宇宙空間を、一隻の白い宇宙船が航行していた。双胴型の、独特の船体をもつその宇宙船の後部ノズルから発せられる炎が、突然勢いを増した。巡航速度から、最大速度へと加速を始めたのだ。

「どうだ? 応答は返ってきたか?」

 その宇宙船のブリッジ。地球防衛軍宇宙軍の制服を身につけた男が、近くの席に座っている同じ制服を着た男にそう尋ねる。胸には副船長を示す記章がついている。

 「だめです。レーダーにはさらにハッキリ映るようにはなってきていますが、応答の方は・・・」

 ヘッドフォンを装着し、宇宙レーダーの画面に目を凝らしたまま、その若い通信隊員は答えた。そのとき

 「状況は?」

 ブリッジの自動ドアが開くなり、船長が入ってきて制服に袖を通しながらそう尋ねてきた。仮眠をとってからわずか十分ほどして、ここからの緊急連絡でたたき起こされたのだ。副船長、通信隊員をはじめ、ブリッジクルーが全員彼に視線を向ける。

 「さきほど伝えたのと、状況はほとんど変わっていません。レーダーにはさらにハッキリ映るようになってきましたが、こちらからの通信に対しては、まだ何の返答も・・・」

 副船長が船長にそう報告する。

「わかった。引き続き呼びかけを続けろ」

 船長がそう言うと、再び通信隊員は自分の仕事を始めた。

「それと、船の速度は?」

「指示通りにしました。まもなく最大船速に達します」

「よし。一秒でも早くたどり着くんだ」

 船長はうなずくと、マイクをとった。

「全船に告ぐ! 本船は救助目標を捕捉した! 救助班員は直ちに船外活動の準備! 繰り返す・・・」

 船内に非常サイレンが鳴り響き、船のあちこちで慌ただしく人が動き始める。

 それから数十分後・・・。

「カメラ有効視界内に目標を捉えました! モニターに回します!」

 通信隊員の声とともに、ブリッジのモニターに映像が映し出される。それとほぼ同時に、どよめきがブリッジに響く。

 そこに映っていたのは、一隻の宇宙船だった。だが、それは無事と呼ぶにはあまりにもかけはなれた姿をしていた。あちこちが焼け焦げ、穴が開いている部分も見られる。窓には光がなく、一見するだけではもはや放棄されたスクラップ船に見えても不思議のないものだった。

「間違いない。スキッピオ号に搭載されていた、非常脱出用の救命ボートだ・・・」

 映像を見た船長が、うめくようにそう言った。

「しかし・・・この有様は・・・。ほとんどスクラップじゃないですか。一体、スキッピオ号に何が・・・」

 副船長が信じられない様子で呆然とつぶやく。

「わからん。そもそも、調査隊に何が起こったのかさえわからんのだからな。それよりも、隊員達の命の方が心配だ。SOSからもう5日・・・。ここまで来てすぐに発見できたのは幸いだったが、それでももう5日が経過している・・・」

 船長は険しい顔をした。その時、ブリッジのドアが開き、宇宙服に身を包んだ男が入ってきた。

「救助班、全員準備整いました!」

 船長は彼にうなずくと言った。

「よし。ただちに全員、エアロックに集合。あの状態ではおそらく、ドッキングは不可能だ。可能な限り船体を寄せ、宇宙遊泳で直接救命ボートに乗り移ってもらうことになる。危険な任務だが、調査隊の命がかかっているんだ。頼むぞ」

「了解!」

 救助班長は敬礼をすると、ブリッジから飛び出していった。

「よし。微速前進。救命ボートに可能な限り船体を寄せろ! ぶつけるなよ」

 船長の声がブリッジに響くと、クルーの間にさらに強い緊張が一斉に走った。

「よし。エアロック、これより開放する」

 班長がそう声をかけると、後ろの部下達は一様にうなずいた。彼はそれを確認すると、すでに真空になっているエアロックのドアの横についていたスイッチを押した。

 ゴゴ・・・

 ゆっくりとドアが開き、漆黒の宇宙空間がヘルメット越しに目に入ってくる。そして・・・彼らの前方には、傷ついた宇宙救命ボートが静かに浮かんでいた。

「これより目標に乗り移る。全員、離れるなよ」

 ボッ!

 班長はそう言うと、背中のロケットパックを一瞬点火させ、エアロックから宇宙空間へと飛び出していった。後続の班員達も、それにならって後に続く。彼らは慣れた動きで自由に宇宙遊泳をし、数分後には全員が、傷ついた救命ボートのエアロックの外壁に取りついていた。

「全員ついたな」

 彼はそれを確認すると、外壁に取りつけられていた非常開放用のコックに手を掛け、力を込めて押し下げた。

 ゴゴ・・・

 傷だらけのエアロックのドアがきしみながら開く。すぐに彼らはそこから船内に入り込み、再びドアを閉めた。

「電源と酸素を確認しろ。まだ残っているか?」

 班長がそう指示を出すと、隊員の一人がすぐにその指示に応える。

「非常電源が生きてます。酸素供給システムも、それによってまだ稼働しているようです。もう少し遅れていれば、それも尽きていたところですが・・・」

 救助班はエアロックに空気を入れると、改めてそこから船内に足を踏み入れた。

 船内は非常電源のあかりがついているだけで、非常に薄暗かった。あちこちのモニターに、様々な赤い文字が点滅を繰り返している。

「誰かいませんか!? こちら宇宙ステーションV7所属、救助船アルバトロス7号です! SOS信号を受けて救助に参りました! 誰かいませんか!?」

 必死に叫ぶ班長。だが、船内のどこからも返事は返ってこない。

「奥へ進む。狭い救命ボートだ。誰かいるならすぐ見つかるはずだ」

 班長はそう言って、率先して奥へと進む。班員達も、それに続いた。と・・・

「!?」

 最奥部、救命ボートのコクピットまで来たところで、彼の目が大きく見開かれた。そこには、一人の男がコントロールパネルに突っ伏して倒れていたのだ。

「おい! しっかりしろ! おい!」

 彼はすぐに男に駆け寄り、意識を取り戻そうと大きな声をかけ、体を揺すった。だが、男はピクリとも動かない。

「脈拍と呼吸を確認しろ! 急げ!」

 すぐに医療技術をもった班員が近づき、診断を行う。

「・・・生きています! 微弱ですが、脈拍・呼吸ともたしかにあります!」

 その返事を聞くが早いか、班長は大声で怒鳴った。

「救命カプセルを持ってこい! アルバトロスに搬送だ! 急げ!!」

 その怒号にも、男はただ倒れているだけであった。ひどく汚れたその作業服の胸には、コンパスをあしらった図柄のワッペンがつけられていた。



ウルトラマンサムス スペシャル
カルネアデスの鳥


前編

宇宙怪鳥
ペリュトン
登場


「次のニュースです。国際宇宙開拓事業団のクルサノフ代表が今日午前11時、成田空港に到着しました」

 アナウンサーがそう言うと同時に、テレビに空港のロビーを何人かの人を従えて歩く白人の男の映像が映し出される。

「今回の来日の目的は、2日後に行われる茨城県つくばの宇宙開発記念公園の完成記念式典と、その後行われる第37回宇宙開拓サミットに出席するためです。クルサノフ代表は今日と明日、都内にある宇宙開発関連の研究機関を視察後、この式典に出席する予定であり・・・」

 そうニュースを読み上げるアナウンサーの映像を、SAMSメンバーはいつものミッション・ルームで食事をとりながら見ていた。

「これでだいたい、今回のメインゲストは揃ったっていうことになりますね」

 サトミがカツカレーをスプーンで口に運びながらそう言う。

「そうね。各国の科学技術関連政府機関の代表達も、ほとんどが日本に無事到着したというし、まずは一安心といったところかしら」

 ニキはスプーンを持ったままそう言った。

 数日前から今日にかけて、日本には宇宙開拓事業に関わる人間が政府、民間を問わず次々に来日してきていた。その目的は先ほどのニュースが伝えたとおり、2日後に行われる、つくばに新たに完成した宇宙開発記念公園の完成記念式典と、その後に行われる第37回宇宙開拓サミットへの出席である。各国の宇宙開発関係者が集まるだけあり、日本ではかなり以前から大規模テロなどを想定した厳重な警備体制作りが敷かれていた。警察官だけでなく、防衛軍の隊員達もこの警備にはかなりの数が投入されているのである。

「ところでキャップ。俺達はこの警備には参加しなくていいんですか?」

 顔をオグマに向け、ケイスケが尋ねる。

「ん〜・・・万全を尽くす意味なら、その方がいいんだろうけど・・・」

 オグマはカレーをもごもごと噛みながらそう言った。

「まだ俺達には、その要請は出ていないな。一応今回の警備は、あくまで人間相手のものとして想定されてるから。どっかの宇宙人が会議を狙っているとかいうなら、その要請も出るだろうけど・・・」

 オグマがそう言うと、ケイスケは眉をひそめて言った。

「でも、この会議をギガゾーンが狙うっていう可能性も・・・」

「そうです。最近は活動していませんけど、今回の会議を狙っているかもしれませんよ?」

 ヒカルもうなずきながらそう言う。

「用心するには・・・こしたことはないだろうけどね・・・」

 アヤも小さくうなずく。

「ま、例の如く気を引き締めて楽にしてるしかないんじゃないか? ねぇ、キャップ」

 コジマがそう言うと、オグマはゆっくりとうなずいた。

「そういうことだな。式典の開催から会議期間中までは、いつお呼びがかかるかもわからん。そのことを各自頭に入れて、これから何日か勤務してほしい。いいな?」

 彼の言葉に、隊員達は全員うなずいた。そして再び、カレーを食べながらの談笑が始まろうとした、その時だった。

ビーッ! ビーッ!

 突然、ミッション・ルームの中に警報が響き始めた。思わずスプーンを動かす手を止めるメンバー。中でもサトミはすぐにそれを皿に置くと、急いで口を拭いて通信機の前に座り、インカムを頭につけた。

「キャップ! 宇宙ステーションV7から緊急連絡です」

 サトミがそう言うと、オグマはうなずいた。

「わかった。メインモニターに出してくれ」

 サトミがすぐにその操作を行う。メインモニターが少し砂嵐になったあと、V7の制服を着た男の姿が映し出された。

「こちら宇宙ステーションV7・・・おっと、食事中でしたか」

 向こうにもこちらの様子は見えているので、男は少しばつの悪そうな顔をした。それはSAMSメンバーにとっても同じことで、慌てて口を拭ったり、口の中のカレーを強引に飲み込んだりする。

「どうも。お見苦しいところを見せてしまって申し訳ありません、ウェリッジ司令。それより、V7から緊急連絡とは、もしかして・・・?」

 オグマは口を拭ったハンカチをしまいながら、モニターに映るV7の司令、ウェリッジに尋ねた。ウェリッジの表情がさらに真剣さを帯びたものになる。

「ええ、そのとおりです。V7のレーダーが、地球に接近する巨大な影をとらえました。このままの速度でいくと、その物体は2時間後には宇宙防衛ラインに到達することになります」

 ウェリッジの言葉に、全員が顔色を変えた。

「2時間後? ・・・失礼ですが、なぜそんな距離に近づかれるまでその物体の接近がわからなかったのですか?」

 その言葉に納得のいかないニキが思わず尋ねる。宇宙防衛の要、V7に搭載されている宇宙レーダーと電波望遠鏡は現在地球にあるものの最も高性能であると言ってもよく、かなり小さな隕石でさえ、地球に到達するはるか以前に発見することが可能なのである。

「おっしゃるとおりです。申し訳ない。ですが・・・その物体は、突然現れたのです。まるで、霧の中から姿を現したかのように・・・」

「突然現れた? その物体が、ワープをしてきたと?」

 だが、ウェリッジは首を振った。

「レーダーは空間のゆがみも捉えていません。ですから、おそらくワープではありません。全力で調査中ですが、皆目見当がつかないのです。それよりも今は、その物体への対処の方を急がなければなりません」

「でしょうな。それで、具体的には?」

「物体の正体は不明ですが、突然出現したことを考えると、ただの隕石だとは思えません。おそらく、怪獣か円盤でしょう。しかも、そのルートは地球への直進です。放っておけば、確実に大変なことになります。現在V7は、急ピッチでこの物体に対する迎撃準備を整えています。戦闘班に出撃準備をさせているほか、V7に搭載されているウルティマメーサー砲の発射準備を整えています。こちらから打って出る時間はありそうにありませんが、全力で地球への降下を阻止します」

 ウェリッジの力強い言葉に、オグマはうなずいた。

「よろしくお願いします。それで、我々に何かできることは・・・?」

「先ほど言ったように必ずここでくい止めるつもりですが、万が一ということもあります。我々の力が及ばず、物体の地球降下を許してしまったような場合・・・SAMSの皆さんに、大気圏内での迎撃をお願いしたいのです。ご迷惑はかけないつもりですが、フォローの体制ができていたほうが、我々としても戦いやすいのです」

「ごもっともです。ではSAMSもこれより、スクランブル体制を整えておきます。いつでも発進できるようにスタンバっておきますので、宇宙の守りは頼みます」

「ご協力を感謝します。それでは」

「健闘を祈ります」

 モニター越しに敬礼を交わすオグマとウェリッジ。直後、通信は終わった。メンバーに振り返るオグマ。

「・・・と、いうわけだ。メシを急がせたくはないが、しかたない。先におやっさんたちにスクランブルを伝えて、すぐにメシを食ってハンガーに集合だ。いいな?」

「了解っ!!」

 メンバーは敬礼をすると、慌ただしく残りのカレーをかき込み始めた。

「こんなときに未確認飛行物体なんて・・・」

 ヒカルが不安そうな表情を浮かべる。

「できれば・・・V7でくい止めてほしいけどね・・・」

 アヤが静かにうなずく。

「まぁ、なんとかなるんじゃないかな。V7の戦闘班は、これまでの迎撃成功率も高いから」

 ケイスケがそう言うと、コジマが思いだしたように言った。

「そうそう。たしか、戦闘班の隊長の一人は元極東基地のトップガンらしいな。そういえば、リーダーと同期だって聞きましたけど、ほんとですか?」

 思わぬ話題をふられ、ニキは思わずむせそうになったが、気を取り直して

「え・・・ええ、まぁ・・・」

と、はぐらかした。


「ハックション!!」

 サイレンが響き渡るハンガーに、大きなくしゃみの音が響き渡った。

「あれぇ? 隊長、風邪ですか? しっかりしてくださいよ?」

「そうそう。これから訓辞だっていうのにそれじゃ、示しがつきませんよ」

 突然くしゃみをした自分達の隊長に、部下達は冗談交じりにそう言って笑った。

「あまいな、お前達も。お前たちだっていつかは、一つの隊を任せられるようなパイロットになれるだろう。そのときのために、出撃前の部下たちの緊張を解きほぐすための方法を、身をもって示しただけさ」

 負けじと隊長が言い返した言葉に、隊員達は笑った。

「さて、気を取り直してもう一度」

 隊長が顔を引き締めてそう言うと、隊員達の顔も引き締まる。

「・・・諸君らも知っているとおり、10分前にレーダーが地球に接近する未確認物体をとらえた。物体の正体は不明だが、突然出現したことを見る限り、ただの隕石ではなさそうだ。宇宙ステーションV7は、これよりこの物体の迎撃体制に突入。それに伴い、我々にも出撃準備命令が下った」

 隊長はなおも続ける。

「我々は他の隊に先行して発進し、物体の正体を確認する。そして攻撃命令が下った場合、V7からのウルティマメーサー砲による援護射撃ののち、攻撃を開始する。これまでの任務と同じように、なんとしてでも地球への降下を防ぐのが目的だ。何か質問は?」

 その言葉に、一人の隊員が手を上げた。

「隊長、地上でのバックアップ体制はどうなっていますか?」

「なんだお前、もう失敗したときのことを考えてるのかよ」

 仲間の隊員が冷やかすが、隊長はそれを制止した。

「いや、もっともな質問だ。常に最悪の状況を想定することは、大事なことだよ。特に僕達のように、瀬戸際の守りを任されてるパイロットとしてはね」

 隊長がそう言うと、場が静まり返る。

「さて、質問の答えだが、当然そのことは考えられている。日本のマリナーベースでは、それに備えてSAMSがスクランブル体制を整えている。地上の他の防衛軍基地も同じだ。心配しなくても、フォローの体制は整えられている。存分にやるんだ」

 隊長の言葉に、部下達はうなずいた。

「とはいえ、彼らの守備範囲はあくまで空の下だ。外野がしっかり守りについているからといって、ピッチャーが手抜きをするわけにはいかない。打たれる前に三振をとるのが、僕達の仕事だ。打たせてとるなんて手抜きは考えないように。狙うは三振ただ一つだ。わかったな?」

「Sir, Yes Sir!!」

「よし。それでは、オザキ・タクミ以下8名、戦闘班「パーシヴァル隊」、出撃する。搭乗開始!!」

 ザッ!

 隊員達は敬礼をすると、それぞれの機体へと走り始めた。オザキ隊長はそれを見送ると、自分のすぐ後ろに置かれている機体を見上げた。その戦闘機は、外見だけ見ればSAMSに配備されている戦闘機、SAMSナイトによく似ていた。しかし細かく見てみると、小型化された翼やそれと反比例するように大型化されたエネルギータンク、弾薬ポッドなど、SAMSナイトとは違いが見られた。ハンガーに並んでいるのは、みなその戦闘機である。

「さて・・・こっちもお仕事をしないとね。悪いけど、そっちの準備は無駄に終わらせてもらうよ、ヨウコ」

 オザキ隊長はそうつぶやくと、自分の機体のコクピットに乗り込み、スイッチを入れ始める。計器に次々に光が灯り、エンジン音が高まっていく。

「Gate Open! Gate Open!」

 同時に、正面にある発進ゲートが開き、漆黒の宇宙が目の前に広がり始める。やがて、それが開ききると、オザキは操縦桿を握った。

「パーシヴァル01より各機へ。発進準備完了。各機、状況を報告せよ」

「パーシヴァル02、スタンバイOK」

「パーシヴァル03、スタンバイOK」

 部下達から次々に返答が返ってくる。7名の部下全員からの返答を聞くと、オザキはうなずいて言った。

「これよりパーシヴァル隊、発進する。発進後はデルタフォーメーションにて、目標へと急行。いいな?」

「ラジャー!!」

「パーシヴァル01、発進する! 後に続け!!」

 操縦桿を強く握り、スロットルに手をかけるオザキ。

「All right! Let's Go!!」

バシュウウウウ!!

 発進アナウンスと共に、勢いよく後部ノズルから炎を噴き出し発進する宇宙迎撃機、ステーションナイト。オザキのあとを追い、彼の部下を乗せたステーションナイト達も、次々に発進していく。数分と経たぬうちに、杯のノーズアートを施したステーションナイトの部隊は、V7から飛び立っていた。


 一方、地上では・・・

「キャップ、まだなんですかぁ?」

 ひまそうにシートの背もたれにもたれながらサトミが言う。

「今発進してどうするんだ?」

 オグマがのんびりと応える。V7からの求めに応じ、SAMSはすでにいつでも発進できる体制を整えていた。全員がそれぞれの機体で待機を初めてから早数十分。時間だけが流れている。

「まだ物体の正体だって確認してないんだ。バッターボックスにも姿を現してないのに、前進守備をするわけにはいかないだろ」

「そうですよ。それに今飛び立ったって、ドライ・ライトの無駄遣いになるだけですよ。おやっさんににらまれたくないでしょう?」

「うっ・・・」

 ケイスケがそう言うと、サトミは黙り込んだ。と、その時

「キャップ。物体の確認のため、たった今V7からパーシヴァル隊が発進したそうです」

 ヒカルが入ってきた情報を報告する。オグマは小さくうなずいただけで、あとは何も言わなかった。

「まぁ、このまんま取り越し苦労に終わるように祈りながら、V7のお手並み拝見といきましょうよ。ね、リーダー」

「・・・」

 コジマが気楽に言ったが、ニキはそれに対して複雑そうな表情で何も応えなかった。


「パーシヴァル01よりアーサーへ。間もなく接触予定ポイントに到着する」

「パーシヴァル、こちらアーサー。了解。十分に注意されたし」

「了解」

 V7の管制官と連絡を交わすと、再びオザキは部下達への通信チャンネルを開いた。

「接触予定ポイントまで、現在の速度で残り5分。各機、もう一度機体状況をチェックし直し、不調のあるものは離脱せよ」

 指示を下すオザキ。だが幸いにも、不調を抱えた機体は一機もなかった。8機のステーションナイトは編隊を組んだまま、漆黒の宇宙を飛行し続ける。そして・・・

「・・・見えた!」

 オザキが小さくつぶやく。先頭を行く彼のステーションナイトのモニターに、正面はるか遠くにある一つの影が浮かび上がった。はっきりとした輪郭まではわからないが、レーダーを見ると猛スピードでこちらに向かって飛んできているのがわかる。オザキはすぐに通信を入れた。

「パーシヴァル01よりアーサー。目標をカメラで捉えた。さらに接近を試み、より正確な確認を行う」

「こちらアーサー。了解。一層の警戒を求む」

「了解」

 オザキは一拍おくと、部下達に言った。

「各機、散開。目標は正面から突っ込んでくる。一度目標とすれ違い、Uターンで追跡を始める。交錯時には注意するように」

「ラジャー!!」

 その言葉をきっかけにパーシヴァル隊は編隊を崩し、互いに距離をおいて散開を始める。それが完了したとき、モニターには物体の姿がかなりハッキリと映るようになってきていた。

「・・・!!」

 その姿を見たとき、オザキは思わず息を呑んだ。

「アーサーよりパーシヴァルへ。目標の正体はなんだ?」

「・・・こちらパーシヴァル。たった今確認した。生物だ、巨大な」

 オザキは冷静に答えた。だがその言葉の最後に心の中で「それも、かなり異常な」とつぶやいていた。

 いくら昔よりは平和になったとはいっても、宇宙からの脅威がなくなったわけではない。オザキもまた、宇宙ステーションV7のパイロットとして働くようになってから今に至るまで、そういった様々な怪獣や宇宙人の円盤と交戦し、これを撃退してきた経歴をもつ。だがそんな彼のキャリアから見ても、今目の前から向かってくるものは、かなり異様な姿に映った。

 物体は真正面からこちらへ向かって、体を水平にして飛行してきている。したがって、彼らに見えるのはその物体の正面だけだ。だがそれだけでも、その物体が怪獣であり、なおかつ風変わりな姿をしていることはわかった。

 まず目につくのは、肩口から左右へ向かって大きく伸びる、巨大な翼。まるで鳥の翼のように、青い羽根によってびっしりと覆われている。怪獣はその翼を大きく広げ、まっすぐ地球へと向かって飛んでいた。

「各機、注意しろ。すれちがうぞ!」

 オザキがそう言ってまもなく

ゴオオオオオオオッ!!

 怪獣とオザキの乗るステーションナイトは、距離を置いてすれちがった。短い時間であったが、その時横からの姿を見ることによって初めて、オザキはその全身像をとらえることができた。

 まず、頭部。一際目立つのは、頭頂部から後方へと向かって、まるで山羊のそれのように湾曲して生えた2本の角である。顔自体は細長く、毛や羽毛もなく象のそれのようなひび割れた灰色の皮膚がむき出しで、歯のない嘴が銛のように前方へと向かって伸びている。目は前方ではなく顔の左右についており、黒目が多く丸く、そして生気を感じられない大きなその目は、まさに死んだ魚のようだった。

 そんな奇怪な頭部から続くのは、それとは対称的に翼と同じ美しい青い羽根に覆われた、鳥によく似た体である。腕はがっしりとしており、その先端の指は2本しかないが、その先には鋭い爪が生えていた。そして体の最後尾には、一際鮮やかな色をした長い尾羽がついていた。面白いのは栗色の毛に包まれた脚で、これは馬や山羊のような有蹄類と同じ、丸い蹄をもった脚だった。ただ、その関節は鳥と同じような逆関節型であった。そんな奇妙な姿をした怪獣が、はるか前方に大きく輝く青い星へ向かって、一直線に飛んでいる。

「こちらパーシヴァル。映像の中継を開始する」

 スイッチを入れるオザキ。V7や地上の防衛軍基地でも、今見ているこの映像が流れ始めたはずだ。

「アーサーよりパーシヴァルへ。こちらでも目標を確認した。様子はどうか?」

 オザキは少し観察したが、すぐに答えた。

「目標の状況に変化なし。依然地球へ向けて進行中。こちらのことなど、目にも入っていないようだ」

 パーシヴァル隊は怪獣と一定の距離をとりながらもそのあとを追跡、或いは並行していた。だが、周囲を随伴し始めたこの見慣れない飛行物体に対しても、怪獣はなんの反応も示さず、ただただ地球へと進み続けている。端から見れば、巨大な魚が小さな魚を従えて泳いでいるようにも見えるかも知れない。

「今のところ、目標にこちらに対する攻撃の意思は見られない。指示を乞う」

「了解」

 そのまま一旦通信が切れたが、やがて再び、V7から連絡が入った。

「アーサーよりパーシヴァルへ。武器の使用を許可する。目標の進路は紛れもなく地球へ向かうものであり、このまま進めばまもなく地球圏防衛ラインを超えることになる。地球降下の事態を回避するため、目標を殲滅せよ」

「・・・了解。目標を殲滅する」

「アーサーよりパーシヴァルへ。ウルティマメーサー砲の発射を行う。照準のため、目標の正確な位置データと移動データを求む」

「了解。ただちに観測する」

 オザキはすぐにその作業を行い、怪獣の現在位置と移動方向、移動速度の正確なデータを観測して、それをV7へ送った。

「こちらアーサー。データを受信した。ただ今よりウルティマメーサー砲を発射する。速やかに目標近くの宙域から離脱せよ」

「了解。パーシヴァル01より各機へ。一時離脱せよ」

 オザキの指示を受け、怪獣から次々に離れていくパーシヴァル隊。


 すでに宇宙ステーションV7では、一つの動きが始まっていた。巨大なコマのような形をしたV7のあちこちでブースターの炎がひらめき、V7自体がゆっくりとその方向を変えつつある。それと同時に・・・

ゴゥ・・・ン

 V7の屋根から、巨大なパラボラ状の物体が現れる。一方、V7内部の管制センターでは、オペレーター達が忙しく状況を報告しながら自らの手を動かしていた。

「パーシヴァル隊、メーサービーム照準内宙域からの離脱を完了」

「V7、方向転換完了。ウルティマメーサー砲、仰角修正プロセスに入ります」

「目標位置データ、移動データ入力。目標、オートロックオン。仰角修正完了まで、残り2分32秒」

「反動制御装置、異常なし」

「エネルギー充填率は?」

「現在87%。1分4秒後に発射可能です」

 オペレーター達の報告を聞きながらウェリッジはうなずき、静かにその時を待った。そして・・・

「エネルギー充填率、100%。砲身、仰角修正完了。目標ロックオン完了。ウルティマメーサー砲、発射準備完了」

 発射準備完了の報告がもたらされた。

「よし・・・ウルティマメーサー砲、発射!」

 サッと手を振り上げるウェリッジ。発射管制オペレーターが、即座にスイッチを入れる。その瞬間

ズバァァァァァァァァァァァァァァッ!!

 静かに光をたたえていたパラボラから、一気に光の帯が放出された。宇宙を駆けるその一条の光は、月面基地からもはっきりと確認できた。


「・・・」

 オザキはゆっくりと、ヘルメットの強化遮光フィルターを解除した。先ほどこのあたりをまぶしく照らし出したすさまじい光は一瞬にして消え去り、もとの漆黒の宇宙が広がっている。その光が広がる最後に見たもの。それは、嘴を裂けるほど大きく開け、光に飲み込まれていく怪獣の姿だった。そして・・・今やその姿は、どこにも見えなかった。

「やはりすごいな、ウルティマメーサー砲は・・・」

 オザキが改めてその威力に感心した、その時だった。

「アーサーよりパーシヴァルへ。状況を報告せよ」

 V7から通信が入ってきた。

「パーシヴァルよりアーサーへ。作戦成功。ウルティマメーサー砲は怪獣を直撃、消滅させた。こちらへの損害は皆無。繰り返す・・・」

 その報告に、スピーカーの向こうからオペレーター達の歓声が聞こえてくる。オザキはその声に、口元をほころばせた。

「アーサーよりパーシヴァルへ。現場宙域をもう一度調査したのち、帰投せよ」

「了解。調査後帰投する」

 そう言って、オザキは一旦通信を切った。

「聞いての通りだ。各機、もう一度この場を調査後、V7へと帰投する」

「了解。しかし隊長、今回もあっけなかったですね。ウルティマメーサー砲のおかげで、俺達の出番がなかったですよ」

「宇宙はV7、地上はSAMS。おまけに今の俺達には、ウルトラマンだってついてるんだからな。怪獣、宇宙人なんでもこいだ」

 作戦がすばらしくうまくいって気が大きくなったのか、隊員達は陽気に言葉を交わした。

「こらこら、勝利に酔うのは帰ってからにしろ。まだ仕事中なんだ。あれに飲まれて細胞の一片でも残っているとは思えないが、万一のこともある。浮かれるのはそれからだ」

 オザキは軽く部下達をたしなめると、その場のパトロールを開始した。といっても、冷静沈着なオザキにとっても、怪獣が光に消えていく光景を実際に目にして、その細胞のかけらでも残っているとは、到底思えなかったが・・・

と、その時であった。

ビーッ! ビーッ!

「!?」

 突如計器の一つが、けたたましい音を鳴らし始めた。それは、強力なエネルギー反応をとらえたことを示すものだった。

「た、隊長! エネルギー反応が!!」

「落ち着け! 原因を探るんだ!!」

 どうやら、部下達の方でも同じことが起こっているらしい。オザキは部下を落ち着かせながらも、なぜこんなことが起こっているのか、その原因を突き止めようとした。が、その矢先、さらに奇妙な現象が起こり始める。

「・・・!?」

前方に、突然青いガスのようなものが発生し始めた。キャノピーの曇りかとも思われたが、それも違う。明らかに前方で、何かが発生し始めている。しかも、問題のエネルギー反応はそれから発せられている。オザキはそれを凝視しながら、なりゆきを見つめた。すると、だんだんそのガスのようなものは、集まって一つのかたちをとりはじめた。そして・・・

バッッッッッ!!

 青い閃光とともに、再びあの怪獣が姿を現した。光に飲まれる前と同じく、パーシヴァル隊には目もくれず、何事もなかったかのように、ただただ地球を目指している。

「ガ・・・ガスが、怪獣に・・・?」

オザキは信じられない様子でつぶやいた。その時

「アーサーよりパーシヴァルへ! レーダーが再び影をとらえた! 何が起こっている! 状況を報告せよ!!」

 V7でもこの異常事態をとらえたらしく、通信が入ってきた。

「・・・こちらパーシヴァル。目標が再び出現した。外見上にダメージは見られない。繰り返す・・・」

 実際に自分でも信じられないのだが、オザキはそれをうち消すように、努めて冷静な声でくり返し報告した。V7も信じられない様子だったが、すぐにウルティマメーサー砲の再発射準備と、追加の迎撃部隊発進を伝えてきた。その通信を受けると、オザキは部下達に言った。

「・・・各機、目の前で起きていることを現実として受け止めろ。目標は健在、さらに、地球への到達まで時間がない。これより全力で攻撃を仕掛け、目標を殲滅する。最低でも、ウルティマメーサー砲再発射までの時間稼ぎの務めを果たす」

「了解!!」

 聞く者達にまでその冷静さが伝わるようなオザキの声に、パーシヴァル隊は落ち着きを取り戻し、次々と怪獣めがけて接近していった。


「怪獣が再び出現。先行したパーシヴァル隊が、攻撃を開始したそうです」

 宇宙で起こった出来事は、SAMSルークにも伝えられてきた。たった今入った情報を、ヒカルが報告する。

「再び出現? ウルティマメーサー砲を喰らって、消滅したんじゃなかったのか?」

 SAMSナイトのケイスケから、信じられないといった声が返ってくる。

「それが・・・ガスのようなものが集まって、怪獣の姿に戻ったそうです」

 ヒカルも戸惑った様子で、そう報告した。

「体をガス状に分解できるのかな・・・。過去にも・・・そんな怪獣は存在したはずだ・・・」

 アヤが静かにつぶやく。

「・・・迎撃部隊の状況は、どうなっているかしら?」

 SAMSビショップのニキが、ヒカルに尋ねた。

「今のところ、被害はないようです。怪獣は迎撃部隊は完全に無視し、地球にまっすぐ進んでいます」

「そう・・・」

 ニキは静かに返事をした。

「そろそろ、出る準備をしなきゃならんかもな・・・」

 オグマはそう言うと、ハーネスを装着した。


 果敢に怪獣に対して攻撃を行ったパーシヴァル隊。やがて、V7から応援のため発進した同じ迎撃部隊、ランスロット隊、ガウェイン隊も合流し、怪獣への攻撃に加わった。だが・・・

「こちらパーシヴァル06! 弾薬を使い切った!!」

 また一機、部下から弾薬切れを伝える報告が入った。

「了解。無理をするな。V7へ帰投せよ」

「了解・・・」

 落胆した様子の部下の声が返ってくる。そしてまた一機、ステーションナイトが反転して飛び去る。そう遠くないところに浮かぶのは、宇宙ステーションV7。すでに戦場はV7の脇を通り過ぎ、怪獣の地球降下は目の前にまで迫っていた。

「パーシヴァルよりアーサーへ。目標の大気圏突入までの残時間は?」

「残り1分。目標の殲滅を急げ」

 無茶な命令であることはしかたがなかった。多数のステーションナイトから集中砲火を受け、さらにまだウルティマメーサー砲の発射準備が完了しないV7からのレーザー砲攻撃を受けても、怪獣はまったく動じることもなく、ひたすらに地球めがけて進んでいる。

「なぜ・・・なぜそうも地球に急ぐ?」

 何かにとりつかれたように一心不乱に進み続ける怪獣に、オザキはそんな念を抱かずにはいられなかった。だが、すぐにそれを心の中に封じる。目の前の怪獣の降下阻止が先だ。

「・・・各機、兵器の残数を報告せよ」

「パーシヴァル03。ミサイル3発、それにターボレーザー用バッテリー、残りわずかです」

「パーシヴァル05。こちらはミサイル2発。レーザーバッテリー、使い切りました」

 返ってきた返事は、その二つだけだった。オザキは自分の分も確認する。ミサイル4発。レーザーバッテリーも、残りわずか。

「最後の攻勢をかける。デルタ隊形で目標の背後から急接近後、残存兵器を一気に叩き込み反転する。これ以上進めば、我々も重力につかまる。これが最後のチャンスだ」

「パーシヴァル03、了解」

「パーシヴァル05、了解」

 2機のステーションナイトが、オザキのナイトの左右後方へつく。

「いくぞ!!」

 バシュウウウウウッ!!

3機のステーションナイトは、一斉に加速し、怪獣の背後からグングンと近づいていった。そして・・・

「今だ!!」

バシュバシュバシュバシュウウウウウウウウウ!!
バババババババババババババババ!!

 3機は一斉に、全ての武器を発射した。たちまちのうちに、爆炎に包まれる怪獣。

「やったか・・・?」

 だが・・・

ゴォォォォォォ・・・

 やがてその煙の中から姿を現した怪獣は・・・やはり、ダメージを負った様子はなかった。

「・・・」

 無言のまま、口を真一文字に結ぶオザキ。キャノピーの向こうで、怪獣が赤い炎に包まれるのが見える。大気圏へと突入を開始したのだ。

「アーサーよりパーシヴァルへ。目標の大気圏突入を確認。作戦失敗。重力につかまるおそれがあるので、ただちに帰投せよ」

「・・・了解。パーシヴァル隊、帰投する」

 沈んだ声で答えるオザキ。火の玉と化して降りていく怪獣を一瞥して、機体を反転させる。弾薬を使い切り、大気圏突入能力をもたないステーションナイトでは、これ以上は何もできなかった。

「パーシヴァルよりアーサーへ。目標は地上のどこへ降下する?」

「突入ポイント、角度より予測降下ポイント判明。極東地区へ降下する可能性大」

「了解・・・」

 オザキはそれだけ尋ねると、通信を切って地球に顔を向けた。

「すまない、ヨウコ。この始末を、君たちに押しつけてしまう・・・」


ゴォォォォォォォ・・・

 もはや雲をもはるか下に眺めるような高々度を、3機の戦闘機がさらに上をめがけて飛行していた。SAMSナイト、SAMSビショップ、そして、SAMSルークである。

「現在高度95000。まもなく、成層圏に到達します」

 ヒカルがそう報告する。もともとピース・シリーズはあらゆる状況下での活動を想定して作られたスーパー軍用機であるため、成層圏のような高々度での飛行はおろか、単独での大気圏離脱、突入能力までそなえ、宇宙でも活動ができるのである。成層圏に到達する程度は、どうということはない。

「わかった。各機、成層圏到達後一旦水平飛行へ移行。高度を維持しつつ、目標が降下してくるまでこの空域で待機する」

「SAMSナイト、了解」

「SAMSビショップ、了解」

 他の2機からも返事が返ってくる。怪獣の大気圏突入がほぼ確定的となった段階で、SAMSはマリナーベースを発進。目標が降下してくると思われる空域まで急行し、そこで待ち伏せを行うことになったのである。

「結局は、俺達が尻拭いする羽目になっちゃったなぁ」

 コジマがそうつぶやく。

「V7だって全力を尽くしたのよ。むしろ、ウルティマメーサー砲を使っても倒せなかった相手であることを考えて、気を引き締めておくべきだわ」

 ニキがそうたしなめたので、コジマは首をすくめた。

「現在高度100000。成層圏に到達しました」

 ヒカルの声がそう伝える。予定通り3機は水平飛行に移り、怪獣が降りてくるのを待った。だが・・・

「ハットリ、レーダーに目標はとらえられたか?」

 オグマが尋ねるが、ヒカルは首を振る。

「いえ・・・。マリナーベースのレーダーも、怪獣をとらえていません。大気圏に突入したことは確かなんですけど・・・」

 困惑した様子で答えるヒカル。大気圏突入にともないレーダーに映らなくなった怪獣だが、落下した速度を考えれば、もうその姿が見えてくるはずである。だが・・・姿はおろか、ルークやマリナーベースのレーダーでさえ、影すらその怪獣をとらえてはいなかった。そして・・・怪獣が姿を現さないまま時が流れ、SAMSは基地へ帰投するしかなかった。


「結局、降りてきませんでしたね・・・」

 その日の夜。かなり夜は更けていたが、メンバーは誰も部屋に戻らず、ミッション・ルームのデスクを囲んでいた。ヒカルがやや疲れた顔でつぶやく。

「大気圏に突入して、そのまま燃え尽きちゃったんじゃないの?」

 サトミがそう言うが、コジマは首を振る。

「ウルティマメーサー砲を喰らって無傷だったような奴だぞ。大気圏突入の時の熱なんか、きっと風呂の熱さみたいなもんだろ」

「だよねぇ・・・」

 サトミも自分の言葉に自信は持っていなかったらしく、頬杖をつく。結局怪獣は、大気圏に突入したきりその姿を消した。降下予想地点の極東地区はおろか、世界中のどの防衛軍基地のレーダーにも、あれ以来怪獣の姿はとらえられていない。市民の目撃情報についても同様だ。

「私も・・・あれはまだ死んでいないと思うね・・・」

 アヤがそう言ったので、全員が彼女を見る。

「ポイントは・・・この映像だろう」

 アヤがスイッチをいれるとメインモニターに光が灯る。そして映し出されたのは、青いガスが集まり、再び怪獣の姿を取り戻す映像だった。オザキのステーションナイトが撮影したあの映像である。

「映像解析の結果・・・この青い微粒子が、怪獣を構成する分子であることがわかった・・・。おそらくこの怪獣は・・・自由自在に構成分子間の距離を操作することができるのだろう。密集すれば怪獣の姿をとり・・・分散して、ガスのような姿をとることもできる・・・。ガス状の時には・・・レーダーにもとらえにくいだろう。どちらが本当の姿なのかは・・・わからないけどね・・・」

 すると、ニキが言った。

「・・・ということは、怪獣が姿を現さないのは・・・」

「大気圏に突入したあと・・・ガスに姿を変えて、どこかへと降りたのでしょう・・・。そしてその姿のまま、今でも地球のどこかに潜伏している・・・」

 アヤがそう言うと、ミッション・ルームが静まり返った。

「参りましたね。そんな怪獣が、地球に降りてきたなんて・・・」

 頭を抱えるケイスケ。

「まぁ、降りてきちゃったものはしかたない。対処するしかないだろう。気になるのは、あの怪獣が地球へ降りてきた目的だな」

 オグマの言葉に、全員がうなずく。

「V7からのあれだけの攻撃を受けてまで、逃げることも反撃することもなくひたすら地球を目指した・・・。そうまでして地球まで来る理由が、あの怪獣にはあるのでしょうか」

「怪獣の考えることはわからんからな。ただ立ち寄っただけか、餌を求めてきたか、卵でも産みに来たか、あるいはもっと、突拍子もない理由があるのか・・・。そのへんも、対処のポイントにはなってくるとは思うが・・・」

 オグマはそう言うと、部下達の顔を見回した。

「とにかく、そういう怪獣が降りてきたということだ。霧に姿を変えられる以上、いつどこに現れるかわからん。いつでも出動できるように、気を引き締めて楽にしておけ」

「了解!!」

「それとキリュウ。もう一仕事頼むようで悪いが、科学班と連携してこの怪獣に対する対抗策をなんとか見つけだしてくれ」

「わかりました・・・」

 メンバーがそうして、覚悟を固めたその時だった。

 プシュー・・・

 メンバーの背後で、ミッション・ルームのドアが開く音がした。その音に振り返ると・・・

「おう、なんだ。まだ全員残っていたのか。昼間あんなことがあったのに、ご苦労様」

 そこには、少し驚いた表情を浮かべたムツ司令が立っていた。

「司令・・・司令こそ、こんな時間に何の用です?」

 怪訝そうな顔で尋ねるオグマ。ムツはデスクまで歩きながら言った。

「いや、帰ろうとしたところへ、防衛軍からある要請の電話があってな。誰か残っているなら、それを伝えてから帰ろうと思ったんだが、全員いるなら好都合だ」

「防衛軍から? 何の要請ですか?」

 ケイスケが尋ねると、ムツはうなずいた。

「2日後に、つくばで宇宙開発記念公園の完成式典が行われる。そのことは知っているな?」

「ええ」

 全員がうなずく。

「その警備に、お前達も参加してほしいと、極東基地を通して政府から要請があった」

 その言葉に、メンバーは驚いた。

「俺達も、警備に?」

「しかし・・・どうして? 我々には元々、その予定はありませんでしたが・・・」

「うちからは司令が来賓として参加するだけで、警備の要請はなかったはずですけど」

 当惑するメンバーだったが、ムツはうなずいて答えた。

「そのとおりだ。だが、今日の一件で事情が変わった。これまでの警備体制は、テロや破壊工作など、我々と同じ、人間が引き起こす事態を想定していた。だが今日、V7の防衛網をすり抜け、怪獣が地球へ降下した。しかも、現在に至るまで行方不明だ」

「つまり・・・あの怪獣が式典を襲う危険性を考えて、我々にも警備に参加せよと、こういうわけですか」

 事情を察したオグマの言葉に、ムツはうなずいた。

「前世紀、国際防衛会議を襲ったペダン星人の例を挙げるまでもなく、過去に要人の集まる会議などを狙って、宇宙人が怪獣やロボットを送り込んできた例はいくつもある。宇宙人の侵攻自体が少なくなり、そうした宇宙人によるテロの危険性は長いこと薄れていたが、政府は今回の怪獣についてその危険性を疑っているわけだ」

 ムツはそう言ったが、メンバーは納得のいく表情をしなかった。

「でも・・・それなら、式典を中止した方がいいんじゃないですか?」

 ヒカルがそう言うと、メンバーもうなずく。

「ヒカルの言うとおりです。狙われる危険性があるとわかってるなら、中止にするのが一番手っ取り早いじゃないですか」

 ケイスケはそう言った。ムツはそれにうなずきながらも、渋い顔を浮かべた。

「わしもそうは思うんだが・・・お偉いさん達は、そういうわけにはいかんようだ」

 ムツはまいったという様子で頭をかいた。

「今回の式典と、それに続く宇宙開拓サミットは、4年前から政府が中心となって進めてきたイベントプロジェクトだ。最近の東南アジアでの宇宙産業の高まりによって押され気味の国内産業の振興のための起爆剤としての役割を、政府は期待している。記念公園内にあるイベントホールでは各国の宇宙産業企業のイベントも行われる。式典やサミットやイベントに出席する要人や企業はみなすでに来日し、準備を整えてしまっている。今更それを中止するわけにはいかんというのが、政府のお偉いさん達の事情らしい。また、ここへきて式典を中止することは、それを狙っている連中に対する敗北を認めることにもなるという意見も、防衛軍内にはあってな。侵略者相手に、防衛軍が退くわけにはいかんと・・・」

「そんな・・・。人命には代えられないじゃないですか」

 ケイスケの言葉は全員の思いで、皆納得のいかない顔をしていた。

「・・・防衛軍の予算には、日本も深く絡んでいる。金の話を持ち出されると、いかにSAMSといえども弱い。高い金を払っているんだからその分の仕事をしろと、こういう話になってしまうからな」

「我々なりに、給料分以上の仕事はしていると思いますがね」

「もちろんだとも。だがお偉いさん達は貪欲なものだ。それで満足してくれるわけではないらしい。納得のいかない話であるのはわかっている。だが、我々も軍人だ。命じられた仕事は、たとえ理不尽に思ってもやるしかない。すまないが、頼まれてくれないか?」

 そう言って、頭を下げるムツ。こうなると、メンバーも無下にするわけにはいかない。彼らは顔を見合わせたが、やがてオグマが言った。

「・・・しかたないですな。こっちがやらないといっても、向こうは予定通りにするでしょうし、これ以上張り合ったところでどうにもならないでしょう。それに、怪獣がそこを襲う可能性が高いとするなら、シニカルな考え方をすれば対処もしやすいと見ることもできるし・・・」

 オグマはそう言うと、メンバーに向き直った。

「やろうか。本当に怪獣が出たら大変だし、出なくてもともと。むしろ、出ない方が幸いなんだからな」

「そうですね」

「司令をこれ以上困らせるわけにもいきませんし・・・」

 苦笑いを浮かべながら、口々に同意を口にするメンバー。それを見て、ムツはホッとした表情を浮かべた。

「すまんな。この分の特別手当ては十分ふんだくってこれるように、こっちも頑張ってみよう」

 その言葉に、まんざらではない表情を浮かべるメンバー。

「それじゃあ、わしはこれで失礼するよ。いろいろと大変だろうが、頑張ってほしい。それじゃ、おやすみ」

「ご苦労様です」

「おやすみなさい」

 メンバーに見送られ、ムツはミッション・ルームから出ていった。

「さて、お前達もいい加減部屋へ戻れ。明日からはますます忙しくなるぞ。タップリ休んで、ビシバシ働こう」

 オグマが手を叩きながらそう言ったので、メンバーは急かされるように身の回りのものを整え始めた。


 一方同じ頃。都内にある、古いが立派な造りの邸宅。

「はぁ〜・・・」

 その廊下を、パジャマ姿の一人の中年の女が、髪をタオルで拭きながら歩いていた。体はピンク色に染まり、湯気が立ちのぼっている。今し方風呂からあがったばかりの彼女は、スリッパの音を響かせながら、ある部屋の前まで歩き、そこで立ち止まるとノックをした。返事が返ってくると、彼女は少しだけドアを開け、中をのぞき込んだ。

「あなた、お風呂あきましたよ」

 その部屋は本棚が立ち止まり、至る所に大きな写真や模型が飾られている、立派な書斎だった。そしてその正面に置かれている机に腰掛けて何かをしている男の後ろ姿が見えた。

「ああ、もうすぐ終わる。先に寝ててくれ。リビングの電気も消しておいていいぞ」

 背中を向けたまま、男はそう答えた。

「張り切るのはわかるけど、あまり根を詰めないでね。いくら準備をしていても、本番で倒れたりしたら意味がないわ」

「わかってる。これでようやくできあがる。なんとか、納得のいくものができそうだよ」

 男がそう答えると女は微笑を浮かべ、おやすみなさいとだけ言ってドアを閉めた。男はそれに答えて、再び手を動かし始めた。そして、まもなく・・・

「・・・よし」

 彼は爽快感さえこもった表情でパソコンのキーをポンと叩くとそのスイッチを切り、椅子にもたれたまま思い切り上半身をのばした。と、その時である。

Trrrrr・・・

 机の上に置かれている電話が、唐突に鳴り始めた。ディスプレイに表示されている番号は見慣れたものだったが、こんな時間にかけてきたことに首を傾げながら、彼は受話器をとった。

「もしもし、カジヤマです」

「モリタです。夜分遅くに申し訳ありません。防衛軍から緊急の連絡が入ったので、それをお伝えしなければならなかったのです。お休み中でしたか?」

 電話の向こうから聞こえてきたのは、申し訳なさそうな男の声だった。

「いや。さっきまで原稿を書いていて、今終わったところだ。それより、その緊急の連絡というのはなんだ?」

「はい。一般への公表はまだのようですが、今日の午後2時頃、宇宙から一匹の怪獣が宇宙ステーションV7の迎撃をすり抜け、地球へと降下したそうです」

「なんだって? だが、そんなことが起きたにしては・・・」

「ええ。怪獣は体を青い霧のような状態にする能力があるようで、地球へ降下後はそうして姿をくらましたようです」

「!?」

 部下のその言葉に、カジヤマと名乗った男は激しい驚きの表情を浮かべた。

「・・・ですので、怪獣の行方は現在でも不明なのですが・・・理事長? どうしました?」

 カジヤマからの返事がないので、部下は怪訝そうな声で尋ねてきた。

「あ、ああ、すまない。なんでもないんだ。それで?」

「はい。時期が時期ですので、政府はこの怪獣が明後日の式典やサミットを狙って宇宙人が送り込んできたものであるという可能性を考慮し、防衛軍による警備の増強を決定したそうです。そういうわけですので、当日の式典に参加する人には、予定通り式典に参加するかどうかの意思確認をすることになったのですが・・・」

 部下はそう言った。

「・・・いかがいたしましょう? 私にもこれは、単なる偶然には思えません。理事長の身の安全を考えれば、今回は辞退なされた方がよいと思いますが・・・」

「・・・」

 カジヤマはしばらく考えていたが、やがて言った。

「・・・いや。式典には、予定通り出席する。今回私が頼まれた役目は単なるスピーチではなく、宇宙開拓のために散っていった多くの命を慰めるためのものでもある。いくら怪獣に狙われているかもしれないとは言っても、私がその役目を投げ出すわけにはいかない」

「理事長・・・」

「それに・・・あれから一年。これは自分に対するけじめでもある。この仕事をつとめなければ、私はここから先へは進んでいけないような気もするんだよ」

 部下は黙ってそれを聞いていたが、やがて言った。

「・・・わかりました。それでは、予定通り出席すると伝えておきます。当日はSAMSも警備に加わるということなので、警備体制は信頼できると思いますが・・・」

「そうだな・・・。それに私の人生は、ずっとそんな危険と隣り合わせだった。今更怪獣のおそれがあると言われても、どうということはないよ」

「さすがですね・・・。わかりました。それでは、そのようにしておきます。夜分遅く、失礼しました」

 部下がそう言って電話を切ろうとする。その時

「あ、ちょっと待ってくれ」

彼は慌てて、それを制止した。

「なんでしょう?」

「その怪獣だが・・・詳しい情報はないか?」

「詳しい情報ですか・・・。V7の迎撃をすり抜けて姿を消してしまったので、情報と呼べるものはほとんどありませんが、V7が撮影したという怪獣の写真は送られてきています。そちらにFAXで送りましょうか」

「すまない、頼む」

「わかりました」

「ありがとう。夜遅くまでご苦労だった。ゆっくり休んでくれ」

「はい。それでは、失礼します・・・」

 部下からの電話は切れた。彼はいすに座ったまま、どこか落ち着かない表情で待ち続けた。そして・・・

 ピーッ・・・

 受信音ととともにFAXがうなり、一枚の紙を吐き出し始める。彼は駆け寄るようにそれに近づくと、出力されてきた写真を見た。

「!!」

 写真に写った、山羊と鳥をあわせたような姿のあの怪獣を見たその途端、彼の目は大きく見開かれた。そして、音のしない静かな書斎の中で、顔を青ざめ、全身をわずかに震わせ、いつまでも立ちつくしていた・・・。


 雲一つなく晴れ渡った青空。空には春の訪れと共に輝きを取り戻した太陽が燦々と輝き、その下の街を明るく照らし出している。その街はキッチリと区画整理がされ、碁盤の目のように規則正しい道路が走っている。そしてその道路を、一台の精悍なフォルムを持った車が太陽にその車体を輝かせ、深みと鮮やかさを同時にもつ見事な色合いの緑を通行人達に印象づけながら、颯爽と走り抜けていく。そのドアの横にはハッキリと、SAMSのシンボルマークが描かれていた。

「あぁ〜、ようやくシークレットハイウェイを出られたよ。やっぱりつくばまで来るのは遠いなぁ」

 その車・・・ウィンディのハンドルを握りながら、サトミがあくび混じりに言った。海上区から本土に渡り、そこから地下の防衛軍専用秘密道路、シークレットハイウェイを突っ走り、彼女はここまで運転してきたのだ。

「そんなこと言う割には、ここまでくるのに1時間しかかかってないじゃないか」

オグマが助手席で時計を見ながらそう言うと

「そうです。いくらシークレットハイウェイの中だからって、あんなにスピード出さなくてもいいじゃないですか」

「SAMSがスピード違反で事故を起こしたら・・・しゃれにならないよ・・・」

 後部座席のヒカル、アヤもそう言う。

「だってぇ・・・せっかく400km出せるんだよ? シークレットハイウェイなら他の車は走ってないし、それならやってみないと損じゃないの」

 ここまでの道中、サトミは普段は本領発揮することのできないウィンディの性能を最大限確かめるように、まるでレースのような走りをしてきたのだった。当人はケロッとしているものの、ヒカルやアヤにはこたえたようである。

「でも、やっとお日様の下に出られましたね。晴れてよかったです」

 窓から外を見ながら、ヒカルがやや元気を取り戻したような顔で言った。先ほどウィンディはようやくシークレットハイウェイの出口を出て、つくばの郊外を走り出したところである。やがて、颯爽と走るウィンディの目の前に見えてきたのは、巨大な宇宙船が立つ公園らしき広い場所であった。

「うわぁ、かっこいい宇宙船だねぇ・・・」

 サトミが目を丸くして感心する。

「20世紀に金星探検のため開発された宇宙船・・・フェニックス号だね。もちろん、レプリカだろうけど・・・」

 アヤがそれを見ながら目を細くする。

「よし、ここだ。キシモト、グルッと回りこんで、裏の方へ行ってくれ。警備関係車両の入り口は裏手だ」

「わっかりましたぁ」

 サトミは陽気に返事をすると、クルクルとハンドルを切った。


 やがて裏に回り込むと、そこでは戦闘服を着た防衛軍の隊員が交通整理を行っていた。ウィンディも兵員輸送トラックや装甲車などの後ろに続き、入り口へと進む。やがてその番が来ると、交通整理の隊員が助手席から中をのぞき込んだ。

「ご苦労様です!」

 敬礼をする隊員。オグマ達はそれに返礼を返した。

「そちらこそ、ご苦労様です。うちらは、どこへ停めればいいんですかね?」

 オグマがそう尋ねると、隊員は腕を大きく振って、防衛軍の車両が進んでいく方向とは逆の方向を示した。

「SAMSの皆さんは、そちらの臨時駐機場の方へ停めて下さい。すでにそちらの戦闘機は、到着なさっていますので」

「どうも、それじゃ」

 オグマが軽く手を振ると、ウィンディはゆっくりとそちらへ発進した。

「もうついちゃってるかぁ。かなり飛ばしてきたんだけどなぁ」

サトミが悔しそうに言うと

「当たり前だ。いくら陸の上で飛ばしたところで、空飛んでくるのを追い抜けるわけないだろう」

 オグマがシートにもたれたままそう言った。すると、道路が途切れて目の前に小さな飛行場のようなスペースが見えてきた。そこには防衛軍のヘリコプターなども停まっていたが、一番目を引くのは、並んで鎮座しているSAMSの戦闘機、ナイトとビショップである。そしてその下では、彼らの到着に気がついたらしいケイスケ、ニキ、コジマの3人が手を振っていた。

「ウィンディを思う存分動かせるのはうれしいですけど、なんであたし達だけ自分達の機体で来れないんですか?」

「見りゃわかるだろう。ここは基地じゃないんだ。戦闘機を置けるスペースなんて限られてる。50m近くあるルークを降ろせるわけないだろう。せいぜい、ビショップが限界だな」

 予備の駐車場を利用して臨時に設けられた駐機場は、たしかにビショップを停めるのが精一杯といったスペースである。垂直離着陸ができるSAMSの機体なら滑走路は必要なく、留め置く場所さえあれば問題はないのだが、さすがに巨人機であるSAMSルークには狭すぎる。それが、オグマ達4人のSAMSルーク・クルーがルークではなくウィンディでここまで来た理由だった。

「でも、怪獣がほんとに出たらどうするんですか?」

「たしかに反重力ウォールは使えないが、情報支援ならウィンディからでも十分できるし、防衛軍の機材も使わせてもらえる。ナイトとビショップはあるし、防衛軍だってこれだけの警備を敷いてるんだ。ルークの穴ぐらい、埋め合わせはつくよ。さて、あいつらと合流だ」

 オグマはのんびりと、ケイスケ達のそばに停めるように指示した。その指示通り、ウィンディはそこまで滑るように走ると、ゆっくりと停まった。

「ご苦労様です!」

 敬礼をするニキ達。オグマ達はウィンディから降りてそれに応えた。

「ご苦労さん。やっぱり空路は早いな」

「そっちだって、すごく早いじゃないですか。驚きましたよ」

 ケイスケが時計を見ながらそう言うと

「どうせお前が、シークレットハイウェイを無茶なスピードでぶっちぎってきたんだろ?」

 コジマがサトミを見てニヤニヤしながら言った。

「ただのテストドライブよ。ちゃんとスペック通りの性能が出るか、具合を確かめただけ」

 胸を張ってそう答えるサトミ。

「はい、そこまで。とりあえず、全員現地集合完了。さて、これから防衛軍の警備責任者と話をすることになってるんだが・・・」

 と、オグマが言いかけたときだった。駐機場に、一台のジープが入ってきた。助手席には将官らしき男が乗っている。

「噂をすれば何とやら、だな」

 オグマがそう言っていると、やがてジープはウィンディの隣で停まり、助手席からその将官が降りてきて、帽子をとって敬礼をした。

「ご苦労様です。本日の警備を担当させていただきます、極東基地のハセガワ中佐です。SAMSの皆さんの警備への参加を心より感謝し、歓迎します」

 40歳中程のその将校は、そう言って人好きのする爽やかな笑顔を浮かべて敬礼をした。それに対し返礼を返すSAMS一同。

「隊長のオグマです。こちらこそ、よろしくお願いします。ご覧の通り、私も含めて8人しかいない小さな部隊ですが、ご期待に添えるように頑張ります」

 挨拶をするオグマ。ハセガワは目の前の人数を確認してから、怪訝そうな顔をした。

「8人・・・ですか?」

「ええ。今ここにはいませんが、もう一人、心強いのが・・・」

 オグマの言葉に、ケイスケ達は互いに笑みを浮かべた。ハセガワはようやく合点のいった顔をした。

「なるほど。たしかに、そうですね。彼も警備に加わってくれるのなら、心強いですが・・・」

「ええ、それはたしかに。ただ、彼は本当にピンチヒッターですからね。彼だけじゃなく、我々の出番そのものがないことを祈りますよ・・・」

 オグマとハセガワは互いに笑った。

「さて・・・早速で悪いのですが、これから警備についての打ち合わせを行います。オグマ隊長にも、同行してほしいのですが・・・」

「わかりました。それなら、うちの副隊長も同席させてはもらえないでしょうか? 彼女にも話を聞いてもらった方が、より安心できるので・・・」

「もちろんです。どうぞ」

「ありがとう。よし、ニキ、いくぞ」

「はい」

 そう言って、ジープの後部座席に乗るオグマとニキ。そんなオグマに、ケイスケが慌てて声をかけた。

「キャ、キャップ! そのあいだ俺達はどうすればいいんですか?」

「とりあえず、警備場所のチェックついでに、公園の中をうろついててくれ。まだ一般客は入れてないから空いてるしな。敷地はかなり広いから、二手に分かれた方がいいかもしれない。それじゃあ、頼んだぞ」

 オグマのそんな言葉を残して、ジープは走り去ってしまった。ケイスケ達5人は、あといポツンと残されたが・・・

「ま、いっか。こんないい天気だし、警備ついでにできたばっかりの公園の中をお散歩っていうのも、けっこういいんじゃないの?」

 サトミが能天気な調子でそう言うと、他のメンバーも笑顔を浮かべてうなずいた。

「そうですね。じゃあキャップの言うとおり、二つに別れて歩き回りましょうか」

 ケイスケがそう言うと、サトミ達はうなずいた。

「そうなると、このメンツなら自然と組み合わせはキマリだな。はい、いってらっしゃい」

 そう言ってコジマが、ケイスケに向かってヒカルの背中を押す。

「え? あ、あの・・・」

「向こうに・・・きれいな噴水があるようだよ・・・。二人だけで歩くのも・・・いいんじゃないかな・・・」

 アヤも微笑を浮かべてそう言ったので、ケイスケとヒカルは顔を赤らめた。

「それじゃあたしたちは、向こうのロケットの方へ行ってみるわ。適当な時間になったら戻ってくるから、そっちも時間忘れないでね〜」

 そう言って手を振りながら、サトミ、コジマ、アヤの3人は、向こうにロケットがそびえ立つ左の道を歩き始めた。あとに残された二人だったが・・・

「・・・いこうか?」

「はい!」

 向こうに日を浴びてきらめく噴水が見える、右の道へと向かって歩き始めた。


 歩き出して程なく、ケイスケとヒカルはその噴水の前にたどり着いた。一般客はまだ入ってきていないため、周囲にいるのは警備の防衛隊員か、あるいは一足早くやって来た式典の出席者ぐらいである。二人は静かな雰囲気の中で、陽光を受けてきらめく池の水面を見つめることができた。

「さすがに、できたばっかりの公園だな。凝ったデザインの噴水だ」

 ケイスケは目の前にある噴水を眺めながらのんびりと言った。

「あの、水面のところどころに顔を出してる変な形の石はなんなんだろうな? なにかのオブジェみたいにも見えるけど・・・」
ケイスケがそう言うと、ヒカルが答えた。

「きっと、星を表してるんですよ」

「星?」

「はい。噴水を中心に、間隔を置いて石が並んでるじゃないですか。きっと噴水が太陽で、その周りの石を、地球や他の星に見立ててるんですよ」

「そうか。言われてみればそうだな。なるほどなぁ・・・」

 感心するケイスケ。二人はしばらくのあいだ、そこで噴水を見つめていたが、やがて

「座ろうか?」

ケイスケが近くのベンチを勧めたので、ヒカルは笑顔でうなずいた。

「・・・こうしてると、警備のために来たなんてこと、忘れちゃいそうですね」

 ベンチに腰掛け、ひばりの鳴き声が響く青い空を見上げながら、ヒカルがのんびりと言った。

「そうだな。こんなふうにしてるだけだと、ピクニックに来たのと大して変わらないもんな。だけど・・・」

 ケイスケはそう言いながら、視線を前方へと向けた。

「現に俺達はここへ来てるし、あそこを歩いてる人だって同じだよ。俺達は、仕事で来てるんだ」

 ケイスケがそう言って見たのは、少し離れたところを歩いていく一人の青年だった。その青年が着ているのは、紛れもなく防衛軍の制服。しかし・・・

「でもケイスケ君・・・あの人、ちょっと違いません?」

 その青年の姿を見て、ヒカルが首を傾げた。

「違うって、何がだ?」

「警備担当の防衛軍の人なら、灰色の戦闘服をつけてるはずでしょう? でも、あの人の制服、真っ白です。あれはたしかに防衛軍の制服ですけど、礼服なんじゃないですか?」

 ヒカルの言うとおりだった。その青年が身につけている白い制服は、防衛軍の隊員が入隊式やその他の式典などの時に着る礼服だった。

「あ、ホントだな。じゃああの人は、これから式典に出る人か・・・」

ケイスケはそう言いながら、その青年をもっとよく見ようとするように前屈みになった。すると・・・

「・・・?」

 その視線に気づいたのか、二人の前方を横切ろうとしていたその青年が足を止め、二人の方を見た。一瞬、ケイスケとその青年の視線が合う。その時

「あ・・・!?」

「あれ・・・?」

 二人はほぼ同時に、口を小さく開けて声を漏らした。

「どうしたんですか?」

 ヒカルが怪訝そうな声を出す。そんな間にも、青年はこちらへと歩き始め、ケイスケもまた、ベンチから立ち上がった。やがて、二人ははっきりとお互いの顔を見極められる距離まで近づいた。そして・・・

「ナオトじゃないか! 久しぶりだな!!」

「お前こそ! SAMSも警備に加わってるとは聞いてたけど、ここで会えるなんてな!」

 ケイスケと青年は親しそうに声を交わし、喜びの表情を浮かべた。ヒカルはその二人の様子を横から見ながら、キョトンとした表情を浮かべていた。


 噴水からしぶきを上げて噴き上がる水は、先ほどと同じように静かな水音をたてている。しかし、それを臨むベンチに座る人間は3人に増え、さらに若い笑い声がその場に響いていた。

「それじゃあ、ケイスケ君とカジヤマさんは士官学校時代のお友達なんですね?」

 それまで話を聞いていたヒカルが、確認の意味で尋ねた。

「ええ。お互い、横須賀の士官学校に入って初めてできた友達で、卒業まで同じ寮で暮らしてたんですよ」

 防衛軍の礼服を着た青年・・・カジヤマ・ナオトと名乗る防衛軍の青年将校は、そう言ってヒカルににこやかに微笑んだ。

「俺と同期のパイロット候補生の中じゃ、ずば抜けて飛行技術が優秀だったんだ。その頃の士官学校じゃけっこう有名だったけど、お前は千歳の士官学校出身だからな。知らなくてもしょうがない」

 ケイスケがそう言ったが、ナオトは笑って首を振った。

「それを言うなら、お前だって有名人だったじゃないかよ。現に今、こうしてSAMSで活躍してるのは俺じゃなくてお前だろう?」

「お前にだってSAMS入りの話は来たじゃないかよ。結局それを蹴ってまで、今の道を選んだんじゃなかったのか?」

 ケイスケがそう言うと、ひかるが首を傾げた。

「今の道って・・・カジヤマさんは、今どこの部隊に所属してるんですか?」

 「そちらと違って、実戦からは離れています。防衛軍外宇宙調査隊の候補生として、月で訓練に明け暮れる毎日です。今日はこの式典に出るために、宇宙から降りてきたんですよ」

その言葉を聞いて、ヒカルは驚いた。

「外宇宙調査隊って・・・すごいじゃないですか!」

 外宇宙調査隊とは、その名の通り太陽系を離れ、外宇宙にある未踏の星々を調査することを目的とした、防衛軍の外郭調査部隊の通称である。彼らの任務には長期間の宇宙航行に耐える強靱な精神力や、どんな過酷な星の環境にも耐え抜くための体力、どんな状況に置かれても冷静に対処し活路を見いだす判断力といった資質が要求され、その隊員の選抜試験は、かつての宇宙飛行士並の難度を誇り、SAMSの入隊試験よりも厳しいのではないかという意見さえあるほどである。

「まぁ、カエルの子はカエルっていうのかな。当然って言えば、当然かもしれないけど」

「おい、ケイスケ・・・」

 ケイスケがそう言うと、ナオトが困ったような表情で彼を見た。首を傾げるヒカル。

「なんのことですか?」

「お前、カジヤマ・ツグトシって名前を聞いたことはないか?」

 その言葉を聞いたヒカルは、再び目を丸くした。

「もしかして・・・」

「そう。あの「宇宙の探検王」は、ナオトのお父さんなんだよ」

 ケイスケがそう言ってナオトを見ると、彼は複雑そうな表情で首を振った。

「だから、そういう紹介の仕方はやめてくれっていつも言ってるだろう? なんだか、親の七光りみたいじゃないか」

「いいじゃないか。お前を知ってる奴はみんな、お前が親の七光りなんかじゃないなんてことぐらいわかってるし、それにお前を知ってもらうには、これが一番手っ取り早い。納得したろう、ヒカル?」

 確認するようにヒカルに尋ねるケイスケ。彼女はうなずいた。

「ええ。お父さんを知らない人はいないと思いますよ。でもそれなら、納得できます」

 ヒカルは尊敬の眼差しでナオトを見た。

「参ったな・・・。誤解しないでほしいですけど、俺は今のこの道へ、自分の意志と力でたどり着いたと思っています。そりゃあ、きっかけになったのはそんな風に呼ばれている父親の影響なのは間違いないですけどね・・・」

 ナオトは頭をかきながら言った。先ほどから「宇宙の探検王」と呼ばれているナオトの父親、ツグトシ。彼は防衛軍入隊の数年後から昨年まで、約30年にわたりずっと外宇宙調査部隊で活躍し、その経歴の間に50近い星の調査を行い、数多くの貴重な発見を成し遂げた、もはや伝説の中のような人物である。彼の活躍はマスコミでもよく取り上げられ、防衛軍関係者でなく一般人、特に宇宙に思いを寄せる子供達の間では、知らない者はいないほどである。

「それに、親父と同じ土俵で戦って、親父以上の仕事をしたいっていうのもあります。なにかと親父と比べられるのは面白くありませんけど、たしかに、親父は尊敬しています」

 ケイスケはそんなナオトを笑顔で見つめた。

「士官学校を卒業してすぐにお前が月へ行ってからも、噂は届いてるぜ。早くもお父さんより偉大な調査隊員になれるって、もっぱらの評判じゃないか」

「バカな評判だよ。親父の若い頃より一年早く候補生になれたってだけなのに。実際はあと半年は訓練を受けないと正隊員にはなれないし、そこから自分が乗る調査船が決まるまでも、また訓練を受けながら待たなきゃいけないんだ。まだなんにもしてないのにそんなふうにかいかぶられるのは迷惑だよ。お前の噂だって月まで聞こえてくるが、そっちは実力に裏打ちされてるからうらやましいよ」

 ナオトはそう言って、ケイスケの隣に座るヒカルを見た。

「・・・それに、もう一つの噂も本当みたいだな。お前が幸福の女神を引き当てたってのも」

「「!?」」

 それを聞いたケイスケとヒカルは、思わず強い驚きの表情を浮かべた。

「な・・・ちょっと待て!? なんでそんな話まで届いてるんだ?」

「同じ防衛軍の中を流れる噂なら、マリナーベースだろうが月だろうが関係はないってことさ。「SAMSのシーモンス・シーゴラス」の噂は、俺達みんな知ってるぜ」

 二人は呆気にとられた。二人の仲がマリナーベースや極東基地の隊員達の間に知れ渡っているのは知っていたが、まさか月面基地アルテミスにまで、その噂が届いているとは・・・。

「別にいいじゃないか。ほとんど噂通りなんだろ?」

「・・・人の気も知らないで」

「お互い様だ」

ため息をつくケイスケに、ナオトはニヤニヤ笑いを浮かべながら言った。

「ところで、この式典には何のために? その格好じゃあ、警備の為じゃないようだが・・・」

 話題を変える意味で、ケイスケは矛先を彼の来訪目的へ向けた。

「ああ。お察しの通り、警備のためじゃない。ここへ来たのは、お客さんとしてだ。それに、俺だけじゃない。一緒に月で勉強してる仲間は、みんな今日の式典に参加するんだ」

「へぇ、どうしてだ?」

「・・・親父が、スピーチするんだ」

 ナオトの言葉に、二人は少し驚いた。

「へぇ・・・。たしかお父さん、調査隊を辞めてから長いこと、こういう場とかテレビとかから離れてたな」

「あぁ・・・。公の場に姿を現すのは、一年ぶりだ。あんなことがあったからな。心の整理をつけるのに、親父もきっと苦労したんだろう・・・」

 ナオトがややうつむいて言ったので、二人も口をつぐんだ。

「・・・すまんな」

「お前が謝ることじゃないよ。たしかに残念なことだけど、起こっちゃったことはしかたないもんな。今日の親父のスピーチも、それに関わることなんだよ」

「そうか・・・」

「けど、親父がまたこういう場に出てこれるようになったっていうのはうれしいよ。親父にはやっぱり、強い人間であってほしいから・・・」

 そう言って、ナオトは遠くを見るような眼差しをした。その時・・・

 ピピピ・・・

 ナオトが腕にはめていたタイマーが音をたてた。

「おっと。悪いな、そろそろ集合した方がいいみたいだ」

「ああ」

立ち上がるナオトに、ケイスケとヒカルも従った。

「警備の方は、俺達に任せてくれ。怪獣が現れても、追っ払ってみせるから」

「頼もしいな、SAMSのエースさん。それじゃ、よろしく頼むな」

 ナオトは軽く手を振って、式典の行われる広場へと向かって歩き始めた。そろそろ開幕の時間が近づいたのか、ズラリと並べられた椅子に出席者達が座り始めている。

「そろそろ始まるみたいだな。俺達も戻るか」

「はい。お仕事しましょう」

 ヒカルがニッコリと微笑み、二人はもと来た道を戻り始めた。


 少し時間を巻き戻し、コジマ達がケイスケとヒカルと別れてまもなく・・・

「ほんと、広い公園だねぇ。こんなに広く作れるんなら、半分ぐらいは運動場にしてもいいのにな」

 サトミがあたりを見回しながらそう言った。公園の中はとても広く、今3人がいるような広場がいくつもあった。

「運動場なんか作ったって、使うのは限られた人間だけだろうが。俺はやっぱりコンサートホールかなんか作って、海外の大物アーティストを毎週呼んでライブを開くとか、そういうことをしてほしいな」

「私は・・・巨大な植物園などを作ればいいと思うけどね・・・」

 それぞれが勝手な意見を言いながら、広場を歩いていたその時だった。

 ビュウウ・・・

 突然広場の中を、一迅の風が吹き抜けた。

「うわっ!」

「春の・・・嵐かな・・・」

 目に砂が入りそうになり、慌てて目をかばうサトミとコジマ。アヤだけはいつもの淡々とした口調でそう言った。と、その時

「ああーっ!」

小さな女の子の声が、広場の中に響いた。3人がそちらを向くと・・・

 フワッ・・・

つばの広い、白い帽子が一つ、風に乗ってフワリと飛んでくるところだった。

「わっととと!!」

 慌ててサトミがダッシュし、その帽子が地面に落ちる前にキャッチする。

「ふぅ〜・・・間一髪」

「さすがサトミ君・・・」

 冷や汗を拭うサトミに、アヤが微笑を浮かべた。

「よくやった。さて、それの持ち主は・・・」

 コジマはそう言って帽子が飛んできた方向を見たが・・・

「・・・おやおや。今日はついてるみたいだな」

 思わず頬がゆるむコジマ。そちらからやって来たのは、二人の女性だった。正確に言えば、一人は白いワンピースを身につけた、まだ幼稚園にも行っているかいないかというぐらいの小さな女の子。そして、こちらに駆けてくる彼女のあとを小走りで追う、その母親らしき女性だった。ひょっとしたらまだ20代かもしれないぐらいの、利発そうな顔つきの女性だった。

「はいどうぞ。落ちてないから汚れてないよ」

 サトミはしゃがみこんで女の子と同じ目線になると、笑顔で白い帽子を差し出した。女の子はそれを受け取ったが、恥ずかしそうな表情でモジモジしている。すると・・・

「ほら、お姉さんにお礼は?」

 後ろから母親がそう言ったので、女の子ははにかみながらも

「ありがとう」

そう言って、頭を下げた。笑顔でその頭を撫でてあげるサトミ。

「だから言ったじゃないの。ちゃんと紐を結びなさいって。ほら、じっとしてて」

 母親はしゃがみ込むと、女の子に帽子をかぶせて紐を結んであげた。そうしてから、改めて3人に向き合って頭を下げる。

「すみません。こんなことをさせてしまって・・・」

「いえ、いいんですよ。どんなかたちであろうと、市民の方のお役に立つのは我々の務めであり、喜びですから」

 なぜかズイッと前に出て得意げにそう言うコジマ。

「ちょっと! なんでコジマさんがそう偉そうにすんの!」

 サトミが憮然とした様子で、その襟首を後ろからつかむ。コジマはカエルのつぶれたような声を出して、そのまま引き戻された。

「とにかく・・・帽子が汚れないでよかったですね・・・」

 アヤがそう言って、母娘に優しい笑顔を浮かべた。

「ありがとうございました」

 改めて礼を言う母親だったが、3人を少し見てから言った。

「ところで・・・皆さんは、SAMSの方なんですか?」

「ええ・・・。これでも、大事な仕事を任されています・・・」

 アヤがまだうしろでもめている二人を見て、苦笑いを浮かべながらそう言った。

「そうですか・・・。なにか、怪獣がここを狙っていると聞きましたけど、皆さんのような人達に守っていただけるなら、安心して式典に参加できますね」

 母親はそう言って微笑んだ。アヤが見ると、母親も女の子も、胸に来賓を示す名札をつけていた。母親の名札には「キクカワ・アキコ」、女の子の名札には「キクカワ・ユミ」と書かれていた。

「やはり・・・出席者の方でしたか・・・」

「ええ。ご招待を受けまして、この子と一緒に・・・」

 そう言って、彼女は娘の手を握った。

「ご家族か誰かが・・・宇宙開拓のお仕事に・・・?」

 アヤはそう尋ねた。今回の式典には、宇宙関連の研究を行っている研究者や防衛軍の宇宙船パイロットなど、なんらかのかたちで宇宙開拓事業に関わっている人間、もしくはその親しい関係者のみが招待されているはずである。すると・・・

「ええ・・・。昔、主人が外宇宙調査隊に参加していました。その縁です」

 アキコはそう言って、少し寂しげな表情を浮かべた。よく見ると、彼女の着ているものはグレーのスーツとスカート。式典に出る服装としては、非常に地味なものであった。それを見てアヤは、事情を察した。

「すみません・・・。私がお聞きすることでは・・・ありませんでしたね・・・」

 彼女が申し訳なさそうに言うと、彼女は首を振った。

「いいんです。ちょうどいい機会でしたから。夫が亡くなってから、今日でちょうど一年・・・。ようやく、いつまでも落ち込んでいる場合じゃないって思えるようになってきたところでしたから」

「(一年・・・)」

 アヤは彼女の言葉に、ふとある出来事を思い出したが、あえて口はつぐんだ。と、その時、ユミがアキコを見上げながら言った。

「ママァ、おしっこ」

「はいはい。あら・・・もうこんな時間ね」

 アキコは腕時計を見ると、ユミを抱き上げて3人に言った。

「本当に、ありがとうございました。そろそろ出席者は集合する時間なので、ここで失礼させていただきます」

「どうぞ・・・いってらっしゃい・・・」

「警備は我々が万全を尽くします! 怪獣なんかに邪魔はさせません!!」

「だからなんでコジマさんが偉そうなのよ」

 アキコは笑みを浮かべると、「それでは・・・」と言って、会場の方へと去っていった。

「清楚できれいな人だったなぁ・・・。とても子持ちとは思えないや」

「そんなところまでストライクゾーンだったなんて知らなかったわ。まさか、二人ともなんてことはないでしょうね?」

 ボーっとした様子でそう言うコジマを、サトミは呆れ返った様子で見つめた。

「そろそろ・・・私達も戻ろうか・・・。万全を尽くさなければ・・・ならないんだからね・・・」

 アヤがそう言うと、コジマは苦笑いを浮かべ、サトミも一緒にもと来た方へと戻り始めた。振り返り際、アヤは小さくなっていく母子の姿をチラリと見た。


 それから十数分後。SAMSメンバーは再び、臨時の駐機場に集合していた。

「さて、打ち合わせの結果だが・・・」

 ウィンディのボンネットに広げられた公園の見取り図を見ながら、オグマが言った。防衛軍や警察の配置を示すマーキングがあちこちに書き込まれている。

「結論から言ってしまえば、俺達の出番は最後の最後までないということだ。爆弾テロから迷子の保護まで、人間が起こすトラブルについては警察が担当する。怪獣が出てきた場合も、最初に対処するのは防衛軍だ。そして俺達の出番は、それでも怪獣を停められなかった場合。切り札ということだ」

「やっぱり、そういうことですか」

 大体の予想はついていたらしく、メンバーはうなずいた。

「つまり、怪獣が現れるようなことになるまでは、私達は待機ということ。私とコジマ君はビショップ、ニイザ君はナイトのコクピットにてそれぞれ待機。キャップとキシモトさんは、ウィンディで待機よ」

「え? それじゃ、私とアヤさんは・・・?」

 ニキの言葉に、ヒカルはそう尋ねた。

「あなたたち二人は、防衛軍の警備本部で待機になるわ。充実した通信・観測機材が運び込まれているから、万が一怪獣が現れた場合は、そこから私達に正確な情報を伝えてほしいの」

「わかりました」

 ニキの話を聞いて、ヒカルもアヤもうなずいた。説明が一段落ついたところで、オグマがそのあとに続ける。

「さて、今回は状況が特殊だ。会場内にはたくさんの人がいる。一応、怪獣が現れたときの避難活動の方は防衛軍が手はずを整えてくれているが、実際にそうなったときにどれほどスムーズにいくかはわからない。というわけで、万が一怪獣が現れ、この公園を襲撃することになっても、避難がほぼ完了するまではうかつな攻撃はできない。せいぜいが足を止めるための牽制、それも、人命や施設に被害が出ないよう、いつも以上に百発百中の覚悟でいかなきゃならない。当分の間は、思う存分戦うことはできないだろう。制約の多い戦いになると思うが、全員、そのつもりでいてくれ」

 オグマがまじめな顔でそう言うと、全員が静かにうなずいた。と、その時・・・

 カーン・・・カーン・・・

 式典会場の方から、厳かな鐘の音が聞こえてきた。

「いよいよ始まるらしいな・・・。よし、全員配置につけ」

「ラジャー!!」

 メンバーは敬礼をすると、それぞれの持ち場へと散っていった。


 巨大な公園のほぼ中央に設けられた、大きなステージ。その背後には、地球と鳥を組み合わせてデザインされたと思われる不思議で巨大なオブジェがそびえ立ち、その前には、この式典に招かれた聴衆達がズラリと椅子に座って並んでいる。皆が静まり返り、厳かな雰囲気が流れる中で、先ほど壇上に上がってきた司会者が、そのステージの隅に設置されたマイクスタンドに向かって、上品な声で言った。

「・・・それでは、「開会の辞」。拍手でお迎え下さい。国際宇宙開拓事業団理事長、アレクセイ・クルサノフ氏です」

 その司会者の言葉通り、割れんばかりの拍手に迎えられ、一人の初老の白人の男が壇上に上がり、しっかりとした足取りで演台の前へと歩いていった。

「・・・みなさん、こんにちは」

 同時通訳された声が、会場内に響き渡る。

「まずは、この宇宙開発記念公園の完成を、心よりお祝いいたします。また、その記念すべき完成式典の始まりを告げるご挨拶という大役をお任せいただいたことに、心より感謝し、お礼を申し上げます」

 クルサノフはそう切り出した。

「・・・今から約120年前、一人の人間が初めて地球の重力を振り切り、未知の世界である大宇宙へと、その足を踏み入れました。その勇敢なる宇宙飛行士、ガガーリン少佐によって、初めて人類は自分達の住んでいる星の姿を目で見て、その美しさを改めて知りました。そして、それから十年にも満たないうちに、アメリカの3人の宇宙飛行士達によって、人類はそれまで夜空にその姿を見ることしかできなかった月の上に、その足跡を残したのです。それからすでに、百年以上・・・。すでに人類は月面に都市を造り、さらなるフロンティアを求め、かつては行くことなど考えられなかったほどの彼方にある星にまで、その足を伸ばしています。幾多の宇宙人による侵略という不幸な出来事もありましたが・・・人類はあらゆる苦境を乗り越え、これからも新たな世界を目指し続けるでしょう。その輝かしい歴史、そして、これから紡がれる歴史を記念するために、このような立派な公園が完成したことは、宇宙開拓に関わる人間として、非常に喜ばしい限りです。これを機に、さらに皆さんが宇宙へと寄せる思いが強くなれば、これ以上うれしいことはありません・・・」


「ふぁぁ・・・やっぱり偉い人のお話っていうのは退屈だなぁ・・・」

 ウィンディの助手席で、サトミが大あくびをする。車内備え付けのモニターには、式典のテレビ中継が映し出されている。

「失礼よ、キシモトさん。ちゃんと聞いていなさい」

 そのあくびが通信を通して聞こえてしまったか、通信を通してニキがたしなめた。

「でもリーダー。あたしたちはここの警備に来たわけで、話を聞くために来た訳じゃないと思うんですけど・・・」

「たしかに、ここへ来た目的は警備よ。でも、どんな理由であろうと、私達がこの式典に参加していることはたしかだわ。たとえ人に見られていないとはいっても、それにふさわしい態度は心得ておく必要があるんじゃないかしら」

 ニキの生真面目な意見に、サトミは首をすくめ、助手席のオグマがそれを笑う。そんな平穏な雰囲気をよそに、式典は順調に進んでいった。そして・・・

「では次に・・・現在は宇宙開拓アカデミーの理事長を務められていらっしゃいます、元第37次外宇宙調査隊隊長、カジヤマ・ツグトシ氏より、「宇宙開発犠牲者追悼の辞」です」

 司会者がそう言った言葉に、ケイスケとヒカルは思わず顔を上げた。

「ケイスケ君・・・」

「ああ。あれが、ナオトのお父さんだよ・・・」

 ケイスケはうなずきながら、一際大きな拍手に迎えられながら、杖をつきながら壇上へと上がってくる、初老の男の様子を、モニターでジッと見つめた。


「みなさん、こんにちは。ただいまご紹介にあずかりました、宇宙開拓アカデミーのカジヤマです。本日はこのような式典に出席させていただき、誠に光栄に思っております」

 そう言って、カジヤマは深々と頭を下げた。

「・・・このような公の場所に姿を現すことは、私にとっては実に一年ぶりのこととなります。そのあいだ皆さんの前から遠ざかっていた理由については、すでに皆さんも、ご承知の通りだと思います。私自身、このお話を引き受けるかについてはとても悩みました。ですが・・・こうしてここに立ち、宇宙開発事業の進歩のために散っていった犠牲者達に慰霊の言葉を捧げることが、部下を全員亡くしながらもただ一人生き残ってしまった私にできる償いの一つであると考え、このお話を引き受けることにしました」

 会場内は静まり返っていた。誰もが彼を知っており、そしてまた、彼がこの一年の間、多くの人の目の前に現れなかった理由を知っていたからだ。静寂の中、カジヤマは深く息をつき、再び口を開いた。

「・・・先ほど、クルサノフ理事長がおっしゃったとおり・・・人類が初めて宇宙に飛び出してから、すでに120年以上の時が流れています。その過程で我々は非常に多くのことを知り、種族として大きく成長することができたと思います。ですが、宇宙開発はその輝かしい歴史の裏に、たくさんの尊い命を失ってきたという不幸な事実をも含んでいます。ある者は彼方の星を目指し地球を離れ、そのまま戻ってきませんでした。またある者は、宇宙へ飛び出す途中・・・あるいは、宇宙から戻ってくる途中で宇宙船が爆発し、帰らぬ人となりました。中には、宇宙を目指す夢を抱きながらも、訓練中の事故で命を落とし、夢半ばで逝ってしまった者達もいます。 ・・・私達宇宙に乗り出そうとする者達は、常に自分達がそうした最期を遂げることを恐怖し、同時に覚悟しながらも、それでも自分達の夢を求め、宇宙へと飛び出していくのです。命を落としていった者達の犠牲を無駄にしないためにも・・・」

 そう言って、カジヤマは右前方に目を向け、手をそちらに向けた。

「・・・ご覧になれるでしょう。あれは、そういった犠牲者達の安息を祈るためにたてられた慰霊碑・・・「星の礎」と名づけられたものです。あの表面には、これまでの宇宙開発の歴史の中で犠牲となってきた宇宙飛行士やパイロット達の名前が全て、刻み込まれています」

 そこには、一本の背の高いモニュメントが立っていた。黒い石材で覆われ、先端の尖った背の高いモニュメントで、一見してエジプトのオベリスク、あるいは、それをモチーフに作られたアメリカのワシントンモニュメントを連想させた。そしてその表面には、カジヤマの言葉通り、無数の犠牲者達の名前がビッシリと彫り刻まれていた。

「・・・本当ならば私も、あの柱に名前を刻まれる運命だったのかもしれません。ですが・・・部下を全て失ったにも関わらず、私は助かってしまいました。しばらくの間、私はそのことが許せず、自分を責め続ける日々を送りました。ですが・・・やがて気づきました。そんな無為な日々を送っても、なにもならないと。この私の命に残された時間、私にできる全てのことをやり尽くすことこそが、彼らに対する私の務めなのだと。そして、部下の遺族の方たちも、私がそのように生きることを許して下さいました。だからこそ私は、今こうして生きていられるのです。彼らの分まで生き、彼らの分まで、何かを成し遂げるために・・・」

 そう言うと、カジヤマはモニュメントの頂点を見上げた。

「私はここで、皆さんに申し上げたい。宇宙開発は我々に多くの知識と、そして恩恵を与え、私達の生活をより豊かにしてきました。ですが、その裏にはそうした人達の貴い犠牲と、彼らと同じような犠牲を二度と出すまいとする、あとを継ぐ者達の努力の積み重ねが、常に存在してきたのです。これまでの人生のほとんどを、宇宙開発に捧げてきた人間として申し上げたい。豊かな暮らしの中でも、そのような犠牲者達がいたことを、時には思い出してほしいのです。そして・・・今だけでもよろしいですから、彼らの魂の安息を、ともに祈ってほしいのです。私が申し上げたいのは、それだけです」

 そう言ってカジヤマは壇上で深く頭を下げた。

「これより、一分間の黙祷を捧げます。皆さん、ご起立下さい」

 司会者の声が響き、会場の全員が立ち上がる。そして・・・

「黙祷!」

 カーン・・・カーン・・・

 公園の中に、静かな鐘の音が響き始める。出席者達はもちろん、警備に当たる警官や防衛軍の隊員達、そしてSAMSのメンバー達もまた、それぞれの場所で静かに目を閉じ、人類の夢のために散っていった人々のために祈りを捧げ始める。鐘の音と共に、ゆっくりとした時間が公園の中に流れる。やがて、その一分もまもなく終わろうとしたその時・・・

ピーッ! ピーッ! ピーッ!

「「「!?」」」

 突然、SAMSナイト、SAMSビショップ、それにウィンディの計器が、異常な発信音を発し始めた。その音にそれぞれのメンバーは黙祷を中断され、その表示に見入った。

「なっ、なにこれ!?」

「高エネルギー反応・・・上空に?」

「ヒカル! 何が起こっているんだ!?」

 ケイスケは防衛軍の警備本部にいるヒカルに通信を入れた。

「わ、わかりません! でも、こっちも同じです! 突然観測装置が、一斉に高エネルギー反応を上空に捉え始めたんです!!」

 ヒカルが大きな声で通信機に叫ぶ。突如鳴り始めた警告音に、警備本部の中も騒然となっている。

「このエネルギーの波長は・・・」

 そんな中でも冷静に観測装置に表示されるデータを分析していたアヤが目を細めた。と、その時・・・

「おい! あれを見ろ!!」

 突然、隊員の一人が窓を指さして叫んだ。ヒカルやアヤも思わずそちらを見ると・・・

 ザザザザザザザザ・・・

 無数の虫たちが群を成して羽音をたてているような音とともに、「星の礎」の向こうの空に、不思議な青い霧のようなものが発生し始めていた。

「あ、あれは・・・!!」

 防衛軍、そしてSAMSのメンバーが唖然と見守る中、その青い霧のようなものは密集を始めた。そして、徐々にある形を成していき・・・

バッッッッッ!!

 青い閃光と共に、そこに一つの巨大な存在が姿を現した。

ズゥゥゥゥゥゥゥゥン!!

 それはゆっくりと着地したが、地上には大地震のような震動が響き渡った。

「きゃああああ!!」

 式典に出席していた人達はその震動に一斉に倒れ込み、パニックに駆られた。我先に逃げ出そうとする人達を誘導しようと、防衛軍の隊員達が懸命の対処を始める。だが、それをしりめに・・・

ヒィィィヨァァァァァァァァァァァッ!!

 地上に降り立った怪獣・・・宇宙からやって来たあの青い怪獣は、巨大な翼を振り上げ、空を振り仰ぎ嘴を大きく開き、まるで自らの出現を知らしめるかのように、その喉から鳥の声にも人間の悲鳴にも似た甲高い鳴き声を迸らせた。


To be continued...


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