々が・・・グフッ」

 「こんな・・・夢半ばにして・・・ゴフッ」

 あっけなく倒れる謎の忍者。それにしても、帽子忍法やコレステロール忍法とは・・・?

 「馬鹿かてめえら、死にてぇ奴は殺してやるから前に出な!! この ○○○○野郎共!!!」

 残酷な笑みを浮かべて言い放つ由美江。実は謎の忍者は気絶しただけで、死んではいなかったのだが。

 「ああ、たしかに馬鹿だ。だけど、そんな馬鹿な連中でも僕達のわずかに役に立った」

 「「!?」」

 その声にハインケルと由美江が振り返ると・・・そこには、何事もなかったかのように立っているスネ夫達の姿があった。

 「んな!? あれだけのダメージを食らって・・・」

 「まさか・・・再生者(リジェネレーター)だというのか!? 我々以外にも、あの技術が・・・!!」

 さすがに驚愕する二人。

 「再生者? 残念だけど、そんなご大層なものじゃない。僕達はただ、普通の人間より傷の治りが早いだけさ」

 「あれぐらいで参ってるようじゃ、この町で主役は張れないわよ」

 「ましてや俺様は、ガキ大将なんだからな」

 「まさに生命の神秘だね。是非一度、徹底的に研究したいテーマだ」

 それぞれ言い放つ四人。非常識を通り越している。

 「フリークスめ・・・!!」

 「ハッ! 関係ないね!! これからあたしらで、再生できないくらいまで細切れにするまでさ!!」

 しかし、二人は全く士気を衰えさせない。それぞれの武器を構える。

 「パンにはパンを。血には血を」

 ドンドンドンドンドンドンドンドン!!

 「島原抜刀居合、震電!!」

 ダッ!!

 だが・・・

 「甘いわ!! グランドピアノ・ディフェンダー!!」

 しずかはどこからかグランドピアノを取り出すと、それを横倒しにして自らの盾とした。

 ガガガガガガガガガガ!!

 ガキィィィィィィィィン!!

 「「!?」」

 自分達の攻撃が通用しない恐るべきピアノに驚愕する二人。

 「今度はこっちの番よ!! 武さん!!」

 「オウ!!」

 しずかの横に、ジャイアンが並んだ。そして・・・しずかはバイオリンを、ジャイアンはマイクを取り出した。

 「あ、あれは・・・!?」

 「悪夢のセッション・・・!」

 それを見たスネ夫と出木杉の顔が青ざめる。二人は即座に骨川電機製最高級ヘッドフォンを耳につけた。

 「聞き惚れなさい!! 世紀末が生んだ世界最高のバイオリニストと!!」

 「史上最高のシンガーの夢のセッションに、魂をうち振るわせろ!! 俺の歌を聴けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 しずかがバイオリンの弦に弓をあて、ジャイアンが大きく息を吸い込んだ、次の瞬間

 ズギャガゴボエエゴガギャボエエエガガガボエエエエエエッ!!!!

 それをなんと形容すればいいのだろう。とにかく、それを音楽と言うのは音楽を愛する全ての人々を冒涜することだと間違いなく言えるような音波が、空き地、いや、ススキヶ原に響き渡った。もはやそれは、音波というのもおこがましい。全てをなぎ倒す重力の壁とも言うべきものが、二人を中心に発生していた。

 ビキビキッ!! バゴッ!!

 やがて、二人の立っている足下を中心に、地割れが走り始めた。

 「「ギニャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」」

 耳を押さえて悲鳴をあげるハインケルと由美江。それも当たり前であろう。この二人の引き起こす怪音波は、単独で発生させた場合でも恐るべき威力をもつのだ。それでも、苦しむぐらいで済むのはもともとタフなススキヶ原の人間達の場合であり、普通の人間なら間違いなく意識を失い、聴き続ければ命を落とすだろう。悲鳴を挙げつつ地面をのたうっている二人は、彼らに匹敵するぐらいタフだということか。

 「剛田君! しずかちゃん! そのぐらいでいい! あとはぼく達に任せるんだ!!」

 出木杉が声を張り上げる。

 「何言ってるのよ出木杉さん! やっと調子がでてきたのよ!? 目前の敵を放置してなにが主役か! なにがヒロインか!」

 「ここまではウォーミングアップみたいなもんだ!! お楽しみはこれからだぜ!!」

 そう言いながら、二人は音を発生させるのをやめない。

 「そうはいっても、このままでは僕達もあぶないからね・・・」

 苦痛の顔を浮かべながらもスネ夫は小さくつぶやくと、声を張り上げた。

 「二人とも、僕達にも出番を残してくれ! 君たちのセッションなら、骨川幕府が誕生してから、いくらでも開催できるんだからね!!」

 スネ夫がそう言うと

 ・・・・・・・・

 地獄音波が鳴りやんだ。

 「それもそうね」

 「今ここで張り切りすぎて、喉を痛めるのもいけねえしな」

 単純な二人である。だが・・・

 「き、貴様ら・・・」

 「毒音波なんか発生させやがって・・・」

 ヨロヨロと立ち上がるハインケルと由美江。さすがに地獄のセッションを聴いては、彼女たちも致命傷となるだろう。

 「ほぅ・・・あのセッションを聴いて、立ち上がれるとはねえ・・・」

 「だが・・・それもここまでだね」

 そう言うと、出木杉は何かのスイッチを、スネ夫はラジコンのプロポを手にした。

 「さて・・・いよいよ最高傑作を出すときが来たようだね」

 出木杉がスイッチを押す。すると・・・

 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

 出木杉の前の地面から、何かが地上に現れた。それは、牛によく似た角を頭に持つ、鈍重そうな重装甲の緑色のロボットのようなものだった。

 「あ、あれってまさか・・・!!」

 それを見たしずかが驚愕する。

 「君たちにはぼくの最高傑作、「鋼の巨人」マグナヒデトシのターゲットになってもらう」

 出木杉はそう言うと、どこからか銃のようなものを取り出し、そのマガジンの部分にカードのようなものを差し込んだ。銃から「ファイナルベント」という声が聞こえた。一方、スネ夫は・・・

 「さあ来い!! ウルトラ骨川航空隊!!」

 ギィィィィィィィィィィィィィィィィン!!

 スネ夫がそう言ってプロポのスイッチを入れると、どこからか戦闘機の編隊が飛んできた。それも、ただの戦闘機ではない。ジェットビートル、ウルトラホーク1号、マットアロー1号、タックアロー、スカイホエール、マッキー1号、バーディー、シルバーガル、ガッツウィング1号、ガッツイーグル、XIGファイターEX、そして、テックスピナー1号・・・歴代TVウルトラシリーズの地球防衛チームの戦闘機が、編隊を組んで空き地へと飛んできたのだ。

 ガチャッ・・・

 出木杉は持っていた銃の銃口を、マグナヒデトシの腰についているコネクターに接続した。

 ゴゥゥゥゥゥゥゥゥゥン・・・

 マグナヒデトシがうなりをあげ、両腕を持ち上げる。

 「消え去るがいい・・・「エンド・オブ・ワールド」!!」

 カチッ!

 出木杉が引き金を引いた途端・・・

 ズドドドドドドドドゴンドゴンドゴンドゴンドゴンガガガガガガガガガガガドパパパパパパパパパパパパパパパバシュシュシュシュシュシュシュゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!

 バルカン砲、キャノン砲、ガトリング砲、そして、無数のミサイル・・・。すさまじい轟音を響かせ、マグナヒデトシの体のありとあらゆる重火器が一斉に火を噴いた。

 「ウルトラ骨川航空隊、一斉射撃!!」

 シュビビビビビビビビビガガガガガガガガガガガバシュシュシュシュシュシュシュ!!!

 さらに、上空から飛来したウルトラ戦闘機隊が急降下しつつ一斉にレーザー砲や機関砲、ミサイルを発射する。

 ズギャオォオオオオオオオオオオオオオオ・・・!!!!

 発射された弾丸は、悲鳴をあげる間も与えずハインケルと由美江を劫火に包み込んだ。空き地の一角が、すさまじい炎に包まれる。

 「・・・」

 それを見つめつつも、四人は油断なくそれぞれの武器を構えて待ちかまえた。やがて、炎が収まっていくと・・・

 そこには、くすぶり続ける巨大なクレーターがあった。穴の表面はあまりの高熱により、ガラス化してしまっている。そして・・・そこには、ハインケルと由美江の姿はなかった。

 「フン、消し飛んだか」

 「蒸発しちゃったんじゃないの」

 「あれだけのエネルギーをくらえば、どんなに非常識な存在でもこの地球上から消滅するのは間違いないよ」

 そのあとを見ながらジャイアン、しずか、スネ夫が口々に言う。

 「・・・」

 だが、出木杉だけは青ざめた顔をしながら、ある一点を見つめていた。

 「どうしたんだい、出来杉君?」

 それに気づいたスネ夫が、声をかける。

 「どうやら僕達は・・・大変なことをしでかしてしまったようだ・・・」

 「なんだよ? あんな宗教バカ共を消し飛ばしたくらいで」

 「そうじゃない! あれを見るんだ!!」

 出木杉はそう叫んで、空き地の一点を指さした。

 「「「・・・!!?」」」

 その瞬間、三人は彼の言うことを理解した。大爆発の余波により、空き地に隣接している一軒の家が、無惨にも半壊していた。そして、その家こそは・・・

 「こらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 その家から、すさまじい怒号が聞こえてきた。そう、その家は、この強者揃いのススキヶ原にあって子供達に恐れられ、「空き地の支配者」「ススキヶ原の雷帝」の異名をとる老人、「神成さん」の家だったのだ。

 「しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! よりにもよって、「雷帝」神成の家をぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 スネ夫がすさまじい叫びを挙げる。

 「まだ味方に取り込んでなかったの!?」

 「ススキヶ原一の頑固ジジイだからね! FBIからベテランのネゴシエーターを呼んで、これから説得に当たるところだったんだよ!!」

 「まずいね・・・。彼を敵に回すと、大きな障害になる・・・」

 「とにかく、今は逃げようぜ! だいじょぶだって! 逃げ切っちゃえば、このススキヶ原の子どもはたくさんいるんだから、誰がやったかわかんないって!」

 「剛田君にしては、いい意見だね」

 「そうだね。僕ら四人の力を合わせても、彼に叶うかどうか・・・。ここは一旦退いて体勢をたてなおそう。骨川幕府建設の日が来るまで、僕らは倒れるわけにはいかないんだから」

 スネ夫の言葉にうなずくと、四人は風のように空き地から去っていった。





 「ぬおっ!? どこへ行きおった!?」

 神成さんが空き地へ足を踏み入れたときには、空き地にはすでにスネ夫達の姿はなかった。

 「おのれぇぇぇぇぇぇぇ・・・ワシの家のガラスを割るだけでは飽きたらず、大爆発で空き地に大穴を開け、その衝撃波でワシの家を大破させるとは・・・クソガキ共め、もう容赦せんぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 天に向かってやり場のない怒りを叫ぶ神成さん。その時である。

 「う、うぅ・・・」

 「しっかりしろ、ハルオライジャー・・・」

 「!?」

 神成さんは、背後からのうめき声に振り返った。そこには、全身がぼろぼろになった赤と青のヒーローがいた。そう。先ほど、名乗っただけでほとんど何もせずハインケルと由美江に始末された謎のヒーロー、ワキライジャーである。たった今気絶から復活したわけだが・・・それは、彼らにとってバッドタイミングとしかいいようがなかった。

 「おおっ!? なんだこれは!?」

 「スネ夫達も奴らもいないぞ!? 出番は!? 我らの出番はぁ!?」

 絶望するように叫ぶワキライジャー。だが・・・

 ジャリッ・・・

 「「!?」」

 背後の足音に振り返ると・・・

 「貴様らの仕業か・・・悪党共め!!」

 ビシッ!!

 そこには、ホウキの先端を突きつける神成さんの姿があった。

 「なっ!?」

 「か・・・神成さん!?」

 彼らにとってはいつのまにかそこにいた神成さんの姿に、ワキライジャーは驚愕した。

 「覚悟せい!! 伊達に「雷帝」と呼ばれているわけではないことを、貴様らの体に叩き込んでくれる!! トウッ!!」

 神成さんはそう叫ぶと、ホウキを投げ捨て空中高く飛び上がった。

 バチッ!! バチバチッ!!

 その両手が、激しくスパークする。あたかも、雷を両手に宿したかのように。

 「くらえいっ!! 超力!! 稲妻落としぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 ピシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!

 神成さんは急降下しながら、某正義のミュータントと同じ必殺技をワキライジャーに放った。

 「「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」」

 すさまじい雷に打たれたワキライジャーは、黒コゲになって再び地面に倒れ伏した。

 スタッ!

 「身の程知らずが! 貴様らが思っているほどワシの実力は、まだまだ衰えてはおらんぞぉ!!」

 神成さんは拾ったホウキをひと振るいすると、大股で自分の家へと歩いていった。

 「う、うう・・・しっかりしろ、ヤスオライジャー・・・」

 「あ、ああ・・・まだだ・・・主役達に勝つ・・・その日まで・・・我々は、倒れるわけにはいかんのだぁ!!」

 だが、なんとワキライジャーは立ち上がった。

 「だてに30年間、脇役として辛酸を舐めてきたわけではない」

 「打たれ強さなら、主役達をはるかに凌駕するはずだ!」

 ワキライジャーはそう言って、グッと拳を握りしめた。

 「ゆるさんぞ・・・主役共め・・・。我らを生かしておいたことを、後悔させてやる!!」

 「俺達はここに、脇役大戦の始まりを告げるぞ!!」

 夕日に叫ぶワキライジャーであった。





 「・・・あ、課長。私です、ハインケルです。・・・あ、はい・・・終わったには終わったのですが・・・」

 ここは、学校の裏にある裏山。実はハインケルと由美江は、あの爆発によってここまで飛ばされていたのである。どちらも重傷を負っているが、命には別状はなさそうだ。さすがは、神罰の地上代行者を自認するだけはある。

 そして今、ハインケルは衛星電話を使って、ローマのマクスウェルに報告をしていた。事情を告げると・・・

 「・・・ッ!」

 ハインケルが顔をしかめて、受話器から耳を離す。その受話器から聞こえるマクスウェルの怒声が、由美江の耳にも入ってきていた。

 「いえ、もちろん手を抜いたわけではありません。鏖にしようとしましたが・・・」

 戸惑いながらもハインケルは続けた。

 「・・・奴らは強大です。下手をすれば、ヘルシングや「ミレニアム」よりも・・・。しかも、この町の人間全員が、程度の差こそあれ我々に匹敵するすさまじい力を持っているようです。鏖殺するには、13課も総力を挙げる必要があると考えます」

 ハインケルはそう言って、しばらく黙り込んだ。電話の向こうのマクスウェルも、その言葉にしばらく考え込んでいるのだろう。やがて、ハインケルが再び答え始めた。

 「あ・・・あ、はい。ええ、はい・・・わかりました。はい・・・はい・・・はぁ・・・」

 そう言って、ハインケルは電話を切った。

 「課長、なんだって?」

 不機嫌そうな顔で、由美江が尋ねる。

 「一旦ローマに帰ってこいって」

 その答えを聞いた由美江の表情が変わる。

 「なんだってぇ!? 唯一絶対の神の地上代行者のあたしたちが、なんで退かなきゃならないのよ!?」

 檄昂しながら、由美江が日本刀の柄で地面をドンと叩く。

 「しかたないでしょ。課長命令なんだもん」

 「目の前に敵を放置して、なにが13課だ!? なにが法皇庁だぁ!?」

 「しんないわよそんなの!! しょーがないじゃないッ!!」

 そして、口げんかの声はしばらくの間、裏山から聞こえていたという・・・。





めでたしめでたくもなし

END







 余談・・・

 その頃、温泉旅行中ののび太達はどうしていたかというと・・・

 「くらえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! コホーテク彗星打法!!」

 「なんのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 加速度打法!!」

 「やるね、パパ!! だけどこれまでだ!! アンドロメダ大星雲打法!!」

 「甘いわよのびちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!! ジャコビニ流星打法!!」

 「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 「の、のび太くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!」

 なぜか「ア○トロ球団」の殺人打法を再現しながら、すさまじく熱い温泉卓球をダブルスで楽しんでいたという・・・。


あとがき


 どうも、管理人です。というわけで、ついに「HELLえもん」完結です。一応。

 それにしても、本編よりもさらにわけわからん作品になっちゃいました。「せっかくだからハインケルと由美江も登場させよう」と思って書いたのですが、肝心の彼女たちの影が、いまいち薄いような・・・。管理人の悪い癖である特撮パロディもいたるところに・・・。今更幕府復活を企むスネ夫達とか、主役打倒のために妙なスーツを着る安雄やはる夫とか、ドラえもん本編の奴らの方が活躍してしまいました。彼女たちは(たぶん)生身の人間なので、超人的な力をもつススキヶ原の住人達と戦わせるには、少し難しいところがあるのも事実ですが・・・。原作の彼女たちはアンデルセン同様やっぱりすさまじいので、ぜひ一読を。

 とりあえずこれで完結なのですが、もしかしたらこのストーリーは別のかたちで続くかもしれません。骨川幕府建設を企むスネ夫の野望は? 打倒主役に燃えるワキライジャーはどう動くか? そしてドラえもんとのび太は?とかいうことが、発展させられそうなので。続くとしたら、13課など登場しないドラオンリーの話になると思います。続くか続かないかはこの小説の反応と管理人のやる気とヒマにかかってますが。というわけで、「HELLえもん」終わりです。ありがとうございました。


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