その日、太陽が昇った。

 部屋に朝日が差し込む。

 それによって、人々も起こされる。

 何気ない日常。いつも通りの時間。

 しかし、それは必ず保証された物ではなかった・・・。


仮面ライダーコブラ

第1話
獣の意思をもつ者


 「おにーちゃーん!朝ご飯できたよー!!」

 騒がしい少女の声が響く。ショートカットの髪型にセーラー服を来ており、目もぱっちりしていて、それなりに可愛かった。この少女の名は青山真琴である。

 「ふああ、もう朝か?」

 家の2階から青年が眠そうにおりてきた。黒いジーパンに青い青いシャツというラフな格好で、髪も少し逆立っている。彼の名は青山健二。真琴の兄であった。

 「早く食べないと遅刻しちゃうよ?」

 「大丈夫だって。そう焦るなよ」

 「もう、ホントマイペース何だから・・・」

 真琴は少し呆れた様に言った。健二は昔からお人好しで、そのせいか性格もマイペースだった。

 「じゃあ、今日から合宿だから、行ってくるね」

 「ああ、何時頃戻る?」

 「日曜日の昼頃には戻ってくると思う」

 真琴は陸上部に所属しており、今日から合宿であった。

 「戸締りはちゃんとしておいてよ?」

 「解ってるって、心配するなよ」

 「じゃ、言ってきまーす!」

 真琴は元気そうに家を飛び出していった。

 「気をつけろよー」

 健二は真琴を見送った。

 「さて、俺もそろそろ出かけるかな・・・」

 朝食を食べた健二は家を出た。そしておいてあった自分の自転車に乗る。

 「今日も1日頑張りましょうか」

 そう言うと健二は、自転車のペダルをこぎ始めた。



 そして30分後、健二は大学についた。

 「おっと、急がないと遅刻しちまう」

 健二は足早に廊下を歩く。すると、

 「キャッ!!」

 突然健二の肩に誰かがぶつかり、悲鳴が聞こえた。

 「あ、スイマセ・・・」

 健二は一瞬驚いた。その人は眼鏡をかけた、ポニーテールの女性だった。彼女は松木綾子。健二の同級生であり、思いを寄せている人でもあった。

 「あ、ゴメンね・・・」

 綾子は少しとぼけた様な顔で謝った。周りには彼女が持っていた紙が散乱している。

 「あ、オレがひろうよ」

 健二は慌てて紙を広い集める。

 「これで全部?」

 健二は紙を綾子に渡す。

 「えーと・・・うん、これで全部だね。ありがとう」

 綾子は健二に礼を言うと走り出した。

 健二は数秒の間優越感に浸っていた。が、

 「やべ、遅刻しちまう・・・」

 慌てて走り出すのであった。



 「であるからして、この法則が成り立つわけで・・・」

 健二は講義を聞いていたが、朝の一軒が有ったためか、あまり聞いていないようだ。

 「今日はここまでにする。次の日にまでにしっかりポイントを整理しておく様に」

 講義が終わり、健二は背伸びした。

 ふと横に目をやると、綾子が回りの女子と楽しそうに話していた。

 「でさー、昨日のドラマ見た?」

 「あー、見逃しちゃった」

 「えー、面白かったのに」

 「マジ?最悪なんだけどー」

 「まあそう気を落とさないで」

 健二はあまり関心が無さそうな目で見ていた。



 午前中の講義が終わり、健二は買ったパンを大学の中庭で食べていた。

 「今日は絶好の晴天だな・・・」

 そんな事を考えながら、ベンチに座っていた。すると、

 「ねえ」

 誰かに話しかけられた。上を向くと、そこに綾子がいた。

 「隣の席、座っていい?」

 綾子は照れっぽく訊いた。

 「・・・別にいいよ」

 健二はOKした。

 「ありがとう。じゃあ座らせてもらうね」

 綾子が隣に座る。健二は内心喜んでいた。

 (うわー、オレの隣に松木がいるよ。何か話しかけないと。でも何て言えばいいのかな・・・)

 様々な考えが健二の脳裏を走っていた。しかし、健二にとっては、綾子と時間を共有しているという事だけで嬉しかった。

 隣では綾子が本を読んでいた。そうこしている内に、時間は過ぎていった。

 「あ、そろそろ私行くね」

 綾子が立った。

 「じゃあオレも」

 健二も立つ。

 「ありがとね。じゃあ」

 綾子は走り去って行った。

 健二にとって、この昼休みが幸せの一時であった。



 午後の講義を終えた後、健二はバイト先のスーパーへ向かった。

 青山家の両親は、父は事故死、母は病死で、数年前に他界している。その為、健二は自分と真琴の分の生活費を稼いでやりくりしていかねばならないのである。

 バイトは3時間ほどで終わった。健二はその後近所の商店街へ向かい、そこで買い物をして帰るつもりだった。

 「晩御飯は何にしようかな・・・」

 そんな事を考えながら、健二は自転車に乗った。

 そして30分後、買い物を済ませた健二は、スーパーを出た。すると、

 「さあさあ豪華賞品が当たる福引だよ!!是非ともチャレンジしてください!!」

 どうやら福引の様である。

 健二はポケットから今しがた貰った福引券を取り出した。

 「ハイ、一回ですね!」

 健二は緊張しながら福引機を回した。出てきたのは・・・金色の玉だった。

 「大当たりー!!大阪への1泊2日の旅行券ー!!」

 なんと大阪への旅行券が当たったのである。

 「すげー、今日は何か運がいいなあ・・・」

 健二は驚いていた。

 「大阪かあ・・・1度行ってみたいと思ってたんだよなあ・・・」

 健二は嬉しそうに帰宅した。



 「じゃあ、どうしても行けないのか?」

 「日曜日の昼まで帰れないの?行きたいけど無理ね」

 「そうか・・・。オレ一人で行く事になるけど、いいのか?」

 「へーきへーき、今は大会に向けての調整で忙しいし。たまにはのんびり旅行でもしてきたら?」

 「そうか・・・じゃあオレ一人で行ってくる」

 「友達とかは?」

 「一人のほうが気楽だからな」

 「ふーん。じゃあね」

 ガチャッ

 電話が切れた。

 結局明日から一人で大阪への旅行へ行く事になった。貯金もあり、交通費も確保出来た。

 「さて、寝るかな」

 そうして健二は布団に潜った。



 翌日の昼頃、健二は大阪へ着いた。

 「ここが大阪・・・」

 そこは非常に活気付いた街であり、多くの人々が行き交っている。

 「流石は天下の台所と呼ばれた街だ・・・」

 健二は大阪の街をみて胸が高鳴っていた。

 「まずは市内見物からだ・・・」

 そう言うと健二はバッグから地図を取り出し、歩き出した。

 「えーと、ここを曲がって・・・」

 健二は地図を見ながら歩いていた。

 「あれ?随分狭い道に来ちゃったな・・・」

 周りは建物で囲まれており、非常に狭かった。

 「まあいいや、もうすぐ抜けられるだろう」

 そう考えて歩いていた。すると、

 「・・・誰だ?」

 健二は周りに何かの気配を感じた。すると突然、

 バンッ!!

 「グハッ!!」

 突然健二の腹部にパンチが炸裂した。

 「だ、誰だ・・・」

 健二の目の前には黒服の男が立っていた。

 「だ、誰なんだあんた等は・・・」

 健二が尋ねた。しかし、

 バンッ!!

 「グッ!!」

 再び健二の腹部にパンチが炸裂した。

 「な、何なんだよ・・・」

 バタッ

 そのまま健二は気を失った。

 「コイツ、気を失ったぞ」

 「まあいい、連れていくぞ」

 そう言うと男達は健二を担ぎ上げた。



 「こ、ここは・・・」

 健二が再び目を覚ますと、目の前には電球が光っていた。

 「こ、ここはどこなんだ・・・?」

 何があったのか、ここはどこなのか、何故自分はここにいるのか、健二は自問自答していた。すると

 「おや、お目覚めかね?」

 誰かの声が聞こえた。

 「だ、誰だ!?」

 健二は驚いて辺りを見回した。すると、白衣を着た不精髭の男が立っていた。

 「どうやら麻酔が思ったより早く切れたようだね・・・」

 「麻酔?なんの事だ!?」

 「君にある手術を施す為に、気を失っていた君に麻酔を投与したのさ」

 男は淡々と言う。

 「何故そんな事をしたんだ!?それにここはどこなんだ!?」

 健二は男に食って掛かった。

 「ここかい?ここは、軍事結社 ガルグド・メタルの手術室さ・・・」

 男が言う。

 「ガ、ガルグド・メタルだって?」

 健二は驚いた。数年前に発足し、様々な工業製品を開発し、世界に名を轟かせていた巨大企業、それがガルグド・メタル社だったのだ。

 「そのガルグド・メタル社が、何故オレを捕まえる必要がある!!」

 「ククク、診断の結果、君はバイオソルジャーの素体に適している事が判明した」

 「バイオソルジャー!? なんの事だ!」

 「君がそれを知る必要は無い。君はもうすぐ私の手によりバイオソルジャーとして生まれ変わるのだからな・・・。既に君の右腕にコブラの遺伝子を組み込ませてもらった」

 男は不敵な笑みを浮かべながら言う。

 「な、何だって!? ふざけるな!!」

 健二はもがくが、手足を固定されていて動けない。

 「ククク、案ずる事は無い。この麻酔を使えば、痛みも消える・・・」

 男は注射針を手にもっていた。

 「や、やめろ!!」

 健二は絶体絶命の危機にさらされていた。しかし、

 「緊急事態!!基地内部に何者かが侵入しました!!」

 突然アナウンスが響いた。

 「な、何!? 侵入者だと!?」

 男はひどく慌てていた。すると、

 ドガァン!!

 壁が突然破壊された。そしてそこにいたのは、金色の長髪の女性と、巨大な腕を持ったロボットだった。

 「き、貴様は、レミィ・デカルト!!」

 男は驚いた。

 「何故貴様がここに!?」

 「黒服の男達を尾行していたらここに辿りついた。しかし、こうも簡単に侵入を許すとは・・・。呆れたものね!」

 レミィと呼ばれた女性が言う。

 「γゴーレム、あの坊やを助けてあげて!」

 レミィの指示を受けたγゴーレムは、手術室の機械を破壊した。

 ガシャッ!

 健二の手足を固定していた輪が外れた。

 「坊や! 早くこっちへ!」

 レミィが怒鳴った。健二は素早くレミィの場所へ向かう。

 「あ、あの、あなたは?」

 健二は恐る恐る聞いた。

 「私はレミィ・デカルト。あなたは?」

 「オレは青山健二です」

 「じゃあ青山君、死にたくなかったら私についてきて!」

 「は、はい!」

 そう言うとレミィは駆け出した。健二も後に続く。

 「おのれレミィ・デカルトめ・・・」

 男は健二達が逃げて行くのを恨めしそうに見ていた。

 「これで済むと思うなよ!!」

 そう言うと男は、近くにあった無線機を手に取る。

 「研究用のサンプルが逃亡した! ファイターソルジャーを使って早急に仕留めろ! 一人たりとて生かして帰すな!!」



 レミィと健二は大急ぎで通路を走っていた。しかし

 ウィーン・・・

 突然通路の扉が開く。

 「な、何だ!?」

 二人は足を止めた。そこから現れたのは、右手に剣を持った3体の人型ロボットだった。

 「ファイターソルジャー・・・私達を殺すつもりの様ね・・・」

 「え!? オレ達を殺す!?」

 健二は驚いた。

 「ギギギギ・・・」

 ファイターソルジャーは不気味な機械音をあげてこちらに歩み寄ってくる。

 「健二君、γゴーレムの後ろに隠れて」

 「え? 何で・・・」

 「私に考えがあるの。取りあえず隠れて」

 「は、はい・・・」

 二人はγゴーレムの背後に隠れた。

 「行くわよ!しっかりつかまっていて!!」

 レミィが声を張り上げる。そして、

 ガアアアッ!!

 γゴーレムは高速で走り出した。

 ドカアッ!!

 そのまま3機のファイターソルジャーを蹴散らす。

 「す、すごい・・・」

 「驚いたかしら? γゴーレム、大至急ここから逃げるわよ!!」



 「奴等に逃げられただと!?」

 「は、はい。ファイターソルジャーの残骸が通路に散らばっていました」

 男は驚いていていた。どうやら健二達が脱出した様だ。

 「おのれレミィ・デカルト・・・。ちょこざいな真似を・・・」

 男は心底不機嫌そうな顔をしていた。



 アメリカ、ワシントンの高層ビル群。

 そこに、ガルグド・メタル社の本社ビルはあった。

 その最上階の部屋の椅子に腰掛け、街を眺めている、一人の男がいた。

 ガルグド・メタル社の社長、マッド・ガルグドであった。

 「社長、日本からの報告です」

 彼の机に秘書と思われる人物からの報告が入った。

 「こちらのテレビに回してくれ」

 「解りました」

 すると社長室の天井から、大画面のテレビが下りてきた。

 そこにいたのは、研究所の男だった。

 「何事だ。沢田博士」

 どうやら沢田というのがあの男の名前らしい。

 「き、緊急事態です、社長!! 先程レミィ・デカルトが大阪の我々の研究所に現れました!!」

 沢田は慌てたように言う。

 「何?あのレミィ・デカルトが?本当か?」

 「間違い有りません! 改造手術を施そうとしていた人間を連れて逃亡しました!」

 「そうか・・・解った。詳細は後で聞かせてもらおう。

 そう言うとマッドは、テレビの回線を切った。

 「どうやら、これは小さな問題ではないようだな・・・」



 「取りあえず、脱出出来たわね」

 レミィが言う。二人は何とか研究所(見た目は雑居ビルであったが)から脱出した。既に日は暮れている。

 「ええ、一度はどうなることかと・・・」

 健二も安堵していた。

 「でも、君は何であそこで捕らえられていたの?」

 「ええ、狭い路地に入ったら、突然黒服の男が現れて、腹にパンチをくらって、気がついたら・・・」

 健二はこれまでのいきさつを説明する。

 「デカルトさんはどうしてここに?」

 「黒服の男達が車に乗ってどこかへ行ったのを見て、密かに尾行していたの」

 レミィが答える。

 「でも、あの時デカルトさんが助けてくれなかったら、僕はどうなっていたか・・・。ありがとうございます」

 健二は礼を言う。

 「いいのよ。困った時は人間お互い様じゃない」

 レミィは笑って答えた。

 「ところで、色々と聞きたい事があるんだけど、いいかしら?」

 「別に構いませんけど・・・」

 「そういえば、君はどうして大阪に来たの?」

 「ちょっと近所の商店街の福引で大阪への旅行券を当てた物で・・・」

 健二はポケットからホテルの宿泊券を出した。

 「じゃあ、一度ホテルに向かったほうがいいわね」

 レミィが提案した。

 「心配だから一緒に行くわ」

 「色々ありがとうございます」

 健二は礼を言って歩き出した。



 「ところで、あのロボットは何ですか?」

 ホテルの近くのレストランで、健二は注文したミルクティーを飲みながら言った。

 「あのロボット? ああ、γゴーレムね」

 「あれって、デカルトさんが造ったんですか?」

 「まさか、私にはそこまで見上げた根性はないわ」

 レミィは笑いながら言った。

 「あれは、私の父の遺したロボットなの・・・」

 レミィは少し暗く言った。

 「へえ、デカルトさんのお父さんで学者だったんですか?」

 「ええ、ロボット工学について研究していたわ」

 「遺したってことは、死んでしまったんですか・・・?」

 「・・・そういう事になるわね・・・」

 レミィは暗い口調で言う。

 「あ・・・すいません。軽はずみなことを聞いてしまって・・・」

 「え?あ、いいのよ。そこまで気にしていないから・・・」

 レミィは話をそらした。

 「で、青山君は明日はどうするの?」

 レミィが尋ねた。

 「とりあえず、自分の家に戻る予定です」

 「ふーん。どこに住んでいるの?」

 「鳥取県です」

 健二が答えた。

 「えっ、私も鳥取に行こうとしていたんだけど」

 「へえ、観光ですか?」

 「違うわ。ちょっと会いたい人がいてね・・・」

 「会いたい人?」

 「之村宗二という人なの」

 「えっ、それって之村博士のことですか?」

 健二が驚いたように言う。

 「そうだけど、もしかして知り合い?」

 「僕の近所に住んでますけど、何か用でも?」

 「その人に会いたいんだけど・・・」

 「じゃあ、僕の住む町まで来てくれればOKですが・・・」

 「わかったわ。じゃあ、明日帰るとき、私も一緒に行くわ」

 「わかりました。じゃあ、明日の9時ごろ、大阪駅で待ち合わせでいいですか?」

 「ええ、いいわ。君はホテルに泊まるの?」

 「ええ、チケットがありますから」

 「そう、じゃあ気をつけてね」

 「色々とありがとうございました」

 そう言うと健二は店を出た。

 それまで平凡な生活を送っていた健二であったが、この日を境に、それは終わりを告げようとしていた・・・。


次回予告

 街に戻った健二とレミィ。二人は、学者である之村博士の家を訪れる。そんな中、健二を危険分子とみなしたガルグド・メタル社は、メタルソルジャー、ガンナーソルジャーを送りこむ。そして、獣の意思が、戦士を生み出す・・・。

 仮面ライダーコブラ 第2話「咆哮」 

 魂の叫びが、聞こえるか?


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