「ジャケット」とは、外骨格型強化装甲服の総称である。その起源は、月面都市やスペースコロニーなどの建造が本格的に開始された２０５０年代にさかのぼる。本格的な宇宙開発時代の到来により、宇宙空間での作業に適した特殊宇宙服の開発が、各国の宇宙開発局協同で進められたのである。それまでの宇宙服のノウハウに加え、従来研究されていた軍事用の歩兵用強化服、それに発展めざましいウェアラブル・コンピュータなどの最新技術の粋を集めて開発された宇宙開発用特殊宇宙服が、「ジャケット」の前身となった。その後本格的に量産され、宇宙開発の現場でめざましい活躍を見せるようになったこの宇宙服は、宇宙開発以外の現場の人間達にも大きな影響を与えた。ロボット開発技術は日進月歩の進展を見せてはいたが、それを制御する人工知能プログラムには、今だに多くの問題があった。人間にロボット並の高い能力を与える。そのために、この特殊宇宙服は大きな可能性を秘めていた。そして、様々な現場でこの宇宙服は独自の研究・改良が施されていき、しだいに外骨格型強化装甲服としての色彩を帯び、やがて、「ジャケット」という総称も与えられたのである。そのころには「ジャケット」は産業だけでなく警察、軍事など幅広い分野に投入されていた。
特にその開発に積極的であったのは、日本であった。産業用のジャケットのみならず、警察用のポリス・ジャケット、消防用のファイヤー・ジャケットなど、様々なジャケットが開発された。そして２０８２年、それらの集大成としてジャケット産業の大手、初芝製作所が開発したジャケットが、ヴァリアブル・ジャケット、通称「ＶＪ」である。
ＶＪには柔軟な運用思想をもつ特殊部隊「ＳＭＳ」に使用されるため、それまでのジャケットにはない画期的なシステムが数多く搭載されている。まず、「ヴァリアブル」という名称のもとになっている、パワー配分調節システム。これはＶＪのエネルギーを状況に応じて管制員がＶＪの局部に集中させることにより、その部分の機能を強化、いかなる状況にも柔軟に対応することを可能とするものであった。また、背中には空間歪曲技術を利用したバックパックを装着。内部に多数の機材を搭載することができる。構造的にも発展性をもっており、各部にハードポイントと呼ばれるオプションパーツ装着のためのポイントが用意され、後から開発されてくるオプションパーツを装着し、さらにパワーアップを図ることができる。ＶＪは頭部、胸部、腕部といったように各部がモジュール化され、着脱は一人でも可能である。装甲はスペースチタニウム、ＳＴＭ鋼などの宇宙精製金属の層を何重にも重ねて製作する、ダマスカス鋳造法と呼ばれる製法で作られ、薄く軽量の割には防御力は巨大な地下シェルターにも匹敵し、装着する実動員の体をあらゆるダメージから完全に守る。
ＶＪは基本的に、それを装着する実動員の体型、能力にあわせてオーダーメイドで製作され、実質的に一つ一つのＶＪはそれを装着する実動員の専用装備となる。そのため、基本構造は同じでも細部は異なり、一つとして同じＶＪは存在しない。第１小隊の新座圭介隊員の装着するＶＪ３号機の場合、装着時は身長１９０ｃｍ、体重１５０ｋｇとなる。
反面、ＶＪは最新テクノロジーの塊であるため非常に複雑な構造となっており、最大限の力を発揮するには内蔵のコンピュータ類では制御しきれない部分もある。そのため、ＶＪには常にＶＲコンピュータで管制作業を行う管制員が必要となっている。
以下は、ＶＪの各モジュール毎の性能である。
実動員の頭部を保護するモジュール。各種センサー類と通信機器の集中するモジュールでもある。外部状況把握にはデュアルカメラが採用されている。内部には網膜投影式ディスプレイが備え付けられ、状況に応じて外部の映像だけでなく指揮車から送られる様々な情報を直接実動員の網膜に投影する。また、実動員の思考をダイレクトにＶＪに伝える脳波入力装置NIBEQ（Neural Interface between Brain and EQuipment 脳・機器間ニューラルインターフェース）が搭載されており、これによりバックパックに搭載されている各種機材の選択・使用が可能となる。デュアルカメラの有効距離、耳であるサウンドセンサーの最大可聴範囲はともに１５ｋｍ。通信にはあらゆる物質を透過する性質をもつ素粒子、タキオンを媒体として使用。電波妨害要素に邪魔されることなく指揮車との交信が可能である。
頭部は各ＶＪの違いがもっとも現れるモジュールでもある。第１小隊の場合、指揮官を務める仁木葉子副隊長のＶＪ１号機には、他のＶＪよりもさらに高度な情報・通信機器が内蔵されており、情報収集、通信機能の点において他を凌駕している。また、救命活動を専門とする小島佳樹隊員のＶＪ２号機のバイザー部分には、Ｘ線や超音波測定装置の診断機器とそれらの情報を分析するコンピュータの複合ユニットである「メディカル・スコープ」が内蔵され、これによって瞬時に負傷者の状態を診断することが可能となっている。
実動員の胴体部を保護するモジュール。内臓を保護するため、最も装甲が分厚くなっているモジュールである。着脱時は前部が観音開きに開くようになっており、ベストを着るように装着する。
前部よりも背部に重要な部分が集中している。背中には多数の機材を収納するバックパックのほか、エネルギー源である「パワーユニット」と呼ばれるドライ・ライトバッテリーを装備する。バッテリーの寿命は非常に長く、最大限の力で行動しても８時間は持続する。
実動員の肩から指先までを覆うモジュール。ニュートラルの状態では約３ｔのパンチ力を持つ。このモジュールにエネルギーを集中させることにより、大型クレーン並の力をもつことができる。また、左腕の袖部分にはアンカーショットと呼ばれるワイヤー射出機構が設けられている。
装着時には腕にピッタリと密着されているが、外す場合には内部の空気圧が低くなり、石膏のギブスをとるようにスッポリととることができる。
実動員の腰からつま先までを覆うモジュール。ニュートラル時は時速３０ｋｍの走力と、２０ｍのジャンプ力をもつ。エネルギーを集中することにより、スピードは時速８０ｋｍ、ジャンプ力は４０ｍにアップする。ニュートラル時のキック力は約８ｔ。サスペンションの設定を強化することにより、ジャンプやダッシュの際の瞬発力を飛躍的に向上させることができる。
固定武装として腰部にはスタンスティック、右脚部にはマルチリボルバーを備える。
（コンバットスーツ、クラステクター、ソリッドスーツ、トライジャケット・・・この手の装甲服はいろいろありますが、ＶＪの場合はレスキューポリスシリーズのスーツをベースに、「仮面ライダーアギト」のＧ３システムも取り入れています）ＶＪには欠かせない装備の一つ。ほぼ固定装備だが、取り外しも可能である。外見は金属の箱に過ぎないが、空間歪曲技術の使用によって内部スペースは倉庫一つ分ほどのスペースを持つ。この内部に搭載される多彩な機材によって、ＶＪはその真価を発揮することができる。また、マルチブラスター用の噴射物の貯蔵タンクとしての役割ももつ。
ヘルメットのNIBEQとシステムが直結されており、実動員が思った機材を自動的に内部から排出する。多数の機材の中から目的の機材をただちに取り出すためには必要不可欠なシステムであるが、反面、実動員の動揺などの心理的影響を受けやすいシステムでもある。
ＶＪの固定武装である金属製警棒。電流を流して相手に接触させ、感電させることができる。電流量は人間を気絶させる程度から、大型作業用ロボットをショートさせるレベルまで調節が可能。目標を不必要に傷つけることを避けるような場合によく用いられる。通常はＶＪの腰に折り畳まれた状態でとりつけられている。仁木のＶＪ１号機のスタンスティックは特別仕様のものであり、天然理心流の有段者である彼女の剣技を活かすため、日本刀とほぼ同じ長さをもつ。
名前からも分かるとおり、外見は通常よりも銃身が長いことをのぞけばシリンダーを備えたリボルバータイプの拳銃であるが、実際はオートマチックタイプ。通常は安全装置としてトリガーがロックされており、隊長の許可を受けた管制員が解除することにより発射可能となる。撃鉄に見えるものはモードセレクトスイッチで、引くことによって射撃モードを変更することができる。射撃モードは以下の通り。
| ブレットモード | 実弾発射モード。３８口径弾を発射する。総弾数７５発のスマートマガジンを使用し、単発のセミオート射撃と連射のフルオート射撃の選択が可能。 |
| ショックモード | ショックビーム発射モード。目標を気絶、もしくはショートさせる際に使用される非殺傷目的用のモードである。スタンスティックと同じく、威力の調節が可能。 |
| ドリームモード | 即効性麻酔弾発射モード。目標が生物の場合のみ使用され、目標を眠らせる際に用いられる。麻酔薬の安全な量は相手によって異なるため、目標毎に細かく弾の種類が分けられている。 |
| ティアーモード | 催涙弾発射モード。銃口の下に取り付けるグレネード発射口から発射する。戦意を喪失させるために非常に有効だが、使用されることは少ない。 |
| マーカーモード | 発信弾発射モード。タキオン発信装置を備えた弾丸を使用。目標が逃走した場合でも、追尾が可能である。 |
| シグナルモード | 信号弾発射モード。高空に信号弾を打ち上げる。 |
| 消火剤 | 化学火災用の消化液。白い泡状。最も使用頻度が高い。 |
| 水 | 通常の水。消火用のほか、有害物質の洗浄、犯罪者に対する放水威嚇にも用いられる。ノズルの口径を狭め、水圧を高くすればウォータージェットとして使用可能。コンクリートの壁も切断できる。 |
| リキッドポリマー | 高性能接着剤、速乾性ポリマーの液状タイプ。白い液状で、壁面などに付着するとすぐに乾燥し、表面をしっかりと固める。崩壊の危険性のある壁や柱などに対して噴射し、補強の応急処置に用いるのが通常の使用法。このほかにも、暴走した作業用ロボットの動きを止めるために足下や関節部などに吹きつけるなど、その強い粘着性を利用して相手の動きを奪うためにも使用される。 |
| 火炎 | マルチブラスターは高熱の火炎放射器としても利用できる。この場合は、未知の細菌の漏出などのバイオハザードが起こった場合、細菌やウィルスなどを焼き払うために用いられる。 |
バズーカ砲によく似た形状の障害物撤去用機材。圭介のＶＪ３号機にのみ装備されている。砲身とほぼ同じ長さの長大な砲弾を装填し、砲口を壁に密着させて発射。その名の通り、くさびのように壁に砲弾を打ち込む。砲弾は高性能の指向性爆薬となっており、ウェッジシューター本体についた爆破スイッチにより爆破され、目標に巨大な穴を開ける。
コンパクトのような形状をした特殊フィールド発生装置。小島のＶＪ２号機にのみ装備されている。スイッチをいれると、半径２ｍに温度、放射能、病原体など周囲のあらゆる影響から内部を保護するフィールドを形成する。小島はこれによって即席の集中治療室をつくり、その中で応急処置を行う。
・マクシミリアンｍｋ��
アーサリアンのＶＪ「パーシヴァル」が標準装備する専用拳銃。イギリスの特殊部隊ＳＡＳの制式拳銃ＭＧ８０Ａ２をパーシヴァルにあわせて改造したもの。ＳＭＳのマルチリボルバーと異なり、射撃モードは９ｍｍ弾を発射する実弾モードとショックモードの２種類のみ。これは、パーシヴァルが犯罪鎮圧を主な目的として作られたことに由来する。
・ヒートククリ
パーシヴァルの標準武装で、ヒート機構を備えたくの字型の大型ナイフ。パーシヴァルの腰に装備されている。チベットの山岳民族「グルカ」が日常的に使う山刀の一種である「ククリ」を模している。ヒート機構を作動させ、刀身部分を赤熱させた場合、厚さ１０ｃｍの鋼鉄の板も易々と切り裂く。また、生物の体を切る場合は切断と同時に切断面を焼いて固め、血液や有害物質の漏出を防ぐ効果をもつ。
・ライアットバルカン
パーシヴァルの日本での実戦テスト後、新たにパーシヴァルに追加された、上下二連型の銃口を備える大型機関銃。対象内部で破裂して破壊力を増す１０．５ｍｍホローポイント弾を、毎分９０発発射。厚さ７０ｃｍの強化コンクリートの壁に直径６０ｃｍの穴をあけるほどの威力をもつ。
個人用装備
・制服
ＳＭＳ小隊全員が、勤務中に着用しているグレーを基調とした制服。男性・女性共用。特別に開発された特殊繊維で作られており、耐衝撃機能、防刃性に優れ、いざというときに隊員の体を守る機能を果たす。しかし、通常勤務時に着用することの方にも視点が置かれているため、快適性や伸縮性もかなり確保されている。夏服と冬服の二種類があり、長袖の冬服は特に有毒ガスに対応する機能まで備えている。なお、武装犯との銃撃戦にも備え専用の防弾ベストも各小隊には装備されてはいるが、そういった事態にはＶＪを装着した実動員があたることが多いため、あまり使われることはない。
・ライフガード
ＳＭＳ小隊全員が携行する護身用拳銃。マルチリボルバーの簡易版ともいうべきものだが実弾のほか、硬質ゴム弾と麻酔弾、ショックビームを発射することができる。女性隊員でも扱えるように軽量で、ハンドリングもよい。ホルスターに収納し、弾倉ケースと一緒にベルトに差して携行する。
・Ｓナビ
ＳＭＳ小隊全員が携帯する多用途小型携帯端末。コンパクト大の大きさだが、通信、データ収集、映像の記録と中継、地図の表示など、実に多くの機能を有する。コストの都合上通信媒体にはタキオンではなく電波を使用しているため、電波状態の悪いところでは通信ができなくなることもある。
・Ｅトレーサー
小型発信器。スイッチを入れることにより特定の波長のタキオン信号を発信し、それを衛星でキャッチすることでそれを持つ人間の位置を特定する。原理としてはＧＰＳと同じであるが、電波と異なり電場妨害要素に左右されないタキオンを使用しているため、ＧＰＳよりも正確といえる。実用化は始まったばかりで、重要事件の証人などの護衛が必要な人物に持たせるなどの運用がされている。
ＳＭＳの指揮車に３台搭載されている管制用コンピュータ端末。本体とNIBEQ搭載のヘルメット、各種センサー類のとりつけられたグローブで構成される。ヘルメットのバイザーにはＶＪのヘルメットのものと同じ網膜投影ディスプレイを装備。ヴァーチャル・リアリティと、脳波、音声、手の動きなどを複合したインターフェースにより、複雑なＶＪの管制作業もスムーズに行うことができる。しかし、複雑なシステムであることには変わりはなく、扱うためには専門の訓練を受けた管制員が必要不可欠である。なお、この管制システムは第１小隊の桐生亜矢管制員をリーダーとする開発チームによって製作されたものである。
ＳＭＳが用いるＶＪ輸送兼移動指揮車両。宇宙船や一部の航空機にしか搭載されていない反重力エンジンを初めて搭載した大型車両である。ＳＭＳに第一に求められる機動性の確保のため、設立委員会の要請を受けた自動車企業・鏑木自動車が総力をあげて開発した。形状は輸送トラックとほとんど変わりないにもかかわらず、反重力エンジンの搭載によりほとんど振動のないスムーズな走行、そして飛行が可能である。重力場制御技術により、車体がいかなる体勢でも内部は常に水平に保たれている。スピードは最高時速８００ｋｍ。第１小隊の管区内であれば、いかなる場所にでもすぐに駆けつけ、ＶＪを装着した実動員を送り出すことができる。多数の観測機材と通信装置を搭載し、情報収集・通信の能力も天下一品である。
外見はトラックであるが、運転席とカーゴ部分との間の間仕切りがなく、内部は一つの大きな箱のようになっている。第１小隊の場合、運転席には岸本聡美運転手が、助手席には小隈小隊長が座る。この運転席には現場の状況などのデータを表示する３Ｄ映像投影装置が備え付けられ、これを参照しながら隊長は指示を与える。
カーゴ部分には、ＶＪの格納スペースと管制ブースが置かれている。進行方向に向かって左の壁際にＶＪが配置され、実動員はそこでＶＪを装着する。管制ブースにはＶＲコンピュータが置かれ、管制員が管制作業を行う。カーゴ部最後部のドアは上下に開く大型ハッチとなっており、出動態勢を整えたＶＪはここから出動する。
ブリティッシュグリーンに染められた、ＳＭＳ専用のパトロール用エアカー。鏑木自動車製高性能スポーツカー「ハミングバード」をベースに改造を行った。元から高性能であったが、改造により最高時速２４０ｋｍで走行が可能となり、機密性や耐久性も非常に向上している。さらにパトロール用車両という目的のため、指揮車よりは劣るが観測機材や通信機材も充実している。車輪を持たないエアカーであるため、走行する場所を選ばない汎用性を見せる。ＡＩによる自律走行も可能。
車体サイズ(L×W,mm) 4910×1890
最高時速 (km/h) 240 over
圭介の私物であるエアバイク。私物ではあるが、圭介はこれを任務中にも使用するため、ほとんど第１小隊の装備の一つとして数えられている。原型は市販の中型エアバイク「ツヅキＨＲ２５０ シルフィード」であるが、圭介が高校時代に購入して以降コツコツとチューンナップを続けてきたため、もはや本来とは別物と言えるほどのパワーアップを遂げている。本来はブルーの車体色も、赤に塗り替えられている。最高時速２２０ｋｍ。生身の人間ではその全てを制御できないパワーをもつが、ＶＪを装着することによって圭介はその力を最大限に利用することが可能となった。しかし、あくまでも個人の所有物とされているため、任務中に損壊しても修理費は圭介本人が支払うことになり、本人はそれに頭を痛めている。ニックネームは某有名ＳＦ映画に登場する「宇宙一速いガラクタ」から。