ギィィィィィン!!

 市街地のビルの谷間。ジェットの爆音をたてて、銀色の鳥人が飛来する。

 ガガガガガガガガガガガガ!!

 両腕からバルカンが発射され、弾丸が地上を縫うように走る。

 ダッ!

 赤いVJは地面を蹴り、横へと飛びすさった。地面に弾着による火花が飛び散る中、バックパックから取り出したものを右腕に装着する。

 「真空砲、アクティブ!!」

 圭介はそれを装着すると、呼吸を整える。そして、NIBEQでGモードを選択した。

 ジャキッ!

 真空砲の砲口がレンコンのように穴の開いたものになる。

 ギィィィィィン!!

 銀色の鳥人が真正面から迫ってくる。圭介は冷静に、それに対して真空砲をかまえた。

 「発射!!」

 バババババババババババババ!!

 その瞬間、真空砲の砲身が回転しながら、無数の小圧縮空気弾を発射した。

 ガカカカカカカカカ!!

 それが次々に炸裂し、空中で火花を散らすガーゴイル。

 ・・・ドサッ!

 やがて、それは地上に落ちて動かなくなった。

 「・・・」

 黙ってそれを見つめる圭介。そのディスプレイに

 「SIMURATION FINISH:TARGET SPLASHED」

 と表示される。それと同時に・・・

 シュンッ!

 デュアルカメラを通して入ってくる街の風景が消え失せ、代わりに白一色の殺風景なものとなった。

 「シミュレーション終了です。お疲れさまでした」

 ひかるの明るい声が入ってくる。だが、圭介はため息をつくと、部屋の隅の壁につけられたドアをくぐり、その部屋から出ていった。




第12話

〜March〜

三月の風


 圭介が先ほどまでいた場所は、分署の地下にあるヴァーチャルシミュレーション・ルームだった。圭介はそこから出ると、すぐ隣の準備室に入った。

 プシュー・・・

 「フゥ・・・」

 圭介はイスに腰掛け、ヘルメットを脱いだ。

 「お疲れさま。どうぞ」

 すかさずそこへ、ひかるがタオルを差し出す。そこはシミュレーションを行うVJの管制ブースにもなっており、さきほどまでひかるも圭介の管制作業を行っていた。

 「サンキュー」

 小さく笑顔を浮かべてそれを受け取ると、圭介は汗に濡れた自分の髪を拭い始めた。その隣に、ひかるが腰掛ける。

 「この間よりも動きはよくなっていたみたいに見えますけど・・・」

 「ああ、そうだ。実際、動きのカンはつかんでる」

 「だったら、どうしてそんなに浮かない顔をしてるんですか?」

 ひかるの言うとおり、圭介は浮かない顔をしていた。圭介は自分でもいい言葉が浮かばないという感じで、少しもどかしそうな様子で指を組んだ。

 「なんていうか・・・なんか、これでいいのかって感じなんだよな・・・」

 「どういうことです?」

 「うん・・・。たしかに、動きはよくなってる。でも・・・このシミュレーションで鍛えたことが、今度連中が出してくるジャケットに通用するのかどうか、そのへんに、不安を感じるんだ」

 「・・・」

 「さっきだってそうだ。真空砲Gモードで奴を倒すことができたけど・・・所詮は、昔のデータを相手にしているにすぎない。今の奴が、もっと強力なジャケットを着たとしたら、あのぐらいの攻撃はよけられそうな気がしてならない」

 「それなら、ターゲットのレベルをもっと上げれば・・・」

 だが、圭介は首を振った。

 「それも同じことだ。現実の相手は、シミュレーションの難易度を上げたみたいな成長のし方はしない」

 ひかるは黙って聞いていたが、やがて、暗い表情で言った。

 「こんなこと言っていいのかわかりませんけど・・・そういう心配は、きりがないと思います。今度どんな相手が出てくるかは、わからないんですから・・・」

 ひかるの意見は、至極まともだった。圭介は慌てたような表情になって言った。

 「・・・ごめん。たしかにきりのない話だったな。だからって何もしないわけにはいかないから、こうしてるんだけど・・・」

 その時だった。シミュレーション・ルームのドアをノックする音が聞こえた。

 「はい」

 「尾崎だけど、入っていいかな?」

 「ど、どうぞ」

 圭介がそう返事をすると、ドアが開き、尾崎が入ってきた。ただし、彼は黒のVJ・・・パーシヴァルに全身を包んでいた。

 「や。パーシヴァルで例の銀の鳥とのシミュレーションをやりたいんだけど、いいかな?」

 「あ、どうぞ。すぐに設定をしますから」

 ひかるは再び管制ブースに戻って設定を始めた。

 「すまないね」

 尾崎はそう言うと、圭介の隣に腰掛けた。

 「浮かない顔だね」

 圭介の顔を見て、尾崎はいつもの笑顔を浮かべながら言った。

 「ええ、まぁ・・・」

 対する圭介は、苦笑いしながら頭をかいた。

 「悩みの種は、こういうものかな? つまり君の場合、このシミュレーションではすでに手応えが得られなくなってるという・・・」

 「え、ええ・・・だいたいそうです」

 圭介は少し驚きながらもうなずいた。

 「たしかにそれは、よくわかる悩みだね。このシミュレーションはぼくのように、まだ奴と渡り合ったことのない人間が、だいたいの感覚をつかむためならもちろん必要だと言えるだろうけど・・・それ以上のことが望めるように思えないとは、同感だよ。もっと言ってしまえば、奴らが今度出してくるジャケットが、これまでとは全く違った物だったとしたら・・・どれだけこれでトレーニングしたとしても、元も子もない」

 「おっしゃるとおりですね・・・」

 尾崎の言葉に、圭介は反論の余地もなかった。その時

 「あの・・・設定は終わりましたけど・・・」

 ひかるが声をかけてきた。

 「ああ、ごめん。始めようか」

 「あ・・・その前に、ちょっといいですか? 今のお話で聞きたいことがあるんですけど・・・」

 「ああ、どうぞ」

 「これでトレーニングすることがムダになってしまうかもしれないとしたら・・・私達は、何をすればいいと思いますか?」

 それは、圭介も訊きたいことだった。二人が尾崎を見ると、尾崎は微笑を浮かべて言った。

 「簡単なことだよ。君たちも、学生時代はいろんなテストを受けただろう?」

 「え・・・? あ、はい・・・」

 「例えば、数学。数学のテストがあるとして、教科書に書かれている問題と答えを丸暗記して備えるなんてことをするかい?」

 「いえ、そんなことしませんよ」

 「それと同じことだよ。普通はそんなものじゃなく、公式とか定理とか、どんな問題を解くのにも必要なツールを覚えるものだ。そうすれば、どんな問題が出てきてもそれを当てはめて答えを導き出せる。わかるよね?」

 二人はうなずいたが、圭介はなおも尋ねた。

 「一つ一つのケースに的を絞るんじゃなくて、どんなケースにも対応できるようにしておくのが大事だってことはわかります。でも・・・だとしたら、俺達にとっての公式とか定理とかいうものって、いったい何なんでしょう?」

 「そこが難しいところなんだけどね・・・」

 尾崎は苦笑した。

 「結論から言えば、それは経験とか技能とかいったものだ。一つの仕事に長い間携わってる人間は、その間に身につけた経験や技能から、その仕事の中で起こる様々な状況にフレキシブルに対応できる。ただ・・・それは公式や定理みたいに、一夜漬けの勉強で身につけられるものじゃない。どれも長い間、一つのことに打ち込んだ結果得られるものだ。今すぐ欲しいと思って、すぐに手に入れられるものじゃない」

 「はい・・・。でも、それならなおさら・・・俺達はどうすれば?」

 「そうだね・・・。まぁ、そう悲観的にならないことだね」

 尾崎はあっさりと言った。

 「君たちだって、すでに一年コンビを組んで働いているんだ。その経験が役に立つんじゃないのかい?」

 「一年って言ったって、たかだか一年ですよ」

 「たかだか一年と言っても、その一年は難しい事件奇妙な事件、様々な事件に出くわした密度の濃い一年だったはずだ。君たちやアーサリアンのような特殊部隊は、いろいろな状況に対応できる人間を育てるには最適の場所じゃないかな? もちろん学ぶべきことはたくさんあるだろうけど、君たちは自分達にできることとできないことくらいは正しく理解している。そうじゃないのかい?」

 「・・・」

 圭介とひかるは、離れたまま顔を見合わせた。

 「ないものねだりをしても始まらない。いざとなれば役に立つのは、もとから自分にある経験と、底力だけだ。それをいつでも最大限に出せるように、努力しておくんだね」

 「・・・はい」

 圭介がうなずくと、尾崎は立ち上がった。

 「・・・まぁ、気持ちが落ち着かないのはわかるよ。なんなら、これが終わったらぼくが模擬戦の相手になろうか? シミュレーションよりは、歯ごたえはあると思うけど・・・」

 「いいんですか?」

 「もちろん」

 圭介はうなずくと、彼に言った。

 「ぜひ、お願いします」

 「それじゃ、先に準備を済ませておいてくれないか?」

 「わかりました。亜矢さんに尾崎さんの管制作業をお願いしておきます」

 尾崎はうなずくと、シミュレーション・ルームの中へと入っていった。

 「よし・・・」

 圭介はヘルメットを小脇に抱えると、ひかるを振り返った。

 「じゃ、お先に・・・。頑張ろうな?」

 「はい!」

 笑顔で圭介を送り出すと、ひかるはVRコンピュータのヘルメットをかぶった。





 「・・・」

 どこかの倉庫の中。椅子に腰掛け、腕組みをしたまま動かないワイリー・コヨーテ。サングラスをしたままなのでよくわからないが、どうやら眠っているらしい。と・・・

 「ククク・・・」

 笑いをこらえながら、その背後からワイルド・メアーが忍び足で近づいてきた。その手には、キャップを外した油性マジックが。倉庫の中にいる整備員達が不安と興味の同居した目で彼女を見るが、彼女は何もするなというように指を口に当てると、さらに彼に近づいた。コヨーテはまだ眠っているらしい。

 「・・・」

 息を殺し、左側から手を回して彼の額にマジックを近づけるメアー。彼女と見つめる整備員達の緊張が、ピークに達する。

 バッ! ジャキッ!

 「!!」

 「!?」

 突如、コヨーテの右腕が動き、目にも留まらぬ早さで拳銃をメアーの額に押しつける。メアーはかたまり、整備員達は言葉を失っている。

と・・・  「・・・」

 メアーはニッ!と、いつものいたずらっぽい笑みを見せた。

 「・・・スコアを言ってみろ」

 「アニキの48戦48勝。50戦までにはせめて1勝したいけど、あと2回かぁ。厳しいなぁ・・・」

 そう言いながら、マジックにキャップをするメアー。どうやらこれは、今までにも何度も行われていることらしい。整備員達はそれで安心していいのかどうか、判断に迷っていた。

 「懲りない奴だ。何度やっても結果は同じだ」

 「でも、おかげで勘が鈍らずに済んでるでしょ? 起きたばかりの一瞬で相手があたしかあたしじゃないかを判断するんだから、さすがだよねぇ」

 「・・・命に関わるからな」

 彼らの次元の違う会話に、整備員達はやがてついていけず、自分達の仕事に戻り始めた。そんな中で、メアーは彼の隣の椅子に座った。

 「ねぇアニキ」

 「なんだ?」

 唐突に、メアーはコヨーテに話しかけた。

 「あたしたちの貯金・・・いくらになった?」

 その言葉に、コヨーテは少し表情を変えてメアーの顔を見た。

 「・・・急にどうした? 欲しい物でもあるのか?」

 「ううん。アニキもわかってると思うけど、あたしは火力のデカイ武器を撃たせてもらえばそれで満足な「いい子」だから」

 とんでもないことを言うメアー。少し前屈みになってつぶやく。

 「・・・ただ、けっこうお金持ちになったんじゃないかなぁって思って・・・気になっただけ」

 「そうか」

 少しの間、沈黙が流れる。少ししてから、メアーは言った。

 「アニキってさぁ、入ってくる仕事ほとんど来るもの拒まずって感じで受けてるよね」

 「仕事の内容が俺達に可能かどうか。受けるか受けないかの基準は、それだけにしている。幸い、ほとんどはその範囲だ」

 「うん・・・。で、アニキもあたしもあんまり物欲のないタイプだから、弾代とか差し引いても必然的にドンドンお金が貯まってくわけだけど・・・」

 そう言って、メアーはコヨーテの顔を見た。

 「アニキって・・・そのお金でなんかやりたいこととか、あるの?」

 「・・・」

 「アニキと一緒にいるようになってけっこうたつけどさ、アニキ、そういうこと全然教えてくれないじゃない。だから、ちょっと気になったんだけど・・・」

 コヨーテが答えないので、メアーは半ば諦めかけた。と、その時

 「・・・やろうと思ってることなら、ある」

 「え!?」

 その言葉に、思わずメアーは振り返った。

 「なにそれなにそれ!? ねえ、何をやろうとしてんの!? 教えてよ! ひょっとして、世界征服とか!?」

 「・・・」

 コヨーテは、かすかな笑みを浮かべただけだった。

 「・・・やめておこう。お前のことだ。俺らしくないことだとか、そういうことを言いそうだからな」

 「えーっ!? そんなこと言わないから教えてよ!」

 その後もメアーはなだめたりすかしたりしてなんとかそれを聞き出そうとしていたが、いつものようにコヨーテに軽くあしらわれ続け、結局諦めた。

 「ハァ・・・もういいよ。なんだか疲れた」

 「・・・」

 「でも・・・ちょっと安心したな。アニキもただ、目的もなくがむしゃらに働いてるわけじゃないってことがわかって」

 椅子に座り直しながら、メアーが笑顔で言った。

 「ちょっと不安だったんだ。もしかしたらアニキ、死に場所が欲しいとかそういう理由で仕事してるのかなって・・・」

 「マンガの読み過ぎだ。現実の人間なら、誰でも寿命を全うしたいと考える。この仕事は、自分が続けられると思うまで続けて、金を稼ぐ。残りの人生で、それを資金にやりたいことをするつもりだ」

 「ふぅん、けっこう人生設計考えてるんだぁ・・・。でさぁ、肝心のことなんだけど・・・」

 「なんだ?」

 「それには・・・あたしもつきあっていいんだよね、もちろん?」

 コヨーテは少し笑って言った。

 「そうだな・・・。金はともかく時間がかかりそうなことだから・・・そのあいだの退屈しのぎぐらいには、役に立つかもしれないな」

 「なにそれ、ひっどぉい!! あたしはあなたの退屈しのぎのおもちゃじゃないんだからね。そんなこと言うなら、あたしもアニキのことおもちゃにしちゃうんだから」

 「今やっていることはそうじゃないのか? ヒマさえあればちょっかい出してくるくせに」

 「フッフッフ・・・あたしがちょっと本気を出せば、アニキに土下座させるくらい朝飯前なんだから。そのこと、よく覚えておいてよね」

 コヨーテは小さく笑った。再び、しばしの沈黙が流れる。と、その時だった。

 「到着した! シャッターを開けろ!」

 整備員の声で倉庫の中がにわかに慌ただしくなり、何人かが駆け寄ってシャッターを開ける。

 「来たようだな」

 「待ちくたびれちゃったよ」

 そう言いながら、二人は入り口へと近づき、中に入ってくる一台のトラックを見つめた。

 シュー・・・

 空気音とともに、トラックは停車した。すぐに待機していた整備員達がカーゴの後部ドアにとりつき、それを開けにかかる。

 「早く開けて早く開けて! どんなのかすぐに見たいんだから!!」

 その後ろで急かすようにはやしたてるメアー。と、その時

 「ムグッ・・・!」

 唐突にその口は、コヨーテによって後ろからふさがれた。続けてくれと言うように目で合図したコヨーテに、整備員達は苦笑しながらロックを開けた。

 ガチャッ・・・

 ドアが開き、整備員達がすぐに中に入る。そしてほどなくして・・・

 ゴォ・・・

 自走式のキャリアに乗せられたものが、ゆっくりとカーゴの中から姿を現した。

 「ムグーッ!! ムームー!!」

 メアーがいっそう暴れ出したので、コヨーテはその手を離した。

 「プハッ・・・! アニキ、何すんのよ!?」

 「見ちゃいられない・・・」

 そんなことをつぶやくコヨーテを無視して、メアーは二つ運ばれてきた片方に近づいた。

 「へぇーっ・・・これが新しい奴かあ・・・。なかなかいい感じじゃない」

 そう言いながら、大事そうにその表面をなでる。一方のコヨーテも、もう片方に近づいた。それをチェックし、彼はトラックの助手席から降りてきたアルフに言った。

 「コンセプトは今までと同じなようだが・・・」

 「それはまあ。でもご覧の通り、外見や中身は格段にパワーアップしたので、性能については私が保証します」

 アルフはにこやかに言った。コヨーテは黙ってそれを見つめていたが、やがて言った。

 「たしかに・・・まるで、バケモノだな。名前は何という?」

 「「グレイブディガー・・・つまり、「墓堀り人夫」ですよ」





 その日、関東は各地で濃霧に包まれていた。夜間に降ったこの時期にしては強い雨が、霧となって街を覆ったのだ。

 「・・・濃い霧のため、今朝は交通事故が多いようです。これから通勤の時間となりますので、お車を運転される方は事故などに気をつけて下さいネ。お相手は、内藤翼でした。See you next week!」

 ラジオから流れるアイドルの声はそれっきり途切れ、エンディングの曲が流れ出す。そのスイッチに手が伸びて、ラジオは沈黙した。

 「ふあ〜あ・・・。やっと朝かって感じだね。夜勤もやっぱり、楽じゃないわ」

 大あくびをしながら、第2小隊の実動員、佐倉真由美が言う。ここは第2小隊のオフィスなのだ。

 「あれで夜勤って言えるのかな・・・。仮眠を通り越して、ほとんど普通と変わらないぐらい寝てたと思うけど、真由美君?」

 その向かいの席に座る管制員の高畠が、怪訝そうな顔で言った。

 「う・・・! ま、まぁいいじゃない高畠さん。あたしたちは体が資本なんだから、夜勤だろうと何だろうと寝られるときは寝るってのは・・・」

 などと真由美が言い訳をしていた、その時だった。

 「おはよう。夜勤ご苦労様」

 「おはよう」

 ドアが開き、隊長の星野と副隊長の須羽が入ってきた。

 「おはようございます。幸い、昨夜も何もありませんでした」

 高畠がまじめな顔をして言う。

 「そのようね。ずいぶん深い仮眠がとれたみたいね、佐倉さん?」

 「へ?」

 面白そうな表情で言う星野に、真由美はポカンとした顔を返した。すると、須羽が黙って自分の頭の横をコツコツと指先で叩いて見せた。

 「・・・?」

 真由美は怪訝な様子ながら、引き出しから手鏡を取り出してそれを見た。すると・・・

 「ああーっ!?」

 彼女の頭の右側面に、立派な寝癖がついていた。

 「す、すぐに直してきます!」

 真由美はそう言うと、風のように出ていってしまった。あとに残された3人は、クスクス笑いを浮かべながら、自分の席へついた。星野が自分の席の後ろの窓のブラインドを開ける。窓の外は、濃い霧の色である白一色であった。

 「最近じゃ珍しいぐらいの霧ね・・・」

 「玉突き事故とかが起こらなければいいですが・・・。早く晴れてほしいですよ」

 須羽のコメントに、真由美はうなずいた。と、その時であった。

 ドガァァァァァァァァァァァン!!

 「「「!?」」」

 大きな爆発音とともに、第2小隊分署の建物が大きく揺れた。

 「な、なんですか今の!?」

 机につかまりながら、高畠が叫ぶ。

 「! まさか・・・」

 星野はそう言うと、オフィスから飛び出した。

 「!!」

 そこで星野は、再び驚いた。備品倉庫などがある建物の右手側から、廊下を通じて煙がモクモクとこちらへ迫りつつあった。

 「これは・・・!!」

 後から来た須羽も、緊張のこもった声で言う。その時

 「隊長!! 何があったんですか!?」

 片手にブラシを持ったまま、反対側の廊下から真由美がかけてきた。星野はそれには答えず、再び走り始めた。隊員達もその後を追う。

 「・・・!」

 玄関から外へ出た星野は、驚くべき光景を見た。濃い霧の中で建物の正面左手の部分が大きく崩れ、黒煙をあげているのだ。

 「ああ! 誰よ、こんなことしたのは!!」

 あとから来た真由美達が、怒りの混じった驚きの声をあげる。その時である。

 ガチャ・・・

 背後で、金属音がした。驚いて振り返ると・・・

 最初に見えたのは、霧の中に光る赤い円だけであった。だが、やがてそれは、霧の中から姿を現した。

 鋼鉄でできた、無骨な黒い人型のロボット。顔の排気ダクトが、ニヤリと笑った口にも見える。

 「こいつら・・・自衛隊を襲った一つ目ロボット!!」

 その姿を見た真由美が叫ぶ。その時である。

 バババババッ!!

 ロボット達は指先を建物に向けると、そこから熱線を発射した。

 ドガァァァァァァァァァン!!

 再び爆発する建物。

 「んなっ!? 正面からなぐり込みかけてくるなんて、いい度胸してんじゃないの!!」

 「みんな、ガレージへ急いで!!」

 星野が言った。

 「ガレージが破壊されないうちに、全員配置について。VJでこれを迎撃するわ」

 「了解!!」

 隊員達はうなずくと、一目散にガレージへ駆けだした。





 一方同じ頃、第3小隊の分署では・・・

 ガチャッ・・・ガチャッ・・・

 やはりその敷地内を、鉄人達が闊歩していた。と、その時である。

 「てめぇらぁ!!」

 ギッ!

 突如こだました叫び声に、一斉に鉄人兵達がそちらを向く。そこには・・・

 「よく聞けぇ、黒ずくめの一つ目ブリキ人形ども!! 朝っぱらから人ん家の庭に土足で踏み込んで、好き勝手のし放題・・・この島田薫が来たからにゃ、てめえらみんな屑鉄にしてやるからそう思えいっ!!」

 こちらに指を向けてがなり立てている茶色のVJの姿があった。その後ろから、緑色のVJがやってくる。

 「島田ぁ、あんまり熱くなるなよ。お前一人で何しようってんだ?」

 「こんな奴ら、俺一人だけで十分ですよ!! 撃砕ナックル、アクティブ!!」

 ガシャッ!! ガチャガチャッ!!

 バックパックの中から金属製のグローブのようなものが飛び出し、島田はそれを両手に装着して、ガチリとつきあわせてファイティングポーズをとった。

 「ちょ、ちょっと! まさか本気であの数相手にするつもり!? 不可能だよ!!」

 ヘルメットの中に、管制員の戸狩の情けない声が響く。デュアルカメラに映る敵の総数は、20体を超えていた。

 「心配するな! 俺の地引き網に不可能という魚はない!! ドリャアアアアア!!」

 変な言い間違いだけを残して、島田は敵の集団の中へと突っ込んでいった。

 ババババッ!!

 ドガァァァァン!! ドガァァァァァン!!

 鉄人兵達が一斉に熱線を発射し、爆発が巻き起こる。しかし島田はそれをものともせず、爆発の巻き起こる中を突進した。

 「俺に勝とうなんて温州みかんよりあめぇんだよ!!」

 島田は叫ぶと、右腕を振りかぶった。

 「ぬおあああああああああああっ!!」

 グシャァァァァァァァッ!!

 まるで獣のような叫びとともに島田が振るった鉄拳は、鉄人の土手っ腹を見事にぶち抜いた。

 「ギ・・・ギ・・・」

 ドガァァァァァァン!!

 きしむような音をたて、鉄人はなぜか気をつけをするとそのまま後ろへ倒れ、爆発を起こした。

 「へっ! ジャガイモつぶすより簡単だぜ!! 次はてめぇだぁっ!!」

 そう言うと振り返りざま、島田は渾身のフックを最も近くにいた鉄人に叩き込んだ。

 バグッ!! ガシャアッ!! ドガァァァァァァァン!!

 吹き飛ばされた鉄人がその後ろにいた鉄人にぶつかり、どちらも爆発を起こした。

 「どうだ戸狩!! 俺にとっちゃこんな奴ら、できそこないのカボチャみたいなもんだ!!」

 得意げに胸を張る島田。だが・・・

 「あ・・・あわわ・・・」

 「ん? どうした戸狩?」

 「周り・・・周り・・・」

 「周り?」

 そう言われて、島田は周囲を見回した。すると・・・

 ズラッ・・・

 いつのまにか、周囲をずらりと鉄人達に囲まれていた。

 「なんだとぉ!? こいつら、いつのまに!!」

 「くだらない自慢してるからだよぉ!! すぐに離脱して!!」

 「逃げろだとぉ!? そんな曲がったキュウリみたいなことができるかぁ!!」

 こんな状況でも威勢よく啖呵を切り、なおもファイティングポーズをとる島田。だが、鉄人達はずらりとその指先を彼に向けた。と、その時である。

 ボォン!!

 「!?」

 島田の周囲で爆発が起こり、白い煙が充満する。その間に島田は、何者かに引っ張られてその場から連れ出された。一方・・・

 バババババババッ!!

 ドガドガドガァァァァァァァァン!!

 円状に展開していた鉄人達は、その状態で熱線を撃ったため互いに撃ち合い、自滅した。

 「やれやれ・・・お前のは勇敢じゃなくて無謀っていうんだよ・・・」

 島田を連れだしたのは、緑のVJ・・・副隊長の三葉だった。

 「敵をやっつけるのはかまわんが、もっと状況を考えろ」

 「すんません、副隊長」

 「お前は一対一でぶっつぶせる奴だけを相手にしろ。複数の敵は僕が始末する」

 「りょーかい!!」

 そう言うと島田は、離れたところにいる敵に駆けだした。一方三葉は、目の前にいる十体近い鉄人をにらみつけた。

 バババババッ!!

 三葉に一斉に熱線を発射してくる鉄人。だが、三葉は身のこなしも軽くそれをジャンプしてかわすと、バックパックから取り出した物をトランプのように広げ、投げつけた。

 シュシュシュシュシュッ!!

 それは、十字状の鉄の小剣・・・いわゆる「手裏剣」であった。それは一発も外れることなく、鉄人達の体に突き刺さった。

 スタッ!

 鉄人達の後ろに着地する三葉。

 「・・・ストライク!」

 バチバチバチバチバチッ!!

 その途端、手裏剣から放たれた電流が鉄人達に流れ、鉄人達はショートを起こしてバタバタと倒れた。しかし、なおも襲いかかってくる鉄人達。

 「・・・」

 三葉は冷静に、バックパックの中から何かを取り出し、両手で逆手に持って構えた。それは、忍者が使った「苦無」と呼ばれる一種の小剣だった。

 「参る!!」

 ダッ!!

 三葉はそれを手に、鉄人達へ飛びかかった。

 「タァァァァァァッ!!」

 ズバッ!!

 気合いとともに、三葉は鉄人の腹を横一文字に斬り裂いた。上半身と下半身を切り離された鉄人が、むなしく倒れる。

 「来い」

 三葉は苦無を構え、そう言い放った。





 それから十数分後・・・。

 「ハァ・・・ハァ・・・」

 第2小隊の敷地内には、破壊された鉄人の残骸がいたるところに転がっていた。VJを着てショットガンを手にした真由美が、肩で息をついていた。

 「まったく・・・手こずらせて・・・。そこらじゅう弾痕だらけじゃないの」

 「弾痕は君の撃った弾の流れ弾だよ・・・。連中、実弾武器はもってないもの」

 高畠のため息が聞こえる。

 「あ・・・アハハハハハ! 気にしない気にしない! やむを得ない損害のうちだよ、ねっ?」

 強引にごまかそうとする真由美。しかし・・・

 「弾は高いんだ。いざこととなったら必殺必中の覚悟で狙え」

 近くに歩いてきた須羽がそう言ったので、真由美は肩を落とした。と、その時である。

 「二人とも、まだ気を抜かないで」

 二人のVJのヘルメットの中に、星野の声が響いた。

 「どうしました、隊長?」

 「まさか、まだ生き残りが?」

 「いや・・・高速でこちらに飛来しつつあるわ・・・。これって・・・まさか!」

 星野がそう言った、まさにその時だった。

 ガガガガガガガガガガ!!

 「うわっ!?」

 二人は突如、空からの銃撃にさらされた。

 ギィィィィィィィィン!!

 爆音とともに、何かが二人の頭上を高速で通り抜ける。一瞬、その紫のボディの色が二人の目に焼き付いた。

 「あいつは・・・!」

 「佐倉・・・気をつけろ」





 一方同じ頃。第3小隊の分署にも、新たな敵が現れていた。

 ドガァァァァァァァァァン!!

 「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 強力な爆発に吹き飛ばされ、地面に倒れる三葉と島田。歯を食いしばって立ち上がると、煙と霧の向こうから、何かがゴーグルタイプのカメラ・アイを光らせながら、何かが近づいてきた。

 ガチャッ・・・

 立ち止まるそれ。その姿を見て、二人は驚きを隠せなかった。

 それは、重装甲のジャケットだった。両肩に巨大なキャノン砲を搭載し、手には大型のシールドを持っている。装甲の色は血のように赤黒い。その姿からはまるで重戦車のようなイメージを受けた。両肩のキャノン砲の砲口からは、白い煙が立ちのぼっていた。

 「こいつ・・・このあいだ自衛隊を襲った奴かよ!?」

 島田がその姿を見て叫ぶ。だが、三葉は冷静にその姿を見て言った。

 「いや・・・こいつは、この間の奴とは別物だ。気をつけろ、島田」

 と、三葉が言ったその時だった。

 ブォォォォォォォッ!!

 ジャケットはホバー移動で島田に急接近してきた。

 「ぬおっ!?」

 ガチャァァァァァァァン!!

 金属のぶつかる音ともに、島田とジャケットがぶつかり合う。

 ギリギリギリ・・・

 二人は手を組み合わせた状態で、組み合ったままにらみ合いとなった。

 「へっ・・・力で俺様と渡り合おうってのかよ」

 そんな中でも、島田は余裕のある表情をしていた。だが・・・

 ギィィィィィン・・・

 「!?」

 敵のジャケットの中でモーターのうなる音がしたかと思うと、突然敵の力が強くなった。

 「な、なぬ!? こいつ・・・!?」

 「島田! そいつから離れろ!!」

 三葉が十字手裏剣を取り出し叫んだその時だった。

 グオッ・・・

 「のわぁ!?」

 島田は空中に軽々と放り投げられた。

 ドガチャッ!!

 「ぐおっ!!」

 地面にたたきつけられ、うめき声をあげる島田。

 「くそっ!!」

 シュシュシュシュッ!!

 十字手裏剣を投げつける三葉。しかし、ジャケットはそれに対してシールドを構えた。

 ヒュヒュヒュヒュヒュ・・・

 すると、十字手裏剣は自分からよけるようにその体の横を通り抜けていってしまった。

 「なにっ・・・!?」

 ガコッ・・・

 三葉が驚いていると、敵はそのままキャノン砲をこちらへと向けた。

 「・・・!」

 ドゴォォォォォォォォン!!

 三葉が飛び抜けるとほぼ同時に、キャノン砲が炸裂した。

 ドカァァァァァァン!!

 「うおっ!!」

 その爆風に吹き飛ばされ、倒れ込む三葉。が、素早く立ち上がると島田と合流した。

 「大砲のオバケみたいな奴だ!!」

 「三葉、島田。力押しで勝てる相手じゃない。奴がシールドを構えた隙をついて、左右から敵を挟撃しろ」

 「了解!!」

 三葉は手裏剣を、島田はマルチリボルバーを構え、敵と対峙した。

 「準備はいいな、島田!」

 「こっちは完璧ですよ! 戸狩! そっちこそだいじょぶだろうな!?」

 「瞬発力最重視に設定してるからだいじょぶだよ!」

 それぞれ言葉を交わしうなずくと、二人はそれぞれの武器を放った。

 シュシュシュシュシュ!!

 ババババババババババ!!

 自分に向かって放たれた手裏剣と銃弾に対して、敵がシールドを構えた、その時だった。

 ダダッ!!

 二人はそれぞれ敵の左右に向けて地を蹴った。

 ダッ!!

 そして、えぐるような機動をするとほぼ同時に、それぞれの武器を構えて左右から敵へ跳んだ。

 「こいつで潰れやがれぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 右からは島田が拳を振りかぶり

 「タァァァァァァァァァ!!」

 左からは三葉が苦無を閃かせ、それぞれ襲いかかってくる。しかし敵は、その場で微動だにしなかった。その場にいた誰もが、勝利を確信したその時だった。

 ギュオオオオオオオオ!!

 ガシッ!!

 「ガッ!?」

 ガシッ!!

 「グオッ!?」

 なんと、三葉と島田は空中で「手」によって首を絞められていた。

 「なっ・・・!?」

 指揮車の中でそれを見ていた木戸と戸狩は、自分の目を疑った。

 敵の背中から、長い「腕」が生えていたのである。もちろん、それは本来の腕ではない。いくつもの関節を持つ、機械でできた腕である。それまでは折り畳まれていたらしいそれは、いまや完全に伸びて空中で二人の実動員の首を締め上げていた。

 「魂胆見え見えなんだよねぇ。甘い甘い」

 無邪気な少女の声がしたのは、その時だった。二人を空中につるし上げたまま、赤黒いジャケットはそのカメラアイを赤く不気味に光らせた。





 ヒィィィィィィン・・・

 東京上空を、銀色の巨大な箱が行く。その車内では・・・

 「あーもー! 岸本、まだか!?」

 イライラした様子で、青いVJを装着した小島が運転席の方に叫ぶ。

 「ゴチャゴチャ言わないでよ! こっちだってめいっぱい飛ばしてんだから!!」

 運転席から、やはりイライラ混じりの声が返ってくる。

 「慌てなくても間もなく着くわ。薬品のチェックをしておいた方がいいわ」

 対称的に仁木は、冷静な様子で「ヨイチ」の最終チェックをしていた。しかしその言葉には、微妙に緊張の色が見え隠れしていた。

 「りょ・・・了解」

 小島はうなずくと、バックパックから自慢の薬品カプセルを取り出し、いつでもオルムにセットできるように腰のベルトに装着した。その時

 「ん・・・見えてきたぞ」

 上空から地上を見ていた小隈が、小さく声を出した。運転席の窓からは、地上に煙の立ちのぼる一角が見られた。

 「なにあれ!? 燃えてんじゃないの!!」

 聡美は驚きながらも、指揮車を降下させ始めた。一方、管制ブースでは・・・

 「やはり・・・彼らの仕業のようだね・・・。大胆なことをしてくれる・・・」

 VRコンピュータのヘルメットをかぶったまま、亜矢が言う。第2、第3小隊の分署が襲撃されているとの連絡を受けた第1小隊は、ただちにその救援へ出動したのだ。

 「やっぱり、第2小隊を襲撃しているのも・・・?」

 「そうだと思うよ・・・」

 「大丈夫でしょうか・・・圭介君と尾崎さん・・・」

 そう言ってひかるは、実動員の席を振り返った。そこには、赤と黒のVJの姿はなかった。





 サイレンを鳴らし、赤色灯を回転させながら、道路上をブリティッシュグリーンのエアカーが疾走する。たくみにハンドルを切りながら車をすり抜けていくそのドライバーを見て、対向車のドライバー達はギョッとした表情を浮かべる。運転をしているのは、赤いVJに身を包んだ男だった。

 「今までVJを着たまま、これを運転したことは?」

 助手席に座る黒いVJ「パーシヴァル」・・・尾崎が尋ねる。

 「ありません。こういうこともできるようにウィンディはできてますけど、小隊を二手に分けて出動させなきゃならない事件なんて、初めてですよ」

 ハンドルをギュッと握りながら、赤いVJ、圭介は返した。彼の言うとおり、VJを着たままウィンディを運転するのは初めてだ。ウィンディは何らかの事情でこれを使って実動員を輸送しなければならない場合、運転席と助手席のシートを後部へスライドさせ、VJ装着状態の実動員2名を運ぶことができるように設計されている。しかし実際に、この機能が使われるのは今回が初めてだ。

 第2、第3小隊分署の同時襲撃という事態に対し、一刻も早い救援出動が必要と考えた小隈は、部隊を二つに分けることを実行した。そこで、指揮車には実動員を仁木、小島だけ乗せて第3小隊分署へと出動、残りの圭介と尾崎は、ウィンディで第2小隊へ向かうことになったのである。幸い、SMSの使用するタキオン式通信装置は、十分な出力さえ維持できれば障害物に関係なく通信ができる。これならば第3小隊の救援に向かった指揮車にいるひかるからの管制を、第2小隊の救援に向かう圭介達も受けることができる。

 「・・・見えました! ああ・・・やっぱり、燃えてますよ!」

 やがて二人の目に、炎上する第2小隊分署の姿が入ってきた。圭介はそれを見るとアクセルを吹かし、スピードを上げた。

 フシュウウウウ・・・

 やがて、ウィンディを分署の正門の前に停めると、二人はその車内に飛び出した。

 「ひかる、現場に到着した。管制を開始してくれ」

 「了解。こちらも現場に到着して、副隊長と小島さんが出ていったところです。そっちの様子はどうですか?」

 「建物が燃えてる。すぐに突入するよ。だけどなんだか・・・」

 そう言って、圭介は正門の前の光景を見た。正門の前は、多数のやじうまとそれを制止する警官達で埋め尽くされていた。

 「なんだか野次馬が集まってる。妙だな・・・」

 「野次馬ですか?」

 「ああ。とにかく、突入する」

 圭介はいったんひかるとの会話をやめた。

 「なんだ、この野次馬・・・」

 「もしかして・・・」

 尾崎の言った言葉の意味に、すぐに圭介は気がついた。まだ交戦が行われているなら、こんなに野次馬が集まっているはずがない。だとすれば・・・

 「いきましょう、尾崎さん」

 うなずき返しマクシミリアンmk2を取り出す尾崎に続き、圭介は真空砲を取り出して右腕に装着すると、一気にジャンプして正門を飛び越し、敷地内に入った。野次馬の間からどよめきが漏れるが、二人はそれにかまわず、敷地内を建物へと疾走していった。

 「!!」

 やがて入ってきた光景に、二人は目を見張った。建物の前のグラウンドには、まるで砲撃戦の後のようなクレーターがいくつもあいていた。そして・・・その地面の上に、倒れているVJとその傍らで手当てをするSMSの制服を着た人物達の姿が見えた。

 「遅かったか!?」

 圭介は舌打ちしながらも、尾崎とともにその場へ駆け寄った。





 「浪平さん!!」

 聞き覚えのある声に健がそちらの方を見ると、こちらに向かって赤と黒のVJが駆けてくるのが見えた。やがて二人は、彼の手当てしているものを見て驚いた。

 「須羽副隊長・・・!!」

 健が手当てをしていたのは、須羽であった。だが、彼は見るも無惨なほど深刻なダメージを受けていた。黄色いVJはすでにボロボロで、その役をなしていない。穴の開いた装甲板の下には真っ赤な血が流れている。ヘルメットだけは既に外されていたが、須羽は目を閉じて額から血を流したまま、荒い息をついていた。

 「・・・!!」

 圭介は少し目を動かして、少し離れたところにある同じ様な光景にまたも目を見張った。そこでは、やはりリーナが同じように真由美の手当てをしていたのだ。真由美のVJもまた、完膚無きまでに叩きのめされていた。

 「星野隊長、これは・・・」

 尾崎が健と一緒に立っていた星野に尋ねた。信じられないことだが、彼女の乗っていた指揮車も離れたところで横転した無惨な姿をさらしていた。

 「大丈夫・・・死者はいないわ。もうすぐ救急車も来る・・・」

 沈痛な表情で言う星野。彼女自身、右腕を三角巾で吊していた。

 「すいませんが、副隊長達のVJを脱がせるのを手伝ってくれますか? 僕達だけでは難しいですから・・・」

 「はい! 尾崎さん、佐倉さんをお願いします」

 「わかった!」

 二人は慎重に、その作業を手伝い始めた。VJをアーム・アーマー、ボディー・アーマーと外していくに従い、その下の肉体の深刻なダメージが浮き彫りになっていく。圭介は手当てを手伝いながら、星野と健に尋ねた。

 「実動員の体にこれだけのダメージを与えるなんて・・・いったい、どんな奴が?」

 VJの損傷状況は、圭介にとって信じられないものだった。重火器を装備した軍用ジャケットの部隊と交戦でもしないかぎり、ここまでのダメージを負わせられるものではない。星野はしばらく押し黙っていたが、やがて言った。

 「・・・悪魔のようなVJだったわ。間違いなく、キャッシュ・コネクションのVJ・・・それも、あなたが戦った「銀の鳥」と同系統の・・・」

 「!!」

 圭介の頭の中に、ガーゴイルの姿がよぎる。

 「飛行能力と俊敏な動きを兼ね備えている上、恐ろしく強力な銃火器を持っていた・・・。小隊はすぐに圧倒され、指揮車までああなってしまったわ・・・」

 横転した指揮車を見ながら、星野が言った。

 「以前戦ったあいつとは、桁違いの強さでした。俺と先輩が駆けつけたときには、奴は副隊長にとどめを刺したところで・・・そのあと指揮車を破壊してから、奴は飛び去ってしまいました。何もできないまま、指揮車の中のVJまで破壊されてしまって・・・悔しいですよ・・・!」

 須羽の手当てをしながら、健は歯を食いしばりながら言った。その目の端から、涙が一筋流れる。星野はそんな健の肩に、無言でそっと手を置いた。

 「すいません・・・俺達が、もっと早く来ていれば・・・」

 圭介が拳を握りしめながら言ったが、星野は寂しげな表情を浮かべて首を振った。

 「自分を責めないで。相手の強さや不意打ちということを差し引いても、ここまでの損害を隊と部下に負わせてしまったのは、紛れもなく指揮官である私の責任です」

 「しかし・・・」

 「それよりも・・・」

 一転して、星野は強い意志のこもった視線で圭介を見つめた。

 「おそらく、同時に襲撃を受けた第3小隊も、私達と同じような壊滅的被害を受けているはずです。東京都SMSで機能するのは、今となってはあなたたち第1小隊だけ・・・。敵に何らの打撃を与えることもできず、SMSの中ではあなた達だけを矢面に立たせなければならないことを、許して下さい。くれぐれも気をつけて下さい。敵の力は強大です」

 星野がそう言うと、健も黙って顔を伏せた。圭介は、それをしばらくじっと見つめていたが、やがて力強くうなずいた。

 「・・・了解しました。警察と協力し、皆さんの分まで首都の治安維持に全力を注ぎます。今はゆっくり、受けた傷を癒して下さい」

 やがて、どんよりと低く立ちこめた一面の暗い空に、救急車のサイレンの音が響き始めた・・・。





 サァァァァァァ・・・

 春の長雨が始まったのだろうか。三日前から関東の空にはへばりつくように雲がはりつき、うっとうしい雨を地上に降らせ続けている。

 そんな雨は、第1小隊分署とその敷地を取り囲む者達の上にも降り続けていた。第1小隊の分署を取り囲むポリスジャケット隊。彼らの着ている青い装甲服の上を、雨が小さな雫を作って流れ落ちていく。彫像のようにたたずむポリスジャケット隊に囲まれた分署は、一種異様な雰囲気を発していた。

 「急にものものしくなってしまったね・・・」

 窓からそんな外の様子を見ながら、亜矢がつぶやく。

 「発想の順番からいけば、当然の流れではありますけどね。第2、第3小隊の分署が襲撃されたら、次は・・・ってのは」

 その隣で、やはり窓枠に頬杖をつきながら小島がつぶやく。

 「たしかに・・・これだけの数に守ってもらえるのは心強いけれど・・・」

 「本来なら守る側が守られるってのは、なんだか本末転倒にも思えますよね」

 二人はそんな光景を見ながら、そんなことをつぶやいていた。二人の言葉通り、第2、第3小隊の襲撃者達の次の目標として、当然第1小隊の分署が最有力視され、現在分署はその守備と同時に一挙返り討ちを狙うポリスジャケット隊によって守られているのだ。

 「それに・・・」

 「それに?」

 「なんだか、単純すぎるように思えません?」

 「・・・次は私達の番だという想像がかい・・・?」

 亜矢の言葉に、小島は黙ってうなずいた。





 「ぼくなら、次をここにしようとは考えないね」

 コーヒーを飲みながら、尾崎はそうつぶやいた。

 「同感ね。これだけの警備体制が整っているところを襲撃するには、いかに性能のいいジャケットを装備していたとしても、相当のリスクを覚悟しなければならないわ」

 その隣で静かにうなずき、仁木がコーヒーを口にする。ガレージの窓から、二人は同じ光景を見つめていた。だが、尾崎は首を振った。

 「いや、そういうのとは別だろう。彼らがその気なら、今すぐにでも攻め込んでくるようにぼくには思える」

 「どうしてそう言えるの?」

 「今回の目的もまた、前回と同じ様な目的だったら、という話だけどね。9月の事件では、君は彼らの目的を一種の道場破りか、経験値稼ぎだと推理したらしいね」

 「たしかにそうだけど、確証はないわ」

 「いや、たぶんぼくもそうだと思うよ。今回の目的も9月と同じものだったとしたら・・・彼らにしてみれば、相手は強ければ強いほど、多ければ多いほどいい。そうは思わないか?」

 「でも、あれから10日経ったのに、彼らは動きを見せないわ。ロボットを破壊されたことを除けば、悔しいけれど彼らの損害は極めて軽い・・・次の攻撃までは、そう時間はかからないはずよ。もしかして、今回は別の目的が?」

 「そうかもしれない。もちろん、ぼくたちを倒してジャケットの相対基準実績を上げるという目的はあるだろうけどね。不意打ちという点を差し引いても、たった2体で第2、第3小隊を壊滅させたという実績は相当なものだ。次の襲撃でぼくたちを全員のしてしまったとしたら・・・それこそ、不動の地位となるだろう」

 「そんなことをさせるつもりはないわよ」

 仁木が軽く尾崎をにらむ。

 「言うまでもないよ。わざわざロンドンから来てお役に立てないなんて、ぼくだってまっぴらごめんだ」

 尾崎は苦笑したが、すぐにまじめな顔になった。

 「・・・まだ動きを見せないというのは・・・やはり、標的はここじゃないということだろう。どこか別に、もう一つ目的となる場所があってそこを襲撃し、鎮圧のため駆けつけたぼくたちを返り討ちにし、一石二鳥を狙う・・・。こんなところが、彼らの描いている筋書きなんじゃないかな?」

 「・・・」

 仁木は黙ったまま、窓の外を見ていた。

 「・・・だとしたら・・・それはどこなのかしら?」

 「ここまでだって、十分予測不可能な連中だったからね。重要施設が密集するこの都内では、候補となりそうなのは事欠かない・・・。また後手に回ることを、覚悟しなければならないかもしれない」

 仁木は黙ってそれを聞いていたが、黙って手を出して尾崎の飲み終わったカップを受け取ると、言った。

 「いずれにしても、もう私達は後には退けないわ。今度こそケリをつけるつもりだから、そのつもりでいて」

 「了解!!」

 尾崎は敬礼をした。仁木は微笑を浮かべると、オフィスへと戻っていった。と、その時である。

 「尾崎さーん! パーシヴァル、磨き終わりましたよ!」

 声の方に目を向けると、そこには作業服に身を包み、雑巾を手に持った圭介とひかるの姿があった。

 「やぁ、ごめんね、頼んじゃって。おー・・・すごいね、ピッカピカだ」

 黒光りする自分のVJを見て、尾崎は感嘆の声を漏らした。

 「気分転換みたいなものですから」

 「ぼくも手伝おうか?」

 「いえ、けっこうですよ。オフィスに戻ってかまいませんから」

 「そうかい? それじゃ・・・」

 二人に手を振って、尾崎はガレージから出ていった。残った二人は、パーシヴァルを見ながら言った。

 「よし、これで3つ終わり。あとは俺のVJだけだな。いっちょいくか」

 「でも、ちょっと休憩してもいいんじゃないですか? ちょうど3時ですし」

 ひかるが時計を見ながら言う。圭介は少し考えたが、やがてうなずいた。

 「・・・そうだな。休憩室にお茶があったはずだから、それを沸かしてこようか」

 「はい!」

 そう言って、仲良く歩き出そうとする二人。その時

 「おーい! 新座君とひかるちゃん、いる!?」

 ガレージの中へ、聡美が駆け込んできた。

 「聡美さん、どうしたんですか?」

 「まさか、出動!?」

 眉をひそめる二人だったが、聡美は笑って手を左右に振った。

 「違うって! それならサイレンが鳴るはずでしょ? 二人とも、神経質になりすぎだよ」

 「聡美さんがもうちょっと神経質になるべきだと思いますけど」

 「そんなことより、出動じゃなかったらそんなに急いでどうしたんですか?」

 ひかるが尋ねると、聡美は嬉しそうな顔になって言った。

 「うん。実はね、思わぬプレゼントが贈られてきたんだ! じゃじゃ〜ん!!」

 聡美は背中に隠していた何かを二人の前に披露した。

 「封筒・・・?」

 それは、何の変哲もない封筒だった。もっとも、封は開けられていたが。

 「手紙だよ」

 「誰からです?」

 「差出人を見てみてよ」

 そう言われて圭介が封筒を見て、ちょっと眉を上げた。そこにはひらがなで、「こばたはるか」と書かれていた。

 「はるかちゃんて、たしか、あの迷宮研究所事件の時の・・・?」

 「そう、あたしの熱狂的ファン第1号」

 聡美はそう言って、自慢げに胸を張った。

 「テレビであたし達の様子を見て、応援したくて手紙を書いたんだって」

 「へぇ・・・」

 圭介は封筒を開け、中に入っていた手紙を開いた。手紙ははるかが自分で書いたものらしく、ほとんどがひらがなだったが、読んでいるうちに彼女が自分なりに応援しようとして夢中で書いたというあたたかい雰囲気がしてくるような微笑ましい内容だった。

 「きっと、お母さんに教わりながら一生懸命書いたんですね・・・」

 横から手紙をのぞきながら、ひかるが顔をほころばせた。圭介は手紙を読み終わると、笑顔でそれを返した。

 「この状況だと、うれしい便りってやつですね」

 「そうでしょ? いくら日頃あたしたちが世のため人のために仕事をしてるんだって自分に言い聞かせてても、こうして生の励ましのお便りを受け取るのに比べたら、沸いてくる元気が全然違うもんね。それに・・・」

 そう言って聡美はポケットをゴソゴソと探ると、何かを二人の前に差し出した。

 「はいこれ。一緒に入ってたから、一つずつとって」

 「これって、お守り?」

 圭介はそれを取ってしげしげと見た。神社で売られている、普通のお守りだった。

 「ちゃんと人数分入ってたんだ。亜矢さんに見せたけど、ちゃんとありがたい神社の御利益のあるお守りらしいから、これで百人力だね」

 「ありがたくいただきます」

 聡美の手からお守りを取る二人。

 「それじゃ、まだ副隊長と尾崎さんに渡してないからいってくるね。バイバ〜イ!」

 聡美はガレージから去っていった。圭介とひかるは、じっと手の中のお守りを見つめた。

 「安全第一・・・か。お守りの種類の中じゃ、これが一番ピッタリかな」

 小さく笑う圭介に、ひかるも微笑を返した。





 翌日の早朝。圭介はいつものようにランニングウェアに着替えるとスニーカーを履き、寮の玄関先へと出ていった。

 「今日も雨か・・・」

 空を見上げてつぶやく圭介。その言葉通り、灰色の空からは細い雨がシトシトと降り続いている。圭介は手にした白いレインコートを羽織ると、準備体操を始めた。その時・・・

 「よっ、おはよう」

 後ろから声がした。彼が振り返ると、そこには灰色のレインコートを身につけながらこちらへ歩いてくる小隈の姿があった。レインコートの下には同じ色のランニングウェアを身につけ、口には運動用の酸素マスクを身につけている。圭介は彼の姿を見ると、頭を下げた。

 「おはようございます」

 「今日はいつもより早いんだな」

 小隈は準備体操をしながら言った。小隈がランニングをするのは圭介や聡美が走り始めるよりも一時間ほど早いので、普段はこうしてぶつかることはないのだ。

 「ここんところ、妙に早くに目が覚めることが多くて・・・。二度寝もうまくいかないんで、いっそのこと走っちゃおうかなってわけです」

 苦笑する圭介。

 「そいつはいかんな。よく寝とけって言っているだろう?」

 「はぁ・・・それはわかってるんですけどね」

 小隈は準備体操を終えると、彼の隣に並んだ。

 「さてと・・・つきあうか?」

 「せっかくですからね。喜んで」





 「ハァ・・・ハァ・・・」

 圭介は少し息を切らせながら、目の前を走る灰色の背中を負っていた。しかし、その差はなかなか縮まろうとしない。

 (やっぱり・・・40過ぎのおっさんじゃないよな・・・)

 圭介は改めて、そんなことを感じていた。自分はかなり本気を出して走っているが、それでも小隈に追いつけない。たとえ追いつけたにしても、彼はそれ以上にしまっている力を発揮して、再び彼を突き放すだろう。圭介にとっては、驚異的だった。と、その時、小隈が後ろを振り返った。

 「そろそろしんどくなってきたろ?」

 その額には、さすがに汗が浮かんでいるのが見えた。

 「いえ、まだまだですよ」

 だが、圭介は首を振った。小隈が目を細めて、笑顔らしき表情を浮かべる。

 「そう言うな。ちょうど海浜公園だ。一息つこう」

 「・・・了解」

 二人はそう言うと、公園の中へ入っていった。





 「そら」

 小隈はいつかのように、圭介にスポーツドリンクの缶を投げ渡し、自分もそれを持って彼の隣に座った。圭介はスポーツドリンクを見つめながら、SMSに入ってまもなくの頃あった同じようなことを思い出していた。

 「早くなったな」

 唐突に、小隈が話しかけてきた。少し戸惑った圭介だが、やがて、笑顔で言った。

 「毎朝のように、聡美さんと海上区二周レースをしてましたからね。早くなったりするのは、当然と言えば当然ですけど。でも・・・それでも追いつけないってのは、やっぱり隊長の鍛え方はそれ以上ってことなんでしょうか」

 「なに・・・こっちは年とともに衰えていく体力を、必死になってつなぎ止めようとしてるだけだ。お前が火事場のクソ力でも出せば、俺なんかすぐに追い抜かれるさ」

 小隈はそう言いながら、スポーツドリンクのプルタブを開けた。それを飲み始める小隈の横顔を見ながら、圭介は尋ねた。

 「あの・・・隊長」

 「なんだ?」

 「隊長は、いつまでこの仕事を続けるつもりなんですか?」

 小隈は黙ってそれを聞いていたが、やがて笑顔で言った。

 「さっさと隠居してほしいと思ってるか? こんなオッサンには」

 「え!? ち、違いますよ!!」

 圭介は慌てながらも、やがて頭を下げた。

 「そう受け取られてもしょうがない聞き方でしたね、すいません。でも、そういうことじゃなくって・・・本当にいつまでこの仕事を続けたいかっていう、それだけの意味です」

 小隈のそのことはわかっていたのだろう。怒ることなどなく、正直に答えた。

 「ま、適当なところで・・・というんじゃ、お前も不満だろうな。もっと詳しく言うなら、任せられる奴がちゃんと育つまで・・・かな?」

 「任せられる奴?」

 「SMSを任せられる奴ってことさ。SMSは順調に機能しているが、まだまだ歴史の浅い特殊部隊だ。その創設に関わり、今実際に動かしている俺達も、手探りでここまで来たようなもんだ。SMSをさらに発展させるためには、実際にSMSという組織の中で働き、そこで経験や技術や柔軟な考え方を身につけた人間が、俺達の次にSMSを動かす必要がある。他の人はどう思ってるか知らないが、少なくとも俺は、お前達がそれを任せられる人間になれるように、できるだけいろいろな経験をさせてやりたいと思っている。それが、俺が第1小隊の隊長をやっている理由の一つだ。その結果として、一人でもそういう人間を送り出せたとしたら・・・こんなにうれしいことはない」

 「隊長・・・」

 小隈がそこまで考えて自分達を指揮しているということに、圭介は驚いた。すると、小隈は小さく笑って続けた。

 「・・・もちろん、実際にお前達がそういう道を歩むかどうかは、お前達の決めることだ。お前達が別の道を選ぶとしても、俺は無理強いなどしない。小島がまた病院で働きたいと言っても、桐生が研究生活に専念したいと言っても・・・それに、服部が「寿除隊」することになっても、だ」

 「!・・・」

 圭介はそのことに、少し驚いた表情をうかべた。が・・・

 「俺も・・・最近そのことで、よく考えます」

 やがて、うつむきながら言った。

 「この前、ひかるが言ったんです。たとえACSが実用化されて、管制員が必要なくなるとしても・・・俺達と一緒に働いていたいって」

 「・・・」

 「あいつはたぶん・・・そう簡単に「寿除隊」なんかしないと思います。ああいう性格だから・・・結婚してもいつも俺のそばにいて、俺のサポートをしたい。そう願うはずです」

 「そうだろうな・・・。それは、うれしくないのか?」

 「うれしくないはずないじゃないですか。でも・・・少し怖いんです。今ももちろんそうですけど・・・結婚したら、自分の中であいつは、もっと「仲間」から「守るべき人」に変わっていくんじゃないかって。・・・SMSの仕事は危険なものです。いつ命を落とすかわからない。万一のことがあってあいつを悲しませるようなことにならないように・・・俺はもっと、別な生き方を選んだ方がいいんじゃないか・・・そんなことを、最近考えるんです」

 「・・・」

 「弱い人間の考えることなんでしょうか、これは・・・」

 小隈はそれを聞くとマスクを外し、タバコに火をつけた。

 「いや・・・当然の悩みだ。守るべき人・・・自分の新しい家族ができるってのは、とんでもなく重い責任だ」

 小隈はそう言った。

 「俺は独り者だが・・・お前の気持ちはよくわかる。一時期、お前と同じようなことで悩んだ覚えがある」

 「え・・・?」

 圭介は驚いて、小隈の顔を見た。

 「・・・消防士になって、しばらくのことだ。俺が務めていた消防署の近くに本屋があってな。よくそこに寄るうちに、そこの店員だった女の子と仲良くなって、それでつきあうようになった。服部ほどじゃないが、おとなしい女の子だったよ」

 「・・・」

 「そのつきあいは四年ほど続いて・・・今のお前達みたいに、結婚を考えるところまで来た。ところが、ちょうどその時に・・・俺は出動した先の現場で、ケガをした。崩れたパイプに足を挟まれて、足を折っちまったんだ」

 「それで、その人は・・・?」

 「もちろん、入院先に見舞いに来たよ。もうワンワン泣いてな。お前が服部を泣かせてるのを見るたび、その時のことを思い出すよ」

 「・・・」

 「それから何週間かして、俺は退院した。彼女に電話をしてデートをすることになったよ。だが・・・そこで彼女は突然言ったんだ。もう会うのはやめにしよう・・・ってね」

 「! どうしてですか・・・?」

 圭介は驚いて尋ねた。

 「理由はハッキリしてたよ。「あなたが危ない目に遭うのを見ていられない」。彼女が言ったのは、それだけだった。いや・・・それしか言えなかったんだろうな」

 「そんな・・・!」

 と、圭介が言いかけたとき、小隈が先に言った。

 「俺もその時には、なにがなんだかわからなくなった。だが・・・すぐに、彼女の気持ちはわかった」

 「・・・」

 「大事な人が危ない目に遭うのを見てられない。その気持ちは、誰でもわかるはずだ。だが・・・だから自分が何をするかは、人それぞれが決めることだ。その決断がよかったのか悪かったのか、判断できるのは自分だけだ。他人にはできないし、する権利もない。同じ立場でも彼女のように、その関係を終わらせる人もいるだろう。逆に服部のように、だからこそそばについていたいと考える人もいる。他にも、選択はいくらでもあるはずだ。選択の幅は、自分の能力にもよるだろうが・・・どんな選択をしたとしても、それは個人の自由だ。だから、俺は彼女を責める気にはならなかった。俺は・・・彼女の選択を受け止めたよ」

 「・・・自分が消防士をやめる・・・という選択は、思いつかなかったんですか?」

 だが、小隈は笑って答えた。

 「・・・一番先に思いつくに決まってるだろう? 失うものは多いが、彼女と別れないための一番の近道だ。でも・・・それをする気にはなれなかった。理由はいろいろある。消防士になった理由、この仕事にかける自分の気持ち、それに・・・そうしても、彼女はきっと喜ばない。いろんなことを考えて、俺はその選択肢を捨てた」

 「・・・」

 「今言ったことが言い訳だと誰かが俺を非難しても、俺はそいつを責めないつもりだ。たしかに、彼女にだけ辛い選択をさせてしまったかもしれないからな・・・」

 「いえ・・・そんなことはありませんよ。隊長だって、同じぐらい辛い思いをしたはずですから。それで・・・その人とは・・・?」

 「そのあとすぐに、消防庁の特殊救助隊への誘いがきてな。その採用試験に合格して、兵庫から関東に移った。お前が知っている俺は、それからの小隈秀一だ。彼女とはそれっきり、会ってはいない・・・」

 「・・・」

 「無責任かもしれないが、俺に言えるのはそういうことだけだ。あの時の彼女と同じような立場でも、服部は違った選択を、あくまでお前のそばにいるという選択をとろうとしている。では、お前は? どんな選択をしても、お前の自由だ。お前が真剣に悩んで出した結果であれば、それがどんなものでも、服部が拒絶することはないだろう。ゆっくり考えろ、大事な選択なんだからな」

 「・・・はい!」

 圭介は、力強くうなずいた。何か吹っ切れたような、晴れやかな表情だった。小隈はそれを見ると、再び酸素マスクを口につけた。

 「よし。じゃあ残りを走るとするか。どうだ? 真剣勝負ってのは?」

 「いいですね。一度隊長とは、思いっきり走ってみたかったんですよ」

 そう言うと圭介は立ち上がり、歩き出した。小隈もそのあとに続く。

 「そうそう。若者はチャレンジスピリットに溢れてなきゃね。ま、負ける気はないけど」

 「これで勝てば聡美さんにも自慢できますからね。マジでいきますよ。それじゃ、よーい・・・」

 二人は横に並び、それぞれスタートの体勢をとった。

 「ドンッ!」





 東京都、八王子。ここに一軒の、巨大なビルが建っていた。デザインからして少し奇妙なもので、ピラミッドそのままの形をした建物の隣に、大きなタワーが隣接している。その建物のエントランスには、大きく大理石の看板がついていた。「松芝製作所 八王子テクノタワー」。研究所と工場が一体となった、松芝製作所の新製品開発と生産の中枢拠点である。





 朝。その看板のかかったエントランスに、いくつもの傘が入り込んでくる。今日の天気も相変わらず雨。ただでさえ暗い気分がこの雨のせいでさらにふさぎ込みそうだと、その人物は傘を畳み、雨粒を払って中へと入ろうとしながら思った。と、その時である。

 「坂下さん」

 その声に振り返ると、そこには坂下と同年代ぐらいの男が近づいていた。

 「あ、どうも有馬さん。おはようございます」

 坂下は有馬というその男に、微笑を浮かべて頭を下げた。

 「今日も雨ですね。うっとうしくてかないませんよ」

 「まったく」

 二人は並んで、ロビーを歩き出した。

 「やはり、疲れてるみたいですね」

 「おわかりになりますか? できるだけ顔には出ないように、気を使ってはいるんですが」

 坂下は苦笑いした。

 「たまらないでしょう。キャバリエを3台も持ち込まれては」

 「修理するだけなら苦にはならないんですけどね・・・。当然ながら、ついでに改良もしなければなりません。そっちの方が頭が痛いですよ」

 「やっぱり、あの二体に勝てるほどの性能を持たせるように言われましたか」

 「しかし本音としては、いくらキャバリエを改良したところで、基礎設計の段階ですでに性能の差は歴然です。本気であれを超えるものを作るとしたら、新しいVJを作った方が早いですよ」

 「大変ですね・・・」

 ため息をつく坂下に、有馬は声をかけた。

 「大変だというのなら、そっちこそ大変なんじゃないですか? 2個小隊分、6台のVJが一度にかつぎ込まれてきたんですから」

 坂下は逆にそう言った。現在の二人の仕事は、坂下がキャバリエを始めとする新型VJの開発、有馬が現場のVJの保守・点検を行うメンテナンス部門の総責任者である。

 「ええ、まあ・・・。こちらも、火だるまのような感じですよ。全部が全部、新しく作った方が早いんじゃないかという感じですからね」

 「SMSのVJも、87式に続くものを急いで開発しなければならないかもしれませんね。忙しくなりそうです」

 と、その時である。

 ゴゴゴゴゴ・・・

 「?」

 大きな空気音に二人が振り返ると、ロビーにホバー式の台車に乗せられた、段ボールに包まれた巨大な荷物がいくつも入ってきた。その荷物の列は、砂漠のキャラバンのように二人の横を通り過ぎていった。

 「なんですか、あれ?」

 「来年度から工場の一部の生産ラインに新しい管理システムが導入されることになってましてね。今日納入して、これから試験的にテストを行うことになってるんですよ」

 「そうなんですか・・・」

 そう言いながら坂下は、列の最後の台車を押していた人物の後ろ姿を見送った。作業着を着たその女性らしい人物は、かぶった帽子から金色の髪をのぞかせていた。





 それから十数分後。荷物を運んでいた一団は、がらんとした広い部屋へ係の者に案内された。

 「ここが新しい機器室です。配置計画どおりに配置していって下さい」

 「了解しました。あとは、我々の方で全て配置しますので」

 荷物を運んできたシステムメーカーの責任者らしき男はそう言ったが、係の者は怪訝そうな顔をした。

 「しかし・・・大丈夫ですか?」

 「配置が終わった後、間違いがないかどうか確認してくれればけっこうです。我々もこの仕事は、ずいぶん長いのでお任せしてもらえれば・・・」

 「・・・そうですか。それでは、また後ほど」

 係の者はそう言うと、部屋から出ていった。彼が出ていくと、彼らの一人が素早くドアに近づき、その分厚い鋼鉄の扉に鍵をかけた。それと同時に、彼らのうちの二人が作業服を脱ぐ。

 「えへっ、うまくいったね、アニキ」

 帽子をとりながら、「ワイルド・メアー」はペロリと舌を出した。

 「すぐに準備を始めるぞ」

 同じように作業服を脱いだ「ワイリー・コヨーテ」は、ぶっきらぼうにそう言うとカッターを持って段ボールを切り始めた。

 「手伝います」

 周りの作業員達も、その作業に加わる。

 「・・・すまないな。最後までつきあわせて」

 段ボールを切りながら、コヨーテは作業員の一人に言った。

 「いいんですよ。ここまで来たら一蓮托生。最後まで面倒を見ますから」

 彼らはそう言って、にこやかに笑った。

 「・・・」

 コヨーテは無表情ながらもそれにうなずき、段ボールの切れ目に手を差し込み、一気に引っ張った。

 バリッ!

 段ボールの裂ける音とともに、その中身がライトの下にさらされる。その隣で、やはりメアーが段ボールを開け、中のものの姿を現した。

 「これが、ラスト・ミッションになるかな?」

 「・・・」

 色の濃い紫と赤黒い二体のVJは、彫像のように静かにたたずんでいた。





 ビーッ! ビーッ!

 「!?」

 突如ガレージに響きだした警報に、圭介とひかるはハッと身を翻した。

 「奴らかな・・・」

 「急ぎましょう!」

 二人は互いにうなずくと、オフィスに向かって走り出した。二人がオフィスに入ると、そのすぐ後から聡美と小島も慌てて入り、すでに整列していたメンバーの隣に並んだ。

 「全員、揃ったな?」

 目の前のメンバーを眺め渡すと、小隈は口を開いた。

 「こう言っていいかどうかわからんが・・・来るべき時が来た。奴らだ」

 「! 場所はどこなんです!?」

 圭介が早まって尋ねるが、ひかるが制止したのでそのまま引き下がった。

 「場所は八王子の松芝製作所八王子テクノタワー。俺達のVJを作って、その後も修理やなんやらでいろいろとお世話をしてくれてるところだ。先ほど連絡が入ったが、突然建物の中に所属不明の二台のジャケットが出現し、破壊行動を始めたらしい。それと時を同じくして、付近の地下からは例の一つ目ロボットの集団が現れたそうだ。現在は駆けつけたポリスジャケット隊が、一つ目ロボット達の相手をしている」

 「建物の中に突然現れたって・・・どういうことです?」

 「おそらく、何かに紛れ込んでジャケットと装着員を潜り込ませたのよ」

 聡美の言葉に、仁木はそんな推理を口にした。続けて、尾崎が手を上げる。

 「松芝の方たちは、どうなってるんですか? 人質とか・・・」

 「いや・・・それに関しては、まだ報告は入っていない。どうやら、人間に危害を加える気はないらしい。狙いは多分、つっかかってくる奴らだけ・・・そういうことだろうな」

 小隈の言葉に、隊員達は一様に緊張した表情を浮かべた。それを見越して、小隈はメンバーの顔を一人ずつ眺めていった。

 「ここでカタをつけるつもりだろう。ならばこちらも、それに乗ってやろうじゃないか。いい加減こんなのは終いにして、新しい年度を穏やかに迎えるためにも。覚悟はいいな?」

 その言葉に、全員が力強くうなずく。

 「第1小隊、出動!!」





 どんよりと曇った空から、絶え間なく霧のような雨が降り注ぐ。その雨は、現場を目指し空を急ぐ第1小隊指揮車の上にも、降り注いでいた。

 「いつまで続くんでしょう、この雨・・・」

 自分の席の前に設けられた丸い窓からの景色を見ながら、ひかるがポツリとつぶやいた。

 「いやか? この雨は」

 専用回線から、圭介の声が聞こえてくる。

 「だって、この雨のせいでずっと洗濯物が外に干せないんです」

 「ハハ・・・そうだな。お前にとっては切実か」

 圭介はこんなときでもそんなことの言えるパートナーに、思わず小さく笑った。

 「圭介君は、嫌じゃないんですか?」

 「ん? ああ、それはまあ鬱陶しいことにはかわりないけど・・・ものは考えようって言うだろ? 別の考え方をすれば、この長雨もちょっとは違って見えるよ」

 「? どういうことです?」

 「お前さ、「催花雨」って言葉、知ってるか?」

 「さいかう?」

 「「花を催す雨」と書いて「催花雨」。今の長雨・・・つまり、「菜種梅雨」とか「春の長雨」とか言われている長雨の別名だよ。この長雨が降ることで桜とかいろいろな春の花が咲くことになるって、昔の歳時記には書いてあるらしい」

 「へぇ・・・」

 「それと同じようなので、イギリスには「三月の風と四月のにわか雨が五月の花を咲かせる」って言葉があるらしい。意味は似たようなもんだけど・・・」

 「圭介君、いろいろなことを知ってるんですねぇ・・・」

 「・・・なぁんてな。実はどっちも、副隊長と尾崎さんからの受け売りだよ。根っからの技術系の俺には、元からそんな文学の知識なんてないよ」

 圭介は苦笑したが、先を続けた。

 「まぁ、どっちにしても言えることは、雨とか風の後には、花が待ってるってことだな。考えようによっては、今の俺達の状況にも似てると思わないか?」

 「そう・・・ですね。それじゃあ、これが終わったら・・・」

 「花咲き乱れる美しい春が待ってる・・・かどうかはわからないけど、今までみたいに忙しいけどそれなりに平和な時間が戻って来るんじゃないのかな? それで、もしそうなったらなんだけど・・・」

 そこで圭介は、一旦言葉を止めた。

 「実は、これが終わったら、ちょっと隊長に提案しようと思ってることがあるんだけど・・・」

 「なんですか?」

 「うん・・・。実は、お花見がしたいなと思って」

 「お花見・・・ですか?」

 「この間ファルコンでツーリングに出たときに、ちょっと花見の穴場っぽいところを見つけたんだ。まだ枝につぼみがついたばっかりって感じだったけど、満開になればきっとすごく綺麗だと思う。だから、みんなでお花見に行ってみたいなって思ってるんだけど、どうかな?」

 「いいと思いますよ。皆さんそういうこと好きですから、きっと賛成してくれると思います。その時は・・・お弁当を作った方がいいですよね?」

 「ああ、悪いけど、思いっきり腕を振るってくれよ」

 「フフ・・・わかりました」

 圭介はヘルメットの下で微笑を浮かべたが、すぐに顔を引き締めた。

 「・・・ま、全てはこれが終わった後だ。このことは、やることやってからってことで」

 「了解!」

 と、その時。聡美のアナウンスが響いた。

 「現場上空です。降下しますので、シートベルトの確認を」

 それに従うメンバー達。やがて、指揮車はゆっくりと、煙の立ちのぼるテクノタワー前へと降りていった・・・。





 現場は、まさに大混乱だった。テクノタワー正面の大広場では、ポリスジャケット隊と鉄人兵団との死闘が繰り広げられていた。

 「わぁ! もう大変なことになってるよ!」

 窓の外の様子を見ながら、聡美が叫んだ。と、その時である。

 「小隈隊長!!」

 指揮車の助手席側に、一人の人物が駆けつけてきた。警視庁特殊部隊SRPの麻木警視正だった。

 「ただいま到着しました。状況は?」

 「建物内の職員は、全て避難に成功したようです。妙なことですが、敵は人質をとることは考えなかったようで・・・。今建物の中にいるのは、敵だけでしょう。現在はご覧の通り、SRPとポリスジャケット隊が敵のロボット部隊と交戦しています。敷地内は既に征圧されていて、建物の奪回のためには敵との交戦は必至の状況です。敵が下水道から出現したという証言もあり、建物の外から下水道などを介して内部に入り込むという方法も、敵の待ち伏せにあい撤退せざるをえませんでした」

 麻木は簡潔に状況を説明した。

 「我々SMS第1小隊が成すべき任務を、聞かせて下さい」

 麻木はうなずくと、彼に言った。

 「残念ですが、現在の我々の力では建物周辺の敵を足止めするのが精一杯です。SMS第1小隊には、この間に突破して建物内に突入し、内部の敵を掃討することをお願いしたい」

 小隈はうなずくと、彼に敬礼した。

 「SMS第1小隊、任務を開始します!」

 麻木もそれに返礼を返すと、自分の指揮車へと戻っていった。それを見送ると、小隈は後ろを振り返った。全員が、こちらを見ている。

 「聞いたとおりだ。第1小隊はこれより敵が占拠しているテクノタワーへと突入し、内部を征圧している敵の掃討を行う。各員、これまでに自分が培ってきた能力をフルにいかし、一人一人に与えられた責任を全うするように努力しろ。ただしだ」

 小隈はそこで言葉を切った。

 「・・・いつも言っているが、無茶をして命を落とすことは厳禁だ。全員の健闘と無事の生還を望む。以上だ。出動!」

 「了解!!」

 実動員達は一斉に立ち上がり、管制員の二人はVRコンピュータに向かい始める。聡美がスイッチを入れると、車体後部ハッチがゆっくりと開き始めた。

 ガチャ・・・

 ゆっくりと歩き出す四台のVJ。

 「・・・圭介君」

 ひかるは専用回線で、彼に呼びかけた。

 「なんだ?」

 「あの・・・ご無事で」

 ひかるには、そう言うのが精一杯だった。マイクの向こうから、フッという笑いが聞こえる。

 「ああ、任せろ。お互い、これが今年度の仕事納めのつもりで、最高の仕事をしようぜ」

 「・・・はい!」

 「それじゃ・・・いってくる」

 微笑むひかる。その横で、亜矢の穏やかな声がした。

 「VJ−1、VJ―2、オペレーション・スタート」

 その声に、ひかるは続けた。

 「VJ―3、VJ―4、オペレーション・スタート」





 ガチャガチャガチャガチャ!!

 金属の足音を響かせながら、第1小隊は突進した。途中、ポリスジャケット隊と鉄人兵団との交戦現場を突破することになったが、ただ素通りするわけではなかった。仁木のヨイチと尾崎のマクシミリアンmk2が火を噴き、鉄人の頭を確実に吹き飛ばす。圭介は真空砲ブラストモードで鉄人達を吹き飛ばし、小島の発射した特殊プラスチック液「カチコチプラチク君1号」を浴びた鉄人達が、即座に固められる。四人はそのように支援を行いながら、エントランスのすぐ前までたどり着きつつあった。

 「もうすぐ入り口よ!」

 仁木が叫ぶ。と、その時だった。

 ドッガァァァァァァァァァァン!!

 「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 突如目の前で起こった爆発に、四人は吹き飛ばされた。

 ガチャッ! ガチャガチャッ!

 砕け散った舗装の破片と一緒に降ってくる四人。しかし、さすがに受け身を取ることには成功していた。

 「あいたた・・・なんだい今のは?」

 うめきながら立ち上がる尾崎。

 「・・・だいたい見当はつきますよ」

 「そうそう。こんな手荒い歓迎の挨拶してくるのは・・・」

 そう言って、圭介と小島は建物のエントランスを見つめた。すると・・・

 ゴオオオ・・・

 ロビーの中から、ホバー音をたてて何者かが悠然と姿を現した。鈍い光を放つ、重厚かつ堅牢な全身の装甲。両肩に装備された巨大なキャノン砲。まさしくそれは、ジャケットと言うより人の形をした重戦車とでも言うべき存在だった。それはロビーから完全に姿を現すと、四人に顔を向けた。

 「やっぱり・・・」

 そう言いながら、圭介は真空砲をかまえた。

 「あいつが第3小隊を壊滅させた奴か・・・。なるほど、このあいだよりうんとやばそうな奴になってるぜ」

 小島もオルムに新しい薬品カプセルを装填する。仁木と尾崎も、それぞれ油断なく武器を構えたが、すぐに仁木は声を張り上げた。

 「こちらはSMS第1小隊だ! キャッシュ・コネクションのジャケットに告ぐ! 速やかに武装を解除し、直ちに投降しなさい! どれだけ性能に自信があるか知らないが、我々完全武装を施したSMSのVJ四体を相手に勝ち目があると思うか!?」

 仁木は冷静に投降勧告をした。だが、赤黒いジャケットはやがて、ゆっくりと首を振った。さらに・・・

 「悪いけど・・・そういうわけにはいかないんだよね」

 その中から、少女の声が聞こえてきた。

 「!? 子供・・・!?」

 (やっぱり・・・あの子か)

 その声に、圭介以外の全員が驚きを露わにする。しかし、少女の声はなおも続けた。

 「たしかにいくらなんでも、四人まとめて相手して勝つのは簡単じゃないと思ってるよ。でもね・・・負けるにしても、あっさり負けるってつもりもないんだ。そっちを四人がかりでもなかなか勝てずにイライラさせる自信なら、十分あるよ」

 「どういうことだ?」

 圭介が冷静に尋ねる。

 「つまり・・・時間稼ぎ役ってこと」

 「時間稼ぎ? なんのためにだ?」

 「実はね・・・この建物の中に、時限爆弾が仕掛けてあるんだ。もし爆発したら、この建物から半径50m以内は完全に吹き飛んじゃうようなスゴイやつが」

 「!?」

 その言葉には、今度は完全に全員が驚いた。

 「な、なんだって!?」

 「どこに仕掛けてあるか、いつ爆発するかは残念だけど教えられない。けど、そっちが四人がかりであたしと戦って勝ったときには、まず間違いなく爆発してるね。それじゃあ、本末転倒でしょ?」

 悪意のない声で言う赤黒いジャケット。一方、四人はその言葉に動揺していた。

 「ずいぶん縁起でもないニュースだねこれは・・・。どうしようか?」

 「ハッタリかもしれないじゃないですか! 相手が四人じゃ勝てないからって、俺達の戦力を分散させる罠ですよ!」

 「でも・・・ハッタリじゃなかったら、ここは吹き飛ぶんですよ?」

 圭介達がそんな言葉を交わす中、仁木はやがて静かに言った。

 「新座君、尾崎君・・・建物の中に入って、爆弾を探して」

 「副隊長・・・」

 「SMSは、常に最悪の事態を想定して動くべきよ。このジャケットは私達だけでなんとかくい止めるわ」

 「でも・・・たった二人で・・・」

 「・・・あなたも、薄々わかっているんじゃないかしら?」

 仁木は静かに言った。

 「ここにこのジャケットがいるなら、対となるもう一体のジャケット・・・「銀の鳥」の発展型がこの中にいることは十分考えられる・・・。あなたたちならどちらか一人でも、それと互角に渡り合えるだけの武装と技量をもっているはずよ」

 「そういうこった。ここは俺達に任せて、さっさと行け。なにしろ、こいつには空に放り投げられた借りがあるからな。爆弾の解体ってのも、俺は苦手だし」

 小島もそう言って、オルムをガチャリと鳴らす。尾崎はそれを見つめていたが、やがて圭介に言った。

 「いこう、新座君。たしかに、これ以外に方法はない」

 「・・・はい」

 二人は言葉を交わすと、仁木と小島に敬礼をして、建物の中へと走っていった。敵ジャケットはそれを、黙って見過ごした。

 「・・・いいの? 2対1で?」

 赤黒いジャケットが問いかけてくる。

 「相手の実力がわからないうちでの戦力の分散は得策ではないけど・・・そうしなければならないのなら、しかたのないことでしょう」

 仁木はそう言いながら、童子切安綱を抜いた。

 「なんにしても、ここできれいさっぱりカタをつけさせてもらうぜ! カラドリウス薬品在庫一掃ぐらいの勢いでいくから、覚悟しろよ!!」

 小島もオルムを構える。

 「そうこなくっちゃね・・・。こっちも仕事なんだから、思いっきりやってもらわないと。そんじゃ・・・いくよ!!」

 ガシャッ! ゴオオオオッ!!

 赤黒いVJ・・・「バルバロッサ」は、そう言うとバックパックから長い鉄の爪・・・アイアンクローを取り出し、それをかまえて仁木と小島へと突進した。

 「パワーと火力には正確な判断で対処しなさい! いくわよ、小島君、亜矢さん!!」

 「了解!!」

 「了解・・・!」





 ガチャガチャガチャガチャ・・・

 誰もいないロビーに、2体のVJの足音が響き渡る。二人は階段の前で足を止めた。

 「ひかる、この建物の見取り図をくれ」

 「は、はい!」

 圭介の指示に答えて、ひかるがすぐに見取り図のデータを送ってくる。

 「建物は工場施設になっているピラミッド型の12階建ての建物と、それに隣接するタワー型の25階建ての研究所から出来ています。このうち、工場施設の方は地上施設以外にもさらに地下に電力設備が五階まで設けられているそうです」

 「くそっ・・・二人で探すには広すぎる・・・」

 ひかるの説明を聞いて、圭介は舌打ちをした。しかし、尾崎は落ち着いて言った。

 「いずれ交戦を終えたポリスジャケット隊が応援にかけつけてくれるだろう。ぼく達はそれまでの間にできるだけ多くの階層を探し歩くのが必要だと思う」

 「そうですね・・・。ひかる、VJのセンシング範囲を最大に設定すると、どれぐらいの範囲がカバーできる?」

 「そ、そうですね・・・。そういう措置をとると・・・縦にはおよそ2フロア分、横には1フロア分の範囲をドーム状にカバーすることができます」

 「つまり、およそ2フロア分の範囲は一度に探査できるわけだな」

 「それなら・・・ここでも、二手に分かれた方がいいんじゃないかな?」

 尾崎が言った。

 「ぼくが工場の方を、君が研究所の方を調べる。建物は隣接してるから、どちらかが「銀の鳥」の発展型と出くわしたとしても、すぐに駆けつけることができるはずだ。今優先すべきは、爆弾の発見だよ」

 「そう・・・ですね。わかりました。それじゃ、気をつけて下さいよ。何かあったら、すぐに呼んで下さい」

 「ああ、そっちこそ、無事でね」

 そう言って二人は別れると、それぞれの担当範囲に走っていった。





 「いっくよぉ! ズゥ〜カァ〜!!」

 ドゴォォォォォォォォン!!

 よくわからないかけ声をあげ、バルバロッサがキャノン砲を発射する。

 ドガァァァァァァァァァン!!

 それは、距離を取っていた仁木の目の前に着弾した。

 「副隊長!!」

 その光景を見て叫ぶ小島。しかし・・・

 ガチャッ!

 仁木はその爆風を利用して後方高くへ飛び、敷地内の建物の一つの屋上に着地した。

 ガシャッ!

 そしてすかさずヨイチを取り出し、すばやくバルバロッサに狙いを定める。

 「NIBEQとの連動OK・・・ターゲット・ロック、完了」

 カチッ!

 引き金が引かれると同時に、音もなく弾丸が発射される。次の瞬間、その銃弾はバルバロッサの右肩に命中して火花をたてた。しかし・・・

 「!?」

 そこには小さな穴が開いただけで、バルバロッサの装甲を抜くことはできなかった。

 「装甲だって段違いにパワーアップしてるんだから!」

 誇らしげに叫ぶメアー。だが、その横では・・・

 「だったらこいつならどうだ!? 氷河期ガンダー君1号!!」

 ボシュッ!!

 横に回った小島が、オルムからカプセルを発射していた。それがバルバロッサの体に当たり、砕け散った瞬間

 シャアアアアアアアアアアアア!!

 周囲一体が白く輝くガスに包まれ、何も見えなくなる。小島は離れてそれを見ていたが、やがて、彼の目に入ってきた光景は・・・

 白く輝く分厚い氷に覆われた地面と、その中央に立つ、氷の彫像となったバルバロッサだった。

 「ヘヘッ、効果てきめん・・・どうです。バッチリ固まってるでしょ?」

 「油断しないでよ。こちらの常識が通用しない相手よ」

 「そうは言っても、零下140°ですよ? こんな低温で固められて動ける奴なんて・・・」

 と、小島が言いかけたその時だった。

 「・・・!? 目標に高熱源反応・・・!」

 亜矢の一言が、小島をハッと黙らせた。次の瞬間・・・

 ドガァァァァァァァァァァァン!!

 「うわっ!?」

 突如、バルバロッサが大爆発を起こした。爆風でもんどり打つ小島。しかし、起きあがった彼の目の前で・・・

 ガチャ・・・バリバリ・・・

 上半身を氷から脱出させたバルバロッサは、その圧倒的なパワーで強引に下半身を覆う氷を引き剥がし始めた。

 「な・・・!?」

 小島はその光景を、信じられない眼差しで見つめた。

 「キャノン砲の発射で自分を覆う氷を爆破したの・・・!? そんなことをしたら、自分自身も・・・」

 だが、そうつぶやく仁木のデュアルカメラに映るバルバロッサの装甲は、少し焦げているだけであった。そんな彼女の心を見透かしたかのように、完全に氷の中から這い出したバルバロッサは言う。

 「このバルバロッサはね・・・兵器として最も単純な二つのパラメーター・・・つまり、攻撃力と防御力をとことん追求したジャケットなんだって。ようするに、メチャクチャ強くてメチャクチャ固いっていう、あたしにもわかるぐらい単純なコンセプトなの。Simple is the Best. ご覧の通りよ、わかるよね?」

 バルバロッサはそう言うと、シールドを構えたうえバックパックから短機関銃を取り出した。





 一方その頃。工場施設の地下では・・・

 「こちら尾崎。地下三階は異常なし。四階へ降りる」

 「了解」

 尾崎が報告をし、階段を下りていく。

 「ノーヒントの爆弾探しなんて・・・難易度Aだね」

 言葉ではそう言いながらも、尾崎は階段を下りて地下四階へと着いた。比較的広い地下室で、長い廊下の両側にいくつものドアが並んでいる。

 「地下四階へ到着。これより探査を開始する」

 尾崎はそう言うと、パーシヴァルのセンサーでサーチを開始した。センサーはあらゆる種類の爆弾の起爆用精密部品から発せられる固有の電磁波を拾うべく活動を開始した。

 「・・・」

 しばらくの間、尾崎はその場にたたずんでいた。が、やがて「No Reaction」という文字が表示されたことで、尾崎はホッと息をついた。

 「こちら尾崎。地下四階も異常なし。最後に五階に下りる」

 と、尾崎が言ったその時だった。

 バァン! バアン! バァン!

 「!?」

 廊下の壁際に立ち並ぶドアが次々に蹴破られ、その中から・・・

 ギィィ・・・

 何台もの鉄人達が、ゆっくりと姿を現し赤ランプのようなその目を尾崎にゆっくりと向けた。

 「お、尾崎さん!」

 その光景をカメラ越しに見ていたひかるが、慌てた声をあげる。尾崎が退路を確認しようと階段を見上げると、その上からも鉄人達が降りてくるのが見えた。さらに、階段の下からも・・・

 「待ち伏せか・・・。ちょっとびっくりしたけど・・・」

 しかし、尾崎は慌てた様子もなく、右手でマクシミリアンmk2をかまえ、左手にヒートククリを逆手で持ち、赤熱させた。

 「尾崎さん、今行きます!!」

 圭介の声が入ってくる。しかし

 「ダメだ! 君は捜索を続けてくれ!」

 尾崎はいつになく強い調子で言った。

 「でも、相手がその数じゃ・・・」

 「服部さん、数はどのぐらい?」

 「さ、30体はいます・・・」

 「それなら、許容範囲だね・・・」

 尾崎はサラリと言った。

 「許容範囲って・・・」

 「パーシヴァルは凶悪犯罪やテロに対して特に特化されたVJだよ? このぐらいの状況は切り抜けないと、使い物にはならないよ。もちろん、それはぼくもだけどね」

 尾崎がそう言ったのと、鉄人の一体が指を彼に向けたのは、ほぼ同時だった。

 ダッ!

 尾崎は背をかがめると、一気にダッシュをかけた。その指先から発射された熱線が彼の肩をかすめて飛んでいったときには、すでにパーシヴァルはその懐へ飛びこんでいた。

 ズガッ!

 尾崎が逆手に持ったヒートククリを振り上げると、真っ赤に赤熱したその刃は鉄人の太い腕をバターのように溶かし、綺麗に切り落とした。

 ザグッ!

 そして彼は返す刀で、その刃を鉄人の胸へと深々と突き刺した。その胸から火花がほとばしり、鉄人は赤い一つ目を点滅させた後、ガチャリと倒れた。

 「!」

 尾崎が振り向くと、そこでは別の鉄人が熱線を発射しようとしていた。が、それよりも尾崎がマクシミリアンmk2を向ける方が早かった。

 ドンドン!!

 尾崎が放ったマクシミリアンmk2の弾丸は、まず鉄人の右手を吹き飛ばし、次にそのニヤリと笑ったような顔をグシャグシャにはじき飛ばした。

 「す、すごい・・・」

 そのめまぐるしい戦いを見ながら、ひかるは感嘆のため息をもらした。が、ゾロゾロと出てくる鉄人達に、尾崎はジリジリと壁際へと追いつめられていく。

 「尾崎さん・・・!」

 「まったく・・・勉強になるよ」

 尾崎はそう言いながら、バックパックから何かを取りだし、両手で持った。

 ガチャッ・・・

 「ライアットバルカン、アクティブ!」

 それは、大型の機関銃だった。しかも、銃口が上下2連型になっている。尾崎はそれを鉄人達に向けながら言った。

 「やっぱりこれは、めったなことでは使えないよね」

 尾崎はそう言って、引き金を引いた。

 ガガガガガガガガガガガガガガガガ!!

 次の瞬間、その二つの銃口から発射された無数の弾丸が、鉄人達の体へと突き刺さっていった。彼らの体内に侵入したホロポイント弾はその内部で破裂し、その内部メカニズムを破壊して、彼らを動かない鉄の人形へと変えていった。

 ガチャッ・・・

 最後の鉄人が重い音をたてて倒れると、尾崎は踵を返して階段へ向かった。

 「急ごう。このぶんだと、まだどこに潜んでるかわかったものじゃないからね」

 「は、はい!」





 尾崎が無事危機を乗り越えたことを確認した圭介は、タワーを昇り続けていた。20階・・・21階・・・しかし、爆発物反応は出ない。

 「くそっ、見つからないな・・・。もしかして、ハッタリだったのか・・・?」

 「それならそれでいいんですけど・・・」

 やがて圭介は、最上階の25階まで到達した。センサーを使って爆発物反応を調べるが、ここでも反応は出ない。

 「ここで終わりですか・・・。やっぱり、研究施設の方には爆弾はないみたいですね」

 ホッとしたように言うひかる。だが、圭介は首を振った。

 「いや・・・まだある」

 「え?」

 「上がある」

 圭介はそう言って、首を上げた。





 ガチャ・・・

 鋼鉄のドアを開けて、圭介は屋上へと姿を現した。どんよりと曇った空から降る雨が、強い風によって横から圭介のVJを打ちつける。

 「・・・」

 圭介はヘリポートの方へと歩きながら、注意深く足を進めた。が・・・

 「ここにもないようだな・・・」

 ヘリポートの中央まで来たところで、結果が出た。やはり屋上にも、爆弾はなかった。

 「お前の言うとおりだったみたいだ」

 「よかった・・・」

 「ああ・・・。尾崎さんのところへ急ぐ」

 そう言って、圭介が走り出そうとしたその時だった。

 pipipipipipipipipipipi!!

 「!?」

 突如、ヘルメットの中に警報音が鳴りだした。圭介はとっさに足を止め、真空砲をかまえた。

 「なんだ、ひかる!?」

 「熱源が下から急速に接近してきています! 気をつけて下さい!」

 「下!?」

 思わず圭介は、真空砲を自分の足下へと向けた。

 「違います! 正面の下です! ビルの外壁に沿うように、下から上へ飛んできます!」

 と、ひかるが言ったのを聞いて圭介がそちらへ顔を向けた直後

 ギィィィィィィィィィィィィン!!

 「!!」

 突如濃い紫色の影が、ビルの下から一気に屋上の上へと上昇してきた。圭介がそれに真空砲を向け発射しようとしたまさにその時、その影もまた、拳銃のようなものを彼に向けていた。

 「まずい・・・!」

 こいつより早く撃てない。とっさにそう判断した圭介は、とっさに横へと飛んだ。この判断が、圭介を助けることとなる。次の瞬間、

 ドゴォォォォォォォォォォォォン!!

 すさまじい爆音と閃光がしたと思った直後、ヘリポートが中心から大爆発を起こした。

 「うわっ!!」

 圭介は地面に伏せ、爆風とそれに続いて降ってくる破片に耐えた。やがてそれがおさまると、彼はゆっくりと立ち上がった。しかし、油断なく真空砲はかつてヘリポートがあった場所に向けられている。

 「・・・」

 そこは、黒い煙に包まれていた。が、それも一時のことで、まもなく吹いた強い風によってその黒い煙はサッとふき取られるように散った。そしてその場の様子が明らかになったそのとき、圭介は思わず、息を呑んだ。

 「・・・!」

 グシャグシャの金属の丘となったかつてのヘリポート。あちこちで小さく炎が燃え、風に吹かれて火の粉が舞う。そんな足下の炎に赤く照らされながら、それはあまりにも静かにそこに立っていた。

 周囲が暗いため黒にも見えるが、そのジャケットの装甲は実際は濃い紫色をしていた。人間よりも重戦車を思い出させるバルバロッサと違い、全身のフォルムはあくまでも人間型だった。圭介達の使っているVJやパーシヴァルとも、似たような点がいくつか見受けられる。だが背中には正面からはX字に見える奇妙なウィングが展開していた。そして・・・そのデュアルカメラの放つ赤い輝きは、それ自体は善でも悪でもないはずの機械であるジャケットに、まぎれもない悪意を感じさせるようなものだった。

 「お前は・・・」

 圭介はそれに真空砲を向けながら、ジッと対峙した。

 「気づいているようだな・・・。その通りだ」

 「!」

 二体のVJは、雨の降りしきる中で彫像のように対峙を続けた。

 「やっぱり・・・このあいだの兄妹が、お前達だったんだな」

 「・・・」

 驚きつつも、真空砲を向け続けながら圭介は叫んだ。

 「答えろ! 爆弾はどこにある!?」

 「・・・それならば」

 ガチャッ・・・

 そう言うと紫のVJは、バックパックから何かを取りだしてそれを圭介に見せた。

 「お探しのものは、これだろう」

 「!! それは・・・!!」

 紛れもなく、時限爆弾だった。だが、VJはそれをすぐに再びバックパックの中へしまってしまう。

 「どういうつもりだ・・・!」

 「こうしろという指示でな。仕事なんだ」

 VJはあっさりと言った。

 「俺がこれを持っている以上、お前はそれを奪うために本気で俺と戦わなければならない。クライアントがそんな状況で得られる戦闘データを欲しがっている以上、俺はそれに応じなければならない。それが俺の仕事だ」

 「本気か・・・? 俺を片づける前にタイムリミットが来たら、どうするつもりだ」

 「そうならないように手早くケリをつけるのが、戦闘のプロフェッショナルとしての仕事だ。いくぞ」

 ジャキッ!

 VJはそう言って、手に持ったやたら大きな拳銃をかまえた。

 「・・・仕事熱心にも程があるぜ。ひかる!」

 「はい!」

 「命預けるから、しっかり守ってくれよ・・・頼む」

 「・・・了解! 任せて下さい!!」

 ジャキッ!

 ガチャッ!

 次の瞬間、二体のVJはともに手に持った武器をお互いへと向けた。

(挿絵:ura_kenさん)

 ドゴォォォォォォォォォォォォン!!

 屋上は、大音響と爆発に包まれた。





 バババババババババババババババ!!

 バルバロッサの放つ短機関銃の銃弾が、とっさに仁木の隠れた建物の壁を穿つ。仁木はその隙を縫ってヨイチによる射撃を行ったが、命中はするものの、バルバロッサの頑強な装甲は貫くことができなかった。

 「そんなライフルじゃこの装甲は抜けないよ!」

 そう言いながら、なおもバルバロッサは射撃を行ってくる。

 「くっ・・・!」

 建物の陰に隠れながら、その猛射に耐える仁木。その時

 「こいつならどうだ! アリ地獄アントラー君1号、発射!」

 ボシュッ!

 建物の陰から飛び出した小島が、その足下にカプセルを発射した。

 ボォン!

 そして、それが爆発すると同時に・・・

 「!?」

 ズゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

 なんと、その足下が流砂と化して、バルバロッサの体を飲み込み始めたのだ。同時に辺り一帯に、激しい砂嵐が吹き荒れ始める。

 「な!? なによこれ!?」

 「ハッハッハ! どーだ! 俺の虎の子、アントラー君の威力は!! お前がどれだけ馬鹿力の持ち主でも、こいつから簡単に抜けられると思ったら大間違いだぞ!」

 砂地獄に飲まれつつあるバルバロッサを指さし、高らかに笑う小島。まるで悪役のような風情であるが、それを見て仁木も近づいてきた。

 「すごいものを作ったものね・・・」

 「虎の子ですから。さあどうする? 降参するか?」

 だが、バルバロッサは首から上だけを砂の上に出し、なおもそのカメラアイで二人をキッとにらみつけた。

 「なによこんなもの!! まだ終わってないんだからね!!」

 ガコッ!

 彼女はまだ砂の中から突き出ているキャノン砲を二人に向けた。それを見て、小島がひるむ。しかし、仁木は冷静に手でそれを制した。

 「心配はいらないわ」

 「くらえっ!!」

 バルバロッサはキャノン砲を発射しようとした。しかし・・・

 「・・・」

 巨大な二門の大砲は、砲声を発することなく沈黙するのみであった。

 「あ、あれ? うそ? なんでよ!?」

 発射されないキャノン砲に、バルバロッサはキョロキョロと首を回した。それを見ながら、仁木は彼女に言った。

 「どんな高性能な火器であっても・・・いえ、高性能であればあるほど・・・その内部機構に砂が詰まってしまえば、発射は不可能となるわ」

 「!!」

 そう、バルバロッサのキャノン砲には、砂地獄と砂嵐、両方によって砲口から内部へと入った大量の砂が詰まり、発射を不可能としていたのだ。ちなみにそう言っている仁木は、しっかりとマルチリボルバーとヨイチを収納していた。

 「改めて通告する。おとなしく投降しなさい!」

 「前回と同じになるけど、ここで終わりにするか、続けるかってことだ」

 バルバロッサはしばらく答えなかったが、だがやがて、小さく笑いながら答えた。

 「あんたたちにそんな決定権があるの?」

 「・・・ノリはいいみたいだけど、見てわかんないか? どう考えたって、他に選択肢はないと思うけど」

 「・・・だから甘いんだよ。戦場じゃ、何が起こるかわからないんだから」

 「・・・!?」

 バルバロッサのただならぬ様子を見て、思わず仁木は得体の知れない感覚を覚えた。

 「副隊長?」

 「小島君、気をつけなさい! こいつは・・・」

 と、仁木が言いかけたその時だった。

 ズゴズゴォッ!!

 突如、砂の山を突き破って、何かが地中から姿を現した。

 「な・・・!」

 ドガッ!!

 「うわぁぁぁぁぁ!!」

 「小島君!!」

 そしてそれは、素早い動きで小島を激しく突き飛ばした。仁木は小島を見ていたが、ハッと気づくとすでにそれは、自分の前でこちらを狙っていた。

 「ハッ!!」

 ビュンッ!! ドガッ!!

 とっさに仁木がジャンプすると、それは先ほどまで仁木が立っていた場所を直撃していた。仁木はそのまま後方へと下がると、着地して冷静にそれを見つめた。

 「隠し腕・・・!? こんな機能まで持っているなんて・・・」

 そう。地面に埋まったバルバロッサの側の地面から、二本の長い機械の腕が伸びて自由自在に動いているのだ。

 「小島君、大丈夫!?」

 「な、なんとか・・・。ちっくしょう、ふいを突きやがって・・・」

 グググ・・・ズボォッ!

 仁木の後ろから。小島がヨロヨロと歩いてきた。一方それを後目に、バルバロッサはその機械の腕を地面につくと、渾身の力を込めて自らの体を砂の中から引き上げた。

 「こういうこと。勝負はこれからなんだからね」

 ガチャッ!

 そう言うとバルバロッサは、まず使えなくなった両肩のキャノン砲を切り離した。バックパックから自分の腕にはアイアンクローをつけ、背中のバックパック付近に取り付けられたサブマニピュレーターである「隠し腕」には、棘つきの鉄球であるモーニングスターを持ち、圧倒的な迫力で二人の前に立ちはだかった。





 その頃。屋上ではいまだに、圭介とコヨーテとの激しい戦いが繰り広げられていた。

 バラバラッ・・・

 紫のVJ・・・グレイブディガーは、手に持った大型拳銃のシリンダーを開けた。空になった特大の薬莢がバラバラと落ち、地面に落ちて金属質の音をたてた。

 「くそっ・・・なんて銃だ」

 圭介はそれを見ながら、吐き捨てるように言った。その拳銃・・・「ジャンボ・ガン」の威力は拳銃の常識を超えていると言っていいくらいだった。

 「戦車をも一撃で破壊できる代物だ」

 グレイブディガーはそう言って、新しい弾を装填しようとした。すでにその銃弾が何発も炸裂したために、屋上はもはや原型を留めぬほどメチャクチャに破壊されている。

 「させるかっ!!」

 ボゴォォォォォォォォォォン!!

 圭介はそれを阻止すべく、真空砲を彼に向けて放った。が・・・

 ビュンッ!

 素早く横にステップをふんでそれをかわすと、目にも留まらぬ早さで圭介に突進してきた。

 「!?」

 「あぶない!!」

 ひかるはとっさに、VJの設定を防御力最重視に設定した。

 ドガァッ!!

 「ぐぅっ!!」

 圭介は強烈なパンチを受け、屋上の際まで吹き飛ばされた。もしひかるの措置がなければ、そのまま真っ逆さまとなっていただろう。

 ガチャッ!!

 だが、その間にシリンダーに前もって用意しておいた弾を込め直すと、グレイブディガーはそれを圭介に向けた。

 「!」

 「この一撃で終わりにする」

 そう言って、グレイブディガーが引き金に力を込めた、その時だった。

 「新座君!!」

 「!?」

 驚いて圭介とグレイブディガーが振り向くと、そこにはライアットバルカンをかまえた尾崎が立っていた。

 ドガァァァァァァァァァァン!!

 だが、グレイブディガーが判断を迷う時間は短かった。すぐに再びジャンボ・ガンを圭介に向けて発射する。

 「くっ!!」

 だが圭介はそれをなんとかかわすと、スピード最優先で尾崎の隣に並んだ。

 「真空砲・Gモード、発射っ!!」

 「ライアットバルカン、ファイアッ!!」

 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!

 「!!」

 二つの武器が一斉に轟音を発し、無数の高速空気弾とホロポイント弾がグレイブディガーへ襲いかかる。瞬く間にグレイブディガーは、白い煙に包まれた。

 「ひかる、やったか!?」

 「・・・いえ、まだです! 命中はしましたが目標の発するエネルギー値、変化ありません!」

 着弾観測を行ったひかるが、すぐにその報告をする。

 「そうか・・・。しかし、今のをくらって無傷で済むとは思えないが・・・」

 「警戒を続けるんだ、新座君」

 「はい!」

 油断なく待ち受ける二人。すると、やがて煙は晴れ・・・

 「「!」」

 そこに、グレイブディガーの姿が現れた。なんとグレイブディガーは背中のX字状のウィングを外し、それをシールドのように構えることで身を守っていた。

 「・・・」

 バチバチッ・・・

 コヨーテは静かにウィングを見た。凹みや穴などが目立ち、そこから火花が散っている。

 「直撃を免れるためだったとはいえ、高いツケだな。メアーと同じシールドを装備してもらえばよかったか」

 ガチャッ!

 コヨーテは小さくそう言うと、再びウィングを装着してなぜか身を低くした。

 「・・・!」

 二人はその行動に、身を固くする。が、その心の準備が整う前に、グレイブディガーは行動に出ていた。

 バッ!!

 突如、背中のブースターを吹かすと、地面とほぼ水平に飛行しながら圭介に向け体当たりをしてきたのだ。

 ドガッ!!

 「!?」

 ガシャァァァァァァン!!

 そして、圭介を抱え込んだまま、グレイブディガーは屋上を越えて空へと飛び出した。

 「新座君!!」

 「圭介君!!」

 尾崎が屋上の際まで駆け寄り、ひかるが叫ぶ。

 「不本意だが、これで終わりだ」

 グレイブディガーはそう言うと、パッと手を離した。その手から解き放たれた圭介は、真っ逆さまに落ちていく。

 「圭介君っ!!」

 ひかるの悲鳴のような声が響く。

 「くっ、まだっ!!」

 バヒュッ!! バヒュッ!!

 しかし、圭介は落下しながらも、姿勢制御用バーニアを吹かして空中で姿勢を立て直すと、目の前をすごい早さで通り過ぎていくビルの壁面に向かって左腕を向けた。

 「ひかる!! パワーを左腕に集中してくれ!!」

 「りょ、了解!!」

 その返事を聞く前に、圭介は行動に出ていた。

 「アンカーショット!!」

 ボシュッ!!

 圭介はアンカーショットを、可能な最大の初速で発射した。

 ガキィッ!!

 銃弾並の速度を獲得したアンカーショットの先端の分銅が、深々とコンクリートの壁に突き刺さる。その直後

 ブゥンッ!! ガチャァァァァァァァン!!

 「グゥッ!!」

 壁に固定されたワイヤーによって、圭介はブランコのように揺られ、ガラスを割って再びビルの室内に入ることができた。

 「ワイヤーカット!!」

 しかし、そのままでは再び揺れて、ビルの外に出てしまう。圭介はすかさずワイヤーを切り、なんとか室内に着地した。

 「大丈夫ですか!?」

 「ああ、なんとかな・・・。死ぬかと思ったけど。それより、奴は?」

 一方、グレイブディガーは空でその様子を見ていた。

 「さすがだ・・・」

 コヨーテは素直にその状況判断と行動を評価していた。が・・・

 バチバチ・・・

 背中では、いまだにウィングが火花を散らしている。ライアットバルカンを食らったウィングのダメージはかなり重いらしく、飛行も不安定なものになっている。

 「もう少し保つかと思ったが・・・」

 グレイブディガーはそうつぶやくと、フラフラとした飛行ながらも、圭介が割った窓からその中へと自分の体を滑り込ませていった。

 ガチャッ・・・

 グレイブディガーは室内に着地すると同時に、そのウィングを切り離した。

 「こいつはもう使えん。ここで決着をつけるしかなさそうだ」

 「・・・」

 圭介は真空砲を構えながら、周囲の状況を見極めた。ジャケットの性能テスト用のシミュレションルームらしく、かなり広い部屋だった。

 「・・・爆弾の爆発まであとどれぐらいだ」

 「10分22秒だ」

 圭介はその返答を聞くと、油断なく構えをとりなおした。





 ドガァァァァァァァァン!!

 「クッ!」

 仁木の目の前で、巨大な棘つき鉄球が地面にたたきつけられ、アスファルトを粉々に砕く。それを身を引いてかわした仁木だったが、

 「もういっちょお!!」

 それに連続して、今度はアイアンクローが襲いかかってくる。

 ガキィィィィン!!

 仁木はそれを童子切安綱で受け止めた。しかし、バルバロッサの圧倒的なパワーによって、ジリジリと追いつめられていく・・・。その時

 「副隊長、離れて下さい!!」

 小島の声が聞こえた。振り返ると、小島がようやく鉄人兵団を始末することに成功したらしいSRPのガードランナー・カスタム隊とともに、こちらに向けて銃を構えているのが見えた。

 ドガッ!

 とっさに仁木はつばぜりあいの体勢のまま片足でバルバロッサを蹴りつけ、離れることに成功した。その直後

 ガンガンガンガンガンガン!!

 小島達が一斉射撃をし、バルバロッサの装甲に火花が散る。一瞬うずくまるバルバロッサ、しかし・・・

 「うるさいのよ!!」

 バルバロッサはダメージを感じさせない動きで、モーニングスターを持った隠し腕を振り上げた。

 ドガァァァァァァァァァン!!

 「うわぁ!!」

 鉄球が部隊のほぼ中央に炸裂し、蜘蛛の子のように散るSRP。しかしそれでもあきらめず、中距離射撃が効果がないのならと、シールドを構えて次々と果敢に接近を試みていく。

 「あんたらなんかお呼びじゃないの!! ひっこんでて!!」

 多数のポリスジャケットに囲まれながら、その中心で鬼神のごときすさまじい戦い方をするバルバロッサ。アイアンクローはグラニウム製のシールドをたやすく切り裂き、大きく振るわれたモーニングスターがシールドを構えた彼らを数人まとめて吹き飛ばす。その戦い方は、もっとも単純な「暴力」を追求したというコンセプトそのものをあらわすようなものだった。

 「副隊長、大丈夫ですか?」

 「ええ・・・でも、あのままでは・・・」

 安綱を持ったまま、ポリスジャケット隊の苦戦を見つめる仁木。

 「安綱でも、奴の装甲は斬れませんか?」

 「不可能ではないけれど、難しいわね・・・。硬さにも自信があるというのは、ハッタリじゃないわ」

 「それじゃあ・・・なにか必殺技とかないんですか? 電子満月斬りとか稲妻重力落としとか、RVソード激走斬りとか・・・」

 「冗談言ってる場合じゃないでしょ・・・」

 頭を抱えながらも彼女は、小島に尋ねた。

 「小島君、残っている薬品は?」

 「・・・純粋な攻撃用の薬品は、使い切りました。結局、奴の力任せな強引な手の前には役に立ちませんでした。残っているのはこれだけですけど・・・正直、使いたくありませんね」

 そう言って小島が出したのは、一個の薬品だった。

 「なぜ、使いたくないの?」

 「はっきり言ってしまえば、「諸刃の剣」です。持続時間が極端に短い上に、運動能力やメカの性能を限界以上に引き出すものですから、使った後で副隊長の体やVJがどうなるか・・・」

 小島はためらいがちにそう言った。しかし、仁木は毅然とした口調で正した。

 「・・・どういうものなの?」





 「・・・了解したわ。使わせて」

 薬品の作用を聞いて仁木はそう言うと、小島の手のひらの中のカプセルを握った。

 「いいんですか、副隊長? VJが使い物にならなくなるかもしれませんが・・・」

 だが、仁木はクルリと背中を向けながら言った。

 「人の命にはかえられないわ」

 そう言って、仁木は腰に安綱を携え、しっかりとした足取りでバルバロッサへと歩いていった。小島はその背中に声をかけた。

 「わかってますよね? 副隊長の言う「人の命」の中には・・・」

 すると、仁木は安綱を鞘から抜いて、静かに言った。

 「・・・この刀は、人を斬らない刀・・・。それは刀の本義からは外れているかもしれないけれど、それが私の刀・・・私達の信念よ。私達は兵士ではなく、人の命を守る、SMSの隊員なのだから」

 「・・・」

 小島はその言葉に彼女の決意を感じ、その背中に言った。

 「「快速イダテンラン君1号」の効果の持続時間は30秒です。大事に使って下さいね」

 仁木はわずかにうなずいた。

 ザッ・・・

 仁木がその目の前に立ったのは、バルバロッサが最後のポリスジャケットを振り払ったときだった。ポリスジャケット隊に死者は出ていないようだが、いずれもバルバロッサの武器による強力な物理的ダメージによって再起不能となっている。最後もポリスジャケットを隠し腕でつかみ放り投げ、バルバロッサは仁木の白いVJに目を向けた。

 「一人だけ? それでいいの?」

 だが、仁木は黙って安綱を抜くと、その切っ先をバルバロッサに向けた。

 「これが最後よ。投降しなさい・・・さもなければ、斬ります!」

 その様は驚くほど静かで、殺気などまったく感じられなかった。だがそれ以上に、すさまじいまでのプレッシャーが刀を向けたその体から発せられている。しかし、バルバロッサはひるむことはなかった。

 「何度も言うけど、そんなつもりはないんだって。斬れるもんなら斬ってみなよ」

 そう言って、バルバロッサはアイアンクローとモーニングスターを構えた。二人の間に、緊迫した空気が流れる。だが、それもつかの間・・・

 「いくよ!」

 ゴオオッ!!

 ホバーで勢いよく砂を吹き散らしながら、バルバロッサは猛スピードで突進してきた。

 ガキィィィィィィィン!!

 アイアンクローの斬撃を受け止める仁木。それに続いて、モーニングスターの重い一撃が襲いかかってくる。爪と鉄球の波状攻撃に、仁木はそれをかわし続けることになった。

 「ダメですよ副隊長! 防戦に回ったら・・・」

 「いや・・・あれでいいと思うよ・・・」

 やきもきする小島の耳に、亜矢のつぶやきが入ってきた。

 「え・・・?」

 「つまるところ・・・当たらなければいいのだからね・・・」

 彼女の言葉通り、仁木は紙一重でその攻撃をかわしていた。

 「くそっ・・・なんなのさこいつ!? ちょこまかと当たらないじゃない!」

 バルバロッサの中のメアーも、焦りを感じていた。それを見抜いた仁木は、勝負に出た。

 (今だ・・・!)

 パリィィィィィィィィィン!!

 彼女は腰につけていた薬品カプセルを、自分の脚にたたきつけた。カプセルが割れ、中の黄色い液体がふりかかる。

 「つぶれろっ!!」

 グオッ!!

 その時、バルバロッサはモーニングスターを持った隠し腕を振り上げた。

 ドガァァァァァァァァァァン!!

 それは見事に、仁木の頭上に振り下ろされた。

 「副隊長っ!!」

 小島の悲鳴のような叫びがした。が・・・

 「・・・!?」

 メアーは、バルバロッサの中で違和感を覚えた。

 「つぶしてない・・・!? どこいったの!?」

 手応えが感じられなかったことで、慌てたようにキョロキョロと辺りを見回すバルバロッサ。

 「・・・!」

 その気配に気づいたときは、既に遅かった。

 ズパッ! スパッ!

 ブシュウウウウウ!!

 「!?」

 閃いた二つの太刀筋がバルバロッサの背中の隠し腕を二本とも真っ二つに切断し、その切断面から血の如く激しく火花が噴き出した。

 ズゥン!

 それとともに、その隠し腕が持っていたモーニングスターも、地響きを立てて地面に落ちた。

 「な・・・いつのまに・・・!?」

 「たしかに、シンプルなのはいいことかもしれない。でも、それは一太刀で仕留めなければならないというリスクを負うことにもなる・・・」

 仁木はそう言いながら、かつて試合をしたことのある剣術の一派、鹿児島の薩摩示顕流を思い出していた。それは日本の剣術の中でも特に異質な一派で、その理念を一言で言ってしまえば、「一撃必殺」であった。幕末の動乱期、薩摩藩の志士たちが学んでいた薩摩示顕流の特徴は、仁木の学んだ天然理心流とは違った意味で実戦的で、「チェストーッ!!」という気合いの叫びとともに敵に突入し、大上段からの渾身のひと振りで肩から股にかけてまでをザックリと切り裂いてしまうというすさまじいものだった。が、これは同時に高いリスクを負った攻撃であり、もし最初の入魂の一太刀をかわされてしまえば返り討ちにされる危険が非常に高かったのである。天然理心流の四代目であった新撰組隊長、近藤勇もこのすさまじい一撃の威力を恐れながらも、とにかく最初の一太刀をかわすことを隊士達に心がけさせていたという。

 仁木はバルバロッサの戦い方に、薩摩示顕流と同じものを感じていた。その戦い方は初めて遭遇した相手を、圧倒的なパワーで粉砕してしまうというものなのだろう。たしかにそれは、戦術としての一つの形であり、間違ったことではない。だが、それをかわされ、動きを覚えられてしまった場合には、多大なリスクを負うことになる諸刃の剣である。現に今、そのことは仁木ではなく他ならぬバルバロッサに、刃として襲いかかろうとしていた。

 「調子にのってんじゃないわよ!!」

 グオッ!!

 バルバロッサは振り向きざまに、アイアンクローを振り上げ、仁木の頭上に振り下ろした。しかし・・・

 シュンッ!

 ドガァッ!!

 「!?」

 ヒットの直前、仁木の姿が陽炎のように消えてしまった。空を切ったクローはそのまま、深々とアスファルトの路面に突き刺さった。

 「また!? 今度はどこへ・・・」

 そう言いかけて、バルバロッサは言葉を止めた。自分の左側に、恐ろしく冷たい気配を感じたのだ。すると、そこには・・・

 「・・・斬ります、その鎧を」

 安綱を中段に構えた仁木の姿があった。

 ギィィィィィィィィィン!!

 その刃を高速振動させ、次の瞬間、仁木はバルバロッサの目の前に出現していた。

 「!?」

 「ヤアアアアアッ!!」

 ズバッ!!

 仁木の振り下ろした刃が、見事にバルバロッサの右腕の装甲だけを切り裂いた。

 ブシュウウウウウウウ!!

 切断された部分から火花が飛び散る。装甲と一緒に回路も切断されたことで、斬られた部分から先のアイアンクローを装着した腕は力を失う。しかし、さらに仁木は攻撃の手をゆるめなかった。

 ズバァァァァァッ!!

 「キャアアアアアアッ!!」

 仁木は安綱を大上段にかまえると、バルバロッサの胴を一気に袈裟斬りに切り裂いた。赤黒い装甲に斜めに走る大きな裂け目から一層激しく火花が散り、そして・・・

 ガチャッ・・・ズズゥン!!

 バルバロッサは大きな音をたてて、仰向けに地面に倒れた。

 「よっしゃあ!!」

 小島はその光景を見て、思わずガッツポーズをとった。だが・・・

 チャキッ!

 「・・・」

 仁木はなおも、倒れたバルバロッサのそののどに高速振動を続ける安綱の切っ先を突きつけた。バルバロッサはもがこうとしているが、VJの受けたダメージは致命的らしく、全く動くことができない。

 「!? 副隊長、何を・・・!?」

 その様子に、思わず小島はうろたえた。しかし、仁木は安綱の切っ先を突きつけたまま、静かに言った。

 「言ったわ。私は投降しろと」

 「う・・・うう・・・」

 切っ先を喉元に突きつけられながら、メアーは初めておびえたような声を出した。

 「・・・これで終わりにしましょう。あなたの仕事も、私の仕事も」

 「・・・」

 バルバロッサはしばらくそのままでいたが・・・やがて、小さくうなずいた。

 「・・・小島君」

 それを見届けると、仁木は小島を呼んだ。

 「手伝って。VJを外すわ」

 仁木はそう言いながら、安綱の刃を見た。仁木はボロボロに刃こぼれしていたその刃を黙って見つめた後、ゆっくりと鞘におさめた。

 「了解。失礼するよ」

 その一方で小島はバルバロッサのヘルメットに手をけけ、その解除スイッチを押した。

 プシュウウウ・・・

 空気音と共に、ヘルメットのジョイントが外される。そして、その下から・・・

 「・・・」

 きれいな金色の髪をした、ワイルド・メアーの素顔が現れた。少し不安そうな様子で、仁木と小島を見るメアー。

 「なんだ・・・素顔はかわいいじゃんか・・・」

 小島はそう言うと、やさしくメアーに言った。

 「・・・安心しろ。俺は医者だ。こっからは、医者の仕事といこう。怪我はないか?」

 「・・・!」

 メアーはその言葉に驚いたような表情を浮かべたが、やがて小さくうなずき、笑顔を浮かべた。





 網膜投影ディスプレイの隅で、赤い警告表示が点滅を始めた。

 「エネルギーが・・・こんなときに」

 それは、真空砲のエネルギー残量が少ないことを伝えるものだった。

 バラバラッ・・・

 一方で、グレイブディガーもジャンボ・ガンの空薬莢を排莢し、新しい弾を込め直す。

 「これで最後か・・・」

 カチャッ!

 装填を終え、グレイブディガーはつぶやいた。二人の戦いによって、部屋の壁や床はあちこち大穴が口を開けている。また、二人自身のVJも程度の差はあるが、どちらも装甲が焼けこげだらけで、亀裂や凹み、さらには穴なども見受けられる。両者とも致命的なダメージを与えられないかわりに、徐々に蓄積しているダメージはあった。

 「爆発まであと6分37秒・・・。手こずらせてくれるな」

 「いよいよ時間がなくなってきたみたいだな・・・」

 ガチャッ!

 ジャキッ!

 二人は互いに、自分の武器を向けた。

 ダッ!

 最初に動いたのは圭介だった。

 「真空砲、Mモード!!」

 彼は横へと飛び抜けると、グレイブディガーにマシンガンモードの真空砲を発射した。

 ドドドドドドドゴォォォォォォォォォン!!

 「・・・!」

 グレイブディガーは両手を交差させて腰に力を溜め、それを防いだ。

 「チッ!」

 ズザッ!

 着地した右足に力をこめ、一気に制動を加えて止まる。それとグレイブディガーが銃口を向けるのとは、ほぼ同時だった。

 「タアッ!!」

 ビュンッ!

 ジャンプする圭介。それと同時に

 ドゴォォォォォォォォォォォォン!!

 ジャンボ・ガンが放たれ、圭介のいた場所が大爆発を起こす。グレイブディガーは空中へ飛んだ圭介になおも銃口を向けようとするが・・・

 「リキッドポリマー!!」

 ブシャアアアアアアアアアア!!

 「!!」

 圭介が空中からリキッドポリマーを噴射してきたので、とっさに後ろへと飛んでそれをかわす。その間に圭介は着地を果たし、再び真空砲を向けた。

 「観念しろ!!」

 そう言って圭介が、真空砲を発射しようとしたその時だった。

 ガチャッ!

 突然、グレイブディガーが左腕を圭介に向けたと思った瞬間

 バシュッ!!

 「!?」

 その手甲に装備された発射口から、何かが圭介に発射された。とっさに体を左へそらす圭介。

 ギュルルルルル!! ズパ!!

 「なにっ!?」

 それは、高速回転する小さなドーナツ型の鋼鉄円盤だった。その直撃はまぬがれたが、すさまじい早さで回転する円盤は、圭介のVJの肩アーマーをたやすく切り裂き、そのまま飛んでいった。どうやら、その外側は鋭い刃になっているらしい。

 シュウウウウ・・・

 肩アーマーから、金属の焼ける嫌な匂いのする白い煙が小さく立ちのぼった。

 「圭介君!!」

 「大丈夫だ! 生身の肩はやられちゃいない!!」

 と、圭介が言い終わる前に

 バシュッ!! バシュッ!! バシュッ!!

 続けざまにグレイブディガーは鉄の円盤・・・チャクラムを発射してきた。

 「クッ!!」

 ドドドッ!!

 圭介は真空砲を発射して、なんとかそれを防ぐ。勢いを失ったチャクラムは、地面に落ちて乾いた金属の音をたてた。しかし・・・

 ガチャッ!!

 なおもグレイブディガーは、チャクラム発射の体勢をとる。きりがない。圭介がそう思ったその時、グレイブディガーは再びチャクラムを発射した。

 「エネルギーが少ないってのに!!」

 圭介が再びそれを撃ち落とすべく、真空砲を向けた、その時だった。

 ガガガガガガガガガガガガ!!

 「!?」

 突如、機関銃の発射音とともに、空中でチャクラムが火花を散らして粉々に砕け散った。

 「今のは・・・!」

 「・・・」

 圭介とコヨーテが、そろって音の方向を見ると、そこには壁に開いた穴の向こうからこちらにライアットバルカンを向けている尾崎のパーシヴァルの姿があった。

 「さっきから横やりばっかりだけど・・・上に下に往復させられてるこっちのことも考えてほしいね」

 口調はいつものお気楽な調子だったが、さすがに姿勢と雰囲気はまさに臨戦態勢である。その姿を見るや、グレイブディガーはジャンボ・ガンを発射した。

 ドゴォォォォォォォォン!!

 尾崎はその寸前、なんとか横に転がってその爆発をやり過ごした。

 「このっ!!」

 右手には真空砲、左手にはマルチリボルバーを構え、圭介はそれを同時に向けた。しかし、

 バシュバシュバシュッ!!

 「くっ!!」

 グレイブディガーはチャクラムを放ち、そのタイミングを得させようとしない。

 「これ以上好きにはさせないぞ!!」

 一方、その間に体勢を立て直したパーシヴァルはライアットバルカンを拾い上げると、それを構えようとした。が・・・

 ダダダダダダダダダ!!

 「!?」

 グレイブディガーは信じられないような早さで接近すると、振り上げた拳でライアットバルカンを殴りつけた。

 ガチャッ!

 尾崎の手から放り出されたライアットバルカンが地面に転がる。

 「くそっ!」

 尾崎はそれにひるまず、腰のヒートククリを抜こうとした。が・・・

 ガシッ!

 「グアッ!!」

 グレイブディガーはその手をつかむと、ギリギリとねじり上げた。そして・・・

 ドガッ!!

 ガチャァァァァァァン!!

 思い切りその腹に膝蹴りを食らわし、背後の壁にパーシヴァルをたたきつけた。

 「かはっ・・・!」

 キックのダメージは、パーシヴァルの腹の装甲に放射状の亀裂を走らせるほどのものであった。その強烈なダメージに、尾崎の意識が一瞬遠のく。

 「尾崎さん!!」

 駆け寄ろうとする圭介。だが・・・

 ザッ・・・

 その間に、グレイブディガーが立ちふさがる。圭介は、その足を止められた。

 ジャキッ・・・

 冷たい銃口が、圭介へと向けられた。焦りを感じる圭介。

 (真空砲も効かない・・・やっぱりこいつの性能は、何もかも俺達を上回っているのか?)

 ジャンボ・ガンを向けたまま、グレイブディガーはゆっくりと近づいてくる。だが、圭介は追いつめられながらも、必死で頭をめぐらせていた。

 (いや・・・たとえどれだけ性能が優れていても、ジャケットであることには違いない! 人間の作った機械なら、倒す方法はあるはずだ!)

 圭介はそう思いながら、ふと視線を床に落とした。金属の床が、鈍い光を放っている。それを見て圭介は、ハッとした。その時である。

 カチッ!

 ドゴォォォォォォォォォォォン!!

 ジャンボ・ガンが圭介に向けて、容赦なく発射された。





 「新座君!!」

 大爆発を見て、尾崎は叫んだ。

 ゴォォォォォォ・・・

 やがて、炎と煙が収まり、そこに見えたものは・・・

 「!!」

 ただポッカリとあいた、巨大な穴だった。

 「新座君・・・!!」

 一方、それを見届けてから、グレイブディガーはパーシヴァルに体を向けた。

 「敵ジャケットの完全破壊。それが目標であると命じられている」

 コヨーテはそう言うと、ゆっくりとパーシヴァルに近づいてきた。だが、パーシヴァルも・・・

 ガチャッ・・・

 下半身の回路に大きな損傷を受け、立ち上がれない状態ながらも、マクシミリアンmk2を向ける。

 「そんな銃で、俺を倒すつもりか・・・?」

 「そうしなきゃ、新座君に申し訳がない」

 尾崎のその言葉を聞くと、グレイブディガーは銃を向けた。

 「残弾はあと一発・・・結局、使い切ってしまった・・・」

 グレイブディガーは、そう言いながら引き金に力を込めた。

 バゴッ!!

 グレイブディガーの背後の床が、突然弾け飛んだのはその時だった。

 「!?」

 驚いて振り返ったグレイブディガーが見たものは・・・床の下から姿を現した、満身創痍の赤いVJだった。

 「うおおおーーーーーーっ!!」

 そして圭介は、叫びとともに手に握りしめたもの・・・激しく火花を散らすケーブルの束の先端を、グレイブディガーのバックパックと本体との間の隙間にねじ込んだ。

 バチバチバチバチバチバチバチ!!

 「ぬぅっ!!」

 グレイブディガーの体にものすごい電流が流れる。電流を流されながら床を転がるグレイブディガーだったが、その激しい動きによってようやくケーブルが外れ、電流は止まった。

 「ハア・・・ハア・・・」

 荒く息をつきながら、圭介は床の穴から這い出そうとしていた。

 「に、新座君・・・無事だったんだね・・・」

 「無事でもないですけどね・・・」

 ヘルメットの下で、圭介は苦笑した。ひかるも、安堵のため息をもらす。

 「うまくいきましたね」

 「あれ? もしかしてひかるちゃん・・・新座君が無事だったことを知ってたの?」

 キョトンとした様子で、尾崎が尋ねる。

 「え、ええ・・・。お二人の状態は、私がモニターしてますから・・・」

 それもそうである。もし圭介がジャンボ・ガンの餌食になったりしていたら、ひかるが悲鳴をあげないなどということは考えられない。

 「そんなことより、まだ奴を止めた訳じゃありません!!」

 そう言って圭介が振り返ると、そこではグレイブディガーが全身から白い煙をあげながら、ヨロヨロと立ち上がろうとしていた。

 「貴様・・・なぜこんな攻撃を?」

 低い声で、彼は圭介に尋ねた。

 「床を見たとき、ピンときたんだ」

 圭介は答えた。

 「このビルのように消費電力の大きいビルでは、ビル全体に網の目のように電力ケーブルが走っている。そのことを思い出して、思いついたんだ。VJは精密機械のかたまり・・・ある程度の高圧電流には耐えられても、ここのケーブルをまとめて差し込んでやれば、さすがに電装系統が無事ですむはずがない」

 それが、圭介の思いついた戦法だった。床を見てその下に走る無数のケーブルの存在を思い出し、ジャンボ・ガンの爆発を利用してその隙に床の下に潜り、高電圧のケーブルを何本もまとめて束にし、グレイブディガーに接触させたのである。

 「くぅっ・・・!」

 グレイブディガーがよろめく。内部のコヨーテの目には、すさまじい電流によって身体各部の精密部品がショートしたことによるダメージを伝えるメッセージが、網膜投影ディスプレイからめまぐるしく表示されていた。VJの内装の最も内部を覆う絶縁素材によって、電流による肉体へのダメージは免れたが、ジャケットのダメージは深刻である。

 「これでもう、そっちは互角以下の戦いしかできないはずだ! おとなしく投降しろ!」

 圭介は真空砲を向け、尾崎はライアットバルカンを拾って構える。だが・・・

 「仕事を成し遂げる可能性が少しでも残されているのなら・・・それを捨てるわけにはいかん」

 ジャキッ・・・

 そう言って、グレイブディガーはジャンボ・ガンをかまえた。

 「最後までやる気なのか・・・」

 尾崎はその精神に、半ば呆れながらもライアットバルカンをもつ手に力を込めた。その時、圭介が唐突に言った。

 「尾崎さん・・・今まででわかったでしょう? 普通に撃っても、あいつには決定的なダメージは与えられないって」

 「なら・・・どうするんだ?」

 と、尾崎が問おうとその時・・・

 ザッ・・・

 圭介が、一歩前に進み出て言った。

 「ひかる・・・両腕にエネルギーを集中してくれ」

 「け、圭介君!! 何をするんですか!?」

 そのただならぬ様子に、ひかるは言いしれぬ強い不安を覚えた。そんな彼女に、圭介は静かに言った。

 「距離をおいて撃って効かないんなら、至近距離から食らわせるまでだ。今の俺には、それしか手はない」

 「そ、それって・・・! やめてください圭介君!! 途中であの銃の直撃を食らうかも知れないんですよ!?」

 「そんなことはわかってるよ」

 「VJのダメージは深刻です! これ以上大きなダメージを受けたら・・・」

 「・・・ひかる、頼む」

 圭介は静かに言った。

 「心配かけっぱなしで、最低のパートナーだってのはわかってるよ。でも・・・そんな俺でも、お前はついてきてくれた。もうちょっと、つきあってくれないか?」

 「・・・」

 「・・・頼む」

 ひかるは、黙って聞いていたが・・・

 「・・・圭介君が最低の実動員なら、私は最低の管制員かもしれませんね・・・」

 やがて、彼女は少し明るい声で言った。

 「ひかる・・・」

 「わかりました、圭介君・・・。また副隊長に怒られるかもしれませんけど・・・いいですよね?」

 「・・・ああ。ごめんな、いつも割くわせちまって・・・恨み言なら、あとでいくらでも聞いてやるから」

 圭介がそう答えていると、両腕に力がみなぎるのが感じられた。エネルギーが腕に満ちるのを感じると、圭介はグレイブディガーをにらみつけた。

 「いくぞ、ひかる・・・!」

 「はい!」

 ダッ!

 圭介は地を蹴ると、グレイブディガーめがけてダッシュを始めた。

 ジャキッ!

 自分に向かってくる赤いVJに対し、ジャンボ・ガンを向けるグレイブディガー。それを見たとき、圭介は自分の顔をかばうように、左腕を動かした。

 ドゴォォォォォォォォォォォン!!

 そして、ジャンボ・ガンの銃口が火を噴くと同時に、圭介の姿は炎に包まれた。

 「新座君っ!!」

 それを見て、尾崎が叫ぶ。それと同時に、ひかるがモニターしていた圭介のデュアルカメラからの映像も、ノイズの砂嵐が映るだけとなった。

 「圭介君!!」

 ひかるは悲鳴をあげそうになったが、すぐにあることに気がついた。圭介のVJの各機能をモニターしている画面は、いまだ動き続けている。そして、それを裏付けるように・・・

 ズボォッ!!

 炎を突き破って、圭介がグレイブディガーの目の前に現れた。左腕のアーマーは装甲板がメチャクチャになり、すでにその用をなしていない。盾となった左腕によって直撃を免れたヘルメットにも縦横に亀裂が走り、ゴーグルの右半分が砕け散り、そこから圭介の目が直接、グレイブディガーをにらみつけていた。

 「なんだと・・・!?」

 「うおぉぉぉぉぉ!!」

 バギィィィィィィィィン!!

 そして圭介は、真空砲をはめたままの右手を、グレイブディガーの胸に叩き込んだ。

 「グオッ・・・!!」

 ミシッ・・・

 その拳は、グレイブディガーの強固な装甲に食い込んでいた。そして・・・

 「真空砲、発射ぁ!!」

 ドゴォォォォォォォォォォォォォォォン!!

 「グアアアアアアアア!!」

 圭介は真空砲を残りの全てのエネルギーを使って発射した。それによって、グレイブディガーは後方へすさまじい勢いで吹き飛ばされ・・・

 ドガァァァァァァァァァァァァァァァァン!!

 そのままの勢いで、背中から壁にたたきつけられた。壁には放射状に亀裂が走り、ガラガラと崩れ落ち、その先にある風景がむき出しとなった。

 「グゥッ・・・!」

 ドサッ・・・

 そして・・・うめき声をあげ、グレイブディガーはバタリと倒れたのだった。

 ガチャッ・・・

 一方、圭介もまた、片膝をついたが・・・

 「や・・・やった・・・やったぞ!」

 荒い息をつきながらも、なんとかそう叫んでいた。





 「ハア・・・ハア・・・」

 圭介はその場でなんとか立ち上がれるまで、なんとか息を整えようとした。その時・・・

 ガチャ・・・

 なんと、グレイブディガーがヨロヨロと立ち上がったのだ。圭介のVJ以上に傷つき、無数に開いた穴からは、火花や煙が立ちのぼっている。

 「お前・・・まだ動けるのか!?」

 圭介はそれが信じられなかったが、自分に残された最後の武器であるマルチリボルバーをかまえた。だが・・・

 「・・・?」

 グレイブディガーは、立ったまま何もしようとはしなかった。

 「・・・」

 グラッ・・・

 その体が、大きくよろめく。

 「!!」

 ダッ!!

 それを見た途端、圭介は反射的に真空砲を外して、彼の元へダッシュしていた。





 「・・・!」

 壁の穴から上半身を乗り出した圭介は、落下するコヨーテの腕をかろうじてつかんでいた。圭介の右腕にジャケットを着たコヨーテの全体重がかかり、その衝撃にこれまでの戦いでダメージを負った体中を苦痛が走った。

 「ぐぅっ!!」

 耐え難い苦痛にうめく圭介。上半身を乗り出した圭介とぶらさがるコヨーテに、突然雨足を強くした雨がたたきつけるように降り注ぐ。加熱した関節部に当たった雨が、薄い蒸気となって立ちのぼる。

 「手を放せ。このままでは、お前も死ぬぞ!」

 コヨーテは静かながらも、緊迫感のこもった声で言った。だが・・・

 「・・・冗談じゃない。助けられる奴を助けなかったら、俺はこの先、どの面下げて仕事を続けられるってんだよ!?」

 圭介は雨に滑りそうになる腕を、何度も支え直した。

 「俺の仕事は、人の命を奪うことじゃない・・・人の命を助けることだ!! 命を奪うのは簡単だけどな! 一度奪った命は、二度と還ってこないんだぞ!!」

 圭介はグレイブディガーの赤いデュアルカメラをまっすぐに見つめながら、叫んだ。

 「・・・!!」

 戦いの時ですら感じられなかったすさまじい気迫に、思わずコヨーテは息を呑んだ。

 「そうです!! ここで見殺しにはできません!!」

 その時、ひかるの声とともに再び腕に力が戻った。腕部にエネルギーを供給し始めたのだ。

 (・・・そうか。どうやら、端から勝ち目はなかったらしい)

 コヨーテはVJの中で、静かに目を閉じた。

 (こいつらは、俺達よりはるかに難しい仕事をしてきたんだから・・・)

 その時、雨に濡れた圭介の体が、ズルリと滑った。

 「!? しまっ・・・」

 次の瞬間、圭介はコヨーテとともに空中へと滑り落ちていた。

 「キャアアッ!?」

 「新座君!!」

 その光景を見ていたひかると尾崎が、叫び声をあげる。

 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 コヨーテの腕をしっかりとつかみながらも、圭介は彼とともにすさまじい速度で地面へと迫り始めた。と、その時である。突然地面と二人の間に、銀色の物体が割り込んできた。

 ガシャアアアアアアアアアアン!!

 「うおっ!?」

 二人はそれに背中から派手にたたきつけられたが、どうにかその上に踏みとどまることができた。

 「こ、これって・・・」

 と、圭介が自分の下にある凹んだ銀色の鋼板を見た、その時である。

 「新座、大丈夫か?」

 「ヤッホー! 助けに来たよ!」

 圭介の耳に、小隈と聡美の声がした。そう、それは指揮車だったのである。

 「隊長、聡美さん! ・・・ありがとうございます!」

 「私達も・・・いるけどね・・・」

 「・・・圭介君・・・あの・・・」

 亜矢の静かな声と、どうやら涙をこらえているらしいひかるの声も入り、圭介はVJの下で苦笑いした。

 「ごめんな、ひかる・・・。心配かけさせちまって・・・。でも・・・勝ったぜ、俺・・・誰も殺さないで。これが・・・俺達にとって勝利って呼べるやつだろ? これで・・・安心してくれるよな?」

 「はい・・・もちろんです!!」

 その時、再び小隈の真剣な声が割り込んできた。

 「せっかくだがお二人さん、喜びはもう少し先にしてくれないか? まだ終わってないんだから」

 その声に、圭介がハッとあることに気がついたときだった。

 ガチャ・・・

 「・・・」

 バックパックを開け、コヨーテが時限爆弾を取り出した。

 「あと1分30秒だ・・・ギリギリ、解除できるだろう」

 「・・・」

 圭介はうなずくと、それを受け取って工具を取り出し、慎重かつ的確に解体を始めた。やがて・・・30秒が過ぎ、1分が過ぎ・・・時間は経過していく。

 「そのパックをはずせ。その中にあるものが最終的な起爆装置だ」

 圭介はその指示通り、パックを開いた。中には・・・赤、青、白、グレーの四つのリード線。どれが正解のリード線なのかは、圭介のスコープにも映らない。残された時間は、20秒。

 「どれを切ればいい?」

 「・・・グレーだ」

 圭介は、すかさずグレーのリード線を切ろうとする。だが、そこで聡美が止めに入った。

 「ちょ、ちょっと! そんなにすんなり言うこと聞いちゃっていいわけ!?」

 その言葉を聞いて、圭介は思わずコヨーテの顔をジッと見た。しかし、コヨーテは何も言わず、ただ見つめ返すだけである。その間にも、時間は残り10秒となった。

 「・・・」

 やがて、圭介は意を決したように、グレーの線をはさんだニッパーに力を込めた。

 「・・・!」

 指揮車の中では、聡美達が目をきつく閉じる。そして・・・

 パチッ!

 ・・・・・・・・・・・・・・・

 爆弾に表示されているカウントは、残り2秒で止まった。

 「ハァーッ・・・」

 やがて、脱力したように彼らはため息をつき、ぐったりとシートの背にもたれた。

 「ふぅ・・・」

 圭介もまた、同じように力が抜けて指揮車の屋根の上にゴロリと転がった。指揮車がだんだんと、高度を落としていく。

 「よく俺の言うことを信じたな・・・?」

 コヨーテがポツリと言った。

 「どっちかが妥協しなきゃいけないだろ? 意地張ってたら、みんな仲良くあの世行きだ。それに・・・勘でやるにしても、俺はグレーを切ってたよ」

 「なぜだ?」

 「自分や仲間は切りたくない」

 あっさりそう言って、圭介は爆弾に残されたリード線・・・赤、白、青の三色のコードを見つめた。コヨーテが小さく笑う。

 「お前こそ、よくホントのことを言ったな?」

 逆に、圭介が彼に問い返した。

 「・・・死にたくないからな」

 至極当然な、単純なその答えに、思わず圭介も笑ってしまった。その時・・・

 「あ・・・」

 傷だらけの赤い装甲板に落ちてくる雨がその勢いを急に弱めたのを見て、圭介は頭上を仰いだ。

 そこには・・・雲の切れ間から太陽が少しずつ顔を出し、次第に明るさを増していく光の中で、雨に潤った澄んだ空気の空に、鮮やかな虹が架かりつつあった・・・。




関連用語解説

・ジャンボ・ガン

 てんとうむしコミックス第7巻「ネズミと爆弾」に登場した道具。その名の通り普通のリボルバータイプの拳銃より一回りも大きな拳銃である。だが恐ろしいのはこの銃の威力はドラえもんの言葉を借りれば「戦車をも一発で吹き飛ばす」ことができるらしいということである。このことから判断するに、拳銃の形をしているが実際は拳銃ではなく、リボルバーの姿を模した超強力なグレネードランチャーではないかと推測される。この道具はネズミに対する恐怖で錯乱したドラえもんがそれを退治するために「鉄筋のビルも一瞬で煙にしてしまう」熱線銃とともに取り出したものである。相当の重量があるはずだが、のび太はこれを片手で持っていた。結局劇中では発砲されることはなかったが、ネットのあちこちで発表されている暴走ギャグ系ドラえもん小説や本サイトの「HELLえもん」などではドラえもんやのび太が喜々としてこれを撃ちまくっているのは周知の通りである。


次回予告

 聡美「あ〜あ・・・これでPredawnも終わりかぁ・・・。これが最終回だから
    もう予告もないし、あんパンも食べられないし・・・なんだか
    寂しいなぁ・・・」

 小島「寂しいにしたって、もっと別な寂しがり方があるだろうが・・・」

 聡美「えっ!? みんな、どうしてここにいるの!?」

 亜矢「何を言っているんだい・・・? 君の出番だよ、聡美君・・・」

 ひかる「はい、聡美さん。甘井屋さんで買ってきたばかりのあんパンですよ?」

 聡美「でも・・・なんの予告をすればいいの?」

 仁木「まだエピローグが残ってるじゃないの。その予告よ」

 聡美「エピローグ・・・? そ、そっか! それがあったね!」

 尾崎「がんばって、岸本さん!」

 圭介「それじゃ聡美さん、お願いします! おやっさんは壊れたVJの
    修理で来れないって言ってましたけど、その分も頑張って下さい」

 聡美「よ、よ〜っし! それじゃいくよ! さぁ〜って、次回の
    「Predawn」は〜っ♪」

 小隈「どうも。SMS第1小隊、全員集合です」

 聡美「あっ、隊長! エピローグであたしたち、一体何やるんですか?」

 小隈「エピローグ好きな作者は、もとからエピローグでしめることを念頭に
    最終回書いたらしいからね。まぁ具体的な内容だけど、事件の
    その後といつもの俺達の日常かな」

 聡美「はぁ、そうですか・・・。なんだか他に言うこともなさそうだし・・・
    それじゃ、これからの一年の抱負なんか語ってもらおうかな。それじゃ、
    小島さんから」

 小島「いきなりふるのかよ・・・。まあいいや。まぁ当然なのは、この
   一年に助けた命よりも多く命を助けることだな。それともう一つ!
    今年度こそ、彼女ゲット!」

 聡美「2番目のはどうかなぁ・・・」

 小島「なんだと!?」

 聡美「時間がないから次いくよー。それじゃ、尾崎さん!」

 尾崎「そうだねえ・・・。やっぱり、アーサリアンを軌道に乗せることかな? 
    早くアーサリアンを、第1小隊に負けない部隊に育てたいよ」

 聡美「大変だろうけど、頑張って下さいね。それじゃ次は、副隊長!」

 仁木「小島君と似たようなものね。できるだけたくさんの人を助けたい。
    そういうことかしら。あとは、岸本さん達がもっとおとなしくして
    くれれば言うことなしなんだけど?」

 聡美「ぐぅ・・・ふ、副隊長もけっこう痛いとこ突いてきますね・・・。
    じゃ、じゃあ亜矢さんは?」

 亜矢「私は・・・そうだね・・・。もっと研究に力を注いでみたいとも
   思っているけどね・・・。そのときには・・・君も協力してほしい
   けれど・・・」

 聡美「で、できればご遠慮願いたいなぁ・・・ハハ。じゃあ、次は隊長」

 小隈「この一年よりいい仕事ができればそれでいいかな。あとは一日一善、
    腹八分。それだけ」

 聡美「は、はぁ・・・ありがとうございました。最後は、新座君とひかるちゃんね」

 圭介「なんで俺達だけ同時なんですか?」

 聡美「言わなくてもわかってるくせに・・・」

 圭介「はぁ・・・もういいです。ひかる、お前から言ってくれ」

 ひかる「は、はい! 私も、皆さんと同じようにこの一年よりもっと皆さんの
     お役に立てるようになって、ずっといい仕事ができるようになれれば
     いいと思ってますから、がんばります!」

 圭介「俺も似たようなもんです。やっぱ、この一年の成果の上にあぐらを
    かかないで、もっといい仕事ができればいいと思ってますけど」

 聡美「それと、お互いもっといい関係になりたいって思ってるのは・・・
    言わなくてもいいよね」

 ひかる「!!」

 圭介「さ、聡美さん!! ・・・聡美さんこそ、これからの抱負はなんなんです?」

  聡美「決まってるじゃないの! もっともっと、自分を磨くこと! 今度は
    敵の中に一人でも、一人で全滅させるぐらい強くなりたいなぁ」

 圭介「そ、そうですか・・・」

 聡美「さて・・・いよいよ次回で終わりかぁ。もうこれから、あたしたちの
    出番はないのかなぁ?」

 小島「そんなことはないと思うぜ。作者はけっこう気に入ってるらしいし、
    たまに続編書くかもしれない。それに、けっこう亜矢さんが人気
    あったりするし」

 亜矢「けっこうとは・・・どういう意味だい・・・?」

 小島「え・・・? い、いや、特に深い意味はないんですけどね・・・ハハ・・・」

 聡美「それじゃ、エピローグのタイトルは?」

 全員「次回、エピローグ「二年目の、春」」

 聡美「よーし! それじゃみんな、このあんパンを一つずつ持って」

 仁木「え? 岸本さん、まさか・・・」

 圭介「全員であれをやれと・・・?」

 聡美「いいじゃない、最後なんだし」

 ひかる「私、これ苦手なんですけど・・・」

 尾崎「いいんじゃないですか。岸本さんの言うとおり、最後なんですから」

 小隈「ま、せっかくだからいいんじゃないの?」

 聡美「ほら、隊長もこう言ってることだし・・・それじゃみんな、用意はいいね?」

 全員(コクン)

  聡美「それでは次回もまた見て下さいねぇ! ハッ!」

 ポポポイッ!!

 数人「んがぐぐ!!」

 聡美「成功率50%かぁ・・・まぁまぁかな」


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