動き出した歯車。

 有り得ない現実に巻きこまれた青年。

 戦いの幕が開ける・・・。


仮面ライダーコブラ

第2話
咆哮


 「ハア・・・。とんだ旅行だった・・・」

 青山健二は、新幹線の窓から外の景色を眺めて言った。

 レミィ・デカルトの手引きにより、ガルグド・メタルの研究所から脱出した健二だったが、結局市内見物もロクに出来ず、大阪城の写真を撮っただけで旅行は終わった。

 「まあまあ、そう気を落とさないで」

 向かいの席に座ったレミィが健二に声をかけた。

 「そうですね・・・。生きて帰れたから良かったですよ・・・」

 健二は苦笑する。

 「すいません。鳥取につくまで寝ます」

 健二は寝不足だったのか、やたらとあくびをしていた。

 「いいわ、ついたら起こしてあげる」

 「ふああ、じゃあ、スイマセン・・・」

 健二は数分で寝た。



 鳥取駅についた健二とレミィは、まず健二の家に向かった。

 「そういう訳で、之村さん。よろしくお願いします」

 家につくなり、健二は之村博士に電話をかけていた。

 「博士は数分後に来るそうですから、ちょっと待っていてくれますか?」

 「ええ、構わないけど、どうかしたの?」

 レミィは尋ねた。

 「ちょっと行きたい所があるんで、留守を頼んでいいですか?」

 「それはいいけど、どの位で戻るの?」

 「1時間もすれば戻るんで、よろしくお願いします」

 「わかったわ」

 すると、玄関でチャイムが鳴る。

 「やあ健二君、どうかしたのか?」

 スーツを着た30代の男が現れた。彼が之村宗二博士である。

 「あ、博士。いらっしゃい。実は、博士に会いたいという人がいるんですよ」

 「ほう、誰かね?」

 「こちらのレミィ・デカルトさんです」

 健二はそう言ってレミィを紹介する。

 「どうも、レミィ・デカルトです」

 「やあやあどうも。之村宗二です。しかし、デカルトということは、もしやアヴァン・デカルト博士のご親族かね?」

 「ええ、そうです」

 「そうか・・・。で、私への用件は何かね?」

 「実は、ちょっとお聞きしたいことがあるんです」

 「聞きたい事?健二君、ちょっと席を外してもらえるか?」

 「ちょうど出かける所だったので、構いませんよ。ちょっと留守を頼めますか?」

 「わかった。後でな」



 「野暮な事を聞くが、アヴァン博士が死んだという事を耳にしたのだが・・・」

 之村博士は神妙な顔で聞いた。

 「・・・はい。そうです」

 レミィも沈痛な面持ちで答える。

 「そうか・・・。いや、すまなかった。野暮な事を聞いてしまって・・・」

 「あ、気にしないでください・・・」

 「アヴァン博士とは大学時代に知り合ってから意気投合していた。死んでしまったのは非常に残念だ。ご冥福をお祈りします」

 「博士・・・。ありがとうございます。」

 レミィが礼を言う。

 「大学時代、アヴァン博士はロボット工学に没頭していた・・・。あの頃の彼は非常に真面目で、人望も厚かった」

 之村博士が言う。

 「昔と今でも、父は変わらなかったようですね」

 「ああ。その後彼はどうしてたのかね?」

 博士が聞いた。

 「父は・・・何者かに殺されたらしいんです・・・」

 レミィが言う。

 「殺された・・・。そうか・・・。しかし誰がそんな事を・・・」

 「父の遺体の頭部に、弾丸が2発打ちこまれていました。銃殺により即死でした・・・」

 レミィは沈痛な面持ちで続けた。

 「父に恨みを持つ物の犯行にしては、非常に手の込んだ犯行に思えます。恐らく、誰かが殺し屋を雇ったのでは無いかと思います・・・」

 「殺し屋か・・・。心当たりは無いのかね?」

 「可能性は低いのですが、あります。ガルグド・メタル社です」

 「ガルグド・メタル・・・。アヴァン博士は彼等を痛烈に批判していたそうだが・・・」

 「その通りです。だから、彼等から見れば、父親は危険分子の一つだったのかもしれません」

 「そうか・・・。ところで、君は今は何をしているのかね?」

 「今は仲間達と共に、ガルグド・メタル社に抵抗しています」

 「それは危険も伴うのではないのか?」

 「解っています。しかし、父の意思を無駄にはしたくないんです・・・」

 「そうか。私も出来る限り手は尽くす」

 「ありがとうございます。博士」

 レミィは礼を言う。

 「そう言えば、健二君はどうして君と一緒にいたのかね?」

 之村博士が聞いた。

 「彼は・・・ガルグド・メタル者に拉致され、捕らえられていました・・・」



 「検査してみた結果、身体に以上は無いようです」

 医者が言う。健二は近所の病院にいたのだ。

 「そうですか・・・。良かった・・・」

 健二は胸をなでおろす。昨日の事件後、彼は自分がどうなったのか、非常に不安だった。しかし、

 「ですが、気になった部分があります」

 医者が言う。

 「えっ?」

 実は右腕に、確定はできませんが、何かの生物の遺伝子らしき物が組み込まれていました。私が考えるに、恐らくコブラ等の爬虫類の物と考えられます。」

 「・・・そうですか・・・」

 健二は諦めきった顔で言った。。

 「とりあえず、レントゲンのコピーしておきましたが、必要ですか?」



 病院を出た健二の足取りは、暗いものだった。

 「昨日の事は夢では無かった。オレはガルグド・メタル社によって、コブラの遺伝子を右腕に組み込まれたのだ。もう、事実は否定できない」
そんな調子で、健二は家に戻った。

 「おかえりー」

 真琴は合宿から帰ってきており、チョコをつまんでいた。

 「ただいま・・・」

 健二は暗い雰囲気で言葉を返す。

 「どうかしたの? 雰囲気暗いよ?」

 「ん? ああ、何でも無いよ・・・」

 「ならいいけど・・・。それと之村博士から伝言があったよ」

 「え、何?」

 「後で暇が有ったら家まで来てくれだって」

 「ああ、解った」



 昼過ぎ、健二は之村博士の家を訪れた。博士は学者だが、家は比較的普通のものだった。

 「病院で検査を受けましたが、右腕にコブラの遺伝子が組み込まれていたようです・・・」

 健二は之村博士に病院で受け取った右腕のレントゲンのコピーを渡した。

 「そうか・・・。レミィさんから事情は聞いたが、本当だった様だな・・・」

 之村博士はレントゲンのコピーを見ながら言った。

 「しかし健二君、ガルグド・メタル社は今後、君の命を狙ってくるかもしれない。彼等にとっては、君は厄介な存在になるかもしれないからな・・・」

 「解っています。でも、オレはこの先どうすればいいんでしょうか・・・」

 「まずは身を守ることを考えた方がいい。しかし、戦うという方法もある」

 「戦う? 彼等とですか?」

 「勿論、生身で戦うとなればそれはかなり過酷なものだろう。しかし、何か力を持てば、戦うことも可能かもしれない」

 「力・・・ですか?」

 「私に考えがある。2日程待ってくれないか?」

 「・・・解りました・・・」



 それから2日間、講義が暇だったこともあってか、健二は落ちつかない時間を過ごした。

 「ふう、思ったより遅くなっちまった・・・」

 その日は3日に一度の飲食店のバイトだった為、帰ったのは8時頃だった。

 「そうだ、之村博士の家によらなきゃ・・・」

 そう言うと健二は、近くにあった公園に入った。しかし、

 「何だ・・・?」

 健二は何かの気配を感じ、辺りを見回す。しかし、

 ダダダッ!!

 突如銃声が響いた。

 「おわっ!!」

 健二はとっさにかわす。

 「ま、まさか・・・」

 健二の前には弾丸が転がっていた。つまり、

 「ギギギギ・・・」

 現れたのは、3体のメタルソルジャーだった。2体は以前研究所で見た物だったが、1体は巨大な武器を装備していた。

 「オイオイ、マジかよ・・・」

 健二は焦った。まさかメタルソルジャーに襲われるとは・・・。

 「ギギギ・・・」

 武器を装備したメタルソルジャー、ガンナーソルジャーは、武器を構えた。

 「あれは・・・まずい!!」

 健二は咄嗟に体勢を崩した。そして、

 バアァァン!!

 武器から光線のようなものが放たれた。

 「うわあぁぁ!!」

 健二は間一髪で交わす。光線はそのまま木に衝突したが、当たった木は、一瞬で蒸発した。

 「す、凄い威力だ・・・。あんなのに当たったら一瞬で終わりだ・・・」

 健二は光線の威力に驚いていた。

 「ギギギ・・・」

 そんな健二をよそに、2体のメタルソルジャーは手に持っていたライフルを構えた。

 「クソッ!!」

 健二は走り出した。

 ダダダダッ!!

 その後を弾丸が雨の様に追う。

 「このままじゃまずい・・・。どこかに隠れよう」

 そう言うと健二は、近くの林に飛び込んだ。

 「ギギギ・・・」

 メタルソルジャー達は、隠れた健二を探している。

 「まずいな・・・。早くここから逃げないと・・・」

 健二は公園から逃げる方法を考えていた。だが、

 「結構遅くなっちゃった・・・」

 誰かの声が聞こえた。

 見るとそこに、松木綾子がいたのだ。

 「ま、松木!? 何でここに・・・」

 健二は驚いた。

 「ギギギ・・・」

 メタルソルジャー達は綾子を見た。

 「え、何・・・?」

 綾子は驚いたが、メタルソルジャーはライフルを構えている。

 「え? 何なの・・・?」

 綾子は困惑していた。だが、

 「松木、危ない!!」

 健二は林から飛び出した。そして次の瞬間、

 ダダダダダッ!!

 ライフルが火を吹いた。

 「キャアッ!!」

 綾子は地面に倒れ伏した。健二が間一髪のところでかばったのだ。

 「いたた・・・。あれ?青山君?」

 綾子は驚いたように言った。

 「危なかった・・・。それよりどうしてこんな所にいたんだ?」

 「ちょっとアルバイトの帰りだったの。それよりあれは何なの?」

 「オレにも解らない。とにかくここから逃げるんだ」

 「青山君は?」

 「オレは大丈夫だ。早く行ってくれ」

 「・・・わかったわ。助けてくれてありがとうね」

 そう言うと綾子は走り出した。そこは、

 「おーい、健二君!!」

 入れ違いに、誰かの声が聞こえた。見ると、バイクに乗った人物がこちらに走ってくる。

 「だ、誰ですか?」

 健二が聞く。

 「私だ。待たせたな」

 バイクに乗っていたのは、之村博士だったのだ。

 「は、博士、どうしたんですか!?」

 「君に見せたいものが有ったのだが、家にいなくてね。そしたら近所で騒がしい音がしたものだからね」

 之村博士はこれまでの経緯を説明する。

 「オレに渡したいもの?」

 「これだ」

 そう言うと博士は、手に持っていたトランクから、何かを取り出した。

 「これは・・・?」

 「試作型のライダースーツだ」

 之村博士が言う。

 「ライダースーツ?」

 「本来は企業用のスーツだったが、ちょっとカスタマイズをしたのだ」

 之村博士が説明する。だが、

 「ギギギギ・・・・」

 メタルソルジャーが迫ってくる。

 「まずい!博士、これはどうすれば使えるんですか?」

 「腹部と右腕に、それを装着するんだ」

 健二は指示通りに、腹部と右腕に機械を装着した。

 すると腹部の機械からチューブが伸び、右腕の機械に接続された。

 「そして、右腕の機械のスイッチを押すんだ。そうすればライダースーツを装着できる」

 「わ、解りました」

 健二は決心を固めた。

 この後、何が起こるかは解らない。だが、ここで死ぬわけにはいかない!!

 「変身!!」

 健二は右腕のスイッチを押す。

 「インプット」

 機械音が鳴る。右腕の機械が、健二の右腕のコブラの遺伝子のデータを読みこんだ。

 読みこまれたデータは、チューブを伝い、腹部のベルトに送られた。そして、ベルトが光り、ゲル状の物体が、健二の体を覆った。

 「こ、これは・・・」

 健二は自分の姿を見て驚いていた。

 頭部にはコブラを象った意匠があり、そこにとさかがついている。鉄格子の様なマスクを持ち、全身は装甲と黒主体の色で覆われており、人間とは全く別の姿だった。

 「ギギギギギ!!」

 驚く健二をよそに、メタルソルジャーが剣を持って健二に飛びかかる。だが、

 「遅い!!」

 なんと、健二は既にメタルソルジャーの懐に飛び込んでいた。そして、

 「おらあぁぁ!!」

 メタルソルジャーの頭部に、パンチを叩きこんだ。

 バコォォン!

 メタルソルジャーの頭部が吹っ飛ぶ。そして、地面に墜落した。

 「ふう」

 健二は地面に着地する。

 「残るはお前だけだな・・・」

 健二はそう言うとガンナーソルジャーを睨みつける。

 「ギギギギ・・・」

 ガンナーソルジャーは武器を構える。だが、

 「遅いんだよ!!」

 またも健二は驚異的な速度でガンナーソルジャーの懐に飛びこんでいた。

 「オラオラオラぁぁ!!」

 そして連続でパンチを叩きこむ。

 「ギギギギ・・・!?」

 ガンナーソルジャーは反動で仰け反った。

 「ギギギ・・・」

 再び武器を構えるガンナーソルジャー。だが、

 「させるかあ!!」

 そう言うと健二は、ガンナーソルジャーの腹部にパンチを叩きこんだ。

 「まだまだあぁ!!」

 健二は今度は高速で走り出した。

 「ギギギギ・・・!?」

 ガンナーソルジャーは自分に何が起こっているか解らなかった。そして

 ドガァン!!

 健二は近くにあった木にガンナーソルジャーを激突させた。その拳はガンナーソルジャーの胴体を貫通し、完全に機能を停止させた。

 「す、凄い・・・」

 戦いを見ていた之村博士は、目の前で繰り広げられた戦闘に驚愕していた。



 「仕向けたメタルソルジャーが全滅だと?」

 マッド・ガルグドが言う。

 「は、はい・・・。周辺に待機していたレーダーソルジャーの持ちかえった映像をお見せします」

 そこにいたのは沢田だった。

 そして映し出された映像には、ガンナーソルジャーが公園を破壊し、そこでライダースーツを纏った健二が物の数分でメタルソルジャーを倒した映像だった。

 「これは・・・」

 「先日研究所から逃亡した人間と思われます」

 「それが何故、ここに映っているのだ・・・?」

 「さあ・・・。それは解りません・・・」

 「まあいい。今後調査も調査を続けろ」

 「ハッ!」

 そして回線は切られた。

 「我々の知らないところで、何者かが抵抗を続けているのか・・・?」

 マッドはワシントンの町を眺めながら言った。

 之村博士が開発したライダースーツ。それは、新たなる戦いの引き金と化すのか・・・。


次回予告

 之村博士が作ったライダースーツにより、健二は仮面ライダーとなり、メタルソルジャーを撃退する。しかし、ガルグド・メタル社は、新たなる刺客、バイオソルジャーを仕向ける。真琴の前で、健二は何を思うのか?

 仮面ライダーコブラ 第3話 兄の苦悩

 魂の叫びが、聞こえるか?


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