「なんだ、お前等も来ていたのか・・・」

 アポカリプスはコブラとシャークの姿を確認した。

 「! 貴様は・・・!」

 アポカリプスの姿を見たシャークが憤る。

 「ふっ、まあ待てよ、私も今はお前達と争う気は無い」

 シャークを制止するアポカリプス。

 「・・・どういう風の吹き回しだ?」

 その行動を見たコブラが言う。

 「・・・さあな、だが、コイツを放っておけなかったのだけは確かだ・・・」

 アポカリプスは目の前の敵、スカベンジャーを睨み付けた。


仮面ライダーコブラ

第23話
魔獣再臨


 「・・・これはどういう事でしょうか・・・」

 映像を見たサイトウは目を細めた。

 先程までは2体しかいなかった敵の数が、いつのまにか4体になっているからだ。

 「・・・さあ・・・」

 男も何が何だか解らなかった。

 「・・・テストを中止させますか?」

 男が尋ねる。

 「・・・いや、何事にも想定外の事態は付き物です。むしろこれは好機ともいえるでしょう。スカベンジャーがどれだけ戦えるのか、よりハッキリ解ります。構わずテストを続けてください」

 「・・・了解・・・」

 とは言った物の、男は内心「好きにしてくれ」と思っていた。





 「・・・これはどういう事だ・・・」

 映像を見たヒメヤの額に青筋が浮かぶ。

 どういう訳か、先程消えたアポカリプスが他の敵と共闘していた。

 「・・・さあ・・・」

 男も状況が読めなかった。

 「・・・あの鉄屑め・・・!」

 ヒメヤは怒りを露にする。

 「・・・落ちついてください、Dr.ヒメヤ・・・」

 男はヒメヤを宥めようとした。が、

 「ちくしょぉぉっ!! ふざけやがって! まんまと裏切りやがったな!! メタルソルジャーの分際で、この私に恥をかかせたな!! 許さねえ! 許さねえぞ!! ちくしょおぉぉっ!!」

 いつも以上に激しい勢いでヒメヤは憤怒した。

 「・・・」

 その姿に狂気を感じた男は、部屋から出ていった。






 「で、協力してくれる訳?」

 アポカリプスに尋ねるコブラ。

 「そう考えてもらって問題無い」

 表情を変えずに答えるアポカリプス。

 「・・・オレは信じて無いからな」

 敵意を含んだ言い方をするシャーク。

 「どう思うかはお前等の自由だ。だが、オレは奴を倒す」

 そう言うとアポカリプスは再びスカベンジャーを睨み付けた。が、

 「グォォォッ!!」

 スカベンジャーは再び鋏を振り下ろしてきた。






 「お前等! ぼーっとするな!」

 それを見た沢田が叫ぶ。

 「解っている!」

 跳躍で攻撃をかわすコブラ、シャーク、アポカリプス。

 鋏が地面を抉った。

 「気を抜くな! 死ぬぞ!」

 怒鳴る沢田。

 「ていうか、誰だアンタ」

 シャークは沢田を知らなかった。

 「細かい話は後だ。今は奴を倒す事が先決だ」

 「言われなくても解っている。で、どう攻める?」

 スカベンジャーは再び攻撃体制に以降しようとしている。

 「私とアポカリプスは砲撃に周る。お前等は間接を狙って攻撃してくれ」

 「了解」

 「言い方は気に食わないが、やってやるよ」

 再び4人はスカベンジャーを睨み付けた。

 「グォォ!!」

 鋏を4人へ向けるスカベンジャー

 「お前等、頼んだぞ!」

 「おう!」







 スカベンジャーの鋏が、再び火を吹いた。

 「散開!」

 沢田の叫び声を合図に、他の3人も攻撃をかわす。

 「アポカリプス、行くぞ!」

 「解っている」

 同じタイミングで、沢田のマシンガンとアポカリプスのマシンガンが放たれた。が、

 「ギギギ!?」

 弾は装甲に当たって鈍い音を響かせるも、スカベンジャーは平然としている。

 「くっ、マシンガンじゃ役不足か!?」

 舌打ちする沢田。

 「だったらコイツを・・・」

 アポカリプスはバズーカを使おうとした。が、

 「待て! ここはマシンガンで耐えるんだ!」

 沢田はアポカリプスを制止した。

 「しかし・・・!」

 「切り札は最後までとっておけ! 今は奴の動きを少しでも鈍らせるんだ!」







 「単純にぶつかっただけじゃアイツの脚に弾かれちまう! かく乱させながら攻撃するのがベストだ!」

 「心配いらねえよ!」

 戦い方を確かめ合い、コブラとシャークはスカベンジャーに向かった。

 「手始めにコイツを食らいな!」

 そう言うとシャークはスカベンジャーに向かってグランドハンマーのパーツを射出した。

 「グゲ!?」

 分離したパーツは虫の様にスカベンジャーの辺りを飛び回る。

 スカベンジャーはその動きについていけず、一瞬の隙が出来た。

 「よし!」

 その隙を見て、コブラが接近する。

 「ギギャアア!!」

 しかし、スカベンジャーも黙ってはいなかった。

 2本の脚が高速で迫ってきた。

 「くっ!?」

 コブラは跳躍でかわそうとしたが、わずかにタイミングがずれた。

 「のわああっ!?」

 そのまま宙に放り出されるコブラ。

 「青山!」

 その様子にシャークが声を上げる。

 「ギギャアア!!」

 宙で姿勢を崩したコブラに、刃物に変形したスカベンジャーの脚が迫る。

 「くそっ!!」

 コブラは宙で必死にもがいた。

 そんなコブラの姿を尻目に、脚は迫っている。が、

 「くっ! うおぉぉっ!!」

 コブラは必死に手を動かした。

 そして、その手がスカベンジャーの脚を掴んだ、その時、

 「であぁぁあっ!!」

 コブラは咄嗟に脚の上で姿勢を立て直した。

 「うおっとっと!?」

 姿勢を崩しそうになりながらも、コブラはなんとか持ちこたえた。

 「ギギギ!!」

 脚の上に立つコブラを振り落とそうと、脚を動かそうとした。が、

 「打たれる前に打つべしっ!!」

 そう言うとコブラは全力で脚の上を走り出した。

 そして胴体と脚を繋ぐ間接が目前の場所まで迫った。

 「食らえ!!」

 そのままコブラは、コンバットソードの刃を脚の間接に付き立てた。

 「ギギァァ!?」

 叫び声を上げるスカベンジャー。

 「まだまだ!!」

 そう言うとコブラは、付き立てたコンバットソードを一気に右側へとずらした。

 「ギギャアァァッ!!」

 再びスカベンジャーは絶叫する。

 「いまだ! 東山!」

 コブラはシャークに合図を送った。

 「・・・全く、ヒヤヒヤさせるぜ・・・」

 苦笑しながらも、シャークは分離させたグランドハンマーのパーツを合体させた。

 「行くぞ!!」

 そしてそのまますかさず跳躍した。

 「うぉぉぉっ!!」

 叫び声と共に、シャークはたった今コブラがダメージを与えた間接に、グランドハンマーを振り下ろした。

 「よし!」

 その様子を見たコブラは、コンバットソードを引き抜き、跳躍した。

 直後、肉が裂ける音と共に、スカベンジャーが3度目の断末魔を響かせた。







 「まずは一本目、クリアーだな・・・」

 地面に横たわるスカベンジャーの脚を見るコブラ。

 装甲は堅かったが、関節は思いのほか脆かったらしい。コンバットソードの斬撃に加え、グランドハンマーの攻撃により、脚を一本切り落とす事に成功した。

 「ギギギギギ・・・・!!」

 今の一撃のせいだろう、スカベンジャーはこれまで以上の勢いでコブラとシャークを睨み付けた。

 「そうカッカするなよ、相手はちゃんと」

 そう言い終わる前に、コブラとシャークは宙を舞っていた。

 「な・・・!?」

 二人がそれを認識してから地面に落ちるまで、約10秒足らずだった。

 「ギギャァ!!」

 激怒したスカベンジャーは、移動に必要な4本の脚を残し、他の全ての脚を変形させ襲いかかってきた。しかも脚の先端は鋭利な刃物に変形していた。

 「・・・怒らせちゃったみたいだな・・・」

 コブラは苦笑した。







 「何やってるんだアイツ等・・・」

 沢田の額に青筋が浮かぶ。

 「どちらにしろ追い詰められたら挙句ああなるのは目に見えてる。状況は何も変わらない」

 状況を分析するアポカリプス。

 「ギギャアア!!」

 見境が無くなったのか、スカベンジャーは沢田とアポカリプスにも脚を振り回す。

 「フン、脚が邪魔なら、切り落とせばいいだけの話だ!」

 アポカリプスは背部のブースターを展開し、スカベンジャーに向かって大きく跳躍した

 「ギギャアア!!」

 アポカリプスに迫る脚。が、

 「うおぉぉぉっ!!」

 アポカリプスは攻撃を巧にかわし、距離を縮める。

 「これでもくらえ!!」

 アポカリプスが腕のバズーカを構えた、次の瞬間、

 「グゲァァァァッ!?」

 空を裂く弾丸の音と共に、脚の一つが宙を舞い、スカベンジャーは絶叫した。が、

 「ギ、ギゲェァァァッ!!」

 スカベンジャーは変形させた腕を、アポカリプスに対して振り回した。

 「な!?」

 アポカリプスは不意を突かれた。既に切っ先は目の前に来ていた。その時

 「くっ!」

 沢田はマシンガンを放った。スカベンジャーでは無く、アポカリプスに対して。

 「!? がっ!」

 命中した弾丸により、アポカリプスはスカベンジャーの鋏の軌道から外れた。

 「っつ!」

 そのまま地面に着地するアポカリプス。

 「全く、手荒な助け方だな・・・」

 やれやれという顔をするアポカリプス。

 「少しは感謝しろ、あのままだと真っ二つになる所だったんだぞ」

 「はいはい」







 一方のコブラとシャークも、脚の攻撃に手を焼いていた。

 「オイ、ますます近寄りにくくなっちまったぞ・・・」

 攻撃をかわしながら、シャークが言う。

 「・・・」

 コブラは反応しない。

 「おい、聞いてるのか?」

 「甲羅、間接、残る個所は・・・」

 ぶつぶつと何かを言って反応しないコブラ

 「・・・聞いてるのか!」

 シャークが怒鳴る。が、

 「・・・お前、腹の下に潜ってくれない?」

 「・・・はあ?」

 突然のコブラの申し出に唖然とするシャーク

 「何でまた腹の下なんだよ・・・」

 「まだ攻撃してないし、ひょっとしたら攻撃が通じるかもしれないだろ?それに、お前の方がパンチ力は上みたいだしな」

 「・・・お前、蟹の腹触った事あるのか?」

 「オレがおとりになるから、お前は腹の下に潜り込んでくれ、頼んだぞ」

 (・・・話聞けよ・・・)

 そんなシャークの心の声等聞く気も無く、コブラはスカベンジャーに向かっていく。

 「ギギャギャァァ!!」

 やはりスカベンジャーは脚を仕向けてきた。

 「そうそう当たらないぜ!」

 攻撃をかわすコブラ。

 「うおぉぉっ!!」

 そう言うとコブラは大きく跳躍した。

 「ギギギャァ!!」

 勿論スカベンジャーは脚で防御する。

 そして、二つの鉄がぶつかり合う鈍い音が響く。

 「行け! 東山!」

 コブラはシャークに向けて叫んだ。

 「・・・しゃーねな!」

 コブラの心意気に打たれたのか、シャークもスカベンジャーに接近した。

 幸いにも、目の前を邪魔する脚は無い。

 「グゲゲギャ?」

 それに気付いたスカベンジャーは、シャークの進路を邪魔しようとする。が、

 「そうは問屋が卸さないぜ!」

 コブラはそう言うと、鋏を踏み台にして跳躍する。

 そして着地したのは、スカベンジャーの頭部(?)の上だった

 「ギギギギ!?」

 予想外のコブラの行動に動揺するスカベンジャー

 「ちょっと痛い目に、いや、この場合はホントに痛い目にあってもらうぜ」

 そう言うとコブラはコンバットソードを構え、目の前にある目玉を睨み付けた。そして、

 「うおぉぉっ!!」

 叫び声と同時に、コブラはコンバットソードをスカベンジャーの右目の付け根に振り下ろした。

 「ギギャアア!!」

 もう何度目だろう。再びスカベンジャーは断末魔を上げた。







 「行ける!!」

 そのままシャークは腹の下に滑り込んだ。

 「うおあぁっ!?」

 直後にバランスを崩したコブラは、地面に落ちた。

 「何やってんだよ全く!」

 その様子を見て呆れるシャーク。

 「だが、ありがとよ、おかげで上手く潜り込めたぜ!」

 そう言うとシャークはグランドハンマーを握り締めた。そして、

 「ソーリャッサー!!」

 叫び声と共にシャークは跳躍、腹にグランドハンマーを叩きつけた。

 「ゲギギャアァァ!?」

 思わぬ場所から走る衝撃に動揺するスカベンジャー。

 「うりゃああぁっ!!」

 再びグランドハンマーを叩きつけるシャーク。

 「ギギィ!」

 苦しそうにうめき声を上げるスカベンジャー。

 「思ったより利いてるじゃないか!」

 歓喜の声を上げるコブラ。

 しかしスカベンジャーも黙ってはいない。

 「ギギギ・・・!!」

 唸り声と共に脚を変形させた。

 「ギギャァ!!」

 そして変形させた脚を自身の腹の下、シャークに向けて滑り込ませた。

 「! 東山!」

 その様子を見たコブラが叫ぶ。

 「解ってる!」

 シャークは難なく攻撃をかわした。

 「おい! あんたら!」

 地面に着地したシャークは、スカベンジャーに向けてマシンガンを撃つアポカリプスと沢田に向かって叫んだ!

 「なんだ!」

 沢田とアポカリプスは同時に反応する

 「オレに考えがある! 合図をするから脚を狙え!」

 「どういう考えだ?」

 「グダグダ言うな! 行くぞ!」

 そう言うとシャークは再びグランドハンマーを構えた。

 「・・・ったく、だが、やるだけの事はやってやるさ・・・」

 「上等だ・・・」

 沢田とアポカリプスも武器を構える。

 「・・・よし・・・行くぞ・・・!!」

 1度深呼吸をした後、シャークは大きく跳躍した。

 「でやあぁぁぁぁっ!!」

 そしてシャークは渾身の力を込めてグランドハンマーをスカベンジャーの腹に叩きつけた。

 「グギ、ギギャアア!!」

 スカベンジャーにとってはこれまででそれが一番のダメージだった。

 同時に、その攻撃によってスカベンジャーは一瞬バランスを崩した。

 「よし・・・! あんたら今だ!」

 確信した様に、シャークは沢田とアポカリプスに合図を送った。

 「よし!!」

 「食らえ!!」

 その合図に合わせて、沢田とアポカリプスはスカベンジャーの脚にマシンガンを乱射した。

 「グギギギ!?」

 その一撃が決め手になった。そして、

 「グゲェェェッ!?」

 叫び声と共に、スカベンジャーは全体のバランスを完全に崩し、地面にひっくり返った。

 「へっ、ざまーみろ!」

 啖呵を切るシャーク

 「・・・わーお、あいつやるな・・・」

 その様子を見たコブラが感心する。

 「安心するな! さっさとトドメを刺すぞ!」

 沢田が横から口を挟む。

 「解ってる!」

 シャークはそう言うと、グランドハンマーを構えて大きく跳躍した。

 「こいつでトドメだ! 焼き蟹になれえ!!」

 そして全力でグランドハンマーを振り下ろす。が、

 「! 待て!」

 異変に気づいたアポカリプスが叫ぶが、既に遅かった。

 「な!?」

 シャークの背後を、何かが掴んだ。

 スカベンジャーの脚はまだ機能していたのだ。

 「グギギギギ・・・」

 怒り狂ったスカベンジャーの眼が、シャークを睨み付けた。

 「く! 離せこの野朗!」

 喚くシャーク。そして次の瞬間、

 「ギギギギギャァァァ!!」

 スカベンジャーは叫び声と共に、シャークを空中へ高く放り投げた。

 「! うわあぁぁぁっ!?」

 「東山ぁぁ!」

 その様子を見たコブラが叫ぶ。

 そんな様子を尻目に、スカベンジャーは鋏をシャークに向けた。先端は刃物に変形している。

 「まずいぞ!」

 その状況を見て沢田も焦らずにはいられなかった。

 「くっ!」

 アポカリプスはバズーカを構える。

 「ギギャアアアア!!」

 そして、叫び声と共に、スカベンジャーの鋏が龍の如く、シャークに目掛けて突進した。






 「えっ?」

 頭が真っ白になっていたシャークの目にも、自分を貫かんとばかりに迫ってくる巨大な鋏ははっきりと映った。

 (嘘だろ・・・?)

 しかしシャークにはそれが信じられなかった。

 (そんな・・・こんな所で死ぬのかよ・・・?)

 全てが信じられないまま、再び彼の頭は真っ白になろうとしていた。が、

 「な・・・うわあぁぁぁっ!!」

 突然轟音が耳を劈き、それと共に何かにぶつかったと思うと、彼の意識は白から黒へ反転した。







 「ギギ!? ギャガアアギャァァ!!!」

 轟音とスカベンジャーの断末魔が同時に響く。

 「・・・何とか間に合ったか・・・?」

 腕を下ろすアポカリプス。

 その直後、シャークは回転しながら地面に激突し、深く地面を抉りながら数メートル進んで停止した。

 「・・・大丈夫なのか、アイツ?」

 心配そうにシャークを見るコブラ。

 スカベンジャーの鋏がシャークを貫こうとした直前に、アポカリプスはバズーカを鋏に向けて発射、そのまま弾丸と鋏は激突し、爆散。シャークは飛び散った破片にぶつかり、地面に激突したというのが流れだった。

 「いや、奴もそうだが、こちらもまだ面倒は終わらないらしいぞ・・・」

 沢田が苦しそうに言う。

 「ギギギギギギャ・・・・!!」

 スカベンジャーが不気味な唸り声を上げる。

 「まだ戦意は残ってるって事か・・・」

 舌打ち混じりにコブラが言う。その直後、

 「ギギギギギギャァァァァッ!!」

 ぞっとする様な叫び声と共に、スカベンジャーの残った脚が全て変形し、地面に突き刺さった。

 「伏せろ!」

 とっさに叫ぶ沢田。

 それを聞いたコブラ、アポカリプスは咄嗟に地面に突っ伏した。シャークは元から地面に半分埋まっている。そして次の瞬間

 「ギギャアアアア!!」

 スカベンジャーは地面に突き刺した脚を基点にして再び置き上がり、直後に脚を変形させて4人の方向へ突進させた。

 しかし鋏は誰にも激突する事無く、コブラの背後にあった木に突き刺さった。

 「・・・ひゅう・・・」

 コブラは冷や汗をかきながらも、頭を上げようとする。が、

 「まだ頭を上げるな!」

 再び叫ぶ沢田。更に次の瞬間、

 「うお!?」

 コブラは再び地面に突っ伏した。

 スカベンジャーは木を掴んだ鋏を、再び自分の元へ手繰り寄せた。

 「ギギギギギ・・・」

 もぎ取った木を地面に叩きつけるスカベンジャー。そして、

 「な・・・?」

 沢田は驚いた。

 スカベンジャーは今もぎ取った木を食べ始めたのだ。

 「・・・食ってる・・・?」

 「何のつもりだ・・・?」

 コブラとアポカリプスもその行動に驚きを隠せない。

 「グギギギ・・・ゲゲゲギャ・・・」

 コブラ達の反応を尻目に、スカベンジャーは一心不乱に木を食らう。

 「グギギギギ・・・」

 そして完全に木を食らったスカベンジャーが振り向き、コブラ達を睨み付けた。

 「食後の運動・・・か?」

 三人は再び戦闘体制に入る。

 「グギャギャギギギ・・・」

 またしてもうめき声を上げるスカベンジャー。その時、

 「・・・な・・・」

 三人は言葉を失った。

 戦闘で千切れたスカベンジャーの脚が、付け根から粘土の様に再生を始めたのだ。

 しかし、生えて来た木は最初の物とは異なり、木をくっ付けた様な独自の形状をしていた。

 「まさか、今食らった木を・・・?」

 呆然とする三人。

 スカベンジャーは、たった今食らった木を養分にして、脚を再生させたのだ。

 「ギギギギギ・・・」

 そうこうしている間に、スカベンジャーは全ての脚の再生を終わらせた。

 「コイツ・・・化け物か・・・?」

 顔を歪ませるコブラ。

 「いずれにせよ、放ってはおけない敵だ・・・」

 「その様だな・・・」

 同調する沢田とアポカリプス。だが、

 「ギギギ!!」

 スカベンジャーは3人に鋏を向けた。

 「下がれ!!」

 沢田の声と共に、同時に跳躍して後方に下がる3人。

 そして次の瞬間、轟音が空気を劈いた。






 「くっ・・・」

 跳躍した直後に襲いかかってきた大量の砂に、コブラは思わず顔を覆った。

 「目くらましか・・・」

 着地した沢田が舌打ちする。

 「それより、奴は・・・」

 辺りを見回すアポカリプス。

 やがて、砂が消え、視界が開けてくる。が、

 「・・・やられたな・・・」

 既にその場にスカベンジャーの姿は無かった。

 最後に放たれた弾丸は、撤退を完了させる為の目くらましだったのだ。







 「とりあえず、こいつを何とかした方がいいんじゃないか?」

 アポカリプスは変身が解除されていた祐樹を担いで来た。

 「大丈夫なのか、そいつは」

 怪訝そうな顔をする沢田。

 「解らん、命はあるみたいだが、放っておくと危ないかもしれないぞ」

 「とにかく、病院に連れてった方が良さそうだな・・・」

 そう言うと健二は、ポケットから携帯を取り出した。が、

 「青山、ついでに之村を呼んでくれるか?」

 電話をかけようとした健二を、そう行って沢田が呼び止めた。

 「・・・いいけど、何で?」

 聞き返す健二。

 「少し重要な話になるかもしれないからさ・・・」






 「全身打撲で全治一週間程度ですけど、特に命に別状は無い様ですね・・・」

 レントゲン写真を見た医者が言う。

 「そうですか・・・」

 健二は胸を撫で下ろした。

 「しかし、無理は禁物ですね。完治までは絶対安静を心がける様伝えておきますよ」






 「どうだった?」

 部屋を出てきた健二に詰め寄る沢田。

 「命に別状は無いけど、しばらくは安静にしとけって」

 「・・そうか・・・」

 沢田もとりあえず安心した様子だった。そこへ、

 「健二君! 沢田!」

 之村博士が現れる。

 「もう一人のライダーが負傷したと言うのは本当か?」

 博士は話を進めた。

 「ええ・・・ちょっと今病室聞いてきますんで・・・」

 そう言うと健二は再び部屋のドアを叩いた。







 「・・・ぐ・・・」

 うめき声に近い声と共に、祐樹は目覚めた。

 「・・・気が付いたか?」

 すぐ側には健二、博士、沢田がいた。

 「・・・おまえ・・・ぐっ・・・」

 体を丸める祐樹。

 全身が激痛に襲われて下手に動いただけでも激しい痛みが襲ってきた。

 「無理するな、全身打撲で全治一週間位だって先生が言ってた」

 健二は祐樹に現状を伝えた。

 「・・・解った・・・それよりあんたらは・・・?」

 祐樹は健二の後ろにいる3人に目を向けた。全員始めて見る顔だった。

 「私は之村だ。よろしくな」

 「沢田だ」

 それぞれ自己紹介する2人。

 「で、起きて早々申し訳無いが、君がガルグド・メタルに拉致されてから現在までの経緯を教えてくれないか?」

 「・・・経緯?」

 博士の質問を聞いた祐樹は、その目で博士を睨み返した。

 「ああ・・・話したくないなら無理にとは言わんが・・・」

 「あいつらに拉致られて一人殺して、あいつらから奪った武器とベルトであいつ等に復讐する為にここまで来た」

 その返答に、一瞬その場の空気が凍りついた。

 「殺した・・・?」

 「そうさ・・・キチガイがオレを殺そうとしたから、咄嗟にそいつの手からメスを奪って、腹部に突き刺した・・・倒れた隙に、その場においてあったベルトを奪って逃げた・・・」

 淡々とした口調で話す祐樹。

 「その後持ちかえったベルトは自分で手を加えた。そして襲って来た化け物を殺してきて、ここまで来たって事さ・・・」

 「・・・」

 一同は返す言葉も見付からなかった。

 「・・・すいません、今疲れてるんスよ、今日はこれ位で勘弁してもらえませんか?」

 そう言った祐樹の目に、自分の知ってる彼の目は無かった。健二はそう感じた。







 「普段はどうかは解らないが、相当応えている様だな・・・」

 病室を出てきた博士が言う。

 「ええ・・・最初に戦った時、俺を倒そうとしていた時の覇気や、さっきの戦いでの勢いが感じられませんでした・・・」

 同調する健二。

 「・・・しばらくはそっとしておいてやった方が良さそうだな・・・」

 相槌を打つ沢田。

 そうこう話している間に、3人は病院の入り口にまで差し掛かっていた。

 そして病院の外に出た、その時、

 「で、どうだったんだ?」

 コートと帽子を着た男が入り口で待っていた。

 「姿を隠す為に」と変装したアポカリプスだ。

 「とりあえず、命に別状は無い様だぜ」

 健二が答える。

 「・・・なら良かった。惜しい男を失いたくは無いからな・・・」

 そう言うとアポカリプスは微笑した。そして之村博士の方を見た。

 「君が、沢田博士の友人の・・・ええと・・・」

 「之村だ」

 「そうそう、それそれ。君には初対面だったな。私の名はアポカリプスだ」

 「之村宗二だ。よろしく」

 互いに挨拶する博士とアポカリプス。

 「そんな事より、お前自身は大丈夫なのか?」

 横から沢田が口を挟む。

 「私が解雇になった今、お前の管理は研究所の後継者に一任されている筈だが・・・」

 「その心配は無い」

 アポカリプスは沢田の言葉を遮った。

 「その後任は口先ばかり大物ぶった君にさえ劣る無能だ。私の事も相当毛嫌いしていた様だし、この際綺麗さっぱり縁切れという形で終了だ。当人も喜んでいる事だろう」

 「言い方がなんか気に食わないが・・・」

 「けど、そしたらお前も命を狙われるんじゃ・・・」

 更に健二が口を挟んだ。

 「なあに、これでもメタルソルジャーを上回る力を与えられている。そうそう簡単にくたばりはしないさ。コイツも拝借して来た事だしな」

 そう言うとアポカリプスは、何時の間にか近くに停めていたモトソルジャーを見た。

 「・・・やっぱりとんだじゃじゃ馬だな、お前は・・・」

 「君が失敗と言っていた自我のお陰だ」

 そう言ってアポカリプスはモトソルジャーに跨り、エンジンを起動させた。

 「では、諸君、さらばだ・・・その内また拳を交えたいものだな、仮面ライダー、いや、青山健二・・・」

 アポカリプスは微笑すると、そのまま走り去った。

 「・・・アイツ、結構凄い奴だな・・・」

 健二はそう言って苦笑した。

 「・・・それはいいとして・・・」

 そう言うと沢田は、思い立った様に2人の顔を見た。

 「お前達に話しておきたい事がある。ついて来てくれ」








 「すいません、荷物を預けていたのですが・・・」

 受け付けの女性に話しかける沢田。

 「・・・なんでビジネスホテルに・・・?」

 健二は怪訝そうな顔をした。

 あの後2人が沢田に連れて来られた場所は、何の変哲も無い普通のビジネスホテルだった。

 「・・・アイツなりに考えがあっての事だと思うが・・・」

 そう言う博士も顔をしかめている。そこへ、

 「待たせたな」

 沢田がアタッシュケースを手に抱えて戻って来た。

 「それは・・・?」

 アタッシュケースを見た博士が言う。

 「・・・これが、お前達に話しておきたい事だ・・・」








 「・・・で・・・いかが致しましょうか・・・?」

 さっきから画面をずっと見続けているサイトウの機嫌を伺おうとする黒服の男。

 戦闘の末、スカベンジャーは木を食らってダメージを回復した後、撤退した。

 「・・・今すぐ回収班を・・・」

 「その必要はありません・・・」

 男の言葉を遮るサイトウ。

 「・・・はあ・・・」

 男は対応に困った。

 「戦闘面では多少不満が残る結果に至ってしまいましたが、スカベンジャーのもう一つの能力、再生能力は正常に機能する事は解りました。まだ戦闘不可能にまで陥った訳ではありませんし、スカベンジャーはダメージが回復次第再び対象を狙って行動を起こす様操作されています。今焦って回収するには至りませんよ・・・」

 そう言うとサイトウは微笑した。その口元は若干引き攣っていた。







 「・・・HMS01アポカリプスの管理は君に一任されていた筈だが・・・」

 マッドは無表情のままでヒメヤを睨み付けた。

 「・・・申し訳ありません・・・」

 ヒメヤは無表情で答える。

 「もし万が一これが裏切りとなれば、その責任は管理者である君が取る事になる。その事を肝に命じておきたまえ・・・」

 そのまま通信は切られた。

 「・・・いかが致しますか・・・」

 黒服の男が恐る恐る話しかける。

 「今すぐにアポカリプスの追撃に・・・」

 「黙れ」

 男の言葉を遮るヒメヤ。

 「貴様、私をバカにしているのか?」

 ヒメヤは物凄い剣幕で男を睨み付けた。

 「追撃? 笑わせるな。あんな鉄屑その気になればスクラップにしてやるのは簡単だ。だが、鉄屑ごときに私が本気になるとでも思うか? 答えは勿論NOだ。奴の処分等研究の合間にでも出来る。わざわざ必死に追撃する必要など何処にも無い・・・」

 「・・・はあ・・・では今回の件は保留に・・・」

 「保留などではない、奴を潰す事は決定している。だが、それを行うのは私の手の空いた時だ・・・貴様、少しは空っぽの脳みそ使って喋ろ!」

 散々毒を吐いたヒメヤは、部屋から出て行った。








 バイクショップ銀咲の地下

 そこに置かれたテーブルを、健二、博士、沢田、レミィ、銀咲が囲んでいる。

 そしてその中央には、先程沢田が持ってきたアタッシュケースが置かれていた。

 「・・・こんな物持ってきて、私達に何をしろって言うの?」

 レミィがあからさまに不信と軽蔑が混じった視線を沢田に送る。

 「・・・とりあえず、これを見ろ・・・」

 そう言って沢田はアタッシュケースのロックを外した。

 「・・・これは・・・」

 一同はアタッシュケースの中身に目をやった。

 その中に入っていたのは、ガントレッド系と言うべきか、手甲の様な形をした物だった。サイズは健二の使っている物より若干大きい様だった。

 「これが私の開発していた装備、カイゼルナックルだ」

 「カイゼル・・・ナックル・・・?」

 健二はその名前を口の中で呟いた。

 「で、これはどういう代物なのかしら?」

 カイゼルナックルを手に持つレミィ。

 「一言で言えば、バイオソルジャーにドーピングを施す機械だ・・・」

 沢田の言葉に更に空気が固まる。

 「・・・フン、ドーピングですって? あんな化け物に麻薬を打った所でこれ以上化ける事なんてあるのかしら?」

 皮肉混じりの言い方をするレミィ。

 「違うな、強化すると言う意味では同じだが、使うのは麻薬なんてちゃちい物じゃない」

 「じゃあ、何を・・・?」

 健二は首をかしげた。

 「静電気だ」

 「・・・静電気?」

 予想外の答えに、全員が驚いたような表情をする。

 「このカイゼルナックルは、簡単に言えば、大気中に存在する微弱な静電気を吸収し、変換、増幅させ、そのエネルギーを使ってバイオソルジャーを強化するという仕組みになっている・・・」

 沢田の言葉を黙って聞く一同。

 「つまり、静電気を吸いとって自力でエネルギーを作るって訳か?」

 銀咲が言う。

 「そういう事になる」

 「・・・しかし、こんなサイズの機械にそこまでの機能を搭載する事なんて出来るのか?」

 沢田の説明に異議を立てる博士。

 「ガルグド・メタルの設備があって開発できた代物だ。本部にもこれについては何も説明していない。完全なシークレットという訳だ」

 質問に答える沢田。

 「ただし、秘密裏にやっていたからシステムの組み込みには成功したが、微調整や試験がまだ・・・」

 「ようするに、アンタはあたし達にこれを作る手伝いをしろっていうのかしら?」

 言葉を遮るレミィ。

 「・・・それに加え、これの改造もだ・・・」

 そう言うと沢田は健二を見た。

 「青山、これをお前の戦闘スーツ用に改造するんだ」

 「え・・・?」

 健二は思わず言葉を失った。

 「・・・沢田、本気か・・・?」

 若干戸惑った表情で博士が聞き返した。

 「今回の敵は一筋縄ではいかん。今回は運良く退けられたが、次に会った時は」

 「いい加減にしなさいよ!!」

 怒鳴り声を上げるレミィ。

 「あんた、何考えてるの? そもそも健二君を兵器に改造しようとしてこんな目に遭わせたのはあんたでしょ? 健二君だけじゃ無いわ。あんたの身勝手な振る舞いに巻き込まれて馬鹿を見た人だっているのよ? それなのにまた言いがかりを付けて、更に彼を巻き込む気? ふざけるのも大概にしなさいよ」

 声を荒げて怒鳴り散らすレミィ。

 「巻き込むのは解っている。だが、このままだとどちらにしろ」

 「そんなのアンタの身勝手な理屈じゃないの!! アンタは結局は自分の研究の実験台が欲しいだけなんでしょ? そんなの身勝手なエゴよ! あんたみたいな身勝手な馬鹿が、私の父親を殺したのよ!!」

 目を充血させながら、レミィはひたすら怒鳴った。

 その形相に全員が言葉を失った。

 「・・・博士、今回は私は一切協力するつもりはありませんから」

 踵を返すレミィ。

 「こんな身勝手な話に付き合わされて、馬鹿見るなんて真っ平よ!」

 そう言うとレミィは部屋から出て行った。







 「・・・レミィさん、物凄く怒ってましたね・・・」

 健二には今のレミィの怒り方の前に頭が真っ白になっていた。

 「・・・悪いが、今回はオレも降りさせてもらうぜ」

 銀咲が席を立つと、沢田を見た。

 「オレは彼女程あんた等に怒りを覚えてる訳じゃない。だが、今回の話には技術者として参加しちゃあいけない気がするんだ。悪いな・・・」

 レミィに続き、銀咲も部屋から出て行った。








 「・・・お前等は、どうするんだ?」

 沢田は部屋に残った健二と博士を見た。

 「・・・私は、まだ保留という事にさせてもらう・・・」

 最初に口を開いたのは博士だった。

 「沢田、お前はかっての同胞であるし、協力してやりたいのは山々だ。しかし、お前が開発したカイゼルナックルというのはまだ信頼が置ける様な代物じゃあない。もう少し考えさせてくれ・・・」

 「・・・青山、お前はどうする・・・?」

 今度は健二に目を向ける沢田。

 「・・・」

 健二は黙り込んだ。

 今戦った敵は確かに強敵だったし、苦戦を強いられたのは事実だ。しかし、だからと言って、沢田の言う事を信頼しきっていいのか?

 「・・・オレは・・・」

 健二は口を開いた。

 「・・・オレも、保留にさせてもらうよ・・・」

 それが、今の健二が行き着いた結論だった。







 市街から離れた、廃工場。

 「ったく、なんで今頃になってこんな事する必要があるんだ?」

 トラックから降りた作業服の男が文句を言った。

 「まあそういうな。これがオレ達の仕事なんだしさ」

 もう一人の男がなだめる。

 この2人はこの廃工場を解体する為にここに来たのだった。

 しかしその廃工場は使われなくなってから既にかなりの年月が経過しており、何故今更解体するのかが不明だった。

 「とりあえず他の奴等が来るまで・・・」

 そう言いかけた男は、ある異常に気が付いた。

 「・・・なんか、変な音がしないか・・・?」

 「ああ・・・? ・・・別に聞こえないけど・・・どうかしたのか?」

 「いや、なんて言うか・・・鉄を叩いてる様な音がするんだが・・・それもかなりの勢いで」

 「ちょっと待て・・・」

 男は耳をすました。

 「・・・確かに、そんな音がする様な・・・」

 男の言う通り、鉄を叩く様な音は確かに聞こえた。

 「・・・先に誰か来てるのか?」

 「いや、聞いてないぞ・・・」

 男は腕を組んで考えた。その時、

 「グゲゲ・・・」

 今度は低い、呻き声の様な音が聞こえた。

 「・・・何なんだ・・・?」

 流石にお互い異常を感じ始めていた。が、

 「・・・!」

 直後に男達は言葉を失った。

 工場の裏から、蟹の様な化け物が姿を現した。

 「お、おい、何だありゃ・・・?」

 男は硬直した。

 「と、とにかく逃げ・・・」

 その場から逃げ去ろうとする男。しかし、

 「グゲァァァ!!」

 次の瞬間、その化け物、スカベンジャーが猛烈な勢いで迫ってきた。

 「ひっ・・・!」

 恐怖で尻餅を着く男。

 しかし、それ以上の恐怖を感じる事は無かった。







 スカベンジャーの触手は、一瞬で男の心臓を貫いた。

 そしてそのまま、死体を素早く自身の元へと持ってきた。

 「グゲゲゲゲ・・・」

 笑い声の様な声を上げながら、スカベンジャーは死体を口に入れた。

 死体は肉が潰れる音と骨が砕ける音が混じり合った不気味な音を上げながら、あっという間にスカベンジャー食われてしまった。

 「ひえっ・・・!」

 その狂気じみた光景の前に、男は完全に逃げる力を失った。

 「グゲゲゲゲ・・・」

 まだ食い足りないとばかりに、スカベンジャーは男を睨み付け、触手を展開した。

 「グギャァ!!」

 そして、触手は男に襲いかかった。

 「うわあぁぁぁ!!」

 男は絶叫したが、その場から動く事は出来なかった。






 「うおぉぉっ!!」

 突如響いた叫び声が、男の意識を取り戻させた。

 見ると、銀色のロボット、アポカリプスが、スカベンジャーに向かって空中からマシンガンで攻撃を仕掛けていた。

 「逃げろ!!」

 アポカリプスは男に向かって叫んだ。

 「ひっ! はっ、はいぃぃ!!」

 男はバネの様に飛び上がると、一目散にその場から逃げて行った。

 「くっ、思ったより早い再襲撃だったな・・・」

 視線をスカベンジャーに戻したアポカリプスは舌打ちした。

 「ギギャアア!!」

 食事を邪魔された事が癪に障ったのか、スカベンジャーはアポカリプスに対しても触手を放って来た。

 「ちっ!」

 攻撃をかわすアポカリプス。

 「触手まで出せるとは・・・とんでもない奴だな・・・だが、」

 そう言うとアポカリプスはバズーカを構えた。

 「コイツはどうだ!!」

 バズーカから撃ち出された鉛弾は、スカベンジャーに向かって直進していった。






 轟音を上げながら、バズーカの鉛弾はスカベンジャーに直撃し、爆発した。

 「やったか!?」

 アポカリプスは舞い上がる煙の様子をうかがった

 かなりの近い距離からの一撃だ。これをくらったら流石にタダではすむまい。そう確信していた。

 そして、煙が晴れた。が、

 「! 何!?」

 アポカリプスは驚愕した。

 煙の中から現れたスカベンジャーは、殆ど無傷だったのだ。

 「グギギギギ・・・」

 勝ち誇った様な笑いを漏らし、再びスカベンジャーは触手を振るった。

 「がっ!」

 一瞬気を取られたアポカリプスは攻撃をかわしきる事が出来ず、地面に叩き付けられた。

 「くっ・・・あの至近距離で・・・」

 アポカリプス自身にも信じられなかった。

 いかに装甲が頑丈とはいえ、バズーカを至近距離で受ければそれなりのダメージは与えられると思っていたが、殆ど効果が無かったのだ。

 そしてアポカリプスはふと、スカベンジャーが隠れていた廃工場を見た。が、

 「・・・まさか・・・」

 アポカリプスははっとした。

 スカベンジャーが隠れていたと思われる工場の裏側の壁や鉄筋が、引き千切ったかの様に滅茶苦茶に荒らされていたのだ。

 もしもスカベンジャーが工場の鉄を食らって装甲を強化していたとすれば・・・

 「・・・とんでもない悪食だな、全く・・・」

 アポカリプスは苦笑した。

 「ギギャァ!!」

 そんなアポカリプスに、スカベンジャーは更に追い討ちをかけようとする。が、

 「させるか!!」

 無数の弾スカベンジャーの装甲に当たり、鈍い音を上げた。

 「大丈夫か! アポカリプス!」

 弾を撃ったのは沢田だった。

 「もう再襲撃かけてきたか・・・」

 近くにいたコブラが苦笑した。

 「博士! 青山もか!」

 驚くアポカリプス。

 「助っ人って事だ」

 車から降りた博士が言う。

 「博士、下がっててください」

 「解った」

 コブラがそう言うと、博士は車を数m後退させた。

 「何故奴が再び暴れてるのが解った?」

 アポカリプスが尋ねる。

 「風の噂、って奴かな」

 「・・・大した勘だな・・・」

 言い負えるとアポカリプスは、再びスカベンジャーを睨み返した。

 コブラ、沢田も同様だった。

 「一人少ないけど、第2ラウンドの始まりだぜ!!」







 「グゲギャァ!!」

 先手を打ったのはスカベンジャーだった。

 6本の触手が、3人を襲った。

 「こんな物まで持ってたのか!」

 その様子に舌打ちするコブラ。

 「食らえ!!」

 別の距離から沢田がマシンガンを放つ。

 「グギギ・・・」

 しかし、スカベンジャーは物ともしなかった。

 「くっ、前回以上にピンピンしてないか?」

 「気を付けろ! 奴はこの工場の鉄を食らってパワーアップしている!」

 「何だって?」

 驚くコブラと沢田。

 「すげえ雑食だな・・・」

 「感心してる場合か! 来るぞ!」

 そうこう話してる間に、再び触手は襲って来た。

 「くっ!」

 難なくかわす3人。

 「強化されたのは装甲だけなのか!?」

 アポカリプスに向かって叫ぶコブラ。

 「解らん!」

 「じゃあ、もう1回関節を・・・!」

 そう言うとコブラは間接目掛けて再び跳躍した。

 「おい、待て!」

 制止しようとするアポカリプスだったが、既に遅かった。

 「うおぉぉぉっ!!」

 降下しながらコンバットソードを突き立てようとするコブラ。

 スカベンジャーはアポカリプスと沢田に気を取られていて気付いていない。

 「いけるか!?」

 アポカリプスと沢田もその様子に息を飲んだ。

 そして、スカベンジャーとコブラの距離がギリギリまで近付いた。が、

 「ギギギ!!」

 スカベンジャーは咄嗟に腕の鋏を、コブラの前に突き出した。

 「何!?」

 その一瞬の驚きが命取りになった。

 次の瞬間、スカベンジャーの鋏はコンバットソードを捕らえた。

 「しまっ・・・」

 健二はその状況を認識する間も無かった。

 「ギギャアア!!」

 スカベンジャーの唸り声が響き、直後に健二は轟音と共に地面に叩き付けられたのだ。







 「ぐっ・・・がっ・・・」

 叩き付けられた痛みに思わず声を上げるコブラ。

 だが、スカベンジャーは待ってくれなかった。

 「ギギギ!!」

 スカベンジャーは跳躍し、そのまま腕と脚を折り畳んだ。

 そしてそのまま高速で回転し、コブラに突っ込んできた。

 「なっ・・・!?」

 その攻撃に再び目を見張ったコブラだったが、体は力が抜けて動かなかった。

 「青山!!」

 アポカリプスと沢田が叫ぶ。

 その声はスカベンジャーが地面に激突したのと同時に、空しくかき消されてしまったが。







 スカベンジャーが地面に激突し、コブラは宙を舞った。

 そしてそのまま、之村博士の車の近くに落ちた。

 「健二君!」

 その様子に、車の中に隠れていた博士が駆けつける。

 「しっかりしろ! 健二君!」

 そう言って博士はコブラを抱き起こした。

 「ぐっ・・・博士・・・コンバットソードが・・・」

 そう言うとコブラは手に握られたコンバットソードだった物を見た。

 スカベンジャーに激突された衝撃で、コンバットソードの一本がへし折られてしまった。

 「そんな事より、君の方が危ないだろ!!」

 博士はコブラの体を揺さぶった。

 「オレなら、大丈夫・・・」

 コブラは体を起こし、答えて見せた。







 「くっ、何て事だ!」

 悪化した状況に舌打ちする沢田。

 「それより、奴の様子がおかしいぞ!」

 アポカリプスはスカベンジャーを見た。

 健二に激突して数十秒が経ったが、スカベンジャーは動く気配を見せなかった。

 「今なら行けるかもしれない!!」

 「何!? ってお前もちょっと待て!」

 沢田の制止を聞かず、アポカリプスはスカベンジャーに接近しようとした。が、

 「ギギギ!!」

 それを待っていたかのように、スカベンジャーは再び動き出した。

 「何!?」

 「そら見ろ!」

 意表をつかれた2人を尻目に、スカベンジャーは全ての脚を伸ばした。

 そしてその先端が二つに割れ、中から機銃のような物が姿を現した。

 「まさか・・・!」

 それを見た全員が硬直した。

 「ギギギ!!」

 スカベンジャーは再び高速で回転し、宙を舞った。

 そして回転したまま、全ての機銃を発射したのだ。









 「ぐあぁぁっ!!」

 沢田とアポカリプスは、降り注いだ弾丸の雨をモロに浴びた。

 そしてそのまま四方へ吹っ飛ばされた。







 「うわあぁぁっ!!」

 弾丸の雨は博士の方にも降りかかろうとしていた。だが、

 「ぐっ・・・博士!!」

 咄嗟にコブラは博士の上に覆い被さった。そして、

 「があぁぁっつ!!」

 弾間は全て健二の背中に当たった。

 「なっ! 健二君!!」

 博士は叫んだ。

 しかし、健二はぐったりしたまま、動かなくなった。









 「フッ、まさかこんな事になるとはな・・・」

 苦笑しながら立ち上がるアポカリプス。

 「笑ってる場合か・・・」

 沢田も続いて立ち上がる。

 しかし、ダメージが重なり、既に変身は解除されていた。

 「それより・・・」

 「ああ・・・」

 2人は、今の戦いで最も危険な人間、コブラの方を見た。

 「ギギギギギ・・・」

 再びスカベンジャーは攻撃をかけようとしている。

 「ここは私が押さえる! 君はあいつをたすけろ!」

 「頼んだぞ!!」

 アポカリプスがマシンガンを向けると同時に、沢田が走り出した。






 「健二君!しっかりしろ!!」

 博士は健二の体を揺さぶった。

 「ぐっ・・・博士・・・ケガは・・・」

 目を覚ました健二は、痛みを堪えながら尋ねた。

 「私は大丈夫だ! それより君が・・・」

 ライダースーツによってダメージはいくらか軽減された物の、健二が受けたダメージは大きかった。

 「之村! 青山!」

 そこへ沢田が駆けつける。

 「ギギギギ!!」

 それを阻まんとばかりにスカベンジャーが叫ぶ。

 「させるかあぁぁっ!!」

 エクスカリバーを構え、アポカリプスが迎撃に向かった。

 「ギギギ!!」

 スカベンジャーは腕を変形させ、アポカリプスに切りかかった。








 「・・・沢田、博士・・・あのアタッシュケースは・・・?」

 駆け付けた沢田に健二が言う。

 「アタッシュケース・・・カイゼルナックルか?」

 「そう、それ・・・」

 健二の口元が僅かに緩んだ。

 「・・・健二君、まさか・・・」

 「お前・・・!」

 博士と沢田は言葉が出なかった。

 健二はカイゼルナックルを使ってコンバットスーツを強化し、スカベンジャーに対抗しようと考えたのだ。

 「ちょっと待て! 完成手前とはいえ、あれはバイオソルジャーを強化する為の物だぞ? お前のコンバットスーツに対応させる為には、更に調整が必要なんだ! それに、借りに成功したとはいえ、奴を撃退出来るかは・・・」

 「そんな事、実際にやってみないと解らないだろ・・・?」

 健二は、沢田の制止を気にも止めようとしなかった。

 「今ここで黙ってたら、どっちにしろ奴を止めることは出来ないし、かと言ってここで逃げたら、あいつは益々人を殺していくだろう。それを見逃すくらいなら、例え危険でも、オレは諦める事なんて出来ないよ・・・」

 その眼には、言葉以上の力強さを持っている様に思えた。

 「・・・沢田、今は健二君を信じよう・・・」

 博士が言う。

 「・・・仕方ない・・・」

 不服そうな顔をしながらも、沢田は了承した。








 「ギギャァ!!」

 スカベンジャーは変形させた腕を巧に振るいながら、アポカリプスに切りかかる。

 「そうそう当たってたまる物か!!」

 同様にアポカリプスも攻撃をかわしながら、スカベンジャーとの距離を詰める。

 「そこかっ!!」

 アポカリプスは剥き出しになっているスカベンジャーの関節を確認した。

 「うおおぉぉっ!!」

 そのままアポカリプスは、間接にエクスカリバーを突き立てた。

 「グゲェ!?」

 呻き声を上げるスカベンジャー。しかし攻撃は終わってはいなかった。

 「これでどうだ!!」

 そう言うとアポカリプスは腕をバズーカに変形させた。そして、

 「グギャアァァァ!!」

 何度目だろう、スカベンジャーの断末魔と共に、千切れた脚が地面に転がり落ちる。

 その様子を確認したアポカリプスは、健二達に向かって叫んだ。

 「得策があるなら、今がチャンスだ!!」







 「よし! 今のうちだ!」

 そう言うと沢田は車に戻り、すぐさまアタッシュケースを持って戻って来た。

 「本当にいいんだな?」

 再び健二に問う沢田。

 「何度言っても同じさ」

 「・・・そうか・・・」

 諦めたような顔をして、沢田は健二にカイゼルナックルを手渡した。

 「・・・ありがとう・・・」

 礼を言うと健二は、再びコブラへ変身した。

 「・・・行くぞ・・・」

 そして健二は左腕にカイゼルナックルを装着した。

 そして、カイゼルナックルは機械音を発し始めた。

 「カイゼルナックルがエネルギーの充填を始めた。数秒でチャージが完了する・・・」

 「解った・・・」

 沢田の説明を軽く受け流すコブラ。

 そして、機械音が徐々に大きくなる。が、

 「・・・っ!?」

 健二は腕に違和感を覚えた。

 「どうした!?」

 その様子を見た沢田が思わず尋ねた。

 「いや、腕になんか痺れが・・・」

 そう言おうとした直後だった。

 「・・・うあっ!?」

 突如、カイゼルナックルがこれまで以上の激しい機械音と火花を撒き散らしながら、光り出したのだ。

 「なんだ!?」

 様子のおかしさに、博士が健二に近付こうとした。が、

 「なっ!?」

 突如、博士の足元で小さな爆発が起こった。

 「博士! ぐあぁぁっ!!」

 博士に声をかけようとした健二が、突然叫び声を上げた。

 見ると、カイゼルナックルから、コブラの体に向かって、大量の電流が流れていた。

 いや、コブラに対してだけではない、彼の周りにも電流を撒き散らしている。

 「・・・まさか・・・!?」

 沢田は青ざめた。

 「ぐああぁぁっ!! ぐっ! がぁぁぁっ!!」

 コブラの叫び声はだんだん強くなり、遂には地面に倒れ伏した。

 「沢田! 一体どうなっているんだ!」

 博士は沢田に詰め寄った。

 「・・・暴走だ・・・」

 「何!?」

 それを聞いた博士の顔から血の気が引いて行く。

 「がぁぁっ!! ぐあっ、うぎゃあぁぁっ!!」

 地面をのたうち回りながら、更に強い叫び声を上げるコブラ。

 体を取り巻く電流の力は益々強くなっている。

 「っ! 青山! カイゼルナックルを・・・」

 沢田がそう叫ぼうとした時だった。

 「ぐっ、ぎゃあぁぁぁっ!!」

 これまで以上の叫び声を共に、コブラの体が光り出した。

 「なっ・・・どうなっている!?」

 その光景に博士と沢田は言葉を失った。

 驚く二人を尻目に、その光りはどんどん膨れ上がって行った。







 「グゲゲ・・・!?」

 スカベンジャーは思わず動きを止めた。

 突如巨大な光りが現れたかと思うと、その中から見た事の無い「何か」が姿を現したのだ。

 「グギギ・・・」

 再び戦闘態勢に入るスカベンジャー。

 「・・・ウオォォォォッ!!」

 そして、「何か」も、巨大なうなり声を上げた。







 「・・・」

 博士と沢田は、その光景に我が目を疑った。

 コブラを包み込んだ光は姿が消え、その中にいた「何か」の姿を目の当たりにしたからだ。

 しかし、二人はその何かを知らない訳では無い。

 「これが・・・バジリスク・・・」

 博士が呟いた。

 以前映像で見た、コブラが突然変化して誕生した姿、通称バジリスク。今目の前にいるのは、間違い無くそのバジリスクだった。

 しかし、その体躯はコブラの4倍近くだった。

 「おい! 一体どうなっている!!」

 バジリスクを知らないアポカリプスが二人に問う。

 「まさか、あれが青山だって言うんじゃないだろうな!?」

 アポカリプスの問いに、二人は何も答えられなかった。

 「・・・っ・・・」

 連続して起こる不条理な自体に、アポカリプスは舌打ちするばかりだった。


次回予告


 スカベンジャーとの戦い、バジリスクの登場、それは更なる流血を引き起こす結果となった。

 次々と健二達の前に壁が立ちはだかる中、ドクトル・サイトウは新たなる刺客を送り込む。

 その幻惑は、健二を更なる深い闇へと突き落とさんと、静かに迫っていた。

 仮面ライダーコブラ 第24話 胡蝶の幻惑

 魂の叫びが、聞こえるか?


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