「はい・・・はい。わかりました」
ヒカルは通信を切ると、オグマに言った。
「レーダーセクションの応急修理が完了したそうです。通常の55%程度の範囲しかカバーできないらしいですが・・・」
「仕方ないだろう。まったく目が見えないよりはずっといい。動力室の方はどうだ?」
「まだ時間がかかるみたいです。基地の完全な復旧には、もう少し時間がかかりそうですね・・・」
ミッション・ルームの中には、ようやく静かな時間が戻りつつあった。マリナーベース内部は混乱が収まり、警備班による警備強化は続けられているものの、平時の状態を取り戻しつつあった。今は整備班のみが不眠不休で破壊された箇所の修理を行っており、それもさきほど、レーダーセクションの応急修理が完了した。
「・・・」
ヒカルは、目の前に目を戻した。自分達の席に着いたまま、ニキ、アヤ、サトミ、コジマが仮眠をとっている。姿勢はそれぞれであったが、どのメンバーもやはり疲れているのか、少ない睡眠時間を最大限に利用するように、深い眠りに落ちているようだった。
「皆さん、やっぱり疲れてるんですね・・・」
ヒカルが目を細めながら言った。
「つい30分ぐらい前まで、全員鬼のように働いていたからな・・・。お前も、仮眠をとったらどうだ?」
だが、ヒカルは首を振った。
「緊急連絡はいつ入るかわかりませんから。それに、私は皆さんほど疲れてはいません」
「疲れってのは、案外自分ではどれだけたまってるかわかりにくいもんだ。気がついたらまずいところまでたまってたってこともある。いいから、寝ておけ」
「キャップ・・・はい」
ヒカルはそう言うと、自分も目を閉じて、椅子の背もたれにもたれかかった。
「・・・」
オグマはそれを見届けると、自分は天井を見上げながら、何かを考え始めた。
それから十分ほど、静かな時間が流れたその時だった。
ビーッ!! ビーッ!!
突如、警報が室内に流れ始めた。
「!?」
すぐに跳ね起きるメンバー達。だが、すぐに気を取り直すと、自分達の仕事に取りかかる。オグマはそれを見ながら、部下に十分な休息も与えてやることのできない運命を呪った。そしてため息をつくと、ヒカルに尋ねた。
「何が起こった、ハットリ? ヤドリが総攻撃を仕掛けてきたか?」
「いえ、違います。でも、こんなことって・・・」
ヒカルは入ってきた報告を、なかなか信じることができない様子だった。
「何が起こった? いいから言ってみろ」
「そ、それが・・・」
ヒカルは戸惑いながら言った。
「死んだはずの怪獣が・・・生き返って、暴れているそうです・・・!!」
ウルトラマンサムス
第5話
日はまた昇る
その怪獣は、前日の昼に出現した怪獣と、よく似た姿をしていた。だが、それでいてその姿を、大きく変貌させていた。
太い両足を支点に巨大な頭と長い尻尾のバランスを水平に保つという肉食恐竜のような姿勢、がっしりとした頭、太いクチバシに並んだ鋭い牙。前回出現して倒された怪獣、フェニキアに見られた特徴を、その怪獣は数多く備えていた。だが、その体はフェニキアよりも一回り大きくなった上に、フェニキアでは緑色だった体色が、その怪獣の皮膚は輝く黄金色だった。頭頂部には、二本の鋭い角が生えている。そしてなにより目立つのが、その背中に生えた巨大な翼だ。肩の少し後ろあたりの背中に生えた二枚の翼は、まるで翼竜のそれのような皮の膜を張ったもので、怪獣はそれを大きく広げたまま、炎に包まれた街を我が物顔で闊歩していた。
ッッンゴウェェエオオオンン・・・
怪獣は喉の奥から響いてくるような鳴き声を発すると、その頭部を立ち並ぶビルに向け、クワッとその口を開いた。その喉の奥に、紅蓮のような光が灯る。次の瞬間、
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
その口から、すさまじい火柱が吹き出し、ビル街を直撃した。
ドガドガドガァァァァァァァァァァァァァァァァン!!
超高熱の炎はコンクリートや鉄筋を瞬時に溶解し、さらには火気物質に引火して大爆発を引き起こした。巨大なビルが次々に吹き飛び、さらに炎が広がる。
グワァオオオオオオオオウウウ・・・
金色の怪獣は上体を逸らして頭部を天に向け、さらにおそろしくなった叫び声を空に轟かせた。
「復活したどころかパワーアップしてるじゃない!! あんなすごい炎吐けるようになってるし、翼も生えてるから、きっと空だって飛べるだろうし・・・。死んだんじゃなかったの!?」
入ってきた映像を見たサトミが、思わずアヤに振り向いて尋ねた。
「死んだはずだ・・・。だけど・・・こうして復活した・・・。すまない・・・私の検死が・・・あまかったのかもしれない・・・」
アヤはうつむきそう言った。その間に、ニキが入り込む。
「アヤさんを責めても仕方がないわ。怪獣の生死の判断は、難しいんだから」
「すいません、つい・・・。でも、これってどういうことなんだろう?」
サトミが謝りながら言う。そこに、ヒカルが言った。
「現場からの報告では、あの緑色の怪獣の死骸の中から、金色の怪獣が脱皮するみたいに出てきたそうです」
「だ、脱皮!? 虫みたいに!?」
驚くサトミ。
「なるほど・・・。死んだように見せかけて・・・内部では成長を行っていたのかもしれない・・・」
だが、アヤは冷静にうなずいた。
「で、でも! 腐りかけてたじゃない、あの怪獣!!」
「表面はね・・・。おそらくそれは・・・腐敗のように見えた、アポトーシスの一種だったのかもしれない・・・。葉を枯らして余分なエネルギー消費を押さえ・・・春に花を咲かせるためのエネルギーを蓄える植物のように・・・あの怪獣は一旦仮死状態になって・・・あの形態に変態を遂げていたのだろう・・・」
「恐ろしい怪獣ですね・・・」
コジマがうなずく。その時
プシュー・・・
誰かがミッション・ルームへと入ってきた。全員がそちらを向くと・・・
「怪獣が復活したんですか!?」
そこには、制服姿のケイスケが立っていた。
「ケイスケ君!?」
「バカ野郎!! ケガしてんのにこんなところに出てくるな!!」
その姿を見たヒカルとコジマが、慌てて彼に駆け寄る。だが、ケイスケは小さく笑顔を浮かべて、一枚の紙を取り出してコジマに渡した。
「そのことなら、このとおりです。ちゃんと検査を受けて、太鼓判をもらってきました」
そこには、「退院許可証」という文字と、当直のスグロ医師のサインが書かれていた。
「ニイザ・ケイスケ、完全復活です。これからは仲間はずれじゃありませんよ!」
そう言って、ヒビが入っていたはずの左手でドンと胸を叩くケイスケ。その様子は、虚勢でもなんでもなく、本当に完全に回復したとしか思えないものだった。
「う、う〜ん・・・信じられないけど、どうやらほんとにだいじょぶみたいだな・・・。このサインだって、本当に先輩の筆跡だし・・・」
コジマは首をひねりながらも、ケイスケの胸をコツコツと打診したりしてから、とりあえずうなずいた。
「ケイスケ君・・・よかった」
ヒカルが笑顔を浮かべて近づく。
「心配かけてすまなかったな。お前の作ってくれたご飯のおかげかもしれない」
ケイスケの優しい言葉に、ヒカルは顔を輝かせた。が、ケイスケはすぐに真剣な表情に戻ると、オグマに近づいて尋ねた。
「あれが・・・復活した怪獣ですか」
モニターの中では、まだ怪獣が暴れ回っている。オグマはその光景を見ながら、黙ってうなずいた。防衛軍の部隊が攻撃を行っているが、いっこうに効果が見られない。その時・・・
「あっ、あれ! 見て!!」
サトミがモニターを指さした。怪獣の背後に、ゆっくりと何かが飛来してきたのだ。
「あれは・・・ギガゾーンの円盤?」
ケイスケが言ったとおり、そのカブトガニによく似た形状の不気味に赤く発光する円盤は、彼が接触したギガゾーンのものだった。と、その時・・・
ザザッ、ザーッ・・・
突然画面にノイズが走り、あっというまに画面は砂嵐状態となって、何も映さなくなってしまった。
「なんだ、故障か? この肝心なときに!」
「あたしが角度60°で叩いてみようか?」
騒ぐコジマとサトミ。だが、ニキは慌てずに近くの端末に近寄って調べた。
「これは故障じゃないわ。どこからかこの基地に、強力な怪電波が流されている。いま周波数を合わせるわ。方向から推測すれば、おそらく発信元は・・・」
そう言いながら、調整を行っていくニキ。やがて、砂嵐が徐々に収まっていき・・・メインモニターに一つの映像が映った。その映像を見たケイスケは、驚きの声をあげた。
「ギガゾーン!!」
そこに映ったのは、金属でできた仮面を着けているようにも見える顔の怪人・・・ギガゾーン博士だった。
「こいつが・・・ギガゾーン・・・!」
「変なお面・・・」
他のメンバーも、それぞれそれを前にした感情を顔や言葉に出す。ケイスケ以外のメンバーは、ギガゾーンの姿をこうして見るのは初めてなのだ。
「ようやく通じたか。一人を除けば、初めましてというところか。すでにわかっているとは思うが、私がギガゾーンだ」
ギガゾーンはそう言った。
「さて・・・お前達も見ていたと思うが、どうかな? 私の生み出した最強の怪獣、ジェノフェニキアの力は?」
「最強の怪獣・・・だと?」
「そうだ。あの怪獣の前身、進化竜フェニキアは、お前達SAMSと防衛軍、そしてウルトラマンサムスの攻撃によって倒された」
「ああそうだ。今暴れてる怪獣だって、そのうち同じように倒してやる!」
「フッフッフッ・・・それはどうかな? あの怪獣は、お前達の攻撃に対する耐性をもって生まれ変わったのだぞ」
「それは・・・どういうことかしら?」
ニキが尋ねる。
「フェニキアは倒れるまで、お前達の攻撃を一身に受けた。そして、お前達の攻撃の力を完全に把握したのだ。そして、さらなる高い能力と同時に、それらの攻撃に対する耐性をもった体に生まれ変わった! お前達の攻撃は、今のフェニキアには通用しない! フェニキアは破壊の魔王、最恐竜ジェノフェニキアとして蘇ったのだ!!」
その言葉は、SAMSメンバーにとって驚くべきものだった。だが、ケイスケはあくまで強気な態度でギガゾーンに言った。
「ずいぶん自信があるらしいな。だが、本当にそうなのか?」
「嘘だと思うなら試してみるがいい。いつもと比べて防衛軍の抵抗が弱く、物足りないぐらいだ。お前達も、なぜ攻撃してこない?」
「! 隊長・・・」
たしかになぜ出動しないのか、ケイスケはオグマに尋ねようとした。が、それより先にオグマがギガゾーンに言った。
「こっちもいろいろ立て込んでてね。言われなくたって、準備が整えばすぐにでも全力で叩きつぶしにいくさ。そんなことより・・・自分で最強の怪獣だって言うからには、そいつで最後の勝負をかけようって魂胆なんだろうね?」
「ほぅ・・・!」
ギガゾーンは意外そうな声をあげた。
「いかにも、そのとおりだ。のんびりとしていられない事情ができた。お前達にもわかっているだろうが、私の他にもこの地球侵略を企んでいる連中が現れた。連中に先を越されるわけにはいかん」
「あんたの場合、一人でやることに意義があるんだろうからね。まあ、それはわかるけど・・・」
「キャ、キャップ! なに言ってるんですか!?」
慌てたように後ろのメンバー達が騒ぐ。
「まぁ結果から言っちゃえば、俺達にとってもその方が好都合だ。あんたみたいなマッドサイエンティストが自己満足のために繰り出してくる怪獣におびえるような時間は今すぐにでも終わりにして、ここらでそろそろ、枕を高くして眠りたいからね。いいよ、望むところだ。前にも言ったけど、覚悟しておくんだね」
「なかなか言いたいことを言う奴だな・・・」
「どうも。嫌なものは胸にしまっておかない主義でね」
「まぁいい。地球人、それにウルトラマンサムスに対して、私は最後の決戦を挑む! ジェノフェニキアはこのあと東京へと向かい、東京の街とお前達の今いるマリナーベースを破壊する! さらにそれからジェノフェニキアは、世界各地の大都市を次々に壊滅させるのだ!! ジェノフェニキアにはそれだけの力があることを忘れるな!! 今度こそお前達地球人を、私の前にひれ伏させてやる!!」
ギガゾーンが叫んだ次の瞬間、画面は再び砂嵐に戻った。
「・・・今までも思ってたんだけど、なぁんかあいつ、間が抜けてると思わない?」
サトミが言った。
「たしかに怪獣は怖いけど、一匹ずつ送り出してきたって、世界征服が達成できるとは思えないだけど・・・」
「そうですよね・・・。たった一人でこの大きな地球を侵略するって、やっぱり無理だと思いますけど」
ヒカルもうなずく。そんな二人に、コジマが言った。
「それを言うなって、二人とも。たしかにその通りだけど、本人はあれでも真面目にやってるつもりなんだろうから・・・」
「真面目だろうとふざけていようと、そんなことは関係ないわ!!」
そんな場違いな会話を終わらせたのは、ニキの一喝だった。
「あの怪獣は、もうすぐ東京へやってくる。私達は、全力でそれを阻止しなければならないのよ! キャップ、すぐに出動です!!」
「そうです! なんで命令を出さないんですか!?」
ケイスケもうなずいてオグマに詰め寄る。
「出したいのは当たり前だが・・・ピース・シリーズはこれまでの戦いでいろいろな部品にガタがきていたため、整備班の提案で昨日の怪獣との戦いの後、徹底したオーバーホールが行われていた。そこへ、ヤドリ達の破壊工作だ・・・。整備班はそのたびにレーダーセクションやメイン動力室の修理に回らざるを得ず、それは遅れてしまった。もうすぐそれは終わるそうだが・・・それまでは、ピース・シリーズを出すことはできない」
オグマの言葉に、隊員達はハッとした。
「パワーアップする前ですら、あそこでまで俺達やウルトラマンサムスを苦戦させた怪獣だ。それがパワーアップしたとなれば、ピース・シリーズは必要不可欠だろう。今は辛いだろうが・・・整備班の力を信じて、それまでは待とう」
オグマの言葉に、隊員達は無言でうなずいた。ケイスケは、オグマに言った。
「キャップ・・・このまま黙って待ってはいられません。俺も、元々は整備班です。少しでも早く整備が終わるように、ちょっと手伝ってきます・・・」
そう言って、ケイスケは返事も聞かずに出ていってしまった。
「ニイザ君!!」
それを呼び止めようとするサトミ。だが、オグマは彼女の手をつかんでそれを止め、黙って首を振った。他のメンバーも、黙ってうつむく。
「・・・私も、行ってきます!」
すると、ヒカルも圭介を追うように、返事も聞かずに出ていってしまった。
「似たもの同士で、ちょっと困らせられますね、あの二人には・・・」
苦笑いをするニキ。
「二人とも、無責任な奴じゃない。自分のできる精一杯のことをやりたい。その気持ちが、ちょっと先走り気味なだけさ」
オグマは静かにそう言った。
「あれ・・・? ケイスケ君・・・」
ケイスケのあとを追っていたヒカルは、途中でその姿を見失ってしまった。そのまま廊下のT字路にさしかかったヒカルは、キョロキョロと左右に首を振った。そのとき
「あ・・・」
ヒカルは左の通路の突き当りを、右に曲がっていくケイスケの姿を見た。格納庫に行くには、このT字路を右に曲がった先にあるエレベーターに乗らなければならないのに・・・。
「・・・」
ヒカルは首を傾げたが、すぐにそのあとを追って駆け出した・・・。
一方そのころ。某所に着陸していた、ヤドリ先遣隊の宇宙船では・・・。
「なるほど・・・。どうも妙だと思えば、そんな怪獣だったのか・・・」
傍受したギガゾーンとSAMSとの交信記録を見ながら、戻ってきていたフルーク少佐はつぶやいた。
「発進だ。この船をあの怪獣の進路へ向けろ」
「了解」
少佐の命令を受け、宇宙船はフワリと浮き上がった。
「やはりあなたを利用させてもらいますよ、ギガゾーン博士。弱点を探られたことによる失敗を挽回するために・・・」
ドアを開けて外へ出ると、少し冷たい風がケイスケの顔に吹きかかってきた。
「・・・」
そこは、マリナーベースの屋外へリポートだった。ケイスケはその中央へと進み出ると、胸ポケットからエスペランサーを取り出し、見つめて言った。
「聞こえるか、サムス?」
「ああ、ケイスケ」
「・・・怪獣はこの東京へ来るつもりだ。ピース・シリーズの整備はたしかに必要だが、このまま待っていては、怪獣の東京への飛来は免れないだろう。そうなればこの戦いがどう転ぼうと、大きな被害が出ることは間違いない。怪獣を、東京へ入れちゃいけない。それを途中で阻止して、どこか被害の抑えられる場所で戦いに持ち込まなきゃいけないんだ。そのために今動けるのは・・・俺たちしかいない。協力してくれないか、サムス・・・?」
「・・・ああ、もちろんだ、ケイスケ! それに・・・あの怪獣には、ギガゾーンも一緒についている。奴を倒す決定的なチャンスは、今しかないだろう。ケイスケ・・・私こそ、君に力を貸してほしい。おそらくこれで、最後とすることができるだろう・・・」
「へっ・・・水臭いぞ、サムス。俺もお前も、気持ちは一つだ。がんばろうぜ!!」
「ああ!!」
ケイスケはサムスと会話を交わすと、変身のためにエスペランサーを天に掲げ、そのスイッチをいれようとした。
そのとき
「ケイスケ君」
「!?」
ケイスケが振り返ると・・・そこには、ヒカルが立っていた。
「!! ヒ、ヒカル・・・」
ケイスケは慌ててエスペランサーを下ろし、後ろ手に隠した。しかし、ヒカルはクスッと笑って言った。
「隠さなくてもいいですよ」
そう言って、ヒカルはゆっくりと近づいてきた。
「・・・やっぱり、そうだったんですね?」
「・・・アヤさんから聞いたのか?」
ヒカルは少し驚いたような表情をしたが、すぐに首を振ってもとの笑顔に戻った。
「そうですか・・・。アヤさんなら、そういうことにはすぐに気がつきそうですもんね。私には、アヤさんみたいな力はありません。どっちかというと、鈍い方だし・・・」
「・・・」
「始めはそんなこと、思ってもみませんでした。でも、サムスさんが私達のピンチの時に現れて戦ってくれている姿を見ているうちに、だんだん思うようになっていったんです。・・・ケイスケ君に、よく似てるって。強くて、かっこよくて、たのもしくって、優しくて・・・」
「かいかぶりすぎだって・・・俺はそんなに、立派な人間じゃない」
ケイスケは苦笑した。しかし、そこでヒカルはうつむいた。
「でも・・・他にも似てると思うところがありました。誰かを守るためなら、自分が犠牲になっても、どれだけ傷ついてもかまわない・・・。私には怪獣と戦うサムスさんの姿が、一緒に戦っているはずなのに、なんだか、とても孤独なものに見えました・・・」
「ヒカル・・・」
ポスッ・・・
ヒカルはケイスケに抱きつき、その顔をケイスケの胸にうずめた。
「・・・ケイスケ君は、いつもそうです・・・。誰かを守るために、あぶないことに自分から飛び込んだり、誰かを心配させないために、大事なことを隠したり・・・」
「・・・」
「ケイスケ君は、どうしていつもそうなんですか!? いつも言っているじゃないですか!! 素直に話してくれないことの方が、私にはずっと嫌だって!! あとになって、その時に何もできなかったことを後悔するのは嫌なんです!! それなのに・・・それなのに!!」
顔を上げてケイスケに叫ぶヒカルの目には、いつしか涙が浮かんでいた。ケイスケはそれを黙って見ていたが・・・
ギュッ・・・
「!!」
ヒカルの肩に置いていた両手を背中に回し、自分の体に強く抱きしめた。
「・・・そんなふうにお前に怒られることは、あのときに覚悟したよ。そのうえで、今まで隠してきた。ごめん」
「だったら、どうして・・・ひどいです」
「・・・ごめん。いろいろお前には心配をかけたり、無理を隠した嘘をついてりして、そのたびに迷惑をかけてきた。だけど・・・今度だけは、信じてくれないか? 俺はこのことを、最後の隠し事にしようと思ったんだ・・・」
ケイスケはヒカルに言い聞かせるように優しく言った。
「人間はそう簡単にパッと変われるものじゃない。けど、何かをきっかけにだんだんと変わっていくことはできるはずだ。俺はこれを最後の隠し事にして、変わっていこうと思う。これからは、もっとお前に優しくなれるように・・・」
「ケイスケ君・・・」
「それに・・・お前は俺が孤独に見えたって言うけど、そんなことはないぞ」
ケイスケは言った。
「ウルトラマンだって、神様じゃない。強い怪獣が相手なら、ピンチにもなる。そんなときいつも助けてくれたのは、お前やみんなだった。俺もサムスも、孤独なんかじゃなかったぞ。俺達を応援してくれるお前達の心を、いつも感じながら戦っていた。だからどんな敵にだって、これまでも負けることはなかったんだ」
「・・・」
「俺が彼にウルトラマンサムスという名前をあげたのは、彼も俺達の仲間だという以外に、もう一つ理由があったんだ。俺が彼と一つになって戦うときでも、俺はSAMSの一員でありたいって。俺はウルトラマンになっても、SAMSの一員として・・・地球人として戦いたい。そう思って、俺は彼に、サムスという名前をあげた」
「ケイスケ君・・・」
「その気持ちは、彼と一緒になって戦った最初の戦いから変わっていない。そして、今も・・・」
そう言うと、ケイスケはヒカルから離れた。
「・・・ジェノフェニキアが東京へ向かっている。あれが東京に現れれば、火の海になってしまうだろう。俺は、自分ができるだけのことはやっておきたい。だから・・・それをくい止める!」
エスペランサーを再び取り出すケイスケ。決意に満ちたその表情を見て、ヒカルは何も言うことはできなかった。その時、エスペランサーがピカリと光る。ケイスケはそれを見て、ヒカルに言った。
「「君の大切な恋人を危険な戦いにさらすことになってしまい、申し訳なく思っている。あの怪獣とギガゾーンを倒せば、ケイスケは普通の人間としての体に戻ることができる。最後にもう一度、ケイスケに協力してもらうことを許してほしい」。彼はそう言っている」
「いえ・・・お礼を言いたいぐらいです。ケイスケ君を助けてくれて、ありがとう・・・」
ヒカルはうなずいた。ケイスケはそれにうなずき返すと、彼女に言った。
「いろいろわがまま言ってすまない。俺を・・・行かせてくれないか?」
ヒカルは沈痛な表情をしていたが、それを無理に隠すように、笑みを浮かべた。
「例えわがままでも、地球を守るわがままです。許しますよ」
「ありがとう・・・」
「でも・・・忘れないで下さい。必ず・・・帰ってきて下さいね? 許しますけど、今度のわがままはちょっと・・・。ですから、あの・・・」
モジモジし始めるヒカル。ケイスケは苦笑して、その肩を叩いた。
「わかったわかった。デートだろうがショッピングだろうが、なんにだって好きなだけつきあってやるから」
その言葉にヒカルは顔を輝かせた。と、その時、ケイスケは人の気配を感じてヒカルの後ろを見た。
「・・・」
そこには、アヤが無言で立っていた。ヒカルも振り向き、その存在に気がつく。
「アヤさん・・・」
「いくんだね・・・?」
「ええ・・・」
ケイスケの言葉にアヤはうなずき、ヒカルとケイスケに言った。
「怪獣が、宇都宮を飛び立ったらしい・・・。整備はもうすぐ終わるらしいから・・・格納庫に行かなければ・・・」
「わかりました・・・」
そう言って、ケイスケから離れてアヤに近づくヒカル。
「あとで自分からも言うつもりですけど、悪いけど隊長やみんなには事情を話しておいてもらえませんか? 俺が来るのを待って、出撃が遅れたりしたらいけませんから・・・」
「わかった・・・」
「私達も、すぐに行きますから・・・」
ヒカルとアヤの言葉にうなずくと、ケイスケは二人からさらに離れた。
「それじゃあ・・・いってきます」
「いってらっしゃい・・・」
言葉を交わすケイスケとヒカル。次の瞬間、ケイスケはエスペランサーを天に掲げ、叫んだ。
「サムス!!」
カッッッッッッッッッッッッッ!!
あたりを包んだ青い閃光に、思わずヒカルとアヤは目をかばった。だが、それが収まると・・・
「・・・」
ヘリポートの向こう、マリナーベースのすぐ前に、ウルトラマンサムスが驚くほど静かに立ち、優しい目でこちらを見ていた。それを見上げ、ヒカルとアヤも微笑みを浮かべる。
「頑張って・・・下さいね?」
ヒカルが小さく言った言葉に、ウルトラマンは大きくうなずいた。そして・・・
「シュワッ!!」
ヒィィィィィィィィィィィィィィィン!!
ウルトラマンは高く飛び上がり、北へと進路を変えると、あっという間に小さくなっていった。二人は黙ってそれを見つめていたが・・・
「さあ・・・いこう・・・」
「はい! 早く、力になってあげないと!」
二人はうなずきあうと、走って建物の中へ戻っていった。
一方その頃。栃木県を飛び立ったジェノフェニキアは、巨大な翼を羽ばたかせながら一路東京を目指して猛スピードで飛行していた。その後ろには、ギガゾーンの円盤が付き従う。
「ゆけ! 我が最強の怪獣ジェノフェニキアよ!! 東京は目前だ!! お前のその炎で、全てを燃やし尽くしてやるのだ!!」
グワォオオオオオオオオオオオオオ!!
吼えるジェノフェニキア。雲の下、遙か向こうに都市に覆い尽くされた平原・・・東京が見える。ジェノフェニキアがさらにスピードを上げようとした、その時・・・
ババシュッ!!
ドガガァァァァァァァァン!!
突然正面から飛んできた青いビームが、ジェノフェニキアの頭と肩に命中した。吼えるジェノフェニキア。
「なにっ!?」
驚くギガゾーン。その時
「ジュワッ!!」
雲の向こうから、ウルトラマンサムスが猛スピードでこちらへと飛んできた。
「おのれ!! やってしまえ!!」
ギガゾーンの命令を受け、ジェノフェニキアは頭をサムスに向け、口を開いた。
ゴオオオオオオオオオオオオオオッ!!
炎の柱がサムスに向かって猛スピードで伸びる。しかし・・・
ギィィィィィィィィィン!!
サムスは見事な空中旋回でそれをかわし、とんぼ返りをすると再びジェノフェニキアに両手からビームを放った。しかしジェノフェニキアも、その巨体からは信じられないような空中機動でそれをかわし、再び火炎を吐く。空中を舞台に、サムスとジェノフェニキアのすさまじい空中戦が繰り広げられる。
自分の真上に上がったサムスに対してジェノフェニキアは頭をもたげ、口を開いた。
ゴオオオオオオオオオオオオオオッ!!
だが、サムスはムダのない動きでサッと左にかわすと、そのままのスピードでジェノフェニキアに突っ込んだ。
ドズゥゥゥゥゥン!!
巨体同士のぶつかる重い音がした。サムスはジェノフェニキアに組み付いたまま、その翼を必死に両手でつかまえていた。羽ばたくことができず、落下に転じるジェノフェニキア。サムスを離そうと暴れに暴れるが、サムスはしっかりとしがみついて離れようとしない。絡み合ったまま二体は、どんどん高度を落としていき、地面が迫ってくる。
「ええい離せ!! 離さんか!!」
円盤の中からそれを見ながら、ギガゾーンが叫ぶ。しかし、その声も虚しく、さらに二体は落ちていく。そして・・・
「ジュワッ!!」
ある高度で、サムスはようやく離れた。ジェノフェニキアは翼を広げようとするが、うまくいかない。そして・・・
ドドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!
巨大な質量をもった怪獣が、猛スピードで地面に叩きつけられた。すさまじい大音響が空気を揺らし、大量の土砂が舞い上がり、大地が激しくのたうつ。
ドズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!
その直後、ウルトラマンサムスもまた、深く腰を落として大地へと降り立った。彼を中心に、爆発するように砂煙が巻き起こる。そんな中でウルトラマンはゆっくりと立ち上がり、目の前の砂煙をにらみつけた。
グワォオオオオオオオオオオオオオ!!
晴れていく砂煙の中から、叫びとともに猛り狂ったように激しく身を動かすジェノフェニキアの姿が現れた。もはや何者をも許しはしないとでも言うような、おそろしい叫び。だが・・・
「ヘアッ!!」
それを前にしてもウルトラマンサムスはひるむことなく、力強くファイティングポーズをとった!
「す、すごぉい・・・」
いつにも増して力強く見えるサムスの映像を小型モニターで見ながら、サトミは小さく声をあげた。機内にはかすかに、「First Gate
Open! First Gate
Open!」という発進アナウンスが流れ始めていた。サトミはそれに我に返り、後ろの二つの空の座席を見た。
「あーもー!! こんなときにヒカルちゃんはどこ行っちゃったのよ!! アヤさんも探しに行ったっきり帰ってこないし・・・」
「ニイザもまだナイトに乗ってないらしい。格納庫に先に行ったのかと思ってたのに、どこに行ってんだ、あいつ・・・」
通信を通してコジマのぼやきも聞こえる。オグマとニキは黙したまま目を閉じ、出撃の時を待っていた。と、その時
「お待たせしました!!」
声とともにヒカルとアヤが、慌ただしくSAMSルークのコクピットへ入ってきた。
「おそーい!! 二人とも、どこへ行ってたの!? 二人がいないから、出撃前のチェック全部あたしがやって、大変だったんだからね!!」
「ごめんなさいごめんなさい!! すぐに説明しますから、発進して下さい!!」
そう言ってそれぞれの座席に着き、シートに体を固定する二人。
「ちょ、ちょっと待ってよヒカルちゃん!! ニイザは!? まだナイトに乗ってないんだけど、一緒じゃなかったのか!?」
コジマが慌てたように尋ねる。だが、それにはアヤが答えた。
「ニイザ君なら・・・先に行ったよ・・・」
「ええっ!? でも、ナイトに乗ってないってことは・・・まさか、ウィンディか何かに乗っていったの!?」
「いえ・・・違います。ケイスケ君はもう、戦ってるんです・・・」
そう言って、小型モニターに映る、ジェノフェニキアとにらみ合っているウルトラマンサムスを見つめるヒカル。その視線に気づき、サトミは顔色を変えた。
「ま、まさか・・・もしかして、ニイザ君が・・・」
「そうです・・・ウルトラマンサムスさんだったんですよ・・・」
ヒカルがそう言った瞬間、サトミ達は驚きの表情を浮かべた。
「ニイザ君が・・・!?」
「ほ、ほんとかよ!!」
「ニイザ君が・・・そんなことって・・・」
程度はそれぞれであったが、彼らは驚きの声を漏らした。しかし・・・
「・・・そうか」
オグマだけはいつものようなのんびりした調子でそう言っただけであった。
「キャップ・・・もしかして、キャップも・・・?」
そのあっけなさに、オグマもケイスケがウルトラマンだったことを知っていたのではないかと思い、ヒカルは尋ねた。
「・・・いや。だが、そんなに意外なニュースじゃないな」
だが、オグマは首を振った。
「ただ、あいつならあり得る・・・あいつなら、それでもいいかなって・・・それだけだ」
その言葉に、メンバーは一瞬虚を突かれた。が、すぐにニキがクスリと笑った。
「そうですね・・・。私も・・・不思議とニイザ君なら、それほど意外という感じがしませんね・・・」
それに続くように、コジマとサトミも言う。
「そうだな・・・。あいつなら、やりそうなことだし・・・」
「あたしも・・・ニイザ君がウルトラマンサムスなら、なんとなくいいかなぁって感じがする。よくわかんないけど・・・」
彼らの言葉を聞いて、アヤは言った。
「助けに行きましょう・・・。ニイザ君とウルトラマンサムスは・・・もう戦っています」
「そうです! 約束したんです、すぐに行くって。だから・・・」
ヒカルの言葉に、オグマはうなずいた。
「よし・・・それじゃあ、いくぞ。俺達の仲間が待ってる。ニキ、コジマ、用意はいいな?」
「出撃準備、完了しています!」
「いつでも発進できます!」
「よし、発進しろ」
「「ラジャー!!」」
コジマはスロットルに手をかけた。
「SAMSビショップ、テイクオフ!!」
バシュウウウウウウウウウウウウウウ!!
SAMSビショップが明るくなり始めた空へと発進する。
「続け、キシモト。SAMSルーク、発進!!」
「ラジャー!!」
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
垂直上昇していくSAMSルーク。それは推進用エンジンに切り替わると、ビショップの後を追って北へ進路を向け、飛行し始めた。
SAMSは最後の決戦に向け、マリナーベースを飛び立った・・・。
「今行きますからね、ケイスケ君、サムスさん・・・」
東京郊外の平原。ウルトラマンサムスとジェノフェニキアは、にらみ合いを続けていた。
グルルルルルルルル・・・
猛獣のようにのどを鳴らすジェノフェニキア。そして、狩りに臨む獣のように、その上半身をかがめ、足に力をためる。
(来る・・・!!)
突進してくるとにらんだサムスは、それに立ち向かうためにさらに油断なく構えをとった。と、その時
ヒィィィィィィィィィィィィン!!
飛行音がした。サムスとジェノフェニキアは、その方向に同時に目を向けた。
すると、それは二体の間に割り込んで入ってきたかと思うと、
シュバババババババババッ!!
ジェノフェニキアの頭に、青白い光線を放った。
グワォオオオオオオオオオオオオオ!!
光線を浴びて吼えるジェノフェニキア。
「な、なにぃっ!?」
ジェノフェニキアの後方に浮かぶ円盤の中でそれを見ていたギガゾーンは、驚きの声をあげた。サムスもそれを見て、驚いた様子を浮かべる。
光線を放ったのは、角ばった形をしたそれほどでもない大きさの宇宙船だった。
「貴様ら、何をしたぁ!?」
シュバババババッ!!
ギガゾーンの円盤から放たれた赤い光線が、すぐにその宇宙船を撃ち落した。空中で爆発する宇宙船。
「ジェノフェニキア!!」
ギガゾーンはジェノフェニキアに声をかけた。だが、光線を浴びてからジェノフェニキアはまったく動こうとしない。
「ジェノフェニキア、何をしている!! 動け、ジェノフェニキア!!」
そのとき
「無駄ですよ、博士」
「!?」
ギガゾーンの頭に、何者かの声が聞こえた。その直後
グワォオオオオオオオオオオオオオ!!
ジェノフェニキアが突如頭を振り上げ、ギガゾーンに振り返った。
「なにっ!? や、やめろ!!」
だが・・・
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
次の瞬間、ジェノフェニキアの吐いた高熱の火炎に、ギガゾーンは円盤ごと包まれていた。
「!?」
ジェノフェニキアが自分の主を攻撃したことに、サムスは驚いた。彼の見つめる中、ギガゾーンの円盤は途切れ途切れに赤く発行しながら煙を吐き、地面へと落下していった。そして・・・
ドガァァァァァァァァァァァァァァン!!
地面に落下し、爆発した。
(ギガゾーン・・・!!)
あまりにもあっけないギガゾーンの最期を、サムスは見つめた。だが、それもつかのま、ジェノフェニキアは再びサムスと向かい合った。
「今度こそ命をもらおうか、ウルトラマンサムス!!」
「!!」
目の前の怪獣から届いたテレパシーに、サムスは驚いた。だが、すぐにそれに返す。
「その声・・・ヤドリか!! 怪獣も操ることができるのか!?」
「そのとおり。我々は動く体とそれをコントロールする中枢さえあれば、怪獣であろうと機械であろうと、何にでも乗り移ることができるのだ!!」
そう。ジェノフェニキアは、ヤドリの集団によって乗り移られたのだ。
「天帝閣下率いる本隊が到着する前に、貴様を倒して侵略の下地をより完璧なものにする! それが我々先遣隊の使命だ!」
「そのためにこんなことをするのか・・・。たしかにギガゾーンとその怪獣は、憎むべき侵略者だ。だが・・・お前達のやっていることは、生命の自由を踏みにじるものだ!!」
サムスはそう言った。
「どんな命にも、他の命の自由を侵さない限り自分の生きたいように生きる自由がある。ギガゾーンのような侵略もそれを侵す許し難いものだが・・・お前達のやり方は、生命の意志や自由そのものを侵している! そんなお前達を、許すわけにはいかない!!」
「ウルトラマン、可能ならばお前に乗り移りたいところだったが・・・。宇宙の全ては、我々ヤドリのためにある! 貴様らのその力が、宇宙の平和を守るためにあるのならば、我々のこの力は、宇宙の全てに寄生し、利用するためにある!! もうすぐお前達も、その糧となるのだ!!」
グワォオオオオオオオオオオオオオ!!
ジェノフェニキアは大きく吼えた。
「そんなことは、絶対にさせない!! いくぞ、サムス!!」
「ああ!! 地球の未来、地球の平和は、必ず守ってみせる!!」
サムスは構えをとった。
ダッ!!
勢いよく地面を蹴り、ジェノフェニキアへと突進するサムス。その一歩ごとに、大地が大きく揺れる。
「ジュワッ!!」
ダンッ!!
瞬く間に果敢に距離をつめ、強力な手刀をジェノフェニキアに叩き込むサムス。さらに続けてパンチを連続して浴びせる。
クワッ!
少しよろめきながらも、ジェノフェニキアが火炎を吐こうとクチバシを開く。しかし、すかさずサムスはそれに両手を伸ばした。
ガシッ!!
そのクチバシをつかんで、強引に口を閉じさせるサムス。ジェノフェニキアは苦しげにもがくが、その隙をついて、サムスは怪獣の横へ回り込むと、その首に腕を回して思い切り締め上げ始めた。
ッッンゴウェェエオオオンン・・・
苦しげな鳴き声をあげる怪獣。しかし、いつまでもそれを許しはしなかった。
ドンッ!!
強引に体を動かし、サムスを突き飛ばすジェノフェニキア。
「デュワッ!!」
地面に放り出されるサムス。ジェノフェニキアはすかさず彼に向かって口を開き、炎を吐いた。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
「ダァッ!!」
だが、サムスは仰向けの姿勢から背筋を使って跳ね起き、鮮やかなバック転で後ろへと移動しその攻撃を逃れ、距離をとって構えをとりなおした。
ゴオオオッ!! ゴオオッ!!
そんなサムスに、連続して火炎放射を浴びせるジェノフェニキア。サムスは持ち前の軽快な足さばきで右に左にそれをかわすが、次から次へ襲いかかってくるその攻撃に、反撃のチャンスをつかめずにいた。と、その時・・・
ギィィィィィィィィィィィィィィィィン!!
爆音とともに、二つの影がサムスの頭上を通り過ぎた。
「助けに来ました、ケイスケ君、サムスさん!!」
「怪獣は私たちに任せて!!」
SAMSルークとSAMSビショップだった。二機を見上げてうなずくウルトラマンサムス。SAMSルークは、サムスの前で止まってホバリングに転じた。
「反重力ウォール、全開だ!」
「ラジャー!!」
バシュウウウウウウウウウウウウウ!!
反重力ウォールが機首から展開し、ルーク自身を、そして、サムスをジェノフェニキアの火炎からさえぎる。一方、ビショップはジェノフェニキアに猛スピードで接近していた。
「ターゲットロック・発射!!」
バシュ! バシュウウウウウウウウ!!
ニキがトリガーを引き、ハイパワーレーザービームが発射される。それは見事に怪獣に命中した。
グワォオオオオオオオオオオオオオ!!
ジェノフェニキアは首を回し、口をカッと開いた。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
吐き出される火炎。だが、コジマはすばらしい旋回でそれをかわした。そのとき
「ヘアッ!!」
ドガァッ!!
ビショップに気を取られていたジェノフェニキアに、サムスの飛び蹴りが炸裂した。
ズズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!
地響きをたてて倒れるジェノフェニキア。それをしりめに、サムスはルークの方を見た。
「あ・・・」
突然、ヒカルが声をあげる。
「どうしたの、ヒカルちゃん?」
「メッセージが入ってきてるんです。これは・・・サムスさんからです!!」
「読んでみろ」
「はい。「怪獣はヤドリに乗り移られているので、通常よりも効果的な攻撃を行っている。気をつけてほしい」だそうです」
「ゲッ! あいつらって、怪獣にも乗り移れるの!?」
「どうやら・・・そうらしいね」
「なぁんだ! そういうことなら、もっと早く言ってほしかったな」
と、なぜかコジマがうれしそうな声を出した。
「どうしたの、コジマさん?」
「実は、こんなこともあろうかと、対ヤドリ用の特殊ミサイルをビショップに搭載しておいたんですよ!」
コジマはそう言うと、オプション装備の起動用スイッチを入れた。
ガコン!
水色のペイントのされたミサイルが、翼面下で発射態勢に入る。
「基地にあったありったけの水酸化ナトリウムを水に溶かして、ミサイルに詰めたんです。石鹸水よりアルカリ度数は高いですから、たとえ何人で乗り移ってようが、こいつを食らえばイチコロですよ」
「ずいぶん準備のいいことね・・・。でも、ちょうどよかったわ」
「ただ、急ごしらえの兵器なんで、2発しかありません。大事に使ってください」
「・・・そんなことだと思ったわよ。でも、心配はしないで。そっちが操縦をしくじらない限り、1発は必ず当ててご覧にいれるから」
「相変わらず言ってくれますね、リーダー。でも、それこそ心配無用ですよ!」
ギィィィィィィィィィィィィィィィン!!
ビショップは旋回し、怪獣の右側面から接近を行った。距離がどんどん近づいていく中、ニキのターゲットサイトが射程範囲内を示す赤い色に染まる。
「発射!」
バシュウウウウウウウ!!
切り離された一発のミサイルは、理想的なコースで怪獣へと走っていった。誰もが命中を確信した。だが・・・
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオ!!
怪獣はミサイルへクッと顔を向けると、火炎を吐き出した。それはミサイルを飲み込み、瞬く間に蒸発させてしまった。
「なにぃっ!?」
「・・・ごめんなさい。一発無駄にしてしまったわ」
だが、メンバーはまだあきらめなかった。
「あきらめちゃダメです! 次は当てればいいんですから!」
「そうだよ! あたしたちも手伝うからさ!!」
その言葉に、ニキはうなずいた。
「そうね・・・ありがとう。それじゃあ、少しの間でもいいから、怪獣の動きを止められるかしら?」
「そのぐらいなら、なんとかできますけど・・・」
「どうするんです、リーダー?」
「距離をおいて撃っても、今みたいに火炎で落とされてしまう恐れがある。それならば・・・ミサイルではなく爆弾として、直接あいつの頭に落として爆破する。それが一番確実な方法だわ。私よりもコジマ君、あなたに負担をかける方法だけど・・・」
「大丈夫。なんとかしますって」
コジマは気楽そうに言った。
「わかったわ。・・・援護射撃をお願いします!」
「了解した。キシモト、奴の足元にミサイルを撃ちまくって足を止めろ」
「ラジャー!!」
バシュバシュバシュバシュウウウウウウウ!!
SAMSルークから多弾頭ミサイルが発射され、ジェノフェニキアの足元で次々と爆発を起こす。
グワォオオオオオオオオオオオオオ!!
叫び声をあげ、ジェノフェニキアがその動きを止める。そこへ接近するSAMSビショップ。ジェノフェニキアはそれに向かって火炎を吐こうと口を開いた。と、そのとき
ガシッ!!
何者かが、後ろから組み付いた。サムスである。サムスはジェノフェニキアの首に組み付くと、そこから腕を伸ばしてジェノフェニキアの口を強引に閉じた。
「動きを抑えてくれている! 怪獣の頭すれすれを飛んで!」
「ラジャー!!」
コジマはニキの指示通りの操縦を行った。怪獣の巨大な頭が、どんどん近づいてくる。そして・・・
「投下!」
ガチャッ!!
ミサイルは切り離された。そして・・・
ドパァァァァァァァァァァァァァン!!
空中で爆発し、その中身を派手に怪獣の頭に浴びせかけた。そのとたん・・・
グェアオオオオオオオアアアアアアオオオオオオオウ!!
怪獣は断末魔のような激しい絶叫をあげ、苦しむように暴れ始めた。とっさに離れるサムスだが、怪獣の様子は、あきらかに苦しがっている。
「やった!!」
「これで、ヤドリは・・・」
ニキの言葉を裏付けるように、怪獣はフラフラと動きがおぼつかなくなった。
「ギャアアアアアアアアアアアア!!」
サムスの耳には、死にゆくヤドリたちの声が聞こえていた。
「お・・・覚えていろ、地球人め・・・! いずれ・・・天帝閣下らによって・・・おま・・・エ・・・たち・・・ハ・・・」
「・・・」
やがて、その声は聞こえなくなった。だが、サムスはすぐに気持ちを切り替え、目の前の怪獣に目を向けた。ヤドリの支配から解放されたことからまだ立ち直れていないらしく、足どりはフラフラとおぼつかない。
「今がチャンスだ!」
オグマが叫ぶ。サムスはうなずくと、両手首を腰の前で交差させ、テラニウム光線の構えをとった。そして・・・
「シュワッ!!」
カァァァァァァァァァァァァァァァッ!!
交差した両腕から、銀色の光線がほとばしった。そして・・・
ドガァァァァァァァァァァァァァン!!
それは見事に、怪獣を直撃した。
「やったぁ!!」
歓声をあげるサトミ。だが、オグマは首を振った。
「いや。パワーアップ前ですら、2発くらってやっと倒れたんだ。1発で効くかどうか・・・」
煙が晴れていく。そして・・・そこにはオグマの危惧通り、ジェノフェニキアが二本の脚でしっかりと地面の上に立っていた。
グワォオオオオオオオオオオオオオ!!
ジェノフェニキアが吼え、首を左右にブンブンと振る。ダメージを負うどころか、朦朧としていた意識がテラニウム光線のショックで覚醒したとでもいう感じだ。だが、サムスも1発で倒せるとは最初から考えていなかった。油断することなく、2発めのテラニウム光線を発射する。
カァァァァァァァァァァァァァァァッ!!
ドガァァァァァァァァァァァァァン!!
2発目のテラニウム光線も、見事にジェノフェニキアの脇腹を直撃した。だが・・・
グワォオオオオオオオオオオオオオ!!
ジェノフェニキアはそれでも倒れず、逆にますますいきりたったように首を振り回しては、火炎を吐きまくった。
ゴオオオオッ!! ゴオオッ!! ゴオオオオオオオオッ!!
「クッ!!」
「ウヒャハァッ!?」
慌ててその炎から逃れるビショップ、ルーク、それにサムス。
「もしかしてあの怪獣、普通の怪獣に比べてはるかに凶暴なのでは・・・?」
「ああ・・・。ギガゾーンやヤドリの支配から解き放たれて、本来の野生を取り戻したのかもしれない・・・」
ニキとオグマが静かにつぶやく。
「そんな! それじゃあ私達は、自分達であの怪獣をさらに強くしてしまったんですか!?」
「結果的には・・・そうなるかもしれないね・・・」
ヒカルの言葉に、アヤがうなずく。
ピコンピコンピコン・・・
サムスのカラータイマーが点滅を始める。だが・・・
「シェアッ!!」
サムスはなおも、テラニウム光線の構えをとった。次で決める。そんな決意が感じられる。
「三度目の正直・・・か」
「あいつだけに任せてはいられない。俺達も支援するぞ」
「ラジャー!!」
サムスの左にビショップが、右にルークがつく。
「いくわよ、ニイザ君!!」
「用意はいいね、サムス!!」
力強くうなずくサムス。その両腕がスパークする。
「シュワッ!!」
「フォトングレネイド砲、発射!」
「スパイナーミサイル、いっけぇぇぇぇぇぇ!!」
カァァァァァァァァァァァァァァァッ!!
ズバババババババババババババババ!!
バシュバシュウウウウウウウウ!!
サムス、ビショップ、ルークの一斉発射が、ジェノフェニキアに襲いかかった。
ドッグァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!
ッッンゴウェェエオオオンン・・・
すさまじい炎が巻き起こり、怪獣の姿がその中に包まれる。そしてその中から、怪獣の絶叫が聞こえた。
「やったぁ!!」
サトミの声を皮切りに、ビショップとルークの機内が歓声に包まれる。
「ついにやったんだね!!」
「ああ! あれだけのエネルギーを食らえば、どんな怪獣だって・・・」
「頑張りましたね、ケイスケ君・・・」
そう言って、ヒカルが左にいるウルトラマンサムスに顔を向けた、そのときだった。
「・・・」
ズ・・・ン・・・
ウルトラマンサムスは少しふらつくと、片膝をついてしまった。その胸では、カラータイマーが激しく点滅し、苦しそうに肩で息をしている。
「え・・・!?」
「無理もない・・・。テラニウム光線の三連射は・・・相当な負担だろうからね・・・」
アヤが静かにつぶやく。
「でも、怪獣はもうやっつけたんだし、あとは・・・」
と、サトミが言いかけたその時だった。
ボゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!
「!?」
突如、まだ燃え盛っている炎の渦を突き破って、何者かが突進してきた。
グワォオオオオオオオオオオオオオ!!
それは、ジェノフェニキアであった。口をカッと開き、翼を羽ばたかせて地面すれすれを飛びながら、襲いかかってきたのだ。
「ウソッ!?」
「よけて、ケイスケ君!!」
だが、消耗しているサムスにそれをよける術はなかった。
ドガァァァァァァァァァァッ!!
「ジュワァッ!!」
ジェノフェニキアは体当たりを仕掛けると同時に、サムスの体を両腕でしっかりとつかみ、なおも飛行を続ける。猛スピードで怪獣に引きずられるサムス・・・。
「ケイスケ君!!」
ヒカルの悲鳴が響く。やがて、ジェノフェニキアはしばらくサムスを引きずった後で、ようやくつかんでいた手を離した。しかし、サムスは引きずられたダメージにより、動くことができない。そんなサムスに、さらに・・・
ズゥン!!
「グワッ!!」
ジェノフェニキアは空中に羽ばたくとそれを止め、ウルトラマンサムスを押しつぶしたのだ。それも、一度ではなく、二度、三度と・・・。抵抗する力もなく、カラータイマーの点滅がどんどん早まっていく・・・。
「てめぇっ!! ニイザから離れろ!!」
バシュバシュバシュバシュッ!!
ビショップが猛接近しながら、ハイパワーレーザービームを連射する。しかし、ジェノフェニキアはかまわずにサムスへの攻撃を続ける。
「フォトングレネイド砲、最大出力! 発射!」
ズババババババババババババババババババババ!!
それならばと、ニキはフォトングレネイド砲を最大出力で放った。金色の光の柱が、ジェノフェニキアの横腹に炸裂する。
グェアオオオオオオオウウ!!
ズズゥゥゥゥゥゥゥン!!
それに吹き飛ばされ、ようやく怪獣のプレス攻撃が止まる。
「ケイスケ君!! サムスさん!!」
ルークがサムスに近づき、ヒカルがサムスに呼びかける。
グ・・・グッ・・・
なんとか立ち上がろうとするサムス。しかし、地面についた手から力が抜け、再び地面に倒れてしまう。
「しっかりしてケイスケ君! 立ち上がって!!」
ヒカルの声だけが虚しく響く。その時
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
立ち上がったジェノフェニキアが、特別強力な火炎をサムスに向かって吐いた。反重力ウォールを展開して守ろうとするサトミ。だが・・・
ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!
「ジュワァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
大爆発が起こり、サムスの45mの巨体がまるで木の葉のように舞い上がった。
ズズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!
サムスは背中から、地面に叩きつけられた。何かをつかんで立ち上がろうとするかのように、その右腕がヨロヨロと天に上げられていく。だが・・・
ドサッ・・・
それは途中で力つき、地面に落ちた。それとほぼ同時に、カラータイマーが点滅をやめ・・・
「・・・」
ウルトラマンサムスの目から、ゆっくりと、光が消えていった・・・。
「そ、そんな・・・」
「うそでしょ・・・」
現実を受け容れがたく、メンバーが呆然とつぶやく。
「ケ、ケイスケ君・・・」
ヒカルもまた、青ざめた顔で呆然とつぶやいていたが・・・
「・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
彫像のように動かないサムスを前に、ヒカルは叫びをあげた。
「・・・!?」
その叫びは、宇宙にいる「彼」の耳にも届いた。
「間に合わなかった・・・? いや、まだだ・・・!」
グャァァァァァァオオオオオオオオオウ!!
勝利の雄叫びか、天に向かって激しく吼えるジェノフェニキア。だが、それをやめると再び倒れたままのサムスに顔を向け、火炎を吐いた。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
またたくまに炎に包まれるサムスの周囲。
「!? そんな・・・!!」
「なんて奴・・・!!」
ニキ達はその行動に驚きを通り越して、怒りを感じた。サムスがもはや戦えないこと(死んでしまったというのは、認めたくなかった)は、自分達の目にも明らかだ。怪獣とて、それは同じことだろう。だが・・・それでもなお、ジェノフェニキアは攻撃を続ける。獣でさえ、倒した相手が死ねば牙をたてることも爪で引き裂くこともやめ、食事など秩序ある行動に移る。それは、動物の行動とは全てが目的から来ているものであり、それが達成されれば、そこからは秩序だった行動をとるからである。怪獣ですら、都市を破壊するなど目的のはっきりしない行動をとるが、ほとんどはそこにはなにか目的があることを伺わせる行動をとる。
だが、この怪獣は違う。破壊を行うのは、生きるための糧を得るためでも、自分のみを守るためでもない。破壊そのものが、目的なのだ。おそらくこの怪獣は、地上の全てを焼き尽くしても足らないほどの破壊衝動に駆り立てられ、そのおもむくままに動いているのであろう。それはもはや、生物のとる行動ではない。例えるならば・・・悪魔。メンバーはその理不尽なまでの残虐性に、怒りを覚えた。
しかし、なおもジェノフェニキアは火炎を吐き続ける。サムスを灰にしなければ、一度彼に向けられたその破壊衝動は満たされることはないだろう。
「やめて! もうやめてぇ!!」
ヒカルが見ていられずに叫ぶ。しかし、サムスは動くことのないまま、炎に巻かれている。
「てめぇっ・・・それ以上させるかぁっ!!」
コジマが怒りに駆られ、スロットルを吹かそうと手をかける。と、その時
「待つんだ」
「!?」
突然聞こえてきた声に、コジマは驚いてその手を止めた。
「リーダー・・・なにか、言いました?」
「い、いえ・・・。もしかして・・・コジマ君にも?」
ニキも戸惑った様子で、逆に尋ねる。
「ちょ、ちょっと・・・今誰かがしゃべったの、みんなにも聞こえたの?」
驚いたサトミの声が通信機から入る。どうやら先ほどの声は、全員の耳に入っていたらしい。だが、そんな彼らの動揺をよそに、声は続けた。
「怒りにかられて挑んでは、君たちまで命を落としてしまう」
「あ、あなたは、誰なんですか?」
ヒカルが戸惑った様子で、思わず尋ねる。
「君たちと共に戦ったウルトラマンサムス・・・彼の仲間だ」
その答えに、メンバーは驚いた。
「そ、それって・・・」
「M78星雲の宇宙人・・・ウルトラマン・・・ということだね」
アヤがつぶやく。だが、その声は続けた。
「君たちの仲間を思う気持ちは、たしかに届いた。諦めてはいけない。彼はまだ、死んではいない」
「ほ、ほんとですか!?」
信じられないという思いと喜びの入り交じった感情で、ヒカルが言った。
「ウルトラマンサムスと、ニイザ隊員・・・二人を救いたい。だが、そのためには君たちに協力してもらいたい。私達が力を合わせなければ、難しいことなのだ・・・」
その言葉に、隊員達は顔を見合わせた。が、すぐに全員がうなずく。
「助けましょう! 今度は、私達が・・・!」
「おーっし! やってやろうじゃん!」
「迷っている時間はありませんね。その必要も」
「これまで私達のために戦ってくれた恩を・・・返さなければ・・・」
「地球防衛のプロの力を、見せてあげようじゃない!!」
「・・・ウルトラマンサムス、それにニイザの救出を、これよりSAMSの任務とする。総員、異存はないな?」
「はいっ!!」
重なり合うメンバーの声。
「それで、どうすればいいんですか!?」
「私が直接助けに行くのは間に合いそうもない・・・。だが、彼は太陽エネルギーを使い果たしていて、動けないだけだ。今から私が、太陽エネルギーのビームを送り込む。それを補給すれば、彼は動けるはずだ。しかし・・・」
「しかし?」
「そのためには、二つの条件がある。一つは、怪獣に邪魔をされない状況を作ること。そしてもう一つは・・・直進するソーラービームを、どこかで中継して正確にウルトラマンサムスのカラータイマーまで届けることだ」
その言葉に、メンバーは顔を見合わせる。
「怪獣の足止めぐらいならなんとかなるけど、ビームの中継なんて・・・」
だが、そこで考えこんでいたヒカルが、ハッと顔を上げた。
「いえ・・・なんとかなるかもしれません」
そう言って、忙しく端末のキーを叩き出すヒカル。防衛軍のネットワークにアクセスすると、すぐに一基の人工衛星らしきものの写真とデータが表示される。
「これは?」
「発電用マイクロ波送信衛星、ホルス12号です」
ヒカルは言った。
「ドライ・ライトが発明される前、発電のために宇宙で得た太陽エネルギーをマイクロ波に変換して地上に送信するために使われていたものです。燃料のほとんどがドライ・ライトに移り変わってからは他の発電用衛星は廃棄されてしまいましたが、これだけはまだ、非常時のエネルギー供給用として、無人で稼働しているんです」
「それじゃあ・・・」
「はい。うまく操作できれば、中継に使えるかもしれません」
そう言って、防衛軍の回線を経て、ホルス12号のコンピュータにアクセスするヒカル。そして・・・
pipi!!
「やりました! ホルス12号を、完全にコントロールできます!!」
その声に、機内が沸き立つ。
「よし。すぐに始めよう。ハットリ、ホルス12号の現在座標を発信してやれ。言うまでもないが、正確にだぞ」
「はい!」
そう言って、宇宙に向けてその座標をタキオンで発信するヒカル。まもなく、声が聞こえた。
「座標は受け取った。こちらも、ビームを発射する座標を送る」
それとほぼ同時に、宇宙から座標を意味するデータが送られてくる。どうやら、声の主は太陽のそばにいるらしい。ヒカルはそれを見てうなずいた。
「あとは、衛星を移動させて受信用と送信用のアンテナの角度を調整すれば・・・。正確にやらないと・・・」
その時、アヤが彼女に顔を向けた。
「受信用のアンテナの調整は・・・私がやろう。一人では・・・大変だからね・・・」
「ありがとう・・・アヤさん」
「必ず・・・助けようね・・・」
「・・・はい!!」
二人はうなずきあうと、全力でアンテナの角度の計算とその調整を始めた。
「よし・・・始めるぞ!! 仲間を助ける戦いだ!!」
「ラジャー!!」
「怪獣の攻撃は、私達に任せて下さい! ルークに万一のことがあってはいけませんから!」
「すまない。気をつけろよ」
ニキの言葉に、オグマはうなずいた。
「コジマさん、こんなときにヘマしないでよね?」
「そっくり返すぜ、そのセリフ」
サトミに軽口を返すと、コジマはスロットルレバーに手をかけた。
「さぁって・・・準備はいいですね、リーダー?」
「いつでもどうぞ」
コジマはうなずくと、スロットルを一気に前に倒した。
バシュウウウウウウウウウウ!!
まだ炎を吐き続けている怪獣に、ビショップは急接近する。
「まずは、目薬でもさしてやって下さい!」
「了解!」
ロックオンサイトが、爬虫類そのままのジェノフェニキアの目にロックされる。
「発射!」
バシュウウウウウウウ!!
ハイパワーレーザービームが、ジェノフェニキアの目に走る。それは狙いを外すことなく、角膜を焼いた。
グェェェァァァァァァァァアアアアアオオオウウ!!
さすがにこれには激痛を感じたのか、ジェノフェニキアが火炎を吐くのをやめ、頭をブンブンと振り回す。そして、残された片目だけで空を舞うビショップをにらみつける。
ゴオオオオオオオオオオオッ!!
火炎を吐くジェノフェニキア。しかし、それを鮮やかにかわすとビショップは正面からジェノフェニキアに向かっていった。
「続いて今度は飲み薬! しっかり狙って下さいよ!」
「言われなくても!」
ニキはその間も、ロックオンサイトをにらみ続けていた。その中で、怪獣が口を開こうとする。
「発射!」
バシュウウウウウウウ!!
スパイナーミサイルが発射され、その口めがけて突っ走る。そして
ドガァァァァァァァァァァァァァァァン!!
口の中に吸い込まれたスパイナーミサイルは、大爆発を引き起こした。
グェェェァァァァァァァァアアアアアオオオウウ!!
炎の代わりに口から黒い煙を吐きながら、ジェノフェニキアはますます怒り狂った様子でビショップをにらみつけた。そして・・・
バサッ!!
巨大な翼を広げると、それを羽ばたかせて大空へと舞い上がり、ビショップを追いかけ始めた。
「そうだ、しっかりついてこい!!」
コジマは操縦桿をしっかりと握り直した。
「キシモト、消火弾で消火を行え」
「ラジャー!!」
サトミはうなずくと、サムスの周囲で起こっている大火災の上空にルークを移動させた。
「投下!!」
ヒュウウウウウウウ!!
ルーク機体下の爆弾倉が開き、銀色のカプセルが雨のように炎の中へ降っていく。
ボボボボボボボボボボボォォォォォォォォォォォン!!
たちまち白い煙が地上に充満する。やがて、それがおさまっていくと・・・地上の火災はうそのように静まっていた。そして、その中央に・・・倒れたまま動かないウルトラマンサムスの姿が・・・
「うわぁ・・・」
その痛々しい姿に、思わずサトミは悲壮な表情をした。ふと気になって、後ろのヒカルを見る。だが・・・
「・・・」
ヒカルはアヤとともに、これまでにないほど集中した様子で端末のキーをすさまじい早さで叩いていた。いつもとは別人のようである。
「ヒカルちゃん・・・」
「ま・・・泣いたりするのは、あとでもできるからな」
その光景を同じように見たオグマが言った。
タンッ!
そのとき、ヒカルがキーをひとつ思い切り打って手を止め、オグマに言った。
「キャップ、準備完了です!!」
続いて、アヤも手を止め、オグマに言う。
「受信用アンテナも、準備完了です・・・」
「よし。それでは、作戦を始める。ニキ、コジマ、もう少し怪獣を引きつけていてくれ」
「ラジャー! 全力を尽くします!」
「もうちょっとの辛抱ですからね!」
追撃してくるジェノフェニキアの火炎をかわしながら、ニキとコジマが答える。それを聞いていたように、再び声が聞こえた。
「準備はいいな?」
「はい! お願いします!!」
ヒカルは、大きくうなずいた。
その時、月面基地アルテミスや宇宙ステーションV7にいた地球防衛軍の隊員達は目撃した。太陽のすぐ近くからほとばしった光が、細いがすさまじくまぶしい光を放つ線となり、一瞬のうちに地球の近くへ達し、軌道上に浮かんでいた人工衛星のアンテナを直撃したのを。
「すごいエネルギー・・・!」
受信用アンテナに見事命中したソーラービームのエネルギーに、アヤが驚いた表情を見せる。ホルス12号が耐えられるかどうか、それはギリギリであったが・・・
「大丈夫ですアヤさん! 回路を繋いでください!」
「ああ・・・了解!」
アヤはすぐに、回路を繋いだ。ソーラーエネルギーがそのままホルス12号の中を駆けめぐり、奔流となって送信用アンテナの先になだれ込む。
「受け取って下さい!! ケイスケ君、サムスさん!!」
ヒカルはそう言うと、最後のスイッチを押した。
ズバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!
送信用アンテナから、細いが目を覆いたくなるほどのすさまじい輝きを放つ光のビームが、その下に広がる地球へと走っていく。それは一瞬にして大気圏を突き抜け、雲を突き抜け、そして・・・
バッッッッッッッッッッッ!!
地上に横たわるウルトラマンサムスのカラータイマーへ、見事命中した。
「やったぁ!! ビンゴ!!」
聡美が歓声をあげる。こちらを向いたアヤに、ヒカルも笑顔を浮かべる。その間にも、光のビームはまるでカラータイマーと宇宙を繋ぐ柱のように、あとからあとから降り注ぐ。すると・・・徐々に、ウルトラマンサムスの体が青く輝きだした。
「早く・・・早く立ち上がって下さい・・・」
祈るような表情でその光景を見つめるヒカル。その時・・・
ドガァァァァァァァァァン!!
「!?」
聞こえてきた爆音に、空を見上げるSAMSルークのクルー。
「すみませんキャップ! 主翼に被弾しました!!」
炎を上げる右翼を横目に、ニキが報告をする。速度を上げたジェノフェニキアが、グングン近づいてくる。
「よくがんばった! 不時着しろ!」
「ラジャー。コジマ君、もういいわ」
「くそっ、こんなときに・・・」
コジマは悔しそうな表情のまま、操縦桿を前に倒し始めた。高度がドンドン落ちていき、そして・・・
ズズゥゥゥゥゥゥゥン!!
土砂をまき散らしながら、SAMSビショップは不時着に成功した。
「コジマ君、すぐに脱出よ!!」
「了解!!」
不時着するとほぼ同時に、二人はハーネスを外し、キャノピーを開けた。その間にも、後ろから不気味な足音と振動が聞こえてくる。二人がコクピットから脱出し、近くにあった森へと走り始めてすぐに・・・
ドガァァァァァァァァァァン!!
SAMSビショップは怒り狂ったジェノフェニキアに踏みつぶされ、爆発した。
「間一髪ね・・・」
「ちくしょーっ!! 今に見てろーっ!!」
一方、ジェノフェニキアは完全にSAMSビショップを破壊すると、エネルギーの補給を受けているサムスと、その近くにホバリングするルークをにらみつけ、近づき始めた。それに気づき、オグマがサトミに言う。
「反重力ウォール、全開。盾になれ」
「ラジャー・・・」
「すまないな・・・」
「いいんですよ。ウルトラマンを助けられるなんて、あたし、SAMSに入ってほんとによかったです」
「SAMSに入ったときに・・・覚悟はしましたから・・・」
なんとなく湿っぽい雰囲気になる機内。そんなとき、ヒカルが明るい声で言った。
「・・・刺し違えてもとか、そういうのはやめましょうよ。みんなでケイスケ君を迎えてあげたいし、そうじゃないと、意味がありませんから・・・」
その言葉に、3人はやがてうなずいた。
「そうだな・・・。そういうのは、俺達らしくない」
「そうそう。SAMSはやっぱり、8人じゃないと!」
「そうだね・・・私達と・・・それに、彼・・・」
「そうです! SAMSは、8人揃ってSAMSなんです!!」
機内は、強い闘志がみなぎっていた。
「よし、発進だキシモト! 限界まで粘っていいが、それ以上は無理をするな! 難しい命令だが、できるか?」
「あたしを誰だと思ってるんです?」
サトミが笑顔を浮かべる。オグマは無言でうなずいた。それを確認すると、サトミは真剣な表情になり、ゆっくりとルークを進めていった。
バシュウウウウウウウウウウウウウ!!
反重力ウォールが展開され、エネルギー補給中のサムスとジェノフェニキアの間に立ちふさがる。
「・・・」
ヒカルはサムスの姿を見つめた。先ほどよりも、輝きはずっと強くなってきている。だが、まだサムスは起きあがらない。その時
ズズゥゥゥゥゥゥゥン!!
振動によってヒカルが目を戻すと、ジェノフェニキアが反重力ウォールに炎を吐きかけはじめていた。コクピットのフロントガラスの向こうに、紅蓮の炎が波打っている。
「くぅっ・・・さすがだけど・・・ゼットンの炎に比べれば、まだまだだね・・・」
炎を受けながらも、サトミは苦笑いを浮かべながらそんなセリフを口走った。超高熱の火炎に耐える反重力ウォールに、時折スパークが走る。1分・・・2分・・・SAMSルークは盾となりながら、ひたすら炎に耐えた。
「ヒカル君・・・」
そんな中、唐突にアヤが尋ねた。
「なんですか、アヤさん?」
「ニイザ君が帰ってきたら・・・何をしてもらうか、決まっているのかい・・・?」
「え・・・!? で、でも、こんなときに・・・」
「こんな時だからこそ・・・考えた方がいいよ・・・」
アヤは優しい目で言った。ヒカルは少し考えていたが・・・
「お食事に連れていってもらうとか、お洋服買ってもらうとか・・・そういうのは、あまり慣れてませんから・・・」
やがて、答え始めた。
「また・・・前に行ったことのある自然公園に行って・・・おいしいアイスクリームを一緒に食べたいです」
「アイスか・・・なんだか、私も食べたくなってきたよ・・・」
炎を見つめながら、アヤは言った。
「帰ったら食べますか? 司令がスイスの本部にいったときのおみやげが、冷蔵庫に入ってますけど」
「いいね・・・いただこうか・・・」
二人が笑みを浮かべながら、そんな話をしていた、その時だった。
ビーッ! ビーッ!
「!?」
機内に警報が流れ始めた。
「もうオーバーロード!? ちょっとは根性見せなさいよ、この展開ユニット!! 大事なときなんだからね!!」
悪態をつくサトミ。だが、反重力ウォールに迫る限界は止めることができない。反重力ウォールに走るスパークも、数が多くなってくる。さらに
バシュバシュッ!!
「きゃあっ!!」
機内に火花が走る。
「どうやら、限界みたいですね・・・」
「・・・」
オグマは無言で炎をにらみつけたまま、何も言わない。その窮状を見て取ったのか、ジェノフェニキアはさらに火炎の勢いを強くした。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
「うわっ・・・ちょっ・・・ヤバッ・・・」
機内にさらに火花が散る。その中でヒカルは、目を閉じて祈った。ウルトラマンサムスの、そして、ケイスケの姿を思い浮かべながら。その時・・・
カッッッッッッッッッッッッッ!!
すさまじい閃光が走り、全員が目をかばった。
「今のは・・・」
サトミが計器に目を戻す。反重力ウォールは、ほとんど機能していない。それにもかかわらず・・・目の前には光の壁があり、それによって、ルークは守られていた。
「あ・・・」
ヒカルは目を横に移して、思わず声を出した。その声に、他のメンバーも横を見る。そして・・・笑顔を浮かべた。
そこには・・・両手を前に突き出して光の壁を形成しながらも、涼しげな淡い光をたたえた優しい目をもつ、美しい横顔があった。
「ケイスケ君・・・!!」
顔をほころばせるヒカル。そう、ウルトラマンサムスがそこには立ち、バリヤーで彼らを守っていたのだ。
「「ヒーローは いつもピンチに 現れる」・・・なんてな」
「お約束だね。でも、やっぱりこうじゃないと!」
「フッ・・・やっぱり、ニイザ君だね・・・」
他のメンバーも、それぞれ安堵の表情を浮かべる。一方・・・
「・・・」
サムスはルークに顔を向けると、ゆっくりとうなずいた。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
と、サムスの復活を見たジェノフェニキアが、全力で火炎を吐く。バリヤーに当たる炎が、さらに強まった。しかし・・・
「ムンッ・・・!」
サムスは少し腰を落としただけで、それになんなく耐える。それどころか・・・
「ハァッ!!」
気合いと共に、バリヤーを前方へと突き出した! 炎とともに、バリヤーがジェノフェニキアに走る。そして・・・
ドガァァァァァァァァァァァァァァァァン!!
ンゴェァァァァアアアアアアアアア!!
バリヤーは怪獣にぶつかって大爆発を起こし、ジェノフェニキアが炎に包まれた。
「やるぅ! さすが充電したてだね!!」
と、聡美が歓声をあげた、そのときだった。
ヒィィィィィィィン・・・
妙な音とともに、ルークが高度を落とし始めた。
「あ、あれれ?」
急いでヒカルが、原因を調べる。
「エンジン燃料が、もう空っぽに近いみたいです。全力で展開してましたから・・・」
その言葉に、サトミはがっくりと肩を落とした。
「トホホ・・・すいません、キャップ。知らないうちに、ちょっと無茶しちゃったみたいです」
「たいした無茶じゃないからいいよ。しょうがない」
「・・・不時着します」
だんだんと高度を下げていくルーク。徐々に遠くなっていくウルトラマンの顔に、ヒカルは笑顔を浮かべて言った。
「頑張って下さいね、二人とも!!」
ウルトラマンサムスは、それに力強くうなずいた。
「シェアッ!!」
勇ましく構えをとるウルトラマンサムス。その前方で・・・
グァァァァァァオオオオオオオウ!!
やはり、ジェノフェニキアはこの程度では死んではいなかった。炎の中からその姿を現し、盛んに吼えている。しかし、その恐ろしい姿を目にしても、サムスの闘志は微塵も衰えなかった。
グォオオオオオオオオ!!
ドドドドドドドドドドドドドド!!
突進してくるジェノフェニキア。
「ヘアッ!!」
それに対して、サムスもまた、果敢に走り始めた。
ドガァッ!!
激しくぶつかり合う両者。
ガチッ! ガチッ!
サムスの頭をかみ砕こうと、ジェノフェニキアが大きく口を開けて食らいつこうとする。しかし、サムスは冷静にそれを見極めて首を動かしかわす。牙がかみ合わされるすさまじい音が、周囲の空気に響く。
グルッ!
と、突然サムスは組み合いの状態から、怪獣の横へ回った。そして・・・
「ダァッ!!」
バキッ!!
強烈なチョップを、ジェノフェニキアの左の翼に叩き込んだ。
グェアオオオオオウ!!
ジェノフェニキアが悲鳴らしき鳴き声を発する。チョップを受けた翼は、折れて奇妙な方向にねじ曲がっていた。
グェアアアアアアアアアアア!!
怒りにまかせ、ジェノフェニキアは体を大きく振った。
ブゥンッ!!
その太い尻尾が、横からサムスに襲いかかる。
「ヘアッ!!」
サムスは素早くしゃがみこんでそれをかわした。しかし、尻尾は今度は彼を叩きつぶすように上から襲いかかる。
「シュワッ!!」
バシッ!!
しかし、サムスはこれも横へすばやく転がってかわした。だが、それだけではない。
ヒィィィィィィィィィィィィン!!
その右手に、光のトライアングルが発生する。トライスラッシュだ。
「ヘアッ!!」
ギュルルルルルルルルルルルルル!!
サムスはそれを、立ち上がりながら投げつけた。
ズパッ!!
トライスラッシュは、ジェノフェニキアの太い尻尾を根本から切り落とした。
ドタッ!! ドダンッ!! ドダンッ!!
グェアオオオオオオオオオウ!!
切り落とされた尻尾が、まるで別の生き物・・・陸にあげられた魚のように、激しくのたうつ。先ほど以上の絶叫をあげるジェノフェニキア。体の半分近い長さを占めていた尻尾が切り落とされたことでバランスがとれなくなり、急にその動きが不安定なものになる。
「ヘアッ!!」
だが、サムスはさらに闘志溢れる様子で、構えをとった。
「すごい・・・。今までは全然、攻撃が効かなかったのに・・・どうして?」
小高い丘の上。SAMSルークが不時着し、その前に立って4人はサムスとジェノフェニキアの戦いを見守っていた。ジェノフェニキアを圧倒するサムスの目を見張るような戦いぶりを見ながら、サトミはそう言わずにはいられなかった。
「君は・・・なぜ目が前についているか・・・考えたことはあるかい?」
その言葉を聞いたアヤが、唐突にサトミに言った。
「え・・・? それって、関係あるの?」
アヤはうなずいた。
「目は、前に進むためについている・・・。常に前に進むため・・・もっと自分を高めるために・・・」
「本当に強い奴は、いつまでも同じ場所にとどまってなんかいない」
オグマが続けて言った。
「そういう奴は・・・倒れたって立ち上がり、前よりもっと強くなってるんだ・・・」
「そうですね・・・ケイスケ君は、強い人ですから」
ヒカルがうなずき、真剣な顔で戦いを見つめる。
クワッ!
火炎を吐こうと、口を開けるジェノフェニキア。しかし・・・
ドドドドドドド!!
サムスは果敢にも自らそれに向かい、そして、ジャンプした。
「ダアッ!!」
ドガァァッ!!
サムス渾身のローリングソバットが、ジェノフェニキアの顔の右に炸裂した。
ゴオオオオオオオオオオオオッ!!
それによって方向を逸れた炎が、むなしく地面を焼く。
ググッ!!
着地すると、サムスは右手を握りしめて後ろへ回した。固く握った右手に、青い輝きが宿る。そして・・・
「ハァッ!!」
ドガァァァァァァァッ!!
全身を使って打ち出したようなストレートが、ジェノフェニキアの頭に炸裂した。
グェアアアアアアアアアアアアアアア!!
すさまじい絶叫をあげて、後ろへと吹き飛ばされるジェノフェニキア。数回地面にバウンドしたのち、ようやく止まる。
「すごい・・・!!」
その威力に、感嘆の声をあげる四人。その時
「よっしゃあ! あれでグロッキーだ!」
嬉しそうな声が聞こえたので右に顔を向けると、丘の下からニキとコジマが駆け寄ってきた。
「リーダー!! コジマさん!!」
「ご苦労だったな。お前達の活躍は、あの通り、無駄にはならなかったぞ」
油断なく構えをとるウルトラマンサムスを見て、オグマが言う。
「ええ。あとは・・・彼の帰りを待つだけですね」
そう言って、ニキもサムスの戦いを見守り始めた。そして戦いは、そのクライマックスを迎えた。
グァオオオオオオオオオオオウ!!
ジェノフェニキアは立ち上がった。右目はつぶされ、左の翼は折られ、尻尾は切り落とされている、満身創痍の姿。しかし、それでもジェノフェニキアは残った左目に、ギラギラした敵意を浮かべている。死ぬまで戦う、戦うためだけの生物兵器。ギガゾーンによって与えられた呪われた宿命を、サムスは感じていた。
ドドドドドドドドドドドドドド!!
大地を震わせ、ジェノフェニキアが突進してくる。サムスはそれを、静かに見つめていたが・・・
ガシッ・・・
両腕を下げ、両手首を腰の前で交差させる。その構えは・・・
「テラニウム光線・・・?」
「でも、テラニウム光線は・・・」
だが、その直後・・・
「あ・・・!」
「金色に輝いてく・・・!」
サムスの体が、金色のまばゆい光を放ち始めた。その輝きは、サムスが腕をゆっくりと上げていくに従い、さらに強くなっていく。
ドドドドドドドドドドドド!!
接近するジェノフェニキア。そして・・・
「シェアッ!!」
カァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!
サムスの腕が、十字を形作る。そしてその瞬間、全身の輝きが両腕に集まりスパークを起こし、光線が発射された。その色は、いつもの銀色ではない。先ほどまでサムスを包んでいたような、まばゆい金色の光だった。
バババババババババババババババババババババ!!
パワーアップしたテラニウム光線・・・エクシード・テラニウム光線は、真正面からジェノフェニキアに命中した。猛進していたジェノフェニキアの足が、ピタリと止まる。そして・・・
ッッッアアアアゥエオオオオオオオオオオオオン!!
ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!
断末魔の叫びをあげ、ジェノフェニキアは木っ端微塵に爆発、四散した!!
「やったぁぁぁぁ!!」
手を取り合って喜ぶSAMSメンバー。悪魔のような怪獣は、ついに彼らとウルトラマンサムスの力を合わせた攻撃により、滅びたのだ。
「ケイスケ君・・・」
その場から少し進み出て、ヒカルが小さく言った。すると・・・
「・・・」
ウルトラマンは振り返り、無言で大きくうなずいた。静寂の戻った戦場。誰もがそこに、戦いの集結を確信した、その時だった。
ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!
「!?」
少し離れたところで、爆発が起こった。SAMSもウルトラマンも、驚いてそちらの方向に顔を向ける。
「なんだ? 何が爆発したんだ?」
「あそこは・・・」
と、ニキが言いかけた時だった。狼煙のようにモクモクと上がっていた煙が引いていき、そしてその中に・・・何者かの姿が見える。
「あれは・・・!?」
それは、赤い奇妙な仮面を被ったようにも見える、手に槍を持った奇妙な姿の巨大な人間だった・・・。
「ギガゾーン!?」
そう、それはギガゾーン博士であった。だが、その体はウルトラマンサムスとほぼ同じ大きさにまで巨大化していた。
「死んでなかった上に・・・巨大化したのかよ!」
「考えられる話ね・・・。もしかしたら私達のように、体の大きさを自由に変えられない宇宙人の方が少数派なのかもしれないという意見があるくらい、今までの侵略宇宙人には巨大化や変身など、多彩な超能力をもったものが多かったから、あるいは、ギガゾーンも・・・」
「そうかもしれないけどさ、しつこいよ〜!」
「私・・・しつこい人は嫌いです・・・」
「同感だね・・・地縛霊並だ・・・」
「・・・なんか、本来の目的忘れちゃってるって感じだな。あれじゃ結局、頭じゃなくって体で勝負することになるじゃないか」
口々にそんなことを言うSAMSメンバー。しかし・・・
ズン・・・ズン・・・
「あ・・・」
ウルトラマンサムスが彼らを守るように、その前に立ちはだかった。
「ケイスケ君・・・サムスさん・・・」
ヒカルの不安げな声にウルトラマンは少し振り向いてうなずくと、またギガゾーンをにらみつけた。そして、テレパシーでギガゾーンに語りかける。
「・・・お前達トコヤミ星人は地球人と同じで、巨大化の能力を持たないはずだが?」
「その通りだ・・・。だが、この通りだ。これこそ私の最後の研究成果・・・ギガント・エキスの効果だ!!」
「体を巨大化させる薬品か・・・。だが、なぜそうまでする!? お前の体は、その薬のためにそうはもたないはずだ!」
サムスの目は、ギガゾーンの体内で細胞が次々に死んでいくのをとらえていた。このままでは、短い時間しか彼は生きられないだろう。
「なぜ!? なぜだと!? 全ては貴様達のせいだ!!」
だが、ギガゾーンは手にした槍をウルトラマンサムスに向けて叫んだ。
「私が試みてきた侵略は、全てお前達、宇宙警備隊の手によって阻止された! ようやく刑務所を抜け出し、この星を侵略しようとした! だが、それもまた貴様達によって阻止された! 地球人と! 貴様によってな!!」
「当然だ! お前のように力を創造ではなく破壊のために使うような行為が、許されるはずがない!!」
「黙れ!! お前達の説教は聞き飽きた! 怪獣は全て倒され、宇宙船もあの忌々しいヤドリ達に破壊されてしまった・・・。侵略は頓挫し、もはや再起の機会を伺うこともできない・・・。ならばせめて・・・貴様を倒し、このギガゾーンの名を宇宙に轟かせてやる! 私と戦え、ウルトラマンサムス! 最後の勝負だ!!」
そう言って槍を構えるギガゾーン。
「・・・どこまでやれば気が済むんだ、こいつは・・・」
「・・・死ぬまでだろう。奴の心は、我々に対する憎悪に満ちあふれている」
サムスの意識の中。呆れたように言うケイスケに、サムスは言った。
「ケイスケ・・・私と分離しよう」
「!?」
その言葉に、ケイスケは驚いた。
「それじゃあ・・・」
「ああ・・・。君の命は、完全に回復した。もう、この危険を冒さなくてもいい・・・。ここから先は、我々の問題だ。君を危険にさらすわけにはいかない・・・」
「・・・」
ケイスケは、少し目を閉じていたが、やがて言った。
「・・・何言ってんだ。ここまできておいて、それはないぜ」
「ケイスケ・・・」
「それに・・・理由なら、あるぞ。俺も、こいつには個人的に借りがあるんだ。こいつが地球にやってきた夜、こいつの攻撃で俺は乗っていたナイトを一機落とされた。その借りを返してもらわないと困る。それ以外にも、こいつのせいで死んだり家族を亡くしたり、家をなくしたりした人はたくさんいるんだ。そういう人達のためにも、俺はまだ君と一緒に戦いたい。頼む! サムス」
「・・・わかった」
サムスはうなずいた。
「何をしている!? 早く来い!!」
ギガゾーンがせき立てる中、サムスはゆっくりとギガゾーンへ近づいていった。
「いよいよ決着の時が来たようだなウルトラマンサムス! ゆくぞ!!」
ダッ!!
「デヤァァァァァァァ!!」
槍を持って襲いかかるギガゾーン。
ガキィィィィィィィィン!!
「・・・」
ウルトラマンサムスは、青く輝く右手の手刀でそれを受け止めた。
ガキッ! ガキッ! ガキィィィィィィィン!!
激しく立ち回りを演じる二人の巨人。丘の上では、メンバーがその戦いを見守っている。
ザッ!
ギガゾーンが槍を構えたまま、肩で荒く息をつく。
ザッ!
サムスもまた、構えをとったまま動きを止め、ギガゾーンと対峙する。
ピコンピコンピコン・・・
その時、カラータイマーが再び点滅を始めた。しかし、彼はほとんど動揺を見せなかった。
「お互い、あまり長くは戦えないようだな、ならば、次でケリをつける!」
「・・・」
黙ってうなずくサムス。お互い、距離を取り合い、そして・・・
ダダダダダダダダ!!
ドドドドドドドド!!
互いに向かって、全力で走り始める。そして・・・
「ダァァァァァァァァッ!!」
「ウラァァァァァァァァ!!」
飛び上がった二つの影が、空中で交差した・・・。
ドズンッ!!
「・・・」
ドズンッ!!
「・・・」
両者が、ほぼ同時に着地する。そしてそのまま、ピクリとも動かない。戦場に言いようのない緊張感だけが流れていた・・・。
「・・・」
そんな中で、オグマだけはおもむろに胸ポケットの中を漁り、タバコとジッポを取り出した。
シュボッ!
タバコに火をつけるオグマ。その横で、ニキが静かに言った。
「勝負・・・ありましたね」
オグマはうなずき、ジッポの蓋を閉じた。
パチンッ!
気持ちのいい音が響く。その直後
ドンッ・・・
ギガゾーンの手から、槍が滑り落ちる。
ビシッ・・・
「!!」
ギガゾーンの顔面に、小さくヒビが入った。
ビシビシビシッ!!
それはたちまち、顔面全体に広がっていった。そして・・・
ズズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!
そのままその体は力つき、前のめりに地面へと倒れ伏した。
ボォッ・・・
その体は、赤い燐光を発して、あっという間に燃え尽きてしまった。
シュウッ・・・
そこでようやく、ウルトラマンサムスは右手の輝きを止め、SAMSメンバーに向き直った。
「・・・誰かを守るために力に使える戦士と、破壊のためにしか力を使えない科学者・・・。信念、経験、技量・・・どれを見たって、勝負の結果は見えていたんだよ」
オグマはタバコの煙を吐き出しながらそう言った。その後ろで、歓声が巻き起こる。サムスはそれを、優しい目で見下ろしていた。その時・・・
「よく頑張った、ウルトラマンサムス、それに・・・SAMSの勇士達」
あの声が、再び彼らの耳に聞こえてきた。
「今の声・・・」
「どこ? 一体誰!?」
「あっ! あそこ! 見て下さい!!」
ヒカルが空の一角を指さす。全員がそこに目をやると・・・
ヒィィィィィィィィィィィィン・・・
不思議な赤い球体が、空高くからこちらへと飛んでくるのが見えた。
「あの赤い玉・・・記録映像で見たことあるよ! たしか・・・」
と、サトミが一生懸命思い出そうとしていると、その赤い球体は、ウルトラマンサムスの目の前に音もなく着陸した。そして・・・
バッッッッッッッッッッッッ!!
「うわっ!?」
まぶしい光があたりを包んだ。その光がおさまり、全員が目を開けると・・・
「ああっ!?」
なんと、サムスの前にもう一人、ウルトラマンが立っていた。外見は、初代ウルトラマンによく似ている。しかし、胸のあたりの特徴に明確な違いがあった。
「あれは・・・ゾフィー!!」
そう。それはウルトラ兄弟のリーダーとして、ゼットンに倒されたウルトラマンを助けに来て以来幾度となくウルトラの戦士達を助けてきた宇宙警備隊隊長、ゾフィーだったのだ。
「そっか・・・あの声は、ゾフィーだったのか・・・」
なんとなく納得するサトミ。と・・・
「・・・」
ゾフィーは腕輪を取り出し、それをサムスに渡した。サムスがうなずいてそれを腕にはめると、腕輪が輝き、カラータイマーの点滅が止まって元の青色に戻った。
一見、黙って向かい合っているだけにしか見えない二人のウルトラマン。しかし、その時彼らの間では、会話が行われていた・・・。
全てが白い光に包まれた、どこまでも広がっているような空間。
「あれ・・・?」
ケイスケは違和感を感じた。今まではサムスと意識までほとんど一つになり、共に戦っていた。だが・・・今は自分の意識は一つの意識として、ケイスケの姿でその中に浮かんでいる。
「サムス!」
ケイスケはサムスの名を呼んだ。すると・・・
「ここだ、ケイスケ」
声と共に、ケイスケの隣にサムスが現れた。
「どうして、意識が分かれたんだ?」
「・・・君と別れるときが来た。そのための準備だ・・・」
サムスは少し、寂しそうに言った。ケイスケも、寂しい笑顔を浮かべる。
「そうか・・・いよいよなんだな・・・」
その時・・・
「ニイザ隊員・・・それに、ウルトラマンサムス・・・」
声と共に、ゾフィーが二人の前に現れた。
「ゾフィー・・・ありがとう。あなたのおかげで、ケイスケが命を失わずにすんだ」
「俺も・・・ありがとう。サムスも死なないですんだし、みんな、無事でいられる」
二人は礼を言った。だが、ゾフィーは首を振った。
「いや・・・私は、きっかけを作ったに過ぎない。君たちを救ったのは、紛れもなく君たちを救いたいと願い、自らの全てをそのために注いだ、君たちの仲間達だ」
ゾフィーは感慨深げに言った。
「素晴らしい仲間を持ったな、ニイザ隊員・・・。それに、ウルトラマンサムス・・・」
「ああ・・・世界一、いや、宇宙一の仲間達だ」
「私も・・・ケイスケや、SAMSの仲間として戦えたことを、誇りに思う」
「ずいぶん地球と地球人が好きになったようだな、サムス」
「地球へ来ることができて、そして、守ることができて、本当によかったと思う。この星は私の、第二の故郷だ」
「・・・君のように幸せそうな戦士の姿を見るのも、久しぶりだ」
心なしか、ゾフィーの声は嬉しそうに聞こえた。だが、ゾフィーはすぐにケイスケの方を向いて言った。
「ニイザ隊員・・・改めて、彼と共に戦ってくれたことに対して感謝しよう。ありがとう」
「いや・・・俺だって助けられたんだし・・・。ウルトラマンに恐縮されるってのも、なんだか変な感じだな・・・」
「・・・だが、わかっているとは思うが、ここで君たちは別れなければならない。彼はある事情で、我々と共に行かなければならないのだ」
「ある事情・・・?」
「・・・あとで話そう。ともかく、別れの時だ。ニイザ隊員、サムス、用意はいいな?」
「ああ・・・!」
「寂しいけど・・・仕方ないもんな」
二人はそう言うと、改めて向かい合った。
「・・・」
「・・・」
ガシッ!
二人は何も言わず、互いに対する信頼で満ちた目で見つめ合い、ただしっかりと握手をした。そして・・・ゆっくりと離れる。ゾフィーはそれを見て、うなずいた。
「それでは・・・君たちの体を分離する・・・」
ゾフィーの声が聞こえると、ケイスケの意識は光に溶けるように、薄らいでいった・・・。
「向かい合ったっきりぜんぜん動かないけど・・・何してるんだろう?」
「おそらく・・・テレパシーを使って話をしているんだろう・・・」
サムスとゾフィーの様子を見守るSAMSメンバー。そのとき・・・
「あ・・・見てください」
ヒカルが声をあげた。ウルトラマンサムスのカラータイマーから、ひとつの光の玉がその中から現れた。それは淡い光を放ちながらゆっくりと降りてきて・・・彼らの目の前に着地した。それは、だんだんと人の形になっていき・・・そして、ついにその姿を現した。
「・・・」
そこには、SAMSの制服に身を包んだケイスケが立っていた。
「やあ・・・ヒカル」
ケイスケは、満面の笑みを浮かべた。
「・・・!」
その笑顔を見た瞬間、ヒカルは彼に駆け寄り、抱きついていた。
ポスッ!
「おっと・・・!」
「ケイスケ君・・・私・・・私・・・!」
伝えたいことがたくさんあるのに、うまく言葉に表すことはできない。もどかしさを抱えたまま、ヒカルはただ、ケイスケの胸に顔をうずめていた。そんな彼女の髪を、ケイスケは優しくなでた。
「・・・わかってるよ。本当にありがとう、ヒカル。それと・・・ただいま」
その言葉に、ヒカルは顔を上げた。目の端には涙が浮かんでいたが、精一杯の笑顔を浮かべて、彼に言った。
「・・・おかえりなさい、ケイスケ君」
ケイスケはうなずくと、ヒカルをしっかりと抱き寄せた。
「・・・」
ケイスケはそこで顔を上げ、笑顔を浮かべてこちらを見ているほかのメンバーを見て、照れくさそうな表情をした。
「・・・ニイザ・ケイスケ隊員、ただいま帰還しました!!」
ケイスケがそう言った瞬間、彼らはケイスケにワッと駆け寄ってきた。
「うわっ!? ちょ、ちょっと、やめ・・・!」
「キャッ!?」
「この野郎!! お前のせいで俺たちがどれだけ苦労したかわかってんのか!!」
「そーだよ! ウルトラマンと一緒になって戦ってたなんてすごいこと内緒にしてたなんて、ほんとにずるいんだから!」
「痛っ! 痛いですってば! ですからそれには事情が・・・おいヒカル! 笑ってないで助けてくれよ!!」
笑いながらケイスケを小突き回すコジマとサトミ、それにヒカルの方を見て助けを求めるケイスケ。
「ダメです!! 私、今度という今度はほんとに心配したんですから!! コジマさんとサトミさんに、思いっきりこらしめてもらえばいいんです!!」
「それは同感だね・・・。たしかに、ニイザ君が悪いよ・・・」
「コジマ君、キシモトさん。かまわないから、思いっきりこらしめてあげなさい」
いたずらっぽい笑顔を浮かべてそんなことを言うヒカルと、苦笑しながらあおるようなことを言うアヤとニキ。
「そ、そんな!! リーダーまでなんてこと・・・!!」
「フッフッフ・・・リーダーのお許しが出たぞ〜!」
「覚悟しなさい、ニイザく〜ん!」
「おーおー・・・まだまだ元気だね」
オグマはぼんやりとそれを眺めていたが、やがて手を叩きながら言った。
「はいはい、そういうのは後でもいいから。お客さんを待たせちゃいけないだろ?」
その言葉に、ようやくコジマとサトミが手を止める。
「やれやれ・・・でもほんと、すいません」
体についた砂を払いながら、ケイスケはオグマたちに謝った。
「だから、あとあと。とりあえず、整列!」
その言葉に、SAMSはすばやく整列した。目の前にはゾフィー、それにサムスが、並んで立っている。
「・・・ケイスケ、このとおり、君はもう元の体だ。ヒカル・・・君の恋人を、改めて君のもとへ返そう。今まで、ありがとう」
サムスは言った。
「ありがとう、ウルトラマンサムス。俺やみんなの命を、助けてくれて・・・」
「私も、ありがとうございました。ケイスケ君とこうしてまた一緒にいられるのは、サムスさんのおかげです」
ケイスケとヒカルはそう言って、頭を下げた。ほかのメンバーも、頭を下げる。
「君たちは私たちの仲間を自分たちの仲間として受け入れてくれた。そして、彼に頼り切るのではなく、互いに助け合い苦境を乗り越えてきた。君たちはかつて私たちの仲間がこの星を守っていたころの人々よりもさらに、その姿勢を強いものにすることができた。また、脅威となるからといって命を奪う力を安易に振るわず、限界までそれを使うことを避けることも学んだ。君たちは成長したのだ。誇りと、自信をもっていいだろう」
ゾフィーが言った。
「君たちはたった今、力をあわせて死力を尽くし、ひとつの大きな危機を乗り越えた。宇宙を守る一員として、心から祝福したい。だが・・・すでに地球には、さらに大きな危機が再び迫りつつあるのだ・・・」
「えっ!?」
「それって、どういうこと?」
ゾフィーの言葉に、誰もが驚いた。そのとき・・・
ブワッ!!
「うわっ!?」
「え・・・? ここ・・・どこ?」
気がつくと、彼らは一面真っ黒な空間に立っていた。
「心配することはない・・・。これは、私たちが遠隔視能力で見た、暗黒星雲の様子だ」
「暗黒星雲?」
「そう・・・。ここに今、恐るべき敵たちが集結しつつある・・・」
と、ゾフィーが言ったそのとき、はるか向こうから何かが近づいてきた。
「あれって・・・!?」
「え・・・!? ウソ・・・!?」
ゴオオオオオオオオオオオッ!!
なんとそれは、怪獣やロボットの群れだった。ゼットン、キングジョー、ベムスター、エースキラー、タイラント、シルバーブルーメ、ゴラ・・・これまでに地球を襲ったことのある宇宙怪獣や侵略ロボット以外にも、たくさんの様々な怪獣やロボットたちが鳴き声をあげながら飛んでゆく。その中央には宮殿のような形をした奇妙な宇宙船があり、まるで怪獣たちに守られているかのように、悠々と宇宙を飛んでいった。そしてその直後、風景は一瞬にして元に戻る。
「な・・・なんなんだよ、今の!?」
ケイスケが驚いて尋ねると、サムスが言った。
「あれが・・・地球に迫っている、恐るべき敵たち・・・ヤドリ船団の本隊だ」
その言葉に、ケイスケたちは驚いた。
「ヤドリは以前から、その能力を生かして怪獣やロボットの頭脳をのっとって操り、自らの戦力としてきた。光の国でも、その勢力の増大に危機感を強めていたが・・・ここへきて彼らは、ついに次の目標を地球に定めた。奴らは先遣隊によって地球の守りを崩壊させたうえで、集結地点の暗黒星雲から一気に地球へワープし、怪獣軍団で攻め込もうと考えている!」
「な、なんだって!?」
「そんな・・・やっと、ギガゾーンの侵略を止めたと思ったら、もう・・・?」
ゾフィーの話に驚いていたケイスケ達だったが、すぐにオグマに言った。
「キャップ! こうしちゃいられません! すぐに宇宙に出撃して迎撃しましょう!!」
他の隊員達もそれにうなずく。だが、オグマが答えるよりも早く、ゾフィーが言った。
「いや・・・君たちには、それは不可能だ」
「ふ、不可能って、どういうことだ!?」
「暗黒星雲は君たちの目ではとらえることができない上、常に強力な宇宙嵐が吹き荒れている地獄のような空間だ。君たちはそこへ行くことはおろか、その姿を見ることさえできない」
「そんな・・・それじゃあ、俺達は・・・」
その時、サムスが力強く言った。
「いや・・・そんなことは、私達が許さない!」
「サムス・・・」
「そして・・・そのために、私は行かなければならない」
「ヤドリの船団と怪獣軍団は、まだ集結を完了していない。それが終わる前に・・・我々ウルトラ兄弟が暗黒星雲に突入し攻撃を行い、奴らを倒す!! だが、我々だけではまだ力が足りない。彼の力も、必要なのだ」
ゾフィーがうなずきながら言う。
「サムス・・・お前は・・・」
「こんなに傷ついても・・・まだ戦ってくれるんですか・・・?」
これまでの怪獣との戦いでのダメージも蓄積しているだろうし、さらに、ジェノフェニキア、ギガゾーンとの連戦を終えたばかりである。さらにこれから、無数の怪獣軍団との戦いに挑もうというサムスに、ケイスケとヒカルは呆然と声をかけた。サムスはうなずく。
「私は君たちと一緒に過ごし、様々なことを学んだ。地球人は多くを学んだとはいえ、まだまだ若い種族だ。時には過ちを犯すこともあるだろう。だが・・・この青い星と同様、自由を愛し平和を望む、美しい心を持っている。私はこの星を知り、この星の人を知り、愛することができた。これはそのことに対する、私からの恩返しだ」
「恩返しだなんて・・・。これまで助けてくれただけでも、十分そんなことはしてもらってるよ」
サトミが言う。
「ならば・・・私たちからのプレゼントだと、うけとってくれないか?」
「プレゼント?」
「そう・・・これからもこの星で平和に暮らしていけるように、この星で生きる君たちへ私達が贈る、平和という名のプレゼントだ」
その言葉を、隊員達は受け止めたが・・・やがて、うなずいた。
「プレゼント・・・か。わかった、そういうことなら、ありがたく受け取ろう」
「ありがとう・・・」
ケイスケの言葉に、サムスはうなずいた。
「だが、それはあくまで一時のものであることを、忘れないでほしい」
ゾフィーが言った。
「ギガゾーンやヤドリのようなこの星を狙う侵略者は、まだまだ宇宙にたくさん存在する。怪獣もまた、これからも現れ続けるだろう。君たちの平和は、それらの脅威から守り続けてこそはじめて守られるものだ。真の平和は恒久の努力によって生まれるものだ。そのことを、忘れないでほしい」
「ああ・・・もちろんだ! 君たちがいなくても、この星の平和は俺達で守っていく。自分のことは自分でできる「宇宙のオトナ」に、早く俺達もなりたいからな」
オグマの言葉に、メンバーは小さく笑いながらうなずいた。ゾフィーはうなずくと、サムスに言った。
「それでは、サムス・・・そろそろ行こう」
「あ、ちょっと待ってくれないかな?」
その時、オグマがゾフィーに言った。
「急いでるのはよくわかるし、それが俺達のためだってのならなおさらだけど・・・せめて一言ぐらい、全員にお別れの言葉を言わせてもらえないか?」
「キャップ・・・」
全員がオグマの顔を見る。やがて、ゾフィーはうなずいた。
「いいだろう・・・」
ゾフィーがうなずきかけると、サムスは一歩、前に進み出た。見つめ合うSAMSメンバーとサムス。
「え、えっと・・・こんなとき、どんなこと言ったらいいか、よくわかんないけど・・・」
無言で促され、最初に口を開いたのは、サトミだった。
「あたし、子どもの頃から君たちが好きだった! だから・・・君と一緒に戦えたなんて、もちろん夢じゃないけど、夢みたいにうれしかった! 言いたいことたくさんあるけど・・・とにかく、ありがとう!! もし地球の近くに来たら、絶対寄っていってね!」
それだけ言うと、サトミは下がった。続いて、コジマが口を開く。
「あんたのおかげで、たくさんの命が助かった。世界中の医者を代表して、まずそのことに礼を言うよ。ほんとうに、ありがとう!! これからも、あんたが助けた以上の数の命を助けられるように、じいさんになっても生涯現役で頑張ってくつもりだから、そっちも、頑張ってくれよ!!」
そう言って下がろうとして、慌ててコジマは付け加えた。
「ああそうだ! もし宇宙でバストゥール星人やアケメネス星人に会うことがあったら、伝えておいてくれないか? あんたらのおかげで、確かに救われた星があったって、その星の医者が言ってたってな! よろしく頼むわ!」
苦笑するメンバー。サムスは承諾したというように、大きくうなずいた。続いて、アヤが前に出る。
「私は・・・とにかく、ニイザ君の命を救ってくれたことに感謝するよ・・・。ほんとうに・・・ありがとう・・・。命さえも自在に扱う君たちの力には、正直興味が尽きないが・・・私達にはまだ・・・過ぎた力だね・・・。私は・・・地球人が命を正しく見つめられるようになるように・・・私なりに見守っていくよ。君たちも・・・これからもゆっくりと、宇宙の命を見守ってほしい・・・」
アヤはそう言うと、ニキの顔を見て下がった。続いて、ニキがうなずいて前に出る。
「・・・初めてあなたを見たとき、私はあなたに神のような美しさを感じた。でも・・・やがて、あなたは神ではないし、そう思われることも望んでいないと感じられるようになったわ。あなたはたしかに大きいけれど、高みから見下ろすような存在じゃない。私達を見守り、ともに歩いていきたいと願っている、私達の仲間なのだと。人を守る人間はどんな心をもてばよいか、私もあなたから学べたような気がします。あなたと一緒に戦えたことは、私の誇りです。副隊長として、これからの無事を祈ります。ありがとう!!」
ニキは凛々しくそう言うと、オグマに代わった。
「・・・言いたいことは、だいたいみんな部下が言ってしまったな。君を仲間として戦えたことは、俺にとっての誇りだ。たとえここで別れても、君はSAMSの8番目のメンバーだ。仲間を一人で送り出せなければならない俺達を、許してほしい・・・」
その言葉にサムスは、「そんなことはない」というようにゆっくりと首を振った。
「ありがとう・・・。隊長として、君に与える最後の任務だ。必ず生きて、無事に故郷に帰ること。以上だ。引き受けてくれるな?」
サムスはその言葉に、大きくうなずいた。それに笑顔を浮かべると、オグマはヒカルの背を押した。
「あ・・・え、えっと・・・。私もお礼を言いたいことはたくさんあるんですけど・・・やっぱり、ケイスケ君とたくさんの人を助けてくれたことに一番お礼を言いたいです。ほんとうに、ありがとうございました!! これからは・・・私がケイスケ君を守れるように、もっと頑張っていきます。地球の平和は私達に任せてください! ほんとうに・・・いろいろ、ありがとうございました!!」
ペコリと頭を下げるヒカルに、サムスは大きくうなずいた。ケイスケはヒカルの横でばつの悪そうな困ったような表情をしていたが・・・
「さあ、最後はケイスケ君ですよ?」
「う・・・うん」
ヒカルに背中を押され、ケイスケは小さくうなずきながら、前に出た。
「・・・」
「・・・」
サムスを見上げるケイスケ。ケイスケを見つめるサムス。やがて、ケイスケは口を開いた。
「・・・今まで一緒にいたのに、俺もいざこうなると、何を言ったらいいのか、よくわかんないな・・・。だけど・・・」
「・・・」
「これだけは言っておくよ。たとえ遠く離れても、俺達はいつまでも友達だ。俺は君のことを忘れない。だから・・・俺のことも、忘れないでくれよ?」
「もちろんだ。ケイスケ・・・君はいつまでも、私の友だ」
ウルトラマンサムスは、それに大きくうなずいた。
「ありがとう・・・ウルトラマンサムス!」
ケイスケは笑顔で言った。
ウルトラマンサムスはSAMSメンバーの別れの言葉を一つずつ、うなずきながら受け止めていった。そして最後に、彼は言った。
「ありがとう、みんな・・・。私は君たちの仲間として戦えたことを、本当にうれしく思う。私は行かなければならないが・・・心配することはない。夜空を見上げれば、常にウルトラの星はそこにある。そして私達は、そこから君たちを見守っている・・・」
サムスはメンバーを一人一人見つめながら、ゆっくりと言っていった。
「私が最後に、君たちに言えること・・・。それは、君たちは人の幸せを願い、人の不幸を悲しむことのできる人達だということだ。それは人間だけでなく、この宇宙に生きる全ての命にとって一番大事なことだ。それができるならば、人を幸せにし、自分達の幸せにもつながることだろう。君たちは、その心を忘れずに、この地球の人々に広めていってほしい。それが私の、最後の願いだ」
「ああ・・・約束するよ・・・!」
そう言ってうなずくケイスケ。他の隊員達も、しっかりとうなずく。
「グスッ・・・だ、ダメだなぁコジマさん・・・。別れに涙は・・・禁物じゃないの・・・」
「バ・・・バカ野郎! これは男泣きだ! お前こそ・・・その目から流れてるのはなんなんだよ・・・?」
「これは、その・・・これは、心の汗だよ!!」
泣き笑いの表情でコジマをからかうサトミと、彼女を肘で小突くコジマ。
「いつまでも・・・いつまでも、お元気でいて下さいね・・・!」
ヒカルも涙を浮かべている。
「みんな・・・笑って送り出してあげましょう・・・」
「その通り・・・だよ・・・」
ニキとアヤが、涙をこらえながら言う。
「それじゃあサムス・・・元気でな」
ケイスケはわずかに涙をにじませながらも、笑って言った。その言葉にサムスは静かにうなずくと、
グッ・・・
ゆっくりと、ケイスケにサムズアップをしてみせた。
「・・・!」
ケイスケは笑って、それに同じ仕草で返す。
「・・・」
すると、サムスは後ろへと下がり、ゾフィーと並んでうなずきあった。それを見たオグマが、声を張り上げる。
「我々の未来のために過酷な戦いへと旅立つ仲間に、無事の帰還と再会への願いを込めて、全員、敬礼!!」
ザッッッ!!
寸分違わぬタイミングで、一斉に敬礼を捧げるメンバー。そして・・・
「「シュワッ!!」」
ヒィィィィィィィィィィィィィィィン!!
サムスはゾフィーとともに大地を蹴り、大空へと力強く飛翔した!!
「元気でねええええええええええ!!」
「ありがとおおおおおおおおおお!!」
「さようならあああああああああ!!」
東の空へと去っていく二つの影に、メンバーは声も枯れんばかりに叫び、懸命に手を振る。やがて・・・ウルトラマン達の影は、最後にキラリと輝き、それからは見えなくなった。
「いっちゃったな・・・」
コジマが小さくつぶやく。その時・・・
「あ・・・見て下さい! 朝日が・・・!」
ヒカルが指さした方角・・・ウルトラマン達が去っていった東の空に、ゆっくりと、大きな朝日が昇り始めた。
「きれいな朝日だね・・・」
笑顔を浮かべながら、それを見つめるアヤ。
「私達が守った朝日よ。そして、これからも私達が守っていく朝日・・・」
「朝日が昇り、また一日が始まる・・・。その当たり前の暮らしを、また俺達だけで守っていかなければならない。この星に生きる、自分達の手でな・・・」
ニキとオグマが、それを見つめながら言った。
「でもサムス達は、戦いに行くんだよね・・・あたし達を守るための、最後の戦いに・・・。きっと・・・きっと、勝ってくれるよね!?」
振り返りながら問うサトミ。しかし、ケイスケは自信に満ちた表情でそれにうなずいた。
「・・・負けませんよ、彼は。きっと勝って・・・いつか、元気な姿で俺達の前に帰ってきてくれますよ!」
「その時に恥ずかしくないように・・・この地球をただ守るだけじゃなくて、もっときれいにしていかなきゃいけないんです。それが・・・私達の仕事ですよね?」
ヒカルの言葉に、メンバーは力強くうなずいた。
「・・・」
ケイスケは胸ポケットを探り、何かを取りだしてジッと見つめた。ヒカルがそれに気づき、ケイスケの顔を見る。
「ケイスケ君にくれたんですね?」
ケイスケはうなずいた。その手には、エスペランサーがしっかりと握られていた。
「友情の証として、持っていてほしいってな・・・」
ケイスケはそれをしまうと、ヒカルに言った。
「あしたからも、がんばろうな」
「・・・はい!!」
笑顔でうなずくヒカル。ケイスケはそれに微笑みを返すと、空を見上げた。
朝日はすっかり昇り、どこまでも続く青空が広がっていた。とてもきれいな、透き通った青空だった。地球を守った青い巨人。その姿を、そこに思い起こすほどに・・・。
完
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