「・・・まさか、反乱分子の仕掛け人が貴様だったとはな・・・」

 沢田はコーヒーを飲みながら、向かいの席に座った之村博士に言った。

 「そういうお前は、2年もの間何をやっていたのだ?」

 博士は沢田に聞き返す。

 「聞くところ、まだガルグド・メタルにいた様だがな・・・」

 手に持ったコーヒーカップをテーブルに置く博士。

 「ふん、貴様には関係無い事だろう・・・」

 そう言うと沢田は窓の外を見た。

 「何故だ・・・」

 博士が言う。

 「何故、お前はガルグド・メタルに荷担したのだ・・・」

 「・・・」

 沢田は黙りこむ。が、

 「・・・ふ、ガルグド・メタルの力を使えば、いくらでも研究が出来るからな・・・」

 沢田はほくそえむ。

 「・・・お前はそれでいいのか?」

 「何がだ?」

 「お前は、2年前のあの事故を忘れたのか?」

 そう言う博士の口調は、いつもよりも荒い物だった。


仮面ライダーコブラ

第17話
追憶と苦しみと


 「大丈夫かな、博士は・・・」

 喫茶店の外で、健二は落ちつかない表情で立っていた。

 之村博士に頼まれた喫茶店に沢田を連れてきた健二は、「少し席を外してくれ」という博士の頼みで、外にいたのだ。

 「全く、オレは部外者かよ・・・」




2013年 7月 アメリカ
ガルグド・メタル 第2工場

 「調子はどうだ、栗原さん」

 之村博士は、正面がガラスで覆われた、実験室の様な場所にいた。

 ガラス越しには、ロボットの様な姿の人影があった。

 「問題ありません、之村博士」

 そこから聞こえたのは女性の声だった。

 「そうか、一端戻ってくれるか?」

 「解りました」

 そう言うと、人影は腰の機械を押した。

 すると、一瞬で人影を覆っていた物が銀色に変化し、そのままゲル状になり、機械の中に戻った。

 そして現れたのは、黒いポニーテールに白衣を着た女性だった。

 年齢は多く見積もっても24、5位で、整った顔立ちをしており、美女、とまでは行かなくても、非常に凛々しかった。

 「今日の実験はここまでですか?」

 ドアを開けて実験室に入って来た女性、栗原亜紀が言う。

 「そうだな。とりあえず、詳しい感想は喫茶店でお茶でも飲みながら聞こうか」

 「もう、博士ったら・・・」

 亜紀はくすりと笑った。



 「で、今回の試作型の調子はどの様な物だった?」

 コーヒーをテーブルに起き、博士は亜紀に言う。

 「全体的に見るといい感じでした。しかし、」

 亜紀は言葉を切る。

 「瞬発的な動作については、まだ癖がある様です」

 「癖だと?」

 「ええ、通常速度で動くには問題無かったのですが、瞬発的な動作、例えば、高速で走る場合等、着ている人の動作に比べて、スーツの反応が若干ですが劣っている感じがしました」

 「・・・そうか・・・」

 「慣れれば平気という程度でしたが、そこら辺が微妙に使いづらい印象でしょうか・・・」

 「うむ・・・万人が使い易いというのがこのライダースーツのコンセプトだからな・・・。そう考えると、まだ改良の余地はあるな・・・」

 「ええ、それさえ満たせば、企業用としては十分通じるレベルだと思います」

 「そうか・・・ここ等辺が課題だな・・・」

 そう言うと博士は再びコーヒーを口に運んだ。

 「午後からも実験は行うんですか?」

 亜紀が言う。

 「ああ、まったりやって行くつもりだ・・・」

 コーヒーをすすりながら博士は答えた。そこへ、

 「お熱いようだな、お二人さん」

 突然誰かが声をかけてきた。

 「・・・お前か・・・」

 博士は声の主を見た。

 そこにいたのは、同僚の沢田だった。

 「随分不機嫌の様だな」

 「そんな事は無い。お前も座るか?」

 「フッ、最初からそのつもりさ」

 「・・・お前という奴は・・・」

 沢田はそのまま亜紀の隣に座った。

 「こんにちは、沢田博士」

 亜紀は沢田に笑いかけた。

 「ああ、久しぶりだな、栗原さん」

 沢田も挨拶を返す。

 「そちらの研究はどうなっている?」

 沢田は博士に尋ねた。

 「ああ、快調だ・・・」

 博士は目を細めて答えた。

 「試作テストは順調に進んでいる。細かい部分を改良して行けば、完成するのはそう遠く無い筈だ・・・」

 「そうか」

 「そういうお前はどうだ?」

 聞き返す博士。

 「・・・どうだろうな・・・」

 うつむく沢田。

 「お前の研究は確か・・・遺伝子工学だったな・・・」

 「そうだ・・・」

 「・・・私は正直、バイオテクノロジーという物には賛成出来んな・・・」

 「・・・何故だ?」

 「生物に人為的に手を加えて進化させる。これまで遺伝子組替えやクローン等、様々な学者が実験を繰り返して来たが、それらが正気の沙汰とは思えないな」

 「・・・」

 沢田は黙りこんだ。が、

 「之村、時代は変わったんだ。今の我々の科学力を持ってすれば、この先更に人類を繁栄させる事も可能だろう。やがては人間の生命力の限界ですら超えられるかもしれないのだ。これは素晴らしい事ではないのか?」

 「それは明かに人道を踏み外した行為だ。生命は生まれた時から限界という物を必ず持っている。遅かれ早かれ、その限界は必ず訪れる。それを越えれば、必ず死ぬのだ。それを科学の力で捻じ曲げるなど、自然の摂理に反する事だ・・・」

 「・・・その考えを押し通す気か?」

 「ああ」

 「・・・之村、いつまでも古い固定観念に捕らわれていたら、時代に置いて行かれる事になるぞ」

 「構わんさ。私は自分の考えを貫き通すだけだ・・・」

 「・・・どうやら私とお前では意見が合わない様だな・・・」

 そう言うと沢田は席を立った。

 「先に失礼させてもらう」

 「・・・そうか・・・」

 「栗原さん、今度お茶でもどうですか?」

 亜紀に尋ねる沢田。が、

 「お気持ちだけ有り難く受けとっておきますわ」

 亜紀は笑顔でアッサリと誘いを断った。

 「・・・そうですか・・・」

 沢田は引きつった笑みを浮かべた。

 「じゃ、また・・・」

 その場から立ち去ろうとする沢田

 「まあ、色々有るだろうが、お互い頑張ろうや・・・」

 「・・・ああ、お前もな・・・」




 「とりあえず、この後研究室で微調整を行わねばな・・・」

 博士と亜紀は歩きながら話していた。

 「博士は本当に研究熱心なんですね」

 上目遣いで見上げる亜紀。

 「ああ、好きな事をやっている訳だから、自然と熱意も沸いてくるという物さ」

 博士は笑い返す。

 そうこうしている間に、既に工場の入り口の前に着いていた。




第2工場 地下の一室

 無数のカプセルが並ぶ、暗い部屋。

 が、一つだけ割れたカプセルがあった。

 そしてすぐそばには、人間とも他の生物とも違う「何か」が立て肘を付いていた。

 「さてと、調整の続きを・・・」

 そこへ、研究員らしき男が一人入ってきた。が、

 「・・・え?」

 男は「何か」を見て硬直した。

 「ウオォォッ!!」

 唸り声を挙げる「何か」

 「ひっ、ひやぁぁぁぁ!!」

 男は大声で叫んだが、直後に声は途絶えた。




 「博士、ちょっと手を洗ってきていいですか?」

 亜紀が言う。

 「ん? ああ、構わないが・・・」

 「ありがとうございます。すぐ戻りますので・・・」

 亜紀は軽く頭を下げると、研究室から出て行った。




 「えーと、確かトイレは・・・」

 亜紀はあたりを見回しながら歩いていた。が、

 「・・・!」

 突然、目の前を見て息を飲んだ。

 そこには、大量の血を流しながら倒れている研究員がいた。

 「キャァァァ!!」

 叫び声をあげる亜紀。が、

 「ぐ・・・」

 研究員はかろうじて生きていた。

 「し、しっかりしてください! 何があったんですか!?」

 研究員を起こす亜紀。が、

 「に、逃げろ・・・」

 血まみれの研究員は思いも寄らぬ事を言う。

 「ここから逃げないと、あんたも、殺され・・・・」

 言葉を言い終えようとした直後、研究員は息絶えた。

 「え!? ちょ、そんな・・・」

 困惑する亜紀。が、

 「うわぁぁぁ!!」

 再び絶叫が響いた。

 「え・・・!? 何なの!?」

 死体を床に置き、立ち上がる亜紀。

 目の前の角を曲がり、「何か」が姿を現した。

 その姿は、体型こそは人間に近かったが、体格は通常の人間の数倍大きく、一部の血管は剥き出しになっている。まさに「怪物」だった。

 その腕には、人間の首が握られていた。

 「!? キャァァァァ!!」

 再び叫び声をあげる亜紀。

 「ウォォォ!!」

 怪物は握った生首を握りつぶし、唸り声をあげた。




 「・・・今の叫び声は、栗原さんか・・・?」

 亜紀が戻るのを待っていた博士は、突然響いた叫び声を聞いた。

 「まさか・・・栗原さんの身に何かがあったのか・・・?」

 博士は顔をしかめた。が、

 「ウオォォッ!!」

 そこへ響き渡る、不気味な唸り声。

 「・・・まずいな・・・」

 危険を確信した博士は、正面の機械にキーボードを打ち込んだ。

 そして、機械の一部が開き、中から緊急時の為に配備されていたマシンガンが姿を現した。

 「無事でいてくれよ・・・栗原さん・・・」

 博士はマシンガンを手に取り、部屋を駆け足で出た。




 「どこだ・・・栗原さん・・・」

 研究所内の廊下を走る博士。が、

 「おい、之村!」

 突然誰かに呼び止められた。

 「沢田か・・・」

 そこには、博士と同じくマシンガンを手に持った沢田がいた。

 「お前も悲鳴を聞いたのか?」

 沢田が言う。

 「そうだ・・・お前もか?」

 「ああ、まさか、あの声は栗原さんか?」

 「解らん。が、いずれにせよ放っておく訳にはいかんだろう」

 「確かにな・・・」

 二人は再び走り出した。




 「いっ、いや・・・来ないで・・・」

 亜紀は床に尻餅を付き、泣きじゃくりながら必死に目の前の怪物から逃げようとしていた。が、力が抜けて立ち上がる事もままならなかった。

 「グォォ・・・」

 更に前に進む怪物。が、

 「栗原さん! 伏せろ!」

 「えっ!?」

 突然誰かに怒鳴られ、言われた通りに床に伏せる亜紀。が、

 「グォォ!?」

 怪物は唸り声をあげた。

 呆然とした。怪物に何発かの銃弾が当たったのだ。

 「大丈夫か! 栗原さん!」

 そこへ駆け寄ってきたのは、博士と沢田だった。

 「ゆ、之村博士・・・それに、沢田博士も・・・」

 驚きと安堵が入り混じった表情をする亜紀。

 「怪我は無いか?」

 怪物に銃を向けながら、博士が言う。

 「え、ええ・・・でも・・・」

 亜紀は怪物を見た。

 先程銃弾が当たって体勢を崩したが、今また体勢を立て直していた。

 「くっ、あれは・・・」

 沢田は苦しそうな表情をする。

 「あの怪物が何なのか、知っているのか?」

 苦し紛れに沢田に尋ねる博士。

 「・・・あれは、実験体だ・・・」

 「実験体だと?」

 「ああ・・・」

 再び苦しそうな顔をする沢田。

 「あれはバイオソルジャー、アイアン・ラージだ・・・」

 「バイオソルジャー・・・まさか、生物兵器か・・・?」

 「・・・そうだ・・・アイアン・ラージはゴリラに遺伝子改良を施し、強化させた物だ・・・」

 「それが、バイオソルジャーという物か?」

 「ああ、現在まで、あのアイアン・ラージを含む幾つかの実験体が研究されていたが、暴走するとはな・・・」

 怪訝そうな顔をする沢田。

 「ウォォ・・・」

 そんな中、アイアン・ラージは、彼等に歩み寄る。

 「どうやら、今はのんびり話している余裕も無い様だ・・・」

 アイアン・ラージを睨みつける博士。

 「その様だな・・・」

 同じく銃を構える沢田。

 「栗原さん、今すぐ全力で安全な場所へと走って逃げてくれ。ここは危険だ」

 「え? で、でも・・・」

 涙を拭き、困惑した表情をする亜紀。が、

 「急げ! 早くここから逃げるんだ!」

 銃を構えて怒鳴る博士。

 「は、博士・・・解りました・・・」

 何とか立ち上がる亜紀。

 「二人とも、どうかご無事で・・・」

 そのまま亜紀は走り去った。

 「さて、どうする・・・」

 「やられる前にやれ、そういう事だ・・・」

 「その様だな・・・」

 そう言うと二人は同時にマシンガンのトリガーを引いた。




 「はあ、はあ・・・」

 亜紀は息を切らしながら走り、研究室まで辿りついた。

 「之村博士や、沢田博士が頑張っているのに・・・」

 室内に入った亜紀は、機器の上に置いてあった箱を手に取った。

 「私だけ、逃げてる訳には行かないわ・・・!」

 亜紀は意を決し、室内から出た。




 「ウオォォッ!!」

 その巨体に似合わぬスピードで迫るアイアン・ラージ。

 「ちっ!」

 博士は右に転がり攻撃をかわす。

 「ウオォォッ!!」

 そのままアイアン・ラージの放った拳は壁に激突し、大きく壁をえぐった。

 「くたばれ、化け物が!!」

 姿勢を立て直し、マシンガンを撃つ博士。

 「ウオ・・・」

 アイアン・ラージは振り向いた。

 銃弾が当たった数カ所から血が流れているものの、どれも致命傷には至っていなかった。アイアン・ラージはまだ戦闘可能だった。

 「ちっ、しぶといな・・・」

 舌打ちする博士。

 「ゴリラの他にも数種類の生物の遺伝子を組み合わせて出来ているからな・・・表皮の硬さは通常のゴリラの比では無いだろう・・・」

 駆け寄った沢田が説明する。

 「よくまあ、そんなとんでもない怪物を平然と造れた物だ・・・」

 博士は呆れた口調で言う。が、

 「ウォォォッ!!」

 アイアン・ラージは再び攻撃を仕掛けて来た。

 「だあぁぁっ!!」

 大声をあげてトリガーを引く博士。

 しかし、途中でマシンガンの振動が無くなった。

 「ちっ、弾切れか・・・」

 マシンガンの残弾数はゼロになっていた。

 「ウォォォッ!!」

 構わず突進してくるアイアン・ラージ。が、

 「!? 何っ!?」

 顔を上げて驚く博士。

 アイアン・ラージが博士のそばまで迫り、今にも拳を振り下ろそうとしていた。

 「之村あぁぁ!!」

 それを見た沢田は再びマシンガンを撃とうとする。が、

 「博士ぇっ!!」

 誰かの声が響いた次の瞬間、

 「ウオッ!?」

 攻撃を仕掛けようとしていたアイアン・ラージは体勢を崩した。

 「何?」

 博士も沢田も驚いた。

 どうやら誰かがアイアン・ラージに体当たりを仕掛けたらしい。

 そしてそれとおぼしき人は、何故か博士が造ったライダースーツを着ていた。

 「ライダースーツ?・・・まさか・・・」

 博士は目を疑ったが、そのまさかだった。

 「二人とも、大丈夫ですか?」

 ライダースーツを装着していたのは、紛れも無く亜紀だった。

 「く、栗原さん! なんで戻って来たんだ!?」

 「ここにいては危険だ!早く逃げろ!」

 口を揃えて怒鳴る博士と沢田。が、

 「・・・残念ですが、それは出来ません」

 静かに言い返す亜紀。

 「何!?」

 またも口を揃えて驚く博士と沢田。

 「二人が必死で戦っているのに、私だけ逃げ延びるなんて、そんな事出来ません」

 亜紀は強い口調で言う。

 「しかし・・・あれは化け物なんだぞ? 危険過ぎる」

 博士は亜紀を説得しようとした。が、

 「心配してくれて有難うございます。しかし、例え相手が何であったとしても、私、戦います」

 亜紀の意思は固い物だった。

 「沢田博士、マシンガンを貸してもらえますか?」

 「何?」

 亜紀は沢田を見た。が、

 「ウォォ・・・」

 アイアン・ラージは起き上がった。

 「時間が無い! 早く!」

 亜紀は怒鳴る。

 「しかし・・・もう弾は殆ど残っていないぞ」

 「それでもいいんです! 早く」

 「・・・解った・・・」

 沢田は亜紀にマシンガンを手渡した。

 「沢田!」

 博士は沢田を睨みつけた。が、

 「彼女が自分の意思で決めた事だ。私達が止めても無駄だろう・・・」

 沢田は冷静に否定する。

 「・・・こうするしかないのか・・・」

 博士は拳を握り締め、悔しそうな表情をした。

 「之村博士、沢田博士、下がってください・・・」

 亜紀はマシンガンを構える。

 「之村、今は下がった方がいい・・・」

 「・・・仕方ない・・・」

 博士と沢田は数歩後退した。

 「ウオォォッ!!」

 アイアン・ラージが突進を仕掛けて来る。

 「こいつ!」

 亜紀はマシンガンのトリガーを引いた。

 「ウオッ!?」

 弾丸を食らったアイアン・ラージは一瞬ひるんだが、すぐに姿勢を立て直す。そして次の瞬間、

 「ウオォォッ!!」

 亜紀の真上から拳を振り下ろすアイアン・ラージ。

 「くっ」

 亜紀は跳躍してそれをかわす。

 目的を逃した拳は、大きくその場をえぐった。

 「でえぇい!」

 亜紀はそのままマシンガンのトリガーを引いた。

 「ウォォ!!」

 唸り声をあげるアイアン・ラージ

 先ほどからの攻撃の甲斐あってか、少しずつダメージが蓄積されている様だったが、それでもまだ致命傷には至っていない。

 「ちっ」

 着地し、舌打ちする亜紀。

 「ウォォ!!」

 しかし、アイアン・ラージの容赦無い拳が迫る

 「! しまった!」

 亜紀がマシンガンを構えた時、既に拳はすぐそばまで迫っていた。そして、

 「キャァァッ!!」

 拳の直撃を受け、亜紀は吹き飛ばされた。

 「あ・・・」

 そのまま壁に激突する亜紀。

 「栗原さん!」

 博士と沢田は叫んだ。

 「う・・・あ・・・」

 何とか起き上がろうとする亜紀。

 「ウォォ・・・」

 再び迫るアイアン・ラージ。

 「くっ、何とかならないのか!」

 離れた距離からその光景を見ていた沢田が舌打ちする。

 「栗原さん・・・」

 博士も食い入る目でその光景を見ていた。




 (うっ・・・やっぱり、このスーツで戦いを挑む事に無理があったの・・・?)

 起き上がった亜紀は、苦しい表情をした。

 本来亜紀が着ているライダースーツは作業用である。そこそこの強度は持ち合わせており、ある程度の衝撃なら吸収してくれる。しかし、これはあくまで作業用であり、戦闘だと同じ様には行かない。銃弾を食らえばダメージを受けるだろう。そして、今相手をしているのは人間の何倍もの力を持った怪物だ。おまけに今のライダースーツは最終調整が終わっていない、未完成の試作品である。この状態で、更に戦闘用の調整が成されていない中で、得体の知れない怪物と戦うのは無謀であった。

 (でも・・・ここで倒れたら・・・)

 それでも亜紀は必死で自我を保った。今ここで倒れれば、アイアン・ラージを倒す事は出来なくなる。

 「あんな怪物に・・・負けて、たまるものですが・・・」

 そして数メートル先に転がっているマシンガンを見た。

 「ウォォ!!」

 追い討ちをかける様に攻撃してくるアイアン・ラージ。が、

 「学習能力が無いっていうのは、アンタみたいな奴の事を言うのよ!」

 亜紀はアイアン・ラージに穿き捨てると、跳躍して攻撃をかわした。

 「何度も攻撃に当たってばかりと思ったら、大間違いよ!」

 着地し、そのままマシンガンを取ろうとする亜紀。しかし、

 「ウォォ!!」

 「え!?」

 アイアン・ラージは壁にめりこませた腕をすぐに抜き取り、手の甲で攻撃してきた。

 「キャァァァ!!」

 突然の攻撃に回避しきれなかった亜紀は、攻撃を受け吹き飛ばされた。

 「くっ・・・反応は鈍くはない様ね・・・」

 意外な反撃に驚く亜紀。しかし、すぐに起き上がる。

 「でも、今度はそうはいかないわ!」

 亜紀は握っていたマシンガンを撃とうとした。が、

 「ウォォ!!」

 アイアン・ラージの行動は予想外の物だった。

 「え?」

 亜紀は目を見張った。

 アイアン・ラージの腕から、無数の鞭の様な物が現れ、亜紀に向って来たのだ。

 「えっ!? 何あれ!? キャァァッ!?」

 鞭の様な物は亜紀の腕に巻き付き、亜紀は悲鳴をあげた。

 「何これ!? ・・・バラ・・・?」

 亜紀は手に巻き付いた物が植物、形状からしてバラの様な形だという事に気付いた。

 「ウォォ!!」

 そのままバラの触手を引っ張るアイアン・ラージ。

 「キャァァッ!」

 亜紀はそのまま大きく孤を描く様に宙を舞った。そして、

 「がっ・・・!?」

 そのまま壁に激突した。

 「ウォォ!!」

 再びアイアン・ラージは触手を引っ張る。

 「くっ・・・」

 痛みに打たれても、亜紀は必死に左腕のマシンガンを握っていた。

 「こいつっ!!」

 亜紀は持っていたマシンガンをアイアン・ラージの右腕に向けた。

 「いつまでも、調子に乗ってるんじゃ無いわよ!!」

 そして亜紀はトリガーを引いた。

 「ウォォ!?」

 弾丸はアイアン・ラージの右腕に当たる。

 そしてわずかに隙が発生し、亜紀を締め付けていた触手がゆるんだ。

 「よし、抜けられる!」

 その隙を見て触手から逃れようとする亜紀。しかし、

 「ウォォ・・・」

 アイアン・ラージは低い唸り声をあげ、左腕をわずかに前に出した。が、

 「えっ?」

 亜紀は目を見開いた。

 アイアン・ラージの左腕から、無数の触手が現れた。

 「! キャァァッ! な、何なの!?」

 悲鳴を上げる亜紀。

 触手は一瞬で亜紀の上半身に巻き付いた。

 「く・・・」

 今の亜紀の上半身は触手によって固く締め付けられ、力を加えてもビクともしなかった。

 「ウォォ・・・」

 アイアン・ラージは今度は右腕を前に突き出す。

 そして、腕からまた触手が現れ、ねじれ、形状を変化させて行く。

 「な・・・」

 その光景を見た亜紀は驚きと同時に、ある事に気付いた。

 触手を出している間、アイアン・ラージの腕が激しく鼓動を繰り返していた。

 (あれは一体・・・」

 それを見て不審に思う亜紀。しかし、

 「ウォォ・・・」

 アイアン・ラージは腕の触手を変化させ、槍の様な物を作り出した。

 「くっ・・・まずい・・・」

 それを見て我に帰る亜紀。

 しかし、上半身は触手により、動かす事さえままならない。

 「ウォォ・・・」

 アイアン・ラージは攻撃体勢を取る。そして、

 「ウオォォッ!!」

 アイアン・ラージは大きく腕を振りかざした。

 「くっ・・・!!」

 亜紀は目を閉じた。

 (ゆ、之村博士・・・!)




 時が止まったかの様な静かさが、そこにあった。

 「・・・」

 博士も沢田も、呆然とその光景を見た。

 アイアン・ラージの振りかざした拳は、亜紀の腹部を貫いた。

 そして、腰に装着した機械から火花が散ったかと思うと、亜紀の体を守っていたライダースーツはゲル状に戻り、消えた。

 亜紀の血は、アイアン・ラージの拳を伝って地面に流れ落ち、池を作っていた。

 そして、亜紀の手から落ちたマシンガンが、その池の中に落ちた。

 「そ、そんな・・・」

 博士は頭が真っ白になった。

 「馬鹿な・・・」

 沢田も同様だった。

 「ウォォ・・・」

 アイアン・ラージは亜紀を放り投げた。

 「く、栗原さん!!」

 亜紀のそばへ駆け寄る博士と沢田。

 「しっかりしろ! 栗原さん!」

 博士は亜紀の身体を起こした。

 「まだ脈はある・・・しっかりするんだ!」

 亜紀の手を握り、叫ぶ沢田。

 「・・・う・・・あ・・・は・・かせ・・・」

 亜紀は必死に喋ろうとする。

 「何も言うな、大丈夫か!?」

 亜紀の手を握る博士。

 「はかせ・・・あいつの・・・みぎ、かたを・・・」

 「解った、もういい、喋るな・・・」

 「・・は、かせ・・・わたし・・・はかせのおやくに・・・たてましたか・・・?」

 目に涙をにじませながら喋る亜紀。

 「ああ、決して無駄にしない・・・」

 博士は亜紀の手を強く握る。

 「よ・・・かった・・・やく・・・そく、ですよ・・・」

 亜紀は笑みを浮かべる。

 「ゆきむら・・・はかせ・・・さわだ・・・はか、せ・・・いままで・・・ありがとう・・・ござ、い・・・まし・・・」

 そのまま、亜紀は動かなくなった。

 その表情は、笑ったままだった

 「・・・栗原さん・・・」

 「・・・くっ・・・」

 顔を落とし、沈黙する博士と沢田。

 「・・・沢田、栗原さんは奴の肩が弱点だと言っていたな・・・」

 顔を上げ、アイアン・ラージを睨みつける博士。

 「ああ、間違い無い・・・」

 沢田も顔を上げる。

 「そこを潰せば、奴にダメージを与えられる、そういう事か」

 「可能性は否定できんな・・・」

 博士は立ち上がる。

 「頼んだぞ・・・」

 「無論だ・・・」

 一言言葉を交わし、走り出す博士。

 「ウォォ!!」

 拳を振り下ろすアイアン・ラージ。

 「くっ!」

 博士は横に転がり、マシンガンを取った。

 まだ弾は何発か残っている。

 「栗原さん・・・」

 赤く染まったマシンガンを見て、目を閉じる博士。

 「ウォォ・・・」

 アイアン・ラージは再び腕を前に出し、触手を出現させた。が、

 「・・・やはりな・・・」

 目を開けた博士は、触手を出現させたアイアン・ラージの腕が激しく鼓動を繰り返している事を確認した。

 「栗原さん、君の死は、決して無駄にはしない・・・」

 そしてマシンガンを構える博士。

 「ウォォ!!」

 アイアン・ラージの腕から触手が伸びて、博士に迫る。

 「之村!! 行け!!」

 叫ぶ沢田。

 「化け物、これが栗原さんの痛みだ、思い知れ!!」

 そう言うと博士はアイアン・ラージの肩に狙いを定め、マシンガンのトリガーを引いた。








 「あの事故を、栗原さんの死を、お前は忘れたのか?」

 博士は沢田に問い掛ける。が、

 「・・・ああ・・・」

 「・・・沢田・・・貴様・・・」

 博士は怒りに震えた。が、

 「いや・・・あの事件の事は、最近になって思い出した。が、あの事件の後、私が何故ガルグド・メタルにいたのか、はっきり解らないのだ・・・」

 「・・・何だと・・・?」

 沢田の予想外の言葉に動揺する博士。

 かっての同士との再会、それは、大きな波紋を生み出そうとしていた・・・。


次回予告

 記憶がはっきりしないまま、呆然と立ち去る沢田。一方、ガルグド・メタルは新たなるメタルソルジャーを仕向ける。予想もしない敵の登場に苦戦する健二。そんな中、之村博士はリュークから手渡された一枚の紙を元に、デカルト博士の残した遺産を蘇らせた・・・。

 次回 仮面ライダーコブラ 復讐の女神

 魂の叫びが、聞こえるか?


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