「ギギギ・・・」

 突如出現した敵、バジリスクをスカベンジャーは睨み付けた。

「グォォ・・・」

 バジリスクは僅かに唸るだけで反応を示さない。

 数秒間その状態が続き、状況は降着している様に見えた。
「ギギギ・・・ギギヤァァ!!」

 先手を打ったのはスカベンジャーだった。変形させた鋏を、バジリスクに向けて放ったのだ。

「・・・」

 バジリスクは反応を示さない。そして鋏が、バジリスクに接触しようとした、その時。

「・・・ギギ?」

 バジリスクの姿が、消失した。

「ギ、ギギギ!?」

 スカベンジャーはその光景に驚き、辺りを見回した。が、

「・・・ギギ?」

 直後にスカベンジャーは自分の体に違和感を覚えた。そしてその時、彼の体は宙を舞っていたのだ。


仮面ライダーコブラ

第24話
胡蝶の誘惑


「なっ!?」

 その光景を見ていた博士達も驚愕した。バジリスクの姿が突然消えたかと思うと、直後にスカベンジャーの懐に姿を現し、スカベンジャーをふっ飛ばしたのだ。

「まさか、あの巨体であれだけのスピードを・・・?」

 バジリスクは通常の人間の4倍近くまで巨大化している。しかし、今の現象がバジリスクが瞬間的にスカベンジャーの懐に飛び込んだのだとすれば、そのスピードはコブラと同等かそれ以上の瞬発力を持っている事になる。

「まさか、こんな強大な力だったとは・・・」

 沢田の顔は青ざめていた。

「・・・くっ、なんという事だ・・・」

 博士は、健二にカイゼルナックルの使用を促したのを後悔した。

「ギギギ・・・!?」

 スカベンジャーは地面に着地し、態勢を立て直した。しかし、自分が一瞬の内に吹っ飛ばされた等信じられなかった。

「グォォ・・・」

 バジリスクは今度は左腕を前に突き出した。すると、左腕は槍の様な形状に変形したのだ。

「ギギギ・・・」

 その行動は、瞬時にスカベンジャーの中で怒りに切り替わった。

「ギギギギギ!!」

 バジリスクも再び鋏を変形させた。

「グォォォッ!!」

 槍を振りかざしながら、バジリスクはスカベンジャーに迫った。




「ギギギ!!」

「グォォ!!」

 瞬間、バジリスクの槍と、スカベンジャーの剣がぶつかり合い、鈍い音を響かせた。

「ギギギ・・・」

「グォォ・・・」

 パワーは同格、両者は武器を交えたまま、降着した。が、

「ギギギ・・・」

 スカベンジャーは不気味に笑った。秘策があったのだ。

 その背後には、触手が姿を現していたのだ。一本だけでは無い。軽く見積もっても十本はある。その全てがバジリスクに向けられていたのだ。

 しかもバジリスクは剣に意識を取られて気付いている様子は無い。今なら串刺しに出来るチャンスだった。

「ギギギ・・・ギッ!」

 唸り声と共に、全ての触手がバジリスクに襲いかかった。

「グォ!?」

 バジリスクも襲い来る触手に気付いたが、既に触手は目前に迫っていた。

「ギギギ!!」

 スカベンジャーは勝利を確信した。が、

「ウォォォッ!!」

 直後にバジリスクは、スカベンジャーの剣を振り払った。そしてそのまま、後方へ大きく跳躍した。目標を失った触手は、地面に突き刺さった。

「ギッ!」

 スカベンジャーは舌打ちした。が、

「ギギッ!!」

 すぐさま触手を引き抜き、再びバジリスクへ向かわせたのだ。バジリスクはまだ地面に着地していない。今なら倒せる。そう考えたのだ。

「ギギギ!」

 今度こそスカベンジャーは勝利を確信した。が、

「・・・グォォ・・・」

 バジリスクが再び低い唸り声を上げたかと思うと、今度は頭部が発光を始めた。

「ギギ?」

 その現象にスカベンジャーも一瞬気を取られたが、どちらにしろどうでも良かった。今度こそ触手はコブラを串刺しにしようとしているのだから。が、

「ウォォォォッ!!」

 再び巨大な唸り声を上げるバジリスク。

 そして発光が終わった頭部から、三つの光弾が連続して放たれたのだ。





「ギギャアア!!」

 スカベンジャーは悲鳴を上げた。放たれた光弾は、触手を全て破壊したのだ。

「ギギギ!」

 後一歩の所で敵を仕留め損ねた事で、スカベンジャーは更に怒りを露にした。だが、そんな暇は無かった。

「ウォォォッ!!」

 再びバジリスクは攻撃をしかけようと迫ってきている。

「ギギギ!!」

 スカベンジャーは応戦しようと腕をバズーカに変形させた。

「ギギャアア!!」

 バズーカが火を吹き、発射された弾がバジリスクの前に着弾し、轟音を響かせた。

「ギギギ!」

 今度こそは、とスカベンジャーも思った。が、

「ギ!?」

 スカベンジャーは再三驚愕した。

 再び自分の眼前に、バジリスクが出現したのだ。着弾地点まではまだ開きがある。脅威的なスピードだった。

「ウォォォォッ!!」

 バジリスクは唸り声と共に、脚を大きく振り上げた。






「ギギャァァァ!!」

 ハイキックを食らい、宙を舞うスカベンジャー。

 攻撃はまだ終わらなかった。

「ウォォ・・・」

 再び腕を槍に変形させるバジリスク。そして、

「グォォォ!!」

 変形した腕は、スカベンジャーがやったそれと同じく、鞭の様な形状に変化した。その腕は、蛇の如く、スカベンジャー目掛けて突進して行く。

「ギギギ!?」

 その様子を見たスカベンジャーは必死で足掻いた。だが、それも空しく宙を掻くだけだった。

 そんな事に構う筈も無く、バジリスクの腕はスカベンジャーを貫かんと迫っていた。

「ギギャァァッ!!」

 断末魔と共に、スカベンジャーの腕が宙を舞った。足掻いたおかげで直撃は免れた物の、腕は根本から完全に千切れていた。が、

「グォォォッ!!」

 左腕を元の形状に戻したバジリスクは、今度は右腕を前に突き出す。そして腕からは、弧を描いた巨大な剣が出現した。

「ウォォォッ!!」

 跳躍するバジリスク。標的は勿論スカベンジャーだ。

「ギギギ!?」

 吹っ飛ばされて片腕を切り落とされたスカベンジャーにとって、正しく寝耳に水だった。瞬時にスカベンジャーに接近したバジリスクは、剣を振り上げた。そして、

「ウォォォッ!!」

 叫び声と共に、剣が振り下ろされた。





「ギギャァァァ!!」

 切り落とされたスカベンジャーの右腕が地面に落下する。

 わずか数分で、スカベンジャーは両腕を切り落とされるまでに至ったのだ。

 だが、バジリスクの攻撃はまだ終わっていなかった。

「ウォォォッ!」

 次の瞬間、バジリスクは身体を反転させ、スカベンジャーに上向きに蹴りを加えたのだ。

「グォォォッ!?」

 蹴られたスカベンジャーは腹部を上に向け、わずかではあるが更に上に向かって吹っ飛ばされた。

「ウォォッ!!」

 バジリスクは地面に着地し、上空を見上げた。スカベンジャーは成す術も無く、甲羅から地面に落下しようとしていた。

「ウォォォッ!!」

 バジリスクは大きく跳躍し、両腕を広げた。そしてそのまま高速で回転を始めたのだ。回転スピードは徐々に増して行き、それに比例して標的との距離が縮まって行く。その標的は、言うまでもなくスカベンジャーだった。そして、台風の如く回転するバジリスクと、スカベンジャーが接触した。

「ギギギギギ!!」

 甲羅に攻撃を受け、唸り声を上げるスカベンジャー。だが、防御力はかなりの物らしく、バジリスクが衝突してもダメージには至って無い。

「グォォォッ!!」

 だが、それも最初の数秒でしかなかった。激突しても尚、バジリスクの回転は衰えず、更に加速度を増して行く。

「グ、ギギギギギ!?」

 スカベンジャーも異変に気付いたのだろう。装甲はスカベンジャーが考えているよりも遥かに速いスピードで削られていたのだ。

「ギギギギギ!」

 たまらずスカベンジャーがバジリスクを振り払おうとした時、装甲に亀裂が走った。その瞬間、勝負は決した。





「グギャァァァ!!」

 おぞましい断末魔が響いた。

 スカベンジャーの装甲が砕け散り、バジリスクがスカベンジャーの身体を貫いたのだ。

 同時に抉り取られた筋肉と血漿が弾け飛んだ。

 そして肉片と血にまみれながら、バジリスクは完全にスカベンジャーの胴体を貫通した。

 腹部に巨大な大穴を空けたスカベンジャーは、そのまま地面に向かって落下して行く。

 そして、その身体は地面に激突し、土煙を上げた。






 スカベンジャーが地面に落ちた直後、轟音が大気を振動させ、舞い上がった土煙を完全に吹き飛ばした。

「ぐっ・・・!?」

 博士達は顔を覆い、吹き飛ばされまいと足を踏ん張った。

 数秒後に爆風が収まり、視界が晴れる。

「・・・」

 その様子を見た博士達は、言葉を失った。

 爆散したスカベンジャーの残骸はどれも見る影も無く粉々に砕け散っており、殆どが炭化したと言っても過言では無いほど焼け焦げていた。焼け切らなかった肉片はチリチリと青い炎を挙げながら燃え続け、蒸発し切れなかった血の臭いと混ざり、異臭を放っている。

 そしてその後ろには、スカベンジャーを倒し、自らも血まみれとなったバジリスクが、呆然と立ち尽くしている。

 バジリスクの圧勝であった。スカベンジャーはバジリスクの前に成すすべなく粉砕されてしまったのである。

 だが、その勝利はあまりにも後味の悪い物であった。

「これが、カイゼルナックルの力・・・」

 戦慄する博士。

「・・・くそっ!」

 地面に拳を打ち付ける沢田。だが、その原因はこの戦いによる物だけではなかった。

「何故だ、何故こんなに頭が・・・」

 沢田は頭に手をやる。戦闘中彼の頭は、ずっと原因の解らない頭痛に苛まれていたのである。




 立ち尽くしていたバジリスクの身体が光出した。

 直後に身体は粒子となって分解を始め、徐々に消滅してゆく。

「・・・魔獣の最期か・・・」

 ふとつぶやくアポカリプス。

 そして完全にバジリスクが消え去り、その下には健二が立ち尽くしていた。





「健二君!」

 博士達は健二に駆け寄った。

 だが、健二はそれに気付かないのか、虚ろな目で明後日の方を向いている。

「健二君! しっかりしろ! 大丈夫なのか!?」

 博士は健二を揺さぶった。それに気付いたのか、はっとした表情で辺りを見回す健二。
「・・・博士・・・皆・・・オレは・・・」

 健二は状況がさっぱり理解出来ていない。

「覚えていないのか?」

「ええ・・・カイゼルナックルがエネルギーを吸収し始めた直後に、突然体が痺れ出して、そのまま気を失って・・・」

「・・・そうか・・・」

 博士は頭を掻いた。今回の暴走は、予想以上に複雑な問題を抱えている様だった。






「沢田、あんたは今回の暴走は予想できたのか?」

 健二は沢田の方を向いて尋ねた。

「・・・ある程度の不具合は予想できた・・・だが、あそこまで想定外の展開は予想していなかった・・・」

 頭を抱える沢田。

「・・・オレ、意識失ったって言ったけど、実はわずかに意識はあったんだよね・・・」

「・・・何・・・?」

 その言葉に、一同が健二の方を向いた。

「意識があったって言っても、ホントにうっすらとだけど・・・自分でも何やってるかさっぱり分からなかった。辺りは真っ暗で、何かに縛り付けられてる感じで・・・自分以外の何かが勝手に動いてるみたいで・・・」

「自分以外の何か・・・?」

「何て言えばいいんだろうか・・・オレの中に潜む何かが・・・」

 そこまで言って言葉に詰まった健二は、沢田の方を見た。

「・・・沢田博士、教えてくれ。あんたはカイゼルナックルに何を仕込んだんだ・・・?」

「・・・」

 沢田は一瞬答えに詰まったが、直ぐに答えた。

「カイゼルナックルには、力を与える以外には、何の機能も仕込んではいない・・・」

「・・・」

 沢田の返答に、再び健二は黙り込む。

「・・・じゃあ、あれは一体なんだったって言うんだ・・・」

 泣き言の様に呟く健二。今の戦いは、予想以上に健二を追い詰めていた。が、

「・・・絶望してばかりでも仕方ないんじゃないか?」

 アポカリプスが口を開いた。

「アポカリプス・・・」

「確かに、今の戦いのおぞましさは異常だったかもしれない。だがな、それももう過ぎた事だ。結果論になってしまうが、どうにかあの化け物を倒す事は出来たし、お前も戻って来る事は出来た。勿論それで今回の事を全て水に流す事は出来ないだろう。だが、原因はひょっとしたら今後解明出来るチャンスはあるかもしれない。だからと言ってはアレだが、今回は皆無事だっただけでも収穫じゃないだろうか?」

「・・・私も、アポカリプスの意見に同意だ・・・」

 口を挟む博士。

「今は皆、戦い終わってボロボロになっているだろうし、とりあえず引き上げて体を休めるのが賢明だと思うんだ。勿論、原因の解明には私も全力で協力させてもらう。だから健二君、今はあまり深く考えないで、とりあえず休んでくれないか?」

「・・・」

 二人の言葉に、健二は再度顔を伏せた。が

「・・・分かりました・・・オレ自身も訳分からなくなってるし、少し頭を冷やしてみます・・・」

「・・・そうか、分かってくれて良かったよ・・・」

 博士は内心胸を撫で下ろした。

「バイクで戻る事は出来るか?」

「ええ、なんとか・・・」

 健二は苦笑しながらも頷いた。





「・・・さっきから君も顔色が悪いようだが?」

 博士達に悟られないような小声で、アポカリプスは沢田に耳打ちした。

「・・・別に大した事は無い・・・」

「今の戦いで嫌な事を思い出した、そんな所か?」

「・・・余計なお世話だ・・・」

 沢田は顔を背けた。

「フッ、まあいい、だが、無理はするなよ・・・」

「お前に言われんでも分かってる。心配するな」

 言い終わると、アポカリプスは呼び寄せたモトソルジャーに跨った。

「私はまた独自に動くことにする。さらばだ!」

 そう言うとアポカリプスは煙をふかして走り去って行った。






「・・・」
 戦いの様子を見届けたヒメヤは黙り込んだ。

「・・・いかがでしたか・・・?」

 機嫌を損ねないようにヒメヤに問う男。

「・・・フッ、所詮この程度か・・・」

 優越感と自尊心に満ちた声で喋るヒメヤ。

「これで証明された。やはりどんな肩書きを並べようが、低俗であるバイオソルジャーなど所詮この程度。最強はメタルソルジャーだ」

「はあ・・・」

「・・・さて、私はそろそろ新たなるメタルソルジャーの開発に取り掛かるとするか・・・」

 そう言ってヒメヤは席を立った。

「今度こそ、役立たずのバイオソルジャーと成り上がり者の開発者、それをマンセーしているあの見る目の無い社長の鼻を明かしてやる・・・」

 ヒメヤの目は、機械のように不気味な光を放っていた。






「・・・」
 戦闘の経緯を見届けたサイトウは腕を組んだ。

「・・・いかがでしょうか・・・?」

 これ以上妙な言葉を聞きたくないと思いつつ、男は尋ねた。

「・・・残念ですが、今回は失敗でしたね・・・」

 諦めたような声でサイトウは話した。

「なんにしても、今回は予想外の要素の多さが問題ですね。ですが、決してマイナスポイントばかりではなかったと思います。ここでの失敗は確実に次のステップに生かしてみせますよ・・・」

 そう言って悪戯っぽく笑うサイトウ。

「・・・そうですか・・・」

 少しは慣れたとはいえ、この人にはやはり謎が多過ぎる。男はそう悟った。

「そういえば、私が戦いの様子を見ている間に誰か客が来ませんでしたか?」

 振り返って尋ねるサイトウ。

「客・・・いましたが到着しましたが・・・ちょっと呼んで」

「おーい! サイトウのおっさん!いるか!?」

 男の声を誰かの大声が遮った。直後に、ドン!という音が響き、部屋のドアがこじ開けられた。

「ああいたいた! 来てやったぜ! サイトウのおっさん!」

 現れたのは、跳ねまくった金髪の頭にボロボロのジーパンとジャンバーを身にまとった、なんとも頭の悪そうな青年であった。

「少しは言葉を慎め、丈」

 その後ろから黒ずくめのコートをまとった男が現れた。

「・・・客というのは彼等の事ですか?」

 サイトウはドアの側で唖然としている男に視線をやった。

「え? あ、はい・・・先程到着したMr剣崎と」

「説明は不要です。彼等は私の部下ですから・・・」

「・・・そうですか・・・」

「とりあえず席を外してください。ここから先は私達だけで話したいので・・・」

「・・・分かりました・・・」

 男はこれ以上訳の分からない話に巻き込まれないと分かり、内心胸を撫で下ろしていた。






「・・・さて、とりあえず、遠路遥々ご苦労様でしたね、剣崎君、毒島君」

「全くだぜ、アメリカからヘリで揺られながら来たんだぜ。もっとVIP待遇でもいいんじゃねえの?」

 毒島丈は名前通りに毒を吐きながら悪態をついた。

「まあそうカッカするな。所詮兵隊に過ぎない我々の待遇などあんなものだ」

 もう1人の男、剣崎勇介が丈をなだめる。

「まあいいや、それでサイトウのおっさんよ、なんでまたオレ達を呼び出したんだ?」

 丈はサイトウを見た。

「ふっ、君達自身も大体分かっているのではないのですか?」

 微笑を浮かべるサイトウ。

「はい、さしずめ戦闘面で我々の出撃が必要になる可能性があった為、でしょうか」

 勇介が答えた。

「本来なら君達は来日が徒労になった分私が与えた小遣いで日本で豪遊する予定だったのですが、残念ながら急遽予定が入ってしまいましてね・・・」

 そう言い終えたところで、サイトウはある事に気付いた。

「・・・そう言えば、羽山さんはどうしたのですか?」

「ああ、あの腐女子ならもう向かったぜ」

「ほう、まだ内容も伝えてないのに、気が早いですね・・・」

「どうやらターゲットが彼女好みの男だったらしいですね」

「あいつかなりの面食いだからなあ・・・」

 勇介と丈が経緯を説明した。

「そうですか・・・どちらにしろ、伝える内容は同じでしたけどね・・・」

 そう言うとサイトウは再び口元に笑みを浮かべた。





「博士、さっきから何かおかしくないですか?」

 横を走る博士の車に向かって健二が言う。

「・・・ああ、我々も薄々おかしいとおもっていたんだが・・・」

 博士は顔を掻いた。

とりあえず博士宅まで戻ろうとした健二達であったが、さっきからどうにも同じ光景が並ぶ道をずっと走り続けているような気がしてならないのだ。

「ホントにこの道で間違い無いのか?」

 助手席の沢田が口を挟む。

「馬鹿を言え、いつも使ってる道だ、間違うはずがないぞ。なあ健二君」

「ええ・・・けど・・・」

 健二は辺りを見回して内心少し不安になった。

「分かっている、霧が嫌に濃いな・・・」

 博士の言う通り、周りには霧が立ち込めていた。

 数分前までは晴れていたし、霧もなかったが、車を走らせ始めた時から、突然霧が立ち込めたのだ。そのせいで、辺りの見通しは良くなかったが、それでも博士宅までの距離も時間も知れているし、博士の言う通り、迷うなんて事は考えにくい。

「・・・気のせいかな、妙な胸騒ぎがする・・・」

 博士がそう呟いた直後だった。

「博士! 前! 前!」

 健二が慌てて叫んだが、既に遅かった。






「・・・なにやってんだよ・・・」

 頭を抱える沢田。

 大した勢いでは無かった物の、博士の車が電柱に激突したのだ。

「いやはや、妙な胸騒ぎはこれの事だったのか・・・」

 苦笑する博士。

「笑い事じゃないですよ、博士。いっぽ間違えればとんでもない事になってたんですから・・・」

 健二は博士を責めたが、内心ほっとしていた。

「いやはや、すまない・・・とりあえず動けるかな・・・?」

 博士は車の様子を見回した。

「・・・前面の傷がちょっと微妙だな。迂闊に動かさない方がいいかもしれん・・・」

 先に様子を見た沢田が言う。

「そうだな・・・参ったな、こんな霧の中で・・・」

「銀咲さんに電話してみたらどうですか?」

 健二が提案する。

「・・・そうだな・・・」

 そう言うと博士はポケットから携帯を取り出した。そして番号を押し、通話しようとした。が、

「・・・おかしいな、圏外だぞ?」

「そんな馬鹿な・・・」

 沢田は不信に思い、携帯を見た。

 確かに携帯から「電波の届かない所にいます」という声が聞こえる。

「・・・おかしい、この霧が出てから、色々とおかしな事が多過ぎる・・・」

 博士達は、今自分達が置かれている状況の不自然さに気付いていた。

「・・・オレ、ちょっと様子見てきます!」

 健二はたまらず様子を見ようと走り出した。

「ちょっと待て! 青山!」

 それを制止しようとする沢田。が、

「フフフ、そう焦る事はありませんよ・・・」

 突如、誰かの声が聞こえた。

「・・・誰だ?」

 健二は立ち止まった。

「・・・そんな不思議そうな顔をする必要はありませんわ、何故なら・・・」

 声が一瞬途切れた、が、

「何故なら、あなた方はここで死ぬのですからね!」

 その直後、激しい突風が吹き荒れた。







「うわああっ!?」

 健二はその風によって、後方へ大きく吹っ飛ばされた。

「ててて・・・博士! 沢田!」

 辺りを見回す健二。

「だ、大丈夫だ・・・」

 博士は尻餅をつきながらも手を振った。沢田も無事なようだ。が、健二は異変に気付いた。

「あれ? 博士の車は・・・」

 言われて見れば、さっきまで目の前にあった博士の車がどこにもない。が、

「健二君! 上だ! 上を見ろ!」

 博士が叫んだ。

「え? 何?」

 訳が分からず健二は上を見上げ、硬直した。

「く、車が!」

 さっきの突風で上空に吹っ飛ばされた車が、今まさに健二めがけて落下してきているのだ。

「くっ・・・!」

 それを見て沢田は咄嗟に駆け出した。






「っ・・・!」

 潰されると思って健二は無駄だと分かりつつも身構えする。が、

「・・・」

 とっくに押し潰されてもおかしくない筈なのに、そんな感覚が全く無い。そして、恐る恐る顔を上げた健二は驚いた。

「ぐ・・・!」

 変身した沢田が、落下してくる車を支えていたのだ。

「沢田!」

「・・・早く逃げろ・・・いかにライダースーツがあるからとはいえ、楽じゃないんだぞ・・・」

「わ、わかった!」

 健二はその場から転がるように脱出した。

「ぐ・・・が・・・!」

 沢田は少し乱雑ながらも車を地面に置いた。

「さ、サンキュー・・・死ぬかと思ったぜ・・・」

 健二は地面に座り込んで息を荒げている。

「ふっ、お前程の男がこんな所で死んでどうする・・・」

 沢田も息を荒げながら言う。

「へっ。そりゃどーも・・・」

「健二君! 沢田! 大丈夫か!」

 博士が慌てて駆け寄ってくる。

「ふ・・・見ての通りだ・・・」

「なんとか・・・大丈夫です・・・」

 とりあえず無事という事を示す沢田と健二。

「そうか・・・しかし・・・」

 胸を撫で下ろすと同時に、博士は渋い顔で車を見た。

「・・・最近買い換えたばかりなのに、もうこんな傷だらけか・・・」

「気にする所が違うだろ」

 すかさず突っ込む沢田。

「しかし、一体誰がこんな事を・・・」

「自然現象ですかね?」

「竜巻なんてそうそう起こる物じゃ無いだろう・・・」

 健二達は首をかしげた。が、

「フッ、やはりこの程度では死にませんでしたか・・・」

 突然女の声が響く。

「! 誰だ!」

 健二は辺りを見回した。

「フフフフフ・・・」

 笑い声と同じに、再び霧が現れた。

「くっ! また霧か・・・!」

 しかし、博士は若干様子が違う事に気付いた。

「・・・これは・・・」

 普通霧は辺りに満遍なくかかる筈だが、この霧は健二達の回りの数メートルには殆どかかっておらず、外側をドームの様に覆っていた。

「フフフ・・・私の特製特殊空間、霧の闘技場、フォッグコロシアムですわ」

 その声と同時に、今まで姿を隠していた声の主が姿を現した。その姿は、俗に言う「ゴスロリ」系の服をまとった女だった。

「誰だ!」

 健二は叫んだ。

「フッ、そう意気込む必要はありませんわ。何故なら、あなた方はどちらにせよここで死ぬのですから・・・」

「なんだと!?」

「けどまあ、一応名前だけは名乗っておきましょうか・・・」

 そう言うと女は被っていた帽子を脱ぎ捨てた。

「私、羽山めぐみと申します。あなた方を抹殺する為に収集されたのですよ。通称「仮面ライダー」さん」

「抹殺!?」

「そう、丁度サイトウさんの力作がタイミング良く倒されてしまって、待機していた私達に白羽の矢が立ったという訳ですわ、フフ・・・」

「サイトウさん? それがお前達の頭か?」

「言った筈でしょう? あなた方はここで死ぬんですよ。そんな事知ったって大した意味はないでしょう?」

口調は穏やかだが、めぐみは明かに健二達を馬鹿にしていた。

「けど、写真の時点で中々だと思いましたけど、やっぱりあなた、私好みのイケメンさんですわ・・・」

「・・・はあ?」

 思わぬ一言に、拍子抜けする健二。

「・・・イケメン?」

「・・・あいつが?」

 それは博士と沢田も同様だった。

「フフ、驚く事はありませんわ。こう見えて私、男を見る目だけは確かなんですの。でも・・・」

 そういうとめぐみは顔を手で隠し、目を閉じた。

「そんなあなたを殺さないといけないのが、私とても残念ですわ・・・」

 そして、再び彼女の目が開かれた、その時、

「ぐっ!?」

 再び吹いた突風に、健二は顔を手で覆った。

「フフ・・・」

 笑い声と共に、めぐみは瞬時に体を変化させた。

「つ・・・お前は!?」

 そこにいたのは、不気味な体色をした、蝶の様な姿のバイオソルジャーだった。

「これが私の戦闘形態、ミラージュパピヨンですわ。それと、こう見えても上級バイオソルジャーなので、甘く見ないでくださいね」

「っ・・・」

健二はわずかに後ずさりする。が、

「逃げようと言うなら無駄ですわよ。このフォッグコロシアムは外部と内部の交信を一切遮断できますの。しかも制御権は私にありますから、脱出したければ私を倒すかそれとも強力な突風を当てて霧をかき消すしかございませんわ。最も、その突風というのも簡単に作り出せるとは思いませんが・・・」

「・・・逃げ道はないという事か・・・」

 それを聞かされた博士は舌打ちした。

「・・・健二君、すまないが、戦ってくれるか?」

「・・・この様子じゃ、そうするしかありませんね・・・」

 健二は苦し紛れの声で答えた。

「私も戦うぞ、お前一人だけに負荷をかけさせる訳にはいかんからな」

 既に変身していた沢田が言う。

「フフ、何人がかりでもかまいませんことよ・・・」

「じゃあ、遠慮無く行かせてもらうぞ!」

 健二はベルトを装着した。

「変身!」

 瞬時にライダースーツが健二を覆い、コブラへと変身した。

(フフ、どう足掻こうと、この勝負、あなた方に勝ち目はありませんわ・・・)

 ミラージュパピヨンは心の中でほくそ笑んだ。

(何故なら、この霧に巻かれた時点で、あなた方はすでに私の仕掛けたトラップに落ちているのですから・・・フフフ・・・)






 健二達が戦闘を行おうとしていた場所から、大分離れた道路。

 そこを疾走する一台のバイクがあった。

「・・・反応はまだ先から起こっている様だな・・・」

 バイクに跨った男がつぶやく。

「いずれにせよ、オレがたどり着くまで、戦闘を終わらせないでくれよ・・・!」


次回予告



 ミラージュファントムの作戦により、コブラは大苦戦を強いられる事になる。そんな中現れた謎のバイオソルジャー。心身共にボロボロの健二、気力を無くして腑抜けになった祐樹を連れ、彼はある場所へ向かう。それは健二と祐樹に課せられた、新たなる試練であった。

 仮面ライダーコブラ 第24話 裏切りの猛者

 魂の叫びが、聞こえるか?


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