仮面ライダーコブラ

第3話
兄の苦悩


 之村博士が開発したライダースーツを装着した健二は、物の数分で襲い来るメタルソルジャーを破壊した。

 「しかし・・・これは一体何なんでしょうか・・・」

 変身を解除した健二が、手に持った機械を見ながら言う。

 「一言で言えば、ライダースーツだ・・・。本来は企業用に開発していた物だったが、ちょっとカスタマイズした・・・」

 「カスタマイズって・・・あの戦闘用スーツですか?」

 「そうだ。あれは本来のライダースーツでは無い」

 博士は淡々と言う。

 「あれはな・・・。健二君、君の右腕の遺伝子を読みこんで、あの形状に変化したのだ・・・」

 「えっ!?遺伝子を読みこんで・・・ですか?」

 「ああ。以前私は遺伝子を読みこみそのデータを作成する機械を造っていた。それとあのライダースーツを組み合わせたのだ」

 「その姿が、あの戦闘用スーツ・・・」

 「そうだな。名前が無いのも不便だろう。さしずめ、仮面ライダーコブラといったところだろう」

 「仮面ライダー・・・。それって、どこかで聞いた事があるような・・・」

 「一種の都市伝説だ。詳しくは解らないが、未知の新生命体と闘った異端の改造人間という話だ・・・」

 之村博士が説明した。

 「異端の改造人間・・・。何か意味深ですね・・・」

 「まあそうだな・・・。そうだ。君はそろそろ家に戻った方がいいんじゃないかね?」

 「あ、そうですね・・・。じゃ、今日は失礼させてもらいます」

 「ああ、気をつけてな・・・」

 健二は急いで家に向けて走り出した。




 翌日。

 「そういえば昨日、帰ってくるの結構遅かったね」

 真琴が朝食のパンを食べながら言う。

 「あ、ま、まあな・・・。ちょっと寄り道してたんだ・・・」

 「ふーん・・・デート?」

 「違うよ」

 健二は笑いながら言い帰す。日常の何気ないひとコマだった。

 だが、健二はふと思った。

 (オレは・・・今日までの数日間で何度か死にかけたんだ・・・)

 健二はそんな事を考えていた。

 ガルグド・メタル社に拉致され、命からがら脱出し、メタルソルジャーに命を狙われ、仮面ライダーとなり、それを退けた。これだけで十分、命を落としかねない事態だった。

 (だが、オレの右腕は、もう、普通の人間とは変わってしまった・・・)

 健二は右腕を見ながら思った。もう逃げ場は無いのだ。

 「どうしたのお兄ちゃん? 深刻な顔してるけど」

 ふいに真琴が尋ねる。

 「え? いや・・・何でも無いよ・・・」

 健二は言い返す。

 (オレは、大学生として、真琴の兄として、今まで通り生きていけるのだろうか・・・)

 つい昨日、再び有り得ない現実を見たのだ。健二は自分の目を疑った。

 「じゃあ、そろそろ言ってくるね」

 そう言って真琴は席を立つ。

 「ああ、気をつけてな・・・」



 その日の講義は午後からだった為、健二はぼんやりしながら街をぶらぶらしていた。

 ふと横を見ると、昨日の公園で、警察が取り調べをしている。今日の朝、公園でメタルソルジャーの腕の残骸が発見され、木も一本消滅していたのだ。
他の残骸等は発見されなかったらしい。誰かが持っていったのだろうか。

 そんな事を考えながら、健二は公園を後にした。

 「今後公園が非現実の舞台になるかもしれない・・・」

 そんな事を言っていた。



 「あれはやはり何かの戦闘用スーツなのか?」

 マッドは、テレビに映っている沢田に尋ねた。

 「はい、それも、生身の人間では捕獲する事すら困難なメタルソルジャーを、こうも簡単に破壊するとは・・・かなりの高性能スーツである事が予測されます・・
 ・」

 「開発者は解るのか?」

 「現在調べていますが、この様なスーツの開発に取り組んでいる学者などは見当たりません」

 「そうか・・・。その戦闘用スーツを着ていた人間は解るか?」

 「以前逃亡した研究用サンプルなので、顔はわかります。メタルソルジャーをまた仕向けますか?」

 沢田が提案する。

 「いや、今回はバイオソルジャーを使おう・・・」

 「やはり、メタルソルジャーでは相手になりませんか?」

 「単独戦ならバイオソルジャーの方が数段勝っている物が多い。とりあえず、お手並み拝見だ・・・」

 「了解致しました・・・」

 そして、回線は切られた。




 「ねえ、青山君・・・」

 講義を終えた健二に、突拍子も無く綾子が話しかけてきた。

 「えっ、な、何?」

 健二は驚いた。

 「昨日、ありがとうね・・・」

 「あ、ああ、気にしないでよ。オレもあの時は焦ってたからさ・・・」

 「でも、あれって本当になんだったんだろう・・・」

 「オレも解らないよ・・・」

 「でも、あの時青山君が助けてくれなかったら・・・」

 「まあいいじゃないか。今生きてられてんだからさ・・・」

 何時の間にか、二人の間にはいい感じの雰囲気が出来ていた。しかし、

 「お、なんだなんだ?」

 「青山と松木がラブラブか?」

 「いいねえ。青春」

 それを見た周りの人たちが集まってきた。

 「お前等何時の間にそんな関係だったんだ?」

 「えー、ずるいよ綾ちゃん。私達を先置いてー」

 「ち、違うよ。そんな関係じゃないよ・・・」

 色々あったが、昨日の一件で、二人の仲は少し前進したようである。




 「で、君はこれからどうするのかね?」

 之村博士が訪ねた。

 「どうするって・・・。ライダースーツの事ですか?」

 「君はライダースーツを着て戦うのか、そういう事だ」

 「そういう事って、それしか選択肢は無いでしょう?」

 健二が言う。

 「確かにそうだ。その為にライダースーツをカスタマイズしたのだからな。しかしだ、それを装着して戦えば、少なくとも今まで通りの日常は送れなくなるかもしれない。それでもいいのか?」

 「・・・。戦うのはオレだって嫌です。しかし、奴等がオレの命を狙い、また回りの人達を巻き込もうとするなら、戦わない訳にはいきません」

 「・・・そうか・・・。その意思に間違いは無いな?」

 「・・・はい」



 しかしその頃、

 「ひっ、ひぃ!!助けてくれ!!」

 数人の人達が悲鳴をあげて逃げている。その後ろには、

 「グゲゲゲゲ・・・・」

 それは、腕に巨大な鎌があり、頭部はカマキリの形をした、人型の怪物だった。

 「グギャァァァ!!」

 怪物が叫び声をあげて襲いかかる。そして、

 ズバアァッ!!

 目の前にいた人を斬った。

 「ウワァァァ!!」

 その人はそのまま倒れ、絶命した。辺りには大量の血が広まっている。

 「ひっ、ひやあ!!」

 「ひ、人殺しぃ!!」

 周りの人は泣き叫びながら逃げ回った。




 「怪物が現れただって!?」

 健二が驚いた顔をした。

 「ああ、死傷者も出ているらしい・・・」

 之村博士が説明した。

 「やはり奴等の狙いは・・・・」

 「健二君、君なのかもしれない・・・」

 「・・・オレ、行きます!」

 「私も行こう。ライダースーツの作り手は私だからな」



 「グゲゲゲゲ・・・」

 怪物は尚も破壊活動を続けていた。そこへ、

 「待て、化け物!!」

 突然声が響く。

 見るとそこに健二がいた。

 「もうこれ以上好きにはさせない!」

 そう言うと健二は、バックから二つの機械を取り出し、装着した。

 「行くぞ! 変し・・・」

 健二は変身しようとした。だが、

 「おにーちゃん!!」

 また誰かの声がきこえた。

 「なっ、真琴!」

 声の主は真琴だった。

 「どうしたんだ真琴!?」

 「帰り道であの化け物を見て、恐くなって遠回りで逃げてきたの・・・」

 真琴は健二に抱きつき、安堵した表情で言った。

 (弱ったなあ・・・。ここで変身すべきなのか・・・)

 健二は迷っていた。だが、

 「グギャアア!!」

 その間にも怪物の刃は迫る。だが、

 「危ない!!」

 之村博士が、健二達の前に立った。そして、

 ズバアァッ!!

 「ぐわああっ!!」

 怪物の鎌が、博士を斬った。

 「は、博士!!」

 健二が叫んだ。博士はそのまま、地面に倒れ伏した。

 「こ、この野郎よくも・・・!!」

 健二は拳を握り締めた。だが、

 「いっ、いやあぁぁぁ!!」

 突然真琴が悲鳴をあげて泣き出した。

 「ま、真琴!?」

 之村博士が斬られたのがこたえたのか。真琴は力が抜けた様にへなへなと地面に倒れた。

 「ま、真琴! しっかりしろ!!」

 健二は真琴の体を揺さぶる。しかし真琴は、泣いていて起き上がれない。

 「グゲゲゲゲ・・・」

 怪物は尚も迫る。

 「クッ・・・。許さねえ・・・!!」

 健二は怒りで震えていた。

 「お、お兄ちゃん・・・?」

 真琴は今までとは違う兄の姿を見て驚いた。

 「真琴・・・。お前に隠していた事が有ったんだ・・・」

 「・・・? 隠し事ってどういう事?」

 「ゴメン。こういう事だ・・・。変身!」

 そう言うと健二は、右腕の機械のスイッチを押した。

 「インプット」

 機械音がなり、コブラスーツが構築され、健二に装着される。

 「お、お兄ちゃん・・・?」

 真琴は変身した兄の姿を見て驚いた。

 「真琴、これが今のオレ、仮面ライダーなんだ・・・」

 「健二が言う」

 「仮面、ライダー・・・・?」

 真琴は困惑した顔でその言葉を口にした。

 「オレは、アイツを倒さなきゃならないんだ!」

 健二はそう言うと怪物に向けて突進した。

 「でえぃ!!」

 そして懐にパンチを繰り出した。

 「グゲェ!!」

 怪物は仰け反った。だが、

 「グギャアア!!」

 再び鎌を振り下ろす。

 バアン!!

 「ウワッ!!」

 健二は鎌を食らってよろめいた。

 「まずは、あの鎌を潰した方が良さそうだ・・・」

 そう言うと健二は、高速で怪物の右側に滑り込んだ。

 「グゲ!?」

 怪物は驚いた。

 「食らえ!!」

 健二は怪物の鎌に、力を込めてパンチを叩きこんだ。

 バキィン!

 鎌が音をあげて砕けた。

 「ギギギ!?」

 怪物は驚いた。

 「今だ!!」

 健二は今度は怪物の懐に滑り込んだ。

 「オラァ!!」

 健二は怪物の腹にパンチをくりだす。そしてそのまま高速で走り出した。そして、

 ドガアン!!

 健二はそのまま怪物をアスファルトに叩きつける。そして、拳は胴体を貫通した。

 「グゲエエ!!」

 怪物は悲鳴をあげた。そして次の瞬間

 ドガアァン!!

 怪物は大爆発を起こした。

 「ふう・・・」

 健二は変身を解除した。



 博士はあの後病院に運ばれた。傷は深かったが、奇跡的に一命は取り留めたようだ。

 「ゴメン、真琴・・・。見ての通り、オレは今までのオレじゃないんだ・・・」

 健二は真琴に言い寄っていた。

  「お兄ちゃん・・・」

 「詳しい事情は置いといて、とにかく、そういう事なんだ・・・」

 「・・・馬鹿な事言わないでよ!!」

 真琴は強く言った。

 「姿が変わったって、それがどうしたのよ!お兄ちゃんはあの化け物を倒して、私達を守ってくれたじゃない!それの何が悪いの!?」

 「ま、真琴・・・」

 「姿が変わったって、お兄ちゃんはお兄ちゃんじゃない!それは変わらないのよ!ねえ、今までどおりのお兄ちゃんでいてよ!!」

 真琴は泣きながら、健二に強く抱きついた。

 「真琴・・・。ゴメンな・・・。こんな兄貴で・・・」

 健二は、真琴の頭を撫でながら言った。



 「キルマンティスが倒されただと?」

 マッドが言う。

 「こちらも想像していませんでした。バイオソルジャーが倒されるなど・・・」

 「どちらにせよ、これはほおっておけない事だな・・・」

 「左様です。この先、あの戦士が我々の脅威となるかもしれません」

 「今後、奴に注意しろ。破壊が最優先事項だ」

 「承知しました」

 そして回線が切られた。

 「仮面の戦士・・・。異端の改造人間という都市伝説は実在したのか・・・?」

 マッドは町を眺めながら言った。


次回予告

 仮面ライダーを危険な存在として認知したガルグド・メタルは、仮面ライダーを抹殺すべき存在としてマークし始める。そんな中、新たなる適格者として、青年、東山祐樹は、ガルグドメタル社に拉致される。手術台の上で聞かされた事実に、彼は、何を見たのか?

 仮面ライダーコブラ 第4話 新たなる適格者

 魂の叫びが、聞こえるか?


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