ソワソワ・・・ソワソワ・・・
「・・・」
見るからに何かについて心が一杯で、他のものは目に入らない。挙動不審ともとれるような様子を見せるコジマが、ケイスケは気になって仕方がなかった。
「コジマさん、どうしたんでしょう? 今日はなんだか様子が変ですけど・・・」
「コジマさんが変なのはいつものことだけど、今日は確かにいつもと違うね」
両隣のヒカルとサトミが、ケイスケにひそひそと話しかけてきた。
「俺に聞かれてもなぁ・・・。なんだか本人にも聞きづらい雰囲気だし・・・」
ケイスケもどうしたのかわからない、という顔でコジマを見る。と、その時・・・
pipipipipi
「!」
コジマの机の上の電話が鳴った。コジマはすぐにそれをとった。
「はい、こちらミッション・ルーム、コジマです! ・・・そうですか! 届きましたか! すぐ行きますんで!!」
コジマはそう言うと受話器を置き、
「ちょっと格納庫まで行ってきまーす!!」
と言って、なぜか興奮した様子でミッション・ルームを飛び出していった。
「どうしちゃったの、あれ・・・?」
「さあ・・・」
首を傾げるケイスケ達。その時、ニキが端末のキーを叩きながら言った。
「コジマ君宛の「お届け物」が届いたのよ」
「お届け物?」
「そう・・・宇宙からのお届け物だよ・・・」
アヤも読んでいた本から目を離しながら言う。
「なんですか、それ?」
「2ヶ月前のことよ。天王星付近を飛行していた防衛軍の調査艇が、偶然無人の宇宙船を発見したのよ」
「無人の宇宙船? それって、地球の宇宙船じゃないんですか?」
ヒカルのその言葉に、ニキとアヤがうなずく。
「調査の結果・・・それはどこかの星の調査船だったらしいことがわかった・・・。昔、ダーウィンが乗って世界中を旅した・・・ビーグル号のようなものだったのかもしれない」
「でも、無人だったんでしょ? 乗ってた宇宙人はどうなったの?」
「そこまではわからないわね・・・。でも、とにかく宇宙船は無人の状態で、長い間宇宙をさまよっていたらしいわ」
「宇宙の幽霊船ってわけですね・・・。でもそれとコジマさんと、なんの関係があるんですか?」
「宇宙船の中には、いろいろな資料が残されていた。ひょっとしたら人類の役に立つものが含まれているかもしれないから、分析が可能そうなものは、いろいろな分野の人に分析が依頼されることになったの。詳しくは知らないけど、コジマ君にもそのうちの何かが割り当てられたらしいわ」
「宇宙船は宇宙ステーションV7まで曳航されて・・・そこで調査を受けているけれど・・・そこからコジマ君に依頼される資料が・・・今日この基地に届くことになっていたんだ・・・」
「それでコジマさん、朝からソワソワしてたんですね」
「でも、コジマさんに分析が依頼されるものなんて、いったいどんなものなんだろ?」
と、サトミが首を傾げていたその時だった。
「ただいま戻りましたぁ!!」
意気揚々といった調子で、コジマがミッション・ルームへと戻ってきた。
ウルトラマンサムス
第4話
宇宙の傀儡士
「届いたよー届きましたよー・・・」
コジマはそう言いながら、手に持っていたものを自分の机の上に置いた。全員が、それに注目する。それは銀色に輝く円盤で、どうやら記録ディスクの一種のようだった。
「これがコジマさんに分析が依頼された資料ってやつ?」
「そう! まさに宇宙から来たお宝さ!」
そう言ってコジマは、大事そうにそれをなでた。
「見たところ、ディスクの一種みたいに見えますけど、何が書いてあるんですか?」
「俺達にとっては、救いの神になるかもしれない情報の山だよ。まぁこれがどれだけすごいかは、そもそもあの宇宙船にどんな宇宙人が乗ってたのか説明しなきゃならないだろうな」
コジマは、わざとらしく咳払いをした。
「・・・そもそも、あの宇宙船がどこの星のものなのか。実は、例の宇宙船の中からこれと同じようなかたちで航海日誌が見つかって、その内容が一部解読された。それによるとだな、あの宇宙船に乗っていたのはバストゥール星人という宇宙人。地球から見ると、くじら座の中に入る星のようだ」
「それで、そのバストゥール星人というのは、どんな宇宙人だったんです?」
「うん。これが素晴らしいことにだな。バストゥール星は宇宙人のご多分に漏れず俺達よりも科学の発達した星だったが、特に医学の発展した星だったらしい。医学に対しての彼らの貪欲なまでに強い好奇心は、やがて彼らをある壮大な計画へと乗り出させることになった」
「なんですか、その壮大な計画って?」
「それはだな・・・全宇宙に調査船を派遣して、全宇宙のありとあらゆる病気や病原体についてのデータを集めることだ! 彼らは本気で、この宇宙の全ての病気を知り、それに対する治療法を研究しようとしてたんだ」
「ほ、本当に壮大な夢ね・・・。じゃあ、あの宇宙船は・・・」
「彼らの調査船、ナンバー1895です。内乱が起こったのか、それとも自分達も未知の病原体でやられたのかわかりませんけど、とにかくあの宇宙船は長い間、宇宙の幽霊船としてさまよっていた。そこを天王星の近くで発見されたわけですが・・・うれしいことに、調査隊の宝だったはずの研究データそのものは、厳重に保管されてほぼ完全な状態にありました。そこで俺を含めて、世界中のいろいろな医師や科学者のところにディスクが回され、これから分析されることになったんですよ!」
そう語るコジマの顔は、これ以上ないほど嬉しそうだった。
「フ・・・楽しそうだね・・・コジマ君・・・」
「これが浮かれずにいられますか! この中にはノーベル医学賞もののいろんな医療技術がごまんと眠ってるかもしれないんですよ!? そのこと自体もとんでもなくワクワクしますけど、俺がこれを解読する役目を与えられたってことは、ターヘル・アナトミアを翻訳して解体新書を書いた杉田玄白に並ぶ偉業を俺が達成できるかもしれないってことじゃないですか!!」
「でも、ディスクは何枚もあるし、コジマさん一人が栄誉を独り占めできるわけじゃないんでしょ?」
「俺はこんなスゴイ仕事に一枚かませてもらえるだけでもありがたいんだよ。さて、と・・・」
そう言うとコジマは、机の下から少し大がかりな装置を取り出した。
「早速仕事にかかります。この宇宙語万能翻訳機でバンバン解読してっちゃいますよ」
「なんだ、翻訳は機械任せなんじゃない」
「翻訳できたって、お前じゃ医学書の内容はわからないだろ?」
「ぐぅっ・・・」
コジマに即座に返され、サトミは何も言うことができなかった。
一方その頃・・・とある湖の奥深くでは・・・。
「むぅ・・・」
ギガゾーンがモニターを前に、うなっていた。モニターに映るのは、テラニウム光線により爆破されるツチダマスS、空中で破壊されるツチダマスG、そして、トライスラッシュで首を切り落とされるリバイアサンの映像だった。
「まさか、ここまでやるとは・・・。最後の怪獣が残されているとはいえ・・・」
そう、ギガゾーンが地球へ持ち込んだ四体の侵略兵器のうち、三体はすでにウルトラマンサムスやSAMS、防衛軍によって倒されていた。研究設備を持たないこの宇宙船では、新たに怪獣を作り出すことも不可能。ギガゾーンの手持ちの戦力は、残された最後の侵略兵器である一体の怪獣と、この船でも生産できる怪獣操作装置、ウェポナイザーのみであった。
「次でこそ、侵略を成功させなければならん・・・」
さすがのギガゾーンも、追いつめられていた。と、その時・・・
「お困りのようですね、ギガゾーン博士・・・」
「!?」
ギガゾーンが驚いて振り返ると、コントロールルームのドアがスッと開いた。が・・・そこには、誰も立っていなかった。いや・・・正確には、奇妙な物体が五つほど、フワフワと宙に浮いていたのだった。
それは、小さな円盤だった。まるでおもちゃのような小さな円盤で、その上には目玉のようなもののついた触手のようなものがついている。その円盤達は、ギョロギョロとその目を動かしながら、ゆっくりと室内へと入ってきた。
「な、なんだ貴様らは!? この円盤の迎撃システムやセキュリティを突破して、どうやってこの船に忍び込んだ!?」
「あなたほどの科学者なら、我々が何者であるかおわかりになるはずだ。我々は、そういったものを破る生まれながらの天才ですよ?」
四つの白い円盤を引き連れた黒い円盤は、ギガゾーンにそう言った。その言葉で、ギガゾーンはハッとした様子を見せた。
「そうか・・・思い出したぞ! 貴様らは自分の体を持たず、宇宙を放浪しながら知的生命体に寄生する脳だけの寄生生命体・・・ヤドリだな!?」
「やはりご存じでしたか。光栄です」
そう言って、黒い円盤は笑った。
「フン・・・そういえば貴様らは、どんな警戒厳重な星にも忍び込み、その星の住人達に寄生して仲間を増やしながら、内部から崩壊させていく手を得意としていたな・・・。それで、貴様らが私になんの用だ?」
「申し遅れました。私はヤドリ船団第8侵略先遣隊隊長のフルーク少佐です。我ら全てのヤドリを指揮する偉大なる指導者、天帝閣下の特使として、ここに参りました」
フルーク少佐と名乗る黒い円盤は、彼にそう言った。
「特使だと・・・?」
「はい。先ほどあなたがおっしゃられたように、我らは自分達の体となる知的生命体を求めて、星から星へと渡り歩く種族・・・。そして今回はこの星・・・地球に住む人間達を、我々は「宿主」とすることにしたのです」
「なるほど・・・」
たしかに、彼らにとってこれほど理想的な環境はないかもしれない。美しい自然があるうえに、そこに住む人間は百億を超える。これだけの数ならば、寄生する相手には困らないだろう。
「我々は近いうちに、先ほどあなたがおっしゃったような方法で地球侵略を開始するつもりです。ですが・・・我々としては、侵略には常に万全の態勢で臨みたい。現在この星を守っている光の巨人・・・ウルトラマンサムスや、地球人の防衛組織も無視できない存在です。そのうえで好都合なことに、すでにこの地球にはやはり同じように侵略を行っている宇宙人・・・つまり、あなたがいる。ここまで言えば、おわかりでしょう。同じ地球侵略を望む宇宙人同士、ここは協力したいと天帝閣下はおっしゃられています。我々の兵力と戦略に、あなたのご自慢の頭脳と怪獣が加われば、もはや地球侵略など達成されたも同然だと考えますが・・・」
ギガゾーンは、黙ってそれを聞いていたが・・・
「クッ・・・クククッ・・・」
やがて、低い声で笑い出した。
「協力していただけますな・・・?」
それを見たフルーク少佐は、彼にそう言った。だが、ギガゾーンは突然、その奇怪な顔を振り上げた。
「私と貴様らが同じだと・・・? 何を勘違いしている」
「!」
「私が侵略を行うのは、私の頭脳の力を証明するため・・・。そのためには、この星は私のみの手によって侵略されねばならん!! 貴様らの手など借りては、成功したところで私の名折れとなるだけだ!!」
ギガゾーンはそう言った。
「・・・冷静に考えてみてはいかがです? 我々の調査によれば、あなたはすでに、侵略兵器のほとんどを失っている。このままわずかな戦力のみで、地球を侵略できるとお考えですか?」
その言葉に、ギガゾーンは檄昂した。
「黙れ! 貴様らの手など借りずとも、私は私だけの力で地球を侵略してみせる! 天帝とやらに伝えろ! 私の侵略を邪魔する者は、ウルトラマンサムスや地球人同様、私の敵として排除すると!!」
少佐は黙ってそれを聞いていたが、やがて言った。
「・・・交渉決裂のようですな。やはりあなたは、所詮科学者・・・。損得勘定は苦手のようだ・・・」
「!」
「あなたと「共生」できないのであれば・・・我々は本来の手段に訴えるしかありませんな。すなわち、強制的にあなたを利用する・・・「寄生」という手段に」
フルーク少佐がそう言うと、白い円盤達の一つが目にも留まらぬ動きであっというまにギガゾーンの後ろに回り込んだ。
「やれ」
フルーク少佐が号令を発すると、
シュバババババババババババ!!
円盤は突き出した目から、青白い光線をギガゾーンに発射した。
「・・・」
それを浴びたギガゾーンは、ガックリとうなだれて動かなくなった。
「さて、0014号・・・博士をお連れしろ」
フルーク少佐は、ギガゾーン博士にそう言った。しかし・・・
「た、隊長・・・!」
戸惑ったような声が、ギガゾーンの後ろから聞こえた。それは、ギガゾーンの背後の白い円盤から聞こえた。
「!?」
フルーク少佐が驚くまもなく
ズガッ!!
ギガゾーンはすさまじい早さで振り向き、手にした槍でその円盤を貫いた。
シュバババババババババババババ!!
少佐を守るようにその前に並んだ円盤達が、再び光線を放つ。しかし、ギガゾーンはそれをものともせず、槍の穂先から電撃を放った。
バリバリバリバリバリバリ!!
その直撃を受けた白い円盤達は、黒コゲになって床に落ちた。ただ一人残ったフルーク少佐に、ギガゾーンは槍の穂先を向けた。
「アメーバ共が!! 私が貴様達の寄生光線を受けつけないトコヤミ星人だということを知らずにここへ踏み込んだか!!」
フルーク少佐は少したじろいだが、すぐにもとの落ち着いた声で話し始めた。
「なるほど・・・宇宙には我々の寄生できない宇宙人も存在すると聞いたことはあるが、まさかあなた達がそうだったとは・・・」
バリバリバリ!!
ギガゾーンは彼に電撃を放った。だが、彼はそれを巧みにかわし、彼に言った。
「やはりあなたとは、手を組むことはできないようだ。だが、たとえあなたに寄生できなくとも、我々は我々で侵略を行います。宇宙の全ては、なんであろうと我々に利用される運命にあるのですよ!」
フルーク少佐はそんな捨てぜりふを残し、風のように出ていってしまった。ギガゾーンは槍をしまい、しばらく黙ってたたずんでいたが・・・
「・・・時間がないようだな」
そうつぶやくと、冷凍保管庫へと歩き出した・・・。
その湖のほとりに広がる広大な森。その中に、奇妙な物体が鎮座していた。大きさはマイクロバス程度。金属でできた、四角い奇妙な物体だった。と、その物体へ、小さな黒い円盤が近づく。すると、その物体にその円盤が通れるだけの小さな穴があき、円盤はその中へと入っていった。
「ご無事で、少佐」
宇宙船に戻ったフルーク少佐を、いくつもの白い円盤達が迎えた。
「調査不足のために、部下に命の無駄遣いをさせてしまった」
彼は部下達にそう答えた。
「では、交渉はやはり・・・」
「失敗だ。だが・・・もとより予定されていたことだ。計画は予定通り進行する。とりあえず、この経過を天帝閣下に報告しろ。船を出せ」
「了解!!」
部下達はそれぞれの持ち場に散っていく。やがて、彼らの宇宙船は木々を揺らし、空へと舞い上がっていった。
数日後。ここはマリナーベースのミッション・ルーム。
「ほぉ・・・これもすごいな。こんなのもいるのか・・・」
コジマが宇宙語万能翻訳機のディスプレイに表示される情報になにやらブツブツとつぶやきながら、傍らに置いてあるパソコンにその情報を入力している。
「ねぇ・・・あれ、いつまで続くと思う?」
それを見ながらサトミが隣のヒカルに尋ねるが、もちろん彼女に答えられるはずもない。
「さぁ・・・。分析が終わるまで・・・じゃあ、答えになってませんよね」
「早く終わりにしてほしいよね。この三日間、ずっとあんな調子だもん。分析するのはともかく、どっか別の部屋でやってほしいよ」
「コジマ君も結局は勉強熱心ということよ。それに、ここでやるのは何かあったときすぐに出動できるため。彼なりに両立してるつもりだから、もうちょっと我慢してあげなさい」
諭すようにそう言いながら、ニキが二人の机の上にコーヒーを置いていく。
「あ、どうも・・・」
「いただきます」
二人はそれに恐縮しながらも、それに口をつけた。
「ここしばらく、ギガゾーンも動きを見せてませんね」
ケイスケがニキの机に報告書を持ってきながら言う。
「そうね。でも、油断だけは禁物だわ。ただ無為に時間を過ごすほど、私達の敵もあまくはないでしょう」
「それに、古い諺にもそういうときの言葉があるからね・・・」
と、アヤが言いかけたその時だった。
ビーッ!! ビーッ!!
「!!」
突如響き始めた警報に、全員が驚いて顔を上げる。
「噂をすれば・・・影がさす・・・」
アヤがそう言うのと同時に、メンバーはそれぞれの仕事にはいった。その直後、司令室へ出かけていたオグマがミッション・ルームへ戻ってきた。
「レベルCのようだが・・・」
「怪獣です! 栃木県・足尾山地の山中に突然出現しました! 現在のところはレベルCですが、このまま進行を続ければ宇都宮市や近郊の市街地に接近するおそれがあります!」
ヒカルが防衛軍から送られてくる情報を確認しながらそう報告する。それに続き、
「防衛軍ヘリから、映像が入りました! メインモニターに転送!」
サトミがそう言うと、メインモニターに光が灯った。程なくして、モニターには山中を行く怪獣の姿が映った。
怪獣は、肉食恐竜によく似た姿勢をしていた。すなわち、両足を支点に頭と尾を水平に保ち、体のバランスを取っているという姿である。尻尾を地面に引きずらないぶん、通常の怪獣よりも移動時のエネルギーロスが少なく、動きも俊敏となる姿勢である。頭部もティラノサウルスのような巨大でがっしりとしたつくりをしている。ただ、その先端はカラスのような太いクチバシになっていて、そこに鋭く太い牙が何本も並んでいた。体色は緑色で、体長は50mほど。その怪獣は、二本の鳥に似た太い足で木々をなぎ倒しながら、軽快に前進を続けていた。
「早いな・・・」
オグマはそれを見ながら、そんなつぶやきを漏らした。
ゴアアアアアアアァァァァオオオオオオオオオウ!!
怪獣はその映像を撮影しているヘリに向かって、恐ろしい叫び声をあげた。
「防衛軍地上部隊が、市街地防衛のため展開を開始しました。航空部隊も現地へ向かっています。SAMSにも出動が要請されました」
ヒカルがそう報告する。オグマはうなずくと、メンバーに顔を向けた。
「SAMS、出動!!」
「ラジャー!!」
それから数十分後。マリナーベースを発進したSAMSは、現場に到着しつつあった。地上では山の斜面の道路沿いに、ズラリと防衛軍の戦車部隊が一方向に主砲を向けているのが見える。
「こちらSAMSのオグマです。状況を報告して下さい」
オグマが地上の司令部に通信を入れると、すぐに返事が返ってきた。
「こちら司令部。現在目標は、10時の方向から谷を抜けてこちらへと進撃しつつある。すでに航空部隊が爆撃を行ってその足止めを試みているが、目標の進行速度に変化はない。まもなく姿を現すと思われるので、ここで集中砲火を加え、目標を殲滅する。SAMSは空からの攻撃の主力として、航空部隊と共同で攻撃を行ってほしい。周辺地区は完全に無人だ。兵器使用制限はないことを伝えておく」
「了解。全力で任務を全うします」
オグマはそう言うと、通信を切った。
「キャップ・・・今回の怪獣は、ギガゾーンの怪獣なのでしょうか・・・?」
ニキが尋ねてくる。
「今のところ、それは不明だな。出たとこ勝負だ。もしもそうじゃなかったら、できるだけ逃がしてやりたいところだが・・・」
と、オグマが言いかけたその時だった。
ドガドガドガァァァァァァァン!!
かなり離れた谷間で、突如爆発が起こった。その向こうから、防衛軍の戦闘爆撃機が煙を抜けて飛びだしてくる。それに続いて・・・
ゴアアアアアアアァァァァオオオオオオオオオウ!!
叫び声をあげて、怪獣が谷間から姿を現した。改めて見ると、さすがに迫力がある。
「キリュウ、解析を頼む」
「了解・・・」
オグマの命令を受けて、アヤが怪獣のデータ解析を始める。その間にも防衛軍機は攻撃を行って足止めを行うが、体に命中するミサイルも、足下で爆発する爆弾も、その足を止めることはできずにいた。
「解析、終了しました・・・」
やがて、アヤは解析終了を告げた。
「結果は?」
「ギガゾーンの怪獣と見て・・・間違いないでしょう」
アヤはそう報告した。
「あの怪獣の遺伝子データがもともと地球にないうえ・・・より攻撃的な姿になるよう、遺伝子を改造された形跡があります・・・。それに・・・怪獣は明確に、都市への進行ルートをたどっています・・・」
「前回のリバイアサンと同じか・・・」
オグマはその報告を聞くと、深呼吸をして、ヘルメットのマイクを口に近づけた。
「・・・全機、攻撃開始せよ」
「ラジャー!!」
バシュウウウウウウウウウウウウ!!
ピース・シリーズと防衛軍機の群は、怪獣へと突進していった。
「これでもくらえっ!!」
バシュバシュバシュバシュッ!!
SAMSルークから放たれた多弾頭ミサイルが、怪獣に炸裂する。
「スパイナーミサイル、発射!!」
バシュバシュウウウウウウウウ!!
SAMSナイトの発射したスパイナーミサイルが、怪獣を炎に包む。
「フォトングレネイド砲、発射!!」
ズバババババババババババババババ!!
そして、SAMSビショップの発射したフォトングレネイド砲が、怪獣の頭部を直撃した。
ドガガガガガガガガガガガガガガァァァァァァァァァァン!!
怪獣を中心に、周囲一体が炎に包まれる。その炎の中から、怪獣のすさまじい絶叫が聞こえてきた。
「やったか・・・?」
上空を旋回しながら、ケイスケはその炎を見つめる。だが・・・
ゴアアアアアアアァァァァオオオオオオオオオウ!!
怪獣は悠然と、その炎の中から姿を現した。あれだけの集中砲火を食らってもまだ進撃を続けるその生命力に、メンバーは舌を巻いた。
「あーっもうなんなのよこいつ!! あれだけやってもちょっと足を止めただけなんて!!」
サトミがいらついた様子で叫ぶ。
「きっと、ものすごくタフな野郎なんだよ」
コジマがそれよりは少し落ち着いた声で言った。
「火も光線も吐かない。けど、異常に頑丈・・・考えようによっては、一番厄介な相手かもしれませんね」
「昔大阪で暴れ回ったゴモラも、同じようなタイプだったはずだわ。これは・・・まずいかもしれないわね・・・」
ケイスケとニキが、それぞれの目から見た見通しを漏らす。その時、ヒカルが声をあげた。
「市街地まで残り30km! 目標、最終防衛ラインに接触します!!」
その言葉通り、怪獣は大都市を背に展開した最後の防衛ラインに、悠然と接近しつつあった。
「撃てぇ!!」
防衛ラインに並んだ戦車やメーサータンク、ロケット砲車などが次々と火を噴く。それらの攻撃によって、再び怪獣の姿が炎の中に包まれる。
「最終アタックだ! 全弾使い切る覚悟で攻撃しろ!!」
「ラジャー!!」
それを皮切りに、SAMSと航空部隊も最後の攻撃を行う。ありとあらゆる火器が火を噴き、怪獣を包む炎をさらに成長させていった。
「これで、どうだ・・・?」
再びその経過を見守るケイスケ達。レーザー砲を除き、ミサイルやフォトングレネイド砲などのエネルギーは使い切っていた。だが・・・
ゴアアアアアアアァァァァオオオオオオオオオウ!!
怪獣は再び、空に向かって咆吼をあげた。さすがにダメージは受けているようだが、それでも足取りはまったく衰えていない。
「そ、そんな・・・!」
常識外れの怪獣の生命力に、ヒカルは絶句した。その間にも、怪獣は防衛軍の戦車部隊の中に突入し、これを踏みつぶし、尻尾で薙ぎ払っていった。引き続き攻撃を加える航空部隊だったが、ミサイルを始めとする主力武器を使い切ってしまった今となっては、これまでよりも決定的な打撃を与えることはできなかった。
「このっ!! 止まれ!!」
ケイスケはSAMSナイトを駆りながら、レーザー砲を続けざまに怪獣の体に叩き込んだ。しかし、恐るべきタフネスを誇る怪獣の体には、まさに蟷螂の斧にすぎない。ケイスケはそのまま、怪獣の横を飛び抜けようとした。が、その時
ヒュンッ!!
「!?」
怪獣が振るったムチのような尻尾が、彼の機体を打ち据えようとした。ケイスケがとっさに、機体を右にひねった瞬間
バシッ!
怪獣の尻尾が左の主翼の先端を打ち据え、ナイトはバランスを崩した。
「うわぁっ!!」
「ケイスケ君っ!!」
ケイスケの機体が高度をグングン落としていくのを見て、ヒカルが悲鳴を挙げる。だが・・・
「く・・・くそっ・・・!」
ケイスケは諦めずに、力の限り操縦桿を引いた。その甲斐あって、飛行までは状態を取り戻せなかったが、なんとか不時着コースに機体を乗せることができた。
ガガガガガガガガガガガッ!!
地面に滑り込み、すさまじい音と砂煙をあげてその上を滑るSAMSナイト。ケイスケは激しい衝撃に歯を食いしばったが、やがて、機体はスピードを落として完全に止まった。
「こちらナイト、不時着に成功・・・。ルーク、応答せよ! ルーク! ・・・くそっ、通信機がやられた」
ケイスケはそう言いながら、キャノピーを開けて外へ出た。
「・・・」
前方では、戦車部隊を蹂躙する怪獣の姿があった。その時・・・
ピカァッ・・・
「!」
ケイスケの胸ポケットの中のエスペランサーが、青い光を放ち始めた。
「ケイスケ、これ以上奴の進撃を許せば、街に大きな被害が出る。私の力を使ってくれ」
「・・・すまない、いくぞ!」
ケイスケはエスペランサーを取り出し、それを振り上げた。
「サムス!!」
カッッッッッッッッッッッッ!!
エスペランサーからほとばしった青い光が、ケイスケを包み込んでいった・・・。
ゴアアアアアアアァァァァオオオオオオオオオウ!!
怪獣は防衛軍の戦車部隊を全滅させると、前方に見える市街地をにらみつけた。そこまでたどり着くのに、30分とかからないだろう。怪獣は、再びその足を踏み出そうとした。と、その時
「シェアッ!!」
空から勇ましい叫び声がした、次の瞬間
ドガァッ!!
ゴアアアアアアアァァァァオオオオオオオオオウ!!
怪獣は背中に強烈なキックを受け、たまらずにうつぶせに倒れ込んだ。巨体が地面を打つ地響きに続いて、彼の着地する地響きが周囲にこだまする。
「ヘアッ!!」
青い巨人は、倒れた怪獣に対して油断なく構えをとった。
「ウルトラマンサムス!!」
その場にいた誰もが、希望に満ちた声で彼の名を呼んだ。
一方。湖の底の円盤の中では、ギガゾーンもまたその様子を見ながら笑っていた。
「フフフ・・・現れたな、ウルトラマンサムス! さあ、その怪獣・・・フェニキアと戦うのだ!!」
モニターの中では、彼がフェニキアと呼んだ怪獣が立ち上がり、ウルトラマンサムスと対峙していた。
ゴアアアアアアアァァァァオオオオオオオオオウ!!
ドドドドドドドドドドドドドドドド!!
咆吼をあげ、フェニキアがサムスに突進する。怪獣よりも恐竜に近いその体型のため、スピードは並の怪獣より数段早かった。
「シェアッ!!」
ウルトラマンサムスも、勇ましい叫びをあげて自らもフェニキアに対して走る。そして・・・
ズドォォォォォォォォォォォォォォン!!
すさまじく重い音とともに、サムスとフェニキアは激しくぶつかり合った。そして、サムスはそのまま怪獣のクチバシを押さえつけ、足をふんばってその突進を押さえつけていた。
「ジェアッ!!」
そして、フェニキアのクチバシを強引に開いた。無理矢理口を開かされ、フェニキアが苦しげにもがく。
ドズンッ!!
そこへサムスはあごの下へ、強烈なアッパーを食らわせた。その一撃に、フェニキアの巨大な頭が跳ね上がる。すかさずサムスはその体の下へともぐりこみ、怪獣を背負うような体勢をとった。
「デヤァッ!!」
サムスはフェニキアの太い首を両腕でつかむと、全身の力を込めて背負い投げを繰り出した。
ズドォォォォォォォォォォォォォォン!!
フェニキアは背中から地面に叩きつけられ、すさまじい砂煙と地響きが起こる。
「さっすがサムス! かっこいい!!」
サトミがその姿に歓声を送る。
「シェアッ!!」
サムスはその背後から接近し、その尻尾を掴み取ろうとした。が、そのとき
ブンッ!!
バシイッ!!
フェニキアが横へ大きく振った尻尾によって、彼は張り倒された。
「ダアッ!!」
倒れるサムス。だが、そのあいだに立ち上がったフェニキアはなおも尻尾で彼を打ち据えた。
バシイッ!! バシイッ!!
連続して襲いかかる尻尾に打ち据えられ、サムスは地面に寝たまま両腕を交差し、その攻撃を防御するのが精一杯である。やがて・・・
ピコンピコンピコン・・・
その胸のカラータイマーが点滅を始める。それを見て、誰もが危機感を覚えた。が、そのとき
「シュワッ!!」
サムスはとっさに横へ転がり、ついに尻尾攻撃から脱出した。そして・・・
ガシッ!!
むなしく地面を打ち据えた尻尾を、それが再び振り上げられる前にがっしりとつかみ、渾身の力で持ち上げた。
「ダアアッ!!」
ブウン!! ブウン!!
彼は気合とともに、フェニキアをジャイアントスイングの要領で大きく回し始めた。そして
ブゥンッ!!
ドドォォォォォォォォォォォォォォォォン!!
回転が最高に達したところで、彼は市街地とは逆の方向へとフェニキアを投げ飛ばした。巨体が宙を舞い、地響きとともに落下する。サムスは後方へと飛ぶと、油断なく構えをとった。
ゴアアアアアアアァァァァオオオオオオオオオウ!!
フェニキアはヨロヨロと立ち上がると体をサムスに向け、吼えた。
ガシッ!
それを目の前に、サムスは両腕を腰の前で交差させる。
ドドドドドドドドドドドドドドド!!
大地を蹴り、突進してくるフェニキア。しかしその時には、サムスは上へ回した両腕を、十字に交差させていた。
「シュワッ!!」
カァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!
クロスした両腕から発射されたテラニウム光線は、突進してくるフェニキアの頭を直撃した。
ドガァァァァァァァァァァァァァァァン!!
ゴアアアアアアアァァァァオオオオオオオオオウ!!
大爆発に包まれるフェニキア。
「・・・」
サムスはそれを、仁王立ちして見つめていた。サムスの勝利。誰もがそれを確信した、その時だった。
ブワッ!
ゴアアアアアアアァァァァオオオオオオオオオウ!!
すさまじい叫び声をあげて、フェニキアが煙の中から突進してきたのだ。
「えっ!?」
「うそっ!?」
それを上空から見ていたメンバーは、驚きの声をあげた。
「ジュワッ!?」
そしてそれは、ほかならぬサムスにとって予想外の出来事だった。が、慌てる間もなく、フェニキアは鋭い牙の並んだ口をクワッと開け、サムスへと突っ込んできた。そして・・・
ガブゥッ!!
「ジュワアアッ!!」
とっさにかばった左腕に、フェニキアがしっかりと食らいついた。サムスが絶叫をあげてのけぞる。
「サムスさん!!」
「コジマ君、いくわよ!!」
「ラジャー!!」
それを見たSAMSビショップは、すぐに行動に移った。猛スピードで飛行するビショップは、瞬く間にフェニキアへ接近する。照準サイトをのぞくニキの目に、爬虫類によく似たフェニキアの目が大きく映る。
「・・・発射!」
バシュバシュッ!!
SAMSナイトがレーザー砲を放つ。その赤い光線は、見事にフェニキアの目に命中した。
ゴアアアアアアアァァァァオオオオオオオオオウ!!
激痛に絶叫するフェニキア。それによって、サムスはその口から腕を外すことに成功した。さらに、
「ダァッ!!」
ドズンッ!!
痛みをこらえながら、渾身の回し蹴りをフェニキアの側頭部に見舞った。それをくらって大きくよろめくフェニキア。サムスはフェニキアと距離をとると、すかさず再度のテラニウム光線を放った。
カァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!
ドガァァァァァァァァァァァァァァァン!!
テラニウム光線は、フェニキアの横腹を直撃して大爆発を起こした。そして・・・
グォォォォォォ・・・
ズズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!
低いうなり声を上げ、フェニキアは横倒しになって倒れた。
「・・・」
サムスは咬まれた左腕を押さえながら、倒れた怪獣をじっと見つめていた。上空を飛ぶSAMSや防衛軍機も、再び怪獣が動き出すかもしれないと、緊張をそのままに上空を旋回する。
だが・・・その危惧に反して、今度こそ怪獣は動くことはなかった。そして・・・その目が、ゆっくりと閉じられていった・・・。
「・・・」
サムスはそこまで見届けると空を見上げ・・・
「シュワッ!!」
ヒィィィィィィィィィィン・・・
いつものように、大空へと帰っていった・・・。
「ありがとー!!」
小さくなっていくその姿に、手を振るサトミ。だが、すぐに心配そうな顔になる。
「大丈夫かな、サムス・・・すごく痛そうだったけど・・・」
「ああ。それに、なんて奴だよコイツ。まるでゾンビだ。動かなくなったけど、ほんとに死んだかまだ疑わしいな・・・」
眼下に倒れているフェニキアを見ながら、コジマが顔をしかめる。
「死亡確認が・・・必要だね・・・」
それに対して、アヤもうなずく。が、その間も・・・
「ケイスケ君、応答して下さい! ケイスケ君!!」
戦闘終了後まもなくから続いているヒカルの呼びかけが、ルークの機内には響いていた。
「心配はいらないわよ、ハットリさん。無事に不時着はしているんだから、応答がないのはたぶん、通信装置の故障よ」
「そういうことだ。あいつは簡単には死なないから、心配するな」
「そ、そうですよね・・・」
ニキとオグマに諭され、ヒカルはやや安心した表情を浮かべた。
「よし、キシモト。不時着したナイトのそばに降ろせ」
「ラジャー!」
「ううっ・・・!」
ケイスケは、不時着したSAMSナイトの機体に寄りかかって座っていた。右手で押さえている左腕は激痛を発している。もしかしたら、骨が折れているかもしれない。腕以外にも、全身のあちこちにうずくような痛みがとどまっている。全て、先ほどの怪獣との戦いで負ったダメージが原因のものだ。ケイスケが歯を食いしばって耐えていると・・・
ピカァッ・・・
胸ポケットの中のエスペランサーが、光を放った。
「すまない、ケイスケ・・・。私の不覚のために・・・」
だが、ケイスケは痛みをこらえながらも笑顔で言った。
「一心同体だってのに、なに言ってるんだよ。君の不覚は俺の不覚だ。こんなこともあるよ、気にするな。この傷だって、すぐに治る」
「・・・ありがとう・・・」
ケイスケの優しい言葉に、サムスはそう言い残し、青い光は消えていった。そして、それと前後するように、轟音をあげながらSAMSルークが彼の前方に着陸してきた。
彼らは気がつかなかったが、その光景を空から見ていた一団があった。
「なるほど・・・。あの地球人が、ウルトラマンサムスか・・・」
フルーク少佐はそうつぶやいた。
「いかがなさいますか?」
彼の近くに浮遊する部下達が、彼にそう尋ねた。
「・・・計画は予定通り進行する。ウルトラマンへの対処は、その中に織り込むとしよう。よし、出発だ」
フルーク少佐が号令をかけると、彼らの乗る宇宙船は空高く、宇宙へと飛んでいった・・・。
「つっ・・・!」
針が腕に刺された瞬間、思わずケイスケは顔をしかめた。ヒカルがそれを、心配そうに見つめる。
「はい、痛くない痛くない・・・」
子どもを諭すようにそう言いながら、注射器の中の液体をケイスケの血管の中へ注いでいくコジマ。やがて、それを投与し終えると、彼は手際よくアルコールをしみこませた脱脂綿をあて、針を抜いた。
「はいよ、注射終わり」
「ずいぶん痛い注射でしたね・・・。右腕までダメにされるかと思いましたよ」
ケイスケが半分笑顔でそんなことを言う。ここはメディカルセクションの中の病室。救助されたケイスケは、マリナーベースに戻るとすぐにそこで手当てを受けていた。
「何バカなこと言ってんだよ。このぐらいのことで音をあげて、SAMSが務まると思うか?」
コジマは注射のあとにバンソウコウを貼った。
「冗談ですよ、冗談。でもコジマさん、この注射、本当に効くんでしょうね?」
そのバンソウコウを見ながら、ケイスケがコジマに言う。
「SAMS医療部謹製の骨組織活性化ホルモン溶液だぞ? 腕の骨のヒビぐらい、2、3日もすれば完璧に元通りにしてくれるよ」
そう言いながら、コジマは念のためギブスに固めた左腕を三角巾で吊しているケイスケを見た。
「・・・まぁでも、薬だけじゃそう簡単にはいかないな。今打った薬は、体の中の骨を作る職人さん達を元気にするようなもんだが、職人さんも材料がなければものは作れない。いい骨を作るには、材料になるカルシウムその他を豊富に含んだ栄養バランスのいい食事が必要だからな。それについては、俺なんかよりずっと優れた専門家がここにいるから・・・お願いしていいかな?」
そう言って、ヒカルの顔を見るコジマ。
「あ・・・は、はい! でも、病院食とかじゃなくていいんですか?」
「消化器系にはなんの異常もないんだから、普通のご飯でいいよ」
「勘弁してくれよヒカル。俺、ああいう薄味のはちょっと・・・」
ケイスケがそう言うのを聞いて、ヒカルは小さく笑った。
「わかりました。お魚を中心にして、ちょうどいいおいしい献立を考えますから」
「よかったな。なんなら、食べさせてもらうのも手伝ってもらったらどうだ?」
「な、なに言ってるんですかコジマさん!! 利き腕は使えるんだから、メシぐらい一人で食べられますよ!!」
ケイスケが慌てて叫ぶ。ヒカルは真っ赤になってしまい、何も言えない。
「箸が使えても、お椀を持つ手が使えないんじゃ不便だろ? 好きなだけ甘えられるのはけが人の特権だぜ?」
だがコジマは意にも介せず、ニヤニヤしながらなおも言った。ケイスケはうらめしそうな目でコジマを見た。
ガチャ・・・
その時、病室のドアが開いて、誰かが中へと入ってきた。
「よう。具合はどうだ?」
軽く手を上げて入ってくるオグマ。その後ろから、ニキも微笑みを浮かべて入ってくる。
「左腕の骨にヒビが入ってて、あとは全身に打撲傷。重傷と言えば重傷ですけど、現代医学なら二、三日寝れば治りますよ」
ケイスケより先に、怪我の状態を報告するコジマ。
「すいません。そのあいだは、お役に立つことはできそうにありません」
申し訳なさそうに頭を下げるケイスケ。だが、オグマはそれを制した。
「気にするこたないよ。うちは体が資本なんだから、いい機会だと思ってじっくり休めておけ」
オグマにいさめられ、ケイスケは元通りベッドに体を預けた。だが、ケイスケには気がかりなことがあった。
「ところで、あの怪獣の「検死」の方はどうなってます? 本当に死んだかどうか、確証は得られたんですか?」
「それについては、アヤさんが現場に残って調査中だわ。もう少しすれば結果が報告されるだろうから、それまでは私達も神経を尖らせていた方がいいわね。やっぱり気になる?」
「それは、まあ・・・。俺達と防衛軍の集中砲火を何回食らっても倒れなかったどころか、テラニウム光線にまで一発は耐えたんですから。あそこまでの打たれ強さを見せられたら、死んだかどうか簡単には信じられないのもわかるでしょう?」
「それはそうだな。まぁ、心配するな。万一に備えて、防衛軍が奴の死骸を警戒している。なにかあれば、それに協力するまでだ」
オグマはそう言った。ケイスケはそれにうなずく。
「それじゃあ、俺達は仕事に戻る。ゆっくり傷を治せ」
「お大事に」
そう言って、オグマとニキは医務室から出ていった。それを見送り、コジマが言う。
「さてと・・・俺もそろそろ、ミッション・ルームへ戻ろうかな」
「あ、それがいいですね。例のディスクの分析作業も進めたいんでしょ?」
「当たりだ。大丈夫か?」
「ええ。俺はちょっと眠くなってきましたから、一眠りしますよ。ヒカル、お前も仕事に戻った方がいいぞ。オペレーターの仕事してるの、今はサトミさんだけになってるだろ?」
「あ・・・そ、そうですね。そろそろ戻らないと。それじゃあ、晩ご飯の時にまた来ますからゆっくり休んで下さいね、ケイスケ君」
ケイスケは笑顔でうなずいた。
「さて、それじゃいこうか、ヒカルちゃん」
「はい」
コジマは当直の医師と看護婦に後を任せると、ヒカルとともに病室を出ていった。ケイスケはそれを見送ると、枕に頭を沈め、ゆっくりと眠りへ落ちていった・・・。
ケイスケの意識が目覚めると、そこはまぶしい光の中だった。
「・・・」
ケイスケは辺りを見回した。見渡す限り光に包まれ、上下左右の感覚のない不思議な空間。そこはケイスケにとって、見覚えのある場所だった。
「ここは・・・あの時の・・・」
そう。ウルトラマンサムスと初めて言葉を交わし、彼と一心同体になることになった時の、自分自身の意識の底である。それを証明するように・・・
「ケイスケ・・・私だ・・・」
彼の目の前に、サムスが空間から溶け出すように姿を現した。
「サムス・・・。なぜここに?」
「君に大事な話がある。直接君に話したいことだから、再び君の深層意識に語りかけることにしたが・・・かまわないか?」
「ああ、もちろんだ。それで? 大事な話っていうのは、いったいなんだ?」
ケイスケが尋ねると、サムスはうなずいた。
「私が君と一心同体になったのは・・・私の命を君に分けるためだった・・・」
「ああ、そのとおりだけど・・・。 ! もしかして・・・!!」
「その通りだ、ケイスケ。まもなくそれは、完全に終わる。君は完全に命を回復し、私と分離することができるだろう」
それを聞いたケイスケは、顔を輝かせた。
「そうか・・・! ありがとう、サムス」
「いや・・・私も嬉しい。これ以上君に、怪獣との危険な戦いをさせなくて済むのだから・・・」
サムスもそう言った。が、圭介はそれを聞いて、少し寂しげな表情をした。
「どうした?」
「いや・・・。また元通りの暮らしに戻れるのはうれしいけど、それは君と別れることも意味してる、って思うと、な・・・。やっぱり、寂しいよ」
「・・・そうだな」
サムスもうなずいた。二人はしばし無言だったが、やがてケイスケが顔を引き締めて言った。
「よし・・・それじゃあ、いよいよギガゾーンとの決着をつけなきゃいけないな。君が安心して自分の星に帰るためには、その必要がある。でも・・・俺達も防衛軍も、必死で奴の居所を調べているけど、まったくその居場所がつかめない。一体、どこにいるのか・・・」
考え込むケイスケ。だが、サムスは首を振った。
「心配することはない、ケイスケ。おそらく奴は近いうち、私達に最後の勝負を挑んでくるだろう」
「どうしてそんなことが・・・?」
ケイスケは驚きながらも、サムスに尋ねた。
「奴がこの星に乗ってくる時に使った宇宙船は、内部に怪獣研究・製造用の設備を持たない、高速移動用の宇宙船だった。奴自身の作った侵略兵器としての怪獣やロボットは、おそらくすでに底をついているはずだ」
「じゃあ、以前のリバイアサン以来、昼の怪獣まで奴の自前らしき怪獣が出てこないで、ウェポナイザーをつけられた地球土着の怪獣ばっかり出てきたのは、そのあいだそんな怪獣でお茶を濁してたってことなのか?」
「おそらくはそうだろう。手駒をほぼ失ったギガゾーンは、必ず何らかの手にうって出てくるはずだ」
「宇宙に逃げ出して体勢を立て直すかもしれないぞ?」
「奴の狙いはこれまでどの宇宙人も侵略することができなかったこの星を侵略することで、自分の優秀さを認めさせることだ。そんなことをすれば、結局は自分もそんな宇宙人にすぎないことを露呈することになる。プライドの強い科学者であるギガゾーンは、無理にでもこの侵略を押し通すはずだ」
サムスの言葉に、ケイスケは納得した。
「それじゃあ・・・最終決戦は近いわけだな。やっと、一つ区切りがつくわけだ。俺達と、君の、一つの戦いの区切りが・・・」
「ああ・・・」
「がんばろうぜ、最後まで!」
そう言って、ケイスケは右手を差し出した。サムスはうなずくと、その手をがっしりと握った。
「・・・」
二人が互いにうなずくと、サムスはケイスケに言った。
「休んでいるところにすまない、ケイスケ・・・。さあ、ゆっくり傷を癒すといい・・・」
「ああ、おやすみ・・・」
そう言うと、ケイスケの意識は再び闇へと包まれていった・・・。
一方その頃。マリナーベースから遠く離れた宇宙では、ある事件が幕を開けようとしていた・・・。
巨大な青い星が目の前にそびえる、地球の静止軌道上。そこには、巨大なコマのような形をした一つの巨大な人工物が悠然と浮かんでいた。
宇宙ステーションV7。地球防衛軍の誇る巨大な軍事用宇宙ステーション「Vシリーズ」の7代目であり、地球防衛軍の宇宙防衛の最前線基地とも言える要塞である。この宇宙ステーションは装備された最新鋭の電子レーダーによる地球圏の監視の他、月面にある防衛軍基地アルテミスや太陽系外への調査船の補給基地ともなっており、非常に重要な役目を負っている。
そしてその日、このV7での3年間の派遣勤務を終えた防衛軍の隊員が2名、地球防衛軍極東基地への帰還の途につくことになった・・・。
「この星空とも、もうお別れか。早かったな、3年も」
V7の廊下の窓から見える星々を見ながら、感慨深げに一人が言った。V7の各種機器の整備要員として派遣されていた、イシグロという名の整備員だった。
「お前は天体観測って趣味があるからいいよ。ここでの勤務も楽しいかと思って引き受けてはみたが、俺はやっぱり地に足の着いた生活の方がいいってのが、この3年で得た教訓だな」
あくびをしながらそう言うのは、V7に配備されている防衛軍機の整備のため派遣された整備員であるノガワという男である。二人とも、片手では荷物の詰まったキャリーケースを転がし、もう片方の手には送別会でもらった花束を持っていた。
やがて二人は通路を曲がり、地球へのシャトルが待機している格納庫へと向かった。二人がそこにつくと、すでにそこではパイロットスーツに身を包んだ一人の男が待っていた。
「やあお待たせ」
イシグロが声をかけると、彼はにこやかに答えた。ユシマという名のシャトルパイロットで、このV7にいる者なら必ず一度はその操縦のお世話になっている。
「待ってましたよ。お二人が乗り次第、すぐに発進できます」
その言葉に、ノガワは驚いた。目の前にあるシャトルは、30人少しまで乗れるのだ。
「もしかして、この便は俺達二人だけが客なのかい?」
「そういうことになりますね。あとのお客は、地球へ持ち帰る観測データぐらいでしょうか」
「やれやれ、寂しいね」
「まあいいじゃないか。V7ともこれでお別れだし、この三人で静かに思い出話でもしながら地球に帰るってのも」
「それもそうだな。それじゃユシマさん、お世話になるよ」
「安全運転で必ず基地までお送りしますよ」
彼らは笑顔でそんなことを話すと、シャトルに乗り込んだ。それからまもなく、ゆっくりとシャトルはV7から発進していった・・・。
V7を発進してから少しの間、シャトルは順調に地球への航路をたどっていた。その船内ではイシグロとノガワがV7での思い出話に華を咲かせ、ユシマがそれに相づちを打ちながら名残を惜しむというゆったりした時間が流れていた。
異変が起こったのは、V7を発進してから約15分後だった。
pipipipipipipipipi!
突然コクピットに警報の高い音が響いた。突然のその音に、ビクリとして飛び跳ねる二人。
「なんだなんだ!? 故障か!?」
慌ててイシグロとノガワが、コクピットに身を乗り出した。そのコンソールパネルでは、シャトルの後部区画の一角が赤く染まったCGが表示されていた。
「貨物室の電圧が下がっているようですね・・・」
ユシマが眉をひそめながら言った。それを聞いて、イシグロがノガワをにらむ。
「おいノガワ、お前のところはいったいどんな仕事をしてたんだ? 宇宙の乗り物の整備ミスは即命取りにつながるんだぞ?」
「ちゃんと仕事してるわ! このシャトルだって、今朝俺が仲間達と一緒に隅から隅まで点検したばっかりなんだぞ?」
「そのとおりですよ、イシグロさん」
ユシマもそれにうなずく。
「でも、現にこうして故障が発生してるんだぞ? 機械の誤作動じゃないよな?」
「引き返しましょう。今ならそれほど時間もかからず・・・」
そう言って、機体を反転させようとするユシマ。
「いや、ちょっと待ってくれ」
だが、それをノガワが制した。
「大気圏突入まではまだ時間がある。その間に、俺に調べさせてくれないか? 工具も部品も貨物室にはあるから、もし軽度の故障だったらこの場で直すことができるかもしれない。戻るのは、それからでも遅くないと思うけど・・・」
「しかし・・・」
ユシマが不安そうな顔をした、その時だった。
「・・・仕方ないな。俺も行こう」
イシグロが苦笑しながら立ち上がった。
「イシグロ」
「そう広くはない貨物室だ。二人いれば、すぐに故障個所も発見できるだろう。直せるかそれとも手に余るかぐらいは、故障個所を見ればすぐに判断できるはずだ。時間はかけないからさ」
「・・・わかりました」
ユシマがうなずくのを見て、二人はすぐに、客室から出ていった・・・。
貨物室についた二人は、すぐに故障個所を発見するため別々に貨物室の中を歩き、配電パネルなど考えられる場所を調べ始めた。だが、二人の予想に反して、故障個所はなかなか見つからなかった。
「どうだ、そっちは?」
ノガワが声をかけてくるが、貨物室の中の様々な荷物に隠され、声は聞こえてもその姿は見えない。
「ダメだな、こっちにもない・・・」
イシグロは焦りを感じながら、なおも調べ続けた。
「やっぱり、戻って点検し直すしかないか・・・?」
と、その時
シュババッ!!
「うわっ!?」
ノガワのいるらしき場所で閃光と電気がスパークしたような音、それにノガワの悲鳴が聞こえた。
「どうした、ノガワ!?」
イシグロはすぐに、彼の元へ急イシグロ駆け出そうとした。と、その時
ヒュッ!!
「!?」
何か小さなものが、その目の前に突然現れたかと思った次の瞬間
シュババッ!!
それが放った青い光線に打たれ、イシグロは意識を失った。
プシュー・・・
客室の後部ドアが開く音を聞いて、ユシマは座席から身を乗り出してその方向を見た。
「どうでした・・・?」
それと同時に、故障状況を尋ねようとしたユシマは、思わず言葉が止まった。
そこには、イシグロとノガワが立っていた。だが、彼らは・・・不気味な笑みを浮かべていた。明らかに、普通の様子ではない。
「ど、どうしたんです?」
思わずユシマが身を引いた、その時だった。
ヒィィィィィィィィィィィン!!
突然イシグロの背後から現れた小さな白い円盤が、ユシマめがけて飛んできた。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ユシマが悲鳴を挙げた次の瞬間、それは青白い光線を彼に放った・・・。
それから数十分後・・・。夜のとばりの降りたマリナーベースのミッション・ルームでは、メインモニターに映るアヤを前に、オグマが話をしていた。
「・・・では、怪獣は死んでいると断言して間違いないんだな?」
「はい・・・。怪獣は複雑な生き物なので・・・生死の判別も難しいのですが・・・。皮膚組織を中心に・・・腐敗らしき体組織の壊死が始まっています・・・」
そう報告するアヤの後ろには、地面に横たわった巨大なフェニキアの死骸が、サーチライトの光を浴びて浮かび上がっていた。
「なるほど。腐り始めたとなれば、よっぽどそいつが常識離れしていない限り死んだと判断して間違いはなさそうだな」
「はい・・・。腐臭もし始めていますので・・・市街地の住民からの苦情も予想されます・・・。死体処理班の出動を・・・要請したいのですが・・・」
「わかった。極東基地に要請しておこう。キリュウ、お前はそこを引き揚げて、そろそろ基地に戻ってきてくれ」
「了解しました・・・」
そこで、通信は切れた。
「やっと安心できるって感じだね」
サトミが背伸びをして解放感を示す。
「さて、それじゃ早速・・・ハットリ、極東基地に死体処理班の出動を要請してくれ」
「ラジャー!」
と、ヒカルが答えたその時だった。
プーッ! プーッ!
マリナーベースの中に、警報が響き始めた。
「!?」
ガバッ!
警報を聞いて、ケイスケが飛び起きる。が、すぐに恰幅のいい中年の看護婦がその体をベッドへと寝かしつける。
「安静にしていて下さいと先生も言ってましたでしょう?」
「しかし・・・」
まだ不服そうなケイスケ。
「それに、その腕では戦闘機は操縦できないでしょう? 仕事熱心なのもいいですけど、休むのも仕事のうちなんですから。何があったかはすぐに聞いてきますから、おとなしく寝ていて下さい。ね?」
「はい・・・」
ケイスケは一応あきらめ、ベッドにもぐりこんだ。それに、警報の音でわかる。あれは怪獣出現を報じる警報ではない。その他、隕石の落下などを知らせるものであり、それも危険度は低い方だろう。それならば、戦闘機パイロットは必要でないはずだ。ケイスケは少しは安心すると、横たわったままじっとすることした。
その頃、ミッション・ルームではヒカルが事態の確認に追われていた。
「何が起こったんだ、ヒカルちゃん?」
「ちょ、ちょっと待って下さい・・・」
まもなく、端末に情報が表示される。
「・・・わかりました! 宇宙ステーションV7から極東基地へ帰還する隊員2名を乗せたシャトルが、大気圏突入直前にコースを逸れ、予定とは異なったポイントへ落下しつつあるそうです!」
「大変じゃない!」
「それで、落下予測ポイントと時間は?」
端末に、地図と残り時間が表示される。
「銚子沖東約30kmのポイントに、あと7分56秒後に落下するようです!」
「時間がないわね・・・」
「うまく着水できればいいんですけど・・・」
ヒカルが心配そうに、少なくなっていくカウント数を見守る。
「キャップ、我々は?」
ニキがSAMSのとるべき行動を尋ねる。オグマはすぐに答えた。
「状況から言って、俺達よりもこの基地の特殊救助部隊「シーガル」の方が役に立ちそうだ。現場は極東基地より我々の方が近い。救助が完了したら、一旦このマリナーベースのメディカルセクションに収容するんだ。コジマ、救急態勢を整えておいてくれ」
「ラジャー!!」
マリナーベースは、にわかに慌ただしさを増していった。
それから約8分後。銚子沖の海上に、すさまじい水しぶきをあげながらもそのシャトルは着水に成功した。それから間もなく、救助隊シーガルは到着し、乗客である防衛軍の隊員2名、それに乗員であるシャトルパイロット1名の救助に成功し、彼らはとりあえず、マリナーベースのメディカルセクションへ収容され、そこで治療を受けた・・・。
「どうも、ありがとうございました」
収容された3人の男を代表して、イシグロと名乗った整備員が頭を下げた。他の二人も、続いて頭を下げる。メディカルセクションの一室では、ケイスケとまだ戻っていないアヤを除くSAMS全員が彼らを見舞っていた。
「いや、ご無事でなによりですよ」
「ほんとに奇跡みたいですよ。みなさん全員、かすり傷一つないなんて。状況を見守ってた時は、どうなることかとハラハラしましたけど」
オグマとコジマが続けて言う。信じられないことに、コジマの言うとおり彼らは全員、診断の結果どこにもケガはないことがわかった。
「それはあれですよ。ユシマさんの操縦の腕がよかったからです。見事な着水でしたよ」
「いや・・・本当に奇跡みたいなものですよ。あれほど完璧な着水ができたなんて、自分でも信じられません」
ユシマは恐縮した。
「せっかくの地球への帰還で、ひどい目に遭いましたね。結局、なぜあんなことになったのですか?」
「我々も、まったく原因がわかりません。とにかく、大気圏突入直前になって、突然機体が制御を失って・・・」
「発進前の点検は万全だったはずなんですが・・・」
イシグロとノガワはそろって深刻そうな顔をした。
「・・・それについては、後ほど事故原因の究明も始まるでしょう。とにかく、ケガがなくてよかったですよ。客室を用意しましたので、今夜はとりあえずこのマリナーベースで休んでから、明日極東基地に戻るといいでしょう」
「お心遣い、感謝します」
彼らは頭を下げたが、すぐにイシグロが尋ねる。
「ところで、SAMSは7人で全員と伺っていましたが、残るお二人の方は今どこに?」
「ああ、一人は外へ出ていて、もうじき戻ってくるはずです。もう一人は昼間の怪獣との戦いで負傷しまして、ここの病室で安静にしていますよ」
「そうですか・・・。やはり、大変なのですね」
「まぁ、仕事ですから。それでは、我々はこれで任務に戻ります。客室へはあとで係の者に案内させます」
「恐れ入ります」
「それでは、お休みなさい」
メンバーは頭を下げ、次々に部屋から出ていった。3人は笑顔でそれを見送ったが・・・
「・・・」
すぐに真顔になると、お互いに向かい合った。
「とりあえず、潜入には成功したな。体の具合はどうだ、ランブル中尉、コックス中尉?」
イシグロがそう尋ねると、ノガワ、ユシマはニヤリと笑った。
「快適であります、少佐。すぐに操作できるようになりました」
「これならば天帝閣下以下八百万の民も、気に入って下さることでしょう」
イシグロはそれを聞くとうなずいた。
「うむ。他の基地にも、全て潜入は完了したか?」
「はい。全ての工作員から、潜入成功との報告が揃いました。準備完了です」
「よし・・・。では、作戦を開始する。天帝閣下と八百万の民のために!!」
彼らは高らかにそう言うと、一斉に立ち上がって病室から出ていった。
それから少し後。ケイスケのいる病室のドアがノックされた。
「どうぞ」
あの、すいません。ちょっと開けてもらえませんか?」
看護婦がその言葉に応じてドアを開けると、
「よいしょ・・・っと」
ワゴンを押したヒカルが中へと入ってきた。ワゴンの上には、様々な料理が乗せられていた。
「晩ご飯持ってきました。コジマさんに言われたとおり、カルシウムをたくさん含んでる素材を使ってみました!」
ヒカルの持ってきた料理は、基本的に和食だった。いわしのハンバーグにわかさぎの天ぷら、かつおの刺身とご飯、ごま豆腐、小松菜のお浸し、それに、食後に用意された牛乳。たしかに米を除けばどれもカルシウムを豊富に含んだ食材だ。当然、料理そのものの出来映えもプロ級である。
「おう、ありがとうな」
笑顔を浮かべながらヒカルはそれらの料理を並べていった。
「まぁおいしそう。将来はこんなのを毎日三食食べられるんだから、ニイザさんも幸せ者よね」
ケイスケとヒカルの関係はとっくに基地中に知れ渡っているため、看護婦がそんなふうに冷やかした。顔を赤くする二人。
「それじゃあたしも、ナースステーションに戻ってますから」
そう言って、看護婦は出ていってしまった。
「と、とにかく、いただくな・・・」
「ど、どうぞ・・・」
「いただきます」
とにかくケイスケは、料理に箸をつけた。まずはいわしのハンバーグを口へ運ぶ。
「どうですか? それは初めて作ったんですけど・・・」
ヒカルがケイスケの顔をのぞき込む。
「そんなに真剣に見るなよ。食べにくいじゃないか」
「す、すいません・・・」
恥ずかしそうに顔を引っ込めるヒカル。だが、ケイスケは彼女に笑顔で言った。
「もちろん、おいしいに決まってるだろ? 心配するなっての」
その言葉を聞いたヒカルが、パッと顔を輝かせる。ケイスケにとっても、嬉しい顔だった。ケイスケは次々に他の料理にも箸を伸ばし、それぞれの違った味を存分に味わった。
「ごめんな、ボキャブラリーが貧困で・・・。もっと気の利いた言葉で表現したいけど、おいしいとかそういう言葉しか知らなくって・・・」
お浸しの入った小鉢を空にして、ケイスケは苦笑した。が、ヒカルは首を振る。
「いいですよ。ケイスケ君の顔を見れば、そう思ってくれてるのはわかりますから・・・」
「そうか・・・ありがとう」
やがて、全ての料理はケイスケの胃袋に収まった。
「・・・フゥ、ごちそうさま。ほんとに、入院患者の食事とは思えない質と量だったな」
「どういたしまして。でもケイスケ君、食べてるところだけ見れば本当に患者さんには全然見えないですね。明日にはまた働けるようになるんじゃないですか?」
「まさか・・・でも、そうだったらいいな。やっぱりずっと寝てるのは性に合わない」
「フフ・・・」
ケイスケはベッドに寝転がり、ヒカルは皿を片づけながら、談笑を楽しんでいた。
「ところで、運ばれてきたっていうシャトルの乗組員達はどうしてるんだ?」
「怪我がなかったので、客室に案内されたと思いますけど・・・」
と、ヒカルが答えたその時だった。
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!
突如大音響とともに、マリナーベースに激震が走った。
「うわっ!?」
「きゃあっ!」
ベッドから落ちそうになるケイスケと、倒れそうになるヒカル。だが、ケイスケはベッドに、ヒカルはそのフレームにしがみつくことで、どうにかそれを免れた。
揺れの直後は少しの間停電が起こっていた基地内だったが、やがて電力は回復し、元通り室内は明るく灯された。しかし、けたたましい警報だけは鳴り続けていた。
「ヒカル、大丈夫か?」
「はい・・・ケイスケ君こそ、なんともありませんか?」
「ああ、大丈夫だ。でも、今のは爆発か・・・?」
と、ケイスケがつぶやいていると・・・
「別棟・レーダーセクションにて原因不明の大爆発が発生! 火災延焼中のため、消火班は直ちに急行せよ! 繰り返す!!」
そんなアナウンスが流れ始めた。ケイスケはそれを聞くと、ベッドから急いで降りようとした。だが・・・
「ダメです! まだ寝てないと・・・」
ヒカルが彼をベッドに押し戻した。だが、ケイスケは抗議する。
「離れてはいるけど、マリナーベースで起こった爆発だぞ!? こんなところでおとなしくしてられるか!」
「だからって、傷が治っていないのに行かせるわけにはいきません!!」
「痛みは完全に引いてるんだ! 走るのだって・・・」
「ケイスケ君!!」
ヒカルがそう叫んで、彼をにらんだ。
「・・・聞き分けのない人は、嫌いです」
その言葉にケイスケはハッとして、顔を落とした。
「・・・すまない。悪かった」
ヒカルは苦笑しながら、ケイスケに言った。
「大丈夫ですよ。私も、SAMSですから。ケイスケ君の分もがんばります。それじゃ、いってきます」
「気をつけろよ」
ヒカルは笑顔で敬礼すると、病室から出て行った。
ヒカルがミッション・ルームに戻ると、そこは戦場のようだった。
「延焼はどの程度進んでいるの?」
「テロの可能性は!?」
「状況をすぐに確認しろ!!」
オグマ達の声が飛ぶ中、ヒカルもすぐに自分の席につき、インカムをつけて仕事を始める。と、そのとき
「映像はいります!」
サトミの声とともにメインモニターに表示されたのは、炎上する大破した巨大なパラボラアンテナの姿だった。
「レーダーが・・・!」
それを見て、コジマが呆然とつぶやく。
「基地の目と耳を潰されたか・・・」
「やはり、何者かの破壊工作でしょうか?」
「あんなところにあれだけのことができるだけの爆発物なんかあるもんか。ハットリ、警備班に連絡して、基地内の警備を強化するように伝えてくれ。賊があれだけで終わりにするとは思えないからな」
「了解!」
ヒカルはすぐに内線を繋ぎ、警備班に連絡を始めた。
「よし、俺達は現場に向かおう。ハットリ、キシモト、留守を頼む」
「わかりました」
オグマ達はヒカルとサトミを残してミッションルームから出ていった。
レーダーセクション爆破の報により、騒然となっているマリナーベースの内部。様々な人が慌ただしく行き交う中、防衛軍の制服を着た3人の男が平然とした様子で、メディカルセクションを目指していた。
「レーダーセクションが機能停止!?」
その知らせをもってきた看護婦に、ケイスケは驚いて尋ねた。
「はっきりとはわかっていないけど、破壊工作の可能性が高いらしいわよ」
「でしょうね。ここは地球防衛の要衝ですから・・・」
「火災がこの建物まで延焼する可能性はないそうだから、ベッドを移すとかそういうことはないから安心して寝てていいわよ」
「そうですか。それじゃ、お言葉に甘えて・・・」
そう言って、再びベッドに潜り込むケイスケ。
「なに? ずいぶん素直じゃない」
意外そうにそれを見ながらも、これから臨時のミーティングがあるからと言って、また看護婦は病室から出ていってしまった。緊急事態には違いないから仕方がないだろう。そう思いながら、ケイスケは目を閉じた。と、その時だった。
ガチャ・・・
ドアの開く音がした。ケイスケは目を開けながら、誰が入ってきたのだろうと思った。ベッドとドアの間は白いカーテンで仕切られていて、訪問者の姿を見ることはできない。ケイスケは看護婦が戻ってきたか、心配したヒカルが様子を見に来たかというぐらいのことを想像した。だが・・・
「・・・?」
部屋に入ってきた足音は、二人以上の人間のたてるものだった。ケイスケが訝しげに思い、上半身を起こすと、突然
シャッ!
カーテンが引かれ、訪問者達の姿が圭介の目に入った。それは、見知らぬ3人の男達だった。3人とも防衛軍の制服を着ているから、この基地の関係者には違いない。マリナーベースでは何千人もの人員が働いているので、知らない顔があるのも当然だろう。
「ど、どなたですか・・・?」
とはいえ、挨拶もなしに入ってきたこの見知らぬ男達に、ケイスケは戸惑いを隠せなかった。が、男達は入ってきたときからの無表情のまま、彼に尋ねた。
「・・・ニイザ・ケイスケ隊員・・・だな?」
「そ、そうですけど・・・」
ケイスケはとりあえずうなずいた。だが・・・
ジャキッ・・・
「!?」
真ん中に立つ男は、いきなりケイスケに銃を向け、そして、抑揚のない声で言った。
「君に死んでもらおう、ニイザ隊員、いや・・・ウルトラマンサムス!!」
「!!」
病室に入ってきた男達にいきなり銃を突きつけられたケイスケ。当然その直後には驚いたが、すぐに冷静に、目を横に走らせた。ベッドの脇にはサイドボードがあり、その上には制服から外したホルスターと、そこから取り出したパルサーガンが置かれている。目の前の相手が猶予を与えてくれるとは思えない。ケイスケは、一瞬に賭けることにした。
バッ!!
ベッドから跳ね起き、サイドボードの上に手を伸ばそうとする。しかし
ガァン!!
男の銃がそれより早く火を噴き、パルサーガンをはじき飛ばした。床に落ちたパルサーガンが、乾いた音をたてる。
「くっ・・・!」
「無駄な抵抗をしないでもらいたい」
そう言って、男は再び銃口をケイスケに向けた。
「・・・」
ケイスケは男達をにらみつけ、その時初めて気がついた。男達の制服の胸についている記章は、宇宙ステーションV7のものだ。
(こいつら・・・不時着して救助されたっていうV7の・・・)
そこまでたどり着いて、ケイスケはこの事態について筋道の通る推理を完成させることができた。
「そうか・・・お前達は、宇宙人の化けたニセモノだな?」
かつてウルトラ警備隊とウルトラセブンが地球を守っていた頃は、宇宙人の侵略が最も頻繁だった時代だった。そしてそれらの宇宙人の中には、防衛軍やその他の人間に変身して基地に忍び込み、破壊工作を行った宇宙人も多かったという。目の前の相手も、同じように宇宙人の化けたニセモノだろう。ケイスケはそう思った。だが・・・
「いや・・・それは少し違うな」
男は首を振った。
「考えてもみたまえ。君たちの基地は、そう簡単に部外者を内部へ入れてくれると思うかね? たとえ救助した人間でも、それが本物かどうか、確認を取るのが普通だろう?」
たしかに、男の言うとおりだった。ケイスケが想像したように人間に変身した宇宙人が侵入するのを防ぐために、マリナーベースではとりわけ厳重な警戒態勢をとっている。外部の人間を中に入れるときに、その人間の身元を確認するのはその基本中の基本である。ならば、なぜか? ケイスケはすぐに、もう一つの可能性に至った。
「その人達を操っているのか・・・。だが、それだってここに入るときのチェックで・・・」
実際にいる人間をなんらかの方法で操り、基地へ侵入させた宇宙人のケースもたくさんある。催眠術などによる洗脳や、サイボーグ手術を施して意のままに操れるようにしたケースなどが有名だ。だが、そういった心理操作が施されていないかどうかも、ここに入る時にはくまなくチェックされるはずだ。だが、それにもひっかからずに悠々と内部へ入り込むことのできたこの宇宙人は、よほどセキュリティ破りに長けた宇宙人らしい。
「この基地の警備は特に厳重なので・・・こういった潜入方法をとらせてもらった」
「お前達は何者だ? ギガゾーンの仲間か?」
だが、男は首を振った。
「彼には協力を申し出たが、残念ながら断られた。しかし、この星を侵略しようとしている宇宙人であるということには違いない。そのためには君たちSAMSと地球防衛軍の存在が邪魔なのだ」
「レーダーセクションの爆破も、お前達の仕業だな?」
「その通りだ。だが、この基地だけではない。地球防衛軍の全ての重要拠点に潜入した我々の工作部隊が、今の爆破を皮切りに一斉に同じような破壊活動を行った! レーダーを失ったことにより、地球はもはや、丸裸同然だ!」
「なんだと!?」
ケイスケは驚いた。だが、男は続ける。
「まだまだ破壊しなければならない施設がこの基地にはたくさんある。だが、その前にやっておかなければならないことがある。それはウルトラマンサムス、お前を殺すことだ!」
「!!」
「今のお前は、ニイザ隊員と一心同体になっている・・・。つまり、ここでお前を殺せばどちらも死ぬということだ! これほど簡単に、地球征服の最大の障害を取り除くことができるとは・・・」
「くっ・・・」
男に銃を突きつけられ、追いつめられる圭介。
「死ねっ!!」
男が指先に力を込めようとした、その時!
ドガァッ!!
「グアッ!!」
突如、何者かの体当たりを受けた右端の男が、壁に叩きつけられた。
「なにっ!?」
突然の出来事に男達が振り向くと、そこには、真っ赤な体をした三本足のカラスがバサバサと羽ばたいていた。
「このっ!!」
ガンガンガン!!
銃を撃ちまくる男達。だが、カラスは分身して見えるほどの素早さでそれをかわすと、羽ばたきですさまじい風を起こしてもう一人の男を吹き飛ばし、やはり壁に叩きつけた。ケイスケは始めこそそれに驚いていたが、すぐに我に返ると、床に落ちていたパルサーガンを拾い、最後の一人を撃った。
バシュッ!
「ギャッ!!」
撃たれた男は気絶し、そのまま動かなくなった。
「フゥ・・・」
ケイスケは銃を持ったまま、力なくベッドに座った。息をついてまだホバリングをしている赤いカラスを見ていると・・・
ガチャッ・・・
「大丈夫かい・・・ニイザ君・・・」
中へ入ってきたアヤが、少し乱れた息を直しながら言った。その肩に、真っ赤なカラスがとまって嬉しそうにアヤの頬へ体を擦りつけた。
「やっぱり、アヤさんでしたか・・・ありがとうございます」
ケイスケはその顔を見て、安堵の表情を浮かべた。
「大変だったね・・・。もういいよ・・・ありがとう、八咫烏(ヤタガラス)・・・」
アヤがそう言ってカラスの背中をなでると、カラスは一鳴きして煙のようにその姿を消した。
「虫の知らせがしたので・・・先に八咫烏を行かせたのだけれど・・・」
「おかげで命拾いしましたよ」
「これは一体・・・何があったんだい?」
「すぐに話します。でもその前に、みんなと警備班の人を何人かここへ呼んでくれませんか?」
「わかった・・・」
アヤはうなずくと、すぐにリストシーバーのスイッチを入れた。
「とりあえず、特別医務室へ運んでおいてくれ。徹底検査をさせる」
「わかりました」
コジマの指示に警備班の隊員達はうなずくと、気絶したままストレッチャーにしっかりと固定されている男達を運んでいった。
「・・・」
コジマが振り返ると、そこにはメンバーに囲まれているケイスケの姿があった。
「いやぁ、災難だなお前も。こんなことに巻き込まれるとは」
「どうもやっぱり、ゆっくり寝てられる体じゃないみたいですね」
ケイスケが苦笑いを浮かべる。その隣では、ヒカルが心配そうな顔をしていた。
「でも、ケガがなくて本当によかったです。ありがとうございます、アヤさん」
そう言って頭を下げるヒカルに、アヤは微笑を浮かべた。
「現場についてふと気がついたら、いつのまにかアヤさんがいなくなってるんだもんなぁ。どこにいったのかと思ったけど・・・」
コジマも話の中に加わる。
「すまない・・・。虫の知らせが・・・気になって仕方がなかったものでね・・・」
「でも、そのおかげで助かったんですから。それより、あいつらが言っていたこと・・・世界中の防衛軍基地が一斉に内部から攻撃を受けたというのは、本当なんですか?」
その言葉に、ニキはうなずいた。
「残念ながら、本当よ。どの基地もレーダーを破壊されて、監視網はまったく役に立っていないわ。他にも通信施設を爆破されたらしい音信不通の基地もあって、正確な被害状況の把握は、もう少し先になりそうね・・・」
「大変なことになっちゃいましたね。ここに潜入した宇宙人はアヤさんとケイスケ君がなんとかしましたけど、たぶん他の基地の宇宙人は、まだ捕まっていないんでしょう?」
ヒカルの言葉にうなずくニキ。だが、オグマが言った。
「いや・・・この基地だって、まだ安全とは言えたもんじゃない」
「え・・・?」
「他にも侵入者がいるかもしれない、ということだ。キリュウとニイザがやっつけた3人だけとは限らないからな」
「俺もそれを考えてました。基地内の警備を、もっと厳重にして下さい」
ケイスケもオグマに頼む。
「もちろんだ。とにかく、こんなことになってすまなかったな、ニイザ」
「でも、どうしてニイザを狙ったんだろうな? そんなことより、侵略者にとっちゃ他に潰したい設備がこの基地にはいくらでもあるだろうに」
「「そんなこと」って・・・」
ケイスケは不服そうな表情をしたが、内心ではドキリとしていた。だが、そこにサトミの明るい声が響く。
「きっとあたしたちの力を恐れてるんだよ! なんたって、地球を守る正義のチームなんだから! で、偶然ケガしてて動けなかったニイザ君を狙ったんじゃないの?」
「う〜ん、そうかなぁ・・・」
コジマが首を傾げる。
「それは議論してても仕方がないな。とりあえず、今は一刻も早くこの事態をなんとかせにゃ。とりあえず、俺達は仕事に戻るから、ニイザはゆっくり休んでいてくれ。キリュウ、念のため、ニイザについていてあげてくれないか?」
「わかりました・・・」
アヤがうなずく。その時、ヒカルがおずおずと手を上げた。
「あの・・・私もついてあげるわけにはいきませんか・・・?」
だが、オグマは首を振った。
「気持ちは分かるが、レーダーが使えない今となっては、各基地で緊密に連絡を取り合うことが防衛のポイントになる。お前は通信班に協力して、その力になってくれ」
「すごくありがたいけどヒカル・・・今はSAMSの任務を優先してくれ。俺からも、頼む」
「・・・そうですよね。すみませんでした」
寂しそうな表情ながら、ヒカルは納得したようにうなずいた。
「それじゃ、俺達は仕事に戻る。いくぞ」
「お大事にね」
「今度こそ、安心しておやすみ」
隊員達は次々と、部屋から出ていった。
病室から出たところで、オグマは部下達に言った。
「とりあえず、別行動を取ることにする。ニキ、コジマ、キシモトは警備班に協力して、他に宇宙人に操られていそうな奴がいないかどうか、爆発物が仕掛けられていないかどうか、チェックして回れ。ハットリはさっきも言ったように、通信班に協力。俺は司令の所へ行って、今後の方針について短く話してくる。何かあったらすぐに連絡を取り合うように。以上だ」
うなずくメンバー。だが、コジマだけは何かを考えているような顔で手を上げた。
「どうした、コジマ?」
「キャップ・・・実は今回入り込んだ宇宙人に、ちょっと心当たりがあるんです」
その言葉に、全員が驚いた。
「心当たりがあるって、どういうこと!? 前に会ったことあるとか!?」
「そんなだいそれた経験あるもんか。そうじゃなくて、例のバストゥール星人の遺したディスク・・・あれの今までの解読分の中に、たしかそんな宇宙人のことを書いた記録があったはずなんです。そいつを見つけだせれば・・・」
「・・・いいだろう。正体や退治法がわかったら、すぐに連絡しろ。いいな?」
「もちろん!」
「よし、それじゃ、行動開始!」
オグマがパンと手を叩くと、メンバーはそれぞれの方向へと散っていった。
一方その頃・・・。ここは特別医務室。今回のケースのように、破壊工作を行う侵入者などの人間を検査する部屋である。
ガラガラガラガラ・・・
3人の警備班の隊員が、ストレッチャーに固定された男達をここへと運び込んできた。彼らを所定の位置に運び、そのまま監視に入る警備班。だが、それから間もなくして・・・
カッ!
3人の男達が目を大きく開き、自由になる首だけを持ち上げて、警備班をにらんだ。
「!!」
すぐにショックガンの引き金を引こうとする警備班。だが・・・
シュババババッ!!
「うわぁっ!!」
それより早く、男達の額から放たれた青白い光線が彼らに命中した。叫び声をあげて倒れる警備班の3人。一方、その光線を放った男達も、また気絶してしまった。しかし・・・
ムクッ・・・
ほどなくして警備班達は、ゆっくりと起きあがった。だが・・・
「クックック・・・」
その顔には、不気味な笑みが浮かんでいた。彼らは特別医務室のドアを開けると、そのまま出ていった・・・。
ケイスケとアヤの二人だけとなった病室では、ケイスケが上半身を起きあがらせたまま、所在なさそうにしていた。
「眠ったらどうだい・・・? 心配はいらないよ・・・私がしっかり守るから・・・」
アヤが熊野権現のお札をヒラヒラさせ、微笑みを浮かべながら言った。
「昼寝なら十分しちゃいました。眠れそうにないですよ」
ケイスケが苦笑いを浮かべる。
「それじゃあ・・・少し、おしゃべりにつきあってくれるかな・・・?」
「え・・・?」
アヤの提案は、ケイスケにとって思いも寄らないことだった。
「そ、それはかまいませんけど・・・なにを?」
アヤはいい人だが、いざおしゃべりをするとなると個性的すぎるゆえに共通の話題を見つけるのがとても難しい人間である。それこそアヤのもつ、ちょっと近づきがたい雰囲気の原因の一つでもあるのだ
が・・・。
「コジマ君も・・・言っていただろう・・・? なぜ君が狙われたのか・・・それが少し・・・気になってね・・・」
「は、はぁ・・・」
ケイスケはまたもやドキリとした。あまり触れてほしくない話題なのだが・・・。すると・・・
スッ・・・
「・・・やっと・・・二人きりになれたね・・・」
そう言って、アヤはケイスケに顔を近づけてきた。
「な・・・ななななななな!!!」
思わせぶりなセリフとその行動。あまりのことに、ケイスケはベッドから落ちそうになるほど、身を引いてしまった。が・・・
「・・・君が狙われた理由・・・それは・・・君がウルトラマンサムスだから・・・なんだろう・・・?」
「・・・・・・・・・!?!?!?!?!」
続けてアヤが余りにも自然に言った言葉によって、ついにケイスケは混乱の極みに達し、ベッドから転落してしまった。
一方その頃。一人ミッション・ルームへ戻ったコジマは、これまで解読したデータを血眼で検索していた。
「えーっと・・・たしか・・・こうすればでてくるはず・・・」
ものすごい早さでスクロールする画面。と、それがピタリと止まり、あるデータが画面に表示された。
「あった!! こいつだこいつ!!」
コジマは喜びながらも、すぐにそれを読み始めた。が、すぐにその表情が深刻さを増す。
「・・・大変だ!! こんなのがこの地球に攻め込もうとしてるのかよ・・・。すぐに対策法を見つけないと。えーっと、どこだどこだ・・・」
コジマは再び、そのデータの中から対策法の記された部分を探り始めた。
同じ頃。ここはマリナーベース1Fのメイン動力室の入り口。基地内の警備の強化にともない、ここも警備班の隊員達によって警備されていた。そこへ、3人の警備隊員がやってきた。
「何の用だ? ここも立入禁止区域に指定されている。関係者でも今は立ち入ることはできない」
入り口を警備していた隊員の一人が、彼らに近づいた。この厳戒態勢下ではこの動力室を始め、基地内の重要施設は爆弾が仕掛けられていないかどうか調査した後、次々にこのようにして立ち入りが禁止されている。
「爆弾が仕掛けられていないかどうか調査に来た」
やってきた3人の隊員のうちの一人が言った。
「ここはもう終わった。だからこそこうして立入禁止にされているんじゃないか」
「上からの命令だ。ここに爆弾が仕掛けられている可能性がもう一度持ち上がったから、調査しなければならない」
入り口を警備していた隊員達は顔を見合わせたが、すぐに彼らに言った。
「待っていろ。今問い合わせる・・・」
彼らは確認を始めた。やがてそれは終わり、彼らは振り返って言った。
「そんな命令は出ていないぞ! お前ら、まさか・・・」
と、言いかけた途端
バシュバシュバシュバシュ!!
「うわぁぁっ!!」
入り口を警備していた隊員達は、やってきた隊員達のショックガンによって全て倒されていた。
「さすがにこれぐらいのことはするだろうが・・・。いくぞ」
「「ハッ!」」
後ろの二人に声をかけると、先頭の隊員は動力室へ入っていった。
「すまないね・・・ここまで驚かせるつもりは・・・なかったのだけど・・・」
申し訳なさそうな顔をしながら、アヤがケイスケを助け起こす。
「き、気にしないで下さい・・・」
その助けを借りて、ケイスケはベッドの上に戻った。
「いきなり顔近づけて変なこと言うから・・・人が悪いですよ、アヤさんも」
「フフ・・・。君がヒカル君一筋と知っていて・・・そんなことを言うと思うかい・・・?」
アヤは珍しく少しからかうような目で彼を見た。ケイスケは顔を真っ赤にした。
「・・・じゃなくて!!」
だが、ケイスケは首を振った。それを見て、アヤは真剣な表情に戻る。
「・・・そうなのだろう?」
ケイスケは黙っていたが、やがて、壁のハンガーにかけてあるままの制服を見た。胸ポケットの中で、キラリと何かが光るのが見えた。ケイスケはそれにうなずいて言った。
「・・・アヤさんに隠し事はできないみたいですね・・・その通りです」
ケイスケの言葉に、アヤは微笑を浮かべた。
「なぜ、そのことに? それに、いつから?」
ケイスケは、一番気になっていたことを尋ねた。
「最初からだよ・・・。君が一度行方不明になって、マリナーベースに戻ってきた時・・・」
アヤはそう答えた。
「君の中に・・・二つの命が見えた。それも・・・霊が憑依しているのではなく・・・君の中に霊よりももっと崇高ななにかが・・・つながりあって同居している・・・。こんな珍しいことは・・・見たことがなかったからね・・・」
そう言って、アヤは微笑を浮かべてケイスケを見た。
「そのあとで・・・彼が再び現れた・・・。その時確信したんだ・・・。君の中にいるもう一つの命・・・それは、彼なのだと・・・」
「そこまで知ってて、どうして今まで・・・?」
ケイスケはそれを尋ねずにはいられなかった。が、アヤはそれに対して、そのままの微笑で言った。
「理由など・・・いるのかい?」
ケイスケはそれに、呆気にとられたような表情をしたが、すぐに小さく笑い出した。それに対して、アヤも笑顔を浮かべながらそれを見つめる。
「・・・大変だったようだね」
やがて、アヤはそう言った。ケイスケはうなずく。
「はい・・・。でも、彼と一緒に戦うことができたことを、誇りに思ってます」
圭介は自信のこもった声でそう言った。
「彼は一度命を落としかけた俺を助けるため、命を分ける間、俺と一心同体になってくれました。そしてその間は、ギガゾーンと奴が送り出す怪獣を倒すため、怪獣からみんなを守るため、一緒に戦ってくれました」
「その戦いは・・・いつも見ていたよ・・・。ありがとう・・・二人とも・・・」
アヤはそう言って、ケイスケだけでなく彼の中にいるサムスにも、頭を下げた。
「・・・でも、それももうじき終わりです。彼が言うには、俺はもうじき命を完全に回復し、彼と分離することができるそうです。でも、その前に・・・ギガゾーンとの決着も、目の前に控えているだろう、と・・・」
アヤはその言葉に、真剣にうなずいた。
「そうだろうね・・・。私も・・・黒い気配が強まっていくのを感じる・・・。それは今回侵入した謎の宇宙人だけでは・・・なさそうだ・・・」
「ギガゾーンとの決着は、絶対につけなければいけません。サムスが安心して故郷に帰るためにも、地球の平和のためにも・・・」
ケイスケはそう言うと、アヤの顔を見た。
「俺が今隠していることは・・・全てが終わったら、全部みんなに話します」
「ヒカル君は・・・怒るだろうね」
アヤの言葉に、ケイスケは苦笑した。
「でも・・・それが君がこのことを隠していた・・・最大の理由だろう?」
「普段でもあれだけ心配する奴ですからね。ウルトラマンになって怪獣と直接戦うなんて言ったら、どんなことになるか・・・」
「言ってくれない方が・・・もっと困ると思うが・・・」
「それもわかってます。でも・・・それを覚悟のうえで・・・これをあいつに隠す、最後の隠し事にするって、最後まで隠し通すと決めたんです」
ケイスケの目には、決意が満ちていた。それを見て、アヤはうなずいた。
「ニイザ君らしいね・・・。その優しさ自体は・・・悪いことじゃないよ」
「・・・」
「君がここまで守り通したことを・・・私が反故にするわけにはいかない・・・。それまでは・・・私も黙っておくことにしよう・・・」
「ありがとうございます、アヤさん・・・」
二人はそう言って、笑顔を向けあった。その時
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!
「「!?」」
大音響とともに、再びマリナーベースが激しく揺れる。しかもそれは、レーダーセクションの時より大きなものだった。それと同時に、停電が起こる。
「また爆発・・・?」
「今のは、基地内のどこかですよ・・・。やっぱり、まだ仲間がいたんだ!」
「急いで、キシモトさん!!」
「はい!!」
警備班とともに爆発のあった現場へ走るニキとサトミ。彼らが曲がり角を曲がると、すぐに廊下の向こうから煙がやってきた。彼らは立ち止まって携帯ガスマスクをつけると、再びそこへと突進する。
煙を吐き出していたのは、メイン動力室だった。爆発と同時の停電は、そのせいだったのだろう。その入り口が巨大な口のように、モクモクと煙を吐き出している。その手前側に、警備隊員が何人か倒れているのが見えた。
「しっかりして!!」
ニキとサトミ達は彼らをひきずるようにその場から運び去り、何人かは動力室の中に誰かいないか、確認のために飛び込んでいった。
やがて、煙の来ないところまで彼らを運び終えてそこへ寝かせ、手当てを始めた。緊急排気用のファンは回りだしているので、じきに煙は収まるだろう。サブ動力室に切り替わったのか、電気も再び灯った。
「特別医務室に収容した3人は!?」
手当てを続けながらも、ニキがサトミに尋ねた。
「ヒカルちゃんがすぐに確認しましたが、特別医務室でまだ意識を失っているそうです!」
「それじゃあ、やはり仲間が・・・」
と、ニキが言いかけたその時だった。
「う、うう〜ん・・・」
隊員の一人が、意識を取り戻した。
「よかった、気がついたのね」
「ここは・・・そうだ、侵入者です!!」
彼はハッと気がついたように叫び、あたりを見回した。だが、ニキは冷静に尋ねた。
「落ち着いて。メイン動力室が爆破されたわ。犯人は誰?」
それに対して、彼はハッキリとした口調で答えた。
「私達と同じ、警備班の格好をしていました! 認識票のナンバーは、S017、S052、S169です!!」
彼は自分の胸につけられた認識票を指さしながら言った。ここの隊員ならば、必ず身につけているものである。その言葉に、サトミは変な顔をした。
「あれ?? そのナンバー、どっかで見覚えがあるような・・・」
「・・・あの3人を特別医務室へ運んでいった警備班の3人のナンバーだわ」
すぐにニキが答える。
「さっすがリーダー! よく覚えてますね。・・・でも、ってことは・・・最初からあの3人も、グルだったってこと!?」
サトミが驚く。しかし、ニキは黙って考えた後、首を振った。
「・・・いいえ。おそらく違うわ。彼らがどういう種族なのか、わかってきた・・・」
「ほんとですか!?」
「でもそんなことより、今は彼らがどこへ向かったかだわ。それを調べないと・・・」
「そ、そうですね。でも、どうやって?」
「方法はあるわ」
そう言うと、ニキはリストシーバーのスイッチを入れた。
「ハットリさん、応答して」
すると、すぐにヒカルの顔がリストシーバーの液晶に表示された。
「はい、ハットリです!」
「たびたびで悪いけど、すぐに調べてほしいことがあるの」
彼らはエレベーターを降りると、目の前にある格納庫への入口を発見した。彼らはすぐにそのゲートにとりつき、手持ちのカードでそれを開けた。
「いくぞ」
後続の二人がうなずき、隊員達は中へと突入していく。
「真っ暗だな・・・」
そこは、完全な闇に包まれていた。徐々に目が慣れてくると、ピース・シリーズやコンテナ、その他の機体や設備などの巨大な影が目に入ってくる。と、その時・・・
カッ!!
突然、格納庫の照明が全て灯った。3人の男は、とっさに腕で目をかばう。と・・・
ジャキッ・・・
「ずいぶん好き勝手やってくれちゃったけど、ここまでだよ、宇宙人さん?」
「チェックメイトね。おとなしくしてもらおうかしら」
SAMSナイトの陰から、二人の人物が現れてパルサーガンを向けた。サトミ、それにニキである。さらに・・・
ガチャガチャガチャッ・・・
その他の物の陰からも、銃を持った警備班の隊員達が多数現れ、銃を構えた。
「!」
驚いた3人が後ろを振り返ると、そこにも警備隊員達が殺到してきた。彼らは黙ってそれを見ていたが、やがて、先頭の隊員がフッと笑ってニキに言った。
「どうして我々がここへ来ると?」
「基地のあちこちに入りやすいように、この基地の人間の体を借りたのだろうけど・・・それは失敗だったわね。胸についている認識票を見てみなさい」
そう言われた隊員達は、自分達の制服の胸につけられている金属製の認識票を見た。
「それにはICチップが埋め込まれていて、マリナーベースの敷地内ならどこにいてもその場所を知ることができるのよ。調べてもらえば、どこへ向かっているかを特定するのは簡単ね。あなたたちの知らない格納庫への直通エレベーターを使って、先回りをさせてもらったわ」
「なるほど、そこまでは調査していなかった・・・。なかなかだな」
そう言って、先頭の隊員は笑った。
「それで? 我々をどうしようと?」
「投降しなさい」
「我々にその気はないね。銃で撃って気絶させてから拘束するかな?」
「お望みならそうしちゃってもいいけど?」
そう言って改めて銃を向けるサトミ。だがその時、その隊員がニヤリと不気味な笑いを浮かべた。
「!! キシモトさんっ!!」
ドンッ!!
「わっ!?」
それを見たニキが慌ててサトミにタックルを食らわせる。それとほぼ同時に・・・
シュババッ!!
隊員の額からほとばしった青い光線が、先ほどまでサトミがいた場所の床を虚しく撃った。それを見た隊員達が、一斉に引き金を引く指に力を込めようとする。
「撃たないで!! ムダよ!!」
その直後のニキの言葉に、隊員達は驚きながらもそれを踏みとどまった。その言葉に、囲まれている隊員も意外そうな表情をする。
「はぁ、ありがとうございました、リーダー・・・。でも、なんで・・・」
「この宇宙人には、銃は意味がないわ・・・。気絶させても殺しても・・・こいつらは死なない・・・」
立ち上がりながら、ニキがにらむ。
「ほぉ・・・我々がどんな種族なのか、わかっているようだな?」
「今までのことから判断して、だいたいの見当はついたわ・・・」
ニキはそう言った。
「あなた達自身は、きっと微生物のように小さい体のはず。私達人類のような脳の発達した知的生命体の脳に寄生虫のように寄生しては、その体を支配してマリオネットのように自在に操る・・・。そんな種族なんでしょう、あなた達は? そして・・・あなた達にとっては私達の体は、乗り物にすぎない・・・。たとえ傷ついたり死んだりしても、別の体にのりうつればよい。今、キシモトさんに乗り移ろうとしたように・・・」
その言葉に、サトミや警備隊員達は驚いた。
「じゃ、じゃあ・・・乗り移ってる人に攻撃しても、こいつら自身は傷一つつかないってことですか!?」
「素晴らしい推理だ! まさに、その通りだよ! 我々は君たちのような動物の脳に寄生する能力をもった宇宙人、ヤドリだ!」
ヤドリに憑依された隊員は、そう高らかに叫んだ。
「今そちらが言ったとおりだ。たとえこの人間を気絶させようと殺そうと、我々には傷一つつかない! ここには次に乗り移ることのできる相手が、いくらでもいるからな」
そう言って、周囲の隊員達を見渡すヤドリ。思わず後ずさりする隊員達。
「誰も我々を止めることはできない! 我々は不死身! 我々は宇宙最強の存在なのだ!!」
だが、その時
「不死身で最強ねぇ・・・それはどうかなぁ?」
彼らの背後からのんびりした声がした。彼らが振り返ると・・・格納庫の入り口から、ヒカル、コジマ、それにオグマが、ゆっくりと入ってきた。
「経験上言わせてもらえば、不死身とか最強とかいう存在ってのは、この宇宙には存在しないことになってるの」
だが、ヤドリは不敵な笑みを浮かべた。
「それなら、我々を倒してみるか?」
「お望みとあらば」
そう言うとオグマは、不気味な笑みを浮かべた。次の瞬間、彼の後ろに控えていたヒカルとコジマが、銃のような物を構えた。
「当たってください!!」
「当たれ!!」
ブシュブシュウッ!!
二人が引き金を引いた瞬間銃口からほとばしったものは、リーダーらしきヤドリの両脇にいた隊員の顔にそれぞれ見事に命中した。が・・・その場にいた者たちは、オグマ、コジマ、ヒカルの3人を除いて、みんなあっけにとられていた。
「ちょ・・・ちょっと! 二人ともなんで水鉄砲なんか撃ってんのよ!?」
サトミが叫んだとおり、二人が持っていたのはなぜか水鉄砲だった。それなりに高級で、射程の長いものだったが。
「そんなんで効くわけが・・・」
と、サトミが言いかけた、そのときだった。
「グゥ・・・!!」
「グォ・・・ッ!!」
バタバタッ!!
なんと、それから発射された水を浴びた二人は、次々に倒れてしまった。
「うそっ!? なんで!?」
これにはサトミたちも、驚きを隠せなかった。
「や、やりました! ほんとに効きましたよコジマさん!!」
「ああ! 予想以上の効果だ!!」
それを撃った張本人であるヒカルとコジマは、飛び跳ねんばかりに喜んでいた。一方、オグマは足元にコロコロと転がってきた小さな粒を指でつまんで拾い上げ、片目をつぶってじっくりとそれを観察した。
「ははぁ、なるほど。これがお前たちの正体ってわけか」
その青い粒の中には、苦しそうな表情をしている人間の顔のようにも見える奇妙な物体が閉じ込められていた。
「だから言ったでしょ。この世に不死身とか最強とか無敵とか、そんなものはないんだって。どんな奴にも必ず弱みの一つや二つはあるのが、世の中の理ってもんなの。俺にも、こいつらにも、それに・・・あんたらにもね」
オグマは言った。
「な、なぜ・・・」
一方、残されたヤドリは、それまでの余裕がうそのようにブルブルと震えながら言った。
「なぜお前たちが・・・我々の弱点を・・・!?」
「意外だろうね。俺たちにも意外だったぐらいなんだから。まぁそのへんのことは、こいつから。頼む、コジマ」
「了解、キャップ。まぁ俺たちも、偶然に助けられたって格好なんだけどね」
オグマに肩を叩かれたコジマが代わってしゃべりだす。
「2ヶ月前、俺たちは宇宙を漂流してた無人の医療調査船を見つけた。俺はその中から発見された宇宙の病原体のデータを記したディスクを解読してたんだけど、その中に偶然、あんたらのデータが記録されてたんだよ。弱点込みでね」
「!?」
「どうもあんたら、相当いろんなとこで悪事してきたらしいね。あんたら、アケメネス星って星のこと、覚えてるかい? あんたらに滅ぼされた星のひとつだよ。その顔じゃ覚えてないと見えるけど・・・何千年ていう昔の話だ。無理もないかもな。けど、これも因果応報ってやつかもしれない。バストゥール星人がその星を訪れたときにその星の生き残りから聞いた話が、今こうして俺たちの役に立ってるんだから」
そう言うとコジマは、データをプリントアウトした紙らしきものを取り出した。
「アケメネス星はかつては優れた文明の栄えた美しい星だったらしいが、バストゥール星人が訪れたときには見る影もなく荒廃し、生き残りもわずかだった。なんでそうなっちまったか。それは、あんたらがアケメネス星人の中に紛れ込んで、内部から混乱を招いたからだ。どこかの星の人間の一部に乗り移っては暴れ回り、隣の奴もあんたらにとりつかれてるんじゃないかという猜疑心を人々の間に植え付け、互いに殺し合いをさせる・・・。それがあんたらの侵略の常套手段らしいな」
「・・・」
「そうしてアケメネス星人は、互いに戦争を始めちまった。だが、さっきのようにいくら殺しても、あんたらが死ぬわけじゃない。アケメネス星人ばかりが死んでいき、彼らの人口はどんどん減っていった・・・。が、そんな生き残りの中に、ある科学者がいた。彼は滅びを食い止めたい一心で、あんたらの弱点を必死に研究した。そして、ついに見つけたんだ。アルカリ性の液体に触れると細胞を固められて死んでしまうっていう、あっけないほど簡単な弱点にな!!」
その言葉に、その場にいるほぼ全員が驚いた。
「弱点を発見され、猛反撃を受けたあんたらは、たまらず宇宙へ逃げた。アケメネス星人は、全滅を免れたんだ。だが、その発見は少し遅く、文明はもう修復不可能なところまで破壊されていた。やってきたバストゥール星人に、アケメネス星人たちは生き残りで一からやり直すことを伝えたうえで、あんたらの弱点を彼らに教えたんだ。自分たちのような悲劇を、これ以上繰り返させたくない、ってね・・・」
そこまで言うと、コジマは紙をしまった。
「めぐり合わせを感じるね。アケメネス星人の無念がバストゥール星人を経て、俺たちに伝えられて今こうしてあんたたちに牙をむいているわけだ」
「・・・」
「バストゥール星人はあんたらのことを、「宇宙最悪の病原体」って書いてたよ。でも、それも無理ないと思うなぁ。だってほんとに、宇宙人っていうより最悪な病原体って感じだもん。やり口も最低、利用するだけ利用しつくしてあとはおさらばっていう根性も最低。おまけに今この中に入ってるのって、石鹸水だよ石鹸水。石鹸水が弱点なんて、まさにばい菌そのものじゃない」
コジマは白くにごった液体の入った水鉄砲のタンクを叩きながら言った。
「グゥッ・・・!!」
ヤドリがくやしげにあとずさる。そのとき、オグマが言った。
「・・・なぁ、今からでも遅くないから、生き方変えてみないか?」
その言葉に、ヤドリを含めて全員が驚いた。
「な・・・!? キャップ、何を言って・・・」
「寄生なんて生き方は、誉められたもんじゃないよ? 自分だけ相手から甘い汁を吸い続けようって考えで生きてると、いつか相手から手ひどいしっぺ返しを受ける。持ちつ持たれつってのが、うまく生きていく方法なんだからさ。そういうふうに生き方変えて仲良く暮らしたいって言うなら、そっちの数しだいだけど、「共生」って道もアリだと思うんだけど」
だが、オグマはさらに驚くような提案をした。しかし・・・
「・・・そんな提案は、受け入れられない」
その言葉に、コジマとヒカルは水鉄砲を構えなおした。
「・・・悪いけどあんたはそっちの代表ってことなんだから、もっと時間をかけて判断してから答えたほうがいいんじゃない? なんなら、上の人と話し合ってきてもいいよ? 自分の一存じゃ決められないっていうなら」
「そんなものは必要ない。お前たちはあくまで、我々の寄生の対象だ。我々はあくまで、地球への侵略を続ける」
オグマはその言葉を聞いても表情を変えなかったが、すぐに言った。
「・・・そう。それは残念だ。コジマ、ハットリ、やっていいぞ」
その言葉に、思わずヒカルは言った。
「キャップ! いったいどれが、キャップが本気で言ったことなんですか!?」
「全部だよ。俺は本気で共存を提案して、こいつが断った。もっと冷静に考えたらどうだって言っても、こいつは考えを曲げなかった。あと二、三回同じことを聞いたって、このぶんじゃきっと堂々巡りだろう。俺はチャンスを二回与えて、こいつは二回とも断った。そうなったら、しかたがない。今度は俺はこいつを改めて地球人の敵とみなして、本気で必要な措置を講じることを選択しなければならない。だから、お前たちに撃てと命令した。俺、なにかおかしなこと言ったか?」
反論するものはなかった。きわめてシニカルな考え方である。
「ヒカルちゃん、キャップの言うとおりだ」
コジマが言った。
「コジマさん・・・」
「あえてあくまでも侵略という道をとったからには、こいつらも覚悟はできてるってことだ。ほっとけば、犠牲者が増えるばかりだ。アケメネス星人の二の舞にはなりたくないからね」
「・・・わかりました・・・」
二人はそんな会話を交わすと、一斉に水鉄砲の銃口を向けて引き金を引いた。
ブシュシュッ!!
水鉄砲から石鹸水が発射され、最後のヤドリに乗り移られた隊員の顔に命中した! 隊員はフッと意識を失ったようにバタリと倒れた。
「やった!!」
思わずコジマが叫ぶ。だが・・・
モゾモゾ・・・
「!?」
その隊員の制服の背中の下で、何かがモゾモゾと動き回っている。二人は油断なくそれに対して水鉄砲を構えたが、その時
バッ!
「うわっ!?」
その襟元から、何かが勢いよく空中へ飛び出した。それは、おもちゃのような小さな黒い円盤だった。
「なんだこいつ!?」
「たぶん、こいつらの仮住まいじゃないかな?」
オグマが慌てることなく空中に浮かぶそれを見ながら言った。
「ヒカルちゃん!!」
「はいっ!!」
ブシュブシュブシュッ!!
空中に浮かぶ円盤に、二人は水鉄砲を発射した。しかし、小さな円盤はヒョイヒョイと動き回ってそれをかわしてしまった。
「ちくしょう、ちょこまかと!!」
「狙いづらいです」
二人が悔しそうな表情をしていると、円盤は水鉄砲の射程距離外である格納庫の天井近くまで昇ってしまった。
「ああー・・・」
「あれじゃ届きません・・・」
自分を見上げている隊員達に、黒い円盤は言った。
「我々の弱点を知られるとは予想外だ。我々は地球人を甘く見ていたようだ。が、もう遅い。各基地での我々の計画はほぼ完全に成功した! そしてそれは、我々ヤドリによる地球支配の始まりにすぎないのだ!!」
黒い円盤はそう言うと、格納庫の壁についていたダクトの一つを通って、外へと逃げていってしまった。
「逃げちゃいました・・・」
ヒカルがつぶやく。その言葉をきっかけのようにして、格納庫の中に隊員達の安堵とも疲れが一気に出たともとれるようなため息が一斉に響いた。
「ま、逃がしちゃったものはしょうがないよ。弱点の確認には成功したんだ。それだけでも大戦果だ」
オグマがコジマとヒカルの肩を叩いた。
「・・・はい」
小さく笑顔でうなずく二人。彼らの元へ、ニキとサトミが近づいてきた。
「ご苦労さん。お前らが先回りして時間を稼いでくれたおかげで、秘密兵器を用意することができたよ」
オグマの言葉に、ニキは苦笑した。
「そういうつもりではなかったのですが・・・結果的には、そうなりましたか」
「一時はこんな奴らどうやってやっつければいいんだって思ったよ。でもまさか、石鹸水なんかが弱点なんてね」
サトミが笑顔を浮かべながら言う。
「石鹸水に限らず、アルカリ性の液体ならなんでもよかったんだけどな。でも、アルカリ性の液体のうちで一番簡単に作ることができて、かつ人体には無害なものってことになると、やっぱり石鹸水がベストかなって。ヒカルちゃんに手伝ってもらって、薬用ハンドソープをお湯に溶かしたやつをこの水鉄砲に入れて大急ぎでやってきたんだ」
自慢げに水鉄砲を見せるコジマ。その横で、ヒカルが微笑む。
「でも・・・取り逃がしちゃったね」
サトミがダクトを見ながら言う。その言葉に、コジマとヒカルがシュンとする。
「俺もヒカルちゃんも、あんまり銃の腕前はいいわけじゃないからな・・・。ましてや、水鉄砲だし・・・」
「すいません・・・」
「気にすることはないわ。あなた達はよくやったわよ。それより・・・あの最後の捨てぜりふが気になりますね」
ニキがオグマに振り向きながら言った。
「奴の言ったことは事実だ。奴らの弱点が確認できたとは言え、奴らの破壊工作で世界中の防衛軍重要拠点はほとんど機能していない。この基地だって、レーダーセクションとメイン動力室を破壊された。手ひどいダメージを受けたことには変わりないよ。ここまでやっておいて、おめおめ引き下がるほどあきらめのいい連中には見えなかったな」
オグマはそう言うと、近くにいた警備班の班長を招いた。
「通信班に急いで各基地に連絡させてくれ。奴らの弱点は石鹸水だとな。この基地以外の基地は、まだヤドリの攻撃にさらされてるんだ、急げ」
「ハッ!!」
彼は敬礼すると、すぐに内線電話で通信班と連絡をとり始めた。
「それと・・・可能性はだいぶ低くなったが、まだ連中の仲間が誰かに乗り移ってるとも限らない。急いでそれを確かめないと」
「確かめるって、どうやってですか?」
「決まってるだろ? 基地内の人間みんな、石鹸水で顔を洗わせるんだ。名づけて、ヤドリ撲滅基地内一斉洗顔キャンペーン!! 嫌がる奴はヤドリの疑いありとして無理矢理でも顔を洗わせるか、この対ヤドリ仕様銃で顔を撃つ!!」
「まるで踏み絵ね・・・」
コジマのアイディアにニキはうんざりしたようにかぶりをふったが、実際、それ以上に有効と思われるアイディアは思いつかなかった。
「でも、衛生管理の意味でもいいと思います。やってみた方がいいんじゃないですか? ひょっとしたら、石鹸の膜で顔を覆うことで、ヤドリに取り憑かれるのを防ぐ効果もあるかもしれませんし・・・」
ヒカルも賛同する。
「決まりだな。それじゃあ早速、そのキャンペーンを始めるとしよう。それが終わったら、基地の機能復旧に全力を注ごう。やることはいくらでもあるぞ。それと、誰かニイザとキリュウにも、このことを教えに行ってやってくれないか?」
「私が行きます!!」
真っ先に手を上げるヒカルに、メンバーはほほえましい笑顔を浮かべた。
「それじゃハットリ、行ってやってくれ」
「はい!!」
こうしてヤドリの弱点が判明したことにより、マリナーベースは壊滅の危機を免れた。その弱点は通信によって各基地にも伝えられ、隊員達に紛れ込んでいたヤドリ達は次々と殲滅されていった。通信が途絶していた基地へは直接各基地から特殊部隊が乗り込み、石鹸水を封入した特殊カプセルを装填したランチャーを武器に、同じように殲滅していった。こうして、地球防衛軍の各基地からヤドリは一掃され、防衛軍壊滅の危機は去った。
しかし、防衛軍が壊滅的な打撃を被ったことには違いはない。防衛軍が全力で防衛機能復旧に取り組む中、地球はギガゾーン、ヤドリという二つの侵略者の次の行動という不安に包まれたまま、夜は更けていった・・・。
午前4時・・・。栃木県・宇都宮市付近。そこには、昼間倒されたフェニキアの死骸が、サーチライトに照らされて横たわっていた。
「なぁ・・・俺達、いつまでこんなことしてればいいんだ?」
防衛軍の戦車隊員が戦車の砲塔から顔を出したまま、炊事車から戻ってきた隊員に言った。
「撤収命令が出るまで。はいよ、コーヒー」
「そうなんだろうな、サンキュー」
二人はコーヒーを飲み始めた。
「でも、早くしてほしいよ。いつまでも、こんな臭ぇ死体のお守りなんかしてられないからな」
「それは同感だな。死んでることは確認されたわけだし・・・」
と、コーヒーを持ってきた隊員が、急に言葉を止めた。
「おい、どうした?」
すぐに隊員は、気を取り直した。
「ああ、悪い。そういえば、腐臭がしなくなってきたんじゃないかって思ってな。お前、どう思う?」
「クンクン・・・ほんとだ。臭いがしなくなってきたな・・・」
空気の臭いをかぎながら、彼は首を傾げた。と、その時・・・
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
突如、地鳴りが始まった。
「うわっ!!」
「アチチ!!」
慌てた二人は、コーヒーを手にこぼしてしまいながらも懸命に戦車の車体にしがみつく。そんな中・・・
バリバリバリバリ・・・
怪獣の死骸から、何かを裂くような音がし始めた。二人が驚いてそちらを見ると、朽ちかけた緑色の皮膚の下からそれを引き裂くように、鮮やかな黄金色に輝くなにかが、中から膨張するように激しくうごめいているのが見えた。
「あ・・・ああ・・・!!」
呆然としてそれを見守るしかない二人。それでもその奇怪な現象は止まらず、ついには・・・
バリバリバリッ!!
肩の後ろあたりの背中の皮を突き破り、何かが飛び出した。そして・・・
バサァッ!!
それはうっすらと明るくなり始めた夜空に、折りたたんでいた膜を大きく広げた・・・。
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