「ば、馬鹿な・・・」
沢田は目の前に映された映像を見て驚愕した。
それは戦闘域に向かったレーダーソルジャーが送ってきた映像だった。
それは、4体のバイオソルジャーが、仮面ライダー、健二を血祭りに上げる物であった。いや、その筈であった。
しかし、目の前に映されたそれは、本来予想された物とは全く異なる結末を迎えていた。
本来は能力的にも物量的にもこちらの勝利は確実であった。しかし、突然女子高生とおぼしき人間が仮面ライダーをかばい、バイオソルジャー、キルマンティスに斬られた、その次の瞬間、突如仮面ライダーは変異し、そして瞬く間に、3体のバイオソルジャーを血祭りに上げた。
「こ、こんな筈では・・・!」
沢田の腕は震えていた。
仮面ライダーコブラ
第15話
戦慄の先にあるもの・・・
「まずは、こちらの映像をご覧ください」
マッドは画面に映された映像を指した。
「これが我が社の新型機、GM−MS04J ジャイロソルジャーです・・・」
画面には上半身がヘリの機体が映し出されている。
「ほう、これは・・・」
「頭部の大型ローターにより、空中飛行を可能とした機体です。現在はテストを含め最終調整に入っていますが、将来的には新たなるメタルソルジャーの素体として機能出来るでしょう・・・」
「ほう・・・君達は中々面白い兵器を造っている様だな・・・」
「恐縮でありますな。プライスは・・・70000ドル(一ドル=100円と換算)でいかがでしょうか・・・」
「とりあえず、現物を拝見するまで保留にしておいていただきたい・・・」
米軍の人間はほくそえんだ。
「・・・そうですか、では、購入の成否は改めてうかがいましょう・・・」
「それより、通常の兵器についてはどうなっているのかね・・・?」
「ご安心ください・;・・こちらに取り揃えております・・・」
「売上についてはどの程度の物になったのかね?」
社内の廊下を歩きながら、、マッドは秘書に尋ねた。
「ハッ、少々お待ちを・・・」
秘書はハンドバックに手を入れた。
「本日、米軍が購入した10mm経口マシンガン、GM−MS00Fメタルソルジャー、しめて1770000ドルです・・・」
「そうか・・・。では重機の売上はどうなっている?」
「今月中に販売したもの、もしくは予約された物、全てを合わせた場合、73000000ドルになります。先月と比べると、約110ドル程降下していますが、平均的でしょう。しかし・・・」
秘書は言葉を切った。
「しかし、何だね?」
「兵器関連については、少々問題と思える事があります」
「何?」
マッドは足を止めた。
「バイオソルジャーの日本での開発が少々波に乗れていない様なのです」
「何だと?」
マッドは顔をしかめた。
「日本でのバイオソルジャーとメタルソルジャーの開発、並びにバイオソルジャー開発の総指揮を取っているのは沢田博士です。しかし、沢田博士は最近バイオソルジャーの開発が上手く進んでいない様なのです。更に先程、博士は4体のバイオソルジャーを失ったとの情報が入りました・・・」
「・・・それは本当なのか・・・?」
マッドの目は釣り上がり、秘書を睨みつけた。
「直ちに大阪の研究所に連絡を入れてくれ・・・」
そう言うとマッドは再び歩き出した。
「了解致しました・・・」
「何故、こんな事が・・・」
沢田は全く理解が付かなかった。
送りこんだバイオソルジャーはどれも高水準の物であり、ましてやそれが4体でかかったなら、こちら側の勝利は確実だった。しかし、事態は全く突然のアクシデントにより、完全に覆されたのだ。
「ぐ・・・くそっ!!」
沢田は大きく機械を叩いた。が、
「ご立腹の様だな、沢田博士・・・」
突如回線が開き、マッドの声が聞こえてきた。
「!? しゃ、社長!」
沢田は驚いた。
「ど、どうか致しましたか?」
沢田は慌てて表情を修正した。が、
「沢田博士、どうやらまたも多大な損失を被った様だな・・・」
マッドは冷ややかな声で言う。
「そ、それは・・・」
「バイオソルジャーを同時に4体消失、これがどういう事なのか解っているのかね・・・」
「め、滅相もございません!!」
沢田は頭を下げた。
「言った筈だ、沢田博士。我々にとって兵器開発とは、あくまでビジネスの一つだ。戦闘はそのデモンストレーションに過ぎない。しかし君は、そのデモンストレーションに多大な金を注いではバイオソルジャーやメタルソルジャーを損失して来た。しかもそれらは全てたった一体の反乱分子が送りこんできた兵士に全滅させられたそうだが、君は反乱分子の駆逐すら満足に行えないのかね?」
「も、申し訳ございません!! 次こそは・・・」
「君は常にそう言っておきながら満足な結果を出せていないではないか。以前にも言ったが、結果の出せない人間は我が社には不用なのだよ。君の言い訳もいい加減聞き飽きた。どうやら来るべき処置を取らせてもらわねばならない様だ・・・」
「き、来るべき処置とは・・・!?」
沢田は青ざめた。
「沢田博士、残念ながら、君は本日付でガルグド・メタルから解雇だ。組織から消えてもらう・・・」
マッドは表情を変えずに言い放つ。
「そ、そんな・・・!! どうかお待ちを・・・」
そこへ、
バンッ!!
突然部屋のドアが勢いよく開き、黒服の男が二人入ってきた。
「な、貴様等は・・・!?」
男達は沢田の腕を掴んだ。
「社長の命令です。残念ながら貴方はここから消えてもらわねばならない」
「な、何だと!? ふざけるな!! しゃ、社長!!」
「安心したまえ、命までは取らない。せいぜいその役に立たない能力を使って生きていく事だな。が、我が社の実態を世間に公開などしよう物なら、即座に首が飛ぶという事を覚えておく事だな・・・」
マッドは冷徹な笑みを浮かべた。
「お、お待ちください!! 社長!!」
そのまま沢田は部屋の外へ連れて行かれた。
ドサッ!
「がっ!!」
施設の外に出された沢田は、地面に倒れ伏した。
「これは貴方の荷物です」
そう言うと黒服の男達は、沢田に手に持っていたバッグを投げつけた。
「ぐ・・・こんな事をしてただで済むと思っているのか!!」
沢田は立ち上がり、食って掛かった。が、
「何とでも吠えていてください。所詮今の貴方はガルグド・メタルから解雇された身。そんな貴方に我々に歯向かう力などないでしょう・・・」
「ぐ・・・」
沢田は歯を噛んだ。
「ご安心ください。この施設はちゃんと我々の手で機能し続ける予定です。では・・・」
男達はそのまま踵を返し、施設内に戻った。
「ぐ・・・何故私がこんな目に・・・」
沢田は歯を噛みながら顔を歪ませた。
「思えば、奴が逃亡して以来、私がこんな目に遭い続けている・・・」
そして再び立ち上がる。
「・・・絶対に、許さんぞ・・・」
沢田の目は憎しみと怒りに満ちていた。
「本当に沢田博士を解雇してよかったのでしょうか?」
秘書が怪訝そうな顔で言う。
「ふっ、有能な学者はなにも彼だけではない。確かに惜しい人材の気もするがな・・・」
マッドは口元に笑みを浮かべながら言う。
「が、どうやらあの男の力を借りねばならない様だ・・・」
そう言うと彼は表情を戻した。
・・・ここは、どこなんだろう・・・。
肩の痛み、寝ている感触、視界に差し込む光、はっきりしない意識の中で、真琴はひたすらに、目の前の光景を見つめていた。が、
「気がついたか?」
聞きなれた声が耳に入る。
「・・・お兄ちゃん・・・」
そこにいたのは、兄の健二だった。
「どこか痛む所は無いか?」
健二が言う。
「うん・・・肩がちょっと痛いけど、他は大丈夫・・・」
「・・・そうか・・・」
「ねえ、お兄ちゃん・・・」
「ん?」
「私、今までどうなっちゃってたの・・・?」
真琴が悲しい声で言う。
「・・・あの時、お前はカマキリに斬られた・・・」
健二は重い声で言い返す。
「そして、病院に運ばれて、数時間くらい眠っていた・・・」
「・・・そう・・・」
真琴は目線を落とした。
「・・・ゴメンな、オレが不甲斐なかったばっかりに・・・」
健二は情けないという顔で下を向いた。
「いや、今回は私の責任だわ・・・リューク君が下がっててって言ってたのに、私が無理に飛び込んだから・・・でも、それより、お兄ちゃんがお兄ちゃんで無くなった様な気がしたの・・・」
「・・・オレが、オレじゃなく・・・?」
「あの時、確かに見たの。私を守ってくれたお兄ちゃんとは違う、闘いを楽しんでいるかの様なお兄ちゃんの姿を・・・」
「・・・すまない・・・今はその記憶が無いんだ・・・」
健二はまた下を向く。
「・・・あの時、恐かった・・・」
真琴が言う。
「真琴・・・」
「本当に、本当に、恐かったよぉ・・・」
真琴の両目から涙がこぼれる。
「お兄ちゃん・・・何があっても、今のままでいてくれるって、約束してくれる・・・?」
泣きながら健二を見る真琴。
「・・・ああ、約束する・・・」
健二は拳を握り締めて言い返した。
「・・・お兄ちゃん!!」
そのまま真琴は健二に抱きついた。
「お、おい、真琴・・・」
「・・・」
病室の外から、残念そうな顔でその光景を見つめる少年がいた。が、
「・・・アンタ、何やってるの・・・」
「いっ!?」
突然話しかけられ振り向くと、そこには彼の姉がいた。
「い、いや、病室に入ろうとしていただけで・・・」
「その割には病室前に立っている時間が長かった気がするけど?」
レミィは口元に笑みを浮かべながら言う。
「い・・・それは・・・」
「ふっ、まあいいわ、それより・・・」
「えっ?」
「ちょっとアンタに聞きたい事があるの、来てくれる?」
「アンタ、何か私に隠し事してるでしょ・・・」
「えっ!?」
リュークは口から炭酸飲料を吹き出しそうな勢いで驚いた。
「な、なんでいきなりそんな事・・・」
「だってアンタ、何か日本に来てから妙にそわそわしてるじゃない?」
「い・・・別に・・・」
リュークは下を向いた。
「だったらこっちを向いて喋ったら?」
再びレミィの口元がにやける。
「おとなしく白状した方が後々楽になるわよ・・・?」
「・・・わ、解ったよ・・・」
リュークは嫌々ながら口を開いた。
「実は、その、真琴さんの事が・・・」
「好き、って事?」
「う、うん・・・」
リュークはまた下を向く。
「ま、いいんじゃない?」
レミィが軽い声で言う。
「えっ?」
リュークは驚いた顔でレミィを見た。
「だって、アンタが真琴ちゃんを好きになろうが、アンタの自由。別に気にする事じゃ無いわよ。それに、人を好きになるって事も、生きて行く上では大切な事だと私は思ってるわ。だから、別にいいんじゃないの?」
「・・・お姉ちゃん・・・」
「まあ、アンタなりのやり方で頑張りなさい!」
そう言うとレミィはリュークの肩に手を置いた。
「う、うん!」
「あ、そうだ、リューク」
「何?」
「好きだからって、あんまりしつこいと嫌われちゃうわよ?」
そのまま沈黙が流れたのは言うまでも無い・・・。
「とりあえず、真琴の体調は回復しましたので・・・」
「ん、そうか・・・」
之村博士は受話機を片手に、周りに置いてある資料を調べていた。
「ところで健二君、リューク君からの連絡だと、ライダースーツに異常が発生したと聞いたのだが・・・」
「それなんですが、記憶が無いんです・・・」
「記憶が無いだと?」
「ええ・・・真琴が斬られた後、意識が途絶えて・・・気が付いたら、化け物はみんな死んでいました・・・」
「記憶が無い・・・それは困りものだな・・・。とりあえず、今は手が放せないので明日詳しく話を聞こう。それと、すまないが、今は見舞いに行ってやれないが、お大事にと伝えておいてくれ」
「いえ、ありがとうございます。では・・・」
そう言うと健二は電話を切った。
「ふう・・・」
博士は受話器を置き、再び作業を再開した。
「確かここら辺に・・・これか?」
そう言うと博士は棚の奥から一つのファイルを取り出した。
「確かここに挟んでおいた筈なのだが・・・」
博士はファイル内の資料をめくった。すると、
「・・・これだな・・・」
博士はその資料の中から、一枚の古めの紙を取り出した。
そこには英語で「By Avann Decaruteo 」と欠かれていた・・・。
翌日
「本当に一人で大丈夫か?」
健二が言う。
「平気だって。私もいつまでも子供じゃないんだからさ」
言い返す真琴。
「そうか・・・じゃ、オレは大学に行ってくるが・・・」
「うん、行ってらっしゃい」
笑顔で見送る真琴。そこへ、
「ハーイ、元気?」
レミィが現れた。
「あら、お出かけかしら?」
「ええ、ちょっと大学へ・・・」
「アンタ、それでも兄なの!?」
「いっ!?」
突然ドスの効いた口調で喋り出すレミィ。
「兄弟が瀕死の状態になった時は、どんな事があってもそばに付き添っていてあげる事が家族の義理という物なんじゃないの!?」
「い・・・それは・・・」
レミィの口調に押されて一歩退く健二。
「とにかく、今日は真琴ちゃんに付き添ってあげてなさい!」
「は、ハイ・・・」
レミィに押され、頷く健二。しかし、
「レミィさん、いいんです」
「え?」
真琴の意外な台詞に驚くレミィ。
「傷の痛みはだいぶ収まったし、それに、一人でも大丈夫ですから・・・」
「そ、そう?」
「はい!」
レミィは頭を掻いた。が、
「・・・解ったわ。いざとなったら私が付いていてあげるわ・・・」
結局は了承した。
「でも、健二君。大学が終わったら、寄り道はせずにまっすぐ戻って来る事、いいわね!」
「・・・解ってます・・・。いつもいつも迷惑かけさせてすいません・・・」
「ありがとうございます、レミィさん」
健二と真琴は頭を下げた。
「ねえ、真琴ちゃん」
「何ですか?」
声を掛けて来たレミィに反応する真琴。
「・・・あなた、健二君に対して世話を焼いてる事って多いのかしら?」
「・・・お兄ちゃんに世話を焼く事・・・ですか?」
真琴は少し首をかしげた。
「そう、そういう事ってある?」
「・・・うーん・・・」
真琴は考えた。が、
「生活自体は・・・お兄ちゃんが生活費や学費を稼いで来てくれてるから、むしろ私がお兄ちゃんに世話を焼かせている方だと思います。でも・・・」
「でも・・・?」
「お兄ちゃん、料理はあんまり上手く無いし、朝も弱いから、そういう所は私が世話を焼いているのかしら?」
真琴はわずかに笑う。
「・・・そう・・・」
「それが、どうかしましたか?」
「いえ・・・家は弟しかいないから、上の兄弟がどういう物かは解らないけど、結構あなたも苦労してるみたいね・・・」
「・・・まあ、それが習慣になっていますからね・・・」
二人は互いに顔を見合わせると、再度笑った。
「あれ? そういえば・・・」
真琴は辺りを見回した。
「リューク君はどうしたんですか?」
「ん? ああ、あいつは訳が有って家にいるわ。とりあえず、「お大事に」って言ってたわ」
「・・・そうですか・・・」
「まあ、私にとっては、世話の焼ける弟でもあるんだけどね」
「へーっくしょん!!」
大きなくしゃみをするリューク。
「どうした、風邪でもひいたか?」
それを見た銀咲が言う。
「いえ、体調は大丈夫な筈ですが・・・」
鼻をこすりながら答えるリューク。
「真琴さん、大丈夫かな・・・」
「・・・腹減ったな・・・」
バイクを走らせていた健二が言う。
真琴が病院に運ばれた後、ずっと付きっきりだったのだが、その間何も口にしていなかった。
「・・・何か食おう・・・」
そう言うと健二は、近くにあったファーストフード店に止まった。
「えーと、財布は・・・」
そして財布の中身を確認する・・・。
「・・・よし、セットメニューなら食える・・・」
そうしてそのまま店内に入った。
「ふう、やれやれ・・・」
健二はメニューを注文し、そのまま店内のイスとテーブルに座った。
「全く、次から次へと・・・」
健二は頭を掻いた。実際、最近立て続けに起こる事態には参っていた。
「何が起こっているのやら・・・」
再びため息をつく。が、
「ふっ、お困りの様だな・・・」
あざわらう様に、何者かの声が聞こえてきた。
「・・・誰だ?」
健二は辺りを見回した。しかし、席には健二を除くと一人の男が座っているだけだった。
「・・・今の声はあなたですか?」
健二はその男の席に歩み寄った。
「ふふふ・・・見ての通りさ・・・」
その男は古ぼけたコートを着ていた。
「じゃあ、聞きますが、あなたは誰ですか?」
健二が言う。
「ふふふ、率直に言ってくれるな・・・だが、」
男は更に笑う。
「これでも、まだ解らんかね・・・?」
そして男は振り向いた。が、
「・・・」
健二は硬直した。
全身から血の気が引くと同時に、激しい怒りの血がこみ上げ、殺意の波動が押し寄せる。
「アンタは・・・!!」
その男は、健二を改造した人間、即ち、沢田だったのだ。
「ふふふ、ようやく解ったか・・・」
沢田は笑い続ける。
突如現れた思わぬ伏兵。果たして、この先に何が待つのか・・・?
次回予告
突如目の前に出現した沢田。彼は科学者としての意地をかけ、健二に戦いを挑む。そして健二は、ガルグド・メタルの実態の一部を垣間見る。そんな中、ガルグド・メタルに、沢田の代わりにある人物が出現する。そして、同じくして、巨大なメタルソルジャーが出現する・・・!
仮面ライダーコブラ 第16話 歯車の襲撃
魂の叫びが、聞こえるか?