新たなる適格者
そこにある真実
左腕に宿された魂は、鮫なり
仮面ライダーコブラ
第4話
もう一人の適格者
「博士、色々と迷惑をおかけしました。スイマセン・・・」
健二はベッドに横たわる之村博士に申し訳なさそうに頭を下げた。
「いや、あの時君達を死なせるわけにはいかなかった。私も君達に心配をかけさせてしまった様だ。すまない」
博士が言う。
健二達をかばってキルマンティスに斬られた之村博士は、病院に運ばれた。傷は深かったものの、奇跡的に一命を取りとめ、体調も回復している。
「確かにあの時は死んだかと思った。今は心底生きていて良かったと思っているよ」
「でも博士」
横にいた真琴が言う。
「どの位で退院できるの?」
「そうだ。博士、やはりそれまで時間はかかるんですよね?」
健二が便乗して聞く。
「ああ、最低でも全治6週間だそうだ」
博士が答えた。
「しかし、自由に動けないだけの話だ。体調は既に回復している」
「でも、あまり無茶はしないでくださいよ」
「解っている。ここで老後の生活を更に苦しくしてしまうのは嫌だからな」
そうして病院では、談笑が続いていた。
その青年は、無愛想な顔で歩いていた。
顔立ちは整っているが、目は釣り上がっており、周りには近寄りがたい雰囲気が有った。
彼の名は東山祐樹。大学生である。
彼はバックを肩に下げて大学内に入ってきた。そこへ、
「ふああ、寝坊した・・・」
健二があくびをしながら現れた。
「・・・」
祐樹は無愛想な顔で健二を睨んでいる。そのまま祐樹は健二の横を通り過ぎた。
「あ・・・?」
健二は気配を感じたが、その時はまだ不思議に思ってなかった。
「お前、ちょっと調子に乗りすぎなんじゃ無いのか?」
柄の悪そうな学生が二人、祐樹に言いがかりをつけていた」
「・・・別に、そんな事無いよ」
祐樹は無視して通り過ぎようとしていた。だが、
「オイ、逃げるなよ」
二人組は祐樹の肩を押さえた。
「まだ話は終わってねえんだよ」
「手前のその態度がムカつくんだよ!」
二人組が怒鳴る。
「コイツ。ちょっとオレ達の恐ろしさを思い知らせてやらないとな」
「ヘッ、オレ達に偉そうな態度を取るとこうなるんだ!」
二人組の一人が祐樹を殴ろうとした。だが、
「やめろよ」
そこへ、健二が割り込んできた。
「アン? 何で手前が割り込んでくるんだよ?」
「彼が何をしたんだ?」
「コイツの態度がムカつくんだ! だから今ちょっと喝をいれてやろうとしていただけだ!」
「そんな事で殴るのか?」
健二が反論した。
「あんだと!?」
「彼の態度が気に入らないなら口で言えばいいじゃないか。なのに何で殴る必要があるんだ? それに、2対1というのも卑怯じゃないのか?」
「手前、調子乗ってると痛い目に会うぞ!」
一人が拳を振りかざした。だが、
「ホラ」
そう言うと健二は、姿勢を反らした。
「ガッ、何!?」
攻撃を外した一人は、それに驚いていた。
「八つ当たり、気が済んだ?」
「・・・ケッ! これで済むと思うなよ!!」
二人組は捨て台詞を残して去って行った。
「何でオレを助けたんだ?」
帰り際、祐樹は健二に聞いた。
「何でって、納得がいかなかっただけさ」
健二が答える。
「納得・・・だと?」
「あいつ等は君の事が気に入らないという理由だけで殴ろうとした。それに2人掛かりで言いがかりをつけてきた。それが気に入らなかっただけ」
「・・・余計なお世話だ」
「そう思ってもいいけどさ。君があいつ等を殴りたかったのかもしれないし」
そう言うと健二は、置いてあった自分の自転車に乗った。
「でも、トラブルは出来るだけ避けようぜ?」
そして健二は自転車に乗って走って行った。
「・・・やはり、アイツは気に入らない」
祐樹はそう言って歩き出した。
「アイツ、オレの事に首をつっこんで何の利益があるんだ?」
祐樹は健二の行動に僅かながら腹立たしさを覚えていた。すると、
「・・・誰だ・・・?」
祐樹は回りに気配を感じる。すると、
カチャッ
祐樹の後頭部に冷たい感触が走る。
「・・・何だ・・・?」
祐樹は驚いていた。だが、
「動くな」
後ろから人の声がした。
「・・・あんたら、どういうつもりだ・・・?」
祐樹が聞く。だが、
「貴様が知る必要は無い」
低い声が聞こえた。どうやら男だ。そして、
バンッ!!
今度は腹部にパンチが炸裂した。
「グッ! だ、誰だ、お前等は・・・」
そのまま祐樹は気絶した。
「ふん、どうということは無いな」
「車に乗せろ」
男達は祐樹を車に乗せた。
あれからどれだけ時間が経ったのだろうか。
祐樹の目の前には電球が光っており、両腕は機械で固定されていた。だが、ここはどこなのか、それは解らない。すると、
「フッ、気がついたか・・・」
目の前に白衣を着た眼鏡をかけた男が立っていた。
「だ、誰だお前は! ここはどこだ!?」
祐樹が怒鳴る。すると、
「フフフ・・・。それを君が知る必要は無い」
「な、何だと!?」
「一つ教えてやろう。君はこれから私の手により改造手術を受け、バイオソルジャーとして生まれ変わるのだ。既に君の左腕には鮫の遺伝子が組み込まれている」
「な、何!?」
「麻酔をしてやろうと思ったが、これから一度死ぬ身には変わりは無い。それも必要ないだろう」
男はそう言うと右腕にメスを持った。
「クッ! やめろ!」
「フフフ・・・無駄だ!」
男はメスを祐樹に近づける。だが、
「クッ! お前なんかに、殺されてたまるか!」
祐樹は、腕に力を込めた。そして、
バキイッ!!
祐樹は、両腕の機械を、腕力で無理やり外した。
「な、何だと!?」
男は驚愕した。
「この野郎!」
祐樹は男に掴みかかる。そして、右腕からメスを奪い取った。
「な、何をする!」
「こうするんだ!!」
そう言うと祐樹は、男の腹部にメスを突き刺した。
「グ、グヴアァァ!!」
男は血を吐いてもがき苦しみ、倒れた。
「き、貴様・・・」
「ハア、ハア・・・お前なんかに、殺されてたまるか!!」
そういうと祐樹は、メスをポケットに入れ、走り出した。
「これは・・・」
祐樹の目に付いたのは、ベッドに置いてあったケースの様な物だった。
「き、貴様・・・。それは・・・」
「何か知らないが、貴様等にとって大切な物ならオレが貰う!」
そう言うと祐樹はポケットにそれを入れ、走り出した。
「お、おのれ・・・。愚か者が・・・」
男はそう言って意識を失った。
「これは・・・」
外に出た祐樹は、そこに置いてあったバイクに気付いた。
前面は鮫の頭部のようなデザインそしており、それだけで十分異質に思えた。
「緊急自体だ。借りるぞ・・・」
そういうと祐樹は、バイクに跨った。
「今すぐここから逃亡する!」
祐樹は、そのままバイクで走り出した。
「武山博士が死んだだと!?」
沢田は驚いた声を上げた
「は、はい。どうやら拉致した素体が拘束具を破壊し、博士が持っていたメスを奪い取り、それで博士を刺した様です・・・」
武山という男の部下が、状況を説明した。
「それで、博士はどうなった?」
「我々が来た時には、失血で死んでいました・・・」
「そうか・・・。いずれにせよ、拉致した人間に研究員が殺されるなど、忌々しき事態だ。社長に報告しておく」
「ここまで来れば大丈夫だろう・・・」
とある公園まで来た祐樹は、バイクから降りてベンチに座った。
ふと彼は、血に染まった両腕を見た。
「・・・オレは、人を殺したんだ・・・」
ポケットには、血に染まったメスが入っていた。
状況が状況だが、彼はメスで武山を刺した。これは殺人だ。
武山を殺した時の状況が、脳内に映し出される。
生暖かい感触、もがき苦しむ武山。全てが鮮明に蘇る。
「オレは、人殺しだ・・・」
祐樹は頭を抱えてうずくまった。
「武山博士が死んだ?どういう事だ?」
マッドは驚いた。
「報告によると、拉致した人間の改造手術中に、拘束具が破壊され、そのまま博士が持っていたメスを奪い、刺した様です・・・」
沢田が状況を説明した。
「まさか、研究員が一人殺されるとは・・・。先日の実験体逃亡と共に、我々にとっては厄介な事態だな・・・」
「全くです。至急武山博士を殺した人間を排除します」
「ああ。それと、この事件は外部に漏れないようにしろ。マスコミに知られたら面倒な事態になる」
「了解しました」
そして回線が切られる。
「おのれ、反乱分子め・・・。これで済むと思うなよ・・・」
マッドの腕は震えていた。
人を殺した祐樹。思い返される後悔。彼に待ちうける運命とは・・・。
次回予告
之村博士から一枚のメモを渡された健二は、そこに書いてあったバイクショップと町工場を訪ねる。そこに有ったのは、新たなるコブラの装備だった。そんな中、キルマンティスが再び現れ、健二に再び戦いを挑む。
次回 仮面ライダーコブラ 第4話「鋼鉄の牙」
魂の叫びが、聞こえるか?