地球は今、狙われている・・・。今、宇宙に漂う幾千の星から恐ろしい侵略の魔の手が・・・。



 幾百万の星々の輝く大宇宙。その辺境を、ひとつの小さな飛行物体が飛行していた。

 形状は、円盤状の本体から剣のような細長い突起物が突き出している。一言で言うなら、カブトガニに似ているだろうか。銀色に輝くその円盤の中では、一人の男がコンソールパネルに見入っていた。顔には大きな角ばった奇妙な仮面をつけており、全身をローブのようなもので包み、手には槍を持っている。その男はレーダー画面を凝視してから、何も映っていないことを確認し、ため息をついた。

 「やれやれ。ようやっとまけたようだな」

 男は、ついこの間まで宇宙のとある星にある刑務所に収監されていた。幾多の星の侵略を企て、自ら作り出した「兵器」によって計り知れない被害をもたらしたことにより、懲役1万2千年という極めて重い刑を課せられていた。それは彼の種族の長い寿命を考えても、彼にとっては死までの長い時間をどうしようもなく退屈である刑務所の中ですごさなければならないことを示していた。

 彼は、それに耐えられなかった。そしてついこの間、彼は刑務所から脱走した。執念深い性格である彼は、心底自らの野望をあきらめてはいなかった。脱走後、捕らえられる以前に刑務所の星の近くにある無人の星に隠しておいたこの高速宇宙船に乗り換え、追っ手の追跡の手を逃れたのである。

 「さて、と・・・」

 彼はイスから立ち上がると、船内を歩いてとある金属製の五角形のドアの前に立った。横に設けられているパッドに彼が手をかざすと、ドアはシュッという音とともに開き、室内に立ち込めていた白い冷気が飛び出してきた。彼はすばやく中に入り、ドアを閉めた。

 「・・・」

 そこは、零下数十度という極寒の世界だった。そんな寒さにもかかわらず、男は震えもせずに立ち、壁面に備え付けられているケースに目をやった。そこには、金属でできた四角い箱が二つと、奇妙な卵形の物体が二つ、厳重に保管されていた。

 「万一の備えだったとはいえ、これしか保管しておかなかったのは失敗だったな。おまけに、この船には研究設備がない。これでは、新しい兵器を生み出すこともできん・・・」

 男はため息をついたが、やがて、そんな後悔の念を吹き飛ばすように続けた。

 「まあ・・・いい。ここにあるのは、どれも選りすぐりのもの・・・。四つもあれば、あの星を侵略することぐらい、造作もないことだからな・・・」

 男はそう言って低い声で笑い、もう一度ケースに保管されているものを、満足そうに見つめた。と、そのときであった。

 ビーッ!! ビーッ!!

 「!?」

 船内に警報が響き渡る。男はそれを聞くと、急いでコントロールルームに戻り、レーダー画面に目を落とした。

 「忌々しい奴らめ・・・まだ追ってくるか!!」

 思ったとおり、レーダーには巨大な影が映っていた。もっとも、この間よりはずっと数が減り、それはひとつだけであったが・・・。

 「おとなしく投降せよ。刑務所に戻れ」

 そんな意味の言葉が、モニターに表示された。本来はもっと穏やかな言い回しなのかもしれないが、この宇宙船に搭載されている翻訳機は、「彼ら」の言葉をこのようにしか翻訳してくれないのだ。そして、男にとってはそれで十分だった。

 「自動迎撃モード発動! ワープ航法発動準備!!」

 男はコンソールパネルに向かってそう叫んだ。

 「了解。自動迎撃開始。ワープ準備開始。ハイパースペース突入まで、あと10秒・・・」

 コンピュータの音声がそう告げる。それと同時に、宇宙船が彼の指示に答える行動をとりはじめた。

 シュビビビビビッ!!

 まず、円盤の後部(円盤なのでどこが前なのかはわからないが)から伸びた突起の先端から、赤い光線が発射された。さらに、円盤の外装のあちこちが開き、そこからせり出した砲台が次々に赤い光弾を発射する。しかしそれにひるまず、レーダーに映る影はなおも追跡をしてくる。

 「しつこい奴だ!!」

 男がそう毒づいた時

 ガゴォォォォン!!

 「!?」

 船体に大きな衝撃が走った。

 「後部防御シールドに被弾。船体への被害なし」

 追跡者もまた、反撃を仕掛けてきたのだ。バリアによってそれが防がれたことをコンピュータがすぐに報告したが、このままではいくら頑丈であってもこの船はもたない。

 「ええい、ワープはまだか!?」

 焦った男がそう言ったとき、

 「ハイパースペース突入準備完了。突入まで、あと5秒・・・」

 「!」

 それを聞いた男は、すぐにシートに座って体を座席に固定した。

 「4・・・3・・・2・・・」

 「フフフ・・・さらばだ。親愛なる「光の巨人」よ・・・」

 仮面の下で、男はそうほくそ笑んだ。

 「1・・・0!」

 ヒュンッ!!

 その直後、円盤は次元を超えた加速を行い、超空間へと姿を消した。





 目の前で円盤が姿を消し、「彼」はしばらく虚空の宇宙空間にその身を浮かばせていた。呆然としていたわけではない。生まれもって備えた、人間の常識をはるかに超える優れた感覚を研ぎ澄まし、次元の波紋を感じ取りながら、消えた円盤の行き先を探ったのである。

 「・・・!」

 その結果を知ったとき、「彼」は少なからず驚いた。が、すぐに慌てることなく、再び精神を集中し始める。はるか遠くの「故郷」にいる、自分の「上司」に報告するために・・・。

 「私だ」

 落ち着いた声が、「彼」の耳に聞こえてきた。テレパシー・・・「彼ら」の備える能力の、ほんの一部である。その声に応えて、「彼」は自分の名を名乗った。残念ながら、その「名前」を表現する音は、地球には存在しない。

 「申し訳ない。ギガゾーンを逃がしてしまった」

 だが、「上司」はやはり落ち着いた声で、叱責するでもなく答えた。

 「そうか・・・。しかたがない。君はよく追いかけてくれた。それで、奴はどこへと逃れた?」

 すこしの沈黙ののち、「彼」は「上司」にその答えを告げた。

 「・・・地球だ」

 「なるほど・・・。そうかとは思ったが・・・」

 「奴の考えはわかる・・・。奴の目的にとっては、うってつけの星だからな・・・」

 そう言うと一拍置き、「彼」は「上司」の名を呼んだ。やはりそれもまた、地球の言葉では表現できない。

 「私を、地球へ行かせてほしい。多くの危機を乗り越え、平和な時を送っているあの星の人々を、不幸な目に遭わせるわけにはいかない」

 「恒点観測員1293号・・・気持ちはわかるが・・・」

 「上司」は彼をもう一つの名前であるナンバーで呼んだ。

 「知っているはずだ。あの星での我々の活動時間は、限られている。常に死の危険に身をさらしながら戦うことになるのだぞ」

 「わかっている。だが、私の仲間達もまたそれを乗り越え、あの星を守ってきたはずだ。今回のことは、私にも責任はある。ギガゾーンを止めるまでの間だけでもいい。頼む」

 静かだが、意志のこもった声。「上司」はしばらく沈黙していたが・・・

 「・・・いいだろう。地球へ行き、ギガゾーンの侵略を止めるのだ。健闘を祈る」

 「ありがとう・・・」

 それを最後に、「上司」の声は聞こえなくなった。

 「・・・」

 「彼」は首を回すと、遙か彼方に見える大銀河に目を向けた。数億の星の集まりであるあの銀河の中に、彼の目指す星、「彼」の仲間達が守ってきた、宇宙の星の中でもとりわけ美しい、青い星がある。そこへ向かうことに誇りを感じながら、彼はその力を最大限に使って、銀河を目指し飛び始めた。


ウルトラマンサムス

第1話

再来の巨人


 ゴァァァァァァァァァァッ!!

 眼下で巨大な獣が、咆吼を上げている。といってもそれは、ゾウや鯨などではない。そんなものをひとのみにできてしまいそうな、人間の理解を超えた生物なのだ。

 体の大きさは、目測では30m程度。海の生き物ならわかるが、これで陸の生き物だと言うのだから驚きだ。大きさもさることながら、その姿形はもっと奇妙である。一言で言うなら、竜と亀を合体させたといった感じだろうか。全身は茶色。巨体を支える太い足は、ゾウガメの足を思わせ、三本の指の先には鋭い爪が生えている。背中には洗濯板を思わせる、固そうな凸凹がついていた。なによりすごいのは、その顔つきだった。見るからに凶暴そうである。頭頂部から二本、両方の目の上に二本、そして鼻の上に一本。合計5本の角が生えている。ただでさえ鋭い牙の並んでいる口の端からは、セイウチのように湾曲した二本の牙がにょっきりと生えていた。そんな恐ろしい姿の巨獣が、感情のない爬虫類のような目をギョロギョロさせ、山間部の木をなぎ倒しながらゆっくりと進んでいるのである。

 ヒィィィィィィィィン・・・

 空気を切り裂く音をたてながら、その巨獣の頭上高くを一機の航空機が飛んでいく。長剣を思わせる鋭いフォルムは、間違いなく戦闘機のものである。機体側面には「SAMS」の文字とともに、馬の頭をあしらったチェスの駒・・・「ナイト(騎士)」のエンブレムがついていた。

 「目標確認。間違いないな、2年前に出てきた奴だ」

 戦闘機を操縦するパイロットは、眼下の巨獣を確認するとそう言った。

 「ヒカル、念のため、データを送信してくれ」

 「了解」

 パイロットがそう言うと、コクピットのディスプレイにその怪獣のデータが表示された。

 「防衛軍による分類、地底種第4号、通称「パゴス」。学名、パゴストータス。身長30m、体重2万t。中生代にアジア大陸に生息した原始生物がウランを常食にすることで怪獣になったと言われています。1950年に北京郊外に現れてウラン貯蔵庫を襲ったのが初出現で、日本には1966年に現れて以来、4度の出現が確認されてます。一番最近現れたのは、今ケイスケ君が言ったとおり、2年前の丹沢山中ですね」

 ヘルメットのヘッドホンを通して、明るい少女の説明が響く。

 「ま、何度も出てきた怪獣なら、対処のしようもありますね」

 陽気な男の声と共に、同じ空域にもう一機航空機が現れた。戦闘機よりも一回り大型で、形も少し角張っている。こちらの機体側面にも、やはりチェスの駒で「ビショップ(司教)」のエンブレムが描かれている。

 「油断しないでよ。比較的生態がわかっているとはいっても、怪獣なんだから」

 落ち着いた女性の声が、陽気な声をたしなめた。

 「わかってますよ。怪獣に向かうときは、常に一歩身を退きこちらの常識が通用しない相手だってことをわきまえる。そういうことですよね?」

 陽気な声は常に彼女から言われていることを復唱した。と、その時である。怪獣が突然、亀のような首を伸ばし、口を天に向かって開けた。すると・・・

 カァァァァァァァァァァァ・・・

 その口から、美しい金色の光が天に向かって伸びていった。

 「わぁぁ・・・きれいです・・・。金色の虹みたいですね・・・」

 戦闘機パイロットの耳に、先ほどの少女のうっとりとした声が聞こえてきた。

 「おいおい、なにをのんきなこと・・・。たしかにきれいだけど、ありゃれっきとした破壊光線だぞ?」

 「ニイザ君の言うとおり。あれは分子構造破壊光線といって、読んで字の通りの効果をもつ光線よ。怪獣の生理現象の一種らしいけど・・・」

 「はた迷惑な生理現象ですね。当たらないように気をつけないと・・・」

 パイロット達の間で、そんな会話が行われる。

 「でもリーダー、報告通り、今までと比べてあれを吐く回数が多くありませんか?」

 戦闘機パイロットは、ディスプレイのデータを見ながらそう言った。たしかにあの怪獣は、一時間前に出現してからこれまでの間に、五回も分子構造破壊光線を吐いているのである。これまでの出現データと比べて、その回数が多いのが気になる。

 「気が立っているのかもしれないわね・・・。なぜそうなのかは、分析してみないとわからないけど・・・」

 その時である。

 「お待たせ。これで全員集合だな」

 今度は、全長50mに達するかというような巨人機が、その空域へ現れた。無骨なボディは、輸送機を思わせる。機体側面のエンブレムもそれを意識してか、やはりチェスの駒、「ルーク(城)」であった。

 「キャップ、遅いですよ」

 「すまんすまん。さて、すぐに分析にかかろう。キリュウ」

 「はい・・・」

 その機内では、緑色の長い髪をヘルメットからのぞかせた女性が、黙々と端末のキーを叩き始めた。そのディスプレイにめまぐるしく情報が表示された末、彼女は言った。

 「解析、終わりました・・・」

 「よし。それで、あいつの気が立っている理由は?」

 「それは・・・」

 と一拍置いて、彼女は答えた。

 「・・・お腹がすいているんです」

 その言葉に、操縦桿を握っていた黒髪のショートカットの少女は思わずつんのめりそうになった。

 「た、単純・・・」

 「まあ、怪獣って言っても、生き物ですから・・・」

 戦闘機パイロットもやや呆れながらそう言う。

 「ま、それだけならなによりだな。今まで通りの対処で、今回もいけそうだ」

 「しかし、このままの状態では危険では?」

 「そうだな・・・。よし、ニイザ」

 隊長はニイザと呼ばれたパイロットに声をかけた。

 「作戦を始める前に、鎮静剤を打ち込め。いくらかなだめてから、作戦にはいる」

 「了解!!」

 隊員達の声が、一斉に響いた。

 「よし、いくぞ!」

 「気をつけて下さいね?」

 「ああ!」

 ギィィィィィィィィィィン!!

 ヒカルの言葉にそう応えると、彼は一気にスロットルを吹かし、怪獣の背後から一気に突っ込んでいった。

 「鎮静剤、発射!!」

 ボシュッ!!

 彼が操縦桿のトリガーを引くと、戦闘機の翼の下に装備されたミサイルが、煙を引いて怪獣の背中へと飛んでいった。

 ドスッ!

 ゴァァァァァァァァァァァァン!!

 体の大きさにしては小さいミサイルが突き刺さり、怪獣が驚きの叫びを上げる。そのまま頭を振り回して分子構造破壊光線を吐きまくったが、やがて、それも収まり、心なしか様子がおとなしくなっていく。

 「・・・どうやら、落ち着いたみたいですね」

 旋回を続けて様子を見ながら、彼はつぶやいた。

 「よし、作戦開始。ニキ、コジマ、頼むぞ」

 「了解。作戦を開始します」

 「やれやれ、ゾッとしませんね。怪獣の鼻先にエサぶら下げて連れ回すなんて」

 「いざというときは私がフォローするから大丈夫よ。肩の力抜いて」

 すると今度は、攻撃機がパゴスの目の前へとゆっくり接近していった。先ほどまでなら危険極まりないが、今は鎮静剤がよく効いているためか、パゴスはおとなしくそれを見ている。

 「ウランカプセル、懸架」

 スイッチを押すと、攻撃機の下部からワイヤーに繋がれたカプセルが、ゆっくりと下ろされてきた。それを見たパゴスが、首をもたげて強い反応を見せる。

 カプセルの中には、パゴスの大好物である濃縮ウランが詰められていた。好物の匂いならぬ放射線に気がついたパゴスは、緩慢だった動きを活発化させ、目と鼻の先に垂らされているカプセルに食らいつこうとする。しかしその寸前、カプセルはスッとその前に動き、パゴスはカプセルに食らいつき損ねた。それを追うパゴス。しかし、そのたびにカプセルには逃げられてしまう。そうこうしているうちに、パゴスはまんまと攻撃機の誘導に従わされていた。

 「ハハ・・・まるでアニメだよ・・・」

 そのどことなく微笑ましい光景を見ながら、指令機のパイロット、サトミは呆れたように笑った。

 「そうはいっても、これがあの怪獣への伝統的な対処法だからな」

 「ハットリさん、近くにパゴスを誘導するのに適当な場所は?」

 「あ・・・はい!」

 攻撃機からの求めに応じて、ヒカルはすぐに地図データの分析を始めた。

 「・・・ありました。10時の方向に無人の渓谷があります。ここに下ろせば、周辺の被害はないと思います」

 「了解。そこに誘導します」

 カプセルをパゴスの鼻先に垂らしたまま、絶妙のタイミングで前に進みつつ、やがて攻撃機は、パゴスを切り立った谷間に誘導した。

 「よし、そこならいいだろう。ニキ、ワイヤーカット」

 「了解。ワイヤーカット」

 すると、地上ギリギリまで高度を下げた攻撃機からワイヤーがカットされ、カプセルが地上へ落ちた。そして攻撃機は、その場から飛び去る。そのあとを追ってきたパゴスは、カプセルが落ちているのを見てそれに歩み寄り、カプセルにかじりつき始めた。

 「食べ始めましたね」

 「緊張するのは、ここからだな。お腹一杯になったら、おとなしく引き揚げてくれるかどうか・・・」

 上空から、固唾を呑んで見守る一同。そんな中、黙々とウランを食べていたパゴスは、やがて食べ終わると・・・

 カァァァァァァァァァァァァァァ・・・

 天に向かって口を開き、一際大きな「金色の虹」を吐き出した。

 「わぁ・・・今までで一番すごいですね・・・」

 ヒカルが感嘆の声を漏らす。それはどことなく、食事に満足した後生じた眠気を、あくびとして吐き出しているようにも見えた。すると・・・

 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・

 怪獣はその太い前足で盛大に地面をかき、膨大な量の土砂をまきちらしながら、その体を地面の中へと潜らせていった。やがて・・・地響きは小さくなり、怪獣の姿は地上から消えた。

 「パゴス、潜航していきます・・・。今、安全深度に到達しました」

 鎮静剤とともに撃ち込んだ発信弾の信号を見ながら、ヒカルが確認の報告をした。その声とともに、一気に緊張した空気がほぐれる。

 「よし、作戦終了。残留放射能の処理など、以後の業務は処理班に引継ぎ。これより、本部に帰投する!」

 「了解!」

 隊長の声に、隊員達はみな、安堵の混じった返答を返した。





 1960年代、戦後の傷痕から立ち直り、驚異的な復興を遂げつつあった日本。それと同時に進行する環境破壊に呼応するように地底から、海から、空から、そして宇宙から、次々と日本を中心とする世界各地に出現した超生命体「怪獣」。それと同時期に、やはりこの青く美しい星に魅せられ、地球侵略を試みた数々の宇宙人達。圧倒的な破壊力を持つこれらの敵に対応するには、人類は既存の軍事力や警察力では限界があった。増加の一途をたどる怪獣の出現や宇宙人の侵略に対して、地球防衛軍(TDF)、国際科学警察機構など、様々な治安維持組織が母体となり、科学特捜隊、ウルトラ警備隊、MATなど、その時代時代の対怪獣・対異星人特殊部隊が結成され、怪獣の破壊行動や宇宙人の侵略などの怪事件に対応していった。

 増加の一途をたどった怪獣の出現であったが、1970年代をピークにその数は頭打ちとなり、1980年代を迎えるのとほぼ同時期を最後に、それまでのような頻繁な出現は見られなくなり、同時に、宇宙人の脅威もほぼ去った。とはいえ、怪獣そのものの脅威が消えたわけではなく、それまでのような週に一度は出現するようなことはなくなったが、数ヶ月に一度は必ず出現。怪獣災害は、やはり大きな問題であった。

 時は流れ、2083年、地球防衛軍によって、現代でもやはり世界有数の怪獣多発地帯である日本にウルトラ警備隊の流れを汲む新たな対怪獣エキスパートチームが設立された。その名は、Special Anti Monsters Squad、対怪獣特殊部隊、通称「SAMS」(サムス)である。地球防衛軍の中でも厳しい査定の結果選ばれた選りすぐりの隊員で構成されるSAMSは、通常調査では解決し得ない怪事件に赴き、地球防衛軍の超兵器を運用する資格と能力を持っている。本部は東京湾上に浮かぶ巨大人工島、東京第24区、通称「海上区」の上に置かれ、「マリナーベース」のニックネームで呼ばれている。オグマ隊長以下6名の優秀な隊員で構成され、主に怪獣の出現を始めとする怪事件の調査・解決に日夜奔走しているのである。





 東京湾上に浮かぶ、巨大な人工島。東京都の第24番目の区、通称「海上区」と呼ばれる場所。その中心部には、7階建ての一つのビルがそびえ立っていた。

 7階建てとは言っても、普通の建物とは全く違う。一つの階が、普通のビルの3階分か4階分はあるのである。この建物こそ、SAMSの本拠地となっている、通称「マリナーベース」である。今は夜であるが、その内部では常時700名以上の隊員達が管区内の安全に目を光らせており、明々と灯りが灯されている。

 そんなマリナーベースの中でも、5Fにある「スペシャル・セクション」と呼ばれている場所。そこはSAMSの中でも、実際に怪事件に取り組む栄えある実動部隊に割り当てられている。

 その中でも彼らが現場に出る以外の一日の多くを過ごす場所、「ミッション・ルーム」。そこには今、全員が集まって早速テレビで報じられている今日の任務を見ながら、その反省を行っていた。

 「とはいうものの・・・」

 と、画面を見ながら隊長のオグマ・シュウイチが、いつもながらののほほんとした声を出す。一見してとてもエリート部隊であるSAMSを率いているとは思えないが、長い付き合いの人間ほど、その資質はよく理解できる。

 「・・・反省すべき点なんて、ほとんどないな。この仕事にしちゃあ、怖いぐらいうまくいったよ」

 「比較的データが揃っている相手だったからこそ、今回はここまでうまくいったと考えた方がよろしいですね」

 副隊長のニキ・ヨウコが、うなずきながら言った。きれいな青いストレートロングの髪をもつ切れ長の目の美人で、オグマの片腕としてよく働いてくれている、才色兼備の才媛である。

 「俺の操縦の腕は、評価しちゃくれないんですか?」

 攻撃機・SAMSビショップのパイロットを務めていたコジマ・ヨシキ隊員が口を尖らせる。専門は救急医療の医師なのだが、SAMSに入ってからは本業以外にもパイロットも務めている変わり種だ。

 「そうは言ってないわよ。コジマ君の操縦も、たいしたものだったわ」

 「でも、今回みたいな任務ばかりだといいですよね。いくら怪獣でも、すぐに殺してしまうというのは・・・」

 指令機・SAMSルークの戦術担当オペレーター、ハットリ・ヒカルがそうつぶやく。獣医の娘として昔から動物と触れあってきた彼女はとりわけ何に対しても優しく、できるなら怪獣も殺したくないという思いも、他の隊員以上に強い。

 「そうだね・・・。例え人を守るためでも・・・できるかぎり・・・命を奪いたくはないね・・・」

 緑色の長い髪をもつ神秘的な女性隊員、分析オペレーター担当のキリュウ・アヤ隊員が、そう同意する。豊富な科学知識を持ち、怪獣対策を編み出す切り札となっている、SAMSのブレイン的存在である。もっとも、彼女もヒカルも、どうしてもというときには怪獣の命より人の命を重んじなければならないという現実は、しっかりと理解した上でこの仕事をしている。

 「でもさぁ・・・あたしたちって、いい時代に生まれたと思わない?」

 黒い髪を短く切ったボーイッシュな感じの少女、SAMSルークパイロットのキシモト・サトミ隊員が、突然そう言った。

 「いい時代って、どういうことだよ?」

 「怪獣の出現っていっても、何ヶ月にいっぺんの話でしょ? 今日の出動だって、3ヶ月ぶりの怪獣出動だし・・・。あたしはどうも実感わかないけど、100年ぐらい前には、毎週みたいに怪獣が出てきたり宇宙人が攻めてきたりした時代があったんでしょ? それに比べたら、ずーっといい時代に住んでるような気がしてさ・・・」

 彼女の言うとおり、怪獣の出現は昔に比べて大幅に減っている。これを平和というべきかどうかは人によって意識の差があると思われるが、もはや怪獣は地震や津波と同じく、一つの災害として(といっても、他の災害と比べてけた外れに厄介ではあるが)一般に認知されている。毎週のように出現していた時代の人達はたまらなかっただろうが、今は違う。数ヶ月に一回というペースぐらいなら、人々も怪獣の出現に対してノイローゼになることもなく、冷静に対処することができた。怪獣の被害はSAMSや防衛軍によってだいたいは最小限にくい止められているので、市民生活に対する影響も昔よりずっと少なく、平和と言えば平和、というのが、この時代の、特に日本の人々の今の時代のとらえかたである。

 「たしかに、いい時代かもしれませんね。今日の怪獣は何度も出てきた奴だからよかったけど、いつもはだいたい見たこともない怪獣が出てきて、四苦八苦してますから・・・。そんなことが毎週起こったりしたら、大変なんてものじゃないですよね。昔の人に、頭が上がらないなぁ・・・」

 スポーツドリンクを持った青年、戦闘機・SAMSナイトパイロットのニイザ・ケイスケ隊員がそう言った。去年ヒカルとともに配属されたばかりのルーキーパイロットながら、すでにその腕は仲間から絶大な信頼を受けている。

 「昔の人かぁ・・・。たしかに昔の人のこと考えると大変だったんだなぁって思うけど、一つだけ、うらやましいって思うこともあるなぁ・・・」

 サトミがそうつぶやいた。

 「なんですか? うらやましいって」

 当然ながら、ケイスケが尋ねる。

 「そこでクイズです! 今の時代になくって、百年前にはあったものってなぁんだ?」

 サトミが楽しそうに言ったが、ケイスケはキョトンとして言った。

 「そんなの、いくらでもあるじゃないですか。ドライ・ライトエンジンとか、タキオン式通信装置とか・・・」

 「そーゆーのじゃなくって! ええっとね・・・じゃあヒント。「あった」って言うより「いた」って言う方が、正しいかな」

 「いた・・・?」

 その言葉にケイスケ達が考え始めてすぐ、ニキがポツリと言った。

 「”光の巨人”・・・かしら?」

 その言葉に、全員が彼女の方を見る。

 「すごい、リーダー! あたりですよ!!」

 サトミがわざとらしく拍手をした。

 「なぁるほど・・・「ウルトラマン」か。たしかに、そればっかりはこの時代にはいないな」

 コジマが納得した様子でうなずいた。





 「ウルトラマン」。それはこの地球の危機を幾度となく救ってきた、主にM78星雲光の国からやって来た、無敵のヒーロー達のことである。

 かつて、怪獣が毎週のように姿を現し、人類の平和を脅かしていた頃。爆発的に増大していく怪獣の出現に対して、人類は最初の対怪獣専門チームとも言える科学特捜隊を中心としてその解決に当たっていたが、圧倒的なパワーを持つ怪獣、そして、時を同じくするように地球侵略に現れるようになった宇宙人達に対して、それはどうしても力不足となっていった。そんな時、「彼」は現れた。銀色の体に鮮やかな赤いラインを持つ、身長40mのたくましい巨人。おそれることなく怪獣や宇宙人に立ち向かい、スペシウム光線などの光線技や超能力を駆使し、平和を脅かす敵を倒す無敵のヒーロー。人々は彼のことを、尊敬の意味を込めてこう呼んだ。「ウルトラマン」と。何の報酬も見返りも要求することなく、ただ慈愛の心をもって、人類を、地球を、そして宇宙を守るために戦う光の巨人。彼の出現によって、人類は大きく救われた。やがて、彼は強敵との戦いで一度は命を失ったが、その後も地球が怪獣や宇宙人の危機にさらされるたびに、彼の仲間である数々のウルトラマン達がその戦いに加わり、人類の危機を救ってきた。

 しかし・・・1980年、怪獣が爆発的に出現していた時代の終焉と同時に、それ以降、怪獣の出現は激減し、宇宙人の侵略もなくなり、彼らもまた、人類の前から姿を消した。もう、自分達が手助けをする必要もなく、人類は平和に暮らしていける・・・そう言っているかのように。それ以降、怪獣はやはり人類にとって最大の災害であることは今でも変わってはいないが、大きな戦争もなく、人々は平和に暮らしていると言える。





 「お父さんと一緒に初めて東京に遊びに来たとき、博物館に置いてあった初代ウルトラマンの足形を見たときのことは、一生忘れられないなぁ・・・。昔はホントにこんな巨人がいて、怪獣や宇宙人からあたしたちを守ってくれてたのかって思うと、なんていうか、さ・・・」

 サトミは思い出に身を馳せるように、目を上に向けた。東京・上野の国立科学博物館には、今でも初代ウルトラマンの残した足形が、巨大なコンクリートを切り抜いて保存されている。

 「もしかして、それもサトミさんがSAMSに入った理由なんですか?」

 ヒカルが尋ねると、サトミは照れくさそうに笑いながら言った。

 「エヘヘ・・・実は、そうだったりして・・・。それから、いろんなウルトラマンのビデオを見たりして、すっかり憧れちゃってね・・・。親とかには呆れられたけど、正義のチームに入ればウルトラマンに一番近くで会えるかもしれない、って思ってさ」

 「フ・・・サトミ君らしいね・・・」

 「憧れもそこまでいったら大したもんだ」

 アヤとコジマが、それぞれ誉め言葉らしいことを口にする。

 「あ、でも俺も似たようなもんですよ?」

 その時、ケイスケが手を上げた。

 「あ、そうなの!? 同志じゃん!!」

 「いや、サトミさんにはかないませんけどね。でも、たしかにウルトラマンには憧れてましたよ」

 「じゃあ、SAMSに入ったのも?」

 「それはちょっと違うかな・・・。SAMSのスーパーメカを整備してみたいって思って、地球防衛軍に入ったら・・・適性検査でパイロットに向いてることがわかって、結局実際に使う方に入っちゃったんですけどね」

 「お前なぁ・・・。そういうのは、よそじゃ口にするなよ。世の中には寝ても醒めてもうちに入ることしか考えてないのに入れないような奴だっているんだから」

 コジマが呆れたように言った。

 「すいません、気をつけます・・・」

 「いや、悪気はないのはわかってるよ。お前の場合、なんかこう・・・黙ってたって、幸運の方が向こうから転がり込んできそうだもんなぁ・・・」

 コジマの言葉に首を傾げるケイスケ。その横で、ヒカルが微笑んでいた。

 「ま、たしかにここにいる人間なら、誰だって多かれ少なかれ、そういう気持ちはあると思うよ。ただ・・・ウルトラマンがいない時代ってのも、それはそれで、いいかもしれないぞ」

 オグマが煙草に火をつけながら言った。本物の煙草ではなく嫌な匂いはしないので、誰も文句は言わない。

 「きっと向こうだって、できればこっちには来たくなかったんだと思うよ」

 「なんでそういうこと言うんです!? なんの見返りも期待しないで、あたし達のために戦ってくれたってのに!!」

 納得がいかないという表情で、サトミがバン!!と机を叩いた。

 「いや、もちろん向こうが嫌々やってたってわけじゃない。そんな気持ちじゃ、赤の他人を守ってやろうなんて思わないよ。そうじゃなくって・・・親心って奴だよ、たぶん」

 「親心?」

 「早く自立してほしいっていうのかな・・・。ほんとは手助けなんかしなくても、俺達だけで頑張ってほしかったんだと思う。けど、怪獣や宇宙人がゾロゾロ出てきたから、それは無理なことだった。だからウルトラマンは、怪獣が少なくなって、宇宙人が来なくなってからは、やっと安心して自分達の国に戻れたんだと思うよ。こうしてなんとか俺達だけで地球を守れてるってのは、彼らに誇れることなんじゃないかな」

 「う〜ん・・・」

 「なんにしても、彼らは傷だらけになってでも、俺達を守ってくれた。そんだけ俺達を愛して、将来を期待してくれたってことだろう。彼らはきっと、オトナなんだよ」

 「オトナ?」

 「そ。あんだけすごい力を持っているのに、それを自分達のためじゃなく、他人である俺達のために使ってくれる。子供じゃない、オトナの考えることだ。世の中じゃウルトラマンを神様みたいに考えてる奴らもいるが、俺はむしろ、彼らはオトナなんだと思うよ」

 全員がオグマの話に聴き入っていたが、やがてオグマはパンと膝を叩き、イスから立ち上がった。

 「ま、彼らが傷だらけになってまで守ってくれたこの星だ。託された以上は、恥ずかしくないように自分達で守ってかなきゃならない。そのことを肝に銘じて、明日からも仕事に励んでくれ。以上で、本日の勤務を終了する。パトロールのニイザと当直のハットリ以外は、これにて解散」

 「ご苦労様でした!!」

 隊員達が一斉に敬礼すると、オグマはそそくさとミッション・ルームから出ていってしまった。

 「オトナかぁ・・・そんな風に考えたことなかったなぁ。やっぱりキャップも、ああ見えていろんなこと考えてるんだぁ」

 「失礼よ、キシモトさん」

 ニキが軽くたしなめる。

 「俺としては、今も宇宙からウルトラマンは見守ってくれてるって思うだけで、嬉しい気分になれますね。特に、夜空を飛んでたりすると・・・」

 そう言って、ケイスケは立ち上がって、ニキに敬礼した。

 「ニイザ・ケイスケ隊員! 定時パトロールに出発します!」

 「いってらっしゃい」

 ニキは笑顔で軽く手を振った。

 「気をつけて下さいね」

 ケイスケは軽くヒカルの肩を叩くと、ミッション・ルームを出ていった。

 「ま、たぶん何事もないと思うけどね。見てみなよひかるちゃん。ほら、綺麗な満月だよ」

 そう言ってサトミは、窓の近くにヒカルをさそった。彼女の言うとおり、空には綺麗な満月がかかっていた。

 「わぁ! 本当です。雲がないと、こんなに綺麗に見えるんですね」

 「・・・」

 はしゃぐ二人。それを見ながらアヤは、満月の日こそいつもとは違ったことが起こることが多いと思っていたが、それを口に出すことはなかった。





 マリナーベースの6F、7Fは、SAMSの保有する航空兵器の発着場となっている。ビルを貫くように置かれているエレベーターは1Fの格納庫を兼ねた整備場とも通じており、そこから数多くの兵器がエレベーターで6F、7Fまで運ばれ、発進を行う。ヘルメットを小脇に抱えたケイスケは、6Fへとやって来た。

 「あ、おやっさん。ポーンの整備、終わってますか?」

 三角形の形をした小型の全翼機の近くで、数人の整備員に囲まれていた初老の技師に、ケイスケは声をかけた。

 「おう。部品のチェックに時間がかかって遅れちまったが、今さっき終わったところだ。いつでも飛ばせるぜ」

 マリナーベースの主任技師として、数々の超兵器の整備を行っているナラザキ・タツヤ整備班長は、ややぶっきらぼうな言い方でそう答えた。

 「どうも。これからすぐに出すんで、悪いですけど・・・」

 「ああ。これから格納庫の方へ戻るとこだったんだ。無事でな」

 ケイスケは軽く手を振ると、ステップを昇ってコクピットへと身を滑らせた。単座式の小型STOL偵察機、SAMSポーンの操縦席はお世辞にも広くはないが、それでも十分である。シートに深く座り、ハーネスをしっかり固定して、ハッチの開閉ボタンを押してキャノピーを閉じる。エンジンスイッチを押すとメインエンジンに火が入り、ドライ・ライトエンジンの立てる静かな音が伝わってくる。それから慣れた手際で様々なスイッチをバチバチと入れていくと、コクピットの中は計器類の静かな音と光の合唱に包まれる。最後にケイスケは通信スイッチを入れると、管制室に通信をいれた。

 「こちらSAMSポーン、ニイザ・ケイスケ。これより定時パトロールに出発するので、離陸許可がほしい。4番ゲートの開放を求む」

 「こちら管制室。離陸を許可します。これより、4番ゲートを開きます」

 「感謝する」

 「FOURTH GATE OPEN! FOURTH GATE OPEN!」

 それと同時に、ケイスケの目の前にある隔壁がゆっくりと左右に分かれ、満月に照らされた明るい夜空が視界に入ってくる。

 「4番ゲート、完全開放を完了」

 「了解。エンジン出力最大。SAMSポーン、発進準備完了!」

 ケイスケはそう言うと、スロットルレバーに手をかけた。

 「All right! Let's Go!!」

 バシュウウウウウウウ!!

 機体後部のノズルから火を噴き、炎の尾を引きながら、SAMSポーンは満月の夜空へと飛び立った。発進時の急加速から速度をゆるめながら、ケイスケは通信回線をミッション・ルームへと戻した。

 「こちらニイザ。無事離陸に成功。月が綺麗だ。予定通り、これより定時パトロールを行う」

 「こちらハットリ。了解。十分気をつけて下さいね」

 「安全運転を心がける。次の連絡は、折り返し点で」

 「了解」

 ケイスケはそこで通信を切ると、少し微笑みながら、操縦桿を握る手に力を込めた。





 それから1時間。ケイスケの操縦するSAMSポーンは、定時パトロールのいつもどおりのコースの飛行を終えようとしていた。間もなく埼玉県西部の龍ヶ森の上空にさしかかる。パトロールのコースはここを折り返し点として、南から迂回してマリナーベースへ戻るというルートである。

 「今夜も、何事もなさそうだな・・・」

 眼下の森は、美しい月夜の中で眠るように静まり返っている。ケイスケは、再び通信スイッチを入れた。

 「こちらニイザ。ただいま龍ヶ森上空。ここまでのルートは異常ない。引き続きパトロールを続行し、本部へ帰投する」

 「こちらハットリ。了解しました。残りのルートも気をつけて」

 「了解」

 ケイスケは通信を切ると、操縦桿を左に切り、機体を迂回させようとした。と、その時である。

 ガガガガガガガガガガガガガガガ!!

 「!?」

 耳障りな音とともに、計器類のデジタル表示がめまぐるしい早さでカチャカチャと変わり、機体が不気味な振動を始めた。

 「どうなってるんだ、おい!?」

 ケイスケは思いつく限りの手で動作を安定させようとしたが、どんなことをしてもそれはおさまらなかった。

 「くそっ! メイデイ、メイデイ! こちらニイザ! 原因不明の計器異常で操縦不能! 救援求む!」

 ケイスケは通信スイッチを入れて叫んだが、返事は返ってこず、耳障りなノイズが走るだけであった。

 「これもダメか!!」

 ケイスケは舌打ちしながら、再び操縦桿に手をかけ、墜落のギリギリまで機体を立て直す努力を続けることを決心した。と、その時である。

 ヒィィィィィィィィィィン・・・

 「!?」

 静かだが、明らかにSAMSポーンのものとは違う飛行音が、彼の耳に聞こえてきた。同時に、キャノピーの右端が、ぼんやりと赤く輝き始めた。そして・・・

 それは、突然SAMSポーンの右後方から接近してきた。赤く激しい光を放つ円盤である。

 「な、なんだこれは!?」

 ケイスケはあまりのまぶしさに目をかばった。が、円盤の接近と同時に、ますます計器類の乱れが激しくなる。

 「犯人はこいつか・・・!!」

 ケイスケがそう言って、円盤をにらみつけた時だった。

 シュババッ!!

 ドガァン!!

 「うわぁっ!!」

 突如円盤が、赤い光弾を放ってきた。それはSAMSポーンの左の主翼に命中し、機体を完全な制御不能に追い込んだ。

 「うっ・・・くっ!!」

 もうわずかでも送れていたら機体もろとも火に包まれていたという間一髪のタイミングで、ケイスケの引いた脱出レバーが作動した。ケイスケは座席ごとキャノピーから吹き飛ばされ、空中でパラシュートが開いた。その目の前で、SAMSポーンは煙を噴きながら森へと墜落していき・・・そして、爆発した。

 「ふぅっ・・・危なかった」

 空中でケイスケは冷や汗を流したが、すぐに肝心なことに気がつく。

 「そうだ・・・あの赤い円盤!」

 そう言って、ケイスケはキョロキョロと周囲を見回した。赤く輝く円盤は、SAMSポーンの墜落現場から少し離れた森の中へと着陸しようとしていた。

 「あいつめ・・・なんのつもりだよ・・・」

 と、ケイスケがつぶやいていると・・・

 バサバサバサッ!!

 「うわっ!?」

 派手な音を立てて、ケイスケのパラシュートは森の木の枝に引っかかった。

 「うっ・・・てて・・・」

 ケイスケはうめきながらパラシュートを外そうとしたが、うまく外れないので強引にナイフで切った。それから、手近の太い枝に飛びつくと、それを伝ってスルスルと地上へと降りていく。

 「さて、と・・・」

 ケイスケは二者択一で迷った。一つは、あの赤い円盤のところへ真っ先に調べに行くか。それとも、一旦SAMSポーンの墜落地点まで行って、使える装備がないか調べてからいくか。ケイスケの迷った時間は少なかった。あの墜落の仕方では、使えるような装備は残ってはいまい。

 「こちらニイザ。結局墜落したが、なんとか脱出に成功。救援求む」

 ケイスケは腕にはめられた通信機、リストシーバーで連絡を試みたが、やはりノイズ音しか返ってこなかった。

 「ちっ・・・やっぱり、あの円盤が妨害電波か電磁波でも出してるんだな・・・」

 ケイスケはそう言って連絡をあきらめ、腰のホルスターのパルサーガンを確認すると、木々の間から漏れてくる怪しい赤い光へと、ゆっくりと歩き出した。





 「・・・!」

 木の間から顔を出し、ケイスケは驚いた。そこにあることはわかっていたが、そこには赤い輝きを放つ赤い円盤が、木々をなぎ倒して鎮座していたのである。大きさは空で見たときよりも大きく、高さは10mほどあるだろう。形は中華鍋を逆さにして伏せたようなドーム型。ケイスケのいる場所からは見えなかったが、裏手に回れば、細長く伸びた奇妙な突起を見つけることができただろう。出口や窓らしきものは何もなく、きれいに湾曲した表面を、砂漠を走る風が砂の上に作り出す風紋のような複雑な模様が走っていた。そんな円盤が、怪しい赤い光を全体から放ちながら、ずっしりとたたずんでいた。

 「間違いない、人工物だ・・・」

 冷静にそういった外観を分析したケイスケは、そう思った。過去に出現した怪獣の中には、円盤状の体をしたものもいたらしい。だが、目の前にあるそれは、完全に人工物としての特徴を備えていた。

 「ってことは・・・宇宙人・・・? ほんとかよ・・・」

 そしてそれは、ケイスケにそんな仮説を出させることになった。地球人の前に宇宙人が姿を現した一番最近の記録は、ちょうど50年前。アゴビル星人という侵略宇宙人で、TDFの戦闘機部隊との交戦の末、円盤を撃墜されている。それ以来宇宙人が地球人の前に姿を現すことはなく、ケイスケは50年ぶりのコンタクトになりそうなことに緊張を覚えていた。もっとも、向こうは友好的ではなさそうだが・・・。

 「よし・・・」

 と、ケイスケがパルサーガンを構えながら、木の間から足を踏み出した、その瞬間だった。

 バシュッ!!

 「うわっ!?」

 円盤からまたもや、光弾が放たれた。ケイスケはすんででそれをかわしたが、光弾の当たった木がメラメラと燃え始めた。

 「!・・・」

 「ハッハッハ・・・」

 その時、男の低い笑い声がした。

 「!? 出て来い!! これは何のまねだ!?」

 ケイスケはパルサーガンを構えながら、表情を険しくして言った。

 「言われなくても、すぐに姿を現す・・・」

 男のそんな声がすると、ケイスケの目の前に淡い人影が現れ始めた。やがて、それは鮮明なものになっていき・・・ついには、完全な人の姿となった。奇妙な仮面をかぶり、槍を持って、ローブのような服を着た怪人の姿に・・・。

 「そういきり立つな。殺しはせん」

 男はそう言った。

 「何を言ってるんだ!? 二度も死にかけたんだぞ!!」

 「試してみただけだ。お前たちがどの程度の生き物なのかを調べるために・・・」

 「調べる・・・だと?」

 「そうだ。あまり簡単に死ぬような弱い生き物では、張り合いがないからな・・・」

 男のその言葉に、ケイスケは憤った。

 「お前は・・・お前もやっぱり、地球を侵略するためにやってきた異星人か!?」

 「結論から言ってしまえば、そうだ」

 ケイスケは敵意しか感じられない目の前の相手に尋ねた。

 「お前は誰だ? どこの星からやって来た?」

 「それを答えて、お前はわかるのか? 自分たちの銀河からも出たことのない種族が? ・・・まあいい。自己紹介しよう。私はトコヤミ星人のギガゾーン。宇宙一の科学者だ」

 「宇宙一の科学者・・・だと?」

 「そうだ。そんな天才である私のメッセンジャーになれたことを光栄に思え」

 「ほざけ! だいたい、メッセンジャーとはなんのことだ」

 「お前を通じて、私は私の意志をこの星の人間たちに伝える。そのために、お前をここへ呼び寄せたのだ。かなり強引な手ではあったが・・・まあいい。これから、私の意志をお前に伝える。よく聞け」

 自分たちを見下すことしか知らないようなギガゾーンの態度に、ケイスケは不快極まりないものを感じていたが、ケイスケは黙って様子を見ることにした。すると、ギガゾーンは大きく息を吸うような動きを見せたあと、叫んだ。

 「私はこれより、この星を支配する!! 私の力を証明するために!!」

 「!?」

 ケイスケは、その言葉に耳を疑った。

 「お前の力を証明するためだと? どういうことだ」

 「お前たちはわかっていないかもしれないが・・・我々異星人にとって、この地球という星は、ただの星ではない。特別な存在なのだ」

 ギガゾーンはそう言った。

 「これはお前たちが一番よくわかっていると思うが、この星は、数え切れないほどの異星人の侵略の的となり、それぞれがこの星の支配を夢見た。だが・・・それを成し遂げた異星人は、ただの一人としていなかった。お前たちの言う「ウルトラマン」と、お前たち自身の精鋭部隊のために。これは、全宇宙を見ても驚くべきことだ。おかげで、今やほとんどの異星人達はこの星に手を出すことを危険と見なし、非干渉を決め込んでいる。そのためにお前達もわかっているとおり、この星はしばらくのあいだ、異星人による侵略を受けずに、安穏とした時を過ごしてきた。だが・・・宇宙は広い。全ての異星人がこの星をあきらめたと思うのなら、それは大きな間違いだ」

 「・・・」

 「たしかにお前達は、度重なる侵略をはねのけてきた。だが・・・それによってお前たちは知らず知らずのうちに、侵略者たちにとって侵略に足る新しい付加価値を自分たちに与えてしまっていたのだ。すなわち・・・この星の侵略を達成すれば、これまでこの星の侵略を企てて破れていった全ての宇宙人たちを、上回るのだということを・・・。そのような新しい価値こそ、この私には魅力的なのだ。この私の頭脳の優秀性を全宇宙に知らしめるために・・・私は自らの頭脳で生み出した「兵器」を使って、この星を侵略する!!」

 「ふざけるな!!」

 そのあまりの身勝手さに、ケイスケは叫ばずにはいられなかった。

 「そんな自己満足のために・・・侵略を始めようってのか!? 罪もない人達を苦しめようっていうのかよ!?」

 「お前たちがどうなろうと、そんなことは関係ない。私はこの星を侵略し、私の優秀さを全宇宙に知らしめる。それだけでよいのだ」

 ケイスケは完全に、目の前の宇宙人との妥協点がないことを悟った。

 「・・・そんなことは、絶対にさせない。地球には俺たちが・・・SAMSがいる。俺たちがいる限り・・・お前の思うようには絶対にさせない!! お前なんかを、この星の帝王になどさせてたまるか!!」

 「そうだ。それでいい。せいぜい全力で、私を止めてみろ。抵抗が激しければ激しいほど、勝利したときの私の名声は高まるのだからな!」

 「!!・・・」

 ケイスケは、奥歯を噛みしめてギガゾーンをにらみつけた。と、その時である。

 「!」

 ギガゾーンが、何かに気がついたように顔を上げた。そのあとで、ギガゾーンは言った。

 「それではさらばだ。私のメッセージ、他の人類にもしっかりと伝えておけ」

 「ま、待て!!」

 ケイスケはそう言うと、ギガゾーンに向かってパルサーガンを撃った。だが、放たれた光線はギガゾーンの体を素通りした。

 「ホログラフ・・・!?」

 「ハッハッハ・・・さらばだ。いずれまた会おう・・・」

 ギガゾーンは笑いながら、うっすらとその姿が消えていき、やがて、完全に消滅した。それと同時に・・・

 ヒィィィィィィィィィィィン・・・

 「!!」

 円盤の下部から白い蒸気がもうもうと立ちこめ、円盤が宙に浮かび始めた。慌ててケイスケが後ずさると・・・

 ギィィィィィィィン!!

 円盤はある高度まで達すると、ものすごいスピードで飛び去ってしまった。ケイスケは空を見上げながら、悔しそうな顔をした。

 「ちくしょう・・・。ふざけた宣戦布告しやがって・・・」

 と、その時である。

 ヒィィィィィィン・・・

 「!?」

 ケイスケの耳に、また奇妙な音が聞こえてきた。なにかの飛行音にも聞こえるが、ケイスケの知るどんな航空機の音にも、ギガゾーンの円盤の音にも似ていない。ケイスケが音の正体を探ろうと、首を回していると・・・

 ヒィィィィィィィィン!!

 「!!」

 突如、ギガゾーンの円盤の着陸跡によってポッカリと穴が開いたようになった森の上を、青い大きな光の球が猛スピードで飛んでいったのだ。一瞬あたりが、光球の放つ青い光によって青く照らされる。それは瞬く間に上空を通過し、あたりはすぐに、元の闇に包まれた。

 「あの光は・・・」

 ケイスケは呆然としながら、あることを思った。今の光の球が去った方角。それは、ギガゾーンの円盤の去った方角ではなかったか、と・・・。

 「一体・・・これから何が起こるっていうんだよ・・・」

 ケイスケはポツリとつぶやいたが、それに答えられる者は、その時点ではこの場を含めて、地球のどこにもいるはずがなかった。





 それから、約30分後。龍ヶ森の上空に、ケイスケを救助するために一機の巨人機が飛来した。SAMSの移動司令部とも言える大型輸送指令機、SAMSルークである。ギガゾーンの円盤の着陸跡にいたケイスケの打ち上げた信号弾によってその位置を確認したSAMSルークは、ゆっくりと同じ場所へ降り始めた。同じように飛来した攻撃機SAMSビショップも、それに続く。





 「ケイスケ君っ!!」

 ガバッ!!

 SAMSルークから真っ先に降りてきた少女が、ケイスケに駆け寄って抱きついてきた。

 「よかった・・・無事だったんですね・・・」

 「ああ、ちょっと顔をすりむいたけど、とりあえず五体満足だ。いきなりだったから、さすがに焦ったけどな・・・」

 ケイスケはそう言って、安心させるように笑顔を浮かべた。ヒカルに続いて、他のSAMSメンバーもそれぞれの機体から降りて、ケイスケのところに走ってきた。

 「やっぱりコジマさんの言うとおり、ニイザ君は幸運に守られてるんじゃない? あ、もしかしたらヒカルちゃんが幸運の女神様か」

 サトミがそう言ったので、ヒカルは赤くなってケイスケから離れた。

 「まったくだぜ。落ちたポーンを上から見たけど、よくあれで助かったな? ちゃんと足はついてるよな?」

 「このとおり」

 ケイスケはそう言って、自分の足をポンポンと叩いた。

 「足のない幽霊など・・・古典的な空想の産物だよ・・・」

 「古典的な空想の産物」ではない幽霊をよく知っているアヤは、ポツリとそんなことを言った。

 「でも間違いなく・・・生きているニイザ君だ・・・」

 「そうね、安心したわ」

 ニキもそう言って微笑む。が、すぐに真剣な顔になってケイスケに尋ねた。

 「この森の上空で突然強力な電磁波が発生して、ポーンの機影がレーダーから消えて、あなたからの通信が途絶したからすぐに駆けつけたんだけど・・・何があったの? それに、不自然になぎ倒されたこのあたりの木・・・」

 そう言って、ニキは周囲のなぎ倒された木々を見渡した。ケイスケは少し黙っていたが、やがて、最後にやってきたオグマが言った。

 「まぁ、それはこれからゆっくり聞こう。何はともあれ、無事でよかったな」

 「はい。ポーンをおしゃかにしてしまいましたけど・・・すいません」

 「金で取り返しのつくものはそれでいいよ。気にするな。さてと・・・ニキとキリュウ、キシモトは先にこのあたりの調査をしてくれ。ニイザはとりあえずルークに戻ろう。コジマの手当てを受けながら、何があったか話をしてくれないか?」

 「はい」

 「あの、私は・・・?」

 「好きにしていいぞ」

 「じゃ・・・じゃあ、お話を聞くほうに・・・」

 予想通りのヒカルの言葉にオグマは微笑んだが、すぐにきびすを返して言った。

 「さあ、仕事だ」





 全長50m近い巨人機だけあり、SAMSルークの操縦席はちょっとしたリビングルーム並に広い。

 「「「宇宙のマッドサイエンティスト!?」」」」

 ケイスケが話したこれまでのことを聞いて、オグマ、ヒカル、コジマは驚きの声を上げた。アヤのシートに座り、顔にバンソウコウを貼ったケイスケは、コクリとうなずいて言った。

 「そうとしか考えられないじゃないですか。地球を侵略することで、自分の力を証明したいなんて・・・理不尽すぎます。まるで子どもの理屈ですよ」

 「なんか、道場破りみたいだな」

 コジマもうなずく。オグマは腕組みをしながら少し考えていたが、やがて言った。

 「しかし、俺達はただ自分の身を守ってただけなのに、知らないうちにそんな理由でも狙われるようになってたとはなぁ・・・。いやはや、地球を守るってのは、やっぱり一筋縄じゃいかないわ」

 「でも、だからっておとなしく降参するわけにはいきません! 私達だって、自由に生きてるんですから!」

 ヒカルが拳を握りしめてそう言った。その言葉に、ケイスケもうなずいた。

 「その通りです。黙ってあんなやつの言いなりになるなんて、死んでもごめんですよ」

 「俺だってごめんだよ・・・。第一、そんなことを許したら今まで地球を守ってきた偉大な先輩方に申し訳が立たないじゃないか」

 オグマはそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。

 「そのギガゾーンって奴がどれだけ自信があり、それがどれだけ実力に裏打ちされてるのかは知らない。できれば、ただの自惚れ屋ならいいんだけど・・・。だが、たとえどうであっても相手は地球を侵略する意志のある宇宙人だ。本能で暴れている怪獣相手なら、知恵という点で俺達は優位に立てる。だが、宇宙人は・・・怪獣に匹敵する力の上に、俺達を上回る知恵の持ち主だ。どう転んでも、怪獣以上に一筋縄じゃいかない戦いになるだろう。そのこと、覚悟しとけよ」

 「はいっ!!」

 3人が一斉に答えた、その時である。機内の通信機が鳴り、ニキの声が響いた。

 「付近の調査とサンプルとなるものの回収を完了。これより戻ります」

 「ご苦労。続きは本部に戻ってからにしよう」

 「了解」

 通信は切れた。

 「さて、引き揚げ準備だ。帰るぞ」

 オグマはそう言うと、自分のシートに戻り始めた。





 一方、その頃。とある深い湖の底にあの円盤は身を横たえ、ボンヤリとした赤い光を放ちながら動きを止めていた。

 「ふむ・・・どうやら完全にまいたようだな。ここならば、そう簡単に見つかることもあるまい」

 レーダー画面を見ながら、ギガゾーンはそう言った。

 「さて・・・ようやく落ち着いたところで、この星の連中に私の来訪を告げる狼煙を見せる方法を考えねばならないな」

 彼は少し考えると、パネルにあるいくつものキーを押していった。モニターの表示が変わり、世界地図が表示される。そこで彼が再び別のキーを押すと、いくつもの黄色い光点が地図の上に表示された。

 「なかなか広範囲に防衛網を敷いているようだな・・・。だが・・・妙にばらつきもある。特に、この島は・・・」

 彼がまたキーを押すと、日本列島がクローズアップされる。そこには、他の地域よりも特に光点の数が多かった。

 「今までの侵略者も、手始めにここを落とそうとしていたようだからな・・・。怪獣の出現率も特に高いようだから、必然的に最重要拠点となったというわけか・・・」

 そう。その光点は、地球上にある地球防衛軍の軍事拠点を示していたのだ。日本にその数が多いのはもちろん、この島国に特に多く出現する怪獣に対処するためである。

 「そういうところほど、攻めがいがあるというものだ。あいさつにはちょうどいい・・・」

 ギガゾーンはそう言って、またキーを押した。関東と呼ばれるエリアがクローズアップされる。日本の首都圏であるだけに、東京を囲むようにいくつもの軍事拠点がある。

 ギガゾーンは席を立つと、あの五角形のドアの部屋に入っていった。冷気の立ちこめる部屋の中で、ギガゾーンが見つめるのは・・・ケースに収められた、二つの金属の箱。

 「お前達の出番だ・・・」

 薄暗い灯りのもと、銀色と金色の箱は、鈍い輝きを放っていた・・・。





 それから数日後。新たな侵略宇宙人の出現の報告を受けた防衛軍では、いまだその実力が不明であるとはいえ、会議の結果第3種警戒態勢の発令などの対策がとられることとなった。もちろん、その戦力の切り札であるSAMSでは、その対策を生み出すための努力が続けられていた。とはいっても、あまりにも情報は少なく、現段階では円盤の着陸跡や撃墜されたSAMSポーンの残骸から採取されたサンプルなどしか、その材料となりそうなものはなかった。

 「アヤさん、いいですか?」

 第1研究室と書かれた部屋のドアを、ケイスケはノックした。すぐに静かな返事が返ってきたので、ケイスケは部屋の中に入っていった。

 「失礼しま〜す・・・」

 研究を続けている研究員たちの邪魔をしないよう、ケイスケは少し小声で挨拶をした。

 「やあ・・・どうしたんだい・・・? ここにくるとは・・・珍しいね・・・」

 白衣を着て髪をアップにまとめたアヤが、電子顕微鏡から顔を上げて言った。

 「そろそろお昼ですから、呼びに来たんですけど・・・」

 「ああ、もうそんな時間か・・・。わざわざ足を運ばなくても・・・インターホンで呼んでくれればよかったのに・・・」

 「研究の進み具合も気になりましてね。やっぱり、自分が関わった事件ですから・・・」

 「なるほどね・・・。ありがとう」

 アヤはそう言って微笑むと、周囲の研究者たちに言った。

 「それでは・・・失礼するよ・・・。君たちも、いったん切り上げて・・・お昼にしたほうがいい・・・」

 研究者たちもその言葉に笑顔で答え、切りのいいところまで進めようとし始めた。優秀な科学者でもあるアヤは、この研究室の主任研究員も務めているのである。

 「それじゃあ・・・いこうか・・・」

 「はい」

 アヤがドアに向かって歩きながら白衣を脱ぐと、下からもとの隊員服姿が現れた。そのあとに続き、ケイスケも廊下へと出て行く。廊下をミッション・ルームに向かって歩きながら、ケイスケは気になっていることをたずねた。

 「さっきも言いましたけど、研究のほうはどうなんですか?」

 それを聞きながら、アヤは髪を縛っていた紐を解いた。きれいな濃い緑色の髪が、サラリと肩に垂れる。

 「ニイザ君には悪いけれど・・・あまり・・・芳しくないね・・・。たしかに、あの着陸跡やポーンの残骸からは・・・地球のものではない微粒子が観測された・・・。けれど・・・それが対策になりうるか、ということになるとね・・・」

 「そうですか・・・」

 「すまないね・・・」

 「いや、いいですよ。ついこの間、俺たちの目の前に現れた敵です。手がかりや秘密がすぐに見つからなかったとしても、仕方ないでしょう」

 「ありがとう・・・」

 アヤはそう言って、微笑を浮かべた。変わった(というより、特異な)趣味をもつために一歩引いた見られ方をするアヤだが、こういう笑顔を見るだけなら、実際より少し大人っぽい落ち着きをもつだけの、素敵な女性に見える。

 「それはそうと・・・今日のお昼は・・・何かな?」

 「ちらし寿司を作ったって言ってましたよ、ヒカルは」

 「ほぅ・・・今日は特に・・・手の込んだものを作ったんだね・・・」

 「アヤさんが最近頑張ってるから、おいしい料理で元気づけてあげるんだって張り切ってましたよ。あと、デザートに小豆ぜんざいもつけると言ってました。小豆のデザートは、好物でしたよね?」

 「ああ・・・もちろんだよ・・・」

 二人がそんなことを話しながら、廊下を歩いていたその時だった。

 ビーッ!! ビーッ!!

 「「!?」」

 突如全館に、けたたましい警報が鳴り響き始めた。怪獣の出現など非常事態が起こった際に鳴るもので、それ自体は珍しいものではない。だが・・・

 「ニイザ君・・・!」

 「ええ・・・レベルA・・・!!」

 警報の音は全部で三種類あり、事態の深刻さに応じて使い分けられている。怪獣出現を伝えるレベルC、怪獣が市街地などに接近しつつあることを伝えるレベルB、そして、地底怪獣が直接市街地のど真ん中などに出現したときなどを伝えるレベルAである。今鳴り響いているけたたましいほどの警報は、間違いなくレベルAのものだった。二人は互いにうなずくと、すぐにミッション・ルームに向かって走り始めた。





 ケイスケとアヤがミッション・ルームに戻ると、お昼前だったこともあり、そこには全員が集合していた。

 「レベルA・・・ですね・・・」

 「何があったんです!? 街に怪獣が!?」

 だが、振り向いたニキは緊張した表情で彼らに答えた。

 「いえ・・・攻撃されているのは街じゃないわ。防衛軍の土浦基地よ」

 その言葉に、ケイスケとアヤはそれぞれ驚いた。土浦基地といえば、関東一帯の防衛軍戦力のうち、航空戦力の中心基地である。

 「怪獣が・・・土浦基地を!?」

 「それが・・・怪獣じゃないみたいなんです」

 ヒカルが不安そうな表情で言った、そのときだった。

 「映像はいりました。モニターに転送します」

 サトミの声とともに、モニターに光が灯る。

 「「「!?」」」

 それを見たとたん、全員の表情が驚愕に包まれた。

 映像は、防衛軍の観測衛星からのものだった。非常に高精度のカメラを搭載しており、静止軌道上から地上にある家の屋根の瓦一枚一枚を見ることができるほどの性能である。それが映し出したのは、今まさに攻撃を受け、炎上している土浦基地の姿だった。

 管制塔や格納庫、大型レーダーといった基地の施設は、古びた遺跡のように崩れ落ち、見る影もない。滑走路もあちこちにヒビが縦横無尽に走り、大きな穴がボコボコと開いている。そして・・・その中央に、それはいた。

 「土偶・・・!?」

 SAMSメンバーの、そして、おそらくそれを見た全ての人々がそれを見て思ったのは、まさしくそれだった。そこには、巨大な遮光器土偶そっくりの形状をした物体が立っていた。

 身長は50mはあるだろう。全身は銀色。サングラスをかけたような特殊な形をした目など、姿かたちはまさに歴史の教科書でおなじみの土偶にそっくりだ。ただ、人間をデフォルメしたため手足の短い本物の土偶に比べて、体型はより人間に近かった。

 ギィィィィィィガァァァァァァァ・・・

 廃墟と化した土浦基地の中心で、巨大土偶は金属がこすれるような奇怪な音を発しながらたたずんでいた。

 「明らかに人工物だな・・・」

 コジマがそんな感想を漏らした。だが、ケイスケにはそれ以上に、ある確信があった。

 「間違いない。あの模様・・・」

 巨大土偶はその表面全体に、複雑な縄目のような模様を走らせていた。その模様は、あの夜目撃したギガゾーンの円盤にあったものと、まったく同じものだった。

 「ギガゾーンの円盤と同じもの・・・。ついに・・・始めたか!」

 と、そのときである。

 ギィィィィィィィィィィィン・・・

 モニターの中の映像が、新たな展開を映し出した。十数機の戦闘機が、いくつかの編隊を組んで巨大土偶へと立ち向かっていく。急襲のため、ほとんどの戦闘機は離陸する前に破壊されてしまったようだが、それでも離陸に成功し、こうして攻撃のできる戦闘機もいたのだ。

 バシュバシュバシュバシュッ!!

 戦闘機のミサイルが一斉に発射され、正面から巨大土偶へ突っ込んでいく。

 ドガガガガァァァァァァァァァァン!!

 ミサイルは全弾命中し、巨大土偶が炎と煙に包まれる。ミサイルを撃った戦闘機隊は、それぞれ別な方向へいったん飛んでいく。しかし・・・

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・

 巨大土偶は煙の中から、何事もなかったかのように悠然とその姿を現した。銀色の体はまったく傷ついておらず、ミサイルを受ける前とまったく同じ輝きを放っている。

 「げ、元気だ・・・」

 サトミがおびえの混じった声を出す。だが、戦闘機隊はひるむことなく旋回し、もう一度アタックを試みる。しかし・・・

 ギィィィィィィガァァァァァァァ・・・

 ビカッ!!

 巨大土偶の目が、まぶしい光を放ったとたん

 ドババババババババババババババ!!

 巨大土偶の全周囲に、すさまじい衝撃波のようなものが発射された。

 ズガズガズガァァァァァァァン!!

 その強力な波動を受けた戦闘機が、なすすべもなく空中分解を起こして墜落していった。その光景を見たSAMSメンバーの間に、戦慄が走る。

 ギィィィィィィガァァァァァァァ・・・

 戦闘機隊はその後も果敢な攻撃を続けるが、やはり巨大土偶の堅固な体には効果がなく、逆に巨大土偶の放つ波動によって、次々と破壊されていく。

 「キャップ!! 早く出動しないと!!」

 ケイスケをはじめ、隊員たちがオグマに詰め寄る。

 「今ピース・シリーズに、スパイナーミサイルを取り付けてもらっている。相手が相手だ。いくらピース・シリーズといっても、通常装備では勝ち目がない」

 「しかし・・・」

 そのとき、電話が鳴った。オグマがすばやくそれをとる。

 「ナラザキだ。たった今スパイナーミサイルの取り付けを終わった。いつでも発進できるぜ」

 「了解、感謝します」

 オグマはそう言うと電話を切り、部下たちに向き直った。

 「準備完了だ。SAMS、出動!!」

 「ラジャー!!」





 「それでは」

 「ああ、空で会おう」

 ニキとコジマの姿は、エレベーターの扉に閉ざされた。彼らの搭乗するSAMSビショップのハンガーは7Fにあるのである。それを見送ると、ケイスケもオグマに言った。

 「それじゃ、俺もこっちへ・・・」

 「ああ、安全第一にな」

 「気をつけてくださいね・・・」

 ヒカルに笑顔で手を振ると、ケイスケは愛機・SAMSナイトのハンガーへと走っていった。普段は地下の格納庫に収められているSAMSナイトは、すでにエレベーターによってここに持ち上げられている。

 「よっと!」

 はしごを駆け上り、すでになじんだシートへと体を落とすなり、体をシートに固定しながら次々にスイッチを入れていくケイスケ。エンジン音が高まっていくに従い、様々なランプや計器が光を放ち、キャノピーがゆっくりと降りる。

 「こちらSAMSナイト、ニイザ・ケイスケ。スクランブルだ。4番ゲートの開放を頼む」

 「了解。4番ゲート、オープン」

 「FOURTH GATE OPEN! FOURTH GATE OPEN!」

 管制室からの作業で4番ゲートが開き、青空がケイスケの前に広がる。

 「4番ゲート、開放完了」

 「了解。エンジン最大出力。SAMSナイト、発進!!」

 バシュウウウウウウウウウウ!!

 ケイスケがスロットルを思い切り引くと、機体にナイトの駒を描いた戦闘機は、青空へと飛び立っていった。それに続いて・・・

 「最終チェック完了。全機能、異常なし」

 「了解。SAMSビショップ、出ます!!」

 バシュウウウウウウウウウウウウ!!

 2番ゲートからは、ビショップの駒を描いたSAMSビショップが発進する。そして、最後にマリナーベース屋上の大型ハッチ、1番ゲートが開き、ルークの駒を描いたSAMSルークが太陽の下に姿を現す。

 「全周囲レーダー、順調に作動しています」

 「各種観測機器、異常なし・・・」

 「エンジン出力、異常なしです」

 「よし、SAMSルーク、発進!!」

 ゴォォォォォォォォォォ・・・・

 機体下部から火を噴き、48mの巨体がゆっくりと浮上していく。そして、高度が十分にとれると推進用エンジンに切り替わり、SAMSナイト、SAMSビショップのあとを追う。

 チェスの駒の名がついていることから「ピース・シリーズ」と呼ばれるSAMSの航空戦力。その主力3機が、土浦基地を目指し始めた。





 猛スピードで土浦基地を目指すSAMS。だが、その途上でSAMSルークの通信機が音を立てた。

 「はい、こちらSAMSルーク・・・ええ!?」

 ヒカルが大きな声を上げたので、オグマ達の視線が彼女に注がれる。

 「キャップ! 土浦基地が完全に壊滅したそうです!!」

 「!!」

 その通信は、ケイスケたちも聞いていた。

 「信じられない・・・。奇襲とはいえ、あの基地がたった20分で・・・」

 「あの土偶は!? あいつはどうなったんだ!?」

 「待ってください! 今現地からの映像が・・・」

 ヒカルがそう言った次の瞬間、全機のモニターにその映像が映る。そこに映ったのは、完全に廃墟と化した土浦基地の姿だった。破壊された戦闘機が、黒煙をあげている・・・。

 「10分前の映像です・・・」

 「ひどいね・・・」

 「あれ・・・? なんだ、あのでっかい穴・・・」

 コジマの言うとおり、その中央には巨大な穴だけがぽっかりと開いており、巨大土偶の姿はそこにはなかった。

 「それが・・・基地を壊滅させたあとで、地中に潜って消えたそうです・・・」

 ヒカルの報告は、全員の想像と同じものだった。

 「・・・」

 モニターをじっとにらみつけるケイスケ。

 「キャップ・・・」

 「とにかく、土浦基地へ行こう。調べなければならないこともあるだろう。各機、進路そのまま」

 「了解!!」

 オグマがそう指示を下した、そのときだった。

 pipipipipi・・・

 ヒカルの目の前の通信機が、再び音を立てた。すぐにそれに出たヒカルの顔が、青ざめる。

 「今度はなんだ、ハットリ?」

 「そ、それが・・・巨大土偶が、今度は横須賀基地に出現したそうです・・・!!」

 「!?」

 その言葉に、全員が耳を疑った。

 「うそだろ・・・。たった10分で、地中を土浦から横須賀まで移動したのかよ・・・」

 「でも、本当なんです!! 横須賀から応援要請! すぐに向かってほしいとのことです!!」

 オグマはそれを聞くと、すぐに指示を下した。

 「各機、転針。横須賀へ向かう」

 「了解!!」

 ピース・シリーズはそれぞれの性能ギリギリの急旋回をして、進路を横須賀へと向け猛スピードで戻り始めた。





 深い湖の底・・・。モニターに表示される光景を見ながら、ギガゾーンは愉悦に浸っていた。自らが作り出した、土偶型の侵略ロボット・ツチダマスS(シルバー)。それに立ち向かうため、横須賀基地の大型戦車部隊がその前に殺到してくる。

 「ふん・・・先ほどの基地は航空兵力が多かったが、ここは陸上兵器が主力か。だが・・・程度は知れているな・・・」

 ボンッ!! ボボンッ!!

 戦車隊が砲撃を開始し、砲弾がツチダマスSを直撃する。しかし、ツチダマスSは委細かまわず前進する。

 「ハハハ・・・進め、ツチダマスS!! 向かってくるものは全て蹴散らすのだ!!」

 ギィィィィィィガァァァァァァァ・・・

 ビカッ!!

 ドバァァァァァァァァァァァァァン!!

 ツチダマスSの目がギラリと光り、強烈な波動が発せられた。その周囲に展開していた戦車部隊が、木の葉のように宙を舞い、次々に地面に叩きつけられ大破する。

 「その調子だ!! その力を存分に振るい、お前の、そして私の力を、この星の人間どもに恐怖とともに知らしめるのだ!!」

 ギィィィィィィガァァァァァァァ・・・

 戦車部隊を蹴散らしたツチダマスSは、側面から接近してくる新たな戦車部隊にゆっくりと体を向け、再び衝撃波を放とうとした。と、そのときである。

 ドガガガガガガガガガガガガ!!

 ギィィィィィィガァァァァァァァ!!

 突如何かがツチダマスSの背後に命中し、その巨体がゆらぐ。

 「むぅっ!?」

 驚くギガゾーン。ツチダマスSがそちらに体を向けると・・・

 ギィィィィィィィィィィィィン!!

 SAMSナイト、SAMSビショップが、猛スピードで突入してきた。

 「そこまでよ!!」

 「土偶はおとなしく遺跡に埋まってやがれ!!」

 「これ以上好き勝手に暴れさせるか!!」

 バシュバシュバシュゥゥゥゥゥゥゥ!!

 一斉にミサイルが発射され、ツチダマスSの体に炸裂する。

 ギィィィィィィガァァァァァァァ!!

 だが、ツチダマスSは少しぐらついただけで、すぐにもとの姿勢を取り戻す。

 「ふん・・・この星の防衛戦力の切り札・・・このあいだの男の部隊だな。少しは歯ごたえがありそうだ・・・。やれ、ツチダマスS!!」

 ギィィィィィィガァァァァァァァ・・・

 ビカッ!!

 ドバァァァァァァァァァァァァァン!!

 「うわっ!?」

 ツチダマスSの放った衝撃波を、急上昇してなんとかかわすナイトとビショップ。その後方では、アヤがそのデータの分析をしていた。

 「あれは・・・ただの衝撃波ではありませんね・・・」

 モニターを前に、アヤがつぶやく。

 「どういうことですか?」

 「空気の波動である衝撃波ではなく・・・もっと重い波動・・・。おそらくは・・・重力波です」

 「重力波!?」

 「・・・だそうだ。当たればナイトやビショップでも、ただじゃすまないだろう。各機、気をつけろ」

 「言われなくたって!!」

 ケイスケは歯を食いしばりながら機体をきりもみ反転させながら、再びツチダマスSへと向かった。

 「くらえっ!!」

 バシュウッ!!

 トリガーを引くと、翼両端のレーザー砲から赤いレーザーがほとばしり、ツチダマスSへ命中した。しかし、やはり効果は薄い。

 「くそっ、ダメだ!! キャップ! スパイナーミサイルの使用許可を!! 通常兵器では、こいつを止められません!!」

 「ニイザ君の言うとおりです!! キャップ!!」

 ケイスケとニキからそう言われたオグマは、モニターの戦況を見ながら言った。

 「戦車部隊の一時後退を確認した。使用を許可する」

 「了解!!」

 ケイスケとニキは、それぞれのコンソールでスパイナーミサイルの安全装置を解除した。スパイナーミサイルとは、ニトログリセリンの数百倍の破壊力を誇る高性能火薬、スパイナーを弾頭の一部に使用したミサイルである。通常のミサイルよりも数ランク上の破壊力を持つ高性能ミサイルであり、マリナーベースに保管されている戦術兵器の中でも最高の威力を持つ兵器である。

 「重力波は目標の全周囲に発せられていますが、隙はあります!! 目標の頭部から上25°以上の角度の範囲は、重力波の範囲外になっています!!」

 アヤの分析したデータを、ヒカルがすかさず各機のモニターに送る。

 「了解!! コジマ君、ニイザ君! 急上昇後、この角度から急降下しながら左右から目標を挟撃!! スパイナーミサイルを直撃させるのよ!!」

 「「了解!!」」

 ギィィィィィィィィィン!!

 ただちにナイトとビショップが、ニキの指示通りに行動する。急上昇してから高空をツチダマスSの左右に移動、そこから一気に、急降下へ転じる。

 「いっけぇぇぇぇぇ!!」

 「ターゲットロック・・・発射!!」

 カチッ!

 バシュウウウウウウウウウウウ!!

 ケイスケとニキが、ほぼ同時に発射トリガーを押す。それと同時に、ミサイルが発射され、煙を引いてツチダマスSへと突進していく。そして・・・

 ドガドガァァァァァァァァァァァァァン!!

 ギィィィィィィガァァァァァァァ!!!

 大爆発が起こり、ツチダマスSの動きが止まる。

 「やったぁ!!」

 各機の機内で、歓声が起こる。SAMSが活動を開始して以来、このミサイルを受けて倒れなかった怪獣はいない。SAMSメンバーも、その勝利を確信した。だが・・・

 ギィィィィィィガァァァァァァァ!!!

 「!?」

 なんと、ツチダマスSはきしむような音をたてながらも、目に光をともして再び活動を始めたのだ。

 「そんな・・・!!」

 「ウソだろ・・・!? スパイナーミサイルを食らって、まだ動けるなんて・・・!!」

 驚愕するSAMSメンバー。

 ゴゴ・・・

 そのときである。突然ツチダマスSが、その体をSAMSビショップへと向けた。

 「!? いけない!! コジマ君、急上昇!!」

 「ラ、ラジャーッ!!」

 それに気づき、すぐに急上昇へ転じるSAMSビショップ。だが・・・

 ギィィィィィィガァァァァァァァ・・・

 ビカッ!!

 ドバァァァァァァァァァァァァァン!!

 容赦なく発射された重力波の直撃を、SAMSビショップは受けてしまった。

 「リーダーッ!!」

 「コジマさぁん!!」

 ギィィィィィィィン・・・!!

 さすがに最新鋭機だけあり、空中分解するようなことはなかったが、ビショップは黒煙をはいて曲線を描きながら地面へと墜落していく。

 「くっ・・・ダメです、リーダー!! 持ち直せません!!」

 懸命に機体の立て直しを図るコジマだったが、操縦桿はまったく動かない。

 「水平尾翼が吹き飛ばされてる・・・これでは、立て直しは不可能だわ!」

 額から汗を流しながら、ニキは計器に表示される損害状況を見つめた。

 「ニキ、かまわん! 機体を捨てて脱出しろ!!」

 「りょ、了解・・・!!」

 オグマの指示を受け、ニキは脱出装置作動用のレバーを引こうとした。レバーはどちらの席にも用意されていて、どちらかが引けば両方のシートが射出されるようになっている。だが・・・

 「!?」

 その手が止まり、青ざめる。

 「!? なにやってるんです、リーダー!?」

 コジマが叫ぶが、ニキは言った。

 「脱出装置が・・・故障してる・・・!!」

 「!?」

 その言葉に、全員が絶望した。コジマが自分の席の脱出レバーを引こうとするが、やはりそれも、びくともしなかった。

 「そ・・・そんな・・・!!」

 「リーダーッ!! コジマさぁん!!」

 そのときにはすでに、目の前に小高い斜面があった。このままではあの斜面に激突し、大破してしまう。その光景を見ていた全員が、悲鳴をあげたそのときだった。





 カッッッッッッッ!!





 「!?」

 突如、周囲がすさまじい光に包まれた。その光に、周囲の風景も、燃え盛る基地の姿も、ツチダマスSも、SAMSナイトやSAMSルークも、そして・・・墜落するSAMSビショップも、全てが溶け込んでいった。その場にいた者たちは、みな悲鳴をあげるまもなく、あまりのまぶしさに自分の目をかばっていた。

 「ぬぅっ!?」

 その光景をモニターで見ていたギガゾーンも、真っ白に染まったモニターの前で驚きの声をあげた。そのモニターの中では、ゆっくりとその光が収まっていく・・・。





 「うぅ・・・なんだったんだ、今の光は・・・」

 片手で目を押さえつつも、操縦桿からは手を離さなかったケイスケは、目を慣らしながらもそうつぶやいた。

 「こちらナイト。ルーク、無事か!?」

 「は・・・はい。大丈夫です」

 すぐにヒカルの声が返ってくる。ケイスケはホッとしつつも、すぐに大事なことを思い出した。

 「そうだ!! リーダーたちは・・・!!」

 そう言って機体を旋回させ、先ほどSAMSビショップが突っ込んでいった斜面に機体を向けた、そのときである。

 「!?」

 ケイスケは、思わずわが目を疑った。そこには、光が広がる前にはいなかったものが、忽然と・・・だが、しっかりとそこにいたのだ。

 それは、たしかに二本の足で、しっかりと大地を踏みしめながら、悠然とそこに立っていた。体形は、完全に人間型。しなやかだが、それでいて体操選手を思わせるようなたくましい体の曲線を描いている。銀色の全身の上を、美しい曲線の青いラインがいたるところを走り、美しい模様を描いている。卵のような美しい楕円形の顔は人間のものとは大きく違うが、微笑を浮かべているような、どこか温かみの感じられる顔である。その目と思しき楕円形の部分からは、やさしい光が放たれている。胸の中央には、水晶のように美しく輝くダイヤ型の結晶があった。

 明らかに40mはあると思われる巨体をもちながら、「彼」は静かに、その場にたたずんでいた。尾翼を失ったSAMSビショップを、大事なものを扱うように、その両手でしっかりと抱えながら・・・。

 「あ、あれは・・・!!」

 「彼」の姿を見たSAMSメンバーは、みな一様に言葉を失っていた。だが、やがて一番早く我に返ったケイスケが、その名を呼んだ。地球人なら誰もが知っている、かつてこの星を多くの怪獣や侵略者たちから守ってくれた、「光の巨人」の名を・・・。

 「ウルトラマン・・・!!」


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