明らかに40mはあると思われる巨体をもちながら、「彼」は静かに、その場にたたずんでいた。尾翼を失ったSAMSビショップを、大事なものを扱うように、その両手でしっかりと抱えながら・・・。

 「あ、あれは・・・!!」

 「彼」の姿を見たSAMSメンバーは、みな一様に言葉を失っていた。だが、やがて一番早く我に返ったケイスケが、その名を呼んだ。地球人なら誰もが知っている、かつてこの星を多くの怪獣や侵略者たちから守ってくれた、「光の巨人」の名を・・・。

 「ウルトラマン・・・!!」


ウルトラマンサムス

第2話

その名はサムス


 「こ、これって・・・夢じゃないよね・・・?」

 サトミが目をごしごしとこすりながら言った。

 「ああ・・・間違いなく・・・彼はそこにいる・・・」

 アヤはいつもの落ち着いた声で言ったが、やはり突然現れた「光の巨人」に、驚きを隠せないようだ。

 「リーダーたちを・・・助けてくれたんですね」

 SAMSビショップをやさしく抱えたその姿を見ながら、ヒカルが微笑を浮かべた。

 「・・・」

 オグマはそれを黙って見つめていたが、やがてインカムのマイクを近づけると、落ち着いた声で言った。

 「ニキ、コジマ、無事か? 応答しろ。ニキ、コジマ・・・」





 「うっ・・・!」

 静止したコクピットの中で、ニキは意識を取り戻した。

 「ここは・・・?」

 意識を失う直前、まぶしい光に包まれたことは覚えている。だが、そのあとは・・・。と、そのときだった。

 「ニキ、コジマ、無事か? 応答しろ。ニキ、コジマ・・・」

 通信機から、オグマの声が聞こえてきた。慌ててスイッチを入れるニキ。

 「は・・・はい! こちらニキ。ルーク、応答願います」

 「おお、無事だったか。コジマは?」

 ニキがそう言われ、前の座席に座っているコジマを見た、そのときだった。

 「うう・・・あれ、リーダー? 俺たち、どうなったんですか? たしか、墜落の瞬間光に包まれて・・・ってことは、ここは天国かな?」

 首を回してそんなことを言っているコジマを見て、ニキは安堵のため息をもらした。

 「・・・元気そうです」

 「そうか、それはなによりだ」

 「でも、何が起こったんですか? 墜落したはずじゃ・・・」

 「彼が助けてくれたんですよ、リーダー」

 ケイスケの明るい声が割り込んできた。

 「彼・・・?」

 ニキが首をかしげた、そのときだった。

 「リ・・・リーダー!!」

 コジマが素っ頓狂な声を出した。

 「どうしたの?」

 「う、上・・・!!」

 それだけしか言えないコジマ。ニキは黙って上を見上げ・・・

 「!?」

 そして、息を呑んだ。キャノピーの向こう、頭上に、こちらをやさしく見つめる瞳があった。

 「ウルトラ・・・マン?」

 記録映像で見た初代ウルトラマンによく似ている。それが、「彼」に対するニキの第1印象だった。昔読んだ本で、ウルトラマンの顔をその穏やかな美しさから、仏像や古代ギリシアの女神像などの顔に例えた一文があったことを思い出し、ニキはそのとおりだったということを自分の目で確信していた。

 「命の恩人だ。二人とも、感謝しろよ」

 オグマの楽しそうな声で、二人は何が起こったのか、ようやく把握することができた。

 「そう・・・あなたが・・・。ありがとう」

 「この恩は一生忘れないぜ!!」

 礼を言う二人。すると、ウルトラマンはうなずいて

 「おわっ!?」

 「あ・・・!」

 彼らを乗せたSAMSビショップを、ゆっくりと地上へと下ろしていった。そして、壊れやすいものを置くように、繊細に彼らを地上へと戻して、ゆっくりとあとずさった。

 「ひょえ〜・・・おどろいたなぁ・・・。まさか、ウルトラマンに助けられるなんて・・・」

 まだ信じられないといった様子で、コジマは彼を見上げた。と、その時である。

 ズシン! ズシン!

 ギィィィィィガァァァァァァァァ・・・

 地響きとともに、ツチダマスSが接近してきた。それに向かって、ゆっくりと体を向けるウルトラマン。ウルトラマンとツチダマスSは、退治したまま動きを止めた。

 「ニキ、コジマ、そこは危険だ。脱出して安全な場所まで避難しろ」

 「了解。コジマ君、急ぎましょう」

 「了解!!」

 二人はキャノピーを明けると、一度ウルトラマンを振り返ってから、安全な場所への避難を始めた。





 にらみあいを続けるウルトラマンとツチダマスS。だが、一見静かなにらみ合いに見えるこの光景の裏では、ケイスケたちには聞くことのできないやりとりが繰り広げられていた。

 「ついにその姿まで現したか、ウルトラマン・・・」

 ツチダマスSを媒介として、ギガゾーンがテレパシーを送ってくる。

 「今すぐ侵略をやめ、刑務所に戻るのだ、ギガゾーン。お前には何度も言っているはずだ。自分の力を示すだけのために、罪もない星の人々を苦しめるなど間違いだと。なぜその力を、破壊ではなく創造のために使わない?」

 だが、ギガゾーンはウルトラマンの言葉を鼻で笑った。

 「お前たちこそ、力というものの本当の価値を理解していない。神のごとき力をもちながら、なぜそれを自分たちのために使わず、こんな取るに足らない者達を守るためなどに使う? それこそ、宝の持ち腐れというものだ。力とは、他者に対して容赦なく振るい、己の価値を知らしめるために存在するものだ!!」

 だが、ウルトラマンは首を振った。

 「力というものには、責任が伴う。大きな力をもつ者は、それをふさわしい目的に使わなければならない。私たちがこの力をほかの星の人々を助けるために使うのは、そのためだ」

 「笑わせてくれる・・・。そうしていくつもの星に恩を売り、いずれはそれを支配するつもりか・・・?」

 「宇宙には支配者などいない。そして、必要ともしていない。私たちはただ、この宇宙に住むあらゆる命の平和を願い、それを見守っていたいだけだ。それを無慈悲に踏みにじろうとする者から守るために、私たちは生まれた」

 ギガゾーンは沈黙していたが、やがて、言った。

 「この私の頭脳にも、理解できないことがひとつだけある・・・。お前たちの思想だ。人の命を救うなど、ばかげたことだ」

 ガチャッ!!

 沈黙を破り、ツチダマスSが両腕を振り上げる。それを見たウルトラマンは、しばらくたたずんでいたが・・・

 「・・・」

 腰をやや引き、両手を胸の前で構える、独特のファイティングポーズをとってツチダマスSと対峙した。二体の間で、緊迫した時間が流れる。だが・・・

 ギィィィィィガァァァァァァァァ!!

 ドドドドドドドドド!!

 やがて唐突に、ツチダマスSはウルトラマンに突進を始めた。

 「ヘァッ!!」

 ウルトラマンは勇ましい叫びをあげると、それを迎え撃った。





 ドドドドドドドドドドドド!!

 猛スピードで突進してくるツチダマスS。

 「フンッ!!」

 ズドォォォン!!

 巨体同士のぶつかり合うすさまじい音が響く。ウルトラマンは両手でその体当たりを受け止め、その勢いで激しく後ろに押し出された。力を込めて踏みとどまる足が、地面に長い溝を穿つ。

 「ヘァッ!!」

 ウルトラマンはその勢いを完全に押さえ込み、止まった。

 バシッ!!

 そして、反撃とばかりに密接した状態から一歩飛びすさると、再びダッシュをかけて間を詰めた。

 「ダァッ!!」

 ダン!!

 そしてウルトラマンは、渾身の力を込めた水平チョップをツチダマスSの胸に叩き込んだ。

 ギィィィィィガァァァァァァァァ!!

 ツチダマスSが悲鳴らしきものをあげ、その上体がのけぞる。さらに、

 ドズンドズンドズン!!

 続けざま、3発のパンチを叩き込む。重い打撃音から、そのパワーが伺える。激しい攻撃にツチダマスSは手も足も出ないようだが、さらにウルトラマンはすばやくツチダマスSと密着すると、その首と腰にすばやく手をかけた。そして・・・

 「ダァァッ!!」

 グォッ・・・!!

 ウルトラマンは大きな叫びとともに、その腕に力を込めた。すると、一本背負いの要領でツチダマスSの巨体が軽々と地面から持ち上がり・・・

 ダァァァァァァァァァァァァァン!!

 すさまじい大音響と大地震のような振動をたて、ツチダマスSは背中から地面へと叩きつけられた。

 「シェアッ!!」

 ウルトラマンは勇ましい叫びをあげると、後ろへと飛んで距離をとり、再び油断なく構えをとった。

 「きゃあ〜っ!! これよこれ!! あたしがずっと見たかったのは!! 生で見られるなんてほんと、夢みたい!!」

 目の前で繰り広げられる体重数万tの巨体同士の肉弾戦に、興奮を隠しきれないサトミ。

 「ちょっと、迫力がありすぎると思いますけど・・・」

 一方、ヒカルの方は空気を通しても伝わってくる激しいぶつかり合いに、少し驚いていた。そんな彼らをよそに

 ギィィィィィガァァァァァァァ!!

 ツチダマスSは再び立ち上がると、目を発光させた。

 ビカッ!!

 ドバァァァァァァァァァァァン!!

 「ジュワッ!!」

 ズズゥゥゥゥゥゥン!!

 発射された重力波を食らってしまい、後ろに吹き飛ばされるウルトラマン。彼に向かって、ツチダマスSが足を進めようとした、その時だった。

 シュババッ!! ドガァァァァァン!!

 ギィィィィガァァァァァァァ!!

 突如飛んできたレーザー光線が、その足を止めた。ケイスケのSAMSナイトが、援護射撃をしたのである。その間に立ち上がるウルトラマン。

 「サトミさん、なにやってんですか。せっかく俺達を助けてくれてるんですから、こっちもがんばらないと! はしゃぐのはわかりますけど、見てばっかりいないで手伝って下さいよ」

 「アハハ・・・ごめんごめん。つい見とれちゃって・・・でも、その通りだね」

 そう言うとサトミは、オグマに言った。

 「というわけでキャップ。あたし達も助太刀すべきじゃないでしょうか?」

 「そうだな。ニイザだけに手伝わせるのは酷だし・・・よし。SAMSルーク、前進。ウルトラマンを援護する。3人とも、いいな?」

 「「「ラジャー!」」」

 今まで後方で作戦指示をしていたSAMSルークが、前進を開始した。





 「シェァッ!!」

 シュシュッ!! バァァァァン!!

 ウルトラマンが右手から放った数発の光弾が、ツチダマスSに炸裂する。だがツチダマスSは、お返しだとばかりに再び重力波を放った。

 「フンッ!!」

 両足で踏ん張り、両腕をクロスさせて耐えるウルトラマン。しかし・・・

 ドバドバドバァァァァァァァァァン!!

 ツチダマスSは波のように次々と重力波を放ってくる。そのすさまじい連続攻撃がウルトラマンを襲い、その体を激しく叩きつけながらジリジリと押していく。このままでは吹き飛ばされるのは時間の問題と思われたその時・・・

 「反重力ウォール、パワー全開!!」

 「ラジャー!!」

 バシュウウウウウウウウウ!!

 突如、SAMSルークが機首から地面までを覆うような青い光のカーテンを発生させ、ウルトラマンとツチダマスSの間に割って入った。

 バチバチバチバチ!!

 連続して襲いかかる重力波を受けながらも、なんとかSAMSルークは持ちこたえていた。これは反重力ウォールといって、SAMSルークのけた外れの出力を活かし、機首から広範囲をカバーする反重力の壁を展開、背後にある都市や施設を攻撃から守るというものである。この力によって、ウルトラマンは重力波の連続攻撃から解放された。ルーク(城)という名前は伊達ではない。SAMSルークは空飛ぶ砦であると同時に、いざという時は守りの要ともなるのである。

 「うっ・・・でも、このまんまじゃけっこうヤバイかも・・・」

 操縦桿を押さえつけながら、サトミが歯を食いしばる。反重力ウォールの計器は、なんとかギリギリのところで敵の攻撃を防いでいることを示している。これ以上敵が攻勢を強めれば、持ちこたえられずに攻撃をくらってしまうかもしれない。その時である。

 「俺に任せて下さい!!」

 ケイスケから通信が入った。

 「アヤさん、ちょっと調べてほしいことが」

 「何かな・・・?」

 「あいつがあの重力波を発生させてる部分、わかりませんか?」

 「少し、待ってほしい・・・」

 そう言うとアヤは、手元の端末を動かし始めた。やがて、データが表示される。

 「わかったよ・・・。土偶の頭頂部に・・・三つの山のような突起があるだろう・・・?」

 たしかにアヤの言うとおり、ツチダマスSの頭頂部には装飾のようにも見える三つの突起があった。それぞれに丸い穴が開いており、目が発光すると同時にその穴からも光が発せられている。

 「あれが重力波の発生装置だよ・・・」

 「わかりました。ヒカル、頭から25°より上は安全地帯だって言ってたな?」

 「はっ、はい!」

 手元のデータを確認し直し返事をするヒカル。

 「よし・・・それなら、こうだ!」

 ギュイッ!

 バシュウウウウウウウウ!!

 ケイスケがスロットルを勢いよく引くと、SAMSナイトは急加速と同時に急上昇へ点じた。そして、雲の上まで到達すると、一気に操縦桿を倒し、今度は垂直に近い急降下に転じる。

 「くっ・・・!!」

 激しいGに耐えるケイスケ。やがて再び雲を突き抜けると、その真下には小さく、ツチダマスSの頭が見えた。そしてそれは、グングン近づいてくる。

 「ケイスケ君!?」

 それを見たヒカルは、思わず大きな声を上げた。だが、SAMSナイトはさらに急降下を続ける。そして、その限界と思われた高度に達したとき・・・

 「いくぞ! 名づけて、「モズ落とし」!!」

 バシュバシュウウウウウウウウ!!

 ツチダマスSの真上からケイスケは2発のスパイナーミサイルを放ち、すぐに操縦桿を力の限り引いた。機体は地上すれすれで水平に戻り、再び上昇に転じる。そして、発射されたスパイナーミサイルは・・・

 ドガァァァァァァァァァァァァン!!

 見事にツチダマスSの頭部を直撃し、頭頂部の重力波発生装置を粉砕した。

 ギィィィィィィガァァァァァァァァ!!

 それと同時に、嵐のような重力波の波状攻撃も止まる。

 「やったぁ! ニイザ君、やるぅ!! どこでそんな技覚えたの?」

 その腕前には、サトミも舌を巻いた。

 「昔の防衛チームの映像を見ながら、いろいろ研究してたんです。その中に、今みたいな技もあって・・・。頭の上っていうのは死角ですから、これなら相手が頭の上に目のついてる怪獣でもなきゃ効果的かなって思って、シミュレーターで練習してたんですよ」

 「もう・・・あんまり難しいことしないでください。ハラハラしちゃいました」

 「ハハ、ごめんごめん・・・」

 ヒカルにそう謝りつつも、ケイスケはウルトラマンに目を移した。

 「今だ、ウルトラマン!」

 「シェァッ!!」

 ダッ!!

 ウルトラマンはその言葉にうなずくと、大ダメージを受けて動きが鈍くなっているツチダマスSに向かって、空高くジャンプした。そして、空から飛び降りながら・・・

 「ダァッ!!」

 強力な手刀を、ツチダマスSの左肩に振り下ろした。

 ガチャァァァァァァン!!

 そのすさまじい威力に、陶器の砕けるような音と共にツチダマスSの左肩が左腕ごと粉々に砕け散った。

 「やったぁ!!」

 サトミが歓声を上げる。だが、ウルトラマンは攻撃の手をゆるめない。

 「ジュワッ!!」

 ドガァァァァン!!

 大地を蹴って繰り出した強力なとび蹴りが、ツチダマスSの胸に炸裂する。

 ギィィィィィィガァァァァァァァァ!!

 ズズゥゥゥゥゥゥゥン!!

 たまらずに倒れるツチダマスS。ウルトラマンはうしろへとジャンプし、ツチダマスSと距離をとった。

 ギィィィィィィガァァァァァァァァ・・・

 傷ついた体をきしませながら立ち上がるツチダマスS。その動きに、それまでのスムーズさはない。

 ガシッ!!

 そして、チャンスと見るやウルトラマンは腰の前で両の手首を交差させた。そして、その両腕を、ゆっくりと上へ回していく。円を描くようなその腕から、光の軌跡が起こる。さらに、胸の水晶体も輝きを増していく。そして・・・

 「シュワッ!!」

 カァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!

 ウルトラマンが両腕を十字に交差させた瞬間、その腕からまぶしい光の帯がほとばしった。そしてそれは、ツチダマスSの体へとまっしぐらに走り・・・

 ギィィィィィィガァァァァァァァァァァァァァ!!

 ドガドガドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!

 断末魔のような絶叫をあげ、ツチダマスSの体は爆発四散した。

 「決まったぁ! 必殺光線!!」

 それを見て歓声をあげるサトミ。

 「す、すごいです・・・」

 「一発であの土偶をふっ飛ばしたぞ・・・」

 「あれが・・・ウルトラマンなんだね・・・」

 ほかの隊員たちも、そのすさまじいパワーにあっけにとられていた。

 そして、静寂の戻った戦場で・・・

 「・・・」

 ウルトラマンは、SAMSナイトとSAMSルークを交互に見つめた。

 「ありがとう、ウルトラマン!!」

 「ありがとうございました!!」

 それぞれ機体を振る二機。ウルトラマンはそれに、大きくうなずいた。ウルトラマンとSAMSの活躍により、ギガゾーンの最初の侵略は防がれたのだ。





 「むぅ・・・地球人・・・それに、ウルトラマンめ・・・」

 モニターに映るその姿を見ながら、ギガゾーンはうなった。

 「・・・まあいい。これでこそ、侵略の価値もあるというものだ。それに・・・」

 そう言いながら、ギガゾーンはコンソールのスイッチのひとつに手を伸ばした。

 「まだまだこれからだ・・・」

 スイッチが、パチリと入れられる。





 しばらく向かい合っていたウルトラマンとSAMSだったが・・・

 「・・・」

 ウルトラマンは空を見つめた。戦いを終え、再び宇宙へと戻ろうとしているように。

 「帰っちゃうみたいですね・・・」

 「ねぇ、また来てくれるかな?」

 「さぁ・・・どうだろうね・・・」

 と、その時である。

 pipipipipipipipipipi!!

 「!?」

 ヒカルの目の前にある端末が、警報音を鳴らした、すぐにモニターを見たヒカルが叫ぶ。

 「二時の方向、地底より巨大な物体が高速浮上中!! 出現予測ポイントは・・・」

 と、ヒカルが言いかけたその瞬間・・・

 ボゴォォォッ!!

 地中から突然、巨大な物体が飛び出してきたのだ。しかもその場所は・・・ウルトラマンの背後。

 ギィィィィィィィガァァァァァァァァァァァァァ!!

 なんとそれは、ツチダマスだった。ただし、さきほど倒したものと違い、その体はまぶしいような金色の光を放っている。そしてそれは、地面の上に姿を現すなり、

 ビカァッ!!

 SAMS、そしてウルトラマンが対処する暇も与えず、目から電撃状の破壊光線を、ウルトラマンに向けて放った。と、そのときである。

 「危ないっ!!」

 バシュウウウウウウウウウ!!

 スロットルを吹かしたSAMSナイトが猛スピードで突っ込み、その間に割って入った。そして・・・

 ドガァァァァァァァァァァァァァァン!!

 破壊光線は、SAMSナイトを直撃してしまった。

 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 エンジン付近に致命傷を負ったらしく、SAMSナイトは黒煙を吹きながら猛スピードで海へ向かって墜落していき、そして・・・

 チュドォォォォォォォォォォォン!!

 海面に激突し、大爆発を起こした。

 「ニイザッ!!」

 「「ニイザ君っ!!」」

 「ケイスケくぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!」

 SAMSルークの機内に悲鳴が響き渡る。

 「シェァッ!!」

 カァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!

 一方、ウルトラマンもまたその光景を驚いた様子で見たが、すぐに金色のツチダマスに向かうと、腕を十字に組んで必殺光線を放った。

 ギィィィィィィガァァァァァァァァァァァァァ!!

 ドガドガドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!

 それを受け、ツチダマスSと同じように爆発四散する金色のツチダマス、ツチダマスG(ゴールド)。

 「シュワッ!!」

 ヒィィィィィィン・・・ザボォォォォォン!!

 それを仕留めるが早いか、ウルトラマンは空へと舞い上がり、空から海へと飛び込んでいった。





 あっというまの出来事だった。ツチダマスGの出現、ウルトラマンをかばったケイスケの撃墜、ツチダマスGの撃破と、海へ飛び込んだウルトラマン・・・。あまりに早く過ぎ去った出来事に、SAMS隊員たちの多くも、状況が理解できなかった。

 「うそでしょ・・・こんなことって・・・」

 先ほどまでウルトラマンの勝利に浮かれていたサトミも、青ざめた表情でつぶやく。

 「ニイザ君・・・」

 アヤの表情にも、いつもはうかがえない激しい動揺が見られた。そして・・・

 「そんな・・・そんな・・・!!」

 ヒカルは呆然とした表情で、モニターに映っている黒煙を立ち上らせる海面を見ながらうわごとのようにつぶやいていた。だがそれもつかの間・・・

 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 すぐにモニターに突っ伏し、激しく泣き叫び始めた。それに慰めの言葉をかけられる者は、誰もいなかった。

 「・・・」

 ただ一人、黙ってモニターを凝視していたオグマは、サトミに向かって言った。

 「キシモト」

 「・・・」

 「キシモト!!」

 「!! はっ、はい!!」

 「何をしてる! すぐにニイザの救助だ!! 急げ!!」

 「りょ、了解!!」

 いつになく激しい口調で命令するオグマに、サトミは圧倒されながら再び操縦桿を握った。と、そのときである。

 「!? キャップ・・・!!」

 アヤの静かではあるが、緊迫した声とともに、信じられない光景がモニターに映し出された。

 ガチャッ・・・ガチャガチャッ・・・

 なんと、地面に散らばったツチダマスGの金色の破片がひとりでに動き出し、破片同士がくっつきはじめたのだ。

 「!?」

 「あ・・・ああ・・・!!」

 信じられない様子でそれを見つめるしかないSAMS隊員。そして、破片は急速にくっついていき、そして・・・

 ギィィィィィガァァァァァァァァァ!!

 元通りの巨大な金色の土偶、ツチダマスGの姿を完全に取り戻した。

 「そんな・・・!!」

 「キシモト、戦闘準備!!」

 「ラッ、ラジャー!!」

 あわただしくなるSAMSルーク機内。だが・・・

 「・・・?」

 ツチダマスGは元の姿に戻ったきり、何も攻撃をしかけてこない。と、そのときである。

 「フン・・・仕留めそこなったか。運のいい奴だ・・・」

 ツチダマスGから、低い男の声が聞こえてきた。

 「まあいい・・・楽しみはあとにとっておこう・・・」

 「・・・貴様が、ギガゾーンか」

 オグマはツチダマスGに対して冷静な声で尋ねた。

 「そうだ。いかがだったかな? 手始めのごあいさつは?」

 「ご・・・ごあいさつですってぇ!? ふざけるんじゃないわよ!!」

 「あらゆる呪いを使ってもいい・・・。お前だけは・・・絶対に許さない!!」

 それぞれ敵意をむき出しにしてツチダマスGをにらみつけるサトミとアヤ。

 「・・・お前の意志は、十分にわかった。我々は、容赦なくそれにふさわしい行動をとるまでだ。そのことを、覚悟しておくんだな・・・」

 オグマは対照的に、おそろしく冷静な声で敵に対して語りかけた。

 「・・・そうしてもらってかまわない。むしろ、望むところだ。それでは、さらばだ」

 「キシモト、撃て」

 「ラジャー!!」

 バシュバシュバシュバシュ!!

 SAMSルークから何発ものミサイルが発射される。だが・・・

 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

 ツチダマスGは現れたときと同じように、すさまじい速さで地中へともぐっていった。それによって、ミサイルはむなしく地面にぶつかった。

 「くそぉっ!!」

 やり場のない怒りを、シートの肘掛にぶつけるサトミ。その脇で、オグマが再び指示を下した。

 「・・・キシモト、今度こそニイザの救助だ」

 「りょ、了解・・・」

 そう言いながらサトミは、ゆっくりとSAMSルークを動かし始めた。オグマはそれから目を離すと、後ろを振り返った。泣きじゃくるヒカルを抱いたまま、アヤが黙ったまま悲しい表情をこちらに向けた。オグマは再び前へ向くと、ため息をついてシートに深く背を預けた。





 ニイザ隊員・・・ニイザ隊員・・・

 「う・・・!」

 自分を呼ぶ遠くから聞こえてくるような声に、ケイスケの意識が闇の中から浮かび上がってくる。

 ニイザ隊員・・・目覚めるのだ、ニイザ隊員・・・

 「誰だ・・・? 俺を呼ぶのは・・・」

 まぶたを開けるケイスケ。だが、そのとたんにまぶしい光が飛び込んでくる。とっさに腕で目をかばい、うっすらと目を開きながら、目が明るさに慣れるのを待った。

 ニイザ隊員・・・

 自分を呼ぶ声は、だんだんはっきりしてくる。それと同時に、目の前にぼんやりとした人影が現れ始めた。

 「きみは・・・」

 ようやく明かりにも慣れ、ケイスケは意を決し、目をパッと開いた。そこには・・・

 「!!」

 「気がついたか、ニイザ隊員・・・」

 なんと、あの青いウルトラマンが立っていた。ただ、大きさはいつものような巨人ではなく、自分とまったく同じ大きさになっている。

 「ウルトラマン!!」

 思わず、ケイスケはそう叫んでいた。

 「そう・・・。私は君たちがそう呼ぶ、M78星雲の宇宙人だ・・・。キュラソ星系からギガゾーン博士を追って、この地球へとやってきた・・・」

 ウルトラマンは優しい声でそう語りかけてきた。ケイスケはその現実に驚いたが、すぐに自分の周囲の様子にも気がついた。

 そこは、全てが真っ白な光に包まれた、見渡す限り光だけの空間だった。広さや上下の感覚すらつかめない。ケイスケ自身、水の中に漂っているようなフワフワした感覚を感じていた。ただ、それは不安定ではなく、どことなく安心感を抱けるものだった。

 「ここは・・・どこなんだ? それに・・・俺は、どうなったんだ? 土偶は? それに・・・みんなは!?」

 そこでケイスケは、目が覚める前の出来事を思い出した。聞きたいことは山ほどあった。

 「もしかして・・・ここは、天国か何かなのか?」

 だが、ウルトラマンはゆっくりと首を横に振ってから、悲しそうにうつむいた。

 「君はまだ、死んではいない・・・。だが・・・君の命の火は、もうすぐ消えようとしている・・・。ここは、君の意識の中の、一番深い場所だ。私の力を使って、こうして直接話をしている・・・」

それを聞いて、ケイスケは不思議と納得した。

 「そうか・・・」

 「・・・申し訳ないことをした、ニイザ隊員。私の不覚のために・・・」

 悲しい声で謝るウルトラマン。しかし、ケイスケは首を振った。

 「悔やまないでくれ。君をかばったのは、俺自身の判断だ。正しいと思ってやったことだし・・・それに、地球防衛軍に入ったときから、こんなかたちで死ぬかもしれないことは覚悟してた。命と引き換えでも、それで誰かを守ることができたのなら・・・しかたないさ」

 「・・・君の死を悲しんでいるのは、私だけではない。今も、私には聞こえる。君の家族、友達、それに、君の仲間たちの、君を失った悲しみの声が・・・」

 ケイスケの脳裏に、自分の家族、友人、SAMSの仲間たち、それに・・・ヒカルの顔が浮かんだ。

 「・・・たしかに、それは俺にもつらい。でも・・・それは誰でも同じことだ。よっぽどの悪人じゃないかぎり、死んで誰も泣いてくれない人間なんていない。つらいけど、受け入れるしかないと思う。俺も、みんなも・・・」

 ウルトラマンは黙ってそれを聞いていたが、やがてケイスケに尋ねた。

 「死ぬことは、怖くないのか? 後悔はないのか?」

 その言葉を聞いて、ケイスケは黙って目を閉じた。

 「・・・怖いよ、すごく怖い。できるなら、死にたくない。後悔なんて、いくらでもある。特に・・・ヒカルにはね。心配ばっかりかけさせて、恋人らしいことをぜんぜんしてやれなかった・・・」

 だが、ケイスケは続けた。

 「でも、しかたない・・・。死ぬことだけは、誰にも免れないよ・・・。ヒカルもきっと、許してくれる・・・」

 ウルトラマンは静かにそれを聞いたあと、ケイスケに言った。

 「・・・私には、君を死なせることはできない」

 「!」

 その言葉に、ケイスケは目を見開いた。

 「君を死なせてしまったのは、私の責任だ。今度は私に、君を助けさせてはくれないか?」

 「ちょ、ちょっと待ってくれ・・・。それって・・・俺を生き返らせてくれるっていうこと?」

 ウルトラマンは、黙ってうなずいた。ケイスケはそれに、驚きを隠せない。

 「ほ、ほんとかよ・・・。でも、どうやって・・・」

 「私の命を、君に分けよう」

 「そ、そんなことができるのか!?」

 その言葉に、ケイスケは驚いた。まるで、命を輸血のように分けることができる、とでもいうかのようなのだから当然である。だが、すぐに落ち着いて表情を曇らせる。

 「でもそれって・・・やっぱりダメだよ。それって、君の寿命を縮める代わりに、俺を生き返らせるってことだろ? 宇宙の平和を守れるぐらいの力があるのに、寿命を縮めてまで俺を助けるなんて・・・」

 「それは心配要らない。気を悪くしないでほしいが・・・私たちの寿命は、君たちに比べて非常に長い。私も、すでに1万5千年生きている・・・」

 「1万5千年!?」

 「そう・・・。それでもまだ、地球人の年齢にあわせれば、君と同じぐらいだ」

 その言葉に、ケイスケは驚いた。いくら同い年のようなものだといわれても、1万5千年という時間など想像がつかない。同時に、それほどの寿命をもっているのなら、思いっきり長生きしても百歳そこそこな人間に寿命のいくらかを分けてやるのはたいしたことではないというのもうなずけたし、彼が心配したように、気を悪くすることもなかった。彼らにとっては人間にとっての数ヶ月、あるいは数日程度の寿命だろうが、それでも命であることには間違いない。自分は彼と同じように進んで他人に命を差し出すことができるだろうかということを考え、ケイスケはその懐の深さに感嘆した。

 「それに・・・寿命を縮めても、私にはかまわない・・・」

 ウルトラマンは続けた。

 「私も君も・・・誰もが平和に生きることを願っている・・・。君も私も・・・命の重さは同じだ」

 「!!」

 「私の願いを・・・聞いてくれないか?」

 「・・・」

 やがて、ケイスケはうなずいた。

 「わかった! そこまでしてくれるなら、断るわけにはいかないよ・・・。ありがとう」

 ケイスケの笑顔に、ウルトラマンはうなずいた。

 「でも、どうやって命を分けるんだ?」

 ケイスケがそう尋ねるとウルトラマンは、再び真剣な口調で話し始めた。

 「実は・・・もうひとつ、君に知っていてほしいことがある」

 「なんだ?」

 「命を分けるには・・・私たちにとってはだが・・・少しの時間がかかる。そのあいだは、私と君は、お互いの体を共有しなければならない」

 「つまり・・・一心同体になるってことか?」

 ウルトラマンはうなずいた。

 「そのあいだに、君か私のどちらかに何かがあれば、どちらの命も失われてしまう・・・。しかし、そのあいだは、君は私の力を使うことができる」

 「なんだって!? それって・・・俺が、ウルトラマンになれるってことなのか!?」

 思いもかけない話に、ケイスケはこれまでで一番驚いた。

 「そうだ。これまでに地球に留まった私の仲間たちの多くも、普段は君のような勇敢な地球人の姿を借りていた」

 「そうなのか・・・」

 「だが、それは怪獣と生身で戦うということを意味している。それに、私たちはこの地球上ではエネルギーとなる太陽光線が不足するため、短時間しか活動できないという制限があり、それを越えると二度と立ち上がることができなくなってしまう。君に、危険な戦いをさせることになってしまうが・・・」

 「・・・」

 ケイスケは、あまりのことにしばらく考え込んだが・・・

 「それは、君だって同じことだろう?」

 やがて、笑って答えた。

 「それに、それは今までやってきたことと、何も変わらないじゃないか。もう一度、誰かを守るために戦えるのなら・・・よろこんで、君と一緒に戦うよ。一緒に、がんばろう」

 「ありがとう・・・ニイザ隊員」

 ウルトラマンはうなずくと、ゆっくりと手を前にかざした。

 パァァァァァァァァァァ・・・

 「!」

 すると、その手の中に光が生じ、その中から不思議な棒状の物体が現れた。白い象牙のような柄の先端に、静かに輝く見たこともないような青い結晶がついていた。

 「これを君にあげよう」

 そう言って、ウルトラマンはそれをケイスケに差し出した。

 「これは?」

 「エスペランサーだ」

 「エスペランサー?」

 「私の力を必要とするときに、それを天にかざして使うのだ。そうすれば、君は私になることができる」

 ケイスケはそれを受け取るとしばらく見つめたが、

 「ありがとう。大事にするよ」

 やがて笑顔を浮かべながら、それを胸のポケットにしまった。ウルトラマンはそれを見届けると、ケイスケに言った。

 「それでは・・・準備はいいかな?」

 ケイスケは無言でうなずいた。

 「ともにギガゾーンからこの星を守ろう。よろしく、ニイザ隊員」

 「ああ、よろしく・・・」

 ウルトラマンの差し出した手を握り返した瞬間、ケイスケは再び、意識を光に包まれていった・・・。





 夜。ちょうどあの戦闘が終わったあたりから関東周辺にやってきた雲が、マリナーベースの上も覆い、星の光を遮っていた。そんなどんよりとした空模様と同じように、マリナーベースのミッション・ルームの中は、暗い雰囲気に沈んでいた。

 「・・・」

 プシュー・・・

 オグマは窓際に立ち、黙ってそれを見ていたが、ドアの開く音にそちらを振り返る。

 「・・・」

 「・・・」

 ドアが開き、二人の隊員が入ってくる。

 「どうだった?」

 ニキがそのうちの一人、アヤに尋ねたが、アヤは首を振って言った。

 「私達には・・・どうすることもできませんよ・・・」

 いつもは明るいサトミも、とてもつらそうな表情をしている。

 「そう・・・」

 ニキはそう言ったきり、黙り込んだ。

 「・・・なんで医学ってのは、肝心なことができないんだろうな・・・。体の傷は治せても、心の傷は、今も昔も簡単に治せやしない・・・。医学だけじゃない・・・こんなに科学が発達してるのに、俺達にはできないことが多すぎる・・・」

 自分の席に座ったまま、コジマがぽつりとつぶやいた。

 「それは・・・魔術とて同じことだよ・・・」

 その隣にアヤが座りながら静かに言った。と、その時である。

 バン!!

 サトミが、デスクを強く叩いたのである。全員が驚いて彼女を見つめた。

 「いい加減にして下さい!! なんでみんな、ニイザ君が死んだって勝手に話を進めてるんですか!!」

 全員が黙り込んだが、やがて、コジマが口を開いた。

 「お前の気持ちはわかるけど・・・お前だって見ただろう? ナイトの残骸・・・」

 「脱出レバーは・・・引かれていなかった・・・」

 その言葉に、アヤも続ける。あれからすぐ、SAMSと横須賀基地の隊員達はケイスケの捜索とSAMSナイトの残骸の回収を行った。しかし・・・大破したナイトのコクピットには彼の姿はなく、脱出レバーは引かれていなかったのである。それを見たSAMSメンバーは一様に言葉を失い、ヒカルに至っては、マリナーベースに戻るなり、自室に閉じこもってしまっている。

 「生存を信じたい気持ちはわかるわ。けれど・・・」

 「だからって、なんなんです!!」

 サトミはそう叫んで、ニキの言葉を遮った。

 「あたしは誰が何と言っても、ニイザ君のことを信じます! ニイザ君は今までもヒカルちゃんに心配をかけてきたけど、一度だってそのままにしたことはないじゃないですか! ニイザ君は、そんな薄情な人じゃありません!!」

 「・・・」

 「・・・あたしはニイザ君が戻ってくるまで、ここから動きません。戻ってきたときに、ヒカルちゃんに教えてあげる人がいないと・・・」

 そう言って、サトミは自分の席について、石のように動かなくなった。

 「・・・」

 黙ってそれを見つめるメンバー。サトミがなぜここまで頑なにケイスケの生存を信じようとするかは、彼らもよく知っている。昔、台風で増水した河から子どもを助けるために命を落とした警察官の父に憧れ防衛軍に入ったサトミは、それゆえに仲間の死を誰よりも嫌っているのだ。

 「・・・」

 ニキは彼女の気持ちを察して何も言わず、窓際に立っているオグマに近づいた。

 「キャップ・・・」

 「好きにさせてやろうよ。それに・・・」

 「それに?」

 「たぶん、そんなに待たないと思うんだ・・・」

 そう言いながら、怪訝な顔をするニキをよそに、窓の外に視線をやるオグマ。

 「おー・・・見てみろよ。晴れてきた。明日は晴れるな。それに、ほら、すごく明るい星があるじゃないか」

 相変わらずの脳天気な様子で言うオグマ。ニキはため息をついて彼から離れていった。彼の言うとおり、先ほどまで空を覆っていた雲が徐々に晴れ、星空がのぞいてきている。そして、その雲の隙間から一際明るい星が覗き、心なしか、ピカリと輝いたように見えた。

 プシュー・・・

 その時、ミッション・ルームのドアが唐突に開いた。それと同時に

 「ただいま戻りました!!」

 聞き覚えのある元気のよい声が、ミッション・ルームに響き渡った。

 「「「「!!?」」」」

 その声に、ミッション・ルーム内の全ての視線がドアに集中した。そこに立っていたのは・・・

 「えへへ・・・ただいま」

 なぜか作業服に身を包み、左手に水色のクーラーボックスを持ったケイスケが、恥ずかしそうに照れ笑いをしながら立っていた。

 「「「「ニイザ(君)っ!!!」」」」

 ダダダダダダダダダダダダダダダダ!!

 オグマを除く全員が、彼の姿を見るなり殺到した。

 「お、お前、本当にニイザか!? こんどばかりは簡単に信じられねえよ!! アヤさん、幽霊じゃないですよね!?」

 「あ、ああ・・・今度も間違いなく・・・本物の生きているニイザ君だ・・・」

 「や、やだなあ・・・」

 「よ、よかったぁ・・・。あたしは信じてたよ!! ニイザ君はきっと戻ってきてくれるって!!」

 「本当・・・まさに奇跡ね・・・」

 「ご心配をおかけしました」

 囲まれながら、喜びの声に律儀に答えていくケイスケ。少し遅れて・・・

 「おかえり。いやはや、不死身だねお前は・・・」

 のんびりとオグマが近づいてきた。

 「すいません、隊長・・・。あれ・・・?」

 と言って、ケイスケはあたりを見回した。

 「ヒカルの姿が見えませんけど・・・どこいっちゃったんです?」

 それを聞いて、一同がハッとした顔になったが・・・

 「キシモトォ!! いってこーい!!」

 「ラッ、ラジャー!! 加速装置っ!!」

 ダダダダダダダダダダダダダダ!!

 コジマに言われたサトミが、なぜか奥歯を噛んで猛スピードでミッション・ルームから出ていった。その直後、

 ガシッ! ギリギリギリ・・・

 コジマはケイスケに思いっきりヘッドロックをかけ始めた。

 「このやろ〜!! ヒカルちゃんに心配かけやがって!! 今までどこで何やってた!?」

 「それと・・・その服と箱は・・・いったいなんなんだい?」

 「そんなことより、どうやって助かったのかが先よ」

 「イデデデデ!! 話します順を追って話しますから離して下さいぃぃぃぃぃぃ!!」

 矢継ぎ早に質問を浴びせるメンバーと、悲鳴を挙げるケイスケ。と、その時だった。

 「ケイスケくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!!」

 ドドドドドド!! ドガァッ!!

 「ぐわあっ!!」

 ケイスケの名を呼びながらミッション・ルームに突進し、そのままの勢いでケイスケに抱きついてきたヒカルによって、コジマは吹き飛ばされた。

 「ケイスケ君・・・わぁああああああん!!」

 代わりに、今度はケイスケはヒカルに強く抱きしめられることになった。

 「ケイスケ君・・・ひっく・・・よかった・・・よかったです・・・」

 せきとめられていたものが一気に流れ出したような涙を流しながら、ヒカルはうれしさで口がうまく動かないながらも、自分の気持ちの全てをケイスケへとぶつけた。一方、ドアからはやっと追いついたという感じで聡美がヘロヘロと入ってくる。

 「あ、ああ・・・ごめん。本当に、心配かけさせちゃったな。本当に、ごめん・・・」

 ケイスケはヒカルを抱き返しながら、やさしく彼女の頭をなでた。

 「ま、こっちが先決だな・・・」

 オグマがそう言うと、メンバー達はしょうがないなという表情でため息をつき、そっと彼らから離れていった。





 その後しばらくして、メンバー達はミッション・ルームへと戻ってきた。

 「気は済んだかな?」

 「あ・・・は、はい! すいません」

 赤くなって互いに離れる二人。するとオグマの後ろから、コジマが背中を押さえながらやってきた。

 「うー・・・効いた効いた。やっぱり、二人のコンビは無敵だな。さすがはSAMSのシーゴラス・シーモンスだわ」

 「す、すいません・・・。つい夢中になっちゃって・・・」

 「あのね・・・いくら仲がいいからって、怪獣に例えることないじゃないの・・・」

 ニキが呆れ顔でたしなめた。ちなみにシーゴラスとシーモンスとは、仲のよいことで有名な夫婦怪獣である。怒ると夫婦力を合わせて、大津波やら大竜巻やらを発生させて手の着けられない暴れぶりを披露することでも知られているが。

 「ま、いいんじゃないの。それより、話を聞かせてくれよ。みんな気になってるんだから」

 「もちろん。これから話しますよ」

 そう言ってケイスケが席に着いたので、他のメンバーも席に着き、彼の話を聞くことにした。

 「さて・・・まず墜落したときのことなんですけど、よく覚えてないんですよね。気がついたら、海の上に浮かんでたってかんじで・・・」

 「ま、そういうものかもね」

 「それでしばらく海を漂ってたら、運良く通りかかった漁師さんの船に助けられたんです。それでその人に、陸まで送ってもらったんですけど・・・」

 そう言って、ケイスケはなぜか持っていたクーラーボックスに目を落とした。

 「話をしたら、「大事な戦闘機落っことしたうえ仲間に心配かけたんじゃ、手ぶらで戻るのは気が引けるだろ」とか言い出しまして・・・いいって言ったんですけど、結局その日釣れた魚を、ちょっと分けてもらっちゃいました」

 ケイスケは恥ずかしそうに、コンコンとクーラーボックスを叩いた。

 「それで・・・そんなものを持っていたのかい・・・。それじゃあ・・・その服は・・・?」

 アヤの言葉にうなずき、ケイスケは答えた。

 「スーツはびしょ濡れの上にボロボロでしたからね。しょうがないから、横須賀基地まで歩いていって、そこで作業服と車を貸してもらったんです。あとはそのまま、こっちにまっしぐらというわけなんですけど・・・」

 「人騒がせな野郎だな・・・。だったらその時に、基地から電話をかけてくれりゃ迎えにも行けたし、ビックリさせられることだってなかったんだぞ?」

 コジマのその言葉に、ケイスケはポカンと口を開けた。

 「あ・・・そうでしたね。こっちに帰ることばっかり考えてて・・・」

 「ったく・・・肝心なところが抜けてんだから。ヒカルちゃんがどんだけ心配したと思ってんだよ。なぁ、ヒカルちゃん?」

 「いいんです、もう・・・。無事に戻ってきてくれたんですから・・・」

 まさに幸せの絶頂というようなバラ色のオーラを発散させているヒカル。

 「あー・・・そうでしたね。やっぱり素敵ですなぁ、恋は」

 「なにバカなこと言ってんの。でもホント、今日は大変だったけど、あたしには最高の一日だったなぁ。ニイザ君は無事に戻ってきてくれるし、ウルトラマンは出てきてくれるし・・・また来てくれるかなぁ・・・」

 サトミが机に頬杖をつきながら言った。

 「あ、そうだ。あの金色土偶はどうなったんです?」

 「ウルトラマンが倒してくれたわ。でも、すぐに破片から再生してしまって・・・それから地中に潜ってから、今も行方はつかめていないわ」

 ニキが深刻そうな表情で言った。

 「そうですか・・・。ギガゾーン・・・やっぱり、恐ろしい侵略者ですね・・・」

 ケイスケの言葉に、全員が沈黙する。だが、やがてオグマが言った。

 「たしかに、これから厳しい戦いが待っているかもしれない。だが、明日からもこのメンバーで戦えるんだ。とりあえず今は、それを喜んでおこう。まずは・・・」

 そう言うとオグマは、クーラーボックスを開けた。

 「うわぁ・・・いろいろありますね・・・。みんな立派です」

 中に入っていた様々な魚を見て、ヒカルが目を輝かせる。

 「とりあえず、これでなにかご馳走をつくってくれないか、ハットリ? ニイザを待ってたから、すっかり腹ペコだよ」

 「わかりました! とびっきりのお料理を作りますから、少し待っていてください」

 そう言って、クーラーボックスを持とうとするヒカルだったが・・・

 「俺も手伝うよ。いいだろう?」

 ケイスケがその代わりに、クーラーボックスを持った。

 「え・・・? そんな、いいですよ、ケイスケ君はここで待っててくれて・・・」

 「晩御飯待たせちゃったことも含めて、俺も罪滅ぼししたいんだよ。そのチャンスがほしいんだ。だから、な?」

 ヒカルは手を合わせて頼むケイスケに、やがて笑顔でうなずいた。

 「・・・わかりました。一緒に作りましょう」

 「ありがとう。それじゃ、ちょっと待っててください」

 「ヒカルちゃんの足引っ張るんじゃないぞ?」

 「わかってますよそんなこと!」

 コジマを軽くにらみながらも、仲良く並んでキッチンへと歩いていく二人。

 「・・・シーゴラス・シーモンスも逃げ出すかもね、あの二人の前じゃ・・・」

 サトミが軽く呆れながら言った。

 「フ・・・まあ、いいんじゃないのかな・・・。おとなしく・・・食事の用意をして待つことにしよう・・・」

 「そうですね・・・」

 そう言って、アヤたちも動き出した。その中で・・・

 「あの、キャップ・・・」

 「ん?」

 ニキが、オグマに尋ねてきた。

 「どうして、ニイザ君が戻ってくることがわかったんですか?」

 「別に、確信してたわけじゃないよ。勘だな。男の勘だって、そんなに捨てたもんじゃないんだぜ?」

 ニキは少し苦笑いをして、会釈をしてからコジマたちを手伝い始めた。

 「すっかり晴れたな・・・」

 窓の外を見ながら、オグマはポツリとつぶやいた。すっかり雲の晴れた夜空には、やはり一際明るい星がひとつ、キラリと輝いていた。





 それから2時間後・・・

 「ハァー・・・」

 ドサッ

 自分の部屋へ戻るなり、ケイスケはすぐにパジャマに着替え、ドサリと自分のベッドへと倒れ込んだ。あまりにもいろんなことのありすぎた一日だったので、体はヘトヘトに疲れている。こうしてベッドに寝転がっている感覚を感じていても、まるで夢のようだ。だが・・・

 「・・・」

 ケイスケは、自分の手の中にあるものを見つめていた。それが何より、今日起こった出来事が夢でないことを証明しているかのようだった。象牙のような白い柄の先に、吸い込まれそうな青く美しい不思議な石のついた道具。ウルトラマンがエスペランサーと呼んで、彼に渡したものである。と、その時・・・

 ピカッ

 「気分はどうだ、ニイザ隊員」

 エスペランサーが小さく輝き、突然、ウルトラマンの声がした。ケイスケは少し驚いたが、すぐに気を取り戻して言葉を返す。

 「ビックリしたぁ・・・。急に話しかけないでくれよ」

 「すまない」

 「ああ・・・まぁ、いいよ。気分は・・・夢みたいだな。こうしてまたここに帰ってきて、みんなと一緒にご飯を食べて、このベッドに寝ることができるなんて・・・。君がいなければ、みんなできないことだった。ありがとう」

 「いや・・・礼には及ばない。それよりも・・・君の仲間達は、皆心がきれいだな。君が無事に帰ってきたことを、心から喜んでくれていた」

 「ああ、最高の仲間だよ。性格や好みはみんな違うけど、地球を守りたいって気持ちはみんな一緒だ」

 ケイスケはそう答えると、今度はこちらから尋ねることにした。

 「一つ、聞きたいことがある」

 「なんだ?」

 「さっきは、そうした方がいいと思ったからそうしたけど・・・やっぱり俺達のことは、このまま秘密にしておいた方がいいんじゃないかな・・・」

 ウルトラマンはしばらく黙っていたが、やがて答えた。

 「・・・彼らなら、その事実も素直に受け入れてくれると思うが?」

 「ああ、もちろん俺も、みんなは信じてる。みんなの態度が変わることを心配してるわけじゃない。だけど・・・」

 「・・・ハットリ隊員のことか?」

 「・・・」

 ケイスケは、黙ってうなずいた。

 「あいつは、芯の強い人間だ。それでも・・・俺がウルトラマンになって、怪獣と直接戦うなんてことを知ったら、きっと今まで以上にあいつに心配をかけてしまうことになると思う。本当に正しいかどうかは、自分でもわからない。けど・・・これをあいつに隠す、最後の秘密にしたいんだ・・・」

 ウルトラマンは黙ってそれを聞いていたが、やがて答えた。

 「ずるいと思うかも知れないが、ニイザ隊員・・・私と一心同体になっても、君はやはり、ニイザ・ケイスケだ。よく考えた末で、正しいと思うことをすればいい。今の私は、君のとろうとしていることは、間違いではないと思う。私は君たちの今は守れるが、未来は君たちがつくっていくものだ。そのことを、忘れないでほしい」

 ケイスケはその言葉を聞いて、やがてうなずいた。

 「ああ・・・。ありがとう」

 その時

 「ファ・・・」

 あくびが口をついて出た。さすがにこうしてベッドに仰向けになっていると、どうしても眠気が意識を覆ってくる。

 「疲れたのだろう・・・。もう寝た方がいいんじゃないのか?」

 「ああ、そうだな・・・。人生で一、二を争うぐらい、ヘビーな一日だったよ」

 「すまなかったね、ニイザ隊員・・・。君と少し、話をしてみたかった。私もできるだけ、地球人の心を知りたいと思っているから・・・」

 「そうか・・・。もちろん、かまわない。いつでも話しかけてくれていいよ。ただ・・・」

 と、ケイスケは苦笑いのような表情を浮かべた。

 「その、「ニイザ隊員」ってのは、やめてくれないか? 一心同体なんて、これ以上ないくらい親密な間柄なのに、そういう呼び方はなんか他人行儀だよ・・・。どうせならもっと気楽に、「ケイスケ」って呼んでもらえると助かるんだけど」

 「なるほど・・・わかった、ケイスケ・・・これでいいかな?」

 「ああ、バッチリだ。あれ? 待てよ・・・」

 と、そこでケイスケはあることに気がついた。

 「そういえば、今までウルトラマンって呼んできたけど、それって元々は本名じゃなくて、俺達地球人が勝手に呼んでる名前だよな? 君は、本名はなんていうんだ? ちゃんとした名前を呼ばないのは、やっぱり失礼だし・・・」

 「私はウルトラマンでもけっこうだが・・・たしかに、光の国での名前はある。だが、残念だがそれを君たちに伝えることはできない」

 「どうして?」

 「君たちの言葉では、完全に表現することのできないものなのだ。優しく降り注ぐ太陽の光や、美しく輝く星の光のように・・・」

 「そうか・・・」

 考えられる話だ、とケイスケは思った。地球人の人種の間にだって、どうしても理解できない概念というものはある。ましてや相手が宇宙人なら、むしろその方が多いのではないか。

 「恒点観測員1293号という、もう一つの名前はあるが・・・」

 「それは俺達の隊員IDみたいなものだろう? それで呼ぶのは、やっぱりまずいよ。それに、ただウルトラマンっていうのもそれだけじゃ初代ウルトラマンと区別がつかないし・・・やっぱり、君だけの名前は必要だ。そうだなぁ・・・」

 そう言って、ケイスケは腕を組んで考え始めた。だが、しばらくして・・・

 「・・・。ううん・・・やっぱり、すぐに思い浮かぶもんじゃないな。悪いけど、もう少し考える時間をくれないか?」

 「もちろんだ。私に名前をつけてくれるというだけでも、とてもうれしい。納得のいくものを考えつくまで、時間をかけるといい。私は待つよ」

 「ありがとう。みんなにもそれとなく聞いて、アイディアを拾ってみるよ。できるだけ早く決まるように、頑張ってみるからさ」

 そう言ってケイスケは笑った。

 「それじゃ、今度こそ寝よう。とりあえず、今日はありがとう。おやすみ」

 「ああ。おやすみ・・・」

 ケイスケはそう言うと、目を閉じた・・・。





 一方そのころ。とある湖の底では・・・。

 「・・・」

 ギガゾーンが、モニターに映るウルトラマンとツチダマスSの戦いの映像を見つめていた。モニターにはちょうど、ツチダマスSがウルトラマンの必殺光線を浴びて爆発四散するところが映っている。

 「今度もあくまで私の邪魔をする気か・・・。いいだろう、今度こそ決着をつけてやろう。それにしても・・・」

 と、モニターが切り替わる。SAMSナイトがツチダマスSの重力波発生装置を破壊するシーンが映る。

 「さすがは、侵略慣れしているのか・・・。予想以上の戦闘能力だ。もう少し情報収集をしてから、次にターゲットとするのは、奴らにするか・・・」

 ギガゾーンはそういうと、ゆっくりと部屋から出て行った。そして、円盤の壁に手をかざすと、そこに唐突に穴があいた。そこから外へと出て行くギガゾーン。

 そこは、ドーム状の広い空間だった。ギガゾーンが湖の底から横穴を掘って作り上げた、人口の地下空間である。そして・・・

 「・・・」

 ギガゾーンは、上を見上げた。そこには、金色に輝く巨大な土偶型のロボット・・・ツチダマスGがそびえたっていた。ここはツチダマスGの、一時的な格納場所なのである。保管庫から取り出したばかりの時は人形大の大きさだったが、いったん圧縮冷凍から解凍すると、本来のこの大きさへと戻る。もっとも、そうすると再び圧縮冷凍するのにも手間がかかり、それよりはこうして地底に隠しておくほうが効率的である。

 「次の戦いでは、ウルトラマンと奴らを倒し、お前の、そして私の力を知らしめてくれよ、フフフ・・・」

 そう言ってほくそえんだギガゾーンだったが・・・

 「・・・ん?」

 あることに気づき、少し動揺した。

 「小指・・・小指の先は、どこへ行った?」

 なぜかツチダマスGの右手の小指の先が、関節から先がなくなっていた・・・。





 「オーライ、オーライ・・・」

 整備員の号令によって、防衛軍の輸送機のペイロードから一つのコンテナがゆっくりと下ろされていく。SAMSメンバーの見守る中で、そのコンテナは重い音をたてて地面に下ろされた。

 「よーし! コンテナ開けろ! 丁寧にな!」

 ナラザキの号令のもと、整備員達がそれにとりつき、一つ一つロックを外していく。やがて、一人の整備員が最終ロックのスイッチに手をかざした。

 「開けますよ、いいですね?」

 オグマがうなずくのを見て、彼はスイッチを押した。すると・・・

 ゴゴゴ・・・

 ゆっくりと、コンテナが開いていく。

 「おお〜っ・・・」

 隊員の何人かと整備員達の間からどよめきが漏れる。コンテナの中に入っていたのは、奇妙な物体だった。自動車ぐらいの大きさの、銃弾をそのまま大きくしたような物体。前世紀の二度の世界大戦で使われたという巨大長距離砲の砲弾にそっくりだ。だが、なにより特徴的なのは・・・それが、まばゆいくらいの金色であるということだ。

 「これが、あの金色土偶の一部なの?」

 サトミが驚きの声をあげると、輸送機に同乗してきたアヤがうなずいた。

 「間違いないね・・・。ほら、この映像・・・」

 そう言って、彼女が見せたのはノートパソコン。モニターには、一度爆破されて再生したばかりのツチダマスGの静止画像が映っている。

 カタカタ・・・

 彼女がキーを叩くと、その右手が拡大される。よく見ると、小指の先がなくしたように消えている。

 「この小指の先が・・・これに間違いない」

 「これで小指の先なんだ。やっぱり大きいなぁ・・・」

 「ねえアヤさん・・・これって、金かなにかでできてるんでしょうかね?」

 コジマがそれを期待の視線で見つめる。だが、アヤは首を振った。

 「残念だけど・・・そうじゃないよ。それどころか・・・金属ですらない。セラミックに・・・分子構造がよく似ているけど・・・」

 「なんだ。つまんないの」

 「たとえそうだったとしても、あなたの懐に入るはずないでしょ。つまらない欲をもつのはやめなさい」

 ニキがかぶりを振る。

 「いいじゃないですか。ささやかな夢を持つぐらい・・・」

 「でも、どうしてこれだけはくっつかないで、こんなふうにここにあるんですか?」

 「それ以前に、なんであの土偶はあんなふうに元に戻れるんでしょう?」

 ヒカルとケイスケが、もっともな疑問を口にする。

 「再生能力については・・・まだ仮説だけど・・・形状記憶合金のように、分子の一つ一つが、自分たちの並び方を覚えていて・・・さらに、元に戻ろうとする力をもっているのかもしれない。だから・・・バラバラにされても、すぐに戻ることができる・・・」

 「へぇ・・・」

 「これがここにあるのは・・・偶然吹き飛ばされて海に落ちて沈んでいたものを・・・防衛軍が見つけてサルベージしたからだよ・・・」

 「それじゃあ、海に沈んでいたからくっつくことができなかったんですか?」

 アヤは小さくうなずいた。

 「結果はおそらくそうだろうけど・・・原因が何かは、まだわからないね・・・。海水が破片同士の引力を妨げたのか・・・それとも・・・海水成分の何かが、この物質を変質させたのか・・・詳細は、これから調べなければ・・・」

 と、オグマがコンテナに近寄り、指の中をのぞいた。

 「空っぽだな、これ・・・。動かしてたメカとかは、流されちゃったのか?」

 たしかに、それは内部が空洞だった。

 「そういったものが詰まっていた痕跡は・・・見当たりません。おそらく・・・もとからこうだったのではないかと」

 「中が空っぽの土人形が動いてたっていうの?」

 信じられないという様子で、ニキが言った。

 「エネルギー源や光線発生装置は積んでいたでしょうが・・・・それ以外は、何もなかったのでしょう。おそらくは・・・重力コントロールによって体の各部を動かす・・・巨大な操り人形・・・というところでしょうか」

 ニキにそう言ってから、アヤは黄金の小指を見た。

 「いずれにしても・・・我々にはまだ・・・実現困難な技術です・・・。やはり強大な敵だと・・・覚悟したほうがよさそうですね・・・」

 その言葉に、メンバーは皆押し黙った。

 「・・・それは心得とくよ。すぐにこれを分析してくれ。こいつがなんでくっつかなかったのか、それを解明することが、次の戦いの鍵になると思う」

 「了解しました・・・。できるだけ早く・・・」

 アヤはそう言うと、ちょうどよくやってきた科学班に手早く指示を下し始めた。

 「さて・・・ここはキリュウに任せて、俺たちは仕事に戻ろう」

 オグマの言葉にうなずき、メンバーはミッション・ルームへと戻っていった。





 それから5日後・・・。

 「・・・」

 シャッ・・・シャッ・・・

 キッチンに立ち、タマネギの皮を剥くケイスケの姿があった。だが、その視線は手元には注がれておらず、どこか遠くを見ている。

 「・・・君」

 だれかの声がしたが、どこか遠くのことのように聞こえる。そのとき、彼は手を引かれる感覚を感じた。

 「ケイスケ君!」

 「!」

 ケイスケはハッとして気を取り戻した。見ると、ヒカルが困ったような表情でこっちを見ていた。

 「あ、ああ・・・ごめん。ちょっと考え事してた。それで、なんだ?」

 「あの・・・タマネギ、なくなっちゃってます・・・」

 ヒカルが手元を指差して言う。見ると、ケイスケの手の中にはやけに小さくなったタマネギが。そしてその下には、大量の薄い皮、そして、身の薄片が山を作っていた。

 「あ・・・しまった!」

 思わずケイスケは驚いた。考え事をしたまま手を動かしているうちに、皮を通り越して身まで剥いてしまっていたようだ。

 「ど、どうしよう・・・」

 ヒカルは少し考えていたが、やがて笑顔で言った。

 「大丈夫です。これなら細切りにすれば使えますから。私がやっときます」

 「そ、そうか・・・悪いな。その間、俺にやることは?」

 「いいんですか? それなら、その卵を溶いておいてください。泡立てるのはいけませんから、今度は考え事しないで集中してくださいね」

 「ああ・・・」

 すまなそうに頭を下げてから、ケイスケは今度はボウルに卵を入れ、菜箸で溶き始めた。

 「あの、ケイスケ君?」

 そのとき、ヒカルが尋ねてきた。

 「ん?」

 「どうして、急にお料理を? 最近、こんなふうによく手伝ってくれますけど・・・」

 ヒカルに言われてケイスケは少し戸惑ったが、すぐに答えた。

 「心境の変化・・・ってやつかな。これからはメカの整備だけじゃなくって、料理もできたほうがいいかなって思って。それなら、お前の近くにいて見ながら勉強するのがいいだろ?」

 「フフッ、そうですか・・・」

 ケイスケはわれながら素直じゃないなと思った。もっとも、ヒカルも本当の理由に気がついているのかいないのか、うれしそうな表情を浮かべているが。と、そのときである。

 ズズゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!

 突如地響きとともに、建物全体が大きく揺れた。

 「キャッ!?」

 「あぶねえっ!!」

 ドタッ!

 倒れ掛かるヒカルをかばい、彼女や自分が彼女の持つ包丁で傷つかないように右手首を押さえながら、彼女の背の下になって倒れるケイスケ。やがて、揺れはすっかり収まった。

 「ふぅ・・・なんとか収まったみたいだな・・・」

 「け、ケイスケ君・・・」

 ふと見ると、ヒカルが顔を赤くしながらこっちに振り返っていた。

 「と、とりあえず、立ってくれよ。包丁持ってるし・・・」

 「あ・・・!」

 ヒカルはあわてて、ケイスケの上から立ち上がり、包丁をキッチンの上に置いた。

 「それにしても、なんだったんだろうな、今の・・・。地震とも思えないし・・・」

 「そ、そうですね・・・」

 まだボーっとなっているヒカル。と、そのときである。

 ビーッ!! ビーッ!!

 「「!?」」

 突如鳴り響く警報。

 「レベルA!?」

 「急ぐぞ、ヒカル!!」

 二人はとりあえず料理の材料をそこに置いたまま、ミッション・ルームへと飛び出した。





 「ギガゾーンですか!?」

 ミッション・ルームに飛び込むなり、ケイスケは叫んだ。全員、緊迫した表情を浮かべている。

 「何かまではまだわからないわ。でも、何かがこの海上区に飛来した・・・」

 レーダー画面を見ながらニキが言う。その言葉に、ヒカルが驚く。

 「そんな・・・直接攻めてきたんですか!?」

 「可能性は・・・高いね・・・」

 「また食事の前だよ、ったく・・・。人のこと考えろってんだ」

 コジマがぼやく。

 「他人様の星侵略しようって奴が、人のメシの都合なんて考えてくれるか?」

 オグマが冷静につっこむ。その時・・・

 「モニターに映像が入ります!!」

 サトミの声と共に、モニターに光が灯る。

 ドガァァァァァァァァァァン!!

 「!?」

 その途端、ビル街の一角が粉々に吹き飛ぶのが映る。そして、もうもうと立ちこめる粉塵の中から姿を現したのは・・・

 ギィィィィィィィガァァァァァァァァァァ・・・

 目から光を放ちながら、煙の中から悠然と姿を現す金色の巨大土偶・・・ツチダマスG。

 「来やがったか!!」

 その映像を見て、コジマが叫ぶ。

 「キシモトさん、目標の位置は!?」

 「そ、それが・・・」

 サトミは青ざめた様子で言った。

 「この本部の・・・目の前です」

 「なんだと!?」

 その言葉に、全員の表情がサッと変わった。





 高層ビルを破壊光線で吹き飛ばし、強引に道を作って突き進んでくるツチダマスG。その目前には、堅固な造りのSAMS本部・・・マリナーベースの姿が。正確に言えば、現在ツチダマスGが立っているのはマリナーベースの西側・・・つまり、ミッション・ルームが面している東側とは、正反対の位置であった。

 バシュッ! ババシュッ!!

 マリナーベースの周辺に設置されたターボレーザー砲台が火を噴く。しかし、その砲撃はツチダマスGの侵攻をわずかに鈍らせる以上の効果は挙げていなかった。

 ビカッ!!

 チュドドドォォォォォォォン!!

 ツチダマスGの目から放たれた破壊光線により、もっとも外周ラインにある砲台群が沈黙する。

 「ふん、この程度の武装・・・」

 ギガゾーンはその光景を見ながら笑った。

 「ツチダマスG、今度は建物にも食らわせてやれ」

 ギィィィィィィィガァァァァァァァァァァ・・・

 ビカッ!!

 ドカァァァァァァァァァァン!!

 ツチダマスGの破壊光線が、今度はマリナーベースの建物を直撃した。爆発が起こり、その箇所から炎と煙が吹き上がり始める・・・。





 ズズゥゥゥゥゥゥゥン!!

 その瞬間、ミッション・ルームにも大きな衝撃が走った。激しい振動に、誰もが手近にあるものにつかまる。室内の明かりが明滅したが、衝撃と同じくすぐにおさまり元に戻った。

 「建物を狙ってきたか! 被害状況を確認しろ!」

 「ラッ、ラジャー!」

 すぐにヒカルが手近の端末に駆け寄り、被害状況を調べ始める。その一方、ケイスケたちがオグマに詰め寄った。

 「キャップ、すぐ出ましょう!! 自動迎撃システムだけじゃ、あいつを止められませんよ!!」

 「そうですよ!! 一刻も早く出撃して・・・」

 「待ってほしい」

 だが、こんな状況でも冷静な声でアヤが言葉をはさんできた。

 「何で止めるんですアヤさん!? このままじゃ・・・」

 「わかっている・・・。だが・・・もう少し待ってほしい・・・。今整備班のみんなが・・・私達科学班の開発した・・・あの土偶の再生能力を殺す新兵器を・・・ビショップとナイトに装備している・・・。まもなく・・・その作業は終わるはずだ・・・」

 「・・・!」

 たしかに、今出て行って攻撃しても、あの土偶の再生能力のために効果的な攻撃は期待できない。しかし・・・

 「・・・それでも、このままじゃダメです。発進する前にマリナーベースが壊滅するか、そうでなくても全部の発進ゲートを破壊されてしまう。やっぱり、出て行かないと」

 ケイスケの言葉に、ニキはうなずいてオグマに言った。

 「私も、ニイザ君の意見に賛成です。新兵器の搭載を待つのはSAMSビショップのみにとどめ、ルークとナイトは先に発進。ルークが反重力ウォールで本部を守りつつ、ナイトが攻撃してその足を止める。それで少し時間を稼ぎ、新兵器の搭載を完了後ビショップがただちに発進、二機の援護を受けながら新兵器で攻撃する・・・。これならばどうでしょうか? 」

 ニキの言葉にオグマは少し考えたが、やがて、うなずいた。

 「・・・いいだろう。新兵器の使用は、お前とコジマに任せる。それまでは、俺たちとニイザで時間を稼ごう。いいな?」

 「了解!!」

 「うわぁ・・・緊張するなぁ・・・」

 コジマが胸を抑える。と、そのとき

 「た、大変です!!」

 ヒカルの声が響いた。

 「どうした!?」

 「今の攻撃で、第2、第4ゲートが大破! ふさがってしまって発進ができません!!」

 ヒカルの端末に表示されているのは、先ほどの破壊光線によるマリナーベースの被害状況。西側に面する第2、第4ゲートが大破し、発進が不可能になっていることが表示されていた。さらに、ヒカルは続ける。

 「それと、第5ゲートは点検中だったため、発進体勢を整えるまでに時間がかかります!」

 「なんだって!?」

 圭介は驚いた。第4、第5ゲートの使用不能。それは、SAMSナイトの発進口が全てふさがってしまったこと、さらには、SAMSナイトの発進不能を意味していた。

 「出せるのはルークとビショップだけか・・・」

 オグマがうなる。と、その時だった。

 プシュー・・・

 「状況はどうかね?」

 ドアが開き、防衛軍の高級将官の制服を着た初老の男が入ってきた。SAMSの長官にしてマリナーベースの基地司令でもある、ムツ司令である。普段は穏和な表情も、今はさすがに厳しいものになっている。

 「ハンガーに大きな被害を受けました。ナイトが発進できません」

 「そうか。第1発令所にも大きな被害を受けたから、これから予備の第2発令所に移動し、そこで指揮を執る。完全に不意を打たれた。基地防衛用の反重力ウォール発生装置も破壊された。状況としては、最悪だな・・・」

 「ええ。司令、すぐにここから戦闘要員以外の人員を避難させるべきです。我々がその時間を稼ぎます」

 「もちろんだ。避難命令はたった今発令した」

 そうムツが言った途端、基地内に非戦闘員の避難を命じる警報が流れ始める。

 「よし。とにかくニイザ以外のメンバーは、ハンガーへ移動、SAMSルーククルーはただちに乗り込み発進、ニキとコジマは新兵器の搭載まで待機せよ」

 「了解!!」

 「キャップ、俺は!?」

 「非戦闘員の避難を手伝え。可能ならば、地上からの支援も行ってくれ」

 「了解しました!!」

 メンバーは敬礼すると、ケイスケを除く全員が一斉に走り出そうとする。

 「ケイスケ君、気をつけて下さいね?」

 その間際、ヒカルがおきまりの一言をケイスケにかける。

 「せっかく助かった命だ。寿命まで二度となくしたりしないよ」

 ケイスケがそう言って笑顔を浮かべると、ヒカルも笑顔でペコリと頭を下げ、ミッション・ルームから出ていった。それを見送ると、ケイスケは顔を引き締め、

 「行きましょう、司令」

 「ああ」

 ムツと一緒にミッション・ルームを出ていった。





 「First Gate Open! First Gate Open!」

 アナウンスの声とともに、上へとせり上がっていくSAMSルークの頭上、第1ゲートが開いていく。

 「全周囲レーダー、順調に作動しています。通信機器、異常ありません」

 「各種観測機器、異常なし・・・」

 「エンジン出力、異常なしです」

 「よし、SAMSルーク、発進!!」

 ゴォォォォォォォォォォ・・・・

 機体下部から火を噴き、SAMSルークは垂直上昇、そのまま反転して、ツチダマスGの方へ機首を向け移動し始めた。

 「うわぁ・・・」

 移動につれて見えてくる光景に、サトミは顔をしかめた。マリナーベースの手前に立つツチダマスGの背後には、強引に破壊された高層ビルのガレキが並んでいる。海上区に立つ建物のほとんどはマリナーベースか防衛軍の関係施設であり、そうでない他の建物も、SAMSや地球防衛軍の隊員達をターゲットとした商業施設である。民間人は少ないとはいえ、大きな被害が出ていることには間違いない。

 そして、自分達の家ともいえるようなマリナーベース。その6,7Fに光線が直撃し、火の手と煙が上がっている。ツチダマスの正面にある防衛用の砲台も破壊され、沈黙している。

 「よっくもやってくれたわねぇ!」

 「これ以上の被害を許すな。反重力ウォール展開。マリナーベースを守りながら攻撃だ」

 「了解!!」

 バシュウウウウウウウ!!

 SAMSルークの機首から広い範囲に、反重力ウォールが展開される。その直後、

 ビカッ!!

 バシィィィィィィィィン!!

 反重力ウォールにツチダマスGの破壊光線が直撃、機体が大きく揺れる。

 「くぅっ! なんの! 攻撃こそ最大の防御なり!!」

 カチッ!!

 バババババシュウウウウウウウウ!!

 負けじとサトミはミサイルを発射した。たくさんのミサイルが発射され、さらにその弾頭部が展開、中から小さなミサイルが無数にツチダマスGへと襲いかかる。

 ドガガガガガガガガガガァァァァァァァァァァァン!!

 ギィィィィィィィガァァァァァァァァァァァァァ!!

 咆吼をあげるツチダマスG。





 「まだ積み込めないんですか、おやっさん!?」

 SAMSビショップの前部座席に座ったまま、コジマは怒鳴った。

 「こっちだって全力でやってんだ! ガタガタ抜かさず最終点検でも念入りにやってろ!!」

 モニターにナラザキの顔が大写しになる。思わずコジマは耳を押さえると、慌ててボリュームを下げてため息をついた。

 「ったく・・・こうしてる間にも・・・」

 イライラした様子でコツコツと計器を叩くコジマ。

 「イメージトレーニングでもしてなさい。私達が一番重要な役割を任されてるんだから、外したりしたらおしまいよ」

 後部座席に座るニキが、落ち着いた声で言った。

 「了解・・・。フォースにでも身を任せますよ・・・」

 コジマはそう言いながら、シートに背中を押し当てた。





 ブォォォォォォォォォ・・・

 最後の輸送車が出るのを見送り、ケイスケはため息をついた。基地の非戦闘人員を乗せた輸送車の列は、たった今全て東側の出口から出ていった。このまま海上区大橋を通って本土までたどりつければ、ひとまずは安心なはずだ。

 「よし・・・」

 ケイスケはそう言うと、地面に置いてあった金属製のアタッシュケースを持つと、近くの隊員に言った。

 「このジープを借りる。微力でも、時間稼ぎをしないと・・・」

 「了解。お気をつけて!」

 隊員に返礼を返すと、ケイスケは近くにあったエアジープへ乗り込み、エンジンをかけると急発進させた。

 ブォォォォォォォォォォォォォ!!

 急ハンドルをきりつつ、進路を基地の西側・・・戦闘が行われている区域へと向ける。やがて、爆発音はどんどん近くなっていき、ケイスケの目の前に戦場の様子が映った。

 目の前にあるのは、青い光の壁。機首からそれを展開しながら、SAMSルークがミサイルやレーザーバルカンで攻撃を仕掛けている。それによってかろうじてツチダマスGもその前進を止められているが、激しく破壊光線を放ち、反重力ウォールへとぶつけている。

 「ナイトさえ使えれば・・・」

 ケイスケはぼやきながら、助手席に乗せたアタッシュケースを開き、中にあったものを組立て始める。やがて完成したのは、一挺の長銃身のレーザーガン。人が携行する武器としては最高の威力を誇るSAMSの対怪獣用レーザーライフル、「グングニール」である。

 「人の庭に土足で踏み込んできやがって!」

 ケイスケはそれをかまえると、ツチダマスGの頭部に向けて引き金を引いた。





 ビカッ!!

 バシィィィィィィィィン!!

 何度目かになる破壊光線の直撃が、反重力ウォールに走る。

 「グゥッ! キャップ、まずいです! このまま破壊光線のダメージを食らったら・・・」

 サトミが反重力ウォールの耐久度を示すメーターを見ながら、オグマに報告する。

 「・・・」

 オグマは敵をにらみつけながら、微動だにしなかった。一方、ツチダマスGを操るギガゾーンは・・・

 「ふん、このまま前方のみに攻撃を集中してもらちがあかんか。それなら・・・」

 ギィィィィィィィガァァァァァァァァァァァァ!!

 ドバァァァァァァァァァァァン!!

 ツチダマスGは目を発光させると、今度は重力波を発生させた。ツチダマスGを中心に、重力の波動が周囲の全てに襲いかかる。

 バチバチッ!!

 マリナーベースは反重力ウォールによって守られたが、その周辺の建物にも大きな被害が出た。

 「反重力ウォールだけじゃ、守りきることはできません!」

 被害状況を報告しながら、ヒカルが言う。

 「キャップ・・・困ったことが・・・」

 その時、アヤが静かに言った。

 「どうした?」

 「あの重力波には・・・死角がありません」

 アヤの端末には、重力波の発生方向が表示されていた。そこには、重力波が以前の死角などなく、頭上まで完全に全周囲に対して半球状に発せられていることが表示されていた。

 「改良型か・・・」

 オグマは苦い顔をした。と、その時である。

 ドバドバドバァァァァァァァァァン!!

 嵐のように次々と、ツチダマスGは重力波をたたきつけてきた。

 バジバジバジィィィィィ!!

 反重力ウォールが悲鳴を挙げる。

 「や、ヤバ・・・限界!?」

 さらに、

 ギィィィィィィィガァァァァァァァァァァ!!

 ビカッ!!

 ドドォォォォォォォォォン!!

 「うわぁぁぁぁぁっ!!」

 続けて炸裂した破壊光線が、限界寸前の反重力ウォールにトドメを刺した。ルークのコクピットのあちこちで火花が飛び散り、警報が鳴る。

 「て、展開ユニットにオーバーロード発生! 反重力ユニット、展開不能!」

 ヒカルが反重力ウォールの使用不能を告げる。

 「リーダー達はまだなのぉっ!?」

 「可能な限り火力を集中。敵の侵攻をギリギリまでくい止めろ」

 危機的な状況にも関わらず、オグマは落ち着いた声で命令を下した。





 「反重力ウォールが・・・!」

 グングニールの照準から目を離して、ケイスケは呆然とつぶやいた。先ほどの一撃で展開ユニットに損傷を受けたのか、SAMSルークの機首からの反重力ウォールは消失してしまった。いまやマリナーベースとツチダマスGの間には、自分達以外に敵の障害となるものはない。

 「くそっ!! 諦めてたまるか!!」

 バシュッ!! バシュッ!!

 グングニールの銃口から青いレーザーが次々に発射され、ツチダマスGの頭部に命中する。しかし、その侵攻は止まらない。一方

 「目障りだな。先に奴を始末しろ」

 地上のケイスケの姿を認めたギガゾーンは、ツチダマスGに指令を発した。

 ギィィィィィィガァァァァァァァァァァ!!

 ツチダマスGが、その顔を地上へと向ける。

 「!?」

 危機を感じたケイスケが、ジープから飛び降りたその直後だった。

 ビカッ!!

 ドガァァァァァァァァァァァン!!

 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 破壊光線が地上を直撃し、ジープごとケイスケの近くの地面を吹き飛ばした。大爆発によって前へと吹き飛ばされたケイスケは地上にたたきつけられ、うめき声をあげた。

 「うぅ・・・くそ・・・」

 破片がパラパラと降る中、ケイスケはゆっくりと立ち上がった。灰色の煙の向こうに、悠然と本部に向かって進むツチダマスGの姿が見える。SAMSルークが懸命に攻撃を加えるが、その侵攻は止まらない。

 「このままじゃ、俺達の基地が・・・俺の仲間が・・・!!」

 歯を食いしばりながら、ケイスケが拳を握りしめたその時だった。

 ピカァッ・・・!

 「!?」

 ケイスケの制服の胸ポケットの隙間から、青い光が漏れ始めた。ケイスケがそれを開けて中からエスペランサーを取り出す。先端の青い石は、まぶしいぐらいの強い光を放っていた。ケイスケが驚きながらそれを見ていると、声が彼の耳に聞こえてきた。

 「ケイスケ・・・私の力を使え。今こそその時だ・・・」

 ウルトラマンの声だった。ケイスケは黙っていたが、やがて大きくうなずくと、エスペランサーを握りしめた。

 「ああ・・・貸してくれ、君の力を!!」

 バッ!!

 ケイスケは勢いよく右手を振り上げ、エスペランサーを天に掲げた。その刹那

 カッッッッッッッッッ!!

 エスペランサーから青い光がほとばしり、全てをその中へと包んでいった。





 「!?」

 SAMSルークのクルー達は、皆その青い光に目をかばった。その目の前で、ツチダマスGの進行方向に立ちふさがるように、天を支える円柱のような青い光の奔流が立ちのぼる。光はやがて収束をはじめ、一つのかたちをとり始める。人の姿を・・・。

 「あれは・・・!!」

 目の前で姿を現しつつある「光の巨人」に、SAMSルークのメンバーは息を呑んだ。光が完全に人の形になると、徐々に光は収まっていき・・・そこには、美しい青いラインを体にまとった、銀色の巨人が立っていた。

 「ウルトラマンさん・・・!」

 その優美だがたくましい姿に、ヒカルが喜びの声をあげる。

 「シェアッ!!」

 ウルトラマンは自らを鼓舞するように力強い叫びをあげると、大ぶりな動きでファイティングポーズをとった。

 「出てきおったか、ウルトラマン。この基地ごと、ここで息の根を止めてやる。やれ、ツチダマスG!!」

 ギィィィィィィガァァァァァァァァァ!!

 ドドドドドドドドド!!

 ギガゾーンの指示を受け、ウルトラマンにタックルを食らわせるツチダマスG。

 ドズンッ!!

 ウルトラマンは腰に力をいれ、その攻撃を真正面から受け止めた。少しその足が後ろへと下がるが、

 「ダァッ!!」

 ダンッ!!

 ウルトラマンは両手を組むと、勢いよくツチダマスGの背中に振り下ろす。たまらずよろめくツチダマスGだが、ウルトラマンは反撃の手をゆるめない。

 「ジュワッ!!」

 ダァン!!

 ギィィィィィガァァァァァァァァァ!!

 ウルトラマンのドロップキックに、ツチダマスGが倒れる。すかさずウルトラマンはその体の上に馬乗りになると、強烈なチョップをその胴体や首に叩き込み始めた。悲鳴を挙げるツチダマスG。そして

 ガチャァァァァァァァン!!

 陶器の砕けるような音を発して、その胸が砕け散った。キラキラと輝く金色の破片が飛び散る。

 「やったぁ!!」

 歓声を上げるサトミ。だが・・・

 「いや・・・ダメだ」

 「え?」

 オグマが冷静な声でつぶやく。サトミは戸惑いの声を発して再び目を戻した。そこには・・・

 ガチャ! ガチャガチャ!!

 地面に落ちた破片はすぐに飛び上がり、元の場所へと戻っていく。やがて、傷は完全にふさがってしまった。

 「あ、そっか・・・」

 再生能力があることを思い出し、サトミは苦い顔をした。一方、ウルトラマンは・・・

 ギィィィィィガァァァァァァァァ!!

 ビカッ!!

 ドバァァァァァァァァァァン!!

 「ジュワッ!!」

 馬乗りになられたままツチダマスGの発した重力波によって、ウルトラマンははじき飛ばされた。その間に起きあがるツチダマスGだったが、ウルトラマンもすぐに起きあがっていた。

 「シェァッ!!」

 ダッ!!

 ウルトラマンは空高くジャンプした。空から飛び降りながら、必殺技の一つ、ウルトラ稲妻チョップを繰り出す。

 「ダァッ!!」

 強力な手刀が、ツチダマスGの左肩に振り下ろされる。

 ガチャァァァァァァン!!

 陶器の砕けるような音と共にツチダマスGの左腕が粉々に砕け散る。だが・・・

 ガチャッ! ガチャガチャッ!!

 その左腕もまた、すぐに破片から再生してしまった。

 ギィィィィィガァァァァァァァァァ・・・

 勝ち誇るように目を光らせながら吼えるツチダマスG。攻めても攻めても元通り再生してしまうこの難敵に、さしものウルトラマンも攻めあぐねたか、やや後退する。

 ビカッ!!

 ドガァァァァァァァァン!!

 「ダァッ!!」

 ツチダマスGの破壊光線を受け倒れるウルトラマン。バック転をしてなんとか立ち上がるが・・・

 ドバァァァァァァァァァン!!

 続けて重力波が襲いかかる。腕を交差させてそれを防ぐウルトラマン。だが・・・

 ドバドバドバァァァァァァァァァン!!

 ツチダマスGが嵐のような重力波攻撃を仕掛けてくる。懸命に耐えるウルトラマンだったが、その体を容赦なく重力波が叩きつける。その体が徐々に後退していく中・・・

 ピコンピコンピコン・・・

 ウルトラマンの胸のダイヤ形の青い結晶が、ピカピカと断続的に赤く点滅を始めた・・・。





 ウルトラマンの胸の結晶の点滅は、SAMSルークのクルーたちも目撃していた。

 「苦しそうです・・・」

 その様子を見て、ヒカルが不安そうな表情をした。

 「カラータイマーですね・・・」

 「彼もまた、この地球上では足かせがあるのか・・・」

 それを見ながら、アヤとオグマが呟きをもらす。これまで地球を守ってきたウルトラマン達の多くにも、同じような特徴があった。研究の結果、胸のカラータイマーと呼ばれる結晶体の点滅は、彼らのエネルギー源である太陽エネルギーが地球上では急激に消耗することによる彼らの活動限界が迫っていることを知らせていることがわかっている。すなわち、ピンチである。

 「落ち着いてる場合ですか! 早くウルトラマンを助けないと!!」

 サトミが怒ったように言った、そのときだった。

 ギィィィィィィィィィン!!

 SAMSクルーの耳に、爆音が聞こえてきた。

 「お待たせっ!!」

 「遅くなりました!!」

 マリナーベースの向こうから、猛スピードでSAMSビショップが飛来した。

 「もうっ! 遅いよリーダー!! コジマさん!!」

 「文句ならあの土偶とおやっさんたちに言ってくれ!!」

 「遅れた分の働きはしてみせるわ!! キャップ、状況を!」

  「ああ、見てのとおりのピンチだ。ウルトラマンを援護する。重力波の隙を突いて奴の頭部に攻撃を行い、動きを止めた瞬間に急接近、新兵器をぶちこんでやれ。全員、いいな?」

 「了解!!」

 オグマの指示に全員がうなずく。

 バシュウウウウウウウウ!!

 それと同時に、サトミはスロットルを吹かした。

 「今助けてあげるからねぇ!!」

 カチッ!!

 バババババババババ!!

 トリガーを引くサトミ。機首のレーザーバルカン砲からレーザーが放たれる。

 ドガドガァァァァァァァン!!

 その攻撃は見事にツチダマスGの頭頂部に炸裂。重力波発生装置の破壊までには至らなかったが、重力波の発生を一時的に止めることはできた。

 「今だよ、コジマさん!!」

 「よっしゃぁぁぁぁぁ!!」

 バシュウウウウウウウウウウ!!

 続いてコジマがスロットルを吹かし、ツチダマスGへと猛接近する。その後部座席で、ニキは冷静に照準サイトを見つめていた。

 「距離、角度、ともに良好・・・これならいけますね」

 ニキはそうつぶやくと、トリガーに指をかけた。その後すぐに、照準サイトがロックオンを示す赤色に染まる。

 「・・・発射!」

 カチッ!!

 バシュウウウウウウウウ!!

 SAMSビショップからミサイルが放たれ、そして・・・

 ドパァァァァァァァァァァァァン!!

 ツチダマスGの右腕に命中した。だが、爆発による炎は生じず、かわりに大量の液体がツチダマスGの右腕にふりかかった。

 「その液体のかかった箇所を攻撃して! ウルトラマン!!」

 ツチダマスGの横を通過しながら、ニキが叫んだ。

 「ヘアッ!!」

 ダッ!!

 ウルトラマンはうなずくと、一気にツチダマスGへと突進した。

 「シュワッ!!」

 ダンッ!! ダンッ!! ダンッ!!

 まずは敵の右肩を左手でつかみ、水平チョップを何発も食らわせてひるませる。そして・・・

 ガシッ!!

 左手でツチダマスGの右腕をおさえつけると、

 「ダァッ!!」

 ガチャァァァァァァァァァァァァン!!

 強烈なチョップを振り下ろし、その腕を叩き折る。

 ギィィィィィィィィガァァァァァァァァァァァァァ!!

 叫びを上げながら後退し、再生するのを待つツチダマスG。だが・・・

 「なっ・・・なにっ!?」

 ギガゾーンはうろたえた。叩き折られた右腕は、再生する気配も見せないのである。

 「ど、どういうことだ!?」

 一方、SAMSルークの機内では・・・

 「ねえアヤさん、あの新兵器って、いったいなんなの?」

 サトミの疑問に、アヤは微笑を浮かべて答えた。

 「あの液体は・・・成分に手を加えた海水だよ・・・。研究の結果・・・あの土偶の体を構成するセラミックは・・・海水の作用で変質してしまうことがわかったのでね・・・。一番効果のある成分比率を割り出して・・・作ってみたんだ」

 「それじゃあ、海に落ちたあの小指がくっつかなかったのは、それのせいなんですか?」

 「そういうことだね・・・。予想以上の効果で・・・うれしいよ」

 ヒカルの言葉に、笑顔でうなずくアヤ。一方、ウルトラマンは・・・

 ガシッ!!

 ツチダマスGと組み合うと、

 グルン!! ガシッ!!

 すばやくその背後に回って、その体を押さえつけた。

 「チャンスを作ってくれたわ!! コジマ君!!」

 「了解!!」

 ギィィィィィィィィィィン!!

 即座に機体を反転させると、ビショップは再びツチダマスGへと急接近した。

 「・・・」

 ツチダマスGの頭部にあわせられた照準が、赤く染まる。

 「発射!」

 バシュウウウウウウウウウウ!!

 ドパァァァァァァァァァァン!!

 ニキが狙いすまして放ったミサイルは、今度は頭部に見事に命中し、液体まみれにした。

 「残ったミサイルを全部奴の頭に叩き込め」

 「了解!! 吹き飛んじゃえぇぇぇぇ!!」

 バシュバシュバシュバシュウウウウウウウウウ!!

 バババババババババババババババ!!

 オグマの号令で、サトミは武器の全弾発射を行った。ありったけのミサイルとレーザーの雨が、ツチダマスGの頭部を襲う。その着弾の寸前、ウルトラマンは飛びすさって離れた。その直後

 ドガガガガガガゴォォォォォォォォォォォォン!!

 ツチダマスGの頭部が大爆発を起こし、粉々に砕け散った。

 「やったぁ!!」

 その快挙に、こぶしを振り上げてガッツポーズをとるサトミ。

 「やりましたね。頭吹っ飛ばされたんじゃ、もう・・・」

 旋回しながら笑みを浮かべるコジマ。だが・・・

 「いや・・・まだだ」

 冷静なオグマの声がした、そのとき・・・

 ゴ・・・

 なんと、ツチダマスGは頭と右腕を失いつつも、なおも動き始めた。

 「うそっ!?」

 「どうやら・・・動力は胴体にあるようだ・・・」

 分析結果を見ながら、アヤがつぶやく。と、そのときである。

 「ジュワッ!!」

 ガシッ!!

 ウルトラマンは再び背後からツチダマスGに組みつくと、

 ダッ!!

 ヒィィィィィィィィィィィン!!

 ツチダマスGを抱えたまま大空へ飛び上がり、そのまま飛行する。

 「な、何する気なんだろ!?」

 その意図が読めず、戸惑うサトミ。やがて、ウルトラマンは海上まで飛行すると急降下に転じた。

 ザボォォォォォォォォォン!!

 ツチダマスGを抱えたまま、海中へと飛び込むウルトラマン。

 「なるほど・・・」

 その光景を見たオグマとアヤが、ニヤリと笑う。

 ドパァァァァァァァァン!!

 だが、それもつかの間。少し海の中を進んだ後、ウルトラマンはトビウオのように海中から猛スピードで飛び出してきた。

 「ダァッ!!」

 と、そこでウルトラマンは手を離した。ウルトラマンの手から解き放たれたツチダマスGは、そのままの勢いで矢のように空へと飛んでいく。

 「ヘアッ!!」

 ウルトラマンは腰の前で両の手首を交差させた。そして、その両腕を、ゆっくりと上へ回していく。円を描くようなその腕から、光の軌跡が起こる。さらに、点滅するカラータイマーもまぶしい光を放つ。

 「シュワッ!!」

 カァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!

 ウルトラマンが両腕を十字に交差させた。その腕からまぶしい光の帯・・・テラニウム光線がほとばしり、ツチダマスGの体に炸裂した。

 ドガドガドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!

 直撃を受け、ツチダマスGの体は爆発四散し、無数の輝く破片を空へと撒き散らした。それは太陽の光をキラキラと反射しながら、次々に東京湾へと落ちていった。

 「やったぁ!! さっすがウルトラマン!!」

 サトミたちが歓声をあげる。

 「・・・」

 ウルトラマンは彼らの姿を見て大きくうなずくと、顔を天へと向けた。そして・・・

 「シュワッ!!」

 ヒィィィィィィィィィィィィィン・・・

 太陽の輝く青空へと、まっすぐに飛んでいった。

 「ありがとうございましたーっ!!」

 「また来てねーっ!!」

 宇宙へと去っていくその後姿に、ヒカルたちは感謝の気持ちを込めた言葉を贈った。





 「ぬぅぅ・・・」

 モニターに映る光景を見ながら、ギガゾーンはうなった。

 「おのれ地球人・・・それにウルトラマン・・・! この次はこうはいかんぞ・・・」





 ヒィィィィィィィィン・・・

 轟音をあげながら、SAMSルークとSAMSビショップが地面へと着陸してくる。やがて、完全に着陸を終えると、メンバーたちは地上へと降りた。

 「ケイスケくーんっ!!」

 「ニイザーッ!!」

 「ニイザくーんっ!!」

 降りてすぐに、ケイスケの名を呼びながらあたりを歩き回るメンバーたち。だが、周囲はいまだに煙がくすぶっているばかりで、返事は返ってこない。

 「ケイスケ君・・・」

 ヒカルがさびしそうな表情を浮かべる。

 「地上から支援をしていたのはたしかなんだけど・・・」

 ニキも不安そうな表情のまま、周囲を見回した。

 「まさか、あの土偶に・・・」

 「あの墜落からも無傷で帰ってきたんだよ!? ヒカルちゃんもいるんだから、そんなこと言わないでよ!!」

 サトミがコジマに怒鳴りかけた、そのときだった。

 「・・・ぉぉーーーい!!」

 「!!」

 遠くから声が聞こえた。全員がそちらを向くと・・・

 「おおーーーーーい!!」

 煙の向こうから、ケイスケが手を振りながらこちらへと走ってくるのが見えた。

 「ケイスケ君!!」

 その姿を見るなり、ヒカルが彼に駆け寄って出迎えた。

 「無事だったんですね!?」

 「ああ、このとおりだ。お前こそ、よくがんばったな」

 そう言ってケイスケは、ヘルメットをかぶったままのヒカルの頭を軽くポンと叩いた。照れくさそうな笑顔を浮かべるヒカル。そんな二人のもとへ、ほかのメンバーも駆け寄ってきた。

 「やっぱり無事だったんだね? さっすが不死身の男!」

 「いや、危なかったですよ。爆風で吹き飛ばされたり」

 「外傷はなさそうだけど、ちゃんと検査受けろよ。骨でも折れてたら大変だ」

 「ありがとうございます。それにしても・・・全員無事だし、本部はとりあえず助かったし・・・今回も、彼に助けられちゃいましたね」

 そう言って、ケイスケはマリナーベースの建物を見上げた。

 「そーそー。一時はどうなることかと思ったよ」

 「でも、地上でみんなががんばってるのを見てるとき、なんとなく彼が来てくれそうな気がしましたけどね」

 ケイスケはそう言って笑顔を浮かべた。そのとき、それまで黙っていたアヤが前に進み出た。

 「ニイザ君・・・もしかして・・・このあいだの墜落から君を助けてくれたのも・・・彼じゃないのかな?」

 「!?」

 その言葉に、アヤとオグマ以外の全員が驚く。だが・・・

 「・・・アヤさんも、そう思いますか?」

 ケイスケが照れ笑いを浮かべると、さらに彼らは驚いた。

 「ウ、ウルトラマンさんに助けてもらったってどういうことですか!?」

 「どーして秘密にしてたんだよ!?」

 「これからもあたしたちを助けてくれるの!?」

 ヒカル、コジマ、サトミに詰め寄られたじろぎながらも、ケイスケは答えた。

 「秘密にしてたっていうか・・・自分でも、信じられなかったんですよ。ただ、墜落してから海の上で目を覚ますまで、彼と話した記憶があって・・・。やけにリアリティがあったんですけど、本当の出来事だったかどうかいまいち自信がもてなくって・・・。でも、今わかりました。やっぱり俺を助けてくれたのは彼なんだって。彼はギガゾーンを追って宇宙からやってきたらしいですから、少なくともギガゾーンを地球から追い出すか倒すかするまでは、俺たちと一緒に戦ってくれるはずですよ」

 「ほ、ほんと!? やったぁ!! ウルトラマンと一緒に戦えるなんて、あたし夢みたいだよぉ!!」

 そう言いながら、ヒカルと手を取り合ってピョンピョン飛び跳ねるサトミ。

 「しかし、心強い話だな。ウルトラマンが味方になってくれるなら、これからの怪獣退治はずっと楽になるかも・・・」

 と、コジマが言いかけたときだった。

 「それはちょっと違うな、コジマ」

 それまで黙っていたオグマが、口を開いた。

 「このあいだと今回の戦いを、よく振り返ってみろ。彼は俺たちが全力を出し切って戦って、それでも力が及ばない時になって初めて姿を現した。きっと彼は、俺たち人間が最大限に努力して初めて、俺たちを助けてくれるんだよ」

 「隊長が以前おっしゃったとおり、彼らも私たちの平和は私たちの手で守るべきだと考えているのでしょうね」

 ニキがうなずくと、ヒカルもそのあとに続けた。

 「きっとウルトラマンさんも、怪獣と戦うのは命がけのはずです。助けがほしいと思うなら、やっぱり私たちも一生懸命、私たちにできることの全てを尽くさないといけないと思います」

 「そうだなぁ、ヒカルちゃんの言うとおりだ。楽して助けてもらおうなんて、たしかにむしのいい話だ。すいません」

 コジマもそう言って、恥ずかしそうに苦笑いを浮かべた。と、そのときである。

 「ねぇねぇニイザ君。ウルトラマンと話したなら、彼の名前、聞いてない?」

 「名前?」

 「そう! ほら、今まで来たウルトラマンは、初代以外はみんな違う名前があるじゃない。セブンとかジャックとかAとか・・・。あのウルトラマンは、なんていう名前なの?」

 期待のこもった視線でケイスケを見つめるサトミ。だが、ケイスケは残念そうに言った。

 「故郷での名前はあるにはあるらしいんですけど、自然の音と同じで完全に地球の言葉で表せる名前じゃないらしいんです。そもそもウルトラマンって名前が、俺達地球人のつけたものじゃないですか」

 「あ、そっか・・・。うぅ〜ん、でもなぁ〜・・・。このまんまただウルトラマンって呼び続けるのは、なんか失礼だし・・・」

 サトミがそんなふうに悩んでいると、オグマが肩をポンと叩いた。

 「名前がないなら、つけてあげればいいだけじゃないか」

 その言葉に、サトミはハッとした。

 「そうよ! 名前がなければつけてあげればいいんだ! う〜んと、どんなのがいいかなあ・・・」

 早速悩み始めるサトミ。だが、オグマは再び言った。

 「お前がウルトラマンが好きなのはわかるが、ここはニイザに決めさせてやったらどうだ?」

 その思わぬ言葉に、ケイスケは戸惑った。

 「俺が・・・ですか?」

 「ええーっ!? なんでですかぁ!?」

 サトミが不満を漏らす。

 「なんといっても、ニイザは土偶の光線から彼をかばった命の恩人だ。命の恩人が名付け親になってくれるなら、彼も文句はないはずだ。そうは思わないか?」

 「うっ、たしかに・・・」

 「それに、お前国語の成績悪かったろ? センスあるネーミングができるか、ちょっと不安だな」

 「それとこれとは関係ないでしょ!!」

 どさくさまぎれのコジマの一言にも突っ込みつつ、やがてサトミはうなずいた。

 「・・・しょうがないですね。ニイザ君、頼むよ」

 そう言って、サトミはケイスケの肩をポンと叩いた。

 「は、はぁ・・・」

 全員がどんな名前をつけるのか、期待の視線を向けてくる。それが少し気まずかったので、ケイスケは顔を上げて宙に視線を泳がせた。

 「・・・」

 だが、ずっと考えていたことだが、都合よく名前は思い浮かばない。弱った末に目をつぶり、顔を下ろして目を開くと、そこには、ヒカルがいた。

 「・・・」

 ケイスケが弱った顔をしているのを見ると、ヒカルはにっこりと笑顔を浮かべ、小さな声で言った。

 「いい名前をつけてあげてくださいね? 私たちの大事な仲間なんですから・・・」

 「!」

 その言葉に、ケイスケの中で何かひらめきが起こった。

 (仲間・・・)

 その言葉を心の中で繰り返しながら、ケイスケは目の前の仲間たちの顔を順に見ていった。サトミ、コジマ、アヤ、ニキ、オグマ、そして・・・ヒカル。それを終えたとき、彼は小さくつぶやいた。

 「・・・サムス・・・」

 「え?」

 よく聞き取れなかったサトミ達は、思わず身を乗り出した。そんな彼らに、今度はケイスケは自信のある笑みを浮かべ、もっと大きな声で改めて口を開いた。

 「そう・・・ウルトラマンサムスですよ!!」

 「ウルトラマンサムス?」

 おうむ返しに言うメンバー。

 「SAMSは、あたしたちだけど?」

 サトミがきょとんとした様子で尋ねる。だが、ケイスケは笑顔でうなずいた。

 「だからですよ。今のヒカルの言葉でひらめいたんです。俺たちと一緒に戦ってくれるなら、彼も俺たちの大事な仲間です。それなら、俺達全員の名前・・・サムスという名前を贈ってあげたいと思って・・・」

 ケイスケの言葉に、メンバーたちは顔を見合わせていたが、やがて・・・

 「ウルトラマンサムスか・・・う〜ん、いいでしょう!」

 「たしかに、お前の言うとおりだもんな。ちょっと紛らわしいかもしれないけど・・・」

 「私たちが「サムスを援護する」とか言うぶんには、紛らわしいことはないと思うわ。私も賛成ね」

 「そのとおりですね・・・」

 「そこまで考えて言ったわけじゃないですけど・・・いい名前だと思います」

 全員が笑顔でうなずいたので、最後にオグマもうなずいた。

 「俺もいい名前だと思うよ。それじゃ、彼の名前は「ウルトラマンサムス」ってことで、みんな、いいな?」

 「はいっ!!」

 全員がうなずいてくれたので、ケイスケはホッとため息をついた。

 「よし。それじゃ新しい仲間も加わったところで・・・」

 とオグマが言いかけたので、サトミが息をまく。

 「祝勝パーティーも兼ねた歓迎会ですね!? もっちろん賛成! ヒカルちゃん、とびっきりのご馳走作ってちょうだい!」

 「あ・・・は、はい! がんばります!」

 勝手に話を進めるサトミと、とりあえず返事をしてしまうヒカル。だが・・・

 「それはあとで。周りを見て御覧なさい。復旧作業が先よ」

 ニキがため息をついて言った。周囲は瓦礫だらけで、建物もようやく鎮火したとは言っても、ハンガーを中心に大きな穴が開いている。

 「う・・・」

 そのことに気がつき、黙り込むサトミ。

 「ま、さっきも言ったけど、とりあえず俺たちがやることやらないとね。そういうわけで、とりあえずルークとビショップを元に戻して、あとは復旧作業に全力投球。ぜんた〜い、続け!」

 そう言って、オグマはSAMSルークへと歩き出す。苦笑しながらそのあとに続くニキと、うなだれてトボトボ歩くサトミとコジマ。

 「しょうがないよな。居住環境の復旧でもあるし・・・。いこうぜ、ヒカル」

 「はい!」

 そう言って、仲良く歩き出そうとするケイスケとヒカル。そのとき

 「ニイザ君・・・」

 ケイスケは、アヤに呼び止められた。

 「なんですか?」

 振り向くケイスケ。だが、アヤは少しの間ケイスケを何も言わずじっと見たあと、微笑を浮かべた。

 「いや・・・ごめん。なんでもないよ・・・」

 そう言って、先へ歩いていってしまった。

 「なんでしょう?」

 「さあ・・・」

 ケイスケはちょっととぼけたような表情を浮かべると、再びヒカルとともに歩き出した。





 バシュウウウウウウウウ!!

 轟音をあげて、一機の小型機がマリナーベースの発進口から飛び出してくる。先日の撃墜後、新たに配備された新品のSAMSポーンである。

 「こちら本部。ケイスケ君、調子はどうですか?」

 「こちらポーン。良好だ。気のせいかもしれないけど、ちょっと軽く感じるな。やっぱり、新品だからかな」

 本部にいるヒカルの声に、ケイスケはそう返した。

 「調子を試すのはいいですけど、安全運転でいってくださいね?」

 「わかってる。新品をおしゃかにしたら、おやっさんから何言われるか・・・。とにかく、ほどほどにするよ。それじゃ、例のごとくいったん通信をきる」

 「了解」

 ケイスケはそう言って通信を切ると、操縦桿を握りなおした。

 「さてと・・・」

 そうつぶやき、機体を左に振る。

 ギィィィィィィィィィン・・・

 機体は海の上を抜け、街の上を抜け、やがて田園地帯の上を飛び始める。目にまぶしい緑が、すごい速さで機体のはるか下を通り過ぎていく。ケイスケがスピードとともにその風景を楽しんでいた、そのときだった。

 ピカァ・・・

 「!」

 胸ポケットの中のエスペランサーが、光を放った。

 「美しい星だな・・・」

 「ああ・・・」

 最初のときと違って、ケイスケはサムスの声に落ち着いて答えることができた。

 「この星には、命の輝きが満ちている。私の仲間たちがこの星を守り、第二の故郷としてきた理由・・・これを見るだけでも、わかるような気がする・・・」

 サムスの声は、非常に安らぎに満ちていた。

 「なあ・・・」

 そんな彼に、ケイスケは話しかけた。

 「君はどう思ってる? 「サムス」って名前・・・。とっさに思いついた名前だけど・・・」

 ケイスケは、そのことが少し気にかかっていた。

 「心配することはない。すばらしい名前だと思う。私を君たちの仲間と認め、その名前を授けてくれたことに感謝する。この地球での名を、大事にするよ。ありがとう、ケイスケ」

 「そ、そうか・・・どういたしまして」

 とりあえず、ケイスケはホッとした。

 「ケイスケ・・・」

 「なんだ?」

 「私は、この星を守りたい。それと同時に、この星のことをもっと知りたい。自然も、命も、そして、君たちのことも・・・。君からいろいろなことを学びたいが、それでもいいだろうか?」

 「君に教えられるほどのことを知ってるかどうかはわからないけど・・・お安い御用だ。そこまで地球が気に入ってもらえるなら、とてもうれしいよ。その代わり・・・」

 と、ケイスケは返した。

 「君のことも、もっといろいろ教えてほしい。どんな星で育って、どんな家族がいるのかとか・・・。話したくないことなら、話さなくてもいいけど・・・」

 「いや・・・もちろんかまわない。お互いに、理解を深めながらともに地球を守ろう、ケイスケ」

 「ああ、こちらこそよろしく! ウルトラマンサムス」

 ケイスケはそういうと、スロットルに手をかけた。

 「よし、飛ばすぞ!」

 バシュウウウウウウウウ!!

 SAMSポーンは一気に加速し、青空の向こうへと白い雲を引いていった。


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