ミニプレ
Winter Day
その後の経過は、拍子抜けするほどあっさりとしたものだった。小島は新開発のトリモチ弾「粘着クジラ怪人君1号」の使用を仁木に求めたが、リキッドポリマーでも十分として彼女はそれを却下。そして彼らは、作業用ロボットへと襲いかかった。
まず小島と圭介が左右からロボットの足元へと突進。そこへマルチブラスターからリキッドポリマーを噴射した。足元に粘着性の強い液体をかけられた作業用ロボットの動きは格段に鈍った。さらに圭介は真空砲を装着。マシンガンモードの空気砲弾を連続してロボットの右足関節に叩き込んだ。これによって右ひざを破壊されたロボットはそのまま倒れ、身動きが取れなくなったその頭の上に仁木が飛び乗ると、彼女はすばやく童子切安綱を抜き、その制御チップがある場所へと一気に突き刺した。その直後、ロボットは瞬間的に狂ったように暴れたが仁木はすばやく飛び降りた。そして・・・ロボットはそのままぐったりとなると、その動きを完全に停止した。その後の負傷した作業員の救出作業も、第1小隊の手際よい作業でスムーズに進行した。
こうして、SMS第1小隊は無事にその任務を終えたのである。
「任務完了・・・っと」
圭介はそうつぶやきながら、すでに現場検証の始まっている現場に目をやった。警官たちの輪の中には小隈や仁木も混ざり、議論に加わっている。
「・・・」
圭介はそれから目を離すと、ふと左手に下げていたヘルメットを持ち上げ、自分の目の前に掲げて、「もうひとつの顔」と言ってもよいそれをじっと見つめた。
このヘルメット、そして、今自分が着ている、赤く輝く機械の鎧。SMSの隊員となってから・・・このVJを身にまとい、命さえ危険にさらされかねないような状況へと飛び込むようになってから、2度目の冬がやってきた。今年はこのVJを着て、幾度現場へと飛び込んでいっただろうか。そして、どれだけの人を救うことができたのか・・・。圭介は「もうひとつの顔」を見つめつつ、そんなことを考えていた。
「・・・寒いんじゃないんですか?」
右手の方からの声に顔を向けると、指揮車から防寒用のコートを羽織ったひかるが歩いてくるところだった。その両手が持つ紙コップから、絶えず白い湯気がのぼっている。
「もう終わったんですから、指揮車に戻ってくればいいじゃないですか。聡美さんたちもみんな、車の中でこれを飲んでますよ?」
「ああ、うん・・・ちょっとな。それより・・・どうしたんだ、これ?」
圭介はひかるのもつ紙コップを見た。白い湯気はその中に満たされた、琥珀色の飲み物から立ち上っていた。
「工事現場の人たちが差し入れしてくれたんです。圭介君も、どうぞ」
「ああ、いただくよ」
ひかるからコーヒーを受け取ると、圭介は彼女とともに一口それを口に含んだ。と、その顔がとたんにしかめられる。
「・・・濃いな、これ」
「眠気覚ましにも使ってるそうですから。車に戻れば、一緒にわけてもらったお砂糖もありますけど・・・」
「いや、いいよ。このぐらいでちょうどいいかもしれない」
圭介はそう言って再びコーヒーを口に含むと、現場検証の終わった箇所から早速後片付けにとりかかり始めている作業員たちに目を向けた。
「・・・大変だよな、年末だっていうのに。こっちの仕事は、これで終わりだけど・・・」
「はい・・・。でも、割と早く終わりましたよね。できれば今年は、もうこれで出動がなければいいんですけど・・・」
「このあいだもそう言ってたな、お前」
「だって・・・そうじゃないですか」
「ああ、たしかに。普通の会社の人たちは、もう仕事納めだからな。たしかに今日が、俺たちの仕事納めならいいんだけど・・・」
圭介はうなずきながらそう言った。二人はしばし、無言のまま並んでコーヒーを飲んでいたが・・・
「・・・今年も、何度も出動しましたね・・・」
ひかるが、静かに言った。
「うん。残念ながら、な・・・」
圭介は小さくうなずいた。
「どうでしたか、圭介君? この一年は・・・」
「どうでしたか、と言われてもなぁ・・・。まぁ、納得できる仕事もあったし、もっとなんとかなったんじゃないかっていう仕事もあった。トータルで言えば、納得できる仕事の方が多かったと思うけど・・・もちろん、それで完璧に納得できるってわけでもないからな。今年の教訓を、来年に生かしていく・・・。当たり前のことだけど、やっぱりそう思うな。お前は、どうなんだ?」
「私も圭介君と同じです。来年はもっといい仕事をたくさんして、もっとたくさんの人を助けられるといいんですけど・・・。それと、怖い事件や事故が起こらないように・・・」
「ああ、それももちろんだな。どっちにしろ、それは俺一人の力じゃどうにもならないことだ。お前や隊長たち、それに、もっとたくさんの人たちの力が必要だし・・・」
圭介はそう言うと、ひかるを見た。
「とりあえず、来年も俺たち二人のベストを尽くすところから始めようぜ。なにはなくとも、そこからだ。来年もよろしくな、ひかる」
「はい! よろしくお願いします、圭介君」
二人はそう言うと、乾杯をするように互いの紙コップを向け、残ったコーヒーを飲み干した。
「はぁっ・・・」
顔を軽く上げ、大きくため息をつく圭介。それは白い煙となって、圭介の口から凍てついた空気へと吐き出された。と・・・
ポツッ・・・
「!」
突然、鼻の頭になにか冷たいものが触れた感覚がした。
「あ・・・!」
それと同時に、ひかるが小さく声をあげて手のひらを空に向ける。すると・・・
ハラッ・・・
その上に、白く柔らかなものがふわりと落ちてきて・・・ひかるの手のひらの上で、あっというまに溶けて小さな水玉となった。二人はゆっくりと、空を見上げた。
視界いっぱい見渡す限り、灰色の雲に覆われた空。そこからゆっくりと・・・だが、次々と・・・白い雪がふわりふわりと舞い降りてくる。二人が見ている間にも、それはさらに視界の多くを占めるようになっていった。